(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098596
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】アルミナ焼結体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/117 20060101AFI20230703BHJP
H01B 3/12 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
C04B35/117
H01B3/12 337
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157534
(22)【出願日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2021214325
(32)【優先日】2021-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】中川 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】深沢 祐司
【テーマコード(参考)】
5G303
【Fターム(参考)】
5G303AA10
5G303AB07
5G303BA11
5G303CA01
5G303CB01
5G303CB20
5G303CB30
5G303CD01
5G303DA03
5G303DA05
(57)【要約】
【課題】誘電正接(tanδ)が小さなアルミナ焼結体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明にかかるアルミナ焼結体は、Al2O3を99.50質量%以上、99.95質量%以下含むと共に、NaとSiを含むアルミナ質焼結体であって、前記任意の断面における表層部Aと、前記表層部Aから深さ方向における前記断面の中心部Bにおいて、前記表層部AでのNaとSiの濃度比(Na/Si比)が、前記中心部BでのNaとSiの濃度比(Na/Si比)よりも小さい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al2O3を99.50質量%以上、99.95質量%以下含むと共に、NaとSiを含むアルミナ質焼結体であって、前記任意の断面における表層部Aと、前記表層部Aから深さ方向における前記断面の中心部Bにおいて、前記表層部AでのNaとSiの濃度比が、前記中心部BでのNaとSiの濃度比よりも小さいことを特徴とするアルミナ質焼結体。
【請求項2】
前記表層部Aが表面から深さ方向に10mmの範囲内の領域であり、前記断面の中心部Bは、前記断面の中心を中心として、深さ方向の10mmの範囲内の領域であることを特徴とする請求項1記載のアルミナ質焼結体。
【請求項3】
周波数4GHzにおける誘電正接(tanδの値)が10-4以下であることを特徴とする請求項1に記載のアルミナ焼結体。
【請求項4】
前記表層部AにおけるAl2O3結晶粒のアスペクト比が、前記中心部BにおけるAl2O3結晶粒のアスペクト比より小さいことを特徴とする請求項1に記載のアルミナ焼結体。
【請求項5】
請求項1に記載されたアルミナ焼結体の製造方法であって、原料となるアルミナ粉末に、Na2O粉末を用いてSi分を添加し、バインダーと溶媒とを混合して噴霧造粒機で造粒する工程と、得られた造粒粉を成形し、成形体を形成する工程と、前記成形体を脱脂処理する工程と、前記脱脂処理された脱脂体を、還元雰囲気下または真空雰囲気下、1300~1800℃で焼成する工程と、を備え、
