(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009815
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】凍結防止剤
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20230113BHJP
C09K 17/02 20060101ALI20230113BHJP
C09K 17/18 20060101ALI20230113BHJP
C09K 17/50 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
C09K3/00 102
C09K17/02 P
C09K17/18 P
C09K17/50 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021113415
(22)【出願日】2021-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 浩章
(72)【発明者】
【氏名】河原 秀久
【テーマコード(参考)】
4H026
【Fターム(参考)】
4H026CB02
4H026CB08
4H026CC06
(57)【要約】
【課題】塩害を抑制でき、環境に安全である上、凍結防止性能に優れる、凍結防止剤、及び該凍結防止剤を用いた凍結防止方法を提供する。
【解決手段】氷再結晶化抑制活性を有する氷制御物質と、過冷却促進物質とを含有する凍結防止剤、及び凍結防止剤を、対象表面に散布する工程を含む、対象表面の凍結防止方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
氷再結晶化抑制活性を有する氷制御物質と、過冷却促進物質とを含有する凍結防止剤。
【請求項2】
塩化ナトリウムを更に含有する、請求項1に記載の凍結防止剤。
【請求項3】
前記氷制御物質が、不凍多糖及び/又は不凍タンパク質・ペプチドである、請求項1又は2に記載の凍結防止剤。
【請求項4】
前記氷制御物質が、ゼラチン分解物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の凍結防止剤。
【請求項5】
前記過冷却促進物質が、メラノイジン、餡粕の抽出物、コーヒー粕の抽出物、味噌の抽出物、バナナ皮の抽出物、日本酒の抽出物、プリン塩基又はプリン塩基を有する重合体、及びチロシンペプチドからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか一項に記載の凍結防止剤。
【請求項6】
道路、駐車場、滑走路又は駐機場の凍結防止用である、請求項1~5のいずれか一項に記載の凍結防止剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の凍結防止剤を、対象表面に散布する工程を含む、対象表面の凍結防止方法。
【請求項8】
前記対象が道路、駐車場、滑走路又は駐機場である、請求項7に記載の凍結防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結防止剤、及び該凍結防止剤を用いた凍結防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積雪寒冷地域では冬期特有の交通事故が数多く発生している。そのために、冬期の厳しい気候条件下でも、道路交通の安全性を確保することが求められる。路面氷盤の融解・凍結防止対策として、ロードヒーティングや機械除雪など道路融雪施設を設けることや機械除雪などの対策を行っているが、多額の費用・人員・時間が必要となり限界になりつつある。冬期の自動車走行能力を高めるという点から、スパイクタイヤが広く普及され用いられてきたが、1990年に粉じん公害の防止を理由に法律で使用が禁止された。
【0003】
その後、スパイクピンのないタイヤ(スタッドレスタイヤ)が使用されるようになったが、氷盤路面上ではスリップ防止効果が劣っていることや非常に滑りやすい路面が生じるようになり、冬期路面対策を講じる必要が生じた。それにより、近年安価で扱いやすい凍結防止剤の散布が年々増加している。特に最も多く使用されているものは塩化ナトリウム(NaCl)などの塩化物系であり、北海道開発局で散布されている凍結防止剤の99%を占めている。
【0004】
使用が増加している一方で、塩化物系の凍結防止剤は道路構造物への塩害の影響が懸念されている。そのような影響を及ぼすことから、非塩化物系の使用・開発が進められている。非塩化物系の凍結防止剤として主に使用されているものは、酢酸・マグネシウム・カルシウム(以下、CMA)である。CMAは問題となっている金属腐食が塩化物系の凍結防止剤よりも非常に小さい凍結防止剤であるが、高価であることが問題となっている。
【0005】
