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特開2023-98295水害危険度評価方法、及び、水害危険度評価システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098295
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】水害危険度評価方法、及び、水害危険度評価システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/26 20120101AFI20230703BHJP
【FI】
G06Q50/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214966
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萩原 由訓
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC35
(57)【要約】
【課題】水害の危険度を定量的に評価できる水害危険度評価方法及び水害危険度評価システムを提供する。
【解決手段】評価対象領域の水害の危険度を定量的に評価すべく、過去に水害が発生した箇所を含む或る領域における過去の水害有無を示す過去データに基づく水害の発生確率を目的変数とし、前記或る領域における情報を示す所定の指標を説明変数として、ロジスティック回帰分析により関係式を、コンピュータが導いて評価対象領域の水害危険度を評価する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
或る領域における過去の水害有無を示す過去データに基づく水害の発生確率を目的変数とし、前記或る領域の所定の指標を説明変数として、ロジスティック回帰分析により関係式を、コンピュータが導くことを特徴とする水害危険度評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の水害危険度評価方法であって、
前記過去データは、過去に水害が発生した箇所を含むサンプル領域を所定のメッシュサイズに区分した複数のサンプル区分の、各々の前記サンプル区分における過去の水害有無を示すデータであり、
前記所定の指標は、各々の前記サンプル区分の情報であることを特徴とする水害危険度評価方法。
【請求項3】
請求項2に記載の水害危険度評価方法であって、
前記関係式と、評価対象領域を前記所定のメッシュサイズに区分した複数の評価対象区分の、各々の前記評価対象区分の情報を示す前記所定の指標と、に基づいて、各々の前記評価対象区分における水害の発生確率を、コンピュータが計算することを特徴とする水害危険度評価方法。
【請求項4】
請求項3に記載の水害危険度評価方法であって、
前記所定の指標は、前記サンプル区分または前記評価対象区分における標高、ラプラシアン、傾斜、地質、及び、地盤条件のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする水害危険度評価方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の水害危険度評価方法であって、
前記所定の指標は、対象となる前記サンプル区分と隣接する前記サンプル区分の前記所定の指標及び前記評価対象区分と隣接する前記評価対象区分の前記所定の指標を含むことを特徴とする水害危険度評価方法。
【請求項6】
請求項3乃至請求項5のいずれかに記載の水害危険度評価方法であって、
前記水害の発生確率は、浸水発生確率であることを特徴とする水害危険度評価方法。
【請求項7】
或る領域における過去の水害有無を示す過去データと、前記或る領域の所定の指標と、を記憶する記憶部と、
前記過去データに基づく水害の発生確率を目的変数とし、前記所定の指標を説明変数として、ロジスティック回帰分析により、前記過去データと前記所定の指標との関係式を導く演算処理部と、
を有することを特徴とする水害危険度評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水害危険度評価方法、及び、水害危険度評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市部における集中的な豪雨により人的・物的被害が数多く発生しており、水害に対する危険度評価のニーズが高まっている。これに対して、自治体等では、独自に水害のハザードマップを作成して公開している。一方、全国に点在する拠点(工場や支社等)を有する企業では、水害対策を行う際に、優先順位を決めるために危険度の比較を行う場合があるが、自治体毎に被害想定などの条件が異なるため、危険度を個別に調査する必要が生じ手間がかかっていた。そこで、異なる地域において危険度を同じ指標で評価する方法が提案されている。