(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098423
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】情報処理装置、解析方法、制御システム、および解析プログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20230703BHJP
【FI】
G05B23/02 P
G05B23/02 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021215166
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】伊瀬 顕史
(72)【発明者】
【氏名】川端 馨
(72)【発明者】
【氏名】松原 崇充
(72)【発明者】
【氏名】ブレンダン ウィリアム バラット マイケル
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA01
3C223BB08
3C223EB01
3C223FF05
3C223FF08
3C223FF13
3C223FF22
3C223GG01
(57)【要約】
【課題】解析対象の事象の時間方向および空間方向の変化を正確に捉えた動的モデルを、比較的少ない演算量で生成する。
【解決手段】情報処理装置(1)は、プラントにおける解析対象の事象を観測して得られた時系列データ(111)の一部の周波数成分から当該時系列データを再構成した再構成データを生成する再構成部(103)と、再構成データを時空間解析して動的モデル(112)を生成する解析部(104)と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントにおける解析対象の事象を観測することにより得られた時系列データの一部の周波数成分から当該時系列データを再構成した再構成データを生成する再構成部と、
前記再構成データを時空間解析して前記事象の時間方向および空間方向の変化を示す動的モデルを生成する解析部と、を備える情報処理装置。
【請求項2】
前記動的モデルを用いて前記事象に関する推論を行う推論部を備える、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記再構成部は、前記時系列データが追加される毎に当該時系列データから前記再構成データを生成し、
前記解析部は、新たに生成された前記再構成データを用いて前記動的モデルを更新し、
前記推論部は、更新後の前記動的モデルを用いて前記事象に関する推論を行う、請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記再構成部は、前記プラントで動作している機器の動作周期を基準として選択された周波数成分から前記再構成データを生成する、請求項1から3の何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
1または複数の情報処理装置が実行する解析方法であって、
プラントにおける解析対象の事象を観測することにより得られた時系列データの一部の周波数成分から当該時系列データを再構成した再構成データを生成する再構成ステップと、
前記再構成データを時空間解析して前記事象の時間方向および空間方向の変化を示す動的モデルを生成する解析ステップと、を含む解析方法。
【請求項6】
請求項2に記載の情報処理装置と、
前記推論の結果に基づいて前記プラントの機器を制御する制御装置と、を含むプラントの制御システム。
【請求項7】
請求項1に記載の情報処理装置としてコンピュータを機能させるための解析プログラムであって、前記再構成部および前記解析部としてコンピュータを機能させるための解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラントにおける観測データを用いて解析対象の事象をモデル化する情報処理装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
プラントの状態を的確に把握し、状態に応じた適切な制御を行うことはプラント運用における最重要事項の一つである。このため、従来から、プラントの状態を的確に把握するための技術の開発が進められている。例えば、下記の特許文献1には、ストーカ式焼却炉を備えた廃棄物処理プラントにおいて、ステレオカメラで撮像した撮像データとそのステレオカメラの設置位置に基づいて、燃焼領域と焼却灰との境界である燃え切り点の位置を導出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃え切り点の位置を調整するための制御を行ってから、その制御の結果が燃え切り点の位置に反映されるまでには時間を要する。このため、燃え切り点の将来の位置を予測することが望まれるが、特許文献1の技術では、現在の燃え切り点の位置を導出することができるだけで、近い将来の燃え切り点の位置を予測することはできない。
