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特開2023-99033ピロロキノリンキノンモノナトリウム及びその製造方法、並びにそれを含む組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023099033
(43)【公開日】2023-07-11
(54)【発明の名称】ピロロキノリンキノンモノナトリウム及びその製造方法、並びにそれを含む組成物
(51)【国際特許分類】
   C07D 471/04 20060101AFI20230704BHJP
   A61K 31/4745 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20230704BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230704BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230704BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230704BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230704BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20230704BHJP
【FI】
C07D471/04 102
C07D471/04 CSP
A61K31/4745
A61K8/49
A61Q19/00
A61P9/00
A61P17/00
A61P25/00
A23L33/10
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068092
(22)【出願日】2023-04-18
(62)【分割の表示】P 2018525047の分割
【原出願日】2017-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2016128941
(32)【優先日】2016-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】池本 一人
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、有害な有機溶媒を使用せず、繊維状結晶を含まないかさ密度の高いピロロキノリンキノンモノナトリウムの製造方法及び新規な構造を有するピロロキノリンキノンモノナトリウムを提供することにある。
【解決手段】本発明のピロロキノリンキノンモノナトリウムは、式(1)に示される構造を有する。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)に示される構造を有するピロロキノリンキノンモノナトリウム。
【化1】
【請求項2】
結晶であり、Cu Kα放射線を用いた粉末X線回折で7.9、10.9、11.2、18.4、22.4、25.7、28.0、28.8±0.4°に2θ角度のピークを示す請求項1に記載のピロロキノリンキノンモノナトリウム。
【請求項3】
下記式(2)に示される構造を有するジピロロキノリンキノンモノナトリウム。
【化2】
【請求項4】
結晶であり、Cu Kα放射線を用いた粉末X線回折で9.9、16.1、16.8、28.1±0.4°に2θ角度のピークを示す請求項3に記載のジピロロキノリンキノンモノナトリウム。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のピロロキノリンキノンモノナトリウムの製造方法であって、
ピロロキノリンキノンジナトリウム及び/又はピロロキノリンキノントリナトリウムと酸とを接触させる工程を含むピロロキノリンキノンモノナトリウムの製造方法。
【請求項6】
前記工程を食塩存在下で行う請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記工程をエタノール濃度が10~90質量%の水溶液の存在下で行う請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記工程でピロロキノリンキノンジナトリウムとピロロキノリンキノンモノナトリウムとの混合結晶を得る請求項5~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のピロロキノリンキノンモノナトリウム或いは請求項3又は4に記載のジピロロキノリンキノンモノナトリウムのいずれかとピロロキノリンキノンジナトリウムとを共に含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピロロキノリンキノンモノナトリウム及びその製造方法、並びにそれを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ピロロキノリンキノン(以下、単に「PQQ」ということがある)は細菌に限らず、真核生物のカビ、酵母に存在し、補酵素として重要な働きを行っており、近年までに細胞の増殖促進作用、抗白内障作用、肝臓疾患予防治療作用、創傷治癒作用、抗アレルギ-作用、逆転写酵素阻害作用、グリオキサラ-ゼI阻害作用-制癌作用などの多くの生理活性が明らかにされている。そのため、PQQは、医薬品、食品、及び化粧品分野で有用な物質として注目を集めている。例えば、医薬品分野では、PQQは、心臓、皮膚、神経等の治療薬としてその応用が期待されている。また、化粧品分野では、PQQは、美肌効果を有する物質として、その応用が期待されている。
