(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098709
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】血中シロリムス濃度推定システム、血中シロリムス濃度推定方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 33/15 20060101AFI20230703BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230703BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230703BHJP
A61K 31/436 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
G01N33/15 Z
A61P35/00
A61P37/06
A61K31/436
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210855
(22)【出願日】2022-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2021214048
(32)【優先日】2021-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504237832
【氏名又は名称】ノーベルファーマ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100113549
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 守
(74)【代理人】
【識別番号】100115808
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 真司
(72)【発明者】
【氏名】小関 道夫
(72)【発明者】
【氏名】浅田 隆太
(72)【発明者】
【氏名】清水 健次
(72)【発明者】
【氏名】眞田 ちひろ
(72)【発明者】
【氏名】浜田 泉
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA02
4C086CB22
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA07
4C086NA13
4C086ZB08
4C086ZB26
(57)【要約】 (修正有)
【課題】個々の患者におけるシロリムス投与後の血中トラフ値の推移を予測するシステムを提供する。
【解決手段】血中シロリムス濃度推定システム1は、患者情報、投与情報の入力を受け付ける入力部10と、シロリムスの血中濃度を表す血中濃度算出式と、血中濃度算出式に適用するパラメータを算出するパラメータ算出式とを格納した記憶部12と、パラメータ算出式を用いて患者情報に対応したパラメータを算出するパラメータ算出部20と、パラメータ及び投与情報を血中濃度算出式にあてはめて、血中シロリムス濃度推移を表す曲線を求める推定曲線算出部22とを備える。各時間点におけるパラメータの決定に用いる患者の年齢は生年月日に基づいて算出された各時間点における患者の年齢であり、かつ、各時間点におけるパラメータの決定に用いる患者の体重は患者の過去の体重変化の推移に基づいて推定された各時間点における患者の推定体重である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロリムスを有効成分とする薬剤を反復投与された患者における血中シロリムス濃度の推移を推定するシステムであって、
少なくとも生年月日と体重を含む患者情報の入力を受け付ける患者情報入力部と、
少なくとも前記薬剤の投与量と投与タイミングを含む投与情報の入力を受け付ける投与情報入力部と、
反復投与時の2コンパートメントモデルに基づくシロリムスの血中濃度を表す血中濃度算出式と、前記血中濃度算出式に適用するパラメータを算出するパラメータ算出式とを格納した記憶部と、
前記記憶部から読み出した前記パラメータ算出式を用いて前記患者情報に対応したパラメータを算出するパラメータ算出部と、
前記パラメータ及び前記投与情報を前記血中濃度算出式にあてはめて、血中シロリムス濃度推移を表す曲線を求める推定曲線算出部と、
を備え、
各時間点におけるパラメータの決定に用いる患者の年齢は生年月日に基づいて算出された各時間点における患者の年齢であり、かつ、各時間点におけるパラメータの決定に用いる患者の体重は患者の過去の体重変化の推移に基づいて推定された各時間点における患者の推定体重である、血中シロリムス濃度推定システム。
【請求項2】
前記薬剤の剤形に関する情報の入力を受け付ける剤形情報入力部をさらに備え、
前記パラメータ算出部は、前記剤形に関する情報に基づいて前記パラメータを決定する、請求項1に記載の血中シロリムス濃度推定システム。
【請求項3】
併用薬に関する情報の入力を受け付ける併用薬情報入力部をさらに備え、
前記パラメータ算出部は、前記併用薬に関する情報に基づいて前記パラメータを決定する、
請求項1に記載の血中シロリムス濃度推定システム。
【請求項4】
前記併用薬情報入力部にて入力対象となる併用薬がCYP3A4阻害薬又はCYP3A4誘導薬である、
請求項3に記載の血中シロリムス濃度推定システム。
【請求項5】
前記患者情報入力部は、前記患者の血中ヘモグロビン値の情報の入力を受け付け、
前記パラメータ算出部は、前記血中ヘモグロビン値の情報に基づいて前記パラメータを決定する、
請求項1に記載の血中シロリムス濃度推定システム。
【請求項6】
患者における少なくとも1点の任意の時間点における前記薬剤の有効成分の血中濃度の実測値の入力を受け付ける実測値入力部と、
前記実測値を用いたベイズ推定により前記パラメータを事後推定するパラメータ修正部と、
を備え、
前記推定曲線算出部は、事後推定された前記パラメータを用いて前記血中濃度推移を表す曲線を求める、請求項1から5のいずれか1項に記載の血中シロリムス濃度推定システム。
【請求項7】
血中シロリムス濃度推移を表す曲線に血中シロリムス濃度の目標値を当てはめることにより前記薬剤の推奨投与量を算出する推奨投与量算出部をさらに備える、請求項1から5のいずれか1項に記載の血中シロリムス濃度推定システム。
