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特開2023-98476アーク溶接の溶接品質判定装置、アーク溶接の溶接品質判定方法、及びアーク溶接の溶接品質判定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098476
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】アーク溶接の溶接品質判定装置、アーク溶接の溶接品質判定方法、及びアーク溶接の溶接品質判定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20230703BHJP
   G01N 21/95 20060101ALI20230703BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
G01N21/27 B
G01N21/95 Z
B23K31/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021215266
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】515086908
【氏名又は名称】株式会社トヨタプロダクションエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】椛島 治樹
【テーマコード(参考)】
2G051
2G059
【Fターム(参考)】
2G051AA90
2G051AB02
2G051AB13
2G051AC21
2G051CA04
2G051CB01
2G051CC15
2G051CD04
2G051EB01
2G051EC06
2G059AA05
2G059BB20
2G059EE02
2G059EE12
2G059FF01
2G059HH01
2G059HH02
2G059HH03
2G059JJ02
2G059KK04
2G059MM05
(57)【要約】
【課題】アーク溶接の溶接部位に生じる金属部材の溶け込み量を非破壊検査により推定して溶接品質を判定する溶接品質判定装置を提供する。
【解決手段】所定波長の電磁波を溶接部及び溶接部近傍に照射する照射部と、電磁波を照射して反射される反射波長を検出する検出部と、反射波長の反射スペクトルを生成する処理部とを備え、処理部は、アーク溶接後の溶接部及び溶接部近傍から反射される反射波長を検出して溶接状態を取得する溶接状態取得部と、アーク溶接後の溶接状態と照射する電磁波の波長との組み合わせを予め保持し、溶接状態に基づいて照射部から照射する電磁波の波長を選択する選択部と、選択された波長を照射する指示を生成する照射指示部と、反射スペクトルを取得して分光分布を生成する分布生成部と、分光分布に基づいて溶接品質を判定する判定部と、溶接品質の判定の結果を出力する出力部とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と第2部材とをアーク溶接して生じる溶接部のアーク溶接の溶接品質判定装置であって、
前記溶接品質判定装置は、
所定波長の電磁波を前記溶接部及び溶接部近傍に照射する照射部と、
前記電磁波を照射して前記溶接部及び前記溶接部近傍から反射される反射波長を検出する検出部と、
前記検出部において検出された前記反射波長の反射スペクトルを生成する処理部と、を備え、
前記処理部は、
前記検出部を通じて、アーク溶接後の前記溶接部及び前記溶接部近傍から反射される反射波長を検出して前記溶接部及び前記溶接部近傍の溶接状態を取得する溶接状態取得部と、
アーク溶接後の前記溶接部及び前記溶接部近傍に生じる溶接状態と前記溶接部及び前記溶接部近傍に照射する電磁波の波長との組み合わせを予め保持しており、取得された溶接状態に基づいて前記照射部から照射する電磁波の波長を選択する選択部と、
前記選択された波長の電磁波を前記照射部より照射する指示を生成する照射指示部と、
アーク溶接後の前記溶接部及び前記溶接部近傍の前記反射スペクトルを取得して分光分布を生成する分布生成部と、
アーク溶接後の前記溶接部及び前記溶接部近傍の走査方向に沿った前記分光分布に基づいて溶接品質を判定する判定部と、を備える
ことを特徴とするアーク溶接の溶接品質判定装置。
【請求項2】
前記判定部は、アーク溶接後の前記溶接部及び前記溶接部近傍の走査方向に沿った前記分光分布に基づいて前記第1部材及び前記第2部材に生じた溶け込み量を推定して溶接品質を判定する請求項1に記載のアーク溶接の溶接品質判定装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記第1部材及び前記第2部材の組み合わせと前記第1部材及び前記第2部材に対するアーク溶接の条件とが対応付けられ、前記分光分布と前記溶け込み量とを関連付けを示した対応テーブルに基づいて、前記溶接品質を判定する請求項2に記載のアーク溶接の溶接品質判定装置。
【請求項4】
前記第1部材及び前記第2部材は同種類の金属材料である請求項1ないし3にいずれか1項に記載のアーク溶接の溶接品質判定装置。
【請求項5】
