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  • 特開-積層型防振ゴム及びゴム部材 図1
  • 特開-積層型防振ゴム及びゴム部材 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098306
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】積層型防振ゴム及びゴム部材
(51)【国際特許分類】
   F16F 1/387 20060101AFI20230703BHJP
   F16F 1/40 20060101ALI20230703BHJP
   F16F 1/393 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
F16F1/387 D
F16F1/40
F16F1/393
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214991
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】517413605
【氏名又は名称】ニッタ化工品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畦地 利夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慶典
(72)【発明者】
【氏名】坂口 直紀
【テーマコード(参考)】
3J059
【Fターム(参考)】
3J059AB15
3J059BA42
3J059BA43
3J059BA55
3J059BC06
3J059BC12
3J059BD01
3J059BD05
3J059CA14
3J059CB09
3J059DA18
3J059DA46
3J059EA06
3J059GA01
(57)【要約】
【課題】難燃性、耐寒性、耐久性に優れる積層型防振ゴム及びゴム部材を提供する。
【解決手段】積層型防振ゴム1は、主軸2と、主軸2の軸心Pに対して同心状に配置された外筒3と、複数の弾性層12a,12b,12c,12d,12eと一又は複数の硬質層13a,13b,13c,13dとを軸心Pに対する径内外方向へ交互に積層させた構成を有し、主軸2と外筒3との間に介装されている弾性部4と、弾性層12a,12b,12c,12d,12eを少なくとも覆う被覆層5とを備え、弾性層12a,12b,12c,12d,12eは、天然ゴムを主成分として含み、被覆層5は、弾性層12a,12b,12c,12d,12eよりも高い難燃性を有するイソプレンゴムを主成分として含むゴム組成物から構成されている。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸と、
前記主軸の軸心に対して同心状に配置された外筒と、
複数の弾性層と一又は複数の硬質層とを前記軸心に対する径内外方向へ交互に積層させた構成を有し、前記主軸と前記外筒との間に介装されている弾性部と、
前記弾性層を少なくとも覆う被覆層とを備え、
前記弾性層は、天然ゴムを主成分として含み、
前記被覆層は、前記弾性層よりも高い難燃性を有するイソプレンゴムを主成分として含むゴム組成物から構成されている積層型防振ゴム。
【請求項2】
前記ゴム組成物は、シス-1,4結合量が95%以上であるイソプレンゴムを50質量%以上含むゴム成分と、前記ゴム成分100質量部に対し120質量部以上の水酸化マグネシウム及び/又は水酸化アルミニウムとを含む請求項1に記載の積層型防振ゴム。
【請求項3】
天然ゴムを主成分として含む弾性層と、
前記弾性層の表面に設けられ、前記弾性層よりも高い難燃性を有するイソプレンゴムを主成分として含むゴム組成物から構成されている被覆層とを備えるゴム部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用、特に鉄道車両用として好適に用いられる積層型防振ゴム及びゴム部材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、鉄道車両においては、レール上を走行する台車枠と車軸側部材との間に積層型防振ゴムが介装されている。また、台車枠と車体部との間に設けられた空気ばねの変位補助として、当該空気ばねと台車枠との間にストッパーとしての積層型防振ゴムが介装されている。積層型防振ゴムは、主軸と、主軸の軸心に対して同心状に配置された外筒と、主軸と外筒との間に介装されている弾性部とを含んで構成される。この積層型防振ゴムにより鉄道車両の蛇行動や上下動時の衝撃が吸収緩和される。