【請求項8】
シロリムスを有効成分とする薬剤を反復投与された患者における血中シロリムス濃度の推移を推定する方法であって、
少なくとも生年月日と体重を含む患者情報の入力を受け付けるステップと、
少なくとも前記薬剤の投与量と投与タイミングを含む投与情報の入力を受け付けるステップと、
記憶部から、反復投与時の2コンパートメントモデルに基づくシロリムスの血中濃度を表す血中濃度算出式と、前記血中濃度算出式に適用するパラメータを算出するパラメータ算出式とを読み出すステップと、
前記記憶部から読み出した前記パラメータ算出式を用いて前記患者情報に対応したパラメータを算出するステップと、
前記パラメータ及び前記投与情報を前記血中濃度算出式にあてはめて、血中シロリムス濃度推移を表す曲線を求めるステップと、
を備え、
各時間点におけるパラメータの決定に用いる患者の年齢は生年月日に基づいて算出された各時間点における患者の年齢であり、かつ、各時間点におけるパラメータの決定に用いる患者の体重は患者の過去の体重変化の推移に基づいて推定された各時間点における患者の推定体重である、血中シロリムス濃度推定方法。
【請求項9】
シロリムスを有効成分とする薬剤を反復投与された患者における血中シロリムス濃度の推移を推定するためのプログラムであって、コンピュータに、
少なくとも生年月日と体重を含む患者情報の入力を受け付けるステップと、
少なくとも前記薬剤の投与量と投与タイミングを含む投与情報の入力を受け付けるステップと、
記憶部から、反復投与時の2コンパートメントモデルに基づくシロリムスの血中濃度を表す血中濃度算出式と、前記血中濃度算出式に適用するパラメータを算出するパラメータ算出式とを読み出すステップと、
前記記憶部から読み出した前記パラメータ算出式を用いて前記患者情報に対応したパラメータを算出するステップと、
前記パラメータ及び前記投与情報を前記血中濃度算出式にあてはめて、血中シロリムス濃度推移を表す曲線を求めるステップと、
を実行させ、
各時間点におけるパラメータの決定に用いる患者の年齢は生年月日に基づいて算出された各時間点における患者の年齢であり、かつ、各時間点におけるパラメータの決定に用いる患者の体重は患者の過去の体重変化の推移に基づいて推定された各時間点における患者の推定体重である、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シロリムスの血中濃度を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
イースター島の土壌から分離された放線菌Streptomyces hygroscopicusの代謝産物であるシロリムスを用いた非臨床研究の結果、当該化合物が脈管腫瘍及び脈管奇形に対して有効であることが示唆されている(非特許文献1~5)。また、臨床研究の結果、シロリムスが本疾患における様々な症状を改善し得ることも示唆されている(非特許文献6,7)。
【0003】
非特許文献8には、シロリムスを服用した被験者における血中シロリムス濃度の算出に影響を与える変動因子を調べ、モデル式にあてはめて血中シロリムス濃度の経時変化を推定した例が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Huber S, Bruns CJ, Schmid G, et al.「Inhibition of the mammalian target of rapamycin impedes lymphangiogenesis.」 Kidney Int 2007; 71:771-777.
【非特許文献2】Kobayashi S, Kishimoto T, Kamata S, et al.「Rapamycin, a specific inhibitor of the mammalian target of rapamycin, suppresses lymphangiogenesis and lymphatic metastasis.」 Cancer Sci. 2007 May;98(5):726-33.
【非特許文献3】Boscolo E, Coma S, Luks VL, et al. 「AKT hyper-phosphorylation associated with PI3K mutations in lymphatic endothelial cells from a patient with lymphatic malformation.」 Angiogenesis. 2015 Apr;18(2):151-62.
【非特許文献4】Boscolo E, Limaye N, Huang L, et al.「Rapamycin improves TIE2-mutated venous malformation in murine model and human subjects.」 J Clin Invest. 2015; 125: 3491-604.
【非特許文献5】Limaye N, Kangas J, Mendola A, et al. 「Somatic Activating PIK3CA Mutations Cause Venous Malformation.」 Am J Hum Genet. 2015 Dec 3;97(6):914-21.
【非特許文献6】Adrienne M. Hammill, et al. 「Sirolimus for the Treatment of Complicated Vascular Anomalies in Children. 」 Pediatr Blood Cancer, 2011, 57, 1018-24.
【非特許文献7】Ozeki M, Nozawa A, Yasue S, Endo S, Asada R, Hashimoto H, Fukao T.「The impact of sirolimus therapy on lesion size, clinical symptoms, and quality of life of patients with lymphatic anomalies.」 Orphanet J Rare Dis. 2019 Jun 13;14(1):141.
