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特開2023-98835酸処理充填材をベースにした良好な透明度を持つ自己接着型歯科用コンポジットセメント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098835
(43)【公開日】2023-07-11
(54)【発明の名称】酸処理充填材をベースにした良好な透明度を持つ自己接着型歯科用コンポジットセメント
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/887 20200101AFI20230704BHJP
   A61K 6/836 20200101ALI20230704BHJP
   A61K 6/62 20200101ALI20230704BHJP
【FI】
A61K6/887
A61K6/836
A61K6/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022196964
(22)【出願日】2022-12-09
(31)【優先権主張番号】21218194
(32)【優先日】2021-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】501151539
【氏名又は名称】イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL-9494 Schaan Liechtenstein
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ノルベルト モスツナー
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドロス ジアナスミディス
(72)【発明者】
【氏名】デルフィーネ カテル
(72)【発明者】
【氏名】ヨハン カテル
(72)【発明者】
【氏名】アンディ ブロート
(72)【発明者】
【氏名】ティム ハルトナー
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン リッツベルガー
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ビーレック
(72)【発明者】
【氏名】マルク ディトマー
(72)【発明者】
【氏名】バーバラ グラーベンバウアー
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089BA01
4C089BA02
4C089BA03
4C089BA04
4C089BA05
4C089BA07
4C089BA12
4C089BA13
4C089BA15
4C089BD01
4C089BD07
4C089BD10
4C089BD11
4C089BE03
4C089CA03
(57)【要約】
【課題】酸処理充填材をベースにした、良好な透明度を持つ接着型歯科用コンポジットセメントを提供すること。
【解決手段】酸基を持たない少なくとも1種のラジカル重合性モノマー、酸基を含有する少なくとも1種のラジカル重合性モノマー、少なくとも1種のフルオロアルミノシリケートガラス充填材および/または放射線不透過性ガラス充填材、ならびにラジカル重合のための少なくとも1種の開始剤を含み、充填材が酸処理フルオロアルミノシリケートガラス充填材および/またはガラス充填材である、ラジカル重合性歯科用材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸基を持たない少なくとも1種のラジカル重合性モノマー、酸基を含有する少なくとも1種のラジカル重合性モノマー、少なくとも1種のフルオロアルミノシリケートガラス充填材および/または放射線不透過性ガラス充填材、ならびに少なくとも1種のラジカル重合開始剤を含み、前記フルオロアルミノシリケートガラス充填材および/またはガラス充填材が酸洗浄されたことを特徴とする、ラジカル重合性組成物。
【請求項2】
組成(重量%)が
SiO:20~80;B:2~15、BaOもしくはSrO:0~40;Al:2~20;CaOおよび/もしくはMgO:0~20;NaO、KO、CsO:それぞれ0~10;WO:0~20;ZnO:0~20;La:0~10;ZrO:0~15;P:0~30;Ta、Nb、もしくはYb:0~5;およびCaFおよび/もしくはSrF 0~10;もしくは好ましくはSiO:50~75;B:2~15;BaOもしくはSrO:2~35;Al:2~15;CaOおよび/もしくはMgO:0~10;およびNaO:0~10である放射線不透過性ガラス充填材;ならびに/または組成(重量%):SiO:20~35;Al:15~35;BaOもしくはSrO:10~25;CaO:0~20;ZnO:0~15;P:5~20;NaO、KO、CsO:それぞれ0~10;およびCaF:0.5~20重量%;もしくは好ましくはSiO:20~30;Al:20~30;BaOもしくはSrO:10~25;CaO:5~20;P:5~20;NaO:0~10;およびCaF:5~20重量%を有するフルオロアルミノシリケートガラス充填材を含み、全ての数値が前記ガラスの全質量に対するものであり、フッ素以外の全ての成分が酸化物として計算される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記フルオロアルミノシリケートガラス充填材またはガラス充填材が、塩酸、硝酸、ギ酸、および/または酢酸で洗浄された、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
それぞれの場合に前記組成物の全質量に対して、
a) 10~80重量%、好ましくは20~75重量%、特に好ましくは30~70重量%の、酸洗浄された少なくとも1種のフルオロアルミノシリケートガラス充填材および/またはガラス充填材、
b) 必要に応じて0.1~25重量%、好ましくは1~20重量%、特に好ましくは2~15重量%の1種または複数のさらなる充填材、
c) 1~15重量%、好ましくは2~12重量%、特に好ましくは3~10重量%の、酸基を含有する少なくとも1種のモノマー、
d) 5~40重量%、好ましくは8~30重量%、特に好ましくは10~25重量%の、酸基を持たない少なくとも1種の多官能性モノマー、
e) 0~10重量%、好ましくは0~8重量%、特に好ましくは1~5重量%の1種または複数のオリゴマーカルボン酸、
f) 1~20重量%、好ましくは2~15重量%、特に好ましくは3~10重量%の、酸基を持たない1種または複数の一官能性モノマー、
g) 0.1~8重量%、好ましくは0.5~6重量%、特に好ましくは1~5重量%のラジカル重合用開始剤、
h) 0~20重量%、好ましくは0.2~10重量%、特に好ましくは1~7重量%の水、ならびに
i) 0.01~5重量%、好ましくは0.1~3重量%、特に好ましくは0.1~2重量%の1種または複数の添加剤
を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
酸基を持たないラジカル重合性モノマーとして、ビスフェノールA-ジメタクリレート、ビス-GMA(メタクリル酸およびビスフェノールA-ジグリシジルエーテルの付加生成物)、エトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、例えば3個のエトキシ基を持つビスフェノール-A-ジメタクリレートもしくは2,2-ビス[4-(2-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、UDMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレートおよび2,2,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネートの付加生成物)、テトラメチルキシリレンジウレタンエチレングリコールジ(メタ)アクリレートもしくはテトラメチルキシリレンジウレタン-2-メチルエチレングリコールジウレタンジ(メタ)アクリレート(V380)、ジ-、トリ-、もしくはテトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、およびグリセロールジ-およびトリメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート(DMA)、ビス(メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ-[5.2.1.02,6]デカン(DCP)、ポリエチレングリコールもしくはポリプロピレングリコールジメタクリレート、例えばポリエチレングリコール200-ジメタクリレート(PEG-200-DMA)もしくはポリエチレングリコール400-ジメタクリレート(-PEG-400-DMA)、1,12-ドデカンジオールジメタクリレート、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸とジイソシアネートとのウレタン、例えば2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートもしくはイソホロンジイソシアネートとのウレタン、ピロリドン、例えば1,6-ビス(3-ビニル-2-ピロリドニル)-ヘキサン、ビスアクリルアミド、例えばメチレンもしくはエチレンビスアクリルアミド、ビス(メタ)アクリルアミド、例えばN,N’-ジエチル-1,3-ビス(アクリルアミド)プロパン、1,3-ビス(メタクリルアミド)プロパン、1,4-ビス(アクリルアミド)ブタン、または1,4-ビス(アクリロイル)ピペラジン、ならびにこれらの混合物から選択される少なくとも1種の多官能性モノマー(d)を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
酸基を含有するモノマー(c)として、室温でpKaが0.5~4.0、より好ましくは1.0~3.5、最も好ましくは1.5~2.5である少なくとも1種のモノマーを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
酸基を含有するモノマー(c)として、リン酸エステル基またはホスホン酸基を含有するモノマー、好ましくはリン酸水素2-メタクリロイルオキシエチルフェニル、リン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシル(MDP)、リン酸二水素グリセロールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリロイルオキシホスフェート、4-ビニルベンジルホスホン酸、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]アクリル酸および/または2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]アクリル酸2,4,6-トリメチルフェニルエステル、および/または4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物、10-メタクリロイルオキシデシルマロン酸、N-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)-N-フェニルグリシン、および/または4-ビニル安息香酸から選択される少なくとも1種のモノマーを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
