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特開2023-98768金属体の形成方法および金属体、ならびにその金属体を備える嵌合型接続端子
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  • 特開-金属体の形成方法および金属体、ならびにその金属体を備える嵌合型接続端子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098768
(43)【公開日】2023-07-11
(54)【発明の名称】金属体の形成方法および金属体、ならびにその金属体を備える嵌合型接続端子
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/18 20060101AFI20230704BHJP
   C25D 5/12 20060101ALI20230704BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20230704BHJP
   C25D 21/12 20060101ALI20230704BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
C25D5/18
C25D5/12
C25D7/00 H
C25D21/12 A
H01R13/03 D
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021215430
(22)【出願日】2021-12-29
(71)【出願人】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180426
【弁理士】
【氏名又は名称】剱物 英貴
(72)【発明者】
【氏名】岩本 博之
(72)【発明者】
【氏名】宗形 修
(72)【発明者】
【氏名】中村 勝司
(72)【発明者】
【氏名】近藤 茂喜
(72)【発明者】
【氏名】▲土▼屋 政人
【テーマコード(参考)】
4K024
【Fターム(参考)】
4K024AA03
4K024AA07
4K024AB02
4K024BA09
4K024BB10
4K024CA01
4K024CA04
4K024CA06
4K024CA07
4K024CA08
4K024GA16
(57)【要約】
【課題】外部応力に起因するウィスカの成長が抑制されるとともに、ウィスカの成長が抑制されるめっき層を容易に製造することができる金属体の形成方法等を提供する。
【解決手段】金属体の形成方法は、金属基材に、Niめっき層およびSnめっき層がこの順で積層されてなる金属体の形成方法である。金属基材に、正電流および逆電流の電流密度が各々1~50A/dmである。総通電時間に対する正電流の通電時間の比であるDuty比が0.6超え1未満である。正電流の電流密度と逆電流の電流密度とが下記(1)式を満たす。これらの条件を満たすPRめっき処理によりNiめっき層を積層する。そして、Niめっき層にSnめっき層を積層する。
0.30≦Ion/Irev<1.0 (1)
上記(1)式中、Ionは正電流の電流密度であり、Irevは逆電流の電流密度である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材に、Niめっき層およびSnめっき層がこの順で積層されてなる金属体の形成方法であって、
前記金属基材に、正電流および逆電流の電流密度が各々1.0~50A/dmであり、総通電時間に対する前記正電流の通電時間の比であるDuty比が0.6超え1未満であり、前記正電流の電流密度と前記逆電流の電流密度とが下記(1)式を満たす条件でPRめっき処理を行うことにより、Niめっき層を積層するNiめっき層積層工程と、
前記Niめっき層にSnめっき層を積層するSnめっき層積層工程と
を備えることを特徴とする金属体の形成方法。
0.30≦Ion/Irev<1.0 (1)
上記(1)式中、Ionは前記正電流の電流密度であり、Irevは前記逆電流の電流密度である。
【請求項2】
前記正電流の電流密度は1.0~15A/dmであり、前記逆電流の電流密度は1.0~30A/dmである、請求項1に記載の金属体の形成方法。
【請求項3】
前記Snめっき層積層工程は、直流めっき法、交流めっき法、パルスめっき法、およびPRめっき法の少なくとも1種によりSnめっき層を積層する、請求項1または2に記載の金属体の形成方法。
【請求項4】
前記金属基材はCuを主成分とする金属からなる、請求項1~3のいずれか1項に記載の金属体の形成方法。
【請求項5】
金属基材に、Niめっき層およびSnめっき層がこの順で積層されてなる金属体であって、