前記所定波長の電磁波は、互いに波長の異なる複数の電磁波である請求項1ないし4のいずれか1項に記載のアーク溶接の溶接品質判定装置。
【請求項6】
前記所定波長の電磁波は、青ないし紫外光の波長帯の電磁波と、近赤外光の波長帯の電磁波の2種類である請求項1ないし4のいずれか1項に記載のアーク溶接の溶接品質判定装置。
【請求項7】
前記品質判定装置の前記検出部は、アーク溶接後の前記第1部材及び前記第2部材により形成される前記溶接部及び前記溶接部近傍を撮影する撮影部を備え、
前記処理部は、前記撮影部により撮影したアーク溶接後の溶接部位画像を取得する画像取得部を備え、
前記分布生成部は、前記溶接部位画像に前記分光分布の画像を重ね合わせる請求項1ないし6のいずれか1項に記載のアーク溶接の溶接品質判定装置。
【請求項8】
前記処理部は、前記溶接品質の判定の結果を出力する出力部を備える請求項1ないし7のいずれか1項に記載のアーク溶接の溶接品質判定装置。
【請求項9】
第1部材と第2部材とをアーク溶接して生じる溶接部のアーク溶接の溶接品質判定装置における溶接品質判定方法であって、
前記溶接品質判定装置は、
所定波長の電磁波を前記溶接部及び溶接部近傍に照射する照射部と、
前記電磁波を照射して前記溶接部及び前記溶接部近傍から反射される反射波長を検出する検出部と、
前記検出部において検出された前記反射波長の反射スペクトルを生成する処理部と、を備え、
前記処理部は、
前記検出部を通じて、アーク溶接後の前記溶接部及び前記溶接部近傍から反射される反射波長を検出して前記溶接部及び前記溶接部近傍の溶接状態を取得する溶接状態取得ステップと、
アーク溶接後の前記溶接部及び前記溶接部近傍に生じる溶接状態と前記溶接部及び前記溶接部近傍に照射する電磁波の波長との組み合わせを予め保持しており、取得された溶接状態に基づいて前記照射部から照射する電磁波の波長を選択する選択ステップと、
前記選択された波長の電磁波を前記照射部より照射する指示を生成する照射指示ステップと、
アーク溶接後の前記溶接部及び前記溶接部近傍の前記反射スペクトルを取得して分光分布を生成する分布生成ステップと、
アーク溶接後の前記溶接部及び前記溶接部近傍の走査方向に沿った前記分光分布に基づいて溶接品質を判定する判定ステップと、を実行する
ことを特徴とするアーク溶接の溶接品質判定方法。
【請求項10】
第1部材と第2部材とをアーク溶接して生じる溶接部のアーク溶接の溶接品質判定装置における溶接品質判定プログラムであって、
前記溶接品質判定装置は、
所定波長の電磁波を前記溶接部及び溶接部近傍に照射する照射部と、
前記電磁波を照射して前記溶接部及び前記溶接部近傍から反射される反射波長を検出する検出部と、
前記検出部において検出された前記反射波長の反射スペクトルを生成する処理部と、を備え、
前記処理部に、
前記検出部を通じて、アーク溶接後の前記溶接部及び前記溶接部近傍から反射される反射波長を検出して前記溶接部及び前記溶接部近傍の溶接状態を取得する溶接状態取得機能と、
アーク溶接後の前記溶接部及び前記溶接部近傍に生じる溶接状態と前記溶接部及び前記溶接部近傍に照射する電磁波の波長との組み合わせを予め保持しており、取得された溶接状態に基づいて前記照射部から照射する電磁波の波長を選択する選択機能と、
前記選択された波長の電磁波を前記照射部より照射する指示を生成する照射指示機能と、
アーク溶接後の前記溶接部及び前記溶接部近傍の前記反射スペクトルを取得して分光分布を生成する分布生成機能と、
アーク溶接後の前記溶接部及び前記溶接部近傍の走査方向に沿った前記分光分布に基づいて溶接品質を判定する判定機能と、を実現させる
ことを特徴とするアーク溶接の溶接品質判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接の溶接品質判定装置、アーク溶接の溶接品質判定方法、及びアーク溶接の溶接品質判定プログラムに関し、アーク溶接された被溶接物を非破壊による光学的手法によりアーク溶接の溶接品質を判定する溶接品質判定装置とその方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板等の金属部材同士を溶接により接合する際にアーク溶接が使用される。アーク溶接の後、金属部材同士を溶接した箇所が規定の溶接状態であることが確認されていた。具体的には、アーク溶接後の溶接部位に超音波を照射し溶接部位の内部を検査する方法、アーク溶接後の溶接部位に放射線(X線)を照射し溶接部位の内部を検査する方法等の非破壊検査の方法がある。また、アーク溶接後の溶接部位を切断して当該部位を研磨、溶剤処理等の後、顕微鏡観察することも行われている。
【0003】
前出の超音波を使用する検査は、溶接部位に生じるブローホール等と称される気泡(空間)の有無にしか有効ではない。放射線照射の検査は、線源、検出器を現場に持ち込む必要がある。そのため、大型の部品、形状が複雑な部品の溶接部位に対応することが難しい、また、アーク溶接時の金属部材の溶け込み量を推定することができない。
【0004】
溶接部位を切断して検査する場合、破壊検査であるため抜き取りによる検査しか実施することができず、検査のための加工に多くの工数が必要となる。加えて、アーク溶接の溶接打点数(溶接箇所の総数)が多くなると、余計に検査負担が増大する。
