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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098461
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】測温装置、及び測温方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 5/06 20220101AFI20230703BHJP
   G01J 5/48 20220101ALI20230703BHJP
   G01J 5/00 20220101ALI20230703BHJP
【FI】
G01J5/06
G01J5/48 E
G01J5/00 101A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021215234
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】515086908
【氏名又は名称】株式会社トヨタプロダクションエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】白石 有司
【テーマコード(参考)】
2G066
【Fターム(参考)】
2G066AA06
2G066AC02
2G066AC11
2G066BB02
2G066CA02
2G066CB01
(57)【要約】
【課題】
反射率の高い被測定物であっても、当該被測定物の温度状態にかかわらず非接触で当該被測定物の表面温度を測定することができる測温装置等を提供する。
【解決手段】
本開示に係る測温装置は、透過性を有さず放射率及び反射率が既知の被測定物の表面温度を、赤外線温度計を用いて測定する測温装置であって、放射率と温度とが既知であり、被測定物に入射し当該被測定物の表面にて反射して赤外線温度計によって検知される赤外線を、当該被測定物に入射する手前で遮蔽する背景物体と、赤外線温度計の測定値を、背景物体の温度を用いて校正して被測定物の表面温度とする演算部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過性を有さず放射率及び反射率が既知の被測定物の表面温度を、赤外線温度計を用いて測定する測温装置であって、
放射率と温度とが既知であり、前記被測定物に入射し当該被測定物の表面にて反射して前記赤外線温度計によって検知される赤外線を、当該被測定物に入射する手前で遮蔽する背景物体と、
前記赤外線温度計の測定値を、前記背景物体の前記温度を用いて校正して前記被測定物の前記表面温度とする演算部と、
を備えることを特徴とする測温装置。
【請求項2】
前記演算部は、以下の式(i)を用いて前記測定値を校正して前記被測定物の前記表面温度とすることを特徴とする請求項1に記載の測温装置。
【数1】
T:被測定物の表面温度(℃)
:赤外線温度計の測定値(K)
:背景物体の温度(K)
ε:背景物体の放射率
ε:被測定物の放射率
ρ:被測定物の反射率
【請求項3】
前記赤外線温度計がサーモグラフィであることを特徴とする請求項1又は2に記載の測温装置。
【請求項4】
前記背景物体は、前記被測定物を内部に収納する収納部を備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の測温装置。
【請求項5】
前記背景物体は、前記被測定物に対向する面が黒色であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の測温装置。
【請求項6】
前記背景物体は、銅合金を主要部材としていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の測温装置。
【請求項7】
前記被測定物は、鋳造物であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の測温装置。
【請求項8】
透過性を有さず放射率及び反射率が既知の被測定物の表面温度を、赤外線温度計を用いて測定する測温方法であって、
放射率と温度とが既知である背景物体を用いて、前記被測定物に入射し当該被測定物の表面にて反射して前記赤外線温度計によって検知される赤外線を、当該被測定物に入射する手前で遮蔽し、
前記赤外線温度計の測定値を、前記背景物体の前記温度を用いて校正して前記被測定物の前記表面温度とすることを特徴とする測温方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物の表面温度を非接触により測定する測温装置、及び測温方法に関し、特に反射率が高い被測定物の表面温度の非接触での測定に適した測温装置、及び測温方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反射率が高い被測定物の表面温度を非接触により測定する場合、放射率は低いため被測定物の表面温度を測定することは困難であった。そこで、当該被測定物に黒体塗料などを塗ることで当該被測定物の放射率を高めてから表面温度を測定する方法が考案された(例えば特許文献1参照)。