前記Niめっき層は、前記Niめっき層のX線回折スペクトルにおいて、(111)面の半値幅が0.21超え1.0以下であることを特徴とする金属体。
【請求項6】
前記Snめっき層は、前記Snめっき層のX線回折スペクトルにおいて、ピーク強度が最大ピーク強度の1/5以上であるピークの数が3本以上である、請求項5に記載の金属体。
【請求項7】
前記金属基材はCuを主成分とする金属からなる、請求項5または6に記載の金属体。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか1項に記載の金属体を備える嵌合型接続端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気めっきで形成した金属体の形成方法および金属体、ならびにその金属体を備える嵌合型接続端子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の小型化が進む中、コネクタのような嵌合型接続端子はピッチ間隔が狭くなるにつれて電極面積が小さくなる傾向にある。例えば、FPC(Flexible Printed Circuit)やFFC(Flexible Flat Cable)に用いられるコネクタは、電極面積が小さくなるにつれて、コンタクトとの接点部に加わる圧力は相対的に大きくなる。
【0003】
従来からコネクタなどに用いられる電極には、酸化抑制の観点から、Snを主成分とするSnめっき層が形成されている。また、電極からのCu元素の拡散を抑制するため、通常、電極にはNiめっき層が形成されている。
【0004】
Niめっきの形成方法は、従来から種々の検討がなされている。例えば特許文献1には、一般の触媒として使用されるNi-Al合金やNi-Zn合金などのラネー合金を、PRめっき法を用いて電極に形成する技術が開示されている。同文献に記載の発明は、カソード電流により貴な金属と卑な金属との合金被膜を形成し、アノード電流により合金被膜中の卑な金属を選択的に溶解除去する操作を繰り返し、多層構造を持つ合金被膜を形成するPRめっき法を採用している。また、同文献には、アノード溶解電位曲線において、卑な金属の溶解電位が変化するまで、アノード電流により卑な金属を溶解することが記載されている。
【0005】
特許文献2には、Snめっき層中での金属間化合物の成長を抑制するため、Cu又はCu合金からなる基材の表面に、Ni層およびCu-Sn層を有する中間層、およびSnめっき層がこの順で形成された導電材が開示されている。同文献に記載の導電材は、基材の加工変質層がないためにNi層が基材上にエピタキシャル成長するため、Ni層の平均結晶粒径が1以上になることが開示されている。また、同文献の段落0008には、CuがNi層の粒界を拡散経路として拡散するため、Niの結晶粒径を大きくすることにより拡散経路が減少し、Ni層をバリア層として機能させることが記載されている。さらに同文献に記載されているめっき処理の条件を鑑みると、基材に積層された各層は直流めっき法を用いて形成されていると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63-179094号公報
【特許文献2】特開2014-122403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、カソード電流の電流密度とアノード電流の電流密度の範囲が共に0.5~50A/dmであることが記載されている。しかしながら、特許文献1の実施例では、カソード電流の電流密度:アノード電流の電流密度=10:6.5、10:5、および5:3.6の実施例のみ開示されている。これは、アノード電流の電流密度がカソード電流の電流密度より大きいと、卑な金属がすべて溶解してしまい、Ni合金被膜ではなくNi被膜になるためであると考えられる。したがって、特許文献1では、多層のNi合金被膜が形成されるように、カソード電流の電流密度がアノード電流の電流密度より大きくなるような条件にしなければならない。
【0008】
ここで、特許文献1に記載の発明は、主として触媒として機能するNi合金被膜を形成する方法の発明であるため、コネクタなどに用いた場合の問題点は開示されていない。Niめっき層にSnめっき層を形成したコネクタでは、オスコネクタがメスコネクタに嵌合すると、Snめっき層にはコンタクト部分と接触することにより圧力が加わり、Snめっき層において応力が集中する箇所からウィスカが発生することがある。Snめっき層に発生するウィスカはSnの針状結晶であり、ピッチ間隔が狭いFPC/FFC用コネクタにおいては短絡が発生する原因となる。
【0009】
この問題点に関して、特許文献1に記載の発明は、前述のように、主として触媒として使用するNi合金めっき層を形成するための技術であり、Niめっき層上にSnめっき層が形成された金属体に関しては一切考慮されていない。そして、コネクタなどに用いた場合に発生しうるウィスカに関しても、当然のことながら、一切検討されていない。
