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特開2023-98710環境価値を記録するシステム、方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098710
(43)【公開日】2023-07-10
(54)【発明の名称】環境価値を記録するシステム、方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/10 20120101AFI20230703BHJP
   G06Q 40/04 20120101ALI20230703BHJP
   G06Q 50/26 20120101ALI20230703BHJP
【FI】
G06Q50/10
G06Q40/04
G06Q50/26
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210989
(22)【出願日】2022-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2021215315
(32)【優先日】2021-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】522002560
【氏名又は名称】藤田 康範
(71)【出願人】
【識別番号】522002571
【氏名又は名称】内藤 克彦
(71)【出願人】
【識別番号】522002526
【氏名又は名称】蝦名 雅章
(71)【出願人】
【識別番号】522002582
【氏名又は名称】筒井 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100103148
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 輝美
(72)【発明者】
【氏名】藤田 康範
(72)【発明者】
【氏名】内藤 克彦
(72)【発明者】
【氏名】蝦名 雅章
(72)【発明者】
【氏名】筒井 潔
【テーマコード(参考)】
5L049
5L055
【Fターム(参考)】
5L049CC36
5L055BB51
(57)【要約】      (修正有)
【課題】環境価値を記録するシステム、方法およびプログラムを提供する。
【解決手段】エネルギー価値と環境価値を別々に取引することができるシステムであって、化学反応によって得られるエネルギーをエネルギー価値として持つガスの製造履歴を参照し、ガスの化石燃料由来の原材料または燃料を用いて製造されている部分から得られるエネルギーのエネルギー価値に対する割合である第一のエネルギー割合とガスの化石燃料由来の原材料または燃料を用いずに製造されている部分から得られるエネルギーのエネルギー価値に対する割合である第二のエネルギー割合の少なくとも一つを算出し、算出した第一のエネルギー割合と第二のエネルギー割合の少なくとも一つに基づき環境価値を算出し、環境価値を記録媒体に記録する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学反応によって得られるエネルギーをエネルギー価値として持つガスの、原材料および前記ガスの製造過程で用いられる燃料を含む製造履歴を参照する参照部と、
前記ガスの前記製造履歴を参照して、前記原材料および前記燃料のうち化石燃料由来の原材料または燃料を用いて製造されている第一の部分から得られるエネルギーの前記エネルギー価値に対する割合である第一のエネルギー割合と、前記第一の部分以外の第二の部分であって、原材料および前記燃料のうち化石燃料由来の原材料または燃料を用いずに製造されている部分から得られるエネルギーの前記エネルギー価値に対する割合である第二のエネルギー割合の少なくとも一つを算出するエネルギー割合算出部と、
算出された前記第一のエネルギー割合と第二のエネルギー割合の少なくとも一つに基づき前記環境価値を算出する環境価値算出部と、
前記環境価値を記録媒体に記録する記録部と、
を含むシステム。
【請求項2】
前記環境価値は、一次エネルギー供給において温室効果ガスの排出に寄与しないエネルギーであることを特徴とする、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記記録媒体は、前記ガスの前記エネルギー価値とは独立に前記環境価値の取引に利用される、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記ガスの化石燃料由来の原材料または燃料を用いずに製造されている部分は、カーボンフリーの可燃ガスである、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記カーボンフリーの可燃ガスには、バイオ起源のガス、カーボンフリーの水素、または温室効果ガスの排出として届け出済みの二酸化炭素とカーボンフリーの水素から製造されるメタンが含まれる、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記ガスの化石燃料由来の原材料または燃料には、天然ガス、石油、石炭が含まれる、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
さらに、前記ガスの前記製造履歴には、前記原材料および製造過程で用いられる前記燃料に加えて、前記環境価値があることを保証するための製造方法および/または原産地が記録されている、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記記録媒体は紙、金属、有機化合物、無機化合物、または電子媒体である、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記電子媒体は、改竄、複製防止のための仕組みが備わっている、請求項1乃至8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記改竄、複製防止のための仕組みはブロックチェーンを応用した仕組みである、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
化学反応によって得られるエネルギーをエネルギー価値として持つガスの、原材料および前記ガスの製造過程で用いられる燃料を含む製造履歴を参照することと、
