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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098558
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】無機質ガラスコーティング剤
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20230703BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20230703BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230703BHJP
   C03C 17/02 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D1/00
C09D7/61
C03C17/02 B
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022098450
(22)【出願日】2022-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2021215599
(32)【優先日】2021-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】505204974
【氏名又は名称】株式会社九州ハイテック
(72)【発明者】
【氏名】脇園 怜
【テーマコード(参考)】
4G059
4J038
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AC18
4G059AC22
4G059FA22
4G059FB06
4J038DL051
4J038GA07
4J038HA446
4J038JC32
4J038KA04
4J038KA06
4J038NA01
4J038NA24
4J038NA25
4J038PB05
4J038PC03
4J038PC04
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】アルコキシシランの中でも比較的分子量が小さく引火点も低く、反応性の高いものを選定することによって、通常条件のみならず悪条件下においても安定した乾燥硬化性をえることができる無機質ガラスコーティング剤を提供することを課題とする。
【解決手段】アルコキシシラン及びシランカップリング剤を主成分とした無機質ガラスコーティング剤において、前記アルコキシシランは3官能アルコキシシランであって、引火点が40℃以下である第一石油類及び又は第二石油類、且つ分子量180以下、さらにこのアルコキシシランの少なくとも1種以上が、アルコキシシラン及びシランカップリング剤の合計割合を100wt%とした場合、10wt%~80wt%含有した無機質ガラスコーティング剤とした。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシシラン及びシランカップリング剤を主成分とした無機質ガラスコーティング剤において、前記アルコキシシランは3官能アルコキシシランであって、引火点が40℃以下である第一石油類及び又は第二石油類、且つ分子量180以下、さらにこのアルコキシシランの少なくとも1種以上が、アルコキシシラン及びシランカップリング剤の合計割合を100wt%とした場合、10wt%~80wt%含有した無機質ガラスコーティング剤。
【請求項2】
前記シランカップリング剤について、エポキシ基シランカップリング剤を1種以上含有し、その含有量がアルコキシシラン及びシランカップリング剤の合計割合を100wt%とした場合、10wt%~80wt%含有した請求項1記載の無機質ガラスコーティング剤。
【請求項3】
前記3官能アルコキシシラン及びエポキシ基シランカップリング剤を主成分としたアルコキシシラン及びシランカップリング剤に、水性及び/または溶剤系コロイダルシリカ、希釈溶媒として水及び/又は溶剤、触媒を混合した請求項1及び2何れかに記載の無機質ガラスコーティング剤。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はPVC床用(塩ビ系床材)、各種石材用、フローリング用、セラミックタイル用、磁器タイル用、コンクリート用などあらゆる床の保護を目的とした無機質ガラスコーティング剤に関するものである。また、水溶性タイプのコーティング剤だけでなく、溶剤系のコーティング剤も含めた無機質ガラスコーティング剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、各種床用の無機質ガラスコーティング剤としては、本出願人の特許文献として(特許第4957926号)や特許第6775171号などの先行特許文献がある。これらの先行特許文献により、各種床材にコーティングすると床材の表面にガラス質の膜を貼ったような高品質な仕上がりが得られることや、その状態を長期に亘って維持出来るためにメンテナンスが不要となること、更には廃液を出さないために環境にも優れていることなど、多くの特長を有することは周知の通りである。そのため、全国のスーパーマーケットや各種商用施設、病院、老健施設、学校関係、公共施設、店舗、一般住宅など多くの施設で導入が拡大している。特に近年、環境問題やSDGsの観点からも環境に優しいメンテンナンスシステムとして注目を浴びてきているのが現状である。しかしながら、いろいろな施設で使用すればするほど、施工時の諸条件などで安定した仕上がりが得られず、課題が多いのも事実であった。例えば夏場は施工時の温度条件はいいものの、冬場になると気温が下がるために乾燥・硬化性(反応性)が著しく不安定になることや、スーパーマーケットの冷ケース回りも同様に著しく低温になるために乾燥・硬化性が不安定となること。さらには梅雨時期になると高湿条件で施工しなければならないため、乾燥・硬化性が不安定になったりするなど、施工時の温湿度条件により、無機質ガラスコーティング剤の乾燥・硬化性(反応性)が不安定になるのも事実であった。また、吸い込みのある床材、例えばコンクリート床や御影石床などの場合は基材の中にコーティング剤が吸い込まれてしまうため、乾燥・硬化性が著しく不安定になる傾向にあった。一般的に通常条件(温湿度条件が良好な場合)であれば施工後、約1日~3日位で本来の被膜特性(翌日の特性として硬度3H以上や各種耐薬品特性など)が得られ、使用上、特に問題はないが、前述したような悪条件(低温、高湿条件下)になると本来の被膜特性を得るのに2週間~2ケ月位の時間を要し、その間に重歩行や各種溶液に晒されてしまうと、光沢が劣化したり被膜が侵されてしまったりし、本来の保護膜特性が得られないことが課題であった。
