(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098375
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】エレベータ乗り心地評価システム及びその方法
(51)【国際特許分類】
B66B 1/18 20060101AFI20230703BHJP
B66B 5/00 20060101ALI20230703BHJP
B66B 3/00 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
B66B1/18 N
B66B5/00 D
B66B3/00 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021215095
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 勇来
(72)【発明者】
【氏名】金 政和
(72)【発明者】
【氏名】保立 尚史
【テーマコード(参考)】
3F303
3F304
3F502
【Fターム(参考)】
3F303BA01
3F303EA07
3F304BA26
3F304EA19
3F304ED18
3F502HB04
3F502HB15
3F502JA73
3F502KA30
3F502KA31
(57)【要約】
【課題】 エレベータの乗り心地を利用者の体感に近づけて評価できるエレベータ乗り心地評価システムを提供する。
【解決手段】 乗りかごの動きを検出するセンサと、メモリを有するコントローラと、を備えたエレベータ乗り心地評価システムであって、メモリは、乗りかごの移動速度の時間変化を表すグラフにした複数パターンの情報を記憶可能であり、グラフは、評価対象エレベータの仕様に基づいて加速、定速及び減速を示す台形パターンを定義し、台形パターンは、移動距離と、昇降の別と、に応じて異なる条件の複数がメモリに記憶され、コントローラは、乗りかごの動きに対応する台形パターンをメモリから読み出し、センサの出力に基づいて算出した乗りかごの移動速度が台形パターンから乖離した差分を更新記憶し、差分から、移動速度別に人の感性に近づけて異なる重みづけした速度偏差点数を算出して乗心地評価する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗りかごの動きを検出するセンサと、メモリを有するコントローラと、を備えたエレベータ乗り心地評価システムであって、
前記メモリは、前記乗りかごの移動速度の時間変化を表すグラフにした複数パターンの情報を記憶可能であり、
前記グラフは、評価対象エレベータの仕様に基づいて加速、定速及び減速を示す台形パターンを定義し、
該台形パターンは、移動距離と、昇降の別と、に応じて異なる条件の複数が前記メモリに記憶され、
前記コントローラは、
前記乗りかごの動きに対応する前記台形パターンを前記メモリから読み出し、
前記センサの出力に基づいて、前記乗りかごの移動速度を算出し、
現在取得された前記移動速度が前記台形パターンから乖離した差分を更新記憶し、
前記差分から、移動速度別に人の感性に近づけて異なる重みづけした速度偏差点数を算出して乗心地評価する、
エレベータ乗り心地評価システム。
【請求項2】
前記コントローラは、
前記速度偏差点数の累計値に基づく評価値を前記メモリに更新記憶させ、
該更新記憶された前記評価値を運転制御とメンテナンスと少なくとも何れかに活用させる、
請求項1に記載のエレベータ乗り心地評価システム。
【請求項3】
前記コントローラは、
前記評価値を群管理エレベータの運転制御に適用し、
複数のエレベータ毎に算出した前記評価値に基づいて品質良好と判定される順に優良機を高頻度で運行させる、
請求項2に記載のエレベータ乗り心地評価システム。
【請求項4】
前記コントローラは、
前記評価値を群管理エレベータの運転制御に適用し、
複数のエレベータ毎に算出した前記評価値に基づいて品質劣悪と判定される順に劣化機の次回メンテナンス時期を早め、