【0005】
このような経緯から、超音波検査、放射線検査に代替する非破壊検査の手法が求められていた。具体的には、アーク溶接の溶接部位にスリット光を照射しその反射光による光切断画像を得て溶接品質を検査する方法(特許文献1参照)、テレセントリック光学系においてRGBバンドパスフィルタを用いた溶接観察装置(特許文献2参照)、赤外線波長領域のバンドパスフィルタと紫外線波長領域のバンドパスフィルタを備えるアーク溶接の監視装置(特許文献3参照)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-94640号公報
【特許文献2】特開2014-70002号公報
【特許文献3】特開2009-125790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従前提案のアーク溶接の溶接部位に対する非破壊検査の方法、装置により得られる検査精度ではアーク溶接の溶融箇所の検査において必ずしも十分ではなかった。特に、既存の方法、装置の精度では、アーク溶接時の金属部材の溶け込み量の推定には十分ではなかった。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、所定波長の電磁波を使用する非破壊検査において、アーク溶接の溶接部位に生じる金属部材の溶け込み量を推定して溶接品質の判定を可能とするアーク溶接の溶接品質判定装置、アーク溶接の溶接品質判定方法、及びアーク溶接の溶接品質判定プログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、実施形態は、第1部材と第2部材とをアーク溶接して生じる溶接部のアーク溶接の溶接品質判定装置であり、当該溶接品質判定装置は、所定波長の電磁波を溶接部及び溶接部近傍に照射する照射部と、電磁波を照射して溶接部及び溶接部近傍から反射される反射波長を検出する検出部と、検出部において検出された反射波長の反射スペクトルを生成する処理部とを備え、処理部は、検出部を通じて、アーク溶接後の溶接部及び溶接部近傍から反射される反射波長を検出して溶接部及び溶接部近傍の溶接状態を取得する溶接状態取得部と、アーク溶接後の溶接部及び溶接部近傍に生じる溶接状態と溶接部及び溶接部近傍に照射する電磁波の波長との組み合わせを予め保持しており、取得された溶接状態に基づいて前記照射部から照射する電磁波の波長を選択する選択部と、選択された波長の電磁波を照射部より照射する指示を生成する照射指示部と、アーク溶接後の溶接部及び溶接部近傍の反射スペクトルを取得して分光分布を生成する分布生成部と、アーク溶接後の溶接部及び溶接部近傍の走査方向に沿った分光分布に基づいて溶接品質を判定する判定部とを備えることを特徴とする。
【0010】
さらに、処理部の判定部は、アーク溶接後の前記溶接部及び前記溶接部近傍の走査方向に沿った分光分布に基づいて第1部材及び第2部材に生じた溶け込み量を推定して溶接品質を判定することとしてもよい。
【0011】
さらに、処理部の判定部は、第1部材及び第2部材の組み合わせと第1部材及び第2部材に対するアーク溶接の条件とが対応付けられ、分光分布と溶け込み量とを関連付けを示した対応テーブルに基づいて、溶接品質を判定することとしてもよい。
【0012】
さらに、第1部材及び第2部材は同種類の金属材料であることとしてもよい。
【0013】
さらに、所定波長の電磁波は、互いに波長の異なる複数の電磁波であることとしてもよい。あるいは、所定波長の電磁波は、青ないし紫外光の波長帯の電磁波と、近赤外光の波長帯の電磁波の2種類であることとしてもよい。
【0014】
さらに、溶接品質判定装置の検出部は、アーク溶接後の第1部材及び第2部材により形成される溶接部及び溶接部近傍を撮影する撮影部を備え、処理部は、撮影部により撮影したアーク溶接後の溶接部位画像を取得する画像取得部を備え、分布生成部は、溶接部位画像に分光分布の画像を重ね合わせることとしてもよい。
【0015】
さらに、処理部は、溶接品質の判定の結果を出力する出力部を備えることとしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のアーク溶接の溶接品質判定装置は第1部材と第2部材とをアーク溶接して生じる溶接部のアーク溶接の溶接品質判定装置であり、当該溶接品質判定装置は、所定波長の電磁波を溶接部及び溶接部近傍に照射する照射部と、電磁波を照射して溶接部及び溶接部近傍から反射される反射波長を検出する検出部と、検出部において検出された反射波長の反射スペクトルを生成する処理部とを備え、処理部は、検出部を通じて、アーク溶接後の溶接部及び溶接部近傍から反射される反射波長を検出して溶接部及び溶接部近傍の溶接状態を取得する溶接状態取得部と、アーク溶接後の溶接部及び溶接部近傍に生じる溶接状態と溶接部及び溶接部近傍に照射する電磁波の波長との組み合わせを予め保持しており、取得された溶接状態に基づいて前記照射部から照射する電磁波の波長を選択する選択部と、選択された波長の電磁波を照射部より照射する指示を生成する照射指示部と、アーク溶接後の溶接部及び溶接部近傍の反射スペクトルを取得して分光分布を生成する分布生成部と、アーク溶接後の溶接部及び溶接部近傍の走査方向に沿った分光分布に基づいて溶接品質を判定する判定部とを備えるため、電磁波を使用する非破壊検査において、アーク溶接の溶接部位に生じる金属部材の溶け込み量を推定して溶接品質の判定を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態のアーク溶接の溶接品質判定装置を示す概略構成図である。