【0003】
近年では、火災の発生などを考慮し、積層型防振ゴムの難燃性を向上させることが求められている。難燃性を向上させる方法として、弾性部のゴム材料を難燃化配合とする方法がある。例えば、天然ゴム(NR)に対し、臭素系などの有機系難燃剤や金属酸化物等の難燃剤を配合する。しかし、有機系難燃剤は環境への負荷の問題から採用されにくいものとなっており、金属酸化物等の難燃剤は機械的特性である引張強度や耐久性が低下するという問題があった。
【0004】
特許文献1の積層型防振ゴムは、NR系を主成分とする従来のゴム材料から構成された弾性部の表面に、クロロプレンゴム(CR)系を主成分とする防火層を設けることで、難燃性が付与されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2017/0267260号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の積層型防振ゴムは、防火層により難燃性を付与しているが、耐寒性と耐久性とが損なわれている。すなわち、特許文献1では、防火層の主成分としてガラス転移温度(Tg)が-20℃~-30℃であるCR系のゴムが用いられ、弾性部の主成分としてTgが-45℃~-50℃であるNR系のゴムが用いられているので、低温環境で使用されると、防火層と弾性部とで硬さの違いが生じ、防火層と弾性部とが剥がれ易くなるという問題があった。また、特許文献1では、NR系を主成分とする弾性部とCR系を主成分とする防火層とを接着させるために、防火層の主成分となるCR系のゴムにトリアリルイソシアヌレート(TAIC)又はジクミルパーオキサイド(DCP)を添加する必要があり、配合上の制約があるものであった。
【0007】
そこで、本発明は、難燃性、耐寒性、耐久性に優れる積層型防振ゴム及びゴム部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る積層型防振ゴムは、主軸と、前記主軸の軸心に対して同心状に配置された外筒と、複数の弾性層と一又は複数の硬質層とを前記軸心に対する径内外方向へ交互に積層させた構成を有し、前記主軸と前記外筒との間に介装されている弾性部と、前記弾性層を少なくとも覆う被覆層とを備え、前記弾性層は、天然ゴムを主成分として含み、前記被覆層は、前記弾性層よりも高い難燃性を有するイソプレンゴムを主成分として含むゴム組成物から構成されている。
【0009】
本発明に係るゴム部材は、天然ゴムを主成分として含む弾性層と、前記弾性層の表面に設けられ、前記弾性層よりも高い難燃性を有するイソプレンゴムを主成分として含むゴム組成物から構成されている被覆層とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、天然ゴム(NR)系を主成分とする弾性層が、NR系よりも高い難燃性を有するイソプレンゴム(IR)系を主成分とする被覆層により覆われている。弾性層の主成分と被覆層の主成分とが同種のゴム成分で構成されているので、弾性層と被覆層とが密接に結合されているとともに、低温環境において弾性層と被覆層との硬さの違いが生じにくい。したがって、本発明によれば、難燃性、耐寒性、耐久性に優れる積層型防振ゴム及びゴム部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る積層型防振ゴムの縦断面図である。
図2】天然ゴムとクロロプレンゴムの温度と硬度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
1.実施形態
図1において、積層型防振ゴム1は、主軸2と、外筒3と、弾性部4と、被覆層5とを備える。積層型防振ゴム1は、例えば、図示しない鉄道車両の台車枠と車軸側部材との間や台車枠と空気ばねとの間に介装され、鉄道車両の蛇行動や上下動時の衝撃を吸収緩和する。以下の説明では、主軸2の軸心Pが延びる方向(図1における紙面の縦方向)を上下方向とする。