【0003】
反射率の高い物体の例として、アルミニウム合金は800℃以上に加熱された状態であれば、当該アルミニウム合金から放射される近赤外又は中赤外の波長の赤外線を検出することで表面温度を非接触で測定することができた。
【0004】
鋳造工程を経て成形されたアルミニウム合金の鋳造物は、例えば500℃前後に加熱された状態で鋳型から取り出される。アルミニウム合金の熱間鍛造は、一般的に400℃から500℃の熱間で行われる。これらのアルミニウム合金の表面温度を非接触で測定する場合、当該アルミニウム合金は、400℃から500℃の高温の状態であるので、黒体塗料などを塗り非接触で表面温度を測定することは困難であった。また、アルミニウム合金が400℃から500℃の状態では、近赤外又は中赤外の波長の赤外線を用いた温度測定は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-342379号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本開示は、反射率の高い被測定物であっても、当該被測定物の温度状態にかかわらず非接触で当該被測定物の表面温度を測定することができる測温装置、及び測温方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、第1の態様に係る測温装置は、透過性を有さず放射率及び反射率が既知の被測定物の表面温度を、赤外線温度計を用いて測定する測温装置であって、放射率と温度とが既知であり、被測定物に入射し当該被測定物の表面にて反射して赤外線温度計によって検知される赤外線を、当該被測定物に入射する手前で遮蔽する背景物体と、赤外線温度計の測定値を、背景物体の温度を用いて校正して被測定物の表面温度とする演算部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
第2の態様は、第1の態様に係る測温装置において、演算部は、以下の式(i)を用いて測定値を校正して被測定物の表面温度とすることとしてもよい。
【0009】
【数1】
T:被測定物の表面温度(℃)
:赤外線温度計の測定値(K)
:背景物体の温度(K)
ε:背景物体の放射率
ε:被測定物の放射率
ρ:被測定物の反射率
【0010】
第3の態様は、第1又は2の態様に係る測温装置において、赤外線温度計がサーモグラフィであることとしてもよい。
【0011】
第4の態様は、第1乃至3の何れか1の態様に係る測温装置において、背景物体は、被測定物を内部に収納する収納部を備えることとしてもよい。
【0012】
第5の態様は、第1乃至4の何れか1の態様に係る測温装置において、背景物体は、被測定物に対向する面が黒色であることとしてもよい。
【0013】
第6の態様は、第1乃至5の何れか1の態様に係る測温装置において、背景物体は、銅合金を主要部材としていることとしてもよい。
【0014】
第7の態様は、第1乃至6の何れか1の態様に係る測温装置において、被測定物は、鋳造物であることとしてもよい。
【0015】
第8の態様に係る測温方法は、透過性を有さず放射率及び反射率が既知の被測定物の表面温度を、赤外線温度計を用いて測定する測温方法であって、放射率と温度とが既知である背景物体を用いて、被測定物に入射し当該被測定物の表面にて反射して赤外線温度計によって検知される赤外線を、当該被測定物に入射する手前で遮蔽し、赤外線温度計の測定値を、背景物体の温度を用いて校正して被測定物の表面温度とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本開示に係る測温装置等は、透過性を有さず放射率及び反射率が既知の被測定物の表面温度を、赤外線温度計を用いて測定する測温装置等であって、放射率と温度とが既知であり、被測定物に入射し当該被測定物の表面にて反射して赤外線温度計によって検知される赤外線を、当該被測定物に入射する手前で遮蔽する背景物体と、赤外線温度計の測定値を、背景物体の温度を用いて校正して被測定物の表面温度とする演算部と、を備えるので、反射率の高い被測定物であっても、当該被測定物の温度状態にかかわらず非接触で当該被測定物の表面温度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態の測温装置の概要を説明するための模式図である。
図2】第1実施形態の測温装置の測定手順を説明するためのフローチャートである。
図3】第1実施形態の測温装置の機械的構成の一例を示すブロック図である。
