(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098554
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】正極活物質、正極合剤及び二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20230703BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094146
(22)【出願日】2022-06-10
(62)【分割の表示】P 2021213841の分割
【原出願日】2021-12-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】521335915
【氏名又は名称】株式会社ルネシス
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【弁理士】
【氏名又は名称】森 博
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 貞充
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA00
5H050AA02
5H050AA19
5H050BA15
5H050CA11
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】リチウムや遷移金属元素を必要としない、二次電池用正極活物質を提供する。
【解決手段】
以下の式(1)又は式(2)で表される硫黄化合物を含有する正極活物質。
[化1]
MxSyOz (1)
(式(1)中、MはNa又はKであり、xは0を超え3以下の範囲であり、yは1以上8以下であり、zは1以上8以下である。)
[化2]
MxHSyOz (2)
(式(2)中、MはNa又はKであり、xは0を超え3以下の範囲であり、yは1以上8以下であり、zは1以上8以下である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(1)又は式(2)で表される含硫黄化合物を含有することを特徴とする正極活物質。
[化1]
MxSyOz (1)
(式(1)中、MはNa又はKであり、xは0を超え3以下の範囲であり、yは1以上8以下であり、zは1以上8以下である。)
[化2]
MxHSyOz (2)
(式(2)中、MはNa又はKであり、xは0を超え3以下の範囲であり、yは0を超え8以下であり、zは1以上8以下である。)
【請求項2】
前記含硫黄化合物が、Na2SO3、NaHSO3、Na2SO4、NaHSO4、Na2SO5、Na2SO8、Na2S2O3、Na2S2O4、Na2S2O5、Na2S2O6、Na2S2O7及びNa2S2O8からなる群から選択される1種以上である請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記含硫黄化合物が、K2SO3、KHSO3、K2SO4、KHSO4、K2SO5、K2SO8、K2S2O3、K2S2O4、K2S2O5、K2S2O6、K2S2O7及びK2S2O8からなる群から選択される1種以上である請求項1に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記含硫黄化合物と炭化物との複合体からなる請求項1から3のいずれかに記載の正極活物質。
【請求項5】
前記炭化物が、タイヤ由来の炭化物である請求項4に記載の正極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウム又はカリウムの含硫黄化合物を含有する正極活物質、及び当該正極活物質を含有する正極合剤並びに二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、携帯電話用途等の小型電源、電気自動車用途、電力貯蔵用途等の中型・大型電源としてその需要は近年増大している。一方、リチウム二次電池の正極活物質の主要な構成元素であるリチウムは、採算性が取れる塩湖からの生産は一部の国に限られていることから、リチウム二次電池の需要拡大に伴う供給不安や価格高騰が懸念されいる。そのため、リチウム二次電池を代替する新たな二次電池の正極活物質の研究開発が行われている。
【0003】
