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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098432
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】昇華転写接着シート
(51)【国際特許分類】
   B41M 3/12 20060101AFI20230703BHJP
   B44C 1/17 20060101ALI20230703BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20230703BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230703BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20230703BHJP
   B32B 7/06 20190101ALI20230703BHJP
【FI】
B41M3/12
B44C1/17 F
B32B27/20 A
B32B27/00 E
B32B27/40
B32B7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021215177
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】594110169
【氏名又は名称】重田 勝美
(71)【出願人】
【識別番号】500039728
【氏名又は名称】重田 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100147038
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 英昭
(72)【発明者】
【氏名】重田 勝美
(72)【発明者】
【氏名】重田 明子
【テーマコード(参考)】
2H113
3B005
4F100
【Fターム(参考)】
2H113AA03
2H113AA04
2H113BA22
2H113BB06
2H113DA03
2H113DA06
2H113DA47
2H113DA57
2H113DA58
2H113DA62
2H113DA63
2H113EA07
2H113EA10
2H113EA19
3B005EB01
3B005EB03
3B005FA06
3B005FB13
3B005FB37
3B005FB61
3B005FC04Z
3B005FC09Z
3B005FE01
4F100AK41A
4F100AK41B
4F100AK51A
4F100AK51B
4F100AK51D
4F100AT00B
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100CA13C
4F100CA13D
4F100CB00B
4F100CB00E
4F100DG10E
4F100DG11
4F100EC04C
4F100EJ17C
4F100EJ42C
4F100EJ91E
4F100GB72
4F100HB00C
4F100HB31C
4F100JA04B
4F100JL11B
4F100JL14E
4F100JN02D
4F100YY00B
4F100YY00D
(57)【要約】
【課題】昇華染料で描画された原画を、被転写物、特に天然繊維製品の所望の位置に正確に転写することができる昇華転写接着シートを提供すること。
【解決手段】ポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂を重量比30:70~70:30の比率で混合して形成された被着面に対して接着可能な厚み10~30μmの接着シートの一方の面に昇華性染料を用いた描画等が転写されてなることを特徴とする昇華転写接着シート。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂を重量比30:70~70:30の比率で混合して形成された被着面に対して接着可能な厚み10~30μmの接着シートの一方の面に昇華性染料を用いた描画等が転写されてなることを特徴とする昇華転写接着シート。
【請求項2】
前記昇華転写接着シートの裏面側(昇華性染料で染色していない面側)に、着色顔料を含み融点が250~300℃の耐熱ポリウレタン系樹脂で形成された厚み15~30μmの下地隠蔽層を形成し、
前記下地隠蔽層の上に被着面に対して接着可能な厚み20~50μmで、融点が80~110℃のポリウレタン系樹脂の接着層を形成した、三層構造とされていることを特徴とする昇華転写接着シート。
【請求項3】
請求項1記載の熱転写接着シートの製造方法であって、
(a)昇華可能な染料で文字、図形、記号、絵または模様を描いた原画マーキングシートを作製する工程、
(b)剥離紙Aの上にポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂を重量比30:70~70:30の比率で混合して形成された厚み10~30μmの接着シートを別途準備する工程、
(c)前記原画マーキングシートの描画面と、前記剥離紙A上の接着シート表面(剥離紙Aが接着していない側の接着シート表面)とを重ね合わせて加熱・加圧し、接着シートの表面に原画を転写する工程、
を有することを特徴とする熱転写接着シートの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の(a)工程、(b)工程の他に、
(b2)別途準備した剥離紙Bの上に被着面に対して接着可能で融点80~100℃のポリウレタン系樹脂により厚み20~50μmの接着層を形成し、
