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特開2023-98529不織布に含浸した次亜塩素酸ナトリウムの有効塩素濃度の低下(分解)について、樹脂容器保存での低下(自然分解)との比較で24カ月後も有効塩素濃度の低下(分解)を20%増に留める除菌・消臭ウエットシート
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  • 特開-不織布に含浸した次亜塩素酸ナトリウムの有効塩素濃度の低下(分解)について、樹脂容器保存での低下(自然分解)との比較で24カ月後も有効塩素濃度の低下(分解)を20%増に留める除菌・消臭ウエットシート 図1
  • 特開-不織布に含浸した次亜塩素酸ナトリウムの有効塩素濃度の低下(分解)について、樹脂容器保存での低下(自然分解)との比較で24カ月後も有効塩素濃度の低下(分解)を20%増に留める除菌・消臭ウエットシート 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098529
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】不織布に含浸した次亜塩素酸ナトリウムの有効塩素濃度の低下(分解)について、樹脂容器保存での低下(自然分解)との比較で24カ月後も有効塩素濃度の低下(分解)を20%増に留める除菌・消臭ウエットシート
(51)【国際特許分類】
   A47K 7/00 20060101AFI20230703BHJP
   D04H 1/435 20120101ALI20230703BHJP
   D04H 3/011 20120101ALI20230703BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20230703BHJP
   A61K 8/20 20060101ALI20230703BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20230703BHJP
   B65D 83/08 20060101ALN20230703BHJP
【FI】
A47K7/00 G
A47K7/00 H
D04H1/435
D04H3/011
A61Q19/10
A61K8/20
A61K8/02
B65D83/08 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021215583
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】517284670
【氏名又は名称】西村六兵衛株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西村 富太郎
【テーマコード(参考)】
3E014
4C083
4L047
【Fターム(参考)】
3E014MC07
4C083AB331
4C083BB48
4C083CC24
4C083DD12
4L047AA21
4L047DA00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】不織布に含浸した次亜塩素酸ナトリウムの有効塩素濃度の低下(分解)抑える除菌・消臭ウエットシートを提供する。
【解決手段】ポリエステル系の単一繊維のみで構成される不織布であり、さらに溶融ペレットから直接製造される不織布、または紡糸された繊維を使用した不織布である場合は、製造過程もしくは製造後に高圧水による洗浄工程が追加された不織布を使用して、次亜塩素酸ナトリウムを含浸させる。また、次亜塩素酸ナトリウムを含浸済みの除菌・消臭ウエットシートを保管、流通させるためのフィルムパッケージに、アルミニウムをシート状にしてラミネートする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系の単一繊維のみで構成される不織布であって、溶融ペレットから直接製造される不織布、または紡糸された繊維を使用した不織布である場合は、製造過程もしくは製造後に高圧水による洗浄工程が追加された不織布であり、その不織布に次亜塩素酸ナトリウムを含浸した除菌・消臭ウエットシート。
【請求項2】
請求項1に記載の除菌・消臭ウエットシートであって、それを保管、流通させるためのフィルムパッケージである樹脂フィルムにアルミニウムをシート状にしてラミネートされている除菌・消臭ウエットシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人や動物、機器、備品の表面を拭いて除菌、消臭を行う、不織布に次亜塩素酸ナトリウムを含浸済みのウエットシートに関する。
【0002】
より詳しくは、次亜塩素酸ナトリウムの有効塩素濃度の低下(分解)への影響を最小限に留める不織布、保存環境からの影響を抑制するフィルムパッケージに関する。
【背景技術】
【0003】
例えば、医療機関において、ドアノブ、椅子、机等を拭く除菌・消臭ウエットシートとして、その除菌、消臭剤に次亜塩素酸ナトリウムを使用するものが知られている。
【0004】
次亜塩素酸ナトリウムは、不織布に含浸すると有効塩素濃度が速やかに低下(分解)してしまうので、除菌・消臭ウエットシートとしての性能を長期間維持できず、現在、販売されている除菌・消臭ウエットシートは、次亜塩素酸ナトリウムと不織布が別々の容器に入れられており、購入者が使用前に不織布が納められた容器に次亜塩素酸ナトリウムを注ぎ入れ含浸するというものが提案されている。