ナトリウム二次電池は、その構成材料には資源的に豊富なナトリウム化合物を正極活物質に使用できることから、リチウム二次電池の代替候補である。これまで、ナトリウム二次電池の正極活物質として、様々なナトリウム遷移金属複合化合物が提案されている。このようなナトリウム遷移金属複合化合物として、例えば、ナトリウム鉄コバルト複合金属酸化物(例えば、特許文献1)、ナトリウムマンガンコバルトニッケル複合金属酸化物(例えば、特許文献2)、ナトリウムマンガンチタンニッケル複合酸化物(例えば、特許文献3)等が報告されている。
【0004】
また、ナトリウム遷移金属複合化合物以外のナトリウム二次電池の正極活物質として、特許文献4には、特殊な多環芳香族炭化水素から選ばれる炭素源化合物由来の炭素骨格と、該炭素骨格と結合した硫黄(S)とからなる正極活物質が報告されている。
【0005】
また、リチウム二次電池のナトリウム二次電池以外の代替候補として、カリウム二次電池が挙げられる。特許文献5にはカリウム、遷移金属、リンを含む複合酸化物を正極活物質に使用したカリウム二次電池が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-203565号公報
【特許文献2】特開2014-229452号公報
【特許文献3】特開2012-206925号公報
【特許文献4】特許第5737679号公報
【特許文献5】特許第6800322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~3等で開示されたナトリウム二次電池用の正極活物質は、資源的に乏しいコバルト、ニッケル等の遷移金属元素を必要であり、また、特許文献4の正極活物質は、遷移金属元素を含まないものの、特殊な炭素骨格と硫黄を結合させる合成が必要であり、かつ、正極活物質自体にアルカリ金属が含まれないため、電池として使用する際に電解液中のアルカリ金属イオンを正極活物質にプレドープする工程が必須となる等、原料供給、生産コスト、運転条件等の点で改善の余地があった。また、カリウム二次電池は、特許文献5等での報告もあるが、開発例が乏しく有用な正極活物質の候補が求められていた。
【0008】
かかる状況下、本発明の目的は、リチウムや遷移金属元素を必要としない、新たな正極活物質及びこれを含む正極合剤、並びに二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 以下の式(1)又は式(2)で表される含硫黄化合物を含有する正極活物質。
【0011】
[化1]
MxSyOz (1)
(式(1)中、MはNa又はKであり、xは0を超え3以下の範囲であり、yは1以上8以下であり、zは1以上8以下である。)
【0012】
[化2]
MxHSyOz (2)
(式(2)中、MはNa又はKであり、xは0を超え3以下の範囲であり、yは0を超え8以下であり、zは1以上8以下である。)
<2> 前記含硫黄化合物が、Na2SO3、NaHSO3、Na2SO4、NaHSO4、Na2SO5、Na2SO8、Na2S2O3、Na2S2O4、Na2S2O5、Na2S2O6、Na2S2O7及びNa2S2O8からなる群から選択される1種以上である<1>に記載の正極活物質。
<3> 前記含硫黄化合物が、K2SO3、KHSO3、K2SO4、KHSO4、K2SO5、K2SO8、K2S2O3、K2S2O4、K2S2O5、K2S2O6、K2S2O7及びK2S2O8からなる群から選択される1種以上である<1>に記載の正極活物質。
<4> 前記含硫黄化合物と炭化物との複合体からなる<1>から<3>のいずれかに記載の正極活物質。
<5> 前記炭化物が、タイヤ由来の炭化物である<4>に記載の正極活物質。
<6> <1>から<5>のいずれかに記載の正極活物質と導電材とを含有する正極合剤。
<7> 正極、負極、及び電解質を備え、前記正極が、<6>に記載の正極合剤を用いてなる二次電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リチウムや遷移金属元素を含まず、従来のナトリウム二次電池やカリウム二次電池を代替する新たな二次電池の正極活物質及びこれを含む正極合剤、並びに二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実験例1の二次電池(正極活物質:チオ硫酸ナトリウム・五水和物(試薬))の充放電試験の測定データである。
【
図2】実験例2の正極活物質のXRDパターンである。
【
図3】正極活物質のXAFSスペクトル(S K-edge)であり、(a)は実施例1(チオ硫酸ナトリウム・五水和物(試薬))、(b)は実験例2(合成品)である。
【