【0003】
ピロロキノリンキノンは、培養で作られ、水溶液中で生成工程が行われるため、通常、アルカリ金属塩で得られる。ピロロキノリンキノンは水溶性であることが知られているが、フリー体構造のPQQは低い水溶性を示し、実際にはPQQのアルカリ金属塩にすることで水溶性が向上している。特にPQQのナトリウム塩は毒性がないため使用しやすい。実際、PQQのジナトリウム塩が食品として認められて使用されている。PQQのジナトリウム塩の結晶は、含水結晶であるものが知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1及び2参照)
下記構造式で示されるピロロキノリンキノンモノナトリウム塩はジナトリウム塩に比べ、溶解性が大きく異なっていることから、異なる使用目的で使用するのに適している。例えば、水への溶解をゆっくりとしたい場合に適している。
【化1】
ピロロキノリンキノンのカルボン酸の1箇所の水素とナトリウムとが入れ替わった構造のモノナトリウム塩の合成方法としてテトラヒドロフランにPQQを溶解させ、水溶液中の水酸化ナトリウムと反応させる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2011/007633号
【特許文献2】中国特許出願公開第101885725号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Ishida, T. et al., “Molecular and crystal structure of PQQ (methoxatin), a novel coenzyme of quinoproteins: extensive stacking character and metal ion interaction”, Journal of American Chemical Society, 1998, Vol. 111, p. 6822-6828
【非特許文献2】Ikemoto, K. et al., Crystal structure and characterization of pyrroloquinoline quinone disodium trihydrate, Chemistry Central Journal 2012, 6:57 doi:10.1186/1752-153X-6-57
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2に記載の方法で用いるテトラヒドロフランは引火性があり、食品に使用できる溶媒ではない。また、特許文献2に記載のナトリウム塩の製造方法においてピロロキノリンキノンを培養から製造する場合には、中性条件で培養したピロロキノリンキノン含有溶液は対イオンを有する構造である。そのため酸性条件にしてフリー体に変換して、さらに中和する必要がある。また、得られる物質は繊維状態構造で、嵩が高く、流動性に乏しい。そのため、同一体積での含量が低下する欠点がある。また、繊維状の結晶は固体状態では流動性に乏しく、取り扱いが困難である。
【0007】
ピロロキノリンキノンナトリウム塩は、ナトリウムの結合場所、結晶構造が異なることで安定性や取り扱い、色が変わることは知られている。取り扱いに関しては繊維状の固体になるとろ過をするとフィルム状になりやすく、粉体として取り扱う上で流動性に乏しく、使いにくい。これを改善するにはフィルム状に固まった状態を粉砕する操作が必要である。このような操作はこれまでに知られている結晶の作り方とは異なるため安定な結晶を得ることが比較的困難であり、安定な結晶及びその製造方法が求められている。安定な結晶を得るためには、特にかさ密度を上げることは重要である。これにより流動性の改善も図ることができる。
PQQの構造を有する化合物を食品や化粧品に応用する上では、PQQの構造を有する化合物には水溶性で色が変化しにくく結晶性が高いものが求められる。また、安全で迅速に製造できる方法が求められている。
【0008】
そこで、本発明は、有害な有機溶媒を使用せず、繊維状結晶を含まないかさ密度の高いピロロキノリンキノンモノナトリウムの製造方法及び新規な構造を有するピロロキノリンキノンモノナトリウムを提供することにある。さらに迅速なピロロキノリンキノンモノナトリウム結晶の製造方法及び新規な構造を有するピロロキノリンキノンモノナトリウム結晶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、PQQジナトリウム又はPQQトリナトリウムを特定条件下で調製することにより、新規な構造を有するPQQモノナトリウム結晶が得られることを見出した。本発明者はまた、このPQQモノナトリウム結晶は、変色しにくいことを見出した。本発明は、このような知見に基づく発明である。
【0010】
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]
下記式(1)に示される構造を有するピロロキノリンキノンモノナトリウム。
【化2】
[2]
結晶であり、Cu Kα放射線を用いた粉末X線回折で7.9、10.9、11.2、18.4、22.4、25.7、28.0、28.8±0.4°に2θ角度のピークを示す[1]に記載のピロロキノリンキノンモノナトリウム。