【0005】
ここで、時系列の観測データを解析するための技術として時空間解析という手法が知られている。時空間解析を用いれば、対象となる事象を観測することにより得られた時系列データからその事象の時間方向および空間方向の変化を示す動的モデルを生成することが可能である。
【0006】
しかしながら、プラントで観測される時系列データにはノイズ成分が多く含まれることが通常であり、このようなノイズ成分が動的モデルの精度を低下させ、また動的モデルの生成に要する演算量および演算時間を過大なものにしてしまう。例えば、特許文献1のようにして焼却炉内の様子を動画像で撮影した場合には、燃え切り点以外にも炎の揺らぎや煙の動きなどの様々なものが写りこみ、これらが動的モデルの精度低下および演算量の増加の要因となる。
【0007】
本発明の一態様は、解析対象の事象の時間方向および空間方向の変化を正確に捉えた動的モデルを、比較的少ない演算量で生成することが可能な情報処理装置等を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る情報処理装置は、プラントにおける解析対象の事象を観測することにより得られた時系列データの一部の周波数成分から当該時系列データを再構成した再構成データを生成する再構成部と、前記再構成データを時空間解析して前記事象の時間方向および空間方向の変化を示す動的モデルを生成する解析部と、を備える。
【0009】
また、本発明の一態様に係る解析方法は、上記の課題を解決するために、1または複数の情報処理装置が実行する解析方法であって、プラントにおける解析対象の事象を観測することにより得られた時系列データの一部の周波数成分から当該時系列データを再構成した再構成データを生成する再構成ステップと、前記再構成データを時空間解析して前記事象の時間方向および空間方向の変化を示す動的モデルを生成する解析ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、解析対象の事象の時間方向および空間方向の変化を正確に捉えた動的モデルを、比較的少ない演算量で生成することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る情報処理装置の要部構成の一例を示す図である。
【
図2】上記情報処理装置を含む制御システムの構成例を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る解析方法の概要を示す図である。
【
図4】焼却炉内を撮影した動画像から抽出した時系列データから動的モデルを生成し、生成した動的モデルにより予測画像を生成した例を示す図である。
【
図5】上記情報処理装置が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】上記情報処理装置が実行する処理の他の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔システム構成〕
本発明の一実施形態に係る制御システム7の構成を
図2に基づいて説明する。
図2は、制御システム7の構成例を示す図である。制御システム7は、廃棄物焼却プラントにおける焼却炉に設けられた各種機器を制御するためのシステムである。この焼却炉は、
図2に(a)で示すホッパから供給される廃棄物を、(b)で示す火格子により搬送しながら、(c)で示す炉内で焼却する構成となっている。また、(d)で示す制御室からオペレータが火格子等の各種機器を制御できるようになっている。なお、廃棄物は焼却可能なものであればよく、例えば家庭ごみのような一般廃棄物であってもよいし、産業廃棄物であってもよい。
【0013】
図示のように、制御システム7には、情報処理装置1、制御装置2、および撮影装置3が含まれる。
図2の例では、これらの構成要素のうち、情報処理装置1および制御装置2が制御室に設けられており、撮影装置3は、炉内を撮影できる位置(より詳細には廃棄物の搬送方向の下流側の位置)に設けられている。なお、情報処理装置1および制御装置2は、制御室外に設けてもよい。
【0014】