【非特許文献8】Mizuno T, Emoto C, Fukuda T, et al.,「Model-based precision dosing of sirolimus in pediatric patients with vascular anomalies.」 Eur. J. Pharm. Sci., 2017, 109, S124-131.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シロリムス経口剤は様々な疾患に対して優れた効果を有する半面、過剰投与となった場合に重篤な有害作用を発現する可能性があるため、血中濃度が一定の範囲内となるよう、慎重に投与する必要がある。例えば、リンパ脈管筋腫症の患者に対してシロリムス経口剤を用いる際には、シロリムスの血中トラフ値が5~15ng/mLの範囲内に収まる様にコントロールすることが推奨されている。
【0006】
一方、血中トラフ値の測定は、シロリムス投与一定期間経過後に採血された血液サンプルを用いて行われるが、測定結果が得られるまでには、さらに一定期間を要する。つまり、血中トラフ値が推奨範囲から外れていた場合であっても、当該事実が確認されるまでには一定期間を要することとなり、その間、シロリムスを処方された患者は、推奨値から外れた状況下におかれる可能性がある。
【0007】
シロリムス経口剤を用いた治療において、経口投与後の血中トラフ値を予測できれば、患者にとって大きなメリットが得られることは疑いない。非特許文献8では、モデル式を利用して被験者における血中シロリムス濃度を推定した例が開示されている。しかし、非特許文献8では、非日本人患者の情報である上、シロリムスの血中濃度の経時変化を推定する際に、被験者の年齢として一定の値が用いられている他、シミュレーション期間内における体重の変動も考慮されていない。特に乳幼児では日々体重が変化し、濃度予測に大きな影響がある。また、シロリムス製剤の剤形も、変動因子として考慮されていない。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、個々の患者におけるシロリムス投与後の血中濃度の推移を予測するシステムを提供することを目的とする。さらには、当該システムで求められた血中シロリムス濃度の予測データを利用することにより、個々の患者の投与量の推奨値を求めるシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の血中シロリムス濃度推定システムは、シロリムスを有効成分とする薬剤を反復投与された患者における血中シロリムス濃度の推移を推定するシステムであって、少なくとも生年月日と体重を含む患者情報の入力を受け付ける患者情報入力部と、少なくとも前記薬剤の投与量と投与タイミングを含む投与情報の入力を受け付ける投与情報入力部と、反復投与時の2コンパートメントモデルに基づくシロリムスの血中濃度を表す血中濃度算出式と、前記血中濃度算出式に適用するパラメータを算出するパラメータ算出式とを格納した記憶部と、前記記憶部から読み出した前記パラメータ算出式を用いて前記患者情報に対応したパラメータを算出するパラメータ算出部と、前記パラメータ及び前記投与情報を前記血中濃度算出式にあてはめて、血中シロリムス濃度推移を表す曲線を求める推定曲線算出部とを備え、各時間点におけるパラメータの決定に用いる患者の年齢は生年月日に基づいて算出された各時間点における患者の年齢であり、かつ、各時間点におけるパラメータの決定に用いる患者の体重は患者の過去の体重変化の推移に基づいて推定された各時間点における患者の推定体重である。
【0010】
この構成により、血中シロリムス濃度を推定する時間点における年齢および体重をパラメータ算出式に適用してパラメータを算出し、適切に血中シロリムス濃度を求めることができる。特に、乳幼児は、月齢により体重の変化が大きく、クリアランスの予測が困難であるため、本発明により血中シロリムス濃度推移を推定することにより、適切な投薬計画が可能になる。なお、患者が乳幼児の場合には、血中シロリムス濃度の推定には月齢を用いることが望ましい。
【0011】
本発明の血中シロリムス濃度推定システムは、前記薬剤の剤形に関する情報の入力を受け付ける剤形情報入力部をさらに備え、前記パラメータ算出部は、前記剤形に関する情報に基づいてパラメータを決定してもよい。この構成により、シロリムス製剤の剤形も変動因子として考慮して血中濃度算出式のパラメータを決定し、血中シロリムス濃度推移を推定できる。また、パラメータ算出部は、血液検体保管方法の情報に基づいてパラメータを決定してもよい。
【0012】
本発明の血中シロリムス濃度推定システムは、併用薬に関する情報の入力を受け付ける併用薬情報入力部をさらに備え、前記パラメータ算出部は、前記併用薬に関する情報に基づいてパラメータを決定してもよい。この構成により、併用薬も変動因子として考慮して血中濃度算出式のパラメータを決定し、血中シロリムス濃度推移を推定できる。ここで、前記併用薬情報入力部にて入力対象となる併用薬がCYP3A4阻害薬又はCYP3A4誘導薬であってもよいし、シロリムスのクリアランスに影響を及ぼす他の薬剤若しくは肝障害などの合併症等であってもよい。
【0013】
本発明の血中シロリムス濃度推定システムにおいて、前記患者情報入力部は、前記患者の血中ヘモグロビン値の情報の入力を受け付け、前記パラメータ算出部は、前記血中ヘモグロビン値の情報に基づいて前記パラメータを決定してもよい。
