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特開2023-98741放熱構造、放熱構造の製造方法、および電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098741
(43)【公開日】2023-07-11
(54)【発明の名称】放熱構造、放熱構造の製造方法、および電子機器
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20230704BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H05K7/20 D
H05K7/20 A
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213311
(22)【出願日】2021-12-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】505205731
【氏名又は名称】レノボ・シンガポール・プライベート・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】上村 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】橋場 惇輝
(72)【発明者】
【氏名】安達 貴光
【テーマコード(参考)】
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
5E322AA01
5E322AA03
5E322AA11
5E322AB04
5E322AB06
5E322AB08
5E322DB01
5E322DB08
5E322FA04
5F136BB11
5F136BC01
5F136BC04
5F136CB21
5F136CC14
5F136FA01
(57)【要約】
【課題】発熱する電気部品と放熱体との間に設けられた液体金属の漏出を抑制することのできる放熱構造を提供する。
【解決手段】放熱構造10は、ダイ24の表面24aに沿って設けられるベーパーチャンバ16と、ダイ24とベーパーチャンバ16との間に介在するように設けられる液体金属30と、ダイ24とベーパーチャンバ16との間で押しつぶされた状態で介在し、液体金属30を囲うように設けられるグリス32とを有する。グリス32には側方に開口する排気隙間32aが形成されている。ダイ24の表面24aは中央部24aaが周囲24abよりも盛り上がっている形状である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱する電気部品の放熱構造であって、
前記電気部品の表面に沿って設けられる放熱体と、
前記電気部品と前記放熱体との間に介在するように設けられる液体金属と、
前記電気部品と前記放熱体との間で押しつぶされた状態で介在し、前記液体金属を囲うように設けられる障囲体と、
を有することを特徴とする放熱構造。
【請求項2】
請求項1に記載の放熱構造において、
前記障囲体はグリスである
ことを特徴とする放熱構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載の放熱構造において、
基板および該基板に実装された半導体チップを備え、
前記半導体チップはサブストレートおよびダイを備え、
前記電気部品は前記ダイである
ことを特徴とする放熱構造。
【請求項4】
請求項3に記載の放熱構造において、
前記障囲体には側方に開口する排気隙間が形成されている
ことを特徴とする放熱構造。
【請求項5】
請求項4に記載の放熱構造において、
前記サブストレートには1以上の電気素子が設けられており、
前記排気隙間は、前記ダイの中心を基準として前記電気素子の配置されている角度間隔が最も大きい範囲に設けられている
ことを特徴とする放熱構造。
【請求項6】
請求項3~5のいずれか1項に記載の放熱構造において、
前記ダイの表面は中央部が周囲よりも盛り上がっている形状である
ことを特徴とする放熱構造。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の放熱構造を備える
ことを特徴とする電子機器。
【請求項8】
発熱する電気部品の放熱構造の製造方法であって、
電気部品の表面の周囲にグリスを塗布するグリス塗布工程と、
前記電気部品の前記表面における前記グリスで囲まれた範囲に液体金属を塗布する液体金属塗布工程と、