前記接着層の上に着色顔料を含み融点が250~300℃の耐熱ポリウレタン系樹脂で形成された厚み15~30μmの下地隠蔽層を形成して、二層構造のシートを作製する工程、
(c2)請求項3に記載の(c)工程で形成された接着シートの裏面(剥離紙Aを取り外した後の面)と、前記(b2)工程で形成された二層構造シートの下地隠蔽層の表面(接着層との密着面ではない側の面)を重ねて加熱・加圧し、下地隠蔽層の表面に前記(c)工程で形成された接着シートを接着する工程、
を有することを特徴とする請求項2記載の三層構造の熱転写接着シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予め昇華性染料により所望の絵柄を転写した合成樹脂製シートであって、当該シートを被転写物の被転写領域に加熱・加圧処理することにより、前記絵柄を転写・形成することができる昇華転写接着シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
Tシャツ、スポーツウエア、ユニフォーム等の衣類に種々のデザインパターンを描画する方法として、昇華転写染色方法が知られている。昇華転写染色方法とは、昇華転写用シートに昇華可能な染料で反転画像を印刷して原画マーキングシートを作成し、次いで該原画マーキングシートと被転写物を重ね合わせて加熱・加圧処理することで、前記シートに形成された原画が染料の昇華によって被転写物に転写され、顧客の好みに合わせた色・柄・模様などのデザインが付与されるというものである。
【0003】
昇華転写染色方法に用いる転写用シートへの原画形成方法としては、スクリーン印刷やグラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷などのいわゆる版を用いた方法や、多品種の小生産に適したインクジェット記録方式によりデジカメ写真やパソコンで作成した画像をプリンタに送信して形成する方法がある。
【0004】
インクジェット記録方式による例としては、原画信号からミラーイメージ画像を作成する工程と、熱昇華性染料を含有させた微粒子を分散させたインクをインクジェットプリントヘッドによりインク受容性シート面に噴射させて画像を形成することで昇華転写捺染原版を作成する工程と、任意のプリント媒体(被転写物)と前記原版を重ね合わせて加熱し、昇華染料をプリント媒体に熱昇華転写させる工程とを具備する方法(特許文献1)がある。この方法によれば、小部数のプリント媒体に簡易な方法で高精細な画像を形成することができる。
【0005】
従来、熱昇華性染料による転写の対象(被転写物)としてはポリエステル系合成繊維、ポリアミド系合成繊維(ナイロンなど)、セルロース系合成繊維(アセテートなど)などの化学繊維で形成された衣類に限定されている。熱昇華性染料は、基本的に親油性であるため、染料とこれらの化学繊維との親和性が高く、接着性・染色性に優れているからである。
【0006】
近年、スポーツウエア、ユニフォーム等衣類の素材は、肌触りの良さや環境等を考慮して、木綿、麻、絹、羊毛などのいわゆる天然繊維製品が用いられ、これらを被転写物とした簡易な染色方法が求められている。
【0007】
天然繊維製品への染色方法としては、富士桜の葉から得られる色素を染着して、ポリアミン系化合物の溶液中に浸漬させることによって染色する方法(特許文献2)や、天然繊維と化学繊維を混合織物とした製品を分散染料などにより染色する方法(特許文献3)などが例示される。前者は昇華性染料によるものではなく、また後者は分散染料や昇華性染料による染色可能な化学繊維を混合したことで、「天然繊維を含む」製品を染色することができるようにしたものであり、いわゆる天然繊維100%の製品に昇華性染料で染色する技術ではない。
【0008】
ところで、昇華転写プリントは、転写紙上に描画された図案を、加熱・加圧することで、転写紙から被転写物に直接染料を昇華させてプリントする技術であり、他の染色方法と比べて省力化、加工時間の短縮、環境負荷の低減など多くの利点がある。しかし用いられる昇華性染料との親和性において適応可能な繊維素材がほぼ限定されており、親水性の天然繊維を素材とした製品への適用には、親油性の染料が馴染みにくいこともあって、充分な検討がされてきたとは言い難い。
【0009】
この点について例えば、天然繊維の布地表面に予め転写ラッカーを塗布して前処理を行う技術(特許文献4)や、予め水溶性アクリル樹脂を用いてパディング処理した綿繊維を用いて染色する技術(非特許文献1)などが開発されている。これらは染料と馴染ませるための前処理を必要としている。また、加熱溶融性の粉体を転写シートの表面に振りかけて付着させたのち、被転写物を重ね合わせて転写する技術(特許文献5)も提案された。
【0010】
前記各提案は、天然繊維製品に対して昇華転写技術を適用した点で優れたものであるが、昇華転写の利点を生かした、より簡便・簡易な適用方法については、さらに検討を進め、多様なニーズに対応できる新たな提案が求められているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10-58638号公報
【特許文献2】特開平4-194090号公報
【特許文献3】特開平4-214478号公報
【特許文献4】特開平5-219151号公報
【特許文献5】特開2019-171840号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】東京都立産業技術研究センター研究報告,第5号,2010年,128-129