【0010】
また、ウィスカは、前述のように外部からの圧力により発生するウィスカの他にも種々の原因が挙げられる。例えば、Snめっき層の形成時に金属間化合物が成長することにより体積が膨張し、Snめっき層の内部に発生する圧縮応力によりウィスカが発生することがある。
【0011】
この点に関して、特許文献2に記載の発明では、Ni層の結晶粒径を大きくして基材からのCuの拡散を抑制する効果を向上させている。しかし、Ni層の結晶粒径が大きくなったとしても結晶粒界は残存するため、Cuの拡散経路が失われることはない。特許文献2に記載の発明は、ウィスカを抑制するための技術ではないため、Cuの拡散を抑制するためには更なる検討が必要である。また、特許文献2に記載の導電材を製造するためには、前述のようにNiめっき層とSnめっき層との間にCuめっき層を積層し、更にはリフロー処理も行う必要があるため、製造工程が煩雑になる。製造工程の簡略化による低コスト化は常に追求されなければならない。
【0012】
本発明の課題は、外部応力に起因するウィスカの成長が抑制されるとともに、ウィスカの成長が抑制されるめっき層を容易に製造することができる金属体の形成方法および金属体、ならびにその金属体を備える嵌合型接続端子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、コネクタなどの外部圧力が加わる状況下においてSnめっき層に加わる外部圧力を回避することが困難であることに鑑み、特許文献2に記載の導電材においてウィスカが発生する原因を検討した。この原因として、特許文献2に記載の発明では、Cuの拡散を抑制することを目的としているにも関わらずCuめっき層を形成しなければならないことが挙げられる。また、Snめっき層およびNiめっき層が直流めっき法で形成されていることが挙げられる。ただ、形成時間を短縮するためには、直流めっき法を用いてSnめっき層を形成することが望ましい。
【0014】
本発明者らは、特許文献2に記載の導電材において、Cuめっき層を形成せず、かつ直流めっき法にてSnめっき層が形成された場合に、ウィスカが発生する原因を調査した。このSnめっき層のX線回折スペクトルを確認したところ、Snめっき層のピーク数は少ない知見が得られた。また、本発明者らは、従来から用いられている直流めっき法を用いてSnめっき層の形成方法を用いれば、従来技術をそのまま用いることができるため、容易にめっき膜を形成することができることに着目した。
【0015】
そこで、本発明者らは、Snめっき層を従来と同様の方法で形成しても、ウィスカの成長を抑制することができるように、Snめっき層の下層であるNiめっき層に着目して検討を行った。すなわち、本発明者らは、Snめっき層の組織がその下層であるNiめっき層の組織に依存することに着目し、特許文献1に記載の条件を用いNiめっき層をPRめっき法により形成する技術を適用して検討を行った。また、直流めっき法、パルスめっき法、交流めっき法によりNi層めっきを形成する検討も行った。その結果、Niめっき層の形成方法が、直流めっき法、パルスめっき法、交流めっき法、およびPRめっき法のいずれであっても、ウィスカの成長を抑制することができない知見が得られた。ただ、これらのめっき法の中で、PRめっき法でNiめっき層を形成し、その上にSnめっき層を形成した場合には、ウィスカの成長をある程度低減することができる知見が得られた。
【0016】
これらの知見に基づいて、本発明者らは、PRめっき法を用いたNiめっき層ではウィスカの成長が若干抑制された要因を、XRDにより詳細に検討した。その結果、PRめっき法を用いたNiめっき層上に形成されたSnめっき層のX線スペクトルによれば、ピーク強度の本数が増加する知見が得られた。従来では、めっき層形成の観点から、PRめっき法を用いた場合に正電流の電流密度が逆電流の電流密度より大きい条件にしなければならなかったが、本発明者らは、敢えて、PRめっき法において、逆電流の電流密度が正電流の電流密度より大きい場合、Niめっき層中の結晶組織が多面的に形成される知見が得られた。詳細には、Niの主たる面である(111)面の半値幅が所定の範囲である場合に、Snめっき層で発生するウィスカの成長を抑制することができる知見が得られた。これにともない、Snめっき層には、種々の結晶方位を有する結晶が多数析出し、ウィスカの成長を抑制することができる知見が得られた。
【0017】
また、Niめっき層の組織によらず、Snめっき層がPRめっき法を用いて形成された場合には、ウィスカの成長をある程度抑制することはできる。ただ、SnとNiはめっき液の組成が異なるとともにpHも大きく異なっているため、PRめっき法を用いた場合であっても各々の条件は大きく異なる。また、Niめっき層はSnめっき層の下層であり、外部応力が直接Niめっき層に加わることはない。このため、Snめっき層を形成するためのPRめっき法の条件を、そのままNiめっき層を形成するためのPRめっき法の条件として適用することはできない。