放熱体を前記電気部品の表面に押し付けて前記グリスを押しつぶしながら前記液体金属を前記放熱体に接触させる放熱体接触工程と、
を有することを特徴とする放熱構造の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の放熱構造の製造方法において、
前記グリス塗布工程では、前記放熱体接触工程で余分の空気を排出させる排気隙間を形成しておく
ことを特徴とする放熱構造の製造方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の放熱構造の製造方法において、
前記液体金属塗布工程では、前記グリスとの間に隙間をもって前記液体金属を塗布する
ことを特徴とする放熱構造の製造方法。
【請求項11】
請求項8~10のいずれか1項に記載の放熱構造の製造方法において、
前記グリス塗布工程では、前記グリスをシルクスクリーンによって塗布する
ことを特徴とする放熱構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱する電気部品の放熱構造、該放熱構造の製造方法、および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
ノート型PCなどの携帯用情報機器にはGPU、CPUなどの半導体チップが設けられている。GPU、CPUは基板に実装させる部分であるサブストレートと、該サブストレートの表面に設けられた矩形のダイとを有する形状になっている。また、サブストレートの表面には小さいキャパシタがダイの周囲に設けられている場合がある。
【0003】
GPU、CPUなどの半導体チップは発熱体であり、その消費電力(特に高負荷時)によっては放熱させる必要がある。GPU、CPUを放熱させる手段としてベーパーチャンバ、ヒートスプレッダまたはヒートシンクなどの放熱体を用い、このような放熱体を介してダイの表面に当接させて熱を拡散させることがある。ダイと放熱体との間には、熱を効率的に伝達させるために液体金属や伝熱性グリスなどの流動体を介在させる場合がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-146819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液体金属は伝熱性グリスよりも伝熱性が高く、ダイから放熱体へ効果的に熱を伝えることができる。一方、液体金属は伝熱性グリスよりも流動性が高いという特徴がある。電子機器は携帯して移動すると振動や衝撃を受けやすい。そうすると、流動性のある液体金属はダイおよび放熱体から受ける繰り返しの力により、ダイと放熱体との隙間から漏れ出る懸念がある。
【0006】
仮に、液体金属がダイと放熱体との間から漏出するとしてもサブストレートと放熱体との間にスポンジなどの壁体を設けておくことにより基板まで拡散することを防ぐことができる。また、サブストレートの表面のキャパシタは絶縁材を覆うことにより液体金属から保護することができる。したがって、ダイと放熱体との間から漏出する液体金属が少量であれば不都合は生じないと考えられている。
【0007】
本願発明者は、半導体チップと放熱体との間に介在する液体金属が振動や衝撃によってどの程度漏出するかを検証するために実験を行った。図10は、この実験の様子を示す模式断面図である。実験ではサブストレート502とダイ504とを有するCPU500を対象として、ダイ504の表面504aと銅板506との間に液体金属508を介在させた状態で所定の振動や衝撃を加えた。この実験では想定よりも多くの液体金属508が漏出することが認められた。
【0008】
この原因について調査をしたところ、平坦面と考えられていたダイ504の表面504aは、実際には中央部が周囲よりもわずかに盛り上がっている形状であることが分かった。半導体チップの製造工程上の理由と思われる。このため、ダイ504と銅板506との隙間は周辺部で比較的大きくなり、液体金属508が漏出しやすくなっていると考えられる。なお、GPUでも同様の傾向がみられた。
【0009】
液体金属508の漏出量が多いとそれだけ伝熱性能の低下が懸念される。とくに、ダイ504の周辺部には空隙510が生じる可能性があり熱抵抗の増加により伝熱性能が低下すると考えられる。
