(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098492
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】ロボット及びロボットの潤滑方法
(51)【国際特許分類】
B25J 9/06 20060101AFI20230703BHJP
H01L 21/677 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
B25J9/06 D
H01L21/68 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021215292
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】芝田 武士
(72)【発明者】
【氏名】小野 良太
【テーマコード(参考)】
3C707
5F131
【Fターム(参考)】
3C707AS08
3C707AS24
3C707BS15
3C707CY35
3C707ES03
3C707ET08
3C707EV07
3C707HS14
3C707HS27
3C707HT24
3C707NS13
5F131AA02
5F131BB03
5F131CA12
5F131CA17
5F131DA22
5F131DA32
5F131DA33
5F131DA42
5F131DB02
5F131DB52
5F131DB78
5F131DB83
5F131DB93
5F131DB97
5F131HA02
(57)【要約】
【課題】油含有樹脂からなるギアによって効率的な潤滑を実現する。
【解決手段】ロボットは、関節を駆動するための伝動ギア列を備える。ロボットは、第1ギアと、第2ギアと、潤滑用ギアと、を備える。前記第2ギアは、前記第1ギアよりも大径であり、前記第1ギアに噛み合う。前記潤滑用ギアは、前記第1ギアに噛み合う。前記関節の回転角度範囲が制限されている。前記第2ギアに噛み合った状態の前記第1ギアを回転駆動することにより、前記関節を前記回転角度範囲内で回転させる。前記潤滑用ギアは、油含有樹脂により形成されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節を駆動するための伝動ギア列を備えるロボットにおいて、
第1ギアと、
前記第1ギアよりも大径であり、前記第1ギアに噛み合う第2ギアと、
前記第1ギアに噛み合う潤滑用ギアと、
を備え、
前記関節の回転角度範囲が制限されており、
前記第2ギアに噛み合った状態の前記第1ギアを回転駆動することにより、前記関節を前記回転角度範囲内で回転させ、
前記潤滑用ギアは、油含有樹脂により形成されていることを特徴とするロボット。
【請求項2】
請求項1に記載のロボットであって、
前記潤滑用ギアが複数設けられていることを特徴とするロボット。
【請求項3】
請求項2に記載のロボットであって、
前記潤滑用ギアは、前記第1ギアと前記第2ギアの噛合い部分を挟んで2つ配置されていることを特徴とするロボット。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載のロボットであって、
前記第1ギア及び前記潤滑用ギアのうち少なくとも何れかにおいて、歯面にグリスが塗布されていることを特徴とするロボット。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載のロボットであって、
前記伝動ギア列は、電動モータの回転を減速する減速歯車機構を含み、
前記第1ギアは、前記減速歯車機構の最終減速段の出力ギアであることを特徴とするロボット。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載のロボットであって、
ワークとしての基板を搬送することを特徴とするロボット。
【請求項7】
ロボットが備える第1ギアを潤滑するロボットの潤滑方法であって、
前記ロボットの関節の回転角度範囲が制限されており、
前記第1ギアは、当該第1ギアよりも大径である第2ギアに噛み合っており、
