(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098118
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】ナッツミルク、ナッツミルクヨーグルト、及び、ナッツミルクの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23C 11/10 20210101AFI20230703BHJP
A23L 25/00 20160101ALI20230703BHJP
A23C 9/123 20060101ALN20230703BHJP
【FI】
A23C11/10
A23L25/00
A23C9/123
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214668
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】312017444
【氏名又は名称】ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】西沢 啓雄
【テーマコード(参考)】
4B001
4B036
【Fターム(参考)】
4B001AC05
4B001AC26
4B001AC31
4B001BC03
4B001BC07
4B001BC08
4B001BC14
4B001BC99
4B001EC99
4B036LC05
4B036LE02
4B036LH11
4B036LH13
4B036LH15
4B036LH18
4B036LH27
4B036LH28
4B036LH47
4B036LH49
4B036LP01
4B036LP06
4B036LP16
4B036LP17
4B036LP18
4B036LP24
(57)【要約】
【課題】加熱殺菌処理後の粘度の上昇が抑制されたナッツミルク、ナッツミルクヨーグルト、及び、ナッツミルクの製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係るナッツミルクは、タンパク質の含有量が0.8w/w%以上であり、加熱殺菌後であって42℃における粘度が300mPa・s以下であり、種実を原料とする耐熱性プロテアーゼ処理物である。本発明に係るナッツミルクの製造方法は、タンパク質の含有量が0.8w/w%以上のナッツミルクの製造方法であって、原料となる種実溶液に耐熱性プロテアーゼを作用させる工程と、前記耐熱性プロテアーゼを作用させた種実溶液に加熱殺菌処理を施す工程と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質の含有量が0.8w/w%以上であり、
加熱殺菌後であって42℃における粘度が300mPa・s以下であり、
種実を原料とする耐熱性プロテアーゼ処理物であるナッツミルク。
【請求項2】
前記原料がアーモンドである請求項1に記載のナッツミルク。
【請求項3】
前記耐熱性プロテアーゼが耐熱性金属エンド型プロテアーゼである請求項1又は請求項2に記載のナッツミルク。
【請求項4】
前記耐熱性プロテアーゼがGeobacillus stearothermophilus由来である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のナッツミルク。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のナッツミルクの乳酸菌発酵物であるナッツミルクヨーグルト。
【請求項6】
タンパク質の含有量が0.8w/w%以上のナッツミルクの製造方法であって、
原料となる種実溶液に耐熱性プロテアーゼを作用させる工程と、
前記耐熱性プロテアーゼを作用させた種実溶液に加熱殺菌処理を施す工程と、を含むナッツミルクの製造方法。
【請求項7】
前記耐熱性プロテアーゼが耐熱性金属エンド型プロテアーゼであって、前記耐熱性金属エンド型プロテアーゼの酵素活性を[A]u/gとし、前記耐熱性金属エンド型プロテアーゼの添加量を[B]ppmとした場合、[A]×[B]が1.0×107以上である請求項6に記載のナッツミルクの製造方法。
【請求項8】
原料となる種実溶液に耐熱性プロテアーゼを作用させる工程と、
前記耐熱性プロテアーゼを作用させた種実溶液に加熱殺菌処理を施して、タンパク質の含有量が0.8w/w%以上のナッツミルクを得る工程と、