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、発熱する電気部品と放熱体との間に設けられた液体金属の漏出を抑制することのできる放熱構造、放熱構造の製造方法、および電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明実施態様に係る放熱構造は、発熱する電気部品の放熱構造であって、前記電気部品の表面に沿って設けられる放熱体と、前記電気部品と前記放熱体との間に介在するように設けられる液体金属と、前記電気部品と前記放熱体との間で押しつぶされた状態で介在し、前記液体金属を囲うように設けられる障囲体と、を有する。これにより、発熱する電気部品と放熱体との間に設けられた液体金属の漏出を抑制することができる。
【0012】
前記障囲体はグリスであってもよい。グリスは液体金属よりも粘度が高く漏出しにくく、内側に液体金属を保持することができる。
【0013】
基板および該基板に実装された半導体チップを備え、前記半導体チップはサブストレートおよびダイを備え、前記電気部品は前記ダイであってもよい。
【0014】
前記障囲体には排気隙間が形成されていてもよい。排気隙間からは放熱体を押し付ける際に内部の余分な空気を排出することができる。
【0015】
前記サブストレートには1以上の電気素子が設けられており、前記排気隙間は、前記ダイの中心を基準として前記電気素子の配置されている角度間隔が最も大きい範囲に設けられていてもよい。
【0016】
前記ダイの表面は中央部が周囲よりも盛り上がっている形状であってもよい。
【0017】
本発明の第2態様に係る電子機器は、上記の放熱構造を備える。
【0018】
本発明の第3態様に係る放熱構造の製造方法は、発熱する電気部品の放熱構造の製造方法であって、電気部品の表面の周囲にグリスを塗布するグリス塗布工程と、前記電気部品の前記表面における前記グリスで囲まれた範囲に液体金属を塗布する液体金属塗布工程と、放熱体を前記電気部品の表面に押し付けて前記グリスを押しつぶしながら前記液体金属を前記放熱体に接触させる放熱体接触工程と、を有する。
【0019】
前記グリス塗布工程では、前記放熱体接触工程で余分の空気を排出させる排気隙間を形成しておいてもよい。この排気隙間からは放熱体接触工程で内部の空気を排出させることができる。
【0020】
前記液体金属塗布工程では、前記グリスとの間に隙間をもって前記液体金属を塗布してもよい。この隙間からは内部の空気を排気隙間に導きやすい。
【0021】
前記グリス塗布工程では、前記グリスをシルクスクリーンによって塗布してもよい。シルクスクリーンによればグリスを所定寸法に正確に塗布することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の上記態様によれば、液体金属を囲うように障囲体が設けられていることから、振動や衝撃が加えられても中央部に設けられている液体金属を保持して漏出を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の実施形態にかかる放熱構造および電子機器の一部を示す分解斜視図である。
図2図2は、CPUの斜視図である。
図3図3は、放熱構造の模式断面側面図である。
図4図4は、放熱構造の模式平面図である。
図5図5は、変形例にかかるグリスの塗布形態を示す図であり、(a)は、第1の変形例を示す図であり、(b)は、第2の変形例を示す図である。
図6図6は、放熱構造の製造方法を示すフローチャートである。
図7図7は、ダイにグリスおよび液体金属が塗布された状態を示す模式平面図である。
図8図8は、ダイにグリスおよび液体金属が塗布された変形例の状態を示す模式平面図である。
図9図9は、放熱体接触工程の様子を示す模式断面側面図である。
図10図10は、従来技術にかかる放熱構造の模式断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明にかかる放熱構造、放熱構造の製造方法、および電子機器の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0025】
図1は、本発明の実施形態にかかる放熱構造10および電子機器の一部を示す分解斜視図である。
【0026】
携帯用情報機器(電子機器)12は、例えばノート型PC、タブレット端末またはスマートフォンなどであり、CPU(Central Processing Unit)14を備えている。CPU(半導体チップ)14は高速演算を行うことにより相応の発熱があるため放熱が必要となる。携帯用情報機器12では、CPU14の放熱手段としてベーパーチャンバ16を備えている。放熱構造10は携帯用情報機器12に対して好適に用いられるが、据え置き型のデスクトップ型コンピュータなどの電子機器に適用することも可能である。携帯用情報機器12では、CPU14の放熱手段としてベーパーチャンバ(放熱体)16を備えている。