図5】実験例2の正極活物質のSEM―EDXマッピングである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、本明細書において、「~」とはその前後の数値又は物理量を含む表現として用いるものとする。また、本明細書において、「A及び/又はB」と いう表現には、「Aのみ」、「Bのみ」、「A及びBの双方」が含まれる。
【0016】
<1.正極活物質>
本発明の正極活物質の第1の態様は、以下の式(1)で表される含硫黄化合物を含有する。
【0017】
[化3]
MxSyOz (1)
【0018】
式(1)において、Mはナトリウム(Na)又はカリウム(K)である。xは、Mの割合を示し、0を超え3以下の範囲である。
【0019】
式(1)において、yは、硫黄(S)の割合を示し、1以上8以下の範囲である。
【0020】
式(1)において、zは、酸素(O)の割合を示し、1以上8以下の範囲である。
【0021】
なお、式(1)において、x、y、zはそれぞれ整数でない場合も含む。すなわち、式(1)で表される含硫黄化合物は不定比酸化物である場合も含まれる。
【0022】
式(1)において、x、y及びzが、上記範囲内であると、充放電を繰り返すことが可能な正極を与えることができる正極活物質となる。なお、x、y及びzの値は、原料の使用量、製造条件等を制御することで調整することができる。
【0023】
本発明の正極活物質の第1の態様は、以下の式(2)で表される含硫黄化合物を含有する。
【0024】
[化4]
MxHSyOz (2)
【0025】
式(2)において、MはNa又はKである。xは、Mの割合を示し、0を超え3以下の範囲である。
【0026】
式(2)において、yは、硫黄(S)の割合を示し、0を超え8以下の範囲である。
【0027】
式(2)において、zは、酸素(O)の割合を示し、1以上8以下の範囲である。
【0028】
なお、式(2)において、x、y、zはそれぞれ整数でない場合も含む。すなわち、式(2)で表される含硫黄化合物は不定比酸化物である場合も含まれる。
【0029】
式(2)において、x、y及びzが、上記範囲内であると、充放電を繰り返すことが可能な正極を与えることができる正極活物質となる。なお、x、y及びzの値は、原料の使用量、製造条件等を制御することで調整することができる。
【0030】
以下、式(1)で表される含硫黄化合物と、式(2)で表される含硫黄化合物とを区別する必要がない場合には総称して、「本発明の含硫黄化合物」と記載するものとする。
【0031】
本発明の含硫黄化合物の好適例は、式(1)又は式(2)において、MがNaの含硫黄化合物である。そのような含硫黄化合物として、具体的には、Na2SO3、NaHSO3、Na2SO4、NaHSO4、Na2SO5、Na2SO8、Na2S2O3、Na2S2O4、Na2S2O5、Na2S2O6、Na2S2O7及びNa2S2O8が挙げられる。この中でも、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)は好適な一例である。
【0032】
本発明の正極活物質の他の好適例は、式(1)又は式(2)において、MがKの含硫黄化合物である。そのような含硫黄化合物として、具体的には、K2SO3、KHSO3、K2SO4、KHSO4、K2SO5、K2SO8、K2S2O3、K2S2O4、K2S2O5、K2S2O6、K2S2O7及びK2S2O8からなる群から選択される1種以上である。この中でも、チオ硫酸カリウム(K2S2O3)は好適な一例である。
【0033】
本発明の正極活物質は、上記含硫黄化合物を1種、または2種以上を含有することができる。
【0034】
本発明の正極活物質において、本発明の含硫黄化合物は、結晶に限定されず、非晶質であってよく、結晶と非晶質の混合体であってもよい。また、本発明の含硫黄化合物は、非水和物であってもよいが、水和物として使用してもよい。
【0035】
本発明の正極活物質は、本発明の含硫黄化合物を含有すればよく、本発明の含硫黄化合物のみであってもよいが、本発明の効果を損なわない限り、他の物質を含有していてもよい。他の物質としては、例えば、炭化物が挙げられる。なお、本明細書において、「炭化物」は、含炭素原料(有機物)を炭化させたものであり、炭素(C)のみであってもよいが、本発明の目的を損なわない範囲で、炭素以外の元素を含んでいてもよいものとする。
炭素以外の元素としては、例えば、窒素(N)、硫黄(S)、酸素(O)、Fe等の金属元素等が挙げられるが、本発明の目的を損なわない限り制限されない。
【0036】
炭化物は、含炭素原料や焼成条件にもよるが、多孔質体とすることもできる。
