(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098148
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】コイル部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/10 20060101AFI20230703BHJP
H01F 27/29 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
H01F41/10 C
H01F27/29 123
H01F27/29 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214723
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】三澤 剛志
【テーマコード(参考)】
5E062
5E070
【Fターム(参考)】
5E062FG15
5E070BA03
5E070EA01
5E070EB03
(57)【要約】
【課題】電気抵抗および製造コストの増加を抑えつつ、金属膜の表面の変質を抑制すること。
【解決手段】コイル部品100の製造方法は、基体10を準備する工程と、基体10の表面に第1金属膜32a、32bを形成する工程と、第1金属膜32a、32bの表面に有機物層34a、34bを形成する工程と、基体10に導体からなるコイル部42を形成する工程と、第1金属膜32a、32bの表面から有機物層34a、34bを取り除く工程と、第1金属膜32a、32bの表面に第2金属膜62a、62bを接合させ外部電極60a、60bを形成する工程とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体を準備する工程と、
前記基体の表面に第1金属膜を形成する工程と、
前記第1金属膜の表面に有機物層を形成する工程と、
前記基体に導体からなるコイル部を形成する工程と、
前記第1金属膜の表面から前記有機物層を取り除く工程と、
前記第1金属膜の表面に第2金属膜を接合させ外部電極を形成する工程と、を備えるコイル部品の製造方法。
【請求項2】
前記有機物層は、200℃未満の温度により分解される性質を有する、請求項1に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項3】
前記有機物層は、ウレタンまたはフラックスからなる、請求項1または2に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項4】
前記有機物層は、塗布または飛散により形成される、請求項1から3のいずれか一項に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項5】
前記コイル部から絶縁被膜で覆われた前記導体の端部を前記第1金属膜上に引き出す工程を備え、
前記有機物層は、前記絶縁被膜で覆われた前記導体の端部にレーザを照射して前記絶縁被膜を飛散させることで前記第1金属膜の表面に形成される、請求項4に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項6】
前記有機物層は、前記第1金属膜の面積に対し70%以上の面積を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項7】
前記有機物層を取り除く工程と前記外部電極を形成する工程とは、ひとつの工程で行われる、請求項1から6のいずれか一項に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項8】
前記第2金属膜は、200℃以上の温度に加熱されることで前記第1金属膜の表面に接合される、請求項2に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項9】
前記第2金属膜は、はんだからなる、請求項8に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項10】
前記第1金属膜は、銅層または銀層を含んで形成される、請求項1から9のいずれか一項に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項11】
