(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098382
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】列車制御支援システム及び方法
(51)【国際特許分類】
B61L 3/16 20060101AFI20230703BHJP
B60L 15/40 20060101ALI20230703BHJP
B61L 3/08 20060101ALI20230703BHJP
H04B 1/16 20060101ALI20230703BHJP
H04B 17/29 20150101ALI20230703BHJP
【FI】
B61L3/16 Z
B60L15/40 D
B61L3/08 A
H04B1/16 R
H04B17/29 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021215105
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 浩希
(72)【発明者】
【氏名】池田 尚弘
(72)【発明者】
【氏名】竹原 剛
【テーマコード(参考)】
5H125
5H161
5K061
【Fターム(参考)】
5H125AA05
5H125CB09
5H161AA01
5H161BB02
5H161BB06
5H161CC02
5H161DD02
5H161DD23
5H161EE07
5H161FF05
5H161FF07
5K061AA11
5K061CD04
(57)【要約】
【課題】列車の車両間の個体差や車両が受信した制御信号の経路におけるアナログ素子の経年劣化によらず制御信号を正しく復調する。
【解決手段】列車制御支援システムが、列車が走行するレールを通じて受信された制御信号が流れ一つ又は複数のアナログ素子を有する経路に、模擬された制御信号である検査信号を送信する。検査信号について、制御信号と同様、A/D変換され、パラメータに基づきレベル算出がされ、且つ、デジタル信号の復調が行われる。当該システムは、実際の復調された検査信号と、復調された検査信号としての正解の検査信号との比較の結果が所定の条件を満たしている場合に、算出された実際の検査信号のレベルと、正解のレベルとの差を基に、レベルの補正値を決定する。当該決定した補正値に従うパラメータが、列車の運行におけるレベル算出に使用される上記パラメータである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査信号送信部と、
補正値決定部と
を備え、
列車の車両における制御信号受信部は、当該列車が走行するレールを通じてアナログの制御信号を受信し、当該アナログの制御信号が流れる一つ又は複数のアナログ素子を有し、当該一つ又は複数のアナログ素子を流れたアナログの制御信号をA/D変換(アナログ/デジタル変換)して出力し、
当該車両における制御信号復調部は、前記制御信号受信部から出力されたデジタルの制御信号を受信し、当該受信されたデジタルの制御信号のレベルを、設定されたパラメータに基づき算出し、且つ、当該デジタルの制御信号を復調し、
前記検査信号送信部は、模擬された制御信号である検査信号でありアナログの検査信号を前記制御信号受信部に送信し、
前記アナログの検査信号が前記制御信号受信部に受信されて前記一つ又は複数のアナログ素子を通りA/D変換されて前記制御信号復調部に出力され、前記制御信号受信部から出力されたデジタルの検査信号が前記制御信号復調部に受信され、前記制御信号復調部によりデジタルの検査信号についてレベル算出と復調とが行われ、
前記補正値決定部は、前記制御信号復調部から出力された実際の復調された検査信号と、復調された検査信号としての正解の検査信号との比較の結果が所定の条件を満たしている場合に、前記制御信号復調部により算出された実際の検査信号のレベルと、正解のレベルとの差を基に、レベルの補正値を決定し、
当該決定した補正値に従うパラメータが、前記列車の運行におけるレベル算出に使用される前記パラメータである、
列車制御支援システム。
【請求項2】
前記検査信号送信部は、前記正解の検査信号と前記正解のレベルとを表すデータを前記補正値決定部に送信し、
前記補正値決定部は、当該データから前記正解の検査信号と前記正解のレベルとを特定する、
請求項1に記載の列車制御支援システム。