【0014】
本発明の血中シロリムス濃度推定システムは、患者における少なくとも1点の任意の時間点における前記薬剤の血中濃度の実測値の入力を受け付ける実測値入力部と、前記実測値を用いたベイズ推定により前記パラメータを事後推定するパラメータ修正部とを備え、前記推定曲線算出部は、事後推定された前記パラメータを用いて前記血中濃度推移を表す曲線を求めてもよい。この構成により、その患者固有の血中シロリムス濃度推移を推定できる。
【0015】
本発明の血中シロリムス濃度推定システムは、血中濃度推移を表す曲線に血中シロリムス濃度の目標値を当てはめることにより前記薬剤の推奨投与量を算出する推奨投与量算出部をさらに備えてもよい。この構成により、血中シロリムス濃度推移を目標値にコントロールするための推奨投与量が算出される。なお、目標値は、トラフ値によって設定してもよい。
【0016】
本発明の血中シロリムス濃度推定方法は、シロリムスを有効成分とする薬剤を反復投与された患者における血中シロリムス濃度の推移を推定する方法であって、少なくとも生年月日と体重を含む患者情報の入力を受け付けるステップと、少なくとも前記薬剤の投与量と投与タイミングを含む投与情報の入力を受け付けるステップと、記憶部から、反復投与時の2コンパートメントモデルに基づくシロリムスの血中濃度を表す血中濃度算出式と、前記血中濃度算出式に適用するパラメータを算出するパラメータ算出式とを読み出すステップと、前記記憶部から読み出した前記パラメータ算出式を用いて前記患者情報に対応したパラメータを算出するステップと、前記パラメータ及び前記投与情報を前記血中濃度算出式にあてはめて、血中シロリムス濃度推移を表す曲線を求めるステップとを備え、各時間点におけるパラメータの決定に用いる患者の年齢は生年月日に基づいて算出された各時間点における患者の年齢であり、かつ、各時間点におけるパラメータの決定に用いる患者の体重は患者の過去の体重変化の推移に基づいて推定された各時間点における患者の推定体重である。本発明の血中シロリムス濃度推定方法は、上記した血中シロリムス濃度推定システムの各種の構成を備えてもよい。例えば、各時間点におけるパラメータの決定に、CYP3A4阻害薬又はCYP3A4誘導薬の併用有無や、シロリムス製剤の剤形情報、血液検体保管方法の情報を用いてもよい。
【0017】
本発明のプログラムは、シロリムスを有効成分とする薬剤を反復投与された患者における血中シロリムス濃度の推移を推定するためのプログラムであって、コンピュータに、少なくとも生年月日と体重を含む患者情報の入力を受け付けるステップと、少なくとも前記薬剤の投与量と投与タイミングを含む投与情報の入力を受け付けるステップと、記憶部から、反復投与時の2コンパートメントモデルに基づくシロリムスの血中濃度を表す血中濃度算出式と、前記血中濃度算出式に適用するパラメータを算出するパラメータ算出式とを読み出すステップと、前記記憶部から読み出した前記パラメータ算出式を用いて前記患者情報に対応したパラメータを算出するステップと、前記パラメータ及び前記投与情報を前記血中濃度算出式にあてはめて、血中シロリムス濃度推移を表す曲線を求めるステップとを実行させ、各時間点におけるパラメータの決定に用いる患者の年齢は生年月日に基づいて算出された各時間点における患者の年齢であり、かつ、各時間点におけるパラメータの決定に用いる患者の体重は患者の過去の体重変化の推移に基づいて推定された各時間点における患者の推定体重である。本発明のプログラムは、上記した血中シロリムス濃度推定システムの各種の構成を備えてもよい。例えば、各時間点におけるパラメータの決定に、CYP3A4阻害薬又はCYP3A4誘導薬の併用有無や、シロリムス製剤の剤形情報、血液検体保管方法の情報を用いてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、体重の変化や年齢の変化に応じて適切に血中シロリムス濃度推移を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施の形態の血中シロリムス濃度推定システムの構成を示す図である。
【
図2】標準的な血中シロリムス濃度推移を示す図である。実線が求めたい推移(事後確率最大値MAP)であり、網掛けはその90%予測区間を示す。x軸に並行な線はトラフ値の治療域を示す。
【
図3】血中シロリムス濃度推定装置の動作を示すフローチャートを示す図である。
【
図4】患者パラメータ決定処理を示すフローチャートである。
【
図5】(a)患者情報に基づいて血中シロリムス濃度の推移を求めた例を示す図である。(b)患者情報に基づいて求めた血中シロリムス濃度の推移を患者の実測値を用いてベイズ推定法により事後推定した例を示す図である。当該患者固有の推移となる。(c)血中シロリムス濃度の目標値に対応する推奨投与量の薬剤を投与した場合の血中シロリムス濃度の推移を示す図である。
【
図6】血中シロリムス濃度推定システムの出力画面の例を示す図である。MAPのみの推移図である。
【
図7】血中シロリムス濃度推定システムの出力画面の例を示す図である。MAPと90%予測区間を提示した図である。
【
図8】血中シロリムス濃度推定システムの出力画面の例を示す図である。トラフ値のみのMAPと90%予測区間を提示した図である。
【
