(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098383
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】濃度判定部材、濃度判定キット、および次亜塩素酸濃度の判定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 31/22 20060101AFI20230703BHJP
G01N 31/00 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
G01N31/22 121D
G01N31/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021215106
(22)【出願日】2021-12-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年2月6日にウェブサイトで公開された北見工業大学工学部地域未来デザイン工学科機械知能・生体工学コース 2020年度卒業研究発表会前刷りにおいて発表 令和3年2月10日に開催された北見工業大学工学部地域未来デザイン工学科機械知能・生体工学コース 2020年度卒業研究発表会において発表
(71)【出願人】
【識別番号】000223045
【氏名又は名称】東洋濾紙株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504300088
【氏名又は名称】国立大学法人北海道国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大内 一敏
(72)【発明者】
【氏名】兼清 泰正
【テーマコード(参考)】
2G042
【Fターム(参考)】
2G042AA01
2G042BA07
2G042BA10
2G042BB18
2G042CB03
2G042DA08
2G042DA10
2G042FA11
2G042FB05
(57)【要約】
【課題】溶液中の測定対象の濃度を、色相および形状によって容易に判定できる濃度判定部材、濃度能判定キット、および次亜塩素酸濃度の判定方法を提供する。
【解決手段】本発明の濃度判定部材は、測定用基材と、前記測定用基材の表面に第1の形状で設けられた無電荷の第1の被膜パターンと、前記測定用基材の表面に、前記第1の形状とは異なる第2の形状で設けられ、正電荷または負電荷を帯びた第2の被膜パターンとを備えた濃度判定部材であって、測定対象を含有する溶液と接触することにより、前記第1の被膜パターンは前記第2の被膜パターンと異なる電荷を帯び、前記第2の被膜パターンは無電荷となる濃度判定部材である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定用基材と、
前記測定用基材の表面に第1の形状で設けられた無電荷の第1の被膜パターンと、
前記測定用基材の表面に、前記第1の形状とは異なる第2の形状で設けられ、正電荷または負電荷を帯びた第2の被膜パターンとを備えた濃度判定部材であって、
測定対象を含有する溶液と接触することにより、
前記第1の被膜パターンは前記第2の被膜パターンと異なる電荷を帯び、
前記第2の被膜パターンは無電荷となる濃度判定部材。
【請求項2】
測定用基材と、
前記測定用基材の表面に第1の形状で設けられた無電荷の第1の被膜パターンと、
前記測定用基材の表面に、前記第1の形状とは異なる第2の形状で設けられ、正電荷を帯びた第2の被膜パターンとを備えた濃度判定部材であって、
測定対象を含有する溶液と接触することにより、
前記第1の被膜パターンは負電荷を帯び、
前記第2の被膜パターンは無電荷となる濃度判定部材。
【請求項3】
前記測定対象を含有する溶液は、次亜塩素酸またはその塩の水溶液である請求項2記載の濃度判定部材。
【請求項4】
前記第1の被膜パターンはアミド基を有し、前記第2の被膜パターンはアミノ基を有する請求項2または3記載の濃度判定部材。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項記載の濃度判定部材と、アニオン色素と、前記アニオン色素とは異なる色相のカチオン色素とを備える濃度判定キット。