【請求項3】
前記所定の条件は、前記正解の検査信号に対する前記実際の復調された検査信号の符号誤り率が所定値未満であることである、
請求項1又は2に記載の列車制御支援システム。
【請求項4】
前記補正値決定部は、前記所定の条件が満たされていない場合、異常を発報する、
請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載の列車制御支援システム。
【請求項5】
前記補正値決定部は、前記実際の検査信号のレベル又は前記決定された補正値が所定の範囲に無い場合、異常を発報する、
請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の列車制御支援システム。
【請求項6】
前記補正値決定部は、同一の検査期間において複数回算出されたレベルについてそれぞれ補正値決定を行い、得られた補正値の代表値を算出し、当該代表値を最終的な補正値とする、
請求項1乃至5のうちのいずれか1項に記載の列車制御支援システム。
【請求項7】
前記補正値決定部により補正値が決定された後に、
前記検査信号送信部は、前記検査信号を送信し、
前記補正値決定部は、当該検査信号について前記制御信号復調部からの出力を基に、前記所定の条件が満たされており、且つ、前記正解のレベルを基に、算出されたレベルが正しいかか否かを確認する、
請求項1乃至6のうちのいずれか1項に記載の列車制御支援システム。
【請求項8】
列車が走行するレールを通じてアナログの制御信号を受信し当該アナログの制御信号が流れる制御信号受信部に、模擬された制御信号である検査信号でありアナログの検査信号を送信するステップと、
レベル補正を行うステップと
を有し、
前記制御信号受信部は、前記列車の車両にあり、前記受信されたアナログの制御信号が流れる一つ又は複数のアナログ素子を有し、当該一つ又は複数のアナログ素子を流れたアナログの制御信号をA/D変換(アナログ/デジタル変換)して出力するようになっており、
当該車両における制御信号復調部は、前記制御信号受信部から出力されたデジタルの制御信号を受信し、当該受信されたデジタルの制御信号のレベルを、設定されたパラメータに基づき算出し、且つ、当該デジタルの制御信号を復調するようになっており、
前記アナログの検査信号が前記制御信号受信部に受信されて前記一つ又は複数のアナログ素子を通りA/D変換されて前記制御信号復調部に出力され、前記制御信号受信部から出力されたデジタルの検査信号が前記制御信号復調部に受信され、前記制御信号復調部によりデジタルの検査信号についてレベル算出と復調とが行われるようになっており、
前記レベル補正を行うステップでは、
前記制御信号復調部から出力された実際の復調された検査信号と、復調された検査信号としての正解の検査信号との比較の結果が所定の条件を満たしている場合に、前記制御信号復調部により算出された実際の検査信号のレベルと、正解のレベルとの差を基に、レベルの補正値を決定し、
当該決定した補正値に従うパラメータが、前記列車の運行におけるレベル算出に使用される前記パラメータである、
列車制御支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、列車制御の支援に関し、例えば、列車の車上保安装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、列車制御システムは、地上装置と車上装置間で信号のやりとりを行うことによって、列車が制限速度を超過した場合にブレーキを自動的に動作させて列車を減速又は停止させる。
【0003】
ATC(Automatic Train Control)システムは、列車制御システムの一種である。ATCシステムは、地上装置からレールを介して伝送されるATC信号を受信し復調する。信号の伝送路としてのレールは、列車へ供給する電力の帰線と共用するため、ATC信号の受信及び復調にとってノイズとなる。
【0004】
そこで、ATCシステムは、ATC信号を受信及び復調する際に、デジタル信号処理でレベル(典型的には搬送波のレベル)の算出を行う。デジタル信号処理では、最小レベル閾値が設けられている。算出されたレベルが最小レベル閾値を下回ると、ATC信号のSN比が確保できなくなり、結果として、正しく復調することができなくなるおそれがある。
【0005】