例えば、非特許文献1には、その土地がそもそも持っている水害(内水氾濫および外水氾濫)に対する危険度を、全国同じ指標でかつ簡易的に評価するために、地形の凸凹の指標として使われることが多いラプラシアンを用いることで、水害の危険度を評価する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】大林組技術研究所報No.79 2015「GISデータを用いた都市水害に関する簡易危険度評価の研究」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の危険度評価方法では、評価対象となる区域を所定の大きさのメッシュ(一辺の長さが250m)で区切ったときの標高データを用いて地盤の凹凸を算出し、算出した地盤の凹凸に基づいて、水害危険度に対応する色に、評価対象となる区域を示す地図を着色して水害被害危険度を示していた。例えば、水害危険度が高い領域は色が濃く、水害危険度が低い領域は着色されていない。このような従来の評価方法は、水害危険度を示す色を分ける閾値に科学的な意味はないので、定性的な評価しかできないという課題があった。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、水害の危険度を定量的に評価できる水害危険度評価方法、及び、水害危険度評価システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための主たる発明は、或る領域における過去の水害有無を示す過去データに基づく水害の発生確率を目的変数とし、前記或る領域の所定の指標を説明変数として、ロジスティック回帰分析により関係式を、コンピュータが導くことを特徴とする水害危険度評価方法である。
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、水害の危険度を定量的に評価できる水害危険度評価方法、及び、水害危険度評価システムを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】水害危険度評価システムを示すブロック図である。
図2】評価対象領域と、50mサイズ及び250mサイズのメッシュを示す図である。
図3】浸水発生確率の評価方法を説明するフロー図である。
図4】過去データを説明するための図である。
図5】サンプル領域と、50mサイズ及び250mサイズのメッシュを示す図である。
図6】サンプル中間区分内に含まれるサンプル区分を説明する図である。
図7】サンプル区分に対応付けられたデータベースを示す図である。
図8】ロジスティック回帰分析により求められた回帰変数及び回帰変数の評価結果を示す図である。
図9】単純な回帰分析とロジスティック回帰分析との相違を説明する図である。
図10】隣接する評価対象区分の影響を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書及び添付図面により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0010】
或る領域における過去の水害有無を示す過去データに基づく水害の発生確率を目的変数とし、前記或る領域の所定の指標を説明変数として、ロジスティック回帰分析により関係式を、コンピュータが導くことを特徴とする水害危険度評価方法である。
【0011】
このような水害危険度評価方法によれば、過去データに基づく水害の発生確率を目的変数とし、所定指標を説明変数としたロジスティック回帰分析により関係式が導かれるので、水害危険度の評価を望む領域に対して定量的な評価を行うことが可能となる。
【0012】
かかる水害危険度評価方法であって、前記過去データは、過去に水害が発生した箇所を含むサンプル領域を所定のメッシュサイズに区分した複数のサンプル区分の、各々の前記サンプル区分における過去の水害有無を示すデータであり、
前記所定の指標は、各々の前記サンプル区分の情報であることを特徴とする。
【0013】
このような水害危険度評価方法によれば、複数のサンプル区分における過去の水害有無を示す過去データに基づく水害の発生確率を目的変数とし、サンプル区分における所定の指標を説明変数としたロジスティック回帰分析により関係式が導かれるので、サンプル区分と同一のメッシュサイズごとの、水害の発生確率を求めることが可能となる。
【0014】
かかる水害危険度評価方法であって、前記関係式と、評価対象領域を前記所定のメッシュサイズに区分した複数の評価対象区分の、各々の前記評価対象区分の情報を示す前記所定の指標と、に基づいて、各々の前記評価対象区分における水害の発生確率を、コンピュータが計算することを特徴とする。
【0015】
このような水害危険度評価方法によれば、評価対象領域を、サンプル区分と同じメッシュサイズに区分した複数の評価対象区分における、サンプル区分と同じ指標と、ロジスティック回帰解析により導かれた関係式と、に基づいて、各々の評価対象区分における水害の発生確率を計算するので、各評価対象区分に対して、過去の事例に基づいたより正確な水害発生確率を計算することが可能となる。
【0016】