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであって、昇華染料で描画された原画を、被転写物、特に天然繊維製品の所望の位置に正確に転写することができる昇華転写接着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、本発明の昇華転写接着シートは、ポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂を重量比30:70~70:30の比率で混合して形成された被着面に対して接着可能な厚み10~30μmの接着シートの一方の面に昇華性染料を用いた描画等が転写されてなることを特徴とする。
【0015】
昇華転写接着シート(以下単に「接着シート」ともいう。)は、昇華性染料によって描画形成された表面と、加熱溶融することで天然繊維製品等に対して接着させることができる裏面を有する、いわばシールのようなものである。該シートのポリエステル系樹脂に親油性の昇華性染料を補足させて天然繊維素材にも染色できるようにし、ポリウレタン樹脂の配合によって、熱溶融性とシートの柔軟性を付与することで、天然繊維への接着力と該繊維素材の肌触り等を阻害しない構成とされている。
【0016】
本発明の昇華転写接着シートは、裏面側(つまり昇華性染料で染色していない面側)に、さらに、着色顔料を含み融点が250~300℃の耐熱ポリウレタン系樹脂で形成された厚み15~30μmの「下地隠蔽層」を介して、その上に被着面に対して接着可能な厚み20~50μmで、融点が80~110℃のポリウレタン樹脂の「接着層」を形成した、三層構造とされていても良い。
【0017】
前記下地隠蔽層は、文字通り、天然繊維製品の生地の色が黒や紺などの濃色系に染められている場合に、本発明の接着シート表面の昇華性染料で描画した絵柄が、生地の色に負けて鮮明には見え難くなることを防止するためのものである。
【0018】
また、下地隠蔽層が顔料等を含んで硬化する傾向があるため、前記接着層には被転写物に対する接着力を付与する役割を持たせた層である。
【0019】
本発明の熱転写接着シートの製造方法は、(a)昇華可能な染料で文字、図形、記号、絵または模様を描いた原画マーキングシートを作製する工程、(b)剥離紙A上にポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂を重量比30:70~70:30の比率で混合して形成された厚み10~30μmの接着シートを別途準備する工程、(c)前記原画マーキングシートの描画面と、前記剥離紙A上の接着シート表面(すなわち、剥離紙Aが接着していない側の接着シート表面)とを重ね合わせて加熱・加圧し、接着シートの表面に原画を転写する工程、を有することを特徴とする。
【0020】
前記(a)工程は、通常一般に行われている原画シートの作図と同じ工程であり、被転写物に転写した状態で観察したとき、文字、図形などが認識できるように鏡像体の画像が作成されている。この工程においては、原画用シート上に昇華染料を含有するインクを使用して、インクジェット式プリンタ等により原画マーキングシートが作成される。なお、原画用シート表面には予め離型処理を施してあるか、または離型性のあるシートが好ましい。本発明の接着シートを適用する際に、「被転写物」に対して「原画マーキングシート」が接着して、当該原画マーキングシートを剥がし難くなるからである。
【0021】
前記(b)工程では、昇華染料が転写される前の接着シートを形成する工程である。予め適当な溶媒にポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂を重量比30:70~70:30の比率で配合した混合溶液を準備し、これを剥離紙A上に塗布、噴霧などにより付着させ、溶媒を揮発させて形成したり、ロールコータまたはカーテンフローコータにより剥離紙A上に混合溶液の薄膜を形成させることで(昇華転写前の)接着シートが製造される。
【0022】
前記(c)工程では、(a)工程で準備した原画マーキングシートの画像面と、(b)工程で準備した剥離紙A上に固定された接着シートの表面(剥離紙A側ではない面)とが向かい会うように重ね合わせて、接着シートの表面に画像を転写する工程である。加圧・加熱転写することで原画用シートと剥離紙Aは、接着シートで接着された状態となる。このまま市場に供給しても良いが、(d)画像が形成されていない部分をカッティングプロッターなどによって除去する工程を加えることで、画像領域だけの接着シートにすることもできる。なお、この工程の前に剥離紙Aを剥がしてから、画像が転写された領域以外の接着シートを取り除いても良い。
【0023】
本発明の接着シートの接着力は、原画マーキングシート側への接着力の方が剥離紙A側よりも強いことが重要である。被転写物への接着のために本発明の接着シートを重ね合わせる際には、まず剥離紙Aのみを取り除いて原画マーキングシート上の接着シートを被転写物に重ねる方が、昇華性染料の揮散や転写装置のコテ(加熱板・圧縮板)を汚染することを防止できるからである。また、原画が転写されていない接着シートの表面を、被転写物に向けて接着するので、剥離紙A側の方が原画マーキングシートよりも先に剥がすことになるという理由もある。被転写物に接着シートを固定する際に、一旦借り止めしたのち転写済みの原画マーキングシートを取り除いてから、再度他の離型紙等で覆い、原画マーキングシートの代わりに接着シートの押さえとして利用しても良い。
【0024】
また、三層構造の接着シートを製造する場合には、前記(a)工程、(b)工程の他に、(b2)工程として、別途準備した剥離紙Bの上に被着面に対して接着可能で融点80~100℃のポリウレタン系樹脂により厚み20~50μmの「接着層」を形成し、
前記接着層の上に着色顔料を含み融点が250~300℃の耐熱ポリウレタン系樹脂で形成された厚み15~30μmの「下地隠蔽層」を形成して、二層構造のシートを作製する工程と、