【0018】
さらに、特許文献2に記載の発明では、CuがNi層の粒界を拡散経路として拡散することが抑制されるようにするため、Niの結晶粒径を大きくすることが記載されている。しかしながら、本願発明では、従来とは異なり、従来のNiめっき層の形成では避けられていた条件でPRめっき法を採用しているため、前述のようにNiの(111)面の半値幅が広がる知見が得られた。この知見により、本発明者らは、Niが微細に析出しており、本願発明で形成されたNiめっき層が従来のNiめっき層と比較して相反する組織を有する知見も得られた。
これらの知見により完成された本発明は次の通りである。
【0019】
(1)金属基材に、Niめっき層およびSnめっき層がこの順で積層されてなる金属体の形成方法であって、金属基材に、正電流および逆電流の電流密度が各々1~50A/dmであり、総通電時間に対する正電流の通電時間の比であるDuty比が0.6超え1未満であり、正電流の電流密度と逆電流の電流密度とが下記(1)式を満たす条件でPRめっき処理を行うことにより、Niめっき層を積層するNiめっき層積層工程と、Niめっき層にSnめっき層を積層するSnめっき層積層工程とを備えることを特徴とする金属体の形成方法。
0.30≦Ion/Irev<1.0 (1)
上記(1)式中、Ionは正電流の電流密度であり、Irevは逆電流の電流密度である。
【0020】
(2)正電流の電流密度は1~15A/dmであり、逆電流の電流密度は1~30A/dmである、上記(1)に記載の金属体の形成方法。
【0021】
(3)Snめっき層積層工程は、直流めっき法、交流めっき法、パルスめっき法、およびPRめっき法の少なくとも1種によりSnめっき層を積層する、上記(1)または上記(2)に記載の金属体の形成方法。
【0022】
(4)金属基材はCuを主成分とする金属からなる、上記(1)~上記(3)のいずれか1項に記載の金属体の形成方法。
【0023】
(5)金属基材に、Niめっき層およびSnめっき層がこの順で積層されてなる金属体であって、Niめっき層は、Niめっき層のX線回折スペクトルにおいて、(111)面の半値幅が0.21超え1.0以下であることを特徴とする金属体。
【0024】
(6)Snめっき層は、Snめっき層のX線回折スペクトルにおいて、ピーク強度が最大ピーク強度の1/5以上であるピークの数が3本以上である、上記(5)に記載の金属体。
【0025】
(7)金属基材はCuを主成分とする金属からなる、上記(5)または上記(6)に記載の金属体。
【0026】
(8)上記(5)~上記(7)のいずれか1項に記載の金属体を備える嵌合型接続端子。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、Niめっき層のX線回折スペクトルであり、図1(a)は実施例1であり、図1(b)は実施例2であり、図1(c)は実施例9である。
図2図2は、Niめっき層のX線回折スペクトルであり、図2(a)は比較例1であり、図2(b)は比較例7である。
図3図3は、Niめっき層上に形成されたSnめっき層のX線回折スペクトルであり、図3(a)は実施例1であり、図3(b)は実施例2であり、図3(c)は実施例9である。
図4図4は、Niめっき層上に形成されたSnめっき層のX線回折スペクトルであり、図4(a)は比較例1であり、図4(b)は比較例7である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明を以下に詳述するが、以下の形態に限定されることはない。
1.金属体の形成方法
(1)バリア層積層工程
本発明に係る金属体の形成方法では、まず、金属基材上にバリア層であるNiめっき層を形成する。
【0029】
金属基材の材質は特に限定されないが、Cuを主成分とする金属からなることが好ましい。Cuを主成分とする金属基材は、Cu含有量が金属基材の50質量%以上であることを表し、100質量%であることが好ましい。Cu合金および純Cuが含まれる。残部に不可避的不純物が含まれていてもよい。本発明で用いる金属基材としては、例えばFFCやFPCの端末接続部(接合領域)を構成する金属基材、電極を構成する金属基材が挙げられる。金属基材の厚みは特に限定されないが、金属体の強度確保及び薄型化の観点から、0.05~0.5mmであればよい。
【0030】
Niめっき層は、Ni含有量が100質量%である純Niを含む層である。残部に不可避的不純物が含まれていてもよい。ただ、Ni合金は含まれない。バリア層がNi合金で形成されると、添加元素が存在する事でPRめっきを行った際に現れる結晶粒の微細化の効果が不十分となる。それに伴って、その後に形成されるSnめっき層の微細化が不十分となってしまうためウィスカが成長してしまう事がある。Niめっき層の膜厚や結晶粒径は特に限定されないが、膜厚は0.1~5μm、結晶粒径は3~5μmであればよい。