前記コイル部は、前記外部電極と電気的に接続する、請求項1から10のいずれか一項に記載のコイル部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コイル部品は、様々な環境下で製造されるようになっている。このため、外部電極を形成するための金属層の表面が環境の影響を受けて変質してしまうことがある。金属層をAg-Pt合金層またはAg-Pd合金層とすることで、耐硫化性を高めることができ、コイル部品を大気中で長時間保管した場合でも金属層の表面の硫化を抑制できることが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のように、Ag-PtまたはAg-Pdの合金を用いた場合では、表面の変質を抑制できたとしても、電気抵抗が高くなりかつ製造コストも高くなってしまう。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、電気抵抗および製造コストの増加を抑えつつ、金属膜の表面の変質を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基体を準備する工程と、前記基体の表面に第1金属膜を形成する工程と、前記第1金属膜の表面に有機物層を形成する工程と、前記基体に導体からなるコイル部を形成する工程と、前記第1金属膜の表面から前記有機物層を取り除く工程と、前記第1金属膜の表面に第2金属膜を接合させ外部電極を形成する工程と、を備えるコイル部品の製造方法である。
【0007】
上記構成において、前記有機物層は、200℃未満の温度により分解される性質を有する構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記有機物層は、ウレタンまたはフラックスからなる構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記有機物層は、塗布または飛散により形成される構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記コイル部から絶縁被膜で覆われた前記導体の端部を前記第1金属膜上に引き出す工程を備え、前記有機物層は、前記絶縁被膜で覆われた前記導体の端部にレーザを照射して前記絶縁被膜を飛散させることで前記第1金属膜の表面に形成される構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記有機物層は、前記第1金属膜の面積に対し70%以上の面積を有する構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記有機物層を取り除く工程と前記外部電極を形成する工程とは、ひとつの工程で行われる構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記第2金属膜は、200℃以上の温度に加熱されることで前記第1金属膜の表面に接合される構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記第2金属膜は、はんだからなる構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記第1金属膜は、銅層または銀層を含んで形成される構成とすることができる。
【0016】
上記構成において、前記コイル部は、前記外部電極と電気的に接続する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電気抵抗および製造コストの増加を抑えつつ、第1金属膜の表面の変質を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1(a)から
図1(f)は、第1の実施形態に係るコイル部品の製造方法を示す側面図である。
【
図2】
図2(a)から
図2(f)は、第1の実施形態に係るコイル部品の製造方法を示す平面図である。
【
図3】
図3(a)から
図3(f)は、第2の実施形態に係るコイル部品の製造方法を示す側面図である。
【
図4】
図4(a)から
図4(f)は、第2の実施形態に係るコイル部品の製造方法を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を適宜参照しながら、本願発明の実施形態について説明する。但し、本願発明は図示された態様に限定される訳ではない。また、複数の図面において共通する構成要素には当該複数の図面を通じて同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。
【0020】
[第1の実施形態]
図1(a)から
図1(f)は、第1の実施形態に係るコイル部品100の製造方法を示す側面図である。
図2(a)から
図2(f)は、第1の実施形態に係るコイル部品100の製造方法を示す平面図である。
図1(a)から
図1(f)は、+X側から見たときの側面図であり、
図2(a)から
図2(f)は、-Z側から見たときの平面図である。X軸、Y軸、Z軸は互いに直交している。第1の実施形態では、基体10としてドラムコアの場合を一例として示すが、鍔部を一方にしか有さないTコアの場合等、その他の場合でもよい。なお、
図1(a)から
図1(f)において、図の明瞭化のために、構成部材にハッチングを付している(以下の同様な図においても同じ)。
図2(b)から
図2(f)においても、図の明瞭化のために、一部の構成部材にハッチングを付している(以下の同様な図においても同じ)。また、
