(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098115
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】ろう付時の反りを抑制するアルミニウム合金ブレージングシート
(51)【国際特許分類】
B23K 35/22 20060101AFI20230703BHJP
B23K 35/28 20060101ALI20230703BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20230703BHJP
B23K 35/40 20060101ALN20230703BHJP
【FI】
B23K35/22 310D
B23K35/28 310B
C22C21/00 D
C22C21/00 E
C22C21/00 J
B23K35/40 340J
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214660
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】中村 優希
(72)【発明者】
【氏名】吉野 路英
(72)【発明者】
【氏名】三宅 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】岩尾 祥平
(72)【発明者】
【氏名】山田 詔悟
(72)【発明者】
【氏名】本間 伸洋
(57)【要約】
【課題】本発明は、ろう付時の反りを抑制できるブレージングシートの提供を目的とする。
【解決手段】本発明のアルミニウム合金ブレージングシートは、心材層と中間層を積層して積層体が構成され、該積層体の積層方向両面にろう材層が配置された4層構造であって、前記心材層がMn、Si、Fe、Cuを特定範囲含有し、前記中間層がZn、Mn、Si、Feを特定範囲含有し、前記ろう材層がSi、Mg、Biを特定量含有し、前記心材層と前記中間層のろう付熱処理後の平均結晶粒径割合(中間層の平均結晶粒径/心材層の平均結晶粒径)が0.5~1.5の範囲であり、さらに、前記中間層の融点(固相線温度)と前記心材層の融点(固相線温度)の差が15℃以内であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心材層と中間層を積層して積層体が構成され、該積層体の積層方向両面にろう材層が配置された4層構造のアルミニウム合金ブレージングシートであって、
前記心材層の組成が質量%で、Mn:0.7~1.7%、Si:0.1~1.0%、Fe:0.05~0.5%、Cu:0.05~0.8%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、前記中間層の組成が質量%で、Zn:1.5~8.0%、Mn:0.3~1.3%、Si:0.2~0.8%、Fe:0.05~0.5%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、前記ろう材層の組成が質量%で、Si:5.0~14.0%、Mg:0.3~1.5%、Bi:0.05~0.25%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、
前記心材層と前記中間層のろう付熱処理後の平均結晶粒径割合(中間層の平均結晶粒径/心材層の平均結晶粒径)が0.5~1.5の範囲であり、さらに、前記中間層の融点(固相線温度)と前記心材層の融点(固相線温度)の差が15℃以内であることを特徴とする、ろう付時の反りを抑制するアルミニウム合金ブレージングシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろう付時の反りを抑制するアルミニウム合金ブレージングシートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多くのアルミニウム製自動車用熱交換器がろう付接合を用いて製造されており、ろう付は多数の接合箇所を一度の熱処理で同時に接合できる点や、高い密閉性を持つ点などが利点として挙げられる。
ろう付は、他のアルミニウム合金より低融点のAl-Si合金からなるろう材と非ろう材を張り合わせたブレージングシートを用いて行われる。各熱交換器に合わせて様々な部品形状に成型加工したブレージングシートを組み付け、ろう付熱処理を施すことでろう付接合が達成される。