図4】第1実施形態の測温装置の測定結果の検証結果を示す図である。
図5】第1実施形態の測温方法を説明するためのフローチャートである。
図6】第2実施形態の測温装置の概要を説明するための模式図であり、計測ボックスの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1乃至図4を参照して第1実施形態に係る測温装置10について説明する。
図1を参照して、第1実施形態に係る測温装置10の概要について説明する。図1は、第1実施形態の測温装置10の概要を説明するための模式図である。
【0019】
(測温装置10の概要)
測温装置10は、被測定物11からの赤外線を受光することで被測定物11の表面温度を測定する。測温装置10の赤外線温度計10fは、非接触により被測定物11の表面11aの温度を測定するものである。第1実施形態に係る測温装置10は、赤外線温度計10fにサーモグラフィを採用する。
【0020】
サーモグラフィは、物体が放射する赤外線の分布を2次元の画像として捉えて可視化することができる。サーモグラフィは、比較的広範囲にわたり温度分布を測定することができ、当該温度分布を示す熱画像のピクセルごとの温度を測定して表示することができる。
【0021】
被測定物11は、透過性を有さない物体である。一般的に、透過性を有さない物体の放射率及び反射率の関係は式(ii)に示される通りである。従って、放射率及び反射率のいずれか一方が判明すると、他方も判明する。例えば、光沢のあるアルミニウムの放射率は0.06であるため、当該アルミニウムの反射率は0.94である。艶出しされた鋳鉄の放射率は0.28であるため、当該鋳鉄の反射率は0.72である。第1実施形態では、被測定物11をアルミニウム合金の鋳造物として説明する。アルミニウム合金の鋳造物は、反射率が0.90、放射率が0.10であるとする。
【0022】
なお、被測定物11はアルミニウム合金等の鋳造物に限定されるものでは無く、例えば、測温装置10は各種金属合金の板金工程、及び鍛造工程などの加工対象物に対しても用いることができる。
従って、測温装置10は、低放射率の金属材料の鋳造工程、板金工程、及び鍛造工程などを経て高温状態となった加工対象物の温度の測定に用いられることを想定している。
【0023】
【数2】
【0024】
背景物体12は、図1に示す様に、背景物体12の被測定物11の表面11aに投影される像が当該表面11aの上に位置するように配置される。背景物体12の放射エネルギー(以下、背景物体放射エネルギー)12bは、被測定物11の表面11aに反射されて赤外線温度計10fに到達する。
【0025】
背景物体放射エネルギー12bは被測定物11の表面11aに反射されて背景物体反射エネルギー12cとなる。背景物体反射エネルギー12cは赤外線温度計10fに検出される。なお、背景物体12の放射率及び温度は予め判明している。
【0026】
背景物体12は透過性を有さない。従って、被測定物11の表面11aにて反射して赤外線温度計10fに検知されるのは、背景物体反射エネルギー12cのみであり、背景物体12の外部からの入射光で、表面11aに反射して赤外線温度計10fに検出される入射光は存在せず、その様な入射光は全て背景物体12により遮蔽される。
【0027】
背景物体12の温度については、熱電対などの接触式温度計又は非接触式温度計によって測定される。背景物体12は、被測定物11へ反射する赤外線エネルギーを抑えるために、被測定物11に対向する面(対向面)12aに黒体塗料が塗布されている。背景物体12の対向面12aの放射率は0.94とする。従って、背景物体12の対向面12aの反射率は0.06である。
【0028】
背景物体放射エネルギー12bは被測定物11の表面11aにおいて、被測定物11の表面11aの放射エネルギー(以下、被測定物放射エネルギー)11bに重畳する。赤外線温度計10fは、被測定物11の表面11aに投影された背景物体12の像の位置において、被測定物放射エネルギー11b及び背景物体反射エネルギー12cを重畳して検知する。背景物体12は透過性を有さないので、赤外線温度計10fは被測定物放射エネルギー11b及び背景物体反射エネルギー12cのみを検知し、これら以外の赤外線については検知しない。
【0029】
背景物体12は、その部位にかかわらず温度が均一であることが望ましく、第1実施形態では熱伝導率の高い銅合金の板、さらには銅板を主要部材とする背景物体12が用いられる。背景物体12は、銅合金の板の表面に黒体塗料を塗布したものである。黒体塗料は、背景物体12の全体にわたり塗布してもよいし、被測定物11に対向する面のみに塗布してもよい。なお、背景物体12は板状に限定されるものではなく、カーテンなどの不燃性布、若しくは不燃性樹脂シートなどでもよい。また、背景物体12の表面の色は、黒色に限定されるものではなく、反射率の低い色であればよい。背景物体12の表面の性質は、無光沢、つや消し、マットなど反射率の低いものが良い。黒色塗料には、黒色の顔料、カーボンブラック等が用いられる。