かかる水害危険度評価方法であって、前記所定の指標は、前記サンプル区分または前記評価対象区分における標高、ラプラシアン、傾斜、地質、及び、地盤条件のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする。
【0017】
このような水害危険度評価方法によれば、水害の要因となり得る標高、ラプラシアン、傾斜、地質、及び、地盤条件のうちの少なくとも1つが指標に含まれているので、より正確な水害発生確率を計算することが可能となる。
【0018】
かかる水害危険度評価方法であって、前記所定の指標は、対象となる前記サンプル区分と隣接する前記サンプル区分の前記所定の指標及び前記評価対象区分と隣接する前記評価対象区分の前記所定の指標を含むことを特徴とする。
【0019】
このような水害危険度評価方法によれば、対象となるサンプル区分は隣接するサンプル区分と繋がっているので、隣接するサンプル区分の影響も含めた情報に基づいて関係式を導くことが可能となる。このため、より正確な水害発生確率を計算することが可能な関係式を導くことが可能となる、また、この関係式による計算には、評価する評価対象区分と繋がった隣接する評価対象区分の指標が含まれるので、隣接する評価対象区分の影響も含めた水害発生確率を計算することが可能となる。このため、更に正確な水害発生確率を計算することが可能となる。
【0020】
かかる水害危険度評価方法であって、前記水害の発生確率は、浸水発生確率であることを特徴とする。
【0021】
このような水害危険度評価方法によれば、浸水発生確率を定量的に評価することが可能となる。
【0022】
また、或る領域における過去の水害有無を示す過去データと、前記或る領域の所定の指標と、を記憶する記憶部と、
前記過去データに基づく水害の発生確率を目的変数とし、前記所定の指標を説明変数として、ロジスティック回帰分析により、前記過去データと前記所定の指標との関係式を導く演算処理部と、
を有することを特徴とする水害危険度評価システムである。
【0023】
このような水害危険度評価システムによれば、過去データに基づく水害の発生確率を目的変数とし、所定指標を説明変数としたロジスティック回帰分析により関係式が導かれるので、水害危険度の評価が望まれる領域に対して定量的な評価を行うことが可能な水害危険度評価システムを提供することが可能となる。
【0024】
===実施形態===
本実施形態に係る水害危険度評価方法及び水害危険度評価システムについて図を用いて説明する。
【0025】
本実施形態においては、或る領域(評価対象領域)における水害危険度の評価を、浸水発生確率を計算して評価する方法を例に挙げて説明する。本実施形態では、或る評価対象領域を所定の大きさのメッシュに区分けし、区分けした各区分(評価対象区分)における浸水発生確率を計算する。
【0026】
各評価対象区分おける浸水発生確率は、浸水の発生確率を目的変数とし、浸水の要因として想定される複数の指標を説明変数としたロジスティック回帰分析により関係式を導き、導かれた関係式と、各評価対象区分の所定の指標とに基づいて計算する処理を、図1に示すような、記憶部1、演算処理部2、入力部3、表示部4などを備えたコンピュータ等の公知の情報処理システム5により実行する。記憶部1には、後述する、過去データ、所定の指標となる説明変数を入力部3により入力して記憶可能であり、記憶されたデータに基づいてロジスティック回帰分析により関係式を導き、導かれた関係式と、各評価対象区分の所定の指標とに基づいて浸水発生確率を計算する処理を実行するプログラム等が記憶されている。すなわち、情報処理システム5が水害危険度評価システムに相当する。
【0027】
本実施形態においては、図2に示すような、評価対象領域RAを50mメッシュに区分けした評価対象区分R1a~R12yごとに、浸水発生確率pを計算する。図2においては、枠に囲まれた領域が評価対象領域RAであり、評価対象領域RAが50mサイズのメッシュにより区分けされている。
【0028】
図2おいては、評価対象領域RAが、250mサイズのメッシュにより評価対象中間区分R1~R12に区分けされ、各評価対象中間区分R1~R12が各々50mサイズのメッシュにより評価対象区分R1a~R12yに区分けされている。浸水発生確率pは、個々の評価対象区分R1a~R12yごとに計算する。尚、図2では、50mサイズのメッシュの表示を一部省略しているが、評価対象領域RAは全体が50mメッシュに区分けされている。
【0029】
浸水発生確率pの計算は、図3に示すように、まず、図4に示すような、過去に浸水が発生した箇所を含む或る領域(サンプル領域)SAの地図において水害発生箇所Qが抽出されて示された過去データと、浸水の要因として想定される複数の指標となるデータを収集し(Step1)、収集したデータをデータベース化して記憶部1に記憶する(Step2)。記憶されたデータベースから、(式1)に示すロジスティック回帰分析の式における各回帰変数βを求め(Step3)、(式1)に求められた回帰変数βが代入して関係式を導く。導かれた関係式と、評価対象領域RAの指標となるデータとに基づいて評価対象領域RAの浸水発生確率pを算出し、水害危険度を評価する(Step4)。以下に詳述する。ここで、関係式を導く際には、目的変数の浸水発生確率pを、過去に浸水が発生した実績に基づき、過去に浸水が発生した場合を、浸水発生率100%を示す「1」とし、過去に浸水は発生していない場合を、浸水発生率0を示す「0」として関係式を導く。図4においては、過去に浸水が発生した浸水発生箇所Qを網掛けして示している。