例えば、特許文献1は、各軌道回路における列車制御信号の受信レベルに対する減衰量を自動的に調整することで各軌道回路の受信レベルを一定に保つ軌道回路受信装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、ATCシステムは、デジタル信号処理で算出したレベルからATC信号の電圧レベルが読み取れるように設計されている。例えば、電圧レベルが300mVrmsであれば、デジタル信号処理で算出されたレベルは3000digitを示す。
【0008】
レベル算出にはパラメータが用いられるが、車両間の個体差に関わらず、レベル算出に用いられるパラメータは固定値として設定されている。このため、受信したATC信号を復調した時のデジタル信号処理で算出したレベルにはばらつきが生じる。
【0009】
また、車両が受信したATC信号の経路におけるアナログ素子の経年劣化が進んだ場合、同一個体の車両(つまり一つの車両)においても、算出されたレベルにばらつきが生じる。アナログ素子の経年劣化が進んだ場合は、受信したATC信号を復調した時のデジタル信号処理で算出したレベルが最小レベル閾値を下回り、ATCシステムはATC信号を復調できないと誤検知する可能性がある。
【0010】
特許文献1に開示の技術によれば、車上装置の故障や信号線の短絡又は開放等によりATC信号の復調が正しくできないにも関わらず、ノイズレベルに対して減衰量が自動補正される可能性がある。ATC信号を正しく復調できなければ、列車運行に悪影響を与える可能性がある。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みて、列車の車両間の個体差や車両が受信した制御信号の経路におけるアナログ素子の経年劣化によらず制御信号を正しく復調することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、代表的な本発明の一つとしての列車制御支援システムが、列車が走行するレールを通じて受信された制御信号が流れ一つ又は複数のアナログ素子を有する経路に、模擬された制御信号である検査信号を送信する。検査信号について、制御信号と同様、A/D変換(アナログ/デジタル変換)され、設定されたパラメータに基づくレベル算出がされ、且つ、デジタル信号の復調が行われる。列車制御支援システムは、実際の復調された検査信号と正解の検査信号(復調された検査信号としての正解の検査信号)との比較の結果が所定の条件を満たしている場合に、算出された実際の検査信号のレベルと、正解のレベルとの差を基に、レベルの補正値を決定する。当該決定した補正値に従うパラメータが、列車の運行におけるレベル算出に使用される上記パラメータである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、列車の車両間の個体差や車両が受信した制御信号の経路におけるアナログ素子の経年劣化によらず制御信号を正しく復調することが可能となる。
【0014】
上記以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る列車制御支援システムを含むシステムの概略構成図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る列車制御支援システムが適用された車上保安装置の構成図である。
【
図3】
図2に示した車上保安装置が検査信号を送信してから補正値を決定するまでのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態を説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る列車制御支援システムを含むシステムの概略構成図である。
【0018】
列車制御支援システムは、検査信号送信部110及び補正値決定部140を含む。制御信号受信部120及び制御信号復調部130は、例えば、列車を構成する一つ以上の車両の各々に備えられている。列車制御支援システムにおける検査信号送信部110及び補正値決定部140の少なくとも一つは、各車両に備えられていてもよいし、所定の車両(例えば、先頭車両)に備えられていてもよい。
【0019】
制御信号復調部130は、フィルタ部131、増幅部132、レベル算出部133、及び信号復調部134を備えている。
【0020】