前記劣化機の前記評価値が所定値を超えて劣化していれば、運行停止するとともにメンテナンス要請の発報する、
請求項2に記載のエレベータ乗り心地評価システム。
【請求項5】
乗りかごの動きを検出するセンサと、メモリを有するコントローラと、を用いたエレベータ乗り心地評価方法であって、
前記メモリは、前記乗りかごの移動速度の時間変化を表すグラフにした複数パターンの情報を記憶可能であり、
前記グラフは、評価対象エレベータの仕様に基づいて加速、定速及び減速を示す台形パターンを定義し、
該台形パターンは、移動距離と、昇降の別と、に応じて異なる条件の複数が前記メモリに記憶され、
前記コントローラは、
前記乗りかごの動きに対応する前記台形パターンを前記メモリから読み出し、
前記センサの出力に基づいて、前記乗りかごの移動速度を算出し、
現在取得された前記移動速度が前記台形パターンから乖離した差分を更新記憶し、
前記差分から、移動速度別に人の感性に近づけて異なる重みづけした速度偏差点数を算出して乗心地評価する、
エレベータ乗り心地評価方法。
【請求項6】
前記コントローラは、
前記速度偏差点数の累計値に基づく評価値を前記メモリに更新記憶させ、
該更新記憶された前記評価値を運転制御とメンテナンスと少なくとも何れかに活用させる、
請求項5に記載のエレベータ乗り心地評価方法。
【請求項7】
前記コントローラは、
前記評価値を群管理エレベータの運転制御に適用し、
複数のエレベータ毎に算出した前記評価値に基づいて品質良好と判定される順に優良機を高頻度で運行させる、
請求項6に記載のエレベータ乗り心地評価方法。
【請求項8】
前記コントローラは、
前記評価値を群管理エレベータの運転制御に適用し、
複数のエレベータ毎に算出した前記評価値に基づいて品質劣悪と判定される順に劣化機の次回メンテナンス時期を早め、
前記劣化機の前記評価値が所定値を超えて劣化していれば、運行停止するとともにメンテナンス要請の発報する、
請求項6に記載のエレベータ乗り心地評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータ乗り心地評価システム及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータの乗り心地を評価するシステムとして、例えば、特許文献1に記載されたエレベータの振動監視装置が存在する。この振動監視装置は、乗りかごの乗り心地の悪化を事前に防止するために、エレベータの乗りかごに設置され、乗りかごの振動を監視するものであって、乗りかごの振動加速度を検出する振動検出器と、振動検出器からの振動加速度を分析して、エレベータの乗り心地を判定する分析装置とを備え、分析装置は、振動加速度の増加量が所定の値以上の場合に乗り心地が悪化したと判定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の従来技術は、エレベータの乗心地の悪化を判定できるものの、その判定結果は、エレベータの利用者が実際に感じる乗り心地には適合していないという課題がある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エレベータの乗り心地を利用者の体感に近づけて評価できるエレベータ乗り心地評価システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明は、乗りかごの動きを検出するセンサと、メモリを有するコントローラと、を備えたエレベータ乗り心地評価システムであって、メモリは、乗りかごの移動速度の時間変化を表すグラフにした複数パターンの情報を記憶可能であり、グラフは、評価対象エレベータの仕様に基づいて加速、定速及び減速を示す台形パターンを定義し、台形パターンは、移動距離と、昇降の別と、に応じて異なる条件の複数がメモリに記憶され、コントローラは、乗りかごの動きに対応する台形パターンをメモリから読み出し、センサの出力に基づいて、乗りかごの移動速度を算出し、現在取得された移動速度が台形パターンから乖離した差分を更新記憶し、差分から、移動速度別に人の感性に近づけて異なる重みづけした速度偏差点数を算出して乗心地評価する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エレベータの乗り心地を利用者の体感に近づけて評価できるエレベータ乗り心地評価システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係るエレベータ乗り心地評価システム(以下、「本システム」ともいう)が適用されるエレベータの要部外観を示すものであって、エレベータの側面図である。
