(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098144
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】発泡合成樹脂成形品の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
B29C 37/02 20060101AFI20230703BHJP
B29C 39/22 20060101ALI20230703BHJP
B29C 39/02 20060101ALI20230703BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20230703BHJP
B29C 44/34 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
B29C37/02
B29C39/22
B29C39/02
B29C44/00 A
B29C44/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214719
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 群司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩
【テーマコード(参考)】
4F201
4F204
4F214
【Fターム(参考)】
4F201AG20
4F201AG21
4F201BA08
4F201BC01
4F201BC02
4F201BS01
4F201BS02
4F201BS10
4F204AA42
4F204AB02
4F204AC05
4F204AG20
4F204AM33
4F204EA01
4F204EB01
4F204EF27
4F204EK17
4F204EW01
4F204EW22
4F204EW31
4F214AA42
4F214AB02
4F214AC05
4F214AG20
4F214UA01
4F214UB01
4F214UD17
4F214UF27
4F214UW01
4F214UW22
4F214UW31
(57)【要約】
【課題】発泡合成樹脂成形品の不要部を容易に削除することができる発泡合成樹脂成形品の製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】 発泡合成樹脂成形品10の製造方法は、発泡合成樹脂成形品10から突出して形成された発泡合成樹脂製の突出部12に、発泡合成樹脂を膨潤させる液体を塗布する塗布工程を備えている。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡合成樹脂成形品の製造方法であって、
前記発泡合成樹脂成形品から突出して形成された発泡合成樹脂製の突出部に、前記発泡合成樹脂を膨潤させる液体を塗布する塗布工程を備えたことを特徴とする発泡合成樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
前記塗布工程において、前記発泡合成樹脂成形品を部材に配置した状態にて前記液体を塗布することを特徴とする請求項1に記載の発泡合成樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
前記塗布工程において、前記発泡合成樹脂成形品を配置可能である前記部材の壁面に、前記突出部を接触させた状態にて前記液体を塗布することを特徴とする請求項2に記載の発泡合成樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
前記部材は、前記発泡合成樹脂成形品を成形するための金型であり、
前記塗布工程は、前記金型を使用して前記発泡合成樹脂成形品を成形する成形工程の後に実施されることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の発泡合成樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
前記突出部は、前記液体を受けることが可能である凹部が形成されたことを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の発泡合成樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
前記突出部を切り離すための溝部をさらに備えたことを特徴とする請求項1から請求項5の何れか一項に記載の発泡合成樹脂成形品の製造方法。