【0031】
Niめっき層の形成手段は、PRめっき法を採用する必要がある。これは、Niめっき層が正電流により積層された後に逆電流により溶解されると、Niめっき層の形成時に発生する核の成長が抑制されるため、Niめっき層が微細になり、結晶面が多数生成されるためである。この組織がSnめっき層にも引き継がれ、ウィスカの成長が抑制される。
【0032】
PRめっき処理の条件は、正電流および逆電流の電流密度が各々1~50A/dmであり、Duty比が0.6超1未満である。正電流の電流密度が1A/dm未満であるとNiめっき層の形成時間がかかり生産性に影響を及ぼし、電流密度が50A/dmを超えると表面に焦げが発生してしまう。好ましくは1~15A/dm以下であり、より好ましくは2~15A/dmであり、特に好ましくは3~10A/dmである。
【0033】
逆電流の電流密度が1A/dm未満であると、結晶面が多数存在することによりウィスカの成長が抑制されるという逆電流を通電する効果が発揮されず、電流密度が50A/dmを超えると形成時間がかかり生産性に影響を及ぼす。好ましくは1~30A/dm以下であり、より好ましくは5.3~30A/dmであり、さらに好ましくは5.5~20A/dmであり、特に好ましくは5.5~15A/dmである。
【0034】
また、Duty比が上述の範囲内の場合、正電流の電流密度と逆電流の電流密度との比は、下記(1)式を満たす。
0.30≦Ion/Irev<1.0 (1)
上記(1)式中、Ionは正電流の電流密度であり、Irevは逆電流の電流密度である。
【0035】
(1)式が0.30未満である場合、正電流によるめっきの成膜量より逆電流による溶解量が過度に大きくなってしまうため、Niめっき層を形成することができない。また、(1)式が1.0以上である場合、逆電流の効果が不十分であるため、Snめっき層で発生するウィスカの成長を抑制することができない。(1)式を満たせば、逆電流時におけるめっき層の溶出時間が長くならず、PRめっき法を採用したとしてNiめっき層の形成時間を短縮することができる。好ましくは、0.33~0.97であり、より好ましくは0.50~0.95であり、更に好ましくは0.50~0.91である。
【0036】
Duty比が0.6以下であるとそもそもNiめっき層を成膜することができず、Duty比が1であると直流電流になってしまい、ウィスカが成長してしまう。好ましくは0.65~0.99であり、より好ましくは0.70~0.90であり、さらに好ましくは0.70~0.80である。通電時間は、必要な膜厚になるように適宜調整される。なお、Duty比は、PRめっき法の総通電時間に対する正電流の通電時間の比を表す。
【0037】
通電時間は必要な膜厚になるように適宜調整される。0.5~5.0μm程度の膜厚のPRめっき層を形成する場合には、総通電時間は、30~500秒であればよく、100~400秒であってもよく、200~300秒であってもよい。正電流の通電時間は、100~400秒であればよく、195~300秒であってもよく、210~270秒であってもよく、210~240秒であってもよい。逆電流の通電時間は、1~150秒程度であればよく、10~120であってもよく、20~105秒であってもよく、30~90秒であってもよく、30~60秒であってもよい。正電流の通電時間とDuty比から求めてもよい。周波数も特に限定されないが、0.004Hz~3kHzであることが好ましく、0.01~100Hzがより好ましく、0.05~9Hzが特に好ましい。
【0038】
この他は、従来から使用されている電気めっき装置を用いて公知のPRめっき法により行うことができる。形成温度は特に限定されないが、室温であればよい。めっき液も特に限定されず、従来から使用しているものを用いればよい。
【0039】
本発明に係る金属体の形成方法で用いるNiめっき液は特に限定されず、市販の金属めっき液を用いればよい。例えば、金属めっき液として、ワット浴のNiめっき液が使用される。Niめっきがワット浴を用いて形成される場合、Niめっき液の組成は、例えば、NiSO・6HO:100~400g/L、NiCl・6HO:10~50g/L、HBO:10~50g/Lが好ましい。Niめっきがスルファミン酸浴で形成される場合、Niめっき液の組成は、Ni(SONH・4HO:100~400g/L、NiCl・6HO:10~30g/L、HBO:10~50g/Lが好ましい。
【0040】
(2)Snめっき層積層工程
