(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098502
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】導電性繊維材料
(51)【国際特許分類】
D06M 23/16 20060101AFI20230703BHJP
D06M 11/83 20060101ALI20230703BHJP
D06M 15/564 20060101ALI20230703BHJP
D06M 13/282 20060101ALI20230703BHJP
B32B 5/24 20060101ALI20230703BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
D06M23/16
D06M11/83
D06M15/564
D06M13/282
B32B5/24
H05K9/00 E
H05K9/00 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021215305
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】坂川 幸代
【テーマコード(参考)】
4F100
4L031
4L033
5E321
【Fターム(参考)】
4F100AB01A
4F100AH03B
4F100AK51B
4F100BA02
4F100CA08B
4F100DG11A
4F100JG01
4F100JJ07B
4F100JK01
4L031AA18
4L031AB32
4L031BA04
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4L031CB12
4L033AA07
4L033AB05
4L033AC05
4L033AC06
4L033AC15
4L033BA35
4L033CA50
5E321AA01
5E321AA03
5E321BB21
5E321BB23
5E321BB41
5E321BB44
5E321BB60
5E321GG01
5E321GG05
(57)【要約】
【課題】廃棄・焼却する際にダイオキシンなどの発生を抑制するとともに、導電性の低下を抑制することができる、導電性繊維材料及びこれを用いたガスケットを提供する。
【解決手段】本発明は、導電性繊維材料であって、第1面及び第2面を有する布材と、前記布材の糸に被覆された金属層と、前記布材の第1面側に積層され、非ハロゲン系の難燃剤を含有する難燃層と、を備え、前記導電性繊維材料の前記第2面側を上にして測定した剛軟度をX、前記導電性繊維材料の前記難燃層側を上にして測定した緯方向の剛軟度をY、としたとき、30mm≦X≦65mm、65mm≦Y≦110mm、及び0.27≦X/Y≦0.92を充足する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性繊維材料であって、
第1面及び第2面を有する布材と、
前記布材の糸に被覆された金属層と、
前記布材の第1面側に積層され、非ハロゲン系の難燃剤を含有する難燃層と、
を備え、
前記導電性繊維材料の前記第2面側を上にして測定した剛軟度をX、
前記導電性繊維材料の前記難燃層側を上にして測定した剛軟度をY、としたとき、
30mm≦X≦65mm、
65mm≦Y≦110mm、及び
0.27≦X/Y≦0.92
を充足する、導電性繊維材料。
【請求項2】
前記難燃層の付与量が、50~150g/m2である、請求項1に記載の導電性繊維材料。
【請求項3】
前記難燃層は、ウレタン樹脂が含有されている、請求項1または2に記載の導電性繊維材料。
【請求項4】
前記布材の第2面側、及び前記布材の第1面側と前記難燃層との間、の少なくとも一方に積層された目止め材をさらに備えている、請求項1から3のいずれかに記載の導電性繊維材料。
【請求項5】
前記難燃剤は、リン系化合物、窒素系化合物、及びリン窒素系化合物の少なくとも1つを含有している、請求項1から4のいずれかに記載の導電性繊維材料。
【請求項6】
可撓性を有する芯材と、
前記芯材に巻き付けられる、請求項1から5のいずれかに記載の導電性繊維材料と、