図1(e)および
図1(f)において、外装部50を透視してコイル部42および引出部44a、44bを図示し、
図1(f)および
図2(f)において、第2金属膜62a、62bを透視して導線40の端部41a、41bを図示している。また、
図2(a)から
図2(c)において、鍔部14を透視して軸部12を図示し、
図2(d)において、鍔部14を透視して軸部12とコイル部42を図示し、
図2(e)および
図2(f)において、鍔部14を透視して軸部12とコイル部42と外装部50を図示している。コイル部品は、電源ラインに組み込まれるパワーインダクタであってもよいし、信号ラインにおいて用いられるインダクタであってもよいし、その他であってもよい。
【0021】
図1(a)および
図2(a)に示すように、Z軸方向に伸びた軸部12と、軸部12の-Z側の端に設けられた一方の鍔部14と、軸部12の+Z側の端に設けられた他方の鍔部16と、を有するドラムコアである基体10を準備する。なお、一方の鍔部14と他方の鍔部16は、Z軸方向において、逆に設けられてもよい。以降においては基板に実装される場合の基板に近い側の一方の鍔部14を中心に説明を行う。鍔部14の外形は、例えば他方の鍔部16の外形より大きい。なお、鍔部14の外形は、他方の鍔部16の外形と略同じ大きさの場合でもよいし、他方の鍔部16の外形より小さい場合でもよい。また、鍔部14の厚みは、他方の鍔部16の厚みと同じ厚みでもよく、異なる厚みでもよい。鍔部14は、軸部12側の第1面18と、軸部12と反対側の第2面20と、を有する。鍔部14の第2面20に、例えば2つの溝部30a、30bが設けられていてもよい。溝部30aと溝部30bは、互いに略平行に延びて、鍔部14の対向する外周面22および外周面24に開口している。
【0022】
基体10は、例えば磁性粉末と樹脂を混合したペーストを金型のキャビティ内に充填してプレス成形することによって成形体を形成し、この成形体に対して例えば150℃程度の熱処理を行って樹脂を固めることで形成される。磁性粉末は、例えばフェライト磁性粉末または金属磁性粉末が用いられる。フェライト磁性粉末としては、例えばNi-Zn系またはMn-Zn系等のフェライト材料が挙げられる。金属磁性粉末としては、例えばFe-Si-Cr系、Fe-Si-Al系、またはFe-Si-Cr-Al系等の軟磁性合金材料、FeまたはNi等の磁性金属材料、アモルファス磁性金属材料、若しくはナノ結晶磁性金属材料等が挙げられる。樹脂は、例えばポリビニルブチラール(PVB)樹脂またはエポキシ樹脂等の絶縁性に優れた樹脂が用いられる。
【0023】
基体10は、大きな塊の成形体を加工することで軸部12と鍔部14、16とを有する成形体とし、この成形体に対して熱処理を行うことで形成してもよい。熱処理は、軸部12と鍔部14、16とを有する成形体に加工する前に行ってもよい。また、基体10は、磁性粉末を樹脂で固めることによって形成する場合に限られず、磁性粉末同士を無機物で結合させることで形成してもよい。この場合、磁性粉末をプレス成形した成形体に対して例えば600℃~1100℃の熱処理を行うことで、基体10を形成する。また、基体10は、磁性体である場合に限られず、酸化アルミニウム(アルミナ)または酸化シリコン(ガラス)等により形成された非磁性体である場合でもよい。
【0024】
軸部12は、例えばXY平面に平行な断面形状が角部に丸みを帯びた略矩形となっている。鍔部14、16は、は、例えばXY平面に平行な断面形状が略矩形であり、例えばZ軸方向に厚みを有する板状である。なお、軸部12は、断面形状が円形、楕円形、略矩形、五角形以上の多角形又はこれらの組み合わせをしていてもよい。軸部12は、Z軸方向に見て、鍔部14、16の外形より小さく、また鍔部14、16の中央付近に設けられる。基体10のX軸方向の長さ寸法LとY軸方向の長さ寸法Wは、等しくてもよいし、等しくなくてもよい。基体10のZ軸方向の長さ寸法Hは、長さ寸法Lおよび長さ寸法Wと同じ長さでも、いずれかより小さくてもよい。
【0025】
図1(b)および
図2(b)に示すように、鍔部14の第2面20に第1金属膜32a、32bを形成する。鍔部14の第2面20に溝部30a、30bが形成されている場合には、第1金属膜32a、32bは溝部30a、30bの内面に形成される。第1金属膜32a、32bは、例えばスパッタリング法または導電性ペーストの塗布によって銅(Cu)または銀(Ag)等の金属層を形成することにより形成する。なお、第1金属膜32a、32bは、金属層の単層の場合に限られず、金属層上にめっき法を用いてめっき層が形成された複数層の場合でもよい。また、第1金属膜32a、32bは、鍔部14との密着性のために、チタン(Ti)またはクロム(Cr)等の密着層を有していてもよい。第1金属膜32a、32bの厚さは、例えば1μm~50μm程度である。
【0026】
図1(c)および
