(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023099086
(43)【公開日】2023-07-11
(54)【発明の名称】線維芽細胞由来エキソソームによる血管形成の刺激
(51)【国際特許分類】
A61K 35/33 20150101AFI20230704BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20230704BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230704BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230704BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230704BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20230704BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
A61K35/33
A61P1/04
A61P9/10
A61P9/00
A61P3/10
A61P17/02
A61P43/00 111
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072818
(22)【出願日】2023-04-27
(62)【分割の表示】P 2019556899の分割
【原出願日】2018-04-19
(31)【優先権主張番号】62/487,143
(32)【優先日】2017-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】516071686
【氏名又は名称】フィジーン、エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】FIGENE, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オヒーロン、ピート
(72)【発明者】
【氏名】イチム、トーマス
(72)【発明者】
【氏名】コメリャ、クリスティン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】膜小胞(例えば、線維芽細胞由来エキソソームなど)の投与によって直接に、および/または線維芽細胞由来エキソソームと接触する血液細胞からの血管形成サイトカインの誘導を介して血管形成を刺激するために有用な方法、手段および組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、血管形成がエキソソーム(線維芽細胞に由来するエキソソームを含む)の局所投与または全身投与により有益である状態を処置する手段であって、前記線維芽細胞が基礎的状態または低酸素状態のもとで培養される手段を提供する。他の実施形態において、線維芽細胞に由来するエキソソームが、内因性の再生プロセス(例えば、造血、血管形成および神経形成など)を増強するために、同様にまた、外因性治療剤(例えば、細胞、増殖因子または遺伝子など)の投与によって刺激される再生プロセスを増強するために利用される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は米国仮特許出願第62/487,143号(2017年4月19日出願;その全体が参照によって本明細書中に組み込まれる)の優先権を主張する。
【技術分野】
【0002】
本開示の様々な実施形態には少なくとも、細胞生物学、分子生物学、生理学および医学の分野が含まれる。
【背景技術】
【0003】
エキソソームは、高度に定義された均一な特徴を有するサイズ的にはナノ粒子(40nm~100nm)である[1]。エキソソームは、非特異的な様式で放出される微小胞とは異なる(
図1)。当初は細胞タンパク質の代謝回転の副産物であると考えられた[2]が、これらのナノ粒子は、神経伝達[3]から、免疫調節[2]にまで、感染症[4]にまで及ぶ様々な領域における細胞内連絡の非常に重要な手段として理解されつつある。他の分泌型小胞と比較して、エキソソームは、はるかにより明確に定義された生物物理学的特性および生化学的特性を有している。具体的には、エキソソームは直径が40nm~100nmであり(スクロース中での密度が1.13g/ml~1.19g/mlである)、また、エキソソームは100,000gで沈降し得る[1]。その膜は、コレステロール、スフィンゴミエリンおよびセラミドに富み、脂質ラフトを含有することが知られている。エキソソームは当初、ヒツジの網状赤血球成熟の期間中におけるトランスフェリン受容体の輸出手段として発見された[5]。近年では、エキソソームへの関心が爆発的に高まっており、広範囲の様々な細胞がこれらのナノ粒子を分泌することが報告されており、そのような細胞には、T細胞[6、7]、B細胞[8、9]、樹状細胞[10、11]、腫瘍細胞[12、13]、ニューロン[14、15]、乏突起膠細胞[16]および胎盤細胞[17]が含まれる。
