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特開2023-98429加工食品、加工食品用改良剤及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098429
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】加工食品、加工食品用改良剤及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 13/40 20230101AFI20230703BHJP
   A23J 3/00 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
A23L13/40
A23J3/00 503
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021215174
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】592019947
【氏名又は名称】鳥越製粉株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】藤友 裕也
(72)【発明者】
【氏名】山下 貴志
(72)【発明者】
【氏名】渋田 隆伸
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC05
4B042AD36
4B042AK06
4B042AK09
4B042AK10
4B042AK11
4B042AP14
(57)【要約】
【課題】 畜肉を原料とした加工食品の食感に類似した食感を有する食肉様加工食品を提供する。
【解決手段】 メチルセルロース、カードラン、澱粉、及びファイバーからなる組成物に植物油脂を加え、分散させ、さらに13℃以下の水を加え、ミキサーを用いて撹拌し、乳化物を作製する。水戻しした粒状植物性たん白に任意の調味料をまぶし、前記乳化物を加えて混合し、ハンバーグ様に成形する。成形後、10℃以下の環境に静置し、冷却することで、粒状植物性たん白の結着性を高めて型崩れを防止する。その後、加熱調理により、畜肉を原料とした加工食品の食感に類似した食感を有し、かつ動物性の原料が不使用である、食肉様加工食品が得られる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状植物性たん白に、メチルセルロース、カードラン、澱粉、ファイバー、植物油脂、及び13℃以下の水からなる乳化物を混合することにより得られ、動物性原料不使用であることを特徴とする食肉様加工食品。
【請求項2】
澱粉が馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、ワキシー種トウモロコシ澱粉、酢酸タピオカ澱粉、油脂加工タピオカ澱粉の中から選ばれる1種又は2種以上である、請求項1に記載の食肉様加工食品。
【請求項3】
ファイバーの原料が柑橘類である、請求項1又は2に記載の食肉様加工食品。
【請求項4】
メチルセルロース、カードラン、澱粉、ファイバーからなる食肉様加工食品用改良剤であって、改良剤を植物油脂に分散させ、分散液を13℃以下の水に加えて分散させることにより得られる乳化物を、粒状植物性たん白と混合することにより、動物性原料不使用である食肉様加工食品を製造することができる改良剤。
【請求項5】
澱粉が馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、ワキシー種トウモロコシ澱粉、酢酸タピオカ澱粉、油脂加工タピオカ澱粉の中から選ばれる1種又は2種以上である、請求項4に記載の食肉様加工食品用改良剤。
【請求項6】
ファイバーの原料が柑橘類である、請求項4又は5に記載の食肉様加工食品用改良剤。
【請求項7】
粒状植物性たん白に、メチルセルロース、カードラン、澱粉、ファイバー、植物油脂、13℃以下の水からなる乳化物を混合する、動物性原料不使用であることを特徴とする食肉様加工食品の製造方法。
【請求項8】
澱粉が馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、ワキシー種トウモロコシ澱粉、酢酸タピオカ澱粉、油脂加工タピオカ澱粉の中から選ばれる1種又は2種以上である、請求項7に記載の食肉様加工食品の製造方法。
【請求項9】