図2】(A)アーク溶接後の様子を示す断面模式図、(B)アーク溶接後の様子を示す平面模式図である。
図3】(A)溶け込み量の多いアーク溶接後の断面模式図、(B)溶け込み量の多いアーク溶接後の平面模式図、(C)溶け込み量の少ないアーク溶接後の断面模式図、(D)溶け込み量の少ないアーク溶接後の平面模式図である。
図4】溶接品質判定装置の機能部を示すブロック図である。
図5】(A)溶接部及び溶接部近傍に生じる酸化幅と波長をマップ化した推定力図、(B)は相関性の模式図である。
図6】各幅との溶接状態の長さを示す図である。
図7】波長・部位と溶接状態の良否の相関を示す模式図である。
図8】照射された電磁波の各波長と、アーク溶接後の幅の領域との相関性を示す推定力図の模式図である。
図9】溶接部位における断面と分光反射率を示す模式図である。
図10】(A)溶け込み量が無しの溶接部位の断面写真、(B)溶け込み量が無しの溶接部位の平面写真、(C)溶け込み量が無しの溶接部位の平面の分光画像である。
図11】(A)溶け込み量が少ない溶接部位の断面写真、(B)溶け込み量が少ない溶接部位の平面写真、(C)溶け込み量が少ない溶接部位の平面の分光画像である。
図12】(A)溶け込み量が多い溶接部位の断面写真、(B)溶け込み量が多い溶接部位の平面写真、(C)溶け込み量が多い溶接部位の平面の分光画像である。
図13】異なる波長の電磁波を照射した際の溶接部位の平面写真である。
図14】異なる波長の電磁波を照射した際の分光反射率を示す模式図である。
図15】実施形態のアーク溶接の溶接品質判定方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1の概略構成図を用い、実施形態のアーク溶接の溶接品質判定装置1を説明する。溶接品質判定装置1は、鋼板、鋼材等の金属部材の第1部材W1と第2部材W2とがアーク溶接されて生じる溶接部20について、その溶接の品質を判定する装置である。溶接品質判定装置1は、特には、アーク溶接に際して第1部材W1と第2部材W2との間に生じる金属の溶け込み量、部材の厚さの多少(いわゆる溶接状態)について、電磁波(赤外光から紫外光の波長帯)を用い分光分布の光学的手法に基づいて非破壊検査により判定する装置である。図示は装置の一例の開示である。各部材、装置の配置、向き等は適宜である。
【0019】
図示では、第1部材W1と第2部材W2は共に鋼板(亜鉛めっき鋼板)であり、第1部材W1を母材として第1部材W1の上に第2部材W2が重ねられ。そして、第2部材W2の端部において同端部に対して線状にアーク溶接が実施され、第2部材W2の端部に溶接部20が生じている。また、溶接部20の第1部材W1側の領域と第2部材W2側の領域は溶接部近傍21である。
【0020】
溶接品質判定装置1は、照射部2、検出部3、撮影部4、そして処理部10を備える。照射部2、検出部3、及び撮影部4は、処理部10(コンピュータ)に有線または無線により接続される。図示のように、照射部2、検出部3、及び撮影部4は、溶接部20及び溶接部近傍21と対向する側に備えられている。
【0021】
照射部2は、所定波長の電磁波、主に赤外光(800nm)から紫外光(200nm)の範囲の波長帯の電磁波を選択して溶接部20及び溶接部近傍21に照射する光源である。例えばハロゲンランプ等が使用される。必要により、照射部2には照射波長の選択のための光学フィルタ(バンドパスフィルタ)等も備えられる。
【0022】
検出部3は、照射部2から照射された所定波長の電磁波が溶接部20及び溶接部近傍21により反射されて生じる反射波長を検出する。照射部2は特定の波長の電磁波を照射する。しかし、溶接部20及び溶接部近傍21では、アーク溶接により、表面の粗さ、材質に変化が生じ、反射される波長は照射される波長から変化する。当初の照射波長の電磁波(光)は、そのまま反射されるのではなく、溶接部20及び溶接部近傍21により当初の照射波長から減少する。
【0023】
検出部3は鋭敏に反射波長を検出することにより、溶接部20及び溶接部近傍21のどの部分においても当該部位より反射される電磁波(光)の相対量を検出することができる。検出部3には、マルチスペクトルカメラ、ハイパースペクトルカメラ等の機器が使用される。
【0024】
撮影部4は、第1部材W1と第2部材W2により形成される溶接部20及び溶接部近傍21を光学的に撮影する機器である。具体的には、公知のCCDカメラ、CMOSイメージセンを実装したカメラ等である。
【0025】
処理部10は、パーソナルコンピュータ(PC)、メインフレーム、ワークステーション、クラウドコンピューティングシステム等、種々の電子計算機(計算リソース)である。図示の処理部10はパーソナルコンピュータであり、判定結果の表示のためのディスプレイ16、その他、入力用のキーボード17、マウス18等が接続されている。