【0004】
本開示は少なくとも、エキソソームを使用する治療の技術分野における長年にわたる要求に対する解決策を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の様々な実施形態は、膜小胞(例えば、エキソソームなど)が治療特性を有するという予想外の発見に関する。いくつかの場合において治療特性は任意の種類のものであり得るが、具体的な場合において、膜小胞は、血管形成、造血および/または神経形成の刺激のための特性を含む。膜小胞の供給源はどのような供給源であってもよいが、具体的な実施形態においては、エキソソームの供給源は哺乳動物細胞に由来する。具体的な実施形態において、膜小胞は1つまたは複数のタイプの線維芽細胞に由来する。具体的な実施形態において、膜小胞が、1つまたは複数のタイプの細胞からの1つまたは複数の治療シグナルを送達するために利用される。少なくともある特定の場合において、膜小胞は、例えば、実際の細胞を貯蔵し、送達しなければならないという欠点を伴うことなく、細胞療法の利点を活用することを可能にする。
【0006】
本開示の具体的な実施形態は、例えば、血管形成を刺激するための馴化培地の使用に関してである場合を含めて、血管形成刺激の分野に関する。具体的な実施形態において、本開示は、少なくとも血管形成の刺激を含む、任意の治療的および/または予防的用途のための、線維芽細胞馴化培地から得られる膜小胞の使用を包含する。
【0007】
様々な実施形態の例には、血管形成を個体において刺激する方法であって、有効量の線維芽細胞由来エキソソームまたはその1つもしくは複数の生物学的活性分画物を前記個体に投与する工程を含む方法が含まれる。エキソソームは、一例として、線維芽細胞の培養物から得られるならば、線維芽細胞由来であると見なされ得る。培養物の培地は、1つまたは複数の特徴を有するエキソソームを産生させるという目的のために特に操作される場合があり、例えば、培地は、線維芽細胞に対して分裂促進性である1つまたは複数の因子を含む場合がある。
【0008】
1つの実施形態において、下記の工程を含む、血管形成を個体において刺激する方法が存在する:a)1つまたは複数の線維芽細胞を得る工程、b)前記線維芽細胞を、培養培地中へのエキソソームの産生を可能にする条件のもとでの培養において培養する工程、c)エキソソームを前記培養培地から取り出す工程、およびd)前記取り出されたエキソソームまたはその1つもしくは複数の生物学的活性分画物(すなわち、血管形成を刺激することができる分画物)を、血管形成(治療的血管形成を含む)を必要としている個体に投与する工程。血管形成を必要としている個体は、四肢喪失の危険性がある個体、四肢喪失の防止を必要としている個体、心臓血管疾患もしくは冠動脈疾患を有する個体またはその危険性がある個体などである場合がある。個体は、1つまたは複数の灌流不足の組織および/または器官を有する場合がある。血管形成を必要としている組織および/または器官は、筋肉、皮膚、血管、軟骨、心臓、脳、胃、十二指腸、腸、膵臓、脾臓、子宮、腎臓および肝臓などを含めてどのような種類のものであってもよい。個体は、不十分な血管形成のために発症するものを含めて、虚血性疾患(例えば、虚血性心疾患または虚血性脳疾患
(脳卒中))を有する場合がある。個体は脳卒中後の治癒を必要とする場合がある。個体は胃腸潰瘍(例えば、十二指腸潰瘍など)を有する場合がある。個体が冠動脈疾患を有する場合、冠動脈疾患は、医学的介入(例えば、経皮経管冠動脈形成術および/または冠動脈バイパス術など)による完全な血行再建を受け入れることができない場合がある。個体は、任意の種類の創傷治癒を必要としている場合がある。一例として、個体は糖尿病を有しているかもしれず、いくつかの場合において、糖尿病の一部として、創傷治癒が不十分である。
【0009】
具体的な場合において、線維芽細胞は生検物に由来する。線維芽細胞は個体に由来してもよく、または由来しなくてもよい。線維芽細胞は、線維芽細胞の増殖を可能にする培地において、例えば、線維芽細胞に対して分裂促進性である1つまたは複数の因子を含む培地において培養される場合がある。線維芽細胞に対して分裂促進性である因子の例には、a)FGF-1、b)FGF-2、c)FGF-5、d)EGF、e)CNTF、f)KGF-1、g)PDGF、h)血小板富化血漿、i)TGF-アルファ、j)HGF-1、および(k)それらの組み合わせから構成される群から選択される1つまたは複数の因子が含まれる。
【0010】
具体的な実施形態において、線維芽細胞は低酸素のもとで培養される。エキソソームは、線維芽細胞が増殖状態にある間に線維芽細胞から回収される場合がある。いくつかの場合において、エキソソームは、増殖誘導因子を何ら含まない培地、または(標準的なレベルと比較して)低下したレベルの増殖誘導性の増殖因子を含む培地において線維芽細胞が培養されている間に線維芽細胞から回収される。特定の実施形態において、エキソソームが、少なくとも1日間、例えば、1日間~15日間、または5日間~10日間などにわたって、2%~8%の酸素で培養された前記線維芽細胞から回収される。具体的な実施形態において、細胞は少なくとも1回の継代にわたって継代培養される。
