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特開2023-98233エチレン系重合体組成物およびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098233
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】エチレン系重合体組成物およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/04 20060101AFI20230703BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230703BHJP
【FI】
C08L23/04
C08K3/013
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214867
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 千紘
(72)【発明者】
【氏名】中野 誠
(72)【発明者】
【氏名】藤村 太
(72)【発明者】
【氏名】宝谷 洋平
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB021
4J002BB202
4J002DA017
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002FA037
4J002FA057
4J002FD117
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ01
(57)【要約】
【課題】耐摩耗性に優れた成形体を得ることのできるエチレン系重合体組成物を提供すること。
【解決手段】135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が3.0~10dl/gであり、密度が930~980kg/m3であるエチレン系重合体成分(A)を100質量部、および無機フィラー(B)を8~80質量部含有し、前記エチレン系重合体成分(A)が、135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が10~40dl/gである超高分子量エチレン系重合体(a1)を含む、エチレン系重合体組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が3.0~10dl/gであり、密度が930~980kg/m3であるエチレン系重合体成分(A)を100質量部、および
無機フィラー(B)を8~80質量部
含有し、
前記エチレン系重合体成分(A)が、135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が10~40dl/gである超高分子量エチレン系重合体(a1)を含む、
エチレン系重合体組成物。
【請求項2】
前記エチレン系重合体成分(A)が、135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が0.1~9dl/gである低分子量ないし高分子量エチレン系重合体(a2)を含む、請求項1に記載のエチレン系重合体組成物。
【請求項3】
前記エチレン系重合体成分(A)が、エチレン系重合体成分(AI)を10~90質量%、およびエチレン系重合体成分(AII)を90~10質量%(成分(AI)および成分(AII)の合計量を100質量%とする。)含み、
前記エチレン系重合体成分(AI)が、
35質量%を超え90質量%以下の前記超高分子量エチレン系重合体(a1)を生成させる工程、および
10質量%以上65質量%未満の前記低分子量ないし高分子量エチレン系重合体(a2)を生成させる工程(重合体(a1)および重合体(a2)の合計量を100質量%とする。)
を含む多段重合法により得られ、
前記エチレン系重合体成分(AII)が、135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が0.1~2.9dl/gであるエチレン系重合体(a3)を含む
請求項2に記載のエチレン系重合体組成物。
【請求項4】
前記無機フィラー(B)が、タルクおよびカオリンからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1~3のいずれか一項に記載のエチレン系重合体組成物。
【請求項5】
導電性フィラー(C)を含む請求項1~4のいずれか一項に記載のエチレン系重合体組成物。
【請求項6】
前記導電性フィラー(C)がカーボンナノチューブである、請求項5に記載のエチレン系重合体組成物。
【請求項7】
変性オレフィン系重合体(D)を含む請求項1~6のいずれか一項に記載のエチレン系重合体組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のエチレン系重合体組成物を含む成形体。
【請求項9】
射出成形体である請求項8に記載の成形体。
【請求項10】
被覆材である請求項8に記載の成形体。
【請求項11】
摺動材である請求項8に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエチレン系重合体組成物およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン樹脂は、成形が容易であり、各種物性に優れ、かつ経済的であることから成形材料として広く利用されている。
たとえば、特許文献1には、高密度ポリエチレンとタルクとを含む組成物、およびこの組成物からなるインフレーションフィルムが開示され、特許文献2には、高密度ポリエチレン樹脂と層状ケイ酸塩とを含む高密度ポリエチレン樹脂組成物、およびこの組成物の射出成形品などが開示されている。また、特許文献3には、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂など)、多層カーボンナノチューブおよび無機フィラーからなる樹脂組成物、ならびにこの組成物の成形品が開示されている。
【0003】
一方、特許文献4には、超高分子量ポリエチレンと、低分子量ないし高分子量ポリエチレンとを含むポリエチレン樹脂組成物、およびポリオレフィン系樹脂組成物を含む樹脂組成物が開示され、この樹脂組成物が、機械的性質、耐摩耗性、外観および成形性などに優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-126663号公報
【特許文献2】特開2014-19733号公報
【特許文献3】特開2010-196012号公報
