(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009814
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】フレッシュコンクリートの均質性評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/38 20060101AFI20230113BHJP
G01N 27/02 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
G01N33/38
G01N27/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021113412
(22)【出願日】2021-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】509294922
【氏名又は名称】ムネカタインダストリアルマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】山田 勉
(72)【発明者】
【氏名】伊代田 岳史
(72)【発明者】
【氏名】海野 雄士
(72)【発明者】
【氏名】桑田 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】金澤 彰裕
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA14
2G060AE23
2G060AF03
2G060AF06
2G060AG11
2G060EA06
2G060HA02
2G060HC15
2G060KA09
(57)【要約】
【課題】インピーダンスへのコンクリート配合の影響を明らかにすることにより、精度の高いフレッシュコンクリートの均質性評価方法を提供する。
【解決手段】事前に、一方軸をインピーダンス(Ω)とし、他方軸をコンクリート1m
3当たりの水の体積とセメントの体積の和として定義されるペースト体積(L/m
3)とした相関図を得ておき、該相関図において、配合計画に基づきペースト体積目標値及びその許容範囲を設定するとともに、相関関係式に基づいて前記ペースト体積目標値及びその許容範囲に対応するインピーダンス目標値及びその許容範囲を設定しておき、コンクリートの圧送時又は打込み時に、コンクリートのインピーダンスを測定し、目標とするインピーダンスとの差から骨材混合割合のずれを推定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレッシュコンクリートの均質性を評価する方法であって、
事前に、一方軸をインピーダンス(Ω)とし、他方軸をコンクリート1m3当たりの水の体積とセメントの体積の和として定義されるペースト体積(L/m3)とした相関図を得ておき、該相関図において、配合計画に基づきペースト体積目標値を設定するとともに、相関関係に基づいて前記ペースト体積目標値に対応するインピーダンス目標値を設定しておき、
コンクリートの圧送時又は打込み時に、コンクリートのインピーダンスを測定し、目標とするインピーダンスとの差から骨材混合割合のずれを推定することを特徴とするフレッシュコンクリートの均質性評価方法。
【請求項2】
ペースト体積目標値及びインピーダンス目標値にそれぞれ、骨材混合割合のバラツキを考慮して許容範囲を設定する請求項1記載のフレッシュコンクリートの均質性評価方法。
【請求項3】
前記相関図における他方軸を、前記ペースト体積に代えて、ペースト体積から骨材表面に吸着したペースト膜(厚さα)分の体積を差し引いた有効ペースト体積とする請求項1、2いずれかに記載のフレッシュコンクリートの均質性評価方法。
【請求項4】
インピーダンスの測定は、交流電流とし、その周波数は1kHz~1MHzとする請求項1~3いずれかに記載のフレッシュコンクリートの均質性評価方法。
【請求項5】
コンクリート圧送時におけるインピーダンス測定のための電極は、コンクリート圧送管に設置する請求項1~4いずれかに記載のフレッシュコンクリートの均質性評価方法。
【請求項6】