図2(c)に示すように、第1金属膜32a、32bの表面に有機物層34a、34bを形成する。有機物層34a、34bの形成は、例えばディスペンスまたはローラー転写等により有機材料を第1金属膜32a、32bの表面に塗布し、その後、有機材料を乾燥させて硬化させることで行われる。有機物層34a、34bの厚さは例えば1μm~5μmである。有機物層34a、34bは、第1金属膜32a、32bの表面を完全に覆って形成される場合が好ましいが、第1金属膜32a、32bの表面の70%以上を覆って形成されればよい。
【0027】
有機物層34a、34bは、熱や溶剤により取り除くことができる有機材料により形成される。例えば、熱により取り除くような場合、200℃未満の温度により分解される性質を有する有機材料により形成される。一例として、有機物層34a、34bは、ウレタンまたはフラックスにより形成される。フラックスは、ベース樹脂と活性剤と溶剤を含んでいる。ベース樹脂は、例えばアビエチン酸を主成分とするロジンが用いられる。活性剤は、例えば有機酸、アミン類、および/またはハロゲン化合物が用いられる。有機酸としては、例えばグルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ステアリン酸、サリチル酸、および安息香酸等が挙げられる。アミン類としては、例えばジエチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ジフェニルグアニジン、およびシクロヘキシルアミン等が挙げられる。ハロゲン化合物は、ハロゲンとそれより電気陰性度の低い元素との化合物であり、例えばフッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、およびアスタチン化物等が挙げられる。溶剤は、例えば有機溶剤が用いられる。なお、有機物層34a、34bは、ウレタンおよびフラックス以外の有機材料により形成されてもよい。
【0028】
有機物層34a、34bは、第1金属膜32a、32bの表面から取り除かれる。有機物層34a、34bの除去は、例えば、200℃以上の温度に加熱して行われる。有機物層34a、34bの取り除かれた後または同時に第1金属膜32a、32bの表面には、第2金属膜62a、62bが形成され、第1金属膜32a、32bと共に外部電極60を形成する。有機物層34a、34bが取り除かれてから第2金属膜62a、62bが形成されるまでの時間は短い方がよく、第1金属膜32a、32bの表面に大きな変化を生じることなく第2金属膜62a、62bを形成することができる範囲であればよい。例えば、湿度、温度などの環境にもよるが、時間としては、同時または24時間の時間内であれば特に大きく影響することはない。第2金属膜62a、62bは、例えばスパッタリング法または導電性ペーストの塗布によって銅(Cu)、銀(Ag)、またははんだ等の金属層を形成する。第2金属膜62a、62bが導電性ペースト膜である場合、第2金属膜62a、62b上にニッケル(Ni)および/または錫(Sn)等のめっき層を設けてもよい。また、例えば、第2金属膜62a、62bにはんだを用いる場合は、第2金属膜62a、62bの形成時に熱を加えることで同時に有機物層34a、34bを除去することもできる。
【0029】
図1(d)および
図2(d)に示すように、基体10の軸部12に導線40を巻回して導線40からなるコイル部42を形成する。コイル部42の一対の端部から導線40をそれぞれ鍔部14の外周面22より外側に引き出して引出部44a、44bとする。導線40の引出部44a、44bより先端側に位置する端部41a、41bを鍔部14の第2面20に引き出して、有機物層34a、34bを間に挟んで第1金属膜32a、32b上に位置するようにする。第1金属膜32a、32bが溝部30a、30bの内面に形成されている場合には、導線40の端部41a、41bを溝部30a、30b内に引き出して、有機物層34a、34bを間に挟んで第1金属膜32a、32b上に位置するようにする。
【0030】
コイル部42は、導線40が軸部12の周りに1ターン以上巻回されていればよく、軸部12の周りに1層だけ巻回されている場合でもよいし、一部分または全ての部分が複数層に重ねられて巻回されている場合でもよい。なお、コイル部42は、導線40の中央部が初めに巻回され、次に導線40の両端に向かって巻回する、所謂α巻きによって形成されてもよい。
【0031】
導線40は、例えば銅からなる金属線の周面がウレタンからなる絶縁被膜で覆われている。なお、金属線は、銅以外の金属により形成されてもよい。絶縁被膜は、ウレタン以外の絶縁材料で形成されてもよく、例えばポリイミド、ポリアミドイミド、またはポリエステル等の樹脂材料で形成されてもよい。金属線の断面形状は、円形でもよいし、矩形でもよい。
【0032】
図1(e)および