【特許文献4】国際公開第2003/022920号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、無機フィラーを含む従来のエチレン系重合体組成物は、耐摩耗性に優れた成形体を得るという観点から、さらなる改善の余地があった。
そこで本発明は、耐摩耗性に優れた成形体を得ることのできるエチレン系重合体組成物およびその成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、たとえば以下の[1]~[11]に関する。
[1]
135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が3.0~10dl/gであり、密度が930~980kg/m3であるエチレン系重合体成分(A)を100質量部、および
無機フィラー(B)を8~80質量部
含有し、
前記エチレン系重合体成分(A)が、135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が10~40dl/gである超高分子量エチレン系重合体(a1)を含む、
エチレン系重合体組成物。
【0007】
[2]
前記エチレン系重合体成分(A)が、135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が0.1~9dl/gである低分子量ないし高分子量エチレン系重合体(a2)を含む、前記[1]のエチレン系重合体組成物。
【0008】
[3]
前記エチレン系重合体成分(A)が、エチレン系重合体成分(AI)を10~90質量%、およびエチレン系重合体成分(AII)を90~10質量%(成分(AI)および成分(AII)の合計量を100質量%とする。)含み、
前記エチレン系重合体成分(AI)が、
35質量%を超え90質量%以下の前記超高分子量エチレン系重合体(a1)を生成させる工程、および
10質量%以上65質量%未満の前記低分子量ないし高分子量エチレン系重合体(a2)を生成させる工程(重合体(a1)および重合体(a2)の合計量を100質量%とする。)
を含む多段重合法により得られ、
前記エチレン系重合体成分(AII)が、135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]が0.1~2.9dl/gであるエチレン系重合体(a3)を含む
前記[2]のエチレン系重合体組成物。
【0009】
[4]
前記無機フィラー(B)が、タルクおよびカオリンからなる群から選択される少なくとも1種である前記[1]~[3]のいずれかのエチレン系重合体組成物。
【0010】
[5]
導電性フィラー(C)を含む前記[1]~[4]のいずれかのエチレン系重合体組成物。
【0011】
[6]
前記導電性フィラー(C)がカーボンナノチューブである、前記[5]のエチレン系重合体組成物。
【0012】
[7]
変性オレフィン系重合体(D)を含む前記[1]~[6]のいずれかのエチレン系重合体組成物。
【0013】
[8]
前記[1]~[7]のいずれかのエチレン系重合体組成物を含む成形体。
[9]
射出成形体である前記[8]の成形体。
【0014】
[10]
被覆材である前記[8]の成形体。
[11]
摺動材である前記[8]の成形体。
【発明の効果】
【0015】
本発明のエチレン系重合体組成物によれば、耐摩耗性に優れた成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明に係るエチレン系重合体組成物は、
極限粘度[η]が3.0~10dl/gであり、密度が930~980kg/m3であるエチレン系重合体成分(A)を100質量部、および
無機フィラー(B)を8~80質量部
含有し、
前記エチレン系重合体成分(A)が、極限粘度[η]が10~40dl/gである超高分子量エチレン系重合体(a1)を含む
ことを特徴としている。
【0017】
なお、本発明において極限粘度[η]とは、特に断りのない限り、135℃のデカリン溶媒中で測定した極限粘度[η]である。
【0018】
<エチレン系重合体成分(A)>
前記エチレン系重合体成分(A)は、エチレンの単独重合体、またはエチレンとα-オレフィンとの共重合体であり、一般に高圧法低密度ポリエチレン(HP-LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超高分子量エチレン系重合体などと呼称されている、エチレンを主体とする重合体である。
【0019】
前記エチレン系重合体成分(A)は、共重合体である場合は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。
エチレンと共重合されるα-オレフィンは、好ましくは炭素数3~20のα-オレフィンであり、具体的には、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、9-メチル-1-デセン、11-メチル-1-ドデセンおよび12-エチル-1-テトラデセンなどが挙げられる。これらα-オレフィンは、1種単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0020】
前記エチレン系重合体成分(A)は、1種単独の重合体であっても2種以上のエチレン系重合体の組成物(混合物)であってもよい。
前記エチレン系重合体成分(A)は、極限粘度[η]が10~40dl/gの超高分子量エチレン系重合体(a1)(以下「重合体(a1)」とも記載する。」)を含んでいる。
【0021】
前記エチレン系重合体成分(A)が前記重合体(a1)を含んでいるため、本発明の組成物から、耐摩耗性、自己潤滑性、衝撃強度、耐薬品性などに優れた成形体が得られる。
前記重合体(a1)の極限粘度[η]は、好ましくは15~35dl/g、より好ましくは20~35dl/gである。
【0022】
前記エチレン系重合体成分(A)は、極限粘度[η]が0.1~9dl/gの低分子量ないし高分子量のエチレン系重合体(a2)(以下「重合体(a2)」とも記載する。)を含んでいてもよい。前記重合体(a2)は、ワックスであってもよい。
【0023】
前記重合体(a2)の極限粘度[η]は、好ましくは0.1~5dl/g、より好ましくは0.5~3dl/g、さらに好ましくは1.0~2.5dl/gである。
本発明の組成物は、好ましくは、前記エチレン系重合体成分(A)として、
35質量%を超え90質量%以下の前記超高分子量エチレン系重合体(a1)を生成させる工程、および
10質量%以上65質量%未満の前記低分子量ないし高分子量エチレン系重合体(a2)を生成させる工程(重合体(a1)および重合体(a2)の合計量を100質量%とする。)