前記ガスの前記製造履歴を参照して、前記原材料および前記燃料のうち化石燃料由来の原材料または燃料を用いて製造されている第一の部分から得られるエネルギーの前記エネルギー価値に対する割合である第一のエネルギー割合と、前記第一の部分以外の第二の部分であって、原材料および前記燃料のうち化石燃料由来の原材料または燃料を用いずに製造されている部分から得られるエネルギーの前記エネルギー価値に対する割合である第二のエネルギー割合の少なくとも一つを算出することと、
算出された前記第一のエネルギー割合と第二のエネルギー割合の少なくとも一つに基づき前記環境価値を算出することと、
前記環境価値を記録媒体に記録することと、
を含む方法。
【請求項12】
コンピュータを、
化学反応によって得られるエネルギーをエネルギー価値として持つガスの、原材料および前記ガスの製造過程で用いられる燃料を含む製造履歴を参照する手段と、
前記ガスの前記製造履歴を参照して、前記原材料および前記燃料のうち化石燃料由来の原材料または燃料を用いて製造されている第一の部分から得られるエネルギーの前記エネルギー価値に対する割合である第一のエネルギー割合と、前記第一の部分以外の第二の部分であって、原材料および前記燃料のうち化石燃料由来の原材料または燃料を用いずに製造されている部分から得られるエネルギーの前記エネルギー価値に対する割合である第二のエネルギー割合の少なくとも一つを算出する手段と、
算出された前記第一のエネルギー割合と第二のエネルギー割合の少なくとも一つに基づき前記環境価値を算出する手段と、
前記環境価値を記録媒体に記録する手段と、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境価値を記録するシステムおよび記録方法、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で合意されたパリ協定以降、世界全体が、ゼロエミッションを目指す中で、化石資源を利用するエネルギーシステムから、これらの電力ガスの再生可能エネルギーを利用する化石燃料を全く使用しないエネルギーシステムへの転換が必要とされている。
【0003】
再生可能エネルギーによって生産された電力等のアセットの取引を証明するため、国や地方公共団体等の認可を受けた証明書発行事業者等の証明機関が発行する証明書が利用されている。企業は、例えば、証明書の発行の申請を行い、発行された証明書を環境への付加価値の証明に用いて企業価値を向上させることができる。また、証明書と似た性質を有する証券の取引において、ブロックチェーンを利用する方法も知られている。さらに、アセットの二重発行を防止する方法も知られている(特許文献1)。
【0004】
天然ガスは、メタンを主成分としていて、有害な一酸化炭素をはじめとする不純物をほとんど含まず、燃焼したときに発生する窒素酸化物、二酸化炭素の量が石炭や石油より少ないことが知られている。天然ガスの生産地は世界各地に広く分布していて、埋蔵量も豊富であり、長期的な安定供給・環境負荷の小ささという点で今後もさらに利用が進んでいくと期待されている(非特許文献1参照)。
【0005】
カーボンニュートラル(液化)天然ガス(CN-LNG、CNL)が注目されている。カーボンニュートラル液化天然ガスとは、天然ガスの採掘から燃焼に至るまでの工程で発生する温室効果ガスを、新興国等における環境保全プロジェクトにより創出されたCOクレジットで相殺すること(カーボン・オフセット)により、地球規模では、この天然ガスを使用しても二酸化炭素が発生しないとみなされる液化天然ガスである。天然ガス利用時に発生する二酸化炭素をオフセットする現実的な手段として、ボランタリーなカーボンニュートラル天然ガスの取引の試みもある。
【0006】
一方、メタン発酵等によるバイオ由来の天然ガス、太陽光発電等の再生可能エネルギー電力を用いて製造された水素など、化石資源を起源としない燃焼性ガスを再生可能エネルギーガスとして特に推奨することが、欧米で行われ始めている。これは、電力の再生可能エネルギーに対応するガスの再生可能エネルギーで、化石燃料の使用を前提とするカーボンニュートラル天然ガスとは異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6842025号公報
【0008】
【非特許文献1】内藤克彦、蝦名雅章、筒井潔「欧米のガスシステム」(化学工業日報社、2020年11月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
我が国においては、多数の分散型のバイオガス発生装置や再生可能エネルギーとしての電力を用いて製造された水素等の再生可能エネルギーガスが存在し、これらの再生可能エネルギーガスの持つ「環境価値」(以下「環境価値」、「ゼロ炭素価値」ともいう。)は、取引の対象となっていない。
カーボンニュートラル天然ガスの取引において、それがカーボンニュートラルであることを示す証明するものが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明の一形態に従うシステムは、化学反応によって得られるエネルギーをエネルギー価値として持つガスの製造履歴を参照し、前記ガスの化石燃料由来の原材料または燃料を用いて製造されている部分から得られるエネルギーの前記エネルギー価値に対する割合である第一のエネルギー割合と前記ガスの化石燃料由来の原材料または燃料を用いずに製造されている部分から得られるエネルギーの前記エネルギー価値に対する割合である第二のエネルギー割合の少なくとも一つを算出し、算出された前記第一のエネルギー割合と第二のエネルギー割合の少なくとも一つに基づき前記環境価値を算出し、前記環境価値を記録媒体に記録することを特徴とする。
【0011】
本願発明の一形態に従う方法は、化学反応によって得られるエネルギーをエネルギー価値として持つガスの製造履歴を参照することと、前記ガスの化石燃料由来の原材料または燃料を用いて製造されている部分から得られるエネルギーの前記エネルギー価値に対する割合である第一のエネルギー割合と前記ガスの化石燃料由来の原材料または燃料を用いずに製造されている部分から得られるエネルギーの前記エネルギー価値に対する割合である第二のエネルギー割合の少なくとも一つを算出することと、算出された前記第一のエネルギー割合と第二のエネルギー割合の少なくとも一つに基づき前記環境価値を算出することと、前記環境価値を記録媒体に記録することを含むことを特徴とする。
【0012】
