(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098487
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】移植用のブタ由来の後腎、尿管及び膀胱を含む泌尿器のガラス化凍結方法、ガラス化凍結物の製造方法、移植用泌尿器の製造方法、及び、ガラス化凍結物
(51)【国際特許分類】
A01N 1/02 20060101AFI20230703BHJP
C12N 5/07 20100101ALI20230703BHJP
【FI】
A01N1/02
C12N5/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021215283
(22)【出願日】2021-12-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE) イノベーション創出環境整備タイプ、医療用ブタ製造を目指した基盤整備、委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】518232087
【氏名又は名称】株式会社ポル・メド・テック
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 比呂志
(72)【発明者】
【氏名】松成 ひとみ
【テーマコード(参考)】
4B065
4H011
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BD09
4B065CA43
4B065CA44
4H011BC19
4H011CA01
4H011CB05
4H011CD01
4H011CD06
4H011DH11
(57)【要約】
【課題】移植用生物材料の汚染(例えば細胞汚染)リスクを低減し得る移植用臓器若しくは組織のガラス化凍結方法、ガラス化凍結物の製造方法、移植用臓器若しくは組織の製造方法、及び、ガラス化凍結物を提供すること。
【解決手段】移植用臓器若しくは組織の表面の少なくとも一部をゲルで被覆する被覆工程、及び前記ゲルで被覆後の移植用臓器若しくは組織をガラス化凍結用冷媒と接触させる凍結工程を含む、移植用臓器若しくは組織のガラス化凍結方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植用のブタ由来の後腎、尿管及び膀胱を含む泌尿器の表面の少なくとも一部をゲルで被覆する被覆工程、及び
前記ゲルで被覆後の前記移植用泌尿器をガラス化凍結用冷媒と接触させる凍結工程を含む、前記移植用泌尿器のガラス化凍結方法。
【請求項2】
前記移植用泌尿器が、内部に注入された外来物と、注入痕とを有し、前記ゲルが前記注入痕の少なくとも一部を被覆する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記被覆工程の後に、前記移植用泌尿器をガラス化液に接触させる工程を更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記外来物が、レシピエントと同じ動物種に由来する細胞である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記移植用泌尿器が、異種移植用泌尿器である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ゲルがハイドロゲルである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~6いずれか1項に記載の方法を含む、移植用泌尿器のガラス化凍結物の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法を含み、前記凍結工程の後に、融解液に接触させる工程、及び、前記移植用泌尿器の表面を被覆したゲルを除去する工程を更に含む、移植用泌尿器の製造方法。
【請求項9】
表面の少なくとも一部にゲル被覆を有する移植用のブタ由来の後腎、尿管及び膀胱を含む泌尿器のガラス化凍結物。
【請求項10】
前記移植用泌尿器が、内部に注入された外来物と、注入痕とを有し、前記ゲルが前記注入痕の少なくとも一部を被覆している、請求項9に記載のガラス化凍結物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生医療等製品のガラス化凍結保存として好適な、移植用臓器若しくは組織のガラス化凍結方法、ガラス化凍結物の製造方法、移植用臓器若しくは組織の製造方法、及び、ガラス化凍結物に関し、特に、再生医療等製品のガラス化凍結保存として好適な、異種移植用臓器若しくは組織のガラス化凍結方法、ガラス化凍結物の製造方法、移植用臓器若しくは組織の製造方法、及び、ガラス化凍結物に関する。
【背景技術】
【0002】
移植用生物材料をガラス化凍結用冷媒中に浸漬させることに基づくガラス化凍結による急速凍結は、再生医療等製品の長期保存性、品質保持等の観点から不可欠である。
例えば、非特許文献1には、再生医療に広く応用され得る細胞シートを長期間保存する技術として、細胞シートを平衡液に浸漬し、次いで、ガラス化液に浸漬し、その後、液体窒素蒸気に暴露することにより、ガラス化して凍結保存する方法が記載されている。