を含む多段重合法により得られるエチレン系重合体成分(AI)を10~90質量%、および
極限粘度[η]が0.1~2.9dl/gであるエチレン系重合体成分(AII)を90~10質量%(成分(AI)および成分(AII)の合計量を100質量%とする。)
含有する。
【0024】
前記多段重合法において、通常、1段階目で前記重合体(a1)を生成させ、次いで2段階目で前記重合体(a2)を生成させる。
前記エチレン系重合体成分(AI)の割合は、好ましくは15~90質量%、より好ましくは20~80質量、さらに好ましくは26.7~49質量%であり、前記エチレン系重合体成分(AII)の割合は、好ましくは85~10質量%、より好ましくは80~20質量%、さらに好ましくは73.3~51質量%(成分(AI)および成分(AII)の全量を100質量%とする。)である。
【0025】
《エチレン系重合体成分(AI)》
前記エチレン系重合体成分(AI)を構成する前記超高分子量エチレン系重合体(a1)は、通常、多段重合法における第1段階の重合にて得られる。
【0026】
前記エチレン系重合体成分(AI)を構成する前記低分子量ないし高分子量エチレン系重合体(a2)は、通常、多段重合法において前記重合体(a1)の重合後、第2段階の重合にて得られる。
【0027】
前記エチレン系重合体成分(AI)は、触媒の存在下に、エチレンおよび所望に応じてα-オレフィンを多段階で重合させることにより製造することができ、多段階の重合は、特開平2-289636号公報に記載の重合方法と同様な方法で行うことができる。
【0028】
また、前記重合体(a1)を重合し、次いで前記重合体(a2)を後重合することにより、前記エチレン系重合体成分(AI)は、前記エチレン系重合体成分(AII)との相溶性に優れ、その結果、本発明の組成物には前記超高分子量エチレン系重合体(a1)が均一に分散し、前記超高分子量エチレン系重合体(a1)は前記エチレン系重合体成分(AII)と結合する、すなわち前記重合体(a1)と前記エチレン系重合体成分(AII)との間の界面強度が高くなる。このため本発明の組成物は、前記成分(AI)および前記成分(AII)を含むと、耐摩耗性、自己潤滑性、衝撃強度、耐薬品性、外観および成形性などの特性のバランスに優れ、とりわけ耐摩耗性、外観と成形性のバランスに優れる。
【0029】
前記エチレン系重合体成分(AI)は、前記超高分子量エチレン系重合体(a1)を35質量%を超え90質量%以下、好ましくは40質量%を超え80質量%以下、より好ましくは41~75質量%の量で含有し、前記低分子量ないし高分子量エチレン系重合体(a2)を10質量%以上65質量%未満、好ましくは20質量%以上60質量%未満、より好ましくは25~59質量%の量での量で含有する。
【0030】
重合体(a1)と重合体(a2)との割合を前記の範囲内にすることにより、成分(AI)と成分(AII)との相溶性が向上し、本発明の組成物は、特に耐摩耗性や外観と成形性に優れる。
【0031】
前記エチレン系重合体成分(AI)は、実質的に超高分子量エチレン系重合体(重合体(a1))および低分子量ないし高分子量エチレン系重合体(重合体(a2))のみを含んでなる。
【0032】
前記成分(AI)には、通常のポリオレフィンに添加される添加剤(例えば、耐熱安定剤、耐候安定剤などの安定剤、架橋剤、架橋助剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、鉱物油系軟化剤、石油樹脂、ワックスなど)が添加されていてもよく、本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記成分(AI)に添加された添加剤を含んでいてもよい。
【0033】
前記エチレン系重合体成分(AI)の密度(ASTM D1505に準拠して測定)は、通常930~980kg/m3、好ましくは940~970kg/m3である。
前記エチレン系重合体成分(AI)の極限粘度[η]は、通常3.0~10.0dl/g、好ましくは3.0~8.0dl/g、より好ましくは3.0~7.0dl/gである。
【0034】
前記エチレン系重合体成分(AI)が、上記のような密度を有することにより、成形体の動摩擦係数が小さくなるので自己潤滑性に優れた成形体が得られる。
また、前記エチレン系重合体成分(AI)が、上記の範囲内の極限粘度[η]を有することにより、前記エチレン系重合体成分(AI)とエチレン系重合体成分(AII)との分散状態が良好になる。
【0035】
すなわち、前記エチレン系重合体成分(AI)に含まれる前記重合体(a2)と、押出機などでメルトブレンドするエチレン系重合体成分(AII)とが相互に微細に分散することにより分散状態が均一になるので、前記エチレン系重合体成分(AI)を用いることにより、本発明の組成物から、耐摩耗性、自己潤滑性、衝撃強度、耐薬品性、外観および成形性などに優れた成形体が得られる。
【0036】
《エチレン系重合体成分(AII)》
前記エチレン系重合体成分(AII)は、極限粘度[η]が0.1~2.9dl/gであるエチレン系重合体(a3)を含んでいる。
【0037】
前記エチレン系重合体(a3)としては、高圧法ポリエチレン(HP-LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン・α-オレフィン共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体ケン化物、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・α-オレフィン・ジエン(トリエン、ポリエン)三元共重合体などが挙げられる。ここでα-オレフィンとしては、炭素数が3~20であるプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、4-メチル-1-ペンテンおよび3-メチル-1-ペンテンなどが例示できる。またジエン(トリエン、ポリエン)としては、共役もしくは非共役ジエン、トリエン、ポリエンを含む、5-エチリデン-2-ノルボルネン、ビニルノルボルネンなどを例示できる。
【0038】
前記エチレン系重合体成分(AII)は、1種単独のエチレン系重合体(a3)であっても、あるいは2種以上のエチレン系重合体(a3)の組成物であってもよく、エチレン系重合体(a3)とポリオレフィン(ポリプロピレン、ポリブテンなど)との組成物であってもよい。また、前記エチレン系重合体成分(AII)は、ワックスであってもよい。
【0039】
前記エチレン系重合体(a3)としては、上述したものの中でも、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)が好ましく、高密度ポリエチレン(HDPE)がより好ましい。