【請求項7】
前記塗布工程において前記液体をスプレーにより塗布することを特徴とする請求項1から請求項6の何れか一項に記載の発泡合成樹脂成形品の製造方法。
【請求項8】
発泡合成樹脂成形品の製造装置であって、
前記発泡合成樹脂成形品から突出して形成された発泡合成樹脂製の突出部に、前記発泡合成樹脂を膨潤させる液体を塗布する塗布部を備えたことを特徴とする発泡合成樹脂成形品の製造装置。
【請求項9】
前記突出部を切り離すための溝部を形成するための溝部形成部をさらに備えたことを特徴とする請求項8に記載の発泡合成樹脂成形品の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡合成樹脂成形品の製造方法及び製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発泡合成樹脂成形品の製造方法及び製造装置として、特許文献1には、発泡合成樹脂成形品(発泡ウレタン成形品)を製造する際に、形成されたバリ(不要部)を、超音波カッターを用いて切除できるトリミング方法及びトリミング装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に開示されている発泡合成樹脂成形品の製造方法及び製造装置において、超音波カッターでは比較的硬いバリ(不要部)を切除し難いという問題があった。
【0005】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたもので、発泡合成樹脂成形品の不要部を容易に削除することができる発泡合成樹脂成形品の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明に係る発泡合成樹脂成形品の製造方法は、発泡合成樹脂成形品から突出して形成された発泡合成樹脂製の突出部に、前記発泡合成樹脂を膨潤させる液体を塗布する塗布工程を備えたことを特徴とする。
【0007】
この発明に係る発泡合成樹脂成形品の製造方法によれば、発泡合成樹脂成形品の突出部が不要部である場合、塗布工程において、発泡合成樹脂成形品の突出部に、発泡合成樹脂を膨潤させる液体を塗布して膨潤させるので、膨潤した突出部すなわち不要部を容易に取り除くことが可能となる。よって、発泡合成樹脂成形品の不要部を容易に削除することができる発泡合成樹脂成形品の製造方法を提供することが可能となる。
【0008】
また、本発明による発泡合成樹脂成形品の製造方法においては、前記塗布工程において、前記発泡合成樹脂成形品を部材に配置した状態にて前記液体を塗布することが好ましい。これによれば、発泡合成樹脂成形品の突出部に前記液体を適切に塗布することが可能となる。
【0009】
また、本発明による発泡合成樹脂成形品の製造方法においては、前記塗布工程において、前記発泡合成樹脂成形品を配置可能である前記部材の壁面に、前記突出部を接触させた状態にて前記液体を塗布することが好ましい。これによれば、突出部を部材の壁面によって確実に支持させることが可能となり、部材の壁面に支持された突出部に、前記液体をより適切に塗布することが可能となる。
【0010】
また、本発明による発泡合成樹脂成形品の製造方法においては、前記部材は、前記発泡合成樹脂成形品を成形するための金型であり、前記塗布工程は、前記金型を使用して前記発泡合成樹脂成形品を成形する成形工程の後に実施されることが好ましい。これによれば、金型を使用して発泡合成樹脂成形品を成形する従来の製造設備をそのまま活用して、前記塗布工程を追加することが可能となる。
【0011】
また、本発明による発泡合成樹脂成形品の製造方法においては、前記突出部は、前記液体を受けることが可能である凹部が形成されることが好ましい。これによれば、凹部が、前記発泡合成樹脂を膨潤させる液体を確実に受けることが可能となり、突出部に確実に投与することが可能となる。
【0012】
また、本発明による発泡合成樹脂成形品の製造方法においては、前記突出部を切り離すための溝部をさらに備えることが好ましい。これによれば、溝部により突出部を確実に切り離すことが可能となる。
【0013】
また、本発明による発泡合成樹脂成形品の製造方法においては、前記塗布工程において前記液体をスプレーにより塗布することが好ましい。これによれば、発泡合成樹脂を膨潤させる液体を、所望範囲に適切かつ確実に塗布することが可能となる。さらには、スプレーする液体の供給量を制御することで、発泡合成樹脂を膨潤させる液体の塗布量を確実に制御することが可能となり、所望量にて適切かつ確実に塗布することが可能となる。