【0030】
log(p/(1-p))=β0+β1*説明変数1+β2*説明変数2+・・・
∴p=1/[1+exp{-(β0+β1*説明変数1+β2*説明変数2・・・)}]
・・・(式1)
p:浸水発生確率
【0031】
過去データは、過去に浸水が発生した箇所が示された実在する領域(サンプル領域)SAの地図に対応付けられたデータであり、たとえば、国土交通省が全国を対象として公開している土地履歴調査データ(国土交通省国土政策局国土情報課土地分類基本調査(土地履歴調査)https://nlftp.mlit.go.jp/kokjo/inspect/landclassification/land/land_history_2011/pdf_landform_03.html)、東京都建設局「過去の水害記録~浸水実績図~」https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/jigyo/river/suishin/suigai_kiroku/kako.html等を利用することができる。 サンプル領域SAは、図5に示すように、サンプル領域SAが評価対象領域RAと同様に、50mサイズのメッシュにより区分けされている。
【0032】
なお、図5においても、図3に評価対象領域RAと同様に、250mサイズのメッシュによりサンプル中間区分S1~S12に区分けされ、各サンプル中間区分S1~S12が各々50mサイズのメッシュによりサンプル区分S1a~S12yに区分けされている。
【0033】
以下、主として、サンプル中間区分S1に含まれる25個のサンプル区分S1a~S1yを例に挙げて説明する。まず、過去データから各サンプル区分S1a~S1yにおける過去の浸水発生有無を調べ、各サンプル区分S1a~S1yと対応付けた浸水発生確率pとして記憶部1に記憶しておく。
【0034】
例えば、図6に示すように、サンプル区分S1aには、過去に浸水が発生した箇所が含まれていないので、サンプル区分S1aの浸水発生確率pとして「0」を、サンプル区分S1aの位置情報と対応付けて記憶部1に記憶しておく。また、サンプル区分S1dは、過去に浸水が発生した箇所がより広く占めている。このため、サンプル区分S1dの浸水発生確率pとして「1」をサンプル区分S1dの位置情報と対応付けて記憶部1に記憶しておく。
【0035】
各サンプル区分S1a~S12yにおける浸水発生確率pは、例えば、1つのサンプル区分の面積に対する過去に浸水が発生した箇所が占める面積の割合に応じて、浸水発生有り「1」と浸水発生無し「0」に分けており、閾値は、浸水が発生した箇所が占める面積の割合が、30%、50%、80%など適宜設定する。このとき、閾値を小さく設定する方が、より安全側に寄った浸水発生確率を計算する関係式が導かれることになる。ここでは、浸水が発生した箇所が占める面積の割合が50%の場合を、浸水発生有り「1」とし、50%未満を浸水発生無し「0」とする。
【0036】
説明変数は、浸水の要因として想定される各指標であり、例えば、各サンプル区分S1a~S1yにおける標高、ラプラシアン、傾斜、地盤条件や、対象となるサンプル区分に隣接するサンプル区分の傾斜等である。本実施形態においては、以下に示す10個の指標を説明変数1~10として用いる。
【0037】
説明変数1は、50mサイズのメッシュにより区分けされた各サンプル区分S1a~S12yの標高データであり、説明変数2は、各サンプル区分S1a~S12yが含まれる250mサイズのメッシュにより区分けされたサンプル中間区分S1~S12の標高データである。例えば、サンプル区分S1a~S1yにおける標高データは、50mサイズのメッシュにより区分けされた各サンプル区分S1a~S1yの標高データ(説明変数1)と、各々のサンプル区分S1a~S1yが含まれるサンプル中間区分S1の標高データ(説明変数2)である。
【0038】
各サンプル区分S1a~S12yにおける標高データは、例えば、国土地理院基盤地図情報数値標高モデルhttps://fgd.gsi.go.jp/download/ref_dem.html、国土数値情報 標高・傾斜度5次メッシュデータhttps://nlftp.mlit.go.jp/ksj/gml/datalist/KsjTmplt-G04-d.html等を利用することができる。
【0039】
説明変数3は、各サンプル区分S1a~S12yのラプラシアンであり、説明変数4は、各サンプル区分S1a~S12yが含まれるサンプル中間区分S1~S12のラプラシアンである。ラプラシアンは、或る領域における凹凸の変動を数値化して表す値であり、例えば上述した、国土交通省が全国を対象として公開している標高データに基づいて算出される。