炭化物の製造条件は、含炭素原料の種類や、目的とする炭化物の物性(結晶性、多孔度等)を考慮して適宜決定される。典型的には、含炭素原料を、低酸素分圧下(例えば、N2等の不活性ガスの流通下)で加熱し炭化処理を行う。炭化処理温度は、例えば、500℃以上2000℃以下である。
【0037】
炭化物の原料となる含炭素原料は、本発明の目的を損なわない限り任意であり、バイオマス原料(例えば、木材、竹、籾殻等)、各種樹脂材料、ゴム材料等のプラスチック類が挙げられる。
【0038】
本発明の正極活物質は、本発明の含硫黄化合物と炭化物との複合体(以下、「本発明の複合体」又は単に「複合体」と記載する場合がある。)からなることが好ましい。ここで、本発明の複合体は、本発明の含硫黄化合物と炭化物とを単に混合したものではなく、本発明の含硫黄化合物と炭化物とが、物理的及び/又は化学的に複合化した複合体を意味する。物理的な複合体は、炭化物に本発明の含硫黄化合物を物理的に保持した複合体であり、例えば、炭化物上へ本発明の含硫黄化合物媒を担持した複合体、炭化物上へ本発明の含硫黄化合物を吸着させた複合体、炭化物上へ本発明の含硫黄化合物を析出させた複合体等が挙げられる。化学的な複合体は本発明の含硫黄化合物と炭化物とが化学的に結合された状態の複合体であり、例えば、本発明の含硫黄化合物又はその前駆体化合物と、炭化物とを混合し、不活性ガス雰囲気下で熱処理することで製造することができる。
【0039】
本発明の複合体において、炭化物に複合化された本発明の含硫黄化合物は、固体であっても、液体であっても、固体と液体の混合状態であってもよい。
【0040】
本発明の正極活物質に、本発明の複合体を使用することで電池性能が向上する。その理由は現段階では明らかでない部分もあるが、本発明の含硫黄化合物と炭化物との複合体を形成することによって、本発明の含硫黄化合物と炭化物とを混合したものと比較して、炭化物と含硫黄化合物との電子移動がよりスムーズになることが一因と推測される。
【0041】
上記複合体における炭化物の原料となる含炭素原料の好適な一例としてはタイヤが挙げられる。タイヤはゴム(例えば、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR))を主原料とし、各種配合剤や構造材を含む。このように本発明の正極活物質の一例は、タイヤ由来の炭化物を使用した複合体である。
【0042】
本発明の正極活物質における本発明の含硫黄化合物の割合は、正極活物質全体を100重量%(乾燥重量ベース)とした場合に、例えば、5~100重量%である。
【0043】
本発明の正極活物質の形状は、本発明の目的を損なわない限り、任意である。例えば、粒子状、島状、膜状等が挙げられる。
【0044】
<2.正極合剤>
本発明の正極合剤は、上記の本発明の正極活物質と導電材とを含有する。
【0045】
本発明の正極活物質は、電気伝導度がそれほど高くないため、それのみで正極を形成すると電極内抵抗が大きくなる。そのため、通常、他の導電性材料である導電材(及び必要に応じて他の材料)と混合して使用することによって電極内の導通を確保する。
【0046】
導電材は、電極を形成した際に電子伝導性を向上させる役割を有する。導電材は、導電性(電子伝導性)を有し、本発明の正極活物質の性能を損なわない材料であればよく、無機材料、有機材料のいずれでもよいが、典型的には炭素系材料である。
【0047】
炭素系材料としては、二次電池や燃料電池に使用される任意の炭素系材料を使用することができ、より具体的には、黒鉛粉末、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック等)、繊維状炭素材料(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、気相成長炭素繊維等)などを挙げることができる。
この中でも、カーボンブラックは、微粒で表面積が大きく、電極材料中に添加されることにより、得られる電極内部の導電性を高め、充放電効率および大電流放電特性を向上させることも可能である。
【0048】
炭素系材料の形状や大きさは、電極の使用目的等を考慮して適宜選択できるが、炭素系材料が粒子状である場合には、例えば、粒径0.03~500μmであり、繊維状である場合、直径2nm~20μm、全長0.03~500μm程度である。
【0049】
本発明で使用される導電材は、1種類でもよいし、または大きさ(粒径、繊維径及び繊維長さ)や結晶性等の異なる2種以上の導電材を任意の割合で使用してもよい。
【0050】
電極材料における導電材の割合は、電極の使用目的等を考慮して適宜選択できるが、導電材が炭素系材料の場合、電極中の炭素系材料の場合は、通常、電極活物質100重量部に対して5~100重量部である。
