IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ バインディング サイト グループ リミティドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023098969
(43)【公開日】2023-07-11
(54)【発明の名称】形質細胞関連疾患のためのアッセイ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20230704BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230704BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20230704BHJP
   C07K 16/42 20060101ALN20230704BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N33/50 U
G01N33/68
C07K16/42
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023062909
(22)【出願日】2023-04-07
(62)【分割の表示】P 2019564982の分割
【原出願日】2018-05-23
(31)【優先権主張番号】1708262.9
(32)【優先日】2017-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】514212652
【氏名又は名称】ザ バインディング サイト グループ リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182730
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 浩明
(72)【発明者】
【氏名】グレッグ ウォーリス
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン ハーディング
(72)【発明者】
【氏名】リチャード ゲアー ヒューズ
(57)【要約】
【課題】
本発明は、対象からの遊離軽鎖(FLC)を精製すること、及び質量分析法を利用してそれらを検出すること、により形質細胞関連疾患を同定又はモニタリングする方法に関する。
【解決手段】
本発明は、対象の試料からの免疫グロブリン遊離軽鎖(FLC)を、抗FLC特異性抗体又はその断片で精製すること、及び該精製された試料を質量分析技術に供して、該試料中の1種又は複数の単クローン性FLCに対応する1つ又は複数のピークの存在を同定すること、を含む形質細胞関連疾患を同定又はモニタリングする方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の試料からの免疫グロブリン遊離軽鎖(FLC)を、抗FLC特異性抗体又はその断片で精製すること、及び前記精製された試料を質量分析技術に供して、前記試料中の1種又は複数の単クローン性FLCに対応する1つ又は複数のピークの存在を同定すること、を含む形質細胞関連疾患を同定又はモニタリングする方法。
【請求項2】
前記抗FLC特異性抗体が、抗カッパFLC特異性抗体又はその断片と、抗ラムダFLC特異性抗体又はその断片との混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗FLC特異性抗体又はその断片が、ポリクローナルである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗体の断片が、F(ab’)断片である、請求項1~3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記抗FLC特異性抗体又は断片が、前記抗体又はその断片の少なくとも1つの重鎖(又はその断片)と少なくとも1つの軽鎖(又はその断片)の間に1つ又は複数の非ジスルフィドクロスリンクを含む、請求項1~4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記質量分析技術が、オービトラップ型質量分析計、イオン捕捉型質量分析計、飛行時間型質量分析計、トリプル四重極質量分析計、又は四重極質量分析計である、請求項1~5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記質量分析技術が、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法-飛行時間型質量分析法(MALDI-TOF)である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
総カッパ及び総ラムダ軽鎖を抗総カッパ及び抗総ラムダ抗体又はその断片で精製すること、及び前記精製された試料を質量分析法に供して、1つ又は複数の単クローン性免疫グロブリンに対応する1つ又は複数のピークを同定すること、をさらに含む、請求項1~7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記総ラムダ及び総カッパ軽鎖が、抗総カッパ抗体と抗総ラムダ抗体との混合物を用いて共精製される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記形質細胞関連疾患が、インタクト免疫グロブリン、多発性骨髄腫、軽鎖多発性骨髄腫、非分泌性多発性骨髄腫、ALアミロイドーシス、軽鎖沈着症(LCDD)、くすぶり型多発性骨髄腫、意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS)、マクログロブリン血症、POEMS(多発神経障害、臓器腫大、内分泌疾患、単クローン性ガンマグロブリン血症及び皮膚変化)症候群及びLCDDから選択される、請求項1~9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記試料が、涙液、血漿、血清、唾液、尿、血液又は脳脊髄液である、請求項1~10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
抗カッパ遊離軽鎖抗体、その断片;その抗ラムダ遊離軽鎖抗体;及び質量分析法のターゲットを含むキット。
【請求項13】
前記抗体が、前記質量分析法のターゲットで固定化される、請求項12に記載のキット。
【請求項14】