オリゴマーカルボン酸(e)として、数平均分子量が7,200g/mol未満、好ましくは7,000g/mol未満、特に好ましくは6,800g/mol未満のポリアクリル酸を含む、請求項4から7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
酸基を持たないフリーラジカル重合性モノマーとして、ベンジル、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、p-クミル-フェノキシエチレングリコールメタクリレート(CMP-1E)および2-([1,1’-ビフェニル]-2-オキシ)エチルメタクリレート(MA-836)、トリシクロデカンメチル(メタ)アクリレート、2-(2-ビフェニルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルプロピル(メタ)アクリレート、2-アセトキシエチルメタクリレート、ならびにこれらの混合物から選択される少なくとも1種の一官能性モノマー(f)を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
触媒ペーストおよびベースペーストを含み、前記触媒ペーストが、それぞれの場合に前記触媒ペーストの全質量に対して、
a) 10~80重量%、好ましくは20~75重量%、特に好ましくは30~70重量%の少なくとも1種の酸処理FASおよび/またはガラス充填材、
b) 0.1~25重量%、好ましくは1~20重量%、特に好ましくは2~15重量%の1種または複数のさらなる充填材、
c) 2~30重量%、好ましくは4~24重量%、特に好ましくは6~20重量%の、酸基を含有する少なくとも1種のモノマー、
d) 5~40重量%、好ましくは8~30重量%、特に好ましくは10~25重量%の、酸基を持たない少なくとも1種の多官能性モノマー、
e) 0~10重量%、好ましくは0~8重量%、特に好ましくは1~5重量%の1種または複数のオリゴマーカルボン酸、
f) 1~20重量%、好ましくは2~15重量%、特に好ましくは3~10重量%の1種または複数の一官能性モノマー、
g) 0.01~16重量%、好ましくは0.2~12重量%、特に好ましくは0.5~10重量%の、少なくとも1種の過酸化物および/またはヒドロペルオキシドおよび必要に応じて少なくとも1種の光開始剤、
h) 0~20重量%、好ましくは0.2~10重量%、特に好ましくは1~7重量%の水、ならびに
i) 0.001~5重量%、好ましくは0.002~3重量%、特に好ましくは0.0051~2重量%の1種または複数の添加剤
を含み、
前記ベースペーストが、それぞれの場合に前記ベースペーストの全質量に対して、
a) 10~80重量%、好ましくは20~75重量%、特に好ましくは30~70重量%の少なくとも1種の酸処理FASおよび/またはガラス充填材、
b) 0.1~25重量%、好ましくは1~20重量%、特に好ましくは2~15重量%の1種または複数のさらなる充填材、
d) 5~40重量%、好ましくは8~30重量%、特に好ましくは10~25重量%の、酸基を持たない少なくとも1種の多官能性モノマー、
f) 1~20重量%、好ましくは2~15重量%、特に好ましくは3~10重量%の、酸基を持たない1種または複数の一官能性モノマー、
g) 0.01~16重量%、好ましくは0.3~12重量%、特に好ましくは1~10重量%の、少なくとも1種の適切な還元剤および必要に応じて少なくとも1種の光開始剤、
h) 0~20重量%、好ましくは0.2~10重量%、特に好ましくは1~7重量%の水、ならびに
i) 0.001~5重量%、好ましくは0.002~3重量%、特に好ましくは0.0051~2重量%の1種または複数の添加剤
を含む、請求項4から9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
歯科用材料として、好ましくは歯科用セメント、コーティング材料、またはベニア材料、修復用コンポジット、または合着用セメントとしての、治療的使用のための、請求項1から10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
歯科修復物、特にインレー、オンレー、クラウン、またはブリッジを調製または補修するための、請求項1から10のいずれか一項に記載の組成物の非治療的使用。
【請求項13】
フルオロアルミノシリケートガラス充填材またはガラス充填材を酸で処理する方法であって、
(i) 前記フルオロアルミノシリケートガラス充填材またはガラス充填材が、有機および/または無機酸の、好ましくは塩酸、硝酸、ギ酸、および/または酢酸の水性溶液中に分散され、前記酸溶液が好ましくは0.1~5mol/l、特に好ましくは0.5~3mol/lの酸濃度を有し、
(ii) 前記分散液が、好ましくは0.5~24時間、より好ましくは1~5時間撹拌され、
(iii) 次いで前記充填材が分離され、脱イオン水で洗浄され、
(iv) 前記充填材が分離され乾燥される、方法。
【請求項14】
ステップ(iii)において、前記充填材が脱イオン水中に分散され、次いで前記分散液を1~60分間、好ましくは2~20分間撹拌し、このプロセスを好ましくは1~5回、より好ましくは3回繰り返す、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
歯科用ラジカル重合性組成物を安定化させるための、請求項13または14に従い調製可能なフルオロアルミノシリケートガラス充填材またはガラス充填材の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科材料として、例えば歯科用セメント、充填コンポジット、またはベニア材として、およびインレー、オンレー、またはクラウンの製作のために特に適切な、改善された透明度を持つラジカル重合性の自己接着型コンポジットに関する。
【背景技術】
【0002】
コンポジットは主に、直接および間接的な充填材を製作するために歯科分野で使用され、即ち、直接および間接的な充填コンポジットとして、およびセメントとして使用される。コンポジットの重合性有機母材は通常、モノマー、開始剤成分、および安定化剤の混合物からなる。ジメタクリレートの混合物は通常、モノマーとして使用され、これは一官能性および二官能化モノマーを含有していてもよい。一般に使用されるジメタクリレートは、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]プロパン(ビス-GMA)、1,6-ビス[2-メタクリロイルオキシエトキシカルボニルアミノ]-2,2,4-トリメチルヘキサン(UDMA)であり、これは高い粘度を有し、良好な機械的性質および低い重合収縮を持つポリマーを生成する。トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、1,10-デカンジオールジメタクリレート(DMA)、またはビス(3-メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ-[5.2.1.02,6]デカン(DCP)は主に、反応性希釈剤として使用される。一官能性メタクリレート、例えばp-クミルフェノキシエチレングリコールメタクリレート(CMP-1E)も、粘度を低減させるのに適切であり、網状構造の密度の低減および増大する二重結合変換を引き起こす。
【0003】
自己接着型コンポジットを生成するには、リン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシル(MDP)などの強酸性接着剤モノマーが使用され、これは歯の構造をエッチングしかつイオン性の関係によってエナメル/象牙質への接着を引き起こす。接着剤モノマーは、自己接着の性質をコンポジットに与え、したがってコンポジットは、エナメル/象牙質接着剤による歯の構造の前処理なしに使用することが可能であり、それらの使用を特に魅力あるものにしている。
【0004】
有機母材に加え、コンポジットは1種または複数の充填材を含有し、それらは通常、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランなどの重合性カップリング剤で表面修飾されている。充填材は、材料の機械的性質(強度、弾性率、耐摩耗性)および加工特性(ペーストのコンシステンシー、彫刻性)を改善し、放射線不透過性を与える。
【0005】
酸性接着剤モノマーがしばしば、充填材と不利に相互作用することは問題である。例えば、酸性接着剤モノマーは、不溶性塩の形成によって充填材の表面に結合し、または保存中にイオンが充填材から放出された状態で不十分に可溶性の塩を形成する。これは樹脂母材中での接着剤モノマー濃度の著しい低減をもたらし、接着特性の低減またはさらなる損失に関連付けられるものである。したがって酸性接着剤モノマーを持つコンポジットには、限られた保存安定性しかない。
【0006】
メタクリレートをベースにした歯科材料は、適用分野に応じてラジカル光開始剤、熱開始剤、またはレドックス開始剤系を使用して、ラジカル重合によって硬化する。二重硬化系は、光開始剤およびレドックス開始剤の組合せを含有する。
【0007】
コンポジットセメントは、不十分な透過性に起因して光硬化が可能ではない場合であっても十分な硬化を確実にするので、通常はレドックス系を含有する。ジベンゾイルペルオキシド(DBPO)と第三級芳香族アミン、例えばN,N-ジエタノール-p-トルイジン(DEPT)、N,N-ジメチル-sym.-キシリジン(DMSX)、またはN,N-ジエチル-3,5-ジ-tert-ブチルアニリン(DABA)との混合物をベースにしたレドックス開始剤系が、典型的には使用される。DBPO/アミンをベースにしたレドックス開始剤系でのラジカル形成は、強酸によって、したがって強酸性接着剤モノマーによっても大きく損なわれるので、アセチルチオ尿素などのチオ尿素と組み合わせてクメンヒドロペルオキシドを含有するレドックス開始剤系が好ましい。
【0008】
レドックス開始剤の十分な保存安定性を確実にするために、レドックス開始剤系をベースにした材料は通常、いわゆる2成分系(2C)として使用され、酸化剤(ペルオキシドまたはヒドロペルオキシド)および還元剤(アミン、スルフィン酸、バルビツレート、チオ尿素など)は別々の成分として組み込まれている。これらは使用直前に一緒に混合される。混合では、成分を保持するための別々の円筒状チャンバーを有するダブルプッシュシリンジが好ましく使用される。成分は、2つの相互接続されたピストンによって同時にチャンバーから押し出され、ノズル内で一緒に混合される。可能な限り均質な混合物を得るには、ほぼ等しい体積の割合で成分を一緒に混合することが有利である。
【0009】
従来の合着用セメント、例えばZnOオイゲノールセメント、リン酸亜鉛セメント、ガラスアイオノマーセメント(GIC)、および樹脂修飾ガラスアイオノマーセメント(RMGI)は、成分の混合をさらにより難しくする粉末成分を含有するので、ダブルプッシュシリンジで使用するのに適切ではない。さらに、ガラスアイオノマーセメントは、ごく低い透明度および比較的不十分な機械的性質を有する。
【0010】
