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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098532
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】包括固定化酵素及び微生物
(51)【国際特許分類】
   C12N 11/04 20060101AFI20230703BHJP
【FI】
C12N11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021215586
(22)【出願日】2021-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】599072297
【氏名又は名称】日之出産業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】508174344
【氏名又は名称】橋本 英夫
(72)【発明者】
【氏名】大林 世一
(72)【発明者】
【氏名】橋本 英夫
【テーマコード(参考)】
4B033
【Fターム(参考)】
4B033NA12
4B033NA22
4B033NB32
4B033NB45
4B033NC06
4B033ND20
(57)【要約】
【課題】
本発明が解決しようとする課題は、製造法が容易で、また、製造過程において熱処理や乾燥、有機溶媒の気化等により酵素及び微生物を変性させずに固定化し、活性の良い包括固定化酵素又は/及び微生物の製造方法及び包括固定化物を提供する。
【解決手段】
課題を解決するための手段は、酵素及び/又は微生物を包括固定化する試験を重ねる中で、カチオン荷電を有する有機凝結剤に酵素又は/及び微生物類を混合した液と、アニオン荷電を有する懸濁物質を含有した液を混合し、凝結化反応させ、凝結物中に酵素及び/又は微生物を包括固定化させる方法及び包括固定化物による。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A液)カチオン荷電を有する有機凝結剤に被固定化物質である酵素又は/及び微生物類を混合した液、
(B液)アニオン荷電を有する懸濁物質を含有した液、
(A液)と(B液)を混合し、凝結化反応させ凝結物中に該酵素及び/又は微生物を固定化させる包括固定化法
【請求項2】
アニオン荷電を有する懸濁物質が、セルロース類、珪藻土類、微生物由来の有機物質の1種以上を含む物質で、請求項1に記載の包括固定化法
【請求項3】
(A液)のカチオン荷電(A)、被包括物質のアニオン荷電(a)と、(B液)の懸濁物質のアニオン電荷(B)を加えたゼータ電位が、{(A)+(a)+(B)}=±10mV内である請求項1又は2項の包括固定化法
【請求項4】
(A液)カチオン荷電を含有する有機凝結剤に被固定化物質である酵素又は/及び微生物類を混合した液と、
(B液)アニオン荷電を有する懸濁物質を含有した液、
(A液)と(B液)を混合し、凝結化反応させ凝結物中に該酵素及び/又は微生物を固定化させた請求項1から3項の包括固定化物
【請求項5】
請求項4の該酵素又は/及び微生物包括固定凝結物にアニオン電荷を有する高分子凝集剤を加えて凝集物としたアニオン性包括固定化凝集物
【請求項6】
請求項5の該アニオン性包括固定化凝集物にカチオン電荷を有する高分子集剤を加えて凝集物としたカチオン性包括固定化凝集物
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、酵素及び/又は微生物の包括固定化方法及び包括固定化物に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素は、基質特異性に優れ、かつ効率性の高い触媒であることから、バイオマス、有用物質の生産、食品の加工、排水処理等と多くの分野において盛んに用いられている。また、微生物は酵素の分泌により基質を分解し栄養物を得るものが多く、代謝により有用物を得ることができる。
【0003】
触媒である酵素は水溶性であるため、使用すると反応系から分離することが困難で、再利用されず廃棄せざるを得ず、一反応当たりに占める酵素の価格が高くなる問題がある。そこで、複数回使用し製造コストの低減と工程の連続化を行うために、酵素を何らかの方法で固定化することが種々検討されている。微生物も固定化することで、酵素を連続的に分泌することができ、また、必要菌のシードとして繰り返し使用ができるため、固定化する方法が種々検討されている。