(c2)工程として、前記(c)工程で形成された接着シートの裏面(剥離紙Aを取り外した後の面)と、前記(b2)工程で形成された二層構造のシートの下地隠蔽層の表面(接着層との密着面ではない側の面)を重ねて加熱・加圧し、下地隠蔽層の表面に前記(c)工程で形成された接着シートを接着する工程を有する事を特徴とする。
【0025】
前記剥離紙Aと剥離紙Bとは同一種類のものであっても良く、異なる種類のものであっても良い。
【発明の効果】
【0026】
本発明の昇華転写接着シートは、被転写物に対して接着させることが目的なので、被転写物の素材と昇華性染料との相性(例えば染まり易いかどうかなど)を考慮する必要がなく、昇華転写の適用範囲が飛躍的に拡大する。また、接着シートを原画単位で取り扱うことができるので、所望の配置・位置に正確に転写することができる。
【0027】
被転写物が天然繊維素材であっても、本発明の接着シートを構成するポリエステル系樹脂やポリウレタン系樹脂に昇華性染料を捕捉させ、該接着シートの薄さも手伝って、一見すると天然繊維に直接昇華染料を転写したかのごとく表現できる。
【0028】
昇華転写されるのは、接着シートであって、被転写物に直接昇華染料を載せるわけではない。従って、昇華転写時の熱が直接、被転写物に加えられることがないため、対象の被転写物の耐熱性が低い場合でも、昇華染料による染色の適用範囲になり得る。
【0029】
さらに、接着シートを三層構造として、中間層に下地隠蔽層を用いることにより、被転写物の生地・素材が濃色系のものであっても、転写原画を暈かさず、鮮明性を失うことなく染めることができる。また、昇華性染料が下地隠蔽層にも浸透して、本発明の接着シートの表面が摩耗しても画像の消失を防止するとともに、奥深い絵柄に仕上げることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、原画マーキングシート(上側)および接着シート(下側)を側面から見た図である。
図2図2は、原画マーキングシートと接着シートを重ねて加圧・加熱した状態を示す図である。
図3図3は、原画マーキングシートの一例を示す図である。
図4図4は、原画マーキングシートと接着シートを重ねた状態の一例を示す図である。
図5図5は、被転写物(Tシャツ)の上に、本発明の昇華転写接着シートと比較例として原画シートに離型処理を施していないコピー用紙を使用した接着シートを載せた状態を示す図であり、左側が原画シートを下にして載せた状態、右側が原画シートを上にして載せた状態を示す。
図6図6は、接着シートを固定した後、原画マーキングシート1又は原画コピー用紙15を取り外す過程を示す図である。
図7図7は、本発明の昇華転写接着シートであって、左側が一層構造、右側が三層構造(すなわち下地隠蔽層と接着層を含む)のものを使用して濃色系のTシャツに絵柄を接着したのちの状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明に係わる昇華転写接着シートは、昇華性染料で描画された面を有するワッペン/シールということができる。また、その厚みが極めて薄いため、接着力のある絵柄そのものとも言える。
【0032】
昇華転写接着シートによって転写される被転写物は、典型的には繊維製品であるがこれに限定されるものではない。繊維製品には、織物、編物、不織布、カーペットなどが含まれるが、単繊維、糸または中間繊維製品であっても良い。繊維の素材としては、天然繊維(例えば、綿、絹、羊毛など)、化学繊維(例えば、ナイロン、ポリプロピレンなど)、合成繊維(例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリルなど)であり、前記繊維を所望の重量比で混繊した物であっても良い。
【0033】
繊維製品としては前記の繊維素材を用いてなる、アウター用衣料、スポーツ用衣料、インナー用衣料、作業服、レインコート、カーテン、幟、寝装寝具、椅子やソファーのカバー、テント、カーペット、カーシート地、およびインテリア用品等として例示される繊維製品である。
【0034】
そして前記各種の繊維製品は、これまで昇華性染料での染色が適用できないとされてきた素材、例えば天然繊維を素材とする製品にも好適に使用できる。
【0035】
本発明の昇華転写接着シートの製造方法としては、まず原画マーキングシートを作成する(a)工程がある。この工程は、従来より通常行われる工程が、そのまま利用することができる。すなわち、顧客の要望する文字、図形、記号、絵、写真等を含む模様を画像信号としてパソコンに取り込み、転写時のミラー画像に反転処理する。昇華可能な染料を含むインクを、インクジェットプリンタ等によって前記ミラー画像に基づいてマーキングシート面に噴射させ、原画を形成することにより原画マーキングシートが完成する。
【0036】
マーキングシートの基材としては、染料受容層及び必要に応じて設けられたその他の層を有し、熱転写時の加熱に耐えられるものであれば特に限定されない。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の耐熱性の高いポリオレフィン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアミド等のプラスチックの延伸または未延伸フィルムや、これらの合成樹脂に白色顔料や充填剤を加えて成膜した白色不透明フィルムも使用できる。これ以外にも、上質紙、コート紙、アート紙、キャストコート紙、板紙等の材料も使用することができる。また、これらの材料を2種以上積層した複合フィルムであっても良い。本発明においては、市販の基材を用いることができ、例えば、リンテック社製のクラフト紙等が好ましい。
【0037】