[3]
下記式(2)に示される構造を有するジピロロキノリンキノンモノナトリウム。
【化3】
[4]
結晶であり、Cu Kα放射線を用いた粉末X線回折で9.9、16.1、16.8、28.1±0.4°に2θ角度のピークを示す[3]に記載のジピロロキノリンキノンモノナトリウム。
[5]
[1]に記載のピロロキノリンキノンモノナトリウムの製造方法であって、
ピロロキノリンキノンジナトリウム及び/又はピロロキノリンキノントリナトリウムと過剰の酸とを接触させる工程を含むピロロキノリンキノンモノナトリウムの製造方法。
[6]
前記工程を食塩存在下で行う[5]に記載の製造方法。
[7]
前記工程をエタノール濃度が10~90質量%の水溶液の存在下で行う[5]又は[6]に記載の製造方法。
[8]
前記工程でピロロキノリンキノンジナトリウムとピロロキノリンキノンモノナトリウムとの混合結晶を得る[5]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]
[1]又は[2]に記載のピロロキノリンキノンモノナトリウム或いは[3]又は[4]に記載のジピロロキノリンキノンモノナトリウムのいずれかとピロロキノリンキノンジナトリウムとを共に含む組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明のPQQモノナトリウム結晶は、高い純度を有するだけでなく、溶解度と溶液中における分散性及び皮膚への浸透性が向上しており、化粧品、医薬品又は機能性食品の成分として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のPQQモノナトリウム結晶をボールアンドスティックで示した構造である。
図2】側面から見た本発明のPQQモノナトリウム結晶をボールアンドスティックで示した構造である。
図3】実施例1のPQQモノナトリウム結晶1の顕微鏡写真である。
図4】実施例1のPQQモノナトリウム結晶1の粉末X線回折である。
図5】実施例2のPQQモノナトリウム結晶をボールアンドスティックで示した構造である。
図6】実施例2のPQQモノナトリウム結晶1単結晶データから変換した粉末X線回折である。
図7】実施例6のかさ密度の高いPQQモノナトリウム結晶1の顕微鏡写真である。
図8】実施例7のPQQモノナトリウム結晶2の顕微鏡写真である。
図9】実施例7のPQQモノナトリウム結晶2の粉末X線回折である。
図10】実施例7のPQQモノナトリウム結晶2をボールアンドスティックで示した構造である。
図11】比較例2のPQQモノナトリウムの顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態(以下「本実施形態」とも記す。)について詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施形態のみに限定されない。
【0014】
本発明者はかさ密度の高い結晶を得るためにあるPQQモノナトリウムの結晶構造を調べた結果、それがこれまで報告されていない結合を有する塩であることが判明した。従来のピロロキノリンキノンの塩は、カルボン酸の水素がはずれ、代わりにナトリウムが入った構造を有する。本発明では下記式(1)に示される構造を有するPQQモノナトリウムである。
【0015】
本実施形態のPQQモノナトリウムは、例えば下記式(1)に示される構造を有する。これらの結合解析には単結晶構造解析が必要である。従来、PQQのカルボン酸の塩では酸性の水素原子が抜けたカルボン酸とナトリウムとが結合すると考えられている。ピロロキノリンキノンのこれまで報告された結晶でも同様の傾向がある。しかし、下記式(1)に示される構造を有するピロロキノリンキノンモノナトリウム(以下、「PQQモノナトリウム1」とも記す。)は、従来の考えからは予想外の構造を有している。本実施形態のPQQモノナトリウムの構造は、キノリン構造に結合しており、水素が残っているカルボン酸と、キノリン構造中の窒素原子と、キノリン構造に結合している酸素原子とにナトリウムが結合し、キノリン構造に結合しており、ナトリウムが結合していないカルボン酸の水素が解離している。
図1及び図2は本実施形態のPQQモノナトリウム1の結晶構造をボールアンドスティックで示したものである。本実施形態のPQQモノナトリウム1の実際の結晶は下記式(1)に示される構造2つからなるユニットを有している。
【化4】
【0016】
本実施形態のPQQモノナトリウムは、また例えば下記式(2)に示される構造を有する。下記式(2)に示される構造を有するジピロロキノリンキノンモノナトリウム(以下、「PQQモノナトリウム2」とも記し、PQQモノナトリウム1と区別しない場合には、単に「PQQモノナトリウム」と記す。)も、従来の考えからは予想外の構造を有している。本実施形態のPQQモノナトリウム2の構造は、1分子のPQQにおける、キノリン構造に結合しており、水素が残っているカルボン酸と、キノリン構造中の窒素原子と、キノリン構造に結合している酸素原子と、もう1分子のPQQにおける、キノリン構造に結合しており、水素が残っていないカルボン酸と、ピロール構造に結合しているカルボン酸とにナトリウムが結合している。
【化5】
【0017】