従来のガラスアイオノマーセメント(GIC)は、高分子量ポリアクリル酸(PAA、数平均モル質量は30,000g/molより大きい)または同等のモル質量のアクリル酸およびイタコン酸のコポリマーの水性溶液を液体成分として、およびカルシウムフッ素アルミニウムガラスを粉末成分として含有する。成分を混合後、純粋にイオン性のアイオノマー形成によって硬化する。ガラスアイオノマーセメントの欠点は、その低い透明度および不十分な機械的性質である。
【0011】
樹脂修飾ガラスアイオノマーセメント(RMGI)は、2-ヒドロキシエチル-メタクリレート(HEMA)などの追加の親水性モノマーを含有する。それらは共に酸・塩基反応によっておよびラジカル重合によって硬化する。従来のGICと比較すると、改善された曲げ強度によって特徴付けられる。
【0012】
米国特許第8053490号明細書は、酸基を含有するモノマーまたはオリゴマーの水性溶液と反応したフルオロアルミノシリケートガラス充填材(FAS)を含有するフッ化物放出歯科材料を開示する。酸基を含有するモノマーまたはオリゴマーは、充填材表面に結合され、充填材とセメントの反応性成分との反応を防止すると言われている。材料は、低い透明度および満足のいかない機械的性質によって特徴付けられる。
【0013】
特開2011-6030741号公報は、シランおよびポリマーカルボン酸で表面修飾されたフルオロボロアルミノシリケートガラスを充填材として含有する歯科材料を開示する。充填材は、球状構造であり、フッ化物イオンおよびその他のイオンの持続放出を示すと言われている。歯科材料は、象牙質およびエナメルへの自己接着を示さず、満足のいかない機械的性質しか示さない。
【0014】
米国特許出願公開第2016/0324729号明細書は、その表面が最初にシラン化され次いで不飽和カルボン酸で修飾され、それがケイ素原子を介して充填材表面に結合する、ガラスアイオノマーセメント用の充填材を開示する。カルボン酸のカルボキシ基は、ガラスアイオノマーセメントの構成要素と相互作用し、したがってセメントを安定化させると言われている。材料は、適度な透明度および不十分な機械的性質を有する。
【0015】
中国特許出願公開第102976618号明細書は、25~35重量%のAlO、30~45重量%のSiO、2~8重量%のNaO、5~15重量%のCaF、および5~8重量%のSrO、および/またはCaOを含有する、水をベースにしたガラスアイオノマーセメント用の低コストガラス充填材を開示する。ガラス粉末を、塩酸または酢酸で、室温で処理し、次いで乾燥する。それらは安定な品質および良好な機械的性質を有し、フッ化物イオンを連続して放出すると言われている。ガラスアイオノマーセメントは、低い透明度および不十分な機械的性質を有する。
【0016】
Dai et al, Int. J. Nanomedicine 14 (2019) 9185は、リン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシル(MDP)による塩基性ZrO充填材の表面処理が、歯科用コンポジットの曲げ強度を改善できること、およびZr(OH)によるZrOの事前のコーティングがMDPとジルコニアとの結合を改善することを示している。表面処理された充填材をベースにする歯科材料は、自己接着せず、低い透明度を有する。
【0017】
米国特許第8071662号明細書によれば、3-メタクリロイルオキシプロピルスルホン酸などの強酸によるZrOなどの塩基性充填材の表面修飾は、自己エッチング歯科材料の保存安定性を改善すると言われている。開示される歯科材料は、自己エッチングせず、満足のいかない透明度を有する。
独国特許出願公開第2446546号明細書は、酸可溶性不純物を除去するための、含水鉱酸による、天然に生ずるシリカの処理を開示する。シリカは、歯科目的の充填材として適切であると言われる。放射線不透過性または自己接着性歯科材料は開示されていない。
米国特許出願公開第2001/0034309号明細書は、有機物質、例えば炭素を除去するための、過酸または過酸塩による、無機充填材の処理を開示する。有機物質の除去は、シランカップリング剤と充填材表面との結合、したがって、ラジカル重合性歯科材料の有機母材中への充填材の組込みを、改善することを意図する。自己接着材料は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第8053490号明細書
【特許文献2】特開2011-6030741号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2016/0324729号明細書
【特許文献4】中国特許出願公開第102976618号明細書
【特許文献5】米国特許第8071662号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第2446546号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2001/0034309号明細書
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Dai et al, Int. J. Nanomedicine 14 (2019) 9185
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の目的は、ダブルプッシュシリンジを使用して2成分系として混合し十分適用することができる、良好な透明度および良好な機械的性質を持つ保存安定な自己接着型歯科用コンポジットを提供することである。コンポジットは、歯科用合着用セメントとして特に適切であるべきであり、かつ放射線不透過性であるべきである。
【0021】
この目的は、少なくとも1種のラジカル重合性モノマー、少なくとも1種の酸性のラジカル重合性モノマー、少なくとも1種のフルオロアルミノシリケートガラス充填材および/または放射線不透過性ガラス充填材、ならびにラジカル重合のための少なくとも1種の開始剤を含む、充填材を含有するラジカル重合性組成物によって達成される。組成物は、充填材が酸で前処理されていることを、特徴とする。意外にも、充填材の酸処理は組成物の保存安定性の著しい増大を引き起こすことが見出された。
本出願は、例えば、下記項目を提供する。
(リクレーム)
(項目1)
酸基を持たない少なくとも1種のラジカル重合性モノマー、酸基を含有する少なくとも1種のラジカル重合性モノマー、少なくとも1種のフルオロアルミノシリケートガラス充填材および/または放射線不透過性ガラス充填材、ならびに少なくとも1種のラジカル重合開始剤を含み、前記フルオロアルミノシリケートガラス充填材および/またはガラス充填材が酸洗浄されたことを特徴とする、ラジカル重合性組成物。
(項目2)
組成(重量%)が
SiO:20~80;B:2~15、BaOもしくはSrO:0~40;Al:2~20;CaOおよび/もしくはMgO:0~20;NaO、KO、CsO:それぞれ0~10;WO:0~20;ZnO:0~20;La:0~10;ZrO:0~15;P:0~30;Ta、Nb、もしくはYb:0~5;およびCaFおよび/もしくはSrF:0~10;もしくは好ましくはSiO:50~75;B:2~15;BaOもしくはSrO:2~35;Al:2~15;CaOおよび/もしくはMgO:0~10;およびNaO:0~10である放射線不透過性ガラス充填材;ならびに/または組成(重量%):SiO:20~35;Al:15~35;BaOもしくはSrO:10~25;CaO:0~20;ZnO:0~15;P:5~20;NaO、KO、CsO:それぞれ0~10;およびCaF:0.5~20重量%;もしくは好ましくはSiO:20~30;Al:20~30;BaOもしくはSrO:10~25;CaO:5~20;P:5~20;NaO:0~10;およびCaF:5~20重量%を有するフルオロアルミノシリケートガラス充填材を含み、全ての数値が前記ガラスの全質量に対するものであり、フッ素以外の全ての成分が酸化物として計算される、前記項目のいずれか一つに記載の組成物。
(項目3)
前記フルオロアルミノシリケートガラス充填材またはガラス充填材が、塩酸、硝酸、ギ酸、および/または酢酸で洗浄された、前記項目のいずれか一つに記載の組成物。
(項目4)
それぞれの場合に前記組成物の全質量に対して、
a) 10~80重量%、好ましくは20~75重量%、特に好ましくは30~70重量%の、酸洗浄された少なくとも1種のフルオロアルミノシリケートガラス充填材および/またはガラス充填材、
b) 必要に応じて0.1~25重量%、好ましくは1~20重量%、特に好ましくは2~15重量%の1種または複数のさらなる充填材、
c) 1~15重量%、好ましくは2~12重量%、特に好ましくは3~10重量%の、酸基を含有する少なくとも1種のモノマー、
d) 5~40重量%、好ましくは8~30重量%、特に好ましくは10~25重量%の、酸基を持たない少なくとも1種の多官能性モノマー、
e) 0~10重量%、好ましくは0~8重量%、特に好ましくは1~5重量%の1種または複数のオリゴマーカルボン酸、
f) 1~20重量%、好ましくは2~15重量%、特に好ましくは3~10重量%の、酸基を持たない1種または複数の一官能性モノマー、
g) 0.1~8重量%、好ましくは0.5~6重量%、特に好ましくは1~5重量%のラジカル重合用開始剤、
h) 0~20重量%、好ましくは0.2~10重量%、特に好ましくは1~7重量%の水、ならびに
i) 0.01~5重量%、好ましくは0.1~3重量%、特に好ましくは0.1~2重量%の1種または複数の添加剤
を含む、前記項目のいずれか一つに記載の組成物。
(項目5)
酸基を持たないラジカル重合性モノマーとして、ビスフェノールA-ジメタクリレート、ビス-GMA(メタクリル酸およびビスフェノールA-ジグリシジルエーテルの付加生成物)、エトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、例えば3個のエトキシ基を持つビスフェノール-A-ジメタクリレートもしくは2,2-ビス[4-(2-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、UDMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレートおよび2,2,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネートの付加生成物)、テトラメチルキシリレンジウレタンエチレングリコールジ(メタ)アクリレートもしくはテトラメチルキシリレンジウレタン-2-メチルエチレングリコールジウレタンジ(メタ)アクリレート(V380)、ジ-、トリ-、もしくはテトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、およびグリセロールジ-およびトリメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート(D3MA)、ビス(メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ-[5.2.1.02,6]デカン(DCP)、ポリエチレングリコールもしくはポリプロピレングリコールジメタクリレート、例えばポリエチレングリコール200-ジメタクリレート(PEG-200-DMA)もしくはポリエチレングリコール400-ジメタクリレート(-PEG-400-DMA)、1,12-ドデカンジオールジメタクリレート、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸とジイソシアネートとのウレタン、例えば2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートもしくはイソホロンジイソシアネートとのウレタン、ピロリドン、例えば1,6-ビス(3-ビニル-2-ピロリドニル)-ヘキサン、ビスアクリルアミド、例えばメチレンもしくはエチレンビスアクリルアミド、ビス(メタ)アクリルアミド、例えばN,N’-ジエチル-1,3-ビス(アクリルアミド)プロパン、1,3-ビス(メタクリルアミド)プロパン、1,4-ビス(アクリルアミド)ブタン、または1,4-ビス(アクリロイル)ピペラジン、ならびにこれらの混合物から選択される少なくとも1種の多官能性モノマー(d)を含む、前記項目のいずれか一つに記載の組成物。