本願発明の一形態に従うプログラムは、コンピュータを、化学反応によって得られるエネルギーをエネルギー価値として持つガスの製造履歴を参照する手段と、前記ガスの化石燃料由来の原材料または燃料を用いて製造されている部分から得られるエネルギーの前記エネルギー価値に対する割合である第一のエネルギー割合と前記ガスの化石燃料由来の原材料または燃料を用いずに製造されている部分から得られるエネルギーの前記エネルギー価値に対する割合である第二のエネルギー割合の少なくとも一つを算出する手段と、算出された前記第一のエネルギー割合と第二のエネルギー割合の少なくとも一つに基づき前記環境価値を算出する手段と、前記環境価値を記録媒体に記録する手段として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ガスに含まれる環境価値とエネルギー価値を分離して、環境価値を記録する記録媒体を得ることが出来、その記録媒体を利用することによって、ガスに含まれる環境価値とエネルギー価値を分離して、環境価値を取引することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ガスに関わる環境価値の取引が行われるシステムの概略を示す図である。
図2】環境価値を記録媒体に記録する装置のブロック図である。
図3】環境価値を記録媒体に記録する装置の構成を示す図である。
図4】環境価値が記録される記録媒体のフォーマットを示す図である。
図5】処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(全般的説明)
炭素文明とは、イギリスで起こった産業革命の射程内の文明である。産業革命は資本主義を生み、石油資源の獲得が先進国が先進国であり続けるための手段であった。
一方、脱炭素は「水素社会」への移行であると言われている。これは、ガスパイプラインが整備されている欧米の論理である。水素はガスパイプラインで運ぶのである。
【0016】
地球温暖化が進んでいると言われている。二酸化炭素(CO2)の排出量は、1960 年以降、増加の一途をたどっており、気温の上昇につながっている。1960 年に年間約25億トンであった世界のCO2排出量は、2010年には年間100億トンまで多少の増減を伴いながらも大局的には増加傾向を示し、それに伴ってCO2濃度は、1960年には約310ppmから2010年には約410ppmまで単調に増加している。世界や日本の年平均気温においても、1900年から2019年まで多少の上下を伴いながらも大局的には約1℃強の上昇を示している。気温が毎年 0.04℃上昇すると、2100 年までに世界の 1 人当たり GDP が 7%減少するとの試算がある。そのうえで、パリ協定による規制を実行すると、気温の上昇は毎年0.01℃にとどまり、世界の1人当たりGDPの減少幅は1%に縮小できるというものである。
【0017】
そして、地球温暖化は自然災害の増加ももたらしている。気候変動による自然災害の増加が金融やマクロ経済に与える影響の波及経路が幾つか考えられる。例えば、自然災害が発生すると、投資家が市場に対する信頼を喪失したり、銀行や決済機構に対する直接的な影響がある。これらは、資産価値の下落による資産の投げ売りや、銀行での損失の発生、さらに、被害地内外での貸し出しの減少を招くことがある。また、自然災害の発生は、被災者が保険に加入していれば、保険会社で損失が発生する。それは、被災地域における保険の減少、担保価値の減少、そして家計や企業のバランスシート(BS)の劣化をもたらす。さらに、自然災害の発生は、物的損失からの再建に対する利用可能な資金に制約が課されることにもなる。これは被災地における生産減少をもたらす。
【0018】
保険会社や被保険者の負担増だけでなく、自然災害が金融仲介機能の低下につながると、経済に一段の悪影響が加わる。ミュンヘン再保険会社によると、1980年から2015年にかけて発生した自然災害による損失のうち、26%分しか保険でカバーされなかった。被害が大きいハリケーンに限っても、保険によるカバー率は 50%程度にとどまる。無保険者の多くは、銀行との関係が深い小規模事業者である。損失が保険でカバーできない場合、企業の資産価値が低下する。この資産を銀行への担保としている場合、担保価値の 低下を通じて銀行の貸出態度が硬化し、企業の借り入れ制約が強まる。自然災害の発生で不動産価格が低下するため、この面からも、銀行は貸出を消極化させうる。さらに、銀行が自己資本の減少を防ぐために、被災地域以外の貸出を抑制し得る。このように、被災地域のみならず、あらゆる地域で経済が悪化する。
【0019】
資本主義社会における地球温暖化の問題の本質は、このような金融とマクロ経済である。環境問題への対応を促進するために、金融機能を活用する案が欧州を中心に提示されている。
(1)環境リスク評価:欧州では、グリーン証券(調達資金が低炭素プロジェクトに用いられる証券)の普及に向けて、環境リスクを評価する共通の枠組みを策定する動きが進んでいる。19年12月には、欧州議会とEU理事会が、「EUタクソノミー(持続的な環境活動に関する基準)」案の合意に達した。これにより、環境に配慮した経済活動の分類が明確になり、リスク評価を容易にすることが期待される。リスク評価の統一で、グリーン投資間の比較が可能になり、投資が促進される効果が考えられる。
【0020】
(2)プルーデンス政策:銀行に対する自己資本規制に環境リスクを取り入れることが議論されている。EUでは、銀行の資産を、「グリーン資産」と「ブラウン資産」に分類する案が浮上している。グリーン資産は、低炭素プロジェクトなど気候変動の抑制につながる与信、ブラウン資産は気候変動の増大をもたらしうる与信を指す。グリーン資産の資本要件を引き下げる一方、ブラウン資産の要件を引き上げる方法が考案されている。ただ、すでに国際的な監督規制としてバーゼル規制が導入されている。各国が独自規制を導入することで、統一尺度が揺らぎうる点に課題がある。
【0021】
(3)金融政策:中央銀行の金融政策を環境問題に活用する議論も活発化している。わが国では、日本銀行が2019年11月に気候変動リスクなどに関する金融当局ネットワーク(NGFS)への参加を表明した。NGFS は、有志の各国中央銀行や金融監督当局が参加し、気候変動リスクに対する金融監督を検討するためのネットワークである。
【0022】
中央銀行の資産を環境問題に利用する案も検討されている。環境関連プロジェクトの資金を調達する際、中央銀行が信用保証を実施する手法なども提案されている。さらに、中央銀行のポートフォリオに環境リスクを反映させる案も検討されている。格付機関の信用格付は、気候変動リスクを過小評価する可能性があるため、中央銀行独自のリスク評価の仕組みの必要性や、中央銀行が率先して気候変動リスクを評価することで、気候変動リスクを金融資産の価格付けに反映させていく重要性などが議論されている。