【0011】
特定の実施形態において、エキソソームは調製物において存在し、調製物は5%未満のポリエチレングリコールを含む場合がある。エキソソームは、ポリエチレングリコールを使用して精製される場合があり、かつ/または限外ろ過を使用して精製される場合がある。ポリエチレングリコールは精製後にエキソソームに加えられる場合がある。
【0012】
特定の実施形態において、エキソソームは、(a)CD63、(b)CD9、(c)MHC I、(d)CD56、および(e)それらの組み合わせからなる群から選択されるマーカーを発現する。線維芽細胞は、a)Roswell Park Memorial
Institute(RPMI-1640)、b)ダルベッコ改変必須培地(DMEM)、c)イーグル改変必須培地(EMEM)、d)Optimem、e)Iscove培地、およびf)これらの組み合わせからなる群から選択される培地において培養される場合がある。特定の実施形態において、取り出し期間中および/または取り出し後において、エキソソームは、例として上記に列挙されるマーカーを含めてエキソソームによる発現マーカーの1つまたは複数に基づいて選択される。
【0013】
取り出す工程を含む方法において、取り出す工程は高圧下でのアニオン交換クロマトグラフィーを含む場合がある。アニオン交換クロマトグラフィーのための担体は第四級アミンにより官能基化される場合がある。アニオン交換クロマトグラフィーのための担体は、例えば、ビーズの形態である場合がある。具体的な場合において、取り出す工程はゲル浸透クロマトグラフィーを含み、これはアニオン交換クロマトグラフィーの前または後で行われてもよい。具体的な場合において、取り出す工程はさらに、エキソソームについての富化工程を含む。そのような富化工程は、遠心分離、清澄化、ろ過、濃縮および/または限外ろ過の1つまたは複数を含む場合がある。特定の場合において、取り出す工程はさらに、非特異的なアフィニティークロマトグラフィーを含む。取り出す工程はさらに、ろ過を含む場合がある。
【0014】
上記では、本発明の特徴および技術的利点が、下記の本発明の詳細な説明がよりよく理解され得るためにかなり広く概説されている。本発明の請求項の主題を形成する本発明のさらなる特徴および利点が以下において記載されるであろう。開示される概念および具体的な実施形態は、本発明の同じ目的を実施するために他の構成を変更するための、または設計するための基礎として容易に利用され得ることが、当業者によって理解されなければならない。そのような同等な組立ては、添付された請求項において示されるような本発明の精神および範囲から逸脱しないこともまた、当業者によって認識されなければならない。さらなる目的および利点と一緒にではあるが、本発明の構成および操作方法の両方に関して、本発明に特徴的であると考えられる新規な特徴が、添付されている図面に関連して検討されたとき、下記の説明からよりよく理解されるであろう。しかしながら、図面のそれぞれが例示および説明のためだけに提供されており、本発明の限定の定義として意図されないことが、明確に理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明をより完全に理解するために、以下では、下記の説明が、添付された図面と併せて参照される。
【0016】
【
図1】線維芽細胞由来エキソソームによるPBMCからのVEGFの刺激を示す。
【0017】
【発明を実施するための形態】
【0018】
I.定義
本明細書中、明細書において使用される場合、“a”または“an”は1つまたは複数を意味する場合がある。本明細書中、請求項において使用される場合、語“comprising”(含む)と併せて使用されるときには、語“a”または語“an”は1つまたは2つ以上を意味する場合がある。本明細書中で使用される場合、“another”(別の)は、少なくとも2番目またはそれ以降を意味する場合がある。なおさらに、用語“having”(有する)、用語“including”(含む)、用語“containing”(含有する)および用語“comprising”(含む)は交換可能であり、当業者は、これらの用語が開放型用語であることを認識している。本発明のいくつかの実施形態は、本発明の1つまたは複数の要素、方法工程および/または方法からなる場合があり、あるいは、本発明の1つまたは複数の要素、方法工程および/または方法から本質的になる場合がある。本明細書中に記載される方法または組成物はどれも、本明細書中に記載される任意の他の方法または組成物に関して実施され得ることが意図される。
【0019】
用語「エキソソーム」は、本明細書中で使用される場合、培養中の細胞(例えば、線維芽細胞など)によって分泌されるエンドサイトーシス起源の小さい膜小胞を示す。
II.開示の一般的な実施形態
【0020】