図2(e)に示すように、鍔部14の第1面18上に樹脂材料を塗布して、コイル部42を覆う外装部50を形成する。外装部50は、コイル部42の全てを覆う場合が好ましいが、90%以上覆っていればよく、95%以上覆っている場合がより好ましい。外装部50の形成は、例えば刷毛塗り、ローラー転写、またはディスペンス等により樹脂材料を塗布し、その後、樹脂材料を硬化させることで行われる。樹脂材料の樹脂成分は、絶縁性に優れた熱硬化性樹脂である場合が好ましく、例えばエポキシ樹脂またはポリイミド樹脂が用いられる。なお、樹脂材料は、平均粒径が30μm以下の磁性粒子等の磁性材料のフィラーを含んでいてもよい。例えば、樹脂材料は、磁性材料と樹脂を混合して形成されてもよく、例えば磁性材料としてフェライトが用いられ、樹脂成分としてエポキシ樹脂が用いられてもよい。また、樹脂材料は、シリカ粒子等の非磁性材料のフィラーを含んでいる場合でもよいし、磁性材料と非磁性材料を組み合わせてもよいし、混合して含んでいる場合でもよい。
【0033】
図1(f)および
図2(f)に示すように、有機物層34a、34bの表面を覆うように、例えばディスペンスまたは転写等により第2金属膜62a、62bを塗布する。第2金属膜62a、62bは、例えば錫銀はんだまたは錫銀銅はんだであり、フラックス成分を含有する。その後、第2金属膜62a、62bを融点以上の温度で加熱して溶融させる。例えば、加熱する温度は200℃以上である。有機物層34a、34bが200℃未満の温度で分解される性質を持ち、第2金属膜62a、62bを200℃以上で加熱して溶融させることで、有機物層34a、34bは分解されて除去される。これにより、第1金属膜32a、32bの表面が現れる。また、第2金属膜62a、62bに含まれるフラックス成分が導線40の端部41a、41bにおける絶縁被膜を剥離するため、導線40の端部41a、41bにおいて導線40の金属の金属線が露出する。これにより、第1金属膜32aと第2金属膜62aが導線40の端部41aと接合して、コイル部42に電気的に接続された外部電極60aが形成される。同様に、第1金属膜32bと第2金属膜62bが導線40の端部41bと接合して、コイル部42に電気的に接続された外部電極60bが形成される。以上により、第1の実施形態に係るコイル部品100が形成される。
【0034】
なお、第2金属膜62a、62bを溶融して有機物層34a、34bを分解することで、分解された有機成分は、気化して第2金属膜62a、62bの表面から取り除かれる。また、有機成分の一部は、第2金属膜62a、62bの表面に残り、第2金属膜62a、62b内に取り込まれるものもある。分解された有機成分の一部が第2金属膜62a、62bに取り込まれた場合でも、有機成分が分子状態で第2金属膜62a、62bに取り込まれるため、外部電極60a、60bの電気抵抗の増加等は抑制される。
【0035】
以上のように、本第1の実施形態によれば、
図1(c)および
図2(c)のように、基体10の表面に形成した第1金属膜32a、32bの表面に有機物層34a、34bを形成する。その後、
図1(f)および
図2(f)のように、第1金属膜32a、32bの表面から有機物層34a、34bを取り除き、第1金属膜32a、32bの表面に第2金属膜62a、62bを接合させて外部電極60a、60bを形成する。第1金属膜32a、32bの表面に有機物層34a、34bを形成することで、製造過程において第1金属膜32a、32bが大気に曝される時間が短くなる。このため、第1金属膜32a、32bがどのような材料で形成される場合でも、例えば銅層または銀層を含んで形成される場合でも、第1金属膜32a、32bに銅を用いる場合には表面の酸化することが抑制され、または第1金属膜32a、32bに銀を用いる場合には表面の硫化することが抑制される。よって、第1金属膜32a、32bの電気抵抗の増加および製造コストの増加を抑えつつ、第1金属膜32a、32bの表面の変質を抑制することができる。また、第1金属膜32a、32bの表面から有機物層34a、34bを取り除いて、第1金属膜32a、32bの表面に第2金属膜62a、62bを接合することで、第2金属膜62a、62bは第1金属膜32a、32bの変質が抑制された表面に接合される。よって、第2金属膜62a、62bが第1金属膜32a、32bの表面に強固に接合された外部電極60a、60bを得ることができる。
【0036】
また、本第1の実施形態では、有機物層34a、34bは200℃未満の温度により分解される性質を有する。この場合、有機物層34a、34bを200℃以上の温度に加熱することで、有機物層34a、34bを分解除去することができる。このため、基体10および第1金属膜32a、32bが極めて高い温度に曝されてダメージを受けることを抑制できる。
【0037】
また、本第1の実施形態では、有機物層34a、34bはウレタンまたはフラックスにより形成される。このような有機物層34a、34bは、200℃未満の温度により分解される性質を有する。
【0038】