【0014】
また、本発明による発泡合成樹脂成形品の製造装置は、発泡合成樹脂成形品から突出して形成された発泡合成樹脂製の突出部に、前記発泡合成樹脂を膨潤させる液体を塗布する塗布部を備えたことを特徴とする。
【0015】
この発明に係る発泡合成樹脂成形品の製造装置によれば、発泡合成樹脂成形品の突出部が不要部である場合、塗布部は、発泡合成樹脂成形品の突出部に、発泡合成樹脂を膨潤させる液体を塗布して膨潤させるので、膨潤した突出部すなわち不要部を容易に取り除くことが可能となる。よって、発泡合成樹脂成形品の不要部を容易に削除することができる発泡合成樹脂成形品の製造装置を提供することが可能となる。
【0016】
また、本発明による発泡合成樹脂成形品の製造装置においては、前記突出部を切り離すための溝部を形成するための溝部形成部をさらに備えることが好ましい。これによれば、溝部形成部によって、確実かつ簡便に溝部を形成することが可能となり、ひいては溝部によって突出部を確実に切り離すことが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、発泡合成樹脂成形品の不要部を容易に削除することができる発泡合成樹脂成形品の製造方法及び製造装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】本発明による発泡合成樹脂成形品10の製造方法により製造される発泡合成樹脂成形品10の一実施形態を示す平面図である。
【
図1B】
図1Aに示す発泡合成樹脂成形品10の1B-1B線に沿った断面図である。
【
図2A】発泡合成樹脂成形品10の中間成形品15を示す平面図である。
【
図2B】
図2Aに示す中間成形品15の2B-2B線に沿った断面図である。
【
図3】本発明による発泡合成樹脂成形品10の製造方法(ウレタンフォーム原料注入工程)を示す断面図である。
【
図4】本発明による発泡合成樹脂成形品10の製造方法(発泡工程)を示す断面図である。
【
図5】本発明による発泡合成樹脂成形品10の製造方法(発泡工程)を示す断面図である。
【
図6】本発明による発泡合成樹脂成形品10の製造方法(塗布工程)を示す断面図である。
【
図7】本発明による発泡合成樹脂成形品10の製造方法(塗布工程)を示す断面図である。
【
図8】本発明による発泡合成樹脂成形品10の製造方法(塗布工程)を示す断面図である。
【
図9】本発明による発泡合成樹脂成形品10の製造方法(脱型工程)を示す断面図である。
【
図10】本発明による発泡合成樹脂成形品10の製造装置30を示す説明図である。
【
図11】本発明による発泡合成樹脂成形品10の製造装置30の吸着装置60の一実施形態を示す側面図である。
【
図12】本発明による発泡合成樹脂成形品10の製造装置30の把持装置70の一実施形態を示す側面図である。
【
図13】本発明による発泡合成樹脂成形品10の製造装置30の溝部形成部24を示す断面図である。
【
図14】本発明による発泡合成樹脂成形品10の他の実施形態を示す断面図である。
【
図15】発泡合成樹脂成形品10の中間成形品115を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明による発泡合成樹脂成形品10の製造方法及び製造装置の一実施形態について図面を参照して説明する。ただし、本発明は、この実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0020】
(発泡合成樹脂成形品)
図1に示すように、発泡合成樹脂成形品10は、発泡合成樹脂部を備える成形品である。発泡合成樹脂成形品10は、埋め込み部材の有無を問わない。本実施形態では、発泡合成樹脂成形品10は、埋め込み部材(インサート部材)を有していない。尚、埋め込み部材は、発泡合成樹脂成形品に埋め込まれる部材である。
【0021】
また、本実施形態では、発泡合成樹脂成形品10は、金型20を使用して成形されている。尚、発泡合成樹脂成形品10は、金型を使用して一体成形されていなくてもよく、例えば、発泡合成樹脂を積層して一体成形(例えば、3Dプリンタや発泡合成樹脂吹付装置を使用して)すればよい。また、発泡合成樹脂成形品10は、埋め込み部材を埋め込むための埋め込み部が予め設けられた発泡合成樹脂成形品本体を製造し、その後埋め込み部に埋め込み部材を埋め込んで形成するようにしてもよい。
【0022】
発泡合成樹脂成形品10としては、座席に設ける背もたれ部であるシートバック、座席に設ける着座部であるシートクッションなどの車両用内装部材の基材に使用するためのものがある。本実施形態では、発泡合成樹脂成形品10として、シートクッションを例に挙げて説明する。このシートクッション10は、
