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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098825
(43)【公開日】2023-07-11
(54)【発明の名称】サーチュイン3活性化剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20230704BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 36/8969 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 36/725 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 36/45 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 36/815 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 36/54 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 36/31 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 36/484 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 36/738 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 36/23 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 36/258 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 36/752 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 36/9068 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 36/41 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 36/9066 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 36/8998 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 36/16 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 36/61 20060101ALI20230704BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230704BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20230704BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230704BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 8/9755 20170101ALI20230704BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20230704BHJP
   A61K 8/9794 20170101ALI20230704BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20230704BHJP
【FI】
A23L33/105
A61P43/00 111
A61K36/8969
A61K36/725
A61K36/45
A61K36/815
A61K36/54
A61K36/31
A61K36/484
A61K36/738
A61K36/23
A61K36/258
A61K36/752
A61K36/9068
A61K36/41
A61K36/9066
A61K36/8998
A61K36/16
A61K36/61
A61P17/00
A61P3/00
A61P35/00
A61Q19/08
A61K8/9755
A61K8/9789
A61K8/9794
A23L33/10 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173675
(22)【出願日】2022-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2021215435
(32)【優先日】2021-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】金 辰也
(72)【発明者】
【氏名】岩木 瑞佳
(72)【発明者】
【氏名】片倉 喜範
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE04
4B018LE05
4B018MD36
4B018MD48
4B018MD52
4B018MD53
4B018MD54
4B018MD61
4B018MD63
4B018MD64
4B018MD66
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF06
4B018MF07
4C083AA111
4C083CC02
4C083EE12
4C083FF01
4C088AB02
4C088AB12
4C088AB15
4C088AB18
4C088AB33
4C088AB40
4C088AB44
4C088AB48
4C088AB51
4C088AB57
4C088AB60
4C088AB62
4C088AB73
4C088AB81
4C088AB85
4C088AC03
4C088AC04
4C088AC05
4C088CA03
4C088MA07
4C088MA52
4C088NA05
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZB26
4C088ZC21
4C088ZC52
(57)【要約】
【課題】新規なサーチュイン3活性化剤を提供する。
【解決手段】本発明は、ナルコユリ、ナツメ、リンゴンベリー、クコの実、ケイヒ、キジツ、ブロッコリースプラウト、カンゾウ、ローズヒップ、ニンジン、コウジン、チンピ、ジンジャー、ロゼア、ウコン、大麦若葉、イチョウ葉、及びチョウジからなる群より選択される1つまたは複数の生薬を有効成分として含有する、腸管細胞を介する皮膚細胞のサーチュイン3活性化剤を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナルコユリ、ナツメ、リンゴンベリー、クコの実、ケイヒ、キジツ、ブロッコリースプラウト、カンゾウ、ローズヒップ、ニンジン、コウジン、チンピ、ジンジャー、ロゼア、ウコン、大麦若葉、イチョウ葉、及びチョウジからなる群より選択される1つまたは複数の生薬を有効成分として含有するサーチュイン3活性化剤。
【請求項2】
前記サーチュイン3活性化剤は、腸管細胞を介して皮膚細胞のサーチュイン3を活性化する、請求項1に記載のサーチュイン3活性化剤。
【請求項3】
前記サーチュイン3活性化剤は、内服により皮膚細胞のサーチュイン3を活性化する、請求項1又は2に記載のサーチュイン3活性化剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のサーチュイン3活性化剤を含有する、美肌用食品組成物。
【請求項5】
ナルコユリ、ナツメ、リンゴンベリー、クコの実、ケイヒ、キジツ、ブロッコリースプラウト、カンゾウ、ローズヒップ、ニンジン、コウジン、チンピ、ジンジャー、ロゼア、ウコン、大麦若葉、イチョウ葉、及びチョウジからなる群より選択される1つまたは複数の生薬が内服によりサーチュイン3を活性化する機能を有する美肌用成分として含有される、美肌用食品組成物。
【請求項6】
皮膚における活性酸素の抑制を介して美肌に寄与する、請求項4又は5に記載の美肌用食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサーチュイン3活性化剤を提供する。
【背景技術】
【0002】
近年、長寿遺伝子として、NAD+依存性脱アセチル化酵素であるサーチュイン(Sirtuin)遺伝子が注目されている。サーチュイン遺伝子は、サーチュイン1からサーチュイン7まで同定されている。サーチュイン3はミトコンドリアに局在しエネルギー代謝や抗酸化に関与すること、癌の促進と抑制に働くこと等が知られている(非特許文献1~5等)。
【0003】
これまでに、サーチュイン3を含めた各種サーチュインの活性化物質として、各種ポリフェノール、ユーグレナ、カルノシンおよび/またはアンセリン、黒ウコン、ピセアタンノール、卵殻膜成分、レスベラトロール等が知られている(特許文献1~6等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-127398号公報
【特許文献2】特開2015-97508号公報
【特許文献3】特開2014-231487号公報
【特許文献4】特開2018-199680号公報
【特許文献5】特開2018-48152号公報
【特許文献6】特開2016-41680号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J Biol Chem. 2012; 287(51): 42419-42427
【非特許文献2】Biochimie Vol.179 Page.1-13 (2020)
【非特許文献3】Front. Cell Dev. Biol. 2020, https://doi.org/10.3389/fcell.2020.00822
【非特許文献4】Cell. 2010 Nov 24;143(5):802-12. doi: 10.1016/j.cell.2010.10.002.
【非特許文献5】Oxid Med Cell Longev. 2020 Oct 23;2020:7308386. doi: 10.1155/2020/7308386. eCollection 2020.