良好なろう付性を得るためには、ろう付熱処理中、主にろう溶融温度において各部材が近接している必要があるため、精度よく成型加工した部品ができるだけクリアランスを生じないように組付けられている。
【0003】
本願出願人は、従来、例えば以下の特許文献1に示すフラックスレスろう付方法を提案している。この特許文献1に記載の技術では、MgとSiを所定量含有するAl-Si系ろう材を芯材にクラッドしてアルミニウムクラッド材を構成し、減圧を伴わない非酸化性雰囲気において前記Al-Si系ろう材とろう付対象物を接触密着させ、559~620℃に加熱することでろう付を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年において熱交換器の小型化、軽量化に伴って複雑な構造を持つ製品が増える傾向にあり、これに伴い、ろう付接合の難易度は増す傾向にある。例えば、カップ状に成型した部品を積み重ねた構造を持つ熱交換器は、部品一つ当たりの接合長さが長くなるため、一部でもクリアランス過多となった場合は、ろう付接合不良が発生してしまう懸念がある。
実際に、このような複雑な構造を持つ熱交換器においてろう付接合不良が多発する場合がある。本発明者がろう付熱処理後の接合不良部を観察すると、部材が反るように変形していることを確認できた。この変形が原因で部材間のクリアランスが広がったため、接合不良が生じたものであると考えられる。
【0006】
さらに本発明者が調査を進めると、ブレージングシートはろう溶融に伴い反るように変形することがわかった。この挙動による変形は、溶融したろうがろう材と接する非ろう材側に浸透し、ろう材と非ろう材間の非ろう材側が膨張することで生じる。そのため、両面にろう材が配置され、かつ両ろう材の間に2層以上の非ろう材層が挟まれたブレージングシート(例えば4層材、ろう材/中間層/心材/ろう材)では、一般にそれぞれの非ろう材層のろう浸透性は異なるため、それぞれ非ろう材側界面の膨張が同じになるとは限らない。そのため、ろう浸透性の違いに起因した膨張差が生じる結果、よりろうが浸透する側が凸となるように反る形で部材が変形してしまう。
【0007】
本発明者の研究によると、部材変形を無くすためには、複数の非ろう材層のろう浸透性を同等になるように調製して膨張差を無くすことが対策となる。具体的には、ろう浸透性に関係する材料特性である、(1)ろう浸透が生じる寸前の結晶粒径(≒ろう付後の結晶粒径)を制御すること、(2)中間層の融点と心材層の融点差を調整することで、部材変形を抑制することができると考えられる。
【0008】
本発明は、これらの問題を解決するためになされたものであり、ろう付時の反りを抑制することができるアルミニウム合金ブレージングシートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本形態のアルミニウム合金ブレージングシートは、心材層と中間層を積層して積層体が構成され、該積層体の積層方向両面にろう材層が配置された4層構造のアルミニウム合金ブレージングシートであって、前記心材層の組成が質量%で、Mn:0.7~1.7%、Si:0.1~1.0%、Fe:0.05~0.5%、Cu:0.05~0.8%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、前記中間層の組成が質量%で、Zn:1.5~8.0%、Mn:0.3~1.3%、Si:0.2~0.8%、Fe:0.05~0.5%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、前記ろう材層の組成が質量%で、Si:5.0~14.0%、Mg:0.3~1.5%、Bi:0.05~0.25%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、前記心材層と前記中間層のろう付熱処理後の平均結晶粒径割合(中間層の平均結晶粒径/心材層の平均結晶粒径)が0.5~1.5の範囲であり、さらに、前記中間層の融点(固相線温度)と前記心材層の融点(固相線温度)の差が15℃以内であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、心材層と中間層を積層した積層体の両面にろう材層を配置したアルミニウム合金ブレージングシートにおいて、心材層のMn、Si、Fe、Cuの組成を規定し、中間層のZn、Mn、Si、Fe、Mgの組成を規定し、ろう材層のSi、Mg、Cu、Biの組成を規定し、心材層と中間層のろう付熱処理後の平均結晶粒径割合(中間層の平均結晶粒径/心材層の平均結晶粒径)が0.5~1.5の範囲であり、中間層の融点(固相線温度)と心材層の融点(固相線温度)の差が15℃以内であるため、ろう付時に心材層と中間層に浸漬する溶融ろうの量を均等化することができ、ろう付後に反りの少ないブレージングシートを提供することができる。
