(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098766
(43)【公開日】2023-07-11
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/20 20060101AFI20230704BHJP
H02K 9/19 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
H02K1/20 C
H02K9/19 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021215417
(22)【出願日】2021-12-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】細井 勉
(72)【発明者】
【氏名】朝柄 浩嗣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 架
(72)【発明者】
【氏名】田渕 堅大
【テーマコード(参考)】
5H601
5H609
【Fターム(参考)】
5H601AA16
5H601BB20
5H601CC01
5H601CC02
5H601CC15
5H601DD01
5H601DD09
5H601DD11
5H601DD25
5H601DD30
5H601EE26
5H601FF04
5H601GA02
5H601GA22
5H601GB05
5H601GB13
5H601GB34
5H601GC02
5H601GC12
5H601GC22
5H601GE02
5H601GE12
5H601GE14
5H601GE16
5H609BB03
5H609PP02
5H609PP06
5H609PP07
5H609QQ05
5H609QQ13
5H609RR26
5H609RR33
5H609RR37
(57)【要約】
【課題】冷却液をスロット内に配設された最外周側のコイルの周辺へ届きやすくして冷却性能を向上させつつ冷却液がロータとステータとの間のギャップに溜まり過ぎて引き摺り損失が過大となることを抑制できる回転電機を提供する。
【解決手段】(a)複数のスロット14aは、供給流路54からオイルOが噴出される部位において周方向におけるスロット14aの両側に設けられた歯部16の先端16tがコイル60の最内周面60iよりも内周側に延伸し且つ噴出されたオイルOがスロット14a内のコイル60の周囲を周回する周囲流路20aをそれぞれ有し、(b)スロット14bは、鉛直線の方向の軸線Cよりも下側の領域であってオイルOが噴出される部位において、噴出されたオイルOがスロット14b内のコイル60の周囲を流通する周囲流路20bを有し且つオイルOがステータコア12の外部へ排出される排出流路30に接続されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に延伸する軸線を中心とする円筒状のステータコアの内周部に設けられたスロット内にコイルが配設されたステータと、前記ステータの内周側に配置され且つ中空部に供給された冷却液を前記ステータコアの内周部に向けて噴出するための供給流路を有するロータと、を備える回転電機であって、
前記スロットは、複数の第1スロットと、第2スロットと、を含み、
前記第1スロットは、前記供給流路から前記冷却液が噴出される部位において、前記ステータコアの周方向における前記第1スロットの両側に設けられた歯部の先端が前記コイルの最内周面よりも内周側に延伸し且つ前記供給流路から噴出された前記冷却液が前記第1スロット内に配設された前記コイルの周囲を周回する第1周囲流路をそれぞれ有し、
前記第2スロットは、前記ステータコアの前記周方向における鉛直線の方向の前記軸線よりも下側の領域であって前記供給流路から前記冷却液が噴出される部位において前記供給流路から噴出された前記冷却液が前記第2スロット内に配設された前記コイルの周囲を流通する第2周囲流路を有し且つ前記第2周囲流路を流通する前記冷却液が前記ステータコアの外部へ排出される排出流路に接続されている
ことを特徴とする回転電機。
【請求項2】
前記周方向において、前記ステータコアの鉛直最下方の位置から前記鉛直最下方の位置より前記ロータの回転方向に90度だけ回転した位置までの領域に、前記第2スロットが設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記排出流路は、前記排出流路において前記冷却液が流れる方向が変化しないか又は変化しても連続的である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記排出流路は、複数の前記第1スロットのうち少なくとも一つが有する前記第1周囲流路と、連通流路により連通している
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一に記載の回転電機。
【請求項5】
前記第2スロットは、前記供給流路から前記冷却液が噴出される部位において、前記周方向における前記第2スロットの両側の少なくとも一方の前記歯部の先端が前記コイルの最内周面よりも外周側である
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一に記載の回転電機。
【請求項6】
前記スロットは、さらに第3スロットを含み、
前記第3スロットは、前記供給流路から前記冷却液が噴出される部位において、前記周方向における前記第3スロットの両側の少なくとも一方の前記歯部の先端が前記コイルの最内周面よりも外周側であり且つ前記供給流路から噴出された前記冷却液が前記第3スロット内に配設された前記コイルの周囲を流通する第3周囲流路を有し、
前記ステータコアの前記周方向における鉛直線の方向の前記軸線よりも下側の領域において、前記第1スロット及び前記第3スロットが設けられている
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一に記載の回転電機。
【請求項7】
前記第1スロットは、前記ステータコアの前記周方向における鉛直線の方向の前記軸線よりも下側の領域よりも前記周方向における鉛直線の方向の前記軸線よりも上側の領域の方が多く設けられている
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一に記載の回転電機。
【請求項8】
前記ステータコアを構成する電磁鋼板は2種類であり且つ前記第2スロットは1個のみである
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一に記載の回転電機。
【請求項9】
前記第2スロットは、複数個である