また、非特許文献2には、ガラス化凍結を経たブタ後腎をネコに移植した異種移植データが記載されている。
【0003】
一方、ガラス化凍結用冷媒ないしガラス化処理液は、繰り返し使用したり、複数の試料に対して同時に併用することにより、汚染(例えば細胞汚染)のリスクを招く。つまり、ガラス化凍結用冷媒ないしガラス化処理液を介して移植用生物材料が汚染するリスクがあり、再生医療等製品等としての品質の観点で好ましくない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M.Maehara et al.,BMC Biotechnology 13(58),2013
【非特許文献2】Matsumoto K. et al.,StemCells 30(2012):1228-35.DOI:10.1002/stem.1101.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、移植用生物材料の汚染(例えば細胞汚染)リスクを低減し得る移植用臓器若しくは組織のガラス化凍結方法、ガラス化凍結物の製造方法、移植用臓器若しくは組織の製造方法、及び、ガラス化凍結物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、移植用臓器若しくは組織の表面のうちガラス化凍結用冷媒等と接触する少なくとも一部をゲルで被覆することにより、移植用臓器若しくは組織の汚染(例えば細胞汚染)リスクを低減し得ることを見出した。本発明は、上記知見に基づき完成されるに至ったものである。
すなわち本発明は以下の通りである。
【0007】
<1>移植用臓器若しくは組織の表面の少なくとも一部をゲルで被覆する被覆工程、及び
前記ゲルで被覆後の移植用臓器若しくは組織をガラス化凍結用冷媒と接触させる凍結工程を含む、移植用臓器若しくは組織のガラス化凍結方法。
<2>前記移植用臓器若しくは組織が、内部に注入された外来物と、注入痕とを有し、前記ゲルが前記注入痕の少なくとも一部を被覆する、<1>に記載の方法。
<3>前記被覆工程の後に、前記移植ドナー用臓器若しくは組織をガラス化液に接触させる工程を更に含む、<2>に記載の方法。
<4>前記外来物が、レシピエントと同じ動物種に由来する細胞である、<2>又は<3>に記載の方法。
<5>前記移植用臓器若しくは組織が、異種移植用臓器若しくは組織である、<1>~<4>のいずれか1項に記載の方法。
<6>前記移植用臓器若しくは組織が、ブタ由来の臓器若しくは組織である、<1>~<5>のいずれか1項に記載の方法。
<7>前記ゲルがハイドロゲルである、<1>~<6>のいずれか1項に記載の方法。
<8>上記<1>~<7>のいずれか1項に記載の方法を含む、移植用臓器若しくは組織のガラス化凍結物の製造方法。
<9>上記<8>に記載の方法を含み、前記凍結工程の後に、融解液に接触させる工程、及び、移植用臓器若しくは組織の表面を被覆したゲルを除去する工程を更に含む、移植用臓器若しくは組織の製造方法。
<10>表面の少なくとも一部にゲル被覆を有する移植用臓器若しくは組織のガラス化凍結物。
<11>前記移植用臓器若しくは組織が、内部に注入された外来物と、注入痕とを有し、前記ゲルが前記注入痕の少なくとも一部を被覆している、<10>に記載のガラス化凍結物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、移植用生物材料の汚染(例えば細胞汚染)リスクを低減し得る移植用臓器若しくは組織のガラス化凍結方法、ガラス化凍結物の製造方法、移植用臓器若しくは組織の製造方法、及び、ガラス化凍結物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0010】
≪移植用臓器若しくは組織のガラス化凍結方法≫
本発明の第1の態様は、移植用臓器若しくは組織の表面の少なくとも一部をゲルで被覆する被覆工程、及び
前記ゲルで被覆後の移植用臓器若しくは組織をガラス化凍結用冷媒と接触させる凍結工程を含む、移植用臓器若しくは組織のガラス化凍結方法である。
第1の態様は、移植用臓器若しくは組織の表面の少なくとも一部をゲルで被覆することにより、上記ガラス化凍結用冷媒から移植用臓器若しくは組織への汚染(例えば細胞汚染)リスク、及び、上記移植用臓器若しくは組織から上記ガラス化凍結用冷媒への汚染(例えば細胞汚染)リスクのいずれをも低減し得る。
ここで、ガラス化凍結とは、ガラス化凍結用冷媒に接触させて水の結晶化(氷晶形成)を抑制して非晶質のガラス状態で凍結(好ましくは、いわゆる急速冷却による凍結、より好ましくは、いわゆる超急速冷却による凍結)することをいう。
ガラス化凍結によれば、水の結晶化に伴う体積膨張を抑制し得るため、細胞膜が破れる等のダメージ(凍害)を抑制し得る。
ガラス化凍結用冷媒としては、液体窒素(沸点-196℃)、液体ヘリウム(沸点-269℃)、液体エタン(沸点-175℃)等、及びそれらの蒸気が挙げられる。
ガラス化凍結用冷媒との上記接触は、-273℃~-70℃(好ましくは、-270℃~-80℃、より好ましくは、-269℃~-150℃)等において、例えば、1秒間~10分間(好ましくは、0.5秒間~1分間、より好ましくは0.1秒間~10秒間)行うことが好ましい。
【0011】
ガラス化凍結用冷媒との上記接触の方法としては特に制限はないが、液体の浸漬又は適用(フラッシュ)、蒸気の吹きかけ等が挙げられる。