このため、本発明のブレージングシートを用いることで、フィンやチューブあるいはカップ状の成型部材など、微細構造化された部材同士をろう付する場合であっても、ろう付接合不良を生じないろう付ができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本形態に係るアルミニウム合金ブレージングシートの第1実施形態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照し、実施形態の一例について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。
【0013】
図1は本発明に係る第1実施形態のアルミニウム合金ブレージングシートの断面構造を示すもので、この形態のアルミニウム合金ブレージングシートAは、心材層1と中間層2が積層されて積層体4が構成され、該積層体4の積層方向(厚さ方向)一面側に第1のろう材層5が、積層方向(厚さ方向)他面側に第2のろう材層6がそれぞれ積層された4層構造とされている。
【0014】
「心材層」
心材層1の組成は質量%で、Mn:0.7~1.7%、Si:0.1~1.0%、Fe:0.05~0.5%、Cu:0.05~0.8%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる。
なお、質量%の範囲について「~」を用いて表記する場合、特に指定しない限り、下限と上限を含む表記とする。よって、一例として0.7~1.7%は、0.7質量%以上1.7質量%以下の含有量であることを意味する。
【0015】
「心材層」
以下に心材層1に含まれている成分元素の組成限定理由について説明する。
Mn:0.7~1.7%
MnはAl-Mn、Al-Mn-Si、Al-Mn-Fe、Al-Mn-Si-Feなどの金属間化合物として組織内に析出して材料強度を向上させるために添加される。Mnの含有量が下限未満であると効果が不十分であり、上限越えであると鋳造時に巨大な金属間化合物(晶出物)が生成し、圧延性が低下する。
Si:0.1~1.0%
Siは、Alへの固溶により材料強度を向上させる他、Al-Mn-Si、Al-Mn-Si-Fe金属間化合物として組織内に析出し、材料強度を向上させるために添加される。Siの含有量が下限未満であると効果が不十分であり、上限越えであると材料の融点が低下する。
【0016】
Fe:0.05~0.5%
FeはAl-Mn-Fe、Al-Mn-Si-Feなどの金属間化合物として組織内に析出して材料強度を向上させるために添加される。Feの含有量が下限未満であると製造コストが増大し、上限越えであると鋳造時に巨大な金属間化合物(晶出物)が生成し、圧延性が低下する。
Cu:0.05~0.8%
CuはAlに固溶して材料強度を向上させるために添加される。Cuの含有量が下限未満であると効果が不十分であり、上限越えであると鋳造時に巨大な金属間化合物(晶出物)が生成し、圧延性が低下する。
【0017】
「中間層」
以下に、中間層2に含まれている成分元素の組成限定理由について説明する。
Zn:1.5~8.0%
ZnはAlに固溶して材料の自然電位を他部材より卑にし、犠牲防食効果によってクラッド材の耐孔食性を向上させるために添加される。Znの含有量が下限未満であると犠牲防食効果が不十分であり、上限越えであると電位が過剰に卑化して自己腐食速度が増加する。
Mn:0.3~1.3%
MnはAl-Mn、Al-Mn-Si、Al-Mn-Fe、Al-Mn-Si-Feなどの金属間化合物として組織内に析出して材料強度を向上させるために添加される。Mnの含有量が下限未満であると効果が不十分であり、上限越えであると鋳造時に巨大な金属間化合物(晶出物)が生成し、圧延性が低下する。
【0018】
Si:0.2~0.8%
Siは、Alに固溶することにより材料強度を向上させる他、Al-Mn-Si、Al-Mn-Si-Fe金属間化合物として析出し、材料強度を向上させるために添加される。Siの含有量が下限未満であると効果が不十分であり、上限越えであると材料の融点が低下する。