を備えている、ガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性繊維材料及びこれを用いたガスケットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属層が積層された織布の少なくとも一方の面に、塩素や臭素などのハロゲン系化合物難燃剤を添加した樹脂層を積層することで難燃性を付与した導電性繊維材料が提案されていた。しかし、このような導電性繊維材料では、難燃剤を廃棄・焼却する際に、燃焼条件によってはダイオキシンなどが発生して環境汚染の原因となることが問題となっていた。また、製品の製造過程によっては、難燃剤によって設備の劣化といった悪影響を及ぼすことが知られるようになった。
【0003】
これに対して、特許文献1には、ハロゲン系化合物やアンチモン化合物を含まず、熱膨張性黒鉛を使用した導電性繊維材料が開示されている。また、このような導電性繊維材料は、スポンジなどの発泡材で形成された芯材に巻き付けられ、電子機器のガスケットとして使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の導電性繊維材料に含有される熱膨張性黒鉛は、未膨張の熱膨張性黒鉛であり結晶性黒鉛フレークの内部に硫酸が層状に重なった構造を有している。そのため、導電性繊維材料の金属と接触すると金属腐食につながり導電性の低下が予想される。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、廃棄・焼却する際にダイオキシンなどの発生を抑制するとともに、導電性の低下を抑制することができる、難燃性を有する導電性繊維材料及びこれを用いたガスケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
項1.導電性繊維材料であって、
第1面及び第2面を有する布材と、
前記布材の糸に被覆された金属層と、
前記布材の第1面側に積層され、非ハロゲン系の難燃剤を含有する難燃層と、
を備え、
前記導電性繊維材料の前記第2面側を上にして測定した剛軟度をX、
前記導電性繊維材料の前記難燃層側を上にして測定した緯方向の剛軟度をY、としたとき、30mm≦X≦65mm、65mm≦Y≦110mm、及び0.27≦X/Y≦0.92を充足する、導電性繊維材料。
【0008】
項2.前記難燃層の付与量が、50~150g/m2である、項1に記載の導電性繊維材料。
【0009】
項3.前記難燃層は、ウレタン樹脂が含有されている、項1または2に記載の導電性繊維材料。
【0010】
項4.前記布材の第2面側、及び前記布材の第1面側と前記難燃層との間、の少なくとも一方に積層された目止め材をさらに備えている、項1から3のいずれかに記載の導電性繊維材料。
【0011】
項5.前記難燃剤は、リン系化合物、窒素系化合物、及びリン窒素系化合物の少なくとも1つを含有している、項1から4のいずれかに記載の導電性繊維材料。
【0012】
項6.可撓性を有する芯材と、
前記芯材に巻き付けられる、項1から5のいずれかに記載の導電性繊維材料と、
を備えている、ガスケット。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、廃棄・焼却する際にダイオキシンなどの発生を抑制するとともに、難燃性を保持しつつ導電性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る導電性材料の一実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る導電性繊維材料の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係る導電性繊維材料の断面図である。
図1に示すように、この導電性繊維材料は、第1面及び第2面を有する布材1と、この布材1の糸の表面に被覆された金属層と、この金属層上に積層される難燃層3と、を備えている。以下、これらの部材について詳細に説明する。
【0016】
<1.布材>