ただし、前記マーキングシートの原画形成面は、後述の接着シートによって被転写物と接着されるので、予め適当な離型剤で表面処理しておくか、離型紙であることが必要である。離型紙としては、上質紙やクラフト紙をそのまま、あるいは上質紙やクラフト紙にカレンダー処理、樹脂コート、フィルムラミネートをしたもの、またはグラシン紙、コート紙、プラスチックフィルム等にシリコーン処理を施したもの等を使用することができる。このうち、接着シートとの剥離性が良好であることから、粘着剤層に接触する面にシリコーン処理を施したものを用いることが好ましい。
【0038】
マーキングシートの厚みは、強度、耐熱性を考慮して基材に応じて適宜選択すれば良く、一般的には1μm~300μm、好ましくは60μm~200μm程度である。なお、重ね合わせたマーキングシートに被転写物が保持されたままで、別の工程に入るような場合には、被転写物の取り扱い中に剥がれたり、折れ曲がる等しないようにある程度の強度を有することが好ましい。
【0039】
(b)工程では、昇華染料が転写される前の接着シートを形成する工程である。予め適当な溶媒にポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂を重量比30:70~70:30の比率で配合した混合溶液を準備する。
【0040】
ポリエステル系樹脂としては、下記のような多価カルボン酸および多価ヒドロキシ化合物からなるものが挙げられる。
【0041】
すなわち、多価カルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、2-カリウムスルホテレフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、グルタル酸、コハク酸、トリメリット酸、無水フタル酸、p-ヒドロキシ安息香酸およびそれらのエステル形成性誘導体などを用いることができる。
【0042】
多価ヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオ-ル、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオ-ル、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコ-ル、ポリプロピレングリコ-ル、グリセリン、トリメチロ-ルプロパンなどを用いることができる。
【0043】
前記多価カルボン酸および前記多価ヒドロキシ化合物の中から、それぞれ適宜1つ以上を選択し、常法の重縮合反応によりポリエステル系樹脂を合成すればよい。なお、カルボン酸基とヒドロキシ基とは1:1で反応するので、前記多価カルボン酸および前記多価ヒドロキシ化合物の混合比率は、各基が等モル比となる条件で反応させる。
【0044】
ポリエステル系樹脂としてはポリエチレンテレフタレートなどが好ましい。
【0045】
ポリウレタン系樹脂としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート及びキシリレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物と、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール及びジプロピレングリコール等の多価アルコール化合物と、の重合物が挙げられる。なお、(ジイソシアネート化合物の)イソシアネート基と(多価アルコール化合物の)ヒドロキシ基とは1:1で反応するので、各基が等モルの比率となる条件で化合物を混合して、重合すれば良い。
【0046】
ポリウレタン系樹脂としては、エチレングリコールとヘキサメチレンジイソシアネートとの反応物が好ましく、例えばBASFジャパン株式会社製の樹脂などが好適である。
【0047】
前記ポリエステル系樹脂と前記ポリウレタン系樹脂を、重量比30:70~70:30の比率で適当な溶媒、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール及びn-プロパノール等のアルコール類、エチレングリコール及びジエチレングリコール等のグリコール類、アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン類等に溶解または分散させて混合溶液Aを製造する。前記各樹脂と溶媒との混合比率は、各樹脂の合計重量100に対して、溶媒50~100の比率である。
【0048】
この混合溶液Aを、剥離紙A上に、塗布/噴霧などにより付着させ、溶媒を揮発させて形成したり、ロールコータまたはカーテンフローコータにより剥離紙A上に混合溶液Aの薄膜を形成させることで(昇華転写前の)接着シートが製造される。なお、前記により薄膜形成後、膜表面を適当なグラシン紙等でカバーして加熱・加圧することで膜厚を均一化することもできる。
【0049】
ポリエステル系樹脂は、昇華性染料を捕捉するために使用するが、ポリウレタン系樹脂も同様に染料を捕捉することができる。しかし、ポリウレタン系樹脂は、一旦捕捉した染料を樹脂内に拡散させる傾向(すなわち、画像のボケを生じさせる傾向)がある。一方、ポリエステル系樹脂を単独で使用すると、接着力の低下や、(被転写物への)接着部分の肌触りが悪くなる(例えば、ごわごわした感触になる)傾向がある。そこで、ポリウレタン系樹脂を適量配合することで、本発明の接着シートに柔軟性を与え、ポリエステル系樹脂を主成分とすることで昇華性染料の分散(すなわち絵柄のボケ等)を防止しているのである。
【0050】
(c)工程では、前記原画マーキングシートの描画面と、前記剥離紙A上の接着シート表面(すなわち、剥離紙Aが接着していない側の接着シート表面)とを重ね合わせて加熱・加圧し、接着シートの表面に原画を転写する。この工程での加熱・加圧時間は、接着シートの素材と昇華性染料の組み合わせによって適宜選択すれば良いが、120~200℃で、15秒~60秒程度、圧力は200~300g/cm程度である。例えば、接着シートとしてポリエステル系樹脂:ポリウレタン系樹脂を50:50で混合し、昇華性染料((株)アイメックス製;商品名「Toner Cartridge SDTC A410C-22」を用いた場合には、温度160℃で、30秒、圧力250g/cmが適当である。
