(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098818
(43)【公開日】2023-07-11
(54)【発明の名称】計時器用バレル
(51)【国際特許分類】
G04B 1/18 20060101AFI20230704BHJP
【FI】
G04B1/18
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022161481
(22)【出願日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】21218134.1
(32)【優先日】2021-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス-ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ジェラール・ヴォルプ
(72)【発明者】
【氏名】ローラン・ジャンヌレ
(72)【発明者】
【氏名】ピエール・キュザン
(57)【要約】
【課題】 自動ワインド式計時器用のバレルにおける摩耗の問題を改善する。
【解決手段】 本発明は、軸A-Aを有するドラム(11)を備える自動ワインド式計時器用のバレル(1)に関し、ドラム(11)は、内側側壁(12)と、及び外側巻き(21)を含むワインディングを形成するメインばね(2)とを備え、外側巻き(21)の端部(22)は、内側側壁(12)と摩擦結合し、メインばね(2)の過張力時に内側側壁(12)に対して自由に滑ることができる。本発明によると、外側巻き(21)の端部(22)には、外側巻き(21)の上部と下部に配置された2つの摩擦面(24、25)がある外面(23)があり、摩擦面(24、25)は、中間部分(26)である摩擦面(24、25)の間の部分が内側側壁(12)と接触しないように内側側壁(12)と接触するように構成しており、中間部分(26)は、2つの摩擦面(24、25)の間にて潤滑剤のための槽(27)を形成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸A-Aを有するドラム(11)を備える自動ワインド式計時器用のバレル(1)であって、
前記ドラム(11)は、内側側壁(12)と、及び外側巻き(21)を含むワインディングを形成するメインばね(2)とを備え、
前記外側巻き(21)の端部(22)は、前記内側側壁(12)と摩擦結合し、前記メインばね(2)の過張力時に前記内側側壁(12)に対して自由に滑ることができ、
前記外側巻き(21)の前記端部(22)には、前記外側巻き(21)の上部と下部に配置された2つの摩擦面(24、25)がある外面(23)があり、
前記摩擦面(24、25)は、中間部分(26)である前記摩擦面(24、25)の間の部分が前記内側側壁(12)と接触しないように前記内側側壁(12)と接触するように構成しており、
前記中間部分(26)は、前記2つの摩擦面(24、25)の間にて潤滑剤のための槽(27)を形成する、バレル(1)。
【請求項2】
前記摩擦面(24、25)は、前記外側巻き(21)の前記上部及び前記下部において局所的な厚い部分の形態である、
請求項1に記載のバレル(1)。
【請求項3】
前記摩擦面(24、25)は、前記外側巻き(21)の中間部分において、前記外側巻きの厚みの一部分又は厚み全体における材料をなくすことによって形成される、
請求項1に記載のバレル(1)。
【請求項4】
前記摩擦面は、前記外側巻きの長さに沿って延在している、
請求項1に記載のバレル(1)。
【請求項5】
前記材料をなくす量は、前記外側巻きの端部から内側に前記外側巻きの長さ方向に移るにしたがって大きくなる、
請求項3に記載のバレル(1)。
【請求項6】
前記材料をなくすことは、漏斗、ネック、パラボラ面、半円の形態となるように行われる、
請求項3に記載のバレル(1)。
【請求項7】
請求項1に記載のバレル(1)を備えるムーブメント。
【請求項8】
請求項1に記載のバレル(1)を備える計時器。
【請求項9】
請求項7に記載のムーブメントを備える計時器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計時器の分野に関する。本発明は、特に、自動ワインド式計時器に備えられるバレルに関する。本発明は、さらに、このようなバレルを備える計時器に関する。
【背景技術】
【0002】