【0040】
前記エチレン系重合体(a3)の密度(ASTM D1505に準拠して測定)は、通常820~980kg/m3、好ましくは930~980kg/m3、より好ましくは950~980kg/m3である。
【0041】
前記エチレン系重合体(a3)の極限粘度[η]は、通常0.1~2.9dl/g、好ましくは0.3~2.8dl/g、より好ましくは0.5~2.5dl/g、さらに好ましくは1.0~2.5dl/gである。
【0042】
前記エチレン系重合体成分(AII)は、前記エチレン系重合体(a3)を含むため、前記エチレン系重合体成分(AI)と混合した際に良好に分散する。すなわち、押出機などでのメルトブレンド時に、エチレン系重合体成分(AII)と、エチレン系重合体成分(AI)に含まれる低分子量ないし高分子量エチレン系重合体(a2)とが相互に微細に分散することにより分散状態が均一になる。このため、エチレン系重合体成分(A)として、エチレン系重合体成分(AI)とエチレン系重合体成分(AII)とを用いることにより、耐摩耗性、自己潤滑性、衝撃強度、耐薬品性、外観、柔軟性および成形性などに優れた成形体が得られる。
【0043】
前記成分(AII)には、通常のポリオレフィンに添加される添加剤(例えば、耐熱安定剤、耐候安定剤などの安定剤、架橋剤、架橋助剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、鉱物油系軟化剤、石油樹脂、ワックスなど)、が添加されていてもよく、本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記成分(AII)に添加された添加剤を含んでいてもよい。
【0044】
<無機フィラー(B)>
前記無機フィラー(B)としては、例えばタルク、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化アンチモン、フェライト、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、膠質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ゼオライト、ドーソナイト、ハイドロタルサイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、ケイ酸カルシウム(ウォラストナイト、ゾノトライト)、塩基性硫酸マグネシウム、クレー、カオリン、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルーン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、繊維状マグネシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ホウ酸亜鉛が挙げられる。これらは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0045】
これらの中でも、成形体の耐摩耗性を損なわず剛性を高めるという観点からタルクおよびカオリンが好ましい。
前記無機フィラー(B)の形状としては、たとえば、繊維状、棒状、針状、板状、球状、バルーン形状、紡錘形状、テトラポット形状、不定形などが挙げられ、これらの中でも、成形体の耐摩耗性を損なわず剛性を高めるという観点から、繊維状、針状および板状が好ましい。
【0046】
前記無機フィラー(B)の平均粒径(JIS Z8820に準拠した液相沈降法で測定された粒度分布測定曲線の累積値が50%となる粒子径)は、例えば、0.01~40μm、好ましくは0.1~30.0μmである。
【0047】
本発明の組成物において、前記無機フィラー(B)の含有量は、前記エチレン系重合体成分(A)の含有量を100質量部とすると、8~80質量部、好ましくは9~70質量部、より好ましくは10~65質量部、さらに好ましくは10~60質量部である。前記無機フィラー(B)の含有量が前記範囲にあると、本発明の組成物から耐摩耗性に優れた成形体を得ることができる。
【0048】
<導電性フィラー(C)>
本発明に係る組成物は、導電性フィラー(C)を含んでいてもよい。
前記導電性フィラー(C)を含む本発明の組成物からは、摺動性を有し、高い導電性を有する成形体を得ることができる。
【0049】
前記導電性フィラー(C)としては、例えば、カーボンナノチューブ(CNT)、導電性カーボンブラック(CB)、炭素繊維が挙げられる。導電性フィラー(C)としては導電性を有するこれらの材料であれば特に制限されないが、これらの中でも、成形体の表面電気抵抗率を下げる効果に優れていることから、カーボンナノチューブが好ましい。
【0050】
カーボンナノチューブは、炭素からなる円筒状の中空繊維状物質であり、多層カーボンナノチューブおよび単層カーボンナノチューブのいずれでもよい。
カーボンナノチューブの平均直径は、好ましくは1nm以上、より好ましくは5nm以上、さらに好ましくは7nm以上であり、好ましくは20nm以下である。また、カーボンナノチューブの平均長さは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは0.6μmであり、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。平均直径が1nm以上であれば混練時に切れにくくすることができ、20nm以下であれば導電性を高めることができる傾向にある。また、平均長さが0.5μm以上であれば導電性を高めることができ、50μm以下であれば混練時の粘度上昇を抑制し、混練および成形をしやすくすることができる傾向にある。
【0051】
カーボンナノチューブの平均直径および平均長さは、カーボンナノチューブを電子顕微鏡(SEM、TEM)で観察し、算術平均することにより求めることができる。
カーボンナノチューブは、例えば、アーク放電法、化学気相成長法(CVD法)、レーザー・アブレーション法によって製造することができる。カーボンナノチューブの市販品を用いてもよい。
【0052】
カーボンナノチューブは、例えばカーボンブラックに比べて、比較的少量で高い導電性を示す傾向にあるが、高価であるためより少量で使用できればコスト面の観点から有利である。本実施形態では、導電性フィラー(C)およびエチレン系重合体(A)含有するエチレン系重合体組成物を用いることで、優れた導電性を得ることができることから、少量のカーボンナノチューブでも高い導電性が得られる傾向にある。
【0053】
導電性カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックが挙げられる。具体的には、HAF-LS、HAF、HAF-HS、FEF、GPF、APF、SRF-LM、SRF-HM、MTが挙げられる。