図1Aに示すように、略方形状に形成されており、
図1Bに示すように、所定の厚みを有している。このシートクッション10は、金型20を使用して成形されている。
【0023】
発泡合成樹脂成形品10は、発泡合成樹脂原料を発泡させて形成されている。発泡合成樹脂成形品10は、内部に細かな気泡を保留させた多孔質の合成樹脂製(発泡合成樹脂製)であり、合成樹脂を骨格とする発泡体である。発泡合成樹脂には、ポリウレタンから作られるウレタンフォーム(ポリウレタンフォーム)を用いることができる。ウレタンフォームは、軟質ポリウレタンフォームでもよく、硬質ポリウレタンフォームでもよく、半硬質ポリウレタンフォームでもよい。発泡合成樹脂としては、ポリエチレンフォーム、EVAフォーム、メラミン樹脂フォーム等の発泡合成樹脂を用いることができる。ポリエチレンフォームは、ポリエチレンから作られ、EVAフォームは、エチレン酢酸ビニル共重合体(Ethylene vinyl acetate)から作られる。メラミン樹脂フォームは、メラミンとホルムアルデヒドとの重縮合により製造される合成樹脂から作られる。
【0024】
例えば、ウレタンフォーム原料は、ポリオール、ポリイソシアネート、発泡剤及び触媒等を含み、ポリオールとポリイソシアネートの反応により発泡する公知のものであり、密度40kg/m3~95kg/m3のウレタンフォームを形成するものが好ましい。
【0025】
前述した、最終生成物である発泡合成樹脂成形品(シートクッション)10の製造工程の途中において、中間生成物である発泡合成樹脂製の中間成形品15が形成される。すなわち、中間成形品15が加工されて、最終的に発泡合成樹脂成形品10が形成される。中間成形品15は、
図2A及び
図2Bに示すように、本体11(最終的に発泡合成樹脂成形品10となる)と、突出部12と、を備えている。突出部12は本体11から外側に向けて突出して設けられている。突出部12は、発泡合成樹脂成形品10から突出して形成された発泡合成樹脂製の部分である。よって、中間成形品15から突出部12が切り離されることにより、最終的に発泡合成樹脂成形品10が形成される。
【0026】
さらに、突出部12は、発泡合成樹脂を膨潤させる液体(以下、膨潤液と称する場合がある。)を受けることが可能である凹部13が形成されている。これにより、凹部13は、膨潤液を確実に受けることが可能となり、凹部13が受けた膨潤液を突出部12に確実に投与する(浸潤(含浸)させる)ことが可能となる。具体的には、凹部13は、上方に向けて開口するように形成されるのが好ましい。これにより、膨潤液を容易に凹部13ひいては突出部12に供給することが可能となる。また、凹部13は、膨潤液が所定量だけ貯留できるように形成されるのが好ましい。これにより、貯留可能な液量以下の液量である所定量の膨潤液を凹部13に供給するだけで、膨潤液が本体11に達するのを確実に抑制することが可能となり、突出部12を十分に膨潤させることが可能となる。また、突出部12は、略板状(断面略方形状)であるのが好ましい。これにより、膨潤液が厚み方向に早期かつ均等に浸潤することが可能となる。また、突出部12は、本体11の周囲に部分的に1または複数設けられており、後述される金型20の突出部形成部23に対応してそれぞれ形成される。
【0027】
さらに、中間成形品15には、突出部12を切り離すための溝部14を設けるようにしてもよい(
図13参照)。溝部14は、突出部12の基端部に形成されるのが好ましく、溝部14が設けられている突出部12の厚みは、溝部14が設けられていない突出部12の厚みより薄くなるようになっている。これにより、膨潤液が、溝部14が設けられた肉薄部を通過して本体11に浸潤するのを抑制することが可能となる。その結果、溝部14より先端側の突出部12のみを膨潤させ、溝部14に沿って突出部12を的確かつ容易に切り離すことが可能となる。
【0028】
(発泡合成樹脂成形品の製造方法(製造工程))
次に、上述した発泡合成樹脂成形品10の製造方法(製造工程)について、
図3~
図10を参照して説明する。本実施形態では、金型20を使用して製造する場合について説明する。発泡合成樹脂成形品10の製造方法(製造工程、成形工程)は、ウレタンフォーム原料注入工程(
図3)、発泡工程(
図4,
図5)、塗布工程(
図6~
図8)、脱型工程(
図9)を備えている。金型20は、2以上の分割した型すなわち少なくともキャビティ(凹型)21とコア(凸型)22とを有している。
【0029】