本実施形態のPQQモノナトリウムの結晶は、含水結晶であることが好ましい。含水結晶として、例えば結晶構造解析から導かれたあるPQQモノナトリウムの結晶構造は2つのPQQユニットと2つのナトリウムを有する構造である。本実施形態のPQQモノナトリウムの結晶はこれまで報告されたナトリウム塩とは異なり、イオン化していないカルボン酸COOHのままナトリウムと結合を作っていることが特徴である。このような結合をもつピロロキノリンキノンは知られておらず、新規な結合をもつPQQモノナトリウム結晶である。
【0018】
単結晶によって構造決定された結晶はこのデータから粉末X線回折のデータに変換して同定可能である。そのためこの構造を有する結晶は単結晶構造解析だけでなく、確認は粉末X線回折で確認できる。本実施形態のPQQモノナトリウム1の結晶(以下、「結晶1」とも記す。)は、Cu Kα放射線を用いた粉末X線回折で、7.9、10.9、11.2、18.4、22.4、25.7、28.0、28.8±0.4°に2θ角度のピークを示すPQQモノナトリウム結晶である。このピークは、モノクロメータが装着された一般的な粉末X線回折装置で観測することができる。測定データには測定誤差も含まれることから、本実施形態で規定する結晶は、ピークの角度に関する合理的な同一性を有する結晶形である。この結晶1の結晶水は例えば9.2質量%である。実際には乾燥や湿度の影響によって水分量が変わり、15~18質量%になることもある。この結晶形は四角柱である。この結晶形は繊維状でないことで粉末としての取り扱いが容易である。
【0019】
本実施形態のPQQモノナトリウム2の結晶(以下、「結晶2」とも記記し、結晶1と区別しない場合には、単に「結晶」と記す。)はCu Kα放射線を用いた粉末X線回折で、9.9、16.1、16.8、28.1±0.4°に2θ角度のピークを示すPQQモノナトリウム結晶である。この結晶は結晶形1をさらに安定化した結晶である。この結晶2は水分量が少ない。結晶2の水分量は例えば4~7質量%である。低い水分量のピロロキノリンキノンモノナトリウムはより疎水的で油分との親和性向上メリットがある。実際の結晶では結晶1と結晶2とが混合した状態で得られることもある。
【0020】
本実施形態のピロロキノリンキノンモノナトリウムの製造方法は、ピロロキノリンキノンジナトリウム及び/又はピロロキノリンキノントリナトリウムと酸とを接触させる工程を含む。酸は過剰の酸であることが好ましい。過剰の酸と接触させることにより迅速に製造を行うことができる。ここで過剰の酸とは、ピロロキノリンキノンジナトリウム及び/又はピロロキノリンキノントリナトリウムに対して酸が好ましくは2~200倍であり、より好ましくは3~100倍であり、さらに好ましくは5~50倍である。ここで、「接触させる」とは、ピロロキノリンキノンジナトリウム及び/又はピロロキノリンキノントリナトリウムと酸との少なくとも一部が接触していることを意味し、ピロロキノリンキノンジナトリウム及び/又はピロロキノリンキノントリナトリウムに酸を加えること、ピロロキノリンキノンジナトリウム及び/又はピロロキノリンキノントリナトリウムと酸とを混合することが含まれる。
【0021】
本実施形態の製造方法で得られるPQQモノナトリウムの結晶は、乾燥して使用されることが好ましい。具体的には、結晶の乾燥は、凍結乾燥、常圧乾燥や減圧乾燥により行うことができる。乾燥温度は、方法によって異なるが、例えば、-80~250℃、好ましくは、-60~250℃とすることができる。乾燥温度の下限は、凍結乾燥する際の出発温度であり、上限は結晶の分解が生じない温度である。例えば、乾燥温度は、凍結乾燥では、-80~0℃、好ましくは、-60~0℃とすることができ、常圧乾燥では、40~250℃とすることができ、減圧乾燥では、0~250℃とすることができる。
【0022】
本実施形態の製造方法はピロロキノリンキノンジナトリウムやピロロキノリンキノントリナトリウムからナトリウムイオンを除去することが特徴である。酸を加えることでナトリウムイオンは酸のナトリウム塩として除去される。過剰の酸を使用することで高速で結晶化させることが可能であるが、このときにはナトリウムイオンを共存させることが好ましい。具体的には塩酸の場合では塩化ナトリウム、硫酸では硫酸ナトリウムである。ピロロキノリンキノンモノナトリウムは溶解度が低く、除去されるナトリウム塩は溶解度が高いために分離される。
【0023】
本実施形態のPQQモノナトリウムの結晶1は、例えば、PQQジナトリウム又はPQQトリナトリウムを水又はエタノール水に懸濁もしくは溶解させ、酸を添加して製造される。結晶1は、水又はエタノール水中でPQQジナトリウム又はPQQトリナトリウムを酸と反応する工程で製造される。PQQトリナトリウムを原料とする場合、本実施形態のPQQモノナトリウムは、エタノール濃度0~90質量%の水溶液に、PQQトリナトリウムを添加し、次いで、酸を添加して、水溶液のpHを0~2の範囲に調整することで結晶化させることができる。PQQジナトリウムを原料とする場合、本実施形態のPQQモノナトリウムは、エタノール濃度0~90質量%の水溶液に、PQQジナトリウムを添加し、次いで、酸を添加して、水溶液のpHを0~2の範囲に調整することで結晶化させることができる。より詳細に記載すると、PQQジナトリウムを原料とし、エタノール濃度20~80質量%の水溶液を用いる場合、反応時間を12時間より短くする必要がある。この場合、これより長時間(12時間以上)反応を行うと結晶2が混入する。酸の添加量はPQQジナトリウムの場合は等量、PQQトリナトリウム原料では2倍量のモルでPQQモノナトリウムを製造できる。迅速に結晶を作るには過剰の酸を添加すればよく、このときにナトリウム塩、特に食塩を共存させることでPQQモノナトリウムの結晶1を安定に取り出すことができる。本実施形態のPQQモノナトリウムの結晶1はフリー体を形成する直前の準安定状態である。そのため、この条件では長時間反応させるとナトリウムを含まない結晶が析出するおそれがある。そのため、結晶作製には時間、温度を制御して適切な条件を選択することが好ましい。本実施形態で使用できる酸は塩酸、硫酸、硝酸の強酸が好ましいが、弱酸でも同様に反応を起こせる。使用できる弱酸は例えば酢酸、乳酸、蟻酸、クエン酸、リン酸である。使用する酸は限定されず、目的の結晶が得られる条件で行えばよい。