図9】「CYP3A4参考資料」の画面例を示す図である。CYP3A4阻害薬併用時の薬物動態パラメータの変化率を示す。このうち、本アプリに使用する情報は、CL/Fの数値情報である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施の形態の血中シロリムス濃度推定システムおよび血中シロリムス濃度推定方法について図面を参照して説明する。なお、以下の説明はあくまでも好ましい態様の一例を示したものであり、特許請求の範囲に記載された発明を限定する意図ではない。
【0021】
図1は、本実施の形態の血中シロリムス濃度推定システム1の構成を示す図である。血中シロリムス濃度推定システム1は、種々のデータの入力を受け付ける入力部10と、入力されたデータに基づいて血中シロリムス濃度推移を推定する演算部11と、演算に用いられるデータを記憶した記憶部12と、推定された血中シロリムス濃度推移の推定曲線や薬剤の推奨投与量を出力する出力部13とを有している。
【0022】
入力部10は、患者の生年月日や体重を含む患者情報と、薬剤の投与量と投与タイミングに関する投与情報と、薬剤の剤形(錠剤/顆粒剤/粉砕)の情報と、併用薬の情報の入力を受け付ける。ここで入力される患者情報には、その患者の血中ヘモグロビン値を含めてもよい。本実施の形態では、併用薬として、CYP3A4阻害薬又はCYP3A4誘導薬の情報を受け付ける。ここで、併用薬の情報とは、本薬剤と共に併用薬を服用したときの薬物動態パラメータ(特にCL/Fであるが、限定しない)の変化率でもよい。また、入力部10は、患者の血中シロリムス濃度の実測値のデータ、および、目標値のデータの入力を受け付ける。
【0023】
記憶部12は、予め構築されたPK(pharmacokinetics)モデル情報を記憶している。具体的には、薬剤を反復投与する場合における有効成分のシロリムスの血中濃度算出式と、患者情報に対応したパラメータを算出するパラメータ算出式と予め構築された薬物動態パラメータの推定値を格納している。血中濃度算出式は、2コンパートメントモデルに基づくシロリムスの血中濃度を表す式である。患者情報に対応したパラメータは、血中濃度算出式で用いられるパラメータであり、同じ患者情報(これを「患者背景」ともいう)を有する患者の血中シロリムス濃度を推定するための標準的なパラメータである。本書において、これを「標準PKパラメータ」という。
【0024】
本実施の形態において、血中濃度算出式は、下記の式(1)によって表される。
【数1】
【0025】
ここで、kaは吸収速度定数(h-1)、Cl/Fはクリアランス(L/h)、V1/Fは第一コンパートメントの容積(L)、V2/Fは第二コンパートメントの容積(L)、Q/Fはコンパートメント間クリアランス(L)である。これらのパラメータの値は、患者の体重および年齢や、投与する薬剤の剤形及びCYP3A4阻害剤もしくはCYP3A4誘導剤の併用有無等と関連する。また、Diは薬剤の投与量である。
【0026】
血中濃度算出式の各パラメータは、患者の体重および年齢、薬剤の剤形等を変数とする関数で表される。この関数は、患者に対応したパラメータを算出するパラメータ算出式に相当する。このパラメータ算出式は、非線形混合効果モデルを用いた母集団薬物動態解析により、予め求められる。
【0027】
患者に対応したパラメータを求める算出式について具体的に説明する。一例において、バイオアベイラビリティーFの算出式は次式(2)、吸収速度定数Kaの算出式は次式(3)によって表される。
【数2】
Fはバイオアベイラビリティである。「Granule」は顆粒剤、「solution」は、錠剤を粉砕し、溶液にして投与されたものである。式(1)は、薬剤が顆粒剤の場合には、Fに1.26、液剤の場合は0.730、錠剤の場合は1を乗ずることを示している。
【数3】
式(3)において、TVkaは、吸収速度定数KaのTypical Valueであり、予め母集団薬物動態解析により求められる。本実施の形態では、TVkaの点推定値は0.441(h
-1)、相対誤差16.1%である。また、「Granule」は顆粒剤を示し、式(3)は、薬剤が顆粒剤の場合には、TVkaに3.40、それ以外の製剤の場合は1を乗ずることを示している。
【0028】
クリアランスCl/Fの算出式は、次式(4)によって表される。
【数4】
【0029】
式(4)において、TVClは、クリアランスCl/FのTypical Valueであり、予め母集団薬物動態解析により求められる。本実施の形態では、TVClの点推定値は14.2(L/h)、相対誤差3.76%である。また、TVWTは患者のTime-varying body weight(時変体重)である。PMA(Post menstrual age)は出生後のTime-varying age(時変年齢)に基づき、妊娠40週と仮定して導出された月経後年齢であり、患者の年齢に対応する。exp
ηCLは、個体間変動を表す。患者の実測値が存在しない場合にはηCLは0で、個体間変動は1となる。「frozen sample」は冷凍保存された血液検体を意味し、冷凍保存された血液検体の場合は0.930 (相対誤差79.5%)を乗ずる。冷蔵保存された血液検体の場合は1を乗ずる。「CYP3A4 inducer」は、併用薬としてCYP3A4誘導薬があるときに1.72 (相対誤差21.8%)を乗ずる。CYP3A4 inhibitorは、併用薬として投与されたCYP3A4阻害薬を示し、その種類に対して変動係数を乗ずる。変動係数については、