Fe:0.05~0.5%
FeはAl-Mn-Fe、Al-Mn-Si-Feなどの金属間化合物として組織内に析出して材料強度を向上させるために添加される。Feの含有量が下限未満であると製造コストが増大し、上限越えであると鋳造時に巨大な金属間化合物(晶出物)が生成し、圧延性が低下する。
【0019】
「ろう材層」
以下にろう材層5、6に含まれている成分元素の組成限定理由について説明する。
Si:5.0~14.0%
Siはろう付時に溶融ろうを形成し、接合部のフィレットを形成するために添加される。
Siの含有量が下限未満であると、溶融ろうが不足する。Siの含有量が上限越えであると、材料が硬く脆くなるため素材製造が困難になることや、鋳造維持に粗大Siが生成されて耐食性が低下する。
Mg:0.3~1.5%
Mgは酸化皮膜(Al2O3)を還元分解させ、接合性を向上させるために添加される。Mgの含有量が下限未満であると効果が不十分であり、上限越えであると材料強度が高すぎて素材製造が困難になること、およびMgO皮膜が材料表面に密に生成されることで接合性が低下する。
【0020】
Bi:0.05~0.25%
Biは溶融ろうの濡れ性向上のために添加される。Biの含有量が下限未満であると効果が不十分であり、上限越えであると鋳造時に巨大な金属間化合物(晶出物)が生成し、圧延性が低下する。
【0021】
心材層と中間層のろう付熱処理後の平均結晶粒径割合(中間層の平均結晶粒径/心材層の平均結晶粒径)が0.5~1.5の範囲
ろう付時におけるろう溶融に伴うブレージングシートの反り変形は、心材層1と中間層2のろう浸透差に起因した膨張差によって生じる。ろうの浸透性に寄与する要素はいくつかあるが、中でも重要なのは心材層1と中間層2の平均結晶粒径であると考えられる。
心材層1と中間層2の平均結晶粒径が小さいほどろう浸透量は増大し、平均結晶粒径が大きい場合はろうの浸透は制限される。よって、反りを抑制するためには、心材層1と中間層2の平均結晶粒径の差を小さくして、すなわち、ろう浸透による膨張差を小さくすることが重要である。心材層1と中間層2の平均結晶粒径の差が大きくなると膨張差が大きくなり、反り変形が生じてしまう。そのため、心材層1と中間層2の平均結晶粒径割合を所定の範囲にする必要がある。このため、心材層1と中間層2の平均結晶粒径割合(平均結晶粒径/心材の平均結晶粒径)の値を0.5~1.5の範囲とすることが好ましい。
【0022】
中間層の融点(固相線温度)と心材層の融点(固相線温度)の差が15℃以内
平均結晶粒径以外で心材層1と中間層2のろう浸透性に影響を及ぼす要素として固相線温度が考えられる。固相線温度が低いほど、ろう浸透性が上がるため、心材層1と中間層2の固相線温度の差が大きいと膨張差が大きくなり、反りが生じてしまう。そのため、中間層2と心材層1の固相線温度の差を所定値(15℃)より小さくする必要がある。
【0023】
組成が異なる心材層1と中間層2の平均結晶粒径の差を小さくするためには、ろう付前の心材層1と中間層2の材料組織をできるだけ同じ状態にすることが重要である。
ろう付前の心材層1と中間層2の材料組織は以下に説明する製造条件によって制御することができる。
【0024】
「製造条件」
ろう材層5、6を準備する場合に、特に制限はなく、一般的なブレージングシートを製造する場合にろう材層を作製する条件に基づき作製することができる。必要組成のアルミニウム合金溶湯から鋳造により目的のシートを得るため、通常条件の均質化処理と面削を行い、熱間圧延により所望の板厚とする。
心材層1および中間層2を準備する場合に、特に制限はなく、一般的なブレージングシートを製造する場合に心材層1および中間層2を作製する条件に基づき作製することができる。必要組成のアルミニウム合金溶湯から鋳造により目的のシート素材を得るため、通常条件の均質化処理を行った後、面削を行う。ただし、均質化処理の条件は、心材層1、中間層2の組み合わせに応じ、心材層1、中間層2の平均結晶粒径の差が小さくなるように適宜決定することが好ましい。
均質化処理は、中間層2を製造する場合は特に行わなくても良く、心材層1の場合は、成分に応じて400℃~600℃、1~12時間の適切な条件にて均質化処理を行えば良い。
【0025】
「クラッド圧延」