請求項13に記載の質量分析法のターゲットを含む質量分析計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象からの遊離軽鎖(FLC)を精製すること、及び質量分析法を利用してそれらを検出すること、により形質細胞関連疾患を同定又はモニタリングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体分子(免疫グロブリンとしても知られる)は、二回転対称を有し、典型的には同一重鎖2つ及び同一軽鎖2つで構成され、各鎖が可変及び定常ドメインを含む。重鎖及び軽鎖の可変ドメインが一緒になって、抗原結合部位を形成し、それにより両方の鎖が抗体分子の抗原結合特異性に寄与する。抗体の基本的四量体構造は、ジスルフィド結合により共有結合で連結された2つの重鎖を含む。各重鎖は順次、同様にジスルフィド結合を介して、軽鎖に付着する。これにより、実質的に「Y」形の分子が生成される。
【0003】
重鎖は、抗体中で見出される2つの型の鎖のより大きな方であり、典型的な分子量22,000~25,000Daのより小さな軽鎖に比較して、典型的な分子量50,000~77,000Daを有する。
【0004】
それぞれIgG、IgA、IgM、IgD及びIgEのための重鎖の構成要素であるG、A、M、D及びEである重鎖の5種の主要クラス(複数又は単一)が存在する。IgGは、正常なヒト血清の主要な免疫グロブリンであり、全免疫グロブリンプールの70~75%を占める。これは、二次免疫応答の主要な抗体である。それは、2つの重鎖+2つの軽鎖の単一四量体を形成する。
【0005】
IgMは、免疫グロブリンプールのおよそ10%を占める。該分子は、J鎖と一緒になって、基本の四鎖構造が5個の五量体を形成する。個々の重鎖は、およそ65,000Daの分子量を有し、分子全体は、約970,000Daの分子量を有する。IgMは、大部分が静脈内プールに限定され、優勢な早期抗体である。
【0006】
IgAは、ヒト血清免疫グロブリンプールの15~20%に相当する。80%を超えるIgAが、モノマーとして生じる。しかしIgAの一部(分泌性IgA)は、二量体形態で存在する。
【0007】
IgDは、全血漿免疫グロブリンの1%未満を占める。IgDは、成熟したB細胞の表面膜上に見出される。
【0008】
IgEは、正常な血清中には稀であるが、好塩基球及び肥満細胞の表面膜上に見出される。それは、喘息及び枯草熱などのアレルギー疾患に関連する。
【0009】
5種の主要クラス(単一又は複数)に加え、IgGのサブクラス4つ(IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4)が存在する。加えて、IgAのサブクラス2つ(IgA1及びIgA2)が存在する。
【0010】
2つの型の軽鎖:ラムダ(λ)及びカッパ(κ)が存在する。ヒトの体内で生成されるλ分子のおよそ2倍の数のκが存在するが、これは幾つかの哺乳動物では全く異なる。各鎖は、単一ポリペプチド鎖の中におよそ220のアミノ酸を含み、そのポリペプチド鎖は、1つの定常ドメインと1つの可変ドメインに折り畳まれている。形質細胞は、κ又はλ分子のいずれかと一緒になって、5つの重鎖型のうちの1つを生成する。正常には、重鎖合成の間におよそ40%過剰の遊離軽鎖生成が行われる。軽鎖分子が、重鎖分子に結合していない場合、それらは、「遊離軽鎖分子」として知られる。κ軽鎖は通常、単量体として見出される。λ軽鎖は、二量体を形成する傾向がある。
【0011】
抗体生成細胞に関連する増殖性疾患が複数存在する。
【0012】
多くのそのような増殖性疾患において、形質細胞は、増殖して同一の形質細胞の単クローン性腫瘍を形成する。これにより、多量の同一免疫グロブリンが生成され、それは単クローン性ガンマグロブリン血症として知られる。
【0013】
黒色腫及び原発性全身性アミロイドーシス(ALアミロイドーシス)などの疾患は、それぞれ英国における癌死亡のおよそ1.5%及び0.3%を占める。多発性骨髄腫は、非ホジキンリンパ腫に続く、2番目に一般的な悪性血液病の形態である。コーカサス人では、発生数は、年間で100万人あたりおよそ40人である。従来、多発性骨髄腫の診断は、骨髄中の過剰な単クローン性形質細胞、血清又は尿中の単クローン性免疫グロブリン、及び高カルシウム血症、腎不全、貧血又は骨病変などの関連の臓器又は組織障害の存在に基づく。骨髄の正常な形質細胞量は、有核細胞の約1%であるが、多発性骨髄腫では、その量は、典型的には10%を超え、多くの場合30%を超えるが、90%を超える場合がある。
【0014】
ALアミロイドーシスは、アミロイド沈着としての単クローン性遊離軽鎖断片の蓄積を特徴とするタンパク質高次構造障害である。典型的にはこれらの患者は、心不全又は腎不全を示すが、末梢神経及び他の臓器が、巻き込まれる場合もある。
【0015】
患者の血流内、それどころか尿中に、単クローン性免疫グロブリンの存在により同定され得る他の疾患が複数存在する。これらには、骨髄の外部で生じて任意の臓器内に存在し得る形質細胞腫瘍である形質細胞腫及び骨髄外形質細胞腫が挙げられる。単クローン性タンパク質は、存在する場合には、典型的にはIgAである。多発性の孤立性形質細胞腫(Multiple solitary plasmacytomas)が、多発性骨髄腫のエビデンスを伴って、又は伴わずに生じる場合がある。ワルデンシュトレームマクログロブリン血症は、単クローン性IgMの生成に関連する低グレードのリンパ増殖障害である。米国には1年あたりおよそ1500の、英国には300の新しい症例が存在する。血清IgMの定量は、診断及びモニタリングの両方にとって重要である。B細胞非ホジキンリンパ腫は、英国の全癌死亡のおよそ2.6%を生じ、単クローン性免疫グロブリンは、標準的電気泳動法を利用して患者の約10~15%の血清中で同定されている。初期の報告では、単クローン性遊離軽鎖が、患者の60~70%の尿中で検出され得ることが示されている。B細胞慢性リンパ球性白血病において、単クローン性タンパク質は、遊離軽鎖免疫アッセイにより同定されている。
【0016】
加えて、いわゆるMGUS状態が存在する。これらは、意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症である。この用語は、多発性骨髄腫、ALアミロイドーシス、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症などのエビデンスを有さない個体の単クローン性インタクト免疫グロブリンの予想外の存在を表す。MGUSは、50歳を超える人口の1%、70歳を超える人口の3%、80歳を超える人口では最大10%に見出され得る。これらのほとんどは、IgG又はIgM関連であるが、より希少なIgA関連又は二クローン性がある。MGUSの人々のほとんどは、無関係の疾患で死亡するが、MGUSは、悪性の単クローン性ガンマグロブリン血症に転換する場合がある。
【0017】
先に強調された疾患についての少なくとも幾つかの症例では、該疾患は、異常な濃度の単クローン性免疫グロブリン又は遊離軽鎖を示す。疾患が、形質細胞の異常な複製を生じる場合、これは多くの場合、「単クローン」が増幅して血中に出現するために、その細胞型によってより多くの免疫グロブリンを生成する。
【0018】