【0040】
例えば、サンプル区分S1aの説明変数3は、50mサイズのメッシュにより区分けされたサンプル区分S1aの標高データに基づいて計算した50mメッシュのラプラシアンであり、サンプル区分S1aの説明変数4は、サンプル区分S1aが含まれるサンプル中間区分S1の標高データに基づいて計算した250mメッシュのラプラシアンである。
【0041】
説明変数5は、各サンプル区分S1a~S12yが含まれるサンプル中間区分S1~S12の傾斜データである。例えば、サンプル区分S1a~S1yにおける傾斜データは、各々のサンプル区分S1a~S1yが含まれるサンプル中間区分S1の傾斜データである。
【0042】
各サンプル区分S1a~S12yにおける傾斜データは、例えば、国土数値情報 標高・傾斜度5次メッシュデータ(https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/gml/datalist/KsjTmplt-G04-d.html)等を利用することができる。
【0043】
説明変数6は、各サンプル区分S1a~S12yの地盤条件のデータであり、例えば、防災科学技術研究所J-SHIS 表層地盤https://www.j-shis.bosai.go.jp/map/の微地形より推定された、地下30mまでの平均S波速度データ、国土地理院 土地条件図https://www.gsi.go.jp/bousaichiri/lc_index.html等を利用することができる。例えば、サンプル区分S1aの説明変数6は、サンプル区分S1aの地下30mまでの平均S波速度データである。
【0044】
説明変数7~10は、対象となるサンプル区分S1a~S12yに隣接するサンプル区分S1a~S12yの傾斜データである。説明変数7~10には、例えば、上述した国土数値情報 標高・傾斜度5次メッシュデータ(https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/gml/datalist/KsjTmplt-G04-d.html)等を利用することができる。隣接するサンプル区分S1a~S12yの傾斜データとしては、50mメッシュにより区分けされたサンプル区分S1a~S12yの傾斜データと、隣接するサンプル区分S1a~S12yが含まれるサンプル中間区分S1~S12の傾斜データと、を用いる。
【0045】
説明変数7~10は、例えば、対象となるサンプル区分をサンプル区分S1bとしたときに、サンプル区分S1bの川上側にて隣接するサンプル区分、例えばサンプル区分S1aの傾斜データが説明変数7となり、サンプル区分S1aが含まれるサンプル中間区分S1の傾斜データが説明変数8となる。対象となるサンプル区分S1bの川下側にて隣接するサンプル区分、例えばサンプル区分S1cの傾斜データが説明変数9となり、サンプル区分S1cが含まれるサンプル中間区分S1の傾斜データが説明変数10となる。
【0046】
上述した説明変数1~10は、各サンプル区分S1a~S1yの浸水発生確率pと対応付けて図7に示すようにデータベース化し記憶部1に記憶しておく。
【0047】
記憶部1に記憶されたデータベースに基づいて、各サンプル区分S1a~S1yの浸水発生確率pを目的変数とし、説明変数1~10を用い、演算処理部2により、例えば、コンピュータの表計算アプリケーションなどを用いてロジスティック回帰分析を実行し、関係式を導く。
【0048】
ロジスティック回帰分析により、関係式の各説明変数1~10の回帰変数β0~β10が求められる。図7に示すデータベースに基づいてロジスティック回帰分析を実行した結果、図8に示すように、各回帰変数β0~β10が求められる。
【0049】
求められた回帰変数β0~β10については、有意確率を求めて評価を行い、説明力がないと判断された説明変数は排除する。例えば、仮に回帰変数βが「0」だった場合における有意確率を計算して求められた回帰変数β0~β10を評価する。図8に示す例では、説明変数7の川上傾斜(50mメッシュ)の有意確率は0.56であり、浸水発生確率と、説明変数7の川上傾斜(50mメッシュ)は無関係[β=0]であるにもかかわらず、偶然β7=1.1になった確率が56%であるから、説明変数7は説明力がないと判断し、説明変数7は、説明変数から排除する。以上により求められた回帰変数β1~β6、β8~β10を(式1)に当て嵌めて、所望の評価対象領域RAの浸水発生確率pを求めるための関係式(式1にβの値を代入した式)が導かれる。
【0050】
導かれた関係式(式1にβの値を代入した式)に基づいて、図2に示す評価対象領域RAにおける、50mサイズのメッシュにより区分けされた評価対象区分R1a~R12yの浸水発生確率を演算処理部2により計算する。
【0051】
具体的には、サンプル区分と同一サイズのメッシュ(50mメッシュ)により区分けした評価対象区分R1a~R12yにおける、説明変数1~10を、サンプル区分と同様に各種データに基づいて取得し、各評価対象区分R1a~R12yと対応付けて評価対象領域RAのデータベースを作成し、記憶部1に記憶する。