本発明の布材1としては、織物、編物が挙げられる。なかでも強度面で織物が好ましい。本発明の布材1に使用する糸は、加工性、及び、耐久性を考慮するとポリエステルフィラメントを主体とする糸であることが好ましい。全ての糸をポリエステルから構成されていてもよいが、ポリアミド、アクリル、ポリオレフィン等の合成繊維、レーヨンなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維を用いてもよい。あるいは、上述した繊維のうちの複数の繊維を混繊、交絡、交撚等によって加工してもよい。用いられる糸は、特には限定されないが、例えば、総繊度が33~222dtexのマルチフィラメントを用いるのが好ましい。
【0017】
布材1の厚みは、特には限定されないが、例えば、40~250μmであることが好ましく、80~200μmであることがさらに好ましい。布材1の厚みが40μm未満であると、強度が十分でないおそれがある一方、厚みが250μm以上になると、厚みが大きくなり、軽量化、コンパクト化した電子機器での使用が困難になり、経済的にも好ましくない。また、布材1の厚みが大きいと、後述する剛軟度にも影響を及ぼすおそれがある。なお、布材1の厚みは、厚み計(例えば、ピーコック G―6 株式会社尾崎製作所製)によって測定することができる。また、厚みは、測定を10箇所において行い、最大値と最小値を除外した残り8箇所における平均値を算出して求められる。
【0018】
<2.金属層>
金属層を構成する金属としては、例えば、金、銀、銅、亜鉛、ニッケル、およびそれらの合金等を挙げることができる。このうち、導電性と製造コストとを考慮すると銅、ニッケルが好ましい。これらの金属によって形成される金属層は、金属を1層または2層被覆することで構成することが好ましい。金属を3層以上被覆すると、金属層が厚くなり、導電性繊維材料が硬くなるおそれがある。また、加工コストが高くなるという問題もある。金属層を2層で構成する場合には、同種の金属を2層にしてもよいし、異なる金属を被覆してもよい。これらは、求められるシールド性や、耐久性を考慮して適宜に設定することができる。
【0019】
金属層は、蒸着法、スパッタリング法、電気メッキ法、無電解メッキ法などで布材1の糸に被覆することができる。このうち、形成される金属層の均一性、及び生産性の観点から無電解メッキ法、或いは、無電解メッキ法と電気メッキ法との併用が好ましく用いられる。金属層の被覆量は、例えば、5~50g/m2であることが好ましく、10~40g/m2であることがさらに好ましく、15~30g/m2であることが特に好ましい。被覆量が5g/m2より少ないと表面導電性や電磁波シールド性が損なわれるおそれがある。一方、被覆量が50g/m2より多くなると風合いが硬くなり、コストが高くなるおそれがある。
【0020】
例えば、スパッタリングなどで布材1の片面ずつ金属を被覆する場合には、第1面及び第2面に被覆する金属を同じにしてもよいし、異なるものにしてもよい。
【0021】
<3.難燃層>
難燃層3は、熱可塑性樹脂と難燃剤とを含有している。熱可塑性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エステル樹脂等を挙げることができる。このうち、ウレタン樹脂は、アクリル樹脂やエステル樹脂に比較して、難燃効果、摩擦強度、柔軟性の点で優れているため、好ましい。ウレタン樹脂の中でも難黄変性のエステル系ウレタンが耐久性、経済性の点で好ましい。これらのウレタン樹脂において、イソシアネートとしてはジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)、トリレンジイソシアナート(TDI)等の芳香族イソシアネート、ポリオールとしては脂肪族カルボン酸とグリコール成分からなるポリエステル系のジオールが好ましく用いられる。
【0022】
本発明に使用できる難燃剤としては、リン系化合物、窒素系化合物、リン窒素系化合物等を挙げることができる。また、これらを併用すると相乗作用により優れた難燃効果を発揮する。
【0023】
リン系化合物としては、ホスホン酸誘導体、ポリリン酸アンモニウム、無機系リン酸塩、非ハロゲンリン酸エステル(トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート)が例示される。
【0024】
窒素化合物としては、メラミンシアヌレートが例示される。
【0025】
リン窒素化合物としては、塩化ホスフォトニトリル誘導体やホスフォノアミド系のもの、ホスホニトリルが例示される。