(ウレタンフォーム原料注入工程)
ウレタンフォーム原料注入工程では、ウレタンフォーム原料(発泡合成樹脂原料)10aが、金型20(本実施形態では、キャビティ21)内に所要量だけ注入される(
図3参照)。ウレタンフォーム原料10aの注入量は、発泡により形成するウレタンフォームの密度が所定密度(例えば、40kg/m
3~95kg/m
3)となる量とするのが好ましい。金型20(本実施形態では、コア22)を開けた状態でウレタンフォーム原料10aを金型20内に注入した後、キャビティ21とコア22とを閉型する(
図4参照)。尚、原料注入口(図示せず)が金型20に形成されている場合、金型20を閉じた状態で原料注入口からウレタンフォーム原料10aを金型20内に注入することで成形できる。
【0030】
(発泡工程)
発泡工程では、金型20内でウレタンフォーム原料10aを反応の進行により発泡させて中間成形品15を成形する。ウレタンフォーム原料10aは、キャビティ21とコア22との間の空間20aで発泡し空間20aを満たし、中間成形品15の本体11が形成される。さらに発泡したウレタンフォーム原料10aは、キャビティ21とコア22との間に形成された突出部形成部23内に進入し突出部形成部23を満たし、中間成形品15の突出部12が形成される。尚、突出部形成部23は、空間20a内の気体を外部に逃がすための空気抜け用流路、金型21,22同士の境目、原料注入口などに設けるのが好ましい。また、前述した発泡工程は、金型20を使用して中間成形品15の本体11すなわち発泡合成樹脂成形品10を成形する成形工程であると言える。
【0031】
(塗布工程)
次に、突出部12に発泡合成樹脂を膨潤させる液体である膨潤液を塗布して膨潤させる塗布工程を行う(
図7参照)。膨潤液は、発泡合成樹脂に形成された多数の孔に浸入することにより発泡合成樹脂を膨潤させる。膨潤液は、発泡合成樹脂を形成する極性のある分子結合と同様に極性のある溶媒であることが好ましく、極性を有する膨潤液が、発泡合成樹脂の極性のある分子結合と引き合うため、発泡合成樹脂に形成された多数の孔に浸入する。
【0032】
本実施形態では、発泡合成樹脂は、ポリウレタン製であるので、ウレタン結合(-NH・CO・O-)を有する。膨潤液は、このウレタン結合と引き合う極性を有することが好ましく、例えば、エタノールを採用している。エタノールは、CH3CH2OHで示され、極性を有するヒドロキシ基(R-OH)を有しており、全体としても極性を有する。尚、水(H2O)も極性を有するが、親水性が高く非親水性が低いため、発泡合成樹脂を膨潤しない。膨潤液は、親水性が低く非親水性が高い溶剤が好ましく、例えば、リモネン(単環式のモノテルペンである。)、リモネンを含むオレンジ油、リモネン以外のモノテルペンなどを採用するようにしてもよい。リモネンは、CH3-C6H8-C(CH3)=CH2で示され、全体としても極性を有し、非親水性が高い。モノテルペンは、テルペンの分類の1つで、2つのイソプレン単位を含んでおり、C10H16の分子式を持つものである。モノテルペンは、線形(非環式)のものと環式のものがある。リモネン以外のモノテルペンとしては、ゲラニル二リン酸、シネオール、ピネンなどが挙げられる。
【0033】
本実施形態では、膨潤液の塗布方法は、スプレー式塗布を採用する。スプレー式塗布は、スプレー装置50(塗布装置)により実施される。スプレー装置50は、貯蔵タンクの膨潤液をノズル51から噴射することができる。ノズル51は、指向性が高く所望の範囲に精度よく膨潤液を噴射することができる。さらに、ノズル51からは、所望量の膨潤液を精度よく噴射することができる。尚、指向性の低いノズルを使用することも可能であり、この場合は、所望の範囲を覆うことができるカバーを採用するのが好ましい。また、塗布方法としては、はけ、ブラシなどで塗布したり、注入器(注射器)を使用して注入して塗布したり、浸漬して塗布したり、静電塗装で塗布したり、他の塗布方法を採用することができる。
【0034】
尚、中間成形品15の本体11および突出部12の硬さ(硬度)は、ILD25%50~150N(ニュートン)であり、膨潤させた突出部12の硬さは、ILD25%30~100N(ニュートン)である。硬さは、JIS K6400-2(軟質発泡材料―物理特性―第2部:硬さ及び圧縮応力―ひずみ特性の求め方)の6.7「D法(25%定圧縮して20秒後の力を求める方法)」に規定する硬さ試験によって測定することができる。
【0035】
