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特開2023-98853新規リゾープス・ミクロスポラス菌株を用いて発酵食品を作製する方法、および発酵食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098853
(43)【公開日】2023-07-11
(54)【発明の名称】新規リゾープス・ミクロスポラス菌株を用いて発酵食品を作製する方法、および発酵食品
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/14 20060101AFI20230704BHJP
   A23L 11/50 20210101ALI20230704BHJP
   A23L 11/60 20210101ALI20230704BHJP
   A23L 11/00 20210101ALI20230704BHJP
   A23J 3/14 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
C12N1/14 Z ZNA
A23L11/50 209Z
A23L11/50 209
A23L11/60
A23L11/00 Z
A23J3/14
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022206673
(22)【出願日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】110149312
(32)【優先日】2021-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】No.195,Sec.4,ChungHsingRd.,Chutung,Hsinchu,Taiwan 31040
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(74)【代理人】
【識別番号】100204582
【弁理士】
【氏名又は名称】大栗 由美
(72)【発明者】
【氏名】チュン-シェン チェン
(72)【発明者】
【氏名】チ-スァン ファン
(72)【発明者】
【氏名】シュ-セン ツァイ
(72)【発明者】
【氏名】チャン-チ チェン
(72)【発明者】
【氏名】シ-チ リ
(72)【発明者】
【氏名】シャン ツァイ チェン
(72)【発明者】
【氏名】ユ ラン ファン
【テーマコード(参考)】
4B020
4B065
【Fターム(参考)】
4B020LB13
4B020LB18
4B020LB27
4B020LG01
4B020LG08
4B020LG09
4B020LK17
4B020LP18
4B020LQ01
4B020LQ10
4B020LY04
4B020LY10
4B065AA69X
4B065AB10
4B065AC14
4B065BA22
4B065BB27
4B065BC03
4B065CA42
(57)【要約】      (修正有)
【課題】栄養価の高い代替タンパク質源を作製する方法を提供する。
【解決手段】方法は、その寄託番号がDSM 34400である、単離精製されたリゾープス・ミクロスポラス菌株を準備するステップと、単離精製されたリゾープス・ミクロスポラス菌株を基質に接種して発酵を行い、発酵食品を形成するステップとを含む。基質にはマメ科植物、マメ科植物の加工残留物、またはこれらの組み合わせが含まれる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
寄託番号がDSM 34400である単離精製された新規リゾープス・ミクロスポラス菌株。
【請求項2】
リゾープス・ミクロスポラス菌株を用いて発酵食品を作製する方法であって、
寄託番号がDSM 34400である単離精製されたリゾープス・ミクロスポラス菌株を準備するステップと、
前記単離精製されたリゾープス・ミクロスポラス菌株を基質に接種して発酵を行い、発酵食品を形成するステップと、
を含み、
前記基質にはマメ科植物、マメ科植物の加工残留物、またはこれらの組み合わせが含まれる、方法。
【請求項3】
前記基質が前記マメ科植物の前記加工残留物である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記マメ科植物に加工を行って前記マメ科植物の前記加工残留物を得、前記加工には、蒸煮(cooking)ステップ、プレスステップ、乾燥ステップ、粉砕ステップ、またはこれらの組み合わせが含まれる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記マメ科植物の前記加工残留物には前記マメ科植物の滓が含まれる、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記マメ科植物には大豆、黒豆、小豆、緑豆、枝豆、インゲン豆、赤インゲン豆、うずら豆、エンドウ豆、キマメ、ササゲ、そら豆、ひよこ豆、レンズマメ、フジマメ、ピーナッツ、ハウチワマメ、グラスピー、キャロブ、またはこれらの組み合わせが含まれる、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記発酵には、固体発酵プロセス、液体発酵プロセスまたはこれらの組み合わせが含まれ、前記発酵の温度は20℃から40℃であり、かつ前記発酵は20時間から50時間行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記単離精製されたリゾープス・ミクロスポラス菌株が冷凍乾燥粉末または細菌ブロス(bacterial