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特開2023-98707通しダイアフラム溶接継手構造体、通しダイアフラム溶接継手構造体の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098707
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】通しダイアフラム溶接継手構造体、通しダイアフラム溶接継手構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/028 20060101AFI20230703BHJP
   B23K 9/00 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
B23K9/028 N
B23K9/00 501B
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210803
(22)【出願日】2022-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2021214050
(32)【優先日】2021-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】酒井 勇気
(72)【発明者】
【氏名】有田 政樹
(72)【発明者】
【氏名】福智 康之
(72)【発明者】
【氏名】早坂 泰範
(72)【発明者】
【氏名】水落 良輔
(72)【発明者】
【氏名】川端 洋介
【テーマコード(参考)】
4E081
【Fターム(参考)】
4E081AA08
4E081BA05
4E081DA10
4E081FA14
4E081YB04
4E081YR04
(57)【要約】
【課題】通しダイアフラム溶接継手を具備する通しダイアフラム溶接継手構造体において、アンダーマッチングであっても溶接金属部で破壊が生じることを防止できる、通しダイアフラム溶接継手構造体を提供する。
【解決手段】通しダイアフラムに角形鋼管を溶接してなる通しダイアフラム溶接継手構造体であって、溶接部のレ形開先の開先角度をα(°)、ルートギャップをg(mm)、余盛り高さをe(mm)、溶接金属の引張強さをWMσ(N/mm)、角形鋼管の角部の引張強さをcBMσ(N/mm)、及び角形鋼管の角部の厚さをt(mm)としたとき、これらが所定の関係を満たす。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通しダイアフラムに角形鋼管を溶接してなる通しダイアフラム溶接継手構造体であって、
溶接部のレ形開先の開先角度をα(°)、ルートギャップをg(mm)、余盛り高さをe(mm)、溶接金属の引張強さをWMσ(N/mm)、前記角形鋼管の角部の引張強さをcBMσ(N/mm)、及び前記角形鋼管の角部の厚さをt(mm)としたとき、下記式(1)~式(3)を満たす通しダイアフラム溶接継手構造体。
【数1】

【数2】

【数3】

式(1)、式(2)のβは、次の式(4)を満たすβ’及びαのうち小さい方の値を取る。
【数4】

式(1)、式(3)のβは、次の式(5)を満たすβ’及びαのうち小さい方の値を取る。
【数5】
【請求項2】
前記角形鋼管の径をD(mm)としたとき、前記角形鋼管の曲げによって角部外面に生じる歪が一様伸びに到達するときの前記角形鋼管の部材角よりも、前記角形鋼管の曲げによって角部内面に生じる歪が一様伸びに到達するときの前記角形鋼管の部材角が大きくなるD/tとされている、請求項1に記載の通しダイアフラム溶接継手構造体。
【請求項3】
前記溶接金属のビッカース硬さをWMHv、前記角形鋼管の角部のビッカース硬さをcBMHvとしたとき、さらに下記式(6)、式(7)が成り立つ請求項2に記載の通しダイアフラム溶接継手構造体。
【数6】

【数7】
【請求項4】
前記角形鋼管を構成する材料の、前記角形鋼管とする前における引張強さをfBMσ(N/mm)としたとき、さらに下記式(8)が成り立つ請求項2又は3に記載の通しダイアフラム溶接継手構造体。
【数8】
【請求項5】
溶接熱影響部の引張強さをHAZσ(N/mm)としたとき、下式(9)を満たす請求項2又は3に記載の通しダイアフラム溶接継手構造体。
【数9】
【請求項6】
溶接熱影響部の引張強さをHAZσ(N/mm)としたとき、下式(9)を満たす請求項4に記載の通しダイアフラム溶接継手構造体。
【数10】
【請求項7】
前記溶接熱影響部のビッカース硬さをHAZHv、前記角形鋼管の角部のビッカース硬さをcBMHvとしたとき、さらに下記式(10)、式(11)が成り立つ請求項5に記載の通しダイアフラム溶接継手構造体。
【数11】
【請求項8】
前記溶接熱影響部のビッカース硬さをHAZHv、前記角形鋼管の角部のビッカース硬さをcBMHvとしたとき、さらに下記式(10)、式(11)が成り立つ請求項6に記載の通しダイアフラム溶接継手構造体。
【数12】
【請求項9】
通しダイアフラムに角形鋼管を溶接してなる通しダイアフラム溶接継手構造体を製造する方法であって、
溶接部のレ形開先の開先角度をα(°)、ルートギャップをg(mm)、余盛り高さをe(mm)、溶接金属の引張強さをWMσ(N/mm)、前記角形鋼管の角部の引張強さをcBMσ(N/mm)、及び前記角形鋼管の角部の厚さをt(mm)として下記式(1)~式(3)を満たすように設計し、これにより溶接をおこなう通しダイアフラム溶接継手構造体の製造方法。
【数13】

【数14】

【数15】

式(1)、式(2)のβは、次の式(4)を満たすβ’及びαのうち小さい方の値を取る。
【数16】

式(1)、式(3)のβは、次の式(5)を満たすβ’及びαのうち小さい方の値を取る。
【数17】
【請求項10】
前記角形鋼管の径をD(mm)とした時、前記角形鋼管の曲げによって角部外面に生じる歪が一様伸びに到達する時の前記角形鋼管の部材角よりも、前記角形鋼管の曲げによって角部内面に生じる歪が一様伸びに到達する時の前記角形鋼管の部材角が大きくなるD/tを満たす、請求項9に記載の通しダイアフラム溶接継手構造体の製造方法。
【請求項11】
前記溶接金属のビッカース硬さをWMHv、前記角形鋼管の角部のビッカース硬さをcBMHvとしたとき、前記WMσ(N/mm)、前記cBMσ(N/mm)を下記式(6)、式(7)により求める請求項10に記載の通しダイアフラム溶接継手構造体の製造方法。
【数18】

【数19】
【請求項12】
前記角形鋼管を構成する材料の、前記角形鋼管とする前における引張強さをfBMσ(N/mm)としたとき、さらに下記式(8)により前記cBMσ(N/mm)を求める請求項10又は請求項11に記載の通しダイアフラム溶接継手構造体の製造方法。
【数20】
【請求項13】
溶接熱影響部の引張強さをHAZσ(N/mm)としたとき、下式(9)を満たすように溶接を行う請求項10又は11に記載の通しダイアフラム溶接継手構造体の製造方法。
【数21】
【請求項14】
