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▶ ヤマサ醤油株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098123
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】カニみそ含有液体調味料
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/10 20160101AFI20230703BHJP
   A23L 17/40 20160101ALI20230703BHJP
   A23L 23/00 20160101ALN20230703BHJP
【FI】
A23L27/10 B
A23L17/40 A
A23L23/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214677
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006770
【氏名又は名称】ヤマサ醤油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】南條 貴志
(72)【発明者】
【氏名】冨成 浩静
【テーマコード(参考)】
4B036
4B042
4B047
【Fターム(参考)】
4B036LC01
4B036LE02
4B036LF03
4B036LG05
4B036LH04
4B036LH06
4B036LH07
4B036LH09
4B036LH10
4B036LH14
4B036LH44
4B036LK01
4B042AC03
4B042AD39
4B042AE08
4B042AG74
4B042AH06
4B042AK01
4B042AK04
4B042AK07
4B042AK08
4B042AK10
4B042AK17
4B042AK20
4B047LB03
4B047LB09
4B047LF02
4B047LG03
4B047LG14
4B047LG15
4B047LG21
4B047LG22
4B047LG24
4B047LG50
4B047LG60
4B047LG62
4B047LG63
(57)【要約】
【課題】カニみそを含有し、かつその濃厚な風味を活かしつつも、えぐみや磯くささを感じにくい液体調味料を得る。
【解決手段】カニみそを含有する液体調味料において、糖類として水あめを配合することにより、好ましい甘みや濃厚な味わいが強く感じられ、一方で磯の風味のバランスもとれ、嗜好性にすぐれた調味料を得られる。本願発明のカニみそ含有液体調味料は、甘みや濃厚な味わいが強く感じられ、またこれらの甘みや濃厚さが官能評価として好ましく感じられるものである。一方で、カニみそに由来し、しばしば好ましくない味の要素とされる磯の風味のバランスにもすぐれており、各種の調理に用いても高い嗜好性を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カニみそおよび糖類を含有する液体調味料において、糖類として水あめを含有することを特徴とする、液体調味料。
【請求項2】
カニみそに対して、1~30倍の重量の水あめを含有する、請求項1記載の液体調味料。
【請求項3】
カニみそおよび糖類を含有する液体調味料において、糖類として水あめを含有させることにより、液体調味料の甘みおよび味の濃厚感を向上させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、カニみそを含有する液体調味料に関する。
【背景技術】
【0002】
調味料市場が拡大する中、様々な原料を用いた特徴的な食味を有するタイプの商品も開発されるようになり、その一例として、ウニ、エビ、カニ、ホタテガイなど水産物に由来する成分を添加した調味料がある。
【0003】
「カニみそ」は、カニの甲を剥がしたときに見える内臓であり、主に中腸腺のような消化器官の一部が食用に供される。濃厚な旨みやコク、甘みを有することで人気があり、カニみそそのものや、これに一部調味料等を加えたものが、ペースト状の製品として販売されている。調理食品の食材としても、パスタやグラタン、ドリア、雑炊、軍艦寿司、味噌汁、オムレツ、茶碗蒸しなどに様々な形態で用いられているが、一方で、独特のえぐみや磯くささを好ましくないと感じる人もおり、好みが分かれる食材でもある。
【0004】