塗布工程においては、中間成形品15の本体11すなわち発泡合成樹脂成形品10を金型20(部材)に配置した状態にて膨潤液を塗布することが好ましい。具体的には、塗布工程において、中間成形品15の本体11すなわち発泡合成樹脂成形品10を内部に配置可能である金型20(部材)の壁面に、突出部12を接触させた状態にて膨潤液を塗布することがより好ましい。
【0036】
塗布工程においては、
図6に示すように、コア22が開けられ、金型20が開状態となる(開型)。その後、
図7に示すように、上述した所定量の膨潤液がノズル51から凹部13に供給(噴射)される。凹部13内に貯留された膨潤液は突出部12に含浸し、突出部12は膨潤液により膨潤される(
図8参照)。膨潤した突出部12は、本体11と比較して柔らかく脆くなっている。
【0037】
前述した塗布工程は、金型20を使用して中間成形品15の本体11すなわち発泡合成樹脂成形品10を成形する成形工程である発泡工程の後に実施されることが好ましい。尚、金型20は、塗布工程において、膨潤液を塗布するために、中間成形品15の本体11すなわち発泡合成樹脂成形品10を配置する部材である。尚、該部材は、その内部または外部を問わず発泡合成樹脂成形品10を配置することができる。本実施形態では、部材の一実施形態として金型20を採用するようにしたが、これに限定されず、膨潤液を塗布するために、中間成形品15の本体11すなわち発泡合成樹脂成形品10を配置する容器であれば、部材として採用することができる。
【0038】
(脱型工程)
そして、脱型工程においては、中間成形品15の本体11すなわち発泡合成樹脂成形品10を取り出す。このとき、発泡合成樹脂成形品10を吸着装置60によって吸着することにより把持してもよいし、把持装置70によって把持してもよい。例えば、吸着装置60は負圧式(真空式)であり、把持装置70はロボットハンド式であり、吸着装置60も把持装置70もロボット(ロボットアーム)の先端部に取付可能なエンドエフェクタ部であるのが好ましい。尚、エンドエフェクタ部を使用しないで、金型20(キャビティ21)を上下逆さまにしてキャビティ21の開口を下向きにして中間成形品15の本体11を自重により落とすようにしてもよい。
【0039】
本体11を取り出す際に、本体11はキャビティ21から離れるが、突出部12の一部はキャビティ21の壁面に接着する可能性が高く(
図9にて破線で示す。)、さらに、本体11をキャビティ21から遠ざけると、膨潤して脆くなった突出部12を本体11から切り離すことが可能となる。このとき、溝部14は、突出部12を本体11から切り離すのをより容易にするために機能する。すなわち、突出部12は、溝部14にて本体11から切り離すことが容易となる。尚、切り離された突出部12は、キャビティ21の壁面に接着したままか、あるいは本体11の取り出しに伴う移動中に切り離され、キャビティ21内などに落下する。
【0040】
また、本体11を取り出す際に突出部12が本体11から切り離されなかった場合には、本体11を取り出した後、突出部12を本体11から切り離せばよい。このとき、突出部12は脆くなっているので、エアブローで吹き飛ばしたり、作業者が手動でまたは工具を使用して容易に引きちぎったりすることが可能である。また、ロボットアームのエンドエフェクタ部としてロボットハンドを装着したロボットを使用して、突出部12を本体11から上記の方法を用いて切り離すようにしてもよい。
【0041】
(発泡合成樹脂成形品の製造装置)
さらに、上述した発泡合成樹脂成形品10の製造装置30について、
図10~
図12を参照して説明する。製造装置30は、発泡合成樹脂成形品10を製造する製造装置であり、金型20及びロボット40を備えている。ロボット40には、エンドエフェクタとして、塗布装置50、吸着装置60、把持装置70が脱着可能に取り付け(装着)可能である。
【0042】
金型20は、上述したように、キャビティ21とコア22とを有している。金型20は、突出部形成部23を有している(
図4参照)。金型20は、溝部14を形成するための溝部形成部24を有している(
図13参照)。溝部形成部24は、突出部形成部23に設けられている。本実施形態では、溝部形成部24は、キャビティ21の壁面に凸設するようにしたが、コア22の壁面に凸設するようにしてもよい。
【0043】
ロボット40は、
図10に示すように、いわゆる多関節ロボットであり、6軸の駆動軸を有する垂直多関節ロボットである。ロボット40は、複数の駆動軸(またはアーム)が直列に並んでいる、いわゆるシリアルリンク型のロボットアームである。ロボット40は、先端部に取り付けられたエンドエフェクタを所望の位置・角度に作動させる。