【0014】
主軸2は、金属製であって、筒状に形成されている。主軸2は、円錐部6と、円錐部6の下部に設けられたフランジ部7と、フランジ部7の下部に設けられた直胴部8と、円錐部6の上端を開口する中空部9と、直胴部8の下端を開口するねじ孔10とを有する。円錐部6の外周面は、上窄まり状の円錐面と、円錐面の下端に接続された円筒面とにより構成されている。フランジ部7及び直胴部8は、円筒状に形成されている。フランジ部7の直径は、直胴部8の直径より大きい。中空部9は、軸心Pを中心として上下方向に設けられており、円筒面の中間位置まで延びている。ねじ孔10は、軸心Pを中心として上下方向に設けられており、中空部9の下端と接続している。主軸2の下端部は、ねじ孔10に螺着される不図示のボルトによって、不図示の鉄道車両の台車枠に取り付けられる。
【0015】
外筒3は、主軸2の軸心Pに対して同心状に配置されている。外筒3は、金属製であって、上方に向かって縮径したテーパ円筒状に形成されている。すなわち、外筒3は、主軸2の軸心Pに対して所定角度だけ内側(径方向内方)に傾斜している。外筒3の軸心Pに対する傾斜角度は、特に限定されないが、例えば5°~15°の範囲内に設定される。外筒3は、上方に向かって縮径した傾斜内周面3aと、傾斜内周面3aの上端に接続された嵌合内周面3bとを有する。傾斜内周面3aは、後述する弾性層12eの外周面が固着される。嵌合内周面3bは、不図示の鉄道車両の台車枠に嵌着される。
【0016】
弾性部4は、環状に形成された複数(図1では5つ)の弾性層12a,12b,12c,12d,12eからなる弾性体12と、環状に形成された複数(図1では4つ)の硬質層13a,13b,13c,13dからなる中間硬質体13とを有する。弾性部4は、弾性層12a,12b,12c,12d,12eと硬質層13a,13b,13c,13dとを径方向に交互に積層した積層ゴム構造として構成され、主軸2と外筒3とともに一体的に加硫成形される。すなわち、弾性部4は、複数の弾性層12a,12b,12c,12d,12eと一又は複数の硬質層13a,13b,13c,13dとを軸心Pに対する径内外方向へ交互に積層させた構成を有し、主軸2と外筒3との間に介装されている。
【0017】
弾性体12(弾性層12a,12b,12c,12d,12e)は、天然ゴム(NR)を主成分として含む。弾性体12を構成するゴム材料としては、例えば、既存の防振ゴムとして使用されているゴム配合物を使用することができる。弾性体12は、図1では、径方向の内から外へ向かって、弾性層12a,12b,12c,12d,12eの順に配された構成を有している。各弾性層12a~12eの上端面及び下端面は、応力集中を避けるために凹状の曲面とされている。
【0018】
中間硬質体13(硬質層13a,13b,13c,13d)は、金属製である。中間硬質体13は、図1では、径方向の内から外へ向かって、硬質層13a,13b,13c,13dの順に配された構成を有している。
【0019】
弾性層12a~12e及び硬質層13a~13dは、上方に向かって縮径するテーパ円筒状に形成されている。すなわち、弾性層12a~12e及び硬質層13a~13dは、主軸2の軸心Pに対して所定角度だけ内側(径方向内方)に傾斜している。弾性層12a~12e及び硬質層13a~13dの軸心Pに対する傾斜角度は、本実施形態では外筒3の傾斜角度と同じ角度(5°~15°の範囲内)に設定されるが、これに限定されない。
【0020】
上述のように構成された弾性部4においては、弾性層12a~12eの各々の内外周面が、主軸2の外周面(円錐面及び円筒面)、外筒3の傾斜内周面3a、又は隣接する硬質層13a~13dの内外周面に対し、加硫接着によって固着されている。具体的には、弾性部4の最内層である弾性層12aの内周面は主軸2の外周面に固着され、弾性層12aの外周面は硬質層13aの内周面に固着されている。弾性部4の最外層である弾性層12eの内周面は硬質層13dの外周面に固着され、弾性層12eの外周面は外筒3の傾斜内周面3aに固着されている。弾性部4の中間層である弾性層12b~12dについては、弾性層12bが硬質層13aと硬質層13bに固着され、弾性層12cが硬質層13bと硬質層13cに固着され、弾性層12dが硬質層13cと硬質層13dに固着されている。