【0024】
また、本実施形態のPQQモノナトリウムの結晶1の製造方法は、過剰の酸を加える工程を食塩存在下で行うことが好ましい。
ここで食塩の量は、ピロロキノリンキノンジナトリウム及び/又はピロロキノリンキノントリナトリウムの質量に対して、好ましくは2~250倍であり、より好ましくは5~100倍である。
【0025】
本実施形態のPQQモノナトリウムの結晶1は、例えば水溶液のpHを所定の値にしてから0.1~140時間反応させることにより得ることができる。より好ましくは、反応時間は0.5~96時間とすることができる。また、反応温度は0~90℃、より好ましくは3~60℃で行うことができる。結晶化の条件は、できる結晶の品質に対する攪拌の有無や強弱の影響を勘案して、自由に選択できる。
【0026】
本実施形態のPQQモノナトリウムの結晶2は、例えばPQQジナトリウムを原料としてエタノール水で反応させるか、いったん結晶化した結晶1をエタノール水中で再結晶することでできる。より作りやすい条件はエタノール濃度20~80質量%の水溶液で結晶化させることで得ることができる。これらの結晶は製造した後、再結晶することもできる。本実施形態のPQQモノナトリウムの結晶2は、例えば12~140時間反応させることにより得ることができる。より好ましくは、反応時間は12~90時間とすることができる。また、反応温度は0~90℃、より好ましくは40~60℃で行うことができる。
【0027】
得られた結晶は、ろ過、遠心分離、デカンテーションで得ることができる。さらにこれをアルコール等で洗って提供することも可能である。
【0028】
さらに、本実施形態のPQQモノナトリウムの結晶2の製造方法は、酸を加える工程をエタノール濃度が10~90質量%の水溶液の存在下で行うことがより好ましい。当該エタノール濃度は、15~85質量%であることが好ましく、20~80質量%であることがより好ましく、30~70質量%であることがさらに好ましい。
【0029】
本実施形態のPQQモノナトリウムの結晶1及び2は、かさ密度が高く取り扱いやすい。また、本実施形態のPQQモノナトリウムの結晶1及び2は、溶液に加えた場合もゲル化のような変化をしないために溶液調合が容易である。また、本実施形態のPQQモノナトリウムの結晶2は、低水分含量結晶であり、かさ密度が高い。本実施形態のPQQモノナトリウム結晶1及び2は、さらに、結晶であることから高純度であるという利点を有している。
さらに本実施形態のPQQモノナトリウムの結晶は、溶解度、溶解速度、色の制御のためにジナトリウムと混合することができる。
本実施形態の組成物は、本実施形態のピロロキノリンキノンモノナトリウムとピロロキノリンキノンジナトリウムとを共に含む。
本実施形態の組成物において、ピロロキノリンキノンモノナトリウムとピロロキノリンキノンジナトリウムとの混合比率はピロロキノリンキノンモノナトリウムの結晶含量が好ましくは5~95質量%、より好ましくは5~50質量%である。本実施形態の組成物は結晶をそれぞれ混合して製造することもできるが、結晶化を部分的に行うことで製造することも可能である。すなわち上述したピロロキノリンキノンジナトリウム及び/又はピロロキノリンキノントリナトリウムに過剰の酸を加える工程でピロロキノリンキノンジナトリウムとピロロキノリンキノンモノナトリウムとの混合結晶を得ることができる。
【0030】
従って、本実施形態のPQQモノナトリウムの結晶1と2とは、ヒト用又は動物用として、食品、機能性食品、栄養剤、化粧品、医薬品又は医薬部外品として好適に使用することができる。ここでいう機能性食品とは、健康食品、栄養補助食品、栄養機能食品、栄養保健食品、及び特定保健用食品等、健康の維持あるいは食事にかわり栄養補給の目的で摂取する食品を意味している。食品、機能性食品、栄養剤、化粧品、医薬品又は医薬部外品の具体的な形態としては、カプセル剤(例えば、ゼラチンカプセル、ソフトカプセル)、タブレット、チュアブル、錠剤、ドリンク剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本実施形態のPQQモノナトリウムの結晶1及び結晶2は、かさ密度が高いためにカプセルにつめるのに有利である。
本実施形態では、上述のPQQモノナトリウムの結晶を含んでなる、医薬組成物、化粧組成物、機能性食品及び栄養剤が提供される。特に上述のPQQモノナトリウムの結晶は皮膚に対する浸透性に優れることから、上述のPQQモノナトリウムの結晶を含む本実施形態の医薬組成物は、経皮投与用の医薬組成物とすることができる。また、上述のPQQモノナトリウムの結晶は油脂中における分散性に優れることから、オイル分散系の製剤への処方に適している。従って、上述のPQQモノナトリウムの結晶を含む本実施形態の医薬組成物や化粧組成物は、好ましくは、乳剤や懸濁剤のような分散製剤の形態、軟膏剤やクリーム剤のような半固形製剤の形態あるいはソフトカプセルのような成形製剤の形態で提供されうる。