検査信号送信部110は、車上検査時に、検査信号(検査のためのATC信号)を制御信号受信部120に送信し、検査信号の変調前の電文を補正値決定部140に送信する。送信される検査信号は、アナログ信号である。デジタル信号としての検査信号が送信され、制御信号受信部120に受信されるまでのD/A変換(デジタル/アナログ変換)が行われ、アナログの検査信号が制御信号受信部120に入力されてもよい。検査信号送信部110は、運行前に実施される車上検査時で動作する。運行時は、車上検査は実施されない。
【0021】
制御信号受信部120は、車上検査時に検査信号送信部110から受信した検査信号を受信するインタフェースである。運行時は、制御信号受信部120は、レールに流れるATC信号(アナログ信号)を受信する。制御信号受信部120は、前記受信されたアナログの制御信号が流れる一つ又は複数のアナログ素子を有し、当該一つ又は複数のアナログ素子を流れたアナログの制御信号をA/D変換(アナログ/デジタル変換)して出力するようになっている。
【0022】
制御信号復調部130は、運行時は、制御信号受信部120から受信したATC信号(デジタル信号)を内部のフィルタ部131で取り出し、増幅部132で低下したレベルを増幅し、最終的にレベル算出部133にて電圧レベルをデジタル信号処理でレベル算出し、信号復調部134にて変調信号の復調を行う。検査時は、制御信号受信部120から受信した検査信号(デジタル信号)について同様の処理が行われる。
【0023】
補正値決定部140は、検査信号送信部110からの電文と、制御信号復調部130から受け取った検査信号レベルとに基づき、デジタル信号処理で算出したレベルから電圧レベルを読み取れるように補正値を決定する。補正値決定部140は、算出結果を制御信号復調部130に送信する。
【0024】
以下、本発明の一実施形態に係る列車制御支援システムが適用された車上保安装置を、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
図2は、本発明の一実施形態に係る列車制御支援システムが適用された車上保安装置の構成図である。
【0026】
列車の車両201に搭載する車上保安装置は、車上検査装置211、受電器221、トランス222、艤装ケーブル223、アンチエイリアスフィルタ224、A/D変換器225、信号処理演算装置231及び補正値演算装置241のうちの少なくとも一部(例えば、車上検査装置211、信号処理演算装置231及び補正値演算装置241)を備える。
【0027】
車上検査装置211は、列車に異常や故障がないことを確認するために、運行前の車上検査にて、ATC信号を模擬した検査信号を送信する。車上検査装置211の実現としては、具体的には、例えば、DSP(Digital Signal Processor)によるソフトウェア処理やFPGA(Field Programmable Gate Array)によるハードウェア処理から生成したデジタル信号をD/A変換して生成する方法や水晶発振器から任意の波形や周波数を生成するDDS(Direct Digital Synthesizer)等による実現が挙げられる。更に車上検査装置211は、補正値演算装置241へ検査信号の変調前の電文を送信する。車上検査装置211は、
図1の検査信号送信部110に相当する。
【0028】
受電器221は、ATC信号を受信するコイルであり、車両の車軸が軌道を短絡することによって流れる電流を電磁誘導で取り込む。受電器221で受信したATC信号は、トランス222へ送信される。
【0029】
トランス222は、ATC信号の周波数帯を通過帯域として設計されており、受電器221との絶縁と巻き線に従ったATC信号の変圧をする。ATC信号は、艤装ケーブル223を伝って、アンチエイリアスフィルタ224へ送信される。
【0030】
アンチエイリアスフィルタ224は、後段のA/D変換器225にてサンプリング時に発生するエイリアスを防止するためのフィルタである。エイリアスとは、アナログ信号をデジタルデータにサンプリングする際に、サンプリング周波数の1/2以上の周波数の成分が混じっている時に生じる周期的なノイズである。
【0031】
A/D変換器225は、アナログ信号であるATC信号の振幅を離散的な周期で切り出し、符号で表されたデジタルデータに変換する。このデジタルデータをもってデジタル信号処理が可能となる。
【0032】