前記第2ギアに噛み合った状態の前記第1ギアを回転駆動することにより、前記関節が前記回転角度範囲内で回転し、
油含有樹脂により形成された潤滑用ギアが前記第1ギアに噛み合っており、
前記第1ギアの回転に応じて前記潤滑用ギアが従動回転することにより潤滑がなされることを特徴とするロボットの潤滑方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ロボットの関節駆動部分の潤滑に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ロボットの関節を駆動するために、電動モータの動力をギア列によって伝動する構成が知られている。
【0003】
特許文献1は、入力歯車と出力歯車とを噛み合わせる構成の歯車伝動式の変速機を開示する。出力歯車の径は、入力歯車の径よりも大きい。2つの潤滑用歯車が、出力歯車に噛み合っている。それぞれの潤滑用歯車は、油含有樹脂から構成されている。2つの潤滑用歯車は、入力歯車と出力歯車との噛合い部分を挟むように対をなして配置されている。ただし、特許文献1には、当該歯車装置が特にロボットに適用される旨の開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えばロボットがワークを搬送するロボットである場合、ワークの搬送元及び搬送先の位置関係によっては、ロボットの関節の動作角度範囲が実質的に所定の角度範囲に制限されることがある。また、ロボットが周囲の環境と物理的に干渉することを回避するため、関節の動作角度範囲が事実上制限されることがある。
【0006】
このような構成においては、歯車の外周面のうち、相手の歯車と噛み合う可能性がある部分は、周方向の一部だけとなる。従って、特許文献1の構成では、潤滑用歯車が出力歯車の無駄な場所を潤滑する場合があり、効率的な潤滑を実現する構成が望まれていた。
【0007】
本開示は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、油含有樹脂からなるギアによって効率的な潤滑を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
本開示の第1の観点によれば、以下の構成のロボットが提供される。即ち、このロボットは、関節を駆動するための伝動ギア列を備える。ロボットは、第1ギアと、第2ギアと、潤滑用ギアと、を備える。前記第2ギアは、前記第1ギアよりも大径であり、前記第1ギアに噛み合う。前記潤滑用ギアは、前記第1ギアに噛み合う。前記関節の回転角度範囲が制限されている。前記第2ギアに噛み合った状態の前記第1ギアを回転駆動することにより、前記関節を前記回転角度範囲内で回転させる。前記潤滑用ギアは、油含有樹脂により形成されている。
【0010】
本開示の第2の観点によれば、以下のロボットの潤滑方法が提供される。即ち、この潤滑方法では、ロボットが備える第1ギアが潤滑される。前記ロボットの関節の回転角度範囲が制限されている。前記第1ギアは、当該第1ギアよりも大径である第2ギアに噛み合っている。前記第2ギアに噛み合った状態の前記第1ギアを回転駆動することにより、前記関節が前記回転角度範囲内で回転する。油含有樹脂により形成された潤滑用ギアが前記第1ギアに噛み合っている。前記第1ギアの回転に応じて前記潤滑用ギアが従動回転することにより潤滑がなされる。
【0011】
これにより、潤滑用ギアに含まれる潤滑油によって、第1ギアを潤滑することができるとともに、第1ギアと第2ギアとが噛み合う箇所を間接的に潤滑することができる。また、第1ギアと第2ギアとの噛合い箇所との関係で、潤滑用ギアが第1ギアに噛み合うことによる潤滑が無駄になりにくいので、効率的な潤滑を実現することができる。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、油含有樹脂からなるギアによって効率的な潤滑を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の一実施形態に係るロボットが適用された半導体処理設備の一部を示す平面断面図。
【