上述のように用意したろう材層形成用素材と、心材層形成用素材および中間層形成用素材を組み付け、均熱処理、熱間圧延、冷間圧延を施し、必要に応じて、冷間圧延途中に中間焼鈍、および最終焼鈍を行う。組み付けと均熱処理、熱間圧延については、一般的なブレージングシートを製造する場合と同等の条件で行えば良い。
【0026】
「冷間圧延」
冷間圧延を行う場合、冷間圧延の1パス当たりの圧下率を以下のように制御する。
冷間圧延において、アルミニウム合金ブレージングシート素材の板厚が1mm以上の場合、1パス当たりの圧下率を25%以上、板厚が1mm未満の場合、1パスあたりの圧下率を10%以上と規定する。
冷間圧延において、1パス当たりの圧下率が規定値を満足しない場合、心材層と中間層に均一にひずみが分布せず、各層でのろう付後の平均結晶粒径に差が生じてしまう。
【0027】
「冷間圧延時の材料温度」
冷間圧延時の材料温度は、180℃未満であることが望ましい。
冷間圧延によって材料温度は上昇するが、非常に短い時間であるため、180℃を超えてしまうと再結晶の核が粗に形成されてしまい、心材と中間層の平均結晶粒径の差が大きくなってしまう。よって、冷間圧延時の材料温度は180℃未満とすることが好ましい。
【0028】
「最終焼鈍」
最終焼鈍を負荷しない場合でも本実施形態の目的を満足可能であるが、負荷した方が心材層1と中間層2の平均結晶粒径差をより小さく調製でき、かつ、安定して小さい平均結晶粒径差を得ることができる。最終焼鈍を行う場合の昇温速度は、30~70℃/hが望ましい。
【0029】
最終焼鈍温度(T)については、200℃≦T≦240℃の範囲が望ましい。
最終焼鈍温度(T)を上述の範囲とするならば、再結晶の核となる亜結晶粒を均一に生成させることができ、ろう付熱処理時に心材層1と中間層2の再結晶速度を揃えることができるため、ろう付後平均結晶粒径の差を小さくすることができる。最終焼鈍温度(T)が200℃未満では亜結晶の生成が不十分で十分な効果が得られず、240℃を超えると心材層1と中間層2の一部が再結晶してしまい、ろう付後の平均結晶粒径に差が生じてしまう。
【0030】
最終焼鈍温度(T)については、300℃≦T≦400℃の範囲が望ましい。
最終焼鈍温度(T)を上述の範囲とするならば、ろう付熱処理よりも昇温速度が遅い最終焼鈍によって再結晶させると、均一に再結晶が生じるため、安定的に心材層1と中間層2の平均結晶粒径の差を小さすることができる。最終焼鈍温度(T)が300℃未満では非ろう材層が再結晶を完了できず、400℃を超える場合、二次再結晶が生じて不均一な結晶粒となる。
【0031】
以上説明の工程に従い製造したアルミニウム合金ブレージングシートAは、熱交換器などを製造する場合のろう付温度、例えば、590~620℃程度の温度範囲である不活性ガス雰囲気中に1~30分程度設置してろう付する目的に使用される。例えば、種々の熱交換器のフィンやチューブあるいはカップ状成型体などのろう付部材と積層する形式で熱交換器の組立に利用され、フィンやチューブ、あるいは、カップ状成型体を組み付け後、全体をろう付温度に加熱し、アルミニウム合金ブレージングシートAのろう材層5、6を溶融させた後、常温に冷却することでろう付が完了する。
【0032】
本実施形態のアルミニウム合金ブレージングシートAは、心材層1と中間層2のろう付熱処理後の平均結晶粒径割合(中間層の平均結晶粒径/心材層の平均結晶粒径)が0.5~1.5の範囲であり、中間層2の融点(固相線温度)と心材層1の融点(固相線温度)の差が15℃以内である。このため、ろう材層5、6が溶融してろうとして濡れ広がり、ろう付を行ったとして、心材層1と中間層2の反りを小さくすることができる。
心材層1と中間層2のろう付熱処理後の平均結晶粒径割合(中間層の平均結晶粒径/心材層の平均結晶粒径)が0.5~1.5の範囲であり、中間層2の融点と心材層1の融点の差が15℃以内であれば、心材層1と中間層2に対する溶融ろうの浸透性を均一化することができる。また、中間層2の融点と心材層1の融点の差を小さくすると、膨張差を小さくできるので、ろう付時のアルミニウム合金ブレージングシートAの反りを抑制できる。
このことは、複雑で微細な構造を有する部材同士のろう付により構成される熱交換器において、ろう付に伴い、部材間のクリアランスに変動を生じないことを意味する。これにより、ろう付するべき部材同士のクリアランスが小さい微細構造であっても接合不良を生じないろう付が可能となる。
【実施例0033】