溶接熱影響部の引張強さをHAZσu(N/mm)としたとき、下式(9)を満たすように溶接を行う請求項12に記載の通しダイアフラム溶接継手構造体の製造方法。
【数22】
【請求項15】
前記溶接熱影響部のビッカース硬さをHAZHv、前記角形鋼管の角部のビッカース硬さをcBMHvとしたとき、さらに下記式(10)、式(11)により、前記HAZσ(N/mm)及び前記cBMσ(N/mm)を求める請求項13に記載の通しダイアフラム溶接継手構造体の製造方法。
【数23】
【請求項16】
前記溶接熱影響部のビッカース硬さをHAZHv、前記角形鋼管の角部のビッカース硬さをcBMHvとしたとき、さらに下記式(10)、式(11)により、前記HAZσ(N/mm)及び前記cBMσ(N/mm)を求める請求項14に記載の通しダイアフラム溶接継手構造体の製造方法。
【数24】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接継手を具備する溶接継手構造体、及びその製造方法に関し、特にレ形開先(single bevel groove weld)による通しダイアフラム溶接継手による角形鋼管柱である、通しダイアフラム溶接継手構造体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
角形鋼管の小口(端面)とダイアフラムの面とを付き合わせて全周に亘ってT字形継手で溶接して通しダイアフラム溶接継手構造体(角形鋼管柱)とする。溶接部には一般的に、溶接金属材料が溶けて固まった溶接金属部(DEPOとも呼ばれる)と、溶接熱により母材が組織変化した溶接熱影響部(HAZとも呼ばれる)が存在する。この溶接部に引張応力がかかった場合、破壊が溶接金属部あるいは溶接熱影響部からではなく、母材である角形鋼管側から先に発生するように、溶接部側の変形抵抗を高めている。
具体的に構造上主要な鋼材を溶接する際、母材に対し溶接部を先行破壊させないための一般的な措置として、溶接金属の引張強さが母材の引張強さと同等以上(イーブンマッチング又はオーバーマッチングとなる)となるように溶接金属材料を選定する。例えば、490N/mm級の母材に対しては490N/mm級以上の溶接金属材料を使用する。
【0003】
一方で、冷間成形角形鋼管と通しダイアフラムの溶接においては、加工硬化による鋼管角部の強度上昇を考慮し、溶接金属の引張強さが鋼管角部の引張強さと同等以上となるように溶接金属材料を選定する。そのため、例えば非特許文献1では、490N/mm級の冷間成形角形鋼管に対しては540N/mm級以上の溶接金属材料の使用が推奨されている。従って、高強度の溶接金属材料の使用がコスト増に繋がる。また、高強度の溶接金属は破壊靭性が低い値になりやすく、溶接欠陥等を起点とした脆性破壊の懸念がある。
【0004】
ところが実際には、角形鋼管の角部の溶接部がアンダーマッチングの場合であっても、溶接金属部ではなく母材から破断する場合がある。特許文献1では、通しダイアフラムと角形鋼管の角部の溶接部を対象に、母材と溶接金属部それぞれにおける破壊機構を仮定して各破壊耐力を算出し、破壊耐力の大小関係から溶接金属が母材に対し先行破壊しないためのマッチングの条件式が導出されている。また、当該条件式と十字溶接継手の引張実験を比較し、溶接継手の破断箇所を条件式から概ね予測できることが確認されている(図1に、特許文献1の記載に基づいて整理した図を表した。)。しかしながら、特許文献1で示されている母材及び溶接金属部の破壊機構には、通しダイアフラムによる角形鋼管の拘束の影響が考慮されていない。実際には、通しダイアフラムの存在によって通しダイアフラム近傍における角形鋼管の鋼管周方向の変形が拘束される一方で、通しダイアフラムから柱軸方向に離れた位置ではその拘束が弱まることで鋼管周方向の変形が生じ、それらの拘束状態の違いによって鋼管端部に局所的な面外曲げが生じると考えられる。よって、特許文献1の母材及び溶接金属部の破壊機構には、通しダイアフラムによる角形鋼管の拘束の影響を考慮する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】独立行政法人建築研究所、冷間成形角形鋼管設計・施工マニュアル 2008年度版、2008.12
【非特許文献2】宗川ら、コラム角部の面外曲げ性状と応力・ひずみ状態に関する有限要素解析、2014年度日本建築学会関東支部研究報告集I、pp.517-520、2015.3
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-159296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで開示は、通しダイアフラム溶接継手を具備する通しダイアフラム溶接継手構造体において、より高い精度でアンダーマッチングであっても溶接部で破壊が生じることを防止できる、通しダイアフラム溶接継手構造体を提供することを課題とする。また、このような通しダイアフラム溶接継手構造体を製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
非特許文献2に代表されるように、角形鋼管に通しダイアフラムが溶接接合されている場合、通しダイアフラムから十分離れた位置における鋼管断面では通しダイアフラムによる変形拘束の影響は殆どないが、通しダイアフラム近傍に位置する鋼管断面では通しダイアフラムによって鋼管周方向の変形が拘束されることで局所的な面外曲げが作用し、鋼管の外面側と内面側で応力状態が大きく異なることが知られている。具体的には、鋼管の外面側で応力が大きく、内面側で応力が小さくなる応力勾配が断面内に生じ、内面側では大変形域でも塑性歪が殆ど生じないことが示されている。
【0009】
一方、特許文献1では、溶接金属部及びHAZ(溶接熱影響部)に対して、図2(a)のような破壊機構に基づき溶接マッチングの条件式を導出している。図2(a)の破壊機構は鋼管材軸方向と平行に微小変形するものと仮定したものである。しかしながら、この破壊機構においては、通しダイアフラムが鋼管断面を拘束することにより生じる局所的な面外曲げが考慮されておらず、通しダイアフラム近傍の角形鋼管断面の実挙動について一部は再現できているものの、さらに再現性を高めて精度を高めることがよい。
【0010】
そこで発明者は、通しダイアフラム近傍に位置する溶接金属部およびHAZに対して、通しダイアフラムによる鋼管断面の拘束の影響を考慮した破壊機構に基づき溶接マッチングの条件式を導出する着想を得てこれを具体化することで発明を完成させた。より詳しくは後述するが、本開示では図2(b)の破壊機構のように、通しダイアフラムの拘束によって鋼管の外面側と内面側で応力差が生じることにより、微小回転変形するものと仮定するものである。これによって導出されるマッチングの条件は、特許文献1によるマッチングの条件に比べ溶接金属の引張強度を更に緩和しても、溶接金属での破断を防止することができることがわかり、特許文献1の効果がさらに顕著なものとなる。
以下、本開示について説明する。
【0011】