コンクリート打込み時におけるインピーダンス測定のための電極は、型枠に配置するか、バイブレータに設置するか、専用棒に設置する請求項1~4いずれかに記載のフレッシュコンクリートの均質性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インピーダンスの測定によって、フレッシュコンクリートの均質性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記非特許文献1に示されるように、コンクリートの打込み時の充填管理に交流インピーダンス測定を利用したシート状センサが開発され、山岳トンネルの覆工コンクリートの天端部に適用している。このシート状センサは、コンクリート、ブリーディング水及び空気のインピーダンスが段階的に異なる数値を示すことを利用して閾値を設定し、それぞれの識別を行っており、コンクリートの充填管理では十分な精度を確保出来ている。
【0003】
しかし、コンクリートのインピーダンスは配合によって変化する。その原因としては、使用材料、セメント接水後の経過時間、温度、および配合等が考えられる。そこで下記非特許文献2では、直流四電極法を用いてまだ固まらないコンクリートの電気抵抗を測定し、セメント種類、セメント接水後の経過時間等の影響を調査している。その結果、電気抵抗は接水から約2時間で最小値を示し、水酸化ナトリウムに代表される水和生成物量に影響を受けると考察している。
【0004】
また、下記非特許文献3では、交流電圧を用いて四電極法を参考にモルタル硬化体の比抵抗を測定し、温度の影響を調査している。その結果、温度が高いほど比抵抗が小さくなる傾向にあることを明らかにしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】山田勉,外2名、「フレッシュコンクリートの電気的特性と振動伝播特性を利用した充填と締固め振動の検知に関する研究」、コンクリート工学年次論文集、p935-p940,Vol.42,No.1,2020
【非特許文献2】三坂岳広,外2名、「まだ固まらないコンクリートの水和反応が電気抵抗に与える影響」、コンクリート工学年次論文集、p505-p510,Vol.39,No.1,2017
【非特許文献3】親本俊憲,外3名、「モルタルの電気抵抗特性に関する電気化学的検討」、コンクリート工学年次論文集、p907-p912,Vol.27,No.1,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コンクリートの打込み時の充填管理に交流インピーダンス測定が利用されつつある状況にある。コンクリートの配合が異なるとインピーダンスも変化することが知られているが、その要因は明らかにされていない。
【0007】
そこで本発明の主たる課題は、インピーダンスへのコンクリート配合の影響を明らかにすることにより、精度の高いフレッシュコンクリートの均質性評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、フレッシュコンクリートの均質性を評価する方法であって、
事前に、一方軸をインピーダンス(Ω)とし、他方軸をコンクリート1m3当たりの水の体積とセメントの体積の和として定義されるペースト体積(L/m3)とした相関図を得ておき、該相関図において、配合計画に基づきペースト体積目標値を設定するとともに、相関関係に基づいて前記ペースト体積目標値に対応するインピーダンス目標値を設定しておき、
コンクリートの圧送時又は打込み時に、コンクリートのインピーダンスを測定し、目標とするインピーダンスとの差から骨材混合割合のずれを推定することを特徴とするフレッシュコンクリートの均質性評価方法が提供される。
【0009】
上記請求項1記載の発明では、フレッシュコンクリートの均質性(骨材混合割合)を評価するに当たって、事前に、一方軸をインピーダンス(Ω)とし、他方軸をコンクリート1m3当たりの水の体積とセメントの体積の和として定義されるペースト体積(L/m3)とした相関図を得ておき、該相関図において、配合計画に基づきペースト体積目標値を設定するとともに、相関関係に基づいて前記ペースト体積目標値に対応するインピーダンス目標値を設定しておくようにする。後述に示す実験例によって、本発明者等は、鋭意研究の結果、フレッシュコンクリートのインピーダンス(Ω)は、コンクリート1m3当たりの水の体積とセメントの体積の和として定義されるペースト体積(L/m3)と強い相関性を有するとの知見を得たことに基づくものである。
【0010】
前記ペースト体積軸において、ペースト体積目標値よりもペースト体積が減少することは相対的に粗骨材が多いことを意味し、ペースト体積目標値よりもペースト体積が増加することは細骨材が多いことを意味する。
【0011】
従って、コンクリートの圧送時又は打込み時に、コンクリートのインピーダンスを測定して、目標とするインピーダンスとの差から骨材混合割合のずれ、すなわち、骨材混合割合(粗骨材と細骨材の比率)がどちらに偏っているかを推定することが可能になる。