また、本第1の実施形態では、有機物層34a、34bは塗布により形成される。これにより、第1金属膜32a、32bの所望の場所に有機物層34a、34bを形成することが容易にでき、第1金属膜32a、32bの表面の変質を効果的に抑制することができる。
【0039】
また、本第1の実施形態では、有機物層34a、34bは、第1金属膜32a、32bの表面の面積に対し70%以上の面積を有して形成される。これにより、第1金属膜32a、32bの表面のうち70%以上の領域において変質を抑制することができる。よって、第1金属膜32a、32bの表面のうち70%以上の領域において第2金属膜62a、62bが強固に接合して電気的導通を確保することができる。第1金属膜32a、32bの表面の変質を抑制する点から、有機物層34a、34bは、第1金属膜32a、32bの表面の面積に対し80%以上の面積を有して形成される場合が好ましく、90%以上の面積を有して形成される場合がより好ましく、95%以上の面積を有して形成される場合が更に好ましい。
【0040】
また、本第1の実施形態では、
図1(f)および
図2(f)のように、第1金属膜32a、32bの表面から有機物層34a、34bを取り除くことと、第1金属膜32a、32bの表面に第2金属膜62a、62bを接合して外部電極60a、60bを形成することと、をひとつの工程で行っている。これにより、第1金属膜32a、32bの表面が大気に曝される時間が短くなるため、第1金属膜32a、32bの表面の変質を効果的に抑制することができる。また、製造工程が簡略化されるため、製造工ストの増加を抑制することができる。
【0041】
また、本第1の実施形態では、第2金属膜62a、62bは、200℃以上の温度に加熱されることで第1金属膜32a、32bの表面に接合される。これにより、有機物層34a、34bが200℃未満の温度により分解される性質を有する場合、有機物層34a、34bを取り除くことと、外部電極60a、60bを形成することと、をひとつの工程で行うことができる。このような、200℃以上の温度に加熱されることで第1金属膜32a、32bの表面に接合される第2金属膜62a、62bとして、例えば銀錫はんだまたは銀錫銅はんだ等のはんだを用いることができる。第2金属膜62a、62bがはんだである場合、第2金属膜62a、62bは変質が抑制された第1金属膜32a、32bの表面に形成されることから、良好なはんだ濡れ性を得ることができる。
【0042】
[第2の実施形態]
図3(a)から
図3(f)は、第2の実施形態に係るコイル部品200の製造方法を示す側面図である。
図4(a)から
図4(f)は、第2の実施形態に係るコイル部品200の製造方法を示す平面図である。
図3(a)から
図3(f)は、+X側から見たときの側面図であり、
図4(a)から
図4(f)は、-Z側から見たときの平面図である。第2の実施形態も、第1の実施形態と同様に、基体10としてドラムコアの場合を一例として示すが、Tコアの場合等、その他の場合でもよい。
【0043】
図3(a)および
図4(a)は、第1の実施形態における
図1(a)および
図2(a)と同じであり、
図3(b)および
図4(b)は、第1の実施形態における
図1(b)および
図2(b)と同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0044】
図3(c)および
図4(c)に示すように、基体10の軸部12に導線40を巻回して導線40からなるコイル部42を形成する。コイル部42の一対の端部から導線40をそれぞれ鍔部14の外周面22より外側に引き出して引出部44a、44bとし、導線40の引出部44a、44bより先端側に位置する端部41a、41bを鍔部14の第2面20に引き出して第1金属膜32a、32b上に位置するようにする。このとき、第1の実施形態とは異なり、第1金属膜32a、32bの表面に有機物層34a、34bは形成されていない。
【0045】
図3(d)および
図4(d)に示すように、鍔部14の第2面20において、導線40の端部41a、41bに向けてレーザを照射する。これにより、導線40の端部41a、41bにおける絶縁被膜が、主にレーザが照射された側とは反対側から鍔部14の第2面20に向かって飛散して、第1金属膜32a、32bの表面に付着する。これにより、第1金属膜32a、32bの表面に、導線40の絶縁被膜からなる有機物層34a、34bが形成される。有機物層34a、34bが第1金属膜32a、32bの表面の70%以上を覆って形成されるように、第1金属膜32a、32bの長さに対する導線40の端部41a、41bの長さの比率は、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましい。
【0046】
図3(e)および
図4(e)に示すように、鍔部14の第1面18上にコイル部42を覆う外装部50を形成するが、これは第1の実施形態における
図1(e)および
図2(e)と同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0047】