表1、表2に示す組成を有する心材用、中間層用あるいはろう材用のNo.1~No.47のアルミニウム合金を用い、表3に示す製造条件を適用し、クラッド圧延して
図1に示す4層構造のブレージングシートを作製した。各ブレージングシートの最終板の板厚は0.2mmである。
表1、表2に示す心材用、中間層用あるいはろう材用のNo.1~No.47に示す組成の合金鋳塊を各アルミニウム合金溶湯から鋳造により得、均質化処理、熱間圧延を施した後、表3に示す製造方法A~Jに従い、冷間圧延を施し、前記最終板厚の各ブレージングシートを製造した。表3に示す条件Xは、冷間圧延において板厚1mm以上の段階における1パス当たりの圧下率(%)を示し、条件Yは、冷間圧延において板厚1mm未満の段階における1パス当たりの圧下率(%)を示す。上限温度は、冷間圧延時の上限温度(℃)を示し、最終焼鈍温度(℃)は、最終焼鈍を施す場合の温度を示し、-は最終焼鈍を施さないことを示す。また、表4~表6に、各試料の均質化処理条件(HOMO条件:温度(℃)、処理時間(hr))を記載した。-は均質化処理を施していない試料を示す。
【0034】
表1、表2に示す組成を有する心材用、中間層用あるいはろう材用のNo.1~No.47の合金からなる各シート素材を用い、表3のA~Jに示す冷間圧延条件と最終焼鈍処理条件のいずれかを適用し、表4~表6に示すNo.1~No.74のブレージングシートを作製した。各ブレージングシートの平均結晶粒径割合(中間層の平均結晶粒径/心材層の平均結晶粒径)とその評価、固相線温度差(℃)とその評価、引張強度(MPa)とその評価、耐食性とその評価、トータルの評価結果(総合評価)を表4~表6に示す。
【0035】
板厚0.2mmの最終板のブレージングシートについて、RD方向(圧延方向:Rolling Direction)120mm、TD方向(圧延直角方向:transverse direction)100mmの長方形切り出した供試材について、片方の短辺の中心に一つ穴を開けて棒を通して吊るし、ろう付熱処理を模擬して平均昇温速度100℃/minで600℃まで加熱し、600℃に到達した後、室温まで空冷(急冷)し、各試験片とした。
【0036】
「評価項目」
(心材層と中間層の平均結晶粒径の測定)
各試験片のブレージングシートについて各層の板厚中央まで研磨し、EBSD(電子線後方散乱回折:Electron Back Scattered Diffraction Pattern法)を用いてRD-TD面の結晶粒を観察した。得られた観察像から、切断法によって平均結晶粒径を測定した。
各試験片のブレージングシートについて各層の板厚中央部まで粗研磨により暴露し、暴露した断面を0.1μmの砥粒で研磨した後、さらに電解研磨により鏡面に仕上げ、SEM(Scanning Electron Microscope)-EBSD(Electron Back Scattered Diffraction)よりRD-TD断面において800μm×400μm視野の結晶方位マップを取得した。15°以上の大傾角粒界で囲まれる領域を一つの結晶粒とみなし、各試料5視野の方位マップを用いて切断法により平均結晶粒径を測定した。
【0037】
(固相線温度差)
心材と犠牲材それぞれの固相線温度は示差熱分析を用いて測定した。心材と犠牲材の固相線温度差が10℃以下の場合は〇〇、10℃超~15℃以下の場合は〇、15℃超は×とした。
(引張強度測定)
ろう付相当熱処理を施したのち、圧延方向と平行にサンプルを切り出し、JIS13号B試験片を作製し、引張試験を行った。このとき、測定値が150MPa以上を〇〇、130MPa以上150MPa未満を〇、130MPa未満を×とした。
(耐食性)
ろう付相当熱処理した供試材の心材側のろう材面をマスキングし、犠牲材側のろう材面が暴露した状態でOY水(Cl-:195ppm,SO4
2-:60ppm,Cu2+:1ppm, Fe3+:30ppm残部純水)による浸漬試験を実施した。試験条件は室温×16h+88℃8h(撹拌なし)を1日のサイクルとし、400hr浸漬した。その後、リン酸クロム酸で腐食生成物を除去し、供試材の腐食深さを評価した。このとき、腐食深さが80μm未満を〇、80μm以上を×とした。
【0038】
(反りの評価)
前述のろう付熱処理後の供試材ブレージングシートの外観観察より評価した。上述のろう付熱処理後のブレージングシートを測定基準水平面上に水平に載置し、このブレージングシートを側面視した場合の外観写真を撮影し、この写真から各供試材ブレージングシートの反りの最大値を求めた。