【0005】
次亜塩素酸ナトリウムと不織布が別々の容器に入っていることから、どうしても購入者が不織布に次亜塩素酸ナトリウムを注ぎ入れ含浸するという作業が手間であり、多くのウエットティッシュが販売時に除菌剤がしみ込ませてあるのと同様に、次亜塩素酸ナトリウムを製造時に不織布に含浸しておくこと(含浸済)が求められている。
【0006】
製造時に含浸しておけば、購入者の含浸の手間、次亜塩素酸ナトリウムを入れておく容器削減にもつながることから、本来、含浸済みの製品を販売すべきところである。
【0007】
しかしながら別々の容器に入れるという販売形態をとっているのは、不織布に次亜塩素酸ナトリウムを含浸すると有効塩素濃度の低下(分解)が短期間に著しく、除菌・消臭ウエットシートとしての除菌、消臭性能を長期間維持できないことからこのように別々の容器にいれるという制限を受けてしまう。
【0008】
次亜塩素酸ナトリウムの樹脂容器保存(自然分解)(グラフ1の項目「樹脂容器」の値)と薬店で販売されていた不織布(綿100%)をアルミラミネートフィルムパッケージに入れ、次亜塩素酸ナトリウムを含浸した場合(自然分解+不織布の影響)(グラフ1の項目「不織布含浸」の値)の有効濃度の変化をグラフ1に示す。(事務所内:冷暗所保存)
【0009】
実験条件:
・樹脂容器
測定開始時の次亜塩素酸ナトリウムの濃度は210ppm
・不織布含浸
アルミラミネートフィルムパッケージに保管
測定開始時の次亜塩素酸ナトリウムの濃度は210ppm
【0010】
【0011】
有効塩素濃度210ppmでテストを開始し、樹脂容器保存(自然分解)では、24カ月後の有効塩素濃度の低下(分解)は-6ppm(-3%)であるのに対し、不織布含浸では、1カ月後に粗ゼロまで低下(分解)する。
【0012】
不織布に含浸した場合にこのような速やかな分解が進むのは、不織布を構成する繊維および不織布を製造するために繊維に塗布される潤滑剤(油脂、薬剤)に次亜塩素酸ナトリウムが反応してしまうからである。
【0013】
そのため不織布に使用する繊維は、次亜塩素酸ナトリウムとの反応が最も低いポリエステル系の単一繊維のみで構成され、他の合成繊維、天然繊維、精製再生繊維(セルロース系、タンパク質系、その他アルギン繊維・キチン繊維・マンナン繊維・ゴム繊維)が一切混紡されておらず、溶融ペレットから直接製造される不織布、または製造時もしくは製造後、繊維表面に塗布されている潤滑剤を高圧水で除去した不織布を使用することが重要である。
【0014】
次亜塩素酸ナトリウムの樹脂容器保存(自然分解)(グラフ2の項目「樹脂容器」の値)とポリエステル系の単一繊維のみで構成され、繊維表面に塗布されている潤滑剤(油脂、薬剤)を高圧水で除去した不織布をアルミラミネートフィルムパッケージに入れ、次亜塩素酸ナトリウムを含浸した場合(自然分解+不織布の影響)(グラフ2の項目「PET不織布含浸」の値)の有効濃度の変化を示す。(事務所内:冷暗所保存)
【0015】
実験条件:
・樹脂容器
測定開始時の次亜塩素酸ナトリウムの濃度は210ppm
・不織布含浸
に次亜塩素酸ナトリウム100mlを含浸
アルミラミネートフィルムパッケージに保管
測定開始時の次亜塩素酸ナトリウムの濃度は210ppm
【0016】
【0017】
有効塩素濃度210ppmでテストを開始し、樹脂容器保存(自然分解)では、24カ月後の有効塩素濃度の低下(分解)は-6ppm(-3%)であるのに対し、PET不織布含浸では-48ppm(-23%)であった。
自然分解が-3%であり、PET不織布含浸では-23%であるので、自然分解の-3%を-23%から引くと不織布の影響は-20%となる。
【0018】
また、次亜塩素酸ナトリウムは、光化学分解、とりわけ日光、特に紫外線により分解が促進する。
社内試験では、遮光ボトルとそうでないもの(乳白色ボトル)に215ppmに調整した次亜塩素酸ナトリウムを入れ、直射日光のあたる屋外に3時間/日×7日間置いておく試験を実施した。
遮光ボトルに入れた次亜塩素酸ナトリウムは、試験後の濃度測定でも190ppmであり、有効塩素濃度の低下(分解)は-25ppm(-12%)であったが、遮光でない乳白色ボトルに入れたのもではわずか7ppmであり、有効塩素濃度の低下(分解)は-208ppm(-97%)であった。
【0019】
そのためフィルムパッケージには、遮光できるアルミニウムをシート状にしてラミネートすることが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2005-13309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
特許文献1では、塩素系消毒剤(次亜塩素酸ナトリウム)や塩化ベンザルコニウムなどの逆性石鹸と呼ばれる全く性質、組成の異なる消毒液をひとまとめに考えている。
【0022】
特許文献1では、全く性質、組成の異なる消毒液をひとまとめに考えられているので次亜塩素酸ナトリウムの有効塩素濃度の低下も、不織布を構成する繊維が吸液性を有することに因るのであろうと推認している。
【0023】
しかしながら次亜塩素酸ナトリウムを例えば吸水性の良い綿の不織布に含浸した場合、有効塩素濃度の低下(分解)が短期間に起こるのは、次亜塩素酸ナトリウムが綿の素材そのものと反応し、有効塩素を消費するからで吸水性の良さが理由であることとは異なる。