従来、カニみそ等のカニ由来原料を利用した調味料として、甲殻類を含有するソース100質量%に対してアルギニンを0.01~0.3質量%配合することにより、甲殻類の風味に優れ、甲殻類に特有の臭みが低減された甲殻類含有食品(特許文献1)などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-135918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように、カニみそはそれ自体が濃厚な旨みやコク、甘みを有するものであるが、カニみそ主体の加工食品においては、独特なえぐみや磯くささを感じる人もいるために味の好みが生じる場合があることから、カニみその好ましい風味のみを十分に活かした調味料へのニーズが存在する。
【0007】
したがって本願発明の課題は、カニみそを含有し、かつその濃厚な風味を活かしつつも、えぐみや磯くささを感じにくい液体調味料を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、カニみそを含有する液体調味料において、糖類として水あめを配合することにより、好ましい甘みや濃厚な味わいが強く感じられ、一方で磯の風味のバランスもとれ、嗜好性にすぐれた調味料を得られることを明らかにし、本願発明を完成させたものである。
【発明の効果】
【0009】
本願発明のカニみそ含有液体調味料は、甘みや濃厚な味わいが強く感じられ、またこれらの甘みや濃厚さが官能評価として好ましく感じられるものである。一方で、カニみそに由来し、しばしば好ましくない味の要素とされる磯の風味のバランスにもすぐれており、各種の調理に用いても高い嗜好性を有する液体調味料である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本願発明は、カニみそ含有液体調味料に関する。
【0011】
本願発明の液体調味料に配合するカニみそは、カニの甲を剥がしたときに見える食用可能なカニの内臓であって、主として中腸腺から成るものであり、一部に身肉や生殖腺などを含んでいても良い。原料の種別は特に限定されないが、ズワイガニ、ベニズワイガニ、ワタリガニ、ケガニ、上海ガニなど、食用に供されるカニ類に由来する原料を使用できる。カニみそは、1種のカニに由来するものであっても良く、2種以上のカニに由来するカニみそを混合して用いても良い。これらの原料のカニみそは、そのまま液体調味料に配合してもよく、配合前にミキサー等で適宜なめらかにしていてもよい。
【0012】
本願発明の液体調味料は、カニみそを調味料全体に対して1~30%(w/v)含有する。カニみその含有量が少なすぎると、カニみそ由来の濃厚な風味が感じられず味として不満足になる。逆にカニみその含有量が多すぎると、人によってはえぐみや磯くささが強く感じられる場合がある。
【0013】
また、本願発明の液体調味料は、糖として水あめを配合する。水あめは、原料デンプンを酸や酵素等で部分加水分解して得られる粘りのある液体であり、加水分解の方法により酸糖化水あめと酵素糖化水あめに大別される。本願発明の液体調味料では、どのような加水分解法による水あめを用いても良いが、酵素糖化水あめを使用することが好ましい。また、水あめのDE値としては5~50のものを使用することができる。水あめは、DE値20以上のものを言うことがあるが、本願で扱う「水あめ」は、糖として非還元糖を多く含有するものも含み、この場合、DE値は20より小さくなることもある。
【0014】
本願発明の液体調味料では、求める食味に応じ、水あめを、カニみそに対して1~30倍の重量添加することが好ましい。当該量比とすることで、濃厚で甘みがあり、磯の香りのバランスが取れた液体調味料を得ることができる。また、調味料全体への配合量は、求める食味に応じて調整することができるが、調味料全体に対して対する配合として5~40%(w/v)添加することができる。
【0015】
本願発明の液体調味料は、上記カニみそおよび水あめの他に、食塩、濃口醤油、淡口醤油、たまり醤油または白醤油などの醤油類、食用酢酸や、醸造酢、穀物酢、米酢、果実酢、黒酢、バルサミコ酢等の食酢類、ゆず、かぼす、すだち、レモン、グレープフルーツ、だいだい、夏みかん、河内晩柑、みかん、いよかん、八朔、甘夏、オレンジなどの柑橘類、りんご、梨、柿、パイナップル、パッションフルーツ、さくらんぼ、ざくろ、ベリー類などから選ばれる1種または2種以上の果実に由来する果汁、味噌、魚醤、みりんなどの発酵調味料、食用エタノール、清酒、醸造酒などのアルコール類、魚節類、海藻類、きのこ類等より抽出されるだし、鶏、豚、牛、羊などの肉やガラから得られるスープ類、たんぱく加水分解物などの調味料、グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムなどのうまみ調味料、チキンエキスやポークエキス、かつお節エキス、昆布エキス、酵母エキス等のエキス類、好ましくは常温で液状である植物性や動物性に由来する油脂類、魚節や昆布等のだし原料の粉末、寒天や澱粉、ペクチン、各種ガム類等の増粘剤、香料、酸味料、牛乳、生クリーム、バターなどの乳製品、ごま、くるみ、ナッツ等の種実類やその破砕物等を、その目的とする風味等に応じて適宜配合することができる。