加熱殺菌処理後の種実溶液に乳殺菌発酵を施す工程と、を含むナッツミルクヨーグルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナッツミルク、ナッツミルクヨーグルト、及び、ナッツミルクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康志向の高まりから食生活による健康改善に関心が高まっている。また、種々の理由に基づき菜食を選択する人も増加し続けている。
このような流れを受けて、植物性食品の需要が高まっており、アーモンドなどの種実は、動物性タンパク質の代替素材として注目されるようになってきている。
【0003】
そして、アーモンドミルクをはじめとするナッツミルクは、牛乳、豆乳に続く第3のミルクとして、市場規模が急速に拡大しており、これらを原料とした加工食品や乳代替食品にも関心が高まっている。
したがって、ナッツミルクに関して、様々な研究が進められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、高温の植物性ミルク含有液体飲食物を調製するための、タンパク質脱アミド酵素による処理が施された植物性ミルクが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に係る発明は、ナッツミルクをコーヒーや紅茶などの酸性飲料に添加する場合の凝集を抑制する発明であり、前記のとおり、タンパク質脱アミド酵素による処理を施す点を特徴としている。
【0007】
本発明者は、ナッツミルクを用いた食品を製造するにあたり、特許文献1をはじめとする従来技術では検討されていなかった問題点を確認した。詳細には、次のとおりである。
ナッツミルクを用いた食品を製造するためには、はじめにナッツミルクの原料となる種実溶液に対して高温での加熱殺菌処理を施す必要がある。しかしながら、加熱殺菌処理を施して得られたナッツミルクは、溶液の粘度が上昇することによって、ホモジナイズ処理による均一化を行っても所望の粘度範囲まで低下させることが困難であった。そして、ナッツミルクの溶液の粘度が高いと、その後の製造工程における攪拌などの各処理を適切に実施し難くなることを本発明者は確認した。
【0008】
そこで、本発明は、加熱殺菌処理後の粘度の上昇が抑制されたナッツミルク、ナッツミルクヨーグルト、及び、ナッツミルクの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)タンパク質の含有量が0.8w/w%以上であり、加熱殺菌後であって42℃における粘度が300mPa・s以下であり、種実を原料とする耐熱性プロテアーゼ処理物であるナッツミルク。
(2)前記原料がアーモンドである前記1に記載のナッツミルク。
(3)前記耐熱性プロテアーゼが耐熱性金属エンド型プロテアーゼである前記1又は前記2に記載のナッツミルク。
(4)前記耐熱性プロテアーゼがGeobacillus stearothermophilus由来である前記1から前記3のいずれか1つに記載のナッツミルク。
(5)前記1から前記4のいずれか1つに記載のナッツミルクの乳酸菌発酵物であるナッツミルクヨーグルト。
(6)タンパク質の含有量が0.8w/w%以上のナッツミルクの製造方法であって、原料となる種実溶液に耐熱性プロテアーゼを作用させる工程と、前記耐熱性プロテアーゼを作用させた種実溶液に加熱殺菌処理を施す工程と、を含むナッツミルクの製造方法。
(7)前記耐熱性プロテアーゼが耐熱性金属エンド型プロテアーゼであって、前記耐熱性金属エンド型プロテアーゼの酵素活性を[A]u/gとし、前記耐熱性金属エンド型プロテアーゼの添加量を[B]ppmとした場合、[A]×[B]が1.0×107以上である請求項6に記載のナッツミルクの製造方法。
(8)原料となる種実溶液に耐熱性プロテアーゼを作用させる工程と、前記耐熱性プロテアーゼを作用させた種実溶液に加熱殺菌処理を施して、タンパク質の含有量が0.8w/w%以上のナッツミルクを得る工程と、加熱殺菌処理後の種実溶液に乳殺菌発酵を施す工程と、を含むナッツミルクヨーグルトの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るナッツミルクは、加熱殺菌処理後の粘度の上昇が抑制されている。
本発明に係るナッツミルクヨーグルトに用いるナッツミルクは、加熱殺菌処理後の粘度の上昇が抑制されている。
本発明に係るナッツミルクの製造方法は、加熱殺菌処理後の粘度の上昇が抑制されたナッツミルクを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るナッツミルク、ナッツミルクヨーグルト、及び、ナッツミルクの製造方法を実施するための形態(本実施形態)について説明する。