【0023】
このように世界全体が、脱炭素化、すなわちCO2や地球温暖化ガスのゼロエミッションを目指す中で、化石資源を利用するエネルギーシステムから、これらの電力ガスの再生可能エネルギーを利用する化石燃料を全く使用しないエネルギーシステムへの転換が必要とされている。これを「エネルギーの脱炭素化」とも呼ぶ。
【0024】
「エネルギーの脱炭素化」と聞くと、石油や石炭などCO2排出量の多い化石燃料を電源(電気をつくる方法)に使用しない電力部門の脱炭素化や、自動車の電動化をイメージすることも可能である。しかし実際は、日本における消費エネルギーの約6割は、工場などの産業部門における蒸気加熱、家庭や業務など民生部門における給湯や暖房といった「熱需要」が占めており、この熱需要を脱炭素化することも重要な課題である。
【0025】
熱需要は民生部門を中心とした低温帯から、産業部門で使用される高温帯まで幅広く存在するが、ガスはこのさまざまな温度帯に対応して熱をつくりだすことが可能である。また、天然ガスは、石炭や石油にくらべて燃焼時のCO2排出量などが少なく、環境性の高いエネルギーであるため、現時点での低炭素化を実現できる。さらには、将来的にガス自体の脱炭素化をはかることによって、カーボンニュートラル化に貢献することもできる。
ガスの脱炭素化技術にはいくつか選択肢があるが、もっとも有望視されているのは、水素(H)と二酸化炭素(CO)を反応させ、天然ガスの主な成分であるメタン(CH)を合成する「メタネーション」である。
【0026】
石油を人工的に製造することは難しい。一方、天然ガスに関しては、天然ガスそのものを人工的に製造することは難しいことに変わりはないが、天然ガスにリプレイス可能なものはカーボンフリーで作り得るということである。天然ガスの成分の90%くらいはメタンである。メタネーションは、COフリー水素と二酸化炭素からカーボンニュートラルなメタンを作る技術である。CO2 フリー水素とは、製造時における温室効果ガス排出量の少ない水素のことであり、例えば、再生可能エネルギーを使って水の電気分解によって製造される水素などである。
【0027】
COフリー水素と、発電所等から排出されるCO2 を合成して、メタンを製造する。製造されたメタンは、ガスパイプラインなど都市ガスや天然ガスのインフラを使って、そのまま輸送、活用することができる。メタン利用時にはCO2 が排出されるが、それはまたメタンの製造に用いられる。このように「脱炭素化」が図れる点がメタネーションの特徴である。
【0028】
メタネーションによって製造されるメタンは天然ガスの主成分であり、今の日本に整備された天然ガスに関わるインフラ、例えば液化天然ガス(LNG)の基地やパイプライン、ガス利用者の消費機器、ボイラー、ガス瞬間型給湯器などはすべてそのまま利用可能である。このように、メタンは燃焼時にCO2を排出するが、メタネーションをおこなう際の原料として、発電所や工場などから回収したCOを利用すれば、燃焼時に排出されたCOは回収したCOと相殺されるため、大気中のCO2量は増加しない。つまり、CO排出は実質ゼロになる。
【0029】
しかし、メタネーションでは、局地的に、メタンによる燃焼して熱の発生と、CO2 フリー水素と発電所等から排出されるCO2によるメタンの生成が行われる。本発明は、熱を発生させるメタンのエネルギー価値と、CO2 フリー水素由来のメタンであるという環境価値を分離して、ヴァーチャルに(非局地的に)取引させるための仕組みを提供しようというものである。
【0030】
まず、本明細書における用語の定義をする。
本明細書において「ガス」とは、メタンを主成分とする気体であっても良い。特に、天然ガスであっても良い。天然ガスは、メタンを主成分としていて、有害な一酸化炭素をはじめとする不純物をほとんど含まず、燃焼したときに発生する窒素酸化物、二酸化炭素の量が石炭や石油より少ないことが知られている。天然ガスの生産地は世界各地に広く分布していて、埋蔵量も豊富であり、長期的な安定供給・環境負荷の小ささという点で今後もさらに利用が進んでいくと期待されている。
【0031】
「化学反応」とは燃焼を含む。よって、「化学反応によって得られるエネルギー」とは、熱であったり、その熱を利用して得られる電力であっても良い。
「化石燃料由来の原材料」とは、天然ガスやシェールガス、石油が気化したものであり得る。
「ガスの化石燃料由来の燃料を用いて製造されているガス」とは、例えば、石油火力発電によって得られる電力を使って水を電気分解し、その結果得られる水素と二酸化炭素を反応させて得られるメタンであり得る。
【0032】
「化石燃料由来の原材料または燃料を用いずに製造されているガス」とは、例えば、太陽光発電や風力発電、バイオマス発電、原子力発電によって得られる電力を使って水を電気分解し、その結果得られる水素と二酸化炭素を反応させて得られるメタンであり得る。そして、「化石燃料由来の原材料または燃料を用いずに製造されているガス」は「ゼロエミッションガス」とも呼ばれる。
【0033】
「ガスの製造履歴」とは、原材料と、もし電力を使って化学反応を引き起こすのであれば、電力が再生可能エネルギー由来なのかそうでないのか、バイオマスを利用するならどこ産のものなのか、ガスはどこで製造されたのか、体積、組成などを含む。
【0034】
「ゼロエミッションガス」とは、カーボンフリーの可燃ガスである。カーボンフリーの可燃ガスには、バイオ起源のガス、カーボンフリーの水素、または温室効果ガスの排出として届け出済みの二酸化炭素とカーボンフリーの水素から製造されるメタンが含まれ得る。
【0035】
「ゼロエミッションガス」は、カーボンニュートラル(液化)天然ガス(CN-LNG、CNL)(または、ゼロエミッションガスと呼ぶ)とは異なるものであることに注意は必要である。カーボンニュートラル液化天然ガスとは、天然ガスの採掘から燃焼に至るまでの工程で発生する温室効果ガスを、新興国等における環境保全プロジェクトにより創出されたCOクレジットで相殺すること(カーボン・オフセット)により、地球規模では、この天然ガスを使用しても二酸化炭素が発生しないとみなされる液化天然ガスである。
【0036】
「環境価値」とは、一次エネルギー供給において温室効果ガスの排出に寄与しないエネルギーに関する量である。以下では、環境価値は、「ゼロ炭素価値」と互いに言い換え可能である。
「エネルギー価値」は、可燃ガスの反応に伴い発生するエネルギーに関する量である。そして、「エネルギー価値」は、経済的価値に換算することも可能である。
【0037】