図2】半導体処理設備の一部を切断して示す側面断面図。
【
図4】ロボットの第1リンクの内部の構成を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、図面を参照して、開示される実施の形態を説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係るロボット1が適用された半導体処理設備50の一部を示す平面断面図である。
図2は、半導体処理設備50の一部を切断して示す側面断面図である。
図1及び
図2には、ロボット1を様々に動かした状態が2点鎖線で示されている。
【0015】
半導体処理設備50は、処理対象基板となるウエハ2に対して、予め定められた処理を施す。本実施形態において、ウエハ2は、半導体ウエハである。ウエハ2に施される処理としては、例えば、熱処理、不純物導入処理、薄膜形成処理、リソグラフィ処理、洗浄処理又は平坦化処理等の様々なプロセス処理を挙げることができる。半導体処理設備50において、上述した基板処理以外の基板処理が行われてもよい。
【0016】
半導体処理設備50は、ウエハ処理装置51と、ウエハ移載装置52と、を備える。半導体処理設備50は、例えばSEMI規格によって予め規定されたものである。SEMIは、Semiconductor Equipment and Materials Internationalの略称である。この場合、例えばフープ53及びフープ53を開閉するためのフープオープナ54は、SEMI規格のE47.1、E15.1、E57、E62、E63、E84等の仕様に従う。ただし、半導体処理設備50の構成がSEMI規格と異なっていても良い。
【0017】
ウエハ処理装置51には、所定の気体が充填される処理空間60が形成されている。ウエハ処理装置51は、この処理空間60において、上述の処理をウエハ2に施す。ウエハ処理装置51は、ウエハ2に処理を施す処理装置本体のほか、処理空間60を形成する処理空間形成部と、処理空間60でウエハ2を搬送する搬送装置と、処理空間60に満たされる雰囲気気体を制御する調整装置と、を備える。調整装置は、ファンフィルタユニット等によって実現される。
【0018】
ウエハ移載装置52は、処理前のウエハ2をフープ53から取り出してウエハ処理装置51に供給するとともに、処理後のウエハ2をウエハ処理装置51から取り出してフープ53に再収容する。ウエハ移載装置52は、フロントエンドモジュール装置(Equipment Front End Module;EFEM)として機能する。半導体処理設備50において、ウエハ移載装置52は、フープ53とウエハ処理装置51との間でのウエハ2の受渡しを行うインタフェース部となる。ウエハ2は、フープ53内の空間と、ウエハ処理装置51の処理空間60との間を移動する間に、予め定められる雰囲気気体で満たされるクリーン度の高い準備空間61を通過する。
【0019】
準備空間61は、コンタミネーションコントロールが行われている閉じられた空間である。準備空間61では、空気中における浮遊微小粒子が限定された清浄度レベル以下に管理されており、必要に応じて温度、湿度、圧力等の環境条件についても管理が行われている。本実施形態では、処理空間60及び準備空間61は、ウエハ2の処理に悪影響を与えないように、所定のクリーン度に保たれる。このクリーン度としては、例えば、ISO(国際標準化機構)に規定されるCLASS1が採用される。
【0020】
ロボット1は、ウエハ移載ロボットとして機能する。本実施形態では、ロボット1は、SCARA(スカラ)型の水平多関節ロボットによって実現される。SCARAは、Selective Compliance Assembly Robot Armの略称である。ロボット1は、準備空間61に配置される。
【0021】
次に、ロボット1の構成について詳細に説明する。
図3は、ロボット1の構成を示す斜視図である。
図4は、ロボット1の第1リンク17の内部の構成を示す斜視図である。
【0022】
ロボットシステム100は、ロボット1と、コントローラ5と、を備える。
【0023】
ロボット1は、