【0012】
請求項2に係る本発明として、ペースト体積目標値及びインピーダンス目標値にそれぞれ、骨材混合割合のバラツキを考慮して許容範囲を設定する請求項1記載のフレッシュコンクリートの均質性評価方法が提供される。
【0013】
上記請求項2記載の発明は、ペースト体積目標値及びインピーダンス目標値にそれぞれ、骨材混合割合のバラツキを考慮して許容範囲を設定するものである。実際のコンクリートの品質管理(骨材混合割合管理)では、目標とするインピーダンス値に近づくように管理を行うが、管理上の誤差(許容幅)が必要であるため、許容範囲を予め設定し、インピーダンスがその許容範囲に入るように制御管理することが望ましい。
【0014】
請求項3に係る本発明として、前記相関図における他方軸を、前記ペースト体積に代えて、ペースト体積から骨材表面に吸着したペースト膜(厚さα)分の体積を差し引いた有効ペースト体積とする請求項1、2いずれかに記載のフレッシュコンクリートの均質性評価方法が提供される。
【0015】
上記請求項3記載の発明は、更なる精度向上を図るものである。後述の実験例に示すように、骨材表面に吸着されたペースト膜はイオン誘導に関与していないと想定されるため、このペースト膜分の体積をペースト体積から差し引くことにより、インピーダンス(Ω)との相関性を更に向上させることが可能になる。
【0016】
請求項4に係る本発明として、インピーダンスの測定は、交流電流とし、その周波数は1kHz~1MHzとする請求項1~3いずれかに記載のフレッシュコンクリートの均質性評価方法が提供される。
【0017】
上記請求項4記載の発明では、インピーダンスの測定に当たって、交流電流を用い、その周波数を1kHz~1MHzkHzとするものである。
【0018】
請求項5に係る本発明として、コンクリート圧送時におけるインピーダンス測定のための電極は、コンクリート圧送管に設置する請求項1~4いずれかに記載のフレッシュコンクリートの均質性評価方法が提供される。
【0019】
上記請求項5記載の発明は、コンクリート圧送時のインピーダンス計測における電極の設置態様を規定したものである。この場合は、コンクリート圧送管の内面に対となる電極を設置することによりリアルタイムにインピーダンスを計測することが可能になる。
【0020】
請求項6に係る本発明として、コンクリート打込み時におけるインピーダンス測定のための電極は、型枠に配置するか、バイブレータに設置するか、専用棒に設置する請求項1~4いずれかに記載のフレッシュコンクリートの均質性評価方法が提供される。
【0021】
上記請求項6記載の発明は、コンクリート打込み時におけるインピーダンス測定のための電極の設置態様を規定したものである。この場合は、対峙する型枠の内面にそれぞれ電極を設置するか、バイブレータに対して対となる電極を設置し振動掛けに併行してインピーダンスを測定するか、別途専用棒に対となる電極を設置しインピーダンスを測定するようにする。
【発明の効果】
【0022】
以上詳説のとおり本発明によれば、インピーダンスへのコンクリート配合の影響を明らかにすることにより、精度の高いフレッシュコンクリートの均質性評価方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】一方軸をインピーダンス(Ω)とし、他方軸をコンクリート1m
3当たりの水の体積とセメントの体積の和として定義されるペースト体積(L/m
3)とした相関図の例である。
【
図2】コンクリート圧送時のインピーダンス測定要領例を示す縦断面図である。
【
図3】コンクリート打込み時のインピーダンス測定要領例を示す図(A)~(C)である。
【
図4】実験装置を示す、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【
図5】周波数とインピーダンスの関係を示すグラフである。
【
図7】水セメント比とインピーダンスの関係を示すグラフである。
【
図8】ペースト体積とインピーダンスの関係を示すグラフ(その1)である。
【
図9】ペースト体積とインピーダンスの関係を示すグラフ(その2)である。
【
図10】細骨材率とインピーダンスの関係を示すグラフである。
【
図11】骨材表面積とインピーダンスの関係を示すグラフである。
【
図12】ペースト体積とインピーダンスの関係を示すグラフである。
【
図14】有効ペースト体積とインピーダンスとの関係を示すグラフである。
【