図9を参照して後述する。「Hgb」は、患者のベースライン血中ヘモグロビン値(g/dL)である。
【0030】
第一コンパートメントの容積V
1/Fの算出式は、次式(5)によって表される。
【数5】
【0031】
式(5)において、TVV1は、第一コンパートメントの容積V1/FのTypical Valueであり、予め母集団薬物動態解析により求められる。本実施の形態では、TVV1の点推定値は191(L)、相対誤差18%である。また、TVWTは患者のTime-varying body weight(時変体重)である。expηV1は、個体間変動を表す。患者の実測値が存在しない場合にはηV1は0で、個体間変動は1となる。なお、取得できる情報によっては患者のV1に対するランダム効果を推定することが難しいことがあるが、そのような場合にはすべての患者についてV1に対して個体間変動を1としてもよい。
【0032】
第二コンパートメントの容積V
2/Fの算出式は、次式(6)によって表される。
【数6】
式(6)において、TVV
2は、第二コンパートメントの容積V
2/FのTypical Valueであり、予め母集団薬物動態解析により求められる。本実施の形態では、TVV
2の点推定値は626(L)、相対誤差7.98%である。また、TVWTは患者のTime-varying body weight(時変体重)である。
【0033】
コンパートメント間クリアランスQ/Fの算出式は、次式(7)によって表される。
【数7】
この式において、TVQは、コンパートメント間クリアランスQ/FのTypical Valueであり、予め母集団薬物動態解析により求められる。本実施の形態では、TVQの点推定値は37.5(L)、相対誤差9.1%である。また、TVWTは患者のTime-varying body weight(時変体重)である。
【0034】
演算部11は、パラメータ算出部20と、パラメータ修正部21と、推定曲線算出部22と、推奨投与量算出部23と、レポート作成部24を有している。これらの機能は、血中シロリムス濃度を推定するためのプログラムを演算部11で実行することにより実現される。
【0035】
パラメータ算出部20は、患者情報に対応する標準PKパラメータ(吸収速度定数ka、クリアランスCl/F、第一コンパートメントの容積V1/F、第二コンパートメントの容積V2/F、コンパートメント間クリアランスQ/F)を算出する機能を有する。パラメータ算出部20は、入力部10より入力された患者の生年月日および体重と血中ヘモグロビン値のデータを用いて、その患者情報に対応する標準PKパラメータを算出する。処理の詳細は、後述する。
【0036】
パラメータ修正部21は、患者の血中シロリムス濃度の実測値を用いて、標準PKパラメータを事後更新する機能を有する。標準PKパラメータ(ka、Cl/F、V1/F、V2/F、Q/F)は、確率的に分散を持っている。患者の実測値を用いて分散を小さくし、その患者特有のPKパラメータを求める。これを、本書では「患者PKパラメータ」という。一例として、クリアランスCl/Fを例として説明する。Cl/Fの最終モデルのTVClとその分散を共役事前分布とし、患者実測値とその分散を尤度として、ベイズ定理に従って共役事後分布を求める。具体的には、共役事前分布に尤度を乗ずることで、共役事後分布を求める。こうして求めた更新された分布の中央値TVCliがその患者に特有のTVClとなる。
【0037】
推定曲線算出部22は、パラメータ算出部20にて算出された標準PKパラメータあるいはパラメータ修正部21で修正して求められた患者PKパラメータと、投与情報Diとを血中濃度算出式(式(1))にあてはめて、薬剤投与に伴うシロリムスの血中濃度推移を表す曲線を求める機能を有する。標準PKパラメータを用いて求まる血中濃度推移を表す曲線は、患者と同じ年齢、体重の標準的な濃度推移曲線であるのに対し、患者PKパラメータを用いて求まる血中濃度推移を表す曲線は、その患者のデータを反映した患者特有の血中濃度推移曲線である。
【0038】
図2は、患者の年齢が7歳~(体表面積1.0~1.5m
2未満)の患者に1日1回2mgの錠剤を投与したときの血中シロリムス濃度の標準的な推移曲線を示す図である。
図2にグレーで示すように、血中シロリムス濃度の推移は、90%予測区間の幅をもって推定される。つまり、同じ年齢、体重の患者の血中シロリムス濃度は、90%の確率でグレーで示す範囲内に収まる。
図2において、太線で示された曲線は、Typical Valueの点推定値を標準PKパラメータとして求めた血中シロリムス濃度の推移を示す。
【0039】
推奨投与量算出部23は、血中濃度推移を表す曲線に血中シロリムス濃度の目標値を当てはめることによりシロリムスを有効成分とする薬剤の推奨投与量を算出する。レポート作成部24は、血中シロリムス濃度推移に関するレポートを作成する機能を有する。出力部13は、血中シロリムス濃度推移の算出結果、薬剤の推奨投与量、およびレポートを出力する機能を有する。
【0040】
図3は、血中シロリムス濃度推定システム1の動作を示すフローチャートである。血中シロリムス濃度推定システム1は、患者情報と投与情報と剤形情報とCYP3A4阻害薬またはCYP3A4誘導薬の併用薬情報と血液検体保管方法の情報の入力を受け付ける(S10)。患者情報は、患者の生年月日と体重のデータであり、投与情報は、薬剤の投与量(例えば、1mg、2mg等)と投与タイミング(1日1回、1日2回等)のデータである。剤形情報は、患者に投与する薬剤が顆粒剤かもしくは錠剤のいずれかを示す情報である。CYP3A4阻害薬またはCYP3A4誘導薬の併用薬情報は、本薬剤と共に併用薬を服用したときの薬物動態パラメータの変化率でもよい。この変化率については、