本開示は、例えば、医学的状態を有する、または医学的状態の危険性がある個体のための治療であって、該医学的状態の少なくとも1つの症状を改善する有効量のエキソソームを与えることによる治療を包含する。具体的な実施形態において、医学的状態は、血管形成の刺激が治療となるであろうものである。したがって、少なくともある特定の場合において、本開示は、エキソソームを使用して血管形成を刺激する手段を提供する。エキソソームは、線維芽細胞に由来するエキソソームを含めて、どのような供給源のものであってもよい。線維芽細胞は組織培養物において存在してもよく、または存在しなくてもよい。
【0021】
1つの実施形態において、本開示は、エキソソームを線維芽細胞の培養物から取り出すための方法を包含し、本方法はまた、血管形成を刺激するという目的のためであることを含めて、前記エキソソームの濃縮および前記エキソソームの投与を含む場合がある。理論によってとらわれることはないが、組織培養によって産生されるエキソソームは、内皮細胞に対するマイトジェンとして直接に作用することにより血管形成を刺激する場合があり、かつ/または身体の細胞において、例えば、血液の細胞において血管新生促進性サイトカインの産生を誘導することによって血管形成を刺激する場合がある。ある特定の実施形態においては、そのような機構が関与しない。
【0022】
1つの実施形態において、線維芽細胞が、線維芽細胞の生存能および増殖能を保っておくために培養される。本開示は、個別化された自己エキソソーム調製物のために、また、例えば、実験的または生物学的または治療的な使用のための確立された細胞株を含めて1つまたは複数の他の個体から得られるエキソソーム調製物のためにそれらの両方で適用される場合がある。1つの実施形態において、本開示は、膜小胞を調製するための、特に該膜小胞を潜在的な生物学的混入物から分離するためのクロマトグラフィー分離法の使用であって、前記微小胞がエキソソームである場合があり、かつ、前記エキソソームを生じさせるために利用される細胞が線維芽細胞である、使用を包含する。エキソソームを治療的使用のために線維芽細胞から調製する方法が本開示には包含される。
【0023】
本明細書中に示されるように、血管形成を刺激する能力を有する膜小胞(特にエキソソーム)を精製することができる。1つの実施形態において、強アニオン交換または弱アニオン交換が実施される場合があるが、具体的な実施形態においては、前記アニオン交換は強アニオン交換である。加えて、具体的な実施形態において、クロマトグラフィーは加圧下で実施される。したがって、より具体的には、前記クロマトグラフィーは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を含む場合がある。
【0024】
アニオン交換クロマトグラフィーが用いられる場合、種々のタイプの担体が、アニオン交換クロマトグラフィーを実施するために使用され得る。特定の実施形態において、これらには、セルロース、ポリ(スチレン-ジビニルベンゼン)、アガロース、デキストラン、アクリルアミド、シリカ、エチレングリコール-メタクリラート共重合体、またはそれらの混合物(例えば、アガロース-デキストラン混合物)が含まれる。いくつかの場合において、担体と、特に下記のゲルとから構成される特定のクロマトグラフィー装置が利用され得る:SOURCE.POROS(登録商標)、SEPHAROSE(登録商標)、SEPHADEX(登録商標)、TRISACRYL(登録商標)、TSK-GEL SW OR PW(登録商標)、SUPERDEX(登録商標)、TOYOPEARL HW、およびSEPHACRYL(登録商標)。したがって、具体的な実施形態において、本開示は、膜小胞(特にエキソソーム)を生物学的試料から、例えば、線維芽細胞を含む組織培養物などから調製する方法であって、生物学的試料が、(例えば)セルロース、ポリ(スチレン-ジビニルベンゼン)、シリカ、アクリルアミド、アガロース、デキストラン、エチレングリコール-メタクリラート共重合体から単独または混合で選択される担体を含めて、所与の担体でのアニオン交換クロマトグラフィーによって処理される少なくとも1つの工程を含み、随意的な場合には担体が官能基化される、方法に関連する。
【0025】
加えて、クロマトグラフィー分解能を改善するために、本開示の範囲内では、担体をビーズ形態で使用することは具体的な実施形態において有用である。特定の実施形態において、これらのビーズは、クロマトグラフィーのもとでの物体(すなわち、エキソソーム)の浸透を可能にするための十分に大きい多孔性とともに、均一かつ校正された直径を有する。この様式において、エキソソームの直径(一般には50nm~100nmの間)を仮定すると、本開示の教示を適用するために、高多孔性のゲル、特に10nm~5μmの間での高多孔性ゲル、例えば、およそ20nm~およそ2μmの間(例えば、約100nm~約1μmの間を含む)などでの高多孔性ゲルが使用される場合がある。アニオン交換クロマトグラフィーのために、使用される担体は、アニオン分子と相互作用することができる基を使用して官能基化される場合がある。