図15】有効ペースト体積とインピーダンスとの相関図を用いたフレッシュコンクリートの均質性評価方法を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0025】
本発明は、コンクリート打設に当たり、コンクリートの品質を確保するために、フレッシュコンクリートの均質性(骨材混合割合)を評価する方法である。
【0026】
従来より、コンクリート打設では、横流しによる粗骨材の分離や鉄筋による流動阻害によるかぶり部の豆板発生(ジャンカ)が生じる場合があった。これに対する対応としては、しっかりと決められたルールでバイブレータ掛けを行ったり、壁バイブレータを設置するなどの方法で対処するようにしているが、依然としてコンクリート表面の豆板(ジャンカ)発生は完全に無くならなかった。
【0027】
本発明では、コンクリート自体の配合は当初の配合計画(配合設計)によって、水、セメント、粗骨材、細骨材の各量をきちんと配合したにも拘わらず、コンクリートの均質性が確保されていないのは、粗骨材と細骨材との混合割合が場所毎に偏っていることにも原因があると考え、コンクリートの均質性(骨材混合割合)を確保する為には、コンクリート打設時に、リアルタイムで骨材の混合割合を把握することが必要であるとの認識に立ち、本発明に至ったものである。具体的には、以下の手順によって、リアルタイムに骨材混合割合のずれを推定するものである。
【0028】
事前に、一方軸をインピーダンス(Ω)とし、他方軸をコンクリート1m3当たりの水の体積とセメントの体積の和として定義されるペースト体積(L/m3)とした相関図を得ておき、該相関図において、配合計画に基づきペースト体積目標値を設定するとともに、相関関係に基づいて前記ペースト体積目標値に対応するインピーダンス目標値を設定しておき、
コンクリートの圧送時又は打込み時に、コンクリートのインピーダンスを測定し、目標とするインピーダンスとの差から骨材混合割合のずれを推定するものである。
【0029】
すなわち、本発明では、コンクリート打設に先立って、室内実験により例えば、縦軸をインピーダンス(Ω)とし、横軸をコンクリート1m3当たりの水の体積とセメントの体積の和として定義されるペースト体積(L/m3)とした相関図を得ておくようにする。この相関図では、縦軸及び横軸は共に対数軸とする。
【0030】
前記「ペースト体積」は、本発明者等が着目した因子であり、コンクリートが水と、セメントと、粗骨材と、細骨材とからなる場合、コンクリートの導電性に関与するのは、粗骨材と細骨材とを除くセメントペーストの体積がイオンの誘導が大きく関係していると考えられるため、イオン誘導に関与する体積分を、コンクリート1m3当たりの水の体積とセメントの体積の和をもって「ペースト体積」と定義したものである。
【0031】
前記ペースト体積(L/m
3)は、下式(1)によって算出することができる。
【数1】
例えば、単位水量170kg、単位セメント量293kgの時、下式によって求めることができる。
【0032】
ペースト体積(L/m3)=170(kg/m3)/1000(kg/m3)+293(kg/m3)/3160(kg/m3)
=0.170(m3/m3)+0.093(m3/m3)=0.263(m3/m3)=263(L/m3)
後述の実施例に示されるように、インピーダンス(Ω)とペースト体積(L/m3)との相関図では、決定係数(R2)=0.933であり、高い相関性が認められる。そして、前記相関図において、配合計画に基づきペースト体積目標値を設定するとともに、相関関係に基づいて前記ペースト体積目標値に対応するインピーダンス目標値を設定する。この際、ペースト体積目標値及びインピーダンス目標値にはそれぞれ、骨材混合割合のバラツキを考慮して許容範囲を設定することが望ましい。
【0033】
図1はインピーダンス(Ω)とペースト体積(L/m
3)との相関図の例を示したものであり、これに基づいて詳述すると、配合計画に基づいて、水と、セメントと、粗骨材と、細骨材との各量は明らかになっている。従って、ペースト体積が計算できペースト体積目標値が明らかになる。また、骨材混合割合のバラツキを考慮して、前記ペースト体積目標値を中央値として、その±方向に所定量の許容範囲を設定する。この許容範囲は、経験側及び実験等によって設定することが望ましい。概ね、ペースト体積目標値を中央値として、ペースト体積目標値の±25%の範囲、好ましくは±20%の範囲に設定することが望ましい。後述するように、前記ペースト体積軸において、ペースト体積目標値よりもペースト体積が減少することは相対的に粗骨材が多いことを意味し、ペースト体積目標値よりもペースト体積が増加することは細骨材が多いことを意味する。