以上の受電器221、トランス222、艤装ケーブル223、アンチエイリアスフィルタ224、A/D変換器225は、
図1の制御信号受信部120に相当する。トランス222、艤装ケーブル223、アンチエイリアスフィルタ224が、一つ又は複数のアナログ素子の一例である。
【0033】
信号処理演算装置231は、A/D変換器225でデジタルデータとなったATC信号に対し、デジタルフィルタによる信号の帯域成分の取り出しと低下したレベルを増幅させ、最終的に復調による電文取得処理やレベル算出処理を実施する。信号処理演算装置231の実現としては、具体的には、例えば、DSP(Digital Signal Processor)によるソフトウェア処理やFPGA(Field Programmable Gate Array)によるハードウェア処理等による実現が挙げられる。更に、この装置231は、復調結果を補正値演算装置241へ送信する機能と、補正値演算装置241から受信した補正値を基にデジタル信号処理でレベルを算出する機能を備える。信号処理演算装置231は、
図1の制御信号復調部130に相当する。
【0034】
補正値演算装置241は、受信した処理結果に基づいて補正値を決定し、補正値を信号処理演算装置231へ送信する。補正値演算装置241の実現としては、具体的には、例えば、CPU(Central Processing Unit)によるソフト処理やFPGAによるハードウェア処理等による実現が挙げられる。補正値演算装置241は、車上検査装置211から検査信号の変調前の電文を受信し、信号処理演算装置231から復調による電文取得処理結果やレベル算出処理結果を受信する。補正値演算装置241は、
図1の補正値決定部140に相当する。
【0035】
信号処理演算装置231と補正値演算装置241を個別に表記しているが、それらの装置は一体としての装置として実現されてもよい(例えば、FPGAに両者の論理を組み込むことで1つの素子で実現されてもよい)。また、DSPとCPUを採用するのであれば、例えばDPRAM(Dual-Ported Random Access Memory)のようなメモリ素子が別途必要とされてよい。
【0036】
図3は、
図2に示した車上保安装置が検査信号を送信してから補正値を決定するまでのフローチャートである。
【0037】
ステップ3-1において、車上検査装置211は、車上検査のために電文を変調し、検査信号として送信する。検査信号は、トランス222を介し、艤装ケーブル223、アンチエイリアスフィルタ224、A/D変換器225へ到達する。この時の検査信号の電圧レベルは、予め決められた、且つ、ATC信号の復調ができる最小レベル閾値よりも大きい電圧レベルである。これは、電圧レベルが最小レベル閾値を下回ると、ATC信号のSN比が確保できなくなり、結果として、信号処理演算装置231にて正しく復調できなくなるおそれがあるためである。また、予め電圧レベルが決められていることで、補正値演算装置241にて保持している予め決められたレベル情報との比較を行うことができる。更に車上検査装置211は、補正値演算装置241へ検査信号の変調前の電文を送信する。
【0038】
トランス222及びアンチエイリアスフィルタ224は、いずれもアナログ素子であり、許容差や温度により特性変化する。また、艤装ケーブル223も同様に許容差や温度により特性変化する。つまり、同路線の同型式の車両であっても、車両間の個体差が存在する。また、同一個体の車両でも温度や経年劣化によりアナログ素子は特性変化していくことが考えられる。
【0039】
次に、ステップ3-2において、A/D変換器225が、検査信号をデジタルデータに変換し、当該データを送信する。
【0040】
次に、ステップ3-3において、信号処理演算装置231が、デジタルデータとなったATC信号に対し、復調による電文取得処理やレベル算出処理を実施する。
【0041】
次に、ステップ3-4において、補正値演算装置241は、信号処理演算装置231から受けた検査信号の復調データと、算出したレベル情報を受信する。更に、補正値演算装置241は、復調したデータと、検査信号の変調前の電文を比較する。比較するために用いるデータ量は案件等により異なるが、各案件で要求するBER(Bit Error Rate)を達成するデータ量である必要がある。復調したデータと変調前電文との比較から、BER要求が達成されているか否か(BERが所定値未満か否か)を判定することができる。