【0051】
(c)工程によって、原画用マーキングシートと剥離紙Aとは、接着シートで接着された状態となる。すなわち、従来の昇華転写方法では、原画用マーキングシートが直接被転写物上に重ねられて、描画が転写されるが、本発明では一旦接着シートに描画が転写される。これにより、まるで昇華染料の絵柄そのものが、接着性を具備することになるのである。従って、昇華染料による染色は接着シートに施されるので、これまで染色困難とされてきた天然繊維に対しても、シートによる接着力により絵柄を付与することができ、接着シートの薄さゆえに、外観上は天然繊維に直接昇華染料で染色したかのごとく観察されるのである。
【0052】
また、昇華染料は接着シートを構成する樹脂に対して経時的に分散することで絵柄の鮮明性が損なわれる(いわゆるボケが生じる)現象が起きることがある。本発明では接着シートの樹脂層が薄く、被転写物への絵柄接着時にこれらの樹脂が被転写物の生地内に浸透することを利用して、前記ボケを防止することができる。なお、昇華転写接着シートを作成後、迅速(作成直後から、一週間以内、好ましくは一日以内)に被転写物に接着することが好ましい。
【0053】
原画用マーキングシートと剥離紙Aとで、本発明の昇華転写接着シートを挟んだ状態でそのまま市場に供給しても良いが、(d)工程として、画像が形成されていない部分をカッティングプロッターなどによって切り取る工程を加えることで、画像領域だけの接着シートとすることもできる。
【0054】
この(d)工程は必ずしも必要ではないが、接着シートの描画領域以外の部分は接着シートのみが被転写物に付着することになり、絵柄の外観を損ねるおそれもあるため、不要な部分(描画されていない接着シート部分)を予め除去しておくことが好ましい。
【0055】
上記各工程により製造された本発明の昇華転写接着シートは、ポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂を重量比30:70~70:30の比率で混合して形成され、被着面に対して接着が可能で、厚み10~30μmの当該接着シートの一方の面に、昇華性染料を用いた描画等が転写されて形成されている。
【0056】
このように薄膜の接着シートであるが故に、天然繊維製品に接着させると、外観上は直接天然繊維が、昇華性染料に染色されたかのごとく見せることができるのである。しかも、描画領域は接着シートの柔軟性によって、被転写物の素材の肌触りをそのまま維持することができるので、着心地の良い製品となる。
【0057】
また、被転写物の素材が予め濃色(例えば黒や紺など)に着色された製品に、昇華転写接着シートを適用するような場合には、生地の色が接着シートを通して表面にでてきてしまうことがある。これが却って味わいのある趣を添えることもあるが、せっかくの描画をより鮮明にしたいとの要望に応えるために、接着シートの裏面側(つまり昇華性染料で染色していない面側)に、さらに、着色顔料を含み融点が250~300℃の耐熱ポリウレタン系樹脂で形成された厚み15~30μmの「下地隠蔽層」を形成し、前記下地隠蔽層を挟んで、被着面に対して接着可能な厚み20~50μmで、融点が80~110℃のポリウレタン系樹脂の「接着層」を形成した、三層構造とされていても良い。
【0058】
また別の態様として、前記「下地隠蔽層」と前記「接着層」とからなる二層構造の接着シートとすることも考えられる。昇華性染料を下地隠蔽層に直接転写して、接着層を利用して被転写物に接着すればよいからである。この二層構造とすれば、前記三層構造よりも薄い接着シートが得られるので、被転写物の素材の質感をそのまま維持した上で、好みの描画を施すこともできるのである。しかも、二層構造の方が製造コストを抑え、また手間も少ないので、経済的でもある。一方、三層構造とする理由は、用いられる昇華性染料によって「下地隠蔽層」上に染着し難い場合や、そもそも下地隠蔽層に転写した描画が経時変化によってボケる(染料が層の樹脂中に拡散して絵柄の輪郭等が不鮮明になる)などの現象を(本発明のポリエステル系樹脂を含む接着シートの採用により)抑える効果があるからである。
【0059】
前記着色顔料としては、無機着色剤と有機着色剤の少なくとも一方を用いることができ、顔料を用いてもよいし、染料を用いてもよい。無機着色剤には、酸化チタンや酸化亜鉛や硫化亜鉛といった白色顔料、酸化鉄イエローといった黄色顔料、カーボンブラックや酸化鉄ブラックといった黒色顔料、酸化鉄レッドといった赤色顔料、ウルトラマリンブルーといった青色顔料、等の一種以上を用いることができる。有機着色剤には、フタロシアニンブルーといった青色顔料、イソインドリノンイエローといった黄色顔料、ジケトピロロピロールといった橙色顔料、等の一種以上を用いることができる。
【0060】
前記「下地隠蔽層」には、前記ポリウレタン系樹脂の中でも耐熱性に優れた、例えばポリカーボネート系ウレタン樹脂が好適に用いられる。下地隠蔽層の形成には、まず、当該樹脂の合成反応溶液に前記着色剤を添加するか、樹脂を合成した後これを適当な溶媒(例えばメタノール、イソプロパノール等のアルコール類、エチレングリコール及びジエチレングリコール等のグリコール類、アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン類等)に懸濁・溶解させた溶液に前記着色剤を添加して、混合溶液Bを準備する。このとき着色剤の使用量としては、耐熱性ポリウレタン樹脂100重量部に対して10~50重量部である。
【0061】