「取引」とは、例えば、自由な文化の発達の土台である経済、さらにその経済を支える基盤としての自由な市場、フリー・マーケット、あるいはプライス・システムを含むものであり得る。「マーケット」の意味について、日本の徳川時代の市のように、物を売ったり買ったりすることのみならず、そのほかにそれぞれの地域、あるいはそれぞれの国が持っているところの伝統あるいは文化の調整、合理化、文化の交換を含んでも良い。
【0038】
「交換」という取引について、当事者たちは、この取引が貢献する目的について合意する必要はなく、取引の各当事者の異なる独立した目的に貢献し、かくて異なる目的のための手段として当事者たちを助けるものであっても良い。このような交換から、取引の各当事者たちは、交換から大きな利益を受けても良い。さらに交換の際に「交渉」が含まれていても良い。
【0039】
本願発明の一形態に従うシステムは、化学反応によって得られるエネルギーをエネルギー価値として持つガスの、原材料および前記ガスの製造過程で用いられる燃料を含む製造履歴を参照する参照部と、前記ガスの前記製造履歴を参照して、前記原材料および前記燃料のうち化石燃料由来の原材料または燃料を用いて製造されている第一の部分から得られるエネルギーの前記エネルギー価値に対する割合である第一のエネルギー割合と、前記第一の部分以外の第二の部分であって、原材料および前記燃料のうち化石燃料由来の原材料または燃料を用いずに製造されている部分から得られるエネルギーの前記エネルギー価値に対する割合である第二のエネルギー割合の少なくとも一つを算出するエネルギー割合算出部と、算出された前記第一のエネルギー割合と第二のエネルギー割合の少なくとも一つに基づき前記環境価値を算出する環境価値算出部と、前記環境価値を記録媒体に記録する記録部と、を含むことを特徴とする。
【0040】
本願発明の一形態に従う記録媒体は、ガスのエネルギー価値とは独立に前記環境価値の取引に利用されることを特徴とする。
環境価値の取引は、マッチング形式でもオークション形式でも、取引市場として機能し得るあらゆる形式で行われて良い。また、環境価値の取引は人口知能(AI)を利用したインターネット上の取引市場で行われても良い。
本願発明の一形態に従う記録媒体は、環境価値があることを保証するための原産地が記録されていても良い。
本願発明の一形態に従う記録媒体は、紙、金属、有機化合物、無機化合物、または電子媒体であり得るが、これらに限定されない。
本願発明の一形態に従う記録媒体は、電子媒体は、改竄、複製防止のための仕組みが備わっていても良い。
【0041】
ここで、改竄、複製防止のための仕組みはブロックチェーンを応用した仕組みであっても良いが、ブロックチェーンには限定されない。
【0042】
本願発明の一形態に従う方法は、化学反応によって得られるエネルギーをエネルギー価値として持つガスの、原材料および前記ガスの製造過程で用いられる燃料を含む製造履歴を参照することと、前記ガスの前記製造履歴を参照して、前記原材料および前記燃料のうち化石燃料由来の原材料または燃料を用いて製造されている第一の部分から得られるエネルギーの前記エネルギー価値に対する割合である第一のエネルギー割合と、前記第一の部分以外の第二の部分であって、原材料および前記燃料のうち化石燃料由来の原材料または燃料を用いずに製造されている部分から得られるエネルギーの前記エネルギー価値に対する割合である第二のエネルギー割合の少なくとも一つを算出することと、
算出された前記第一のエネルギー割合と第二のエネルギー割合の少なくとも一つに基づき前記環境価値を算出することと、前記環境価値を記録媒体に記録すること、を含むことを特徴とする。
ここで、環境価値は取引に利用され得る。
【0043】
本願発明の一形態に従う方法では、環境価値を記録することは、紙、金属、有機化合物、無機化合物、または電子媒体に前記環境価値を記録することであっても良い。
本願発明の一形態に従う方法は、さらに、記録されたものを改竄、複製防止するための仕組みを用いることが備わっていても良い。
本願発明の一形態に従う方法では、改竄、複製防止のための仕組みはブロックチェーンを応用した仕組みであっても良い。
【0044】
本願発明の一形態に従うプログラムは、コンピュータを、化学反応によって得られるエネルギーをエネルギー価値として持つガスの、原材料および前記ガスの製造過程で用いられる燃料を含む製造履歴を参照する手段と、前記ガスの前記製造履歴を参照して、前記原材料および前記燃料のうち化石燃料由来の原材料または燃料を用いて製造されている第一の部分から得られるエネルギーの前記エネルギー価値に対する割合である第一のエネルギー割合と、前記第一の部分以外の第二の部分であって、原材料および前記燃料のうち化石燃料由来の原材料または燃料を用いずに製造されている部分から得られるエネルギーの前記エネルギー価値に対する割合である第二のエネルギー割合の少なくとも一つを算出する手段と、算出された前記第一のエネルギー割合と第二のエネルギー割合の少なくとも一つに基づき前記環境価値を算出する手段と、前記環境価値を記録媒体に記録する手段として機能させることを特徴とする。
【0045】
本願発明の一形態に従うプログラムは、さらに、コンピュータを、環境価値の取引に利用する手段として機能させることを含んでも良い。
本願発明の一形態に従うプログラムでは、カーボンフリーの可燃ガスには、バイオ起源のガス、カーボンフリーの水素、または温室効果ガスの排出として届け出済みの二酸化炭素とカーボンフリーの水素から製造されるメタンが含まれ得る。
本願発明の一形態に従うプログラムでは、環境価値は、一次エネルギー供給において温室効果ガスの排出に寄与しないエネルギーである。
【0046】
本願発明の一形態に従うプログラムは、さらに、コンピュータを、環境価値があることを保証するための原産地を記録する手段として機能させることを含んでも良い。
本願発明の一形態に従うプログラムでは、環境価値を記録する手段は、紙、金属、有機化合物、無機化合物、または電子媒体に前記環境価値を記録する手段であっても良い。
本願発明の一形態に従うプログラムは、さらに、コンピュータを、記録の改竄、複製防止する仕組みを用いる手段として機能させることを含んでも良い。
本願発明の一形態に従うプログラムでは、改竄、複製防止のための仕組みはブロックチェーンを応用した仕組みであっても良い。
【0047】
上記のような構成のシステム、方法およびプログラムによれば、ガスに含まれる環境価値とエネルギー価値を分離して、環境価値を記録する記録媒体を得ることが出来る。さらに、その記録媒体を利用することによって、ガスに含まれる環境価値とエネルギー価値を分離して、環境価値を取引することができる。