【0042】
BER要求が達成されていなければ(ステップ3-4:No)、ATC信号の受信及び復調機能の要求を満たせていないということである。ATCシステム上の装置やケーブルに異常がある可能性があるので、ステップ3-5において、補正値演算装置241は、異常発生を運転士へ通知する。
【0043】
BER要求が達成されていれば(ステップ3-4:Yes)、ATCシステム上の装置やケーブルに異常等はなく、ATC信号の受信及び復調機能の要求を満たせたということである。そこで、ステップ3-6において、補正値演算装置241は、レベル算出情報(算出されたレベルを表す情報)と補正値演算装置241で保持している予め決められたレベル情報が表すレベル(例えば、受信された電文が表すレベル)とを比較する。もしレベル間に相違があれば、製品設計時に設定されていた、デジタル信号処理で算出したレベルから電圧レベルが読み取れるような関係が崩れているということになる。そこで、補正値演算装置241は、デジタル信号処理で算出したレベルから電圧レベルが読み取れるような関係が保たれるように補正値を決定する。補正値演算装置241は、決定した補正値を信号処理演算装置231へ送信する。なお、補正値決定において、補正値が取り得る範囲を超えた補正値が必要となる可能性がある。その場合、デジタル信号処理で算出したレベルから電圧レベルが読み取れるような関係が成立しないおそれがあるので、補正値演算装置241は、異常がある可能性を考慮し、異常発生を運転士へ通知してもよい。
【0044】
次に、ステップ3-7において、信号処理演算装置231が、受信した補正値を増幅パラメータとして記録する。
【0045】
以降の運行時では、この補正値を基にレベルの算出が実施される。
【0046】
以降は、上述の説明の総括の一例である。下記の総括は、上述の説明の補足説明又は変形例の説明(例えば、追加を検討してもよい機能に関する説明)を含む。
【0047】
検査信号送信部110と補正値決定部140とを含んだ列車制御支援システムが構築される。検査信号送信部110は、検査信号(模擬された制御信号)を制御信号受信部120に送信する。
【0048】
制御信号受信部120は、列車の車両に備えられており、当該列車が走行するレールを通じてアナログの制御信号(例えばアナログのATC信号)を受信し、当該アナログの制御信号が流れる一つ又は複数のアナログ素子を有し、当該一つ又は複数のアナログ素子を流れたアナログの制御信号をA/D変換して出力する。当該車両における制御信号復調部130は、制御信号受信部120から出力されたデジタルの制御信号を受信し、当該受信されたデジタルの制御信号のレベルを、設定されたパラメータに基づき算出し、且つ、当該デジタルの制御信号を復調する。検査信号についても、制御信号と同様の処理が行われる。
【0049】
補正値決定部140は、制御信号復調部130から出力された実際の復調された検査信号と、復調された検査信号としての正解の検査信号との比較の結果が所定の条件を満たしている場合に、制御信号復調部130により算出された実際の検査信号のレベルと、正解のレベルとの差を基に、レベルの補正値を決定する。当該決定した補正値に従うパラメータが、列車の運行におけるレベル算出に使用されるパラメータである。パラメータは、補正値それ自体でもよいし、補正値を用いて演算された値がパラメータでもよい。また、「レベル算出に使用されるパラメータ」は、レベル算出それ自体において使用されてもよいしレベル算出に影響する処理において使用されてもよい(例えば、レベル算出部133による算出に使用されてもよいし、増幅部132による増幅に使用されてもよい)。
【0050】
これにより、列車の車両間の個体差や車両が受信した制御信号の経路におけるアナログ素子の経年劣化によらず制御信号を正しく復調することができる。
【0051】
検査信号送信部110は、変調前電文を補正値決定部140に送信してもよい。補正値決定部は、変調前電文から正解の検査信号と正解のレベルとを特定してよい。これにより、検査信号送信部110が送信する検査信号が例えば検査時毎に異なっても、送信される検査信号について正解のデータを維持することができる。なお、変調前電文は、検査信号の送信の都度に検査信号送信部110から補正値決定部140に送信されることに代えて、補正値決定部140により予め保持されていてもよい。
【0052】