【請求項6】
請求項2記載の濃度判定部材を用いた次亜塩素酸濃度の判定方法であって、
アニオン色素、および前記アニオン色素とは異なる色相のカチオン色素を準備する工程、
前記第1の被膜パターンおよび前記第2の被膜パターンに、被検液を接触させる工程、
被検液が接触した前記第1の被膜パターンおよび前記第2の被膜パターンを、前記アニオン色素および前記カチオン色素に所定時間接触させて、第1の被膜パターンおよび第2の被膜パターンの少なくとも一方を着色する工程を備えた濃度判定方法。
【請求項7】
着色された被覆パターンを目視確認し、その色調および形状から下記a)~d)の基準で被検液中の次亜塩素酸濃度を判定する請求項6記載の濃度判定方法。
a)アニオン色素で着色された第2の被膜パターンが明瞭なほど次亜塩素酸濃度が低い
b)アニオン色素で着色された第2の被膜パターンが不明瞭なほど次亜塩素酸濃度が高い
c)カチオン色素で着色された第1の被膜パターンが明瞭なほど次亜塩素酸濃度が高い
d)カチオン色素で着色された第1の被膜パターンが不明瞭なほど次亜塩素酸濃度が低い。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃度判定部材、濃度判定キット、および次亜塩素酸濃度の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、様々な測定対象の濃度を測定する分析片として、試験紙が市販されているが、色調変化が単調で変化に乏しいため、視認性が不十分である場合が少なくない。
例えば、次亜塩素酸濃度を測定する試験紙として、色素と次亜塩素酸との直接反応や次亜塩素酸によるpH変化を利用した直接法を反応原理としたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、次亜塩素酸濃度を測定するための従来の試験紙では、反応して色調変化を示す特定の色素しか使用できない。このため、色の選択肢が少なく、応答に伴う色調変化は限定的である。また、色素の毒性や低耐久性の懸念もあるなど、様々な改善点を抱えているが、新規の色素を合成するには多大な労力・時間と煩雑な合成操作を要する。
【0005】
そこで本発明は、被検液中の測定対象の濃度を、色相および形状によって容易に判定できる濃度判定部材、濃度能判定キット、および次亜塩素酸濃度の判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、測定対象と反応して帯電状態が変化し、所定の色素が吸着可能となる2つの被膜パターンと、所定の色素とを組み合わせることで、色相および形状によって測定対象の濃度を容易に判定できる濃度判定部材、濃度判定キット、および被検液中の次亜塩素酸濃度を判定する方法が得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、測定用基材と、前記測定用基材の表面に第1の形状で設けられた無電荷の第1の被膜パターンと、前記測定用基材の表面に、前記第1の形状とは異なる第2の形状で設けられ、正電荷または負電荷を帯びた第2の被膜パターンとを備えた濃度判定部材であって、測定対象を含有する溶液と接触することにより、前記第1の被膜パターンは前記第2の被膜パターンと異なる電荷を帯び、前記第2の被膜パターンは無電荷となる濃度判定部材である。
【0008】
また、本発明は、測定用基材と、前記測定用基材の表面に第1の形状で設けられた無電荷の第1の被膜パターンと、前記測定用基材の表面に、前記第1の形状とは異なる第2の形状で設けられ、正電荷を帯びた第2の被膜パターンとを備えた濃度判定部材であって、測定対象を含有する溶液と接触することにより、前記第1の被膜パターンは負電荷を帯び、前記第2の被膜パターンは無電荷となる濃度判定部材である。
【0009】
さらに、本発明は、前述の濃度判定部材と、アニオン色素と、前記アニオン色素とは異なる色相のカチオン色素とを備える濃度判定キットである。
【0010】