一般に、この基は、三元または第四級であり得るアミンから構成され、これらにより、弱アニオン交換体または強アニオン交換体がそれぞれ定義される。本開示の範囲内では、強アニオン交換体を使用することが有用である。この様式において、本開示によれば、上記のようなクロマトグラフィー担体、例えば、第四級アミンにより官能基化されるクロマトグラフィー担体が使用される。したがって、本発明のより具体的な実施形態によれば、アニオン交換クロマトグラフィーは、第四級アミンにより官能基化された担体で実施される。少なくともいくつかの場合において、この担体は、ポリ(スチレン-ジビニルベンゼン)、アクリルアミド、アガロース、デキストランおよびシリカから単独または混合で選択され、第四級アミンにより官能基化される。第四級アミンにより官能基化される担体の例には、SOURCEQ.MONO Q、Q SEPHAROSE(登録商標)、POROS(登録商標)HQおよびPOROS(登録商標)QEの各ゲル、FRACTOGEL(登録商標)TMAEタイプのゲル、ならびにTOYOPEARL SUPER(登録商標)Qゲルが含まれる。
【0026】
特定の実施形態において、アニオン交換クロマトグラフィーを実施するための担体はポリ(スチレン-ジビニルベンゼン)を含む。本開示の範囲内で使用され得るこのタイプのゲルの一例が、SOURCE Qゲルであり、特にSOURCE 15 Q(Pharmacia)である。この担体は、非常に大きい内部細孔を有するという利点をもたらしており、したがって、ゲルを通過する液体の循環に対する低い抵抗をもたらしており、一方で、官能基へのエキソソームの迅速な拡散を可能にしており、これらは、そのサイズを仮定すると、エキソソームのための有用なパラメーターである。カラムに保持される生物学的化合物は、1つまたは複数の様式で、特に、増大する濃度(例えば、0Mから2Mまで)の塩水勾配を通すことを使用して溶出される場合がある。塩化ナトリウム溶液が、例えば、0Mから2Mにまで及ぶ濃度で特に使用される場合がある。この様式で精製される種々の分画物が、連続した分光光度法読取りを使用してカラム出口でのそれらの光学密度(OD)を測定することによって検出される。目安として、実施例において使用される条件のもとでは、膜小胞を含む分画物が、小胞のタイプに依存して、およそ350mM~700mMの間に含まれるイオン強度で溶出された。
【0027】
種々のタイプのカラムが、要求事項および処理量に従って、このクロマトグラフィー工程を実施するために使用され得る。例えば、調製物に依存して、およそ100μlから10ml以上に至るまでのカラムを使用することが可能である。この様式において、利用可能な担体は、例えば、1mlあたり25mgのタンパク質に達し得る容量を有する。このため、100μlのカラムは、問題としているサンプルを考えると、(例えば、10倍から20倍の濃縮の後では、調製あたり100ml~200mlの体積に相当する)およそ2lの培養上清の処理を可能にするおよそ2.5mgのタンパク質の容量を有する。より大きい体積もまた、例えば、カラムの体積を増大することによって処理され得ることが理解される。加えて、本開示の少なくともある特定の方法を実施するために、アニオン交換クロマトグラフィー工程をゲル浸透クロマトグラフィー工程と組み合わせることもまた可能である。この様式において、本開示の具体的な実施形態によれば、ゲル浸透クロマトグラフィー工程が、アニオン交換クロマトグラフィー工程の前または後のどちらかでアニオン交換工程に加えられる。特定の場合には、この実施形態において、浸透クロマトグラフィー工程はアニオン交換工程の後で行われる。加えて、具体的な変形例において、アニオン交換クロマトグラフィー工程はゲル浸透クロマトグラフィー工程によって置き換えられる。本開示は、膜小胞がまた、下記で詳しく記載されるように、ゲル浸透液体クロマトグラフィーを使用して精製され得ること、特にこの工程が生物学的試料のアニオン交換クロマトグラフィー工程または他の処理工程と組み合わされるときに精製され得ることを明らかにする。
【0028】
ゲル浸透クロマトグラフィー工程を実施するために、シリカ、アクリルアミド、アガロース、デキストラン、エチレングリコール-メタクリラート共重合体またはそれらの混合物(例えば、アガロース-デキストラン混合物)から選択される担体が使用される場合がある。1つの例示として、ゲル浸透クロマトグラフィーのために、SUPERDEX.RTM.200HR(Pharmacia)、TSK G6000(TosoHaas)またはSEPHACRYL(登録商標)S(Pharmacia)などの担体が使用される場合がある。
【0029】
本開示によるプロセスは、1つまたは複数の異なる生物学的試料に対して適用される場合がある。特に、これらの生物学的試料は、対象からの生物学的流体(骨髄、末梢血など)、培養上清、細胞溶解物、予備精製された溶液、または膜小胞を含む他の任意の組成物を含む場合がある。
【0030】
この点で、本開示の具体的な実施形態において、生物学的試料は膜小胞産生線維芽細胞の培養上清である。
【0031】