【0054】
導電性カーボンブラックの1次粒子径は、好ましくは0.005μm以上、より好ましくは0.01μm以上であり、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.2μm以下である。1次粒子径とは、電子顕微鏡などで測定された粒子径を平均したものである。
【0055】
炭素繊維としては、公知の種々の炭素繊維を使用することができ、例えば、ポリアクリルニトリル系、レーヨン系、ピッチ系、ポリビニルアルコール系、再生セルロース系、メゾフェーズピッチから製造されたピッチ系等の炭素繊維が挙げられる。炭素繊維は、比強度に優れている点で、軽量性と強度とが重視される用途、例えば航空機用において優位にある。
【0056】
炭素繊維は汎用繊維でよく、高強度繊維でもよい。また、炭素繊維は、長繊維、短繊維、チョップドファイバー、リサイクル繊維であってもよい。
炭素繊維の集束剤(サイズ剤)としては、例えば、ウレタン系エマルション、エポキシ系エマルション、ナイロン系エマルション、オレフィン系エマルションのいずれの集束剤も使用することができる。
【0057】
炭素繊維の平均長さ、すなわち平均繊維長は、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.3mm以上、さらに好ましくは0.5mm以上であり、好ましくは15.0mm以下、より好ましくは13.0mm以下である。平均繊維長が0.1mm以上である場合には、炭素繊維による機械物性の補強効果が充分発現される傾向にある。平均繊維長が15.0mm以下である場合には、エチレン系重合体組成物中の炭素繊維が分散することによって成形体の外観が良好となる傾向にある。
【0058】
炭素繊維の平均直径は、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上であり、好ましくは30μm以下、より好ましくは21μm以下、さらに好ましくは19μm以下である。炭素繊維の平均直径が3μm以上である場合には、成形時に炭素繊維が破損し難くなり、また、得られる成形体の衝撃強度が高くなる傾向にある。炭素繊維の平均直径が30μm以下である場合には、成形体の外観が良好となり、また、炭素繊維のアスペクト比が低下せず、成形体の剛性、耐熱性などの機械的物性に十分な補強効果が得られる傾向にある。
【0059】
導電性フィラー(C)は1種または2種以上用いることができる。
本発明の組成物が前記導電性フィラー(C)を含む場合、前記本発明の組成物における前記導電性フィラー(C)の含有量は、前記エチレン系重合体成分(A)の含有量を100質量部とすると、好ましくは30質量部以下、より好ましくは5~25質量部、さらに好ましくは10~25質量部である。前記導電性フィラー(C)の含有量が前記範囲にあると、本発明の組成物から導電性に優れた成形体を得ることができる。
【0060】
<変性オレフィン系重合体(D)>
本発明に係る組成物は、変性オレフィン系重合体(D)を含んでいてもよい。
前記変性オレフィン系重合体(D)は、たとえば、前記エチレン系重合体成分(A)と前記無機フィラー(B)および任意の前記導電性フィラー(C)との相容性を高めるための相容化剤として用いられる。
【0061】
前記変性オレフィン系重合体(D)としては、たとえば、エチレンおよび炭素原子数3~12のα-オレフィンの単独重合体または共重合体の酸変性物(例えば、無水マレイン酸変性物)、空気酸化物、またはスチレン変性物が挙げられる。これらの中でも、エチレン系重合体(エチレン単独重合体およびエチレンと炭素原子数3~12のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンとの共重合体)およびプロピレン系重合体(プロピレン単独重合体およびプロピレンと炭素原子数4~12のα-オレフィンから選ばれる少なくとも1種のα-オレフィンとの共重合体)からなる群から選ばれる重合体の変性体が好ましい。
【0062】
ここで、前記α-オレフィン(炭素原子数3~12のα-オレフィンまたは炭素原子数4~12のα-オレフィン)の例としては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテンが挙げられる。
【0063】
前記変性オレフィン系重合体(D)は、好ましくは変性エチレン系重合体である。
前記変性オレフィン系重合体(D)は、より好ましくは下記のエチレン系重合体(d1)が不飽和カルボン酸またはその誘導体でグラフト変性されている、変性エチレン系重合体(d11)である。
(d1)密度が930~970kg/m3であり、ASTM D1238に基づき測定した、190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.1~10g/10分であるエチレン系重合体。
【0064】
エチレン系重合体(d1)の密度は、930~970kg/m3、好ましくは940~965kg/m3である。密度が前記範囲にあると、エチレン系重合体成分(A)と無機フィラー(B)および任意の前記導電性フィラー(C)との相容性が高い。
【0065】
エチレン系重合体(d1)のメルトフローレート(ASTM D1238に準拠、190℃、2.16kg荷重)は、0.1~10g/10分、好ましくは0.2~8g/10分である。メルトフローレートが前記範囲にあると、エチレン系重合体成分(A)と無機フィラー(B)および任意の前記導電性フィラー(C)との相容性が高い。
【0066】
変性エチレン系重合体(d11)における不飽和カルボン酸またはその誘導体のグラフト量は、通常0.01~10質量%、好ましくは0.02~5質量%である。グラフト量が前記範囲にあると、エチレン系重合体成分(A)と無機フィラー(B)および任意の前記導電性フィラー(C)との相容性が高い。
【0067】
前記不飽和カルボン酸またはその誘導体としては、例えば、アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ナジック酸(エンドシス-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-ジカルボン酸)等の不飽和カルボン酸、およびその誘導体、例えば、酸ハライド、アミドイミド、無水物、エステル等が挙げられる。前記誘導体の具体例としては、例えば塩化マレイル、マレイミド、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、グリシジルマレエート等が挙げられる。これらの中では、不飽和ジカルボン酸およびその酸無水物が好ましく、マレイン酸、ナジック酸およびこれらの酸無水物がより好ましい。