次に、Niめっき層にSnめっき層を積層する。本発明では、Snめっき層の形成方法は特に限定されず、Snめっき層積層工程は、直流めっき法、交流めっき法、パルスめっき法、およびPRめっき法の少なくとも1種を用いればよい。
【0041】
これらのめっき条件は特に限定されず、従来から行われている条件を採用すればよい。例えば、これらの方法でSnめっき層を積層する場合、正電流の電流密度は1~50A/dmであればよく、5~15A/dmであってもよい。PRめっき法を用いた場合における逆電流の電流密度は、Snめっき層が形成される条件であれば特に限定されない。正電流の電流密度と同程度、もしくは正電流の電流密度より低い電流密度であってもよい。形成時間、Duty比は、所定の膜厚になるように適宜調整すればよい。
【0042】
Snめっき層が2種類の方法で成膜されたとしても2層を判別することはできない。このため、各方法での膜厚は、以下のように求める。まずは、各方法にて一定時間のめっき処理を行う。作製したSnめっき層をFIBにて断面加工を行い各々の膜厚を断面SEM写真から測定することにより、各々の方法での成膜速度を算出する。そして、算出された各々の成膜速度から所望の膜厚になるめっき処理時間を算出し、算出しためっき処理時間だけめっき処理を行い、各々の方法で形成された層の膜厚とする。
【0043】
本発明に係る金属体の形成方法により形成されるSnめっき層は、金属基材の酸化を抑制する効果を有する。Sn含有量は100質量%である。Sn合金および純Snが含まれる。残部に不可避的不純物が含まれていてもよい。
【0044】
本発明に係る金属体の形成方法で用いるSnめっき液は特に限定されず、市販のSnめっき液を用いればよい。例えばメタンスルホン酸浴や硫酸浴が使用される。
【0045】
このように、本発明に係る金属体の形成方法では、種々のめっき方法の中から、敢えて、従来では適用を避けられており、ウィスカの成長を促進することが知られている直流めっき法を選択し、PRめっき法の後に直流めっき法にてSnめっき層を形成した。この結果、ウィスカの成長が抑制された金属めっき層を短時間で積層することができるのである。
【0046】
2.金属体
本発明に係る金属体は、金属基材に、Niめっき層およびSnめっき層がこの順で積層されている。各層について詳述する。
(1)金属基材
本発明に係る金属体を構成する金属基材の材質は、前述のように特に限定されないが、Cuを主成分とする金属からなることが好ましい。Cuを主成分とする金属基材は、Cu含有量が金属基材の50質量%以上であることを表し、100質量%であることが好ましい。Cu合金および純Cuが含まれる。残部に不可避的不純物が含まれていてもよい。本発明で用いる金属基材としては、例えばFFCやFPCの端末接続部(接合領域)を構成する金属基材、電極を構成する金属基材が挙げられる。金属基材の厚みは特に限定されないが、金属体の強度確保及び薄型化の観点から、0.05~0.5mmであればよい。
【0047】
(2)バリア層
本発明に係る金属体を構成するバリア層の材質は、前述のように、金属基材を構成する元素の拡散を抑制する観点から、Niである。金属基材がCuを主成分とする場合には、特にCuの拡散を抑制することができる。Ni含有量は100質量%であることが望ましい。Ni合金は含まれない。残部に不可避的不純物が含まれていてもよい。バリア層の膜厚や結晶粒径は特に限定されないが、膜厚は0.1~5μm、結晶粒径は0.1~5.0μmであればよい。
【0048】
本発明におけるNiめっき層は、Niめっき層のX線回折スペクトルにおいて、(111)面の半値幅が0.21超え1.0以下である必要がある。X線回折スペクトルにおいて、Scherrerの式によると、ピークの半値幅が大きいと結晶粒が細かい傾向にあることが知られている。そのため、PRめっき法を用いてNiめっき層を形成することで結晶粒の微細化が図れるものと思われる。従来は、Niめっき層の結晶粒を大きくすることにより金属基材を構成するCuの拡散を抑制していたが、本発明におけるNiめっき層は、PRめっき法を用いて形成されるため、従来とは逆に、微細な組織である。半値幅の上限は、0.22以上が好ましく、0.25以上がより好ましく、0.37以上が更に好ましい。また、半値幅の上限は特に限定されないが、0.9以下が好ましく、0.65以下がより好ましく、0.41以下が更に好ましい。
【0049】
(3)Snめっき層
本発明に係る金属体を構成するSnめっき層は、前述のように、金属基材の酸化を抑制する効果を有する。Snめっき層とは、Sn含有量が100質量%であることが望ましい。Sn合金および純Snが含まれる。残部に不可避的不純物が含まれていてもよい。Snめっき層の膜厚は、製造コストや製造時間を考慮して1~10μmとすることが好ましく、3~6μmが更に好ましい。
【0050】