さらに、上記のような構成のシステム、方法およびプログラムによれば、ガスに含まれる環境価値についてその規模に応じた公正な経済的価値を持たすことが可能となる。すなわち、
(1)メタン発酵等によるバイオガス、再生可能エネルギー電力を利用して製造された水素等のゼロ炭素ガスの持つ「環境価値」が高セキュリティで取引可能となり、「環境価値」に経済的価値を与えることを可能とする、(2)ブロックチェーン技術による電子取引技術を「環境価値」取引に適用することで、「環境価値」の市場形成、取引の活性化を実現する、(3)左記(1)及び(2)によって、再生可能エネルギーの経済性を高め、再生可能エネルギーの普及拡大を図ることができる、
(4)左記(3)によって、地球環境の保全に寄与することができる、
等の利点を得ることができる。
【0048】
また、ガスの持つ、「エネルギー価値」と「環境価値」を分離することにより、「環境価値」の取引においては、「エネルギー価値」の取引においては必須となる「同時同量の原則」、「同時同量違反に伴うインバランスペナルティ」、「ガスパイプ使用量等の輸送経費」を考慮することなく「ゼロ炭素価値」を取引することができる。このため、時々刻々の実際のエネルギーとしてのガスの取引とは別に「環境価値」を蓄積したり、期末にまとめて購入したりすることが可能となる。
これらの購入された「環境価値」は、自らのガス消費の「ゼロ炭素の証明」に使用することができるようになる。
【0049】
なお、本発明のシステム、方法およびプログラムについては、ガスの環境価値の取引の信頼性が確立されていることが必要であり、再生可能エネルギーの種類及び取引形態等は特に問わない。ここでは、取引される再生可能エネルギーはバイオ由来のガス、再生可能エネルギー由来の水素、その他ゼロ炭素の燃焼可能ガスとし、需要家も、製造家と同様に余剰エネルギーを他の需要家に販売することができるものとする。また、再生可能エネルギーガスに含まれる「環境価値」又は「ゼロ炭素価値」は、当該ガスの有する熱量によって計量されるものとする。
【0050】
エネルギー市場については、日本でも補助金、固定価格買取制度(FIT)による電力価格の固定化など、政府の積極的な関与がみられる。自由市場環境主義では、このような税や補助金を通じた中央政府の統制を良しとせず、環境・エネルギー市場の自生的秩序形成による市場の成長・発展を支持する。つまり、自由市場環境主義ではフリードリッヒ・フォン・ハイエクの市場哲学を基礎として、環境問題を「市場の失敗」として、環境・エネルギー市場への中央政府の市場介入の必要性を主張し、環境・エネルギー問題については、社会主義的な合理主義に似た理論の導入を主張する議論とは一線を画している。
【0051】
「市場の失敗」という意味は、環境・エネルギーでは、価格メカニズムが機能するような財・サービスの市場が成立しないという意味である。そして、このような「市場の失敗」に対しては、中央政府が市場に参入しようとする者に対して適切なインセンティブを与えることで、完全競争市場で得られるであろうパレート最適性を満たすような結果を生じる制度を設計すべきというのが、従来の経済学的アプローチであった。それは、フリードリッヒ・フォン・ハイエクが言う「人間がそれを理解することなしに偶然に出会って見付けたのちに利用することを学んだ生成物」たる自生的秩序としての市場とは異なっている。
【0052】
自由市場環境主義の立場では、大気汚染や資源枯渇など環境・エネルギー問題へのアプローチでは、技術的な可能な限り、あらゆる資源に明確に特定された所有権制度を整備し、市場で自由に交換できるようにすることが唯一の解決策であるとする。本発明に従う記録媒体、方法およびプログラムは、「市場の失敗」を超克する一つの手段を提供することができる。
【0053】
特に欧州では、再生可能、脱炭素ガスの取引は、国境を越えてガス分子が移動するため、十分に相互接続され統合された市場が必要であるだけでなく、加盟国間で「気候価値」を文書化して取引するための証明書システムの開発も必要であるとし、システムの確立に向けた動きがみられる。
【0054】
欧州では、欧州ガス送達システム事業者ネットワーク(European Network of Transmission System Operator for Gas、ENTSOG)が、国内登録簿の開発と、加盟登録簿間のバイオメタンおよび水素証明書の国境を越えた取引を可能とする証明書システムの確立を推進している。
ENTSOGは、再生可能、脱炭素ガスの国境を越えた取引可能性に関する欧州スキームと欧州連合域内排出量取引制度(EU Emissions Trading System、ETS)・輸送セクターへのリンク、および「再生可能」、「脱炭素」をカバーする加盟国間で交換されるすべての種類のガスの気候価値取引を推進しており、次のような試みが必要であるとしている。
(1)再生可能、脱炭素のための標準化されたEU全体の証明書フレームワークを確立する、
(2)国境を越えた転送可能性と同様に、ガス原産地/あるエネルギーキャリアから別のエネルギーキャリア(分子と電子)への転送可能性の確認、
(3)ガスの原産地 /証明書フレームワークを排出量取引制度および輸送部門と互換性のあるものにする、
(4)合成メタンを再生可能エネルギーとして分類できるようにする。 ただし、原料二酸化炭素(CO)の提供者と利用者の間でCO削減の二重計算を回避する。
【0055】
以上のように、世界の潮流は、再生可能エネルギーガスについても、再生可能エネルギー電力と同様に環境価値(ゼロ炭素価値)の取引を行うシステムの構築をする構想が存在する。
再生可能エネルギーの持つ価値には、エネルギー(電力、ガス、熱)としての価値の他に、「環境価値」がある。ここで環境価値とは、上述のように「ゼロ炭素」の価値でもある。欧米においては、「環境価値」の価値のみを証書化し、エネルギー価値とは別に、市場を設け流通させることにより「ゼロ炭素」の価値経済的価値を生んでいる。
【0056】
しかしながら、再生可能エネルギーの持つ「環境価値」が、取引の対象となるためには、再生可能エネルギーの持つ「エネルギー価値」と「環境価値」が必ず厳密にペアリングされている必要がある。「環境価値」の購入者は、自らが消費した「エネルギー」を再生可能エネルギーと紐づけすることによって、自らが消費した「エネルギー」が「環境価値」であることを証明することに経済的価値を見出しているからである。このためにはまず、「環境価値」とペアとなる「エネルギー価値」が、厳密に測定され記録されている必要がある。次に、これらの「価値」が重複やコピーされることなく、高セキュリティで管理されなければならない。このような高セキュリティな管理を行うシステムとして電力に関しては米国においてRECの取引システムが構築されている。我が国においてかつて行われていたグリーン電力証書も同様である。一方で、ガスの環境価値の取引に関しても、欧米においてもガス製造者とガス需要者の間の相対取引により、エネルギー価値と同時に環境価値(ゼロ炭素価値)の移転が行われている。