【0052】
演算処理部2により導かれた関係式(式1にβの値を代入した式)に、評価対象領域RAのデータベースの各値が代入されて、各評価対象区分R1a~R12yにおける浸水発生確率pが計算される。すなわち、各評価対象区分R1a~R12yにおける浸水発生危険度を浸水発生確率pにより定量的に評価する。
【0053】
本実施形態の浸水危険度評価方法によれば、過去データに基づく浸水発生確率pを目的変数とし、所定指標を説明変数1~10としたロジスティック回帰分析により導かれた関係式(式1にβの値を代入した式)と、評価対象領域RAを、サンプル区分S1a~S12yと同じメッシュサイズに区分した複数の評価対象区分R1a~R12yの同じ指標でなる説明変数1~10と、に基づいて、各々の評価対象区分R1a~R12yにおける浸水発生確率pを計算するので、過去の事例に基づいたより正確な浸水発生確率pが計算される。このため、各評価対象区分R1a~R12yにおける浸水危険度を定量的に評価することが可能となる。
【0054】
また、関係式をロジスティック回帰分析により導くので、図9のグラフBに示す単純な回帰分析の結果のように、浸水発生確率pの範囲が-∞~∞とならず、図9のグラフCに示すように浸水発生確率を0~1の範囲で求めることができる。このため、浸水の発生確率を定量的に評価することが可能となる。
【0055】
また、ロジスティック回帰分析の説明変数となる指標として、水害の要因となり得る、サンプル区分S1a~S12yまたは評価対象区分R1a~R12yにおける標高、ラプラシアン、傾斜、地質、及び、地盤条件のうちの少なくとも1つを含ませることにより、より正確な浸水発生確率pを計算することが可能となる。
【0056】
また、対象となるサンプル区分S1a~S12yは隣接するサンプル区分S1a~S12yと繋がっているので、隣接するサンプル区分S1a~S12yの影響も含めた情報に基づいて関係式(式1にβの値を代入した式)を導くことが可能となる。このため、より正確な浸水発生確率pを計算することが可能な関係式(式1にβの値を代入した式)を導くことが可能となる。
【0057】
また、この関係式(式1にβの値を代入した式)を用いた所望の評価対象領域RAの浸水発生確率pの計算には、評価する評価対象区分R1a~R12yと繋がった隣接する評価対象区分R1a~R12yの指標が含まれるので、隣接する評価対象区分R1a~R12yの影響も含めた浸水発生確率を計算することが可能となる。このため、更に正確な浸水発生確率pを計算することが可能となる。
【0058】
例えば、図10(a)に示すように、川上にて隣接する評価対象区分の傾斜が大きく、川下にて隣接する評価対象区分の傾斜が小さい場合には、より浸水しやすい可能性が高く、図10(b)に示すように、川上にて隣接する評価対象区分の傾斜が小さく、川下にて隣接する評価対象区分の傾斜が大きい場合には、浸水しにくいと考えられる。このため、評価対象区分の川上にて隣接する評価対象区分の傾斜データと、評価対象区分の川下にて隣接する評価対象区分の傾斜データとを指標として用いることにより、計算された浸水発生確率の精度が向上する。
【0059】
また、上述した関係式を導くロジスティック回帰分析や、関係式とデータベースに基づく浸水発生確率の計算は、コンピュータなどの情報処理システム5により実行するので、容易に且つ短時間で、より正確な浸水発生確率を求めることが可能である。
【0060】
===その他の実施形態について===
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0061】
上記実施形態においては、水害危険度の評価として、過去に浸水が発生した箇所を含む領域において浸水発生箇所が示された過去データを用いて浸水発生確率を計算する例について説明したが、これに限るものではない。例えば、水害の過去データとして、過去に土砂災害発生した箇所を含む領域において土砂災害発生箇所が示された過去データを用いて土砂災害発生確率を計算して、水害危険度を評価しても構わない。
【0062】
上述の実施形態では、水害発生確率を算出するためのデータとして、土地履歴調査データ、国土数値情報 標高・傾斜度5次メッシュデータ、防災科学技術研究所J-SHIS 表層地盤データ等を利用する例について説明したが、これらに限らず、例えば全国的に統一されており、ある程度信憑性のあるデータであれば、他のデータを使用しても構わない。
【符号の説明】
【0063】
1 記憶部、
2 演算処理部、
3 入力部、
4 表示部、
5 情報処理システム、
Q 浸水発生箇所、
RA 評価対象領域、
R1~R12 評価対象中間区分、
R1a~R12y 評価対象区分、
SA サンプル領域、
S1~S12 サンプル中間区分、
S1a~S12y サンプル区分、
M50 メッシュサイズ50mの領域、
M250 メッシュサイズ250mの領域、
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10