本発明におけるSnめっき層は、Snめっき層のX線回折スペクトルにおいて、ピーク強度が最大ピーク強度の1/5以上であるピークの数が3本以上であることが好ましい。Niめっき層がPRめっき法により形成されると、Niめっき層の組織が微細化し、それにともない種々の結晶方位を示す結晶面が析出するために多面化な組織になる。その上に形成されるSnめっき層は、Niめっき層の組織をある程度引き継ぐため、ピーク数が増加する。さらに、本発明では、PRめっき法を従来とは異なる条件で行うことにより、ピーク強度がある程度以上のピーク本数が多くなり、Snめっき層の全体に大きく寄与する結晶方位の多面化が実現されるため、ウィスカの成長を抑制することができる。
【0051】
本発明におけるSnめっき層において、最大ピーク強度の1/5以上のピーク強度を示すピークの本数の下限は、好ましくは3本以上であり、より好ましくは4本以上であり、更に好ましくは5本以上である。このピーク本数の上限は特に限定されないが、好ましくは10本以下であり、より好ましくは9本以下であり、更に好ましくは8本以下である。
【0052】
このように、本発明に係る金属体は、本発明に係る金属体の形成方法のように、PRめっき法を採用してNiめっき層を形成した後にSnめっき層を積層して金属体が形成される。Niめっき層がPRめっき法にて形成されると、前述のようにNiめっき層の組織が微細になり、Snめっき層には多数の面方位を有する結晶が析出し、好ましくは所定の大きさのピーク強度を有するピーク数が増加する。このため、Snめっき層のウィスカの成長が抑制されると推察される。
【0053】
ここで、例えば本発明では、ウィスカ長の評価を球圧子法にて測定することができる。この測定では球圧子を面の板厚方向に押圧するが、球圧子による外部応力は、板厚方向に限定されず、Snめっき層の面方向にも圧縮応力として伝播すると考えられる。すなわち、外部からの圧縮応力は種々の方向からSnめっき層内に伝播すると考えられる。
【0054】
本発明では正電流と逆電流が交互に通電するPRめっき法を採用しているが、PRめっき法の代わりにパルスめっき法や交流めっき法を採用したとしても、ウィスカの成長を抑制することはできない。いずれも正電流のみが通電するため、Niめっき層の微細化に伴うSnめっき層の多面化に寄与しないためであると推察される。
【0055】
なお、本発明に係る形成方法で形成されたSnめっき層は、複数の形成方法を用いて積層されてもよいが、断面をSEMで観察しても各処理方法での境界を認識することができない。また、各処理方法で形成した層は薄いため、X線による識別も困難である。したがって、仮に、2通りの方法でSnめっき層を形成したとしても、本発明に係る金属めっき層は1層を構成することになる。
【0056】
3.嵌合型接続端子
本発明に係る金属体の形成方法により形成された金属体は、ウィスカの成長を十分に抑制することができるため、機械的接合により導通する電気的接点として、嵌合型接続端子に好適に用いることができる。具体的には、コネクタのコネクタピン(金属端子)や、コネクタと嵌合するFFCやFCPの端末接続部(接合領域)やプレスフィットピンに本発明に係る金属体を用いるのが好ましい。
【実施例0057】
以下、本発明に係る具体例を説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。
(1)評価試料の作製
本発明の効果を立証するため、Cu板(サイズ:30mm×30mm×0.3mm)と、陽極として使用するNi板とを、Niめっき液が入れられたビーカー内に浸漬し、50℃の浴温にて表1に示した条件で電流を流しNiめっき層(Niめっき厚:3~4μm)を形成した後、Niめっきを施したCu板と陽極として使用するSn板とを、金属めっき液が入れられたビーカー内に浸漬し、室温にて表1に示した条件で電流を流すことによって、Niめっき層上に金属めっき層を形成し、表1に示す膜厚を有する金属めっき層を形成した。
【0058】
表1中、「正電流の電流密度」とは、PRめっき法における正電流の電流密度、もしくは、直流めっき法、パルスめっき法、交流めっき法での電流密度を表す。「逆電流の電流密度」とは、PRめっき法における逆電流の電流密度を表す。「正電流の通電時間」および「逆電流の通電時間」とは、各々PRめっき法の通電時間とDuty比から得られた通電時間である。Duty比は総通電時間に対する正電流の通電時間の比である。
【0059】
各めっき法にて採用したSnめっき液は以下のものを用いた。
上村工業株式会社製:型番 GTC
【0060】
実施例14以外の実施例および比較例のNiめっき層は、ワット浴を用いて形成された。Niめっき液の組成は、NiSO・6HO:300g/L、NiCl・6HO:30g/L、HBO:30g/Lとした。実施例14のNiめっきは、スルファミン酸浴を用いて形成された。Niめっき液の組成は、Ni(SONH・4HO:300g/L、NiCl・6HO:15g/L、HBO:30g/Lの組成で行った。