(項目6)
酸基を含有するモノマー(c)として、室温でpKaが0.5~4.0、より好ましくは1.0~3.5、最も好ましくは1.5~2.5である少なくとも1種のモノマーを含む、前記項目のいずれか一つに記載の組成物。
(項目7)
酸基を含有するモノマー(c)として、リン酸エステル基またはホスホン酸基を含有するモノマー、好ましくはリン酸水素2-メタクリロイルオキシエチルフェニル、リン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシル(MDP)、リン酸二水素グリセロールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリロイルオキシホスフェート、4-ビニルベンジルホスホン酸、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]アクリル酸および/または2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]アクリル酸2,4,6-トリメチルフェニルエステル、および/または4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物、10-メタクリロイルオキシデシルマロン酸、N-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)-N-フェニルグリシン、および/または4-ビニル安息香酸から選択される少なくとも1種のモノマーを含む、前記項目のいずれか一つに記載の組成物。
(項目8)
オリゴマーカルボン酸(e)として、数平均分子量が7,200g/mol未満、好ましくは7,000g/mol未満、特に好ましくは6,800g/mol未満のポリアクリル酸を含む、前記項目のいずれか一つに記載の組成物。
(項目9)
酸基を持たないフリーラジカル重合性モノマーとして、ベンジル、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、p-クミル-フェノキシエチレングリコールメタクリレート(CMP-1E)および2-([1,1’-ビフェニル]-2-オキシ)エチルメタクリレート(MA-836)、トリシクロデカンメチル(メタ)アクリレート、2-(2-ビフェニルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルプロピル(メタ)アクリレート、2-アセトキシエチルメタクリレート、ならびにこれらの混合物から選択される少なくとも1種の一官能性モノマー(f)を含む、前記項目のいずれか一つに記載の組成物。
(項目10)
触媒ペーストおよびベースペーストを含み、前記触媒ペーストが、それぞれの場合に前記触媒ペーストの全質量に対して、
a) 10~80重量%、好ましくは20~75重量%、特に好ましくは30~70重量%の少なくとも1種の酸処理FASおよび/またはガラス充填材、
b) 0.1~25重量%、好ましくは1~20重量%、特に好ましくは2~15重量%の1種または複数のさらなる充填材、
c) 2~30重量%、好ましくは4~24重量%、特に好ましくは6~20重量%の、酸基を含有する少なくとも1種のモノマー、
d) 5~40重量%、好ましくは8~30重量%、特に好ましくは10~25重量%の、酸基を持たない少なくとも1種の多官能性モノマー、
e) 0~10重量%、好ましくは0~8重量%、特に好ましくは1~5重量%の1種または複数のオリゴマーカルボン酸、
f) 1~20重量%、好ましくは2~15重量%、特に好ましくは3~10重量%の1種または複数の一官能性モノマー、
g) 0.01~16重量%、好ましくは0.2~12重量%、特に好ましくは0.5~10重量%の、少なくとも1種の過酸化物および/またはヒドロペルオキシドおよび必要に応じて少なくとも1種の光開始剤、
h) 0~20重量%、好ましくは0.2~10重量%、特に好ましくは1~7重量%の水、ならびに
i) 0.001~5重量%、好ましくは0.002~3重量%、特に好ましくは0.0051~2重量%の1種または複数の添加剤
を含み、
前記ベースペーストが、それぞれの場合に前記ベースペーストの全質量に対して、
a) 10~80重量%、好ましくは20~75重量%、特に好ましくは30~70重量%の少なくとも1種の酸処理FASおよび/またはガラス充填材、
b) 0.1~25重量%、好ましくは1~20重量%、特に好ましくは2~15重量%の1種または複数のさらなる充填材、
d) 5~40重量%、好ましくは8~30重量%、特に好ましくは10~25重量%の、酸基を持たない少なくとも1種の多官能性モノマー、
f) 1~20重量%、好ましくは2~15重量%、特に好ましくは3~10重量%の、酸基を持たない1種または複数の一官能性モノマー、
g) 0.01~16重量%、好ましくは0.3~12重量%、特に好ましくは1~10重量%の、少なくとも1種の適切な還元剤および必要に応じて少なくとも1種の光開始剤、
h) 0~20重量%、好ましくは0.2~10重量%、特に好ましくは1~7重量%の水、ならびに
i) 0.001~5重量%、好ましくは0.002~3重量%、特に好ましくは0.0051~2重量%の1種または複数の添加剤
を含む、前記項目のいずれか一つに記載の組成物。
(項目11)
歯科用材料として、好ましくは歯科用セメント、コーティング材料、またはベニア材料、修復用コンポジット、または合着用セメントとしての、治療的使用のための、前記項目のいずれか一つに記載の組成物。
(項目12)
歯科修復物、特にインレー、オンレー、クラウン、またはブリッジを調製または補修するための、前記項目のいずれか一つに記載の組成物の非治療的使用。
(項目13)
フルオロアルミノシリケートガラス充填材またはガラス充填材を酸で処理する方法であって、
(i) 前記フルオロアルミノシリケートガラス充填材またはガラス充填材が、有機および/または無機酸の、好ましくは塩酸、硝酸、ギ酸、および/または酢酸の水性溶液中に分散され、前記酸溶液が好ましくは0.1~5mol/l、特に好ましくは0.5~3mol/lの酸濃度を有し、
(ii) 前記分散液が、好ましくは0.5~24時間、より好ましくは1~5時間撹拌され、
(iii) 次いで前記充填材が分離され、脱イオン水で洗浄され、
(iv) 前記充填材が分離され乾燥される、方法。
(項目14)
ステップ(iii)において、前記充填材が脱イオン水中に分散され、次いで前記分散液を1~60分間、好ましくは2~20分間撹拌し、このプロセスを好ましくは1~5回、より好ましくは3回繰り返す、前記項目のいずれか一つに記載の方法。
(項目15)
歯科用ラジカル重合性組成物を安定化させるための、前記項目のいずれか一つに従い調製可能なフルオロアルミノシリケートガラス充填材またはガラス充填材の使用。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、酸基を持たない少なくとも1種のラジカル重合性モノマー、酸基を含有する少なくとも1種のラジカル重合性モノマー、少なくとも1種のフルオロアルミノシリケートガラス充填材および/または放射線不透過性ガラス充填材、ならびにラジカル重合用の少なくとも1種の開始剤を含むラジカル重合性歯科材料に関し、前記充填材が酸洗浄されたフルオロアルミノシリケートガラス充填材および/またはガラス充填材である。
【0023】
本発明による組成物は、少なくとも1種のフルオロアルミノシリケートガラス充填材(FAS充填材)および/または放射線不透過性ガラス充填材を含有する。充填材を含有する組成物は、コンポジットと呼ばれる。
【0024】
好ましい放射線不透過性ガラス充填材は、下記の組成(重量%)を有する:SiO:20~80;B:2~15;BaOまたはSrO:0~40;Al:2~20;CaOおよび/またはMgO:0~20;NaO、KO、CsO:それぞれ0~10;WO:0~20;ZnO:0~20;La:0~10;ZrO:0~15;P:0~30;Ta、Nb、またはYb:0~5;ならびにCaFまたはSrF:0~10。組成(重量%):SiO:50~75;B:2~15;BaOまたはSrO:2~35;Al:2~15;CaOおよび/またはMgO:0~10、ならびにNaO:0~10を持つ放射線不透過性ガラス充填材が、特に好ましい。
【0025】
特に好ましいFAS充填材は、下記の組成(重量%)を有する:SiO:20~35;Al:15~35;BaOまたはSrO:10~25;CaO:0~20;ZnO:0~15;P:5~20;NaO、KO、CsO:それぞれ0~10;ならびにCaF:0.5~20。組成(重量%):SiO:20~30;Al:20~30;BaOまたはSrO:10~25;CaO:5~20;P:5~20;NaO:0~10;およびCaF:5~20を持つFAS充填材が特に好ましい。
【0026】
全てのパーセンテージは、ガラスおよびガラスセラミックでよくあるように、酸化物として計算された、フッ素を除く成分を持つガラスの全質量に対するものである。
【0027】
本発明による組成物は、組成物の全質量に対し、それぞれの場合にFAS充填材および/または放射線不透過性ガラス充填材を好ましくは10から80重量%、より好ましくは20から75重量%、最も好ましくは30から70重量%含有する。
【0028】
FAS充填材および放射線不透過性ガラス充填材は、好ましくは0.2~20μm、特に好ましくは0.4~5μmの平均粒径を有する。
【0029】
他に指示しない限り、本明細書における全ての粒径は体積平均粒径(D50値)であり、即ち、全ての粒子の全体積の50%が、指示される値よりも小さい直径を有する粒子に含有される。
【0030】
0.1μm~1,000μmの範囲での粒径の決定は、好ましくは静的光散乱(SLS)を用いて実施され、例えばLA-960静的レーザー散乱粒径分析器(堀場製作所、日本)でまたはMicrotrac S100粒径分析器(Microtrac、USA)で実施される。ここで、655nmの波長を持つレーザーダイオードおよび405nmの波長を持つLEDが、光源として使用される。異なる波長を持つ2つの光源の使用は、ただ1つの測定操作で試料の粒径分布全体の測定を可能にし、その測定は湿式測定として実施される。この目的のため、充填材の水性分散液が調製され、その散乱光がフローセル内で測定される。粒径および粒径分布を計算するための散乱光分析は、DIN/ISO 13320によるMie理論に従い実施される。1nm~0.1μmの範囲の粒径の測定は、好ましくは、水性粒子分散液の動的光散乱(DLS)によって、好ましくは波長が633nmのHe-Neレーザーで、散乱角90°および25℃で、例えばMalvern Zetasizer Nano ZS(Malvern Instruments、Malvern UK)により実施される。