【0021】
弾性層12a~12eは、上下方向に沿って一定の厚さを有するものでもよいし、部分的に異なる厚さを有するものでもよい。図1では、弾性層12aの厚さは、上部において最大値を示し、上部から下部に向かって漸減し、下部において最小値を示すように設定されている。弾性層12b~12eの厚さは、上下方向に沿って一定である。
【0022】
被覆層5は、弾性体12(弾性層12a~12e)を少なくとも覆うように設けられている。図1では、被覆層5は、弾性部4の下端面(弾性体12の下端面及び中間硬質体13の下端面)を覆うように設けられている。被覆層5は、弾性部4の下端面のみを覆う場合に限られず、弾性部4の上端面のみ、又は、弾性部4の上端面及び下端面を覆うように設けてもよい。被覆層5は、弾性層12a~12eの表面に少なくとも設けられていればよい。
【0023】
被覆層5は、イソプレンゴム(IR)を主成分とし、弾性層12a~12e(弾性体12)よりも高い難燃性を有する。被覆層5は、鉄道車両で使用される材料と部品の燃焼挙動に対する要求を規定した欧州規格EN45545-2をクリアするものであり、具体的にはISO5660-1に準じた発熱試験においても、優れた難燃性を示すものである。被覆層5は、シス-1,4結合量が95%以上であるイソプレンゴムを50質量%以上含むゴム成分と、前記ゴム成分100質量部に対し120質量部以上の水酸化マグネシウム及び/又は水酸化アルミニウムとを含むゴム組成物から構成されることが好ましい。被覆層5を構成するゴム組成物の配合としては、特開2020-070306号公報に記載されている配合を用いることができる。
【0024】
2.製造方法
積層型防振ゴム1の製造方法の一例を以下に説明する。まず、特開2020-070306号公報に記載されている配合処方に従ってIR系のゴム組成物を調製する。このゴム組成物を被覆層前駆体成形用金型に流し込み、加熱及び加硫し、被覆層前駆体を成形する。
【0025】
次に、被覆層前駆体と、主軸2と、外筒3と、中間硬質体13(複数の硬質層13a,13b,13c,13d)とを積層型防振ゴム成形用金型に入れる。金型が所定温度となった後に、金型内へNR系の未加硫ゴムを供給し、加硫成形する。ここで、未加硫ゴムと被覆層前駆体との界面では、天然ゴム同士の加硫反応が促進される。被覆層前駆体中の加硫剤の濃度は、当該被覆層前駆体を成形する際に加硫剤が消費されているので、未加硫ゴム中の加硫剤の濃度よりも低くなっている。未加硫ゴムと被覆層前駆体とでは加硫剤の濃度の傾斜が大きいので、加硫成形を行うことによって、濃度が高い未加硫ゴムから濃度が低い被覆層前駆体へ加硫剤が流れて融合して強固に接着される。以上のようにして積層型防振ゴム1を製造することができる。
【0026】
3.作用及び効果
積層型防振ゴム1は、NR系を主成分とする弾性体12(弾性層12a~12e)が、NR系よりも高い難燃性を有するIR系を主成分とする被覆層5により覆われているので、難燃性に優れている。また、弾性体12の主成分と被覆層5の主成分とが同種のゴム成分で構成されているので、加硫工程における弾性体12と被覆層5との界面の馴染み易さが向上し、弾性体12と被覆層5とが密接に結合されており、耐久性に優れている。更に、弾性体12の主成分であるNRと被覆層5の主成分であるIRのガラス転移温度(Tg)は-45℃~-50℃であり、弾性体12と被覆層5との硬さの違いが生じにくいので、耐寒性に優れている。
【0027】
ここで、図2は、NR(天然ゴム)とCR(クロロプレンゴム)の温度と硬度との関係を示すグラフである。図2には図示されていないが、IR(イソプレンゴム)もNRと同様のグラフとなる。硬度は、日本工業規格JIS K6253に準拠したタイプAデュロメーターで測定される。図2に示すように、TgがNR(IR)よりも低い-20℃~-30℃であるCRと比較すると、NR(IR)は、より低温まで硬さの上昇が小さく、柔軟性が維持されている。例えば特許文献1に記載されているようなCRを主成分として被覆層を構成した場合、温度が低下するほど、被覆層の柔軟性が損なわれ、弾性体と被覆層とで硬さの違いが生じる。弾性体と被覆層とで硬さの違いが生じると、被覆層と弾性体との界面にかかる負荷が増大し、被覆層が弾性体から剥がれ易くなる。これに対し、積層型防振ゴム1は、弾性体12の主成分と被覆層5の主成分とが同種のゴム成分で構成されており、使用される温度が低下しても弾性体12と被覆層5とが同等の柔軟性を有するので、弾性体12と被覆層5と界面にかかる負荷が抑えられる。