broth)の形式で提供される、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記発酵食品には、テンペ、植物性タンパク質(TVP)添加物または機能性飲料が含まれる、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記単離精製されたリゾープス・ミクロスポラス菌株を前記基質に接種して発酵を行った後に、前記方法は、前記基質に一軸湿式押出(uniaxial wet extrusion)プロセスまたは二軸湿式押出(biaxial wet extrusion)プロセスを行って、前記発酵食品を形成するステップをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
単離精製されたリゾープス・ミクロスポラス菌株を用いる基質の発酵により形成される発酵食品であって、前記単離精製されたリゾープス・ミクロスポラス菌株の寄託番号がDSM 34400であり、
前記基質には、マメ科植物、マメ科植物の加工残留物、またはこれらの組み合わせが含まれ、
前記発酵食品が、6.48Nから27.54Nの硬さ、または0.24Nmから0.70Nmの弾力性、または0.70Nから5.00Nの咀嚼性、または2.7Nから10.05Nのガム性、または0.32から0.8 0の凝集性、または0.14から0.50の回復性(resilience)を有する、発酵食品。
【請求項12】
前記発酵食品のタンパク質含有量が未発酵の基質のタンパク質含有量に比べて2%から10%増加しており、前記発酵食品のタンパク質含有量は22%から28%であり、前記発酵食品の水溶性食物繊維含有量が2.70%から5.67%である、請求項11に記載の発酵食品。
【請求項13】
前記マメ科植物の前記加工残留物には前記マメ科植物の滓が含まれる、請求項11に記載の発酵食品。
【請求項14】
前記マメ科植物には大豆、黒豆、小豆、緑豆、枝豆、インゲン豆、赤インゲン豆、うずら豆、エンドウ豆、キマメ、ササゲ、そら豆、ひよこ豆、レンズマメ、フジマメ、ピーナッツ、ハウチワマメ、グラスピー、キャロブ、またはこれらの組み合わせが含まれる、請求項11に記載の発酵食品。
【請求項15】
前記発酵食品には、テンペ、植物性タンパク質(TVP)添加物または機能性飲料が含まれる、請求項11に記載の発酵食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年12月29日に出願された台湾特許出願第110149312号の優先権を主張し、その全体が参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、単離精製された新規リゾープス・ミクロスポラス(Rhizopus microsporus)菌株、単離精製された新規リゾープス・ミクロスポラス菌株を用いて発酵食品を作製する方法、およびそれによって作製される発酵食品に関する。
【背景技術】
【0003】
長きにわたり肉は人類の主要なタンパク質源とされている。経済の成長および世界人口の増加に伴って、肉製品の需要も増加している。しかしながら、食肉生産から生じる炭素排出量は極めて高く、多数の家畜の排泄物は大量の温室効果ガスを放出する。具体的には、反芻動物(例えば、牛や羊)が反芻すると、腸内で大量のメタンガスが生成される。地球温暖化におけるメタンの影響は、二酸化炭素に比べて約20倍も高く、気候危機の悪化に与えるインパクトは大きい。
【0004】
近年、人々のよりヘルシーな食事への追求、ならびに動物愛護および環境性への注目の高まりにより、肉以外の代替タンパク質源を見つけること、およびタンパク質源を多様化すること、という課題が、ますます世界の注目を浴びている。 代替タンパク質源には、例えば植物由来のタンパク質、昆虫由来のタンパク質、生体工学技術を用いて開発された人造肉、および菌発酵により作られるタンパク質等が含まれる。しかしながら、栄養価の高い代替タンパク質源の開発は、関連分野において依然として研究目標の1つである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の実施形態によれば、単離精製された新規リゾープス・ミクロスポラス菌株が提供される。当該単離精製された新規リゾープス・ミクロスポラス菌株の寄託番号はDSM 34400である。
【0006】
本開示の実施形態によれば、リゾープス・ミクロスポラス菌株を用いて発酵食品を作製する方法が提供される。 当該方法は次のステップ:寄託番号がDSM 34400である、単離精製されたリゾープス・ミクロスポラス菌株を準備するステップと、単離精製されたリゾープス・ミクロスポラス菌株を基質に接種して発酵させ、発酵食品を形成するステップとを含み、該基質には、マメ科植物、マメ科植物の加工残留物、またはこれらの組み合わせが含まれる。