免疫固定電気泳動は、免疫グロブリン分子に対する沈降抗体を使用する。該電気泳動は、テストの感度を改善するが、沈降抗体の存在により、それを用いて単クローン性免疫グロブリンを定量することができない。免疫固定電気泳動はまた、どちらかと言えば実施が面倒で、解釈が困難になる場合がある。キャピラリーゾーン電気泳動は、血清タンパク質分離のために多くの臨床検査室で用いられ、ほとんどの単クローン性免疫グロブリンを検出することができる。しかし、キャピラリーゾーン電気泳動は、免疫固定と比較すると、試料の5%の単クローン性タンパク質を検出することができない。これらのいわゆる「偽陰性」結果には、低濃度単クローン性タンパク質が包含される。
【0019】
総κ及びλアッセイが、生成された。しかし総κ及び総λアッセイは、単クローン性免疫グロブリン又は遊離軽鎖の検出には感受性が低すぎる。これは、そのようなアッセイと干渉する多クローン性結合軽鎖のバックグランド濃度が高いためである。
【0020】
より近年になり、遊離κ軽鎖と、別個に遊離λ軽鎖と、を検出し得る感度の高いアッセイが開発された。この方法は、遊離κ又は遊離λ軽鎖のいずれかに対するポリクローナル抗体を利用する。そのような抗体を上昇させる可能性は、国際公開第97/17372号パンフレットでは、複数の異なる可能な特異性のうちの1つと考察された。この文書には、動物を寛容化して、先行技術が生成し得るよりも特異性がある所望の抗体を生成し得る方法が開示される。該遊離軽鎖アッセイは、遊離λ又は遊離κ軽鎖に結合する抗体を利用する。遊離軽鎖の濃度は、ネフェロメトリー又はタービメトリーにより計測される。これは、反応容器又はキュベット内の適当な抗体を含有する溶液へのテスト試料の添加を必要とする。光線をキュベットに透過させて、抗原-抗体反応が進行すると、不溶性免疫複合体が形成するにつれ、キュベットを透過した光が次第に散乱する。ネフェロメトリーでは、入射光から離れる角度で光の強度を測定することにより光散乱をモニタリングするが、タービメトリーでは、入射光線の強度の低下を測定することにより、光散乱をモニタリングする。既知の抗原(即ち、遊離κ又は遊離I)濃度の一連のキャリブレーターを最初にアッセイして、抗原濃度に対して測定された光散乱の検量線を作成する。
【0021】
このアッセイ形式は、遊離軽鎖濃度の検出に成功することが見出されている。さらに、この技術の感度は、非常に高い。
【0022】
遊離軽鎖(FLC)、重鎖若しくはサブクラス、又は重鎖クラス若しくはサブクラスに結合した軽鎖型の量又は型の特徴づけは、多発性骨髄腫などのB細胞疾患及び腎症などの他の免疫介在性疾患をはじめとする広範囲の疾患において重要である。
【0023】
全体として本明細書に援用される国際公開第2015/154052号パンフレット(Mayo Foundation)には、質量分析法(MS)を用いて免疫グロブリン軽鎖、免疫グロブリン重鎖、又はそれらの混合物を検出する方法が開示されている。免疫グロブリン軽鎖、重鎖、又はそれらの混合物を含む試料を免疫精製し、還元して、軽鎖と重鎖を分離し、質量分析法に供して試料のマススペクトルを得る。これは、患者からの試料中の単クローン性タンパク質を検出するのに用いることができる。それはまた、モノクローナル抗体中のジスルフィド結合及びグリコシル化などの翻訳後修飾をフィンガープリンティング、アイソタイピング及び同定するために用いることができる。
【0024】
国際公開第2015/131169号パンフレット(H.Lee Moffitt Cancer Centre)には、異常な抗体生成に関連する状態をモニタリングする方法が記載されている。これは、標的免疫グロブリンの酵素切断と、定量質量分析法による1種又は複数の可変ドメインペプチド断片の測定と、を利用する。該方法は、疾患に関連する特異的標的免疫グロブリンに特有の可変ドメインペプチド断片の同定に依存するため複雑であり、長々しい酵素切断を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の出願者は、遊離軽鎖(FLC)の特異的抗体及び質量分析法(MS)が、形質細胞関連疾患を同定する選択的な迅速アッセイに用いられ得ることを認識した。予想に反してそれらは、この技術が正常な患者におけるFLCを検出するのに充分、感受性があることを見出した(遊離カッパ軽鎖の95%正常参照範囲は、3.3~19.4mg/Lであり、遊離ラムダ軽鎖の場合、5.7~26.3mg/Lである)。先行技術は、かなり高レベルのIgGなどの免疫グロブリンを検査している(成人の正常レベルは、典型的には6~16g/Lである)。
【0026】
抗FLC抗体が、試料からFLCを精製してアッセイにおける汚染物質を減少させるのに用いられる。正常な試料から精製されたFLCが、MSにより分析された場合、異なるサイズ及び電荷のFLCの曲線が作成されることを、本出願者は認識している。図1は、抗遊離ラムダについて、図2は、抗遊離カッパについて、図3及び4は、正常なカッパ及びラムダ生成のためのサイズのオーバーラッピング及び組み合わせた曲線についての典型的な結果を示す。該曲線は、健常対象の正常な抗体生成細胞により生成されたFLCの多くの異なる個々のピークで構成される。本出願者は、単クローン性疾患において、クローン(複数可)の増殖により生成された多量のFLC(複数可)が存在する。これは、バックグランドの正常なFLC生成をかなり上回るFLC量に上る。これは、鋭い強度ピークとして見ることができる(図5参照)。それはまた、先行技術の系に比較してアッセイの感度を上昇させる。
【0027】
従来は、カッパとラムダの比率を測定して、異常なFLC生成を同定する。これは、該比率を生成するためにカッパ及びラムダFLCの別個の測定及び正確な定量を必要とする。これはまた、例えば複数のクローンが存在して比率を歪める場合に、カッパ及びラムダの一方の量を他方の鎖の型に対して上昇させ、他の上昇させないこと、に依存する。
【0028】
本発明は、別個のカッパ及びラムダFLCを定量する必要がない。それは代わりに、バックグランドFLC生成に比較して上昇したピークの単一検出に依存する。これにより、例えば大きな感度が実現されて、非分泌性多発性骨髄腫及びALアミロイドーシスを同定することができる。それはまた、インタクト免疫グロブリンを還元して重鎖に結合された軽鎖を放出することなく、FLCを計測することができる。
【0029】
FLCは、成人ではインタクト免疫グロブリン(典型的には6~16g/L)に比較してかなり低濃度で、例えば約26mg/Lなどの40mg/L未満で存在する。遊離カッパ軽鎖の95%正常参照範囲は、3.3~19.4mg/Lであり、遊離ラムダ軽鎖の場合、5.7~26.3mg/Lである。それゆえ、正常な患者であってもFLCを同定すること、及びMGUS患者における単クローン性FLCの存在を同定することができるというのは、驚くべきことである。
【0030】