【0031】
上述のPQQモノナトリウムの結晶を機能性食品として製品化する場合には、添加剤として、例えば、甘味料、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、発色剤、漂白剤、防菌防黴剤、ガムベース、苦味料、酵素、光沢剤、酸味料、調味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、香料、香辛料抽出物等を用いることができる。また、上述のPQQモノナトリウム結晶は、一般的には、通常の食品、例えば、味噌、醤油、インスタントみそ汁、ラーメン、焼きそば、カレー、コーンスープ、マーボードーフ、マーボーなす、パスタソース、プリン、ケーキ、パン等に加えることが可能である。また、上述のPQQモノナトリウムの結晶を含む本実施形態の医薬組成物は、上述のPQQモノナトリウムの結晶と少なくとも1つ以上の製剤用添加剤を含んでいてもよい。また、本実施形態の化粧組成物は、上述のPQQモノナトリウムの結晶と少なくとも1以上の化粧品添加剤とを含んでいてもよい。製剤用添加剤や化粧品添加剤は、医薬組成物や化粧組成物の処方形態に従って、当業者であれば適宜選択することができる。
【実施例0032】
以下、参考例、実施例及び比較例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの例にのみ限定されるものではない。
【0033】
粉末X線回折は、株式会社RIGAKU製RINT2500を使用し、
X線:Cu/管電圧40kV/管電流100mA
スキャンスピード:4.000°/min
サンプリング幅:0.020°
で行った。
【0034】
結晶の水分含量(質量%)の測定は、カールフィッシャー法により行った。
Na量の測定方法
ナトリウム電極はHORIBA コンパクトイオンメーター LAQUAtwin を使用した。
サンプル1mgを0.5%コリン水酸化物水溶液1mLに溶解する。この溶液を200μLナトリウム電極で測定した。検出下限1ppm以下であった。
【0035】
参考例1:原料PQQトリナトリウム及びPQQジナトリウム
PQQジナトリウムは三菱ガス化学株式会社製(商品名:BioPQQ)を使用した。PQQトリナトリウムはBioPQQをpH6-8で塩析することで得た。
【0036】
実施例1
結晶形1:ピロロキノリンキノンモノナトリウム(NaCl 過剰、塩酸過剰)
PQQジナトリウム1.0gをNaCl 2g、濃塩酸7mL、水1Lに37度で混合した。この時、PQQジナトリウムに対し、NaClは10倍以上、塩酸30倍以上溶液に存在した。3時間攪拌して、その後、遠心分離、2‐プロパノール洗浄、乾燥して質量0.72gの結晶を得た。得られた結晶は、Na量からPQQモノナトリウムであることが判明した。得られたPQQモノナトリウムの結晶の顕微鏡写真を図3に示す。さらに得られたPQQモノナトリウムの結晶の粉末X線回折の結果を図4に示す。
得られたPQQモノナトリウムの結晶は四角形であり、流動性のある粒子であった。この結晶はろ過を行ってもフィルム状にならず、分散性のよいものであった。短時間の処理時間で結晶化を行えた。
【0037】
粉末X線回折を行ったところ、得られた結晶は、7.9、10.9、11.2、18.4、22.4、25.7、28.0、28.8±0.4°2θ角度のピークを示すPQQモノナトリウム結晶であることが分かった(図4)。
得られたPQQモノナトリウムの水分量は16.1質量%であった。
【0038】
実施例2:単結晶構造解析
結晶の原子配置を決定するために単結晶構造解析を行った。粉末X線回折(XRD)では結晶のXYZ軸のピークが混合して測定されるが単結晶構造解析ではこれらを分離して測定できるため、原子の位置決定が容易に行える。株式会社RIGAKU製R-AXIS RAPID Imaging Plate Diffractometerを使用して測定した。
人工胃液15mLに50mgのジナトリウム塩を加え、攪拌した。得られた溶液を0.2マイクロメートルのフィルターでろ過し、ろ液を4℃で1週間保存した。析出した濃赤色の結晶一粒の単結晶構造解析を行った。その結果、図5に示す構造のモノナトリウム塩であった。
この構造はピロロキノリンキノン2つとナトリウム2つとからなる構造を有し、結晶水を4つ含んでいた。一般に予想される構造とは異なりナトリウムの位置は式(1)で示される位置にあったが、このナトリウムと結合するカルボン酸の水素は解離せずに結合していた。
モノナトリウム塩のこの結晶構造を構造解析ソフトであるマーキュリーで粉末X線回折のデータに変換したピークを図6に示す。このピークは実施例1と一致しており、本発明で得られる結晶構造はすべて同一であることが確認できた。
【0039】
実施例3:結晶1 ピロロキノリンキノンジナトリウムの高濃度仕込み
水1Lに対しNaCl 2g、濃塩酸7mLで混合した。この溶液40mLにPQQジナトリウム0.6gを混合した。37℃3時間攪拌し、遠心分離、2-プロパノール洗浄、乾燥して質量0.56gの結晶を得た。得られた結晶は、Na量からPQQモノナトリウムであることが判明した。得られたPQQモノナトリウムの結晶の粉末X線解析も実施例1と同一のピークを有していた。
【0040】
実施例4 結晶1 高いNaCl濃度