【0007】
本開示の実施形態によれば、発酵食品が提供される。当該発酵食品は、単離精製されたリゾープス・ミクロスポラス菌株を用いる基質の発酵により形成される。単離精製されたリゾープス・ミクロスポラス菌株 の寄託番号はDSM 34400である。基質には、マメ科植物, マメ科植物の加工残留物、またはこれらの組み合わせが含まれる。さらに、当該発酵食品は、硬さ(hardness)6.48Nから27.54N、弾力性(springiness)0.24 Nmから0.70 Nm、咀嚼性(chewiness)0.70 Nから5.00 N、ガム性(gumminess)2.7Nから10.05N、凝集性(cohesiveness )0.32から0.80、 回復性(resilience)0.14から 0.50である。
【0008】
添付の図面を参照にしながら、以下の実施形態において詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1Aから図1Cは、本開示の実施形態による、培地におけるコロニーから糸状の単一菌株Tp-1 をスクリーニングするプロセスを示している。
図2】本開示の実施形態による、BLASTを用いた菌株Tp-1の配列(SEQ ID NO:1)とリゾープス・ミクロスポレス(Rhizopus microspores)単離物TB55の配列とのアライメント結果を示している。
図3】本開示の実施形態による、PDA培地における成長時の菌株Tp-1の成長曲線図(培養時間と面積パーセンテージとの関係)を示している。
図4】本開示の実施形態による、比率の異なる豆滓(bean dregs)を含むPDA培地における成長時の菌株Tp-1の成長曲線図(培養時間と面積パーセンテージとの関係)を示している。
図5】本開示の実施形態による、比率の異なる豆滓(bean dregs)を含むPDB培地中で菌株Tp-1を培養する前および培養した後に撮影した写真の比較を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示に係る単離精製された新規リゾープス・ミクロスポラス菌株, リゾープス・ミクロスポラス菌株を用いて発酵食品を作製する方法、および発酵食品を、以下の記載において詳細に説明する。本開示が十分に理解されるよう、以下の詳細な説明では、説明の目的で多数の特性の詳細および実施形態を示すという点が理解されなければならない。以下の詳細な説明に記載された特定の要素および構成は、本開示を明確に説明するために示されている。ここに示される例示的な実施形態は説明の目的で用いられるにすぎず、本開示を限定するものではないという点については明らかであろう。
【0011】
以下の記載において、用語“約(about)”および“実質的に(substantially)”は、通常は所定値の+/-10%、または通常は所定値の+/-5%、または通常は所定値の+/-3% 、または通常は所定値の+/-2%または通常は所定値の+/-1% 、または通常は所定値の+/-0.5%を意味する。本開示の所定値はおおよその値である。特に説明がない場合、所定値は“約”および“実質的に”の意味を含むものとする。加えて、用語“第1の値から第2の値までの範囲で”または“第1の値から第2の値の範囲で”は、その範囲が、第1の値、第2の値およびそれらの間の他の値を含むことを意味する。
【0012】
別段の定めがない限り、本明細書において用いられる全ての技術および科学用語は、本開示の属する分野における当業者が通常理解する意味と同じ意味を有する。各ケースにおいて、通常用いられる辞書に定義されている用語は、本開示の関連技術および本開示の背景または文脈に一致する意味を持つと解釈されるべきであり、定義されていない限り、理想化された、または過度に正式な方式で解釈されるべきではない、ということが理解されなければならない。
【0013】
本開示の実施形態によれば、新規リゾープス・ミクロスポラス菌株 は、台湾高雄旗山に植えられたバナナのバナナ葉から単離精製したものである。リゾープス・ミクロスポラス菌株は、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に寄託されており、その寄託番号はDSM 34400である。また、リゾープス・ミクロスポラス菌株は、食品工業発展研究所( Food Industry Research and Development Institute)にも寄託されており、その寄託番号はBCRC 930226である。さらに、本開示の実施形態によれば、豆類またはそれらの加工残留物を培養基質として用いること、および上述のリゾープス・ミクロスポラス菌株を用いて発酵プロセスを実行することによって、作製される発酵食品のタンパク質含有量が高まり、かつヒトの腸管で消化されやすくなる。また、作製される発酵食品は、植物性タンパク質(TVP)添加物にも加工し易い。さらに、当該発酵食品は、植物由来のタンパク質として、家畜、家禽および海産物に取って代わることができる。当該発酵食品は、低カロリー、低コレステロールおよび質の高いタンパク質という特徴を有するため、健康食品の多様なソースが提供されることとなり、かつ環境においてかなりの程度でネットゼロ(net zero)二酸化炭素排出に貢献もする。
【0014】