そして、本発明の記録媒体、方法およびプログラムは、エネルギー価値と環境価値を切り離した取引の仕組みを提供するものである。
【0057】
(実施形態)
以下、図を参照して本発明の環境価値が記録されている記録媒体の例について説明する。
図1は、ガスに関わる環境価値取引が行われるシステムの概略を示す図である。システム10は、ガスネットワーク100、コンピュータネットワーク200、及びガスネットワーク100に接続されたガスの需要家300a、300b(総称して需要家300と呼ぶこともある)、再生可能エネルギーガス製造者400a、400b(総称して再生可能エネルギーガス製造者400と呼ぶこともある)を含んでいる。そして、コンピュータネットワーク200上では、コンピュータ700によって書き換え、上書き、追記等がなされる環境価値が記録されている記録媒体500a、500b、500cに記録された環境価値(ゼロ炭素価値または環境価値とも呼ぶことがある)が取引される。環境価値が記録されている記録媒体500a、500b(総称して500と呼ぶこともある)の他に、エネルギー価値が記録されている記録媒体600a、600b(総称して600と呼ぶこともある)があっても良い。
【0058】
コンピュータ700は、環境価値を記録媒体に記録する装置としても機能する。同時に、コンピュータ700は、ガスの需要家300と再生可能エネルギーガス製造者400の間の環境価値および/またはエネルギー価値の仲介を行う。
【0059】
ガスの需要家300、および再生可能エネルギーガス製造者400はそれぞれ、コンピュータ310a、310b(総称してコンピュータ310と呼ぶこともある)、および410a、410b(総称してコンピュータ410と呼ぶこともある)を備えている。また、コンピュータネットワーク200上には、環境価値が記録される記録媒体500に記録されている環境価値と、エネルギー価値が記録される記録媒体600に記録されているエネルギー価値の取引を行うためのコンピュータ700が備えられている。この例ではコンピュータ700は環境価値が記録される記録媒体500に記録されている環境価値と、エネルギー価値が記録される記録媒体600に記録されているエネルギー価値の取引を行うが、必ずしもこのような構成には限定されず、環境価値の取引とエネルギー価値の取引を行うコンピュータは別々であっても良い。
これらのコンピュータ310、410、および700は、コンピュータネットワーク200によって互いに電気的に接続されている。
【0060】
ガスに係る環境価値は、再生可能エネルギーガス製造者400が、コンピュータ700およびガスネットワ-ク200を介して需要家300a、300bに対し再生可能エネルギーガスのエネルギー価値を供給すると共に、再生可能エネルギーガスの製造量に応じてブロックチェーン技術等に基づく分散型台帳の記録媒体500によってコンピュータネットワーク200上で管理される環境価値(ゼロ炭素価値または環境価値とも呼ぶ)が、コンピュータ700を介して別途に交換される。再生可能エネルギーガスのエネルギー価値は記録媒体600(600a、600b)に記録されている。
環境価値が記録される記録媒体500には、製造される再生可能エネルギーガスの単位熱量毎に対応するゼロ炭素価値が記録される。
【0061】
上記構成では、再生可能エネルギーガス製造熱量、取引履歴、及び再生可能エネルギーガス製造に係る属性(製造地点、時刻、製造者、製造方法、環境価値所有者)について、ブロックチェーン技術等に基づく台帳によって管理されるため、改ざん・修正等が極めて難しくなる。これにより、再生可能エネルギー製造熱量とこれに対応するゼロ炭素価値に対し信頼性が担保される。その結果、再生可能エネルギーガス熱量に対応した環境価値は、交換または取引することが可能となり、また、これにより、仮想通貨に紐付けることも可能となる。
【0062】
図2は、コンピュータ700のブロック図である。環境価値を記録媒体に記録する装置としてのコンピュータ700は、参照部710、エネルギー割合算出部720、環境価値算出部730、記録部740を含む。コンピュータ700には、参照部710、エネルギー割合算出部720、環境価値算出部730、記録部740の他に、図示されていない環境価値を取引するブロックや、エネルギー価値を取引するブロックが含まれる。これらのブロックは、オークションによって、環境価値やエネルギー価値のガスの需要家300と再生可能エネルギーガス製造者400の間の取引を仲介しても良い。
【0063】
参照部710は、化学反応によって得られるエネルギーをエネルギー価値として持つガスの、原材料および前記ガスの製造過程で用いられる燃料を含む製造履歴を参照する。
エネルギー割合算出部720は、ガスの製造履歴を参照して、原材料および燃料のうち化石燃料由来の原材料または燃料を用いて製造されている第一の部分から得られるエネルギーのエネルギー価値に対する割合である第一のエネルギー割合を算出する。さらに、エネルギー割合算出部720は、第一の部分以外の第二の部分、すなわち、原材料および燃料のうち化石燃料由来の原材料または燃料を用いずに製造されている部分から得られるエネルギーのエネルギー価値に対する割合である第二のエネルギー割合を算出する。ここではエネルギー割合算出部720は、第一のエネルギー割合と第二のエネルギー割合の両方を算出するとしたが、どちらか一方でも良い。ここで、「エネルギー」の単位はカロリーでも良い。
【0064】
環境価値算出部730は、エネルギー割合算出部720で算出された第一のエネルギー割合と第二のエネルギー割合の少なくとも一つに基づき環境価値を算出する。
例えば、太陽光発電装置によって発電された電力を使って水を電気分解して水素を作り、その水素と二酸化炭素をメタン化触媒を使って反応させてメタン10トンを生成したとする。すると、このメタンは、化石燃料由来の原材料または燃料を用いずに製造されているので、エネルギー価値としてメタンを10トンが持つカロリーを持ち、さらに環境価値としてメタンを10トンが持つカロリーを持つことになる。しかし、仮に水の電気分解に石炭火力発電所によって発電された電力を使えば、それは化石燃料由来の原材料または燃料を用いて製造されたガスとなる。