【非特許文献6】PLoS ONE 14(5): e0217394.https://doi.org/10.1371/journal.pone.0217394, May 28, 2019
【非特許文献7】和光純薬時報 Vol.87 No.2 (2019年6月号), p.9-11
【非特許文献8】片倉 喜範 アンチブレインエイジング食品の探索とその機能性の分子基盤の解明, 公益財団法人アサヒビール学術振興財団, 2010年4月
【非特許文献9】Oxid Med Cell Longev. Volume 2016, Article ID 2927131, https://doi.org/10.1155/2016/2927131
【非特許文献10】Journal of Functional Foods, 23, 444-452(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、サーチュイン3活性化剤の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ナルコユリ、ナツメ、リンゴンベリー、クコの実、ケイヒ、キジツ、ブロッコリースプラウト、カンゾウ、ローズヒップ、ニンジン、コウジン、チンピ、ジンジャー、ロゼア、ウコン、大麦若葉、イチョウ葉、及びチョウジからなる群より選択される1つまたは複数の生薬が、サーチュイン3活性化剤として機能することを見出した。さらに、本発明者らは、これらの物質は腸管細胞を介して皮膚細胞に作用することも見出した。以上の発見により、以下の発明を完成するに至った:
(1)ナルコユリ、ナツメ、リンゴンベリー、クコの実、ケイヒ、キジツ、ブロッコリースプラウト、カンゾウ、ローズヒップ、ニンジン、コウジン、チンピ、ジンジャー、ロゼア、ウコン、大麦若葉、イチョウ葉、及びチョウジからなる群より選択される1つまたは複数の生薬を有効成分として含有するサーチュイン3活性化剤。
(2)前記サーチュイン3活性化剤は、腸管細胞を介して皮膚細胞のサーチュイン3を活性化する、(1)に記載のサーチュイン3活性化剤。
(3)前記サーチュイン3活性化剤は、内服により皮膚細胞のサーチュイン3を活性化する、(1)又は(2)に記載のサーチュイン3活性化剤。
(4)(1)~(3)のいずれか1項に記載のサーチュイン3活性化剤を含有する、美肌用食品組成物。
(5)ナルコユリ、ナツメ、リンゴンベリー、クコの実、ケイヒ、キジツ、ブロッコリースプラウト、カンゾウ、ローズヒップ、ニンジン、コウジン、チンピ、ジンジャー、ロゼア、ウコン、大麦若葉、イチョウ葉、及びチョウジからなる群より選択される1つまたは複数の生薬が内服によりサーチュイン3を活性化する機能を有する美肌用成分として含有される、美肌用食品組成物。
(6)皮膚における活性酸素の抑制を介して美肌に寄与する、(4)又は(5)に記載の美肌用食品組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明のサーチュイン3活性化剤の投与により、サーチュイン3を活性化することができる。本発明によれば、サーチュイン3活性化剤を含有する組成物や内服剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実験2において各試料を添加した場合のHaCat(SIRT1p-EGFP)におけるサーチュイン3発現量を、陰性対照(DMSO又はH2Oのみ)を添加した場合を1とした相対値として示す。
図2図2は、実験3において各試料を添加した場合のUVB照射HaCatにおけるROS量を、陰性対照(DMSO又はH2Oのみ)を添加した場合を100とした相対値として示す。
図3図3は、実験4において各試料を添加した場合のHaCat(SIRT1p-EGFP)におけるサーチュイン3発現量を、陰性対照(DMSO又はH2Oのみ)を添加した場合を1とした相対値として示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のサーチュイン3活性化剤の投与により、サーチュイン3を活性化することができる。サーチュイン3は主にミトコンドリアに固定されているデアセチラーゼであり、ミトコンドリアの機能状態と密接に関連しており、サーチュイン3の活性化は、皮膚の抗老化、寿命延長、活性酸素(reactive oxygen species;ROS)抑制、ダメージの修復、抗炎症などの皮膚における疾患や状態に対する治療や改善に有用であることが示唆されている(非特許文献1~5)。本発明のサーチュイン3活性化剤は、とりわけ内服により腸管を介し皮膚細胞のサーチュイン3を活性化することにより、例えば、活性酸素の抑制を介して、美肌への寄与が期待される。
【0011】
本発明において、美肌とは、皮膚の抗老化、寿命延長、活性酸素抑制、ダメージの修復、抗炎症といった皮膚細胞におけるサーチュイン3の活性化を介する皮膚状態の改善を指す。一態様では、活性酸素抑制は、UVB等の紫外線により誘発される活性酸素の抑制である。一態様では、美肌は皮膚、とりわけ、UVB等の紫外線照射といったダメージを受けた皮膚における活性酸素の抑制により達成される。
【0012】
サーチュイン3の活性化とは、例えばサーチュイン3遺伝子の発現を亢進させること、例えば何も付与していない状態(コントロール)に比べて、サーチュイン3活性化剤を付与した場合にサーチュイン3遺伝子の発現が亢進していることを意味し得る。例えば、有意水準を5%とした統計学的有意差(例えばスチューデントのt検定)をもって亢進していることを意味することもある。あるいは、本発明におけるサーチュイン3遺伝子の活性化とは、例えば何も付与していない状態(コントロール)に比べて、サーチュイン3活性化剤を付与した場合に、サーチュイン3遺伝子の発現が、例えば5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上、200%以上、300%以上、400%以上、又は500%以上亢進していることを意味し得る。サーチュインの発現量は、任意の公知技術、例えば、限定されないものの、SIRT3プロモーターを皮膚細胞にトランスフェクトしSIRT3p-EGFPに由来するEGFP蛍光の変化を求める方法により求めることができる。