前記焼成工程において、前記脱脂体からNa分を揮発させることにより、任意の断面における表層部AにおけるNaとSiの濃度比が、前記表層部Aから深さ方向における前記断面の中心部Bにおける、NaとSiの濃度比よりも小さく形成される、ことを特徴とするアルミナ焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記表層部Aが表面から深さ方向に10mmの範囲内の領域であり、前記断面の中心部Bは、前記断面の中心を中心として、深さ方向の10mmの範囲内の領域であることを特徴とする請求項5記載のアルミナ焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電損失の小さいアルミナ焼結体及びその製造方法に関し、例えば、誘電正接(tanδ)が1×10-4未満のアルミナ焼結体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体製造装置用部材や液晶パネル製造装置用部材に用いられるアルミナ焼結体は、高い耐食性のみならず低い誘電正接であることが求められている。このように低い誘電正接が要求されるのは、一つの理由を挙げれば、半導体製造装置内のプラズマをより安定させるためである。即ち、半導体製造装置内で発生させるプラズマを安定化するには、誘電正接(tanδ)が低い半導体製造用部材を用いる必要があり、近年、半導体製造用部材用として、誘電正接(tanδ)が1×10-4未満であるアルミナ焼結体が求められている。
【0003】
このような要求に対して、特許文献1、2において、Naの酸化物の存在が誘電正接の増加要因となることが示されている。そして、Naの酸化物の含有量を減らすことにより、低い誘電正接(tanδ)を有するアルミナ質焼結体が製造できることが提案されている。
【0004】
また、特許文献3には、全構成成分100質量%のうち、NaをNa2O換算した含有量が200ppm以上500ppm以下であり、SiをSiO2換算した含有量が200ppm以上であり、CaをCaO換算した含有量が200ppm以上であり、AlをAl2O3換算した含有量が99.4質量%以上のアルミナ質焼結体において、8.5GHzにおける誘電正接の値が、前記NaをNa2O換算した含有量の値の0.5倍以下であり、1MHzにおける誘電正接の値が、前記NaをNa2O換算した含有量の値の0.3倍以下であり、12MHzにおける誘電正接の値が、前記NaをNa2O換算した含有量の値の0.6倍以下であるアルミナ質焼結体が示されている。即ち、誘電正接の値が、含有しているNaの量に基づいて規定されたアルミナ焼結体が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-143358号公報
【特許文献2】特開平5-217946号公報
【特許文献3】特許第6352686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記したように、Naの酸化物の存在が誘電正接の増加要因となることから、Naの酸化物の含有量を減らす試みがなされているが、このNaの酸化物は主成分であるアルミナ原料に不純物として含まれるものである。そのため、この不純物であるNaの酸化物の含有量を減らした高純度のアルミナ原料を用いて、アルミナ焼結体を製造する必要がある。しかしながら、このNaの酸化物の含有量を減らした高純度のアルミナ原料を製造するには製造コストが嵩み、ひいては誘電損失の小さなアルミナ焼結体の製造コストが嵩むという課題があった。また、高純度のアルミナ原料を用いても、Naを完全に取り除くことができずNaが微量含まれるため、誘電正接(tanδ)が1×10-4未満であるアルミナ焼結体を得ることが困難であった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、誘電正接(tanδ)が小さなアルミナ焼結体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するためになされた本発明にかかるアルミナ焼結体は、Al2O3を99.50質量%以上、99.95質量%以下含むと共に、NaとSiを含むアルミナ質焼結体であって、前記任意の断面における表層部Aと、前記表層部Aから深さ方向における前記断面の中心部Bにおいて、前記表層部AでのNaとSiの濃度比が、前記中心部BでのNaとSiの濃度比よりも小さいことを特徴としている。
【0009】
このように、表層部AでのNaとSiの濃度比(NaとSiの濃度比をNa/Si比と表し、表層部AでのNaとSiの濃度比をANa/Siと表す)が、前記中心部BでのNaとSiの濃度比(NaとSiの濃度比をNa/Si比と表し、中心部BでのNaとSiの濃度比をBNa/Si)よりも小さく形成される。そのため、表層部Aでの大きな誘電損失の要因となるβ-アルミナ(Na2O-11Al2O3)の生成が抑制される。即ち、中心部Bに比べて表層部Aにおけるβ-アルミナ(Na2O-11Al2O3)の生成が抑制され、全体として誘電損失が小さなアルミナ焼結体が得られる。