【0030】
(測温装置10の測定手順)
次に図2を参照して、第1実施形態の測温装置10の測定手順について説明する。図2は第1実施形態の測温装置10の測定手順を説明するためのフローチャートである。
【0031】
「手順1」
色付き板による位置決めをする。
手順1では、測温装置10による測定を実施する前準備として、背景物体12の設置位置を決める。背景物体12の像の位置を特定し易いように、手順1では背景物体12に代えて色付き板を用いる。
【0032】
色付き板とは、背景物体12の対向面12aが特定の色により着色された板状物である。特定の色とは、当該色が被測定物11の表面11aに投影された場合に被測定物11の表面11aにおいて識別可能となる色のことである。即ち、特定の色とは、被測定物11の表面11aの色及び被測定物11の周囲物の色に対して区別することができる色のことである。
【0033】
赤外線温度計10fが設置される位置にデジタルカメラを設置し、被測定物11の表面11aを被写体として撮影し、当該表面11aに色付き板の像が投影されているか否かを当該デジタルカメラの出力映像により確認する。デジタルカメラは、デジタルスチルカメラでもデジタルビデオカメラの何れでもよい。また、フィルムカメラでもよく、フィルムカメラのファインダー越しに見て、当該表面11aに色付き板の像が投影されているか否かを確認する。色付き板の像が当該表面11aに投影されている状態の色付き板の位置が、背景物体12の設置位置となる。
【0034】
「手順2」
投影された背景物体12の像の位置を特定する。
手順2では、被測定物11の表面11aに投影された背景物体12の像の位置を特定する。色付き板を背景物体12に替えて、デジタルカメラの出力画像において、被測定物11の表面11aに投影されていた色付き板の像が背景物体12の像に変化していることを確認する。色付き板の像が背景物体12の像に変化した位置が、背景物体12の像が被測定物11の表面11aに投影された位置である。
【0035】
「手順3」
測温装置10による測定を行う。
手順3では、手順1、2において用いたデジタルカメラを赤外線温度計10fに交換して、測温装置10により被測定物11の表面11aの温度を測定する。赤外線温度計10fは、手順2において特定された位置における被測定物11の表面11aの表面温度の温度分布を測定する。
【0036】
(測温装置10の機械的構成)
次に図3を参照して、測温装置10の機械的構成について説明する。図3は、第1実施形態の測温装置10の機械的構成の一例を示すブロック図である。
【0037】
測温装置10は、通信インターフェース10a、Read Only Memory(ROM)10b、Random Access Memory(RAM)10c、記憶部10d、演算部10e、赤外線温度計10f、入出力インターフェース10g、背景物体12などを備えている。また、測温装置10は、その外部装置として、入力装置10h及び出力装置10iを備えている。
【0038】
記憶部10dは、記憶装置として利用でき、測温装置10が動作する上で必要となるファームウェア、及び当該ファームウェアによって利用される各種データなどを記憶している。
【0039】
入出力インターフェース10gは、キーボード、マウス、スキャナなどの入力装置10h、及び、モニタ、スピーカ、プリンタなどの出力装置10iに対してデータ等を送受信可能とする。
【0040】
通信インターフェース10aは、ネットワーク17に対してデータ等を送受信可能とするものであり、ネットワーク17を介してデータ等を送受信可能とし、遠隔からの測温装置10の操作を可能にするものである。
【0041】
測温装置10は、動作する上で必要となるファームウェアをROM10b若しくは記憶部10dに保存し、RAM10cなどで構成されるメインメモリにファームウェアを取り込む。演算部10eは、ファームウェアを取り込んだメインメモリにアクセスして、当該ファームウェアを実行する。
【0042】
背景物体12は、上記した通り、放射率と温度とが既知であり、被測定物11に入射し当該被測定物11の表面11aにて反射して赤外線温度計10fによって検知される赤外線を、当該被測定物11に入射する手前で遮蔽する。
【0043】
演算部10eは、赤外線温度計10fの測定値を、背景物体12の温度を用いて校正して被測定物11の表面温度とする。
赤外線温度計10fの測定値は、被測定物11の表面11aの見かけの表面温度であり実際の表面温度との間には誤差が生じる。演算部10eは、赤外線温度計10fの測定値が被測定物11の実際の表面温度と見なせる値となるように、当該測定値を校正する。
【0044】