上述の「所定の条件」は、正解の検査信号に対する実際の復調された検査信号の符号誤り率が所定値未満であることでよい。これにより、信号復調までの過程における部位に異常があるおそれがあることを検出することができる。なお、「所定の条件」は、符号誤り率が所定値未満であることに代えて又は加えて、他の条件、例えば、実際の復調された検査信号の特徴量と正解の特徴量との差が一定値以下であることでもよい。
【0053】
補正値決定部140は、上述の所定の条件が満たされていない場合、異常を発報してよい。これにより、信号復調までの過程における部位に異常があるおそれがある状況において運行が行われることを避けることができる。なお、異常の発報は、例えば、運転士への通知でもよいし、異常発生を所定の上位のコンピュータシステムに通知することでもよい。
【0054】
補正値決定部140は、実際の検査信号のレベル又は決定された補正値が所定の範囲に無い場合、異常を発報してもよい。A/D変換器225の量子化誤差が存在するため、算出されたレベルがばらつくが、そのばらつきの範囲を超えている場合、異常ありとすることができる。
【0055】
また、検査信号送信部110は、補正値決定部140へ検査信号の変調前の電文に加え、検査信号のレベル情報を併せて送信してもよい。その場合、検査信号送信部110は検査信号を予め決められた電圧レベルで送信する必要はなく、補正値決定部140は、制御信号復調部130から受けた算出したレベル情報を比較して補正値を決定できる。但し、送信されるレベル情報(検査信号のレベル情報)が表すレベルは、制御信号の復調ができる最小レベル閾値よりも大きい電圧レベルとする必要がある。
【0056】
また、補正値決定部140が実施する補正値の決定において、複数回かけて制御信号復調部130が算出したレベル情報を受信してもよい。A/D変換器225にてアナログ電圧を最も近しい離散値に置き換えることで量子化誤差が発生することが知られている。そのため一度受信したレベル情報から補正すると、以降のレベル算出は検査時に実施した量子化誤差を含んだ補正となる。そこで複数回かけて受信したレベル情報から平均値や中央値等の代表値を取ることで量子化誤差による影響を低減できる。すなわち、補正値決定部140は、同一の検査期間において複数回算出されたレベルについてそれぞれ補正値決定を行い、得られた補正値の代表値を算出し、当該代表値を最終的な補正値としてよい。
【0057】
補正値決定部140は、実際の検査信号のレベル又は決定された補正値が所定の範囲に無い場合、異常を発報してよい。
【0058】
ステップ3-5の後に、再度ステップ3-1が行われてもよい。すなわち、補正値決定部140により補正値が決定された後に、検査信号送信部110が、検査信号を送信し、補正値決定部140が、当該検査信号について制御信号復調部130からの出力を基に、上述の所定の条件が満たされており、且つ、正解のレベルを基に、算出されたレベルが正しいかか否かを確認してよい。これにより、レベルの自動補正が正しく機能するか確認することができる。また確認時は、受信したレベル情報が補正値演算装置で保持している予め決められたレベル情報に対し、予め決められた許容誤差の範囲内に入っていることを条件とする。これはA/D変換器の量子化誤差が存在するため、補正後の確認時であっても受信したレベル情報がばらつくためである。
【0059】
車上検査が終わり運行が開始された後の動作は、以下の通りである。運行中は、検査信号送信部110と補正値決定部140は動作しない。制御信号受信部120と制御信号復調部130が動作し、レールに流れるATC信号に対し、常時受信及び復調処理が実施される。運行中において、列車は路線の終着点に到着すると、路線の上り下りを切り替えるために、車上保安装置の電源を一度遮断する必要がある場合がある。これは、上り下りでATC信号の周波数等の仕様が変わることによる。補正値決定部140が算出した補正値に従うパラメータの記憶領域が不揮発性の記憶領域(例えば、不揮発性のメモリ)であれば、車上検査時に受信した補正値を電源遮断が発生しても再度使用できるようになる。また次回の車上検査時も、記録しておいた補正値を読み出することもできる。
【0060】
本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0061】
110…検査信号送信部、120…制御信号受信部、130…制御信号復調部、140…補正値決定部