【0031】
凝塊および凝集粒子の場合、一次粒径はTEM画像を用いて決定することができる。透過型電子顕微鏡法(TEM)は、好ましくはPhilips CM30 TEMを使用して、加速電圧300kVで行われる。試料調製では、粒子分散液の液滴が、炭素でコーティングされた50Åの厚さの銅格子(メッシュサイズ300メッシュ)に付着され、その後、溶媒を蒸発させる。粒子をカウントし、算術平均を計算する。
【0032】
粒状FASまたはガラス充填材の酸処理は、酸で充填材を洗浄することによって、好ましくは下記のプロセスによって実施される:
(i) 粒状FASまたはガラス充填材を、有機または好ましくは無機酸の水性溶液に分散させる。酸は、好ましくは0.1~5mol/l、特に好ましくは0.5~3mol/lの濃度で使用される。
(ii) 次いでステップ(i)からの分散液を、好ましくは0.5~24時間、より好ましくは1~5時間撹拌する。
(iii) 酸溶液中で撹拌後、充填材を分離し、脱イオン水で洗浄する。この目的のため、好ましくは水中に分散し、1~60分間、特に好ましくは2~20分間撹拌する。
(iv) 洗浄後、充填材を分離し、乾燥し、好ましくは高真空の真空乾燥炉内で、20~80℃、特に好ましくは40~60℃で乾燥する。充填材は、好ましくは一定重量まで乾燥する。
(v) 乾燥後、充填材は、好ましくは必要に応じた熱処理に供される。この目的のため、好ましくは2~12時間、特に好ましくは4~6時間、充填材のガラス転移温度よりも十分低い温度、好ましくは200~500℃、特に好ましくは300~400℃に加熱する。
【0033】
本発明によるプロセスでは、充填材を処理するのに使用される酸は、好ましくは酸処理後に充填材から完全に除去される。充填材は、酸でコーティングされない。
【0034】
酸処理は、1回または数回繰り返すことができる。ステップ(i)および(iii)は、好ましくは5~50℃の温度で、特に好ましくは室温(23℃)で実施される。温度は、それぞれの場合に溶液または分散液で測定される。
【0035】
Ca、Al、Sr、およびBaイオンとの可溶性塩を形成する酸が好ましい。ギ酸、酢酸、特に塩酸および硝酸が特に好ましい。あるいは、Ca、Al、Sr、またはBaイオンとやや可溶性の塩を形成する酸、例えばリン酸が使用され得るが、これらはそれほど好ましくない。可溶性が不十分な塩は、溶解度が0.1g/l未満(室温の水中で)の塩と定義される。本発明によれば、酸性有機モノマーおよび酸性有機ポリマーならびに過酸およびフッ化水素酸は、酸として適切ではない。
【0036】
洗浄ステップ(iii)は、好ましくは1~5回、特に好ましくは3回繰り返され、したがって酸は、充填材から完全に除去される。この目的のため、充填材はステップ(iii)の後に水から分離され、脱イオン水中に再度分散され撹拌される。洗浄は、最後の洗浄ステップにおける水のpH≧5になるまで繰り返される。
【0037】
洗浄後、充填材を、さらなる酸処理および洗浄に供することができる。酸処理および洗浄の手順は、1回または数回繰り返すことができる。
【0038】
乾燥および必要に応じた熱処理の後、本発明による充填材を、好ましくは表面修飾し、特に好ましくはシラン化する。シラン化は、好ましくはラジカル重合性シランによって、特に、例えば3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(MEMO)によって実施される。充填材は、コンポジット材料のその他の構成成分と容易に混和する。
【0039】
意外にも、充填材の酸処理は、本発明による組成物の保存安定性を著しく改善すること、および酸基を含有するラジカル重合性モノマーの含量はゆっくりと減少するだけであることが見出された。組成物は、長期保存の後であっても歯の構造に対して、特に象牙質に対して高い接着を示す。したがって酸処理は、簡単な手法で自己接着特性を持つ歯科用組成物の性質の著しい改善を可能にする。硬化後、本発明による組成物は、ガラスアイオノマーセメントと比較して高い透明度によっても特徴付けられる。
【0040】
前述のFASおよび放射線不透過性ガラス充填材に加え、本発明による組成物は、さらなる充填材を含有していてもよい。
【0041】
好ましいさらなる充填材は、金属酸化物、特に好ましくは混合酸化物であり、60~80重量%のSiOと、金属酸化物ZrO、Yb、ZnO、Ta、Nb、および/またはLaの少なくとも1種、好ましくはZrO、Yb、および/またはZnOを、総量が100%になるように含有している。混合酸化物、例えばSiO-ZrOは、例えば金属アルコキシドの加水分解的共縮合によって入手可能である。金属酸化物は、好ましくは0.05~10μmの、特に好ましくは0.1~5μmの平均粒径を有する。1種または複数の金属酸化物も、好ましくは、上述の手法で酸によって処理される。
【0042】
他の好ましい追加の充填材は、一次粒径が0.01~0.15μmの発熱性シリカまたは沈降シリカ、および粒径が0.1~15μm、好ましくは0.2~5μmの石英またはガラスセラミック粉末、および三フッ化イッテルビウムである。三フッ化イッテルビウムは、好ましくは80~900nm、特に好ましくは100~300nmの粒径を有する。これらの充填材は、それぞれの場合に組成物の全質量に対して、好ましくは0.1~25重量%、より好ましくは0.2~20重量%、最も好ましくは0.3~15重量%の量で使用される。
【0043】
さらに、いわゆるコンポジット充填材は、さらなる充填材として好ましい。これらはイソ充填材とも呼ばれる。これらはスプリンター様ポリマーであり、充填材、好ましくは発熱性SiO、ガラス充填材、および/または三フッ化イッテルビウムを含有するものである。ジメタクリレートをベースにしたポリマーが好ましい。イソ充填材の生成では、充填材(複数可)が例えばジメタクリレート樹脂母材に組み込まれ、得られたコンポジットペーストをその後、熱重合し、次いで粉砕する。
【0044】
本発明による好ましいコンポジット充填材は、例えばビス-GMA(8.80重量%)、UDMA(6.60重量%)、1,10-デカンジオールジメタクリレート(5.93重量%)、過酸化ジベンゾイル+2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(一緒に0.67重量%)、ガラス充填材(平均粒径0.4μm;53.0重量%)、およびYbF(25.0重量%)の混合物を熱硬化し、次いで硬化した材料を粉砕して所望の粒径にすることにより、調製することができる。全てのパーセンテージは、コンポジット充填材の全質量を指す。
【0045】
いわゆる不活性化充填材も、さらなる充填材として使用することができる。これらは、その表面が例えばゾルゲルベースで拡散障壁層により、または例えばPVCのポリマー層によりコーティングされたガラス充填材である。好ましい充填材は、EP2103296A1に記載されるものである。
【0046】
充填材と母材との間の結合を改善するため、充填材は好ましくは、メタクリレート官能化シラン、例えば3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面修飾される。
【0047】
本発明による組成物は、それぞれの場合に組成物の全質量に対して、1種または複数のさらなる充填材、好ましくは1種または複数の金属酸化物、発熱性シリカおよび/または沈降シリカを、好ましくは0.1~25重量%、好ましくは1~20重量%、特に好ましくは2~15重量%含有する。
【0048】
本発明による組成物は、少なくとも1種のラジカル重合性モノマー、好ましくは1種または複数の一および/または多官能性モノマーを含有する。多官能性モノマーは、2個またはそれよりも多い、好ましくは2~4個、特に好ましくは2個のラジカル重合性基を持つ化合物であることが理解される。したがって、一官能性モノマーは、ただ1つのラジカル重合性基を有する。多官能性モノマーは、架橋特性を有し、したがって架橋モノマーとも呼ばれる。好ましいラジカル重合性基は、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、およびビニル基である。
【0049】
本発明によれば、酸基を含有するモノマーと酸基を含有しないモノマーとの間を区別する。本発明による組成物は、酸基を持たない少なくとも1つのモノマーと、酸基を持つ少なくとも1つのモノマーおよび/またはオリゴマーとを含有する。本発明による組成物は、好ましくは酸基を持つモノマーおよび酸基を持たないモノマーを、1:5~1:36、より好ましくは1:6~1:25、最も好ましくは1:7~1:20の重量比で含む。
【0050】
酸基を持たないモノマー
少なくとも1種の(メタ)アクリレート、より好ましくは少なくとも1種の一官能性または多官能性メタクリレート、最も好ましくは少なくとも1種の一官能性もしくは二官能性メタクリレート、またはこれらの混合物を含む組成物が好ましい。
【0051】
好ましい一官能性(メタ)アクリレートは、ベンジル、テトラヒドロフルフリルまたはイソボルニル(メタ)アクリレート、p-クミルフェノキシエチレングリコールメタクリレート(CMP-1E)、および2-([1,1’-ビフェニル]-2-オキシ)エチルメタクリレート(MA-836)、トリシクロデカンメチル(メタ)アクリレート、2-(2-ビフェニルオキシ)エチル(メタ)アクリレートである。CMP-1EおよびMA-836が特に好ましい。
【0052】
一実施形態によれば、本発明による組成物は、好ましくは少なくとも1種の官能化一官能性(メタ)アクリレートを含む。官能化モノマーは、少なくとも1個のラジカル重合性基に加え、少なくとも1個の官能基、好ましくはヒドロキシル基を保持するモノマーと理解される。好ましい官能化モノ(メタ)アクリレートは、2-ヒドロキシエチルおよびヒドロキシエチルプロピル(メタクリレート)および2-アセトキシエチルメタクリレートである。ヒドロキシエチルメタクリレートが特に好ましい。以下に述べる酸基を含有するモノマーは、本発明の意味における官能化モノマーではない。
【0053】