【0010】
尚、本発明に係るアルミナ焼結体は、不純物としてNaとSiを含むため、Naの酸化物の含有量を減少させた高純度のアルミナ原料を用いる必要がなく、安価に製造することができる。
【0011】
ここで、前記表層部Aが表面から深さ方向に10mmの範囲内の領域であり、前記断面の中心部Bは、前記断面の中心を中心として、深さ方向の10mmの範囲内の領域であることが望ましい。また、周波数4GHzにおける誘電正接(tanδの値)が10-4以下であることが望ましい。
【0012】
前記表層部AにおけるAl2O3結晶粒のアスペクト比が、前記中心部BにおけるAl2O3結晶粒のアスペクト比より小さいことが望ましい。Al2O3と不純物のNaで、β-アルミナ(Na2O-11Al2O3)が形成されるが、このβ-アルミナ(Na2O-11Al2O3)は、アスペクト比が大きな結晶を生成する。上記したように、表層部AにおけるAl2O3結晶粒のアスペクト比が小さいために、アスペクト比の大きなβアルミナの生成が抑制され、中心部のβアルミナのアスペクト比よりも表層部Aのβアルミナのアスペクト比が小さくなる。
【0013】
上記目的を達成するためになされた本発明にかかるアルミナ焼結体の製造方法は、上記したアルミナ焼結体の製造方法であって、原料となるアルミナ粉末に、SiO2粉末を用いてSi分を添加し、バインダーと溶媒とを混合して噴霧造粒機で造粒する工程と、得られた造粒粉を成形し、成形体を形成する工程と、前記成形体を脱脂処理する工程と、前記脱脂処理された脱脂体を、還元雰囲気下または真空雰囲気下、1300~1800℃で焼成する工程と、を備え、前記焼成工程において、前記脱脂体からNa分を揮発させることにより、任意の断面における表層部AにおけるNaとSiの濃度比が、前記表層部Aから深さ方向における前記断面の中心部Bにおける、NaとSiの濃度比よりも小さく形成される、ことを特徴としている。このような製造方法により、誘電損失の小さなアルミナ焼結体を得ることができる。
【0014】
ここで、前記表層部Aが表面から深さ方向に10mmの範囲内の領域であり、前記断面の中心部Bは、前記断面の中心を中心として、深さ方向の10mmの範囲内の領域であることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、誘電損失の小さなアルミナ焼結体及びその製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明にかかるアルミナ焼結体のNa/Si比の分布状態を示す概念図である。
【
図2】
図2は、アスペクト比を説明するための模式図である。
【
図3】
図3は、本発明にかかるアルミナ焼結体の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明にかかるアルミナ焼結体及びその製造方法の実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0018】
本発明にかかるアルミナ焼結体は、Al2O3を99.50質量%以上、99.95質量%以下含み、NaとSiを含むアルミナ焼結体である。前記アルミナ焼結体に含まれるNaとしては、アルミナ原料に不純物として含まれるNaの酸化物がある。同様に、前記アルミナ焼結体に含まれるSiとしては、アルミナ原料に不純物として含まれるSiの酸化物、あるいは添加されるSiの酸化物がある。
【0019】
既に述べたように、アルミナ焼結体は、不純物としてNaとSiを極力含まない、高純度のアルミナ焼結体であることが、誘電正接(tanδ)を小さくできる点から好ましい。しかしながら、高純度のアルミナ焼結体を製造するには、Naの酸化物の含有量を減少させた高純度のアルミナ原料を用いる必要があるが、製造コストが嵩むため好ましくない。即ち、Al2O3が99.95質量%を超える場合には、製造コストが嵩み好ましくない。そのため、Al2O3を少なくとも99.5質量含み、不純物としてNaとSiを含むアルミナ焼結体が用いられる。