【0013】
本発明のサーチュイン3活性化剤は、とりわけ腸管細胞を介して皮膚細胞のサーチュイン3を活性化する。「腸管細胞を介して皮膚細胞のサーチュイン3を活性化する」とは、本発明の有効成分を腸管細胞に投与し、腸管細胞に吸収されることにより、有効成分と同一の成分が直接皮膚細胞に到達する、あるいは有効成分が腸管細胞に吸収され分解又は修飾された状態で皮膚細胞に到達する、あるいは腸管細胞が有効成分を取り込むことにより別の異なる成分を放出し、その異なる成分が皮膚細胞に作用するといった直接的又は間接的な経路を介して最終的に皮膚細胞におけるサーチュイン3が活性化されることを指す。「腸管細胞を介して皮膚細胞のサーチュイン3を活性化する」ことの一例として、内服により皮膚細胞のサーチュイン3を活性化すること等が挙げられる。「内服により皮膚細胞のサーチュイン3を活性化する」とは、本発明のサーチュイン3活性化剤を経口的に摂取することにより、本発明の有効成分が腸管を介して吸収され、腸から取り込まれた物質が直接的又は間接的に作用し最終的に皮膚細胞におけるサーチュイン3が活性化されることを指す。
【0014】
例えば、ある成分が内服により腸から取り込まれてもその物質が直接標的細胞へ到達されるわけではなく腸管細胞から分泌された別の物質が標的細胞に到達し間接的に作用することがある。例えば、非特許文献6~8に記載のように、腸から取り込まれたカルノシンが直接的に脳に作用を及ぼすのではなく、腸管細胞においてCREBを活性化し、その結果、BDNF産生が増強され、BDNFが神経細胞を活性化し脳の機能改善をもたらすというような間接的な作用が報告されている。さらには、このような脳腸相関活性化はエクソソームが介在するという示唆もされている。つまり、腸にある成分を与えてもその成分が標的とする細胞でどのような作用を及ぼすのかは不明であるため、被験物質を腸管細胞に与え、その後標的細胞においていかなる作用を奏するのか確認する必要がある。
【0015】
このような腸管細胞を介した作用は、in vivo、in vitro、ex vivo等を含む各種方法で測定できる。例えば、被験物質を腸管細胞に投与し、腸管細胞を介した皮膚細胞におけるサーチュイン3の活性を求めることにより決定できる。例えば、本明細書における実施例のようにCaco-2等の腸管細胞培養液に被験物質を投与しその上清液を皮膚細胞に添加するといったin vitroの方法や、あるいはヒト等の動物に経口的に摂取させた後に、皮膚におけるサーチュイン3の量を測定するといったin vivoの方法を採用してもよい。腸管上皮細胞ー表皮角化細胞の相互作用評価方法は当該分野で公知又は当業者が容易に実施可能である。しかしながら測定方法は上記方法に限定されず、他の任意の方法を採用してもよい。例えば、Caco-2等の腸管細胞層の一方の側に試験物質を添加し、この層を通過して、層の逆側に存在するHaCaT等の皮膚細胞におけるサーチュイン3の活性を測定する腸管上皮細胞ー表皮角化細胞の相互作用評価方法により決定することができる。
【0016】
本発明は、ナルコユリ、ナツメ、リンゴンベリー、クコの実、ケイヒ、キジツ、ブロッコリースプラウト、カンゾウ、ローズヒップ、ニンジン、コウジン、チンピ、ジンジャー、ロゼア、ウコン、大麦若葉、イチョウ葉、及びチョウジからなる群より選択される1つまたは複数の生薬を有効成分として含有するサーチュイン3活性化剤を提供する。さらに、本発明は、ナルコユリ、ナツメ、リンゴンベリー、クコの実、ケイヒ、キジツ、ブロッコリースプラウト、カンゾウ、ローズヒップ、ニンジン、コウジン、チンピ、ジンジャー、ロゼア、ウコン、大麦若葉、イチョウ葉、及びチョウジからなる群より選択される1つまたは複数の生薬を有効成分として含有される、組成物も提供する。本発明のサーチュイン3活性化剤及び/又は組成物は、経口剤又は経腸剤の形態であってもよく、医薬品、医薬部外品、食品組成物、化粧品組成物等であってもよく、美肌のためのものであってもよい。一態様では、美肌は活性酸素を低減することにより達成される。一態様では、美肌は腸管細胞を介して皮膚細胞、例えば、UVB等の紫外線照射を受けた皮膚細胞の活性酸素を低減することにより達成される。腸管細胞を介した美肌への効果は例えば、本明細書における実施例のようにCaco-2等の腸管細胞培養液に被験物質を投与しその上清液をUVB等の紫外線を照射した皮膚細胞に添加し、皮膚細胞におけるROS量を測定するといったin vitroの方法や、ヒト等の動物に経口的に摂取させた後に、皮膚におけるROS量を測定するといったin vivoの方法を採用してもよい。
【0017】
本発明で用いられるリンゴンベリー(Vaccinium vitis-idaea L.)は、ツツジ科スノキ属の低木である。果実を使用することが好ましい。果実にはレスベラトロールや、アントシアニン、プロアントシアニジンなどが含まれている。リンゴンベリーには、冷え性改善や美肌作用が知られている。
【0018】
本発明で用いられるナツメ(Zizyphus jujuba)はクロウメモドキ科の落葉高木である。果実を使用することが好ましい。ナツメには、トリテルペノイドなどが含まれている。ナツメには、体を温める、冷えの改善、鎮痛・鎮静、発育促進、貧血予防、むくみ予防・改善、高血圧の予防・改善、便秘・下痢解消作用等が報告されている。
【0019】
本発明で用いられるクコの実はナス科の落葉低木であるクコ(Lycium chinense Miller又はLycium barbarum)の果実であり、ベタイン、ゼアキサンチン、ビタミンA・B類・C、カルシウム、鉄、ニコチン酸などが含まれている。クコの実には胃や肝機能を高める、ダイエット、血流改善、感染症予防・改善、ストレス緩和、美肌・美白効果、疲労回復、眼病予防作用等が報告されている。