詳細は後述するが、情報処理装置1は、プラントにおける解析対象の事象を観測することにより得られた時系列データの一部の周波数成分から当該時系列データを再構成した再構成データを生成する。そして、情報処理装置1は、生成した再構成データを時空間解析して、上記事象の時間方向および空間方向の変化を示す動的モデルを生成し、この動的モデルを用いて上記事象に関する推論を行う。
【0015】
本実施形態では、上記解析対象の事象が廃棄物焼却プラントにおける焼却炉内における廃棄物の燃焼である例を説明する。また、本実施形態では、上記時系列データが撮影装置3により撮影された、焼却炉内における廃棄物の燃焼の様子を示す動画像から抽出された時系列のフレーム画像である例を説明する。したがって、上記動的モデルは、焼却炉内の廃棄物の燃焼状態の時間方向および空間方向の変化を示すモデルということになる。
【0016】
制御装置2は、情報処理装置1による推論の結果に基づいてプラントの機器を制御する。制御対象の機器は、焼却炉内の廃棄物の燃焼状態に影響を与える機器であればよい。例えば、制御装置2は、火格子を動作させる機器を制御して火格子速度(廃棄物の搬送速度と言い換えることもできる)を調整する制御や、燃焼空気の供給装置を制御して燃焼空気の供給量を調整する制御を行うものであってもよい。
【0017】
以上のように、制御システム7は、解析対象の事象を観測することにより得られた時系列データの一部の周波数成分から当該時系列データを再構成した再構成データを生成し、生成した再構成データを時空間解析して動的モデルを生成し、生成した動的モデルを用いて上記事象に関する推論を行う情報処理装置1と、情報処理装置1による推論の結果に基づいてプラントの機器を制御する制御装置2と、を含む。
【0018】
詳細は以下説明するが、上記の構成によれば、解析対象の時系列データをそのまま時空間解析する場合と比べて、一部の周波数成分の時間方向および空間方向の変化を正確に捉えた動的モデルによる確度の高い推論の結果を少ない演算量で得ることができる。そして、その結果に基づく妥当な制御を自動で行うことが可能である。例えば、制御装置2は、燃え切り点が妥当な範囲を超えて下流側にシフトすることが情報処理装置1の推論により判明したときには、火格子速度を低下させる制御を行ってもよい。これにより、燃え切り点を妥当な範囲内に留めることが可能になる。
【0019】
〔情報処理装置の構成〕
図1に基づいて情報処理装置1の構成を説明する。
図1は、情報処理装置1の要部構成の一例を示すブロック図である。図示のように、情報処理装置1は、情報処理装置1の各部を統括して制御する制御部10と、情報処理装置1が使用する各種データを記憶する記憶部11を備えている。また、情報処理装置1は、情報処理装置1が他の装置と通信するための通信部12、情報処理装置1に対する各種データの入力を受け付ける入力部13、および情報処理装置1が各種データを出力するための出力部14を備えている。
【0020】
また、制御部10には、データ取得部101、変換部102、再構成部103、解析部104、および推論部105が含まれている。そして、記憶部11には、時系列データ111および動的モデル112が記憶されている。
【0021】
データ取得部101は、プラントにおける解析対象の事象を観測することにより得られた時系列データを取得する。取得された時系列データは、時系列データ111として記憶部11に記憶される。具体的には、データ取得部101は、
図2に示した撮影装置3により撮影された、焼却炉内における廃棄物の燃焼の様子を示す動画像を取得し、この動画像から所定のサンプリング周期でフレーム画像を抽出することにより時系列データ111を取得する。なお、データ取得部101は、フレーム画像をリサイズした上で時系列データ111としてもよい。
【0022】
変換部102は、時系列データ111を周波数領域のデータ(周波数コンポーネントと呼ぶこともできる)に変換する。例えば、変換部102は、時系列データ111を離散フーリエ変換(DFT:Discrete Fourier Transform)あるいは高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)することにより周波数領域のデータに変換してもよい。
【0023】
再構成部103は、時系列データ111の一部の周波数成分から時系列データ111を再構成した再構成データを生成する。具体的には、再構成部103は、変換部102が生成する周波数領域のデータを逆変換して時間領域のデータに戻す際に、周波数領域のデータの全てではなく一部のみを用いることにより、再構成データを生成する。この処理は、不要な周波数成分を除去する処理であるともいえるし、必要な周波数成分を抽出する処理であるともいえる。
【0024】