【0020】
前記Naはβ-アルミナの形成に影響するため、βアルミナの形成を抑制するためには、Na含有量の低減が必要である。しかしながら、上記したように、高純度のアルミナ原料を用いても、Na含有量を完全にゼロにすることはできない。
【0021】
一方、Siを含有する場合には、NaはSiに引き付けられて、Alとβアルミナ構造を形成することが抑制される。詳しく述べると、Siは4価であり、Alは3価であるため、SiがAl2O3中に存在すると電荷のバランスが崩れ、1価のNaが主にクーロン力によってSiに引き付けられ、β-アルミナの形成が抑制される。
言い換えれば、Siが不十分な場合には、1価のNaが主にクーロン力によってSiに引き付けられ難くなり、NaはAlとネットワークを形成(NaはAlと結合)する。その結果、βアルミナが形成され易くなる。
したがって、本発明にかかるアルミナ焼結体は、Al2O3を99.50質量%以上、99.95質量%以下含み、特定の含有量の関係にあるNaとSiを含む必要がある。
【0022】
次に、前記NaとSiの含有量の関係について、説明する。誘電正接の増加要因となるアルミナ焼結体のNa含有量は、5ppm以上50ppm以下である。因みに、一般的なアルミナ原料には、Naが50ppm以上500ppm以下含まれる。このように、Naが5ppm以上50ppm以下含むアルミナ焼結体は、一般的なアルミナ原料を、不純物であるNaの酸化物の含有量を極端に減らすことなく(コストがかかる高純度化をすることなく)用いて製造することができるため、アルミナ焼結体を安価に製造することができる。
【0023】
また、前記したように、Siは含有するNaを引き付け、Alとβアルミナ構造を形成するのを抑制する。そのため、アルミナ焼結体のSi含有量は、Naと特定の含有量の関係にある。ここでは、NaとSiの含有量の関係を、NaとSiの濃度比(Na/Si比)で表す。そして、誘電損失が10-4未満のアルミナ焼結体のような、誘電損失の小さなアルミナ焼結体にあっては、NaとSiの濃度比(Na/Si比)が0.3以下である。
【0024】
しかも、本発明にかかるアルミナ焼結体にあっては、任意の断面における表層部Aと、前記表層部Aから深さ方向における前記断面の中心部Bにおいて、NaとSiの濃度比(Na/Si比)が異なる点に特徴がある。具体的には、前記中心部BでのNaとSiの濃度比(Na/Si比 B
Na/Si)に比べて、アルミナ焼結体の焼成工程において、表層部AのNaが揮発することによりNa/Si比が小さくなり、前記表層部AでのNaとSiの濃度比(Na/Si比 A
Na/Si)が小さくなる。即ち、
図1に示すように、アルミナ焼結体1の中心部BでのNaとSiの濃度比(Na/Si比)が最も高くなり、表層部AのNaとSiの濃度比が最も低くなる。
【0025】
中心部BでのNaとSiの濃度比に比べて、表層部AでのNaとSiの濃度比(Na/Si比 ANa/Si)が小さいのは、Naの揮発が効率的に行われていることを示している。これとは逆に、表層の濃度比が大きい場合は、少量であっても存在しているNaが、Alとネットワークを形成していることが考えられ、βアルミナ構造を生成して誘電損失を悪化させる虞がある。
【0026】
例えば、誘電損失が10-4未満のアルミナ焼結体のNaとSiの濃度比は、前記したようにNaとSiの濃度比(Na/Si比)が0.3以下であり、かつ中心部BでのNaとSiの濃度比(Na/Si比 BNa/Si)に比べて、表層部AでのNaとSiの濃度比(Na/Si比 ANa/Si)が小さいことが必要である。
【0027】
尚、前記表層部Aとは、表面から深さ方向t1の範囲内の領域であり、前記断面の中心部とは、前記断面の中心を中心として、深さ方向のt2の範囲内の領域をいう。具体的には、t1が10mm、t2が10mmである。また、
図1は概念的に示したものであり、アルミナ焼結体のNa/Si比を正確に示したものではない。
【0028】
また、アルミナ焼結体の焼成工程において、Naが揮発し、Naの低減が効率的にできているかどうかは、表層部と中心部のNa/Si比の大小、あるいは、以下に説明する表層部と中心部のアスペクト比を評価することで判定できる。