【0068】
前記変性エチレン系重合体(d11)は、種々公知の方法で製造することができる。例えば、エチレン系重合体を有機溶媒に溶解し、次いで得られた溶液に不飽和カルボン酸またはその誘導体及び必要に応じて有機過酸化物などのラジカル開始剤を加え、通常、60~350℃、好ましくは80~190℃の温度で、0.5~15時間、好ましくは1~10時間反応させる方法、あるいは、押出機などを使用して、無溶媒で、エチレン系重合体と、不飽和カルボン酸もしくはその誘導体及び必要に応じて有機過酸化物などのラジカル開始剤を加え、通常、エチレン系重合体の融点以上、好ましくは160~350℃、0.5~10分間反応させる方法を採り得る。
【0069】
変性前のエチレン系重合体は、公知の方法、例えば高圧法あるいはチーグラー型のTi系触媒、Co系触媒、あるいはメタロセン系触媒等を用いる低圧法によって製造することができる。
【0070】
エチレン系重合体(d1)は、それぞれ、1種単独のエチレン系重合体を含んでいてもよく、2種以上のエチレン系重合体を含んでいてもよい。
エチレン系重合体(d1)が2種以上のエチレン系重合体を含む場合、その2種以上のエチレン系重合体はそれぞれ、上記エチレン系重合体(d1)の密度およびメルトフローレートの要件を満たす。
【0071】
本発明の組成物が前記変性オレフィン系重合体(D)を含む場合、前記本発明の組成物における前記変性オレフィン系重合体(D)の含有量は、前記エチレン系重合体成分(A)の含有量を100質量部とすると、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.3~8質量部、さらに好ましくは0.5~7質量部である。前記変性オレフィン系重合体(D)の含有量が前記範囲にあると、前記エチレン系重合体成分(A)、前記無機フィラー(B)、および任意の前記導電性フィラー(C)を良好に相容化させることができる。
【0072】
<任意成分>
本発明のエチレン系重合体組成物は、上述したエチレン系重合体成分(A)、無機フィラー(B)、導電性フィラー(C)、および変性オレフィン系重合体(D)に加え、必要に応じて、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、ワックス、滑剤、スリップ剤、核剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、防曇剤、染料、分散剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、相容化剤等の通常ポリオレフィンに用いる各種添加剤、あるいはエラストマーなどの衝撃強度改質剤、ポリアミドなどの重合体を、本発明の効果を損なわない範囲で含んでいてもよい。
【0073】
本発明のエチレン系重合体組成物が前記添加剤あるいは重合体を含む場合は、その量は特に限定されないが、たとえば、0.01~30質量%の範囲である。
前記添加剤としては、ワックスが好ましい。ワックスの例としては、ポリエチレン系ワックス(前記エチレン系重合体成分(AII)に相当するものを除く。)、ポリプロピレン系ワックスが挙げられる。
【0074】
本発明のエチレン系重合体組成物がワックスを含むとエチレン系重合体成分(A)中での無機フィラー(B)および導電性フィラー(C)の凝集が抑制されるので混練するのが容易になり、エチレン系重合体成分(A)中に無機フィラー(B)および導電性フィラー(C)が分散しやすいと考えられる。
【0075】
本発明のエチレン系重合体組成物がワックスを含む場合は、その量は通常、組成物全体の量に対して、0.01~10質量%の範囲である。
本発明のエチレン系重合体組成物の、JIS K 7210-1:2014に準拠し、190℃で10kgfの荷重で測定したMFRは、通常0.1~20g/10分、好ましくは0.1~10g/10分である。
【0076】
<エチレン系重合体組成物の製造方法>
本発明のエチレン系重合体組成物は、前記エチレン系重合体成分(A)、前記無機フィラー(B)、任意に前記導電性フィラー(C)、任意に前記変性オレフィン系重合体(D)、および任意に前記任意成分を、従来公知の方法で混合、たとえば各成分をドライブレンドし、続いて一軸または二軸押出機で溶融混練し、ストランド状に押出しペレットに造粒することにより得ることができる。
【0077】
前記無機フィラー(B)および前記導電性フィラー(C)、特に前記導電性フィラー(C)は、前記エチレン系重合体成分(A)等の重合体成分と予め混合してマスターバッチの形態で用いてもよい。
【0078】
<成形体>
本発明の成形体は、前記エチレン系重合体組成物を含む。成形体の製造方法(成形方法)としては、具体的には、従来公知のポリオレフィンの成形方法、例えば、押出成形、射出成形、フィルム成形、インフレーション成形、ブロー成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、プレス成形、真空成形、パウダースラッシュ成形、カレンダー成形、発泡成形等の公知の熱成形方法が挙げられる。好ましくは射出成形によって、前記エチレン系重合体組成物を加工することで、前記エチレン系重合体組成物を含む成形体を得ることが可能である。
【0079】
前記成形体は、前記エチレン系重合体組成物から形成された成形体であってもよく、また、前記エチレン系重合体組成物から形成された部分、例えば表層、を有する成形体であってもよい。
【0080】
成形体は、たとえば日用品やレクリエーション用途などの家庭用品、一般産業用途、工業用品に至る広い用途で用いられる。成形体の具体例としては、家電材料部品、通信機器部品、電気部品、電子部品、自動車部品、その他の車両の部品、船舶、航空機材料、機械機構部品、建材関連部材、土木部材、農業資材、電動工具部品、食品容器、フィルム、シート、繊維が挙げられる。
【0081】
本発明の成形体は、従来公知のポリエチレン用途に広く使用できるが、特に耐摩耗性、自己潤滑性、衝撃強度、薄肉成形などの特性のバランスに優れているので、これらが要求される用途として、例えば、鋼管、電線、自動車スライドドアレールなどの金属の被覆材(積層)、耐圧ゴムホース、自動車ドア用ガスケット、クリーンルームドア用ガスケット、自動車グラスランチャンネル、自動車ウエザストリップなどの各種ゴムの被覆材(積層)、ホッパー、シュートなどのライニング用、ギアー、軸受、ローラー、テープリール、各種ガイドレールやエレベーターレールガイド、各種保護ライナー材などの摺動材などに使用される。
【0082】
本発明の成形体は、前記導電性フィラー(C)を含む場合には、導電性にも優れるため、各種機械部品や摺動部材の帯電性を抑制することが可能であり、導電性・帯電防止を要求される用途に好適に使用できる。