低温下で棲息する生物が、不凍タンパク質(antifreeze protein、以下、「AFP」と略記することもある)を生産することが明らかにされており、不凍タンパク質は、氷の再結晶化抑制や氷結晶形状制御などの効果をもたらし、細胞を凍結から守る手段として利用している。AFPは、例えば、魚類、昆虫、植物、菌類、微生物などから見出されている。
【0006】
さらに、非特許文献1では、牛由来コラーゲンをアルカラーゼで加水分解して得られる600~2700 Daのサイズを有するコラーゲン分解物が、氷の再結晶化を抑制することができ、天然の不凍タンパク質と同じ氷再結晶化抑制作用を有することが報告されている。また、鶏、豚、サケなどに由来するコラーゲン分解物が不凍タンパク質と同じ氷再結晶化抑制活性があることが報告されている。
【0007】
過冷却現象を促進する過冷却促進物質(抗氷核活性物質)が、これまでに幾つか報告されている。過冷却促進物質を用いることにより、氷点下であっても凍らない水を作ることができる。また、抗氷核活性物質を用いることにより、植物又は動物の細胞の凍結による破壊を防ぐことができ、また一旦凍った場合でも、氷核の発生温度が低くなるので、冷凍瞬間の氷結晶の大きさをより小さくでき、食品、生体材料(臓器保存)等の分野での応用が期待されている。
【0008】
本発明者らは、食品分野での利用を考慮して種々検討した結果、餡粕エキスに含まれるペプチド(特許文献1)、日本酒エキスの抽出物(特許文献2)、コーヒー豆から抽出された芳香族炭化水素構造とカルボキシル基を有する化合物(特許文献3)、メラノイジン(特許文献4)等を利用する過冷却促進物質を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5322602号公報
【特許文献2】特許第5608435号公報
【特許文献3】特許第6423998号公報
【特許文献4】特開2019-6883号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J. Agric. Food Chem. 2009, 57, 12, 5501-5509
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、塩害を抑制でき、環境に安全で、負荷が少ない上、凍結防止性能に優れる、凍結防止剤、及び該凍結防止剤を用いた凍結防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、氷再結晶化抑制活性を有する氷制御物質であるコラーゲンペプチド及び過冷却促進物質の混合物に対して、少量の塩化ナトリウムを組み合わせて得られる組成物が、金属腐食及び植生への影響が良好であるにもかかわらず、凍結防止性能に優れるという知見を得た。
【0013】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の凍結防止剤、及び該凍結防止剤を用いた凍結防止方法を提供するものである。
【0014】
項1.氷再結晶化抑制活性を有する氷制御物質と、過冷却促進物質とを含有する凍結防止剤。
項2.塩化ナトリウムを更に含有する、項1に記載の凍結防止剤。
項3.前記氷制御物質が、不凍多糖及び/又は不凍タンパク質・ペプチドである、項1又は2に記載の凍結防止剤。
項4.前記氷制御物質が、ゼラチン分解物である、項1~3のいずれか一項に記載の凍結防止剤。
項5.前記過冷却促進物質が、メラノイジン、餡粕の抽出物、コーヒー粕の抽出物、味噌の抽出物、バナナ皮の抽出物、日本酒の抽出物、プリン塩基又はプリン塩基を有する重合体、及びチロシンペプチドからなる群から選択される少なくとも1種である、項1~4のいずれか一項に記載の凍結防止剤。
項6.道路、駐車場、滑走路又は駐機場の凍結防止用である、項1~5のいずれか一項に記載の凍結防止剤。
項7.項1~6のいずれか一項に記載の凍結防止剤を、対象表面に散布する工程を含む、対象表面の凍結防止方法。
項8.前記対象が道路、駐車場、滑走路又は駐機場である、項7に記載の凍結防止方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の凍結防止剤によれば、橋梁や高速道路における鋼材の腐食のような塩害を抑制でき、また植生に対する悪影響を低減できるので環境に安全であり、負荷が少ない上、凍結防止性能にも優れている。さらに、本発明の凍結防止剤は、安価な材料を用いているため経済性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】不凍多糖III (100, 10μg/ml)、メラノイジン(1000, 10μg/ml)、コーヒー粕エキス(50, 10μg/ml)又は味噌エキス(50, 10μg/ml)の薬剤単独での凝固試験の結果(凝固開始時間)を示すグラフである。図中の濃度は最終濃度である。
【