【0029】
次に、表層部と中心部のアスペクト比について説明する。
図2に示すように、β-アルミナ(Na
2O-11Al
2O
3)1は、アスペクト比が大きな結晶を生成する。尚、
図2中、符号2はAl
2O
3結晶粒を示す。そのため、β-アルミナ(Na
2O-11Al
2O
3)の生成が抑制された焼結体の表層部における、Al
2O
3結晶粒のアスペクト比は、中心部のAl
2O
3結晶粒のアスペクト比よりも小さくなる。
【0030】
ここで、β-アルミナ(Na2O-11Al2O3)のように、アスペクト比の大きな粒子は、焼結中の結晶成長が異方的であり、欠陥を生じながら進行する。そのため、異方的に成長する場合では特定の結晶軸に沿って欠陥が生じやすく、この特異な欠陥が誘電損失を悪化させると推察される。また、表層部と中心部のAl2O3結晶粒のアスペクト比には大小があり、表層部のアスペクト比が小さいことはNaを効率的に揮発している結果生じている構造であると推察される。逆に表層部のAl2O3結晶粒のアスペクト比が大きい(もしくは同等)の場合、表層部にβアルミナ構造が生じやすい状態であり、Naが揮発をしていないことが推察される。したがって、表層部と中心部のAl2O3結晶粒のアスペクト比を評価することで、βアルミナ構造を生成度合い、誘電正接を評価することができる。
【0031】
このように、本実施形態のアルミナ焼結体は、Naを不純物として所定量含有しながらも、誘電正接の低いアルミナ焼結体である。また、全構成成分100質量%のうち、AlをAl2O3換算した含有量が99.5質量%以上であることにより、反応性の高いハロゲン系腐食ガスやそれらのプラズマに対して高い耐食性を有するアルミナ焼結体である。
【0032】
ところで、全構成成分100質量%におけるNa含有量およびAlをAl2O3換算した含有量については、アルミナ質焼結体の一部を粉砕し、得られた粉体を塩酸などの溶液に溶解した後、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置(例えば、島津製作所製:ICPS-8100)を用いて、NaおよびAlの含有量を測定することができる。
【0033】
また、本実施形態のアルミナ質焼結体は、AlおよびNa以外の成分として、前記したようにSiを含んでいる。そして、Siは含有量が、全構成成分100質量%のうち20ppm以上であることが好適である。このNa、Siは、主結晶であるアルミナ結晶間である粒界相に、酸化物からなる結晶相または非晶質相として存在する。
【0034】
表層部A及び中心部BでのNaおよびSiの濃度比(Na/Si比 ANa/Si)及び(Na/Si比 BNa/Si)は、以下のようにして算出される。まず、アルミナ質焼結体の一部をイオンシンニング装置などの加工装置を用いてエッチングした測定面をTEMにより、加速電圧200kVの条件で測定面の特定視野を1万倍~10万倍の倍率で観察し、粒界相のEDS測定(エネルギー分散型X線分光法(energy dispersive X-rayspectrometry)による測定)を行ない、得られた各成分の含有量を求め、Naの含有量をAとし、Siの含有量をBとし、比A/Bを算出すればよい。なお、1つの粒界相において、複数箇所、例えば3カ所についてEDS測定を行ない、平均値を用いて比A/Bを算出することが好適であり、その際小数点第3位で四捨五入する。
【0035】
粒界相にAlが含まれていない場合は、アルミナ質焼結体の一部を粉砕し、得られた粉体を塩酸などの溶液に溶解した後、ICP発光分光分析装置を用いて、NaやSiの含有量を測定し、それぞれの値を用いて比(A/B)を算出してもよい。
【0036】
そして、本実施形態のアルミナ質焼結体の誘電正接については、例えば直径が50mm、厚みが1mmの円板状の試料を作製し、周波数4GHzの誘電正接の値をそれぞれキャパシタンスメータ(HP-4278A)、インピーダンスアナライザ(HP-4291A)および空洞共振器(ネットワーク・アナライザ 8722ES)を用いて測定することができる。
【0037】
次に、本発明にかかるアルミナ質焼結体の製造方法について説明する。まず、原料として、Al
2O