図10においては、エンドエフェクタとして塗布装置50が取り付けられている。尚、ロボット40は、垂直多関節ロボットに限定されず、水平多関節ロボット、直交ロボット、パラレルリンクロボット(スカラロボット)などを採用してもよい。
【0044】
塗布装置50は、上述した塗布工程にて使用されるのに好適な装置である。塗布装置50は、発泡合成樹脂成形品10から突出して形成された発泡合成樹脂製の突出部12に、発泡合成樹脂を膨潤させる液体を塗布する塗布部である。塗布装置50は、例えば、スプレー装置を採用することができる。塗布装置50は、
図10に示すように、膨潤液を噴射するノズル51、及び膨潤液を貯蔵する貯蔵タンク(不図示)からの膨潤液をノズル51に圧送する圧送部(不図示)を有する本体52を備えている。
【0045】
塗布装置50の作動について説明する。塗布装置50は、ロボット40により原位置から所定の塗布位置に移動される。圧送部が駆動されて、貯蔵タンク内の膨潤液がノズル51から噴射される。ノズル51は指向性が高いため、所望の塗布範囲すなわち突出部12特に凹部13に精度よく膨潤液を所定量だけ噴射することができる。これにより、突出部12を膨潤させることができる。その後、塗布装置50は、ロボット40により所定の塗布位置から原位置に移動される。
【0046】
吸着装置60は、上述した脱型工程にて使用されるのに好適な装置である。吸着装置60は、
図11に示すように、吸着対象物(本実施形態では、中間成形品15の本体11ひいては発泡合成樹脂成形品10)を吸着する吸着部61、及び負圧部(不図示)を有する本体62を備えている。
【0047】
吸着装置60の作動について説明する。吸着装置60は、ロボット40により原位置から所定の吸着位置(吸着部61が本体11に接触する位置)に移動される。吸着位置に移動された吸着装置60の負圧部が駆動されて、吸着部は本体11に吸着して、本体11を掴む。その後、吸着装置60は、本体11を吸着したまま、ロボット40により所定の移動先に移動される。
【0048】
把持装置70は、上述した脱型工程にて使用されるのに好適な装置である。把持装置70は、
図12に示すように、把持対象物(本実施形態では、中間成形品15の本体11や本体11に残存する突出部12である。)を挟んで掴む一対の爪71,71、及び一対の爪71,71を駆動させる駆動部(不図示)を有する本体72を備えている。
【0049】
把持装置70の作動について説明する。把持装置70は、ロボット40により原位置から所定の把持位置に移動される。尚、駆動部が駆動されて、一対の爪71,71は開状態(
図12にて実線で示す。)となっている。把持位置に移動された把持装置70の駆動部が駆動されて、開状態の一対の爪71,71は閉状態とされ、把持対象物を挟んで掴む。その後、把持装置70は、把持対象物を挟んだまま、ロボット40により所定の移動先に移動される。
【0050】
尚、上述した製造装置30は、ロボット40に、塗布装置50及び吸着装置60または把持装置70をそれぞれ装着した態様であったが、これに限定されず、塗布装置50及び吸着装置60または把持装置70をそれぞれ単独に設置するような態様としてもよい。また、上述した実施形態では、塗布装置50及び吸着装置60または把持装置70をそれぞれ別のロボット40に装着したが、1つのロボット40にまとめて装着するようにしてもよい。
【0051】
(実施形態の作用・効果)
上述した実施形態に係る発泡合成樹脂成形品10の製造方法は、発泡合成樹脂成形品10から突出して形成された発泡合成樹脂製の突出部12に、発泡合成樹脂を膨潤させる液体を塗布する塗布工程を備えている。
【0052】
この発泡合成樹脂成形品10の製造方法によれば、発泡合成樹脂成形品10の突出部12が不要部である場合、塗布工程において、発泡合成樹脂成形品10の突出部12に、発泡合成樹脂を膨潤させる液体を塗布して膨潤させるので、膨潤した突出部12すなわち不要部を容易に取り除くことが可能となる。よって、発泡合成樹脂成形品10の不要部を容易に削除することができる発泡合成樹脂成形品10の製造方法を提供することが可能となる。
【0053】
また、発泡合成樹脂成形品10の製造方法においては、塗布工程において、発泡合成樹脂成形品10を部材に配置した状態にて前記液体(膨潤液)を塗布することが好ましい。これによれば、発泡合成樹脂成形品10の突出部12に前記液体を適切に塗布することが可能となる。
【0054】
また、発泡合成樹脂成形品10の製造方法においては、塗布工程において、発泡合成樹脂成形品10を配置可能である前記部材の壁面に、突出部12を接触させた状態にて前記液体を塗布することが好ましい。これによれば、突出部12を部材の壁面によって確実に支持させることが可能となり、部材の壁面に支持された突出部12に、前記液体をより適切に塗布することが可能となる。