上記ガラス化凍結用冷媒と接触は、複数の上記移植用臓器若しくは組織を同時に支持できるガラス化凍結用支持具、クライオトップ、ストロー(例えば、移植用ストロー、先端が鋭利なストロー等)、キャピラリーピペット等のガラス化凍結用支持具を用いて行われても、用いて行われなくてもよいが、上記支持具を用いて行われることが好ましい。
上記支持具としては、複数の上記移植用臓器若しくは組織を一度に一体として凍結し、移植材料の製造効率を高めつつ、本発明によって汚染リスクを抑制することもできる観点から、複数の上記移植用臓器若しくは組織を同時に支持できる上記ガラス化凍結用支持具がより好ましい。
複数の上記移植用臓器若しくは組織を同時に支持できる上記ガラス化凍結用支持具として、例えば、ガラス板、金属板、プラスチック板等の上に複数のくぼみを有し、当該くぼみに、複数の上記移植用臓器若しくは組織を同時に支持できるチップないしプレート、
メッシュ状の網、不織布等に複数の上記移植用臓器若しくは組織を同時に支持できる支持具等が挙げられる。
例えば、本発明者は、マウスやブタの胚を中空糸中でガラス化凍結する方法を報告している(H. Matsunari, et al., Journal of Reproduction and Development Vol. 58 (2012) No. 5 p. 599-608)。このような上記移植用臓器若しくは組織を入れた中空糸も、複数の上記移植用臓器若しくは組織を同時に支持できる上記ガラス化凍結用支持具として使用することができる。
また、市販の支持具としては、CRYOTOP(登録商標;北里バイオファルマ製)等が挙げられる。
上記凍結工程後の上記移植用臓器若しくは組織は、所要の期間(例えば、1日以上、1週間以上、1か月以上、1年以上)にわたり安定して保存することができる。保存は、ガラス化凍結保存容器(例えば、デュワー瓶)中で上記ガラス化凍結用冷媒と接触させながら行ってもよいし、それ以外の方法でもよい。
ガラス化凍結保存期間の上限として特に制限はないが、例えば、20年以下、10年以下、5年以下等が挙げられる。
移植材料の製造効率を向上させつつ、本発明によって汚染リスクを低減することもできる観点から、上記凍結工程は、同じ空間に存在する上記ガラス化凍結用冷媒に対し、複数の上記移植用臓器若しくは組織を同時並行で接触させることができる。
また、上記凍結工程は、後述する融解液に接触させる工程後、再度、上記凍結工程を行う等により、複数回行ってもよく、あるいは行わなくてもよい。
【0012】
上記移植用臓器若しくは組織の由来としては、胎仔由来、幼体由来、又は、成体由来のいずれであってもよいが、免疫原性が低い観点から、胎仔由来の臓器若しくは組織が好ましい。特に、異種移植の場合は、胎仔由来の臓器若しくは組織が好ましい。
上記移植用臓器若しくは組織としては、内臓(例えば、膵臓、腎臓、尿管、膀胱、肝臓、心臓、胃、腸等)、生殖器(例えば、卵巣、精巣等)、受精卵、胚、胎仔、骨髄(例えば、造血器官)、脳、眼、鼻、口、皮膚、神経、若しくは、それらに由来する組織、又は人工組織(軟骨細胞シート等の細胞シート、オルガノイド等)が挙げられ、内臓、生殖器、受精卵、胚、胎仔が好ましく、内臓、生殖器がより好ましく、膵臓(例えば、膵島)、腎臓(例えば、後腎、特に、後腎、尿管及び膀胱を含む泌尿器)がさらに好ましい。
上記移植用臓器若しくは組織を提供する動物としては、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、霊長類(例えば、ヒト、類人猿(チンパンジー、サル等))、げっ歯類(例えば、マウス、ラット)等の任意の哺乳類が挙げられ、げっ歯類よりも体格等の特徴がヒトに近い哺乳類が好ましく、ブタ、ヒツジ、ヤギ、霊長類(例えば、ヒト、類人猿)がより好ましく、ブタ(すなわち、上記移植用臓器若しくは組織が、ブタ由来の臓器若しくは組織)が更に好ましい。
上記移植用臓器若しくは組織は、異種移植用臓器若しくは組織であることが好ましい。
【0013】
上記移植用臓器若しくは組織の表面の少なくとも一部をゲルで被覆する方法としては、上記ゲルに上記移植用臓器若しくは組織を埋設ないし包埋する方法、ゾル(上記ゲルのゲル化前のゾル)を含む液(好ましくはヒドロゾル)中に、上記移植用臓器若しくは組織を浸漬した後にゲル化する方法、上記移植用臓器若しくは組織に上記ゾルを含む液を塗布した後にゲル化する方法等が挙げられる。上記ゾルを含む液、上記ゲルは後述する基礎培地ないし基礎媒液を含んでいてもいなくてもよい。
上記ゾルのゲル化は、例えば、カルシウムイオン、バリウムイオン等の多価金属イオンの添加、冷却等の任意の方法により行い得る。
本発明の目的をより確実に達成する観点から、移植用臓器若しくは組織の表面の全面を上記ゲルで被覆することが好ましい。
上記ゲルとしては本発明の目的を達成し得る限り特に制限はないが、上記ゲルを除去しきれずに僅少量残存しても実害がないこと、及び、上記ゲルを除去せずに被覆されたまま移植に供し得る観点から、薬理学的に許容されるゲル(薬学上許容される非毒性のゲル)が好ましく、ハイドロゲルがより好ましい。
また、上記ゲルは、イオン架橋によりゾル-ゲルの相転移が起こるゲル、又は、温度(例えば、5~40℃の相転移温度、好ましくは5~10℃、10~15℃、15~20℃、20~25℃、25℃~30℃、30℃~35℃又は35℃~40℃の相転移温度)によりゾル-ゲルの相転移が起こる温度感受性ゲルが好ましい。