【0004】
固定化酵素は不溶性担体への酵素の結合様式により分類され、大きく分類すると固定化結合法と包括固定化法に分類される。固定化結合法には、吸着法、イオン結合法、共有結合法、架橋法、アフィニティー結合法があるが、この方式は生きた微生物を固定化することは困難である。包括固定化法は格子型、マイクロカプセル型、光硬化性樹脂、格子型+架橋法等であり、天然高分子化合物であるアルギン酸やカラギーナンが代表的な包括物である。
【0005】
これまでの包括固定化法は、ゲルや繊維素材の細かい格子の中に酵素を取り込む格子型があり、特許文献1では、高分子電解質に溶解した酵素等を凝固液に入れ、パール状の固形物を得る提案がなされている。工程上高温で乾燥し、また、金属性塩化物や硫化物に浸すため、酵素や生物体が不活性化し、また、固いため基質が高分子化合物の場合には、活性の発現が低いといった欠点があった。特許文献2では、絹フィブロインを包括剤とする固定化が提案されている。この発明は包括剤が生糸、まゆ、生糸屑等を用い、素材のフィブロインを生成する工程が複雑で、また、たんぱく分解酵素の使用ができず、使用法が複雑で問題が多い。特許文献3では、高分子ゲルマトリックスに有機溶媒を乳化し、酵素を溶解する方法が提案されている。包括固定化微生物類も提案しているが有機溶液を使用した後、それを気化するという非常に製造法が複雑であり、酵素や微生物の活性保持に欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】昭56-127091号
【特許文献2】特公平6-55141号
【特許文献3】昭61-173779
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、製造過程においる熱処理や乾燥、有機溶剤の気化等を省き、酵素及び微生物を変性させずに固定化し、活性の良い包括固定化酵素又は/及び微生物の製造方法及び包括固定化物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく、酵素及び/又は微生物を包括固定化する試験を重ねる中で、カチオン荷電を有する有機凝結剤に酵素又は/及び微生物類を混合した液と、アニオン荷電を有する懸濁物質を含有した液を混合し凝結化反応させ、凝結物中に酵素及び/又は微生物を包括固定化させる方法及び包括固定化物を見出し、本発明を完成させた。
【0009】
カチオン荷電を有する有機凝結剤にアニオン荷電を有する被包括物質(酵素及び/又は微生物類)を加えた液と、アニオン荷電を有する懸濁物質がセルロース類、珪藻土類、微生物由来の有機物質類の1種以上を含有する液を加え、ゼータ電位を中和し凝結反応させ、凝結物中に被包括物質を固定化させる方法及び包括固定化物を提供するものである。
【0010】
尚、該酵素又は/及び微生物の包括固定化凝結物に、アニオン電荷を含有する高分子凝集剤を加えて凝集物としたアニオン性包括固定化凝縮物を提供し、また、該アニオン性包括固定化凝集物にカチオン電荷を含有する高分子凝集剤を加えて凝集したカチオン性包括固定化凝集物を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本願発明の製造方法によれば、熱処理及び乾燥、有機溶剤の気化等の工程を省き、酵素及び微生物を変性させずに固定化し、活性の良い包括固定化酵素又は/及び微生物を製造することができる。また、包括固定化酵素と微生物の組み合わせは、多くの組み合わせが可能であり、産業上の価値も極めて高いものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の包括固定化酵素及び/又は微生物は、まず、有機凝結剤に被固定化物質である酵素又は/及び微生物類を混合した液と、懸濁物質を含有した液を混合し、凝結化反応させた凝結物中に包括固定化させる方法及びその包括固定化物である。また、該凝結物にアニオン荷電を有する高分子凝集剤を加えて凝集物としたアニオン性包括固定化凝集物及び該アニオン性包括固定化凝集物にカチオン荷電を有する高分子凝集剤を加えて凝集物としたカチオン性包括固定化凝集物である。以下これらを単に「本発明」という。