上述したように、単離精製された新規のリゾープス・ミクロスポラス菌株が本開示において提供され、その寄託番号はDSM 34400(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH に2022年9月29日に寄託)およびBCRC 930226(食品工業発展研究所の生物資源保存・研究センター(the Bioresource Collection and Research Center of the Food Industry Research and Development Institute ))に2021年9月23日に寄託)である。詳細には、この菌株は、台湾高雄旗山のバナナ産地のバナナ葉から、微生物スクリーニング(microbial screening)、培養、単離精製のステップにより得たものである。この菌株はリゾープス・ミクロスポラスTB55菌株と同定されている。いくつかの実施形態によれば、単離精製された新規リゾープス・ミクロスポラス菌株のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:1に示される配列と少なくとも約95%の類似性を有し、例えば、96%、97%、98%または99%の類似性を有し得る。いくつかの実施形態によれば、単離精製された新規リゾープス・ミクロスポラス菌株のヌクレオチド配列は SEQ ID NO:1に示される。
【0015】
本開示において、リゾープス・ミクロスポラス菌株を用いて発酵食品を作製する方法が提供される。当該方法は次のステップ:(a)寄託番号がDSM 34400 (BCRC 930226)である、上述の単離精製されたリゾープス・ミクロスポラス菌株を準備するステップと、(b)単離精製されたリゾープス・ミクロスポラス菌株を基質に接種して発酵を行い、発酵食品を形成するステップとを含む。さらに、基質には、限定はされないが、マメ科植物、マメ科植物の加工残留物、別の適した基質、またはこれらの組み合わせが含まれ得る。
【0016】
いくつかの実施形態によれば、単離精製されたリゾープス・ミクロスポラス菌株は、冷凍乾燥粉末または細菌ブロス(bacterial broth)の形式で提供される。
【0017】
いくつかの実施形態によれば、マメ科植物には、大豆、黒豆、小豆、緑豆、枝豆、インゲン豆、赤インゲン豆、うずら豆、エンドウ豆、キマメ、ササゲ、そら豆、ひよこ豆、レンズマメ、フジマメ、ピーナッツ、ハウチワマメ、グラスピー、キャロブ、またはこれらの組み合わせが含まれ得るが、これに限定はされない。
【0018】
いくつかの実施形態によれば、マメ科植物の加工残留物にはマメ科植物の滓(dregs)が含まれ得るが、これに限定はされない。いくつかの実施形態によれば、マメ科植物に加工を行って、上述の加工残留物を得ることができ、当該加工には、蒸煮(cooking)ステップ、プレスステップ、乾燥ステップ、粉砕ステップ、またはこれらの組み合わせが含まれ得るが、これに限定はされない。いくつかの実施形態によれば、加工残留物の含水量は約15%未満、例えば14%未満、13%未満、12%未満、11%未満、10%未満、9%未満、8%未満、7%未満、6% 未満または 5%未満であってよい。
【0019】
いくつかの実施形態によれば、発酵に用いられる基質は、マメ科植物の滓、つまり豆滓(おから)であり得る。豆滓は豆の加工の副産物であり、豆の加工は通常、大量の豆滓を生じる。豆滓はイソフラボン、フェノール酸およびフィトステロール等のような多くの機能性成分を含有する。しかし、通常豆滓は、腐敗や臭いを引き起こしやすくし得るその製造中の高含水量のために、恐らくは廃棄される、または飼料もしくは肥料として使用されるしかない。特に、本開示の実施形態によれば、豆滓をサーキュラー・エコノミーの方式で再利用することができ、豆滓のタンパク質含有量および栄養価を発酵プロセスにより高めることができ、かつ豆滓の廃棄量を減らし、環境への負荷を低減することができる。
【0020】
いくつかの実施形態によれば、基質中のリゾープス・ミクロスポラス菌株の発酵には、固体発酵プロセス、液体発酵プロセスまたはこれらの組み合わせが含まれ得る。いくつかの実施形態によれば、発酵の温度は、約20℃ から約 40℃、例えば 25℃、30℃、または 35℃であってよい。いくつかの実施形態によれば、発酵は約20時間から約50時間、または約24時間から約48時間、例えば28時間、32時間、36時間、40時間、または44時間行うことができる。
【0021】
いくつかの実施形態によれば、単離精製されたリゾープス・ミクロスポラス菌株を基質に接種して発酵を行い、その基質にさらに一軸湿式押出(uniaxial wet extrusion )プロセスまたは二軸湿式押出(biaxial wet extrusion)プロセス を行って、発酵食品を形成することができる。いくつかの実施形態によれば、前述の方法により作製された発酵食品には、テンペ 、植物性タンパク質(TVP)添加物,機能性飲料、またはこれらの組み合わせが含まれ得るが、これに限定はされない。いくつかの実施形態によれば、発酵により生成される発酵ブロス(fermentation broth)を、そのまま機能性飲料とすることができる。
【0022】