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一に記載の回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータからステータに向けて冷却液が噴出される回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータの外周部からステータコアの内周部に向けて冷却液が噴出される回転電機が知られている。例えば、特許文献1に記載された回転電機がそれである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の回転電機では、ロータから噴出された冷却液は、スロット内に配設された最内周側のコイルに衝突するだけで最外周側のコイルの周辺へ届かないおそれがある。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、冷却液をスロット内に配設された最外周側のコイルの周辺へ届きやすくして冷却性能を向上させつつ冷却液がロータとステータとの間のギャップに溜まり過ぎて引き摺り損失が過大となることを抑制できる回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の要旨とするところは、水平方向に延伸する軸線を中心とする円筒状のステータコアの内周部に設けられたスロット内にコイルが配設されたステータと、前記ステータの内周側に配置され且つ中空部に供給された冷却液を前記ステータコアの内周部に向けて噴出するための供給流路を有するロータと、を備える回転電機であって、(a)前記スロットは、複数の第1スロットと、第2スロットと、を含み、(b)前記第1スロットは、前記供給流路から前記冷却液が噴出される部位において、前記ステータコアの周方向における前記第1スロットの両側に設けられた歯部の先端が前記コイルの最内周面よりも内周側に延伸し且つ前記供給流路から噴出された前記冷却液が前記第1スロット内に配設された前記コイルの周囲を周回する第1周囲流路をそれぞれ有し、(c)前記第2スロットは、前記ステータコアの前記周方向における鉛直線の方向の前記軸線よりも下側の領域であって前記供給流路から前記冷却液が噴出される部位において前記供給流路から噴出された前記冷却液が前記第2スロット内に配設された前記コイルの周囲を流通する第2周囲流路を有し且つ前記第2周囲流路を流通する前記冷却液が前記ステータコアの外部へ排出される排出流路に接続されていることにある。
【0007】
第2発明の要旨とするところは、第1発明において、前記周方向において、前記ステータコアの鉛直最下方の位置から前記鉛直最下方の位置より前記ロータの回転方向に90度だけ回転した位置までの領域に、前記第2スロットが設けられていることにある。
【0008】
第3発明の要旨とするところは、第1発明又は第2発明において、前記排出流路は、前記排出流路において前記冷却液が流れる方向が変化しないか又は変化しても連続的であることにある。
【0009】
第4発明の要旨とするところは、第1発明乃至第3発明のいずれか一の発明において、前記排出流路は、複数の前記第1スロットのうち少なくとも一つが有する前記第1周囲流路と、連通流路により連通していることにある。
【0010】
第5発明の要旨とするところは、第1発明乃至第4発明のいずれか一の発明において、前記第2スロットは、前記供給流路から前記冷却液が噴出される部位において、前記周方向における前記第2スロットの両側の少なくとも一方の前記歯部の先端が前記コイルの最内周面よりも外周側であることにある。
【0011】
第6発明の要旨とするところは、第1発明乃至第5発明のいずれか一の発明において、(a)前記スロットは、さらに第3スロットを含み、(b)前記第3スロットは、前記供給流路から前記冷却液が噴出される部位において、前記周方向における前記第3スロットの両側の少なくとも一方の前記歯部の先端が前記コイルの最内周面よりも外周側であり且つ前記供給流路から噴出された前記冷却液が前記第3スロット内に配設された前記コイルの周囲を流通する第3周囲流路を有し、(c)前記ステータコアの前記周方向における鉛直線の方向の前記軸線よりも下側の領域において、前記第1スロット及び前記第3スロットが設けられていることにある。
【0012】
第7発明の要旨とするところは、第1発明乃至第6発明のいずれか一の発明において、前記第1スロットは、前記ステータコアの前記周方向における鉛直線の方向の前記軸線よりも下側の領域よりも前記周方向における鉛直線の方向の前記軸線よりも上側の領域の方が多く設けられていることにある。
【0013】
第8発明の要旨とするところは、第1発明乃至第7発明のいずれか一の発明において、前記ステータコアを構成する電磁鋼板は2種類であり且つ前記第2スロットは1個のみであることにある。
【0014】
第9発明の要旨とするところは、第1発明乃至第7発明のいずれか一の発明において、前記第2スロットは、複数個であることにある。
【発明の効果】
【0015】
第1発明の回転電機によれば、(a)前記スロットは、複数の第1スロットと、第2スロットと、を含み、(b)前記第1スロットは、前記供給流路から前記冷却液が噴出される部位において、前記ステータコアの周方向における前記第1スロットの両側に設けられた歯部の先端が前記コイルの最内周面よりも内周側に延伸し且つ前記供給流路から噴出された前記冷却液が前記第1スロット内に配設された前記コイルの周囲を周回する第1周囲流路をそれぞれ有し、(c)前記第2スロットは、前記ステータコアの前記周方向における鉛直線の方向の前記軸線よりも下側の領域であって前記供給流路から前記冷却液が噴出される部位において前記供給流路から噴出された前記冷却液が前記第2スロット内に配設された前記コイルの周囲を流通する第2周囲流路を有し且つ前記第2周囲流路を流通する前記冷却液が前記ステータコアの外部へ排出される排出流路に接続されている。第1スロットの第1周囲流路を冷却液が周回して流通することによりコイルの冷却効率が向上させられる。一方、冷却液がステータコアの外部へ排出される排出流路に第2スロットの第2周囲流路が接続されることにより、排出流路に接続されていない場合に比較して、冷却液の排出性能が向上する。これらにより、冷却性能が向上するとともに冷却液がロータとステータとの間のギャップに溜まり過ぎて引き摺り損失が過大となることを抑制できる。
【0016】
第2発明の回転電機によれば、第1発明において、前記周方向において、前記ステータコアの鉛直最下方の位置から前記鉛直最下方の位置より前記ロータの回転方向に90度だけ回転した位置までの領域に、前記第2スロットが設けられている。重力の作用とロータの回転による冷却液の引き摺りとにより、鉛直最下方の位置から鉛直最下方の位置よりロータの回転方向に90度だけ回転した位置までの領域に、冷却液が滞留しやすい。周方向において、鉛直最下方の位置から鉛直最下方の位置よりロータの回転方向に90度だけ回転した位置までの領域に、第2スロットが設けられることで、それ以外の領域に第2スロットが設けられる場合に比較して、冷却液が効率良く排出される。これにより、冷却性能が向上するとともに冷却液がロータとステータとの間のギャップに溜まり過ぎて引き摺り損失が過大となることが抑制できる。
【0017】
第3発明の回転電機によれば、第1発明又は第2発明において、前記排出流路は、前記排出流路において前記冷却液が流れる方向が変化しないか又は変化しても連続的である。排出流路において冷却液が流れる方向が変化しないか又は変化しても連続的である場合には、そうでない場合に比較して、排出流路から冷却液が効率良く排出される。これにより、冷却性能が向上するとともに冷却液がロータとステータとの間のギャップに溜まり過ぎて引き摺り損失が過大となることが抑制できる。
【0018】