【0026】
図2は第1部材W1と第2部材W2により形成される溶接部20及び溶接部近傍21の模式図である。図2(A)はアーク溶接後の様子を示す断面模式図である。アーク溶接時の発熱に伴い、端部22において第1部材W1と第2部材W2、線材が溶融して、第1部材W1に第2部材W2が接合する。そして、端部22に肉盛り部23とともに溶け込み部24が形成される。溶け込み部24が多いほど第1部材W1と第2部材W2の融着量が多くなり、溶接状態は良好となる。
【0027】
図2(B)はアーク溶接後の様子を示す平面模式図であり、互いに鋼板の第1部材W1に第2部材W2が重ねられ、第2部材W2の端部22に対してアーク溶接が行われる。アーク溶接では、電極の線材(ワイヤ)(図示省略)が供給され発熱に伴い、端部22において第1部材W1と第2部材W2、線材が溶融して、第1部材W1に第2部材W2が接合する。また、アーク溶接の溶接時に供給されるガスに炭酸ガスが含まれる場合、第1部材W1と第2部材W2の金属表面は酸化されて酸化皮膜25が溶接部近傍21に形成される。
【0028】
一般には、アーク溶接後の様子は図2(A)の断面模式図のように切断しなければ、把握することができない。これに対し、溶接品質判定装置1は、図2(B)の平面模式図のような溶接部20及び溶接部近傍21に対する非破壊の観測から、内部の溶け込み部24の大きさを推定して溶接の良否判定を可能とする。図2中の矢印zは後出の走査方向である。図2(B)中の網掛け表示部分は、アーク溶接により変色した箇所を便宜上示している。
【0029】
図3の模式図はアーク溶接後の溶け込み量の多少を比較して示す。図3(A)は溶け込み量の多いときのアーク溶接後の断面模式図である。この場合、図3(B)の平面模式図のとおり、溶接部20及び溶接部近傍21の内部構造に対応する模様(図6,7,8の写真の模様参照)が溶接部20及び溶接部近傍21の表面に現れる。
【0030】
これに対し、図3(C)は溶け込み量の少ないときのアーク溶接後の断面模式図である。この場合、図3(D)の平面模式図のとおり、溶接部20及び溶接部近傍21の内部構造に対応する模様は、前出の図3(B)と比較して間隔が狭まる。図3の(A)ないし(D)に示されるアーク溶接後の溶接部20及び溶接部近傍21の溶け込み量、表面の様子、溶融した金属の肉厚(母材溶込、母材脚長、継手溶込、継手脚長等)、のど厚等が、溶接状態である。
【0031】
通常、可視光による光学的な観察においては、図3(B)と(D)の模様の間隔の相違を鋭敏に区別することは難しい。そこで、溶接品質判定装置1は、所定波長の電磁波(光)を照射し、その反射波の分光分布から模様の間隔の相違を鋭敏に区別し、成分、構造の相違を推定可能とする。
【0032】
図4は処理部10の構成と機能部を示すブロック図である。処理部10には、各種の演算実行のためのCPU11、処理用のプログラムを記憶するROM12、データ等の記憶のためのRAM13、各種のデータ及び演算結果等の記憶のための記憶部14、さらに、I/O(インプット・アウトプットインターフェース)15等が備えられる。I/O15は通信(送受信)用のインターフェース、バッファ等である。I/O15は、照射部2への照射の制御信号の送信、検出部3と撮影部4等からの入力信号の受信等に用いられCPU11と連携する。
【0033】
さらに図4のブロック図はCPU11内の機能部を示す。CPU15の各機能部をソフトウェアにより実現する場合、CPU15は各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行することで実現する。詳細には、溶接状態取得部110、選択部120、照射指示部130、分布生成部140、画像取得部150、判定部160、出力部170等を備える。
【0034】
溶接状態取得部110は、検出部3を通じて、アーク溶接後の第1部材W1及び第2部材W2における溶接部20及び溶接部近傍21から反射される反射波長を検出して当該溶接部20及び溶接部近傍21の溶接状態を取得する。溶接状態は、前述のとおりアーク溶接後の溶接部20及び溶接部近傍21の溶け込み量、表面の様子、溶融した金属の肉厚を指し示す。図2及び図3の溶接部20及び溶接部近傍21の表面検査において、検査対象により、アーク溶接を行った際の溶け込み量、模様の広がり方、溶融した金属の肉厚(母材溶込、母材脚長、継手溶込、継手脚長等)、のど厚等、金属の酸化の程度等の溶接状態が異なる。そのため、事前に溶接対象の第1部材W1及び第2部材W2のアーク溶接後の溶接状態の取得が必要である。なお、検出部3を通じての溶接状態の取得とともに、溶接対象の第1部材W1及び第2部材W2の金属材料が入力されるようにしてもよい。直接処理部10へ入力する他に、CAD等の設計データから処理部10へ取り込まれるようにしても良い。
【0035】
選択部120は、アーク溶接後の溶接部20及び溶接部近傍21に生じる溶接状態と溶接部20及び溶接部近傍21に照射する電磁波の波長との組み合わせを予め保持している。そして、当該取得された溶接状態に基づいて照射部2から照射する電磁波の波長を選択する。
【0036】