図3(f)および
図4(f)に示すように、有機物層34a、34bの表面を覆うように第2金属膜62a、62bを塗布して外部電極60a、60bを形成するが、これは第1の実施形態における
図1(f)および
図2(f)と同じであるため、ここでは説明を省略する。以上により、第2の実施形態に係るコイル部品200が形成される。
【0048】
本第2の実施形態においても、上記第1の実施形態と同じく、
図3(d)および
図4(d)のように、基体10の表面に形成した第1金属膜32a、32bの表面に有機物層34a、34bを形成する。その後、
図3(f)および
図4(f)のように、第1金属膜32a、32bの表面から有機物層34a、34bを取り除き、第1金属膜32a、32bの表面に第2金属膜62a、62bを接合させて外部電極60a、60bを形成する。これにより、第1金属膜32a、32bの電気抵抗の増加および製造コストの増加を抑えつつ、第1金属膜32a、32bの表面の変質を抑制することができる。また、第2金属膜62a、62bが第1金属膜32a、32bの表面に強固に接合された外部電極60a、60bを得ることができる。本第2の実施形態は、コイル部42を形成してから外部電極60a、60bを形成するまでの時間が長い場合や、第1金属膜32a、32bの表面に酸化や硫化等の変質が起こり易い環境下にある場合に有効である。
【0049】
また、本第2の実施形態では、有機物層34a、34bは飛散により形成される。例えば、有機物層34a、34bは、絶縁被膜で覆われた導線40の端部41a、41bにレーザを照射して絶縁被膜を飛散させることで第1金属膜32a、32bの表面に形成される。このように、有機物層34a、34bを飛散により形成することで、有機物層34a、34bを塗布により形成する場合に比べて製造コストを抑えることができる。
【0050】
なお、上記第1の実施形態および上記第2の実施形態において、第1金属膜32a、32bの表面から有機物層34a、34bを取り除くことと、第1金属膜32a、32bの表面に第2金属膜62a、62bを接合することと、をひとつの工程で行う場合を例に示したが、この場合に限られない。第1金属膜32a、32bの表面から有機物層34a、34bを取り除く工程を行った後に、有機物層34a、34bが取り除かれた第1金属膜32a、32bの表面に第2金属膜62a、62bを接合させて外部電極60a、60bを形成する工程を行ってもよい。この場合、有機物層34a、34bにレーザを照射することで、第1金属膜32a、32bの表面から有機物層34a、34bを取り除いてもよいし、その他の方法によって有機物層34a、34bを取り除いてもよい。
【0051】
なお、上記第1の実施形態および上記第2の実施形態において、第1金属膜32a、32bの表面に形成された有機物層34a、34bは全て取り除くことが好ましいが、90%以上を取り除く場合でもよい。有機物層34a、34bが少し残存していても、第1金属膜32a、32bと第2金属膜62a、62bとの間の適切な接合強度および電気的導通を得ることができる。
【0052】
なお、上記第1の実施形態および上記第2の実施形態において、第1金属膜32a、32bと第2金属膜62a、62bと導線40の端部41a、41bとの間の電気的導通を確保する点から、有機物層34a、34bは第1金属膜32a、32bの表面のうち少なくとも導線40の端部41a、41bの周りに設けられることが好ましい。
【0053】
なお、上記第1の実施形態および上記第2の実施形態において、外装部50は形成しない場合でもよい。また、外装部50の形成と外部電極60a、60bの形成の順序は反対の場合でもよい。
【0054】
なお、上記第1の実施形態および上記第2の実施形態では、基体10の表面に導線40が巻回されてコイル部42が形成されたコイル部品を例に示したが、基体10にコイル部42が内蔵されたコイル部品等、巻線、積層、薄膜等のいずれのコイル部品であってもよい。
【実施例0055】
以下、本願発明を実施例および比較例によって具体的に説明するが、本願発明はこれらの実施例に記載された態様に限定される訳ではない。
【0056】
[実施例1]
実施例1のコイル部品は、上記第1の実施形態の製造方法により作製した。具体的には、基体10としてNi-Znフェライトにより形成されたドラムコアを用いた。鍔部14の第2面20に形成された溝部30a、30bの内面に銀ペーストを塗布することで、銀膜である第1金属膜32a、32bを形成した。第1金属膜32a、32bの表面全体にフラックスを塗布し乾燥させることで、フラックスからなる有機物層34a、34bを形成した。フラックスは、ロジン、有機溶剤、活性剤を含むものを用いた。有機物層34a、34bの厚みは2μmであった。基体10の軸部12にウレタンで被覆された銅線からなる導線40を巻回してコイル部42を形成し、コイル部42の一対の端部から導線40を引き出して、導線40の端部41a、41bを有機物層34a、34bを間に挟んで第1金属膜32a、32b上に位置するようにした。その後、温度が約30℃、湿度が約70%の環境下に3日間放置した。この後、銀錫銅はんだである第2金属膜62a、62bを有機物層34a、34bの表面を覆うように塗布し、280℃の温度に加熱して溶融させることで外部電極60a、60bを形成した。