【0016】
本願の液体調味料は、パスタや雑炊、炒飯、炊き込みご飯、スープ、だし巻き卵などの各種調理に用いたときにも、カニみその濃厚な風味や甘みが感じられる一方で、磯の香りなどのバランスにもすぐれており、きわめて嗜好性の高いものである。
【実施例0017】
以下、本願発明を実施例等により説明するが、本願発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0018】
(実施例1:各種糖類を配合したカニみそ含有調味料の作成)
下記表に示す配合に従って各原料をよく混合し、配合No.1~No.4のカニみそ入り液体調味料を製造した。カニみそは、紅ズワイガニ由来のものを使用した。糖類としては、配合No.1ではグラニュー糖(蔗糖)、No.2はブドウ糖、No.3は水あめ(酵素糖化)、No.4は液糖を使用した。糖類は、その種別によって甘みの強度(甘味度)が異なることから、配合量については、それぞれの甘味度が同等となるように設定した。糖の種別ごとの甘味度の値は、「光琳テクノブックス4 甘味の系譜とその科学」(吉積、伊藤、国分 光琳社、1986年)等を参照した。
【0019】
【表1】
【0020】
(実施例2:官能評価)
上記No.1~4の液体調味料を用いて官能評価を実施した。評価は、訓練された社内パネラー7名により実施し、官能評価の実施前に、評価項目および評価方法について十分に共有を行った。
【0021】
評価対象として、茹でたスパゲティ200gに対し、上記No.1~4の液体調味料をそれぞれ45gずつ絡めたパスタを用意し、これを喫食した際の官能を評価した。
【0022】
評価項目として、「塩味」、「甘み」、「濃厚感」、「カニみそ感」についての評価を行った。なお、本評価において、「濃厚感」とは、まったりとした味の厚みのこと、「カニみそ感」とは、カニに由来する磯の香りや風味のことを指す。
【0023】
食味の各評価項目について、それぞれの味の要素の「強弱」(1(弱)~5(強))、および調味料全体のバランスとして感じられる「好悪」(1(好ましくない)~5(好ましい))について1~5点の評点をつけた。また、上記とは別に、No.1~4の液体調味料について、最も好ましいと感じたものを1位とし、1~4位の嗜好の順位付けを行った。
【0024】
結果を下記表に示す。表中の数値は、点数または1~4位の順位の平均値を示す。すなわち、官能評価では数値が大きいほど、その風味が「強い」または「好ましい」ことを示し、嗜好性順位においては、数値が小さいほど順位が高く、嗜好性が高かったことを示す。
【0025】
【表2】
【0026】
「塩味」の評価では、強弱においては、No.1のみが弱く、No.2~4では相対的に塩味が強く感じられる結果だったが、調味料全体のバランスで見ると、No.3が最も高評価であり、好悪の評点が高くなっていた。
【0027】
「甘み」の評価では、No.1とNo.3が特に甘みを強く感じるという結果だったが、興味深いことに、調味料全体のバランスとしては、No.3のほうが高評価となった。
【0028】
「濃厚感」の評価では、強弱、好悪ともNo.3が最も強い、またはすぐれているとの評価であった。
【0029】
「カニみそ感」の評価では、強弱においては、No.1のみが弱く、No.2~4では相対的に塩味が強く感じられる結果だったが、調味料全体のバランスで見ると、No.3が最も高評価であり、すぐれていた。
【0030】
上記総合すると、糖として水あめを配合したNo.3の液体調味料は、他の糖類を配合したNo.1、No.2、No.4の調味料と比べて、甘みや濃厚感が強く感じられ、さらにバランスにおいてもすぐれていた。また、塩味や「カニみそ感」については、その味の強弱とは別に、調味料全体の味のバランスで見ると高評価という結果となった。
個別の調味料に関するコメントでも、No.1では磯の風味が強い、甘みが飛び抜けて強い、No.2ではクリーム系のコクは感じられるがカニ感か分かりにくい、No.4では、クリーム感が重たく感じられたなどのコメントがあったのに対し、No.3では、バランスが良く全体にすっきりして感じられるといった評価があった。
【0031】
嗜好の順位を見ても、平均順位はNo.3が最も高いものとなっており、糖として水あめを含有するNo.3が最も好ましいものであることが明らかになった。