またさらに、本発明は、前述の濃度判定部材を用いた次亜塩素酸濃度の判定方法であって、アニオン色素、および前記アニオン色素とは異なる色相のカチオン色素を準備する工程、前記第1の被膜パターンおよび前記第2の被膜パターンに、被検液を接触させる工程、被検液が接触した前記第1の被膜パターンおよび前記第2の被膜パターンを、前記アニオン色素および前記カチオン色素に所定時間接触させて、第1の被膜パターンおよび第2の被膜パターンの少なくとも一方を着色する工程を備えた判定方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被検液中の測定対象の濃度を、色相および形状によって容易に判定できる濃度判定部材、濃度能判定キット、および次亜塩素酸濃度の判定方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の濃度判定部材、濃度判定キット、および次亜塩素酸濃度の判定方法について詳細に説明する。
本発明の濃度判定部材は、測定用基材と、測定用基材の表面に被膜された第1の被膜パターンおよび第2の被膜パターンとを備える。測定用基材の材質としては、例えば、ガラス板、アクリル板、PET板、各種濾紙等を用いることができる。測定用基材の大きさは特に限定されず、適宜選択できるが、扱い易さ等を考慮すると、3cm×3cm程度とすることが好ましい。
【0013】
測定用基材の表面には、形状および帯電状態の異なる第1の被膜パターンおよび第2の被膜パターンが設けられている。例えば第1の被膜パターンはリング状とし、第2の被膜パターンは×印状とすることができる。
第1の被膜パターンは、無電荷であり、測定対象を含有する溶液と接触することにより第2の被膜パターンとは異なる電荷を帯びる。例えば、アミド基を有する被膜パターンを、第1の被膜パターンとすることができる。一方、第2の被膜パターンは、正電荷または負電荷を帯びており、測定対象を含有する溶液と接触することにより無電荷となる。例えば、アミノ基を有する被膜パターンを第2の被膜パターンとすることができる。
【0014】
測定対象を含有する溶液としては、例えば、次亜塩素酸またはその塩の水溶液が挙げられる。次亜塩素酸の塩としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等の次亜塩素酸アルカリ金属塩、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸バリウム等の次亜塩素酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。これらの次亜塩素酸またはその塩は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
次亜塩素酸またはその塩の水溶液を、測定対象を含有する溶液とする場合、測定対象は次亜塩素酸または次亜塩素酸イオンである。本発明の濃度判定部材における第1の被膜パターンおよび第2の被膜パターンは、測定対象と反応することによって帯電状態が変化する。
【0015】
帯電状態の異なる第1および第2の被膜パターンは、所定のモノマー溶液を用いて、フォトマスクを介した光重合法により測定用基材の表面に形成することができる。第1の被膜パターンの形成には、第1のモノマー溶液が用いられる。第1のモノマー溶液は、例えば1.5~2.3mmolのアクリルアミド、0.11~0.19mmolの架橋剤、および0.07~0.13mmolの重合開始剤を溶媒に溶解して、調製することができる。
【0016】
アミノ基を有する第2の被膜パターンは、正電荷を帯びており、測定対象を含有する溶液と接触することにより無電荷となる。こうした第2の被膜パターンの形成に用いるモノマー溶液(第2のモノマー溶液)は、例えば1.36~2.23mmolのジメチルアクリルアミド、0.06~0.10mmolの一級アミンモノマー、0.15~0.25mmolの架橋剤、0.15~0.25mmolの重合開始剤を溶媒に溶解して調製することができる。
【0017】
本発明の濃度判定部材における第2の被膜パターンは、負電荷を帯びており、測定対象を含有する溶液と接触することにより無電荷となるものであってもよい。例えば、ボロン酸基を有する被膜パターンは、一定の条件下で負電荷を帯びており、測定対象を含有する溶液と接触することにより無電荷となる。ボロン酸基を有する被膜パターンは、ボロン酸基を含有するモノマー溶液を用いて形成することができる。具体的には、モノマー溶液は、3-アクリルアミドフェニルボロン酸を溶媒に溶解して調製することができる。