【0013】
本発明に使用している凝結方法は、カチオン荷電を有する有機凝結剤に酵素及び/又は微生物を混合した液と、アニオン荷電を有している懸濁物質液を混合させ、ゼータ電位が中和すると懸濁物質粒子が互いに集結(コアギュレーション)し、安定したサブミクロンレベルの凝結物が形成される。有機凝結剤は、一般的に分子量200万以下の物質である。
【0014】
コロイド粒子は、水中に分散し沈殿を起こさない直径1~100nmの粒子であり、その粒子表面構成分子の解離、粒子表面への誘電現象などで荷電を有する。その結果、コロイド粒子では粒子表面の荷電に対して反対の荷電が相対して吸着され、固定の電機二重層を形成し、吸着層のネルンスト層その外側のステルン層の界面においてゼータ電位を生じる。ゼータ電位が粒子間の反発の要因となり、粒子相互の凝集を妨害している。凝結を生じさせるにはゼータ電位を小さくする必要があり、即ちゼータ電位を0mV付近(中和点)にすればよい。
【0015】
本発明者は、鋭意実験を進める中で、水中のコロイド粒子より大きい粒子で直径1~10μmの微懸濁質、同様に10~100μmの粗懸濁質も、コロイド粒子と同様にゼータ電位を中和するための凝結価が存在すること、即ち、反対荷電を有する有機凝結剤を加えると電位が中和され、凝結反応を生じ凝結物質を作ることを発見した。
【0016】
そこで、本発明ではコロイド粒子、微細懸濁質、粗懸濁質である微細物質をまとめて懸濁物質と表記した。使用する懸濁物質は、微細木材、繊維素、紙類等のセルロース類、ケイ素を含む鉱物、粘土等の珪藻土類、生物及び微生物由来の粘性物質等の有機物質類などが挙げられ、水中でアニオンに帯電する物質である。
【0017】
本願発明の包括固定化凝結物を造る有機凝結剤と被包括固定化物質及び懸濁物質の関連は、有機凝結剤の電荷(A)に酵素及び/又は微生物類の電荷(a)を混合溶解し(A+a)の荷電を有する液と、アニオン荷電を有している懸濁物質の電荷(B)を混合すると、{(A+a)+(B)}=-10mV~+10mV(中和点)にて、懸濁物質のゼータ電位が中和されて凝結反応し凝結物ができる(A>aの条件)。この凝結物中に酵素や微生物が包括固定される。
【0018】
即ち、荷電の中和にて凝結反応が生じ、その中和点はゼータ電位としてマイナス10mVからプラス10mVであることが知られている。尚、凝結反応にて凝結物を生じ、中和点に達したことを有機凝結剤の量を持って凝結価で表すこともできる。中和点を求めるには、懸濁液に有機凝結剤を順次添加し、位相差顕微鏡を用いてコアギュレートした凝結物を確認し、{(A+a)+(B)}=-10mV~+10mVである中和点や凝結価を定めることができる。
【0019】
本発明において使用する凝結剤は有機凝結剤であり、一般に市販されているものが使用可能である。例えば、分子量200万以下のカチオン荷電を有する比較的低分子の有機物であり、被包括物質の可溶性を考慮すると分子量100以下がより好ましい。これらのモノマーは、ジアリルアミン系重合体、ジメチルアミノエチルアクリレート系重合体、縮合系ポリアミン、ジシアンジアミドとホルマリンの縮合物、ポリビニルイミダゾリン、ポリビニルピリジン、ポリビニルアミン、ポリビニルアミジン、ポリエチレンイミンなどが挙げられる。
【0020】
本発明において使用される酵素は、カチオン荷電を有する有機凝結剤に混合される。酵素としては特に限定されずアニオン荷電を有すものであればよい。例えば、酸化還元酵素ではデヒドロゲナーゼ群、シトクロム群、カタラーゼ・オキシダーゼ群、脂肪酸不飽和化酵素などが挙げられる。転移酵素ではアシル転移酵素・キナーゼ群、アミノトランスフェラーゼ群が挙げられる。加水分解酵素ではタンパク質分解酵素群(プロテアーゼ)、脂質分解酵素群(リパーゼ)、糖質分解酵素群(アミラーゼ、リゾチーム、β-ガラクトシダーゼ)、リン酸分解酵素群が挙げられる。その他、脱離酵素、異性化酵素などが挙げられる。
【0021】
本発明において使用される微生物は、真正細菌、古細菌、真核生物の真菌類、粘菌、原生動物、後生動物であり、生菌体でも乾燥菌体、菌体破砕物でよく、荷電がアニオン荷電を有するものであればよい。尚、オルガネラ、プロトプラスト、動・植物細胞、藻類、細胞破砕物でもよい。
【0022】