【従来技術】
【0003】
本出願人は、特許文献1(特許第4957926号)において、「少なくともアルコキシシランの1種もしくは2種以上が4官能及び3官能のアルコキシシランの混合物から成るポリオルガノシロキサンと、平均径5~20nmの超微粒コロイダルシリカとを混合した主成分に対し、シリコーンアルコキシオリゴマー及び/又は2官能のアルコキシシランと、前記超微粒シリカとアルコキシシランとの結合剤としてシランカップリング剤と、触媒としてリン酸系触媒やチタン系触媒と、被膜の静電気特性を改善するためにイオン伝導剤等を配合した化学床保護用可撓性付与常温硬化型無機質コーティング剤」である旨記載され、「Pタイルや塩ビシートなど化学床保護を目的とし、柔軟性(可撓性)を付与させて密着性を向上させクラックや剥がれを防止すると共に、本来の高硬度、高自己流動性、高光沢を保持して、さらに低い帯電抵抗値を有するようにする化学床保護用可撓性付与常温硬化型無機質コーティング剤を提供する」旨説明されている。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1においては、本発明の如く「アルコキシシラン及びシランカップリング剤を主成分とした無機質ガラスコーティング剤において、前記アルコキシシランは3官能アルコキシシランであって、引火点が40℃以下である第一石油類及び又は第二石油類、且つ分子量180以下、さらにこのアルコキシシランの少なくとも1種以上が、アルコキシシラン及びシランカップリング剤の合計割合を100wt%とした場合、10wt%~80wt%含有した無機質ガラスコーティング剤、また、前記シランカップリング剤について、エポキシ基シランカップリング剤を1種以上含有し、その含有量がアルコキシシラン及びシランカップリング剤の合計割合を100wt%とした場合、10wt%~80wt%含有した請求項1記載の無機質ガラスコーティング剤、さらに、前記3官能アルコキシシラン及びエポキシ基シランカップリング剤を主体としたアルコキシシラン及びシランカップリング剤に、水性及び/または溶剤系コロイダルシリカ、希釈溶媒として水及び/又は溶剤、触媒を加えた無機質ガラスコーティング剤」である点が記載されていない。従って、例えば夏場は施工時の温度条件はいいものの、冬場になると気温が下がるために乾燥・硬化性(反応性)が著しく不安定になることや、スーパーマーケットの冷ケース回りも同様に著しく低温になるために乾燥・硬化性が不安定となること、さらには梅雨時期になると高湿条件で施工しなければならないため、乾燥・硬化性が不安定になったりするなど、施工時の温湿度条件により、無機質ガラスコーティング剤の乾燥・硬化性(反応性)が不安定になるのも事実であった。また、吸い込みのある床材、例えばコンクリート床や御影石床などの場合は基材の中にコーティング剤が吸い込まれてしまうため、乾燥・硬化性が著しく不安定になる。従って、該特許文献1を参酌して本発明を容易に推考することは出来ない。
【0005】
また、本出願人は、特許文献2(特許第6065247号)においては、「塩化ビニル系タイルの表面にガラス質無機系保護コーティング層を形成し、トップコート層が鉛筆硬度試験と耐摩耗試験の相関データに基づき測定した場合の鉛筆硬度が10H相当以上、かつコーティング処理後においてガラス質層が硬化する際に生じる架橋反応(縮合反応)時の収縮により塩化ビニル系タイル基材側に発生するタイル端部の反りが1mm以下である積層型無機系保護コーティング塩化ビニル系タイル、及び塩化ビニル系タイルの表面に少なくともアンダーコート層、中間コート層、トップコート層の積層型無機系保護コーティング処理を施すものであって、前記アンダーコート層の硬度が3H~6H、厚みを20μm~50μm、中間コート層の硬度が6H~9H、厚みを10μm~40μm、トップコート層の硬度が10H相当以上、厚みが3μm~20μmの複数層を積層するようにした積層型無機系保護コーティング塩化ビニル系タイルのコーティング方法」旨記載され、「塩化ビニル系タイル上に形成する無機系保護トップコーティン層については、10H以上の高硬度仕様にしなければならないのと、その皮膜にクラックがないこと、コーティング剤の硬化収縮時にタイルの反りが1mm以下になるように抑制されることが前提である。タイルの反りが発生しなければクラックの発生も起き難い。経験的に1mm以下の変形量であれば1%以内のクラックの発生量に留めることが出来る。それにより、塩化ビニル系タイルが持っている柔軟性を犠牲にすることなく、超高硬質の皮膜を塩化ビニル系タイルの上に形成出来、ビニル系床タイルでありながら、セラミックタイルが持つ高硬度、耐摩耗性、長期光沢維持性やメンテナンスフリー、環境適合性(廃液処理が不要)と、ビニル系床タイルが持つ安価さ、汎用性(新店、改装店、既存店など全てへの導入)、高層階への導入、歩行性の向上、転倒事故の回避、美観の長期維持などの特徴を併せ持つことが出来、歩行やカート及び台車などによる使用時のタイル自体の変形や衝撃に対しても追従できる柔軟性を付与させた積層型無機系保護コーティング塩化ビニル系タイルを提供することができる」旨説明されている。
【0006】