解析部104は、再構成部103が生成する再構成データを時空間解析して、解析対象の事象の時間方向および空間方向の変化を示す動的モデルを生成する。生成した動的モデルは、動的モデル112として記憶部11に記憶される。上述のように、本実施形態では、動的モデル112が、焼却炉内の廃棄物の燃焼状態の時間方向および空間方向の変化を示すモデルである例を説明する。
【0025】
推論部105は、動的モデル112を用いて、プラントにおける解析対象の事象に関する推論を行う。本実施形態では、推論部105が、動的モデル112を用いて焼却炉内の廃棄物の将来の燃焼状態を示す予測画像を生成する例を説明する。
【0026】
以上のように、情報処理装置1は、プラントにおける解析対象の事象を観測することにより得られた時系列データ111の一部の周波数成分から時系列データ111を再構成した再構成データを生成する再構成部103と、再構成データを時空間解析して上記事象の時間方向および空間方向の変化を示す動的モデル112を生成する解析部104と、を備える。
【0027】
上記の構成によれば、解析対象の時系列データをそのまま時空間解析するのではなく、その一部の周波数成分から当該時系列データを再構成した再構成データを時空間解析する。このため、解析対象の時系列データをそのまま時空間解析する場合と比べて、解析対象の事象の時間方向および空間方向の変化を正確に捉えた動的モデルを、少ない演算量で生成することが可能になる。
【0028】
また、情報処理装置1は、動的モデル112を用いて解析対象の事象に関する推論を行う推論部105を備えている。これにより、一部の周波数成分の時間方向および空間方向の変化を正確に捉えた動的モデル112による、確度の高い推論の結果を得ることができる。なお、推論の内容は特に限定されず、例えば、推論部105は、廃棄物の将来の燃焼状態を示す予測画像を生成してもよい。また、推論部105は、生成した予測画像を解析して廃棄物の将来の燃焼状態を分類してもよい。
【0029】
〔解析方法の概要〕
本実施形態の解析方法の概要を
図3に基づいて説明する。
図3は、本実施形態の解析方法の概要を示す図である。本実施形態の解析方法では、DMD(Dynamic Mode Decomposition:動的モード分解)という手法で時空間解析する。
図3には、焼却炉内を撮影した動画像から抽出したフレーム画像である時系列データ111と、時系列データ111を周波数領域に変換することにより得られる各周波数成分を示すグラフ群31と、DMDにより求められる動的モードを示す画像群32を示している。
【0030】
グラフ群31に含まれるグラフ31a~31cは、それぞれ異なる周波数成分を示している。この3つのグラフに示される周波数成分の中では、グラフ31aに示される周波数成分が最も低周波寄りであり、グラフ31cに示される周波数成分が最も高周波寄りである。焼却炉内を撮影した動画像においては、炎のちらつき等の変化が高周波成分として表れ、燃焼位置の変化等は低周波成分として表れる。廃棄物焼却プラントの監視においては、例えば10分以上といった比較的長期間にわたる変化を示す低周波寄りの周波数成分が重要である。
【0031】
画像群32に含まれる各画像は、DMDにより求められた動的モードを焼却炉内の画像として表したものである。また、
図3では、各画像に対応付けてその動的モードの波形を示すグラフを示している。このようにDMDでは、時系列データ111を複数の動的モードに分解することにより解析対象の事象を解析する。この解析方法について以下説明する。
【0032】
DMDでは、下記の数式(1)に示すように、線形演算子Aによりデータの時系列変化を表す。つまり、ある時点k+1の状態x
k+1を、その直前の時点kの状態x
kと線形演算子Aとの積で表す。例えば、
図3のように時系列データ111が動画像から抽出したフレーム画像である場合、下記のx
kはフレーム画像の各ピクセル値(例えば、RGB値)を示すベクトル、下記のKはフレーム画像の数、下記のPはフレーム各画像の解像度を表す。
【0033】
【0034】
【0035】
そして、DMDでは、下記の数式(2)に示すように、X1=[x1,…,xk-1]およびX2=[x2,…,xk]という時系列が1ずれたスナップショットマトリクス間の誤差を最小化する演算子Aを求める。なお、スナップショットは、ある時刻における状態を示すベクトルである。また、FはFrobeniusノルムを表す。
【0036】
【0037】
上記Aは、以下の数式(3)に示すように、最小二乗法により計算することができる。なお、数式(3)においてX1の右肩に付された記号はMoore-Penroseの疑似逆行列(pseudoinverse)を表す。