【0055】
また、発泡合成樹脂成形品10の製造方法においては、前記部材は、発泡合成樹脂成形品10を成形するための金型20であり、塗布工程は、金型20を使用して発泡合成樹脂成形品10を成形する成形工程の後に実施されることが好ましい。これによれば、金型20を使用して発泡合成樹脂成形品10を成形する従来の製造設備をそのまま活用して、塗布工程を追加することが可能となる。
【0056】
また、発泡合成樹脂成形品10の製造方法においては、突出部12は、前記液体を受けることが可能である凹部13が形成されることが好ましい。これによれば、凹部13が、発泡合成樹脂を膨潤させる液体を確実に受けることが可能となり、突出部12に確実に投与することが可能となる。
【0057】
また、発泡合成樹脂成形品10の製造方法においては、突出部12を切り離すための溝部14をさらに備えることが好ましい。これによれば、溝部14により突出部12を確実に切り離すことが可能となる。
【0058】
また、発泡合成樹脂成形品10の製造方法においては、塗布工程において前記液体をスプレーにより塗布することが好ましい。これによれば、発泡合成樹脂を膨潤させる液体を、所望範囲に適切かつ確実に塗布することが可能となる。さらには、スプレーする液体の供給量を制御することで、発泡合成樹脂を膨潤させる液体の塗布量を確実に制御することが可能となり、所望量にて適切かつ確実に塗布することが可能となる。
【0059】
また、発泡合成樹脂成形品10の製造装置30は、発泡合成樹脂成形品10から突出して形成された発泡合成樹脂製の突出部12に、発泡合成樹脂を膨潤させる液体を塗布する塗布部(塗布装置)50を備えている。
【0060】
この発泡合成樹脂成形品10の製造装置30によれば、発泡合成樹脂成形品10の突出部12が不要部である場合、塗布装置50は、発泡合成樹脂成形品10の突出部12に、発泡合成樹脂を膨潤させる液体を塗布して膨潤させるので、膨潤した突出部12すなわち不要部を容易に取り除くことが可能となる。よって、発泡合成樹脂成形品10の不要部を容易に削除することができる発泡合成樹脂成形品10の製造装置30を提供することが可能となる。
【0061】
また、発泡合成樹脂成形品10の製造装置30においては、突出部12を切り離すための溝部14を形成するための溝部形成部24をさらに備えることが好ましい。これによれば、溝部形成部24によって、確実かつ簡便に溝部14を形成することが可能となり、ひいては溝部14によって突出部12を確実に切り離すことが可能となる。
【0062】
尚、上述した実施形態においては、突出部12は本体11から斜め上方に向けて延ばして設けるようにしたが、
図14に示すように、水平方向に向けて延設される突出部112を設けるようにしてもよい。この場合、突出部112の上面に上向きに凹設された凹部113を設けるようにすればよい。
【0063】
また、上述した実施形態においては、発泡合成樹脂成形品10は埋め込み部材を有していない成形品であったが、発泡合成樹脂成形品は、埋め込み部材と一体化して形成された一体成形品でもよい。一体成形品としては、座席に設ける背もたれの上部の頭もたせであるヘッドレスト、座席の肘掛けであるアームレストなどの車両用内装部材の基材に使用するためのものがある。金型20を使用して発泡合成樹脂成形品を成形する場合には、埋め込み部材は、金型20内に装填され、その後発泡合成樹脂成形品が成型される際に一体成形される。
【0064】
尚、上述した実施形態において、突出部12を、本体11の周囲に部分的に1または複数設けるようにしたが、
図15に示すように、突出部112を、本体111の全周に設けるようにしてもよい。この場合、中間成形品115は、本体111(最終的に発泡合成樹脂成形品10となる)と、突出部112と、を備えている。突出部112は、発泡合成樹脂成形品10から突出して形成された発泡合成樹脂製の部分である。よって、中間成形品115から突出部112が切り離されることにより、最終的に発泡合成樹脂成形品10が形成される。さらに、突出部112は、突出部12と同様に、膨潤液を受けることが可能である凹部113(凹部13と同様である。)が形成されている。凹部113は、突出部12の全周に沿って設けられている。
【符号の説明】
【0065】
10…発泡合成樹脂成形品、12…突出部、13…凹部、14…溝部、20…金型(部材)、24…溝部形成部、30…発泡合成樹脂成形品の製造装置、50…塗布装置(塗布部)。