しかしながら、上記特許文献2においては、本発明の如く「アルコキシシラン及びシランカップリング剤を主成分とした無機質ガラスコーティング剤において、前記アルコキシシランは3官能アルコキシシランであって、引火点が40℃以下である第一石油類及び又は第二石油類、且つ分子量180以下、さらにこのアルコキシシランの少なくとも1種以上が、アルコキシシラン及びシランカップリング剤の合計割合を100wt%とした場合、10wt%~80wt%含有した無機質ガラスコーティング剤、また、前記シランカップリング剤について、エポキシ基シランカップリング剤を1種以上含有し、その含有量がアルコキシシラン及びシランカップリング剤の合計割合を100wt%とした場合、10wt%~80wt%含有した請求項1記載の無機質ガラスコーティング剤、さらに、前記3官能アルコキシシラン及びエポキシ基シランカップリング剤を主体としたアルコキシシラン及びシランカップリング剤に、水性及び/または溶剤系コロイダルシリカ、希釈溶媒として水及び/又は溶剤、触媒を加えた無機質ガラスコーティング剤」である点記載されていない。従って、例えば夏場は施工時の温度条件はいいものの、冬場になると気温が下がるために乾燥・硬化性(反応性)が著しく不安定になることや、スーパーマーケットの冷ケース回りも同様に著しく低温になるために乾燥・硬化性が不安定となること。さらには梅雨時期になると高湿条件で施工しなければならないため、乾燥・硬化性が不安定になったりするなど、施工時の温湿度条件により、無機質ガラスコーティング剤の乾燥・硬化性(反応性)が不安定になるのも事実であった。また、吸い込みのある床材、例えばコンクリート床や御影石床などの場合は基材の中にコーティング剤が吸い込まれてしまうため、乾燥・硬化性が著しく不安定になる。従って、該特許文献2を参酌して本発明を容易に推考することは出来ない。
【0007】
また、本出願人は、特許文献3(特許第6065247号)においては「少なくともアルコキシシランの1種以上が4官能基及び3官能基のアルコキシシランの混合物から成るポリオルガノシロキサンと、エポキシ官能基を有するシランカップリング剤を有し、平均粒径5~20nmの超微粒コロイダルシリカとを含む主成分を有し、100重量比に対し、ポリオルガノシロキサンが30~50wt%、シランカップリング剤5~20wt%、超微粒コロイダルシリカが20~40wt%、それに反応硬化性を高める触媒としてリン酸等を重量比で0.1~5.0wt%か、チタン系触媒及び/又はアルミニウム系触媒が重量比で0.1~20.0wt%かを添加する」旨記載され、「[課題]表面に鉛筆硬度が12H相当以上の超硬質系塗膜で、耐水性、防汚性、滑り性、密着性が良好で、クラック発生のないコーティング層を有する、光沢が80以上でメンテナンスフリー型石材タイルの提供する」旨説明されている。
【0008】
しかしながら、上記特許文献3においては、本発明の如く「アルコキシシラン及びシランカップリング剤を主成分とした無機質ガラスコーティング剤において、前記アルコキシシランは3官能アルコキシシランであって、引火点が40℃以下である第一石油類及び又は第二石油類、且つ分子量180以下、さらにこのアルコキシシランの少なくとも1種以上が、アルコキシシラン及びシランカップリング剤の合計割合を100wt%とした場合、10wt%~80wt%含有した無機質ガラスコーティング剤、また、前記シランカップリング剤について、エポキシ基シランカップリング剤を1種以上含有し、その含有量がアルコキシシラン及びシランカップリング剤の合計割合を100wt%とした場合、10wt%~80wt%含有した請求項1記載の無機質ガラスコーティング剤、さらに、前記3官能アルコキシシラン及びエポキシ基シランカップリング剤を主体としたアルコキシシラン及びシランカップリング剤に、水性及び/または溶剤系コロイダルシリカ、希釈溶媒として水及び/又は溶剤、触媒を加えた無機質ガラスコーティング剤」である点記載されていない。従って、例えば夏場は施工時の温度条件はいいものの、冬場になると気温が下がるために乾燥・硬化性(反応性)が著しく不安定になることや、スーパーマーケットの冷ケース回りも同様に著しく低温になるために乾燥・硬化性が不安定となること。さらには梅雨時期になると高湿条件で施工しなければならないため、乾燥・硬化性が不安定になったりするなど、施工時の温湿度条件により、無機質ガラスコーティング剤の乾燥・硬化性(反応性)が不安定になるのも事実であった。また、吸い込みのある床材、例えばコンクリート床や御影石床などの場合は基材の中にコーティング剤が吸い込まれてしまうため、乾燥・硬化性が著しく不安定になる。従って、該特許文献3を参酌して本発明を容易に推考することは出来ない。
【0009】
また、本出願人は、特許文献4(特許第6775171号)においては、「コーティング剤を100wt%として、アルコキシシラン及びシランカップリング剤は3官能もしくは2官能のいずれかであるアルコキシシラン及びシランカップリング剤並びにその加水分解縮合物の混合物からなるポリオルガノシロキサンを20wt%~50wt%と、平均粒径5nm~25nmのコロイダルシリカを30wt%~60wt%と、触媒としてリン酸など、酸系触媒を0.2wt%~2.0wt%混合したものを主成分とし、希釈溶媒として引火性の溶媒やアルコールなどを全く含まない難燃性化学床用水性保護コーティング剤」である旨記載され、「光沢度80以上で、鉛筆硬度10H以上、滑り特性が乾式で0.6以上、湿式で0.5以上であって、可燃性の溶媒を全く含まず、引火性の危険性、取扱いや保管、運搬などの法的な規制、溶媒などの揮発成分による人体への有害性の問題など、従来この種タイルの課題が一気に改善される難燃性化学床材を提供することができる。引火点が80℃以上、好ましくは100℃以上である」旨説明されている。
【0010】