【実施例0083】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0084】
[測定方法]
実施例等で得られた組成物の物性の測定方法は以下のとおりである。
〔極限粘度[η]〕
135℃、デカリン中で測定した。
〔メルトフローレート(MFR)〕
JIS K7210-1:2014に準拠し、測定温度190℃、10kgfの荷重で測定した。
【0085】
〔密度〕
エチレン系重合体成分(A)の密度は、ASTM D1505に準拠して、密度勾配法で測定した。
実施例または比較例で得られた組成物の密度は、JIS Z8807:2012に準拠し、液中秤量法により23℃、水中にて測定した。
【0086】
〔曲げ強度、曲げ弾性率〕
<JIS K7162 1A試験片の作製>
実施例または比較例で得られた組成物を、芝浦機械(株)製 EC-75SXIII型成形機のホッパー部に投入し、250℃で溶融させ、金型に射出成形することにより、JIS K7162 1A試験片を作製した。金型の温度を50~70℃、射出圧を130~150MPa、保圧を80~100MPaとした。
ただし、比較例2および3で得られた組成物の場合のみ、溶融温度を200℃に、射出圧を80~110MPa、保圧を70~90MPaに変更した。
【0087】
<曲げ強度、曲げ弾性率の測定>
JIS K7162 1A試験片を用いて、ISO 178に準拠し、上記試験片形状を80mm(長さ)、10mm(幅)、4mm(厚さ)でスパン間距離64mm、試験速度2mm/分として、曲げ強度、および曲げ弾性率を求めた。
【0088】
〔シャルピー衝撃強度〕
前記同様の方法でJIS K7162 1A試験片を作製した。
この試験片を用いて、ISO 170に準拠し、ノッチ加工を行い、ハンマー容量を4Jとしてシャルピー衝撃値を測定した。
【0089】
〔表面抵抗率、体積抵抗率〕
<長さ130mm×幅120mm×厚さ3mmの試験片の作製>
実施例または比較例で得られた組成物を、樹脂組成物を芝浦機械(株)製 EC-75SXIII型成形機のホッパー部に投入し、250℃で溶融させ、金型に射出成形することにより長さ130mm×幅120mm×厚さ3mmの試験片を作製した。金型の温度を50~70℃、射出圧を30~50MPa、保圧を25~35MPaとした。
ただし、比較例2および3で得られた組成物の場合のみ、溶融温度を200℃に、保圧を70~90MPaに変更した。
【0090】
<表面抵抗率、体積抵抗率の測定>
長さ130mm×幅120mm×厚さ3mmの試験片を用いて、(株)エーディーシー製デジタル超高抵抗/微粒電流計8340Aで、2重リング法により23℃、湿度:50%、印加電圧:500V、印加時間:60秒の条件で、表面抵抗率および体積抵抗率を測定した。
【0091】
なお、上記測定における表面抵抗率が1.0×107以下の水準については、JIS K7194:1994に準拠し、(株)日東精工アナリテック社製 ロレスタ-GX-MCP-T700 低抵抗抵抗率計を用いて、印加電流:1mA、印加時間:10秒、23℃、湿度:50%の条件で測定した。
【0092】
〔摩擦係数、比摩耗量〕
前記同様の方法で作製した長さ130mm×幅120mm×厚さ3mmの試験片を打ち抜き、長さ30mm×幅30mm×厚さ3mmの試験片を作製した。この試験片を用いて、JIS K7218「プラスチックの滑り摩耗試験A法」に準拠して、松原式摩擦摩耗試験機を使用して動摩擦係数および比摩耗量を測定した。
【0093】
試験条件は、相手材:S45C、速度:50cm/秒、距離:3km、荷重:15kg、測定環境温度:23℃とした。
なお、いずれの実施例または比較例においても、目視により、摩耗した成分にはエチレン系重合体および無機フィラーが含まれていたことが確認された。
【0094】
[原料]
実施例または比較例で用いられた原料は以下のとおりである。
【0095】
(エチレン系重合体成分(AI))
《エチレン系重合体成分(AI-1)の製造》
常法により、第1段階での重合で極限粘度[η]が30dl/gの超高分子量エチレン系重合体(重合体(a1))を、次いで第2段階での重合で極限粘度[η]が1.5dl/gの低分子量エチレン系重合体(重合体(a2))を、質量比(重合体(a1)/重合体(a2))が75/25となる割合で2段重合にて生成させて、極限粘度[η]が6.9dl/gのエチレン系重合体成分(AI-1)を得た。
【0096】
《エチレン系重合体成分(AI-2)の製造》
常法により、第1段階での重合で極限粘度[η]が30dl/gの超高分子量エチレン系重合体(重合体(a1))を、次いで第2段階での重合で極限粘度[η]が1.5dl/gの低分子量エチレン系重合体(重合体(a2))を、質量比(重合体(a1)/重合体(a2))が41/59となる割合で2段重合にて生成させて、極限粘度[η]4.4dl/gのエチレン系重合体成分(AI-2)を得た。
【0097】
《エチレン系重合体成分(AI-3)の製造》
常法により、第1段階での重合で極限粘度[η]が30dl/gの超高分子量エチレン系重合体(重合体(a1))を、次いで第2段階での重合で極限粘度[η]が1.5dl/gの低分子量エチレン系重合体(重合体(a2))を、質量比(重合体(a1)/重合体(a2))が50/50となる割合で2段重合にて生成させて、極限粘度[η]4.7dl/gのエチレン系重合体成分(AI-3)を得た。
【0098】
(エチレン系重合体成分(AII))
以下のエチレン系重合体成分を使用した。
エチレン系重合体成分(AII-1):極限粘度[η]が1.1dl/g、密度965kg/m3の高密度低分子量ポリエチレン((株)プライムポリマー社製、商品名ハイゼックス1700J)
【0099】
(エチレン系重合体成分(A))
《エチレン系重合体成分(A-1)の製造》
エチレン系重合体成分(AI-1)とエチレン系重合体成分(AII-1)とを、質量比((AI-1)/(AII-1))が33/67となる割合で配合し、池貝鉄工製・PCM二軸押出機を用いてメルトブレンドし、ペレット状の極限粘度[η]が5.8dl/gのエチレン系重合体成分(A-1)を得た。エチレン系重合体成分(A-1)中の超高分子量エチレン系重合体(重合体(a1))含量は25質量%であった。
【0100】
《エチレン系重合体成分(A-2)の製造》
エチレン系重合体成分(AI-2)とエチレン系重合体成分(AII-1)とを、質量比((AI-1)/(AII-1))が49/51となる割合で配合し、池貝鉄工製・PCM二軸押出機を用いてメルトブレンドし、ペレット状の極限粘度[η]が3.0dl/gのエチレン系重合体成分(A-2)を得た。エチレン系重合体成分(A-2)中の超高分子量エチレン系重合体(重合体(a1))含量は20質量%であった。