第4発明の回転電機によれば、第1発明乃至第3発明のいずれか一の発明において、前記排出流路は、複数の前記第1スロットのうち少なくとも一つが有する前記第1周囲流路と、連通流路により連通している。連通流路により第1周囲流路が排出流路に連通している第1スロットにおいて、その第1スロットにおける第1周囲流路を流通する冷却液が連通流路及び排出流路を経由してステータコアの外部へ排出されやすくなる。これにより、連通流路が設けられない場合に比較して、冷却液がロータとステータとの間のギャップに溜まり過ぎて引き摺り損失が過大となることが抑制される。
【0019】
第5発明の回転電機によれば、第1発明乃至第4発明のいずれか一の発明において、前記第2スロットは、前記供給流路から前記冷却液が噴出される部位において、前記周方向における前記第2スロットの両側の少なくとも一方の前記歯部の先端が前記コイルの最内周面よりも外周側である。第2スロットの周方向における両側の少なくとも一方の先端がコイルの最内周面よりも外周側とされた場合には、そうでない場合に比較して、その少なくとも一方の先端がコイルの最内周面よりも外周側とされた歯部の内周側を経由して、冷却液が隣接するスロットの周囲流路間で流通しやすい。すなわち、重力の作用により冷却液が効率良く流通して排出流路から排出されるため、コイルの冷却効率が低下することが抑制される。
【0020】
第6発明の回転電機によれば、第1発明乃至第5発明のいずれか一の発明において、(a)前記スロットは、さらに第3スロットを含み、(b)前記第3スロットは、前記供給流路から前記冷却液が噴出される部位において、前記周方向における前記第3スロットの両側の少なくとも一方の前記歯部の先端が前記コイルの最内周面よりも外周側であり且つ前記供給流路から噴出された前記冷却液が前記第3スロット内に配設された前記コイルの周囲を流通する第3周囲流路を有し、(c)前記ステータコアの前記周方向における鉛直線の方向の前記軸線よりも下側の領域において、前記第1スロット及び前記第3スロットが設けられている。このように、周方向における鉛直線の方向の軸線よりも下側の領域においては、第1スロット及び第3スロットが設けられている。すなわち、周方向における鉛直線の方向の軸線よりも下側の領域に設けられたスロットの一部は、供給流路から冷却液が噴出される部位において、スロットの両側の少なくとも一方の歯部の先端がコイルの最内周面よりも外周側となっている第3スロットとなっている。第1スロットは、周方向における両側に設けられた歯部の先端がコイルの最内周面よりも内周側とされている。一方、第3スロットは、周方向における両側の少なくとも一方の歯部の先端がコイルの最内周面よりも外周側とされている。そのため、第1スロットは、第3スロットに比較して、スロット内に配設されたコイルによる電磁力がロータに大きく作用するので回転電機の出力トルクを大きくしやすい。一方、第3スロットは、第1スロットに比較して、周方向における両側の少なくとも一方の先端がコイルの最内周面よりも外周側とされた歯部の内周側を経由して、冷却液が隣接するスロットの周囲流路間で流通しやすい。すなわち、第3スロットは、第1スロットに比較して、重力の作用により冷却液が効率良く流通して排出流路から排出されるため、コイルの冷却効率が低下することが抑制される。したがって、周方向における鉛直線の方向の軸線よりも下側の領域において、第1スロット及び第3スロットが設けられることにより、回転電機の出力トルクが低くなりすぎるのが抑制されるとともにコイルの冷却効率が低下しすぎるのが抑制される。
【0021】
第7発明の回転電機によれば、第1発明乃至第6発明のいずれか一の発明において、前記第1スロットは、前記ステータコアの前記周方向における鉛直線の方向の前記軸線よりも下側の領域よりも前記周方向における鉛直線の方向の前記軸線よりも上側の領域の方が多く設けられている。第1スロットは、スロットの両側に設けられた歯部の先端がコイルの最内周面よりも内周側に延伸している。両側の歯部が内周側に延伸しているため、第1周囲流路を冷却液が周回して流通することによりコイルの冷却効率が向上させられる。両側の歯部が内周側に延伸しているため、周方向における鉛直線の方向の軸線よりも下側の領域に設けられた第1スロットは、周方向における鉛直線の方向の軸線よりも上側の領域に設けられた場合に比較して、第1周囲流路を流通した冷却液が鉛直線の方向の上側から下側へ流れ落ちにくい。したがって、第1スロットが周方向における鉛直線の方向の軸線よりも下側の領域よりも周方向における鉛直線の方向の軸線よりも上側の領域の方が多く設けられることにより、そうでない場合に比較して、コイルの冷却効率が向上させられるとともに冷却液の排出性能の低下が抑制される。すなわち、冷却性能が向上するとともに冷却液がロータとステータとの間のギャップに溜まり過ぎて引き摺り損失が過大となることを抑制できる。
【0022】
第8発明の回転電機によれば、第1発明乃至第7発明のいずれか一の発明において、前記ステータコアを構成する電磁鋼板は2種類であり且つ前記第2スロットは1個のみである。第2スロットが1個のみである場合には、ステータコアは2種類の電磁鋼板により作製することが可能である一方、第2スロットが複数個である場合には、ステータコアの作製には3種類以上の電磁鋼板が必要となる場合がある。したがって、第2スロットが1個のみである場合には、そうでない場合に比較して電磁鋼板の種類を少なくしやすいため、ステータコアを構成する電磁鋼板が2種類とされることでステータコアを作製するコストの上昇を抑制することが可能となる。
【0023】
第9発明の回転電機によれば、第1発明乃至第7発明のいずれか一の発明において、前記第2スロットは、複数個である。第2スロットが複数個である場合には、排出流路が複数個となり、第2スロットが1個のみである場合に比較して、冷却液を排出しやすくなる。これにより、冷却液がロータとステータとの間のギャップに溜まり過ぎて引き摺り損失が過大となることが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施例1に係る回転電機のステータの概略構成を説明する斜視図である。
【
図2】実施例1に係る回転電機の径方向の断面図であって、軸線方向における中央部での断面図である。
【
図3】実施例1に係る回転電機の径方向の断面図であって、軸線方向における中央部以外の部分での断面図である。
【
図4】実施例1に係る回転電機の軸線方向の断面図であって、(a)は、
図2及び
図3に示す切断線IVa-IVaの断面図であり、(b)は、
図2及び
図3に示す切断線IVb-IVbの断面図である。
【
図5】
図2に示す断面図におけるスロット14aでのオイルの流れを説明する図である。
【
図6】実施例1において実験的に求められた、ロータの角速度とオイルの噴出角度との関係を説明する図である。
【
図7】
図2に示す断面図におけるスロット14bでのオイルの流れを説明する図である。
【
図8】実施例1における、オイル供給量と液面高さとの関係の一例を説明する図である。
【
図9】実施例1における、排出流路の有無による引き摺り損失の差について説明する図である。
【
図10】実施例1に係るスロット14bが接続された排出流路の変形例1の径方向の断面図である。
【
図11】実施例1に係るスロット14bが接続された排出流路の変形例2の径方向の断面図である。
【
図12】実施例1に係るスロット14bが接続された排出流路の変形例3の径方向の断面図である。
【
図13】実施例1に係るスロット14bが接続された排出流路の変形例4の径方向の断面図である。