本開示の1つの態様は、通しダイアフラムに角形鋼管を溶接してなる通しダイアフラム溶接継手構造体であって、溶接部のレ形開先の開先角度をα(°)、ルートギャップをg(mm)、余盛り高さをe(mm)、溶接金属の引張強さをWMσ(N/mm)、角形鋼管の角部の引張強さをcBMσ(N/mm)、及び角形鋼管の角部の厚さをt(mm)としたとき、下記式(1)~式(3)を満たす通しダイアフラム溶接継手構造体である。
【0012】
【数1】
【0013】
【数2】
【0014】
【数3】
【0015】
式(1)、式(2)のβは、次の式(4)を満たすβ’及びαのうち小さい方の値を取る。
【0016】
【数4】
【0017】
式(1)、式(3)のβ2は、次の式(5)を満たすβ’及びαのうち小さい方の値を取る。
【0018】
【数5】
【0019】
上記通しダイアフラム溶接継手構造体において、角形鋼管の径をD(mm)としたとき、角形鋼管の曲げによって角部外面に生じる歪が一様伸びに到達するときの角形鋼管の部材角よりも、角形鋼管の曲げによって角部内面に生じる歪が一様伸びに到達するときの角形鋼管の部材角が大きくなるD/tとされてもよい。
【0020】
上記ダイアフラム継手構造体において、溶接金属のビッカース硬さをWMHv、角形鋼管の角部のビッカース硬さをcBMHvとしたとき、さらに下記式(6)、式(7)が成り立つように構成してもよい。
【0021】
【数6】
【0022】
【数7】
【0023】
通しダイアフラム溶接継手構造体において、角形鋼管を構成する材料の、角形鋼管とする前における引張強さをfBMσ(N/mm)としたとき、さらに下記式(8)が成り立つように構成してもよい。
【0024】
【数8】
【0025】
通しダイアフラム溶接継手構造体において、溶接熱影響部の引張強さをHAZσu(N
/mm2)としたとき、下式(9)を満たすように構成してもよい。
【0026】
【数9】
【0027】
通しダイアフラム溶接継手構造体において、溶接熱影響部のビッカース硬さをHAZHv、角形鋼管の角部のビッカース硬さをcBMHvとしたとき、さらに下記式(10)、式(11)が成り立つように構成してもよい。
【0028】
【数10】
【0029】
本開示の他の態様は、通しダイアフラムに角形鋼管を溶接してなる通しダイアフラム溶接継手構造体を製造する方法であって、溶接部のレ形開先の開先角度をα(°)、ルートギャップをg(mm)、余盛り高さをe(mm)、溶接金属の引張強さをWMσ(N/mm)、角形鋼管の角部の引張強さをcBMσ(N/mm)、及び角形鋼管の角部の厚さをt(mm)として下記式(1)~式(3)を満たすように設計し、これにより溶接をおこなう通しダイアフラム溶接継手構造体の製造方法である。
【0030】
【数11】
【0031】
【数12】
【0032】
【数13】
【0033】
式(1)、式(2)のβは、次の式(4)を満たすβ’及びαのうち小さい方の値を取る。
【0034】
【数14】
【0035】
式(1)、式(3)のβは、次の式(5)を満たすβ’及びαのうち小さい方の値を取る。
【0036】
【数15】
【0037】
通しダイアフラム溶接継手構造体の製造方法において、角形鋼管の径をD(mm)とした時、角形鋼管の曲げによって角部外面に生じる歪が一様伸びに到達する時の角形鋼管の部材角よりも、角形鋼管の曲げによって角部内面に生じる歪が一様伸びに到達する時の角形鋼管の部材角が大きくなるD/tとしてもよい。
【0038】
通しダイアフラム溶接継手構造体の製造方法において、溶接金属のビッカース硬さをWMHv、角形鋼管の角部のビッカース硬さをcBMHvとしたとき、WMσ(N/mm)、cBMσ(N/mm)を下記式(6)、式(7)により求めるようにしてもよい。
【0039】
【数16】
【0040】
【数17】
【0041】
通しダイアフラム溶接継手構造体の製造方法において、角形鋼管を構成する材料の、角形鋼管とする前における引張強さをfBMσ(N/mm)としたとき、さらに下記式(8)によりcBMσ(N/mm)を求めてもよい。
【0042】
【数18】
【0043】
通しダイアフラム溶接継手構造体の製造方法において、溶接熱影響部の引張強さをHAZσ(N/mm)としたとき、下式(9)を満たすように溶接を行ってもよい。
【0044】
【数19】
【0045】
通しダイアフラム溶接継手構造体の製造方法において、溶接熱影響部のビッカース硬さをHAZHv、角形鋼管の角部のビッカース硬さをcBMHvとしたとき、さらに下記式(10)、式(11)により、HAZσ(N/mm)及びcBMσ(N/mm)を求めてもよい。
【0046】
【数20】
【発明の効果】
【0047】
式(1)~式(5)によれば、一律にオーバーマッチング溶接を設定する従来の常識にとらわれずに、特に破壊の起点になることが多い角形鋼管の角部においても、上記関係を満たす限りアンダーマッチング溶接でも母材(角形鋼管)から破壊させることができる。すなわち、アンダーマッチング溶接であっても、母材に比較して靭性が低い溶接金属部に変形が集中するのを避けることで、粘り強い溶接継手を実現できる。
また式(6)~式(8)によれば、鋼管角部の引張強さや溶接金属部の引張強さを簡便に得ることができる。
また式(9)によれば、角部においてアンダーマッチング溶接でかつ溶接熱影響部(HAZ)が軟化していても、母材に比較して靭性が低い溶接熱影響部(HAZ)に変形が集中するのを避けることで、粘り強い溶接継手を実現できる。特に母材強度490N/mm級を超える高強度の冷間成形角形鋼管において、角部は加工硬化により強度上昇しているが、熱影響部は焼き鈍されて軟化しやすい。このような場合に、母材に比較して靭性が低い溶接熱影響部(HAZ)に変形が集中するのを避けることで、粘り強い溶接継手を実現できる。
また式(10)~式(11)によれば、鋼管角部の引張強さや溶接熱影響部(HAZ)の引張強さを簡便に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】特許文献1の開示を整理した図である。
図2図2(a)は特許文献1に基づく破壊機構、図2(b)は本開示に基づく破壊機構の考え方を概念的に表した図である。
図3図3(a)は通しダイアフラム溶接継手構造体10の外観斜視図、図3(b)は鋼管角部における溶接部を拡大して表した図である。
図4】通しダイアフラム溶接継手構造体10の平面図である。
図5】通しダイアフラム溶接継手構造体10の断面を示す図である。
図6】通しダイアフラム溶接継手構造体10の他の断面を示す図である。
図7】溶接部20の一部を拡大した図である。
図8】鋼管角部11aを説明する図である。
図9】溶接角部20aについて説明する図である。
図10】冷間加工前の平坦な鋼材の引張強さと鋼管角部の引張強さとの関係を説明する図である。
図11】n-t-w座標系を表した図である。
図12】溶接部20をモデル化した図である。
図13図13(a)は通しダイアフラムから十分に離れた位置における母材の破壊機構を仮定したことを説明する図であり、図13(b)は通しダイアフラム近傍に位置する母材の破壊機構を仮定したことを説明する図である。