しかしながら、上記特許文献4においては、本発明の如く「アルコキシシラン及びシランカップリング剤を主成分とした無機質ガラスコーティング剤において、前記アルコキシシランは3官能アルコキシシランであって、引火点が40℃以下である第一石油類及び又は第二石油類、且つ分子量180以下、さらにこのアルコキシシランの少なくとも1種以上が、アルコキシシラン及びシランカップリング剤の合計割合を100wt%とした場合、10wt%~80wt%含有した無機質ガラスコーティング剤、また、前記シランカップリング剤について、エポキシ基シランカップリング剤を1種以上含有し、その含有量がアルコキシシラン及びシランカップリング剤の合計割合を100wt%とした場合、10wt%~80wt%含有した請求項1記載の無機質ガラスコーティング剤、さらに、前記3官能アルコキシシラン及びエポキシ基シランカップリング剤を主体としたアルコキシシラン及びシランカップリング剤に、水性及び/または溶剤系コロイダルシリカ、希釈溶媒として水及び/又は溶剤、触媒を加えた無機質ガラスコーティング剤」である点記載されていない。従って、例えば夏場は施工時の温度条件はいいものの、冬場になると気温が下がるために乾燥・硬化性(反応性)が著しく不安定になることや、スーパーマーケットの冷ケース回りも同様に著しく低温になるために乾燥・硬化性が不安定となること。さらには梅雨時期になると高湿条件で施工しなければならないため、乾燥・硬化性が不安定になったりするなど、施工時の温湿度条件により、無機質ガラスコーティング剤の乾燥・硬化性(反応性)が不安定になるのも事実であった。また、吸い込みのある床材、例えばコンクリート床や御影石床などの場合は基材の中にコーティング剤が吸い込まれてしまうため、乾燥・硬化性が著しく不安定になる。従って、該特許文献4を参酌して本発明を容易に推考することは出来ない。
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は前述の問題を解決すべく、アルコキシシラン及びシランカップリング剤を主成分とした無機質ガラスコーティング剤において、前記アルコキシシランは3官能アルコキシシランであって、引火点が40℃以下である第一石油類及び又は第二石油類、且つ分子量180以下、さらにこのアルコキシシランの少なくとも1種以上が、アルコキシシラン及びシランカップリング剤の合計割合を100wt%とした場合、10wt%~80wt%含有した無機質ガラスコーティング剤、また、前記シランカップリング剤について、エポキシ基シランカップリング剤を1種以上含有し、その含有量がアルコキシシラン及びシランカップリング剤の合計割合を100wt%とした場合、10wt%~80wt%含有した請求項1記載の無機質ガラスコーティング剤、さらに、前記3官能アルコキシシラン及びエポキシ基シランカップリング剤を主体としたアルコキシシラン及びシランカップリング剤に、水性及び/または溶剤系コロイダルシリカ、希釈溶媒として水及び/又は溶剤、触媒を加えた無機質ガラスコーティング剤を得ることを課題とする。
【課題を解決する手段】
【0012】
請求項1の発明は、アルコキシシラン及びシランカップリング剤を主成分とした無機質ガラスコーティング剤において、前記アルコキシシランは3官能アルコキシシランであって、引火点が40℃以下である第一石油類及び又は第二石油類、且つ分子量180以下、さらにこのアルコキシシランの少なくとも1種以上が、アルコキシシラン及びシランカップリング剤の合計割合を100wt%とした場合、10wt%~80wt%含有した無機質ガラスコーティング剤を提供するものである。
【0013】
この発明においては、アルコキシシランの中でも比較的分子量が小さく引火点も低く、反応性の高いものを選定することによって、通常条件のみならず悪条件下においても安定した乾燥硬化性を提供することができる。
【0014】
請求項2の発明は、前記シランカップリング剤について、エポキシ基シランカップリング剤を1種以上含有し、その含有量がアルコキシシラン及びシランカップリング剤の合計割合を100wt%とした場合、10wt%~80wt%含有した請求項1記載の無機質ガラスコーティング剤を提供するものである。
【0015】
この発明においては、請求項1にてコーティング剤の乾燥・硬化性を改善し、低温高湿条件下、吸い込みのある床材であっても安定した乾燥・硬化性が得られるようにしたものであるが、その際に発生する急速な硬化収縮による白化現象やクラック発生の抑制、あるいは被膜自身の脆弱化を補う必要があることと、さらには静電気特性、リコート特性、湿式・乾式での滑り性を補うべく、特にエポキシ基シランカップリング剤を1種以上使用することで塗膜の性能を大幅に改善出来る。
【0016】
請求項3の発明は、前記3官能アルコキシシラン及びエポキシ基シランカップリング剤を主成分としたアルコキシシラン及びシランカップリング剤に、水性及び/または溶剤系コロイダルシリカ、希釈溶媒として水及び/又は溶剤、触媒を混合した請求項1及び2何れかに記載の無機質ガラスコーティング剤を提供するものである。
【0017】
この発明においては、低温高湿条件下であっても翌日の硬度が3H以上、さらには翌日の耐溶液性(耐水性、耐アルコール性、耐酸性、耐アルカリ性)」を有する無機質ガラスコーティング剤を提供できる。
【0018】
請求項1乃至請求項3の発明には水溶性タイプのコーティング剤と溶剤系タイプのコーティング剤があるが、水溶性タイプのコーティング剤は極力溶媒を含まず、前述したアルコキシシランやシランカップリング剤と必要に応じ、水溶性コロイダルシリカ、水、それにリン酸などの触媒から構成され、これを混合して出来る無機質ガラスコーティング剤となる。一方、溶剤系タイプのコーティング剤は、このアルコキシシラン及びシランカップリング剤と必要に応じ、溶剤系コロイダルシリカ、希釈溶媒としてアルコールなどを加え、これにリン酸などの触媒を加える仕様や、あるいはアミノシランなどを触媒として加え、反応させ乾燥硬化させる方法がある。いずれも基本組成は前述したアルコキシシラン及びシランカップリング剤となり、水性及び/または溶剤系コロイダルシリカ、水やアルコールなどの希釈溶媒、それに触媒としてリン酸などから構成されるものである。
【0019】
これらの発明においては施工時の乾燥硬化性を改善すべく、主成分であるアルコキシシラン及びシランカップリング剤に着目し、低温条件下や高湿条件下、それに吸い込みのある床材など、あらゆる条件下において安定した仕上がりが得られるようにしたものである。