ファイバーの原料が柑橘類である、請求項7又は8に記載の食肉様加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食肉様加工食品、食肉様加工食品用改良剤及び製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
将来的な畜肉の供給不安や、ヴィーガンの考え方に基づいた食事の普及を背景に、畜肉の代替品として、植物性たん白を主原料とし、食肉様の食感を再現した加工品が注目されている。一般的に原料として用いられる植物性たん白は、大豆たん白やエンドウ豆たん白が主流となっている。これらの植物性たん白を原料に、食感や風味を畜肉加工食品に似せた、ハンバーグ、ハム、ソーセージ、ミートボール等の製品が生産されている。例として、特許文献1には、蒟蒻粉、おから、大豆たん白を主原料とした、畜肉の代替品の製造方法が示されている。また、特許文献2には、増粘剤、食用油、水を含み、ゲル化されているベジミート用組成物が示されている。これらの技術により得られる畜肉代替品は、硬さや弾力は畜肉加工食品に類似しているが、畜肉加工食品を食した際の肉汁が染み出すようなジューシー感が不足している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-130102
【特許文献2】特開2021-013356
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、畜肉加工食品と類似した食感を有する食肉様加工食品を得ることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、メチルセルロース、カードラン、澱粉、及びファイバーを植物油脂に分散させ、分散液をさらに13℃以下の水に加えて分散させることにより得られる乳化物を、水戻しした粒状植物性たん白と混合することにより、本発明の課題が解決されることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本願の第1の発明は、粒状植物性たん白に、メチルセルロース、カードラン、澱粉、ファイバー、植物油脂、及び13℃以下の水からなる乳化物を混合することにより得られる、動物性原料不使用であることを特徴とする食肉様加工食品である。
【0007】
第2の発明は、第1の発明における澱粉が馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、ワキシー種トウモロコシ澱粉、酢酸タピオカ澱粉、油脂加工タピオカ澱粉の中から選ばれる1種又は2種以上であることを特長とする食肉様加工食品である。
【0008】
第3の発明は、第1又は2の発明におけるファイバーの原料が柑橘類であることを特長とする食肉様加工食品である。
【0009】
第4の発明は、メチルセルロース、カードラン、澱粉、ファイバーからなる食肉様加工食品用改良剤であって、改良剤を植物油脂に分散させ、分散液をさらに13℃以下の水に加えて分散させることにより得られる乳化物を、粒状植物性たん白と混合することにより、動物性原料不使用である食肉様加工食品を製造することができる改良剤である。
【0010】
第5の発明は第4の発明における澱粉が馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、ワキシー種トウモロコシ澱粉、酢酸タピオカ澱粉、油脂加工タピオカ澱粉の中から選ばれる1種又は2種以上であることを特長とする食肉様加工食品用改良剤である。
【0011】
第6の発明は、第4又は5の発明におけるファイバーの原料が柑橘類であることを特徴とする食肉様加工食品用改良剤である。
【0012】
第7の発明は、粒状植物性たん白に、メチルセルロース、カードラン、澱粉、ファイバー、植物油脂、13℃以下の水からなる乳化物を混合する、動物性原料不使用であることを特徴とする食肉様加工食品の製造方法である。
【0013】
第8の発明は、第7の発明における澱粉が馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、ワキシー種トウモロコシ澱粉、酢酸タピオカ澱粉、油脂加工タピオカ澱粉の中から選ばれる1種又は2種以上であることを特長とする食肉様加工食品の製造方法である。
【0014】
第9の発明は、第7又は8の発明におけるファイバーの原料が柑橘類であることを特徴とする食肉様加工食品の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、畜肉加工食品に類似した食感を有した食肉様加工食品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明でいう、食肉様加工食品とは、畜肉を主原料とする加工食品の食感を再現した、疑似肉、代替肉、プラントベースミート、ベジミート、フェイクミート等と表現されるものである。具体的な加工食品の形態としては、ハンバーグ、ハム、ソーセージ、ミートボール、ナゲット、メンチカツ、成形肉等が挙げられる。また、それらの加工食品は、焼く、蒸す、揚げる等、調理方法は制限されない。