【0028】
積層型防振ゴム1は、被覆層5により難燃性が付与されているので、弾性体12への難燃剤の添加を不要とし、弾性体12の機械的特性の低下を抑制することができる。なお、難燃性が充分となる程度まで弾性体に難燃剤を多量に添加して積層型防振ゴムを製造すると、機械的特性である引張強度や耐久性が低下する。
【0029】
被覆層5は、共架橋剤又は有機過酸化物の架橋剤を含まなくてもよい。共架橋剤は、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸ジエチレングリコール、トリメタリルイソシアヌレートなどである。有機過酸化物の架橋剤は、ジクミルパーオキサイド(DCP)、α,α’-(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン(日本油脂株式会社製ペロキシモンF-40)などである。例えば、CR系のゴムを主成分として被覆層を構成する場合は、NR系の弾性部とCR系の被覆層との界面が馴染まず、CR系の被覆層がNR系の弾性部から剥がれ易くなるので、上述の共架橋剤又は有機過酸化物の架橋剤を使用し、被覆層と弾性部との接着性を向上させる必要がある(特許文献1参照)。これに対し、積層型防振ゴム1は、弾性体12と被覆層5とが密接に結合されるので、被覆層5において共架橋剤又は有機過酸化物の架橋剤を含まない配合とすることができる。また、弾性体12が臭素系などの有機系難燃剤を含まないので、環境への負荷を抑えることができる。
【0030】
積層型防振ゴム1は、天然ゴムを主成分として含む弾性層と、当該弾性層の表面に設けられ、弾性層よりも高い難燃性を有するイソプレンゴムを主成分として含むゴム組成物から構成されている被覆層とを備えるゴム部材の一例である。当該ゴム部材の弾性層及び被覆層は、積層型防振ゴム1の弾性体12(弾性層12a~12e)及び被覆層5と同様の構成を有する。このため、ゴム部材は、難燃性、耐寒性、耐久性に優れているという、積層型防振ゴム1と同様の作用及び効果を有する。当該ゴム部材の被覆層を構成するゴム組成物は、シス-1,4結合量が95%以上であるイソプレンゴムを50質量%以上含むゴム成分と、前記ゴム成分100質量部に対し120質量部以上の水酸化マグネシウム及び/又は水酸化アルミニウムとを含むことが好ましい。ゴム部材は、車両(特に鉄道車両)に好適である。
【0031】
4.実施例
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0032】
(ゴム組成物の調製)
ゴム成分100質量部に対して、表1の配合処方に従って各成分を配合し、通常のバンバリーミキサーを用いて混練して3種のゴム組成物A,B,Cを調製した。表1に記載の各成分を以下に示す。なお、表に記載の各成分の配合量の単位は相対的な「質量部」であり、表中の「-」は、その成分を配合していないことを示す。
【0033】
天然ゴム:RSS#3
イソプレンゴム:商品名「JSR IR2200」(シス-1,4結合量95%以上のイソプレンゴム50質量%以上)、JSR株式会社製
カーボンブラック:商品名「シーストV」、東海カーボン株式会社製
酸化亜鉛:商品名「亜鉛華3号」、三井金属鉱業株式会社
老化防止剤:商品名「アンチゲン6C」、住友化学株式会社製
水酸化マグネシウム:商品名「キスマ5A」、協和化学工業株式会社製
水酸化アルミニウム:商品名「ハイジライトH-32」、昭和電工株式会社製
硫黄:油処理150メッシュ粉末硫黄、鶴見化学工業株式会社製
加硫促進剤:商品名「サンセラー22-C」、三新化学工業株式会社製
【0034】
【表1】
【0035】
(ゴムの作製)