図9を用いて後述する。血液検体保管方法の情報は、血液検体が冷凍保存されたものか冷蔵保存されたものかを示す情報である。なお、将来、血中濃度算出式に影響を与えるパラメータ(例えば、ヘモグロビン量等)が明らかになった場合には、新たなパラメータを患者情報として入力するようにしてもよい。
【0041】
また、血中シロリムス濃度推定システム1は、血中シロリムス濃度の目標値の入力を受け付ける(S11)。本実施の形態では、目標値は、血中シロリムス濃度のトラフ値である。続いて、血中シロリムス濃度推定システム1は、入力された患者情報と投与情報と剤形情報とに基づいて、標準PKパラメータを算出する(S12)。
【0042】
図4は、標準PKパラメータの算出処理を示すフローチャートである。血中シロリムス濃度推定システム1は、患者の生年月日から、血中濃度の推定時点の年齢を算出する(S20)。また、患者の体重のデータから血中濃度推定時点の体重を予測する(S21)。体重を予測するために、患者情報として入力される体重のデータは、体重変化の推移を示すデータであることが好ましい。すなわち、複数時点における体重のデータがあることが好ましい。例えば、3つの時間点の体重のデータを線形回帰して、その先3カ月分の患者の体重を予測する。一例として、3カ月(90日)を500個に分け、各時間点における体重を予測する。血中シロリムス濃度推定システム1は、推定時点の年齢と予測される体重のデータをパラメータ算出式に適用し、各推定時点で用いる標準PKパラメータを決定する(S22)。なお、血中シロリムス濃度推定システム1は、上記したように入力された体重のデータから将来の体重の線形回帰を行って推定時点において予測される体重を求めてもよいし、最終の体重データ以降は最終の体重のデータを用いてもよい。線形回帰を行うか最終の体重データを用いるかは、入力された体重のデータのデータ数に応じて決定してもよい。線形回帰により精度よく体重を推定できる場合には線形回帰を行い、線形回帰ではうまく行かない場合には最終の体重データを用いてもよい。例えば、入力されたデータ数が3点以上の場合に線形回帰を行い、3点未満の場合に最終の体重データを用いることとしてもよいが、この閾値は3点に限定されず、2点でもよいし、4点以上でもよい。
【0043】
図3に戻って説明する。血中シロリムス濃度推定システム1は、患者の血中シロリムス濃度の実測値の入力がなされたか否かを判定する(S13)。患者の実測値が入力された場合には(S13でYES)、その実測値を用いて標準PKパラメータを更新し、患者PKパラメータを算出する(S14)。実測値の入力がない場合には(S13でNO)、標準PKパラメータをそのまま使う。
【0044】
血中シロリムス濃度推定システム1は、推定時点における標準PKパラメータまたは患者PKパラメータを用いて血中濃度算出式を生成し、血中濃度算出式に投与情報を適用して、各推定時点における血中シロリムス濃度を推定し、PKシミュレーションを行う(S15)。血中シロリムス濃度推定システム1は、求めた血中濃度推移に、目標値をあてはめて薬剤の推奨投与量を算出する(S16)。続いて、血中シロリムス濃度推定システム1は、血中シロリムス濃度推移、推奨投与量などをまとめたレポートを作成し(S17)、作成したレポートを出力する(S18)。
【0045】
図5(a)は、患者情報を適用した標準PKパラメータを用いて推定した血中シロリムス濃度推移を示す図、
図5(b)は患者の血中シロリムス濃度の実測値(2021年2月13日、3月13日、4月13日の3点)を用いて標準PKパラメータを更新して患者特有のPKパラメータを求め、推定した血中シロリムス濃度推移を示す図である。
図5(a)と
図5(b)を比較すると分かるように、実測値によって補正された血中シロリムス濃度は、標準の血中シロリムス濃度よりも低い位置で推移し、実測値を含んだ患者特有の濃度推移となっている。
【0046】
図5(c)は、目標のトラフ値として10ng/mLを入力したときに、目標値に対応する薬剤を投与したときの血中シロリムス濃度推移を示す図である。
図5(b)と
図5(c)を比較すると分かるように、目標値に対応する推奨投与量に変更することにより、トラフ値が10ng/mLに上がったことが分かる。
【0047】
図6~
図9は、本実施の形態の血中シロリムス濃度推定システム1の出力画面の例を示す図である。この出力画面は、レポート作成部24によって作成される画面である。
図6に示すように出力画面は、画面上部に「濃度推移の個別予測結果」「CYP3A4参考資料」「アプリの使い方ガイド」のタブを有している。
【0048】
図6は、「濃度推移の個別予測結果」のタブを選択したときの画面例を示す。このタブでは、選択した患者の患者情報および投与情報と実測値から予測される濃度推移の個別予測結果をグラフ表示する。グラフの縦軸は、血中シロリムス濃度であり、横軸は時間軸である。グラフ内にある黒い丸は、患者の血中シロリムス濃度のトラフ値の実測値を示す。
【0049】
画面上部のタブとグラフとの間に、「目標トラフ濃度範囲」を設定するスライダーが設けられている。このスライダー上の丸いボタンにより、目標トラフ濃度範囲の上限と下限を設定することができる。設定された上限と下限は、グラフ上に水平方向に延びる点線で表示される。