【0026】
熱可塑性樹脂に対する難燃剤の比率は、重量比で、200~450%であることが好ましい。これ以上の比率になると難燃層3が脆くなる一方、少ないと十分な難燃性が得られないおそれがある。
【0027】
難燃層3には、着色、風合い調整、絶縁性などの機能性付与などを目的に、その性能を阻害しない範囲で他の添加剤を配合することができる。このような添加剤の具体例として、シリコーンゴム、オレフィン系共重合体、変性ニトリルゴム、変性ポリブタジエンゴムなどのエラストマー、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂、顔料などを挙げることができる。
【0028】
難燃層3の付与量は50~150g/m2であることが好ましく、80~120g/m2であることがさらに好ましい。付与量が50g/m2より少ないと十分な難燃性が得られないおそれがある。一方、付与量が150g/m2より多いと風合い硬化となり、コストが高くなるおそれがある。後述する剛軟度に関する式(3)を充足するには、特に付与量が少ないことが好ましく、100g/m2以下であることが好ましい。
【0029】
難燃層3の樹脂接着開始温度は70~130℃であることが好ましく、80~120℃であることがより好ましい。樹脂接着開始温度とは、接着力を発現し始める温度である。樹脂接着開始温度が70℃未満であると、塗工製造時の乾燥後に巻き取り不具合が発生したり、巻き状態で梱包輸送した場合に巻き取り背面へ塗工樹脂が移行したりするおそれがある。また、ガスケットとしての使用中に、高温環境下では芯材から剥がれるなどのトラブルが予測される。そのため、接着開始温度が130℃を超えると、高温で安定した製造機が必要となり、製造機への負荷が大きくなるなどの不具合が生じる。
【0030】
難燃層3を積層する方法は特には限定されないが、例えば、コーティング法やラミネート法を挙げることができる。このような方法によって、難燃層の樹脂液粘度を適宜調整することができる。
【0031】
<4.その他の層>
本実施形態に係る導電性繊維材料には、布材1の第2面側に、予め、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂などによる目止め材を積層してもよい。このような目止め材により、難燃層3が布材1を通過して反対側へ漏れるのが防止される。目止め材は、布材1の第1面側と難燃層3との間に積層してもよい。あるいは上述した2カ所の両方に設けてもよい。また、目止め材には着色を目的に顔料を添加しても、さらなる難燃性向上を目的に難燃剤を添加してもよい。このとき、ハロゲン系化合物以外の難燃剤を選択することは、言うまでもない。なお、目止め材の付与量は、固形分で1~10g/m2であることが好ましく、後述する剛軟度に影響を及ぼさないようにするため、難燃剤の付与量の1/10以下が好ましい。
【0032】
<5.導電性繊維材料の物性>
本実施形態に係る導電性繊維材料は、次に示す剛軟度を有している。剛軟度は、JIS-L-1096:2010(8.21.1 A法(45°カンチレバー法))に準じて測定される。なお、「JIS-L-1096:2010(8.21.1 A法(45°カンチレバー法))に準じる」とは、JIS-L-1096:2010(8.21.1A法(45°カンチレバー法))に記載された通りに測定されることを含む以外に、当該JISの記載を準用して測定されることも含む。
【0033】
ここでは、導電性繊維材料の第2面側を上にして測定した剛軟度をX、難燃層3側を上にして測定した剛軟度をYとすると、本実施形態の導電性繊維材料は、以下の式(1)~(3)を充足する。なお、X,Yは布材1が織物または編物の場合には、いずれも布材1の緯方向(編物の場合コース方向)を長手方向に設定し、測定を行う。
30mm≦X≦65mm (1)
65mm≦Y≦110mm (2)
0.27≦X/Y≦0.92 (3)
【0034】
なお、式(1)のXは、40mm以上55mm以下であることが好ましく、45mm以上50mm以下であることがより好ましい。式(2)のYは、70mm以上90mm以下であることが好ましく、70mm以上85mm以下であることがより好ましい。また、式(3)のX/Yは、0.40以上が好ましく、0.50以上がより好ましい。X/Yは、0.85以下が好ましく、0.65以下がより好ましい。このように、X/Yが式(3)の範囲を外れると、後述する比較例に示すように、シワが発生しやすいため、好ましくない。