加えて、本開示の実施形態は発酵食品も提供する。当該発酵食品は、上述の単離精製されたリゾープス・ミクロスポラス菌株を用いる基質の発酵により形成される。発酵食品の硬さは約6.48Nから約27.54Nであってよい。発酵食品の弾力性は約0.24Nmから約0.70Nmであってよい。発酵食品の咀嚼性は約0.7Nから約5.00Nであってよい。発酵食品のガム性は約2.7Nから約10.05Nであってよい。発酵食品の凝集性は約0.32から約0.80であってよい。発酵食品の回復性(resilience)は約0.14から約0.50であってよい。いくつかの実施形態によれば、硬さ、弾力性、咀嚼性、ガム性、凝集性、および回復性(resilience)のような上記パラメータは、 テクスチャーアナライザー (Horn Instruments co., ltd., モデル: UniversalTA)により得られた測定結果である。
【0023】
上述したように、基質には、限定はされないが、マメ科植物、マメ科植物の加工残留物 、別の適した基質、またはこれらの組み合わせが含まれ得る。
【0024】
いくつかの実施形態によれば、マメ科植物には、大豆、黒豆、小豆、緑豆、枝豆、インゲン豆、赤インゲン豆、うずら豆、エンドウ豆、キマメ、ササゲ、そら豆、ひよこ豆、レンズマメ、フジマメ、ピーナッツ、ハウチワマメ、グラスピー、キャロブ、またはこれらの組み合わせが含まれ得るが、これに限定はされない。
【0025】
いくつかの実施形態によれば、マメ科植物の加工残留物には、マメ科植物の滓が含まれ得るが、これに限定はされない。さらに、いくつかの実施形態によれば、発酵食品にはテンペ、植物性タンパク質(TVP)添加物、機能性飲料、またはこれらの組み合わせが含まれ得るが、これに限定はされない。
【0026】
本開示の実施形態により提供されるリゾープス・ミクロスポラス菌株を用いて発酵食品を作製する方法で作製された発酵食品は、タンパク質および水溶性食物繊維の含有量が高められ、血糖を調節し、コレステロールを低下させ、小腸での糖の吸収を遅らせ、 かつ腸蠕動を強化することができる、という点に留意すべきである。加えて、結果として得られる発酵食品 (例えばテンペ)は、タンパク質の消化および吸収率を改善することができ、消化されやすく、鼓腸が引き起こされにくくなるため、高齢者、虚弱、および消化器系が弱い者のタンパク質への要求を満たすことができる。
【0027】
具体的には、いくつかの実施形態によれば、結果として得られる発酵食品のタンパク質含有量は、未発酵の基質に比べ、約2%から約10%高まり得る。具体的には、いくつかの実施形態によれば、結果として得られる発酵食品のタンパク質含有量は、当該発酵食品の全重量に対し、約22%から約28%であり得る。いくつかの実施形態によれば、結果として得られる発酵食品の水溶性食物繊維含有量は、当該発酵食品の全重量に対し、約2.70%から約5.67%であり得る。
【0028】
本開示の上述およびその他の目的、特徴ならびに利点がより十分かつ容易に理解されるように、いくつかの実施例および比較例を以下に示し、詳細に説明していくが、それらは本開示の範囲を限定するものではない。
【0029】
実施例1:新規リゾープス・ミクロスポラス菌株の単離、精製および同定
【0030】
台湾高雄旗山地区に植えられたバナナ葉を採取した。洗浄および乾燥後、そのバナナ葉で脱皮した大豆を覆い、発酵および成長させた。バナナ葉に付着した糸状菌(filamentous fungi)を取り、次いで培養、スクリーニング、単離、精製および同定を行った。
【0031】
先ず、糸状菌の培養に用いるブロス(ポテトデキストロースブロス, STBIO MEDIA, INC.)を100μl取り、二次水(secondary water)900 μl を加え、PDA培地プレート(ポテトデキストロースアガーブロス; Becton, Dickinson and Company, USA)に塗布し、30℃で24時間培養した。次いで、培地上のコロニーを選び取り、同一のPDA培地プレートに再びストリークし、菌株の精製を行った。30℃で24時間培養した後に、菌糸を選び取り、グラム染色法を用いて染色し、電子顕微鏡で観察し、電子顕微鏡で単一の菌相の菌株が観察されるまで数回(several rounds)スクリーニングを繰り返した。図1Aから1Cを参照されたい。これらは培地上のコロニーから糸状の単一菌株(菌株番号Tp-1)をスクリーニングするプロセスを示している。次いで、20%グリセロールをその単離精製された菌株に加え、-80℃で凍結保存し、その菌株の一部を後続の核酸同定のために取った。
【0032】
QIAGEN DNeasy Plant Kitの使用説明書に基づいて、上述した菌株のDNAを抽出した。真菌(Fungal)ユニバーサルプライマー対 ITS4(SEQ ID NO:2に示される)およびITS5(SEQ ID NO:3に示される) (MISSION BIOTECH CO., LTD.)を用い、ポリメラーゼ連鎖反応によりの内部転写スペーサー(internal transcribed spacer,ITS)の配列決定を行った 。Applied Biosystem(登録商標)(ABI)BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing KitおよびシークエンシングマシンABI 3730XL DNA Analyzerを用い、菌株Tp-1のDNA抽出サンプルの配列決定を行い、得られたヌクレオチド配列 をSEQ ID NO:1に示した。