反り評価の測定には、弓状に反った板材試料を上に凸となるように平面上に設置し、試料の長さ方向両端が平面に接する2点を結ぶ長さを弦の長さL(mm)と仮定し、弓状に反った試料の平面からの最大高さを矢高h(mm)と仮定する。この仮定において、以下の(1)式に結果を代入して求めた曲率σ(/mm)を反り量(Z)とした。
【0039】
σ={8×h/(L2+4×h2)}…(1)式
【0040】
表4~表6に記載の反り評価結果(=z mm-1)において、○は(0.002<Z≦0.005)となったことを評価した結果、○○は(0≦z≦0.002)となったことを評価した結果、×は(0.005<z)となったことを評価した結果を意味する。
以上説明の、非ろう材層組成、製造方法、測定結果を以下の表1~表6に示す。
(トータル)
反り評価、強度、耐食性の項目において、 一つ以上×であった場合は×、耐食性が〇、かつ、反り評価と強度が〇と〇の場合は〇、反り評価と強度が〇と〇〇の場合は〇〇、反り評価と強度が〇〇と〇の場合は〇〇〇、反り評価と強度が〇〇と〇〇の場合は◎、と判断した。
以下、合金No.と組成を表1、表2に示し、製造条件を表3に示し、以上の測定結果を表4~表6に示す。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
表4~表6に示す結果が示すように、心材層に、Mn:0.7~1.7%、Si:0.1~1.0%、Fe:0.05~0.5%、Cu:0.05~0.8%を含有し、中間層に、Zn:1.5~8.0%、Mn:0.3~1.3%、Si:0.2~0.8%、Fe:0.05~0.5%を含有し、ろう材層に、Si:5.0~14.0%、Mg:0.3~1.5%、Bi:0.05~0.25%を含有し、平均結晶粒径割合が0.5~1.5の範囲であり、固相線温度差が15℃以内であるアルミニウム合金ブレージングシートは、強度と耐食性に優れ、反りの発生も少ないブレージングシートであった。
【0048】
表4に示すNo.24~31の合金を用いた試料は、心材層の組成においてMn、Si、Cu、Feのいずれかの組成が上述の望ましい範囲から外れた試料である。これらの試料のうち、No.24、26、28、30、31の試料は、強度が低下するか、晶出物が析出するか、融点が高いか、コストの高い試料であり、製造、不可となり、目的のブレージングシートを製造できなかった。No.25、27、29の試料は強度が低下した。なお、No.31の試料はFe含有量を低く抑えるために高純度の原料が必要となり、高価なブレージングシートとなる。
【0049】
表4、表5に示すNo.32~39の合金を用いた試料は、中間層の組成においてMn、Si、Fe、Znのいずれかの組成が上述の望ましい範囲から外れた試料である。これらの試料は、強度が低下するか、晶出物が析出するか、融点が高いか、コストの高い試料である。
【0050】
表5に示すNo.40~45の合金を用いた試料は、ろう材層の組成においてSi、Mg、Biのいずれかの組成が上述の望ましい範囲から外れた試料である。これらの試料は、粗大Siが析出するか、ろう付に問題を生じるか、硬すぎるか、晶出物が析出するか、融点が高い試料であり、何れも製造不可であった。
【0051】
表5に示す試料のうち、No.46、47の試料は、合金組成は望ましい範囲であるが、固相線温度差が大きいため、反り評価が悪くなった。
表5に示す試料のうち、No.48~52の試料は、強度と耐食性に優れ、反りの発生も少ないブレージングシートであった。
表5、表6に示す試料のうち、No.53~56の試料は、合金組成は望ましい範囲となっているものの、表3に示す製造条件において、条件Xの圧下率が低い試料であるか、条件Yの圧下率が低い試料であるか、冷間圧延時の上限温度を高くし過ぎた試料であるか、最終焼鈍時の温度を高くし過ぎた試料である。いずれの試料であっても、平均結晶粒径割合が望ましい範囲から外れ、反り評価も悪かった。
表6に示すNo.57~61の試料は、強度と耐食性に優れ、反りの発生も少ないブレージングシートであった。
【0052】
表6に示すNo.62~65の試料は、結晶粒径割合が望ましい範囲から外れた試料であり、反りの発生が多いブレージングシートであった。
表6に示すNo.66~70の試料は、強度と耐食性に優れ、反りの発生も少ないブレージングシートであった。
表6に示すNo.71~74の試料は、平均結晶割合が望ましい範囲から外れた試料であり、反りの値が大きくなった。