【
図2】本システムの概略を示す機能ブロック図である。
【
図3】
図1及び
図2の本システムで計測するかご速度の時間変化を表すグラフ(以下、「速度グラフ」ともいう)であり、縦軸に速度を示し、横軸に時間を示している。
【
図4】
図1~
図3で説明した本システムの動作手順(以下、「本方法」ともいう)を示すフローチャートである。
【
図5】
図1~
図4で説明した本システム及び本方法について、他の動作手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明を詳しく説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るエレベータ乗り心地評価システム(以下、「本システム」ともいう)が適用されるエレベータの要部外観を示すものであって、エレベータの側面図である。乗りかご1とカウンタウェイト2とは、主ロープ3によって夫々ロープの端部に接続されており、巻上機4の回転駆動によって乗りかご1とカウンタウェイト2とが上下反対方向に昇降する、いわばつるべのように動作する。
【0010】
通常動作用のブレーキ5が巻上機4に配設されている。そして、図示していないが、緊急停止用ブレーキがガイドレールに乗りかご1を固定可能に敷設されている。ガバナ7が、乗りかご1の昇降動作に連動するガバナロープ6の動作速度の異常を検出すると、緊急停止用ブレーキを動作させる。例えば、乗りかご1が、規定の最高速度の1.4倍を超えて急降下し始めると、緊急停止用ブレーキが作動して乗りかご1の落下を防ごうというものである。
【0011】
コントローラ8は、エレベータの利用者の操作に応じてインバータ9の出力電力を調整して、巻上機4の駆動を制御する。テールコード10は、ビルと乗りかご1との間を接続する電線等を有し、乗りかご1に照明用電力を供給するとともに、乗りかご1から管理センタへの緊急電話も可能にするものである。モータエンコーダ11は、巻上機4の回転速度や位相を検出し、回転角速度信号や位相信号をコントローラ8に出力する。
【0012】
ガバナエンコーダ12は、ガバナ7についての回転角速度信号や位相信号(回転信号等)をコントローラ8に出力する。群コントローラ13は、他号機のコントローラにも接続されて、複数のエレベータを群管理する。
【0013】
ホールボタン14は、乗りかご1を呼ぶためのものである。コントローラ8は、エレベータの利用者がホールボタン14を押すことにより発生した信号を受け付けて、乗りかご1を、ホールボタン14が押下された階数に至るように、巻上機4を駆動制御する。管制センタ15は、主に停電その他の故障時に閉じ込められた利用者を速やかに救出するために、乗りかご1内の非常電話等と常時アクセス可能である。
【0014】
後述のかご位置検出部21は、機械構造モデルを利用して、乗りかご1の位置を細かくかつ正確に検出するようにしている。機械構造モデルとは、エレベータの構造に基づいた各種計測値やパラメータに基づいて、乗りかご1の動作を算出できるようにした数学モデル(以下、単に「モデル」ともいう)である。
【0015】
例えば、このモデルには、乗りかご1の荷重による引張力が作用したロープの伸び変形の特性が組み込まれて予め構築されている。モータエンコーダ11及びガバナエンコーダ12から出力される回転信号等がモデルに入力されることによって、乗りかご1の現在速度や位置が算出される。
【0016】