上記イオン架橋によりゾル-ゲルの相転移が起こるゲルは、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA・2Na)等のキレート剤によるキレート処理により、上記イオン架橋を分解しゾル化し得る。
【0014】
上記ハイドロゲルとしては、アルギン酸ないしその塩(例えば、アルギン酸カルシウム、アルギン酸バリウム等の多価金属塩、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等の一価金属塩が挙げられ、より確実にゲル化を達成する観点から、アルギン酸カルシウム、アルギン酸バリウムの多価金属塩が好ましい。)、ゼラチン、カラギーナン、寒天(アガロースゲル)、ペクチン、キトサン、シリコーンハイドロゲル、コンニャク、その他の多糖類等が挙げられ、中でも、上記イオン架橋によりゾル-ゲルの相転移が起こるハイドロゲル、又は、温度によりゾル-ゲルの相転移が起こる温度感受性ハイドロゲルが好ましい。上記イオン架橋によりゾル-ゲルの相転移が起こるハイドロゲルとしてはアルギン酸ないしその塩(好ましくは多価金属塩)が挙げられ、温度によりゾル-ゲルの相転移が起こる温度感受性ハイドロゲルとしては、ゼラチン、カラギーナン、寒天(アガロースゲル)、ペクチン等が挙げられ、比較的に低い温度(例えば、35℃以下)でゾル化することができ、上記臓器等へのダメージが低いことからゼラチンが好ましい。
例えば、5~25%(w/v)ゼラチン溶液を使用することができ、7~20%(w/v)ゼラチン溶液が好ましく、10~15%(w/v)ゼラチン溶液がより好ましい。
上記被覆工程は、1種又は2種以上のゲルを用いて、複数回行っても行わなくてもよい。
【0015】
被覆するゲルは1層又は2以上の複数層であってよい。
被覆するゲルが複数層の場合、ゾル化温度が比較的に低いゲル(例えばゼラチン)を外側の層(例えば、最外層)に、それよりもゾル化温度が高く且つ上記キレート剤による処理でゾル化し得るゲル(例えばアルギン酸)又は薬理学的に許容されたゲルを内側の層(例えば、最内層)とすることが好ましい。
複数の上記移植用臓器若しくは組織を同時並行でゲル被覆する場合、外側の層(例えば、最外層)は、複数の上記移植用臓器若しくは組織の間で共通としてもよいし、更には、上記移植用臓器若しくは組織及び内側の層(例えば、最内層)のユニット複数個を外側の層(例えば、最外層)により1つにまとめてもよい。
例えば、上記移植用臓器若しくは組織及び内側の層(例えば、最内層)のユニット複数個を、外側の層(例えば、最外層)を形成するゾルが充填された袋(バッグ)内に分散させることにより、複数の上記移植用臓器若しくは組織の間で共通の外側の層(例えば、最外層)を形成することができる。
上記ゲルで形成される被覆の各厚みとしては上記課題を解決し得る限り特に制限はないが、例えば、0.1mm~5mmが挙げられ、0.5mm~2mmが好ましい。
【0016】
上記移植用臓器若しくは組織の調製後(例えば、摘出後)、上記被覆工程の前又は後(好ましくは上記被覆工程の後)であって、後述のガラス化液に接触させる工程の前に、上記移植用臓器若しくは組織を平衡液に、-5℃~37℃(好ましくは、0℃~35℃)等において、例えば、1分間~3時間(好ましくは、5分間~1時間、より好ましくは2分間~30分間)接触(浸漬、塗布等)させる工程(いわゆる前処理工程)を含んでいてもいなくてもよい。上記前処理工程は、浸透圧ショック、急激な濃度変化等を緩和し生存率を向上させることができる。
上記平衡液としては、細胞浸透性凍害保護剤及び細胞非浸透性凍害保護剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤を含有する溶液(好ましくは水溶液)が挙げられ、細胞浸透性凍害保護剤及び細胞非浸透性凍害保護剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤を、後述するガラス化液よりも低濃度で含有する溶液が好ましく、細胞浸透性凍害保護剤及び細胞非浸透性凍害保護剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤を(複数種を含有させる場合は各々を)10体積%以下で含有する溶液がより好ましい。
上記平衡液としては、細胞浸透性凍害保護剤を含有する溶液が好ましい。
上記平衡液は単一の細胞浸透性凍害保護剤を含有しても、2種以上の細胞浸透性凍害保護剤を含有してもよい。
上記平衡液は単一の細胞非浸透性凍害保護剤を含有しても、2種以上の細胞非浸透性凍害保護剤を含有してもよい。
上記細胞浸透性凍害保護剤及び上記細胞非浸透性凍害保護剤の具体例としては後述の通りである。
上記平衡液は基礎培地ないし基礎媒液を更に含有していてもいなくてもよい。
上記基礎培地ないし基礎媒液としては特に制限はないが、TCM199(好ましくは、10~35mMのHEPES緩衝TCM199)、PBS(リン酸緩衝液)、MEM等の任意の合成培地が挙げられ、ウシ子牛血清(CS)、ウシ胎仔血清(FCS)、代替血清等を(例えば、10~20質量%)含んでいてもいなくてもよい。