【0035】
上述した式(1)~(3)を充足するためには、種々の方法があるが、以下のようにすることができる。例えば、織物の総繊度は、経糸緯糸ともに33~167dtexが好ましく、44~100dtexがより好ましい。この範囲であれば式(1)と(2)の範囲に設計しやすくなり電磁波シールド効果も保持しやすい。総繊度が、33dtexより小さいと製織性が悪くなり、167dtexより大きいと風合いが悪くなる恐れがある。また、織密度は経糸緯糸共に50~210本/2.54cmが好ましい。織密度が50本/2.54cmより小さいと電磁波シール性の効果が低減し、210本/2.54cmより大きいと風合いが悪くなる恐れがある。また、金属層の被覆量が多いほど、剛軟度が高くなる傾向にある。
【0036】
式(3)について、XよりYを大きくするためには、例えば、難燃層用の樹脂を柔軟性のあるウレタン樹脂等を用い、布材1の片面に塗布量を調整して塗工すればよい。また、布材1が硬い(例えば、総繊度が大きい)と導電性繊維材料が板状になってしまい、XとYの違いが生じにくくなる。一方、布材1が柔らかいとXとYの違いが生じやすくなる。また、難燃層3の硬さもXとYの違いに影響しやすく、難燃層3の付与量の違いもXとYの違いに影響する。すなわち、難燃層が硬いと、XとYの違いが生じにくくなるため、この観点からは、難燃層の付与量は少ないことが好ましい。
【0037】
<6.導電性繊維材料の用途>
本実施形態に係る導電性繊維材料は、電子機器の中に取り付けられる、電磁波漏洩防止用のガスケットに使用することができる。
図2に示すように、ガスケット10は、可撓性を有する芯材11の周囲に、導電性繊維材料20を巻き付けたものである。芯材11は、スポンジなどの可撓性を有する発泡材で形成することができる。また、芯材11の形状は特には限定されず、直方体状、円筒状など種々の形状にすることができる。
【0038】
芯材11に巻き付けた導電性繊維材料20は、両端を重ね、これらを接着する。接着剤を用いて固定しても良いが、前述の熱可塑性樹脂にて、融着にて接着固定すれば工程削減ができ好ましい。接着剤としては、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂を用いることができる。
【0039】
また、本実施形態に係る導電性繊維材料は、電子機器のシールドカバー、シールドケース、シールドカーテン、シールドテープ等に使用することができる。
【0040】
<7.特徴>
本実施形態に係る導電性材料は、塩素や臭素などのハロゲン系化合物の難燃剤を使用していないため、ダイオキシンなどの発生を防止することができる。一般的に金属被覆を施した繊維は金属が媒体となり燃焼しやすく高度な難燃性を得ることが困難である。繊維自体を難燃性や不燃性の素材を使用することである程度の効果は期待できるが、難燃性に代表されるモダクリルでは短繊維のため毛羽が発生し電子機器分野では使用に不向きである。不燃性に代表されるガラス繊維では重量過多や風合い硬化となり電磁波シールド、ガスケット製品での圧縮応力にも欠け製品での性能が発揮できない。また、このような特殊素材はコスト高にもなる。したがって、本実施形態のように、布材1の糸に金属層を被覆し、さらに難燃層3を積層することで、上記のような問題を解決することができる。
【0041】
また、本実施形態で使用される難燃剤は、従来例の熱膨張性黒鉛とは異なり、金属層が腐食するなどの影響を及ぼすことがない。すなわち、金属層の導電性が低下することはない。
【0042】
この導電性繊維材料は、上記のような剛軟度に関し、式(1)~(3)を充足するように構成されているため、導電性繊維材料は、難燃層3側に曲がりやすい性質を有する。したがって、上述したように、ガスケットを製造する際に、導電性繊維材料を、難燃層3側を内側にして芯材11に巻き付けやすくすることができ、シワが発生するのを抑制することができる。例えば、ガスケットの表面にシワが生じると、シールドしたい筐体との間に隙間ができるため、電磁波漏洩防止効果が低減するおそれがある。特に、芯材11が直方体状などの角部を有する形状である場合には、導電性繊維材料を角部に沿って巻き付けやすく、シワが発生するのを抑制することができる。