PQQジナトリウム 0.50gをNaCl 50g、水500mL、濃塩酸3.5mLと混合し、37℃一晩反応させた。得られた反応液を、遠心分離、2-プロパノール洗浄、乾燥して質量0.41gの結晶を得た。得られた結晶は、Na量からPQQモノナトリウムであることが判明した。得られたPQQモノナトリウムの結晶の粉末X線解析も実施例1と同一のピークを有していた。
【0041】
実施例5 結晶1 ピロロキノリンキノントリナトリウム原料
参考例1で得られたピロロキノリンキノントリナトリウムを使用した。PQQトリナトリウム 0.50gをNaCl 50g、水500mL、濃塩酸3.5mLと混合し、37℃一晩反応させた。得られた反応液を、遠心分離、2-プロパノール洗浄、乾燥して質量0.32gの結晶を得た。得られた結晶は、Na量からPQQモノナトリウムであることが判明した。得られたPQQモノナトリウムの結晶の粉末X線解析も実施例1と同一のピークを有していた。
【0042】
実施例6 結晶1 かさ比重の大きいサンプル
PQQトリナトリウム2g、エタノール25mL、水20mL、2N塩酸5mLを室温で1時間攪拌した後、50℃5日間反応させた。得られた反応液を、遠心分離、2-プロパノール洗浄、乾燥して質量1.46gの結晶を得た。得られた結晶は、得られたPQQモノナトリウムの結晶の粉末X線解析も実施例1と同一のピークを有していた。また、得られたPQQモノナトリウムの水分量は15.7質量%であった。
また、得られたPQQモノナトリウムの顕微鏡写真を図7に示す。
結晶が大きくなることでかさ密度が高くなった。流動性も小さな結晶と比較して非常によかった。
【0043】
実施例7 結晶2
ピロロキノリンキノンジナトリウム2gをエタノール25mL、水22.5mLの混合液に加えた。ここに2N塩酸2.5mL加え、室温で1時間攪拌した。この懸濁液を50℃に加熱してサンプルを得た。5日後、サンプルをろ過したのち、減圧乾燥して質量1.71gの結晶を得た。得られた結晶は、Na量からPQQモノナトリウムであることが判明した。
また、得られたPQQモノナトリウムの顕微鏡写真を図8に示す。得られたPQQモノナトリウムの粉末X線解析の結果を図9に示す。
得られたPQQモノナトリウムの水分量は5.0質量%であった。水分量の少ない結晶であった。
実施例2と同様に結晶2の単結晶構造解析を行った。その結果、図10に示す構造のモノナトリウム塩であった。
【0044】
比較例1:PQQジナトリウムと塩酸のみの反応(食塩を含まない条件)
PQQジナトリウム1.0gを濃塩酸7mL、水1Lに37度で混合した。この時、PQQジナトリウムに対し塩酸30倍以上溶液に存在した。得られた溶液を、3時間攪拌、遠心分離、2-プロパノール洗浄、乾燥して質量0.71gの結晶を得た。得られた結晶は、Na量が含まれていなかった。この条件では得られた結晶はPQQフリー体であることが判明した。本発明の製造の特徴であるナトリウムイオンを過剰に入れないと結晶中からナトリウムが脱落してモノナトリウムを作ることができない場合があることがわかった。
【0045】
比較例2
中国公開公報(CN101885725A)に記載される内容にもとづく実験
ピロロキノリンキノンジナトリウム塩2gを水198gに加えてジナトリウム塩水溶液を得た。得られた溶液はNaOHでpH9にあわせた。次に、この溶液に和光純薬製濃塩酸を水で50%希釈した液7.7gを攪拌しながら添加してpHを0.9にした。得られた溶液を、30分攪拌後、析出した固体をろ過し、水、イソプロパノールで洗った。これを減圧乾燥50℃で一晩行った。回収した赤色結晶の質量は1.6gであった。Na分析によると、得られた結晶は、Na含有量0でナトリウムが含まれず、PQQフリー体であることがわかった。この方法で得られたPQQフリー体を原料にした。PQQフリー体をテトラヒドロフランに溶かし、水酸化ナトリウム水溶液と混合した。
得られた結晶の顕微鏡写真を図11に示す。
得られたモノナトリウム塩は実施例と異なり長細い繊維状の固体を含むものであった。さらに得られたモノナトリウム塩は、非常に小さく、ろ過固体はフィルム状になった。得られたモノナトリウム塩の水分量16.6質量%であった。例えば特許文献2に記載されているモノナトリウム塩の構造は以下のとおりであった。
【化6】
【0046】
かさ密度測定
10mLメスフラスコを使用してかさ密度を測定した。
その結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
実施例の結晶のかさ比重は大きく、同一質量であればカプセルを小さくできる。小さなカプセルを使用できるのは飲み込みやすく、使用者の負担を減らせる利点がある。
【0048】
懸濁液流動性試験
結晶を100g/L濃度になるように水と混合した。室温で混合後4℃にして様子を観察した。
【0049】
【表2】
実施例の結晶は濃厚な状態にしても流動性を有していることがわかった。これは溶液調合の際のプロセスで濃厚溶液として提供できる利点がある。比較例2の物質は流動性がなく、溶液で調製するプロセスで使用しにくい。
【0050】
実施例8~14
混合物の溶解性及び色
モノナトリウム結晶1として実施例1、モノナトリウム結晶2として実施例7で作ったものを使用した。表3に示す割合で粉末を混合して粉末の色を記録した。室温で結晶質量10mgに水1mL加えた。得られた水溶液を、超音波に5分かけ、70度のお湯で10分温めたら、室温の水30分冷やした。冷却後の水溶液を、遠心分離して、上澄み液を取り出した。これをリン酸バッファーで希釈して330nmの吸光度より溶解度を算出した。その結果を表3に示す。