図3に示すように、ハンド(保持部)11と、マニピュレータ13と、を備える。
【0024】
ハンド11は、エンドエフェクタの一種であって、概ね、平面視でV字状又はU字状に形成されている。ハンド11は、マニピュレータ13(具体的には、後述の第2リンク18)の先端に支持されている。ハンド11は、第2リンク18に対して、上下方向に延びる第3軸a3を中心として回転可能である。
【0025】
ハンド11は、エッジグリップ型のハンドとして構成されている。ハンド11において分岐されたそれぞれの先端部分には、エッジガイド6が設けられている。ハンド11の手首部近傍には、押圧部材7が設けられている。押圧部材7は、ハンド11の手首部に内蔵された図略のアクチュエータ(例えば、空気圧シリンダ)によって、ハンド11の先端方向に向かって移動する。
【0026】
ハンド11の上面側にウエハ2を載せた状態で押圧部材7を先端側へ変位させることで、エッジガイド6と押圧部材7との間にウエハ2を挟んで保持することができる。
【0027】
マニピュレータ13は、主として、基台15と、昇降軸16と、複数のリンク(ここでは、第1リンク17及び第2リンク18)と、を備える。
【0028】
基台15は、例えば、前述の準備空間61の床面に固定される。基台15は、昇降軸16を支持するベース部材として機能する。
【0029】
昇降軸16は、基台15から上方に突出するように配置されている。昇降軸16は、基台15に対して上下方向に移動する。この昇降により、第1リンク17、第2リンク18、及びハンド11の高さを変更することができる。
【0030】
基台15には、モータM1が設けられている。モータM1は、昇降軸16を、例えば図略のネジ機構を介して駆動する。
【0031】
第1リンク17は、昇降軸16の上部に支持されている。第1リンク17は、昇降軸16に対して、上下方向に延びる第1軸a1を中心として回転する。これにより、第1リンク17の姿勢を水平面内で変更することができる。
【0032】
第1リンク17には、モータ(電動モータ)M2が設けられている。モータM2は、第1リンク17を、昇降軸16に対して回転するように駆動する。
【0033】
第2リンク18は、第1リンク17の先端に支持されている。第2リンク18は、第1リンク17に対して、上下方向に延びる第2軸a2を中心として回転する。これにより、第2リンク18の姿勢を水平面内で変更することができる。
【0034】
第1リンク17には、モータM3が設けられている。モータM3は、第2リンク18を、第1リンク17に対して回転するように駆動する。
【0035】
第2リンク18には、モータM4が設けられている。モータM4は、ハンド11を、第2リンク18に対して回転するように駆動する。
【0036】
モータM1~M4は、ロボット1の各部を動かすアクチュエータである。モータM1~M4は、電動モータの一種であるサーボモータとして構成されている。モータM1~M4を駆動することにより、ハンド11の位置及び姿勢を様々に変更することができる。
【0037】
モータM1~M4は、図示しないケーブルを介して、コントローラ5と電気的に接続されている。コントローラ5は、ロボット1に様々な指令を与えて動作させる装置であり、公知のコンピュータから構成される。モータM1~M4のそれぞれの駆動は、コントローラ5から入力された指令値を反映するように行われる。
【0038】
次に、第1軸a1を中心として第1リンク17を回転させるための構成について、
図4を参照して説明する。
【0039】
第1リンク17の内部には、モータM2の出力軸41の回転を伝動するための伝動ギア列20が配置されている。
図4に示すように、伝動ギア列20は、第1伝動ギア21と、第2伝動ギア22と、入力ベベルギア23と、出力ベベルギア24と、出力ギア(第1ギア)25と、を備える。出力ギア25は、固定ギア(第2ギア)26と噛み合っている。
図4においては、出力ギア25及び固定ギア26の周辺の構成を分かり易く示すため、出力ベベルギア24よりもドライブトレーン上流側の構成は、鎖線で透視的に示されている。
【0040】