図6に示す例では、上限は15ng/mLであり下限は5ng/mLである。このようにグラフ上に上下限を表示することで、目標トラフ濃度範囲を一目で把握することができる。
【0050】
図6に示す画面の下部には、シミュレーション結果に基づく薬剤の最適投与量の情報が表示されている。「投与間隔」「目標トラフ濃度(ng/mL)」「最適な1回あたりの投与量(mg)」「最適な1日あたりの投与量(mg)」が記載されている。これは上述した濃度予測の前提となった投与量である。
図6に示す例では、投与間隔がBID/Q12h(1日2回)で目標トラフ濃度が10ng/mLにするために最適な1回あたりの投与量は0.47mgであり、最適な1日あたりの投与量は0.94mgであることが表示されている。投与間隔がQD/Q24h(1日1回)で目標トラフ濃度が10ng/mLにするために最適な1回あたりの投与量は1.08mgであり、最適な1日あたりの投与量は1.08mgであることが表示されている。
【0051】
図7は、「濃度推移の個別予測結果」のタブを選択したときの画面の別の例を示す図である。
図7に示す画面例では、年齢、体重、併用薬情報等の患者背景が同じ患者の血中シロリムス濃度の90%予測区間が表示される。これにより、個別の患者の濃度推移が同じ患者背景を持つ母集団からの平均値からどのくらいずれているかを確認することができる。
【0052】
図8は、「濃度推移の個別予測結果」のタブを選択したときの画面の別の例を示す図である。
図8に示す画面例では、濃度曲線の吸収相、分布相の推移は表示されなくなり、トラフ濃度のみの推移が表示されると共に、
図7と同様に同じ患者背景の血中シロリムス濃度の90%予測区間が表示される。シロリムスの投与量設計にはトラフ濃度値が重要になるので、トラフ濃度値の推移を確認できることは便利である。
【0053】
「濃度推移の個別予測結果」を
図6~
図8のいずれの態様で表示するかは、ユーザが選択することができる。例えば、患者のデータを入力する画面において「トラフ濃度のみの濃度推移を表示」のオン・オフを切り替えるインターフェースと、「患者背景」のオン・オフを切り替えるインターフェースを用意しておく。「トラフ濃度のみの濃度推移を表示」と「患者背景」を共にオフにしたときは、
図6に示す画面を表示する。「トラフ濃度のみの濃度推移を表示」がオンされたときには、
図8に示す画面を表示する。「患者背景」がオンされたときには、
図7および
図8に示すように、同じ患者背景の血中シロリムス濃度の90%予測区間を表示する。
【0054】
図9は、
図6~
図8に示す画面において「CYP3A4参考資料」のタブを選択したときの画面例を示す図である。「CYP3A4参考資料」の画面では、患者がCYP3A4阻害薬をシロリムス投与と同時に服用している場合に、これらの併用薬がシロリムス濃度に及ぼす影響の程度を一覧表で示す。一覧表は、本剤と、CYP3A4阻害薬を併用したときの薬物動態パラメータの変化率を表示している。ここで、変化率とは、幾何最小二乗(GLS)平均値の比であり、具体的には、(本薬+併用薬)/(本薬単独)である。「CYP3A4参考資料」に記載された併用薬がある場合には、併用薬情報として、「CL/F」(クリアランス)の変化率の値を入力する。これにより、式(4)で計算されるクリアランスCl/Fの値が併用薬の情報に基づいて適切に修正される。例えば、CYP3A4阻害薬を併用している場合には、CL/Fの変化率が1より小さく、薬剤の代謝が阻害されることが標準/患者PKパラメータに反映される。なお、
図9には、CYP3A4誘導薬の薬物動態パラメータの変化率も表示しているが、
図9に表示されたCYP3A4誘導薬については、こちらのパラメータを式(4)のパラメータよりも優先して適用する。
【0055】
「アプリの使い方ガイド」のタブについて説明する。「アプリの使い方ガイド」のタブでは、血中シロリムス濃度推定システムのユーザーマニュアルを表示する。
【0056】
以上、実施の形態の血中シロリムス濃度推定システム1について説明した。本実施の形態の血中シロリムス濃度推定システムは、推定時点における年齢を求めると共に、推定時点における体重を予測し、推定時点の患者の年齢と体重を用いて標準PKパラメータを求めて、適切に血中シロリムス濃度を推定することができる。
【0057】
また、患者の血中シロリムス濃度の実測値データがある場合には、実測値データを用いて患者PKパラメータを求め、血中シロリムス濃度を推定するので、推定精度を高めることができる。
【0058】
以上、本発明の血中シロリムス濃度推定システムについて、実施の形態を挙げて詳細に説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではない。例えば血中シロリムス濃度推定システムは、実施の形態で挙げた患者情報の他にも、患者のBMI、BSA(体表面積)、性別、疾患、合併症、検査値等の患者情報を用いて、PKパラメータを算出することとしてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 血中シロリムス濃度推定システム
10 入力部
11 演算部
12 記憶部
13 出力部
20 パラメータ算出部
21 パラメータ修正部
22 推定曲線算出部
23 推奨投与量算出部
24 レポート作成部