【0033】
次いで、SEQ ID NO:1のヌクレオチド配列と既知の生物学的配列データベース(アメリカ国立生物工学情報センター,NCBI)とのアライメントをBLAST (Basic Local Alignment Search Tool)を用いて行った。このプログラムは、ヌクレオチドまたはタンパク質配列と配列データベースとを整列させ、統計的有意性を算出し、生理学および生化学的特徴の検証を組み合わせるものである。上述の単離精製された菌株 Tp-1は、データベース中のリゾープス・ミクロスポレス(Rhizopus microspores)単離物TB55に99%より高く類似していたことが確認された。
【0034】
SEQ ID NO:1とリゾープス・ミクロスポレス(Rhizopus microspores)単離物TB55(gene bank:MF445290.1)との配列アライメント結果が図2に示されている。TB55の配列読み取り長さは695bpであり、配列中の660 bpはSEQ ID NO:1と同じであり、配列中の35bpはSEQ ID NO: 1と異なっている。よって、単離精製された菌株Tp-1はリゾープス・ミクロスポラス(Rhizopus microsporus)のTB55菌株に属するが、Tp-1とTB55とは異なる菌株であるということが決定され得る。
【0035】
同定が完了した後、単離精製された新規リゾープス・ミクロスポラス菌株Tp-1をDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbHに寄託および保存した。寄託番号はDSM 344006であった。また、単離精製された新規リゾープス・ミクロスポラス菌株Tp-1を食品工業発展研究所の生物資源保存・研究センターにも寄託および保存した。寄託番号はBCRC 930226であった。
【0036】
実施例2:新規リゾープス・ミクロスポラス菌株の成長曲線のプロットおよび分析
【0037】
白金耳(inoculation loop)を用いTp-1菌株サンプルから適量のカビ胞子をPDA培地プレート(Difco(登録商標)ポテトデキストロースアガー)に採取し、30℃で培養し、一定の時間(8から12時間)おきに撮影した。リゾプス(Rhizopus)の形態は糸状であるため、固体のPDA培地プレート上ではジグザグし(staggered)、不規則な形状に成長する。よって、定量分析に面積率計算法(area percentage calculation)を用い、成長菌株の面積パーセンテージと時間の関係を用いて成長曲線をプロットした。発酵プロセスにおける菌株Tp-1のライフサイクルを知ることができるため、後続の発酵の条件(例えば発酵時間)について評価することができる。
【0038】
図3を参照されたい。これは、PDA培地プレートにおける成長時の菌株Tp-1の成長曲線図(培養時間と面積パーセンテージとの関係)を示している。図3に示されるように、培養後約30時間で菌株Tp-1の成長率が高まり始め、培養約34時間から49時間の期間は、菌株Tp-1の急速成長期であった。培養後約50~57時間に成長は徐々に速度を落とし、培地プレートで成長しているTp-1の面積パーセンテージは90%をこえ、培地における白色の菌糸の分布が飽和に近付いた。菌株Tp-1の成長分析から、菌株Tp-1が固体の発酵プロセスの生成に適していることがわかる。
【0039】
実施例3:豆加工残留物の添加による新規リゾープス・ミクロスポラス菌株の成長および機能性テスト分析
【0040】
白金耳を用い、Tp-1菌株サンプルから適量のカビ胞子を、豆滓を0%、5%、 6%および7%それぞれ含有する(w/v%)PDA培地プレート(Difco(登録商標)ポテトデキストロースアガー)に採取し、30℃で培養し、一定の時間(8から12時間)おきに撮影した。定量分析に面積率計算法を用い、成長菌株の面積パーセンテージと時間との関係を用いて成長曲線をプロットした。
【0041】
図4を参照されたい。これは、豆滓をそれぞれ異なる比率で含有するPDA培地プレートにおける成長時の菌株Tp-1の成長曲線図(培養時間と面積パーセンテージとの関係)を示している。図4に示されるように、豆滓含有培地における菌株Tp-1の全体的な成長の傾向は豆滓なしの培地に比べて良好であり、かつ豆滓含有培地における菌株Tp-1の成長速度はより速かった。さらに、豆滓6%含有培地における菌株Tp-1の成長速度が最も速く、一方、豆滓5%および豆滓7%含有培地における菌株Tp-1の成長率は全段階において類似していた。上記の結果から、菌株Tp-1はタンパク質含有量がより多い培地を好むことがわかる。
【0042】
実施例4:新規リゾープス・ミクロスポラス菌株の発酵生成物の成分分析
【0043】