図14図14(a)、図14(b)は通しダイアフラムから十分に離れた位置における母材の破壊機構のn-t-w直交座標系による表示である。
図15図15(a)、図15(b)は通しダイアフラム近傍における母材の破壊機構のn-t-w直交座標系による表示である。
図16】溶接金属部における式の導出について説明する図である。
図17図17(a)、図17(b)は溶接金属部の破壊機構のn-t-w直交座標系による表示である。
図18】本開示の効果を説明する1つの例を説明する図で、横軸に母材の厚さ、縦軸にWMσcBMσをとったグラフである。
図19】本開示の効果を説明する1つの例を説明する図で、横軸に開先角度、縦軸にWMσcBMσをとったグラフである。
図20】本開示の効果を説明する他の1つの例を説明する図で、横軸に余盛高さ/母材の板厚、縦軸にWMσcBMσをとったグラフである。
図21】幅厚比D/tの影響を得るためのモデルを表す図である。
図22】部材角比と相当全歪との関係を表す図である。
図23】幅厚比と一様伸び時の部材角比との関係を表す図である。
図24】HAZにおける式の導出について説明する図である。
図25】HAZにおける本開示の効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
1.通しダイアフラム溶接継手構造体の構成
図3(a)は形態の1つの例を説明する図で、通しダイアフラム溶接継手構造体10の外観を模式的に表した斜視図である。図3(b)は図3(a)に矢印IIIbで示した部位(溶接部20)を拡大して表した図である。図4は通しダイアフラム溶接継手構造体10を図3(a)に矢印IVで示した方向から見た図であり、ダイアフラム14が平面視される方向から見た図である。図5図4のV-Vに沿った断面図、図6図4のVI-VIに沿った断面図である。
【0050】
図3図6よりわかるように、本形態では通しダイアフラム溶接継手構造体10は、角形鋼管11、サイコロ(タイコと呼ばれることもある。)12、梁13、ダイアフラム14、裏当て金15を有して構成されている。ここからわかるように本形態で通しダイアフラム溶接構造体10は通しダイアフラム形式の溶接継手を用いた角形鋼管柱である。
【0051】
通しダイアフラム溶接継手構造体10は、同軸に配置された2つの角形鋼管11の向かい合う端面(小口)間に、サイコロ12が配置される。サイコロ12も形状としては角形鋼管である。これによりサイコロ12の端面と角形鋼管柱11の端面とが対向する部位が2か所形成されるが、ここにそれぞれダイアフラム14が備えられる。ダイアフラム14は角形鋼管11及びサイコロ12よりも大きな外形を有する板状の鋼材であり、その一方の板面が角形鋼管柱11の端面に溶接され、他方の板面がサイコロ12の端面に溶接されている。従って、図3図6よりわかるように、角形鋼管11及びサイコロ12の外周からダイアフラム14の外周が突出した形態となる。
【0052】
次に角形鋼管11、サイコロ12、及びダイアフラム14による溶接継手について説明する。図7図6にVIIで示した部位、すなわち角形鋼管11の角部における溶接継手部分を拡大した図である。
【0053】
図3図7よりわかるように、本形態の通しダイアフラム溶接継手構造体10の溶接継手では、角形鋼管11の内側とダイアフラム14の板面との入隅部、及びサイコロ12の内側とダイアフラム14の板面との入隅部には裏当て金15が配置されている。
【0054】
そしてダイアフラム14の表裏面では角形鋼管11、及びサイコロ12の端面が付き当てられているT字となった部位で溶接金属21により溶接されて溶接部20が形成されている。この溶接部20は突き当てられた部位の全線(全周)に亘って設けられている。上記した裏当て金15はこの溶接金属21を配置する際に用いられる裏当て金である。
【0055】
溶接部20のうち、角部における構成について説明する。ここで「角部」は次のように考える。
角形鋼管11は断面形状が正方形であるが、実際には図4からもわかるように、当該正方形の四隅ではいわゆるR(アール)が形成されており、円弧状となっている。図8には図4にVIIIで示した1つの当該隅を拡大した図を表した。
ここで、図8に示したように角形鋼管11の板厚の中心線Cにおいて、形成された円弧の中心をOで表し、円弧が形成されなかった場合における正方形の頂点をAとしたとき、線OAを挟んで一方及び他方にそれぞれ32.5°となる範囲(合計65°)の部位を角形鋼管11の角部11a(鋼管角部11a)とする。そして、当該鋼管角部11aに位置づけられる溶接部20を、溶接部20における角部20a(溶接角部20a)とする。
ここで鋼管角部11aがなす円弧の半径は特に限定されることはないが、鋼管角部11aの外側における曲率半径をr、鋼管の板厚をt(mm)としたとき、冷間プレス成形する角形鋼管では、6≦t≦9では3.0t≦r≦4.0t、9<tでは3.1t≦r≦3.9tで管理される。一方冷間ロールで成形される角形鋼管では2.0t≦r≦3.0tで管理されている。
【0056】
本開示ではこの鋼管角部11a、及び溶接角部20aにおいて以下に説明する特徴を有している。図9図7と同じ視点で表した1つの溶接角部20a周辺に注目した図を表した。ただし図9では便宜上図7と図の向きが異なる。この図からわかるように、鋼管角部11aである母材は、その端面はダイアフラム14の一方の面に対して傾斜しており、レ形開先が形成されている。そしてダイアフラム14と鋼管角部11aの端面との間に溶接金属21が介在して接合されている。このとき次の形状、及び値を定義する。
【0057】
鋼管角部厚さ:t(mm)
余盛り高さ:e(mm)
ルートギャップ:g(mm)
開先角度:α(°)(0°≦α<90°)
【0058】
2.通しダイアフラムによる角形鋼管の変形
地震力等の外力によって、通しダイアフラムを有する角形鋼管柱が変形する場合、ダイアフラムの近傍に位置する鋼管断面ではダイアフラムによって鋼管周方向の変形が拘束され、局所的な面外曲げが作用し、鋼管の外側と内側で柱軸方向の応力歪状態が大きく異なる。
一方、ダイアフラムから十分に離れた位置では鋼管の外側と内側で柱軸方向の応力歪状態が概ね等しい。
本開示では後述するようにダイアフラム近傍において鋼管に作用する歪状態とダイアフラムから十分に離れた位置において鋼管に作用する歪状態との違いを考慮して破壊に関する関係及び条件を導出した。
【0059】
3.本開示の関係式
本開示では式(1)が成立する。式(1)でWMσは溶接金属の引張強さ(N/mm)、cBMσは角形鋼管の角部の引張強さ(N/mm)である。
【0060】
【数21】
【0061】
ここで、式(1)のγ、γは次の式(2)、式(3)で求められる。式(2)、式(3)でαはレ形開先角度(°)、gはルートギャップ(mm)、eは余盛高さ(mm)、tは角形鋼管の角部の母材の厚さ(mm)である(いずれも図9参照)。
【0062】
【数22】
【0063】
【数23】
【0064】
また、式(1)、式(2)のβは、次の式(4)を満たすβ’及びαのうち小さい方の値を取る。