好ましい二および多官能性(メタ)アクリレートは、ビスフェノール-A-ジメタクリレート、ビス-GMA(メタクリル酸とビスフェノール-A-ジグリシジルエーテルとの付加生成物)、エトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノール-A-ジメタクリレート、例えばビスフェノールAジメタクリレートSR-348c(Sartomer)であって3個のエトキシ基を持つもの、または2,2-ビス[4-(2-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルエステルとジイソシアネートとのウレタン、例えば2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートまたはイソホロンジイソシアネートとのウレタン、UDMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレートおよび2,2,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネートの付加生成物)、テトラメチルキシリレンジウレタンエチレングリコールジ(メタ)アクリレートまたはテトラメチルキシリレンジウレタン-2-メチルエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(V380)、ジ-、トリ-またはテトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ならびにグリセロールジ-およびトリメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート(DMA)、ビス(メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ-[5.2.1.02,6]デカン(DCP)、ポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールジメタクリレート、例えばポリエチレングリコール200-ジメタクリレートまたはポリエチレングリコール400-ジメタクリレート(PEG-200-またはPEG-400-DMA)、または1,12-ドデカンジオールジメタクリレートである。ビス-GMA、UDMA、V-380、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)およびPEG-400-DMA(NKエステル9G)が、特に好ましい。
【0054】
モノマーテトラメチルキシリレンジウレタンエチレングリコールジ(メタ)アクリレートまたはテトラメチルキシリレンジウレタン2-メチルエチレングリコールジウレタンジ(メタ)アクリレート(V380)は、下式:
【化1】
を有する。
【0055】
示される式において、Rラジカルはそれぞれ独立してHまたはCHであり、これらのラジカルは、同じ意味または異なる意味を有していてもよい。好ましくは、両方のラジカルがHである分子、両方のラジカルがCHである分子、および一方のラジカルがHであり他方のラジカルがCHである分子であって、HのCHに対する比が7:3であるものが好ましい分子を含有する混合物が使用される。そのような混合物は、例えば、1,3-ビス(1-イソシアナト-1-メチルエチル)ベンゼンと2-ヒドロキシプロピルメタクリレートおよび2-ヒドロキシエチルメタクリレートとを反応させることによって得ることが可能である。
【0056】
他の好ましい二官能性モノマーは、ラジカル重合性ピロリドン、例えば1,6-ビス(3-ビニル-2-ピロリドニル)-ヘキサン、または市販のビスアクリルアミド、例えばメチレンまたはエチレンビスアクリルアミド、およびビス(メタ)アクリルアミド、例えばN,N’-ジエチル-1,3-ビス(アクリルアミド)プロパン、1,3-ビス(メタクリルアミド)プロパン、1,4-ビス(アクリルアミド)ブタン、または1,4-ビス(アクリロイル)ピペラジンであって、対応するジアミンから、(メタ)アクリル酸塩化物との反応によって合成できるものを含む。N,N’-ジエチル-1,3-ビス(アクリルアミド)プロパン(V-392)が特に好ましい。これらのモノマーは、高い加水分解安定性によって特徴付けられる。
【0057】
酸基を含有するモノマーおよびオリゴマー
本発明による組成物は、少なくとも1種の酸性ラジカル重合性モノマーおよび/または少なくとも1種の酸性オリゴマーを含有する。酸性モノマーおよびオリゴマーは、少なくとも1個の酸基、好ましくはリン酸エステル、ホスホン酸、またはカルボキシ基を含有するモノマーおよびオリゴマーをそれぞれ意味すると理解される。酸性モノマーおよびオリゴマーは、本明細書では、接着剤成分または接着性モノマーまたは接着性オリゴマーとも呼ばれる。本発明によれば、少なくとも1種の強酸性モノマーを含有するそれらの組成物が特に好ましい。強酸性モノマーは、室温でpKa値が0.5~4.0、より好ましくは1.0~3.5、最も好ましくは1.5~2.5のモノマーである。
【0058】
酸基を含有する適切なモノマーは、COOH基含有重合性モノマーであり、好ましくはpKa値が2.0~4.0の範囲にあるものである。4-(メタ)-アクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物、10-メタクリロイルオキシデシルマロン酸、N-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)-N-フェニルグリシン、および4-ビニル安息香酸が好ましい。メタクリル酸(pKa=4.66)は、歯の構造に対するその低い接着性のため除外される。
【0059】
酸基を含有する好ましいモノマーは、リン酸エステルおよびホスホン酸モノマーであって、好ましくはそのpKa値が0.5から3.5の範囲にあるものである。リン酸水素2-メタクリロイルオキシエチルフェニル、リン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシル(MDP)、リン酸二水素グリセロールジメタクリレート、またはジペンタエリスリトールペンタメタクリロイルオキシホスフェート、4-ビニルベンジルホスホン酸、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]-アクリル酸、または加水分解安定なエステル、例えば2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]アクリル酸2,4,6-トリメチルフェニルエステルが、特に好ましい。MDP、リン酸水素2-メタクリロイルオキシエチルフェニルおよびリン酸二水素グリセロールジメタクリレートがさらになお好ましい。
【0060】
オリゴマーは、重合度Pが2~100(P=M/M;M:数平均ポリマー分子量、M:モノマー単位の分子量)のポリマーであると理解される。酸性ラジカル重合性オリゴマーは、少なくとも1個の酸基、好ましくはカルボキシル基と、少なくとも1個のラジカル重合性基、好ましくは少なくとも1個の(メタ)アクリレート基、特に少なくとも1個のメタクリレート基を有する。
【0061】
本発明による好ましい酸基を含有するオリゴマーは、オリゴマーカルボン酸、例えばポリアクリル酸であって、好ましくは数平均分子量Mが7,200g/mol未満、より好ましくは7,000g/mol未満、最も好ましくは6,800g/mol未満のものであり、ここでMは、好ましくは800~7,200g/mol、より好ましくは500~7,000g/mol、最も好ましくは500~6,800g/molの範囲にある。(メタ)アクリレート基を含有するオリゴマーカルボン酸が特に好ましい。これらは例えば、オリゴマーポリアクリル酸とグリシジルメタクリレートまたは2-イソシアナトエチルメタクリレートとを反応させることによって得ることができる。
【0062】
他に言及しない限り、本明細書におけるオリゴマーおよびポリマーのモル質量は、数平均モル質量であり、その絶対値は、凝固点降下(凝固点降下法(cryoscopy))、沸点上昇(沸点上昇法(ebullioscopy))の公知の方法によって、または蒸気圧の降下(蒸気圧浸透法)を通して決定することができる。好ましくは、オリゴマーおよびポリマーの数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって決定される。これは分子がそのサイズに基づいて、より正確にはその流体力学的体積に基づいて分離される、相対的な方法である。絶対モル質量は、公知の標準による較正によって決定される。
【0063】
本発明による組成物は、好ましくは水も含有する。それぞれの場合に組成物の全質量に対して1~7重量%、好ましくは1~5重量%の含水量は、象牙質およびエナメルに対する結合効果の改善をもたらすことが見出された。
【0064】
本発明による組成物はさらに、ラジカル重合を開始するための少なくとも1種の開始剤、好ましくは光開始剤を含む。好ましい光開始剤は、ベンゾフェノン、ベンゾイン、およびこれらの誘導体、α-ジケトン、またはその誘導体、例えば9,10-フェナントレンキノン、1-フェニル-プロパン-1,2-ジオン、ジアセチル、および4,4’-ジクロロベンジルである。カンファーキノン(CQ)および2,2-ジメトキシ-2-フェニル-アセトフェノンが特に好ましく、4-(ジメチルアミノ)-安息香酸エチルエステル(EDMAB)、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチル-sym.-キシリジン、またはトリエタノールアミンなど、還元剤としてのアミンと組み合わせたα-ジケトンが最も好ましい。Norrish I型光開始剤、特にアシルまたはビスアシルホスフィンオキシドがさらに好ましく、モノアシルトリアルキルゲルマニウム、ジアシルジアルキルゲルマニウム、およびテトラアシルゲルマニウム化合物、例えばベンゾイルトリエチルゲルマン、ジベンゾイルジエチルゲルマン、ビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマン(Ivocerin(登録商標))、テトラベンゾイルゲルマン、またはテトラキス(o-メチルベンゾイル)ゲルマンが最も好ましい。カンファーキノンと4-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルとを組み合わせた、ビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマンまたはテトラキス(o-メチルベンゾイル)ゲルマンなど、様々な光開始剤の混合物も使用することができる。
【0065】
ラジカル重合を開始するためのレドックス開始剤、好ましくは酸化剤および還元剤をベースにしたレドックス開始剤を含有する組成物が、さらに好ましい。好ましい酸化剤は、過酸化物であり、特にヒドロペルオキシドである。特に好ましい過酸化物は、過酸化ベンゾイルである。好ましいヒドロペルオキシドは、EP3692976A1に開示される低臭クメンヒドロペルオキシド誘導体、EP21315089.9に開示されるオリゴマーCHP誘導体、特に4-(2-ヒドロペルオキシプロパン-2-イル)フェニルプロピオネートおよびクメンヒドロペルオキシド(CHP)である。
【0066】
過酸化物と組み合わせるための好ましい還元剤は、第三級アミン、例えばN,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジヒドロキシエチル-p-トルイジン、p-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルまたはその他の芳香族ジアルキルアミン、アスコルビン酸、スルフィン酸、チオール、および/または水素シランである。
【0067】
ヒドロペルオキシドと組み合わせるための好ましい還元剤は、チオ尿素誘導体、特にEP1754465A1の段落[0009]に列挙される化合物である。メチル-、エチル-、アリル-、ブチル-、ヘキシル-、オクチル-、ベンジル-、1,1,3-トリメチル-、1,1-ジアリル-、1,3-ジアリル-、1-(2-ピリジル)-2-チオ尿素、アセチル-、プロパノイル-、ブタノイル-、ペンタノイル-、ヘキサノイル-、ヘプタノイル-、オクタノイル-、ノナノイル-、デカノイル-、ベンゾイルチオ尿素、およびこれらの混合物が、特に好ましい。アセチル-、アリル-、ピリジル-、およびフェニルチオ尿素、およびヘキサノイルチオ尿素、ならびにこれらの混合物、ならびに重合性チオ尿素誘導体、例えばN-(2-メタクリロイルオキシエトキシスクシノイル)-チオ尿素、およびN-(4-ビニルベンゾイル)-チオ尿素)が特に非常に好ましい。加えて、前記チオ尿素誘導体の1種または複数と1種または複数のノイミダゾールとの組合せが、有利に使用されてもよい。好ましいイミダゾールは、2-メルカプト-1-メチルイミダゾールまたは2-メルカプトベンズイミダゾールである。