【0027】
ベーパーチャンバ16は、2枚の金属プレート(例えば銅板)の周縁部を接合して内側に密閉空間を形成したプレート状のものであり、密閉空間に封入した作動流体の相変化によって熱を高効率に拡散可能である。ベーパーチャンバ16の密閉空間内には、凝縮した作動流体を毛細管現象で送液するウィックが配設される。
【0028】
ベーパーチャンバ16には2本の略平行するヒートパイプ18が設けられ、さらに該ヒートパイプ18の端部はファン20に接続されている。ヒートパイプ18は、薄く扁平な金属パイプ内に形成された密閉空間に作動流体を封入したものであり、ベーパーチャンバ16と同様にウィックが設けられている。
【0029】
CPU14等の発熱体の放熱手段としては、ベーパーチャンバ16以外にも、各種の放熱体が適用可能である。放熱体としては、例えば銅やアルミニウム等の熱伝導率の高い金属プレート、グラファイトプレート、ヒートレーン、ヒートシンク等が挙げられる。
【0030】
図2は、CPU14の斜視図である。図2では放熱構造10の構成要素を省略している。CPU14はサブストレート22と、ダイ(電気部品)24とを有する。サブストレート22は基板26に実装される薄い板状部であり、平面視で矩形となっている。ダイ24は演算回路を含む部分であり、サブストレート22の上面からやや突出するように設けられている。ダイ24は、平面視でサブストレート22よりも小さい矩形であり、該サブストレート22の上面略中央に設けられている。CPU14は携帯用情報機器12の中で最も発熱する部品の一つであり、その中でもダイ24が特に発熱する。
【0031】
換言すれば、ダイ24が携帯用情報機器12の中で最も発熱する電気部品の1つである。なお、携帯用情報機器12はGPU(Graphics Processing Unit)を備える場合がある。GPUはCPUと同様にサブストレートおよびダイを備えており、放熱構造10の適用が可能である。さらに、放熱構造10はCPU14やGPU以外の半導体チップ、またはその他の発熱する電気部品の放熱にも適用可能である。
【0032】
サブストレート22の表面には複数の小さいキャパシタ(電気素子)28が設けられている。キャパシタ28はダイ24の比較的近くに数個設けられている。本願ではサブストレート22の表面に1以上のキャパシタ28が設けられているものとする。
【0033】
図3は、放熱構造10の模式断面側面図である。放熱構造10は、上記のベーパーチャンバ16と、ダイ24の表面24aとベーパーチャンバ16との間に介在するように設けられる液体金属30と、表面24aとベーパーチャンバ16との間で押しつぶされた状態で介在し、液体金属30を囲うように設けられるグリス(障囲体)32と、キャパシタ28を覆う絶縁材34と、サブストレート22とベーパーチャンバ16との間に設けられる弾性材36とを有する。ベーパーチャンバ16は液体金属30を介してダイ24の表面24aと熱的に接続(熱接続)されている。
【0034】
ダイ24の表面24aは一般的には平面と考えられているが、上記のとおり精密に計測をすると中央部24aaが周囲24abよりもわずかに盛り上がっている形状となっている場合がある。ベーパーチャンバ16は、基本的にダイ24の表面24aに沿って平行に設けられるが、グリス32が当接するように設けられていれば、非平行(略平行)であってもよい。図示を省略するが、ベーパーチャンバ16におけるCPU14と対面する箇所には銅板を設け、ベーパーチャンバ16は該銅板を介して液体金属30、グリス32および弾性材36と接するようにしてもよい。この場合、銅板も放熱体であるベーパーチャンバ16お一部とみなせる。
【0035】
液体金属30は基本的には常温で液体となっている金属であるが、少なくとも電子機器12の基板26に通電され、CPU14が稼働した通常の使用状態の温度で液体となっていればよい。液体金属30は金属であることから熱伝導性、導電性に優れる。液体金属30は、例えばガリウムを主成分としている。
【0036】
絶縁材34は、例えば紫外線硬化型のコーティング材であって膜状に形成される。このコーティング材は、キャパシタ28を覆うように塗布された後に紫外線を照射されることによって硬化して絶縁材34を形成する。紫外線硬化型のコーティング材によれば絶縁材34の形成が容易である。絶縁材34は他の絶縁性の接着剤などであってもよい。