図2は、本システムの概略を示す機能ブロック図である。コントローラ8は、メモリに記録されたプログラムを実行することにより、かご位置検出部21と、運転制御部22と、巻上機制御部23と、かご速度検出部24と、理想かご速度計算部25と、速度偏差計算部26と、を実現する。なお、劣化していないエレベータが仕様どおりに完全動作する状態において、乗りかご1が通常動作時に運行する速度を、ここでは「理想かご速度」と呼ぶ。この「理想かご速度」の詳細は、
図3を用いて後述する。
【0017】
モータエンコーダ11は、巻上機4の回転に伴って回転信号等を出力する。この回転信号等を用いて、コントローラ8は、巻上機4を回転制御するほか、回転信号等をかご位置検出部21へ入力してかご位置の検出も行う。かご位置検出部21は、かご位置を検出し、その検出結果に基づいて、運転制御部22が巻上機4を回転制御する。
【0018】
運転制御部22は、乗り場のホールボタン又は乗りかご1内の行先ボタンが利用者に押されて生成されたかご呼び信号で指定された行先と、現在のかご位置と、を比較して、両者の差を縮めるように、インバータ9の出力電力を制御する。
【0019】
ガバナエンコーダ12は、ガバナ7の回転に伴って回転信号等を出力する。この回転信号等を用いて、コントローラ8は、緊急停止用ブレーキの作動を制御するほか、その回転信号等をかご速度検出部24へ入力してかご速度の検出も行う。かご速度検出部24は、検出したかご速度を速度偏差計算部26に入力させる。
【0020】
なお、乗りかご1によって主ロープ3に加わる荷重は利用者数の変動で大きく増減するので、主ロープ3のロープ長は利用者数の変動に合わせて少なからず伸縮する。経年劣化が進むと主ロープ3は伸びてしまうため、乗りかご1を所定距離だけ移動させるためには、モータエンコーダ11の回転角度を増加させる必要が生じる。
【0021】
このようなモータエンコーダ11の検出出力に基づいて算出したかご速度は、実際の速度に対して誤差を生じることがあるため精度が低い。これに対し、ガバナロープ6には、そのように不正確な要因も少ない。本システムは、エレベータの利用者が不快に感じるか否かの微妙な判定に用いる速度検出部24の検出出力には、より高精度が求められるので、ガバナエンコーダ12の出力信号を用いる。
【0022】
速度偏差計算部26は、かご速度検出部24が出力する実際のかご速度と、理想かご速度計算部25が出力する理想かご速度とを比較して、それらの差分を偏差値として捉える。その偏差値は、乗りかご1が動作する都度に短時間で取得される。しかし、短時間で得られた偏差値を閾値判定した結果だけでは、合理的かつ正確な乗り心地判定することが困難な場合もある。そこで、本システムは、その偏差値の任意期間にわたる累計値が所定値以上となれば、メンテナンス等の管理対応を要する旨を管制センタ15へ報知する。
【0023】
メンテナンスの内容は、後述するように、エレベータにおける乗り心地悪化の原因を解消することである。具体的な原因については、説明を省略する。この速度偏差計算部26は、群コントローラ13及び他号機のコントローラに接続され、群管理制御に関与する。後述するように、群管理において、劣化の少ない優良号機は、稼働頻度を高められる一方で、劣化の進んだ劣化号機は、稼働頻度を低減される。
【0024】
群コントローラ13は、ホールボタン検出部27と、待ち時間予測部28と、割当号機判定部29と、を備える。ホールボタン検出部27は、ホールボタン14からの信号を受けて、かご呼び信号を割当号機判定部29へ伝達する。かご呼び信号は、乗り場のある階床へ乗りかご1を呼び寄せるための信号である。
【0025】
待ち時間予測部28は、コントローラ8及び他号機のコントローラとの協調制御信号を受けて、割当号機判定部29が群管理制御のための信号を生成する。
【0026】
図3は、
図1及び
図2の本システムで計測するかご速度の時間変化を表すグラフであり、縦軸に速度を示し、横軸に時間を示している。
図3は、時間が経過するにつれて、乗りかご1が定加速状態から定速状態至り、その後、定減速状態に変化する、云わば、速度が台形状に変化する速度グラフ(以下、「台形パターン」と略す)を表している。
【0027】