本発明は、対象の試料からの免疫グロブリン遊離軽鎖(FLC)を、抗FLC特異性抗体又はその断片で精製すること、及び該精製された試料を質量分析技術に供して、該試料中の1種又は複数の単クローン性FLCに対応する1つ又は複数のピークの存在を同定すること、を含む形質細胞関連疾患を同定又はモニタリングする方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0031】
即ち、質量分析アッセイは、典型的には、質量分析法に供されると電荷及び質量のおかげで遊離軽鎖を分離する。これは、典型的には異なる分子量を有するFLCの正常な分布を生成して、生殖系列の軽鎖アミノ酸配列の分子量と、それらの配列の体細胞高頻度突然変異と、を正常なFLCを有する対象において反映させる。先に議論された通り、単クローン性FLCの存在が、形質細胞関連疾患により生成された多量の単クローン性FLCのから得られたピークを生成する。その単クローン性FLCは、サイズ及び電荷を有し、存在するバックグランドの正常なFLCに比較して多量(大きなピーク)であることにより同定される。
【0032】
本明細書で用いられる質量分析法(MS)としては、例えば液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC-MS)、四重極飛行時間型質量分析法と結び付けたマイクロフロー液体クロマトグラフィーエレクトロスプレーイオン化(micro LC-ESI-Q-TOF MS)が挙げられる。これには、例えば陽イオンモードの使用が含まれてもよい。オービトラップ型質量分析計、イオン捕捉型質量分析計、飛行時間型質量分析計、トリプル四重極質量分析計、又は四重極質量分析計が、用いられてもよい。
【0033】
或いは該MS技術としては、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法-飛行時間型質量分析法(MALDI-TOF-MS)が挙げられる。MALDI-TOFが用いられる場合、それは典型的には帯電したイオンの陽性モード、好ましくは1+、2+及び/又は3+イオン、最も好ましくは2+イオンで用いられる。
【0034】
典型的にはFLCの酵素切断は、実行されない。
【0035】
該抗FLC特異性抗体又はその断片は、モノクローナル若しくはポリクローナル抗体、又はその断片であってもよい。該抗体は、合成抗体であってもよく、合成抗体としては、組換え抗体、核酸アプタマー、及び非免疫グロブリン足場タンパク質が挙げられる。
【0036】
該抗体は、抗ヒト又は抗ウマ又は抗ヒツジ又は抗ブタなどの種特異性であってもよい。該抗体は、軟骨性の魚、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウサギ、ウシ、ラマなどのラクダ科、ウサギ又はマウスなどで増加されてもよい。該抗体又は断片は、遊離軽鎖に特異的に結合することが可能である。
【0037】
該抗体の断片は、例えばF(ab’)断片であってもよい。
【0038】
該抗FLC特異性抗体又は断片は、抗カッパFLC特異性又は抗ラムダFLC特異性であってもよい。即ち該ラムダFLC及びカッパFLCは、試料から別個に分離されてもよい。例えばその後、2つの別のアッセイが、質量分析法で実行される。その後、図1及び2に示されたものなどの別のラムダFLC記録及び別のカッパFLC記録が生成される。
【0039】
或いは、又はより典型的には、抗カッパFLC特異性抗体又は断片と、抗ラムダ特異性抗体又は断片との混合物が、用いられる。これは、ラムダ及びカッパ遊離軽鎖の両方を共精製して、例えば正常な健常患者について図4に示された読み出しを生成する。単クローン性ピークは、依然として組み合わせたバックグランドFLCより上で同定される。
【0040】
抗FLC特異性抗体又はその断片は、抗体又はその断片の少なくとも1つの重鎖(又はその断片)と少なくとも1つの軽鎖(又はその断片)の間に1つ又は複数の非ジスルフィドクロスリンクを含んでいてもよい。
【0041】
該クロスリンクは、典型的にはチオエーテル結合を含む。別のクロスリンクが、用いられてもよい。
【0042】
チオエーテルクロスリンクは、チオエーテル結合を含む。これは、抗体の残基間の連結であり、該連結は、ジスルフィド結合よりむしろ硫黄1つの結合を有する。即ち、チオエーテルクロスリンクは、当業者に熟知されたジスルフィド架橋など、もう1つの硫黄原子を含む連結を含まない。代わりにチオエーテルクロスリンクは、高分子の残基を架橋する硫黄1つの結合を含む。1つ又は複数のさらなる非硫黄原子が、追加的に連結を形成してもよい。
【0043】
チオエーテルクロスリンクにより連結された残基は、天然残基又は非天然残基であり得る。当業者に認識される通り、チオエーテルクロスリンクの形成が、残基から原子を損失し得る。例えば2つのシステイン残基の側鎖間のチオエーテルクロスリンクの形成が、残基からの硫黄原子及び水素原子の損失をもたらし得るが、それでも得られたチオエーテルクロスリンクは、当業者によりシステイン残基を連結すると認識されよう。
【0044】
チオエーテルクロスリンクは、抗体の任意の2つの残基を連結することができる。残基の1つ又は複数が、例えばシステイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、メチオニン及びチロシン、から選択されてもよい。残基の2つが、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、メチオニン及びチロシンからなる群から選択されてもよい。より典型的には該残基の2つが、システイン残基である。典型的には唯一のチオエーテルクロスリンクが、重鎖と軽鎖の間にある。或いは2つ、3つ又はより多くのチオエーテルクロスリンクが、用いられてもよい。抗体の該重鎖対、又はその断片は、チオエーテル結合などの1つ又は複数の非ジスルフィドクロスリンクにより連結されていてもよい。
【0045】
チオエーテルクロスリンクは、例えば、参照により本明細書に援用される、国際公開第2006/099481号パンフレット、並びにZhang et al (2013) J. Biol. Chem. vol 288(23), 16371-8及びZhang & Flynn (2013) J. Biol. Chem, vol 288(43), 34325-35に記載される。
【0046】
ホスフィン及びホスファイトが、用いられてもよい。本明細書の「ホスフィン」は、一般式RP(ここでP=リン、及びR=任意の他の原子)で示される少なくとも1つの機能的単位を含む任意の化合物を指す。ホスファイトにおいて、該Rの位置は、特異的に酸素原子が占める。RP含有化合物は、ジスルフィド結合を攻撃し得る強力な求核試薬として作用する。これは、ジスルフィドの還元をもたらし得るが、幾つかの条件下では、チオエーテル結合の形成をもたらす場合もある。
【0047】
化合物としては、
トリス(ジメチルアミノ)ホスフィン(CAS番号1608-26-0)
トリス(ジエチルアミノ)ホスフィン(CAS番号2283-11-6)
トリメチルホスファイト(CAS番号121-45-9)