自動ワインド式計時器に用いられるバレルは伝統的に、ドラムを備えて、このドラム内に、バレル軸のまわりに渦巻き状に巻かれたメインばねを収容している。メインばねが過大な張力を受けたときに、自動ワインドデバイスの輪列が崩れたり破損したりしてしまうことがある。このようなことを防ぐために、メインばねは、ドラムの側壁に固定されずに、スリップばねと呼ばれる弾性細長材を利用して、最も外側の外側巻きによってドラムの側壁と摩擦結合する。所定の最大駆動トルクよりも大きいときに、外側巻きが側壁に沿って滑って、メインばねが受ける張力が過大にならないように、メインばねとドラムの側壁との間の摩擦結合を計算して設計しなければならない。ドラムの内側側壁の表面状態やその潤滑は、この摩擦結合の動作に大きく影響を与える因子である。別の影響を与える要因として、内側側壁の形に関係するものがある。
【0003】
従来技術によると、ドラムの内側側壁における摩擦面に、メインばねの端部が擦れることになり、このことによって、ドラムの内側側壁が摩耗する。この問題を解決するために、ドラムの内側側壁にグリースのような潤滑剤を付着させる。
【0004】
しかし、摩耗の問題は依然として存在し、時間の経過とともに大きくなり、部品の重大な損傷、故障、さらには破損につながることがある。実際に、メインばねの外側巻きの端部の摩擦は、グリースを削り取って、グリースをドラムの上側の縁と下側の縁に押し出してしまう傾向がある。結局、メインばねの外側巻きの端部が、ドラムの壁から細かい粒子を引き剥がし、摩擦がさらに大きくなり、これによって、粒子がさらに多く発生し、摩耗現象が加速してしまう。時間が経つと、メインばねとバレルの側壁の間の摩擦結合が深刻な影響を受け得る。
【0005】
このように、満足できる動作状態を維持するためには、バレルを分解し、グリースを追加する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的の1つは、この摩耗の問題を改善することが可能なバレルを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、メインばねを備えるバレルであって、このメインばねの外側巻きが、外側巻きの上部と下部に2つの摩擦面が配置される構成を有し、これらの摩擦面が、バレルドラムの内側側壁に接触するように構成しているようなバレルを提供することによって前記課題を解決するものである。
【0008】
このような状況で、本発明は、軸A-Aを有するドラムを備える自動ワインド式計時器用のバレルに関し、前記ドラムは、内側側壁と、及び外側巻きを含むワインディングを形成するメインばねとを備え、前記外側巻きの端部は、前記内側側壁と摩擦結合し、前記メインばねの過張力時に前記内側側壁に対して自由に滑ることができる。
【0009】
本発明によると、前記外側巻きの前記端部には、前記外側巻きの上部と下部に配置された2つの摩擦面がある外面があり、前記摩擦面は、中間部分である前記摩擦面の間の部分が前記内側側壁と接触しないように前記内側側壁と接触するように構成しており、前記中間部分は、前記2つの摩擦面の間にて潤滑剤のための槽を形成して、前記外側巻きの中間領域に潤滑剤を流すことが可能となる。
【0010】
本発明の他の有利な変異形態において、以下の特徴がある。
- 前記摩擦面は、前記外側巻きの前記上部及び前記下部において局所的な厚い部分の形態である。
- 前記摩擦面は、前記外側巻きの中間部分において、前記外側巻きの厚みの一部分又は厚み全体における材料をなくすことによって形成される。
- 前記摩擦面は、前記外側巻きの長さに沿って延在している。
- 前記材料をなくす量は、前記外側巻きの端部から内側に前記外側巻きの長さ方向に移るにしたがって大きくなる。
- 前記材料をなくすことは、漏斗、ネック、パラボラ面、半円の形態、又はドラムに対向する細長材の摩擦トラックの中間領域にグリースを導くことができる他の任意の形となるように行われる。
【0011】
本発明は、さらに、本発明に係るバレルを備える計時器用ムーブメントに関する。
【0012】
本発明は、さらに、本発明に係るバレルを備えるムーブメントを備える携行型時計(例、腕時計、懐中時計)に関する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るメインばねを示している斜視図である。
【
図2】本発明に係るドラムを備える駆動機構についての断面図である。
【
図3】
図3a~dは、本発明のいくつかの実施形態に係るメインばねの外側巻きの端部を示している斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、