【0020】
本発明で用いられるケイヒはクスノキ科のトンキンニッケイ(Cinnamomum cassia)の樹皮であり、ケイヒアルデヒド、ケイヒ酸、オイゲノールなどが含まれている。毛細血管の血行促進、体を温める、健胃・整腸作用などが知られている。
【0021】
本発明で用いられるコウジンはウコギ科の多年草であるオタネニンジン(Panax ginseng)の根であり、サポニン、シトステロール、パナキシノールなどが含まれている。低血圧予防、貧血予防、動脈硬化予防、脳機能改善、ストレス緩和、感染症予防、冷え性改善、美肌作用などが知られている。
【0022】
本発明で用いられるニンジン(Daucus carota)はセリ科ニンジン属の2年草植物であり、サポニン、カロテノイドなどが含まれている。根を使用することが好ましい。動脈硬化を予防、目の健康維持、免疫力を高める、美肌作用などが知られている。
【0023】
本発明で用いられるチンピは、ミカン科ミカン属のウンシュウミカン(Citrus unshiu)の果皮であり、ヘスペリジン、ナリンギンなどが含まれている。骨粗しょう症を予防、糖尿病の進行を抑制、免疫力を高める、美肌作用などが知られている。
【0024】
本発明で用いられるカンゾウ(Glycyrrhiza uralensis、Glycyrrhiza glabra)はマメ科カンゾウ属の多年生草本植物であり、グリチルリチン酸などが含まれている。根及び/又はストロン(根茎)を使用するのが好ましい。鎮静・鎮痙作用、鎮咳作用、抗消化性潰瘍作用、胆汁排泄促進作用、慢性肝炎に対する作用、抗炎症作用、抗アレルギー作用、ステロイドホルモン様作用などが知られている。
【0025】
本発明で用いられるキジツはミカン科ミカン属のダイダイ(Citrus aurantium、Citrus aurantium Linne、Citrus natsudaidai)の未熟果の果皮及び/又は果実であり、リモネン、ヘスピリジン、ナリンギンなどが含まれている。血流改善や健胃、便通改善作用などが知られている。
【0026】
本発明で用いられるジンジャー(Zingiber officinale)はショウガ科ショウガ属の多年草であり、ジンゲロール、ショウガオールなどが含まれている。根茎を使用するのが好ましい。血流改善、ジンゲロールによる手先・足先など末端を温める作用、ショウガオールによる体を芯から温める作用などが知られている。
【0027】
本発明で用いられるブロッコリースプラウトはアブラナ科アブラナ属のブロッコリー(Brassica oleracea)の新芽であり、スルフォラファン、カロテノイド(βカロテン)などが含まれている。発芽状態の地上部を使用することが好ましい。スルフォラファンは解毒酵素を誘導するデトックス効果や生体内での抗酸化機能が期待されている。
【0028】
本発明で用いられるロゼア(イワベンケイ(Rhodiola sacra、Rhodiola rosea)は、ベンケイソウ科の多年生草本であり、ヒドロキシ安息香酸、スベリン酸などが含まれている。根茎を使用するのが好ましい。滋養や強壮をはじめ、ストレスからくる疲労感の緩和や衰弱の回復作用などが知られている。
【0029】
本発明で用いられるナルコユリ(Polygonatum falcatum)はユリ科アマドコロ属に属する多年草であり、糖類などが含まれている。根茎を使用するのが好ましい。滋養や強壮をはじめ、胃腸虚弱や慢性肺疾患、糖尿病、病後の食欲不振などに用いられている。
【0030】
本発明で用いられるウコン(Curcuma longa L.)はショウガ科ウコン属に属する多年草であり、クルクミンなどが含まれている。根茎を使用するのが好ましい。健胃薬や肝機能(胆汁排泄など)が知られており、クルクミンは、消炎作用、抗肝臓毒効果、抗菌作用等が報告されている。
【0031】
本発明で用いられる大麦若葉はイネ科オオムギ属の植物である大麦(Hordeum vulgare L.)の出穂前の若い葉であり、食物繊維、糖質、ビタミン類、ミネラルなどが含まれている。小腸内における糖分の吸収遅延、コレステロールや胆汁酸の吸収阻害、便通改善作用などが知られている。
【0032】
本発明で用いられるローズヒップ(Rosa canina L.)は、バラ科バラ属の植物であり、ビタミンC、クエン酸等を含み、美肌効果などが知られている。果実を用いることが好ましい。
【0033】
本発明で用いられるイチョウ葉はイネ科オオムギ属の植物であるイチョウ科イチョウ属の高木(Ginkgo biloba L.)の葉であり、クエルセチン、ケンフェロール、イソラムネチンなどが含まれている。活性酸素消去、血流増加、脳血流増加と脳機能改善作用などが知られている。
【0034】
本発明で用いられるチョウジ(Syzygium aromaticum)は、フトモモ科の樹木チョウジノキの花蕾であり、オイゲノール等が含まれている。抗菌作用、駆虫作用、健胃作用や歯痛止め、肝機能向上、鎮静・鎮経作用、抗ウイルス作用や抗炎症が知られており、薬用及び香辛料などとして食用に用いられることもある。
【0035】
本発明のサーチュイン3活性化剤は、有効成分としてナルコユリ、ナツメ、リンゴンベリー、クコの実、ケイヒ、キジツ、ブロッコリースプラウト、カンゾウ、ローズヒップ、ニンジン、コウジン、チンピ、ジンジャー、ロゼア、ウコン、大麦若葉、イチョウ葉、及びチョウジからなる群より選択される1つまたは複数の生薬を、例えば、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は99質量%以上含有することがある。ある実施形態では、本発明のサーチュイン3活性化剤は、ナルコユリ、ナツメ、リンゴンベリー、クコの実、ケイヒ、キジツ、ブロッコリースプラウト、カンゾウ、ローズヒップ、ニンジン、コウジン、チンピ、ジンジャー、ロゼア、ウコン、大麦若葉、イチョウ葉、及びチョウジからなる群より選択される1つまたは複数の生薬からなることもある。