本願発明において使用される細菌類は、好気性菌、嫌気性菌、通性嫌気性菌、偏性嫌気性菌の全てであり、グラム陽性菌並びにグラム陰性菌でもよい。特に限定されるものではなく、例えば、種々の分解酵素を分泌するバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)、排水の窒素除去に利用される硝化菌ニトロソモナス・エウロペア等(Nitrosomonas europea)、メタン生成菌(Methanogen)、イオウ燃料電池に使われる硫酸還元菌のデサルフォビブリオ・ブルガリス(Desulfovibrio vulgaris)、水素発生菌のロドバクター・スファエロデス(Rhodobacter sphaerodes)等を挙げることができる。
【0023】
本願発明で使用される真正菌類は、特に限定されるものではなく、例えば食品醗酵酵母のパン酵母・清酒酵母(Saccharomyces cerevisiae)、ビール酵母(S.uvarum)、醤油酵母(S.rouxii)、ワイン酵母(S.ellipsoides)、トルラ酵母(Candida utilis)などが挙げられる。また、炭化水素や油脂を分解するヤロウイヤ・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、メタノール資化酵母のピチア・パストリス(Pichia pastoris)等が挙げられる。尚、カビ系の胞子・菌糸、種々の真菌類を利用することができる。
【0024】
本発明の該凝結物に、アニオン性高分子凝集剤を添加すると、凝結物が集合したフロキュレーションを生じ、アニオン性包括固定化凝集物を作ることができる。この凝集物は懸濁物質の組成により、例えば紙系のセルロースであれば軽く水中を浮遊し、珪藻土系のものは沈殿し易く、また、両者の混合物であれば中間的な浮遊が可能である。尚、フロキュレーションしたものを本発明では人工フロックと称する。
【0025】
該アニオン性包括固定化凝集物にカチオン性高分子凝集剤を添加することで、カチオン荷電を有する水に不溶なカチオン性包括固定化凝集物を作ることができる。このものも人工フロックと称し、水中を緩い撹拌で自由にタンク内や槽内を浮遊し、基質が存在するところで、酵素活性や微生物の繁殖を促し、効率の良い活性を示す。
【0026】
本発明に使用される高分子凝集剤は、懸濁物質をフレキュレーションして凝集物質を形成させるための物質である。この高分子凝集剤の作用機構は主にポリマー間の絡み合いによる凝集力の発現であり、その他、アニオン部のカルボキシル基や、ノニオン期のアミド基による水素結合による効果も考えられる。凝集剤の使用量は、一般に市販されているものを0.01~1.0%で使用するのがよい。高分子凝集剤は、イオン性によりアニオン性高分子凝集剤、両性高分子凝集剤、カチオン性高分子凝集剤、ノニオン性高分子凝集剤に大別される。
【0027】
通常、アニオン性高分子凝集剤は排水処理工程では金属塩や有機凝結剤で凝結させた凝結物を凝集させ、マイクロバブルなどで加圧浮上させて、かきとり機などで汚泥を除去する場合によく使用される。本発明に使用されるアニオン性高分子凝集剤は、一般に市販されているものが使用可能であり、分子中にアニオン性の基を含む重合物で、例えばポリアクリルアミド-アクリル酸系凝集剤があり、分子量は500万~2000万程のものである。ポリアクリルアミド部分加水分解物又はスルホメチル化ポリアクリルアミドから成るものもある。アクリル酸の割合により、低アニオン、中アニオン、高アニオンなどが挙げられる。マレイン酸重合体、ポリアクリル酸ソーダ、ポリスチレンスルホン酸ソーダ等が挙げあれる。使用するアニオン性高分子凝集剤は、凝結した物質との適合性に合わせて使用するのがよい。
【0028】
カチオン性高分子凝集剤は、排水処理にて生じる余剰汚泥を処理する場合に脱水助剤として利用することが多い。本発明に使用されるカチオン性高分子凝集剤は、一般に市販されているものが使用可能であり、例えば、カチオン性モノマー(共)重合体、カチオン性モノマーとカチオン性モノマーとの共重合体が使用できる。分子中に窒素がアンモニュウム、アミン性のカチオン性基がペンダント形、アイオネン形、環状形結合をしたものである。モノマーに対応し、ポリアミノアルキル(メタ)アクリレート、ポリビニルピリジニウムハライド、ポリジメチルジアリルアンモニウムハライド、ポリビニルアミジン、ポリアミノメチルアクリルアマイド、ポリビニルイミダゾリン、アイオネン系などが挙げられる。使用するカチオン性高分子凝集剤は、凝集した物質との適合性に合わせて使用するのがよい。