【0018】
モノマー溶液を調製するための溶媒としては、例えば、水とジメチルスルホキシド(DMSO)との混合液(体積比1:1)を用いることができる。この場合、水としては蒸留水、イオン交換水等を用いることができる。ジメチルホルムアミド、メタノール等を、モノマー溶液の溶媒として用いてもよい。架橋剤は、メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジメタクリレート等から選択することができる。また、重合開始剤は、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシメチル)プロピオンアミド]等から選択することができる。
【0019】
本発明の濃度判定部材の製造にあたっては、例えば、測定用基材上に第1のモノマー溶液を塗布して第1の塗膜を形成し、リング状のフォトマスクを介して1~3時間、紫外線を照射する。紫外線としては、紫外線としては、例えば、g線(波長436nm)、h線(波長405nm)、i線(波長365nm)、KrFエキシマレーザー光(波長248nm)、ArFエキシマレーザー光(波長193nm)が挙げられる。露光量は、通常3~9J/cm2である。
【0020】
第1の塗膜の照射部が硬化することで、アミド基を有するリング状の第1の被膜パターンが形成される。第1の被膜パターンにおけるリングの大きさ、幅は、測定用基材の大きさに応じて適宜選択することができる。第1の被膜パターンが形成された測定用基材を水で洗浄し、送風機などにより乾燥した後、第2の被膜パターンを形成する。
【0021】
第2の被膜パターンは、第1の被膜パターンに近接して形成することが好ましい。被検液中の測定対象の濃度をより簡便に判定するためには、リング状の第1の被膜パターンの内側に、×印状の第2の被膜パターンを設けることがより好ましい。この場合、第2の被膜パターンにおける×印の大きさは、第1の被膜パターンにおけるリングの内側に納まる程度であれば特に限定されず、適宜選択することができる。
【0022】
例えば、先に形成されたリング状の第1の被膜パターンを覆うように、第2のモノマー溶液を塗布して第2の塗膜を形成する。リングの内側に×印が位置するように×印状のフォトマスクを配置し、1~3時間、紫外線を照射する。第2の塗膜の照射部が硬化することで、アミノ基を有する×印状の第2の被膜パターンが形成される。第2の被膜パターンが形成された測定用基材を、炭酸ナトリウムと水で洗浄する。さらに、ドライヤーの冷風で乾燥して、本発明の濃度判定板部材が得られる。
【0023】
本発明の濃度判定部材の製造にあたっては、アミノ基を有する×印状の第2の被膜パターンを測定用基材の表面に形成し、次いで、アミド基を有するリング状の第1の被膜パターンを形成することもできる。例えば、測定用基材の表面に形成された×印状の第2の被膜パターンを覆うように、第1のモノマー溶液の塗膜を形成する。第2の被膜パターンの×印を包囲するようにリング状のフォトマスクを配置して、紫外線を照射した後、上述したように洗浄すればよい。
【0024】
本発明の濃度判定部材と、アニオン色素と、カチオン色素とによって、本発明の濃度判定キットが構成される。ただし、カチオン色素とアニオン色素とは色相が異なることが好ましい。アニオン色素としては、-2価以上の正味荷電を有する色素が好ましく、カチオン色素としては、+2価以上の正味荷電を有する色素が好ましい。
【0025】
アニオン色素およびカチオン色素は、10~200ppm程度の水溶液として用いることができる。アニオン色素を含有する第1の着色溶液と、カチオン色素を含有する第2の着色溶液とを調製することができる。あるいは、アニオン色素とカチオン色素の両方を含有する着色溶液を調製してもよい。
【0026】
アニオン色素としては、例えば、緑色3号(ファーストグリーンFCF)、アシッドレッド27、アシッドレッド112,アシッドレッド18、アシッドレッド114、青色2号色素(インジゴカルミン)、ダイレクトイエロ―50、インジゴテトラスルホン酸、およびクリソフェニン等が挙げられる。また、カチオン色素としては、例えば、サフランT、メチレンブルー、およびプロピジウムヨウ素等が挙げられる。
【0027】