【0068】
少なくとも1種のヒドロペルオキシドおよび少なくとも1種のチオ尿素誘導体に加え、本発明による組成物はさらに、硬化を加速させるために少なくとも1種の遷移金属化合物を含んでいてもよい。本発明による適切な遷移金属化合物は、特に、少なくとも2つの安定な酸化状態を持つ遷移金属から誘導された化合物である。元素銅、鉄、コバルト、ニッケル、およびマンガンの化合物が特に好ましい。これらの金属は、下記の安定な酸化状態を有する:Cu(I)/Cu(II)、Fe(II)/Fe(III)、Co(II)/Co(III)、Ni(II)/Ni(III)、Mn(II)/Mn(III)。少なくとも1種の銅化合物を含有する組成物が、特に好ましい。遷移金属化合物は、好ましくは触媒量で使用され、特に好ましくは10~200ppmの量である。これらの量は、歯科材料の変色をもたらさない。それらの良好なモノマー溶解度により、遷移金属は、好ましくはそのアセチルアセトネート、2-エチルヘキサノエート、またはTHF付加物の形態で使用される。2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール、トリエチレンテトラミン、ジメチルグリオキシム、8-ヒドロキシキノリン、2,2’-ビピリジン、または1,10-フェナントロリンなど、それらの多座配位子との錯体がさらに好ましい。本発明によれば、特に好ましい開始剤は、クメンヒドロペルオキシド(CHP)と、上述のチオ尿素誘導体および銅(II)アセチルアセトネートの少なくとも1種との混合物である。本発明によれば、バナジウム化合物を含有しない組成物が好ましい。
【0069】
本発明による組成物は、好ましくは、バルビツール酸またはバルビツール酸誘導体、例えば1,3,5-トリメチルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸、5-ブチルバルビツール酸、または1-シクロヘキシル-5-エチルバルビツール酸を含有しない。バルビツレートを含有する組成物は、大気中の酸素との酸化によってバルビツレートが重合開始ラジカルを形成するので、満足のいかない保存安定性を有する。さらに、バルビツレートには、徐脈、低血圧、または血液障害などの有害な生理学的作用がある。
【0070】
好ましい実施形態によれば、本発明による組成物は、好ましくはさらにマスキング剤を含有する。本発明によれば、好ましいマスキング剤は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびそのナトリウム塩(エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム)、ニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、イミノジコハク酸四ナトリウム、およびメチルグリシン二酢酸の三ナトリウム塩である。EDTAが特に好ましい。前述のマスキング剤の重合性誘導体がさらに含まれる。重合性誘導体は、ラジカル重合性基を持つマスキング剤である。好ましいラジカル重合性マスキング剤は、重合性(メタ)アクリルまたはメタクリルアミド基を保持するEDTA誘導体である。エチレン系不飽和モノマーにEDTAが共有結合する、DE102005022172A1に開示される重合性EDTA誘導体、およびEP2065363A1に開示されるアルキレンジアミン-N,N,N’,N’-四酢酸(メタ)アクリルアミドが、特に好ましい。マスキング剤は、溶解したまたは好ましくは溶解していない形態をとってもよい。
【0071】
1種または複数のマスキング剤は、好ましくは、0.5~6.0重量%、より好ましくは0.7~5重量%、最も好ましくは1.0~4.0重量%の総量で添加される。他に言及しない限り、本明細書における全てのパーセンテージは、組成物の全質量を指す。
【0072】
本発明による組成物は、追加の添加剤、特に安定化剤、着色剤、相間移動触媒、殺菌剤、フッ化物イオン放出添加剤、例えばフッ化物塩、特にNaFまたはフッ化アンモニウム、またはフルオロシラン、蛍光増白剤、可塑剤、および/またはUV吸収剤を含有していてもよい。
【0073】
本発明によれば、それぞれの場合に組成物の全質量に対して、下記の成分を含む組成物が特に好ましい:
a) 10~80重量%、好ましくは20~75重量%、特に好ましくは30~70重量%の、少なくとも1種の酸処理FASおよび/またはガラス充填材、
b) 必要に応じて0.1~25重量%、好ましくは1~20重量%、特に好ましくは2~15重量%の1種または複数のさらなる充填材、
c) 1~15重量%、好ましくは2~12重量%、特に好ましくは3~10重量%の、酸基を含有する少なくとも1種のモノマー、
d) 5~40重量%、好ましくは8~30重量%、特に好ましくは10~25重量%の、酸基を持たない少なくとも1種の多官能性モノマー、
e) 0~10重量%、好ましくは0~8重量%、特に好ましくは1~5重量%の、1種または複数のオリゴマーカルボン酸、
f) 1~20重量%、好ましくは2~15重量%、特に好ましくは3~10重量%の、酸基を持たない1種または複数の一官能性モノマー、
g) 0.1~8重量%、好ましくは0.5~6重量%、特に好ましくは1~5重量%の、ラジカル重合用開始剤、
h) 0~20重量%、好ましくは0.2~10重量%、特に好ましくは1~7重量%の水、ならびに
i) 0.01~5重量%、好ましくは0.1~3重量%、特に好ましくは0.1~2重量%の1種または複数の添加剤。
【0074】
開始剤は、レドックス開始剤、光開始剤、または二重硬化用開始剤とすることができる。言及される量は、全ての開始剤成分、即ち開始剤自体、および存在する場合には、還元剤、遷移金属化合物などを含む。本発明によれば、少なくとも1種のレドックス開始剤または少なくとも1種のレドックス開始剤および少なくとも1種の光開始剤を含有する組成物が、好ましい。
【0075】
レドックス開始剤を含有する組成物は、自己硬化するものである。それらは好ましくは、2種の空間的に分離された構成要素の形で、即ち2成分系(2C系)として使用される。酸化および還元剤は、組成物の別々の成分に組み込まれる。一成分、いわゆる触媒ペーストは、酸化剤、好ましくは過酸化物またはヒドロペルオキシドを含有する。第2の成分、いわゆるベースペーストは、対応する還元剤および必要に応じて光開始剤および必要に応じて触媒量の遷移金属化合物を含有する。重合は、構成成分を混合することによって開始される。レドックス開始剤および光開始剤の両方を含有する組成物は、二重硬化するものである。
【0076】
組成物がマスキング剤を含有する場合、好ましくは、強酸性接着剤モノマー、FAS充填材、および/または放射線不透過性ガラス充填材が内部に位置付けられている構成要素に添加される。
【0077】
本発明によれば、2成分系が好ましい。それらは好ましくは、自己硬化または二重硬化である。ペーストは、使用の少し前に一緒に、好ましくはダブルプッシュシリンジで混合される。
【0078】
触媒ペーストは、それぞれの場合に触媒ペーストの全質量に対して、好ましくは下記の組成を有する:
a) 10~80重量%、好ましくは20~75重量%、特に好ましくは30~70重量%の少なくとも1種の酸処理FASおよび/またはガラス充填材、
b) 必要に応じて、0.1~25重量%、好ましくは1~20重量%、特に好ましくは2~15重量%の1種または複数のさらなる充填材、
c) 2~30重量%、好ましくは4~24重量%、特に好ましくは6~20重量%の、酸基を含有する少なくとも1種のモノマー、
d) 5~40重量%、好ましくは8~30重量%、特に好ましくは10~25重量%の、酸基を持たない少なくとも1種の多官能性モノマー、
e) 0~10重量%、好ましくは0~8重量%、特に好ましくは1~5重量%の1種または複数のオリゴマーカルボン酸、
f) 1~20重量%、好ましくは2~15重量%、特に好ましくは3~10重量%の、酸基を持たない1種または複数の一官能性モノマー、
g) 0.01~16重量%、好ましくは0.2~12重量%、特に好ましくは0.5~10重量%の、少なくとも1種の過酸化物および/またはヒドロペルオキシドおよび必要に応じて少なくとも1種の光開始剤、
h) 0~20重量%、好ましくは0.2~10重量%、特に好ましくは1~7重量%の水、ならびに
i) 0.001~5重量%、好ましくは0.002~3重量%、特に好ましくは0.0051~2重量%の1種または複数の添加剤。
【0079】
ベースペーストは、それぞれの場合にベースペーストの全質量に対して、好ましくは下記の組成を有する:
a) 10~80重量%、好ましくは20~75重量%、特に好ましくは30~70重量%の少なくとも1種の酸処理FASおよび/またはガラス充填材、
b) 0.1~25重量%、好ましくは1~20重量%、特に好ましくは2~15重量%の1種または複数のさらなる充填材、
d) 5~40重量%、好ましくは8~30重量%、特に好ましくは10~25重量%の、酸基を持たない少なくとも1種の多官能性モノマー、
f) 1~20重量%、好ましくは2~15重量%、特に好ましくは3~10重量%の、酸基を持たない1種または複数の一官能性モノマー、
g) 0.01~16重量%、好ましくは0.3~12重量%、特に好ましくは1~10重量%の少なくとも1種の適切な還元剤および必要に応じて少なくとも1種の光開始剤、
h) 0~20重量%、好ましくは0.2~10重量%、特に好ましくは1~7重量%の水、ならびに
i) 0.001~5重量%、好ましくは0.002~3重量%、特に好ましくは0.0051~2重量%の1種または複数の添加剤。
【0080】
適用のため、触媒およびベースペーストは、好ましくはほぼ等しい割合で一緒に混合される。したがってダブルプッシュシリンジでの適用に特に適切である。
【0081】
ダブルプッシュシリンジは、ベースペーストおよび触媒ペーストを保持するための、2つの個別の円筒状チャンバーを有する。構成成分は、2つの相互接続されたピストンによって同時に押し出され、好ましくは混合カニューレ内を強制的に通され、その内部で一緒に混合される。ペーストを押し出すために、シリンジを、いわゆるハンドディスペンサー内に挿入することができ、シリンジの取扱いが容易になる。
【0082】
本発明による組成物は、高い保存安定性、および改善した透明度、好ましくは10%よりも高い透明度、およびエナメル/象牙質に対する良好な自己接着によって特徴付けられる。それらは特に、損傷した歯の修復のための(治療的使用)、歯科医による口内使用のための歯科用材料として、特に歯科用セメント、コーティングまたはベニア材料、充填コンポジット、最も特には合着用セメントとして適切である。透明度は、実施例に記載される手法で決定される。
【0083】