【0061】
(2)バリア層および金属めっき層の膜厚
上述のように作製された評価試料の金属めっき層をFIBで断面加工を行い、その断面について、SEMのモニター上で30000倍に拡大し、任意の10か所について、各層の膜厚の平均値を算出した。
【0062】
(3)ウィスカ長
ウィスカ長は、金属めっき層を形成したNiめっきCu板について、JEITA RC-5241で規定される「電子機器用コネクタのウィスカ試験方法」に準拠した球圧子法により測定された。なお、この測定では、同じ条件で作製したサンプルを3枚用意し、それぞれのサンプルの最大ウィスカ長さを測定し、その平均をウィスカ長として算出した。
試験に使用した試験装置・条件については以下に示す通りである。
【0063】
(試験装置)
JEITA RC-5241の「4.4 荷重試験機」に定められた仕様を満足する荷重試験機(ジルコニア球圧子の直径:1mm)
(試験条件)
・荷重:300g
・試験期間:10日間(240時間)
(測定装置・条件)
・FE-SEM:Quanta FEG250(FEI製)
・加速電圧:10kV
【0064】
測定の結果、ウィスカ長さが20μm未満であるものをウィスカの成長が抑制されているものとして、実用上問題ない程度であると評価した。ウィスカ長さが20μm以上であるものをウィスカの成長が抑制できていないものとして評価した。
以下に評価結果を示す。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
実施例1~14は、PRめっき法を用いて所定の条件でのNiめっき層を形成したため、ウィスカ長がいずれも20μm未満であった。また、実施例11~13で立証されているように、Snめっき層の形成方法が直流めっき法、パルスめっき法、交流めっき法であっても、ウィスカの成長を抑制することができた。
【0068】
一方、比較例1~3は、PRめっき法ではないめっき法にてNiめっき層を形成したため、ウィスカ長を低減することができなかった。
比較例4は、Duty比が0.6であるため、Niめっき層を形成することができなかった。比較例5は、正電流密度/逆電流密度が0.30未満であるため、Niめっき層を形成することができなかった。
比較例6および7は、正電流密度/逆電流密度が1.00以上であるため、ウィスカの成長を抑制することができなかった。
【0069】
比較例8は、逆電流の電流密度が大きすぎるため、ウィスカの成長を抑制することができなかった。
比較例9は、正電流の電流密度が小さすぎるため、ウィスカの成長を抑制することができなかった。
【0070】
これらの中で、実施例、および比較例について、Niめっき層およびSnめっき層のXRD回折実験を行い、各々のX線回折スペクトルを測定した。測定条件は以下の通りである。
【0071】
・分析装置:MiniFlex600(Rigaku製)
・X線管球:Co(40kV/15mA)
・スキャン範囲:3°~140°
・スキャンスピード:10°/min
【0072】
図1は、Niめっき層のX線回折スペクトルであり、図1(a)は実施例1であり、図1(b)は実施例2であり、図1(c)は実施例9である。図2は、Niめっき層のX線回折スペクトルであり、図2(a)は比較例1であり、図2(b)は比較例7である。
【0073】
図1および図2から明らかなように、実施例1、実施例2および実施例9は、Niめっき層の半値幅が0.21超え1.0以下であり、比較例1、および比較例7より大きいことがわかった。この他の実施例および比較例も同様の結果となった。また、Scherrerの式より、PR電源でNiめっきを行う事で結晶粒の微細化を確認することができた。
【0074】
図3は、Niめっき層上に形成されたSnめっき層のX線回折スペクトルであり、図3(a)は実施例1であり、図3(b)は実施例2であり、図3(c)は実施例9である。図4は、Niめっき層上に形成されたSnめっき層のX線回折スペクトルであり、図4(a)は比較例1であり、図4(b)は比較例7である。
【0075】
図3および図4から明らかなように、実施例1、実施例2、および実施例9は、ピーク強度が最大ピーク強度の1/5以上であるピークの数が3本以上であった。このため、実施例は、組織が多面的になっているため、Snめっき層内での応力の伝搬が抑制されており、ウィスカの成長を抑制することがわかった。一方、いずれの比較例も、実施例と比較して、ピーク強度が最大ピーク強度の1/5以上であるピークの数が2本以下であり、応力の伝搬に寄与する面方位を示す結晶の析出が少なく、多面的ではないことがわかった。これは、Niめっき層の組織に依存することも明らかになり、Snめっき層が多面的であることにより微細な組織が形成されていることもわかった。この他の実施例および比較例も同様の結果となった。
図1
図2
図3
図4