図2】不凍多糖III (100, 10μg/ml)、メラノイジン(1000, 10μg/ml)、コーヒー粕エキス(50, 10μg/ml)又は味噌エキス(50, 10μg/ml)の薬剤と塩化ナトリウムとを混合したものの凝固試験の結果(凝固開始時間)を示すグラフである。図中の濃度は最終濃度である。
【
図3】不凍多糖III (10μg/ml)、メラノイジン(10μg/ml)、コーヒー粕エキス(10μg/ml)又は味噌エキス(10μg/ml)の薬剤単独、これらを塩化ナトリウムと混合したもの、又はCMAと混合したものの金属腐食試験の結果(腐食量)を示すグラフである。図中の濃度は最終濃度である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
なお、本明細書において「含有する、含む(comprise)」とは、「本質的にからなる(essentially consist of)」という意味と、「のみからなる(consist of)」という意味をも包含する。
【0019】
本発明の凍結防止剤は、氷再結晶化抑制活性を有する氷制御物質と、過冷却促進物質とを含有することを特徴とする。
【0020】
不凍タンパク質・ペプチドは、凝固点(凍る温度)を下げる機能、並びに氷結晶の表面に吸着して氷の再結晶成長を抑制する機能及び結晶化を制御する機能を有するタンパク質・ペプチドのことである。本発明で用いる氷制御物質は、氷再結晶化抑制活性を有するものであって、氷は無数の単結晶氷(氷核)でできており、それらが成長と融合を繰り返して時間と共に大きな塊になる“氷の再結晶化”を抑制する物質である。魚類(特開2004-83546号公報参照)、昆虫、植物(特開2001-245659号公報、国際公開第92/22581号、欧州特許公開第843010号公報参照、Plant Physiology, 119, 1361-1369(1999), Biochem. J., 340, 285-291(1999))、菌類、微生物(特開2004-161761号公報参照)等が不凍タンパク質・ペプチドを有していることが明らかになっており、このような不凍タンパク質・ペプチドが氷再結晶化抑制活性を有することが知られている。不凍タンパク質・ペプチドは、熱ヒステリシスタンパク質、抗凍結タンパク質、氷結晶結合蛋白質、再結晶化阻害蛋白質、Antifreeze Protein (AFP)、Ice Binding Protein (IBP)、Ice Structuring Protein (ISP)などと称されることもある。本発明で用いる氷制御物質には、上記の不凍タンパク質・ペプチドも含まれる。
【0021】
また、本発明で用いる氷制御物質には、氷の再結晶成長を抑制する機能及び結晶化を制御する機能を有するペプチド、氷の再結晶成長を抑制する機能及び結晶化を制御する機能を有する糖タンパク質及び糖ペプチド(例えば、環状不凍糖ペプチド)、魚類、昆虫、植物、菌類、微生物などの天然資源から抽出し精製したもの、菌培養と遺伝子組換え技術とを用いて生産したもの、化学合成によって生産したものなどが含まれる。
【0022】
魚類由来の不凍タンパク質・ペプチドとしては、例えば、Alaに富むαらせん構造からなる分子量約3000~5000のAFPI、Cタイプレクチン様の構造モチーフからなる分子量約14000~24000のAFPII、複数のβ構造を含む球状構造からなる分子量約7000のAFPIII、αらせんを束ねた構造からなる分子量約12000のAFPIV、-Ala-Thr-Ala-の3残基の繰り返し構造から構成され、この中のThr残基の側鎖が糖鎖修飾を受けている分子量約3000~24000のAFGPが挙げられる。
【0023】
植物由来の不凍タンパク質・ペプチドとしては、例えば、イネ科(カラス麦、四条大麦、スズメノカタビラ、ナガハグサ、コスズメノチャヒキ、冬ライ麦、冬小麦、ライ小麦、ホソムギ)、ユリ科(ヤブカンゾウ)、アブラナ科(ガーリックマスタード、フユガラシ、菜の花、芽キャベツ、キャベツ)、ニンジン、コマクサ属、ハツユキソウ、キク科(シオン属、セイヨウタンポポ)、コントンウッド、ヒメツルニチニチソウ、オオバコ科(ハラオオバコ、オニオオバコ)、ホワイトオーク、ナス科(ズルカマラ、ジャガイモ)、ハコベ、スミレ、レンギョウなどに由来する不凍タンパク質・ペプチドが挙げられる。また、カイワレダイコン抽出物(特開2007-153834号公報参照)、カイワレ抽出物、冬野菜スプラウト抽出物(特開2007-169246号公報参照)も挙げられる。
【0024】
不凍タンパク質・ペプチドの他の具体例としては、担子菌類(キノコ類、シイタケ、エノキ、ブナシメジ、エリンギ、ナメコなど)が分泌する不凍タンパク質(特開2004-24237号公報、特開2004-275008号公報参照)、昆虫の幼虫由来のペプチド(特表2002-507889号公報参照)、地衣類由来の不凍タンパク質(特表2002-508303号公報参照)が挙げられる。
【0025】