【0036】
上述の生薬は公知の物質であり、公知の方法により容易に搾汁、乾燥、精製、抽出等ができ、また市販品を容易に入手可能である。生のままでも乾燥したものでも使用することができるが、使用性、製剤化等の観点から、抽出物、乾燥物、乾燥粉末、原料の粉末物、搾汁液等として用いることもできる。原料により、いずれの形態を用いるかは適宜選択することができ、必要に応じて殺菌等の処理を施してもよい。
【0037】
抽出物として用いる場合、その抽出物の抽出方法は例えば溶媒抽出により行うことができる。溶媒抽出の場合には、植物の全草あるいは各種部位(葉、花、根等)を必要に応じて乾燥させ、更に必要に応じて細断又は粉砕した後、水性抽出剤、水、例えば冷水、温水、又は沸点若しくはそれより低温の熱水、あるいは含水有機溶媒、有機溶媒、例えばエタノール、メタノール、エーテル、1、3-ブチレングリコール等を原料の性質や組成物の用途等により好ましい溶媒を適宜選択して常温で又は加熱して用いることにより抽出される。しかしながら、抽出方法は溶媒抽出に限定されず、当業界で知られている常用の手法によってもよく、本発明で用いる抽出物の抽出方法や抽出物の形態は、本発明の効果を損なわない限り任意である。上記抽出物の形態は、抽出液自体だけでなく、常用の手法により適宜希釈又は濃縮したものであってもよく、更に、抽出液を乾燥することによって得られる粉状あるいは塊状の固体であってもよいし、搾汁液を常用の手法により適宜希釈又は濃縮したものであってもよい。
【0038】
含水有機溶媒の例として、含水エタノール等の含水低級アルコール(例えば、C1~C4)を用いてもよく、その場合の含水率は、例えば0~10v/v%、10~40v/v%、20~30v/v%、30~40v/v%、30~50v/v%、60~70v/v%、50~80v/v%、80~99.5v/v%等であってもよい。
【0039】
乾燥粉末を得る方法としては、植物の全草あるいは各種部位(葉、花、根等)を細断又は粉砕しその後に乾燥する方法や、植物を乾燥した後に細断又は粉砕して乾燥粉末を得る方法がある。また、植物を細断又は粉砕し、発酵や酵素処理を施した後、乾燥し、更に必要に応じて所定の粒径にすべく粉砕する方法等を適宜採ることができる。
【0040】
本発明のサーチュイン3活性化剤は、経口又は経腸摂取が好ましいものの、経皮投与といった他の投与経路を排除するものではない。本発明のサーチュイン3活性化剤を各種投与経路で投与する場合、本発明の有効成分をサーチュイン3活性化の効果が十分発揮されるような量で適用することが好ましい。植物体又はその溶媒抽出物の配合量は、それらの種類、目的、形態、利用方法などに応じて、適宜決めることができる。
【0041】
例えば、本発明のサーチュイン3活性化剤は、経口又は経腸摂取用の組成物、例えば、食品組成物に含有できる。本発明のサーチュイン3活性化剤及び組成物の形態としては、例えば、粉末状、液体状、サプリメントなど錠剤等の固形、顆粒、粒状、ペースト状、ゲル状など任意に選択することができる。
【0042】
例えば、本発明のサーチュイン3活性化剤を経口剤又は経腸剤又は食品組成物として利用する場合には、経口剤又は経腸剤等の全量に対して、ナルコユリ、ナツメ、リンゴンベリー、クコの実、ケイヒ、キジツ、ブロッコリースプラウト、カンゾウ、ローズヒップ、ニンジン、コウジン、チンピ、ジンジャー、ロゼア、ウコン、大麦若葉、イチョウ葉、及びチョウジの乾燥重量が、0.00001~0.5重量%程度、0.0001~0.05重量%程度、又は0.001~0.005重量%程度となるように調整してもよい。あるいは、腸内での濃度が0.1~100μg/ml程度、より好ましくは0.5~50μg/ml程度、更に好ましくは1~10μg/ml程度になるように調整してもよい。
【0043】
また、本発明のサーチュイン3活性化剤を経口剤又は経腸剤又は食品組成物として利用する場合には、成人1人当たりのナルコユリ、ナツメ、リンゴンベリー、クコの実、ケイヒ、キジツ、ブロッコリースプラウト、カンゾウ、ローズヒップ、ニンジン、コウジン、チンピ、ジンジャー、ロゼア、ウコン、大麦若葉、イチョウ葉、及びチョウジの植物体又はその溶媒抽出物の摂取量は、例えば1日あたり、0.005mg~約0.5g(乾燥重量換算)程度、より好ましくは0.05mg~約50mg、更に好ましくは0.5mg~約5mg(乾燥重量換算)程度になるように調製するのが好ましい。また、摂取頻度は、限定されないものの、1回の摂取でもよいが、一例によれば、例えば2週間に1回、1週間に1回、3日に1回、2日に1回、1日1回、1日2回、1日3回、1日4回等の頻度で摂取することができる。また、都度摂取するものであっても、継続的に摂取するものであっても、例えば数か月の間隔を空け断続的に摂取するものであってもよい。
【0044】
本発明のサーチュイン3活性化剤及び組成物には、必要に応じて添加剤を任意に選択し併用することができる。添加剤としては賦形剤等を含ませることができる。賦形剤としては、所望の剤型としたときに通常用いられるものであれば何でも良く、例えば、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、シクロデキストリンなどのでんぷん類、結晶セルロース類、乳糖、ブドウ糖、砂糖、還元麦芽糖、水飴、フラクトオリゴ糖、乳化オリゴ糖などの糖類、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、ラクチトール、マンニトールなどの糖アルコール類が挙げられる。これら賦形剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0045】
その他の着色剤、保存剤、増粘剤、結合剤、崩壊剤、分散剤、安定化剤、ゲル化剤、酸化防止剤、界面活性剤、保存剤、pH調整剤等については、公知のものを適宜選択して使用できる。