3の純度が99.5%以上、99.95質量%以下で、平均粒子径が1~2μmのアルミナ粉末を用意する(
図3のステップS1)。このアルミナ粉末は、純度の高いものであることが好ましいが、不純物として200ppm以下のNaが含まれていても良い。なお、本実施形態においては、あくまでも不純物としてのNaの含有量を規定したものであり、アルミナ粉末に対して積極的にNaを添加するものではない。
【0038】
原料となるアルミナ粉末に、SiO
2粉末などを利用してSi分を添加する。SiO
2粉末以外にも、コロイダルシリカ、テトラエトキシシランを用いることができる。Siの添加量としては40~300ppmである。このように、二酸化ケイ素(SiO
2)を添加して原料粉を作製する(
図3のステップS2)
【0039】
そして、PVA(ポリビニルアルコール)などのバインダーと溶媒とを混合する(
図3のステップS3)。このとき、室温で,ミキサーを用いて200rpmで混合した。
【0040】
つぎに、上記造粒粉を成形型内に充填し、冷間静水圧プレス(CIP)成形により、80~200MPaの範囲の圧力にて成形体を作製する(
図3のステップS4)。この成形体に対して、脱脂処理を実施し、脱脂体を形成する。この脱脂処理は、大気雰囲気下で、700℃~1300℃で焼成することにより行われる(
図3のステップS5)。
【0041】
更に、この脱脂体をこの成形体を還元雰囲気または真空雰囲気下において、1300~1800℃となるよう焼成し、アルミナ焼結体を得る(
図3のステップS6)。尚、還元雰囲気は水素雰囲気、ハロゲンガス雰囲気であることが好ましい。このように、還元雰囲気または真空雰囲気下で、かつ1300~1800℃で焼成することで、Naが揮発する。その結果、アルミナ焼結体の任意の断面における表層部Aと、前記表層部Aから深さ方向における前記断面の中心部Bにおいて、表層部AのNa/Si比が、中心部BのNa/Si比より小さいアルミナ質焼結体が得られる。
【0042】
このように、Naの揮発によりNa/Si比が小さくなることで、大きな誘電損失の要因となるβ-アルミナ(Na2O-11Al2O3)の生成が抑制され、誘電損失が10-4未満のアルミナ焼結体が得られる。β-アルミナ(Na2O-11Al2O3)は、アスペクト比が大きな結晶を生成する。そのため、β-アルミナの生成が抑制された、焼結体の表層部のAl2O3結晶粒のアスペクト比は、中心部のAl2O3結晶粒のアスペクト比よりも小さくなる。尚、アスペクト比は、走査型電子顕微鏡でアルミナ焼結体の組織を観察した場合に、その観察像の中でアスペクト比が最も大きい粒子を選択し求める。
【0043】
以上のように、不純物として含まれるNaの酸化物を含有するアルミナ原料を用いても、誘電損失の小さいアルミナ焼結体を製造することができる。特に、誘電正接(tanδ)が1×10-4未満であるアルミナ焼結体を得ることができる。
【0044】
そして、アルミナ質焼結体は、耐熱性、耐薬品性、耐プラズマ性に優れ、さらに高周波領域での誘電正接(tanδ)が小さいことから、半導体製造装置の内壁材(チャンバー)やマイクロ波導入窓、シャワーヘッド、フォーカスリング、シールドリングをはじめとする半導体製造装置用部材や、液晶パネル製造装置のステージ、ミラー、マスクホルダー、マスクステージ、チャック、レチクル等に液晶パネル製造装置用部材に用いられている。
【実施例0045】
本発明にかかるアルミナ焼結体及びその製造方法を、実施例に基づきさらに説明する。
【0046】
(実験1)
実施例1では、原料として、純度が99.5質量%でかつ平均粒子径が1~2μmのアルミナ粉末を用いた。このアルミナ粉末に対し、二酸化ケイ素(SiO2)を表1に示す量、添加した。また、原料粉中におけるNaの含有量は60ppmであった。また、上記添加剤を含む原料粉100質量%に対し、バインダーとしてポリビニルアルコール2質量%を添加して造粒粉を作製した。
【0047】
つぎに、上記造粒粉を成形型内に充填し、冷間静水圧プレス(CIP)成形により、100MPaの範囲の圧力にて成形体を作製した。その後、脱脂処理を行い、その後、水素雰囲気下で、1800℃で焼成し、アルミナ焼結体(アルミナセラミックス)を得た。
【0048】