【0101】
《エチレン系重合体成分(A-3)の製造》
エチレン系重合体成分(AI-3)とエチレン系重合体成分(AII-1)とを、質量比((AI-1)/(AII-1))が46/54となる割合で配合し、池貝鉄工製・PCM二軸押出機を用いてメルトブレンドし、ペレット状の極限粘度[η]が4.3dl/gのエチレン系重合体成分(A-3)を得た。エチレン系重合体成分(A-3)中の超高分子量エチレン系重合体(重合体(a1))含量は23質量%であった。
【0102】
(無機フィラー(B))
以下の無機フィラーを使用した。
無機フィラー(B-1):タルク(平均粒径:4.5μm 松村産業(株)製 ハイフィラー#5000PJ)
無機フィラー(B-2):タルク(平均粒径:19.0μm 松村産業(株)製 クラウンタルクID)
無機フィラー(B-3):カオリン(平均粒径:1.4μm BASF製 TRANSLINK 445)
【0103】
(導電性フィラー(C))
以下の導電性フィラーを使用した。
導電性フィラー(C-1):カーボンナノチューブ(平均直径:9.5nm、平均長さ:1.5μm ナノシル社製 NC7000)
【0104】
(導電性フィラー含有マスターバッチ)
《導電性フィラー含有マスターバッチ(MC-1)の製造》
導電性フィラー(C-1)を15質量%、エチレン系重合体成分(A-2)を75質量%、およびワックス(ポリエチレン系ワックス)を10質量%の割合で混合し、導電性フィラー含有マスターバッチ(MC-1)を製造した。
【0105】
《導電性フィラー含有マスターバッチ(MC-2)の製造》
導電性フィラー(C-1)を15質量%、エチレン系重合体成分(AII-1)を75質量%、ワックス(ポリエチレン系ワックス)を10質量%の割合で混合し、導電性フィラー含有マスターバッチ(MC-2)を製造した。
【0106】
(変性オレフィン系重合体(D))
以下の変性オレフィン系重合体を相容化剤として使用した。
変性オレフィン系重合体(D):(国際公開第2019/209169号、段落[0042]~[0043]に記載されたエチレン系重合体PE-0の製造方法に基づいて製造した、マレイン酸変性エチレン系重合体(密度:965kg/cm3、MFR(190℃、2.16kg荷重):5g/10分、変性度:2.4)
【0107】
[実施例1]
エチレン系重合体成分(A-1)を29質量%、無機フィラー(B-1)を10質量%、導電性フィラー含有スターバッチ(MC-1)を60質量%、および変性オレフィン系重合体(D)を1質量%の割合でドライブレンドした後、(株)プラスチック工学研究所社製BT30二軸押出機のホッパー部に投入し、250℃で溶融混錬して、組成物1を得た。組成物1中の各成分の割合(エチレン系重合体の総量を100質量部とする。)を表1に示す。
また、組成物1の物性を上記の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0108】
[実施例2、3、7、10]
エチレン系重合体成分(A-1)、無機フィラー(B-1)、導電性フィラー含有マスターバッチ(MC-1)、および変性オレフィン系重合体(D)の量を表1に示す配合量になるように調製したこと以外は実施例1と同様にして組成物を製造し、その物性を測定した。結果を表1に示す。
【0109】
[実施例4、5、6]
無機フィラー(B-1)の代わりに無機フィラー(B-3)を用い、エチレン系重合体成分(A-1)、無機フィラー(B-3)、導電性フィラー含有マスターバッチ(MC-1)、および変性オレフィン系重合体(D)の量を表1に示す配合量になるように調製したこと以外は実施例1と同様にして組成物を製造し、その物性を測定した。結果を表1に示す。
【0110】
[実施例8]
無機フィラー(B-1)の代わりに無機フィラー(B-2)を用い、エチレン系重合体成分(A-1)、無機フィラー(B-2)、導電性フィラー含有マスターバッチ(MC-1)、および変性オレフィン系重合体(D)の量を表1に示す配合量になるように調製したこと以外は実施例1と同様にして組成物を製造し、その物性を測定した。結果を表1に示す。
【0111】
[実施例9]
エチレン系重合体成分(A-1)の代わりにエチレン系重合体成分(A-2)を用い、エチレン系重合体成分(A-2)、無機フィラー(B-1)、導電性フィラー含有マスターバッチ(MC-1)、および変性オレフィン系重合体(D)の量を表1に示す配合量になるように調製したこと以外は実施例1と同様にして組成物を製造し、その物性を測定した。結果を表1に示す。
【0112】
[実施例11]
エチレン系重合体成分(A-1)の代わりにエチレン系重合体成分(A-3)を用い、導電性フィラー含有マスターバッチ(MC-1)を用いず、エチレン系重合体成分(A-3)、無機フィラー(B-1)、および変性オレフィン系重合体(D)の量を表1に示す配合量になるように調製したこと以外は実施例1と同様にして組成物を製造し、その物性を測定した。結果を表1に示す。
【0113】
[実施例12]
エチレン系重合体成分(A-1)の代わりにエチレン系重合体成分(A-3)を用い、無機フィラー(B-1)の代わりに無機フィラー(B-3)を用い、導電性フィラー含有マスターバッチ(MC-1)を用いず、エチレン系重合体成分(A-3)、無機フィラー(B-3)、および変性オレフィン系重合体(D)の量を表1に示す配合量になるように調製したこと以外は実施例1と同様にして組成物を製造し、その物性を測定した。結果を表1に示す。
【0114】
[比較例1]
エチレン系重合体成分(A-1)、無機フィラー(B-1)、導電性フィラー(C-1)含有マスターバッチ(MC-1)、および変性オレフィン系重合体(D)の量を表1に示す配合量になるように調製したこと以外は実施例1と同様にして組成物を製造し、その物性を測定した。結果を表1に示す。
【0115】
[比較例2]
エチレン系重合体成分(AII-1)を38質量%、無機フィラー(B-1)を20質量%、導電性フィラー含有マスターバッチ(MC-2)を60質量%、および変性オレフィン系重合体(D)を2質量%の割合でドライブレンドした後、(株)プラスチック工学研究所社製BT30二軸押出機のホッパー部に投入し、200℃で溶融混錬して、組成物を得た。実施例1と同様にしてその物性を測定した。結果を表1に示す。
【0116】
[比較例3]
無機フィラー(B-1)の代わりに無機フィラー(B-3)を用い、エチレン系重合体成分(AII-1)、無機フィラー(B-3)、導電性フィラー含有マスターバッチ(MC-2)、および変性オレフィン系重合体(D)の量を表1に示す配合量になるように調製したこと以外は比較例2同様にして組成物を製造し、その物性を測定した。結果を表1に示す。
【0117】
【表1-1】
【0118】
【表1-2】