トリブチルホスフィン(CAS番号998-40-3)
が挙げられる。
参考資料:
参照により本明細書に援用される、
Bernardes et al. (2008) Angew. Chem. Int. Ed., vol 47, 2244-2247。
クロスリンクはまた、遊離チオールと反応して抗体分子の鎖にクロスリンクするマレイミドクロスリンカーなどのクロスリンカーを含んでいてもよい。これは、国際公開第WO00/44788号パンフレットに記載される通り、チオール基の一方の側と、追加的にリシンカルボキシル基などのもう一方の部分と、で結合するように作製することができる。
【0048】
リンカー、特にフレキシブルリンカーにより互いに連結された2つの反応性部分を含む二官能性クロスリンカーを用いてもよい。該リンカーは、鎖、例えば置換又は非置換アルキルの中で互いに共有結合された1つ又は複数の炭素を含んでいてもよい。該リンカーは、特にC1~C10、最も典型的にはC2~C6又はC3~C6リンカー。本出願者らは、クロスリンクされたタンパク質の相対的に高レベルの回収を有するため特に有用である、a,a’-ジブロモ-m-キシレン、BMOE(ビスマレイミドエタン)又はBMB(ビスマレイミドブタン)などのC2~C6含有クロスリンカーを見出した。
【0049】
ビスマレイミドはホモ二官能性スルフヒドリル反応性クロスリンカーである
これは、炭化水素又は他のリンカーによりつなげられた2つのマレイミド基を含有する充分に特徴づけられたクラスのクロスリンカーである。該マレイミド基は、ジスルフィドの還元により露出した遊離スルフヒドリル基と自然に反応して、各スルフヒドリルで非還元性チオエーテル結合を形成し、それにより2つの残留するシステインを共有結合でクロスリンクする。
【0050】
化合物としては
ビス(マレイミド)エタン(CAS番号5132-30-9)
1,4-ビス(マレイミド)ブタン(CAS番号28537-70-4)
が挙げられる。
【0051】
参考資料:
参照により本明細書に援用される、
Auclair et al. (2010) Strategies for stabilizing superoxide dismutase (SODl), the protein destabilized in the most common form of familial amyotrophic lateral sclerosis. Proc Natl Acad Sci U S A, vol 107(50) - pages 21394-9
Geula at al. (2012) Structure-based analysis of VDAC1 protein : defining oligomer contact sites. J Biol Chem, vol 287(3), 475-85
Kida et al. (2007) Two translocating hydrophilic segments of a nascent chain span the ER membrane during multispanning protein topogenesis. J Cell Biol, vol 171(7) pages 1441-1452。
【0052】
α,α’-ジブロモ-m-キシレンは同じく用いられ得るホモ二官能性スルフヒドリル反応性クロスリンカーである
ジブロモ-m-キシレン(CAS番号626-15-3)は、ハロゲン化ジアルキルクラスの化合物のメンバーであり、遊離スルフヒドリル基と反応するホモ二官能性クロスリンカーとして作用する。
【0053】
参考資料:
参照により本明細書に援用される、
Jo et al. (2012) Development of a-Helical Calpain Probes by Mimicking a Natural Protein-Protein Interaction J Am Chem Soc, col 134(42) - pages 17704-13。
【0054】
安定したチオエーテル結合を形成する別のスルフヒドリル反応性クロスリンキング化合物
遊離スルフヒドリルと反応して非還元性の共有結合でクロスリンクされた生成物をもたらすことが知られている試薬には少なくとも6つのクラスが存在する。スルフヒドリル基へのこれらの化合物の特異的反応性は様々であり、幾つかは、特定条件下で水、アミン及びカルボキシル基と反応するであろう。加えて、これらの化合物の多くは、嵩高のリンカー基を有し、制限された空間的環境でクロスリンクする能力を限定してもよい。以下の列挙は、各クラスからの2、3例を与えているが、より包括的列挙及び参考資料は、
【0055】
参照により本明細書に援用される、Chemistry of Protein Conjugation and Cross-linking, Wong, S: ISBN 0-8493-5886-8に与えられる。
【0056】
ビスマレイミド
ビス(マレイミド)ヘキサン;N-N’-メチレンビスマレイミド;ビス(N-マレイミドメチル)エーテル;N,N’-(1,3-フェニレン)-ビスマレイミド;ビス(N-マレイミド)-4,4’-ビベンジル;ナフタレン-1,5-ジマレイミド
【0057】
ハロアセチル誘導体
1,3-ジブロモアセトン;N,N’-ビス(ヨードアセチル)ポリメチレンジアミン;Ν,Ν’-ジ(ブロモアセチル)フェニルヒドラジン;1,2-ジ(ブロモアセチル)アミノ-3-フェニルヒドラジン;γ-(2,4-ジニトロフェニル)-α-ブロモアセチル-L-ジアミノ酪酸ブロモアセチル-ヒドラジド
【0058】
ハロゲン化ジアルキル
α,α’-ジブロモ-p-キシレンスルホン酸;α,α’-ジヨード-p-キシレンスルホン酸;ジ(2-クロロエチル)スルフィド;トリ(2-クロロエチル)アミン;N,N-ビス(p-ブロモエチル)ベンジルアミン
【0059】
2.4 s-トリアジン
ジクロロ-6-メトキシ-s-トリアジン;2,4,6-トリクロロ-s-トリアジン(シアヌル酸);2,4-ジクロロ-6-(3’-メチル-4-アミノアニリノ)-s-トリアジン;2,4-ジクロロ-6-アミノ-s-トリアジン
【0060】
アジリジン
2,4,6-トリ(エチレンイミド)-s-トリアジン;N,N’-エチレンイミノイル-1,6-ジアミノヘキサン;トリ[1-(2-メチルアジリデニル)]-ホスフィン オキシド
【0061】
ビスエポキシド
1,2:3,4-ジエポキシブタン;1,2:5,6-ジエポキシヘキサン;ビス(2,-エポキシプロピル)エーテル;1,4-ブタジオールジグリシドキシエーテル
該クロスリンクは、1つ又は複数の天然由来ジスルフィド結合を置き換えてもよく、或いはジスルフィド結合に加えて生成されてもよい。
【0062】
他のクロスリンキング化学もまた、含まれる可能性がある。別のクロスリンキングとしては、以下のものを挙げることができる:
【0063】
カルボキシルから第一級アミンへ