白金耳を用い、Tp-1菌株サンプルから適量のカビ胞子を、豆滓を0%、5%、6%および7%それぞれ含有する(w/v%)PDBブロス(ポテトデキストロースブロス,STBIOMEDIA)に採取した。発酵培養を30℃、120rpmで4日間行った。培養が完了した後、その培地を20℃、9900rpmで40分遠心分離し、その上澄みと沈殿物を別々に保存した。次いで、沈殿物を2日間凍結乾燥し、粉砕して粉末にし、発酵生成物の粗タンパク質、粗脂肪、炭水化物,水溶性食物繊維および非水溶性食物繊維の含有量を分析した。測定方法は以下の通りとした。実験結果は表1に示されている。
【0044】
1.粗タンパク質含有量の分析
【0045】
ケルダール(Kjeldahl)窒素法を用いて総窒素量を決定した。サンプルを0.5g取り、触媒5g(KSO:CuSO・HO=9:1)および18N濃硫酸13mLと共に分解チューブに加え、それをタンパク質分解炉中に入れ、200℃にして1時間加熱した。そのサンプルを炭化して黒い液体にした後、400℃にして2時間加熱した。水色の澄明な状態となるまで分解したら、取り出して冷却し、次いで蒸留水70mLおよび40%NaOH 50mLを加えた。窒素蒸留装置で窒素を留出し、メチルブルーおよびメチルレッド指示薬を含有する4%ホウ酸水で留出した窒素を受け、液体を赤色にした。最後に、液体がわずかに赤みを帯びた色になる(つまり、滴定が完了する)まで、0.1NHClを用いて滴定を行い、滴定された液体の量を記録した。粗タンパク含有量(%)=[塩酸滴定量(ml)×塩酸濃度(N)×1.4007×1]/サンプルの重量(g)×窒素含有係数(窒素換算係数)6.25。
【0046】
2.粗脂肪含有量の分析
【0047】
サンプル3gをろ紙に取り、包んだ後に円筒ろ紙(filter thimble)中に入れた。次いで、脂肪収集瓶に接続したソックスレー抽出器中に入れ、抽出器の上端部からn-ヘキサン170mLを加えた。抽出器を凝縮チューブ(condenser tube)に接続してから、恒温水浴中にて50~60℃で16時間還流させた。抽出後、脂肪収集瓶を取り外し、ソックスレー抽出器中のn-ヘキサンを回収した。その脂肪収集瓶を105℃のオーブンに入れて乾燥させ、取り出して乾燥皿に置き、脂肪収集瓶が恒量になるまで冷却した。粗脂肪(%)=[(脂肪抽出後の脂肪収集瓶の重量-脂肪収集瓶の重量)]/サンプルの重量×100%。
【0048】
3.総炭水化物含有量の分析
【0049】
総炭水化物含有量は、100%から水分、灰分、粗タンパク質および粗脂肪のパーセンテージを引くことで得られる。
【0050】
4.水溶性食物繊維含有量の分析
【0051】
上述した抽出プロセスにより、非水溶性食物繊維をろ液と分離し、そのろ液を95% アルコール300mLの入ったビーカーに注ぎ入れることにより水溶性食物繊維を沈殿させ、1日静置して完全に沈殿させた。ろ紙の重量を量り、小数第4位まで記録した。その液体を磁性漏斗(magnetic funnel)に注ぎ入れて吸引ろ過を行い、78%アルコール20mLで3回すすいでから、95%アルコール10mLで2回すすぎ、最後にアセトン10mLで2回すすいだ。ろ紙および残留物をはかり瓶に一緒に入れ、105℃のオーブン中に置いて恒量になるまで乾燥させ、はかり瓶およびろ紙の重量を恒量から引き、総残留物重量を得た。水溶性食物繊維含有量(%)=[総残留物正味重量-サンプル中のタンパク質の重量(g)-サンプル中の灰分の重量(g)]/サンプルの重量(g)×100%。
【0052】
5.非水溶性食物繊維含有量の分析
【0053】
恒温水浴を95℃に予熱し、粉末サンプルを約1gはかり取り、小数第4位まで記録した。そのサンプルをビーカーに入れ、リン酸緩衝液50mLを加えて均一に混合してから、α-アミラーゼ100 μlを加えて軽く振とうした。そのビーカーにアルミニウムホイルを被せ、95℃の恒温水浴に入れ約15分間、5分おきに穏やかに振とうし、室温まで冷却してから、0.275N NaOH 10 mLを加えて穏やかに振とうした。恒温水浴を60℃に予熱し、プロテアーゼ0.05gをリン酸緩衝液1mLに加えて均一に混合し、プロテアーゼリン酸緩衝液溶液100μlをビーカーに加えた。そのビーカーにアルミニウムホイルを被せ、60℃の恒温水浴に入れ、約30分間、5分おきに穏やかに振とうし、室温まで冷却してから、0.325N HCl 10mLを加えて穏やかに振とうした。恒温水浴を60℃に予熱し、アミログルコシダーゼ100μlをビーカーに加えた。そのビーカーにアルミニウムホイルを被せ、60℃の恒温水浴に入れ、約30分間、5分おきに穏やかに振とうしてから、室温まで冷却した。ろ紙の重量を量り、小数第4位まで記録し、その液体を磁性漏斗(magnetic funnel)に注ぎ入れて吸引ろ過を行った。ろ紙および残留物をはかり瓶に一緒に入れ、105℃のオーブン中に置いて恒量になるまで乾燥させ、はかり瓶およびろ紙の重量を恒量から引き、総残留物重量を得た。非水溶性食物繊維含有量(%)=[総残留物正味重量-サンプル中のタンパクの重量(g)-サンプル中の灰分の重量(g)]/サンプルの重量(g)×100%。
【0054】
【表1】
【0055】
表1の結果によれば、Tp-1を、異なる比率で豆滓を含有する(0%、5%、6%、7%(w/v%))培地中に接種し、96時間発酵させた後、豆滓含有培地の粗タンパク質含有量は増加した。豆滓を含まない群と比較して、豆滓7%含有の群ではタンパク質含有量が約4%増加しており、解糖変換率(glycolysis conversion rate)は約6%であり、水溶性食物繊維は約2.1%増加した。