【0037】
弾性材36は、サブストレート22の周辺部に設けられて上方に突出している。弾性材36は枠体であって、外周縁がサブストレート22一致している。弾性材36は外力のない自然状態ではダイ24よりも多少高く、放熱構造10の組み立て状態ではベーパーチャンバ16によって適度に圧縮されている。弾性材36は、平面視で同形状の粘着テープ40によってサブストレート22の表面に接着固定されている。弾性材36は、例えばスポンジ材である。弾性材36は液体金属30を吸収しない材質とする。
【0038】
グリス32は、ダイ24とベーパーチャンバ16とによって押しつぶされており隙間がなく(後述する排気隙間32aの箇所を除く)、液体金属30が周囲に漏れないように囲っている。グリス32は液体金属30よりも粘度が高いため、振動や衝撃が加えられてもダイ24とベーパーチャンバ16との間から漏れることがなく、中央部に設けられている液体金属30を保持して漏出を抑制することができる。
【0039】
上記のとおりダイ24の表面24aは、中央部24aaが周囲24abよりも盛り上がっていることがあり、周囲24abでは表面24aとベーパーチャンバ16との間隔がやや大きい。したがって、仮にグリス32が設けられていないと、振動や衝撃が加えられることにより液体金属30は周囲に漏出し得るが、本実施例では粘度の高いグリス32が押しつぶされた状態で塞いでおり、液体金属30が漏出しにくい。
【0040】
グリス32の幅Wは、液体金属30の領域をなるべく広く確保することができるように適度に狭くすることが望ましく、かつ振動や衝撃があっても液体金属30の漏出を防ぐことができる程度に広くすることが必要である。つまり、グリス32の幅Wは、狭すぎずかつ広すぎないようにある程度の精度を確保して塗布することが望ましく、例えば1~2mmの範囲の一定幅に設定される。
【0041】
グリス32は、液体金属30による熱伝達を補助するように伝熱性のあるものを用いてもよい。伝熱性のあるグリス32としては、例えば信越化学工業株式会社製の7783Dが挙げられる。伝熱性のあるグリス32では伝熱性の担保のために内部に金属粉が混入されているが、グリス成分によって保護されるため液体金属30に触れても特段の変質は生じない。伝熱性のあるグリス32としてはリキッドメタルグリスを用いてもよい。また、CPU14の種類によっては表面24aの熱分布が一様ではなく、周囲24abが比較的低温である場合もある。そのような場合には、周囲24abに沿って設けられるグリス32は廉価で伝熱性のないものを用いてもよい。
【0042】
図4は、放熱構造10の模式平面図である。図4では、ベーパーチャンバ16を省略しており、液体金属30の範囲を濃いドット地、グリス32の範囲を薄いドット地で示している。図4に示すように、グリス32には1か所の側方に開口する排気隙間32aが形成されている。排気隙間32aは、後述する放熱構造10の製造方法における工程で、グリス32で囲われた範囲に存在する空気を排出するためのものである。
【0043】
排気隙間32aの面積は、製造工程で気体である空気を排出可能な程度に広く、かつ、製造後には液体である液体金属30が漏出しづらい程度に狭いことが望ましい。つまり、排気隙間32aの幅Wは、狭すぎずかつ広すぎないように、例えば2~3mmに設定される。排気隙間32aからは、製造工程において表面24a上にある液体金属30のうち余分となる微小量を排出させるようにしてもよい。
【0044】
仮に、製造工程または製造後に排気隙間32aから液体金属30が漏出することがあっても微量に抑制される。漏出する液体金属30が微量であれば、サブストレート22上のキャパシタ28は絶縁材34によって保護される。また、漏出する液体金属30が微量であれば弾性材36によってサブストレート22の範囲内に封じ込められるため、基板26にまで拡散することがない。
【0045】
また、排気隙間32aは、ダイ24の中心Cを基準としてキャパシタ28の配置されている角度間隔θが最も大きい最大間隔θmaxである範囲に設けられている。これにより、排気隙間32aはキャパシタ28のうち少なくとも1つからは適度に離間することになり、キャパシタ28が液体金属30から一層保護される。仮に、サブストレート22に1つのキャパシタ28が設けられている場合には、該キャパシタ28の幅を除く部分が最大間隔θmaxとなる。
【0046】