(a)カルボジイミド活性化:N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミドHCl(EDC;CAS Nr 25952-53-8
(b)カルボジイミド活性化:N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(sNHS;CAS Nr 106627-54-7)で安定化されたEDC
(c)4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウム(DMTMM;CAS Nr 3945-69-5)
・上記のもののいずれかで活性化されたら、カルボキシラートが第一級アミン(リシン、N-末端)と反応して、アミド共有結合を形成するであろう。
・注:幾つかの条件下では、EDC/sNHS活性化は、活性化カルボキシル基(アスパラギン酸、グルタミン酸、C-末端の)とヒドロキシル基(即ち、セリン、トレオニン及びチロシン)の間のエステル共有結合を形成させ得る。
【0064】
カルボキシルからカルボキシルへ
(a)カルボキシルをEDC、EDC/sNHS又はDMTMMで活性化し、その後、アミン誘導体化ポリエチレングリコール、例えばアミン-PEGn-アミン(ここでn=PEG単位の反復数)でクロスリンクする
(b)カルボキシルをDMTMMで活性化し、ホモ二官能性ヒドラジド、例えば、アジピン酸二塩酸塩(ADH;CAS Nr 1071-93-8)でクロスリンクする
【0065】
カルボキシルからスルフヒドリルへ
ジスルフィドが存在する場合、還元剤、例えばトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP;CAS Nr 51805-45-9)で-SHに還元する。カルボキシルをカルボジイミド(EDC)で活性化して、
(a)3-(4-(4-(アミノメチル)-1H-1,2,3-トリアゾール-1-イル)フェニル)プロピオロニトリル塩酸塩(APN;CAS Nr 1643841-88-6)
(b)アミン-(PEG)n-マレイミド(ここでn=PEG単位の反復数)(MAL-PEG-NH2)
でクロスリンクする。
【0066】
アミンからアミンへ
(a)PEG化ビス(スルホスクシンイミジル)スベラート)、例えばBS(PEG)5(ここで5=PEG単位の反復数)
(b)ジメチルピメルイミダート(DMP;CAS Nr 58537-94-3)
(c)p-フェニレンジイソチオシアナート(PDITC;CAS Nr 4044-65-9)
(d)スベリン酸ビス(N-ヒドロキシスクシンイミドエステル)(DSS;CAS Nr 68528-80-3)
(e)エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシナート)(スルホ-EGS;CAS Nr 167410-92-6)
【0067】
アミンからスルフヒドリルへ
(a)マレイミド-PEG8-スクシンイミジルエステル(CAS Nr 756525-93-6)
(b)4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボン酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(SMCC;CAS Nr 64987-85-5)
(c)3-(2-ピリジルジチオ)プロピオン酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(SPDP;CAS Nr 68181-17-9)
(d)3-(4-ホルミルフェニル)プロピオロニトリル(APN-CHO)
(e)ヨード酢酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(IAA-NHS;CAS Nr 39028-27-8)
【0068】
ヒドロキシルからスルフヒドリルへ
(a)4-(マレインイミド)フェニルイソシアナート(PMPI;CAS Nr 123457-83-0)
【0069】
他の化学
(a)p-アジドフェニルグリオキサール(APG;CAS Nr 1196151-49-1)
・アルギニンと、そしてより少ない程度にシスチン(ジスルフィド結合)及びヒスチジンと反応させる。光活性化により、二重結合、C-H及びN-Hで、又は環拡大機序を介して第一級アミンで、付加反応を開始する。
(b)1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE;CAS Nr 2425-79-8)
・ヒドロキシル、アミン及びスルフヒドリル基と反応させる
(c)4-(4-ジアゾニオフェニル)ベンゼンジアゾニウム(CAS Nr 5957-03-9
・チロシン及びヒスチジンと反応させる
(d)ベンゾフェノン-4-ヨードアセトアミド(CAS Nr 76809-63-7)
・スルフヒドリルと反応させて、光活性化により、活性C-H及びN-H結合と反応させて、共有結合を形成させる
(e)スクシンイミジル 2-[(4,4’-アジペンタンアミド)エチル]-1,3’-ジチオプロピオナート)(SDAD;CAS Nr 1253202-38-8
・NHSエステル基は、第一級アミンと反応し;ジアジリン基は、光活性化により任意のアミノ酸側鎖又はペプチド骨格と効率的に反応する
【0070】
典型的には抗体の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%又は少なくとも95%が、クロスリンクされる。70%~80%のクロスリンキング効率が、例えばビスマレイミド、を用いて観察された。例えば還元剤を添加して残りの非クロスリンク抗体のジスルフィド結合を破壊すること、及び例えばゲル電気泳動を利用して、分離すること、により、該クロスリンクされた抗体はさらに精製されて、より高レベルのクロスリンキングを生成してもよい。
【0071】
クロスリンクされた抗体を利用する利点は、それが、例えば精製抗体から放出された遊離軽鎖により、試料の汚染を減少させることである。これは、この系の感度及び正確度を上昇させる。
【0072】
該方法は、総カッパ及び総ラムダ軽鎖を抗総カッパ及び抗総ラムダ抗体又はその断片で精製するステップと、該精製された試料を質量分析法に供して、単クローン性軽鎖生成に対応する1つ又は複数のピークの存在を同定するステップと、をさらに含んでいてもよい。即ち、抗FLC特異性抗体は、実質的に遊離軽鎖のみに結合するが、総カッパ及び/又は総ラムダ軽鎖は、遊離軽鎖と、重鎖に結合された軽鎖との両方に結合する。それゆえこれは、遊離軽鎖ではなく試料中の任意の軽鎖を検出する。この追加のステップは、例えば単クローン性のインタクト免疫グロブリンが生成されるMGUSの同定を支援する。
【0073】
同じく、別個の総カッパ軽鎖特異性抗体及び総ラムダ軽鎖特異性抗体が、用いられてもよく、或いは該2種の抗体の互いの混合物が、用いられてもよい。該抗体及び断片は、先に定義された通りであってもよく、又は先に記載された通り修飾されてもよい。典型的にはそれらは、1つ又は複数の非ジスルフィドクロスリンクでクロスリンクされる。