【
図14】実施例1に係るスロット14bが接続された排出流路の変形例5の径方向の断面図である。
【
図15】実施例1に係るスロット14bが接続された排出流路の形状の違いによる排出圧力の差を説明する図である。
【
図16】実施例1に係るスロット14bが接続された排出流路の変形例6の軸線方向の断面図である。
【
図17】変形例6に係る排出流路の径方向の断面図である。
【
図18】実施例2に係るステータの径方向の一部断面図である。
【
図19】実施例3に係るステータの径方向の一部断面図である。
【
図20】実施例4に係る回転電機の径方向の断面図である。
【
図21】
図20に示すステータにおける二点鎖線で囲まれた部分の拡大図である。
【
図22】実施例4における、熱コンダクタンスの低減効果を説明する図である。
【
図23】実施例5に係る回転電機の径方向の断面図である。
【
図24】
図23に示すステータにおける二点鎖線で囲まれた部分の拡大図である。
【
図25】実施例6に係るステータの径方向の一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の各実施例について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に説明する各実施例及びその変形例において図は理解を容易とするために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。また、各実施例においては、先行する実施例と異なる部分を中心に説明することとし、先行する実施例と機能において実質的に共通する部分には同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【実施例0026】
図1は、本発明の実施例1に係る回転電機MGのステータ10の概略構成を説明する斜視図である。以下に説明するのは、実施例1における基本例である。
【0027】
回転電機MGは、例えばハイブリッド車両や電気自動車などの車両90に搭載された電動機(モータ)としての機能及び発電機(ジェネレータ)としての機能を有する回転電機機械であって、所謂モータジェネレータである。回転電機MGは、例えば車両90の走行用駆動源である。回転電機MGは、軸線Cを中心とする円筒状のステータ10と、ステータ10の内周側に配置されたロータ50(
図2参照)と、を備える。回転電機MGが車両90に搭載された状態では、軸線Cは水平方向である。
【0028】
ステータ10は、ステータコア12、コイル60、及び動力線80を備える。ステータコア12は、軸線Cを中心とする円筒状である。ステータコア12の内周部12i(
図2参照)には、ステータコア12の径方向の外周側に向かう方向の深さを有し且つ軸線Cに平行な方向に貫通する複数本の溝部すなわちスロット14が等角度間隔毎(本実施例の場合には、360/48[度]毎)に設けられている。本実施例では、スロット14が48個設けられている。隣接するスロット14間には、歯部16が形成されている。スロット14内にコイル60が配設されて、歯部16にはコイル60が巻回されている。歯部16は、コイル60に交流電流が流されることにより電磁石となる部分である。ステータコア12のうち歯部16以外の部分であって、電磁石となった歯部16同士の磁力線の経路となる部分がヨーク18である。コイル60は、その長手方向に垂直な断面が長方形である所謂平角導体で構成され、スロット14内の内周側から外周側に複数本配設されている。本実施例では、スロット14内にコイル60が5本配設されている。以下、本明細書では、「軸線Cに平行な方向」、「ステータコア12の径方向」、及び「ステータコア12の周方向」を、それぞれ単に「軸線C方向」、「径方向」、及び「周方向」と記す。コイル60は、例えばU相、V相、及びW相の3相巻線であり、それぞれのコイル60の端部が動力線80と電気的に接続されている。動力線80の先端には、図示されていないインバータ等との接続のための外部端子82が装着されている。
【0029】
図2は、本実施例に係る回転電機MGの径方向の断面図であって、軸線C方向における中央部Pc(
図4参照)での断面図である。以下、「軸線C方向における中央部Pc」を単に「中央部Pc」と記す。
図3は、本実施例に係る回転電機MGの径方向の断面図であって、軸線C方向における中央部Pc以外の部分での断面図である。
図4は、本実施例に係る回転電機MGの軸線C方向の断面図であって、(a)は、
図2及び
図3に示す切断線IVa-IVaの断面図であり、(b)は、
図2及び
図3に示す切断線IVb-IVbの断面図である。
図2は、
図4に示す切断線II-IIの断面図であり、
図3は、
図4に示す切断線III-IIIの断面図である。
【0030】
図2(
図3,5,7,10~14,17~21,23~25も同様)に示す矢印R1(以下、「回転方向R1」と記す。)は、ロータ50が回転する方向を示している。例えば、ロータ50が一方向にしか回転しない場合には、回転方向R1はその一方向の回転の方向を示している。例えば、ロータ50が正回転及びその正回転とは逆向きの逆回転のいずれも可能である場合には、回転方向R1は、逆回転に比較して回転電機MGが高温になりやすい正回転における回転の方向を示している。例えば、正回転とは前進走行時における回転電機MGの回転であり、逆回転とは後進走行時における回転電機MGの回転であって、後進走行に比較して、前進走行は回転電機MGが高温になりやすい。後進走行に比較して、前進走行は、要求駆動力が高い領域で使用されるからである。したがって、逆回転に比較して、正回転は、回転電機MGに対する高い冷却能力が要求される回転ともいえる。なお、回転方向R1は、本発明における「回転方向」に相当する。
【0031】
ロータ50は、例えば複数枚の電磁鋼板が積層された軸線Cを中心とする円筒状のロータコア52と、径方向におけるロータコア52の中心部に挿通されたシャフト56と、を備える。ロータコア52及びシャフト56は、相対回転不能となるように、例えば嵌合されている。回転電機MGが、例えば埋め込み磁石型(Interior Permanent Magnet型)の場合には、ロータコア52には不図示の永久磁石が埋め込まれている。シャフト56は、その内周側に中空部58を有する。中央部Pcにおけるロータコア52には、シャフト56の中空部58からロータコア52の外周面52oへ延びる貫通孔である供給流路54が設けられている。本実施例では、中央部Pcにおけるロータコア52にオイルOを噴出する供給流路54が6個設けられている。ロータ50とステータ10とは、ロータコア52の外周面とステータコア12の内周面とが径方向に対向している。ロータ50とステータ10との間には、それらの間の径方向の隙間であるギャップGがある。
【0032】
ステータコア12は、2種類の電磁鋼板12a及び電磁鋼板12bが積層されて構成されている。ステータコア12における中央部Pcには、電磁鋼板12bが複数枚積層されており、ステータコア12における中央部Pc以外の部分には、電磁鋼板12aが複数枚積層されている。
【0033】