【先行技術文献】
【0020】
【特許文献1】特許第4957926号公報
【特許文献2】特開2016-210670号公報
【特許文献3】特許第6065247号公報
【特許文献2】特許第6775171号公報
【0021】
表1、2は従来の材料仕様において、温湿度条件をパラメータにした時の乾燥性、翌日の硬化性(翌日の硬度)の結果を示す。先ず、表1に施工時の温度条件をパラメータにした時の乾燥性と翌日の硬度値を示すが、施工時の温度条件が20℃以上であれば比較的安定した乾燥性が得られ、翌日の硬度も3H以上の硬度が得られているが、15℃以下になると乾燥が遅れ、翌日の硬度値も3H未満となる。また、10℃になると著しく乾燥性が不安定になり90分の乾燥時間を要し、翌日の硬度も1Hしか得られない。さらに5℃以下の場合は基本的にシロキサン結合そのものの反応・硬化性が不安定になるため、材料の使用限界点に近づくものと思われる。
【表1】
・湿度:50%に固定して測定。
・JIS鉛筆硬度試験により、ガラス板に塗布して測定。
【0022】
一方、表2に湿度をパラメータにした時の乾燥時間と翌日の硬度値を示す。低湿条件下では比較的乾燥・硬化性に優れており、湿度50%以下では15分~30分位の乾燥時間となり、翌日の硬度も3H以上が得られているが、70%以上になると乾燥性が著しく遅れ、また、翌日の硬度も3H未満となる。
【表2】
・室温:25℃に固定して測定。
・JIS鉛筆硬度試験により、ガラス板に塗布して測定。
【0023】
以上の結果より、施工時の温度が低温になればなるほど、また、湿度が高湿になればなるほど、コーティング剤の乾燥性や硬化性(翌日の硬度)が不安定になることが分かる。
【0024】
表3に床材毎の乾燥性、硬化性(翌日の硬度)を示す。下記、試験結果より、一般的に吸い込みの少ない床材ほど乾燥・硬化性に優れていることが明らかである。ガラス板や御影石鏡面、それにセラミックタイル鏡面などの床は乾燥も速く、翌日の硬度も4H~5Hと高いことが分かるが、一方、コンクリートなどの床は吸い込みが激しいため、コーティング剤がコンクリート内部に吸い込まれてしまい、乾燥・硬化に時間を要することが分かる。
【表3】
・室温:25℃、湿度:50%に固定して測定。
・フローリングとPVC床は下地剤を塗布。
【0025】
上記の通り、吸い込みの少ないガラス板や御影石、セラミックタイルなどは乾燥性に優れ、翌日の硬度も3H以上の高硬度が得られているが、コンクリートなどの床は乾燥に時間を要し、翌日の硬度も3H未満となるため、吸い込みのある床材は乾燥・硬化性が遅れることが分かる。ただ、*印のフローリング床やPVCタイルの床については吸い込みが無く乾燥性には優れているものの、翌日の硬度が3H未満となるが、この原因は下地剤を塗布していることと、床材自身が柔らかいため、その硬さを拾って低めの硬度値になっているものと推測する。
【0026】
以上のことから従来の材料仕様だと、施工時の温度条件が低温になればなるほど、また、施工時の湿度が高湿になればなるほど、更には吸い込みの激しい床材であればあるほど、乾燥・硬化性が不安定なり、翌日の硬度も3H以下となり易い。そのため、このような条件下おいて施工すると硬度不足となり易く、歩行による光沢劣化が発生したり、被膜の耐溶液性(耐水性、耐アルコール性、耐酸性、耐アルカリ性、耐油性、耐薬品性)などが十分でないため、これらの溶液で侵されてしまうことあった。また、十分な被膜特性を得るのに2週間~2ケ月位の期間を要するため、その間に歩行による光沢劣化、各種溶液による損傷などが起きることがあった。
【0027】
これらの対策として、アルコキシシラン及びシランカップリング剤の中で主成分となるアルコキシシランに先ずは着目し、選定する必要がある。基本的には高硬度を得るためには3官能のアルコキシシランを主成分にする必要があり、この選定が必要になる。この3官能アルコキシシランについて、一般的には乾燥硬化性を改善しようと思えば分子量が小さく引火点の低いアルコキシシランを選定する必要がある。次にシランカップリング剤について、このアルコキシシランや水性及び溶剤系コロイダルシリカとの相溶性が良いことや、床用コーティング剤として良好な特性を有することが重要である。具体的には引火点の低いアルコキシシラン(分子量の小さいアルコキシシラン)を使用すれば使用するほど、急激に硬化収縮が進むため(架橋反応が進む)、硬化収縮時に発生する白化現象やクラックの発生を誘発する可能性が高くなること。また、それにより脆性材料になり易いことなどが新たな課題となる。加えて床用として使用する場合、静電気特性やリコート性、それに乾式・湿式での滑り性なども、床用コーティング剤として重要なファクターになるため、これらをクリアできることが必要ある。そのため、これを補うべく、多種多様なアルコキシシランやシランカップリング剤を検討し、最適値を求める必要があった。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に本発明の一実施例を説明する。本発明のアルコキシシラン及びシランカップリング剤、コロイダルシリカ、リン酸などの触媒から構成される無機質ガラスコーティング剤の開発としてアルコキシシラン及びシランカップリング剤の選定が重要となる。まず、アルコキシシランに要求される特性として、3官能アルコキシシランで比較的分子量が小さく引火点も低く反応性の高いものが必要となる。具体的な3官能アルコキシシランとしてはメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシランなどを使用することができる。
【0029】
上記アルコキシシラン及びシランカップリング剤の合計割合を100wt%とした場合の主要3官能アルコキシシランの引火点・危険物分類、分子量及び配合量をパラメータにした混合例を表4に示す。
【表4】
*は本発明の範囲外の試料である
【0030】