第1伝動ギア21、第2伝動ギア22、入力ベベルギア23、出力ベベルギア24、出力ギア25、及び固定ギア26は、何れも金属により構成されている。ただし、これらの歯車が、金属とは別の部材、例えば合成樹脂によって構成されても良い。
【0041】
第1伝動ギア21は、モータM2の出力軸41の先端に固定されている。モータM2のハウジングは、第1リンク17の長手方向において中央近傍の位置に固定されている。モータM2の出力軸41は、第1リンク17の長手方向に沿って、第1軸a1に近づく向きに突出している。
【0042】
第2伝動ギア22は、第1リンク17に回転可能に支持されている。第2伝動ギア22の回転軸は、第1伝動ギア21の回転軸と平行である。第2伝動ギア22は第1伝動ギア21と噛み合っている。第2伝動ギア22の径は、第1伝動ギア21の径より大きい。
【0043】
入力ベベルギア23は、第1リンク17に回転可能に支持されている。入力ベベルギア23の回転軸は、第2伝動ギア22の回転軸と同一である。入力ベベルギア23は、第1軸a1に近い側が小径となるように向けられている。入力ベベルギア23は第2伝動ギア22に固定されている。従って、第2伝動ギア22と入力ベベルギア23は一体的に回転する。
【0044】
出力ベベルギア24は、第1リンク17に回転可能に支持されている。出力ベベルギア24の回転軸は、上下方向に向けられている。出力ベベルギア24の回転軸は、入力ベベルギア23の先端部よりも、第1軸a1に近い側に配置されている。出力ベベルギア24は入力ベベルギア23と噛み合っている。出力ベベルギア24の径は、入力ベベルギア23の径より大きい。
【0045】
出力ギア25は、第1リンク17に回転可能に支持されている。出力ギア25の回転軸は、出力ベベルギア24の回転軸と同一である。出力ギア25は、はす歯歯車として形成されている。
【0046】
固定ギア26は、昇降軸16の上端部に固定されている。固定ギア26の中心軸は、第1軸a1と一致している。固定ギア26も出力ギア25と同様に、はす歯歯車として形成されている。固定ギア26は出力ギア25と噛み合っている。固定ギア26の径は、出力ギア25の径より大きい。
【0047】
以上の構成で、モータM2が回転すると、出力軸41の回転は、第1伝動ギア21、第2伝動ギア22、入力ベベルギア23、出力ベベルギア24、出力ギア25の順に伝達され、出力ギア25が駆動される。出力ギア25は固定ギア26との関係で遊星ギアとして機能し、第1リンク17が遊星キャリアに相当する。出力ギア25が固定ギア26と噛み合った状態で回転することにより、第1リンク17を昇降軸16に対して適宜回転させることができる。
【0048】
このように、伝動ギア列20によってモータM2の動力を伝動して、第1リンク17を回転させることができる。
【0049】
第1伝動ギア21、第2伝動ギア22、入力ベベルギア23及び出力ベベルギア24は減速歯車列を構成する。従って、モータM2の出力軸41の回転と比較して、出力ギア25の回転は減速され、かつ、回転トルクが増大されている。
【0050】
本実施形態のロボット1は狭い準備空間61に配置されており、例えば
図3に示すように、準備空間61の壁30に近接して配置されている。従って、昇降軸16に対して第1リンク17が回転する角度は、周囲との干渉を避けるため、実質的に180°以下の範囲に制限される。ロボット1が複数のウエハ2を搬送する場合、第1リンク17は、上述の回転角度範囲内で、P方向及びQ方向の往復駆動を反復する。
【0051】
次に、潤滑用ギア31,32について説明する。
【0052】
2つの潤滑用ギア31,32は、出力ギア25を挟むように1対で配置されている。2つの潤滑用ギア31,32は、出力ギア25と固定ギア26との噛合い部分に関して実質的に対称となるように配置されている。
【0053】
潤滑用ギア31,32は、出力ギア25と同様に、はす歯歯車として形成されている。潤滑用ギア31,32は、潤滑油を含侵させた合成樹脂によって形成される。潤滑用ギア31,32は、例えば、グリスを含有した状態の樹脂を歯車状に成形することで得ることができる。
【0054】