【0043】
また、ガスケットの製造に限られず、高度な柔軟性・柔らかな風合い・追従性を必要とする用途に好適に使用できる。
【実施例0044】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0045】
<1.実施例及び比較例の作製>
実施例1~4,比較例1,2に係る導電性繊維材料を以下のように作成した。
【0046】
(実施例1)
布材として、ポリエステル系繊維織物(経糸56dtex/36f、緯糸56dtex/36f、織密度は経糸120本/2.54cm、緯糸100本/2.54cm、厚み90μm)を精練、乾燥、熱処理した後、塩化パラジウム0.3g/L、塩化第一錫30g/L、36%塩酸300ml/Lを含む40℃の水溶液に2分間浸漬後、水洗した。なお、厚みは厚み計(ピーコック G―6 株式会社尾崎製作所製)を用いて測定した。また、厚みは、測定を10箇所において行い、最大値と最小値を除外した残り8箇所における平均値を算出して求められる。
【0047】
続いて、酸濃度0.1N、30℃のホウ沸化水素酸に5分間浸漬後水洗した。次に、硫酸銅7.5g/L、37%ホルマリン30ml/L、ロッシェル塩85g/Lを含む30℃の無電解銅メッキ液に5分間浸漬後水洗した。続いて、スルファミン酸ニッケル300g/L、ホウ酸30g/L、塩化ニッケル15g/Lを含む、pH3.7、35℃の電気ニッケルメッキ液に10分間、電流密度5A/dm2で浸漬しニッケルを被覆させた後、水洗した。
【0048】
織物の糸には、銅が10g/m2、ニッケルが4g/m2が、この順でメッキされた。こうして、織物の糸に金属層が被覆された。得られた金属被覆織物の目付は64g/m2であった。次に、この金属被覆織物の一方の面(第2面側)に、下記処方1の目止め材を、ナイフを用いてコーティングし、130℃で1分間乾燥した。付与量は固形分で6g/m2であった。次に、金属被覆織物の他方の面(第1面側)に、下記処方2の混合処理液を、ナイフを用いてコーティングし130℃で2分間乾燥し、難燃層を形成した。付与量は固形分で80g/m2であった。
【0049】
(a)処方1
クリスボン2016EL(DIC(株)製 ウレタン樹脂) 100質量部
レザミンUD架橋剤(大日精化工業(株)製) 1.5質量部
上記にメチルエチルケトンを添加することにより、粘度を15000mPa・sに調整した。粘度計として、東京計器製造所製B型粘度計を用いた(ローター番号 4、回転数 30rpm)。この点は、後述する粘度においても同様である。
【0050】
(b)処方2
レザミンUD1305(大日精化工業(株)製 ホットメルト性ウレタン樹脂) 100質量部
AF-SL-37(大京化学株式会社製 リン系化合物、窒素化合物、リン窒素化合物 固形分65%) 278質量部
上記にN、N-ジメチルホルムアミドを添加することにより、粘度を8000mPa・sに調整した。
【0051】
(実施例2)
実施例2が実施例1と相違するのは、難燃層の付与量であり、その他は同じであるため、説明を省略する。難燃層の付与量を固形分で120g/m2とした。
【0052】
(実施例3)
実施例3が実施例1と相違するのは、銅メッキに7分間浸漬した事と難燃層の付与量であり、その他は同じであるため、説明を省略する。実施例3では、織物の糸には、銅が18g/m2、ニッケルが4g/m2が、この順でメッキされた。難燃層の付与量を固形分で95g/m2とした。
【0053】
(実施例4)
実施例4が実施例1と相違するのは、銅メッキに7分間浸漬した事と難燃層の付与量であり、その他は同じであるため、説明を省略する。実施例4では、織物の糸には、銅が18g/m2、ニッケルが4g/m2が、この順でメッキされた。難燃層の付与量を固形分で120g/m2とした。
【0054】
(比較例1)
比較例1が実施例1と相違するのは、難燃層であり、その他は同じであるため、説明を省略する。比較例1では、下記処方3の混合処理液をナイフを用いてコーティングし、130℃で2分乾燥し、難燃層を形成した。難燃層の付与量は固形分で45g/m2であった。
【0055】
(c)処方3
レザミンUD1305(大日精化工業(株)製 ホットメルト性ウレタン樹脂) 100質量部