【0056】
比較例1:BCRC 31750テンペ菌の発酵生成物の成分分析
【0057】
寄託番号BCRC 31750のテンペ菌を用いて比較実験を行った。白金耳を用い、テンペ菌BCRC 31750を、豆滓を0%、5%、6%および7%それぞれ含有する(w/v%)PDBブロス(ポテトデキストロースブロス, STBIO MEDIA) に接種した。発酵培養を30℃、120rpmで4日間行った。図5は、豆滓を異なる比率で含有するPDB培地中の菌株Tp-1の培養前および培養後に撮った写真の比較を示している。
【0058】
加えて、培養が完了した後、その培地を20℃、9900rpmで40分遠心分離し、その上澄みと沈殿物を別々に保存した。その沈殿物を2日間凍結乾燥し、粉砕して粉末にし、発酵生成物の粗タンパク質、粗脂肪、炭水化物,水溶性食物繊維および非水溶性食物繊維の含有量を分析した。測定方法は実施例4に記載されている通りとした。実験結果が表2に示されている。
【0059】
【表2】
【0060】
表2の結果によれば、BCRC 31750テンペ菌を、異なる比率で豆滓を含有する (0%、5%、6%、7%(w/v%))培地中に接種し、96時間発酵させた後、豆滓含有培地の粗タンパク質含有量は有意に増加しなかった。豆滓を含まない群と比較して、豆滓含有群における解糖は顕著でなく、また水溶性食物繊維は 約1.6%とわずかに増加した。表1と表2とを比較すると、BCRC 31750テンペ菌に比べ、本開示により提供される新規リゾープス・ミクロスポラス菌株Tp-1は、発酵生成物のタンパク質および水溶性食物繊維含有量を高める効果、および解糖変換率(glycolysis conversion rate)を高める効果を有することがわかる。
【0061】
実施例5:新規リゾープス・ミクロスポラス菌株の発酵生成物の物理特性分析
【0062】
菌株Tp-1をそれぞれ異なる豆滓に接種し、固体発酵を行って、豆滓テンペを生成し、その物理特性をテクスチャーアナライザー(Horn Instruments co., ltd., model:UniversalTA)で測定した。豆滓テンペ(bean-dreg tempeh)A、B およびEのソースとしての豆は、台湾桃園豆腐協会より提供されたものであり(輸入大豆)、豆滓テンペXのソースとしての豆はPEACE VEGAN CO., LTDより提供されたものである(台湾の有機大豆)。
【0063】
上述した異なるソースからの豆滓に、固体発酵プロセスを行った。先ず、豆滓1kgを取り、60℃から65℃のオーブンで24時間乾燥させ、水蒸気で殺菌した。室温まで冷却したら、Tp-1菌株粉末または菌液約10から20グラムを豆滓にふりかけ、均一に撹拌してから、30℃の発酵チャンバーに入れ、24から48時間後に発酵生成物を得た。発酵生成物の2cmの四角い塊(square)をサンプルとして取って、テクスチャーアナライザーでの測定を行い、硬さ、弾力性、咀嚼性、ガム性、凝集性および回復性(resilience)のようなその物理特性を分析した。
【0064】
上述のように生成したそれぞれ異なるソースの豆滓テンペA(サンプル1)、豆滓テンペB(サンプル2)、豆滓テンペE(サンプル3)、および豆滓テンペX(サンプル4)のテクスチャーアナライザーのデータが、表3に示されている。さらに、それらデータを、市販の大豆テンペ(XiangHehJia-Biotech CO., LTD.より購入)(サンプル 5)、市販の小麦TVP(GOLDENCROPS CORPORATIONより提供)(サンプル6)、市販のエンドウ豆TVP(GOLDENCROPS CORPORATIONより提供)(サンプル7)と比較した。
【0065】
【表3】
【0066】
表3の結果に示されるように、菌株Tp-1の発酵により生成された発酵生成物(豆滓テンペ)は、硬さがエンドウ豆TVPに匹敵しており、その他のパラメータ値はより低いものであった。豆滓テンペの食感(texture)は、比較的柔らかく、食べやすい(easy to chew)ということがわかる。適した調味および簡単な衛生加工処理によって、パッケージ入りのインスタント食品(ready-to-eat conditioning package)として利用することができ、医療ケアを必要とする患者または高齢者に高タンパク質の栄養を提供するものとして非常に適している。また、植物性ミート(vegetable meat)製品およびベジタリアンフードの半製品において、豆滓テンペは、天然のタンパク質原料または成分添加物として、食品の成分の多様性または風味を高めることもできる。
【0067】
以上、本開示のいくつかの実施形態およびそれらの利点を記載したが、添付の特許請求の範囲により定義された本開示の精神および範囲を逸脱することなく、各種の変化、置換および変更をそれらに加えることができるという点が理解されなければならない。加えて、各請求項はそれぞれ独立した実施形態を構成し、本開示の特許請求の範囲には請求項および実施形態の組み合わせも含まれ得る。本開示の保護の範囲は、添付の特許請求の範囲の定義に従う。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
2023098853000001.xml
【外国語明細書】