【0046】
本発明は、ナルコユリ、ナツメ、リンゴンベリー、クコの実、ケイヒ、キジツ、ブロッコリースプラウト、カンゾウ、ローズヒップ、ニンジン、コウジン、チンピ、ジンジャー、ロゼア、ウコン、大麦若葉、イチョウ葉、及びチョウジからなる群より選択される1つまたは複数の生薬を例えば経口又は経腸経路で投与することにより皮膚のサーチュイン3を活性化する方法及び/又は皮膚の活性酸素の低減する方法も提供する。また、本発明は、ナルコユリ、ナツメ、リンゴンベリー、クコの実、ケイヒ、キジツ、ブロッコリースプラウト、カンゾウ、ローズヒップ、ニンジン、コウジン、チンピ、ジンジャー、ロゼア、ウコン、大麦若葉、イチョウ葉、及びチョウジからなる群より選択される1つまたは複数の生薬を例えば経口又は経腸経路で投与することにより皮膚のサーチュイン3活性化及び/又は皮膚の活性酸素の低減を介する皮膚の抗老化のための方法も提供する。本発明の方法は、美容を目的とする方法であり、医師や医療従事者による治療ではないことがある。
【0047】
さらに、本発明は、皮膚の抗老化のための経口剤又は経腸剤といった医薬の製造におけるナルコユリ、ナツメ、リンゴンベリー、クコの実、ケイヒ、キジツ、ブロッコリースプラウト、カンゾウ、ローズヒップ、ニンジン、コウジン、チンピ、ジンジャー、ロゼア、ウコン、大麦若葉、イチョウ葉、及びチョウジからなる群より選択される1つまたは複数の生薬の使用も提供する。本発明は、例えば経口又は経腸投与により、皮膚のサーチュイン3を活性化及び/又は皮膚の活性酸素の低減による、皮膚の抗老化のための方法に使用するためのナルコユリ、ナツメ、リンゴンベリー、クコの実、ケイヒ、キジツ、ブロッコリースプラウト、カンゾウ、ローズヒップ、ニンジン、コウジン、チンピ、ジンジャー、ロゼア、ウコン、大麦若葉、イチョウ葉、及びチョウジからなる群より選択される1つまたは複数の生薬も提供する。
【実施例0048】
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0049】
実験1:試料の調製
実験1-1:候補試料の調製
サーチュイン3活性化剤の候補試料として、リンゴンベリー、ナツメ、クコの実、ケイヒ、コウジン、ニンジン、カンゾウ、チンピ、キジツ、ジンジャー、ブロッコリースプラウト、ロゼア、ナルコユリ、ウコン、大麦若葉、ローズヒップ、イチョウ葉、及びチョウジを、以下の表のように調製した。
【0050】
【表1】
【0051】
その他動植物の抽出物といった天然由来成分や合成成分を含め、合計34類の候補試料を調製した。固体の試料はマッシャーを用いて粉砕しジメチルスルホキシド(富士フィルム和光純薬)(以下、DMSO)を溶媒として10 mg/mLに調製し、液体の試料はそのままの状態で使用した。これらの試料は-20℃で保存し、使用する際に適宜解凍した。
【0052】
実験1-2:対照試料の調製
実験2の陽性対照としてケンフェロール(富士フィルム和光純薬、CAS登録番号:520-18-3)および陰性対照としてアスタキサンチン(Sigma-Aldrich、CAS登録番号:472-61-7)をDMSOでそれぞれ1 mg/mLに調製した。実験4の陽性対照として、サーチュイン3活性化作用が公知である(Journal of EthnopharmacologyVolume 280, 15 November 2021年, 114451)レスベラトロール(東京化成工業、CAS登録番号:501-36-0)および陰性対照としてアスタキサンチン(Sigma-Aldrich、CAS登録番号:472-61-7)をDMSOでそれぞれ1 mg/mLに調製した。これらの試料は-20℃で保存し、使用する際に適宜解凍した。
【0053】
実験3の陽性対照としてNAC(N-アセチル-L-システイン、Sigma-Aldrich、CAS登録番号:616-91-1)97.914 mgを1 mLの滅菌水に溶かし、600 mMのNACを作成した。これを0.22 μmフィルター滅菌し、600 mMと100 mMの状態で4℃で保存した。
【0054】
実験2:サーチュイン3活性化作用の検討
実験2-1:ヒト結腸ガン由来細胞株Caco-2細胞の培養
ヒト結腸ガン由来Caco-2細胞(ATCC(American Tissue Culture Collection))は、非働化10% Fetal Bovine Serum (FBS, Life Technologies, CA, USA) (56℃の恒温槽で30分間加熱することで補体を不活性化した)を含むDulbecco’s Modified Eagle Medium (DMEM)(Nissui, Tokyo, Japan)を用いて、ペトリディッシュにて、37℃、5% CO2条件下で継代培養した。DMEM培地は、470mLのMilli-Q水に対して、DMEM培地「ニッスイ」(日水製薬, Tokyo, Japan)4.75 gを溶解し、オートクレーブにより滅菌した後に、100 U/mL ペニシリン (Meiji Seika ファルマ, Tokyo, Japan) 1 mL、 0.1 mg/mL ストレプトマイシン (Meiji Seika ファルマ) 1 mL、10% NaHCO3 (富士フィルム和光純薬) 6 mL、0.22 μmフィルター(Toyo Roshi)で濾過滅菌を行ったL-グルタミンを終濃度が4 mMとなるように添加して作成したものを用いた。
【0055】
実験2-2:ヒト表皮角化細胞HaCaT細胞の培養
ヒト表皮角化細胞HaCaT細胞(Riken Bioresource Center, Tsukuba, Japan)は、実験2-1と同じ培地、装置等を用い、同じ条件下で継代培養した。
【0056】
実験2-3:プラスミド(SIRT3p-EGFP)の作成