【0038】
【0039】
詳細は省略するが、DMDでは、上記の演算子Aを固有値分解することにより、Aの固有値と固有ベクトルを求める。Aの固有ベクトルが動的モードである。
図3の画像群32に示されるように、時系列データ111から多数の動的モードが算出される。
【0040】
ここで、上述のように、
図3に示すグラフ群31は、時系列データ111の各周波数成分を示している。グラフ群31に含まれるグラフのうち、グラフ31a~31cの周波数成分は、画像群32に含まれる画像32a~32cの動的モードにそれぞれ対応している。このように、時系列データ111を高速フーリエ変換あるいは離散フーリエ変換することにより得られる各周波数成分と、DMDにより算出される動的モードの間には対応関係が生じる。
【0041】
DMDの演算量は、算出する動的モードの数Νが増加するにつれて増大する。そこで、本実施形態の解析方法では、時系列データ111の一部の周波数成分から時系列データ111を再構成した再構成データを生成する。例えば、画像群32に示される動的モードのうち、画像32bに示される動的モードを求めたい場合には、グラフ群31に含まれるグラフのうち画像32bに対応するグラフ31bに対応する周波数成分を用いて再構成データを生成する。これにより、画像群32に示される動的モードのうち、画像32bに示される動的モードのみを、少ない演算量で高速に算出することができる。
【0042】
具体的には、本実施形態の解析方法では、まず、変換部102が、時系列データ111を周波数領域のデータに変換する。ここで、数式(1)のxkは、各タイムステップにおける測定対象がPの要素を含む場合には
【0043】
【0044】
となる。このxkからサンプリング周波数fsでサンプリングした一次元の時系列データ
【0045】
【0046】
を、サンプリング周波数をs=[0,1,2,…,(K-1)]/fsとして、J=Kの周波数領域のデータに変換すると
【0047】
【0048】
が得られる。そして、各周波数成分yjは、xに含まれる全要素の重み付け和、すなわち下記の数式(4)で表される。
【0049】
【0050】
変換部102は、例えば、上記の数式(4)により時系列データ111を周波数領域のデータに変換してもよい。この変換は一般的な離散フーリエ変換と同様である。
【0051】
次に、再構成部103が、例えば下記の数式(5)により、上記の変換で得られた周波数領域のデータを逆変換して画像に戻す。これにより、時系列データ111の一部の周波数成分に対応する再構成データが得られる。再構成データは、元の時系列データ111と画素数もサイズも同じであるが、一部の周波数成分に関する情報が欠落している。このため、再構成データは、元の時系列データ111を低ランク化した近似データであるともいえる。
【0052】
【0053】
上記数式(5)は一般的な逆フーリエ変換の数式にζを追加したものである。ζは、下記に示すように、特定のyjを再構成データに含めるか否かを決定するインディケータ関数(indicator function)である。また、τは、タスクに関連するドメイン知識を示す情報である。τは、具体的にはタスクに関連する周波数を示し、τ={τ1,τ2,…,τD}である。本実施形態におけるタスクは、プラントにおける解析対象の事象の比較的長期間(例えば10分以上)にわたる時間方向および空間方向の変化を示す動的モデルを生成することである。
【0054】
【0055】
タスク関連周波数情報τは1つのみ設定してもよいし、複数設定してもよい。例えば、
図3の例において、グラフ31bに示される周波数成分を示すτを設定すれば、画像32bに対応する動的モードが算出される。また、グラフ31a~31cに示される各周波数成分に対応するτ(計3つのτ)を設定すれば、画像32a~32cに対応する各動的モードが算出される。
【0056】
タスク関連周波数情報τの値は、解析対象の事象に応じて予め定めておけばよい。例えば、τの値は、プラントで動作している機器の動作周期を基準として設定してもよい。廃棄物焼却プラントの焼却炉内では火格子が周期的に動いているため、この火格子の動作周期を基準とし、その動作周期よりも周波数の高い周波数成分は使用せず、その動作周期よりも周波数の低い周波数成分を使用してもよい。本発明の発明者らは、τ=300-1Hzとした実験で焼却炉内の状態を精度よく推定することに成功している。
【0057】
このように、再構成部103は、プラントで動作している機器の動作周期を基準として選択された周波数成分から再構成データを生成してもよい。これにより、プラントにおける機器の動作を考慮した適切な周波数成分から再構成データを生成することができる。