一方、「接着層」の形成には、まず、融点が80~110℃のポリウレタン系樹脂例えばエチレングリコールとヘキサメチレンジイソシアネートとの反応物を前記同様の適当な溶媒に懸濁・溶解させて、別途混合溶液Cを準備する。
【0062】
前記混合溶液Cを、別途準備した剥離紙Bの上に塗布/噴霧などにより付着させ、溶媒を揮発させて形成したり、ロールコータまたはカーテンフローコータにより、剥離紙B上に厚み20~50μmの「接着層」を形成させる(以下、この工程を(e1)工程という。)。この接着層の上に、着色顔料を含む混合溶液Bを前記同様にして塗布/噴霧などにより薄膜を形成し、溶媒を除去して厚み15~30μmの「下地隠蔽層」を形成して、二層構造のシートを作製する(以下、この工程を(e2)工程という。)。
【0063】
前記(e2)工程に代えて、混合溶液Bを他の剥離紙C上に塗布/噴霧などにより付着させる等して、膜厚20~50μmの薄膜を形成させ、剥離紙Cの上に「下地隠蔽層」を作製することもできる。この下地隠蔽層の表面と、前記((e1)工程後の)剥離紙B上の「接着層」とを重ね合わせて、加熱・加圧して二層構造とし(以下(e3)工程という)、剥離紙Cを剥がして次の工程に移行することもできる。「接着層」は低融点のポリウレタン系樹脂より成るので、(e3)工程の加熱・加圧・時間は、それぞれ100~150℃で、150~250g/cm、5秒~30秒程度である。
【0064】
前記(e3)工程後は、剥離紙Bは接着層と、剥離紙Cは下地隠蔽層と、それぞれ接着しているので、接着層に付着していない剥離紙Cの方が剥がしやすいが、剥離紙Cの方に表面処理などを施して剥離紙Cを選択的に取り外すようにしても良い。後述する(c2)工程では、先に剥離紙Cを剥がす必要があるからである。
【0065】
前記(e1)工程+前記(e2)工程、または、前記(e1)工程+前記(e3)工程が、すなわち(b2)工程である。
【0066】
(c2)工程は、前記(c)工程と(b2)工程で得られた両者を貼り合わせる工程である。すなわち、
(c)工程後の昇華転写接着シートの裏面(剥離紙Aを取り外した面)と、(e2)工程後の下地隠蔽層表面とを重ねて、加熱・加圧するか、または、
(c)工程後の昇華転写接着シートの裏面(剥離紙Aを取り外した面)と、(e3)工程後の下地隠蔽層の表面(剥離紙Cを取り外した面)とを重ねて、加熱・加圧する、
ことにより、本発明の三層構造を有する昇華転写接着シートが製造できる。
【0067】
(c2)工程の加熱・加圧・時間は、それぞれ100~150℃で、150~250g/cm、5秒~20秒程度である。(c)工程で昇華染料を接着シート上に昇華済みなので、三層構造にする際は、昇華染料が下地隠蔽層まで浸透することもあり得る。浸透しすぎると却って絵柄が不鮮明になるので、加熱・加圧・時間の調整には留意する必要がある。
【0068】
さらにその他の態様として、前記(b)工程後の接着シートの上に、「下地隠蔽層」続いて「接着層」を直接形成し、該接着層の表面に剥離紙Dを載せた後、剥離紙Aを剥がして、(c)工程に移行することも可能である。
【0069】
下地隠蔽層は、被転写物の素材の色を隠蔽し、描画部分を鮮明にするものであるため、この二層構造または三層構造で使用する場合には、特に画像が形成されていない部分をカッティングプロッターなどによって(前記(d)工程と同様に)予め切除しておくことが好ましい。ただし、描画部分の背景を適当な色・形状で表現したい場合もあるので、描画周囲に下地隠蔽層の色が観察できても問題がなく、前記切除が必須という訳ではない。
【0070】
以下では、実施例を示しつつ本発明の昇華転写接着シートをより具体的に説明する。
【0071】
(実施例1及び比較例1)
被転写物として綿100%で縫製されたTシャツを用いて、該Tシャツの正面にデザインを施す例について説明する。初めに、本発明の(a)工程を行った。使用した昇華染料を含むインクは((株)アイメックス製 Toner Cartridge SDTC A410C-22」)である。インクジェットプリンタは((株)アイメックス製 IMEX SDP A410)を使用し、パソコンに取り込んだ画像をミラー画像に反転処理する。マーキングシートとして(リンテック社製 クラフト紙)を使用してインクジェットプリンタにより描画し、原画マーキングシート1を作成した(図1上図)。
【0072】
前記マーキングシートには、離型性を付与するために表面に予めシリコーン処理を施してある。
【0073】
次に、本発明の(b)工程では、まずポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート)とポリウレタン系樹脂(ヘキサメチレンジイソシアネートとポリエチレングリコールとの合成物)を重量比50:50の比率で混合した混合物100重量部に対して、溶媒(メチルエチルケトン)200重量部に分散させ混合溶液を作製した。これを剥離紙A(リンテック社製 クラフト紙)上にロールコータにより付着させ、溶媒を揮発させて薄膜を形成させることで(昇華転写前の)接着シートを製造した(図1の下図)。
【0074】
前記原画マーキングシート1の印刷面11と前記接着シート2の表面22(裏面は剥離紙Aに付着している。)を、図2に示すように重ね合わせて、熱転写プレス機(商品名:S-78KW、サンショウ社製)にセットし、温度160℃、圧力250g/cmで60秒、加熱・加圧すること(工程(c))で、本発明の昇華転写接着シート5を製造した。
【0075】
こうして製造された昇華転写接着シート5を、マーキングシートに貼りついた状態で、剥離紙Aを取り除いて接着シート5の裏面側を露出させ、綿100%で縫製されたTシャツに重ね合わせて、再度熱転写プレス機にセットし、接着シートをTシャツに固定することにより、描画した。
【0076】