そして、アルミナ焼結体の一部をイオンシンニング装置などの加工装置を用いてエッチングした測定面をTEM(透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope))により、加速電圧200kVの条件で測定面の特定視野を5万倍の倍率で観察し、粒界相のEDS測定を行ない、得られた各成分の含有量を求め、Naの含有量をXとし、Siの含有量の合計をYとし、比X/Yを算出した。
【0049】
ここで、加工装置を用いてエッチングした測定面は、前記任意の断面における表層部Aと、前記表層部Aから深さ方向における前記断面の中心部Bとした。そして、表層部Aにおける比X/YをANa/Siとし、中心部Bにおける比X/YをBNa/Siとした。さらに、JIS R1641(ファインセラミックス基板のマイクロ波誘電特性の測定方法)に従って、表層部Aと中心部Bの高周波領域(4GHz)での誘電正接(tanδ)を測定した。その結果を表1に示す。
【0050】
【0051】
上記表1の実施例1~4からわかるように、焼結体表面部ではNaの含有量が低下し、表面部のNa/Si比(ANa/Si)が、中央部のNa/Si比(BNa/Si)よりも小さくなっている。また、Na/Si比が小さくなるにつれて、誘電損失も小さくなることが確認できた。
【0052】
上記表1の比較例1、2では、中心部のSi濃度を上げようとしてSi添加量を上げすぎ、適量とされる200ppmを超えたため、Si過多による誘電正接の増加傾向が見られた。すなわち、焼成体全体でNa/Si比を下げるのは、製造過程でSiの偏析や不均一性の影響で、表面部より中心部の方が、Si濃度は高くなる。
【0053】
このように、焼成過程でNaを揮発させることによって低いNa/Si比が実現できる。また、Na/Si比を小さくできたことで、誘電損失の値についても、10-4未満を達成している。更に、Na/Si比を小さく保ちつつSiを130ppm以上200ppm以下の範囲で添加することで、更に誘電損失を低減させることも可能になる。Na/Si比は、NaとSiの添加量で調整できる。
【0054】
(実験2)
実験2では、実験1の実施例1、比較例3のAl2O3結晶粒のアスペクト比を、走査型電子顕微鏡より測定した。また、実験1と同様に、JIS R1641(ファインセラミックス基板のマイクロ波誘電特性の測定方法)に従って、表層部Aと中心部Bの高周波領域(4GHz)での誘電正接(tanδ)を測定した。その結果を表2に示す。
【0055】
比較例3として、実施例1の焼成時間と焼成後の降温速度で調整することによって、Al2O3結晶粒のアスペクト比を変えた。具体的には、実施例1の場合に比べて焼成温度を1400℃として、降温速度を300℃/hとした。尚、その他の条件は、実施例1と同一とした。その結果を表2に示す。
【0056】
【0057】
その結果、比較例3は、実施例1と比べてAl2O3結晶粒のアスペクト比が大きく、誘電正接が増加することが確認された。したがって、焼成時間と焼成後の降温速度を調整することにより、tanδ(E-05)表層/中心を小さくすることができ、誘電正接を減少させることができる。
【0058】
(実験3)
実施例4の製造条件を基に、さらに焼成温度や焼成時間を微調整することで、Si分析値が、表層と中心共に130ppm以上200ppm以下になるようにしたものを実施例5とする。なお、SiO2添加量は185ppmとした。
【0059】
その結果、実施例5では、ANa/Siが0,062、BNa/Siが0.095、Si分析値(ppm,表層/中心)が90/110、tanδ(E-05)表層/中心が5.58/6.67となった。このように、Si分析値を表層と中心共に130ppm以上200ppm以下になるようにしたものは、実施例4よりもさらに誘電正接を減少させることができる。
前記表層部Aが表面から深さ方向に10mmの範囲内の領域であり、前記断面の中心部Bは、前記断面の中心を中心として、深さ方向の10mmの範囲内の領域であることを特徴とする請求項1記載のアルミナ質焼結体。
前記表層部Aが表面から深さ方向に10mmの範囲内の領域であり、前記断面の中心部Bは、前記断面の中心を中心として、深さ方向の10mmの範囲内の領域であることを特徴とする請求項5記載のアルミナ焼結体の製造方法。