不凍タンパク質・ペプチドとしては、その他にも、ゼラチン(コラーゲン)分解物が挙げられる。ゼラチン分解物は、ゼラチン(コラーゲン)を酵素(プロテアーゼ)などで加水分解することにより製造することでき、コラーゲンペプチドが含まれるものである。不凍タンパク質・ペプチドとして使用できる限り、ゼラチンが由来する動物の種類、分解に使用する酵素(プロテアーゼ)の種類、製造方法などは特に限定されない。ゼラチン分解物に含まれるコラーゲンペプチドの分子量としては、不凍タンパク質・ペプチドとして使用できる限り特に制限されず、例えば、5000 Da以下、好ましくは500~3000 Da、より好ましくは1000~2500 Daである。
【0026】
本発明に用いられる氷制御物質としては、上で列挙した種々の不凍タンパク質・ペプチドが使用可能であり、特に制限されることなく、適宜選択して使用することができる。また、本発明に用いられる氷制御物質としては、下記の不凍多糖も使用可能である。
【0027】
不凍多糖は、氷結晶の成長抑制機能を有する多糖類であり、エノキタケ等の真菌の細胞壁を構成する多糖類から見出された成分である(特許第5881118号公報参照)。なお、本明細書において、多糖類とは、通常、10個以上の単糖がグリコシド結合により直鎖状又は分枝鎖状に重合したものをいう。
【0028】
不凍多糖は、特に限定されず、例えば、ガラクトース、マンノース、キシロース、グルコース、及びラムノースからなる群より選択される少なくとも1種を含む多糖類が挙げられ、好ましくはこれらの単糖を2種以上含む多糖類、より好ましくはキシロース及びマンノースを含む多糖類、更に好ましくはキシロマンナンである。
【0029】
キシロマンナンは、α-1,3-マンノースで構成されるマンナン主鎖に、側鎖として1分子ずつのキシロースが1,4-結合を介して結合したヘテロ多糖類の総称である。ただし、キシロマンナンは、マンノースとキシロースのみから構成されるものに限られず、キシロース以外に他の糖を側鎖として有し得る。
【0030】
キシロマンナンを構成するマンノースとキシロースの構成比は特に限定されず、キシロース1モルに対して、例えば、マンノース1.5~2.5モル、好ましくは1.7モル~2.3モル、より好ましくは1.9モル~2.1モル、更に好ましくは約2モルである。
【0031】
不凍多糖の分子量は、特に限定されるものではなく、ゲル濾過クロマトグラフィーにて測定した平均分子量で、例えば、100,000~1,000,000である。当該平均分子量の下限は、好ましくは150,000、より好ましくは200,000、更に好ましくは240,000、特に好ましくは280,000である。当該平均分子量の上限は、好ましくは500,000、より好ましくは400,000、更に好ましくは370,000、特に好ましくは340,000である。
【0032】
不凍多糖としては、例えば、公知の方法に従って化学合成したものを用いることができ、また、真菌から公知の方法に従って不凍多糖を抽出して得られた抽出物も用いることができる。
【0033】
真菌の中でも好ましいものとして担子菌が挙げられる。担子菌としては、例えば、ハラタケ目に属するものを挙げることができる。ハラタケ目に属する担子菌としては、例えば、ヌメリガサ科(ヤギタケ等)、キシメジ科(キシメジ、ムラサキシメジ、オシロイシメジ、カクミノシメジ、シャカシメジ、ハルシメジ、ハタケシメジ、ブナシメジ、ホンシメジ、オオホウライタケ、スギヒラタケ、ハリガネオチバタケ、キツネタケ、ナラタケ、ムキタケ、マツタケ、シロマツタケモドキ、シイタケ、エノキタケ等)、テングタケ科(タマゴタケ、カバイロツルタケ等)、ハラタケ科(ハラタケ、シロオオハラタケ等)、ヒトヨタケ科(ヒトヨタケ等)、モエギタケ科(ナメコ等)、フウセンタケ科(ショウゲンジ等)、イグチ科(ヤマドリタケ等)、ベニタケ科(アイタケ等)、サルノコシカケ科(マイタケ等)、ヒラタケ科(エリンギ等)などに属するものが挙げられる。これらの中でも、好ましくはキシメジ科、ヒラタケ科、モエギタケ科等に属するもの、より好ましくはキシメジ科に属するもの、更に好ましくはエノキタケである。
【0034】
上記担子菌の類縁品種及び改良品種も適宜使用することができる。
【0035】
不凍多糖を含有する生物として担子菌を用いる場合、培養は低温下で行うことが好ましい。比較的低温で担子菌を培養(低温馴化)した担子菌を抽出源として用いることにより、不凍多糖をより効率的に得ることができる。培養温度としては、例えば、25℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましい。一方、氷点未満では液体培地が凍結するおそれがあるため、0℃以上とすることが好ましい。
【0036】