【0074】
総カッパ及び/又はラムダ抗体を用いたアッセイの代わり又は追加として用いられ得る別の方法は、例えば還元剤を用いて、試料の一部を還元条件に供する。これは、重鎖から結合された軽鎖を放出する。放出された軽鎖はその後、抗総カッパ及び/若しくはラムダ軽鎖を用いて、又は抗カッパ及び/若しくはラムダFLC抗体を用いて、濃縮又は精製されてもよい。
【0075】
濃縮ステップで用いられる抗体が、検出抗体の軽鎖と重鎖の間の1つ又は複数の非ジスルフィドクロスリンクの存在により修飾される場合、それらは、依然として還元条件下で用いられて、図9及び10に示される通り試料中の放出された軽鎖を検出してもよい。
【0076】
該試料は、例えば涙液、血漿、血清、血液、尿、唾液又は脳脊髄液をはじめとする適切な体液であってもよい。
【0077】
形質細胞関連疾患は、1つ又は複数の単クローン性軽鎖を生成する任意のものであってもよい。これらには、例えばインタクト免疫グロブリン、多発性骨髄腫、軽鎖多発性骨髄腫、非分泌性多発性骨髄腫、ALアミロイドーシス、軽鎖沈着症(LCDD)、くすぶり型多発性骨髄腫、意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS)、マクログロブリン血症、POEMS(多発神経障害、臓器腫大、内分泌疾患、単クローン性ガンマグロブリン血症及び皮膚変化)症候群が挙げられる。
【0078】
FLC又は総軽鎖を精製するために本発明で用いられる抗体又は断片が、例えば当該技術分野で概ね知られる型の適切な免疫精製カラムで提供されてもよい。或いは該抗体は、例えば「DynaBeads(商標)」として知られる型の、磁気ビーズに付着されてもよい。これにより抗体を試料と混合させて、試料中のFLC又は総軽鎖に結合させる。その後、FLC又は軽鎖に付着された抗体が、抗体又は断片を引き付ける磁気の援助により試料から除去される。
【0079】
その後、FLC又は軽鎖は、抗体から溶出されて、例えば質量分析法のターゲット上に配置させることにより、質量分析計で用いられてもよい。
【0080】
或いは該抗体又は断片は、例えば質量分析法のターゲット上で、固定化されてもよい。該試料は、該抗体を含むターゲットと接触させ、該ターゲットを洗浄して結合された材料を除去し、その後、結合されたFLC又は軽鎖を含有する(断片の抗体を介して)質量分析法のターゲットを質量分析法に供して、結合された遊離軽鎖又は複数の軽鎖の存在を検出する。
【0081】
したがって本発明のさらなる態様は、抗カッパFLC抗体又はその断片、抗ラムダFLC抗体又はその断片、及び少なくとも1つの質量分析法のターゲットを提供する。典型的には該抗体は、質量分析法のターゲット上で固定化される。典型的には抗カッパFLC抗体と抗ラムダFLC抗体の混合物が、該ターゲット上で固定化される。
【0082】
先に定義された質量分析法のターゲットを含む質量分析計も、提供される。
【0083】
本発明の方法は、1種又は複数のさらなるアッセイと組み合わせて使用して、対象が有する任意の病気をさらに特徴づけてもよい。例えば:
血清血漿(Serum plasma)電気泳動又は免疫固定電気泳動を実施して、該病気をさらに特徴づけてもよい。
【0084】
総タンパク質アルブミン又はベータ-2-マイクログロブリンが、MS又は当該技術分野で知られた従来のアッセイにより検出されてもよい。
【0085】
クレアチニン及びシスタチンなどの腎機能マーカーが、アッセイされてもよい。トロポニン、NT-pro-BNPなどの心臓マーカーも、アッセイされてもよい。アルカリホスファターゼ(ALP)及びリン酸塩(Ph)と同様に、高カルシウム血症のための骨プロファイル/ターンオーバーがアッセイされてもよい。
【0086】
したがって、本明細書で請求される発明は、インタクト免疫グロブリン、多発性骨髄腫、軽鎖多発性骨髄腫、非分泌性多発性骨髄腫、ALアミロイドーシス、軽鎖沈着症、くすぶり型多発性骨髄腫、形質細胞腫及びMGUSをはじめとする種々の異なる形質細胞関連疾患を検出すると予測される。MGUSは、正常なFLCクローンが存在する場合に検出されるであろう。
【0087】
以下の表は、本発明の予測される感度に比較して、最も適切な症候性単クローン性ガンマグロブリン血症スクリーニングパネルの感度を示している。SPEは、血清血漿電気泳動であり、sFLCは、血清遊離軽鎖であり、MS FLCは、本発明である。
【表1】
【0088】
ここに本発明を、以下の図を参照しながら、例として記載する。
【図面の簡単な説明】
【0089】
図1】抗遊離ラムダ抗体での精製後の、形質細胞関連疾患の非存在下での正常試料の一価イオン範囲22.5~23.5kDaに及ぶ陽イオンモードでの質量分析法の実行を示す。
【0090】
図2】抗遊離カッパ抗体での精製後の、正常試料の一価イオン範囲22.5~23.5kDaに及ぶ陽イオンモードでの質量分析法の実行を示す。
【0091】
図3図1及び2の印字出力のオーバーレイを示す。
【0092】
図4】正常試料に及ぼす抗遊離ラムダ及び抗遊離カッパ抗体での共精製の影響を示す。
【0093】
図5】抗遊離ラムダでの精製後の異常な試料での質量分析の実行を示す。これは、異常な単クローン性タンパク質の存在を示した異常なピークを示す。
【0094】
図6】抗遊離カッパでの精製後の、遊離ラムダの異常なクローン性生成が存在する異常な試料の質量分析法の実行を示す。
【0095】
図7図5及び6に示された印字出力のオーバーレイを示す。
【0096】
図8】抗遊離ラムダ及び抗遊離カッパでの共精製後の、遊離ラムダの異常なクローン性生成を含む異常な試料の質量分析法の実行を示す。
【0097】
図9】還元SDS-PAGE分析により示されたBS(PEG)によるヒツジ抗ヒトIgG抗体のクロスリンキング。L=遊離免疫グロブリン軽鎖、H=遊離免疫グロブリン重鎖、H及びH=クロスリンクされた重鎖及び軽鎖分子。
【0098】
図10】BS(PEG)でクロスリンクされた抗体は、生物活性を保持する。ヒツジ抗ヒトIgG抗体を上昇濃度のBS(PEG)でクロスリンクして、ELISAによりそれらのIgG結合活性を分析した。
【0099】
図11A】二価イオンの陽イオンモードでのIgGカッパMGUSの対象からの試料についての質量分析法の実行を示す。
【0100】
図11B】一価イオンの陽イオンモードでのIgGカッパMGUSの対象からの試料についての質量分析法の実行を示す。
【0101】
図12A】二価イオンの陽イオンモードでのIgAラムダMGUSの対象からの試料についての質量分析法の実行を示す。
【0102】
図12B】一価イオンの陽イオンモードでのIgAラムダMGUSの対象からの試料についての質量分析法の実行を示す。
【0103】
図13A】二価イオンの陽イオンモードでのIgAラムダMGUSの対象からの試料についての質量分析法の実行を示す。
【0104】