【0029】
本発明の両性高分子凝集剤は、カチオン性モノマーとアニオン性モノマーとアクリルアミドなどとの共重合により作られ、一般に市販されているものが使用可能である。分子量は100万~200万程である。pHの影響を受けて、pHが低い溶解液ではカルボキシル基などのアニオン性基の乖離が抑制され、カチオン性が強まり、また、pHが高い溶解液カルボキシル基などのアニオン性基の一部が乖離しアニオン性基が形成され、アニオン性基カチオン性基が共存する。さらにpHが高い溶解液ではカチオン性基の乖離が抑制され、アニオン性だけを持つ。使用する両性性高分子凝集剤は、凝集した物質との適合性に合わせて使用するのがよい。
【0030】
本願発明の人工フロックとは、酵素及び/又は微生物を有機凝結剤に混合し、アニオン荷電を有する懸濁物質の溶液を加えて造られた凝結物質は微細なため、カラム等に詰めるにはセラミック等の微細な穴を有する特異なものが必要となるが、利用しやすくするため、これに高分子凝集剤を添加し混合させて、フロキュレーションさせ大きな凝集体としたものである。すなわち、懸濁物質を凝結させた凝結物に、アニオン性高分子凝集剤を加えたアニオン性包括固定化凝集物でもよいし、更にカチオン性高分子凝集剤を加えたカチオン性包括固定化凝集物でもよい。この人工フロックは、水中に浮遊する形態にして、撹拌により水中に分散させて基質の分解や分解生成物を得ることができる特徴を有する。また、カラムに充填して連続的に処理することができる。
【実施例0031】
以下、実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれらに何ら制約されるものではない。
【実施例0032】
1.包括固定化リパーゼ(酵素)の作成
リパーゼAYSアマノ(富士フイルム和光純薬(株))0.04gをカチオン電荷を有する有機凝結剤であるエルビックB-100(日之出産業(株))1%溶液0.2mlに溶解させた液と、セルロース粉末(38μm通過、フジフイルム和光純薬(株))及び0.25gゼオライト(日東粉化工業(株)#70)0.25gを15mlの水に溶解した液を加えて凝結させた。この凝結液にアニオン性高分子凝集剤のPA-25HS(0.2%水溶液)0.8mを1加え、緩やかに撹拌し包括固定化酵素(リパーゼ)の人工フロックを作成した。このフロック以外の液を捨てた後、蒸留水を加えてデカンテーションして3回洗浄した。包括固定化リパーゼとして使用した。
【0033】
2.脂肪の分解性の確認
100ml三角フラスコに菜種油1.00g採取し、超音波装置にて15分間乳化した後、蒸留水15ml加え、37℃10分間予備加熱を行った。この液に先ほど作成した包括固定化リパーゼを全て入れて、37℃の恒温水槽中でストローク撹拌を5時間行い、脂肪酸を遊離させた。1%フェノールフタレイン液を指示薬として、遊離脂肪酸をN/20水酸化ナトリウム・アルコール溶液で滴定した。
【0034】
3.実施例1の結果及び考察
凝結物中に包括固定化リパーゼが形成されているが、微細な凝固物であるので、高分子凝集剤にて人工フロック化して処理した結果、油脂の分解率を鹸化価から推定すると、加水分解率は14.3%であった。乳化剤及び緩衝液等を省いた単純液中での分解であり、やや時間がかかったものの、分解は十分に行われることを確認した。
【実施例0035】
2.包括微生物による微生物の増殖試験
包括固定化バチルス菌(バチルス・サブチリス(NITE BP―1277))の製造法
加熱滅菌したカチオン荷電を有する有機凝結剤のエルビックB―70(日之出産業(株))1%溶液1mlに被包括物質としてバチルス・サブチリス(2×10cfu/ml)1ml加え混合した液と、ゼオライト(日東粉化工業(株)#70)0.5gと微生物由来のアルギ
した液を攪拌し、凝結化反応にて包括固定化バチルス菌を作った。
【0036】
この液にアニオン性高分子凝集剤のエルビックセトラーPA25HS(日之出産業(株))0.2%を1ml加えた後、カチオン性高分子凝集剤エルビックセトラーPC190S(日之出産業(株))加えて包括固定化バチルス菌の人工フロックを作製し、滅菌蒸留水を加えて3回デカンテーションにて洗浄し、市販のブイヨン培地を所定どおり作成し、35℃48時間培養した。
【0037】
実施例2の結果及び考察