【0024】
さらに合成繊維の不織布において、次亜塩素酸ナトリウムの短期間での有効塩素濃度の低下(分解)について、不織布の原糸(不織布を製造するための繊維)の製造工程(紡糸工程)で、一律的に界面活性剤が添加され原糸に付着していることとしているが、不織布の原糸を製造するメーカーは、各社、生産ラインでの滑り性を確保する潤滑剤について開示していない。
潤滑剤については、どのような潤滑剤が使われているか原糸各社の秘密事項である。
【0025】
また、界面活性剤のみが有効塩素濃度の低下(分解)要因でないと思われる証拠に、市販されている次亜塩素酸ナトリウムには、液剤に界面活性剤そのものを添加し、洗浄性能を上げているものもあり、界面活性剤のみが短期間での有効塩素濃度の低下(分解)の原因とは一概には言えない。
【0026】
ただしポリエステル系の単一繊維の不織布においても、その不織布に含浸した場合に次亜塩素酸ナトリウムの有効塩素濃度の速やかな低下(分解)があり、その原因は紡糸工程における生産ラインでの滑り性を確保して生産効率の向上を期すために、一律的に添加される何らかのいわゆる潤滑剤によることは確かである。
【0027】
また、特許文献1では、界面活性剤の添加を前提に請求項に「平成12年厚生省告示第133号に示された医薬不織布ガーゼ基準の溶出物基準(1)泡立ち試験に適合する」としている。
【0028】
さらに「平成12年厚生省告示第133号に示された医薬不織布ガーゼ基準の溶出物基準(1)泡立ち試験」とは、製品5.0gに水500mlを加え、還流冷却器をつけ30分間穏やかに煮沸し、冷後、ガラスろ過器(G2)を用いろ過し、これを試験液とする。そして試験液5mlを内径15mm、長さ約200mmの共栓試験管に入れ、3分間激しく振り混ぜ静置したとき、生じた泡が10分以内に消失することを適合要件とするものとされている。
【0029】
ここで例えば上記試験に適合したとしても、添加されている潤滑剤がシリコーン、油脂、化学薬品であり、強力に繊維に付着しているため泡立ち試験に適合したとしても、綿の場合と同様に次亜塩素酸ナトリウムと反応してしまうシリコーン、油脂、化学薬品の場合は、やはり有効塩素濃度が低下(分解)してしまい上記試験では不十分である。
【0030】
試験に適合するということではなく、溶融ペレットから直接製造される不織布(潤滑剤が添加されていない)、または紡糸された繊維を使用した不織布である場合は、製造過程もしくは製造後に高圧水による洗浄工程が追加された不織布(潤滑剤が除去された)ということが重要である。
【0031】
実際に原糸の潤滑剤を全く落とさずに製造されたポリエステル100%不織布(目付60g/m、15cm×20cm 15枚入り 容器はアルミラミネートフィルム)に次亜塩素酸ナトリウム215ppm 200mlを含浸し、有効塩素濃度の低下を2018年4月~6月末に測定した。
結果、1カ月後141ppm、2カ月後92ppm、3カ月後57ppmであった。
3カ月間の有効塩素濃度の低下(分解)は、-158ppm(-73%)である。
なお、含浸に使用した次亜塩素酸ナトリウムは、グラフ1、2で使用したものと同じ次亜塩素酸ナトリウムである。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明の目的は、除菌・消臭ウエットシートの製造時に次亜塩素酸ナトリウムを不織布に含浸済とし、24カ月間での有効塩素濃度の低下(分解)を自然分解+20%に抑えることで容器の軽減、含浸の手間を省力化し、市場での在庫、流通を実現することができる除菌・消臭ウエットシートを提供することにある。
【0033】
したがって有効塩素濃度をいかに保持し続けられるかについては、除菌・消臭ウエットシートを構成する不織布がポリエステル系の単一繊維のみで構成され、溶融ペレットから直接製造される不織布、または紡糸された繊維を使用した不織布である場合は、製造過程もしくは製造後に高圧水による洗浄工程が追加された不織布を使用することが重要である。
【0034】
さらにフィルムパッケージについては、アルミニウムをシート状にしてラミネート(遮光)したものを使用することが重要である。
【発明の効果】
【0035】
24カ月間での有効塩素濃度の低下(分解)を自然分解との比較で+20%に抑える除菌・消臭ウエットシートが完成したことにより、現在、次亜塩素酸ナトリウムと不織布を別々の容器に入れて販売されているものを次亜塩素酸ナトリウム含浸済みで市場に流通させることができる。
容器の削減、さらに購入者の手間を削減し、特に日々、次亜塩素酸ナトリウムを不織布に含浸しながら使用している医療機関での効果は大きい。
少しでも患者さんと向き合う時間を確保したい医療機関での導入が一気に進むと考えている。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】フィルムパッケージ入り除菌・消臭ウエットシートの外観
図2】フィルムパッケージ内部の不織布
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1は、本発明に係る除菌・消臭ウエットシートの実施例を示す。
図2は、高圧水による洗浄工程を追加して製造したポリエステル単一繊維の不織布であり、次亜塩素酸ナトリウム含浸済みである。
【符号の説明】
【0038】
1 アルミラミネートフィルム
2 取り出し口
3 次亜塩素酸ナトリウム含浸済みの織布
図1
図2