培養期間は特に制限されないが、3日以上行うことが好ましく、より好ましくは1週間以上、更に好ましくは2週間以上、特に好ましくは1ヶ月以上である。また、培養期間の上限も特に制限されず、担子菌がコンフルエントな状態となるまでや、培地中の氷結晶化阻害剤の濃度がそれ以上向上しなくなるまでとすることができ、例えば、6ヶ月以下、好ましくは5ヶ月以下、より好ましくは4ヶ月以下、更に好ましくは3ヶ月以下である。
【0037】
真菌からの不凍多糖の抽出は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、不凍多糖は、熱水ではほとんど抽出できないが、アルカリ水溶液中で加熱処理することにより抽出できることが知られている(特許第5881118号公報参照)。この知見に基づいて、不凍多糖として、例えば、真菌熱水抽出残渣、真菌熱アルカリ抽出物等を用いることができる。
【0038】
真菌熱水抽出残渣は、例えば、真菌を熱水抽出処理した後の残渣を回収することにより得ることができる。
【0039】
熱水抽出処理は、高温の水に真菌を浸漬し、必要に応じて撹拌することにより行うことができる。水の温度は、例えば、80℃以上、好ましくは90℃以上、より好ましくは95℃以上、更に好ましくは99℃以上である。処理時間は、特に限定されず、例えば、0.5~8時間程度である。熱水抽出処理後は、遠心分離、ろ過等により上清を除去することにより、真菌熱水抽出残渣を得ることができる。
【0040】
真菌熱アルカリ抽出物は、例えば、真菌をアルカリ水溶液中で加熱抽出処理することにより得ることができる。
【0041】
アルカリ水溶液中での加熱抽出処理の前に、真菌を上記熱水抽出処理することができる。このようにすることにより、不凍多糖以外の熱水溶解性の成分を除去することができる。
【0042】
アルカリ水溶液の調製に供されるアルカリ物質としては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、重炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、焼成カルシウム等を用いることができ、その使用に際しては単独又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0043】
アルカリ水溶液の濃度は、適宜調整することができる。下限は、より効率的に不凍多糖を抽出できるという観点から、例えば、0.1w/v%、好ましくは1.0w/v%、より好ましくは2.0w/v%、更に好ましくは5.0w/v%、より更に好ましくは10.0w/v%、より更に好ましくは15.0w/v%、特に好ましくは20.0w/v%である。また、上限は、コスト面や安全面の観点から、例えば、50w/v%、好ましくは30w/v%、より好ましくは25w/v%である。
【0044】
加熱抽出処理の温度としては、70℃以上が好ましく、より好ましくは80℃以上、更に好ましくは90℃以上、最も好ましくは約100℃である。加熱抽出処理の方法としては、例えば、アルカリ水溶液を加えた後にこれを所定の温度まで加熱しながら抽出することもできるし、予め所定の温度に加温したアルカリ水溶液を加えてこれを保温した状態で抽出することもできる。
【0045】
加熱抽出処理の時間は、温度、アルカリ物質の濃度等に応じて適宜調整し得る。加熱抽出処理の時間は、例えば、0.5~8時間、好ましくは1~5時間、より好ましくは2~3時間程度である。
【0046】
抽出は、1回でもよく、より多くの不凍多糖を得るという観点からは、1回抽出した後に得られた残渣に対して同様の抽出処理を1回又は複数回繰り返して行うこともできる。
【0047】
上記により得られた抽出液は、そのまま用いることもでき、又は中和や透析などの周知の方法によりアルカリ物質を除去してから用いることもできる。また、必要に応じて更に精製を行うことができる。例えば、デカンテーション、濾過、遠心分離などを好適に組み合わせて夾雑成分を除去することもできる。また、例えば、塩析や有機溶媒による沈殿や、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、ゲル濾過、低速冷却装置を用いた氷への結合などによる精製、透析や限外濾過などによる濃縮などを好適に組み合わせて行うこともできる。
【0048】
氷制御物質は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
過冷却促進物質は、過冷却促進物質が添加されている溶液において、凝固点での氷核生成を抑制するとともに、過冷却現象が生じる温度の下限を低くすることによって、過冷却を促進する機能を有する。これにより氷結晶(初期氷結晶粒子)が生成され始める温度を低くして、氷結晶粒子を生成されにくくする(不凍性溶液を氷結しにくくする)ことが可能である。氷制御物質と過冷却促進物質を組み合わせて使用することで、優れた凍結防止効果が得られる。
【0050】