【0051】
【表3】
実施例の混合物によって色、溶解性を自由に設定できることがわかった。また、同じモノナトリウムで結晶形の異なるものを混合することでも色、溶解性を変えることができることがわかった。溶解性の制御は吸収性や食品成分との相互作用を変えることができるため、優れていることがわかった。色を重視する化粧品、食品用途に使用しやすいことがわかった。
【0052】
実施例15 モノナトリウム結晶とジナトリウムの混合物製造
PQQジナトリウム2gをエタノール25gと水23gと混合した。ここに2N塩酸 2mL加えた。これを室温で2時間攪拌し、50度18時間攪拌せずに置いた。これをろ過し、エタノールで洗い、減圧乾燥した。こげ茶色の固体を得た。得られた固体は、ナトリウムが1.5の割合になっていた。光学顕微鏡観察の結果、得られた固体は、PQQモノナトリウム結晶2が含まれた混合物であった。
【0053】
実施例16:カプセル
グレートアングランド株式会社販売のヒドロキシプロピルメチルセルロース製カプセル♯0を使用した。カプセルに20mgの上記実施例及び比較例で得られた結晶のサンプルをつめた。
結晶1と結晶2とではそのまま、カプセルに入れることができた。比較例2の固体ではかさが高く直接入れられなかった。乳鉢ですりつぶすことでつめることができた。
実施例の結晶は固体をつぶす操作をいれずにカプセルに導入でき、ハードカプセルの使用に関して適した結晶であった。
【0054】
実施例17 熱安定性試験(70℃変色試験)
実施例1及び6並びに比較例2で得られた結晶1mgを70℃オーブンに入れ、2時間後の色の変化を観察した。
その結果を表4に示す。
【0055】
【表4】
実施例の結晶1及び2は70℃でも変色せず、安定であった。
【0056】
実施例18 熱安定性試験(180℃10分による溶解性変化)
熱処理による結晶の溶解性が変化するか試験した。
実施例1及び6並びに比較例2で得られた結晶1mgをガラス製カバーガラスにはさんでホットプレートで180℃10分加熱した。その後、結晶を水10mLに混合し、15分間攪拌した。この時様子を記録した。攪拌後の水溶液を0.5μmのフィルターで濾過し、1/10に希釈して330nmの吸光度を測定した。この測定より加熱処理前後の結晶の溶解性の変化を調べた。加熱前の結晶の溶解度を100として加熱後の溶解度を表5に示す。
【0057】
【表5】
実験に使用したすべての結晶は加熱処理前に水に溶けた。加熱処理を行うと溶けにくい成分が増えて変質した。結晶2は特に安定で溶解性の変化はなかった。結晶2は見た目には沈殿物は見えなかったが、吸光度は下がっており、微小な不溶結晶になっていると考えられる。繊維状に比べると変化は小さかった。比較例の繊維状は溶けない成分が現れ、沈殿物として見えた。また、吸光度からも不溶成分が多いことは明らかであった。
実施例の結晶1及び2は食品加工で使われる高温でも安定であった。従来のものでは沈殿物ができ、変質していた。
【0058】
実施例19 抹茶との反応
抹茶2mgと、実施例1及び6並びに比較例2で得られた結晶1mgを混合した。混合粉末がぬれたモデルとして100μLの水を加えた。結晶2では茶葉は変色しなかった。しかし、結晶1及び繊維状(比較例2)ではオレンジ色に変色した。結晶2は非常に安定で粉末混合に優れていた。
【0059】
実施例20 皮膚への浸透性試験
ブタの皮膚を水道水で洗浄し、水分を完全に拭き取った。このブタの皮膚に結晶を5mgずつ接触させ、その後、ラップして皮膚に固定した。37℃、80分間後に、テープを剥がし、皮膚を水道水で洗浄して皮膚表面に付着した試験用組成物を除去した。試験用組成物をスキャナで取り込んで、画像ソフト(製品名:ペイント(ウィンドウズ(登録商標)XP付属ソフト)、マイクロソフト社製)を用いて皮膚の明るさの変化を測定することにより評価した。この際、皮膚の明るさの変化は
[[未処理の皮膚の明るさ-処理後の明るさ]/ [未処理の皮膚の明るさ]]×100
により算出した。
【0060】
【表6】
実施例の結晶は皮膚への浸透性が優れており、化粧品用途で使用するのに適していた。
【0061】
本出願は、2016年6月29日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2016-128941号)に基づくものであり、それらの内容はここに参照として取り込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2023-04-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(2)に示される構造を有するピロロキノリンキノンモノナトリウム含水結晶であって、
【化1】
Cu Kα放射線を用いた粉末X線回折で9.9、16.1、16.8、28.1±0.4°に2θ角度のピークを示すピロロキノリンキノンモノナトリウム含水結晶
【請求項2】
水分量が4~7質量%である、請求項1に記載のピロロキノリンキノンモノナトリウム含水結晶。
【請求項3】
請求項1に記載のピロロキノリンキノンモノナトリウム含水結晶の製造方法であって、
ピロロキノリンキノンジナトリウムと酸とを、エタノール濃度が10~90質量%の水溶液の存在下で接触させる工程を含む
ピロロキノリンキノンモノナトリウム含水結晶の製造方法。
【請求項4】
請求項に記載のピロロキノリンキノンモノナトリウム含水結晶ピロロキノリンキノンジナトリウムと、を含組成物。