【0051】
本発明の電極材料は、本発明の正極活物質及び導電材のみから構成されていてもよいが、本発明の目的を損なわない範囲で他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、典型的にはバインダーが挙げられる。
【0052】
バインダーは、他の電極構成材料を接着する結着剤としての作用を有する。なお、電極
が上述の電極形成剤を含有する場合には、バインダーは、電極形成剤の添加量が不十分で、接着性が不足している場合に用いられる。
バインダーとしては、例えば有機高分子化合物からなるバインダーが挙げられる。バインダーとしての有機高分子化合物としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロースなどの多糖類及びその誘導体;
ポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体;フェノール樹脂;メラミン樹脂;ポリウレタン樹脂;尿素樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリアミドイミド樹脂;石油ピッチ;石炭ピッチなどが挙げられる。
【0053】
バインダーは、結合剤としては複数種の結合剤を使用してもよい。
【0054】
バインダーの電極における構成材料の配合量は、例えば、正極活物質及び導電材の合計100重量部に対し、通常0.5~50重量部程度、好ましくは1~30重量部程度である。
【0055】
<3.二次電池>
本発明の二次電池は、正極、負極、及び電解質を備え、正極が、上記本発明の正極合剤を用いてなることを特徴とする。なお、本発明の二次電池の構造は特に限定されず、従来公知の二次電池の構造を採用することができる。例えば、積層型(扁平型)電池、巻回型(円筒型)電池等が挙げられる。
【0056】
以下、それぞれの構成要素について説明する。
【0057】
正極は集電体と、当該集電体の表面に形成された正極活物質層とを有し、正極活物質層は、上記本発明の正極合剤(正極活物質、導電材及びバインダー)で形成される。
【0058】
集電体としては、特に限定されず従来公知のものを使用できる。例えば、ニッケル、アルミニウム、ステンレス(SUS)等の導電性の材料を用いた箔、メッシュ、エキスパンドグリッド(エキスパンドメタル)、パンチドメタル等が挙げられる。
【0059】
集電体の大きさや厚みは、電池の使用用途に応じて決定され、使用する正極の大きさに応じて適宜適した大きさのものを選択できる。
【0060】
正極を製造する方法は、典型的には正極合剤(正極活物質、導電材及びバインダー)と溶媒とを混合させて調整したスラリーを集電体上に塗工し、乾燥後プレスする等して固着することで、集電体の表面に正極活物質層を形成して正極を得る。
【0061】
スラリーの溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルアミノプロピリアミン、ジエチルトリアミン等のアミン系;エチレンオキシド、テトラヒドロフラン等のエーテル系;メチルエチルケトン等のケトン系;酢酸メチル等のエステル系;ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。
スラリーを集電体上に塗工する方法としては、本発明の目的を損なわない限り制限はないが、例えばスリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法、静電スプレー法等を挙げることができる。
【0062】
負極は、集電体と、当該集電体の表面に形成された負極活物質層とを有し、負極活物質層は、典型的には負極活物質を含む負極合剤で形成される。
【0063】
負極活物質としては、ナトリウムイオンを吸蔵・脱離することのできる天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、ハードカーボン、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体等の炭素材料が挙げられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、又は微粉末の凝集体等のいずれでもよい。ここで、炭素材料は、導電材としての役割を果たす場合もある。
【0064】
上記の通り、本発明において負極活物質は、特定のものに限定されないが、ハードカーボンを使用してもよい。
【0065】