3種のゴム組成物A,B,Cを用いて、実施例1~2及び比較例1~3の加硫ゴムを作製した。実施例1は、まず、ゴム組成物Aを金型に流し込み、150℃にて20分加熱及び加硫し被覆層前駆体を成形した。被覆層前駆体を成形した後、金型に被覆層前駆体が入っている状態でゴム組成物Bを流し込み、150℃にて20分加熱及び加硫し、加硫ゴムを作製した。実施例1は、硬度が低いゴム組成物Bからなる弾性層の表面に、難燃性を有するゴム組成物Aからなる被覆層が設けられた加硫ゴムである。ゴム組成物Aを金型に流し込む量は、被覆層の厚さが2mmとなるように調整した。ゴム組成物Bを金型に流し込む量は、弾性層の厚さが23mmとなるように調整した。したがって、実施例1の加硫ゴムの厚さは25mmである。実施例2は、ゴム組成物Bの代わりに、ゴム組成物Bよりも硬度が高いゴム組成物Cを用いたこと以外は、上記の実施例1と同様の方法で加硫ゴムを作製した。すなわち、実施例2は、硬度が高いゴム組成物Cからなる弾性層の表面に、難燃性を有するゴム組成物Aからなる被覆層が設けられた加硫ゴムである。ゴム組成物Cを金型に流し込む量は、弾性層の厚さが23mmとなるように調整した。したがって、実施例2の加硫ゴムの厚さは25mmである。
【0036】
比較例1は、ゴム組成物Bを金型に流し込み、150℃にて20分加熱及び加硫して加硫ゴムを作製した。比較例1は、ゴム組成物Bのみからなる加硫ゴムである。ゴム組成物Bを金型に流し込む量は、加硫ゴムの厚さが25mmとなるように調整した。比較例2は、ゴム組成物Bの代わりにゴム組成物Cを用いたこと以外は、上記の比較例1と同様の方法で加硫ゴムを作製した。比較例2は、ゴム組成物Cのみからなる加硫ゴムである。比較例3は、ゴム組成物Bの代わりにゴム組成物Aを用いたこと以外は、上記の比較例1と同様の方法で加硫ゴムを作製した。比較例3は、ゴム組成物Aのみからなる加硫ゴムである。比較例1~3の各加硫ゴムの厚さは25mmである。
【0037】
<燃焼性能>
EN45545-2では、鉄道車両に用いられる主要ゴム部材の難燃性の評価は、ISO 5660-1に準じてコーンカロリーメータ法による発熱試験によって行うことが規定されており、この方法で測定されたMARHEの値が、所定値以下であることが要求される。具体的に、ハザードレベル(HL)1及び2では、MARHE値が90以下、HL3では、MARHE値が60以下であることが要求される。そこで、実施例及び比較例で得られた加硫ゴムについて、ISO 5660-1に準拠し、100mm×100mm×25mmのサンプルを作製した。試験時間20分間、測定間隔2秒毎、輻射量25kW/mの測定条件で上記サンプルの発熱速度を測定し、得られた測定結果を下記式(1)に代入してARHE(average rate of heat emission)を求め、その最大値をMARHE(maximum average rate of heat emission)とした。なお、2秒毎に積算値を算出し、ARHEの最大値をMARHEとする。MARHE値により燃焼性能の評価を行った。結果を表2に示す。
【0038】
【数1】
:測定時間
n-1:t秒から2秒前の測定時間
:測定開始時間(t=0)
:t秒時の発熱速度
n-1:tn-1秒時の発熱速度
【0039】
【表2】
【0040】
表2より、実施例1,2と比較例1,2とを比べると、弾性層の表面に難燃性の被覆層を設けた実施例1,2は、被覆層を有しない弾性層のみからなる比較例1,2よりもMARHE値が低いことが確認できた。実施例1と実施例2は、いずれもMARHE値が90未満であり、HL1及び2の要求を満たす、優れた難燃性を有する。実施例1と実施例2とを比べると、弾性層がゴム組成物Cである実施例2は、弾性層がゴム組成物Bである実施例1よりもMARHE値が低く、HL3の要求を満たしていることが確認できた。ゴム組成物Bよりも硬度が高いゴム組成物Cを弾性層の材料として用いることで、より優れた難燃性を発現することが分かる。なお、難燃性を有するゴム組成物Aからなる比較例3は、難燃性の点では優れているが、機械的特性である引張強度や耐久性が低下するものとなっている。
【0041】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 積層型防振ゴム
2 主軸
3 外筒
4 弾性部
5 被覆層
12 弾性体
12a,12b,12c,12d,12e 弾性層
13 中間硬質体
13a,13b,13c,13d 硬質層
P 軸心
図1
図2