【0012】
[ナッツミルク]
本実施形態に係るナッツミルクは、タンパク質の含有量が所定値以上であり、加熱殺菌処理後であって42℃における粘度が所定値以下であり、耐熱性プロテアーゼ処理物である。そして、本実施形態に係るナッツミルクは、種実を原料としたものである。
ここで、「種実」とは、例えば、アーモンド、クリ、クルミ、カシューナッツ、ピスタチオ、ココナッツ、ヒマワリの種、カボチャの種などが挙げられるが、アーモンドが好ましい。
以下、本実施形態に係るナッツミルクを構成する各要素について説明する。
【0013】
(タンパク質)
本実施形態に係るナッツミルクは、ナッツミルクを用いた食品やナッツミルク自体の品質を確保するために、タンパク質の含有量が所定値以上となっている。
【0014】
ナッツミルクのタンパク質の含有量は、0.8w/w%以上が好ましく、1.0w/w%以上、1.5w/w%以上、2.0w/w%以上、2.5w/w%以上、3.0w/w%以上がより好ましい。ナッツミルクのタンパク質の含有量が所定値以上であることによって、所望の品質になるとともに、課題(粘度の上昇の抑制)が明確化する。
ナッツミルクのタンパク質の含有量は、5.0w/w%以下が好ましく、4.5w/w%以下、4.0w/w%以下がより好ましい。ナッツミルクのタンパク質の含有量が所定値以下であることによって、粘度が高くなり過ぎて所望の低粘度にならないといった事態を回避することができる。
【0015】
ナッツミルクのタンパク質の含有量は、例えば、食品表示基準(消費者庁)規定の通り、ケルダール法などによって全窒素を定量し、窒素・たんぱく質換算係数を乗じることによって求めることができる。また、ナッツミルクのタンパク質の含有量は、原料となる種実溶液の選択(具体的には、アーモンドペーストの量など)によって調整することができる。
【0016】
(粘度)
本実施形態に係るナッツミルクは、原料となる種実溶液に対して後記する加熱殺菌処理が施されることによって粘度が上昇するものの、後記する所定の酵素による分解処理によって、加熱殺菌処理後であって42℃における粘度が所定値以下となっている。
【0017】
ナッツミルクの粘度(加熱殺菌処理後であって42℃の状態の粘度)は、300mPa・s以下が好ましく、200mPa・s以下、150mPa・s以下、100mPa・s以下、91mPa・s以下がより好ましい。ナッツミルクの粘度が所定値以下であることによって、ナッツミルクとして好ましい流動性となるだけでなく、ナッツミルクを用いた食品を製造するにあたり、攪拌などの各処理が適切に実施できる混合適性に優れたものとなる。
ナッツミルクの粘度(加熱殺菌処理後であって42℃の状態の粘度)の下限は特に限定されないものの、例えば、15mPa・s以上、18mPa・s以上、20mPa・s以上が挙げられる。
【0018】
ナッツミルクの粘度は、例えば、加熱殺菌処理後に42℃としたナッツミルクについて、市販のB型粘度計(回転数:60rpm)を用いて測定することができる。なお、加熱殺菌処理とは、後記する加熱殺菌処理工程で施す処理である。
また、ナッツミルクの粘度は、後記する分解処理での耐熱性プロテアーゼの添加量や活性の値などによって調整することができる。
【0019】
(耐熱性プロテアーゼ処理物)
耐熱性プロテアーゼ処理物とは、耐熱性プロテアーゼによって分解処理を施して得られたものである。
ここで、「耐熱性プロテアーゼ」とは、55℃以上(好ましくは60℃以上)でも酵素活性を有する熱に強いプロテアーゼである。そして、「耐熱性プロテアーゼ」は、触媒機構に金属が関与するエンド型のプロテアーゼ(非末端のペプチド結合を加水分解するタンパク質分解酵素)である「耐熱性金属エンド型プロテアーゼ」であるのが好ましく、例えば、Geobacillus stearothermophilus由来のプロテアーゼが挙げられる。
そして、酵素として耐熱性プロテアーゼを使用することによって、ナッツミルクの加熱殺菌処理後の粘度を低下させることができる。
なお、耐熱性プロテアーゼは、従来公知方法で前記の微生物から回収された後、精製することによって得ることができるが、市販のものを用いてもよい。
【0020】
(ナッツミルクの適用対象)
本実施形態に係るナッツミルクは、当然、粘度が低く飲みやすいナッツミルクとして提供することができる。また、本実施形態に係るナッツミルクは、様々な食品の素材として使用することができ、例えば、ナッツミルクヨーグルトなどの食品の素材とすることができる。