ハードカーボンは、2000℃以上の高温で熱処理してもほとんど積層秩序が変化しない炭素材料であり、難黒鉛化炭素ともよばれる。ハードカーボンとしては、炭素繊維の製造過程の中間生成物である不融化糸を1000~1400℃程度で炭化した炭素繊維、有機化合物を150~300℃程度で空気酸化した後、1000~1400℃程度で炭化した炭素材料等が例示できる。ハードカーボンの製造方法は特に限定されず、従来公知の方法により製造されたハードカーボンを使用することができる。
【0066】
負極活物質層中の負極活物質の含有量は特に限定されないが、80~95質量%である
ことが好ましい。
【0067】
バインダーとしては、正極に使用可能なものと同様のものが使用可能であるため、これらについては説明を省略する。集電体としては、ニッケル、銅、ステンレス(SUS)等の導電性の材料を用いる。集電体は正極用の集電体と同様に、箔、メッシュ、エキスパンドグリッド(エキスパンドメタル)、パンチドメタル等から構成される。
【0068】
また、負極活物質層を集電体上に形成する方法としては、正極活物質層を集電体上に形成する方法と同様の方法を採用することができる。
【0069】
電解質は、特に限定されず、液体、固体のいずれの形態であってもよく、典型的には、
電解液(非水系溶媒)に電解質のナトリウム塩又はカリウム塩を溶解した溶液が使用される。本発明の二次電池における電解質は特に制限はないが、実施例で開示した電解質は好適な一例である。
【0070】
電解質塩は、ナトリウム二次電池又はカリウム二次電池に一般的に用いられる電解質塩を使用できる。電解質塩のうち1種を用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用い。
【0071】
電解液としては、ナトリウム二次電池又はカリウム二次電池に用いられる電解液を使用することができ、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等のカーボネート類;1,2-ジメトキシエタン、1,3-ジメトキシプロパン等のエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;3-メチル-2-オキサゾリドン等のカーバメート類;トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスファート等のホスファート類;又は上記の有機溶媒にさらにフッ素置換基を導入したものを用いることができる。
【実施例0072】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、以下における「%」は、特に明示しない限り「重量%」を示す。
【0073】
(実験例1)
実験例1の正極活物質として、試薬のチオ硫酸ナトリウム・五水和物(Na2S2O3・5H2O、富士フイルム和光純薬株式会社製)、導電材にアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、以下、「AB」と記載)、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(ダイキン工業株式会社製、以下、「PVDF」と記載)を使用した。なお、PVDFは、0.5%カーボンナノチューブ(CNT)を含むN‐メチル‐2‐ピロリドン溶液(楠本化成株式会社「TUBALLTM BATT NMP PVDF」、以下、「NMP溶媒」と記載)に溶解したバインダー溶液として使用した。
【0074】
実施例1の正極は以下の通り作製した。
正極活物質としてチオ硫酸ナトリウム・五水和物0.8g(全体の74%)及び導電材としてのAB0.2g(全体の19%)を、PVDF0.076g(全体の7.01%)を含むNMP溶媒0.747g(CNTは実質0.004g、固形分比率0.37%)に均一になるように混合(混練)することによって実験例1の正極合剤を得た。
次いで、得られた正極合剤を正極集電体となるアルミシート(厚さ16μm)に塗布し、50℃で3時間乾燥を行って正極シートを得た。得られた正極シートから15mmφで切り抜いて実験例1の正極とした。
【0075】
負極は、以下の通り作製した。
負極活物質として廃タイヤ由来炭化物「ルネシスA1(品番)」を使用した。
廃タイヤ由来炭化物「ルネシスA1(品番)」は、廃タイヤを不活性雰囲気容器内で、400℃迄2時間で加熱し、廃タイヤ内の成分をガス化及び冷却にて油化(ガス化及び油化合計約55%)し、ガス化及び油化しない残渣物を回収した。回収した廃タイヤ熱分解残渣物をさらに熱処理後、粉砕して平均粒度20μmとした後に、16000ガウスの電磁分離機で磁性体を完全に除去して得られる廃タイヤ熱分解残渣物由来の炭化物である。