ステータコア12の周方向において、鉛直線の方向の最上方の位置を最上位点P1とし、最上位点P1より回転方向R1に90度だけ回転した位置を水平点P2とし、水平点P2より回転方向R1に90度だけ回転した位置を最下位点P3とし、最下位点P3より回転方向R1に90度だけ回転した位置を水平点P4とする。水平点P4より回転方向R1に90度だけ回転した位置は、最上位点P1である。なお、最下位点P3及び水平点P4は、本発明における「鉛直最下方の位置」及び「鉛直最下方の位置よりロータの回転方向に90度だけ回転した位置」にそれぞれ相当する。
【0034】
ロータ50が回転させられると、中央部Pcにおけるステータコア12の内周部12iに供給流路54からオイルOが噴出される。すなわち、ロータ50の回転に伴う遠心力により、スロット14における中央部Pcに供給流路54からオイルO(
図5参照)が噴出される。ステータコア12における中央部Pcは、中央部Pc以外の部分に比較して高温になりやすい。なお、オイルOは、本発明における「冷却液」に相当し、例えばATF(Automatic Transmission Fluid)等の冷却用オイルである。スロット14における中央部Pcは、本発明における「供給流路から冷却液が噴出される部位」に相当する。
【0035】
スロット14は、複数のスロット14aと、スロット14bと、を含む。以下、ステータコア12の周方向における鉛直線の方向の軸線Cよりも上側の領域を、「ステータ上側領域」と記し、ステータコア12の周方向における鉛直線の方向の軸線Cよりも下側の領域を、「ステータ下側領域」と記すこととする。具体的には、ステータ上側領域は、ステータコア12の周方向における水平点P4から最上位点P1を経由して水平点P2に至る領域である。ステータ下側領域は、ステータコア12の周方向における水平点P2から最下位点P3を経由して水平点P4に至る領域である。スロット14bは、ステータ下側領域であって周方向における最下位点P3から水平点P4までの領域に1個設けられている。スロット14のうちスロット14b以外は、全てスロット14aである。スロット14aは、ステータ下側領域よりもステータ上側領域の方が多く設けられている。以下、スロット14a,14bを特に区別しない場合には、単に「スロット14」と記す。なお、スロット14a及びスロット14bは、本発明における「第1スロット」及び「第2スロット」にそれぞれ相当する。
【0036】
軸線C方向における全ての部分(中央部Pc及び中央部Pc以外の部分を含む)において、スロット14の周方向の両側に設けられた歯部16の先端16tがコイル60の径方向の最内周面60iよりも内周側に延伸している。中央部Pc以外の部分において、スロット14には、スロット14とスロット14内に配設されたコイル60との間にオイルOが流通するような隙間が設けられていない。
【0037】
図5は、
図2に示す断面図におけるスロット14aでのオイルOの流れを説明する図である。
図5は、
図2に示すステータコア12に設けられた複数のスロット14aを代表した1つのスロット14aについて図示した拡大図である。
【0038】
スロット14aにおける中央部Pcには、周方向に相対向する溝側面14p及び溝側面14rと、それら一対の溝側面14p,14rの外周側の端を連結する溝底面14qと、がある。溝側面14pは、周方向において回転方向R1側に位置するスロット14aの溝側面であり、溝側面14rは周方向において回転方向R1とは反対向きの方向側に位置するスロット14aの溝側面である。
図5に示す中心面Pは、軸線Cを含み、スロット14aの周方向に相対向する溝側面14pと溝側面14rとの間の中心を通る面である。周方向におけるコイル60の幅は、スロット14aにおける一対の溝側面14p,14r間の幅よりも狭い。例えば、周方向におけるコイル60の中心位置は中心面Pと同じである。
【0039】
スロット14aにおける中央部Pcには、溝側面14pとコイル60との間、溝底面14qとコイル60との間、及び溝側面14rとコイル60との間にそれぞれオイルOが流通するような隙間が設けられている。これら隙間は、供給流路54から噴出されたオイルOがスロット14a内に配設されたコイル60の周囲を周回する流路である周囲流路20aである。すなわち、スロット14aにおける中央部Pcは、周囲流路20aを有する。「周回」とは、コイル60と溝側面14pとの隙間、コイル60と溝底面14qとの隙間、コイル60と溝側面14rとの隙間のそれぞれの流路をオイルOが順次まわって流通することである。なお、周囲流路20aは、本発明における「第1周囲流路」に相当する。
【0040】
前述したように、スロット14aにおける中央部Pcは、周方向におけるスロット14aの両側に設けられた歯部16の先端16tが最内周面60iよりも内周側に延伸している。径方向の断面において、スロット14aの溝側面14rにおける内周側の端の角を角C1といい、コイル60の最内周面60iにおける溝側面14r側の端の角を角C2といい、角C1と角C2とを結ぶ直線を直線Lcということとする。また、ロータコア52の外周面52oの接線方向と供給流路54からオイルOが噴出される方向(矢印A1で示す方向)との間の角度を、噴出角度α[度](<90度)とし、外周面52oの接線方向と直線Lcとの間の角度を、角度β[度](<90度)とする。ロータコア52を備えるロータ50が回転方向R1に回転している場合、供給流路54の外周面52o側から噴出されるオイルOには、ロータコア52の径方向(=法線方向)の遠心力とともに、外周面52oの接線方向(回転方向R1側)の慣性力が作用する。そのため、供給流路54から噴出されるオイルOは、矢印A1の方向に向かう。
【0041】
好適には、角度βは噴出角度αよりも大きい。角度βが噴出角度αよりも大きい場合には、溝側面14rとコイル60との間の隙間の流路には供給流路54からオイルOが噴出されない一方、溝側面14pとコイル60との間の隙間の流路には供給流路54からオイルOが噴出される。これにより、供給流路54から噴出されたオイルOは、周囲流路20aを周回する。なお、角度βが噴出角度α以下の場合であっても、周方向におけるスロット14aの両側に設けられた歯部16の先端16tが最内周面60iよりも内周側に延伸していれば、溝側面14rとコイル60との間の隙間の流路よりも溝側面14pとコイル60との間の隙間の流路の方に供給流路54からオイルOが多く噴出される。したがって、この場合にも供給流路54から噴出されたオイルOは、周囲流路20aを周回する。
【0042】
周囲流路20aを周回したオイルOは、重力の作用によりギャップGを周方向に鉛直線の方向の下向きに流れたり、ギャップGを軸線C方向の中央部Pcから端部側に向けて流れたり、或いは供給流路54から噴出されたオイルOに巻き込まれて再度周囲流路20aを周回したりする。なお、重力の作用を無視すると、ロータコア52の回転によりオイルOが引き摺られることによって、ギャップGにおいては周方向のうち回転方向R1とは反対向きの方向よりも回転方向R1の方にオイルOが流れやすい。
【0043】
図6は、本実施例において実験的に求められた、ロータ50の角速度ω[rad/sec]とオイルOの噴出角度αとの関係を説明する図である。
【0044】