【0065】
【数24】
【0066】
式(1)、式(3)のβは、次の式(5)を満たすβ’及びαのうち小さい方の値を取る。
【0067】
【数25】
【0068】
式(1)~式(5)は、後でその導出について説明するが、鋼管角部において溶接金属で破壊することなく母材(鋼管角部)で破壊するための溶接金属の必要な強度を表わす。これによれば、通しダイアフラム溶接継手構造体10の多くの場合において、破壊の起点となる角部で破壊が生じる場合であっても、溶接金属で破壊されることに先んじて、母材(鋼管角部)から破壊を生じさせることができる。そして、アンダーマッチング又はイーブンマッチング(母材強度と溶接金属強度が等しい場合:cBMσWMσ)であっても、式(1)を満たすことによって、当該母材からの破壊が可能となる。従って、これを満たす限りにおいて公知の材料、及び公知の溶接条件を適用することができ、溶接に関する規制、管理をより緩和することが可能となる。このことは、より適切な溶接を行う信頼性を向上させることも意味する。そしてその際にも溶接金属の破壊靱性を向上させる等の特別な措置を必要としない。例えば必要以上に高強度で高価な溶接金属を適用しなくてもよい。
【0069】
ここで、鋼管角部11aの引張強さcBMσ(N/mm)、溶接金属の引張強さWMσ(N/mm)を得る手段は特に限定されることはないが、より簡便に鋼管角部11aの引張強さcBMσ(N/mm)、溶接金属の引張強さWMσ(N/mm)を得る手段として、それぞれのビッカース硬さからの算出を挙げることができる。具体的には式(6)、式(7)を演算すればよい。式(6)、式(7)は、文献(SAE International,SAE J 417,1983)のビッカース硬さHvと引張強さの換算表をもとに、Hvと引張強さを関係式で表わしたものである。
【0070】
【数26】
【0071】
【数27】
【0072】
式中のWMHvは溶接金属21のビッカース硬さ(Hv)であり、cBMHvは鋼管角部11aのビッカース硬さ(Hv)である。またビッカース硬さの測定は、鋼管角部11a、溶接角部20aの溶接金属21の外側表面から深さ2mmの位置でJIS Z2244:2009に基づきおこなった値を用いる。
【0073】
さらに、鋼管角部11aの引張強さcBMσ(N/mm)を得る他の手段として、実際にJIS Z2241:2011に準拠して鋼管角部における引張強さを得ることもできるが、冷間加工前の平坦な鋼材の引張強さfBMσ(N/mm)から下記式(8)を用いて求めることもできる。すなわち角形鋼管を形成する素材の引張強さから鋼管角部の引張強さを得る。
【0074】
【数28】
【0075】
この式(8)は次のようにして得た。すなわち、JIS Z2241:2011に準拠して冷間加工前の平坦な鋼材の引張強さfBMσ(N/mm)を測定し、この鋼材を使って角形鋼管を製作する。この製作された角形鋼管についてJIS Z2241:2011に準拠して鋼管角部の引張強さcBMσ(N/mm)を測定し、fBMσ(N/mm)と対比する。表1に条件及び結果、図10に結果のグラフを示した。
【0076】
表1において、各試験体の材質、板厚、及び機械的性質を表した。
また図10のグラフは横軸に冷間加工前の平坦な鋼材の引張強さfBMσ(N/mm)、縦軸に鋼管角部の引張強さcBMσ(N/mm)を取った。
【0077】
【表1】
【0078】
図10に示したように表1の結果に基づいて最小二乗法により破線で示した式(8’)を得る。これに対して構造物としての安全側を考慮し、式(8’)と各測定値との誤差の標準偏差σを考慮して式(8’)に対して2σを加算し、これを式(8)とした。
【0079】
【数29】
【0080】
以上によれば、通しダイアフラム溶接継手構造体10において、その角部について上記式(1)を満たすように溶接継手を設計し、これに基づいて溶接する溶接継手の製造方法を提供することができる。さらに、外表面から2mm内面側の位置でJIS Z2244:2009に基づき溶接金属および鋼管角部のビッカース硬さを測定し、その測定値の最小値から式(6)、式(7)によりそれぞれの引張強さを求めて、上記設計をすることもできる。または、式(8)を用いて鋼管角部の引張強さを冷間加工前の平坦な鋼材の引張強さから求めた場合には、鋼管角部の引張強さ及びビッカース硬さ測定を行う必要もない。
【0081】
さらに、HAZに沿う破壊を想定する場合、次の式(9)が成立する。
【0082】
【数30】
【0083】
この式(9)を満たすことにより、鋼管角部においてアンダーマッチング溶接でかつHAZが軟化していても、この関係を満たす限り母材破壊させることができる。すなわち、角部において例えアンダーマッチング溶接でかつHAZが軟化していても、母材に比較して靭性が低い溶接部に変形が集中するのを避けることで、粘り強い溶接継手を実現できる。
【0084】
ここで、鋼管角部の引張強さcBMσ(N/mm)、HAZの引張強さHAZσ(N/mm)を得る手段は特に限定されることはないが、より簡便に当該鋼管角部の引張強さcBMσ(N/mm)、HAZの引張強さHAZσ(N/mm)を得る手段として、上記したと同様に、それぞれのビッカース硬さからの算出を挙げることができる。具体的には、外表面から2mm内面側の位置でJIS Z2244:2009に基づきビッカース硬さ試験を行い、その測定値の最小値から式(10)、式(11)を演算すればよい。
【0085】
【数31】
【0086】
4.関係式の導出
次に、式(1)~式(5)の根拠について説明する。本開示では、溶接金属で破壊することなく、母材である鋼管角部で破壊するための各部が備えるべき強度を極限解析により求めた。以下に詳しく説明する。
【0087】
4.1.破壊条件と仮定条件
ここでは、以下の(i)乃至(v)を前提とする。
(i)多軸応力状態における破壊条件として、von Misesの降伏条件における材料の降伏点を引張強さまで拡張した式(12)を用いる。ただし、式(12)に示されるσ、σ、σ、τnt、τtw及びτwnは、図11に示すようなn-t-w直交座標系における任意の応力成分であり、σは材料の引張強さである。
【0088】
【数32】
【0089】
(ii)溶接線長さはそのビード幅に比べて十分に大きく、破壊面での溶接線方向の伸縮は生じないものとする。すなわち、溶接線方向の垂直歪は0とする(平面歪状態)。
【0090】
(iii)対象とする接合部には鋼管の曲げによって鋼管材軸方向に引張力が作用しているものとする。
【0091】
(iv)図12に示したように、対象とする接合部の溶接はレ形開先の完全溶込み溶接とし、開先を設ける側の母材(鋼管)の板厚をt[mm]、開先角度をα[°]、ルートギャップをg[mm]、余盛り高さをe[mm]で表す。なお、ルートフェースは考慮しない。
【0092】
(v)対象とする溶接部において、鋼管および溶接金属はそれぞれの領域内で強度が均一であるとする。
【0093】
4.2.母材の破壊耐力の導出