負極活物質(廃タイヤ由来炭化物)を1.5g(全体の92.71%)と、バインダーとしてのポリアクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、製品名20CLPAH)0.106g(全体の6.55%)とを、溶媒として0.007gのカルボキシメチルセルロース(CMC)及び0.005gのCNTを含む水溶液(楠本化成株式会社「TUBALLTM BATT H2O CMC」)1.2gと共に混合(混練)することによって負極合剤を得た。
次いで、得られた負極合剤を負極集電体となるアルミシート(厚さ16μm)に塗布し、70℃で3時間乾燥を行って負極シートを得た。得られた負極シートから11.3mmφで切り抜いて負極とした。
【0076】
得られた正極と負極を、電解液としてトリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスファート(TFEP)に、ナトリウム塩としてナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NaFSI)を2モル/リットルとなるように溶解したもの(以下、「NaFSI/TFEP」と記載)と、セパレータとしてセルガード2400と、これらを組み合わせて、実験例1の電池(コイン型電池(円筒型、外径20mm/高さ3.2mm)、以下「コイン型電池(R2032)」と記載)を得た。
【0077】
上記の実施例1の電池を用いて、25℃保持下、以下に示す条件で充放電試験を実施した。
(セル構成) 2極式
正極:正極活物質を含む電極
負極:負極活物質を含む電極
電解質:2M NaFSI/TFEP
(充放電条件)
電圧範囲:0.5-3.9V
充電は、定電流を3.9Vまで流し続けその後、電圧維持するだけの電流を5時間流し、電流値が低下していくCVCC充電で行った。
【0078】
実験例1の電池の充放電試験の結果は以下の通りである。
図1に充放電試験の測定データを示す。
133.5μA/1.766cm
2(正極15mmφ)
充放電回数:20回
放電時間:約1時間(133μAh)
【0079】
(実験例2)
実験例2の正極活物質は、以下の手順で得た。
炭化物として廃タイヤ由来炭化物「ルネシスA1(品番)」(実験例1の負極と同じもの)を使用した。炭化物(廃タイヤ由来炭化物)5.5g(原料全体の24.2%)と、過炭酸ナトリウム8.44g(原料全体の37.2%)、コールタール2.75g(原料全体の12.1%)、硫黄6g(原料全体の26.4%)をステンレス容器で混錬し加熱炉に投入し、容器内を不活性雰囲気とするために窒素ガスを流し10分後加温を開始した。温度上昇は、50分で300℃に設定し、300℃到達後も加熱を続け、350℃で停止した。その後、温度が200℃に下降して加熱炉から取り出し、自然冷却した。容器内部温度が50℃以下になった後に合成品をとりだした。合成品重量は、15.2gであった。合成品をミキサーで粉砕して平均粒度20μmの粉末からなる実験例2の正極活物質を得た。
【0080】
得られた実験例2の正極活物質について、粉末X線回折測定(XRD)及びエックス線吸収微細構造測定(XAFS)による評価を行った。測定装置及び測定条件は以下の通りである。
【0081】
<粉末X線回折測定>
粉末X線回折測定(XRD)は、Bruker axs社製、型番:D8ADVANCEを用いて行った。
測定は、粉末試料を専用の基板に充填し、CuKα線源を用いて、粉末X線回折パターンを得た。
<エックス線吸収微細構造測定>
九州シンクロトロン光研究センターにおいて、BL11を使用して、エックス線吸収微細構造(XAFS、透過法)を評価した。
【0082】
実験例2の正極活物質のXRDパターンを
図2、XAFSスペクトル(S K-edge)を
図3に示す。
図2に実験例2の正極活物質のXRDプロファイルをCOD(Crysyallography Open Database)のデータと対比したところ、過炭酸ナトリウムのシグナルが消滅し、チオ硫酸ナトリウム五水和物と一致したシグナルが確認された。
【0083】
また、
図3において、実験例2の正極活物質とチオ硫酸ナトリウム五水和物(試薬)のXAFSスペクトルがほとんど一致していることが確認された。
以上の結果から、実験例2の正極活物質がチオ硫酸ナトリウム五水和物の結晶を含有することが確認された。
【0084】
図4に実験例2の正極活物質のSEM像、
図5に
図4に対応するSEM―EDXマッピングの結果を示す。SEM―EDXマッピングにおいて、Na及びSが炭化物全体に分布していることから、実験例2の正極活物質は、チオ硫酸ナトリウムが炭化物に均一に分散した複合体であると判断した。