【0021】
(その他)
本実施形態に係るナッツミルクは、例えば、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で食品素材として通常配合される甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、香料(フレーバー)、酸味料、塩類、食物繊維、タンパク質、食用油脂、澱粉、ゲル化剤、pH調整剤など(以下、適宜「添加剤」という)を含有していてもよいし、当然、含有していなくてもよい。甘味料としては、例えば、果糖ぶどう糖液糖、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトースなどを用いることができる。高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームなどを用いることができる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどを用いることができる。酸味料としては、例えば、アジピン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸、DL-リンゴ酸ナトリウム、リン酸、フィチン酸などを用いることができる。塩類としては、例えば、食塩、酸性りん酸カリウム、酸性りん酸カルシウム、りん酸アンモニウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムなどを用いることができる。食物繊維としては、例えば、難消化性デキストリン、ペクチン、ポリデキストロース、グアーガム分解物などを用いることができる。タンパク質としては、例えば、大豆タンパク質、小麦タンパク質、トウモロコシタンパク質、エンドウタンパク質、アーモンドタンパク質、ポテトタンパク質などを用いることができる。食用油脂としては、食用の油脂であれば、特に限定されない。澱粉としては、例えば、加工澱粉などを用いることができる。ゲル化剤については、ペクチン、カラギーナンなどを用いることができる。pH調整剤としては、例えば、リン酸塩などを用いることができる。
なお、タンパク質、食用油脂は、味や加工性を調整するなどの目的で使用され、増粘剤、澱粉、ゲル化剤、pH調整剤は、物性を調整するなどの目的で使用される。
【0022】
以上説明したように、本実施形態に係るナッツミルクは、タンパク質の含有量が所定値以上であるにもかかわらず、加熱殺菌処理後の粘度の上昇が抑制されている。よって、本実施形態に係るナッツミルクは、「流動性」に優れるとともに、液体として混合や攪拌し易い状態、つまり「混合適性」が高くなっている。
【0023】
[ナッツミルクヨーグルト]
本実施形態に係るナッツミルクヨーグルトは、前記した本実施形態に係るナッツミルクの乳酸菌発酵物である。
【0024】
(乳酸菌発酵物)
乳酸菌発酵物とは、乳酸菌によって発酵処理を施して得られたものである。
なお、乳酸菌については、特に限定されないものの、例えば、Lactobacillus delbrueckii、Streptococcus thermophilusなどである。また、発酵処理については、後記する乳酸菌発酵工程で実施する処理であり、一般的な発酵処理の条件であればよい。
【0025】
以上説明したように、本実施形態に係るナッツミルクヨーグルトに用いるナッツミルクは、タンパク質の含有量が所定値以上であるにもかかわらず、加熱殺菌処理後の粘度の上昇が抑制されている。
【0026】
[ナッツミルクの製造方法]
次に、本実施形態に係る植物組成物の製造方法を説明する。
本実施形態に係る植物組成物の製造方法は、酵素処理工程と加熱殺菌処理工程とを含み、酵素処理工程の前に前処理工程を含んでもよく、加熱殺菌処理工程の後にホモジナイズ工程を含んでもよい。
【0027】
(前処理工程)
前処理工程では、原料となる種実溶液を準備する。
ここで、「種実溶液」とは、前記した「種実」由来の液体、言い換えると、種実の成分を含有する液体であり、種実溶液の中でもアーモンド由来の液体(言い換えると、アーモンドの成分を含有する液体)は、アーモンド溶液となる。
そして、種実溶液としてアーモンド溶液を用いる場合、この前処理工程では、水につけたアーモンドをすり潰し、加熱し漉すといった処理を行うこととなる。
なお、「原料となる種実溶液」として市販の溶液(例えば、市販のアーモンドペーストを水で薄めたものなど)を使用する場合は、この前処理工程を省略してもよい。