加えて、本発明のある特定の実施形態によれば、生物学的試料は、例えば、膜小胞を富化するために、クロマトグラフィー工程に先立って処理される(富化段階)。この様式においては、具体的な実施形態において、本開示は、膜小胞を生物学的試料から調製する方法であって、a)膜小胞が富化された試料を調製するための富化工程と、b)試料がアニオン交換クロマトグラフィーおよび/またはゲル浸透クロマトグラフィーによって処理される工程とを少なくとも含むことを特徴とする方法に関連する。
【0032】
1つの実施形態において、生物学的試料は、膜小胞が富化されるように処理される培養上清である。特に、生物学的試料は、膜小胞産生細胞の集団の培養上清から、または生物学的流体から様々な処理(例えば、遠心分離、清澄化、限外ろ過、ナノろ過および/またはアフィニティークロマトグラフィーなど)によって、特に清澄化および/または限外ろ過および/またはアフィニティークロマトグラフィーを用いて得られる予備精製された溶液から構成される場合がある。したがって、膜小胞を本開示に従って調製する特定の方法は下記の工程を含む場合がある:a)膜小胞(例えば、エキソソーム)産生細胞の集団を、小胞の放出を可能にする条件のもとで培養すること、b)膜小胞において試料を富化する工程、およびc)試料のアニオン交換クロマトグラフィー処理および/またはゲル浸透クロマトグラフィー処理。
【0033】
上記で示されるように、試料(例えば、上清)富化工程は、上清に対する遠心分離工程、清澄化工程、限外ろ過工程、ナノろ過工程および/またはアフィニティークロマトグラフィー工程の1つまたは複数を含む場合がある。第1の具体的な実施形態において、富化工程は、(i)細胞および/または細胞破片の除去(清澄化)を含み、随意的にはその後に、(ii)濃縮工程および/またはアフィニティークロマトグラフィー工程が続く。別の具体的な実施形態において、富化工程はアフィニティークロマトグラフィー工程を含み、場合により、それに先立って、細胞および/または細胞破片の除去(清澄化)の工程が先行する。本開示による特定の富化工程は、(i)細胞および/または細胞破片の除去(清澄化)、(ii)濃縮、および(iii)アフィニティークロマトグラフィーを含む。細胞および/または細胞破片は、試料の遠心分離を、例えば、低速度で、好ましくは1000g未満で、例えば、100g~700gの間で行うことによって除去され得る。この工程の期間中における好ましい遠心分離条件が、例えば、1分~15分の間の期間にわたっておよそ300gまたは600gである。
【0034】
細胞および/または細胞破片はまた、上記で記載される遠心分離と場合により組み合わされるが、試料のろ過によって除去される場合がある。ろ過は特に、多孔度が低下するフィルターを使用する連続ろ過により実施される場合がある。この目的のために、多孔度が0.2μmを超える、例えば、0.2μm~10μmの間であるフィルターが使用される場合がある。多孔度が10μm、1μm、0.5μm、続いて0.22μmであるフィルターを連続して使用することが特に可能である。
【0035】
濃縮工程がまた、例えば、クロマトグラフィー段階の期間中に処理されるための試料の体積を減らすために実施される場合がある。この様式において、濃縮が、試料を高速度で、例えば、10,000g~100,000gの間で遠心分離して、膜小胞の沈降を生じさせることによって得られる場合がある。これは、最後の遠心分離がおよそ70,000gで実施される一連の分画遠心分離を含む場合がある。得られたペレットでの膜小胞は、プロセスのその後の工程のために、より小さい体積で、かつ適切な緩衝液において引き継がれる場合がある。濃縮工程はまた、限外ろ過によって実施される場合がある。実際、この限外ろ過は、上清を濃縮することと、小胞の初期精製を行うこととの両方を可能にする。ある特定の実施形態によれば、生物学的試料(例えば、上清)は、限外ろ過、好ましくはタンジェンシャル限外ろ過に供される。タンジェンシャル限外ろ過は、限定されたカットオフ閾値の膜によって隔てられる2つの区画(ろ液および保持液)の間で溶液を濃縮し、分画化することからなる。分離が、流れを保持液区画内に加え、膜間圧力をこの区画と、ろ液区画との間に加えることによって行われる。種々のシステムが、限外ろ過を実施するために使用され得る(例えば、スパイラル膜(Millipore、Amicon)、平坦膜または中空ファイバー(Amicon、Millipore、Sartorius、Pall、GF、Sepracor)など)。本開示の範囲内ではあるが、1000kDa未満のカットオフ閾値、または300kDa~1000kDaの間であり得るカットオフ閾値、または、それどころか、300kDa~500kDaの間であり得るカットオフ閾値を有する膜の使用が好都合である。
【0036】