上記平衡液に接触させる工程は、1種又は2種以上の平衡液を用いて(例えば、段階的に)複数回行っても行わなくてもよい。
【0017】
上記被覆工程の前又は後に、上記移植用臓器若しくは組織をガラス化液に、-5℃~37℃(好ましくは、0℃~30℃)等の温度条件下において、例えば、1分間~90分間(好ましくは、1分間~60分間、より好ましくは1分間~30分間)接触(浸漬、塗布等)させる工程を含んでいることが好ましい。
上記ガラス化液に接触させる工程は、上記被覆工程の前又は後のいずれであってもよいが、上記ガラス化液の浸透促進の観点からは、上記被覆工程の前に、上記移植用臓器若しくは組織を上記ガラス化液に接触させる工程を含んでいることが好ましい。
一方、上記汚染リスクの低減の観点からは、上記被覆工程の後に、上記ガラス化液に接触させる工程を含んでいることが好ましい。
上記ガラス化液としては、細胞浸透性凍害保護剤及び細胞非浸透性凍害保護剤を含有する溶液(好ましくは水溶液)が挙げられる。
上記細胞浸透性凍害保護剤の含有量(複数種を含有させる場合は合計量)としては25体積%以上60容量%以下が挙げられ、30体積%以上50容量%以下が好ましい。
上記細胞非浸透性凍害保護剤の含有量(複数種を含有させる場合は合計量)としては0.2~2Mが挙げられ、0.4~1Mが好ましい。
上記細胞浸透性凍害保護剤としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコール(EG)、プロパンジオール、グリセリン等が挙げられる。
上記細胞非浸透性凍害保護剤としてはショ糖(スクロース)、トレハロース、ソルビトール、デキストラン等の糖類、カルボキシル化ポリリジン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、不凍蛋白等が挙げられる。
上記ガラス化液は、上記基礎培地ないし基礎媒液を更に含有していてもいなくてもよいし、生存率を向上させる観点から、任意の血清、ポリビニルピロリドン、任意の増粘剤を更に含有していてもいなくてもよい。
上記ガラス化液に接触させる工程は、1種又は2種以上のガラス化液を用いて(例えば、段階的に)複数回行っても行わなくてもよい。
【0018】
ガラス化凍結用冷媒との上記した接触は、上記した各リスクをより確実に回避する観点から、後述する上記臓器若しくは組織を収容する容器(例えば、袋(バッグ))に、上記被覆後かつ上記ガラス化液に接触後の上記臓器若しくは組織を収容後、上記容器を介して接触させてもよいし、上記被覆後かつ上記ガラス化液に接触後の上記臓器若しくは組織を任意のフィルムで囲繞後(包んだ後)、上記フィルムを介して接触させてもよい。
上記凍結工程の後に、上記ガラス化凍結後(好ましくは、ガラス化凍結保存後)の上記臓器若しくは組織を融解液に、例えば、30秒~30分間(好ましくは、40秒~10分間、より好ましくは50秒~5分間)接触(浸漬、塗布等)させる工程を含んでいてもいなくてもよいが、含んでいることが好ましく、凍結している上記臓器若しくは組織を融解液に接触ないし希釈しながら、室温(例えば、25℃)~38℃に加温することがより好ましい。
上記融解液として特に制限はなく、任意の融解液であってよいが、例えば、0.5~3M(好ましくは、0.7~2M)のショ糖を含む溶液(好ましくは水溶液ないしはリン酸緩衝液)が挙げられる。
上記融解液は上記基礎培地ないし基礎媒液を含有していてもいなくてもよい。
上記融解液に接触させる工程は、1種又は2種以上の融解液を用いて(例えば、段階的に)複数回行っても行わなくてもよい。
【0019】
上記融解液と接触させる工程の後に、上記臓器若しくは組織を希釈液に、0℃~37℃(好ましくは、10℃~35℃)等の温度条件下において、例えば、30秒~30分間(好ましくは、40秒~10分間、より好ましくは50秒~5分間)接触(浸漬、塗布等)させる工程を含んでいてもいなくてもよいが、含んでいることが好ましい。
上記希釈液として特に制限はなく、任意の希釈液であってよいが、例えば、0.1~2M(好ましくは、0.3~1M)のショ糖を含む溶液(好ましくは水溶液ないしはリン酸緩衝液)が挙げられる。希釈液はエチレングリコール等の浸透性凍害保護剤を更に含有してもいなくてもよい。
上記希釈液は上記基礎培地ないし基礎媒液を更に含有していてもいなくてもよい。
上記希釈液に接触させる工程は、1種又は2種以上の希釈液を用いて(例えば、段階的に)複数回行っても行わなくてもよい。
以上の各工程は、大気(空気)雰囲気下で行っても行わなくてもよいし、低酸素雰囲気下(例えば、酸素5%、二酸化炭素5%及び窒素90%の雰囲気下、炭酸ガス5%空気95%の炭酸ガス雰囲気下等)で行っても行わなくてもよい。
【0020】
以上の一連の各工程は、上記臓器若しくは組織を収容する容器(例えば、袋(バッグ))中で連続して行っても行わなくてもよい。
上記臓器若しくは組織を収容する容器としては、上記臓器若しくは組織を収容する容器本体と、容器外部から容器内部へ液体を注入する注入部材、及び容器内部から容器外部へ液体を排出する排出部材とを具備する灌流式容器であることが好ましく、注入部材と排出部材が、注入部材と排出部材との間に液体の流れが生じるような位置であって、この液体の流れが容器本体に収容される上記臓器若しくは組織に接触するような位置に、設置されていることがより好ましい。