記録部740は、環境価値算出部730で算出された環境価値を記録媒体500に記録する。
【0065】
図4は、環境価値が記録される記録媒体500のフォーマットを示す図である
環境価値が記録される記録媒体500には、再生可能エネルギーガス製造熱量502に応じて記録される環境価値は、取引履歴503、原産地証明501とともにコンピュータ700で管理される。原産地証明501には、原産地504、属性505が含まれ得る。属性505には製造地点、時刻、製造者、製造方法、製造量、および製造期間、環境価値所有者が含まれる。図示されている環境価値が記録される記録媒体500のフォーマットは一例であり、これらの一部が記録されていても良い。
【0066】
上記構成では、再生可能エネルギーガス製造熱量に応じた環境価値については、改ざん・修正等及び二重取引、二重記録が極めて難しくなる。これにより、環境価値の信頼性が担保される。その結果、環境価値を記録した記録媒体は、市場において取引することが可能となる。これにより、再生可能エネルギーに含まれる環境価値についてその規模に応じて経済的価値を持たすことが可能になる。
【0067】
図1において、取引を行うコンピュータ700と台帳のコンピュータが、互いに他方のデータを参照することができる。
このような構成では、取引所210において、需要家300及び製造者400によって申請された再生可能エネルギーガス製造熱量とこれに対応する環境価値(ゼロ炭素価値または環境価値とも呼ぶこともある)の真偽(不正がないこと)をチェックすることが容易となる。同時に、その再生可能エネルギーガス製造熱量、すなわち環境価値と紐づけられた仮想通貨は、ブロックチェーン技術に基づく分散型台帳によって管理することもできる。
環境価値が記録される記録媒体500には、少なくとも需要家300及び製造者400の氏名又は名称、製造場所、製造方式、製造量、および製造期間が記録される。これらは属性620に記録されても良い。
【0068】
上記構成では、記録媒体は証明書としての側面を有するようになる。これにより再生可能エネルギーを販売又は供給した需要家(プロシュ-マ-)300及び製造者400のインセンティブが増大し、再生可能エネルギーが益々普及するようになる。
図1において、需要家300は、ぞれぞれ、(図示されていない)熱量を計量する熱量計量器と、(図示されていない)各需要家の自家使用分又は余剰分を計算するエネルギー管理装置と、熱量計量器及びエネルギー管理装置と通信可能なコンピュータ310とをそれぞれ有し、且つ、コンピュータ700を含む全てのコンピュータはコンピュータネットワーク200を介して対等に接続されている。
【0069】
上記構成では、需要家300は、他の構成員の熱量計量器、エネルギー管理装置およびコンピュータの各内部データを見ることができるため、コンピュータ700とガスネットワーク200を経由して取引されたガス取引データ(製造熱量、消費熱量、販売熱量、購入熱量)について、検証・承認することが可能となる。同様に、仮想通貨取引所において取引された仮想通貨取引データについて、ブロックチェーン技術に基づいて検証・承認することが可能である。
【0070】
図3は、環境価値を記録媒体に記録する装置700の構成を示す図である。CPU51、ROM52、RAM53等で構成され、ROM52に記憶されたプログラムに従って以下で説明する処理を行い、必要に応じてデータを記録装置54または記録媒体57に記憶する。また、ディスプレイ55には必要な情報が表示され、前述の通信ネットワークを介して、例えば環境価値、エネルギー価値の取引記録が表示される。環境価値が記録される記録媒体500は、メモリ53に記録され、インターネット200を介して流通してもよい。
【0071】
図5は、コンピュータ310、410、および700によって、環境価値が記録される記録媒体500の生成の際に用いられる処理の流れを示すフローチャートである。これらの処理はコンピュータ310、410、および700によって処理されるプログラムによって実行され得る。
S10では、コンピュータ700の参照部710が、化学反応によって得られるエネルギーをエネルギー価値として持つガスの、原材料および前記ガスの製造過程で用いられる燃料を含む製造履歴を参照する。
S20では、コンピュータ700のエネルギー割合算出部720が、ガスの製造履歴を参照して、原材料および前記燃料のうち化石燃料由来の原材料または燃料を用いて製造されている第一の部分から得られるエネルギーのエネルギー価値に対する割合である第一のエネルギー割合と、第一の部分以外の第二の部分であって、原材料および燃料のうち化石燃料由来の原材料または燃料を用いずに製造されている部分から得られるエネルギーのエネルギー価値に対する割合である第二のエネルギー割合の少なくとも一つを算出する。
S30では、コンピュータ700の環境価値算出部730が、算出された前記第一のエネルギー割合と第二のエネルギー割合の少なくとも一つに基づき前記環境価値を算出する。
S40では、コンピュータ700の記録部740が、S30でコンピュータ700の環境価値算出部730によって算出された環境価値を記録媒体500に記録する。
上記のような処理を行うことによって、既述の効果を得ることが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の記録媒体、方法およびプログラムは、ゼロエミッションガスに含まれる環境価値とエネルギー価値を分離して、環境価値を取引することができるので、エネルギー価値と環境価値を切り離した取引の仕組みを提供するものである。
【符号の説明】
【0073】
10 システム
100 ガスネットワーク
200 コンピュータネットワーク
300(300a、300b) ガスの需要家
310(310a、310b) ガスの需要家のコンピュータ
400(400a、400b) 再生可能エネルギーガス製造者
410(410a、410b) 再生可能エネルギーガス製造者のコンピュータ
500(500a、500b) 環境価値が記録されている記録媒体
501 原産地証明
502 環境価値製造熱量
503 環境価値
504 原産地
505 属性
600(600a、600b) エネルギー価値が記録されている記録媒体
700 環境価値を記録媒体500に記録したり、取引に用いられるコンピュータ
51 CPU
52 メモリ(ROM)
53 メモリ(RAM)
54 ハードディスク
55 ディスプレイ
56 記録装置
57 記録媒体
図1
図2
図3
図4
図5