また、排気隙間32aは、最大間隔θmaxの中心となる線Lを同一の中心基準となるように最大間隔θmaxの1/2、つまりθmax/2となる範囲内に設けるようにしてもよい。これにより、排気隙間32aはいずれのキャパシタ28からも適度にバランスよく離間する。さらに、排気隙間32aは矩形のダイ24における遠隔縁24bのいずれかの箇所に設けてもよい。遠隔縁24bは、最大間隔θmaxの両端に位置する2つのキャパシタ28のいずれからも角部24cから遠い縁であり、また換言すれば、4つの縁のうち線Lを含む箇所に存在するものである。このように遠隔縁24bに形成された排気隙間32aからは、仮に液体金属30が漏れたとしてもダイ24の角部24cが壁のように作用し、液体金属30のそれ以上の回り込みを抑制する。放熱構造10の製造工程を真空中で行うなどの場合には排気隙間32aを設けなくてもよい。
【0047】
図5は、変形例にかかるグリス32の塗布形態を示す図である。図5(a)は、第1の変形例を示す図であり、上記の例における排気隙間32aの箇所に狭窄部32dが形成されている。狭窄部32dの幅W2は、グリス32における他の部分の幅Wより狭い。狭窄部32dは、製造工程では排気隙間32aと同様に開口していた箇所がベーパーチャンバ16を押し付けることによってグリス32が押しつぶされて両側から広がることにより埋められたものである。このような狭窄部32dによれば、製造工程では内部の空気を排気することができ、製造後には内部の液体金属30を一層確実に囲うことができる。
【0048】
図5(b)は、第2の変形例を示す図であり、排気隙間32aが複数形成されている。この場合、排気隙間32aはダイ24の四隅に形成されている。排気隙間32aは等間隔に設けるとよい。このように排気隙間32aを複数設けることにより、製造工程において内部の空気を一層排出しやすくなる。複数の排気隙間32aの一部または全部は、図5(a)のように製造後には埋められて狭窄部32dを形成するようにしてもよい。
【0049】
次に、放熱構造10の製造方法について説明する。図6は、放熱構造10の製造方法を示すフローチャートである。図7は、ダイ24にグリス32および液体金属30が塗布された状態を示す模式平面図である。図8は、ダイ24にグリス32および液体金属30が塗布された変形例の状態を示す模式平面図である。図9は、放熱体接触工程の様子を示す模式断面側面図である。放熱構造10の製造方法では、図6に示す工程に先だってCPU14が基板26に実装されているものとする。基板26は携帯用情報機器12の筐体に対して組み付けられている状態でもよいし、組み付け前の状態でもよい。
【0050】
図6のステップS1(グリス塗布工程)において、ダイ24の表面24aの周囲24abに沿ってグリス32を塗布する。このステップS1では、上記のとおり排気隙間32aを形成しておく。この時点のグリス32の高さH(図9参照)は、熱抵抗を軽減するためには低いことが望ましいが、確実にベーパーチャンバ16と接触させるために中央部24aaより高くする。そうすると、グリス32の高さHは、例えば0.2~0.25mm程度が望ましい。また、この時点のグリス32の幅W3は製造後の幅W(図3参照)よりやや狭い。
【0051】
この工程ではグリス32をシルクスクリーンによって塗布する。シルクスクリーンによれば、塗布の自動化または半自動化が可能であり、グリス32をダイ24の縁に沿い、一定の適正幅で、かつ適正な厚みで塗布することができる。さらに、シルクスクリーンによれば排気隙間32aについてもばらつきなく適正幅に設定することができる。
【0052】
なお、グリス32はダイ24ではなくベーパーチャンバ16における相当箇所に塗布することも可能ではあるが、ダイ24の周囲24abに合うように正確な位置合わせが難しく、また組み立て後ではダイ24の周囲24abに沿っているのか検査ができない。したがって、グリス32はダイ24に塗布することが好ましい。
【0053】
ステップS2(液体金属塗布工程)において、図7に示すように、ダイ24の表面24aにおけるグリス32で囲まれた範囲に液体金属30を適量塗布する。この工程は作業員が手作業で行い、または所定の自動機で行う。
【0054】
この工程では、グリス32との間に隙間42を形成するように液体金属30を塗布する。隙間42は液体金属30の四周に形成する。これにより、両者のオーバーラップがなく、グリス32が適正幅でベーパーチャンバ16と接触するようになる。
【0055】
この工程では、図8に示すように、液体金属30から見て三方に隙間42を形成するようにしてもよい。隙間42が形成されていないのは排気隙間32aと逆側(図6における右側)とする。これにより、次のステップS3において隙間42にある空気が排気隙間32aから抜けやすくなる。