前述のとおり、溶接対象の第1部材W1及び第2部材W2にアーク溶接を行った際の溶接状態は異なる。そのため、どの波長の電磁波(光)が照射されるのかにより、反射波の分光分布が異なる。このことから各溶接状態の検査に応じた効率的な分光分布を取得するための波長の選択が極めて重要である。
【0037】
実施形態においては、事前に、アーク溶接後の試験品(サンプル)の溶接部位表面に対し、赤外光(およそ1000nm)から紫外光(およそ200nm)の範囲の波長帯の電磁波が照射される。そして、反射波の分光分布の取得(図5参照)、さらには、試験品(サンプル)の溶接部位を切断して断面が観察される。これより、試験品(サンプル)の各溶接状態及び事前の切断面観察と照射波長との相関性から、各溶接状態に応じた適切な波長帯の電磁波が選択される。なお、電磁波の選択は、特定の1種類の波長には限られず、互いに波長の異なる複数の電磁波(光)としてもよい。例えば、溶け込み量の判定用、酸化皮膜の判定用、母材溶込の判定用、のど厚の判定用のように異なる波長を使用する方が都合良い。
【0038】
溶接対象の第1部材W1及び第2部材W2にアーク溶接を行った際の溶接部20及び溶接部近傍21に生じる溶接状態と当該溶接状態に対応する照射部2から照射する電磁波の波長について、さらに説明する。良品・不良品等の複数条件の試験品(サンプル)を複数個用意し、前記試験品(サンプル)に対して赤外光(およそ1000nm)から紫外光(およそ200nm)の範囲の波長帯の電磁波が照射される。溶接ビード(図2(B)の符号20)の周辺には溶接熱の影響を受けた酸化が生じ、この範囲の大小が溶け込み量と相関していると推定される。そこで、反射率の極大値・極小値を起点とした5種の幅(a~e)が抽出される(図5(A)参照)。
【0039】
前記5種の幅ごとに、縦軸を各溶接状態((母材溶込、母材脚長、継手溶込、継手脚長等)、のど厚等)と横軸を波長とした相関図が抽出される。一例として母材溶込と波長の相関図を示す。前記各溶接状態((母材溶込、母材脚長、継手溶込、継手脚長等)、のど厚等)と波長の相関図から相関係数を算出する。そして、照射する電磁波(光)の波長と、溶接部20及び溶接部近傍21に生じる酸化幅との定量的な相関関係を分析するため、前記各溶接状態((母材溶込、母材脚長、継手溶込、継手脚長等)、のど厚等)ごとに、前出の5種類の幅(a~e)のそれぞれについての相関係数を算出し、横軸を酸化幅(5種類の幅(a~e))、縦軸を波長として相関係数をマップ化した推定力図(図5(A)の平面写真と模式図)が作成される。(図5(B)の模式図参照)。
【0040】
図6の例は主に紫外光領域について波長を変化させて照射した際の試行結果である。むろん、可視光、赤外光領域においても同様に試行される。図6中、反射率の極大値・極小値を起点として5種の幅(a~e)が検出される。
【0041】
図7は、前出の図6中の5種の幅(a~e)の部位について、特定の波長により複数回照射した際、その各回の照射による検出と、溶接状態の良否との相関を示す模式図である。具体的には、図5(B)の相関係数の算出の手法である。図7の例では、例えば、650nmの波長の電磁波(光)が照射され(条件1)、このときの幅「a」の領域についての表面が観察される。そして、実際に当該領域の切断面が観察される。概ね1つの条件について約30の切断面(N1~N30)が観察される。そこで、650nmの波長の部位「a」の横軸と、母材溶け込みの横軸の平面に分布するサンプル切断面(N1~N30)の分布において相関係数が算出される。続いて、650nmの波長の部位「b」の横軸においても同様に算出され、幅(a~e)の部位の全てについて相関係数が算出される。そして、順に350から1100nmの他の波長についても同様に相関係数が算出される。このような相関係数の数値の高低が、前出の図5(B)に反映される。
【0042】
図8の推定力図は、図5(B)を表にしたものであり、照射された電磁波(光)の各波長と、アーク溶接後の溶接部20及び溶接部近傍21の5種の幅(a~e)の領域との相関性を示す。個々の升目において、明色ほど相関性が高く、暗色、黒色では相関性が低いことを示している。
【0043】
図8の推定力図は、左方から母材溶込、母材脚長、継手溶込、継手脚長、のど厚の各溶接状態に着目した結果を示す。各溶接状態について、前出の5種の幅(a~e)の各領域からの反射の分光分布と、実際に切断した際の切断面の良否との相関として色分けされている。この場合、母材溶込、母材脚長、継手溶込、継手脚長、のど厚の各溶接状態について、概ね良好な相関性が獲得できた波長を抽出すると、425nmが適切と判明した。
【0044】
選択部120は、予め溶接状態と、当該溶接状態に対応する照射用電磁波の波長について、相互に対応させるテーブル形式(図示せず)として保持している。
【0045】
照射指示部130は、選択された波長の電磁波を照射部2より照射する指示を生成する。照射指示部130は、選択部120にて選択された照射波長の電磁波が照射部2から照射できるように制御用の信号を生成する。または、照射指示部130は光源のフィルタを選択する信号を生成する。
【0046】