このように、乗りかご1は、停止状態から所定速度まで加速すると、定速運行を所定の距離だけ継続し、その後目的階まで減速して目的階に到着し、その停止位置で停止する。ほとんどのエレベータにおいて、乗りかご1の動作状況に応じて「理想かご速度」が設定される。
【0028】
この「理想かご速度」で形成される台形パターンは、「理想パターン」と呼ばれる。この「理想パターン」は、理想かご速度計算部25がエレベータ利用者の乗り心地を良好に保ったうえで、乗りかご1の移動距離に応じて、速やかな運転を実現させるための制御目標である。
【0029】
すなわち、この台形パターンは、エレベータの仕様に規定された最高速度と、移動階数(距離)と、昇降のどちらかで、1パターンずつ定められる。また、コントローラ8は、このように移動階数と方向別の台形パターンに形成されたパターンをメモリに記憶しておき、特別な計算することなく、随時読み出して用いれば良い。
【0030】
また、実測により取得される台形パターンは、モデルの計算式に各種パラメータを代入して形成しても良い。各種パラメータとして、乗りかご1の床に配設された不図示の荷重計が計測する重量と、乗りかご1の移動距離、及び昇降どちらか、といったことが代表される。実測により取得される台形パターンには、
図3のd1~d5に示すうねりが含まれるので、「理想パターン」からある程度の乖離が生じている。
【0031】
例えば、うねりd1は、荷重計が、乗りかご1の実重量よりも少なく誤計測した場合の現象である。このとき、インバータ9は、駆動力不足の状態で巻上機4を起動するので、重量に負けて一瞬の逆転が生じる。うねりd1は、その逆転により、乗りかご1が少し下降してから上昇する様子を示している。また、うねりd3には、制御上ある程度は不可避と考えられるオーバーシュートが僅かに含まれることもある。
【0032】
うねりd1~d5は、それらの面積が広い程、理想とする台形パターンから乖離するので、乗心地を悪化させる。エレベータの管理者等は、定期点検時にこの面積が広すぎないことを確認し、所定限度を越えていれば、メンテナンスを実施する。
【0033】
また、本システムは、定期点検時に限らず、常時監視して、メンテナンスを要する程度に劣化が進んでいるか否かの判断基準を超えた時点で、メンテナンスを要する旨を管制センタ15へ報知する。
【0034】
本システムでは、常時監視の判断基準は、メンテナンスを要する程度までの劣化を報知するばかりでなく、群管理において、劣化の少ない優良号機は、稼働頻度を高めると良い。
【0035】
逆に、劣化の進んだ劣化号機は、稼働頻度を低減し、定期点検まで一様に品質維持させると良い。つまり、同一ビルにおいて、群管理された複数台を一時期に集中してメンテナンスする方が、五月雨式に分散した保守のため、頻回に出動するよりも軽負担となる。
【0036】
本システムでは、エレベータの劣化程度に対する評価基準を官能検査に基づく評価基準に近づけた。つまり、官能検査では、必ずしも、加速度や速度の数値に比例して不快指数が高まるものでない。そこで、本システムは、台形パターンの勾配で区別した領域別に適切な重みづけすることによって、人の感性に近づける効果が得られるようにした。
【0037】
官能検査とは、評価対象物への感じ方による評価について、滑らかさや激しさの定量的な程度別に、多くの利用者が心地良いと感じるか否か、我慢できるか否かについて、統計学的に評価する検査をいう。この官能検査は、評価基準等を形成するため、実験計画法に基づいて行われる。また、乗りかご1の動作にともなう加速度と、乗心地評価と、の関係について、加速度別に適切な重みづけする技術がある。この技術は、官能検査の結果に基づく数値を交えて確立するものとして、それを利用する。
【0038】
これにより、本システムの速度偏差計算部26は、
図3の台形パターンの勾配で区別した、出発、加速、定速、及び減速の領域別に、下式(1)の重み係数M1~M5を与えた計算式を用いて速度偏差点数Pを計測する。
【0039】
速度偏差点数P = M1d1 + M2d2 + M3d3 + M4d4 + M5d5