損傷した歯の処置のため、これらは好ましくは、歯科医により第1のステップで調製される。引き続き、本発明による少なくとも1種の組成物は、調製された歯にまたはその内部に適用される。その後、組成物は、例えば歯腔を補修するときに、好ましくは適切な波長の光の照射によって直接硬化することができる。あるいは、歯科修復物、例えばインレー、オンレー、ベニア、クラウン、ブリッジ、フレームワーク、または歯科用セラミックを、調製された歯の内部に配置しまたは表面に付着させる。後続の組成物の硬化は、好ましくは光および/または自己硬化によって行われる。このプロセスでは、歯科修復物は歯に取着される。
【0084】
本発明による組成物は、例えば歯科修復物の製作または補修において、口外材料(非治療的)として使用することもできる。それらはインレー、オンレー、クラウン、またはブリッジの製作および補修のための材料としても適切である。
【0085】
インレー、オンレー、クラウン、またはブリッジなどの歯科修復物の生成のため、本発明による少なくとも1種の組成物は、それ自体が公知の手法で所望の歯科修復物中に形成され、次いで硬化される。硬化は、光によって、自己硬化を経て、または好ましくは熱によって行うことができる。
【0086】
歯科修復物の補修において、本発明による組成物は、例えば隙間を補修するためにまたは断片を結合するために、補修されることになる修復上に配置され、次いで硬化される。
【0087】
本発明を、図および実施例を参照しながら、以下に、より詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0088】
図1図1および図2はそれぞれ、コンポジットペーストにおける保存時間の関数として、酸性モノマーMDPの濃度の低下を示し、酸性処理されたものが(
【化2】

)でありまたは非酸性処理されたガラス充填材が(
【化3】

)である。
図2図1および図2はそれぞれ、コンポジットペーストにおける保存時間の関数として、酸性モノマーMDPの濃度の低下を示し、酸性処理されたものが(
【化4】

)でありまたは非酸性処理されたガラス充填材が(
【化5】

)である。
【実施例0089】
(実施例1)
酸性処理充填材の生成(一般的手順)
それぞれの充填体積が1lである2つの遠心分離プラスチック槽に、処理されることになる150gの充填材と350gの1.0モル塩酸とを注ぎ、磁気撹拌板上で室温で1時間撹拌する。磁気撹拌子を除去した後、混合物を、遠心分離機(Hettich Silenta RS)で5分間、3,000rpmで遠心分離し、その間に充填材は沈降する。液体が分離し、液体の試料をX線蛍光(XRF)分析のために採取する。液体のpHは1~2である。次いで分離した充填材を400mlの脱イオン水に分散し、分散液を再び3,000rpmで5分間遠心分離する。次いで洗浄溶液をデカンテーションによって分離する。洗浄手順は、最後の洗浄ステップ中にpHが5またはそれよりも高く上昇するまで繰り返す(約3回)。洗浄後、酸処理した充填材を50℃の真空乾燥炉内で、一定重量に達するまで乾燥し、次いでシラン化する。シラン化では、12gの3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(Silane A-174、Sigma Aldrich)を充填材(185g)に添加し、次いで15分間混合する(Turbolaミキサー、Willy A. Bachofen AG)。次いで5gの脱イオン水を添加し、再び15分間混合する。次いで充填材を、90μmのプラスチックの篩に通して篩い分けし、24時間そのままにし、次いで50℃の乾燥炉で3日間、フリーのシランが検出できなくなるまで(ガスクロマトグラフィー)乾燥する。
【0090】
(実施例2)
充填材GM27884をベースにしたコンポジット(酸処理ありおよびなし)の保存安定性の調査。
【0091】
放射線不透過性歯科用ガラス充填材(GM 27884、Schott、平均粒径1μm、比表面積(BET DIN ISO 9277)3.9m/g、組成(重量%):Al:10、B:10、BaO:25、およびSiO:55)を、酸で処理し、実施例1に記載された手法でシラン化した。アルミニウムおよびバリウムイオンが酸処理溶液中で、XRF分析により主に検出された。比較の目的で、充填材の一部分を、事前の酸処理なしでシラン化した。
【0092】
コンポジットペーストを、酸処理充填材(ペースト1)と、下記の組成(重量%)を持つ未処理の充填材(ペースト2)とで調製した:充填材:65.39、リン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシル(MDP、Orgentis):3.67、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA):9.52、NKエステル9G(ポリエチレングリコール400ジメタクリレート、Kowa Europa GmbH):2.12、V-392(N,N’-ジエチル-1,3-ビス(アクリルアミド)-プロパン、Ivoclar Vivadent AG):13.04、BHT(2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール):0.04、および脱イオン水:6.23。
【0093】
ペーストを室温で保存し、数週間の間隔でMDPの含量をHPLCにより決定した。HPLC測定では、125×4 Nucleodur 100-5 C18ecカラムおよびUV/VIS検出器(220nm)を備えたHPLC Ultimate 3000(ThermoFisher Scientific)機器を使用した。試料をメタノールに溶解し、下記のプログラムに従って0.01mol/HPOで水(A)、メタノール(B)、およびアセトニトリル(C)に溶出した。結果を図1に示す。
【表3】
【0094】
図1に示される結果は、酸処理充填材をベースにしたペーストの著しく改善された保存安定性を実証する。未処理の充填材を含むペーストでは、わずか1週間後にMDPはもはや検出できなかった。
【0095】
(実施例3)
二重硬化型自己接着性コンポジットセメントの調製
二重硬化型コンポジットセメントを調製した。各セメントは、触媒ペーストおよびベースペーストを含んでいた。ペーストの組成を表1および2に示す。触媒ペースト1を調製するのに使用されるガラス充填材を、実施例1に記載される手法で酸で処理した。全ての充填材をシラン化した。象牙質の接着は、保存時間の関数として決定した。象牙質の接着を調査するため、付加硬化ビニルポリシロキサン(Dreve)でウシの歯をプラスチックシリンダーに埋め込んで、象牙質およびプラスチックが1つの平面にあるようにした。歯の表面を研磨紙(グリット400)で研削し、次いでぬるま湯で濯ぎ、37℃に事前にテンパー処理した。象牙質の表面をブロット乾燥し、触媒ペーストをそれぞれ対応するベースペーストと1:1の比で混合し、次いで歯の表面に付着させた。同時に、硬化した歯科用コンポジット材料(Tetric Evo-Ceram、Ivoclar Vivadent AG)で作製されたプラグの下面を、セメントで濡らし、象牙質の表面の中心に配置した。次いで歯を、Ultradentクランプデバイス内で上向きにコンポジットプラグでクランプ処理して、固定マンドレルがTetric Evo-Ceramプラグの中心になるようにした。次いで過剰な合着用セメントを、すぐに慎重に除去し、クランプ処理された歯と共にUltradent付着デバイスを37℃で15分間、乾燥キャビネット内で保存した。次いでプラグを緩め、37℃で24時間、水中に保持し、次いで37℃の乾燥キャビネット内で24時間保存した。剪断結合強度を測定するため、Ultradent法(EN ISO 29022、2013)に従いZwick試験機を使用して、プラグを23℃で剪断し、剪断結合強度を、破断荷重と結合面積との商として得た。
【0096】
ベースペースト1および触媒ペースト1からなる本発明によるセメントで、12.0MPaの初期象牙質結合強度値が決定された。室温でペーストを保存した2週間後、その値は10.3MPaであった。対照的に、ベースペースト2および触媒ペースト2からなる未処理の充填材を含むセメントは、わずか1.9MPaの初期値を与え、これは室温で2週間保存した後に0MPaの値まで降下した。
表1:ベースペーストの組成(データは重量%を単位とする)
【表1】
*)比較例
1 相移動触媒
2 TEMPO:2,2,6,6-テトラメチルピペリジニルオキシ、CAS番号2564-83-2
3 24重量%Al、23重量%SiO、16.5重量%CaO、16重量%CaF、11.5重量%BaO、8重量%P、2重量%NaO、5%シラン;重量平均粒径7μm(Schott AG、Mainz)
4 24重量%Al、23重量%SiO、16.5重量%CaO、16重量%CaF2、11.5重量%BaO、8重量%PO5、2重量%NaO、5%シラン;重量平均粒径1μm(Schott AG、Mainz)
5 焼成シリカ:トリメチルシロキシ表面修飾;BET表面積(DIN ISO 9277 DIN 66132)非シラン化:約200m/g;密度(SiO;DIN 51757):2.2g/cm;残留シラノール含量(約2 SiOH/nmである、非シラン化シリカに対する相対的シラノール含量):25%(Wacker Chemie AG)
6 2,5-ジヒドロキシテレフタル酸ジエチルエステル(Riedel-de Haen AG)
表2:触媒ペーストの組成(データは重量%を単位とする)
【表2】
*) 比較例
1 実施例2参照
【0097】
(実施例4)
実施例3のコンポジットの透明度の検査
完全な硬化後、触媒ペースト1およびベースペースト1からなるコンポジット1の透明度を、分光光度計(Konika-Minolta分光光度計CM-5)を用いて、透過で高輝度まで研磨した1mmの厚さの試験片に関して測定した。透明度は19.2%であった。コンポジットセメント1の透明度の値は、透明度の値が6.7%であるVivaglass CEM PL(Ivoclar Vivadent AG)などの古典的なガラスアイオノマーセメントの場合よりも著しく高い。
【0098】
(実施例5)
放射線不透過性ガラス充填材をベースにしたコンポジット(酸処理ありおよびなし)の保存安定性の調査
【0099】
実験用X線不透過ガラス充填材(平均粒径3μm;組成(重量%):Al:6;B:5;NaO:8;CaO、BaO、KO:それぞれ2~3;CaF、MgO:それぞれ1;およびSiO:70)を、酸で処理し、実施例1に記載される手法でシラン化した。比較の目的で、充填材の一部を、事前の酸処理なしにシラン化した。酸処理溶液中、主にAl、Ba、Ca、Na、およびKイオンがXRF分析により検出された。酸処理した充填材および未処理の充填材の両方を使用して、下記の組成(重量%)を持つコンポジットペーストを生成した:充填材:65.00、MDP:3.29、TEGDMA:8.53、NK-エステル9G:1.90、V-392:11.68、BHT:0.03、脱イオン水:5.58、および焼成シリカHDK 2000(Wacker Chemie AG):4.00。
【0100】
酸処理した充填材および未処理の充填材を含むペーストを室温で保存し、数週間の間隔で、MDP含量を、実施例2と同様にHPLCにより決定した。結果を図2に示す。図2に示される結果は、酸処理した充填材をベースにするペーストの著しく改善された保存安定性を実証する。未処理の充填材を含むペーストでは、MDP含量の明らかな低下が2週間後に観察され、一方、酸処理した充填材を含むペーストでは、8週間後であってもMDP含量の低下は観察されなかった。結果は、充填材の酸処理が、保存安定性を著しく改善することを示す。
図1
図2
【外国語明細書】