母材の破壊耐力を算出するにあたって、図13(a)、図13(b)に示す2つの破壊機構を考える。図13(a)は通しダイアフラムから十分に離れた位置における母材の破壊を仮定したものであり、鋼管の軸方向と平行に微小変形する破壊機構である。一方、図13(b)は通しダイアフラム近傍に位置する母材の破壊機構であり、通しダイアフラムによる鋼管の拘束効果を考慮し、外力によって鋼管の外面27側あるいは鋼管の内面28側を中心に微小回転変形することを考慮したものである。
以下にそれぞれについて説明する。
【0094】
4.2.1.通しダイアフラムから離れた位置における母材の破壊耐力
図13(a)に示したように、破壊位置の運動的許容状態における荷重作用方向の微小変位をuとし、破壊機構の生ずる角度を板厚方向に対しθとすると、破壊機構に沿う方向及び直行方向の速度成分はそれぞれsinθcosθとなる。
ここで、破壊機構に対し直交座標系n-t-wを、nは破壊機構の直行方向、tは破壊機構に沿う方向、wは溶接線と平行な方向となるようにとる(図14)。ここで、t軸方向の拘束はn軸およびw軸方向の拘束に比べ小さく、垂直応力σは0とみなす。従って式(12)にσ=0を代入し、母材の引張強さをBMσとすると、母材の破壊条件は式(13)で表される。
【0095】
【数33】
【0096】
図13(a)に示した破壊機構において、w方向の垂直歪εw、t-w平面内のせん断歪γtw、及びw-n平面内のせん断歪γwnはそれぞれ0であるので、式(13)と塑性流れの法線則から、式(14)を得る。
【0097】
【数34】
【0098】
式(14)の各関係を式(13)に代入して式(15)を得る。
【0099】
【数35】
【0100】
ここで図14(b)に示した単位長さ(=1)あたりの図13(a)、図14(a)における応力仕事増分Winは式(16)で表される。
【0101】
【数36】
【0102】
ここで、応力σ、τntは破壊条件である式(15)を満たす。塑性流れの法線則から、u・cosθ、及びu・sinθは式(17)のようになる。
【0103】
【数37】
【0104】
式(17)からτntはσを用いて式(18)のように表される。
【0105】
【数38】
【0106】
式(15)及び式(18)から式(19)のようにσ、τntを求め、これを式(15)に代入することにより応力仕事増分は式(20)のようになる。
【0107】
【数39】
【0108】
【数40】
【0109】
一方、外力による仕事増分Wexは、溶接線方向(w方向)を単位長さとした場合の母材の最大耐力をPBM1とすると、式(21)により表される。
【0110】
【数41】
【0111】
仮想仕事の原理より、WinとWexとは等しく、式(20)と式(21)とが等しいので、図13(a)の破壊機構における母材の破壊耐力PBM1は式(22)で表される。
【0112】
【数42】
【0113】
式(22)を最小とするθは0であるから、角部における母材の引張強さをcBMσとすると、PBM1図13(a)に示した破壊機構図に関する破壊耐力であり、式(23)で表される。
【0114】
【数43】
【0115】
4.2.2.通しダイアフラム近傍における母材の破壊耐力
図13(b)に示すように、破壊位置の運動的許容状態における微小回転角をλとし、破壊機構の生ずる角度を板厚方向に対しθとする。破壊機構に対し直交座標系n-t-wを図15のようにとり、垂直応力σは0とみなし、角部における母材の引張強さをcBMσとすると、母材の破壊条件は上記式(13)となる。
【0116】
図13(b)の破壊機構において、w方向の垂直歪ε、n-t平面内のせん断歪γnt、t-w平面内のせん断歪をγtw、及びw-n平面内のせん断歪γwnはそれぞれ0であるので、式(13)と塑性流れの法線則から、式(24)の関係が成り立つ。
【0117】
【数44】
【0118】
式(24)の関係を式(13)に代入して式(25)を得る。
【0119】
【数45】
【0120】
また、図13(b)における溶接線方向単位長さ(図15(b))当たりの応力仕事増分Winは式(26)で表される。
【0121】
【数46】
【0122】
式(26)に式(25)を代入して整理すると式(27)を得る。
【0123】
【数47】
【0124】
一方、外力による仕事増分Wexは、溶接線方向単位長さ当たりの母材の破壊耐力をPBM2とすると、式(28)で表される。
【0125】
【数48】
【0126】
仮想仕事の原理よりWinとWexとが等しいとすると、図13(b)の破壊機構における母材の破壊耐力PBM2は式(29)で表される。
【0127】
【数49】
【0128】
式(29)を最小とする時のθは0であるから、図13(b)における母材の破壊耐力PBM2は式(30)で表される。
【0129】
【数50】
【0130】
4.2.3.母材の破壊耐力
母材の破壊耐力PBMはPBM1とPBM2のうち小さい方の値となるが、式(23)と式(30)とからわかるように、PBM1とPBM2とは等しいので、母材の破壊耐力PBMは式(31)で表される。
【0131】
【数51】
【0132】
4.3.溶接金属の破壊耐力の導出
溶接金属の破壊耐力を算出するにあたっては図16に示す破壊機構について考える。図16は通しダイアフラム近傍に位置する溶接金属の破壊を仮定したもので、通しダイアフラムによる鋼管の拘束効果を考慮し、外力によって鋼管の内側を中心に微小回転変形するものである。図16に示すように破壊位置の運動的許容状態における微小回転角をλ、破壊機構の生ずる角度を板厚方向に対しβ(ただし、0≦β≦α)、破壊機構の長さをlcrとする。ここで、lcrは式(32)で表される。
【0133】
【数52】
【0134】
直交座標系n-t-wを図17のようにとり、t軸方向の垂直応力σを0とみなし、溶接金属の引張強さをWMσとすると、溶接金属の破壊条件は式(33)で表される。
【0135】
【数53】
【0136】
図16の破壊機構において、w方向の垂直歪ε、n-t平面内のせん断歪γnt、t-w平面内のせん断歪γtw、及びw-n平面内のせん断歪γwnはそれぞれ0であるので、式(33)と塑性流れの法線則から、式(34)の各関係が成り立つ。
【0137】
【数54】
【0138】
式(34)の関係を式(33)に適用すると式(35)を得る。
【0139】
【数55】
【0140】
また、図16における溶接線方向の単位長さ当たりの応力仕事増分Winは式(36)で表される。
【0141】
【数56】
【0142】
式(36)に式(35)を代入すると式(37)を得る。
【0143】
【数57】
【0144】
一方、外力による仕事増分Wexは、溶接線方向単位長さ当たりの溶接金属の破壊耐力をPWMとすると、式(38)で表される。
【0145】
【数58】
【0146】
仮想仕事の原理よりWinとWexが等しいとすると、図16の破壊機構における溶接金属の破壊耐力PWMは式(39)で表される。
【0147】
【数59】
【0148】
式(39)が最小となる時が図16の破壊機構に対応する溶接金属の破壊耐力であり、その時のβは、式(39)のβに関する一階偏微分式を0と等しいと置いて求めた式(40)を満たすβ’と、αのいずれか小さい方の値とする。