【0085】
以下の通り、実験例2の正極を得た。
実験例2の正極活物質2g(全体の94.49%)及び導電材としてのAB0.056g(全体の2.64%)を、PVDF0.058g(全体の2.71%)を含むNMP溶媒0.673g(CNTは実質0.003g、固形分比率0.08%)に均一になるように混合(混練)することによって実験例2の正極合剤を得た。次いで、得られた正極合剤を正極集電体となるアルミシート(厚さ16μm)に塗布し、50℃で3時間乾燥を行って正極シートを得た。得られた正極シートから15mmφで切り抜いて実験例2の正極とした。
【0086】
実験例2の正極を使用した以外は、上記実験例1と同様にして実験例2の電池(コイン型電池(R2032))を得た。
実験例2の電池の充放電試験の結果は以下の通りである。
73.5μA/1.766cm2(正極15mmφ)
充放電回数:20回
放電時間:約4時間(73.5μAh)
【0087】
(実験例3)
以下の通り、実験例3の正極を得た。
実施例3の正極活物質として、試薬のチオ硫酸カリウム無水物を使用した。チオ硫酸カリウム無水物1.003g(全体の86%)及び導電材としてのAB0.063g(全体の5.41%)を、PVDF0.073g(全体の6.27%)を含むNMP溶媒2.453g(CNTは実質0.025g、固形分比率2.14%)に均一になるように混合(混練)することによって実験例3の正極合剤を得た。
次いで、得られた正極合剤を正極集電体となるアルミシート(厚さ16μm)に塗布し、50℃で3時間乾燥を行って正極シートを得た。得られた正極シートから15mmφで切り抜いて実験例3の正極とした。
【0088】
負極は、実施例1と同様の手順で作製した。
【0089】
得られた正極と負極を、電解液としてトリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスファート(TFEP)に、カリウム塩としてカリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(KFSI)を2モル/リットルとなるように溶解したもの(以下、「KFSI/TFEP」と記載)と、セパレータとしてセルガード2400と、これらを組み合わせて、実験例3の電池(コイン型電池(R2032))を得た。
【0090】
上記の実施例3の電池を用いて、25℃保持下、以下に示す条件で充放電試験を実施した。
(セル構成) 2極式
正極:正極活物質を含む電極
負極:負極活物質を含む電極
電解質:2M KFSI/TFEP
(充放電条件)
電圧範囲:2.0-4.2V
充電は、定電流を4.2Vまで流し続けその後、電圧維持するだけの電流を5時間流し、電流値が低下していくCVCC充電で行った。
【0091】
実験例3の電池の充放電試験の結果は以下の通りである。
62.4μA/1.766cm2(正極15mmφ)
充放電回数:5回
放電時間:約4時間(62.4μAh)
【0092】
(実験例4)
実験例4の正極活物質は、以下の手順で得た。
炭化物として廃タイヤ由来炭化物「ルネシスA1(品番)」(実験例1の負極と同じもの)を使用した。炭化物(廃タイヤ由来炭化物)10g(原料全体の20%)と、炭酸水素カリウム25g(原料全体の51%)、コールタール3.8g(原料全体の8%)、硫黄10g(原料全体の20%)の原料合計48.8gをステンレス容器で混錬し加熱炉に投入し、容器内を不活性雰囲気とするために窒素ガスを流し10分後加温を開始した。温度上昇は、50分で300℃に設定し、300℃到達後も加熱を続け、350℃で停止した。その後、温度が200℃に下降して加熱炉から取り出し、自然冷却した。容器内部温度が50℃以下になった後に合成品をとりだした。合成品重量は、歩留まり67%の32.5gであった。合成品をミキサーで粉砕して平均粒度20μmの粉末からなる実験例4の正極活物質を得た。実験例4の正極活物質を、XRDによる評価を行ったところ、チオ硫酸カリウムの結晶が含まれることが確認された。
【0093】
実験例4の正極活物質を使用した以外は、上記実験例3と同様にして実験例4の正極合剤及び正極を得た。また、実験例4の正極を使用した以外は、上記実験例3と同様にして実験例4の電池(コイン型電池(R2032))を得た。
【0094】
上記の実施例4の電池を用いて、25℃保持下、実施例3と同条件で充放電試験を実施した。
充放電試験の結果は以下の通りである。
64.7μA/1.766cm2(正極15mmφ)
充放電回数:5回
放電時間:約5時間(64.7μAh)