アフィニティークロマトグラフィー工程は、種々のクロマトグラフィー用の担体および材料を使用して様々な方法で実施される場合がある。特定の実施形態において、クロマトグラフィーは非特異的なアフィニティークロマトグラフィーであり、これは、目的物(すなわち、エキソソーム)を保持することなく、溶液内に存在するある種の混入物を保持する(すなわち、結合する)ことを目的とする。したがって、これは負の選択である。いくつかの実施形態において、色素に対するアフィニティークロマトグラフィーが使用され、これは、混入物(例えば、タンパク質および酵素など、例えば、アルブミン、キナーゼ、デスヒドロゲナーゼ、凝固因子、インターフェロン、リポタンパク質または同様に補因子、その他)の除去(すなわち、保持)を可能にする。ある特定の場合において、このクロマトグラフィー工程のために使用される担体は、色素により官能基化された、イオン交換クロマトグラフィー用に使用されるような担体である。具体的な例として、色素が、Blue SEPHAROSE(登録商標)(Pharmacia)、YELLOW86、GREEN5およびBROWN10(Sigma)から選択される場合がある。担体はより好ましくはアガロースである。処理された生物学的試料からの混入物の保持(結合)を可能にする他の担体および/または色素もしくは反応基はどれもが本開示において使用できることが理解されなければならない。
【0037】
1つの実施形態において、本開示の範囲内である膜小胞調製プロセスは下記の工程を含む:a)小胞の放出を可能にする条件のもとでの膜小胞(例えば、エキソソーム)産生細胞の集団の培養、b)膜小胞(例えば、エキソソーム)が富化される生物学的試料をもたらすための、少なくとも1回の限外ろ過工程またはアフィニティークロマトグラフィー工程による培養上清の処理、およびc)生物学的試料のアニオン交換クロマトグラフィー処理および/またはゲル浸透クロマトグラフィー処理。特定の実施形態において、上記の工程b)は、培養上清のろ過、続いて限外ろ過、好ましくはタンジェンシャル限外ろ過を含む。別の実施形態において、上記の工程b)は、培養上清の清澄化、続いて色素に対するアフィニティークロマトグラフィー、好ましくはBlue SEPHAROSE(登録商標)でのアフィニティークロマトグラフィーを含む。
【0038】
加えて、工程c)の後では、集められた材料は、適用可能であるならば、特に滅菌目的のために、1つまたは複数のさらなる処理段階および/またはろ過段階d)に供される場合がある。このろ過処理段階のために、直径が0.3μm以下であるフィルターが優先的に使用され、または一層より優先的には、直径が0.25μm以下であるフィルターが使用される。そのようなフィルターは、例えば、直径が0.22μmである。
【0039】
工程d)の後では、得られた材料は、例えば、好適なデバイス(例えば、ボトル、チューブ、バッグ、シリンジなど)に、好適な貯蔵媒体において分配される。このようにして得られる精製された小胞は冷蔵される場合があるか、冷凍される場合があるか、または即時使用される場合がある。したがって、本発明の範囲内である具体的な調製プロセスは、少なくとも下記の工程を含む:c)生物学的試料のアニオン交換クロマトグラフィー処理および/またはゲル浸透クロマトグラフィー処理、およびd)工程c)の後で集められる材料のろ過工程(特に滅菌ろ過)。第1の変形例において、本開示によるプロセスは、c)生物学的試料のアニオン交換クロマトグラフィー処理、およびd)工程c)の後で集められる材料に対するろ過工程(特に滅菌ろ過)を含む。
【0040】
別の変形例において、本開示によるプロセスは、c)生物学的試料のゲル浸透クロマトグラフィー処理、およびd)工程c)の後で集められる材料に対するろ過工程(特に滅菌ろ過)を含む。第3の変形例によれば、本発明によるプロセスは、c)ゲル浸透クロマトグラフィーの前または後に行われる生物学的試料のアニオン交換処理、およびd)工程c)の後で集められる材料に対するろ過工程(特に滅菌ろ過)を含む。
【0041】
さらなる実施形態には、線維芽細胞培養物からの血管形成刺激治療因子の産生を、電荷、サイズ、または吸着材からの溶出能に基づいて組成物を分離するフィルターの使用により最適化する方法が含まれる。数多くの技術が、治療因子の精製および前記作用因の濃縮のためにこの技術分野において知られている。いくつかの特定の使用のために、線維芽細胞由来化合物は、培地における前記細胞の培養上清としての使用のために十分であろう。現時点では、この目的のために有用である培地には、Roswell Park Memorial Institute(RPMI-1640)、ダルベッコ改変必須培地(DMEM)、イーグル改変必須培地(EMEM)、Optimem、およびIscove培地が含まれる。
【0042】