【0149】
【数60】
【0150】
4.4.溶接金属部で破断しないためのマッチング条件
溶接金属に先行して母材で破壊するための溶接部のマッチング条件は、式(31)及び式(39)から、PBM≦PWMとして解くと式(41)を得る。
【0151】
【数61】
【0152】
ただし、式(41)のβは、式(40)を満たすβ’とαとのいずれか小さい方の値をとる。
【0153】
4.5.特許文献1との対比
特許文献1では、イーブンマッチング又はアンダーマッチングにおいても母材から破壊されるための構造として式(42)を開示している。
【0154】
【数62】
【0155】
ここで、βは式(43)を満たすβ’(β’≧0)とαとのいずれか小さい方の値をとる。
【0156】
【数63】
【0157】
そこで、本開示による式(41)と式(42)とを対比する。具体的には、開先角度αを35°、ルートギャップgを7mm、余盛高さeを母材の板厚tの1/4としたときにおいて、母材の板厚tとWMσcBMσとの関係を図18に示した。
図18では、横軸に母材の板厚t[mm]、縦軸にWMσcBMσを取っている。縦軸は1.00がイーブンマッチングを表し、1.00より大きい場合がオーバーマッチング、1.00より小さい場合がアンダーマッチングを示している。本開示ではイーブンマッチング及びアンダーマッチングに関するので、縦軸は1.00以下の領域を示している。すなわち、縦軸の値が小さいほどアンダーマッチングの程度が大きくなることを意味する。
【0158】
図18に表した点線は式(42)で両辺が等しくなる位置を表す。これによれば、式(42)(特許文献1)では、点線とWMσcBMσ=1.00とで囲まれる範囲で、アンダーマッチングであっても母材から破壊がされることを示している。かかる観点から特許文献1についてもアンダーマッチングが許容される範囲が示され、これに伴うコスト削減、施工管理や設計の自由度等の効果を奏するものとなる。
【0159】
これに対して図18に示した実線は式(41)で両辺が等しくなる位置を表す。これによれば、式(41)(本開示)では、実線とWMσcBMσ=1.00とで囲まれる範囲で、アンダーマッチングであっても母材から破壊がされることを示している。すなわち、本開示によれば、式(42)に比べて、さらにアンダーマッチングが許容されることがわかる。具体的には、本開示では、図18の点線と実線との間の領域(A)において、アンダーマッチングが許容される領域を拡張して考えることができるようになった。
これにより本開示によれば、従来に比べてさらに有利なアンダーマッチングが許容される範囲が示されこれに伴う、コスト削減、施工管理や設計の自由度等の効果を奏するものとなる。
【0160】
特に限定されることはないが、鋼管角部における母材の板厚t[mm]は20mmより大きく50mmより小さいことが好ましい。
板厚20mm以下の角形鋼管では、変形及び破壊について局部座屈による影響が大きい。従って、本開示で対象とする通しダイアフラム溶接部破壊の防止の観点では、板厚が20mmを超える角形鋼管において、特に顕著な効果を発揮する。
一方、本開示の適用の前提となる、ダイアフラムによって鋼管周方向の変形が拘束されることによる局所的な面外曲げは、板厚が大きい場合には生じ難い。従って、本開示は板厚が50mm未満の角形鋼管において、特に顕著な効果を発揮する。
【0161】
図19には、母材の板厚を32mm、ルートギャップgを7mm、余盛高さeを8mmとしたときにおいて、開先角度αとWMσcBMσとの関係を示した。
図19では、横軸に開先角度[°]、縦軸にWMσcBMσを取っている。縦軸の考え方は図18と同じである。また、図19でも図18と同様に式(41)、式(42)についてそれぞれ両辺等しくなる線を示した。
この例からもわかるように、本開示では、図19の点線と実線との間の領域(A)において、アンダーマッチングが許容される領域を拡張して考えることができるようになった。
これにより本開示によれば、従来に比べてさらに有利なアンダーマッチングが許容される範囲が示されこれに伴う、コスト削減、施工管理や設計の自由度等の効果を奏するものとなる。
【0162】
図20には、母材の板厚を32mm、ルートギャップgを7mm、開先角度を35°としたときにおいて、余盛高さ/母材厚さと、WMσcBMσとの関係を示した。
図20では、横軸に余盛高さ/母材厚さ、縦軸にWMσcBMσを取っている。縦軸の考え方は図18と同じである。また、図20でも図18と同様に式(41)、式(42)についてそれぞれ両辺等しくなる線を示した。
この例からもわかるように、本開示では、図20の点線と実線との間の領域(A)において、アンダーマッチングが許容される領域を拡張して考えることができるようになった。
これにより本開示によれば、従来に比べてさらに有利なアンダーマッチングが許容される範囲が示されこれに伴う、コスト削減、施工管理や設計の自由度等の効果を奏するものとなる。
【0163】
以上のように、本開示は、式(42)で表されるアンダーマッチングが許容される範囲を超えてアンダーマッチングが許容される範囲において効果が顕著である。従って、領域A、A、Aで表した範囲のように式(41)と式(42)との間でアンダーマッチングが許容される。
そしてこの範囲を表した式が式(1)~式(5)である。
【0164】
4.6.鋼管径及び厚さの考慮
上記したように本形態では、ダイアフラムの近傍に位置する鋼管断面ではダイアフラムによって鋼管周方向の変形が拘束され、局所的な面外曲げが作用し、鋼管の外面27側と内面28側とで柱軸方向の応力歪状態が大きく異なることを考慮して上記関係式を導いた。発明者は、上記関係式を満たした上で、さらに確実にアンダーマッチングであっても溶接部が母材(鋼管角部)に対して先行して破壊しないための検討を行った。その結果、鋼管径及び厚さを考慮することができる知見を得た。以下に詳しく説明する。
【0165】
本形態では鋼管の径をD(mm)(図4参照)、角部における鋼管の厚さをt(mm)としたとき、次の式(44)を満たすことが好ましい。
【0166】
【数64】
【0167】
この式(44)では、有限要素法解析等のシミュレーションにより鋼管角部の外面27側に生じる歪が鋼管の一様伸びに到達するときの部材角比Rbgと、D/tとの関係を直線近似した式である、
bg=a(D/t)+b
及び、鋼管角部の内面28側に生じる歪が鋼管の一様伸びに到達するときの部材角比Rbnと、D/tとの関係を直線近似した式である、
bn=a(D/t)+b
を得て、これらの係数a、定数b、係数a、定数bを式(44)に用いるものである。式(44)の導出について具体例を用いつつ以下に説明する。
【0168】
ここでは具体例として対象とする鋼管の径Dを600mmとしたときについて説明する。
この場合、図21に示したように、通しダイアフラムに接合された鋼管に対して通しダイアフラムとは反対側の端部に角部を結ぶ1つの対角線に沿って一方向に強制変位を与えるシミュレーションを行う。図21は、強制変位を与える対角線を含み鋼管の軸線に沿った面に対する1/2の対称モデルである。