前記一連の工程を写真で示したのが、図3図6である。
【0077】
図3にはマーキングシート1の表面に、ミラー画像12と鏡像の文字13がプリントされた原画マーキングシート1が示されている。マーキングシート1は予め離型剤(シリコン等)により処理されている。
【0078】
原画マーキングシートと同じ図柄を、コピー用紙にプリントした比較例を別途作製した。この比較例1では、離型処理を施していないコピー用紙に昇華染料によるプリント(以下比較例のサンプルを「原画コピー用紙)という。)が施されている。
【0079】
原画マーキングシート1と、比較例で作製した原画コピー用紙15を、前記(b)工程で準備した接着シート2の上に、各プリント面が接着シート表面に向き合う(図4に示す)ように重ね合わせた。
【0080】
次に、熱転写プレス機(商品名:S-78KW、サンショウ社製)にセットし、温度160℃、圧力250g/cmで60秒、加熱・加圧すること(工程(c))で、本発明の昇華転写接着シート5および、比較例の昇華転写接着シート5’を製造した。
【0081】
図5の左側には、綿100%のTシャツの上に、昇華転写接着シート5及び昇華転写接着シート5’の各剥離紙3を取り除いて、接着シート表面を上に向けて各々配置した状態が示されている。
【0082】
また図5の右側には、前記各シート(5及び5’)が、接着シート表面(各剥離紙3を取り除いた面)をTシャツに向けて配置された状態が示されている。この状態で、熱転写プレス機(商品名:S-78KW、サンショウ社製)にセットし、温度135℃、圧力200g/cmで45秒加熱・加圧することにより接着シートをTシャツに固定した。
【0083】
図6は接着シートを固定した後、原画マーキングシート1又は原画コピー用紙15を取り外す過程を撮影したものである。本発明では、原画マーキングシート1に予め離型処理が施されているため、被転写物(Tシャツ)には絵柄が鮮明に転写されているのに対して、比較例で用いた原画コピー用紙の方は、コピー用紙に一部の絵柄が貼り付いたままでTシャツ側には殆ど転写されることなく剥がされてしまう事が判る。
【0084】
また、昇華転写による被転写物への染色は、一般的には200℃前後の高温で、圧力50~100g/cmで1分程度の条件で行われているが、本発明では、前記の通り135℃の低温でかつ、1分以内の短時間で可能である。これは、昇華転写済みのシートを接着することで染色するという本発明独自のユニークな発想による効果なのである。
【0085】
(実施例2)
ここでは、被転写物として予め濃色に着色された綿100%で縫製されたTシャツを用いて、該Tシャツにデザインを施す例について説明する。
【0086】
前記実施例1で記載した要領で、昇華転写接着シートを2セット用意した。一方の昇華転写接着シートには、(e1)工程と(e3)工程で作製した二層構造を重ねて三層構造とした。
【0087】
三層構造にする場合は、まず、
耐熱ポリウレタン系樹脂としてポリカーボネート系ウレタン樹脂を用い、当該樹脂をメチルエチルケトン溶液に溶解させ、着色剤として酸化チタンを添加して懸濁させた溶液(混合溶液B)を準備する(これが後に下地隠蔽層を構成する)。このとき着色剤の使用量は、耐熱性ポリウレタン樹脂100重量部に対して50重量部である。
【0088】
前記混合溶液Bを別途準備した剥離紙C上に塗布により付着させ、溶媒を揮発させて膜厚30μmの薄膜(下地隠蔽層)を形成した。
【0089】
一方、融点が95℃のポリウレタン系樹脂を前記メチルエチルケトンに懸濁・溶解させて、別途混合溶液Cを準備する(これが後に接着層を構成する)。
【0090】
前記混合溶液Cを、別途準備した剥離紙Bの上に塗布により付着させ、溶媒を揮発させて、剥離紙B上に厚み30μmの「接着層」を形成させる((e1)工程)。
【0091】
前記((e1)工程後の)剥離紙B上の「接着層」と、剥離紙C上の「下地隠蔽層」を重ね合わせて、温度135℃、圧力200g/cmで15秒間加熱・加圧して、二層構造((e3)工程)とした。
【0092】
次いで剥離紙Cを剥がし、下地隠蔽層を露出させた。前記一方の昇華転写接着シートをマーキングシートに貼りついた状態で、剥離紙Aを取り除いて接着シート5の裏面側を露出させ、前記露出させた下地隠蔽層の表面と重ね合わせて、三層構造の昇華転写接着シートを製造した。
【0093】
三層構造の昇華転写接着シート表面(剥離紙Bを取り除いた面)と、一層の昇華転写接着シート表面(剥離紙Aを取り除いた面)を、濃色のTシャツに重ねて、温度135℃、圧力200g/cmで45秒間加熱・加圧して、それぞれ絵柄を接着させた。
【0094】
各絵柄を接着した後の状態を示したものが図7である。濃色Tシャツの生地20の上に一層構造の昇華転写接着シートの絵柄22を載せた例、と三層構造の昇華転写接着シートの絵柄24を載せた例を比較すると、下地隠蔽層によって生地の地色を抑えた三層構造の方が、絵柄を鮮明に確認することができる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
以上説明したように、本発明の昇華転写接着シートは、昇華染料で描画された原画を、被転写物の所望の位置に転写し、特に天然繊維製品に対しても昇華染料による絵柄等を転写することができるので、縫製後の繊維製品に多彩なデザインを付与し、商品価値を高めることができる。
【符号の説明】
【0096】
1 原画マーキングシート
2 接着シート
A 剥離紙A
5 昇華転写接着シート
5’ 比較の昇華転写接着シート
12 ミラー画像
13 ミラー文字
15 原画コピー用紙
20 濃色系Tシャツの生地
22 一層の昇華転写接着シートの絵柄
24 三層の昇華転写接着シートの絵柄
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7