ビゴールBui-854 (大京化学株式会社製 ハロゲン系化合物、金属水酸化物、塩素系化合物 固形分86%) 278質量部
上記にN、N-ジメチルホルムアミドを添加することにより、粘度を8000mPa・sに調整した。
【0056】
(比較例2)
比較例2が実施例1と相違するのは、難燃層であり、その他は同じであるため、説明を省略する。比較例2では、下記処方4の混合処理液を、ナイフを用いてコーティングし、130℃で2分乾燥し、難燃層を形成した。難燃層の付与量は固形分で180g/m2であった。
【0057】
(d)処方4
レザミンUD1305(大日精化工業(株)製 ホットメルト性ウレタン樹脂) 100質量部
熱膨張性黒鉛 70質量部
上記にN、N-ジメチルホルムアミドを添加することにより、粘度を8000mPa・sに調整した。
【0058】
<2.実施例及び比較例の評価>
上記のように作製された実施例及び比較例に対し、以下の評価を行った。
(1)剛軟度
上述した方法で、X,Y,及びX/Yを算出した。
【0059】
(2)難燃性
UL94 VTM-0法に準ずる方法で評価した。
【0060】
(3)導電性
抵抗値測定器((株)三菱化学アナリテック製 ロレスターMP)を用い、プローブ四端子四探針測定法(JIS-K-7194)により第2面側の表面抵抗値を測定した(単位はΩ/□)。表面抵抗値が1Ω/□以下であれば、導電性を有すると判断した。
【0061】
(4)絶縁性
抵抗値測定器((株)三菱化学アナリテック製 ハイレスターUP)を用い、プローブURS測定法(JIS-K-6911)により第1面側の表面抵抗値を測定した(単位はΩ/□)。表面抵抗値が1×108以上であれば、絶縁性を有すると判断した。
【0062】
(5)ガスケット製造時シワ
実施例及び比較例に係る導電性繊維材料を織物の経方向に1m、緯方向に43mmにカットした。また、ガスケットの芯材として、10mm×10mm×1mの大きさの直方体状のウレタン発泡体を準備した。
【0063】
次に、ガスケット製造機を使用して芯材の外周にカットした導電性繊維材料の難燃層を芯材側に巻きつけ、110℃で加熱した。こうして、ガスケットが完成した。続いて、完成したガスケットの外観のシワを確認し、次のように評価した。
1:スムーズに巻き付け可能でありシワがない
2:スピードダウンで巻き付け可能でありシワがない
3:巻き付けにくくシワが入る
【0064】
(6)電子機器への設置
(5)で作製したガスケットをノートパソコン内部のI/O部(USBポート端子部)の上に設置した上で筐体のカバーを閉じ、取付状態を確認した。
【0065】
【0066】
表1によれば、実施例1~4及び比較例1,2はいずれも導電性には問題がなかった。但し、比較例2は、難燃剤として熱膨張性黒鉛を含有しているため、経時的に金属層との接触で導電性が低下するおそれがある。ガスケット製造時のシワについて、実施例1~4はシワの発生がなかったが、比較例1,2はシワが発生した。これは、剛軟度指標であるX/Yが大きすぎる、あるいは小さすぎることに起因していると考えられる。剛軟度については、樹脂付与量が多いほど、高くなる傾向にあるため、実施例2と実施例4は、ガスケットの製造時のシワの評価が2になっていると考えられる。
【0067】
また、メッキ量が少ない場合、布材が柔らかくなるため、樹脂付与量が増えると剛軟度Xは小さくなりYは大きくなる傾向にある。この傾向は、実施例1,2に表れている。一方、メッキ量が多い場合、生地の張りが出て、硬くなるため、樹脂付与量が増えると、剛軟度XもYも大きくなる傾向にある。この傾向は、実施例3,4に表れている。
【0068】
また、電子機器への設置について、比較例1では、導電性繊維材料の剛軟度が小さいため柔らかく、ガスケットを製造したときの反発性が損なわれている。そのため、1年後には経年劣化し、筐体のカバーとの間に隙間が生じるため、電磁波漏洩防止効果(シールド効果)が低減した。また、比較例2は、導電性繊維材料の剛軟度が高いため硬く、ガスケットを製造したときに、導電性繊維材料が芯材の角部に沿わずに円弧状になった。そのため、芯材の形状が維持できず、ノートパソコンの筐体のカバーが閉じられないため、内部に収納でなかった。一方、実施例1~4では、そのような問題はなかった。