【0028】
(前処理工程:原料となる種実溶液)
前処理工程で準備する種実溶液としてアーモンド溶液を用いる場合、この溶液の組成については特に限定されないものの、例えば、アーモンドペーストが1.5~15.0w/w%(好ましくは、8.0~12.0w/w%)、言い換えると、タンパク質が0.5~4.5w/w%(好ましくは、2.4~3.6w/w%)、脂質が1.0~7.0w/w%(好ましくは、4.5~6.5w/w%)、炭水化物が4.0~7.0w/w%(好ましくは、5.0~6.0w/w%)、灰分が0.05~0.2w/w%(好ましくは、0.08~0.12w/w%)、残りが水分、といったものを使用すればよい。
【0029】
(酵素処理工程)
酵素処理工程では、原料となる種実溶液に耐熱性プロテアーゼを作用させて、種実溶液のタンパク質などを分解処理する。
酵素処理工程で使用する耐熱性プロテアーゼは、前記のとおりである。
【0030】
(酵素処理工程:耐熱性プロテアーゼの酵素活性と添加量との関係)
使用する耐熱性プロテアーゼが耐熱性金属エンド型プロテアーゼであって、耐熱性金属エンド型プロテアーゼの酵素活性を[A]u/gとし、耐熱性金属エンド型プロテアーゼの添加量(原料となる種実溶液の全質量を基準とした添加量)を[B]ppmとした場合、[A]×[B]は、1.0×107以上が好ましく、1.1×107以上、1.2×107以上、1.3×107以上がより好ましい。[A]×[B]を所定以上とすることによって、ナッツミルクやナッツミルクヨーグルトの粘度をより確実に低くすることができる。一方、[A]×[B]の上限は特に限定されないものの、例えば、15.0×107以下、10.0×107以下、9.0×107以下である。
なお、本明細書において、「ppm」という単位は「mg/kg」と同義である。
【0031】
耐熱性プロテアーゼの酵素活性(力価)は、メーカーが規定する所定の酵素活性測定法で求めることができる。一例としては、カゼイン(乳製)を基質として、60℃、pH8.0において、反応初期の1分間に1μgのL-チロシンに相当する非たん白性のフェノール試薬呈色物質の増加をもらたす活性を1単位と定義する。また、ヘモグロビンを基質として、37℃、pH7.5で1分間に1.0μmolのチロシンを遊離する酵素活性を 1AnsonU(AU)とする。
【0032】
なお、耐熱性プロテアーゼの添加量(原料となる種実溶液の全質量を基準とした添加量)は特に限定されないものの、例えば、100ppm以上、130ppm以上、150ppm以上であり、5000ppm以下、4000ppm以下、3000ppm以下、2000ppm以下、1000ppm以下である。
また、耐熱性プロテアーゼの酵素活性も特に限定されないものの、例えば、50000u/g以上、60000u/g以上、70000u/g以上であり、300000u/g以下、200000u/g以下、100000u/g以下である。
【0033】
(酵素処理工程:諸条件)
酵素処理工程における酵素処理は、酵素分解が十分に実施されるような公知の条件を適用すればよいが、例えば、対象である種実溶液の温度を30~70℃(好ましくは、40~60℃)とし、処理時間を30分以上(好ましくは、50~70分)とすればよい。
【0034】
(加熱殺菌処理工程)
加熱殺菌処理工程では、酵素処理後の種実溶液に対して加熱処理を施すことによって、種実溶液を殺菌することができる。また、加熱殺菌処理工程における加熱処理は、酵素失活の役割も果たす。
【0035】
(加熱殺菌処理工程:諸条件)
加熱殺菌処理工程における加熱処理は、殺菌の役割を十分に発揮されるような公知の条件を適用すればよく、例えば、長時間殺菌の場合は、対象である種実溶液の温度を75~90℃(好ましくは、80~85℃)とし、処理時間を30分以上(好ましくは、85℃で30分間加熱する方法又はこれと同等以上の効力を有する条件(厚労省「清涼飲料水の規格基準」における製造条件を参照))とすればよく、瞬間殺菌の場合は、対象である種実溶液の温度を135~155℃(好ましくは、140~150℃)とし、処理時間を1秒以上(好ましくは、2~10秒)とすればよい。
【0036】
(ホモジナイズ工程)
本実施形態に係るナッツミルクの製造方法は、酵素処理工程の後や加熱殺菌処理工程の後に、ナッツミルク(又は種実溶液)に対してホモジナイズを施すホモジナイズ工程を含んでもよい。このホモジナイズによって、ナッツミルク中の脂肪球を微細化させて全体としての均質化を図ることができる。