【0017】
本発明で用いる植物性たん白は、粒状に加工されたものである。本発明によると、粒状植物性たん白は畜肉を主原料とした加工食品に類似した食感を有し、かつ任意の形状へ成形が容易となる。粒状植物性たん白の原料としては大豆又はエンドウ豆が望ましい。また、粒状植物性たん白は本発明による乳化物と混合する前に水戻しを行う。水戻しの手順は、粒状植物性たん白を常温の水に浸漬し、30分間以上常温環境下に静置する。その後、浸漬前の粒状植物性たん白の重量に対し、望ましくは2.2~2.8倍の重量になるように、水分を絞り、乳化物との混合に用いる。
【0018】
本発明において、粒状植物性たん白の結着力を高め、食肉様加工食品の粘弾性を調整する目的で、メチルセルロースを用いる。粒状植物性たん白に、乳化物の組成物として混合するメチルセルロースの添加量は、水戻しをする前の粒状植物性たん白100重量%に対し、望ましくは1~3重量%である。また、本発明の食肉様加工食品用改良剤に含まれるメチルセルロースは、望ましくは3~20重量%である。
【0019】
本発明において、食肉様加工食品の粘弾性を調整する目的で、カードランを用いる。粒状植物性たん白に、乳化物の組成物として混合するカードランの添加量は、水戻しをする前の粒状植物性たん白100重量%に対し、望ましくは3~4.5重量%である。また、本発明の食肉様加工食品用改良剤に含まれるカードランは、望ましくは12~35重量%である。
【0020】
本発明において、食肉様加工食品を冷凍した際の離水抑制、及び畜肉加工食品に類似したジューシー感、食感の弾力を再現する目的で、澱粉を用いる。澱粉の原料としては、トウモロコシ、小麦、米等の穀類、馬鈴薯、甘藷、キャッサバ等の芋類、緑豆、エンドウ豆等の豆類、サゴ、葛等の根、幹が挙げられる。
【0021】
澱粉は加工処理されたものも使用できる。加工澱粉の種類としては、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、酢酸澱粉、酸化澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピルリン酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉、リン酸化澱粉、リン酸架橋澱粉等が挙げられる。また、澱粉に油脂を付着させる油脂加工処理を行った澱粉も使用できる。
【0022】
澱粉の原料及び加工処理の種類は制限されないが、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、ワキシー種トウモロコシ澱粉、酢酸タピオカ澱粉、油脂加工タピオカ澱粉の中から選ばれる1種又は2種以上を使用することが望ましい。粒状植物性たん白に、乳化物の組成物として混合する澱粉の添加量は、水戻しをする前の粒状植物性たん白100重量%に対し、望ましくは2~15重量%である。また、本発明の食肉様加工食品用改良剤に含まれる馬鈴薯澱粉は、望ましくは10~70重量%である。
【0023】
本発明において、食肉様加工食品に畜肉加工食品と類似したジューシー感、食感の弾力を付与する目的で、ファイバーを用いる。ファイバーの原料は望ましくは柑橘類であり、さらに望ましくはオレンジ又はレモンである。粒状植物性たん白に、乳化物の組成物として混合するファイバーの添加量は、水戻しをする前の粒状植物性たん白100重量%に対し、望ましくは0.02~0.4重量%である。また、本発明の食肉様加工食品用改良剤に含まれるファイバーは、望ましくは0.1~2重量%である。
【0024】
本発明に用いる植物油脂は、常温で液体の状態である。原料の例として、菜種、大豆、トウモロコシ、ひまわり、ごま、サフラワー、米等が挙げられる。粒状植物性たん白に、乳化物の組成物として混合する植物油脂の添加量は、水戻しをする前の粒状植物性たん白100重量%に対し、望ましくは30~40重量%である。
【0025】
本発明による食肉様加工食品には、動物性原料は不使用である。食肉様加工食品の普及の背景には、ヴィーガン・菜食主義等の個人のライフスタイル、畜肉原料の供給不安、個人の健康意識、環境保護等、多様な理由により、畜肉の代替品として受け入れられた経緯がある。本発明の動物性原料不使用の食肉様加工食品は、それらの背景に最も適したものとして発明したものである。
【0026】