分布生成部140は、アーク溶接後の溶接部20及び溶接部近傍21の反射スペクトルを取得して分光分布を生成する。アーク溶接後の溶接部20及び溶接部近傍21に対し、所定波長の電磁波が照射され、その反射スペクトルが取得される。この反射スペクトルから分光分布が生成される。溶接部20及び溶接部近傍21から反射されて検出される所定波長の電磁波は、照射される所定波長の電磁波よりも減少する。さらに、場所毎に減少の程度が変化する。つまり、反射される分光の変化が分光分布として現れる。そうすると、反射されて検出される所定波長の電磁波の減少量について分光反射率として求めることが可能となる。
【0047】
画像取得部150は、撮影部4により撮影したアーク溶接後の溶接部位画像を取得する。溶接部位画像は可視光領域における撮影画像である。溶接部位画像を取得することにより、分布生成部140は、溶接部位画像に分光分布の画像を重ね合わせることができる。そうすると、溶接品質判定装置1のユーザが、実際の溶接部位画像と分光分布の情報を包括的に認識可能となる。
【0048】
判定部160は、アーク溶接後の溶接部20及び溶接部近傍21の走査方向(図2の矢印z参照)に沿った分光分布に基づいて溶接品質を判定する。さらには、判定部は、アーク溶接後の溶接部20及び溶接部近傍21の走査方向に沿った分光分布に基づいて第1部材W1及び第2部材W2に生じた溶け込み部24(図2図3参照)を推定して溶接品質を判定することができる。判定部160により判定される溶接品質については、処理部10の記憶部14に格納されることに加え、判定される溶接品質は適宜の溶接管理の情報として活用される。
【0049】
そして、出力部170は、溶接品質の判定の結果を出力する。出力に当たっては、図1のディスプレイ16への表示である。出力部170により溶接品質の判定の結果が出力されるため、逐次の判定の結果の把握が容易となる。走査方向とは、アーク溶接後の第1部材W1及び第2部材W2の平面視において形成される線状の溶接部20と直交する方向である(図2の矢印z参照)。溶接品質とは、第1部材W1及び第2部材W2に生じた溶け込み部に基づくアーク溶接の良否である。前出の図3の説明のとおり、溶け込み部の溶け込み量が多いほどアーク溶接の溶接品質は良いとする判定である。
【0050】
図9は、溶接部位における断面模式図と分光反射率を示す模式図である。溶接対象の第1部材W1及び第2部材W2の金属材料の溶接部20及び溶接部近傍21に対し所定波長の電磁波が照射され、その反射スペクトルが取得される。ここから分光反射率が求められる。図示下段のグラフの縦軸は分光反射率であり、横軸は断面に対応する長さ(mm)である。グラフの落ち込みの大きい部分は分光反射率の低い箇所に対応する。グラフの波形は、内部の溶け込み部24(図2図3参照)の位置、大きさに対応している。つまり、溶け込み量が多いほど、分光反射率は低くなる。このことから、分光反射率の波形により溶け込み部の位置、大きさの推定が可能である。
【0051】
分光反射率の波形と溶け込み部の位置、大きさの推定に際しては、第1部材W1及び第2部材W2の組み合わせと当該第1部材W1及び第2部材W1に対するアーク溶接の条件とが対応付けられ、分光分布と溶け込み量とが関連付けられた対応テーブルが用いられる。すなわち、前述の溶接状態毎に、分光分布に基づいて算出される分光反射率の数値、アーク溶接して切断した試験片の溶け込み量(溶け込み部)の実測値との間に所定の関係性が見いだされる。そこで、対応テーブルには、溶接状態、照射に際して選択される波長、分光反射率の数値、想定される溶け込み量(溶け込み部の大きさ、深さ)が早見表のように示され、事前に作成され、処理部10の記憶部14に格納されている。当該対応テーブルにより、間接的に溶け込み部の溶け込み量が推定され、最終的にアーク溶接の溶接品質が判定可能となる。
【0052】
図10図11図12は、発明者において第1部材及び第2部材の金属材料(亜鉛めっき鋼板)をアーク溶接した際の様子を示す。図10は溶け込み量無しの状態の様子であり、図11は溶け込み量の少ない状態の様子であり、図12は溶け込み量の多い状態の様子である。各図(A)は溶接部位の断面写真であり、各図(B)は溶接部位の平面写真であり、各図(C)は溶接部位の平面の分光画像である。
【0053】
図9の溶け込み量無しの状態では、図10(A)の溶け込み部(図2図3の符号24参照)はほとんど確認することができず、図10(B)の写真より表面の模様同士の間隔は狭い。また、図10(C)の分光画像も単調であり、溶け込み部に相当する部位は存在しない、あるいは極めて少ないことが判明した。つまり、アーク溶接は溶接不良と判定される。
【0054】
図11の溶け込み量の少ない状態では、図10(B)と比較して図11(B)の写真より表面の模様同士の間隔は広がっているものの、図11(A)の溶け込み部(図2図3の符号24参照)の大きさ(溶け込み量)は小さい。図11(C)の分光画像によると、図9に存在しないパターンが現れ、溶け込み部の発現が分光画像から明らかとなっている。ただし、溶け込み量自体は少ないため、アーク溶接は溶接不良と判定される。
【0055】
図12の溶け込み量の多い状態では、図11(B)と比較して図12(B)の写真よりさらに表面の模様同士の間隔は広がり、図12(A)の溶け込み部(図2図3の符号24参照)の大きさ(溶け込み量)は大きくなっている。図12(C)の分光画像によると、溶け込み部に対応する部分のパターンが大きく現れ、溶け込み部の発現とその大きさが分光画像から明らかとなっている。図11の溶け込み量の多い状態については、アーク溶接は良好と判定される。