過冷却促進物質としては、過冷却現象を促進する物質(抗氷核活性を有する物質)であれば特に限定されず、そのような物質としては、例えば、メラノイジン(特開2019-6883号公報参照)、餡粕の抽出物(特許第5322602号公報参照)、コーヒー粕の抽出物(特開第6423998号公報参照)、味噌の抽出物、バナナ皮の抽出物(特開2019-6876号公報参照)、日本酒の抽出物(特許第5608435号公報参照)、プリン塩基又はプリン塩基を有する重合体(国際公開第2016/167284号参照)、チロシンペプチド(国際公開第2016/178426号参照)などが挙げられる。
【0051】
メラノイジンとしては、還元糖とアミノ酸が反応して得られるメイラード反応物等が挙げられる。還元糖としては、還元性を有するアルドース及びケトースが挙げられ、好ましくは、グルコース、ガラクトース、マンノース、キシロース等である。アミノ酸としては、天然アミノ酸等が挙げられ、好ましくは、グリシン、セリン、スレオニン等である。また、メラノイジンは、味噌、醤油などの食品に含まれている。
【0052】
餡粕の抽出物の餡粕は、生餡の製造過程で生じるものであり、その原料は大豆等の豆類である。餡粕の抽出物の抽出方法は特に限定されず、熱水で抽出することが好ましい。また、抗氷核活性の多くは分子量3500以下の画分に存在することから、餡粕の抽出物としては分子量3500以下の画分を含むものを使用することが好ましい。
【0053】
コーヒー粕の抽出物としては、分子中に少なくとも芳香族炭化水素構造とカルボキシ基とを有する化合物を含むことが好ましい。コーヒー粕として使用するコーヒー豆は過冷却促進作用がより優れたものになるという点で焙煎されたものであることが好ましい。また、当該コーヒー粕の抽出物の製造方法としては、例えば、水によってコーヒー粕から抽出された水抽出物に対して、有機溶媒によって抽出処理を施すことが挙げられ、このような方法によって抽出を行うことで上記化合物を抽出することができる。
【0054】
バナナ皮の抽出物としては、バナナ皮を溶媒を用いて抽出して得られる抽出物又はその精製物である限り、特に制限されない。バナナ皮の抽出物の製造方法としては、例えば、バナナ皮をアルコールを用いて固液抽出し、得られた溶液を濃縮した後、水と混合し、得られた混合物を酢酸アルキルエステルを用いて液液抽出することが挙げられる。バナナ皮の抽出物としては、好ましくは塩化第二鉄呈色反応が陰性のものである。
【0055】
日本酒の抽出物としては、日本酒の含有成分を合成吸着剤(例えば、スチレン-ジビニルベンゼン系合成吸着剤)に吸着させ、該合成吸着剤に吸着された吸着物を日本酒からの抽出成分として含有することが好ましい。また、当該吸着物を酢酸エチルにより抽出し、該酢酸エチルで抽出された抽出物を日本酒からの抽出成分として含有することも好ましい。上記吸着物又は抽出物を限外濾過によって分子量3000以下画分に分画し、当該画分を日本酒からの抽出成分として含有することも好ましい。
【0056】
プリン塩基としては、プリン骨格を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、アデニン、プリン、グアニン、ヒポキサンチン、キサンチン、テオブロミン、カフェイン、尿素、イソグアニン、テオフィリン等が挙げられる。中でも好ましくは、アデニン、アデニンの誘導体、カフェイン、カフェインの誘導体、尿素、及び尿素の誘導体である。プリン塩基を有する重合体としては、プリン塩基を繰り返し単位として有する重合体を意味し、プリン塩基は重合体に側鎖として存在する。そのようなものとして、例えば、ポリヌクレオチド、好ましくはデオキシリボ核酸(DNA)である。
【0057】
チロシンペプチドとしては、通常チロシンの2~6量体であり、好ましくは2~5量体、より好ましくは2~4量体、特に好ましくは2又は3量体である。
【0058】
過冷却促進物質は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
過冷却促進物質の含有量は、凍結防止性能が得られる限り特に限定されないが、質量比で、氷制御物質1に対して、例えば0.001~10、好ましくは0.01~1である。
【0060】
本発明の凍結防止剤は、氷制御物質及び過冷却促進物質に加えて、従来から凍結防止剤として使用されている塩化ナトリウムを含有することが好ましい。氷制御物質及び過冷却促進物質と塩化ナトリウムとを組み合わせて使用することで、塩化ナトリウムの使用量を減少させることが可能となり、塩化ナトリウムによる塩害及び植生に対する悪影響を低減することが可能となる。
【0061】
塩化ナトリウムの含有量は、塩害の抑制及び環境への安全性の観点から可能な限り少ないことが望ましく、目的に応じて適宜設定することができる。
【0062】
本発明の凍結防止剤は、粉末状等の固体状であってもよく、また液状であってもよい。液状の場合の溶媒としては、水などが挙げられる。
【0063】
本発明の凍結防止剤は、凍結防止作用を奏する限りにおいて、上記以外の他の成分を含んでいてもよい。
【0064】