潤滑用ギア31,32の表面から染み出した潤滑油によって、出力ギア25の歯面を潤滑することができる。従って、出力ギア25と固定ギア26との噛合い部分を適切に潤滑できるので、固定ギア26の歯の摩耗を効果的に抑制することができる。この結果、第1リンク17の回転動作に関するヒステリシスを軽減して、ロボット1の位置精度を向上させることができる。
【0055】
それぞれの潤滑用ギア31,32は、第1リンク17に対して回転可能に支持されている。出力ギア25を収容するために、第1リンク17の内部には、図示しないハウジングが設けられている。ハウジングの内部には、後述のグリスを保持することができる。このハウジングの内部には、概ね円柱状に形成された2つの空間が、出力ギア25の収容空間に隣接して形成されている。それぞれの空間に潤滑用ギア31,32が配置されることで、潤滑用ギア31,32を回転可能に支持することができる。
【0056】
潤滑用ギア31,32のそれぞれの回転軸は、出力ギア25の回転軸と平行である。2つの潤滑用ギア31,32は、何れも出力ギア25に噛み合っている。2つの潤滑用ギア31,32は、固定ギア26に近接するように配置されているが、固定ギア26と噛み合ってはいない。
【0057】
出力ギア25が駆動されるのに伴い、出力ギア25は固定ギア26の外周面を転がるように移動する。出力ギア25の歯は、固定ギア26に噛み合う位相から何れかの方向へ概ね90°程度回転すると、2つの潤滑用ギア31,32の何れかに噛み合うことになる。
【0058】
上述のとおり、潤滑用ギア31,32には潤滑油が含侵されている。従って、潤滑用ギア31,32と噛み合うたびに、出力ギア25の歯が潤滑されることになる。しかも、出力ギア25の歯面には、ロボット1の工場出荷時に、又はロボット1のメンテナンス作業時に、グリスが塗布されている。出力ギア25が潤滑用ギア31,32と噛み合って回転することで、グリスが、潤滑用ギア31,32の歯面を介して、出力ギア25の歯面に分配される。このように、グリスの供給という意味でも、潤滑用ギア31,32と噛み合うことによって出力ギア25の歯が潤滑される。
【0059】
上述のとおり、第1リンク17が昇降軸16に対して回転する角度範囲は、360°より小さい角度に制限される。これは、固定ギア26の1つの歯に着目したときに、当該歯が噛み合う相手の出力ギア25の歯は、常に1つだけに特定されることを意味する。
【0060】
出力ギア25は固定ギア26に噛み合っているので、出力ギア25は、固定ギア26に対して自転すると同時に公転する。出力ギア25の公転は、第1リンク17の昇降軸16に対する回転に対応する。出力ギア25がp方向に回転することにより第1リンク17はP方向に回転し、出力ギア25がq方向に回転することにより第1リンクはQ方向に回転する。上述のとおり、第1リンク17が回転する角度範囲には制限がある。ただし、当該角度範囲は、出力ギア25が360°自転することに相当する出力ギア25の公転角度範囲よりも大きい。
【0061】
出力ギア25は多数の歯を有しているが、そのうち1つの歯Tに着目する。出力ギア25がq方向に回転する場合、当該歯Tは、出力ギア25が1回転する毎に1回、潤滑用ギア31に接触して潤滑される。潤滑用ギア31によって潤滑された歯Tは、出力ギア25が更にq方向に所定の角度自転することで、固定ギア26の歯に噛み合う。この結果、固定ギア26の歯が間接的に潤滑される。
【0062】
第1リンク17をQ方向に回転させるために出力ギア25がq方向に自転する過程で、出力ギア25の歯Tが潤滑用ギア31に噛み合ったものの、その歯Tが固定ギア26との噛合い部分に至る前に、第1リンク17の回転方向がP方向に切り換えられた場合を考える。この場合でも、当該歯Tは、出力ギア25がp方向に360°より小さい所定角度自転した時点で、固定ギア26に噛み合うことになる。このように、本実施形態の構成によれば、潤滑用ギア31によって出力ギア25と固定ギア26との噛合い部分を間接的に潤滑する機会が、第1リンク17の回転方向の切換によっても失われにくい。言い換えれば、固定ギア26において出力ギア25と噛み合うことがない部分は、間接的に潤滑されない。従って、潤滑用ギア31による潤滑を効率的に行うことができる。