容器本体は、生体試料を収容することができるものであればどのようなものでもよいが、袋状の容器が好ましい。袋状の容器には、上記臓器若しくは組織を出し入れするための開口部が設けられていることが好ましく、この開口部は、ジッパーなどにより開閉可能なものであることが好ましい。この袋状の容器としては、市販のジッパー付保存袋を使用することができる。容器本体は、袋状の容器に限定されるものではなく、例えば、額縁状の枠体の上面及び下面にフィルムを接着させたような容器であってもよい。容器本体の形状はどのようなものでもよいが、注入部材及び排出部材の設置し易さなどから長方形であることが好ましい。容器本体の素材もどのようなものでもよいが、透明で熱伝導性のよい素材が好ましい。容器本体が袋状の容器である場合には、容器本体の素材は、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリエチレン-ポリテトラフルオロエチレン共重合体、ポリエチレン-1,2-ジクロロエタン共重合体などが好ましい。容器本体の大きさは、収容する上記臓器若しくは組織に応じて決めることができる。例えば、容器本体が長方形の袋状容器の場合、その長方形は、長辺を30~350mm、短辺を10~100mmとすることできる。
【0021】
以上処理後の移植用臓器若しくは組織は、移植(好ましくは異種移植)前に上記基礎培地ないし基礎媒液で培養してもしなくてもよい。
【0022】
例えば、上記移植用臓器若しくは組織を再生医療等製品として使用する場合、上記移植用臓器若しくは組織に上記外来物(例えば、レシピエントと同じ動物種に由来する細胞)を注入した後に、ガラス化凍結して保存することが要求される場合があり得る。
一方、後述する注入痕が存在すると、上記凍結工程(及びガラス化液に接触させる工程)において、上記移植用臓器若しくは組織内部と、外部の溶液との浸透圧勾配により、上記外来物が上記移植用臓器若しくは組織から漏出してしまうという問題があった。
【0023】
上記問題に鑑み、上記移植用臓器若しくは組織が、内部に注入された外来物と、注入痕とを有し、上記ゲルが上記注入痕の少なくとも一部を被覆していることも好ましい1つの実施形態として挙げられる。
ここで、「注入痕」とは、上記移植用臓器若しくは組織内部に上記外来物を人工的に注入するために形成された孔を意味し、上記移植用臓器若しくは組織の表面の孔のみならず、上記移植用臓器若しくは組織内部の注入標的領域まで至る連通孔を意味する。上記「注入痕」は、例えば、針状部材等により形成され得る。上記孔の孔径(例えば、平均直径)としては特に制限はなく、例えば、0.05mm~3mmが挙げられ、0.1mm~2mmが好ましく、0.5mm~1.5mmがより好ましい。
上記好ましい1つの実施形態によれば、上記表面の上記孔と、上記連通孔とからなる注入痕のうちの少なくとも一部、及び、上記表面の上記孔が上記ゲルにより被覆され得る。
これにより、上記移植用臓器若しくは組織内部と、外部の溶液(例えば、上記ガラス化液、上記平衡液等)との浸透圧勾配による、上記外来物の漏出を抑制することができる。
【0024】
ここで、上記外来物は、上記移植用臓器若しくは組織以外に由来する物質を意味し、上記外来物としては、レシピエント(移植先個体)と同じ動物種に由来する物質、ドナー(移植元個体)と同じ動物種だがドナーとは異なる個体に由来する物質、レシピエント及びドナーのいずれとも異なる動物種に由来する物質、薬物(例えば、医薬品)等が挙げられる。動物種に由来する物質としては、免疫原性が低い観点から、レシピエントと同じ動物種に由来する物質が好ましい。物質としては、例えば、細胞、成長因子、ホルモン、サイトカイン等が挙げられ、中でも細胞が好ましい。上記細胞は人工的な細胞(例えば、遺伝子組み換え細胞、ES細胞、iPS細胞)であってもなくてもよい。
例えば、ブタ臓器若しくは組織をヒトに移植する異種移植である場合、上記「レシピエントと同じ動物種に由来する細胞」は「ヒトに由来する細胞」が挙げられる。
上記好ましい1つの実施形態において、上記浸透圧勾配による上記外来物の漏出を抑制する観点から、被覆工程の後に、上記移植用臓器若しくは組織をガラス化液に接触させる工程を更に含むことが好ましい。
【0025】
上記外来物の注入に際し、上記移植用臓器若しくは組織を上述したゲルと同様のゲルをに接触させて位置決めし(すなわち、上記ゲルを位置決め治具として使用)、上記位置決め後の上記移植用臓器若しくは組織中に外来物を注入してもしなくてもよい。
上述したゲルと同様のゲルを位置決め治具として使用すれば、上記外来物注入後に、位置決め治具として使用した上記ゲルを除去する前の上記ゲルと接触したままの上記移植用臓器若しくは組織をそのまま、同様のゲルによる上述した被覆工程に供することができる観点から、上記移植用臓器若しくは組織を上述したゲルと同様のゲルに接触させて位置決めすることが好ましい。
また、被覆したゲルを除去する下記除去工程において、位置決め治具として使用したゲルと、被覆工程に使用したゲルとの両方を一緒に下記除去工程で除去し得る観点からも、上記移植用臓器若しくは組織を上述したゲルと同様のゲルに接触させて位置決めすることが好ましい。
ここで「位置決め」とは、上記移植用臓器若しくは組織を把持(しっかりと保持)して位置決めし、上記外来物を注入する工程において動かないようにすることをいい、上記ゲルに対して上記移植用臓器若しくは組織の位置関係を精度良く保ち得る。