なお、ホモジナイズの条件は、ナッツミルクを均質化できるような公知の条件(牛乳などで用いられる条件)であればよく、市販のホモジナイザー(均質機)で実施すればよい。
【0037】
以上説明したように、本実施形態に係るナッツミルクの製造方法によると、タンパク質の含有量が所定値以上であるにもかかわらず、加熱殺菌処理後の粘度の上昇が抑制されているナッツミルクを製造することができる。よって、本実施形態に係るナッツミルクの製造方法によると、「流動性」に優れるとともに、液体として混合や攪拌し易い状態、つまり「混合適性」が高いナッツミルクを製造することができる。
【0038】
[ナッツミルクヨーグルトの製造方法]
本実施形態に係るナッツミルクヨーグルトの製造方法は、前記した加熱殺菌処理工程の後に乳酸菌発酵工程を含む。
【0039】
(乳酸菌発酵工程)
乳酸菌発酵工程では、加熱殺菌処理後のナッツミルクに対して乳酸菌発酵処理を施す。この乳酸菌発酵処理によって、ナッツミルクがナッツミルクヨーグルトとなる。
【0040】
(乳酸菌発酵工程:諸条件)
乳酸菌発酵工程では、まず、加熱殺菌処理後のナッツミルクを40~45℃まで冷却する。そして、冷却後のナッツミルクに対して乳酸菌を添加して攪拌した後、所定の発酵条件で発酵させる。なお、乳酸菌発酵工程において使用する乳酸菌は、公知の乳酸菌であればよく、例えば、Lactobacillus delbrueckii、Streptococcus thermophilusが挙げられる。
そして、発酵温度、発酵時間などの発酵条件は、添加された乳酸菌スターターの種類や、求める発酵乳の風味などを考慮して適宜調整すればよい。例えば、発酵温度を30℃以上50℃以下の環境下に置くことにより、乳酸菌による発酵を促進させることができる。発酵時間は、発酵温度、添加された乳酸菌スターターの種類、発酵物における酸度設定などに応じて適宜調整される。
そして、10℃以下に冷却し発酵を終了させる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態に係るナッツミルクヨーグルトの製造方法によると、ナッツミルクの加熱殺菌処理後の粘度の上昇が抑制されていることから、粘度が高いために攪拌などの処理が行い難くなるといった事態を回避することができ、適切にナッツミルクヨーグルトを製造することができる。
【0042】
なお、本実施形態に係るナッツミルクの製造方法、及び、ナッツミルクヨーグルトの製造方法における各工程での処理は、ナッツミルクやヨーグルトを製造するために一般的に用いられている設備によって行うことができる。
また、本実施形態に係るナッツミルクの製造方法、及び、ナッツミルクヨーグルトの製造方法は、以上説明したとおりであるが、明示していない条件については、一般的に食品分野で実施されている公知の条件を適用すればよく、前記した処理内容によって得られる効果を奏する限りにおいて、その条件を適宜変更できることは言うまでもない。
【実施例0043】
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明について説明する。
【0044】
[サンプルの準備]
(サンプルの準備:種実溶液)
表に示すサンプル1~19の製造に使用した種実溶液は、アーモンドペースト11v/v%、ペーストレシチン0.1v/v%、E-オイル0.1v/v%、食物繊維3.0v/v%、寒天0.06v/v%、残りは水、というものであった。また、この種実溶液は、タンパク質が3.3w/w%、脂質が6.2w/w%、炭水化物が5.0w/w%、灰分が0.1w/w%、残りが水分というものであった。
【0045】
(サンプルの準備:酵素)
表に示すサンプルの製造に使用した酵素は、詳細には、「ADMIL300」(合同酒精株式会社製、由来:Paenibacillus polymyxa、酵素活性:5000PU/g)、「セルラーゼ」(合同酒精株式会社製、由来:Trichoderma属、酵素活性:100PU/g)、「フィターゼ」(天野エンザイム株式会社製、由来:Aspergillus niger、酵素活性:2000PU/g)、「アルカラーゼ(エンドプロテアーゼ(サブチリシン))」(ノボザイムズ社製、由来:Bacillus licheniformis、酵素活性:2.4 AU-A/g)、「ニュートラーゼ(中性)」(ノボザイムズ社製、由来:Bacillus amyloliquefaciens、酵素活性:0.8AU-N/g)、「celluclast 1.5L」(ノボザイムズ社製)、「viscozyme