図13B】一価イオンの陽イオンモードでのIgAラムダMGUSの対象からの試料についての質量分析法の実行を示す。
【0105】
図14A】二価イオンの陽イオンモードでの正常対象からの質量分析法の実行を示す。
【0106】
図14B】一価イオンの陽イオンモードでの図14Aの正常試料の質量分析法の実行を示す。
【0107】
図15A】二価イオンの陽イオンモードでの正常試料の質量分析法の実行を示す。
【0108】
図15B】一価イオンの陽イオンモードでの図15Aの正常対象の試料の質量分析法の実行を示す。
【発明を実施するための形態】
【0109】
カッパFLC及びラムダFLCを、抗カッパFLC抗体及び抗ラムダFLC抗体、又はそれらの混合物を用いて、別個に精製すること又は共精製することができる。
【0110】
精製されたFLCを質量分析プレートにスポットして、MALDI-TOFにより分析する。
【0111】
図1~8は、患者の血清中の単クローン性遊離軽鎖の存在が、どのようにしてバックグランドの正常な遊離軽鎖生成を超えるピークの存在により容易に同定され得るかを示す。このピークは、カッパピークとラムダピークのオーバーラップが存在するエリアでも同定され得る。
【0112】
抗ヒトIgG抗体は、ホモ二官能性クロスリンカーBS(PEG)によりクロスリンクされ得る。
【0113】
該抗体を、上昇濃度のBS(PEG)(0~40モル過剰)と共にインキュベートして、還元SDS-PAGE分析により分析した。図9に示された通り、BS(PEG)の非存在下で、還元剤(50mM DTT)が、該抗体を重鎖及び軽鎖部分に解離する。対照的に、抗体と上昇濃度のBS(PEG)(0~40モル過剰)とのインキュベーションで、重鎖及び軽鎖のクロスリンキングが同時に増加して、還元抵抗性重-軽鎖対を形成させる。
【0114】
BS(PEG)でクロスリンクされた抗体は、生物学的活性を保持する。
【0115】
精製されたヒトIgGラムダを、3~2000ng/mLでマイクロタイタープレートにコーティングした。0~40モル過剰のBS(PEG)でクロスリンクした後、ヒツジ抗ヒトIgG抗体を適用した。結合された抗体の量を、西洋ワサビペルオキシダーゼレポーター酵素にコンジュゲートされたロバ抗ヒツジ抗体、及び3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン発色基質を用いて計測した。図10に示された通り、40×モル過剰までのBS(PEG)の濃度では、クロスリンクされていない抗体に比較して、ヒトIgG結合への有意な影響は観察されなかった。
【0116】
MGUSの対象からの試料及び正常試料のテスト
図14~15のヒト血清試料(図11~13(A~C)の3例のIPE陽性MGUS、及び2例の健常対照)を、PBS-T緩衝液(25mMリン酸ナトリウム、150mM NaCl、0.1%Tween20、pH7.0)で希釈して、抗体コーティング磁気ビーズと共にインキュベートして再懸濁させ、逐次PBS-Tで3回、そして脱イオン水で2回洗浄した。ビーズを酸性緩衝液により室温で15分間溶出した。溶離液の1つをマトリックス(a-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸、10mg/gl)と混合し、その後、Mosquito HTSスポッター(TTP)を用いて磨いたスチールMALDI標的プレートにスポットして、Bruker Biotyper MALDI-TOF質量分析計(Microflex LT/SH Smart)で分析した。マススペクトルを、一価(+1、m/z 22~25kDa)及び二価(=2、m/z 10~14kDa)イオンを含む10,000~30,000のm/z範囲に及ぶ陽イオンモードで獲得した。データをBruker Flex解析ソフトウエアで解析した。
【表2】
【0117】
これは、質量分析法を用いると、正常な試料で正常に認められる遊離軽鎖レベルであっても単クローン性カッパ及びラムダ遊離軽鎖を検出し得ることを示している。
【0118】
予備的結果からも、二価イオンの陽性モードが異常な単クローン性FLCを一価陽性モードよりも良好に検出させることが示される。
【0119】
同定が困難であることの多いMGUSの対象であっても試料中の低レベルのFLCの存在を迅速に同定する能力は、驚くべきことであり、MGUS及び他の単クローン性ガンマグロブリン血症の対象を同定することが可能となる新しいアプローチを開拓する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B
図15A
図15B
【手続補正書】
【提出日】2023-04-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗カッパ遊離軽鎖抗体又はその抗カッパ遊離軽鎖特異的断片;抗ラムダ遊離軽鎖抗体又はその抗ラムダ遊離軽鎖特異的断片;及び質量分析標的;を含むキット。
【請求項2】
前記抗体又は断片が前記質量分析標的上に固定化されている、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記キットが、抗総カッパ及び/又は抗総ラムダ軽鎖抗体、又はその抗総カッパ及び/又は抗総ラムダ軽鎖特異的断片、を含み、任意でそれらが前記質量分析標的上に固定化されている、請求項1又は2のいずれかに記載のキット。
【請求項4】
請求項2に記載の質量分析標的を含み、当該質量分析標的上に、抗カッパ遊離軽鎖抗体又はその抗カッパ遊離軽鎖特異的断片;及び抗ラムダ遊離軽鎖抗体又はその抗ラムダ遊離軽鎖特異的断片が固定化されている、質量分析計。
【請求項5】
形質細胞関連疾患を同定又はモニタリングする方法であって、当該方法が、対象から遊離軽鎖(FLC)及び任意で総軽鎖を精製し、そしてそれらを請求項1~3のいずれか1項に記載のキット又は請求項4に記載の質量分析計を用いて検出することにより行われる、方法。
【請求項6】
前記形質細胞関連疾患が:
多発性骨髄腫、軽鎖多発性骨髄腫、非分泌性多発性骨髄腫、Alアミロイドーシス、軽鎖沈着症(LCDD)、くすぶり型多発性骨髄腫、意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS)、マクログロブリン血症、POEMS(多発神経障害、臓器腫大、内分泌疾患、単クローン性ガンマグロブリン血症及び皮膚変化)症候群;
からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記抗体又はその断片が、ポリクローナル若しくはモノクローナル抗体又はその断片である、請求項1~6のいずれか1項に記載のキット、質量分析計、又は方法。
【請求項8】
前記抗体が、1つ以上の重鎖又はその断片と、1つ以上の軽鎖又はその断片との間が、非天然クロスリンクによって架橋されている、請求項1~7のいずれか1項に記載のキット、質量分析計、又は方法。
【請求項9】
前記抗体の70%以上がクロスリンクされている、請求項8に記載のキット、質量分析計、又は方法。
【外国語明細書】