【0063】
潤滑用ギア32は、出力ギア25と固定ギア26との噛合い部分に関して、潤滑用ギア31と対称となる位置に配置されている。従って、潤滑用ギア32に関しても、上記の潤滑用ギア31と同様のことが言える。即ち、潤滑用ギア32によって出力ギア25と固定ギア26との噛合い部分を間接的に潤滑する機会が、第1リンク17の回転方向の切換によっても失われにくい。
【0064】
出力ギア25は、潤滑用ギア31と固定ギア26の両方に噛み合っている。従って、出力ギア25において、潤滑用ギア31との噛合い部分と固定ギア26との噛合い部分との間の角度は、当然ながら360°より小さい。本実施形態では、潤滑用ギア31,32は互いに対称となるように2つ設けられ、潤滑用ギア31,32のそれぞれが、出力ギア25と固定ギア26との噛合い部分に近接するように配置されている。従って、潤滑用ギア31との噛合い部分と固定ギア26との噛合い部分との間の角度は、180°より小さく、90°より少し小さい。
【0065】
本実施形態において、出力ギア25は、入力ベベルギア23と固定ギア26との間に挟まれるように配置されている。従って、物理的な干渉を避けるため、潤滑用ギア31は、出力ギア25の中心と固定ギア26の中心を結んだ仮想直線に対して一側に偏った位置とすることが避けられない。出力ギア25の歯Tが潤滑用ギア31と噛み合ってから固定ギア26と噛み合うまでの回転距離は、出力ギア25がp方向に回転するかq方向に回転するかに応じて異なる。従って、固定ギア26の歯に関して、潤滑のムラが固定ギア26の周方向で局所的に生じるおそれがある。
【0066】
この点、本実施形態では、潤滑用ギア31に対して、上記の仮想直線を挟んで反対側に、もう1つの潤滑用ギア32が配置されている。従って、出力ギア25と固定ギア26との噛合い部分を間接的に潤滑する機会を単純に2倍にできると同時に、回転方向による潤滑の不均等が生じにくい構成とすることができる。
【0067】
潤滑用ギア31,32の素材である油含有樹脂は、金属等と比較して柔らかい。この点に関し、本実施形態においては、出力ギア25の歯面には予めグリスが塗布されている。これにより、潤滑用ギア31,32の摩耗を効果的に抑制し、耐久性を高めることができる。
【0068】
本実施形態のロボット1はクリーン環境下で稼動しており、メンテナンスのために人間が介在することは、クリーン環境のために好まれない。また、ロボット1は、一般的にクリーンルーム及び真空容器等の密閉空間内に配置されており、メンテナンスが困難である。この点、本実施形態の構成によれば、メンテナンスの必要頻度が下がるので、ダウンタイムが低減され、生産量を増加させることができる。また、ロボット1が良好に潤滑された状態で稼動するため、基板の品質も向上することができる。
【0069】
以上に説明したように、本実施形態のロボット1は、第1軸a1に関する関節を駆動するための伝動ギア列20を備える。ロボット1は、出力ギア25と、固定ギア26と、潤滑用ギア31,32と、を備える。固定ギア26は、出力ギア25よりも大径であり、出力ギア25に噛み合う。潤滑用ギア31,32は、出力ギア25に噛み合う。第1軸a1に関する関節の回転角度範囲が制限されている。固定ギア26に噛み合った状態の出力ギア25を回転駆動することにより、当該関節に関し、第1リンク17を回転角度範囲内で回転させる。潤滑用ギア31,32は、油含有樹脂により形成されている。
【0070】
これにより、潤滑用ギア31,32に含まれる潤滑油によって、出力ギア25を潤滑することができるとともに、出力ギア25と固定ギア26の噛合い箇所を間接的に潤滑することができる。第1リンク17は360°より小さい角度での回転往復運動を行うことになるが、潤滑用ギア31,32は直接的には固定ギア26ではなく出力ギア25を潤滑している。従って、潤滑用ギア31,32が出力ギア25に噛み合って潤滑した場所が固定ギア26と噛み合う前に第1リンク17の回転方向の反転が生じた場合でも、その場所は結局、出力ギア25の反対方向の回転によって、固定ギア26に噛み合うことになる。このように、出力ギア25と固定ギア26との噛合い箇所との関係で、潤滑用ギア31,32が出力ギア25に噛み合うことによる潤滑が無駄になりにくいので、効率的な潤滑を実現することができる。