赤外線温度計10fは、図1に示す様に、被測定物放射エネルギー11bとともに背景物体反射エネルギー12cを検知する。赤外線温度計10fの測定値の誤差は、背景物体反射エネルギー12cに由来するものである。被測定物11の反射率が大きい場合、被測定物放射エネルギー11bと比較して背景物体反射エネルギー12cの割合は大きくなり、赤外線温度計10fの測定値の誤差は、大きいものとなり看過できないものとなる。
【0045】
演算部10eは、式(i)を用いて赤外線温度計10fの測定値を校正する。演算部10eが式(i)を用いて赤外線温度計10fの測定値の誤差を除去する。演算部10eにより校正された値は、測温装置10の測定値となる。
【0046】
【数3】
T:被測定物の表面温度(℃)
:赤外線温度計の測定値(K)
:背景物体の温度(K)
ε:背景物体の放射率
ε:被測定物の放射率
ρ:被測定物の反射率
【0047】
次に図4を参照して測温装置10の測定値の妥当性について説明する。図4は、第1実施形態の測温装置10の測定結果の検証結果を示す図である。
【0048】
図4は、アルミニウムの板材を200℃まで加熱し、その後、大気中での放冷状態における当該板材の温度の計時変化を測定した結果である。図4の破線のグラフ線が熱電対により測定した結果であり、図4の実線のグラフ線が測温装置10により測定した結果である。図4によれば、破線のグラフ線と実線のグラフ線とは約50℃から約180℃の範囲にわたり一致しているので、約50℃から約180℃の範囲における測温装置10の測定値は、熱電対の測定値と同等の精度を有するといえる。従って、測温装置10の測定値は妥当なものであるとの検証結果が得られた。
【0049】
(測温方法について)
次に、図5を参照して第1実施形態の測温方法について説明する。図5は、第1実施形態の測温方法を説明するためのフローチャートである。
【0050】
第1実施形態に係る測温方法は、測温装置10が実行する測温方法であり、透過性を有さず放射率及び反射率が既知の被測定物11の表面11aの表面温度を、赤外線温度計10fを用いて測定する測温方法である。
【0051】
第1実施形態に係る測温方法は、ステップS100、ステップS200、及びステップS300を備え、この順で実行する。
【0052】
「ステップS100」
背景物体12を用いて、赤外線温度計10fによって検知される赤外線を、当該被測定物11に入射する手前で遮蔽する。
【0053】
ステップS100では、放射率と温度とが既知である背景物体12を用いて、被測定物11に入射し当該被測定物11の表面11aにて反射して赤外線温度計10fによって検知される赤外線を、当該被測定物11に入射する手前で遮蔽する。
【0054】
「ステップS200」
赤外線温度計10fを用いて、被測定物11の表面11aの赤外線を検知する。
【0055】
ステップS200では、赤外線温度計10fを用いて、被測定物11の表面11aによって反射される背景物体反射エネルギー12c、及び被測定物11の表面11aから放射される被測定物放射エネルギー11bを検知する。
ステップS200では、赤外線温度計10fを用いて、被測定物11の表面11aの見かけの表面温度の温度分布を測定する。
【0056】
「ステップS300」
赤外線温度計10fの測定値を背景物体12の温度を用いて校正する。
【0057】
ステップS300では、赤外線温度計10fの測定値を、背景物体12の温度を用いて校正して被測定物11の表面温度とする。
校正には、上記した式(i)が用いられる。ステップS300で校正された赤外線温度計10fの測定値が、測温装置10の測定値となる。
【0058】
上記した第1実施形態によれば、測温装置10もしくは測温方法を用いることで、反射率が高い物体であっても非接触により当該物体の表面温度を測定することができるため、例えば、鋳造工程を経て成形されたアルミニウム合金の鋳造物の鋳型から取り出された直後の高温状態の温度分布、アルミニウム合金の熱間鍛造により成形された直後の高温状態の加工物の温度分布を測定することができる。
【0059】
次に図6を参照して、第2実施形態の測温装置20について説明する。図6は、第2実施形態の測温装置20の概要を説明するための模式図であり、計測ボックス30の縦断面図である。
【0060】
第2実施形態の測温装置20は、第1実施形態の測温装置10に対して、背景物体12の代わりに計測ボックス30を背景物体として用いる点で異なり、その他の点では共通する。従って、第2実施形態の測温装置20の説明は、第1実施形態の測温装置10との違いについて説明し、第1実施形態の測温装置10と構成が同じものについては、第1実施形態の説明に用いた符号と同じ符号を付与し、その説明は省略する。
【0061】
第2実施形態の測温装置20は、背景物体として計測ボックス30を用いる。計測ボックス30は、被測定物11を内部に収納する収納部31を備える。計測ボックス30は、直方体の形状をなし、天井30a、底30b、及び3枚の側壁30cを備える。従って、計測ボックス30は、4つの側面のうち1つの面に側壁を備えておらず開口部を有している。計測ボックス30の形状は直方体に限定されるものではなく、ドーム型、円錐台型、角錘台型など、被測定物11を内部に収納する収納部31を備える形状であればよい。