【0034】
インピーダンス(Ω)とペースト体積(L/m3)との相関式は明らかになっているため、前記ペースト体積目標値及びその許容範囲に対応するインピーダンス目標値およびその許容範囲がおのずと設定される。
【0035】
その後は、コンクリートの圧送時又は打込み時に、コンクリートのインピーダンスを測定して、目標とするインピーダンスとの差から骨材混合割合のずれ、すなわち、骨材混合割合(粗骨材と細骨材の比率)がどちらに偏っているかを推定することが可能になる。
【0036】
インピーダンスの測定は、交流電流とし、その周波数は1kHz~1MHzとすることができる。この場合、交流電流を用いた場合は、物質のインピーダンスは測定周波数によって変化する。そこで、周波数を変化させながらインピーダンスと位相角を測定して、周波数と位相角の関係で整理すると、インピーダンスは周波数1kHz未満では比較的変化が大きいが、それよりも高周波側では変化が小さいことが判明するとともに、位相角は10~100kHz付近では0°になっていることを知見した。従って、インピーダンス測定は、周波数10kHz~100kHzとすることが望ましい。
【0037】
コンクリート圧送時のインピーダンス測定は、
図2に示されるように、コンクリートCを圧送する圧送管1の内面に対の電極2A、2Bを対峙させるように設置する。また、コンクリート打込み時におけるインピーダンス測定のための電極は、
図3(A)に示されるように、対峙する型枠3A、3Bの内面にそれぞれ電極2A、2Bを設置するか、
図3(B)に示されるように、バイブレータ4に改造を行い振動部分4Aに対となる電極2A、2Bを設置し振動掛けに併行してインピーダンスを測定するか、
図3(C)に示されるように、別途専用棒5に対となる電極2A、2Bを設置することによりインピーダンスを測定することができる。
【0038】
ところで、インピーダンス(Ω)とペースト体積(L/m3)との相関図においては、更なる精度向上を図るために、前記相関図におけるペースト体積軸に代えて、ペースト体積から骨材表面に吸着したペースト膜(厚さα)分の体積を差し引いた有効ペースト体積とすることができる。骨材表面に吸着されたペースト膜はイオン誘導に関与していないと想定されるため、このペースト膜分の体積をペースト体積から差し引くことにより、インピーダンス(Ω)との相関性を更に向上させることが可能になり、精度向上を図ることができる。
【実施例0039】
本発明者等が、インピーダンスへのコンクリート配合の影響を明らかにする為に行った実験について詳述する。
【0040】
1.実験概要
1.1 使用材料および配合
セメントは、普通ポルトランドセメント(密度3.16g/cm3)、細骨材は山砂(表乾密度2.56g/cm3)、粗骨材は砕石(表乾密度2.64g/cm3)を用いた。これらの材料を20℃の恒温室に保管し、常に一定温度に保持した。また、水は20℃に調整された水道水を使用した。
【0041】
下表1に配合表を示し、下表2にその体積構成比を示す。ペーストは水セメント比を20~100,000%の範囲で変化させたPシリーズを設定した。モルタルはペースト体積一定のM1シリーズ(水セメント比40~70%)、ペースト体積変化のM2シリーズ(細骨材セメント質量比2~3、水セメント比50%)とM3シリーズ(細骨材セメント質量比1~5、水セメント比55%)の3種類の配合を設定した。ペーストに粗骨材を混和した特殊配合は、ペースト体積変化のPG1シリーズ(粗骨材セメント質量比1~3、水セメント比40%)とPG2シリーズ(粗骨材セメント質量比1~3、水セメント比55%)を設定した。コンクリートは、ペースト体積変化のC1シリーズ(水セメント比58%)、ペースト体積一定のC2シリーズ(水セメント比55%)、水中コンクリート配合のC3シリーズの3種類の配合を設定した。
【0042】
【0043】
【0044】
1.2 実験方法
図4に実験概要を示す。絶縁用のゴムシート上にプラスティック製容器(幅145mm×215mm、高さ160mm)を置き、容器の短辺中央、鉛直方向に棒状電極(SUS304、φ3.0mm)を各1本配置した。各試料の投入深さは100mmで統一した。各配合を練り混ぜ、上記容器に投入後、木槌で適度に叩きを行って静置し、接水から15分後にLCRメータ(HIOKI製、IM3536)を用いて、両電極間に交流電圧を印可しインピーダンスを測定した。
【0045】
2.実験結果
2.1 測定周波数の影響