本発明の凍結防止剤は、例えば、(橋梁や高速道路を含む)道路、駐車場、滑走路、駐機場などの凍結防止のために使用される。
【0065】
本発明の対象表面の凍結防止方法は、凍結防止剤を対象表面に散布する工程を含むことを特徴とする。凍結防止剤の散布は、例えば、液状の形態で、液体噴霧装置等を用いて散布して行われる。本発明の凍結防止剤の散布量は、凍結防止効果が得られる限り特に限定されず、適宜設定することができる。
【0066】
本発明の凍結防止剤を散布する対象としては、特に限定されず、例えば、(橋梁や高速道路を含む)道路、駐車場、滑走路、駐機場などが挙げられる。本発明の凍結防止剤は、雪が積もった対象表面、凍った対象表面に散布してもよく、又は凍結を防止するために予め対象表面に散布しておいてもよい。
【0067】
本発明の凍結防止剤によれば、従来の塩化ナトリウム単独の凍結防止剤と比べて、橋梁や高速道路における鋼材の腐食のような塩害を抑制でき、また街路樹、植木及び花壇が枯れるなどの植生に対する悪影響を低減できるので環境に安全であり、負荷が少ない。また、氷制御物質及び過冷却促進物質の2成分、更には塩化ナトリウムを含む3成分を組み合わせて使用することにより、優れた凍結防止性能が発揮される。さらに、本発明の凍結防止剤において使用する氷制御物質及び過冷却促進物質は、従来の塩化ナトリウムやCMAと比べて安価であり、経済性が高い。
【実施例0068】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0069】
試験方法
(1)使用する薬剤
「不凍多糖III」は、本発明者らによって発見されたエノキタケ由来の不凍多糖である。「コラーゲンペプチド系過冷却促進物質」は、ゼラチンを酵素で分解し低分子化したコラーゲンペプチドに、過冷却促進物質のメラノイジン・コーヒー粕エキス・味噌エキスをそれぞれ混合させたものである。以下では、コラーゲンペプチド系の過冷却促進物質の各種名称を混合されている過冷却促進物質の名称(メラノイジン・コーヒー粕エキス・味噌エキス)で表記する。いずれも、コラーゲンペプチドと過冷却促進物質との混合割合は最終濃度として10:1であり、つまり、1 ml溶液中でコラーゲンペプチド10 mg、過冷却促進物質1 mgの組合せということになり、これを薄めて使用する場合はコラーゲンペプチドの濃度で以下表すこととする。
【0070】
(2)凝固試験
凝固試験は、試験管に試験薬剤を10 g入れ(水道水9 g+薬剤1 g)、冷凍保存(-20℃)し、約6~8時間の水温変化を計測することにより行った。試験は、上記薬剤単独、又は上記薬剤と塩化ナトリウムとを質量比5:5で混合したものを使用した。
【0071】
(3)凍結防止試験
凍結防止剤の事前散布は路面上の水分の凍結を防ぎ湿潤状態・シャーベット状態に保つ必要がある。凍結防止特性を明確にすることを目的とし、凍結状態の変化を一定時間経過ごとに目視観察で試験を行った。
【0072】
1シャーレにつき試験薬剤を20 g入れ(水道水18 g+薬剤2 g)、試験薬剤の入ったシャーレを冷凍保管(-20℃)し、一定時間毎(30, 60, 120, 180, 300分)に目視で観察を行った(一試験薬剤につき3シャーレ)。目視観察は以下の表1で示す5段階の数値的評価により行った。試験は、上記薬剤単独、又は塩化ナトリウムと上記薬剤を質量比5:5で混合したものを使用した。
【0073】
【0074】
(4)金属腐食試験
最もよく使用されている塩化物系凍結防止剤は、金属を腐食させるという問題を抱えている。その問題は、構造物の耐久性の低下につながり大変危険なものである。凍結防止剤の散布による金属腐食を減少させたいという背景から、腐食量を明確にすることを試みた。
【0075】
鉄製金属試験片(50 mm×50 mm×1 mm)を一日毎に試験薬剤(水道水291 g+薬剤9 g)に漬ける・乾燥させる作業を7日間繰り返した(一試験薬剤につき金属試験片2枚)。8日目に20%クエン酸水素アンモニウム水溶液に金属片を30分間漬けて腐食部分を析出させて、金属片にできた腐食量を計測した。試験は、上記薬剤単独、塩化ナトリウムと上記薬剤を質量比5:5, 3:7, 1:9で混合したもの、又はCMAと上記薬剤を質量比3:7, 1:9で混合したものを使用した。
【0076】
(5)植生影響試験
凍結防止剤はいくつかの散布方法があるが、いずれも個体か液体かで散布される。それに伴い、凍結防止剤は自動車の往来や風による飛散によって周囲に二次的影響が及ぼしてしまう。その一つに植物を枯らしてしまうことが挙げられる。現実の道路環境では、植木や花壇、個人の庭のような植物を育てている環境と植物が生えないように処理している2種類の環境が存在する。植物の成長に対する影響を明確にすることを試みた。
【0077】