表4における各試料について、従来の材料仕様に基づきコーティング剤の合計量を100wt%として、シラン量40wt%、コロイダルシリカ量59wt%(固形分約12%wt)、リン酸量1wt%からなるコーティング剤を調製し、ガラス板には悪条件下である低温条件(室温:10℃、湿度:50%)、高湿条件(室温:25℃、湿度:80%)にて塗布を行い、吸い込みの激しいコンクリート床には通常条件(室温:25℃、湿度:50%)にて塗布を行い、それぞれのアルコキシシランの引火点と分子量の差及び配合量をパラメータにして乾燥時間や翌日の硬度値の測定を行った結果を表5に示す。
【表5】
*は本発明の範囲外の試料である
・判定○△×;
○:いずれにおいても指触乾燥時間が60分以内且つ、翌日の硬度が3H以上
×:いずれかが指触乾燥時間が60分以上且つ、翌日の硬度が3H未満
【0031】
表5の結果から明らかなように、3官能アルコキシシランであって引火点が低いほど、また、そのアルコキシシランの分子量が小さいほど、乾燥性が良好となり、翌日の硬度も高硬度が得られることが分かった。具体的には引火点が40℃以下である第一石油類又は第二石油類で、尚且つ、分子量180以下であり、その割合がアルコキシシラン及びシランカップリング剤の合計割合を100wt%とした場合、10wt%~80wt%の含有量であれば室温10℃、湿度80%、コンクリート床でも60分以内で乾燥し、翌日の硬度も3H以上が得られることが分かった。よって、このようなアルコキシシランの選定や配合にすることにより、低温高湿条件下並びにコンクリートなど吸い込みのある床材であっても安定した乾燥・硬化性が得られることが分かった。
【0032】
しかしながら、上記アルコキシシランの持つ優れた乾燥・硬化性により、施工時の乾燥・硬化性並びに翌日の硬度の立ち上がりを改善することは確認できたが、前述した通り、アルコキシシランや水性及び溶剤系コロイダルシリカとの相溶性や、床用コーティング剤としての特性を有することが重要になる。具体的には急速な硬化収縮による白化現象やクラックの抑制、並びに脆さの改善、可撓性付与などの効果を持たせることと、尚且つ、塗膜として必要な特性、例えばリコート性や静電気特性、耐溶液性、滑り性などを改善する必要がある。そのためにシランカップリング剤に着目し、その選定を行った。具体的なシランカップリング剤としてはエポキシ基シランカップリング剤〔2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン〕、アクリル基シランカップリング剤〔3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン〕、ビニル基シランカップリング剤〔ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン〕、アミノ基シランカップリング剤〔N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン〕、メタクリル基シランカップリング剤〔3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン〕などの検討を行った。
【0033】
表4,5の中でも特に良好なアルコキシシランAを選定し、各種シランカップリング剤の種類と配合量をパラメータにした混合例を表6に示す。尚、アルコキシシランAと各種シランカップリング剤の総量は90~95wt%としているが、残りの5~10wt%はその他のアルコキシシランやシランカップリング剤及び各種添加剤となる。
【表6】
*は本発明の範囲外の試料である
【0034】
表6における各試料について、従来の材料仕様に基づきコーティング剤の合計量を100wt%として、シラン量40wt%、コロイダルシリカ量59wt%(固形分約12%wt)、リン酸量1wt%からなるコーティング剤を調製し、悪条件下である低温条件(室温:10℃、湿度:50%)、高湿条件(室温:25℃、湿度:80%)にて塗布を行い、塗布約24時間後にそれぞれの特性評価を行った。その結果を表7‐1~表7‐4に示す。
【表7-1】
【表7-2】
【表7-3】
【表7-4】
・仕上りや白化現象及びクラックの有無は、コーティング剤を塩化ビニル床タイルに塗布し、指触乾燥後の塗膜の外観を目視で観察した。
・靭性評価試験は耐擦傷性試験にて代用。耐擦傷性試験は約750gの荷重をかけたワイヤーブラシを10往復させる引っ掻き試験を行い、光沢の劣化状態(擦傷後の光沢値-擦傷前の光沢値)で判断。光沢劣化について10ポイント以下を良好として判断した。
・静電気特性(表面抵抗値)は、表面抵抗値測定機(YC-103)を使用し、各5回ずつ測定してその平均値(Xは10を底とするべき指数を表す。従って表面抵抗値は10Ωとなる)を使用した。得られた静電気特性(表面抵抗値)は、経験的に静電気を体感することがなくなる1×1010Ω以下で良好な静電気特性と判定した。
・鉛筆硬度はJIS K5600に準ずる。ガラス板又は金属片に塗布して作成した試料を水平な台の上に塗膜面を上向きにして固定して約45度の角度で鉛筆を持ち、芯が折れない程度に出来るだけ強く塗膜面に押し付けながら、試験者の前方に均一な速さで約1cm位押し出して塗膜面を引っ掻く。塗膜面の破れに生じない最も硬い鉛筆の硬度記号を示した。経験的に施工約24時間後に鉛筆硬度が3Hに達していれば歩行等での摩耗による傷に耐えられると判定した。
・耐溶液性はJIS K5600に準拠した方法で耐水性(脱イオン水、耐液体性;点滴法)、耐アルコール性(70%エタノール、耐液体性;点滴法)、耐酸性(10%塩酸、耐液体性;点滴法)、耐アルカリ性(飽和水酸化ナトリウム水溶液、耐液体性;吸収媒体法)をそれぞれ確認した。試験液を滴下または試験液に浸した吸収材製の円盤を試験片に置き1時間静置した後、取り除いて十分に洗浄する。直ちに膨れ及び塗膜の損傷を観察し、評価前と状態が変わらなければ○、状態の変化があるが24時間の回復期間で元に戻れば△、膨れや剥がれ等の状態変化があり回復期間でも元に戻らなければ×とする。総合的に○3個以上、△1個以内、×0個であれば良好として判断した。