【0057】
[実施例2]
第1金属膜32a、32bを銅膜とし、有機物層34a、34bをウレタンで形成した点以外は、実施例1と同じ方法により作製した。
【0058】
[実施例3]
有機物層34a、34bをウレタンで形成した点以外は、実施例1と同じ方法により作製した。
【0059】
[実施例4]
有機物層34a、34bを第1金属膜32a、32bの表面の70%を覆って形成し、厚さを3μmとした点以外は、実施例1と同じ方法により作製した。
【0060】
[実施例5]
実施例5のコイル部品は、上記第2の実施形態の製造方法により作製した。具体的には、基体10としてNi-Znフェライトにより形成されたドラムコアを用いた。鍔部14の第2面20に形成された溝部30a、30bの内面に銀ペーストを塗布することで、銀膜である第1金属膜32a、32bを形成した。基体10の軸部12にウレタンで被覆された銅線からなる導線40を巻回してコイル部42を形成し、コイル部42の一対の端部から導線40を引き出して、導線40の端部41a、41bを第1金属膜32a、32b上に位置するようにした。導線40の端部41a、41bにレーザを照射することでウレタンを飛散させ、第1金属膜32a、32bの表面にウレタンからなる有機物層34a、34bを形成した。有機物層34a、34bは、第1金属膜32a、32bの表面の80%を覆って形成され、厚みは約3μmであった。その後、温度が約30℃、湿度が約70%の環境下に3日間放置した。この後、銀錫はんだである第2金属膜62a、62bを有機物層34a、34bの表面を覆うように塗布し、200℃の温度に加熱して溶融させることで外部電極60a、60bを形成した。
【0061】
[比較例]
第1金属膜32a、32bの表面に有機物層34a、34bを形成しなかった点以外は、実施例1と同じ方法により作製した。
【0062】
実施例1から実施例5および比較例のコイル部品を実装基板にはんだを用いて実装した所、実施例1から実施例5では、所望のはんだ接合強度(引き剥がし強度)を得ることができたが、比較例では、はんだ接合強度の低下が見られた。そこで、コイル部品を実装基板から剥がして外部電極60a、60bを観察した所、比較例では、第1金属膜32a、32bの中央部分が第2金属膜62a、62bで覆われてなく露出して見えた。これは、比較例では、第1金属膜32a、32bの表面に有機物層34a、34bを形成していないため、第1金属膜32a、32bの表面が変質(例えば酸化および/または硫化等)し、第1金属膜32a、32bへの第2金属膜62a、62bのはんだ濡れ性が低下したためと考えられる。これにより、比較例では、実装基板への実装後において、はんだ接合強度の低下が見られたと考えられる。
【0063】
一方、実施例1~3では、第1金属膜32a、32bを全く見ることができず、第2金属膜62a、62bは第1金属膜32a、32bの表面全体を覆って形成されていた。これは、実施例1~3では、第1金属膜32a、32bの表面全体を覆って有機物層34a、34bを形成したことで、第1金属膜32a、32bの変質が抑制されたため、第1金属膜32a、32bへの第2金属膜62a、62bのはんだ濡れ性が向上したためと考えられる。これにより、実施例1~実施例3では、実装基板への実装後において、所望のはんだ接合強度が得られたと考えられる。
【0064】
また、実施例4、5では、第1金属膜32a、32bの一部が見えたが、第2金属膜62a、62bが第1金属膜32a、32bの90%を覆っていた。これは、実施例4、5では、有機物層34a、34bを第1金属膜32a、32bの表面の70%または80%を覆って形成したため、第1金属膜32a、32bの有機物層34a、34bで覆われてなかった部分が変質したためと考えられる。しかしながら、第2金属膜62a、62bが第1金属膜32a、32bの90%を覆っていたため、実装基板への実装後において、所望のはんだ接合強度が得られたと考えられる。
【0065】
このように、第1金属膜32a、32bの表面に有機物層34a、34bを形成し、その後、有機物層34a、34bを除去して、第1金属膜32a、32bの表面に第2金属膜62a、62bを接合することで、第1金属膜32a、32bの変質が抑制され、第1金属膜32a、32bへの第2金属膜62a、62bの接合強度の低下を抑制できることが確認された。
【0066】
以上、本願発明の実施形態について詳述したが、本願発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本願発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。