非特許文献9に記載の方法に従いHaCat(SIRT3p-EGFP)を調製した。具体的には、非特許文献9に記載の以下のプライマーを用いるPCR法によりヒトSIRT3プロモーター(-653 to -1)を増幅した。増幅断片を、制限酵素AseIおよびNheI消化によりCMVプロモーターを除去したプロモーターレスのEnhanced Green Fluorescent Protein-(EGFP-)発現ベクターであるpEGFP-C3(TaKaRa、日本)にクローニングし、得られたプラスミドをSIRT3p-EGFPとした。非特許文献10に記載の方法に従い、このプラスミドをヒト皮膚角化細胞株HaCaTに安定的にトランスフェクトし、HaCat(SIRT3p-EGFP)とし、ヒトSIRT3プロモーター活性の評価に使用した。内部標準としてACTB (β-actin)を用いた。このように作成したHaCaT(SIRT3p-EGFP)細胞は、実験2-1、2-2と同じ方法で継代培養した。
SIRT3 forward primer 5’-CTGTACAGCAACCTCCAGCA-3’;(配列番号1)
SIRT3 reverse primer 5’-CTCCTTGGCCAAAGTGAAAA-3’;(配列番号2)
ACTB forward primer 5’-TGGCACCCAGCACAATGAA-3’;(配列番号3)
ACTB reverse primer 5’-CTAAGTCATAGTCCGCCTAGAAGCA-3’;(配列番号4)
【0057】
実験2-4:腸管細胞を介する皮膚細胞のサーチュイン3発現
以下の方法により、Caco-2細胞の上清液をHaCaT(SIRT3p-EGFP)細胞に添加することにより、腸管細胞を介する皮膚細胞のサーチュイン3発現を調べた。実験2-1から得たCaco-2細胞を終濃度が1.0×105 cells/mLとなるように24-wellプレート(FALCON)に播種した。24時間後、実験1で調製した試料を終濃度がケンフェロールとアスタキサンチンについては10 μM、生薬については10 μg/mLとなるように添加した。なお、試料を含まない対照としてDMSOまたはH2Oを使用した。試料を添加して更に24時間培養した。
【0058】
実験2-3で得たHaCaT(SIRT3p-EGFP)細胞は終濃度が6.0×105 cells/mLとなるように実験2-3と同じ培地を用いて96-wellブラックプレートに播種し、24時間培養した。その後、HaCaT(SIRT3p-EGFP)細胞の培地を除去し、上記Caco-2細胞の培養上清液を100 μL/well添加し、37℃、5%CO2存在下で48時間培養した。
【0059】
実験2-5:SIRT3発現量の測定
細胞固定液は、必要量に対しパラホルムアルデヒド(富士フィルム和光純薬) 0.08 g /mLを秤量、採取し、1×PBS、2 N NaOH 5 μL/mLを加えて8%パラホルムアルデヒドの溶液を作製し、4℃で保存した。
核染色溶液は、Hoechst33342を1×PBSで2 μg/mLとなるように希釈し、遮光状態で使用した。また、使用時に即時調製した。
【0060】
上記の細胞固定液で細胞固定を行った後に、上記核染色溶液を用いて核染色を行い、IN Cell Analyzer 2200を用いて細胞数とSIRT3プロモーター活性を調べた。具体的には、実験2-4で得たHaCaT (SIRT3p-EGFP)細胞の培養終了後、培養液に細胞固定液を100 μL/wellで添加し、室温15分間インキュベートした。細胞培養液と細胞固定液を合わせて除去し、1×PBSで2回洗浄した後、核染色溶液を100 μL/wellで添加した。室温で20分間静置した後、核染色溶液を除去し、1×PBSで2回洗浄した。PBSを100 μL/wellで添加し、IN Cell Analyzer 2200を用いて、EGFP蛍光強度を測定することで、SIRT3プロモーター活性を、またHoechst33342蛍光を認識することで細胞数を調べた。HaCaT(SIRT3p-EGFP)の蛍光強度を測定した画像をIN Cell Investigator High-content image analysis software(GE Healthcare)で取得し、蛍光強度の数値情報について解析し、DMSOに溶かした試料についてはDMSOのみを添加した場合を100として、液性試料についてはH2Oのみを添加した場合を100として計算を行い、蛍光値の相対値を求めた。統計処理はStudent’s t-test vs control群を行い、p<0.05をもって有意差有りとした(*p<0.05)。p<0.01となった検体は別途表記して有意差有りとした(**p<0.01)。
【0061】
結果:
実験2の結果を図1に示す。図1に示すように、本発明の生薬を投与すると、陰性対照(DMSO又はH2Oのみ及びアスタキサンチンを含むDMSO)と比べてサーチュイン3の発現量が有意に増加した。この発現量は陽性対照(ケンフェロールを含むDMSO)と比較しても優れており、本発明の生薬は優れたサーチュイン3活性化効果があることがわかる。また、この効果は腸管細胞を介して皮膚細胞で得られることが示唆される。
【0062】
実験3:活性酸素抑制作用の検討
実験2にて優れたサーチュイン3活性化効果があることがわかった上記成分について腸管細胞を介して皮膚細胞の活性酸素(ROS)を抑制する能力を検討した。
【0063】
実験3-1:HaCaT細胞への紫外線照射
HaCaT細胞は実験2-2と同じ細胞、培地、装置等を用い、同じ条件下で継代培養した。培養後、10 mLディッシュにサブコンフルエント状態のHaCaT細胞をUVクロスリンカー(CL-1000 Ultraviolet Crosslinker, UVP, Upland, CA,USA) 内でディッシュのフタを外した状態で波長302nmの紫外線B波(UVB)を10mJ/cm2照射した。
【0064】
実験3-2:間接添加法の設定