図6に示すように、角速度ωが大きくなると、噴出角度αは次第に小さくなっていき、約13度で収束する。供給流路54における外周面52oの位置でのオイルOの外周面52oの接線方向の流速は、角速度ωとロータコア52の半径との積に比例する。噴出角度αが一定値に収束するということは、供給流路54における外周面52oの位置でのオイルOの径方向の流速は、角速度ωが大きくなると角速度ωとロータコア52の半径との積に比例したものに収束することを意味している。これは、供給流路54を流れるオイルOには、軸線Cからの径方向の距離と、角速度ωの2乗と、の積に比例した遠心力が作用するが、供給流路54における流通抵抗により角速度ωが大きくなるに従って外周面52oの位置でのオイルOの径方向の流速は角速度ωとロータコア52の半径との積に比例したものに収束するのではないかと思われる。なお、供給流路54における流通抵抗によりロータコア52の半径の大きさが変わっても、角速度ωが大きくなると、噴出角度αは、
図6と同様に約13度で収束すると思われる。
【0045】
図7は、
図2に示す断面図におけるスロット14bでのオイルOの流れを説明する図である。
図5は、
図2に示すスロット14bについての拡大図である。スロット14bは、スロット14aと略同じであるが、スロット14bは、スロット14aにおける周囲流路20aの替わりに周囲流路20bを有する点と、周囲流路20bを流通するオイルOがステータコア12の外部へ排出される排出流路30に接続されている点と、が異なる。すなわち、周囲流路20aは、周囲流路20aを流通するオイルOがステータコア12の外部へ排出される排出流路には直接的に接続されていない。そのため、スロット14bについては、スロット14aと異なる部分を中心に説明することとし、スロット14aと機能において実質的に共通する部分には同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0046】
スロット14bにおける中央部Pcは、周囲流路20bを有する。周囲流路20bは、供給流路54から噴出されたオイルOがスロット14b内に配設されたコイル60の周囲を流通する流路である。周囲流路20bは、オイルOがコイル60の周囲を流通すれば良く、周囲流路20aのように必ずしもコイル60の周囲をオイルOが周回しなくても良い。例えば、オイルOがコイル60と溝側面14pとの隙間の流路を流通した後に後述の排出流路30に全て流入し、コイル60と溝側面14rとの隙間の流路をオイルOが流通しなくても良い。以下、周囲流路20a,20bを特に区別しない場合には、単に「周囲流路20」と記す。なお、周囲流路20bは、本発明における「第2周囲流路」に相当する。
【0047】
周囲流路20bは、排出流路30に接続されている。例えば、排出流路30は、溝底面14qからステータコア12の外周部12oに向かって径方向に延びており、周方向に相対向する一対の内壁面と軸線C方向に相対向する一対の内壁面とを有する、径方向に垂直な断面が長方形の貫通孔である。本実施例では、周囲流路20bのうち溝側面14pとコイル60との間の隙間の流路における周方向の幅は、幅W1[mm]である。排出流路30における周方向の幅は、幅W2[mm](>W1)である。排出流路30における周方向に相対向する一対の内壁面のうち回転方向R1側に位置する内壁面は、溝側面14pの径方向の延長上にある。排出流路30における周方向に相対向する一対の内壁面のうち回転方向R1とは反対向きの方向側に位置する内壁面は、溝側面14pに対向するコイル60の側面の径方向の延長上よりも中心面P側にある。本実施例では、排出流路30は、周方向及び軸線C方向のいずれの方向においても、周囲流路20bのうち溝側面14pとコイル60との間の隙間の流路を径方向に延長した範囲を全て含むように形成されている。このように、排出流路30は、その長手方向において周囲流路20bに接続される開口部を含んで、オイルOが流通する方向が折れ曲がっていない。排出流路30におけるオイルOが流れる方向は、矢印A2に示すように、排出流路30の長手方向における周囲流路20bに接続される開口部で、周囲流路20bにおいてオイルOが流通する方向(溝側面14pとコイル60との間の隙間の流路を内周側から外周側に向かう方向)と同じである。すなわち、排出流路30は、後述する変形例3~6のように、排出流路30においてオイルOが流れる方向が折れ曲がって変化する屈曲部36k,38k,40k,42k(
図12,13,14,17参照)を有さない。すなわち、排出流路30は、周囲流路20bに接続される開口部を含んで、排出流路30においてオイルOが流れる方向が変化しない。また、排出流路30におけるオイルOの流通抵抗は、周囲流路20bにおける流通抵抗よりも低い。供給流路54からスロット14bに噴出されたオイルOは、周囲流路20bを流通し、周囲流路20bを流通するオイルOの全部又は一部は、排出流路30を経由してステータコア12の外部へ排出される。
【0048】
図8は、本実施例における、オイル供給量S[L/min]と液面高さH[mm]との関係の一例を説明する図である。オイル供給量Sは、ロータコア52に設けられた6個の供給流路54からそれぞれ噴出されるオイルOの供給量の合計である。液面高さHは、最下位点P3における鉛直線の方向の高さを基準点として0[mm]とした場合、その基準点から鉛直線の方向における上向きの高さである。鉛直線の方向において、最下位点P3におけるロータコア52の外周面52oにオイルOが到達した場合の液面高さHを、高さH1とする(
図2参照)。
【0049】
例えば、排出流路30の長手方向に垂直な断面が5[mm]角の正方形であってオイルOであるATFの温度が100℃の場合において、
図8に示すように、オイル供給量Sが増加するに従って液面高さHが増加する。液面高さHが高さH1よりも高くなると、ギャップGに過剰にオイルOが溜まった状態となって、その過剰に溜まったオイルOによるロータ50の引き摺り損失LO[W]が大きくなる。実使用上のオイル供給量Sの範囲は、ロータコア52の角速度ωやオイルOの温度に基づく粘性に応じて定まる。実使用上のオイル供給量Sが零から最大供給量Smaxまでの間の範囲であるとすると、液面高さHは最大で高さH2となる。
図8に示すように高さH2が高さH1よりも高さ余裕Hmgnだけ低い場合には、液面高さHが高さH1を超過することはない。もし、
図8とは異なって高さH2が高さH1よりも高くなる場合には、例えば排出流路30の長手方向に垂直な断面を大きくするなどして排出流路30における排出性能を大きくすることで、液面高さHが高さH1を超過しないようにすることができる。
【0050】
図9は、本実施例における、排出流路30の有無による引き摺り損失LO[W]の差について説明する図である。
【0051】
図9における「排出流路無し」は、例えばスロット14bにおける周囲流路20bが排出流路30に接続されていない場合である。この場合には、鉛直線の方向の下方に溜まったオイルOは、ギャップGを軸線C方向の中央部側から端部側へ流れ出し、ステータコア12の両端部から外部へ排出される。
【0052】
図9における「排出流路有り」は、本実施例の場合である。この場合には、鉛直線の方向の下方に溜まったオイルOは、軸線C方向の中央部Pcから端部側に向けて流れてステータコア12の両端部から外部へ排出されるとともに、排出流路30からもステータコア12の外部へ排出される。
図9に示すように、排出流路ありの場合は、排出流路無しの場合よりも鉛直線の方向の下方に溜まったオイルOの排出能力が高いため、排出流路無しの場合に比較して引き摺り損失LOが84%減少する。
【0053】
以下、本実施例に係るスロット14bに接続された排出流路30の各変形例について説明する。各変形例におけるそれぞれの排出流路は、前述の基本例における排出流路30と略同じであるので、排出流路30と異なる部分を中心に説明することとする