・・・・式(1)
(M1~M5:重み係数)
【0040】
コントローラ8は、乗りかご1が動く都度に速度偏差点数Pを算出してメモリに記憶させるとともに、それを任意期間にわたって現在までの累積値に基づいて換算された評価値Pe(不図示)も更新記憶させる。本システムは、速度偏差点数Pと、評価値Peと、少なくとも何れかを閾値判定した結果に基づいて、適宜に管理対応するための指令信号を発出する。なお、乗りかご1が動く都度の速度偏差点数Pよりも、累積して換算された評価値Peの方が、誤判定を防ぎ易い。
【0041】
図4は、
図1~
図3で説明した本システムの動作手順(以下、「本方法」ともいう)を説明するフローチャートである。
図4に示すように、本方法は、ステップ401~ステップ404を有する。ステップ401では、ホールボタンが押されたか否か?を判別する。ステップ401がNOなら、そのまま終了する。
【0042】
一方、ステップ401でYESなら、ステップ402へ進む。ステップ402では、待ち時間予測値が最小となる号機が複数存在するか?を判別する。ステップ402でYESなら、ステップ403へ進む。
【0043】
ステップ403において、待ち時間予測値が最小となる号機のうち速度偏差点数Pが最小の号機を割当てる処理を実行したならば、終了する。ステップ402でNOなら、ステップ404へ進む。ステップ404において、待ち時間予測値が最小の号機を割当てる処理を実行したならば、終了する。
【0044】
なお、
図3及び
図4において、評価値Peは、大きい程に劣悪程度も大きい。ただし、評価値Peの大小と、品質の優劣と、の関係はこれに限定されない。評価値Peの大小関係を逆算式で換算し、
図5に適用するように、例えば、20点を使用不可レベル、100点を仕様どおりの満点合格レベルと定義すれば、理解され易く誤解も少ない。
【0045】
図5は、
図1~
図4で説明した本システム及び本方法について、他の動作手順を説明するフローチャートである。他の動作手順として、複数のエレベータ毎に算出した評価値Peが0点から数えて低い順に、例えば、50点~80点のものがあれば、50点のものを劣化機として、次回メンテナンス時期を早めると良い。
【0046】
また、劣化機は、その評価値Peが所定値、例えば20点を下回る程に劣化していれば、運行停止するとともに、メンテナンスを要請すべき旨を、該当機関宛てに発報することが好ましい。
図5に示すように、本方法は、ステップ501~ステップ503を有する。ステップ501では、評価値Peが0点から数えて低い順に序列を付けて最劣化機を探す。
【0047】
ステップ501でNOなら、複数機の相互間に格差無しとして終了し、YESならステップ502へ進む。ステップ502では、該当する最劣化機の評価値Peが20点の閾値を超えて(下回って)劣化しているか否か?を判定する。ステップ502でNOなら、複数機全部が未劣化として終了し、YESならステップ503へ進む。
【0048】
ステップ503では、該当する最劣化機を運転停止して群管理から除外するとともに、メンテナンスを要請すべき旨を、当該ビル内管理室、及び遠隔地の管制センタ15に発報して終了する。
【0049】
[補足]
なお、本システム(本発明の実施形態に係るエレベータ乗り心地評価システム)の主要部を構成するコンピュータは、ワンチップマイコン等で良く、他のコンピュータの一部を兼用利用しても構わない。また、各機能構成部は、コンピュータにおいて、メモリに記憶されたプログラムをCPU(Central Processing Unit)が実行することによって形成されるものが多いため、ハードウェアデバイスのように可視的に識別できるものではなく、それらの所属や配置、及び呼称も自由である。
【0050】
なお、本システムの第1目的は、定量的に検出された乗心地の指標値を人の体感に近づけることにより、指標値の実用性を高めることである。ここでいう実用性とは、得られた指標値や評価が人の体感に近いため、エレベータの快適性を追求する品質管理を実現し易くなることをいう。本システムの第2目的は、複数のエレベータがあれば可用性を高めることである。