・滑り性試験は、JISA1454の高分子系張り床材の試験方法に準ずる。塩化ビニル床タイルにコーティング剤を塗布してサンプルを作成し、携帯型滑り試験機(ONO・PPSM)を使用して清掃・乾燥状態及び湿潤状態における試験片上で滑り片(硬さA80、厚さ5mmのゴムシート)を引っ張るときの引張力(P)を測定し,滑り片が滑り始めるときに発生する最大値を最大引張力(Pmax)として、滑り抵抗係数(C.S.R)を算出する。判断基準は乾燥状態で0.7~0.8を良好とし、湿潤状態では0.6~0.8を良好として判断した。
滑り抵抗係数(C.S.R)=最大引張力(Pmax)/鉛直力:785N(W)
・判定について表7‐1~表7‐4における○は「仕上り、クラック性、靱性(耐擦傷性)、静電気特性、鉛筆硬度、耐溶液性及び滑り性がそれぞれ良好であること」、×は「仕上り、クラック性、靱性(耐擦傷性)、静電気特性、鉛筆硬度、耐溶液性及び滑り性の何れかにおいて問題があること」を意味している。
【0035】
以上の通り、各種シランカップリング剤をパラメータにした試験結果より、エポキシ基シランカップリング剤のみが、仕上がり、白化現象やクラックの有無、耐擦傷性試験、静電気特性、翌日の硬度、各種耐溶液性試験、乾燥・湿潤条件の滑り特性など全てにおいて良好な結果が得られた。尚、ビニル基シランカップリング剤やアクリル基シランカップリング剤、メタクリル基シランカップリング剤についても塗膜形成はされるが、エポキシ基シランカップリング剤に比べて耐擦傷性試験や静電気特性、硬度、耐溶液性試験などいずれも劣っていることが分かった。また、アミノ基シランカップリング剤はリン酸を触媒としている関係上、ゲル化を起こして適さないことが分かった。よってエポキシ基シランカップリング剤が最も良好な結果が得られ、尚且つ、配合量は10wt%~80%wt位が望ましいことが分かった。
【0036】
以上の結果より、前記、アルコキシシランは3官能アルコキシシランであって、引火点が40℃以下である第一石油類及び/又は第二石油類であり、尚且つ、分子量180以下であること、さらにはこのアルコキシシランの割合がアルコキシシラン及びシランカップリング剤の合計割合を100wt%とした場合、10wt%~80wt%含有した無機質ガラスコーティング剤であることが望ましい。また前記、シランカップリング剤について、エポキシ基シランカップリング剤を1種以上含有し、その含有量がアルコキシシラン及びシランカップリング剤の合計割合を100wt%とした場合、10wt%~80wt%含有することが望ましい。そのため、この組み合わせにより再試験を行った。
【0037】
アルコキシシラン及びシランカップリング剤の組み合わせによる再試験を実施した。表5で良好となった各種アルコキシシランA、B、Cの配合量をパラメータとし、シランカップリング剤はエポキシ基シランカップリング剤として、その総配合量はアルコキシシランを含めて90wt%となるようにした混合例を表8に示す。残りの10wt%はその他のアルコキシシランやシランカップリング剤及び各種添加剤となる。
【表8】
*は本発明の範囲外の試料である
【0038】
表8における各試料について、従来の材料仕様に基づきコーティング剤の合計量を100wt%として、シラン量40wt%、コロイダルシリカ量59wt%(固形分約12%wt)、リン酸量1wt%からなるコーティング剤を調製し、悪条件下である低温条件(室温:10℃、湿度:50%)、高湿条件(室温:25℃、湿度:80%)にて塗布を行い、塗布約24時間後にそれぞれの特性評価を行った。その結果を表9‐1及び表9‐2に示す。
【表9-1】
【表9-2】
・仕上りや白化現象及びクラックの有無は、コーティング剤を塩化ビニル床タイルに塗布し、指触乾燥後の塗膜の外観を目視で観察した。
・靭性評価試験は耐擦傷性試験にて代用。耐擦傷性試験は約750gの荷重をかけたワイヤーブラシを10往復させる引っ掻き試験を行い、光沢の劣化状態(擦傷後の光沢値-擦傷前の光沢値)で判断。光沢劣化について10ポイント以下を良好として判断した。
・静電気特性(表面抵抗値)は、表面抵抗値測定機(YC-103)を使用し、各5回ずつ測定してその平均値(Xは10を底とするべき指数を表す。従って表面抵抗値は10Ωとなる)を使用した。得られた静電気特性(表面抵抗値)は、経験的に静電気を体感することがなくなる1×1010Ω以下で良好な静電気特性と判定した。
・鉛筆硬度はJIS K5600に準ずる。ガラス板又は金属片に塗布して作成した試料を水平な台の上に塗膜面を上向きにして固定して約45度の角度で鉛筆を持ち、芯が折れない程度に出来るだけ強く塗膜面に押し付けながら、試験者の前方に均一な速さで約1cm位押し出して塗膜面を引っ掻く。塗膜面の破れに生じない最も硬い鉛筆の硬度記号を示した。経験的に施工約24時間後に鉛筆硬度が3Hに達していれば歩行等での摩耗による傷に耐えられると判定した。
・耐溶液性はJISK5600に準拠した方法で耐水性(脱イオン水、耐液体性;点滴法)、耐アルコール性(70%エタノール、耐液体性;点滴法)、耐酸性(10%塩酸、耐液体性;点滴法)、耐アルカリ性(飽和水酸化ナトリウム水溶液、耐液体性;吸収媒体法)をそれぞれ確認した。試験液を滴下または試験液に浸した吸収材製の円盤を試験片に置き1時間静置した後、取り除いて十分に洗浄する。直ちに膨れ及び塗膜の損傷を観察し、評価前と状態が変わらなければ○、状態の変化があるが24時間の回復期間で元に戻れば△、膨れや剥がれ等の状態変化があり回復期間でも元に戻らなければ×とする。総合的に○3個以上、△1個以内、×0個であれば良好として判断した。
・滑り性試験は、JISA1454の高分子系張り床材の試験方法に準ずる。塩化ビニル床タイルにコーティング剤を塗布してサンプルを作成し、携帯型滑り試験機(ONO・PPSM)を使用して清掃・乾燥状態及び湿潤状態における試験片上で滑り片(硬さA80、厚さ5mmのゴムシート)を引っ張るときの引張力(P)を測定し,滑り片が滑り始めるときに発生する最大値を最大引張力(Pmax)として、滑り抵抗係数(C.S.R)を算出する。判断基準は乾燥状態で0.7~0.8を良好とし、湿潤状態では0.6~0.8を良好として判断した。
滑り抵抗係数(C.S.R)=最大引張力(Pmax)/鉛直力:785N(W)