【0062】
なお、計測ボックス30は、天井30aを備えない構成であってもよい。この場合、計測ボックス30は、底30b及び3枚の側壁30cを備える構成となる。天井を備えない計測ボックス30は、測温装置10及び人体などから放射される熱により暖められた空気が内部に溜まるのを抑制することができる。
【0063】
計測ボックス30は、その部位にかかわらず温度を均一に保つために銅合金を主要部材として構成され、計測ボックス30を構成する天井30a、底30b、及び側壁30cは銅合金の板材より形成されている。計測ボックス30の被測定物11に対向する面30dには黒体塗料が塗布されている。計測ボックス30の温度及び放射率は予め分かっている。
【0064】
測温装置20は、計測ボックス30の開口部から赤外線温度計10fにより赤外線を検知する。赤外線温度計10fは、被測定物11の表面11aに投影された計測ボックス30の像の位置において、被測定物放射エネルギー11b及び計測ボックス反射エネルギー30fを重畳して検知する。計測ボックス30は透過性を有さないので、赤外線温度計10fは被測定物放射エネルギー11b及び計測ボックス反射エネルギー30fのみを検知し、これら以外の赤外線については検知しない。計測ボックス放射エネルギー30eは被測定物11の表面11aに反射されて計測ボックス反射エネルギー30fとなる。
【0065】
赤外線温度計10fは、被測定物放射エネルギー11bとともに計測ボックス反射エネルギー30fを検知する。赤外線温度計10fの測定値の誤差は、計測ボックス反射エネルギー30fに由来するものである。被測定物11の反射率が大きい場合は、被測定物放射エネルギー11bと比較して計測ボックス反射エネルギー30fの割合が大きくなり、赤外線温度計10fの測定値の誤差は、大きいものとなり看過できないものとなる。そこで、測温装置20は、第1実施形態の測温装置10と同様に、演算部10eでは、式(i)を用いて赤外線温度計10fの測定値を校正する。
【0066】
上記した第2実施形態によれば、測温装置20に係る被測定物11は計測ボックス30の収納部31に収納されているので、被測定物11の表面11aの何れにおいても計測ボックス30の像は投影されている。
【0067】
赤外線温度計10fは、被測定物11の表面11aの何れにおいても、被測定物放射エネルギー11bとともに計測ボックス反射エネルギー30fを検知することができる。従って、第2実施形態の測温装置20では、被測定物11の表面11aに投影された計測ボックス30の像の位置を特定する必要はない。即ち、第1実施形態の測温装置10の測定手順の手順1及び手順2を省略することができる。
【0068】
本開示は上記した実施形態に係る測温装置10、20、及び測温方法に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、その他種々の変形例、若しくは応用例により実施可能である。
【0069】
上記した実施形態では、赤外線温度計10fとしてサーモグラフィを用いたがこれに限定されるものではなく、放射温度計を赤外線温度計10fとして用いても良い。放射温度計とは、測定視野から飛来する赤外線を集光することで測定視野の表面温度を測定するものであり、測定視野の表面温度を1つの値として測定する点で、被測定物の表面温度の温度分布を測定するサーモグラフィと異なる。
【0070】
上記した第1実施形態の測温装置10が備える背景物体12は1個に限定されるものでは無く、2個、又は3個以上の背景物体12を備えてもよい。2個の背景物体12を備える測温装置10であれば、例えば赤外線温度計10fの前方及び被測定物11の右側にそれぞれ1個ずつ背景物体12を設置してもよい。3個の背景物体12を備える測温装置10であれば、例えば赤外線温度計10fの前方及び被測定物11の左右両側にそれぞれ1個ずつ背景物体12を設置してもよい。
【符号の説明】
【0071】
10 測温装置
10a 通信インターフェース
10b Read Only Memory(ROM)
10c Random Access Memory(RAM)
10d 記憶部
10e 演算部
10f 赤外線温度計
10g 通信インターフェース
10h 入力装置
10i 出力装置
11 被測定物
11a 表面
11b 被測定物放射エネルギー
12 背景物体
12a 対向面
12b 背景物体放射エネルギー
12c 背景物体反射エネルギー
17 ネットワーク
20 測温装置
30 計測ボックス
30a 天井
30b 底
30c 側壁
30d 対向面
30e 計測ボックス放射エネルギー
30f 計測ボックス反射エネルギー
31 収納部
図1
図2
図3
図4
図5
図6