(変形例1)
図10は、本実施例に係るスロット14bが接続された排出流路30の変形例1の径方向の断面図である。本変形例では、排出流路30の替わりに排出流路32となっている。本変形例では、中央部Pcにおけるステータコア12は、例えば電磁鋼板12bの替わりに電磁鋼板12cが複数枚積層されている。排出流路32におけるオイルOが流れる方向は、矢印A3に示すように、排出流路32の長手方向における周囲流路20bに接続される開口部で、周囲流路20bにおいてオイルOが流通する方向(溝側面14pとコイル60との間の隙間の流路を内周側から外周側に向かう方向)と同じであったものが、径方向の外周側に向かうに従って周方向の一方側(本変形例では、回転方向R1とは反対向きの方向)に向けて緩やかに曲がって変化している。排出流路32は、周囲流路20bに接続される開口部を含んで、排出流路32においてオイルOが流れる方向は変化しているが連続的である。
【0054】
(変形例2)
図11は、本実施例に係るスロット14bが接続された排出流路30の変形例2の径方向の断面図である。本変形例では、排出流路30の替わりに排出流路34となっている。本変形例では、中央部Pcにおけるステータコア12は、例えば電磁鋼板12bの替わりに電磁鋼板12dが複数枚積層されている。排出流路34におけるオイルOが流れる方向は、矢印A4に示すように、排出流路34の長手方向における周囲流路20bに接続された開口部で、周囲流路20bにおいてオイルOが流通する方向(溝側面14pとコイル60との間の隙間の流路を内周側から外周側に向かう方向)と同じであったものが、径方向の外周側に向かうに従って周方向の一方側(本変形例では、回転方向R1とは反対向きの方向)に向けて緩やかに曲がった後、周方向の他方側(本変形例では、回転方向R1側)に向けて緩やかに曲がって変化している。排出流路34は、周囲流路20bに接続される開口部を含んで、排出流路34においてオイルOが流れる方向は変化しているが連続的である。
【0055】
(変形例3)
図12は、実施例1に係るスロット14bが接続された排出流路30の変形例3の径方向の断面図である。本変形例では、排出流路30の替わりに排出流路36となっている。本変形例では、中央部Pcにおけるステータコア12は、例えば電磁鋼板12bの替わりに電磁鋼板12eが複数枚積層されている。排出流路36におけるオイルOが流れる方向は、矢印A5に示すように、排出流路36の長手方向における周囲流路20bに接続された開口部で、周囲流路20bにおいてオイルOが流通する方向(溝側面14pとコイル60との間の隙間の流路を内周側から外周側に向かう方向)とは異なる。本変形例では、その異なる方向は、回転方向R1とは反対向きの方向に傾いた方向である。このように、排出流路36は、周囲流路20bに接続された開口部において、排出流路36においてオイルOが流れる方向が折れ曲がって変化する屈曲部36kを有する。
【0056】
(変形例4)
図13は、実施例1に係るスロット14bが接続された排出流路30の変形例4の径方向の断面図である。本変形例では、排出流路30の替わりに排出流路38となっている。本変形例では、中央部Pcにおけるステータコア12は、例えば電磁鋼板12bの替わりに電磁鋼板12fが複数枚積層されている。
【0057】
本変形例では、周囲流路20bのうち溝側面14pとコイル60との間の隙間の流路における周方向の幅は、幅W1である。排出流路38における周方向の幅は、幅W3[mm](>W1)である。排出流路38における周方向に相対向する一対の内壁面のうち回転方向R1側に位置する内壁面は、溝側面14pの径方向の延長上からオフセット量Woff[mm]だけ中心面P側にある。排出流路38は、周囲流路20bのうち溝側面14pとコイル60との間の隙間の流路を径方向に延長した範囲の一部を含むが、全てを含むようには形成されていない。
【0058】
排出流路38におけるオイルOが流れる方向は、矢印A6に示すように、排出流路38の長手方向における周囲流路20bに接続された開口部で、周囲流路20bにおいてオイルOが流通する方向(溝底面14qとコイル60との間の隙間の流路を溝側面14p側から溝側面14r側に向かう方向)とは異なる。本変形例では、その異なる方向は、径方向において内周側から外周側に向かう方向である。このように、排出流路38は、周囲流路20bに接続された開口部において、排出流路38においてオイルOが流れる方向が折れ曲がって変化する屈曲部38kを有する。
【0059】
(変形例5)
図14は、実施例1に係るスロット14bが接続された排出流路30の変形例5の径方向の断面図である。本変形例では、排出流路30の替わりに排出流路40となっている。本変形例では、中央部Pcにおけるステータコア12は、例えば電磁鋼板12bの替わりに電磁鋼板12gが複数枚積層されている。排出流路40におけるオイルOが流れる方向は、矢印A7に示すように、排出流路40の長手方向における周囲流路20bに接続された開口部で、周囲流路20bにおいてオイルOが流通する方向(溝側面14pとコイル60との間の隙間の流路を内周側から外周側に向かう方向)と同じであったものが、周方向の一方側(本変形例では、回転方向R1とは反対向きの方向)に90度折れ曲がって変化した後、さらに径方向の内周側から外周側に向かう方向へ90度折れ曲がって変化している。排出流路40は、排出流路40においてオイルOが流れる方向が折れ曲がって変化する屈曲部40kを2箇所有する。
【0060】
図15は、実施例1におけるスロット14bが接続された排出流路の形状の違いによる排出圧力Pdrn[Pa]の差を説明する図である。
図15では、本実施例における基本例(排出流路30に屈曲部が無い態様)の場合と、本実施例における変形例5(排出流路40に90度の屈曲部40kが2箇所ある態様)の場合と、の比較である。
【0061】
図15に示すように、90度折れ曲がった屈曲部40kがある場合には、そのような屈曲部40kが無い場合に比較して排出圧力Pdrnが51%減少している。排出圧力Pdrnとは、排出流路30や排出流路40のそれぞれの長手方向におけるステータコア12の外周部12o側の開口部におけるオイルOの圧力である。排出圧力Pdrnが高いほど、排出能力が高く、排出性能が高い。
【0062】
(変形例6)
図16は、実施例1に係るスロット14bが接続された排出流路30の変形例6の軸線C方向の断面図である。本変形例では、排出流路30の替わりに排出流路42となっている。
図17は、本変形例に係る排出流路42の径方向の断面図である。
図17は、
図16に示す切断線XVII-XVIIの断面図である。本変形例では、中央部Pcにおけるステータコア12は、電磁鋼板12bの替わりに電磁鋼板12h1が複数枚積層されている。また、電磁鋼板12h1が複数枚積層されて部分に隣接して、ステータコア12は、電磁鋼板12aの替わりに電磁鋼板12h2が複数枚積層されている。このように、本変形例では、ステータコア12は、3種類の電磁鋼板12a,12h1,12h2が積層されて構成されている。
【0063】