アニオン色素とカチオン色素とは、異なる色相同士であれば任意に組み合わせて用いることができる。例えば、アニオン色素としてファーストグリーンFCFを用いる場合には、カチオン色素としてはサフランTを選択することが好ましい。また、アニオン色素としてアシッドレッドを用いる場合には、カチオン色素としてはメチレンブルーを選択することが好ましい。
【0028】
本発明の濃度判定部材は、被検液中の測定対象、特に次亜塩素酸または次亜塩素酸イオンの濃度判定に好適に用いることができる。被検液としては、次亜塩素酸または次亜塩素酸イオンを含有している可能性のある任意の溶液を用いることができる。次亜塩素酸濃度の判定にあたっては、まず、本発明の濃度判定部材を被検液に5~60分程度浸漬する。被検液の温度は特に限定されないが、20~25℃程度であることが好ましい。
【0029】
次いで、第1および第2の被膜パターンを、アニオン色素およびカチオン色素に接触させる。操作の簡便さを考慮すると、アニオン色素とカチオン色素とは、単一の着色溶液に含有されていることが好ましい。例えば、被検液に浸漬後の濃度判定部材を、着色溶液に5~60分程度浸漬することによって、第1および第2の被膜パターンをアニオン色素およびカチオン色素に接触させることができる。着色溶液の温度は特に限定されないが、20~25℃程度であることが好ましい。
【0030】
被検液中の測定対象(次亜塩素酸)の濃度に応じて、以下に説明するメカニズムにより、所定の色相で所定の形状が発現する。具体的には、被検液中に測定対象が存在しない場合には、第1の被膜パターンは着色されず、第2の被膜パターンがアニオン色素で着色される。測定対象の濃度が高くなるにしたがって、第2の被膜パターンは消色し、第1の被膜パターンがカチオン色素で着色される。
【0031】
第1の被膜パターンにおけるアミド基、および第2の被膜パターンにおけるアミノ基と、測定対象としての次亜塩素酸との反応メカニズムを以下に説明する。アミド基を有する第1の被膜パターンは、次亜塩素酸が接触する前は無電荷である。下記化学式に示すように、次亜塩素酸が接触してアミド基との反応が生じると、第1の被膜パターンは負電荷を帯びる。
【0032】
【0033】
一方、アミノ基を有する第2の被膜パターンは、次亜塩素酸が接触する前は正電荷を帯びている。第2の被膜パターンは、下記化学式に示すように、次亜塩素酸が接触してアミノ基と反応することにより、無電荷を経て負電荷を帯びる。
【0034】
【0035】
本発明の濃度判定方法は、上述したメカニズムによる各被膜パターンの電荷の変化を利用したものである。
次亜塩素酸と接触する前には、第1の被膜パターンにはアニオン色素およびカチオン色素のいずれも吸着できない。次亜塩素酸と接触してアミド基との反応が生じることによって、第1の被膜パターンが負電荷を帯びる。その結果、カチオン色素が第1の被膜パターンに吸着可能となる。その後、第1の被膜パターンが正電荷を帯びた際には、アニオン色素が第1の被膜パターンに吸着可能となる。
【0036】
一方、第2の被膜パターンは、次亜塩素酸との接触前に正に帯電しているので、アニオン色素が吸着可能である。次亜塩素酸と接触してアミノ基との反応により第2の被膜パターンが無電荷となると、アニオン色素およびカチオン色素のいずれも第2の被膜パターンに吸着できない。その後、第2の被膜パターンが負電荷を帯びた際には、カチオン色素が第2の被膜パターンに吸着可能となる。
【0037】
着色された被膜パターンの色相および形状から、被検液中の次亜塩素酸の濃度を判定することができる。具体的には、アニオン色素で着色された第2の被膜パターンが明瞭なほど、あるいは、カチオン色素で吸着された第1のパターンが不明確なほど、次亜塩素酸の濃度は低いと判定される。これに対して、アニオン色素で着色された第2の被膜パターンが不明瞭なほど、あるいは、カチオン色素で吸着された第1のパターンが明確なほど、次亜塩素酸の濃度は高いと判定される。
【0038】
本発明の方法によれば、着色された被膜パターンの色相および形状の目視で確認することによって、被検液中における測定対象、特に次亜塩素酸の濃度を簡便に判定することが可能となった。
【実施例0039】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は、以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきではない。