【0058】
なお、プラントで動作している機器の動作周期を基準としてタスク関連周波数情報τを決定する処理は、情報処理装置1のユーザが行ってもよいし、情報処理装置1が行ってもよい。後者の場合、情報処理装置1は、機器の動作周期の入力を受け付け、入力された動作周期に応じたτの値を自動で設定する。また、再構成部103は、プラントで動作している機器の動作周期が変更された場合、変更後の動作周期に応じた値にτを更新してもよい。
【0059】
以上の処理により生成される再構成データは下記のように表される。
【0060】
【0061】
そして、解析部104は、上記の再構成データを用いてDMDにより演算子Aの固有値と固有ベクトルを算出する。この場合、上述の数式(3)は下記のように書き換えられる。
【0062】
【0063】
解析部104が生成する動的モデル112は、DMDにより算出される固有値Λtと固有ベクトル(動的モード)Φを用いて下記の数式(6)で表すことができる。なお、bは対応する動的モードの振幅(amplitude)である。また、数式(6)に示される固有値、固有ベクトル、および振幅は、タスク関連周波数情報τを用いて算出されたものであるから、これらに対応する各文字にはτを付記している。
【0064】
【0065】
以上のようにして上記の数式(6)で示される動的モデル112が生成された後は、推論部105は、この動的モデル112を用いることにより、任意の時刻tにおける状態xtを予測することができる。
【0066】
このように、DMDにおける学習は、演算子Aの固有値と固有ベクトルを算出することにより完了する。このため、ニューラルネットワーク等のような大量の教師データを要する機械学習手法と比べて、学習用のデータを収集したり学習用のためにデータにラベリングしたりする手間がかからないという利点がある。また、大量の教師データを収集することが難しいような事象のモデル化にも適用可能であるという利点もある。
【0067】
〔具体的な処理例〕
以上説明した処理を、焼却炉内を撮影した動画像から抽出した時系列データ111に適用した例を
図4に基づいて説明する。
図4は、焼却炉内を撮影した動画像から抽出した時系列データ111から動的モデル112を生成し、生成した動的モデル112により予測画像を生成した例を示す図である。
【0068】
図4の例では、x
1~x
kのk個のフレーム画像からなる時系列データ111を入力データとしている。変換部102は、この時系列データ111に含まれるx
1~x
kのそれぞれを、フーリエ変換(例えばFFT)して周波数領域のデータに変換する。そして、再構成部103は、逆フーリエ変換(例えば逆FFT)により、周波数領域のデータに含まれる一部の周波数成分(タスク関連周波数情報τに基づいて抽出された周波数成分)から時系列データ111を再構成する。フーリエ変換と逆フーリエ変換は、それぞれ上述の数式(4)および(5)を用いて行ってもよい。
【0069】
続いて、解析部104は、上記再構成データをDMDにより時空間解析し、動的モードΦと固有値Λを算出する。これらの算出に用いたτをτ={τ
1,τ
2,…,τ
D}とすると、算出される動的モードは、Φ={Φ
1,Φ
2,…,Φ
D}のD個となる。
図4には、これらの動的モードを画像化した画像41を示している。
【0070】
以上のようにして固有値Λと動的モードΦが算出されることにより、数式(6)で示される動的モデル112が生成される。
図4の例では、推論部105は、この動的モデル112を用いて、時刻tおよびt+1のそれぞれにおける焼却炉内の状態を示す予測画像42を生成している。
【0071】
予測画像42は、固有値と動的モードの算出に用いた時系列データ111x1~xkよりも先の時点、つまり将来の焼却炉の状態を示している。焼却炉の状態変化の傾向が維持されている限り、算出した固有値と動的モードによる予測は有効である。状態変化の傾向が変化したときには、変化後に取得した時系列データ111を用いて固有値と動的モードを算出し直せばよい。
【0072】
なお、動的モデル112を用いることにより、時系列データ111が観測された時点の予測画像を生成することもできる。そして、この予測画像すなわち動的モデル112を用いて生成したシーケンスと、対応する時点の時系列データ111すなわちオリジナルのシーケンスとを比較することにより、予測精度を評価することができる。本願の発明者らの実験によれば、実用に足る十分な精度で予測画像を生成できることが確認されている。
【0073】