排出流路42は、第1排出流路42a及び第2排出流路42bを含む。第1排出流路42aは、複数枚の電磁鋼板12h1が積層されることによって形成されている。第1排出流路42aは、径方向に延びており、その内周側において周囲流路20bに接続されている。第2排出流路42bは、複数枚の電磁鋼板12h2が積層されることによって形成されている。第2排出流路42bは、径方向に延びており、その外周側においてステータコア12の外周部12oに開口部を有する。第1排出流路42aの外周側と第2排出流路42bの内周側とは、軸線C方向に連通している。本明細書で「連通」とは、ギャップG以外の部分で流通可能となっているとの意である。排出流路42におけるオイルOが流れる方向は、矢印A8に示すように、排出流路42の長手方向における周囲流路20bに接続された開口部で、周囲流路20bにおいてオイルOが流通する方向(溝側面14pとコイル60との間の隙間の流路を内周側から外周側に向かう方向)と同じであったものが、第1排出流路42aと第2排出流路42bとの接続部分において軸線C方向に折れ曲がって変化した後に再度径方向の内周側から外周側に向かう方向に折れ曲がって変化している。排出流路42は、第1排出流路42aと第2排出流路42bとの接続部分においてオイルOが流れる方向が折れ曲がって変化する屈曲部42kを2箇所有する。
【0064】
本実施例によれば、(a)スロット14aは、複数のスロット14aと、スロット14bと、を含み、(b)スロット14aは、供給流路54からオイルOが噴出される部位において、ステータコア12の周方向におけるスロット14aの両側に設けられた歯部16の先端16tが最内周面60iよりも内周側に延伸し且つ供給流路54から噴出されたオイルOがスロット14a内に配設されたコイル60の周囲を周回する周囲流路20aをそれぞれ有し、(c)スロット14bは、ステータ下側領域であり且つ周方向における最下位点P3から水平点P4までの領域であって供給流路54からオイルOが噴出される部位において供給流路54から噴出されたオイルOがスロット14b内に配設されたコイル60の周囲を流通する周囲流路20bを有し且つ周囲流路20bを流通するオイルOがステータコア12の外部へ排出される排出流路30,32,34,36,38,40,42に接続されている。スロット14aの周囲流路20aをオイルOが周回して流通することによりコイル60の冷却効率が向上させられる。一方、オイルOがステータコア12の外部へ排出される排出流路30,32,34,36,38,40,42にスロット14bの周囲流路20bが接続されることにより、排出流路に接続されていない場合に比較して、オイルOの排出性能が向上する。これらにより、冷却性能が向上するとともにオイルOがギャップGに溜まり過ぎて引き摺り損失LOが過大となることを抑制できる。
【0065】
本実施例の基本例,変形例1,変形例2によれば、排出流路30,32,34は、変形例3~6に係る排出流路36,38,40,42が有する屈曲部36k,38k,40k,42kのような屈曲部を有さない。すなわち、排出流路30,32,34においてオイルOが流れる方向が変化しないか又は変化しても連続的である。排出流路30,32,34においてオイルOが流れる方向が変化しないか又は変化しても連続的である場合には、そうでない場合に比較して、排出流路30,32,34からオイルOが効率良く排出される。これにより、冷却性能が向上するとともにオイルOがギャップGに溜まり過ぎて引き摺り損失LOが過大となることが抑制できる。
【0066】
本実施例によれば、スロット14aは、ステータ下側領域よりもステータ上側領域の方が多く設けられている。スロット14aは、スロット14aの両側に設けられた歯部16の先端16tがコイル60の最内周面60iよりも内周側に延伸している。両側の歯部16が内周側に延伸しているため、周囲流路20aをオイルOが周回して流通することによりコイル60の冷却効率が向上させられる。両側の歯部16が内周側に延伸しているため、ステータ下側領域に設けられたスロット14aは、ステータ上側領域に設けられた場合に比較して、周囲流路20aを流通したオイルOが鉛直線の方向の上側から下側へ流れ落ちにくい。したがって、スロット14aがステータ下側領域よりもステータ上側領域の方が多く設けられることにより、そうでない場合に比較して、コイル60の冷却効率が向上させられるとともにオイルOの排出性能の低下が抑制される。すなわち、冷却性能が向上するとともにオイルOがギャップGに溜まり過ぎて引き摺り損失LOが過大となることを抑制できる。
【0067】
本実施例の基本例,変形例1~変形例5によれば、ステータコア12を構成する電磁鋼板は2種類であり且つスロット14bは1個のみである。スロット14bが1個のみである場合には、ステータコア12は2種類の電磁鋼板により作製することが可能である一方、スロット14が複数個である場合には、ステータコア12の作製には3種類以上の電磁鋼板が必要となる場合がある。したがって、スロット14bが1個のみである場合には、そうでない場合に比較して電磁鋼板の種類を少なくしやすいため、ステータコア12を構成する電磁鋼板が2種類とされることでステータコア12を作製するコストの上昇を抑制することが可能となる。
本実施例では、中央部Pcにおけるステータコア112は、変形例6における電磁鋼板12h1の替わりに電磁鋼板112h1が複数枚積層されている。また、電磁鋼板112h1が複数枚積層されて部分に隣接して、ステータコア112は、変形例6における電磁鋼板12h2の替わりに電磁鋼板112h2が複数枚積層されている。このように、本実施例では、ステータコア112は、3種類の電磁鋼板12a,112h1,112h2が積層されて構成されている。
連通流路70は、スロット14bに接続された排出流路42と、そのスロット14bの周方向の回転方向R1側に隣接するスロット14a及びそのスロット14aの周方向の回転方向R1側にさらに隣接するスロット14aのそれぞれの周囲流路20aと、をそれぞれ連通している。排出流路42は、連通流路70を介してスロット14aの周囲流路20aに連通している。連通流路70は、第1連通流路70a及び第2連通流路70bを含む。第1連通流路70aは、複数枚の電磁鋼板112h1が積層されることによって形成されている。第1連通流路70aは、ステータコア112のヨーク18内を径方向に延びており、その内周側は周囲流路20aにそれぞれ接続されている。第2連通流路70bは、複数枚の電磁鋼板112h2が積層されることによって形成されている。第2連通流路70bは、ステータコア112のヨーク18内を周方向に延びており、その一端側は排出流路42に接続されており、その他端側は第1連通流路70aの外周側に接続されている。第1連通流路70aの外周側と第2連通流路70bの他端側とは、軸線C方向に連通している。連通流路70により周囲流路20aが排出流路42に連通されたスロット14aでは、周囲流路20aを周回するオイルOの全部又は一部は、矢印A9,A8に示すように、連通流路70及び排出流路42を経由してステータコア12の外部へ排出される。
本実施例によれば、排出流路42は、スロット14bに隣接する2つのスロット14aが有する周囲流路20aと、連通流路70により連通している。連通流路70により周囲流路20aが排出流路42に連通しているスロット14aにおいて、そのスロット14aにおける周囲流路20aを流通するオイルOが連通流路70を経由してステータコア12の外部へ排出されやすくなる。これにより、連通流路70が設けられない場合に比較して、オイルOがギャップGに溜まり過ぎて引き摺り損失LOが過大となることが抑制される。