【0026】
≪移植用臓器若しくは組織のガラス化凍結物の製造方法、及び移植用臓器若しくは組織の製造方法≫
本発明の第2の態様は、第1の態様に係るガラス化凍結方法を含む移植用臓器若しくは組織のガラス化凍結物の製造方法である。
第2の態様に係るガラス化凍結物の製造方法は、前記凍結工程の後に、移植用臓器若しくは組織の表面を被覆したゲルを除去する除去工程を含んでいてもいなくてもよいが、上記除去後の移植用臓器若しくは組織を移植に使用し得る観点から、上記除去工程を含んでいることが好ましい。
本発明の第3の態様は、第2の態様に係るガラス化凍結物の製造方法を含み、融解液に接触させる工程、及び、前記移植用臓器若しくは組織の表面を被覆したゲルを除去する工程を更に含む、移植用臓器若しくは組織の製造方法である。
上記被覆したゲルを、ゾル化温度への加熱、上記キレート処理等の任意のゾル化、又は、物理的圧力等により上記ゲルを除去することができる。
更に、任意の水溶液ないしはリン酸緩衝液、(流水)等の任意の洗浄液によって洗浄してもしなくてもよい。
上記除去工程は、複数回(例えば、段階的に)行っても行わなくてもよい。
【0027】
ゾル化温度が比較的に低いゲル(例えばゼラチン)を外側の層(例えば、最外層)に、それよりもゾル化温度が高く且つ上記キレート剤による処理でゾル化し得るゲル(例えばアルギン酸)又は薬理学的に許容されたゲルを内側の層(例えば、最内層)とする2以上の複数層のゲルを被覆した場合、
ダメージリスクが大きい加熱ゾル化及び物理的圧力により外側の層(例えば、最外層)を除去した後、上記キレート処理により内側の層(例えば、最内層)をゾル化という2ステップでゲルを除去することが好ましい。
これによれば、内側の層(例えば、最内層)ゲルが障壁となり、外側の層(例えば、最外層)除去時のダメージが上記移植用臓器若しくは組織に伝わりにくい。
また、上記キレート処理は穏やかなので、ゾル化過程での上記移植用臓器若しくは組織へのダメージを最小で済ますことができる。
また、薬理学的に許容されるゲルは、移植時に必ずしも除去しなくてもよい。この
場合は、ゲル除去に伴うダメージをより確実に回避できる。
なお、汚染源は外側の層ゲルが障壁となり、内側の層(例えば、最内層)には至らず、内側の層(例えば、最内層)のゲルを残したまま移植しても問題は生じることはない。
【0028】
≪移植用臓器若しくは組織のガラス化凍結物≫
本発明の第4の態様は、表面の少なくとも一部にゲル被覆を有する移植用臓器若しくは組織のガラス化凍結物である。
第4の態様に係るガラス化凍結物は、表面の少なくとも一部がゲル被覆されていることから、汚染(例えば細胞汚染)リスクが低減された状態で凍結保存することができる。
更に上記除去工程を実施することにより、移植ドナーとして利用に供することができる。
上記移植用臓器若しくは組織の具体例及び好ましい例としては上述の通りである。
上記移植用臓器若しくは組織が、内部に注入された外来物と、注入痕とを有し、上記ゲルが上記注入痕の少なくとも一部を被覆していることが好ましく、上記ゲルが上記注入痕の全てを被覆していることがより好ましく、上記ゲルが上記移植用臓器若しくは組織の表面全てを被覆していることが更に好ましい。
上記外来物の具体例及び好ましい例としては上述の通りである。
上記注入痕については上述の通りである。
【実施例0029】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0030】
<実施例1~4及び比較例1>
(材料)
緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現し、緑色蛍光を発するGFP発現ヒト間葉系幹細胞を吸引した先端を鋭く研磨した毛細管を用意した。
DPF管理された野生型母豚(同一クローン)5匹から帝王切開により得たブタ胎仔合計20匹から摘出した後腎40個のうち24個については、各々を35mmディッシュ(イワキ社製)上に置き、上記後腎各々の被膜下に上記毛細管をもって、外来物として
上記ヒト間葉系幹細胞を注入した。
また、摘出した上記後腎40個のうち16個については、各々を10%(w/v)ゼラチンゲルに半包埋(すなわち、後腎の上記ゲルに接触していない露出面が存在する一方、後腎の上記ゲルに接触している部分が包埋)し、上記ゼラチンゲルに半包埋した後腎各々を35mmディッシュ(イワキ社製)上に置いて位置決めし、上記半包埋された後腎各々の被膜下の腎皮質形成領域(nephrogenic zone)に上記毛細管をもって、上記露出面に外来物として上記ヒト間葉系幹細胞を注入した。
【0031】
上記注入後の注入痕を有し、半包埋していない上記後腎24個のうち8個について、後述する被覆工程の前に先立ち、7.5質量%EG及び7.5質量%DMSOを凍害保護剤として含む平衡液4.5mlに室温(25~27℃)25分間浸漬して前処理工程を行い、ついで、その2倍量である15質量%EG及び15質量%DMSOと0.5Mショ糖とを含むガラス化液に室温30分間浸漬した。上記注入痕を有し、かつ下記被覆工程の前に先立ち、上記前処理工程を行い、かつガラス化液に浸漬した後腎群8個を実施例1の後腎群とした。
【0032】
(被覆工程)