【0051】
また、ここでいう可用性とは、複数台のエレベータの稼働率を高めることをいう。複数台のエレベータの稼働率を高めるために、乗り心地の悪い順番に保守を適用し、逆に、乗心地の良いエレベータを優先的に高頻度で運行させる。
【0052】
上述のとおり、本システムは、乗り心地を官能的に評価する。この評価を下げる主な原因は、第1に劣化して不正確になった荷重センサ(不図示)であり、第2に偏摩耗したシーブ(巻上機構車)である。第3にモデルの狂いに基づく駆動制御の誤差が挙げられる。
【0053】
すなわち、不正確な荷重センサ出力と、実態どおりでないモデルと、を用いて算出された値に基づいて、運転制御部22及び巻上機制御部23が巻上機4を不適切に駆動制御し、偏摩耗により回転軸に芯ずれの生じたシーブが乗りかご1に振動を与えて乗り心地を悪化させる。上述した「乗り心地の悪い順番に保守を適用する」とは、エレベータにおける乗り心地悪化の原因を解消することである。
【0054】
ただし、乗り心地悪化を招く第1~第3の原因は、周知であるため、ここでは、さらなる究明をしない。その代わりに本システムでは、人が気になる乗り心地の悪化を官能的評価によって早期発見できるようにする。そのため、本システムでは、劣化程度についての評価結果(
図3の速度偏差点数P)を利用者の体感に近づけた。その結果、本システムによれば、評価の実用性と、群管理されたエレベータの可用性、及びその信頼性を高められる。
【0055】
本システムは、つぎのように総括できる。
[1]
図1及び
図2に例示するように、本システムは、乗りかご1の動きを検出するセンサであるエンコーダ(以下、「センサ」ともいう)11,12と、メモリを有するコンピュータで構成されたコントローラ8,13と、を備えたエレベータ乗り心地評価システムである。
【0056】
メモリは、乗りかご1の移動速度と時間との関係を
図3に示すグラフ(速度グラフ、台形パターン)にした複数パターンの情報を記憶可能である。速度グラフは、評価対象エレベータの仕様に基づいて加速、定速及び減速を示す台形パターン(理想パターン)を定義したものである。
【0057】
この台形パターンは、対象エレベータの仕様において、乗り心地を最良にする理想パターンが定義される。この理想パターン(
図3参照)は、移動距離と、昇降の別と、に応じて条件が異なる複数がメモリに記憶される。異なる複数の理想パターンは、エレベータの仕様に規定された最高速度と、移動階数(距離)と、移動方向が昇降どちらかで、定められる。
【0058】
コントローラ8は、乗りかご1が動作する都度に、その動きに対応する台形パターンを前記メモリから読み出す。ついで、かご速度検出部24が、センサ12の出力に基づいて、乗りかご1の移動速度を算出し、現在取得された移動速度が理想パターンから乖離した差分をメモリに更新記憶させる。
【0059】
コントローラ8は、更新記憶された差分から、移動速度別、又は加速度別に人の感性に近づけて異なる重みづけした速度偏差点数Pを算出して乗心地評価する。なお、加速度別に適切な重みづけは、官能試験に基づいて決定する。乗り心地の劣化程度は、速度の変化が線形(滑らか)でないことを始めとし、理想パターンから乖離する程度で検出できる。
【0060】
また、官能検査において、必ずしも加速度や速度のセンサ出力値の増大に比例して不快指数が高まるとは限らない。例えば、人の聴覚は計測値の増大に比例せず、指数関数的な感度であることが知られている。特に、人が乗る移動体(乗りかご1)に限れば、センサ出力に対し、
図3に示す加速度別の適切な重みづけすることによって、官能検査結果に近づける効果が得られる。
【0061】
本システムにおいて、速度偏差計算部26は、差分に基づいて官能検査結果に近い乗心地評価するため、移動速度別に異なる重みづけした速度偏差点数Pを算出して評価に供する。そのため、
図3の台形パターンの勾配で区別した、出発、加速、定速、減速及び到着の領域別に、上式(1)に示した重み係数M1~M5を与えた計算式を用いている。
【0062】