・判定について表9‐1及び表9‐2において○は「仕上り、クラック性、靱性(耐擦傷性)、静電気特性、鉛筆硬度、耐溶液性及び滑り性がそれぞれ良好であること」、×は「仕上り、クラック性、靱性(耐擦傷性)、静電気特性、鉛筆硬度、耐溶液性及び滑り性の何れかにおいて問題があること」を意味している。
【0039】
表9‐1及び表9‐2の試験結果より、仕上がりはアルコキシシランの割合が増えれば増えるほど(エポキシ基シランカップリング剤が少なくなればなるほど)、光沢が弱くなる傾向にあり、また、白化現象などを起こしやすくなる傾向にある。また、同様に耐擦傷性や翌日の硬度、耐溶液性、湿式での滑り性なども許容値を外れる傾向にある。これは被膜の硬度が上がりすぎ脆性材料になるために、このような傾向を示すものと思われる。反面、アルコキシシランの割合が少ないと(エポキシ基シランカップリング剤が多くなると)硬化不足により翌日の硬度不足や耐擦傷性不足、それに耐溶液性不十分などが見られる。よって最適値を求める必要がある。
【0040】
以上の結果より、前記、アルコキシシランは3官能アルコキシシランであって、引火点が40℃以下である第一石油類又は第二石油類であり、尚且つ、分子量180以下であること、さらにはこのアルコキシシランの割合がアルコキシシラン及びシランカップリング剤の合計割合を100wt%とした場合、10wt%~80wt%含有した無機質ガラスコーティング剤であることが望ましい。また前記、シランカップリング剤について、エポキシ基シランカップリング剤を1種以上含有し、その含有量がアルコキシシラン及びシランカップリング剤の合計割合を100wt%とした場合、10wt%~80wt%含有することが望ましいことが分かった。
【発明の効果】
【0041】
この発明においては、アルコキシシランの中でも比較的分子量が小さく引火点も低く、反応性の高いものを選定することによって、通常条件のみならず悪条件下においても安定した乾燥硬化性を提供することができ、アルコキシシラン及びシランカップリング剤の選定及び適正な配合量にすることにより、低温条件下、高湿条件下、並びに吸い込みの激しい床材であっても安定した乾燥・硬化性が得られ、翌日の硬度や耐溶液性も良好となり、保護膜としての性能が得られやすいようにしたものである。この発明により、今まで以上に汎用的にあらゆる現場、例えば寒冷地、アジアなど高温多湿地域でも安定した施工が得ることが出来る。
【0042】
この発明においては、前述した通り、請求項1にてコーティング剤の乾燥・硬化性を改善し、低温条件下、高湿条件下、吸い込みのある床材であっても安定した乾燥・硬化性が得られるが、その際に発生する急速な硬化収縮による白化現象やクラック発生の抑制、あるいは被膜自身の脆弱化を補う必要があることと、さらには静電気特性、リコート特性、湿式・乾式での滑り性を補うべく、エポキシ基シランカップリング剤を1種以上使用することで塗膜の性能を大幅に改善出来る。
【0043】
この発明においては、翌日の硬度が3H以上、さらには翌日の耐溶液性(耐水性、耐アルコール性、耐酸性、耐アルカリ性)」を有する無機質ガラスコーティング剤を提供できる。また、翌日の硬度が3Hまで安定的に上がることで、本来の被膜の最終到達硬度である10Hまでの硬度も安定的に得られるようになり、高硬度無機質ガラスコーティング剤の提供が可能となる。
【0044】
本発明により、今まで困難であった低温条件下での施工、それに高湿条件下での施工、さらには吸い込みのある床材での施工など、今まで困難とされたこのような条件下でも安定した乾燥・硬化性が得られることを可能にしたものである。これにより、今まで以上に汎用的にいろいろな現場で施工できるようになったため、今後、益々、ワックスに代わる新しいメンテナンスシステムとして使用出来るようになった。本内容はそれを可能にした発明となる。
【手続補正書】
【提出日】2023-01-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシシラン及びシランカップリング剤を主成分とした無機質ガラスコーティング剤において、前記アルコキシシランは3官能アルコキシシランであって、引火点が40℃以下である第一石油類及び又は第二石油類、且つ分子量180以下、さらにこのアルコキシシランの少なくとも1種以上が、アルコキシシラン及びシランカップリング剤とその他添加剤の合計割合を100wt%とした場合、10wt%~80wt%含有し、且つ前記シランカップリング剤について、エポキシ基シランカップリング剤を1種以上含有し、その含有量がアルコキシシラン及びシランカップリング剤とその他添加剤の合計割合を100wt%とした場合、10wt%~80wt%含有した無機質ガラスコーティング剤。
【請求項2】
前記3官能アルコキシシラン及びエポキシ基シランカップリング剤を主成分としたアルコキシシラン及びシランカップリング剤に、水性及び/または溶剤系コロイダルシリカ、触媒のいずれかを混合した請求項1記載の無機質ガラスコーティング剤。
【手続補正書】
【提出日】2023-05-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシシラン及びシランカップリング剤を主成分とした無機質ガラスコーティング剤において、前記アルコキシシランは3官能アルコキシシランであって、引火点が40℃以下である第一石油類及び又は第二石油類、且つ分子量180以下、さらにこのアルコキシシランの少なくとも1種以上が、アルコキシシラン及びシランカップリング剤とその他添加剤の合計割合を100wt%とした場合、10wt%~80wt%含有し、且つ前記シランカップリング剤について、エポキシ基シランカップリング剤を1種以上含有し、その含有量がアルコキシシラン及びシランカップリング剤とその他添加剤の合計割合を100wt%とした場合、10wt%~80wt%含有し、前記3官能アルコキシシラン及びエポキシ基シランカップリング剤を主成分としたアルコキシシラン及びシランカップリング剤に、水性及び/または溶剤系コロイダルシリカと、触媒とを混合した無機質ガラスコーティング剤。