【0169】
初めにシミュレーション結果から、鋼管角部の外面27側及び内面28側における部材角比と相当全歪との関係を求める。これにより鋼管の部材角比と鋼管内外面における歪状態との関係を得ることができる。ここで、「部材角」とは、曲げやせん断などの外力によって角形鋼管等の部材が変形した場合において、変形後の部材両端を結んだ直線が変形前の部材両端を結んだ直線となす角度である。また「部材角比」とは、曲げ時(強制変位を与えた時)における鋼管の部材角を、鋼管の全塑性モーメント時の部材角の計算値で除した値(無次元)である。本形態では対象となる角形鋼管(径D)について部材角比と相当全歪との関係を求めるときに、長さを3000mmとし、径D及び角部厚さ25mm、径D及び角部厚さ36mm、並びに径D及び角部厚さ50mmの3つの条件のそれぞれについてこの関係を求める。すなわち本例ではD=600mmの場合おいて角部厚さが25mm、36mm、50mmのそれぞれについてシミュレーションからこの関係を算出した。条件について表2にまとめると次の通りである。
【0170】
【表2】
【0171】
これらについてシミュレーションを行うことにより図22に示したように各厚さに対して、鋼管外面27と鋼管内面28のそれぞれについて、部材角比と相当全歪との関係を得る。図22(a)が厚さ25mm、図22(b)が厚さ36mm、図22(c)が厚さ50mmのときの関係である。
【0172】
次に、得られた部材角比と相当全歪との関係から、相当全歪が当該角形鋼管の特性である一様伸び(%)に達するときの部材角比を得る。具体的には図22で示したように次の通りである。
11:角部厚さ25mmで、外面27における鋼管の一様伸び時の部材角比
12:角部厚さ25mmで、内面28における鋼管の一様伸び時の部材角比
21:角部厚さ36mmで、外面27における鋼管の一様伸び時の部材角比
22:角部厚さ36mmで、内面28における鋼管の一様伸び時の部材角比
31:角部厚さ50mmで、外面27における鋼管の一様伸び時の部材角比
32:角部厚さ50mmで、内面28における鋼管の一様伸び時の部材角比
ここで一様伸び(角部)は材料試験により予め得ておき、その時の相当全歪はシミュレーションで得る。
【0173】
これにより、角部外面27及び角部内面28のそれぞれについてD/tで表される幅厚比に対する一様伸び到達時の部材角比をそれぞれ3点ずつ得ることができる。図23に表した。
そして、当該3点により角部外面27及び角部内面28のそれぞれについて最小二乗法により直線近似を行って幅厚比(D/t)と一様伸び到達時の部材角比との関係の一次式を得る。本例では、図23に示したように、次の式(45)、式(46)を得る。
角部外面:Rbg=-0.0172(D/t)+2.047 (45)
角部内面:Rbn=-0.0456(D/t)+4.033 (46)
【0174】
この式(45)におけるー0.0172が上記した係数a、2.047が上記した定数b、式(46)におけるー0.0456が上記した係数a、4.033が上記した定数bである。
【0175】
図22図23の例にも表れているように、発明者は検討の結果この例に限らず、角部外面27の相当全歪は角部内面28の相当全歪に比べ早期に一様伸びに達している知見を得た。一方で、幅厚比が大きいものほど角部外面27の相当全歪が大きくなるだけでなく、角部内面28の相当全歪も大きくなることを得た。このことから、通しダイアフラムの拘束により生じる局所的な面外曲げは、鋼管内側を回転中心とする曲げの傾向が強いと考えた。また、式(45)、式(46)にも表れているように、角部の軸方向歪が一様伸びに到達する時の部材角比と鋼管の幅厚比との関係には外面・内面問わずどちらも負の相関があることがわかった。これにより鋼管の幅厚比が大きいほど鋼管外面での延性き裂が早期に発生し易くなると考えた。
【0176】
そうすると角部外面27が角部内面28に対して先に破壊する(=歪が一様伸びに達する)ことが好ましい態様であることからRbgよりもRbnが大きい範囲であることが好ましい。従って、式(45)<式(46)とし、これを整理すると上記式(44)を得る。ちなみにD=600mmである本例においてはD/t<69.9となる。ここでは鋼管径D=600mmの例で式(44)~式(46)の導出を説明したが、異なる他の鋼管径でも同様にして式(44)により幅厚比の好ましい具体的な範囲を得ることができる。ただし、発明者によれば、通常に用いられる角形鋼管柱における径及び厚さの範囲においてはD/t<69.9とすることで確実にアンダーマッチングであっても溶接部が母材(鋼管角部)に対して先行して破壊しないことを得た。
【0177】
4.7.HAZを考慮した場合の関係式導出
式(9)で表されるHAZを考慮した場合のマッチングについて説明する。
図24に示すように、溶接部の開先に沿ってHAZ(熱影響部)が形成されているとする(図24ではわかりやすさのためHAZは誇張して大きく示している。)。HAZの破壊耐力は、破壊位置の運動的許容状態における微小回転角をλとし、破壊機構の生ずる角度が板厚方向に対しα(α:開先角度)となる時の破壊機構を仮定することにより得られる。
【0178】
よって、HAZの引張強さをHAZσとし、式(29)においてθをαに、cBMσHAZσに置換することにより、HAZの破壊耐力PHAZは式(47)で表される。
【0179】
【数65】
【0180】
HAZが母材(鋼管角部)に対し先行して破壊しないための溶接部の条件は、式(31)及び式(47)より、PBM≦PHAZとすることで求まり、式(48)となる。
【0181】
【数66】
【0182】
すなわち式(9)を得ることができる。
【0183】
なお、特許文献1では、通しダイアフラムによる鋼管の拘束効果を考慮しない場合の溶接部の破壊において、HAZが母材に対し先行して破壊しないための条件式として式(49)が示されている。
【0184】
【数67】
【0185】
図25に、式(48)と式(49)との比較を示す。図25に示す破線はHAZσcBMσとなる場合を表しており、同図中の2つの実線は本開示である式(48)、及び、特許文献1による式(49)の条件式の下限を表している。図25より、式(48)と式(49)はいずれも開先角度α(°)が大きいほど、HAZが母材に対し先行して破壊しないための条件式の下限値が小さくなる傾向が確認できる。その中でも、本開示のように通しダイアフラムによる鋼管の拘束効果を考慮した式(48)の方が、特許文献1のように通しダイアフラムによる鋼管の拘束効果を考慮していない式(49)に比べ、母材に対するHAZの強度条件をより緩和することができる。
【符号の説明】
【0186】
10 通しダイアフラム溶接継手構造体
11 角形鋼管
11a 鋼管角部(母材)
12 サイコロ
13 梁
14 ダイアフラム
15 裏当て金
20 溶接部
21 溶接金属
図1
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