また、予測画像は離散的なデータであるが、時系列の予測画像を生成すれば、それらの予測画像から状態変化の速度を予測することもできる。また、DMDによれば、各動的モードの変化の周期性を表す情報(temporal dynamics)が算出される。この周期性は変化の速度を示すものといえる。
【0074】
〔処理の流れ〕
図5に基づいて情報処理装置1が実行する処理(解析方法)の流れを説明する。
図5は、情報処理装置1が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【0075】
S11では、データ取得部101が、撮影装置3により撮影された、焼却炉内における廃棄物の燃焼の様子を示す動画像を取得する。そして、S12では、データ取得部101は、S11で取得した動画像からフレーム画像を抽出することにより時系列データを取得し、記憶部11に時系列データ111として記憶させる。
【0076】
S13では、変換部102が、S12で記憶された時系列データ111を周波数領域のデータに変換する。この変換には、例えば上述の数式(4)を用いてもよい。
【0077】
S14(再構成ステップ)では、再構成部103が、S13の変換により得られた周波数領域のデータを構成する一部の周波数成分から時系列データ111を再構成し、再構成データを生成する。この再構成には、例えば上述の数式(5)を用いてもよい。この際、使用する周波数成分を示すタスク関連周波数情報τを使用する。
【0078】
S15(解析ステップ)では、解析部104が、S14で生成された再構成データを時空間解析することにより動的モデル112を生成する。例えば、解析部104は、上述の数式(3)’における演算子Aの固有値と固有ベクトルを算出することにより、数式(6)で示される動的モデル112を生成してもよい。
【0079】
S16では、推論部105が、S15で生成された動的モデル112を用いて、プラントにおける解析対象の事象についての推論を行う。例えば、推論部105は、数式(6)で示される動的モデル112を用いて、任意の時刻tにおける状態x
tを予測してもよい。これにより
図5の処理は終了する。なお、S16の後、制御装置2は、S16の推論結果に基づいてプラント内の機器を制御してもよい。どのような推論結果が得られたときにどのような機器に対してどのような制御を行うかは予め定めておけばよい。
【0080】
以上のように、本実施形態に係る解析方法は、プラントにおける解析対象の事象を観測することにより得られた時系列データ111の一部の周波数成分から時系列データ111を再構成した再構成データを生成する再構成ステップ(S14)と、再構成データを時空間解析して解析対象の事象の時間方向および空間方向の変化を示す動的モデル112を生成する解析ステップ(S15)と、を含む。これにより、解析対象の事象の時間方向および空間方向の変化を正確に捉えた動的モデル112を、比較的少ない演算量で生成することが可能になる。
【0081】
〔処理の流れ(リアルタイム処理)〕
再構成部103は、時系列データ111が追加される毎に追加された時系列データ111から再構成データを生成してもよい。そして、解析部104は、新たに生成された再構成データを用いて動的モデル112を更新し、推論部105は、更新後の動的モデル112を用いて解析対象の事象に関する推論を行ってもよい。これにより、リアルタイムか、またはそれに近い早いタイミングで推論結果を出力することが可能になる。
【0082】
この場合、解析部104は、例えばストリーミングDMDと呼ばれる手法を用いて動的モデル112を生成および更新してもよい。ストリーミングDMDは、新たなスナップショットが入手可能になる毎に動的モデル112を更新する手法である。具体的な処理内容については、例えば、Maziar S. Hematiらによる"Dynamic Mode Decomposition for Large and Streaming Datasets", Physics of Fluids, vol. 26, no. 11, p. 111701, 2014.等に記載されている。
【0083】
以上のような処理を行う場合に情報処理装置1が実行する処理(解析方法)の流れを
図6に基づいて説明する。
図6は、情報処理装置1が実行する他の処理の一例を示すフローチャートである。なお、
図6と同様の処理には同一の番号を付している。それらの処理については説明を繰り返さない。
【0084】
S15Aでは、解析部104が、S14で生成された再構成データを時空間解析することにより動的モデル112を生成する。例えば、解析部104は、上述したストリーミングDMDにより動的モデル112を生成する。また、生成済みの動的モデル112が存在する場合には、解析部104は、直近のS14で生成された再構成データを用いて、生成済みの動的モデル112を更新する。