【0071】
本実施形態のロボット1において、潤滑用ギア31が複数設けられている。
【0072】
これにより、出力ギア25が回転する過程で潤滑される機会を増加させることができる。従って、出力ギア25と固定ギア26との噛合い部分が間接的に潤滑される機会も増加させることができる。
【0073】
本実施形態のロボット1において、潤滑用ギア31は、出力ギア25と固定ギア26の噛合い部分を挟んで2つ配置されている。
【0074】
これにより、第1リンク17がP方向に回転する場合、出力ギア25の1つの歯が潤滑用ギア32に噛み合ってから固定ギア26に噛み合うまでの出力ギア25の回転角度を180°未満とすることができる。第1リンク17がQ方向に回転する場合、出力ギア25の1つの歯が潤滑用ギア31に噛み合ってから固定ギア26に噛み合うまでの出力ギア25の回転角度を180°未満とすることができる。従って、固定ギア26の潤滑のムラを防止することができる。
【0075】
本実施形態のロボット1では、潤滑用ギア31において、歯が並んでいる外周部分にグリスが塗布されている。
【0076】
これにより、出力ギア25の潤滑の効果を高めることができる。
【0077】
本実施形態のロボット1において、伝動ギア列20は、モータM2の回転を減速する減速歯車機構を含む。出力ギア25は、減速歯車機構の最終減速段の出力ギアである。
【0078】
本実施形態では、伝動ギア列20において最も低速で回転する出力ギア25に潤滑用ギア31が噛み合う構成であるため、潤滑用ギア31,32の外周面に作用する遠心力等によって潤滑油が失われにくい。この結果、潤滑の効果をより高めることができる。
【0079】
以上に本開示の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。変更は単独で行われても良いし、複数の変更が任意に組み合わせて行われても良い。
【0080】
潤滑用ギア31,32の数は2つに限定されず、1つ又は3つ以上に変更することもできる。
【0081】
複数の潤滑用ギア31,32を、出力ギア25の中心と固定ギア26の中心を結んだ仮想直線に対して同じ側に設けることもできる。
【0082】
出力ギア25の歯面に加えて、あるいはそれに代えて、潤滑用ギア31,32の歯面にグリスを塗布することもできる。一方で、出力ギア25の歯面へのグリスの塗布は、省略することもできる。
【0083】
潤滑用ギア31,32が、出力ギア25に代えて、出力ギア25よりもドライブトレーン上流側のギア(例えば、第1伝動ギア21、入力ベベルギア23等)に噛み合うように構成することもできる。潤滑用ギア31,32を、ベベルギアとして構成することもできる。
【0084】
出力ギア25、固定ギア26、及び潤滑用ギア31,32を、はす歯歯車に代えて平歯車に変更することもできる。
【0085】
上記の実施形態において、第1リンク17の回転角度範囲の制限は、コントローラ5による制御(上記の回転角度範囲を外れる位置への回転を指示しないこと)によって、実質的に実現されている。しかしながら、回転角度範囲の制限を、例えばストッパ部材によって実現することもできる。
【0086】
固定ギア26を、第1リンク17に対応する範囲にだけ歯が形成されたセクタギアとして構成することもできる。
【0087】
ロボット1は、クリーン環境及び非クリーン環境の何れにおいても用いることができる。ロボット1が、第1リンク17の回転角度の制限がない状況において用いられても良い。
【0088】
本実施形態の潤滑用ギア31,32による潤滑の構成は、第1軸a1とは異なるロボット1の関節に適用することもできる。
【0089】
本実施形態の潤滑用ギア31,32による潤滑の構成は、板状とは異なる形状のワークを搬送するロボットに適用することもできる。
【符号の説明】
【0090】
1 ロボット
2 ウエハ(基板)
25 出力ギア(第1ギア)
25 出力ギア
26 固定ギア(第2ギア)
31 潤滑用ギア
32 潤滑用ギア
M2 モータ(電動モータ)