このような本システムによれば、エレベータの乗り心地を利用者の体感に近づけて評価できる。その結果、エレベータ利用者が不快に感じる程度の劣化を不良と判定できる。
【0063】
[2]上記[1]において、本システムは、速度偏差計算部26が、評価値Peを速度偏差点数Pの累計値に基づいて換算する。評価値Peとなる累計値は、メモリに更新記憶される。この評価値Peは、エレベータの経年劣化を表すので、年月の時間単位で徐々に拡大する表示方式ならば、その時点での更新値が過去最大であり、現時点における経年劣化の指標になる。
【0064】
この場合、評価値Peは、大きい程に劣悪程度も大きい。ただし、評価値Peの大小と、品質の優劣と、の関係はこれに限定されない。例えば、評価値Peの大小関係を逆算式に換算して、20点を使用不可レベル、100点を仕様どおりの満点合格レベルと定義すれば、理解され易く誤解も少ない。
【0065】
従来、経年劣化の指標値を得るためには、定期点検又は随時点検の際に、計測器を乗りかご1内に搬入する等、相当の負担を要したが、本システムは、メモリに更新記憶される評価値Peを、常時連続的に遠隔監視し易い。
【0066】
したがって、本システムは、現時点で更新記憶された評価値Peを、運転制御と、メンテナンスと、少なくとも何れかに活用できる。その結果、本システムは、運転効率、設備効率、又はメンテナンス効率を向上させることができる。
【0067】
[3]上記[2]の本システムは、評価値Peを群管理エレベータの運転制御に適用し、複数のエレベータ毎に算出した評価値Peに基づいて品質良好と判定される順に優良機を高頻度で運行すると良い。他の一例として、本システムは、
図4のステップ403で、速度偏差点数Pが最小(逆算して最大でも良い)の号機、すなわち優良機を割当てる処理によって、優良機を高頻度で運行させるように、群管理エレベータの運転制御に適用しても良い。
【0068】
群管理された複数のエレベータは、夫々の劣化速度が必ずしも均等でない。一方、規定に基づく大抵の保守周期は一定であり、定期点検時に、群管理された複数を短期間で順繰りに一斉完了させることが好ましい。本システムは、このような保守の都合に適応させ易い。
【0069】
[4]ここで、評価値Peの数値別に意味付けした一例として、20点を使用停止レベル、100点を仕様どおりの満点合格レベルと定義して説明する。上記[2]の本システムは、評価値Peを群管理エレベータの運転制御に適用し、複数のエレベータ毎に算出した評価値Peが、0点に近くて低い順に、劣化機の次回メンテナンス時期を早めると良い。
【0070】
劣化機は、その評価値Peが所定値20点を下回って劣化していれば、運行停止するとともに、メンテナンスを要請すべき旨を、当該ビル内管理室と、遠隔地の管制センタ15と、の少なくとも何れかに発報することが好ましい。また、本システムにおいて、誤発報の可能性があれば、それを排除する機能や段階が設けられていると、なお好ましい。その点について、本システムは、速度偏差点数Pそのままよりも、その累計値である評価値Peを判定に用いる方が有利である。
【0071】
従来の保守体制では、エレベータの乗心地が多少劣化した程度の変化があったとしても、定期点検時まで誰も通報せずに、放置されていた。しかし、本システムによれば、常時監視する装置によって、即時発報を受けたビル内管理室の常駐警備員等が、注意喚起の掲示案内できる。そのほか、本システムによれば、遠隔地の管制センタ15からでも、近くにいる最適な保守要員を派遣するように、自動又は半自動的に発令又は要請できる。
【符号の説明】
【0072】
1…乗りかご1、2…カウンタウェイト、3…主ロープ、4…巻上機、5…ブレーキ、6…ガバナロープ、7…ガバナ、8…コントローラ、9…インバータ、10…テールコード、11…モータエンコーダ、12…ガバナエンコーダ、13…群コントローラ、14…ホールボタン、15…管制センタ、21…かご位置検出部、22…運転制御部、23…巻上機制御部、24…かご速度検出部、25…理想かご速度計算部、26…速度偏差計算部、27…ホールボタン検出部、28…待ち時間予測部、29…割当号機判定部