培養後の菌数を測定すると3×10cfu/mlであった。この包括固定化微生物剤を培養後の培養液から抜き出し、蒸留水で3回デカンテーションにて洗浄したものをシードとして、その後4回同様に処理し使用した。包括固定化バチルス菌は、24時間後の培養時の菌数は表1のごとく2回目4×10cfu/ml、3回目3×10cfu/ml、4回目5×10cfu/ml、5回目4×10cfu/mlであり、シード菌とし安定し十分有効であり、繰り返し使用できることが分かった。
【0038】
【表1】
【実施例0039】
3.ラクターゼ及び乳酸菌による乳酸の生成
実験3-1
包括固定化ラクターゼ(酵素)及び乳酸菌(ATCC 53103株)作成
加熱滅菌したカチオン荷電を有する有機凝結剤のエルビックB―70(日之出産業(株))1%溶液1mlにラクターゼ230mg(Nature‘s Way Brand)と凍結乾燥乳酸菌(ラクトバチラス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus(ATCC 53103))0.1g(1010cfu/g)を添加して撹拌した液と、懸濁物質としてセルロース粉末(富士フイルム和光純薬(株)38μm)0.5gに加熱滅菌し常温に冷却した蒸留水を30ml加え、凝結反応させて凝結物を作成した。この凝結物にアニオン性の両性高分子凝集剤のPG-655G(日之出産業(株))0.2%溶液1.0mlを加え、緩やかに撹拌して包括固定化酵素及び微生物(ラクターゼ、乳酸菌)の人工フロックを作成した。尚、この乳酸菌(乳酸菌ATCC 53103株)は乳糖を分解できず、牛乳中では乳酸を生成しないことが知られ、グルコースでは生育し乳酸を生成することが知られている。
【0040】
実験3-2
包括固定化ラクターゼの作成
加熱滅菌した有機凝結剤のエルビックB―70の1%溶液1mlにラクターゼ230mgを添加して撹拌したこの液と、懸濁物質としてセルロース粉末0.5gに加熱滅菌し常温に冷却した蒸留水を30ml加え、凝結反応をさせて凝結物を作成した。この凝結物にPG-655Gの0.2%液1.0mlを加え、緩やかに撹拌して包括固定化ラクターゼの人工フロックを作成した。
【0041】
実験3―3
包括固定化乳酸菌(ATCC 53103株)の作成
加熱滅菌した有機凝結剤エルビックB―70の1%溶液1mlに乳酸菌(ATCC 53103株)0.1gを添加して撹拌したこの液と、懸濁物質としてセルロース粉末0.5gに加熱滅菌し常温に冷却した蒸留水を30ml加え、凝結反応をさせて凝結物を作成した。この凝結物にPG-655Gの0.2%液1.0mlを加え、緩やかに撹拌して包括固定化乳酸菌の人工フロックを作成した。
【0042】
実施例3の結果及び考察
市販の牛乳に包括固定化ラクターゼ及び乳酸菌を加えて48時間37℃にて静置培養を行い、培養後に乳酸酸度を測定した結果は0.7%の乳酸酸度を示した。牛乳に単独の包括固定化ラクターゼ又は包括固定化乳酸菌のみを加えて同様に培養を行い、培養後に乳酸酸度を測定した結果は、培養前と変化なく0.13%の酸度を示した。包括固定化ラクターゼ及び乳酸菌を加えた場合のみ、乳酸菌数は2.7×10cfu/mlであった。
【0043】
表2に示した結果から、包括固定化した使用乳酸菌株(ATCC 53103)単独では乳糖を分解できず、乳酸酸度の上昇もなかった。又、包括固定化ラクターゼ単独処理も同様に乳酸酸度は上昇せず、しかし、処理後の牛乳に粉末の該乳酸菌を加えると乳酸酸度の上昇がみられ、乳糖を分解していたことが確認できた。乳酸菌及びラクターゼの2物質を同時に包括固定化したもののみ、ラクターゼが分解したグルコースを乳酸菌が利用し、増殖し、乳酸の酸度は上昇した。このことから、本発明では酵素及び微生物を同時に包括固定化することが確認された。
【0044】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0045】
本願発明の製造方法によれば、熱処理及び乾燥、有機溶剤の気化等の工程を省き、酵素及び微生物を変性させずに固定化し、活性の良い包括固定化酵素又は/及び微生物を製造することができる。尚、包括固定化酵素と微生物の組み合わせは、多くの組み合わせが可能であり、産業上の価値も極めて高いものである。
【0046】
本包括固定化物を用いて人工フロックを作製し、反応槽の中に浮遊させて回分的な処理もカラムに詰めて連続処理も可能であり、産業上の価値も極めて高いものである。