【0085】
S17Aでは、データ取得部101が、解析処理を終了するか否かを判定する。ここで終了すると判定された場合(S17AでYES)には解析処理は終了する。一方、終了しないと判定された場合(S17AでNO)には、S11の処理に戻る。これにより、動画像の撮影中にリアルタイムかまたはそれに近い早いタイミングで、最新の推論結果を出力することができる。なお、S17Aの終了条件は特に限定されず、例えば動画像の撮影が終了したことを終了条件としてもよい。
【0086】
〔他の適用例〕
上述の実施形態では、廃棄物焼却プラントの焼却炉内における廃棄物の燃焼状態を示す動的モデル112を生成する例を中心に説明を行ったが、廃棄物焼却プラントにおける他の事象を表す動的モデルを生成することも可能である。また、廃棄物焼却プラント以外の他のプラントにおける事象を表す動的モデルを生成することも可能である。
【0087】
例えば、汚泥処理を行うプラントにおいては、汚泥に凝集剤を添加して撹拌し、汚泥から固形成分を分離する処理を行う。この処理において、撹拌される汚泥の様子を撮影した画像を上述の実施形態で説明した解析方法により解析することにより、汚泥の時間方向および空間方向の状態変化を示す動的モデルを生成することができる。このような動的モデルを用いれば、将来の汚泥の状態を予測し、その予測結果に基づいて凝集剤の添加タイミングや添加量を適切に制御することも可能になる。この場合、タスク関連周波数情報τは、例えば汚泥を撹拌する撹拌装置の動作周期に応じた値に設定すればよい。
【0088】
〔変形例〕
上述の実施形態で説明した各処理の実行主体は任意であり、上述の例に限られない。例えば、
図5に示す各処理のうちS13~S15の処理を、情報処理装置1とは別体の装置(例えばクラウドサーバ)に実行させてもよい。この場合、情報処理装置1は、時系列データを上記装置に送信して、当該装置が生成した動的モデルを取得すればよい。このように、本実施形態に係る解析方法は、1つの情報処理装置1により実行することもできるし、複数の情報処理装置により実行することもできる。
【0089】
また、
図2に示す制御システム7では、情報処理装置1と制御装置2が別個の装置となっているが、これらを一体に構成して一つの装置としても、制御システム7と同様の機能が実現できる。
【0090】
また、上述の実施形態では、時空間解析の手法としてDMDおよびストリーミングDMDを例示して説明を行ったが、本発明に適用可能な時空間解析の手法はこれらの例に限られない。
【0091】
また、上述の実施形態では、時系列データとして動画像から抽出したフレーム画像を用いる例を説明したが、本発明で使用する時系列データは、プラントにおける解析対象の事象を観測することにより得られたものであればよく、この例に限られない。例えば、プラントの各所に設置した各種センサの時系列の測定値を時系列データとしてもよい。この場合、各センサの空間的な位置とその計測値に応じた、解析対象の事象の時間方向および空間方向の変化を示す動的モデルが生成される。
【0092】
〔ソフトウェアによる実現例〕
情報処理装置1の機能は、情報処理装置1としてコンピュータを機能させるための解析プログラムであって、情報処理装置1の各制御ブロック(特に制御部10に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるための解析プログラムにより実現することができる。
【0093】
この場合、情報処理装置1は、上記解析プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記解析プログラムを実行することにより、上記実施形態で説明した各機能が実現される。
【0094】
上記解析プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、情報処理装置1が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記解析プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0095】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0096】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0097】
1 情報処理装置
103 再構成部
104 解析部
105 推論部
111 時系列データ
112 動的モデル
2 制御装置
7 制御システム