物質のインピーダンスは測定周波数によって変化する。交流インピーダンス法による比抵抗測定の研究例においては、電解質溶液と電極の間に生じる分極に起因して周波数が低いほどインピーダンス、位相差が大きくなることや位相差が小さいほど理論値に近い値を示すこと等から、位相差ができる限り小さい周波数で測定することが重要としている。そのため、本実験では全ての試料に対し、周波数を5Hz~1MHzの範囲で変化させながらインピーダンスと位相角を測定した。なお、測定信号レベルは5Vrmsとした。
【0046】
インピーダンスと位相角の測定例として、Pシリーズ、M2シリーズ、C2シリーズの水セメント比50~55%の各1配合について、インピーダンスと位相角の測定結果をそれぞれ
図5と
図6に示す。インピーダンスは周波数1kHz未満で比較的変化が大きいが、それより高周波側では変化が小さい。位相角は10kHz~100kHz付近で0°になっている。そこで、以降の実験結果は、周波数10kHzのときのインピーダンスを用いて整理することとした。
【0047】
2.2 水セメント比の影響
水セメント比のインピーダンスへの影響を調査するために、水セメント比を変数としたP、M1シリーズのインピーダンスを比較した。それぞれのシリーズでペースト体積は一定である。
図7に水セメント比とインピーダンスの関係を示す。Pシリーズは水セメント比100%未満でインピーダンスが一定となり、セメントから溶出したイオンの濃度が一定であることを示していると考えられた。
【0048】
また、M1シリーズにおいてもインピーダンスが一定となった。ペーストに骨材が混和された状態でもペースト体積が一定であれば、Pシリーズと同様に水セメント比が変化してもインピーダンスは変化しない。結果として、水セメント比および単位水量はインピーダンスと相関が弱いと考えられた。
【0049】
2.3 ペースト体積の影響
ペースト体積のインピーダンスへの影響を調査するために、ペースト体積を変数(すなわち、骨材体積を変数)としたM2、M3、PG1、PG2シリーズのインピーダンスを比較した。
図8にペースト体積とインピーダンスの関係を示す。すべてのシリーズでペースト体積が増大するとインピーダンスが減少する負の相関が得られた。ペースト体積が小さいと相対的に電気絶縁性の骨材体積が大きく、多数の骨材粒子が密に分布しイオン泳動が阻害されるが、ペースト体積が大きいとイオン泳動は容易になると推定される。つまり、電気絶縁性の骨材の分布状況によってイオン泳動の容易さに差異が生じることで、インピーダンスが変化すると考えられた。
【0050】
また、細骨材を混和したM2、M3シリーズと粗骨材を混和したPG1、PG2シリーズを比較すると、ペースト体積が同じ(すなわち、骨材体積も同じ)にもかかわらずM2、M3シリーズのインピーダンスがより大きくなった。つまり、骨材体積ではなく、細骨材と粗骨材の違いがインピーダンスに影響を及ぼすことになる。細骨材と粗骨材の両方を混和するコンクリートでは、細骨材率がインピーダンスに影響を及ぼすと考えられた。
【0051】
2.4 細骨材率の影響
細骨材率のインピーダンスへの影響を調査するために、細骨材率を変数としたC1、C2シリーズのインピーダンスを比較した。C1シリーズはペースト体積変化、C2シリーズはペースト体積一定の配合である。
【0052】
図9にペースト体積とインピーダンスの関係を示す。C1シリーズはペースト体積の増大とともにインピーダンスが減少し、M2、M3シリーズ等と同様の傾向を示した。C2シリーズは、インピーダンス変化量が52Ωと比較的小さいが、細骨材率の増大とともにインピーダンスが増大した。
【0053】
図10に細骨材率とインピーダンスの関係を示す。C1シリーズとC2シリーズは正負逆の相関が見られる。細骨材率だけの影響のC2シリーズの変化に対し、ペースト体積と細骨材率双方の影響を含むC1シリーズの変化は10倍程度大きい。これらのことから、ペースト体積と細骨材率は互いに打ち消し合う方向にインピーダンスに影響を及ぼすが、細骨材率の影響度はペースト体積より小さいと考えられる。
【0054】
2.5 骨材表面積の影響
最後に、細骨材率がインピーダンスに及ぼす要因を検討する。
図8において骨材体積が同じでもPG1、PG2シリーズよりM2、M3シリーズのインピーダンスが大きいことから、細骨材と粗骨材の違いとして比表面積に着目した。比表面積の大きい細骨材が増えると単位体積あたりの骨材表面積の総計(以下、骨材表面積)が増大することになる。