500 mlの土壌と肥料2 g、試験薬剤をビニール袋に入れ混合物の偏りが生じないようによく袋を振って混ぜ合わせた。このように作製した土壌をノウバウエルポットに入れ、小松菜の種を20個まき、20℃付近に保たれた日当たりのよい場所で21日間生育を行った。21日後に小松菜の地上部の重さを量り、生体重指数を以下の算出式により求めた。生体重指数の目安は80であり、これを下回った場合は成長阻害物質が含まれていた可能性がある。
生体重指数=(試験薬剤を使用した小松菜の地上部の重さ(g))÷(無添加で生育した小松菜の地上部の重さ(g))×100
【0078】
試験は、上記薬剤単独10μg/mlを1 g, 2 g, 4 g, 8 g、又は上記薬剤(10μg/ml) 1 gと塩化ナトリウム1 gとを混合したものを使用した。
【0079】
(6)環境への影響に対する試験
上記薬剤の環境への影響を明確にするために、上記薬剤に対して水質汚濁防止法に関する項目について表2の計量法を用いて分析した。
【0080】
【0081】
結果
(1)凝固試験
薬剤単独での凝固試験の試験結果を
図1に、薬剤と塩化ナトリウムとを質量比5:5で混合したものの試験結果を
図2に示す。
図1及び2では、凝固開始時間が示されている。凝固開始時間は、遅い時間であるほど過冷却時間も長くなり凍りにくいことを示す。
図1の結果から、塩化ナトリウムより各薬剤の方が凝固開始時間において優れた効果を示し、薬剤は濃度に比例せず、低濃度でも効果を示していた。これは、濃度に比例するモル凝固点降下と異なる性質があることを示唆するもので、一般に知られているNaClのような濃度に応じて凝固開始時間が比例して長くなる場合とは異なることを示唆しているものである。また、
図2から、塩化ナトリウムと混合した場合であっても、10μg/mlが一番効果が高いことが分かる。
【0082】
(2)凍結防止試験
薬剤単独での凝固試験の試験結果を表3に示す。表3では、表1の評価方法に基づいた値が示されている。この結果から、各薬剤は水道水よりも長い時間凍結しない状態(シャーベット状)であった。また、水道水は急激に凍ることから、すべり摩擦係数の急激な低下を及ぼし、路面での危険性が急増するが、各薬剤は、シャーベット状になった路面上の雪氷は徐々に硬化するため、すべり摩擦係数の急激な低下は防止することができる。さらに、NaClは即効性が弱いといわれており、NaClとこれらの各薬剤との組み合わせによって、補完できることが期待できる。また、塩化ナトリウムと混合した場合の方が凍結しにくいという結果が得られた。なお、表3では最終濃度を示している。
【0083】
【0084】
コラーゲンペプチド、コーヒー粕エキス、味噌エキス単独又はこれらを組み合わせた場合の凝固試験の試験結果を表4に示す。各試験は1:1の質量比で10%NaClと混合したものであり、表4では最終濃度を示している。この結果から、コラーゲンペプチドと、過冷却促進物質であるコーヒー粕エキス又は味噌エキスとを組み合わせることで、単独で用いた場合よりも優れた凍結防止効果が得られることが分かる。
【0085】
【0086】
(3)金属腐食試験
金属腐食試験の結果を
図3に示す。
図3から、各薬剤は塩化ナトリウムよりも金属腐食量が少ないこと、CMAとの混合は金属腐食防止効果が大きく、CMAの使用量を減らしてもその効果を発揮することが分かった。
【0087】
(4)植生影響試験
薬剤単独での植生影響試験の試験結果を表5に示す。生体重指数とは無添加で生育したものを100として示した数値である。表5から、各薬剤は植生に影響は与えず、栄養分となることが分かる。塩化ナトリウムは、生体重指数も低く、植生に悪影響を与え、目視観察でも葉の色彩異常、枯死、葉の巻症状などの生育異常が認められた。また、塩化ナトリウムとの混合では、各薬剤単独の場合よりも成長の阻害となるという結果が得られた。なお、表5では最終濃度を示している。
【0088】
【0089】
(5)環境への影響に対する試験
環境への影響に対する試験の試験結果を表6に示す。表6より、定量下限値未満でない値を示した項目は限られているが、BODについてはNaClが極端に少ないのに対して、不凍多糖、コラーゲンペプチド系が若干大きく、CMAは桁違いに大きい結果であった。また、CODについても、NaClが最も小さく、BODと同様に不凍多糖、コラーゲンペプチド系が若干大きく、CMAは桁違いに大きい結果であった。さらに、窒素含有量を見ると、NaClとCMAは定量下限値未満であるが、不凍多糖が若干含んでおり、コラーゲンペプチド系の材料は2桁の値を示しており、他の材料より多いことが分かる。
【0090】
このことと植生試験の結果を合わせてみると、不凍材料が植生に関して肥料になっていることはこの分析結果の窒素含有量とも関係があるものと考えられる。環境省では、pHの許容限度を5.8以上8.6以下(海域以外)、BOD及びCOD:160 mg/L (日間平均120 mg/L)、窒素含有量:120 mg/L (日間平均60 mg/L)としており、CMAがBODとCODで基準値を超えており、水質汚染への影響が危惧されることが分かる。
【0091】