L」(ノボザイムズ社製、由来:Trichoderma reesei、酵素活性:700EGU/g)、「fungamyl 800L」(ノボザイムズ社製、由来:Aspergillus oryzae、酵素活性:800FAU/g)、「サモアーゼPC10F」(天野エンザイム株式会社製、由来:Geobacillus stearothermophilus、酵素活性:90,000u/g)、「サモアーゼGL30」(天野エンザイム株式会社製、由来:Geobacillus stearothermophilus、酵素活性:300,000u/mL(≒u/g))、「プロチンSD-NY10」(天野エンザイム株式会社製、由来:Bacillus amyloliquefaciens、酵素活性:、70,000u/g)、「セルラーゼA「アマノ」3」(天野エンザイム株式会社製、由来:Aspergillus niger、酵素活性:30,000u/g)、「セルラーゼT(アマノ)4」(天野エンザイム株式会社製、由来:Trichoderma viride、酵素活性:280u/g)、「ヘミセルラーゼ「アマノ」90」(天野エンザイム株式会社製、由来:Aspergillus niger、酵素活性:90,000u/g)、であった。
なお、各酵素の酵素活性の値は、各製品に付された値である。
そして、表1において、前記した各酵素が、「耐熱性プロテアーゼ」や「耐熱性金属エンド型プロテアーゼ」に該当するか否かを「〇:(該当する)」、「×:(該当しない)」によって示した。
【0046】
(サンプルの準備:手順)
前記した種実溶液を、高速乳化、分散機(プライミクス株式会社製ホモミクサーMARKII2.5型)にて攪拌(2500~3500rpm)しながら65℃となるように加温処理を行った。そして、前記した酵素を添加し、65℃で30分間の酵素処理を行った。その後、ホモジナイザー(株式会社エスエムテーLAB1000)を用いてホモジナイズ(15Mpa)を実施した。そして、80℃達温での加熱殺菌処理を行った。その後、再度、ホモジナイザー(前記と同じ)を用いてホモジナイズ(15Mpa)を実施した。最後に、42℃まで冷却してサンプルを準備した。
なお、表中においてコントロールと記載したサンプル18、19は、加温処理、及び、酵素処理を実施していない。また、サンプル18、19のうちサンプル18は、ホモジナイズ→加熱殺菌処理→ホモジナイズの処理を実施したものの、サンプル19は、ホモジナイズは実施せず加熱殺菌処理のみ実施した。
そして、準備したサンプル1~19のタンパク質の含有量は、種実溶液から変化していないため、3.3w/w%のままである。
【0047】
[測定方法:粘度]
各サンプルの粘度は、B型粘度計(東機産業株式会社製、BII型粘度計)で測定した。
そして、粘度の測定条件について、粘度が100mPa・s以下のサンプルは、「42℃、No.1ロータで回転数60rpm」との条件で実施し、粘度が100mPa・sを超えるサンプルは、「42℃、No.3ロータで回転数12rpm」との条件で実施した。そして、粘度の測定限界は10万mPa・sであった。
なお、各サンプルの粘度の測定は、加熱殺菌処理後であって42℃まで冷却した状態で実施したが、サンプル18のみ加熱殺菌処理前であって42℃の状態で実施した。
【0048】
[算出方法:タンパク質の含有量]
表に示すタンパク質の含有量については、種実溶液のアーモンドペーストにおけるタンパク質の含有量に基づいて算出した。
なお、アーモンドペースト中のタンパク質の含有量は、食品表示基準(消費者庁)規定の通り、ケルダール法などによって全窒素を定量し、窒素・たんぱく質換算係数を乗じることによって算出されたものである。
【0049】
表に、各サンプルの製造条件や指標を示すとともに、各評価の結果を示す。なお、表に示す各成分の数値は、最終製品における含有量である。
【0050】
【0051】
【0052】
(結果の検討)
表1の結果によると、耐熱性プロテアーゼを使用したサンプル4、5、10~15について、加熱殺菌処理後の粘度(42℃)が300mPa・s以下に抑制できることを確認できた。
また、表1の結果によると、耐熱性金属エンド型プロテアーゼを使用したサンプル4、10~15については、加熱殺菌処理後の粘度(42℃)が非常に低く抑えられる(100mPa・s以下)ことも確認できた。
【0053】
表2の結果によると、使用した酵素の酵素活性と当該酵素の添加量とを乗じた数値が、所定値以上となっていれば、本発明の効果(加熱殺菌処理後の粘度の上昇の抑制)がしっかりと発揮されることが確認できた。