図11に骨材表面積とインピーダンスの関係を示す。骨材表面積は、細骨材と粗骨材の粒度分布からそれぞれの比表面積を算出し、単位量を乗じ合算して求めた。しかし、細骨材率とインピーダンスの関係に近く、新たな知見は得られない。
【0055】
2.6 インピーダンスとの相関性
(1)ペースト体積
ここまでの実験により、インピーダンスはペースト体積と強い相関性があることが判明したため、表1の配合のうち、骨材が混和された全ての配合について、
図12に、両軸対数のグラフとして、ペースト体積とインピーダンスの関係を整理し直した。
【0056】
同図を見ると明らかなように、インピーダンスとペースト体積とは、決定係数(R2)=0.933であり、高い相関性を有することが分かる。
【0057】
(2)有効ペースト体積
更に、
図13に示すように骨材表面に吸着したペースト膜(厚さα)がイオン泳動に関与していないと仮説を立てた。細骨材率が増大すると骨材表面積も増大し、イオン泳動に関与しない吸着ペースト体積も増大するため、イオン泳動に有効なペースト体積(以下、有効ペースト体積)が減じられ、インピーダンスが減少する傾向となる。つまり、ペースト体積から骨材表面に吸着したペースト膜(厚さα)の体積を差し引いた有効ペースト体積が更に有効と考えた。有効ペースト体積(Veff)は、下式(2)によって求めることができる。
【数2】
【0058】
図14に有効ペースト体積とインピーダンスの関係(両軸対数)を示す。有効ペースト体積(Veff)の算出に当たって、式(2)のα(定数)は0.003とした。横軸を有効ペースト体積とした場合は、決定係数(R
2)は0.933から0.975へ高まり、より高い精度でインピーダンスの予測が可能となることが判明した。
【0059】
3.均質性の評価方法
図15に前述の有効ペースト体積とインピーダンスの関係を用いたコンクリートの均質性評価法のイメージを示す。
【0060】
初めに、計画配合(配合設計)と骨材の粒度分布をもとにペースト体積と骨材表面積を算出し有効ペースト体積を求める(例えば、C1-3)。次に、コンクリート圧送または打込み中の骨材の分離状況を想定し、その許容範囲の限界(例えば、C1-1とC1-5)を設定し、有効ペースト体積を求める。また、
図15の関数(相関式)を用いてそれぞれのインピーダンスを求める。
そして、コンクリート打設に当たって、コンクリート圧送または打込み時に、コンクリートのインピーダンスを常時測定し、事前に予測したインピーダンス(インピーダンス目標値)との差から計画の骨材混合割合からのずれ(材料分離程度)をリアルタイムに推定する。
【0061】
すなわち、測定されたインピーダンスが、仮に目標とするインピーダンスよりも高い場合(C1-1側に偏る)は、表1の配合表から明らかなように、計画配合(C1-3)よりも粗骨材が多く存在していると判断でき、仮に目標とするインピーダンスよりも低い場合(C1-5側に偏る)は、表1の配合表から明らかなように、計画配合(C1-3)よりも細骨材が多く存在していると判断でき、インピーダンス目標値との差から計画の骨材混合割合からのずれ(材料分離程度)を推定することが可能になる。
【0062】
本発明に係る均質性評価法に基づき、許容範囲の限界に達する前に均質性を保つための施工方法の改善を行うことで、良質なコンクリート構造物を提供できるようになる。また、圧送または打込み時のインピーダンスを測定し、維持管理に向けた初期品質データとして記録することも可能である。
【0063】
4.まとめ
本実験では、ペースト、モルタル、ペーストに粗骨材を混和した特殊配合、およびコンクリートの様々な配合についてインピーダンスを測定し、以下の知見を得た。
(1) コンクリートに用いられる水セメント比の範囲では、ペーストのインピーダンスは水セメント比または単位水量の影響を受けない。
(2) モルタルおよびコンクリートのインピーダンスは、骨材の混和によって変化するペースト体積の変化に最も影響を受ける。
(3) コンクリートのインピーダンスは細骨材率の影響を受ける。ただし、その影響度はペースト体積の変化より小さい。細骨材率がインピーダンスに影響を及ぼす要因として、骨材表面に吸着したペースト膜が影響を及ぼしている。
(4) ペースト体積から骨材表面に吸着したペースト膜の体積を差し引いた有効ペースト体積を用いてインピーダンスを精度よく予測できる。
【0064】
〔他の形態例〕
(1)上記形態例では、インピーダンス(Ω)とペースト体積(L/m3)との相関図において、縦軸をインピーダンス(Ω)とし、横軸をペースト体積(L/m3)としたが、縦軸をペースト体積(L/m3)とし、横軸をインピーダンス(Ω)とすることも可能である。