図1、2及び3a~3dを一緒に参照しながら、本発明に係るバレルについて説明する。
【0015】
図2に示しているように、自動ワインド式計時器用ムーブメントのためのバレル1には、軸A-Aを有するドラム11と一体的な裏側部分10がある。メインばね2は、
図1にも示しており、バレル1の内部にて巻かれており、メインばね2の内側巻き20は、アーバー5のまわりに配置されるコア4につながり、メインばね2の外側巻き20は、ドラム11の内側側壁12に接触する。
【0016】
メインばね2は、一体的に作ることができ、また、細長材の形態であることができる。したがって、メインばね2を、バレルのアーバー5のまわりにてコア4に取り付けることができる。
【0017】
外側巻き21には、内側側壁12と摩擦結合する端部22があり、この端部22は、メインばね2に過大な張力が発生した場合に内側側壁12に対して自由に滑ることができる。
【0018】
図2において観察できるように、駆動機構100は、円筒状のドラム11と、及びドラム11を閉じるカバー6とを備えるバレル1を備え、このドラム11には、メインばね2と、バレルアーバー5と、及びメインばね2の内側巻き20が固定されるコア4とが収容される。
【0019】
また、ドラム11には、モーションワーク列(図示せず)のピニオンと噛み合う外側歯列13がある。
【0020】
本発明によると、外側巻き21の端部22には、外側巻き21の上部と下部にある2つの摩擦面24、25がある外面23があり、この外面23は、中間部分26と呼ばれる2つの摩擦面24、25の間の部分が内側側壁12と接触しないように、内側側壁12と接触するように構成している。
【0021】
好ましいことに、中間部分26は、潤滑剤のための槽を形成し、この槽は、少なくとも部分的に2つの摩擦面24、25の間に存在する。
【0022】
図示しているように、摩擦面24及び25は、中間部分26において、外側巻き21の厚みの一部分又は厚み全体における、材料をなくすことによって形成される。このように材料をなくすことのおかげで、摩擦面24及び25がドラムの内側側壁12に接触することが可能になり、外側巻き21がドラムに対して滑るときに、材料をなくしてあるために潤滑剤が中央の方へと移動する。
【0023】
本発明の別の実施形態において、摩擦面24、25は、外側巻き21の上部と下部にある局所的な厚い部分の形態であり、したがって、この厚い部分のみがドラムの内側側壁12と接触し、外側巻き21の中間部分において潤滑剤のための槽を形成する。
【0024】
摩擦面24、25は、外側巻き21の長さに沿って延在しており、摩擦面24、25の長さは、当然、当業者の必要性に応じて変えることができる。また、摩擦面24、25が外側巻き21の長さ全体にわたって延在せず、摩擦面24、25を壊れやすくせず又は硬くしすぎないことも明らかである。摩擦面24、25が硬すぎる場合も、バレルの正しい動作にとって有害となってしまう。
【0025】
図3dに示している一実施形態において、材料をなくす量は、外側巻き21の端部から内側に外側巻き21の長さに沿って移るにしたがって大きくなる。材料をなくすことは、例えば、漏斗、ネック、パラボラ面又は半円の形態となるようにして、潤滑剤のための槽を形成し、潤滑剤をドラムの内側側壁の中心の方へとガイドする。
【0026】
また、
図3bに示している別の実施形態において、外側巻き21の端部22をその外面23において変形させて、2つの摩擦面24、25を形成する。このような外側巻き21の変形は、例えば、スタンピングによって得られる。
【0027】
また、このような外側巻きの端部の構成のおかげで、バレルの稼働開始時から潤滑剤を均一に分配させて、その後に、外側巻きの中心部まで潤滑剤を流すことができる。
【0028】
本発明は、さらに、本発明に係るバレルを備える計時器用ムーブメント及び計時器に関する。
【0029】
前記のような本発明の様々な態様のおかげで、バレルドラムに対するばねの摩擦に起因する摩耗を低減することが可能なバレルを得ることができる。
【0030】
当然、本発明は、図示している例に限定されるものではなく、当業者には明らかな様々な変異形態や改変が可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 バレル
2 メインばね
5 アーバー
10 裏側部分
11 ドラム
12 内側側壁
13 外側歯列
20 内側巻き
21 外側巻き
22 端部
23 外面
24、25 摩擦面
26 中間部分
27 槽
【外国語明細書】