本発明による食肉様加工食品には、動物性原料を除き、一般的な畜肉加工食品に使用される野菜、調味料、香辛料、パン粉、小麦粉、澱粉、粉末状植物性たん白、植物油脂、食物繊維等は制限されず、任意に使用することができる。
【0027】
本発明による食肉様加工食品の製造手順の一例を以下に示す。メチルセルロース、澱粉、及びファイバーを混合した組成物に植物油脂を加え、ダマが無くなるまで分散させる。さらに13℃以下の水を加え、ホモミキサーを用いて、乳化物を調製する。植物油脂、組成物、水の比率は、望ましくは1:0.5~0.7:3~4である。また、温度は60℃以下を保つ必要がある。前記乳化物を、水戻しをする前の粒状植物性たん白100重量%に対し、望ましくは170~190重量%を混合し、任意の形状に成形する。
【実施例0028】
本発明を具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
表1に示す配合で、メチルセルロース、カードラン、馬鈴薯澱粉、油脂加工タピオカ澱粉、小麦澱粉、酢酸タピオカ澱粉、ワキシー種とうもろこし澱粉、リン酸架橋小麦澱粉、オレンジファイバー、レモンファイバー、オーツ麦ファイバー、小麦ファイバー、アップルファイバーを混合した組成物に、菜種油を加え、ダマが無くなるまで十分に分散させた。さらに13℃以下の水を加え、ホモミキサーを用いて4000rpmの回転速度で2分30秒撹拌して乳化物1~12を得た。
【0030】
【表1】
【0031】
実施例1、比較例1,2
表2に示す配合で、水戻しした粒状植物性たん白に、粉末状小麦たん白、食塩、胡椒、ナツメグ、酵母エキス、ガーリックパウダー、玉ねぎ、ラード風味植物油脂を加えて混合し、さらに前記乳化物を加えて混合した。混合物をハンバーグ様に成形し、10℃の環境に30分静置した。その後、ハンバーグ様食品を180℃で両面を10分加熱した。加熱後のハンバーグ様食品は―20℃で冷凍して保管した。
【0032】
【表2】
【0033】
冷凍したハンバーグ様食品は、電子レンジを用いて600Wで2分間加熱し、中心温度が40℃になるまで放熱したものを試食し、評価をした。評価は10人のパネラーにより、各評価項目を5段階で評価し、平均点を求めた(表3)。結着力は、焼成後に粒状大豆たん白同士が崩れずに結着しているか評価したものであり、通常の畜肉製品であるハンバーグの物性と同等であるものを5点とし、3点を下回るものは粒状大豆たん白同士の結着力が弱く、崩れやすい。弾力は、焼成後の粒状大豆たん白の食感を評価したものであり、通常のハンバーグの物性と同等であるものを5点とし、3点を下回るものは歯応えが弱く、通常のハンバーグとは異なる物性である。
【0034】
【表3】
【0035】
本発明に従い調製された配合で製造されたハンバーグ様食品は、通常のハンバーグと同等の物性が得られた(実施例1)。メチルセルロース及びカードランのいずれか一種の使用では、畜肉食品様の食感を得ることはできなかった(比較例1,2)。
【0036】
実施例2~6
表4に示す配合に従い、前記実施例と同様の手法でハンバーグ様食品を作製し、冷凍した。
【0037】
【表4】
【0038】
冷凍したハンバーグ様食品を、前記実施例と同様に電子レンジを用いて解凍し、評価をした(表5)。評価項目は肉汁感と食感の2項目で、肉汁感は咀嚼時の水分と油分の染み出しが通常のハンバーグと同等であるか評価したものであり、通常のハンバーグと同等であるものを5点とし、3点を下回るものは十分な水分と油分の染み出しがない。食感は、通常のハンバーグと同様の弾力又は歯切れ感を持つか評価したものであり、通常のハンバーグと同等であるものを5点とし、3点を下回るものは食感が硬く、通常のハンバーグとは異なる食感である。
【0039】
【表5】
【0040】
馬鈴薯澱粉、油脂加工タピオカ澱粉、小麦澱粉、酢酸タピオカ澱粉、及びワキシー種とうもろこし澱粉のいずれか一種を使用すると、肉汁感及び食感の向上が得られた(実施例2~6)。
【0041】
実施例7~10
表6に示す配合に従い、前記実施例と同様の手法でハンバーグ様食品を作製し、冷凍した。
【0042】
【表6】
【0043】
冷凍したハンバーグ様食品を、前記実施例と同様に電子レンジを用いて解凍し、評価をした(表7)。評価項目は肉汁感と食感の2項目である。
【0044】
【表7】
【0045】
オレンジファイバーの代替として、レモンファイバー、オーツ麦ファイバー、小麦ファイバー及びアップルファイバーのいずれか一種を使用すると、通常のハンバーグに近い肉汁感及び食感を得られた。特にレモンファイバーはオレンジファイバーを使用した実施例1と遜色ない効果が得られた(実施例7~10)。