実験2-1と同じ細胞、培地、装置等を用い、同じ条件下で継代培養したCaco-2細胞を終濃度が1.0×105 cells/mLとなるように24-wellプレート(FALCON)に播種した。24時間後、実験1で調製した試料を終濃度がN-アセチル-l-システイン(NAC)については1mM又は5mM、生薬については10 μg/mLとなるように添加した。なお、試料を含まない対照としてDMSOまたはH2Oを使用した。試料を添加して更に24時間培養した。
【0065】
実験3-1で紫外線照射したHaCaT細胞は終濃度が6.0×105 cells/mLとなるように96-wellブラックプレートに播種し、24時間培養した。その後、HaCaT細胞の培地を除去し、上記Caco-2細胞の培養上清液を100 μL/wel 添加し、37℃、5%CO2存在下で48時間培養した。
【0066】
実験3-3:腸管上皮細胞を介する皮膚細胞における活性酸素の抑制
HBSS(Hanks’ Balanced Salts (SIGMA , America))9.7 gとNaHCO3(富士フィルム和光純薬)0.35 gを900 mLの超純水に入れ、スターラーで攪拌させた。粉末が完全に溶けたら、pH 7.0(±0.1~0.3)で調整し、メスアップして1 Lにした。そして、0.22 μmフィルター滅菌(Merck KGaA, Darmstadt, Germany)を行った後遮光をし、4℃で保存した。
【0067】
BES-H2O2-Ac 1 mgをエタノール 750 μLに溶かし、遮光した後4℃で保存した。使用時には適宜、10 mM HEPES(pH 7.4)で500倍希釈した。
【0068】
実験3-2で得られたCaco-2細胞の培養上清液を添加して培養したHaCaT細胞を1×PBSにより洗浄した後、トリプシンで細胞を剥がし、96-wellプレートに1.0×105 cells/mLになるように播種した。その後、24時間培養を行った。その後、IN Cell Analyzer 2200でBES染色により細胞内活性酸素消去能及び細胞数を測定した。培養後の上清をすべて取り除き、HBSSで1回洗浄した後、10 mM HEPESで400倍希釈したBES-H2O2-Acと500倍希釈したHoechst 33342 solutionを100 μL/well添加し、37℃遮光下で30分間インキュベートした。30分後、染色液を除き、HBSSで1回洗った後、HBSSを100 μL/well添加してIN Cell Analyzer 2200にて測定した。画像は、IN Cell Investigator High-content image analysis software (GE Healthcare)で数値化および解析し、DMSOに溶かした試料についてはDMSOのみを添加した場合を100として、液性試料についてはH2Oのみを添加した場合を100として計算を行い、相対値を求めた。統計処理はStudent’s t-test vs control群を行い、p<0.05をもって有意差有りとした(*p<0.05)。p<0.01となった検体は別途表記して有意差有りとした(**p<0.01)。
【0069】
実験3の結果を図2に示す。図2に示すように、本発明の生薬を投与すると、陰性対照(control)と比べてUVBにより惹起されたHaCaT細胞のROS量が有意に減少した。この活性酸素消去能は陽性対照(NAC)と比較しても優れており、本発明の生薬は優れた活性酸素消去能があり、この効果は腸管細胞を介して皮膚細胞で得られることが示唆される。
【0070】
実験4:直接添加によるサーチュイン3活性化作用の検討
試料を表皮角化細胞の培地に直接添加すること以外は実験2と同じ方法によりサーチュイン3の発現を調べた。つまり、Caco-2細胞の培養上清液の代わりに、実験1で調製した試料を直接添加する以外は実験2-4と同様の方法でHaCaT(SIRT3p-EGFP)細胞を培養した。より具体的には、実験2-3で得たHaCaT(SIRT3p-EGFP)細胞の終濃度が6.0×105 cells/mLとなるように実験2-3と同じ培地を用いて96-wellブラックプレートに播種し、24時間培養後、培地を除去し、上記実験1で調製した試料をレスベラトロールとアスタキサンチンについては10 μM、生薬については10 μg/mLとなるように直接添加し、37℃、5%CO2存在下で48時間培養した。その後、実験2-5と同様にして、SIRT3発現量を測定し統計処理を行った。
【0071】
結果:
実験4の結果を図3に示す。図3に示すように、陽性対照のレスベラトロールは陰性対照(DMSO又はH2Oのみ及びアスタキサンチンを含むDMSO)と比べてサーチュイン3の発現量が有意に増加した。一方、いずれの候補試料でも、直接HaCaT細胞に添加した場合、サーチュイン3の発現に増加は見られなかった。これは、腸管上皮細胞の培地添加で得た培養液(分泌物)をHaCat細胞に添加した間接法においてサーチュイン3発現量の有意な増加を示した実験2の結果とは対照的である。このことから、これらの試料は、腸管上皮細胞を介して皮膚細胞のサーチュイン3を活性化するが、直接皮膚細胞に添加してもサーチュイン3を活性化しないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、ナルコユリ、ナツメ、リンゴンベリー、クコの実、ケイヒ、キジツ、ブロッコリースプラウト、カンゾウ、ローズヒップ、ニンジン、コウジン、チンピ、ジンジャー、ロゼア、ウコン、大麦若葉、イチョウ葉、及びチョウジからなる群より選択される1つまたは複数の生薬を有効成分として含有するサーチュイン3活性化剤の摂取、特に、経口投与、経腸投与といった腸管を介する摂取により、腸管細胞を介して皮膚細胞のサーチュイン3が活性化され、皮膚の抗老化、寿命延長、UVBなどの紫外線による活性酸素抑制、ダメージの修復、抗炎症といった皮膚状態の改善を図ることができる。
図1
図2
図3
【配列表】
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