【0040】
<濃度判定部材>
測定用基材としてガラス基板3cm×2.6cmを用い、この表面に第1の被膜パターンおよび第2の被膜パターンを形成して、本発明濃度判定部材を作製する。
第1の被膜パターンの形成に用いる第1のモノマー溶液は、アクリルアミド(950mmol/dm3)、架橋剤(75mmol/dm3)、および重合開始剤(50mmol/dm3)を溶媒に溶解して調製した。
第2の被膜パターンの形成に用いる第2のモノマー溶液は、ジメチルアクリルアミド(910mmol/dm3)、一級アミンモノマー(N-(3-アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩、40mmol/dm3)、架橋剤(100mmol/dm3)、および重合開始剤(50mmol/dm3)を溶媒に溶解して調製した。
架橋剤としては、メチレンビスアクリルアミドを用い、重合開始剤としては、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩を用いた。溶媒としては、H2OとDMSOとの混合液(体積比1:1)を用いた。
【0041】
まず、測定用基材上に、マイクロピペットにより第1のモノマー溶液の塗膜を形成した。リング状のフォトマスクを介して、紫外線(i線)を1時間照射した。リングのサイズは、内径14mm、外径20mmとした。塗膜の照射部が硬化した後、水で洗浄し、ドライヤーの冷風により乾燥させて、リング状の第1の被膜パターンを得た。この第1の被膜パターンは、アクリルアミドに起因するアミド基を有している。
【0042】
第1の被膜パターンが形成された測定用基材に、第2のモノマー溶液の塗膜を形成した。得られた塗膜に対し、×印状のフォトマスクを介して、紫外線を1時間照射した。この際、フォトマスクは、第1の被膜パターンのリングの内側に×印が位置するように配置した。塗膜の照射部が硬化した後、炭酸ナトリウム水溶液と水とを用いて洗浄し、ドライヤーの冷風で乾燥させて、×印状の第2の被膜パターンを得た。この第2の被膜パターンは、一級アミンモノマーに起因するアミノ基を有している。
こうして、アミド基を有する第1の被膜パターン、およびアミノ基を有する第2の被膜パターンを備えた本発明の濃度測定部材が作製された。
【0043】
着色溶液は、青色アニオン色素であるファーストグリーンFCF3mgと、赤色カチオン色素であるサフラニンT14mgとを、pH7.4の緩衝液100mLに溶解して調製した。用いた緩衝液は、10mmol/dm3のHEPES(2-「4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジン-N’-エタンスルホン酸)である。
【0044】
<次亜塩素酸濃度の判定>
被検液としては、次亜塩素酸濃度の異なる2種類(0mM、10mM)を用意した。
各被検液中に、濃度測定部材をそれぞれ所定時間浸漬した後、着色溶液に浸漬して、被膜パターンの着色状態を目視により観察した。被検液中への濃度判定部材の浸漬時間は、10分、30分、および60分とした。
【0045】
次亜塩素酸濃度が0mMの被検液に浸漬した濃度判定部材には、青色に着色された×印のみが現れた。一方、次亜塩素酸濃度が10mMの被検液に浸漬した濃度判定部材には、赤色に着色された〇印のみが現れた。いずれの場合も被検液への浸漬時間が長いほど、各被膜パターンの形状および色相は明瞭であった。
【0046】
次に、次亜塩素酸濃度が異なる4種類(0mM、1mM、3mM、10mM)を用意し、各被検液中に濃度判定部材を30分間浸漬させた。次いで、前述と同様の着色溶液に浸漬して、被膜パターンの着色状態を目視により観察した。
上述したように、次亜塩素酸濃度が0mMの被検液に浸漬した濃度判定部材に現れたのは、青色に着色された×印のみであり、次亜塩素酸濃度が10mMの被検液に浸漬した濃度判定部材に現れたのは、赤色に着色された〇印のみであった。
被検液中の次亜塩素酸濃度が0mMから10mMに高くなるにつれて、青色の×印が不明瞭となって消滅し、赤色の〇印が明瞭となることが確認された。
【0047】
本発明により、被検液中の次亜塩素酸の濃度を、色相および形状から容易に判定することが可能となった。