【0056】
ステップS3(放熱体接触工程)において、図9に示すように、ベーパーチャンバ16をダイ24のダイ24の表面24aに押し付ける。これによりグリス32はベーパーチャンバ16と表面24aとの間で押しつぶされて両者との隙間がなくなり内側に液体金属30を保持することができる。液体金属30はベーパーチャンバ16に接触して広がり、グリス32で囲われたほぼ全領域で表面24aとベーパーチャンバ16とを熱接続する。また、隙間42に存在していた空気は排気隙間32aから排気される。上記のとおり微量の余分な液体金属30は排気隙間32aから排出されるようにしてもよい。
【0057】
このような放熱構造10およびその製造方法は、ダイ24の中央部24aaが周囲24abよりも盛り上がっている場合に液体金属30の漏出を防止するのに好適に用いられるが、ダイ24の表面24aがフラットである場合にも適用可能であり、漏出防止の作用が得られる。液体金属30の漏出を防止する障囲体としてはグリス32に限らず、表面24aとベーパーチャンバ16とによって押しつぶしが可能な材質、例えば薄いスポンジなどの弾性体も適用可能である。
【0058】
本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。
【符号の説明】
【0059】
10 放熱構造
12 携帯用情報機器(電子機器)
16 ベーパーチャンバ(放熱体)
22 サブストレート
24 ダイ
24b 遠隔縁
24aa 中央部
24a 表面
26 基板
28 キャパシタ(電気素子)
30 液体金属
32 グリス(障囲体)
32a 排気隙間
34 絶縁材
36 弾性材
θ 角度間隔
θmax 最大間隔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2023-04-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱する電気部品の放熱構造であって、
前記電気部品の表面に沿って設けられる放熱体と、
前記電気部品と前記放熱体との間に介在するように設けられる液体金属と、
前記電気部品と前記放熱体との間で押しつぶされた状態で介在し、前記液体金属を囲うように設けられる障囲体と、
基板および該基板に実装された半導体チップと、
を有し、
前記半導体チップはサブストレートおよびダイを備え、
前記電気部品は前記ダイであり、
前記障囲体には側方に開口する排気隙間が形成されている
ことを特徴とする放熱構造。
【請求項2】
請求項1に記載の放熱構造において、
前記障囲体はグリスである
ことを特徴とする放熱構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載の放熱構造において、
前記サブストレートには1以上の電気素子が設けられており、
前記排気隙間は、前記ダイの中心を基準として前記電気素子の配置されている角度間隔が最も大きい範囲に設けられている
ことを特徴とする放熱構造。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の放熱構造において、
前記ダイの表面は中央部が周囲よりも盛り上がっている形状である
ことを特徴とする放熱構造。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の放熱構造を備える
ことを特徴とする電子機器。
【請求項6】
発熱する電気部品の放熱構造の製造方法であって、
電気部品の表面の周囲にグリスを塗布するグリス塗布工程と、
前記電気部品の前記表面における前記グリスで囲まれた範囲に液体金属を塗布する液体金属塗布工程と、
放熱体を前記電気部品の表面に押し付けて前記グリスを押しつぶしながら前記液体金属を前記放熱体に接触させる放熱体接触工程と、
を有し、
前記グリス塗布工程では、前記放熱体接触工程で余分の空気を排出させる排気隙間を形成しておく
ことを特徴とする放熱構造の製造方法。
【請求項7】
請求項に記載の放熱構造の製造方法において、
前記液体金属塗布工程では、前記グリスとの間に隙間をもって前記液体金属を塗布する
ことを特徴とする放熱構造の製造方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の放熱構造の製造方法において、
前記グリス塗布工程では、前記グリスをシルクスクリーンによって塗布する
ことを特徴とする放熱構造の製造方法。