ゼラチン粉末(富士フィルム和光純薬製)をpH7.2のHEPES緩衝TCM199培地に溶解し、濃度が10~15%(w/v)ゼラチン溶液を調製した。
上記注入痕を有し、上記半包埋されておらず、かつ上記前処理に供した実施例1の後腎群8個について、上記10~15%(w/v)ゼラチン溶液を滴下、あるいはゼラチン溶液滴に後腎を投入し、上記後腎の上記注入痕部分とその近傍(後腎表面の一部であって、上記注入痕部分を含む領域)のみが被覆されるように、ゼラチンゲルにより被覆した。
また、上記注入後の注入痕を有し、半包埋しておらず、かつ前処理工程にも供していない上記後腎16個のうち8個については、上記ゼラチン溶液を滴下、あるいはゼラチン溶液滴に後腎を投入し、上記後腎の上記注入痕部分とその近傍のみが被覆されるように、ゼラチンゲルにより被覆した。被覆工程の前に前処理工程に供しておらず、かつ上記注入痕部分とその近傍のみが被覆されている上記後腎群8個を実施例2の後腎群とした。
一方、上記注入後の注入痕を有し、半包埋していない上記後腎16個のうちの残りの8個については、ゼラチンゲルによる上記被覆工程に供さなかった。上記注入後の注入痕を有し、かつ上記被覆工程に供さなかった後腎群8個を比較例1の後腎群とした。
また、上記注入後の注入痕を有し、半包埋し、かつ前処理工程にも供していない上記後腎16個のうちの8個については、上記ゼラチン溶液を滴下、あるいはゼラチン溶液滴に後腎を投入し、上記後腎の上記注入痕部分とその近傍のみが被覆されるように、ゼラチンゲルにより被覆した。被覆工程の前に前処理工程に供しておらず、半包埋され、かつ上記注入痕部分とその近傍のみが被覆されている上記後腎群8個を実施例3の後腎群とした。
また、上記注入後の注入痕を有し、半包埋し、かつ前処理工程にも供していない上記後腎16個のうちの残りの8個については、上記ゼラチン溶液を滴下、あるいはゼラチン溶液滴に後腎を投入し、上記注入痕部分を含め上記後腎全体を、ゼラチンゲルにより被覆した。半包埋され、かつ上記注入痕部分を含め上記後腎全体を被覆した後腎群8個を実施例4の後腎群とした。
(前処理工程)
上記ゼラチンゲルで被覆後の実施例2~4の上記後腎群24個、及び、上記ゼラチンゲルで被覆しなかった比較例1の後腎群8個について、7.5質量%EG及び7.5質量%DMSOを凍害保護剤として含む平衡液4.5mlに室温(25~27℃)25分間浸漬して前処理を行った。
(ガラス化凍結工程、融解工程及び希釈工程)
ついで、前処理後の、実施例2~4の上記後腎群24個、及び、上記ゼラチンゲルで被覆しなかった比較例1の後腎群8個について、上記の2倍量である15質量%EG及び15質量%DMSOと0.5Mショ糖とを含むガラス化液に室温30分間浸漬した。
そして、上記ガラス化液に浸漬後の、実施例1~4の上記後腎群32個、及び、上記アルギン酸ゲルで被覆しなかった比較例1の後腎群8個について、支持具「クライオトップ」(北里バイオファルマ製)に乗せ、後述する汚染リスク試験評価のために
意図的に大腸菌(病原体)で汚染した液体窒素に投入して超急速に冷却し、ガラス化凍結した。
上記ガラス化凍結後の臓器をガラス化凍結保存容器に移し10日間の液体窒素内凍結保存後、融解は、1Mショ糖を含む37℃の融解液に1分間浸漬して行った。ついで、0.5Mショ糖含有希釈液に室温3分間、洗浄液にて5分間ずつ2回洗浄し、凍害保護剤を希釈及び除去した。
【0033】
(ゲル除去工程)
上記融解及び凍害保護剤希釈後の、実施例1~4の上記後腎群32個、及び、比較例1の後腎群8個をHEPES緩衝TCM199培地に37℃下に30分間浸漬することで、ゼラチンゲルをゾル化させた後、洗浄液にて5分間ずつ2回洗浄してゼラチンを除去した。
外来物注入の際に、位置決めのために、ゼラチンゲルに半包埋していた実施例3及び4の上記後腎群16個については、位置決めのために半包埋に供したゼラチンゲルも、上記注入痕部分を被覆したゲルとともに上記ゲル除去工程で除去することができることを確認した。
以上で得られた実施例1~4及び比較例1の上記後腎群を、下記汚染リスク試験及び外来物漏出試験に供して評価した。
【0034】
<汚染リスク試験>
上記大腸菌(病原体)のベロ毒素遺伝子に対するプライマー対(フォアワード及びリバース)を使用して、実施例1~4及び比較例1の上記後腎について、上記大腸菌の存在の有無を試験した。
【0035】
<外来物漏出試験>
実施例1~4並びに比較例1の後腎について、上記ヒト間葉系幹細胞に由来する緑色蛍光の検出試験を行った。
実施例1~4及び比較例1、並びに、各試験結果を下記表1にまとめる。
【0036】
【0037】
上記表1に示した結果から明らかなように、注入痕部分とその近傍のみのゲル被覆を行った実施例1~3の後腎群については、上記大腸菌がほとんど検出されず、上記ゲル被覆により汚染リスクが回避されたといえる。特に、臓器全体をゲル被覆した実施例4の後腎群は、上記大腸菌が全く検出されず、汚染リスクが完全に回避されたといえる。
一方、比較例1の上記後腎群では、後腎4個とも、上記大腸菌が検出され、上記大腸菌により汚染されたといえる。
【0038】
実施例2~4の後腎群中の各々の後腎では、上記ヒト間葉系幹細胞に由来する緑色蛍光が検出された。
一方、実施例1の後腎群、及び、比較例1の上記後腎群では、上記ヒト間葉系幹細胞に由来する緑色蛍光がほとんど検出されず、上記注入痕から上記ヒト間葉系幹細胞の大半が漏出したといえる。