【0056】
実施形態の溶接品質判定装置1では、判定したい(判定の対象となる)溶接状態に応じて電磁波の波長が選択される。選択に際し、電磁波は、特定の1種類の波長には限られず、互いに波長の異なる複数の電磁波(光)としてもよい。波長により、溶接部位に照射した際の分光画像(分光反射率の波形)が変化する。そこで、波長の異なる複数の電磁波(光)が組み合わせられることにより、評価、判定の感度は向上する。なお、照射部から照射する電磁波の波長が複数の場合であっても、選択部120は溶接状態に基づいた波長の組み合わせを保持し、個々の波長を選択する。
【0057】
実施形態においては、所定波長の電磁波は、青ないし紫外光の波長帯の電磁波(例えば200ないし400nm)と、近赤外光の波長帯の電磁波(例えば700ないし900nm)の2種類である。図13の写真において、上段は波長400nmの電磁波(光)照射時の溶接部位の写真であり、下段は波長800nmの電磁波(光)照射時の溶接部位の写真である。双方の溶接部位は同一である。
【0058】
上段写真の波長400nmの紫外光照射時では、溶接部近傍(図2図3の符号21参照)が鮮明である。これに対し、下段写真の波長800nmの近赤外光照射時では、溶接部(図2図3の符号20参照)が鮮明である。
【0059】
図14は、波長400nm(破線)と波長800nm(実線)の2種類の波長に対応する分光反射率のグラフを示す模式図である。概ね近似する挙動が示されるものの、細部において互いのグラフの波形は相違する。例えば、溶け込み量の判定用、酸化皮膜の判定用、母材溶込の判定用、のど厚の判定用のように異なる波長が組み合わされることにより、部位毎の特性に応じての感度を得ることができて都合が良い。
【0060】
結果、波長の異なる複数の電磁波(光)が組み合わせられることにより、溶接部位の評価と判定の感度は向上する。
【0061】
図15のフローチャートは処理部10(CPU11)におけるアーク溶接の溶接品質判定方法の全体の流れであり、溶接状態取得ステップ(S110)、選択ステップ(S120)、照射指示ステップ(S130)、分布生成ステップ(S140)、画像取得ステップ(S150)、判定ステップ(S160)、出力ステップ(S170)の各種ステップを備える。むろん、処理部10自体の可動に必要な各種ステップは当然に含まれる。図14のフローチャートは出力ステップ(S170)を含む構成としている。図14の構成に代えて出力ステップ(S170)を省略した構成としてもよい。
【0062】
溶接状態取得機能は、検出部3を通じて、アーク溶接後の溶接部20及び溶接部近傍21から反射される反射波長を検出して溶接部20及び溶接部近傍21の溶接状態を取得する(S110;溶接状態取得ステップ)。選択機能は、アーク溶接後の溶接部20及び溶接部近傍21に生じる溶接状態と溶接部20及び溶接部近傍21に照射する電磁波の波長との組み合わせを予め保持しており、判定したい(判定の対象となる)溶接状態に基づいて照射部2から照射する電磁波の波長を選択する(S120;選択ステップ)。照射指示機能は、選択された波長の電磁波を照射部2より照射する指示を生成する(S130;照射指示ステップ)。
【0063】
分布生成機能は、アーク溶接後の溶接部20及び溶接部近傍21の反射スペクトルを取得して分光分布を生成する(S140;分布生成ステップ)。画像取得機能は、撮影部4により撮影したアーク溶接後の溶接部位画像を取得する(S150;画像取得ステップ)。判定機能は、アーク溶接後の溶接部20及び溶接部近傍21の走査方向に沿った分光分布に基づいて溶接品質を判定する(S160;判定ステップ)。出力機能は、溶接品質の判定の結果を出力する(S17;出力ステップ)。
【0064】
上述した本発明のコンピュータプログラムは、プロセッサが読み取り可能な記録媒体に記録されていてよく、記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。
【0065】
なお、上記コンピュータプログラムは、例えば、ActionScript、JavaScript(登録商標)などのスクリプト言語、Objective-C、Java(登録商標)などのオブジェクト指向プログラミング言語、HTML5などのマークアップ言語などを用いて実装できる。
【符号の説明】
【0066】
1 アーク溶接の溶接品質判定装置
2 照射部
3 検出部
4 撮影部
10 処理部(コンピュータ)
11 CPU
12 ROM
13 RAM
14 記憶部
15 インプット・アウトプットインターフェース
16 ディスプレイ
17 キーボード
18 マウス
20 溶接部
21 溶接部近傍
22 端部
23 肉盛り部
24 溶け込み部
25 酸化皮膜
110 溶接状態取得部
120 選択部
130 照射指示部
140 分布生成部
150 画像取得部
160 判定部
170 出力部
W1 第1部材
W2 第2部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15