1つの実施形態において、血管形成を刺激するための治療因子が、エキソソームを含み得る組織培養物、またはエキソソームを含まなくてもよいが、血管形成を刺激することができる因子を含み得る組織培養物に由来する。そのような実施形態において、培養馴化培地が、特定の分子量カットオフを有するAmiconフィルターの使用を含むこの技術分野において知られているろ過/脱塩手段によって濃縮される場合があり、前記カットオフが1kDa超から50kDaまでの分子量について選択され得る。上清が代替では、この技術分野において知られている手段を使用して、例えば、C18カートリッジ(Mini-Spe-ed C18-14%、S.P.E.Limited、Concord、ON)を使用する固相抽出などを使用して濃縮される場合がある。カートリッジは、メタノールで洗浄し、その後、脱イオン蒸留水で洗浄することによって調製される。100mlまでの線維芽細胞馴化培地上清が溶出前にこれらの特定のカートリッジのそれぞれに通される場合がある。より大きいカートリッジが使用され得ることが当業者には理解される。カートリッジを洗浄した後、吸着物が3mlのメタノールにより溶出され、窒素流のもとで蒸発させられ、少量のメタノールに再溶解され、4℃で貯蔵される。溶出液をインビトロにおいて活性について試験する前に、メタノールが窒素下で蒸発させられ、培養培地によって置き換えられる。C18カートリッジは、小さな疎水性分子を線維芽細胞馴化上清から吸着するために使用され、塩およびその他の極性混入物の除去を可能にする。しかしながら、他の吸着手段を、ある種の化合物を上清から精製するために使用することが望ましい場合がある。濃縮された上清は、本発明の実施のために有用である生物学的活性について直接に評価される場合があり、またはさらに精製される場合がある。さらなる精製が、例えば、公称排除限界が1800DaであるBio-Gel P-2カラム(Bio-Rad、Richmond、CA)を使用するゲルろ過を使用して実施される場合がある。このカラムは洗浄され、20mMのTris-HCl緩衝液(pH7.2)(Sigma)において事前に膨潤させられ、真空下で穏やかに旋回することによって脱気される場合がある。Bio-Gel P-2材料が1.5x54cmのガラスカラムに充填され、3カラム体積の同じ緩衝液により平衡化される。C18カートリッジによって取り出される線維芽細胞上清濃縮液が0.5mlの20mM Tris緩衝液(pH 7.2)に溶解され、カラムに通される場合がある。分画物がカラムから集められ、生物学的活性について分析される場合がある。他の精製手段、分画手段および同定手段が当業者には知られており、これらには、アニオン交換クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴および質量分析法が含まれる。上清の活性分画物の投与が局所的または全身的に実施される場合がある。
【0043】
本開示には、四肢喪失、虚血性心疾患、虚血性脳疾患、胃腸潰瘍、および/または1つもしくは複数の創傷の危険性についての個体を、有効量の線維芽細胞由来エキソソームまたはその1つもしくは複数の生物学的活性分画物を前記個体に与えることによって処置する方法が含まれる。分画物が、出発物質の分画物を定め、それぞれの分画物に関して特定の活性物質について試験するこの技術分野での日常的な方法を使用して生物学的に活性であると判定される場合がある。本開示の具体的な場合において、試験される活性は、1つまたは複数の特定の化合物(例えば、1つまたは複数の因子、例えば、VEGF)の産生であり得る。さらなる場合または他の場合において、分画物はインビボモデルにおいて、例えば、四肢喪失のためのインビボマウスモデルなどにおいて試験され得る。
【実施例0044】
下記の実施例は、本発明の好ましい実施形態を明らかにするために含まれる。下記の実施例において開示される技術は、本発明の実施において十分に機能することが本発明者らによって見出された技術を表しており、したがって、その実施のための好ましい態様を構成するとみなされ得ることが、当業者によって理解されなければならない。しかしながら、当業者は本開示に照らして、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、多くの変化が、開示される具体的な実施形態においてなされ得、依然として同じ結果または類似する結果を得ることが可能であることを理解しなければならない。
【0045】
(実施例1)
線維芽細胞のエキソソームはVEGF産生を刺激する
本発明の1つの実施形態において、線維芽細胞から生じるエキソソームが「血管形成療法」のために使用される。血管形成療法は「生物学的バイパス」としてこれまで記載されてきており、その考えは、側枝形成を誘導することができる作用因の投与により、より自然なタイプの「バイパス」が達成できるということである。実際、虚血性筋肉が低酸素に対する応答において血管形成因子を分泌すること、および、ある程度にまでであるが、自然の血管形成が重症虚血肢(CLI)の動物モデルにおいて、またヒトにおいて本当に生じることが認められている(15、16)。したがって、これらの自然プロセスを増強することによって、研究者らは切断を防止しようとしてきた。心虚血、脳卒中およびCLIを含めて多くの虚血状態において注目される血管形成因子の1つが、血管内皮増殖因子(VEGF)である(17~19)。1994年に、患肢温存および増大した血管形成が、VEGF-165の単回ボーラス動脈内投与の後でのウサギCLIモデルにおいて報告された(20)。同じモデルでの他の実験では、VEGF投与後において、腓筋萎縮および遠位肢壊死の発生がないことが明らかにされ、これに対して、このことが対照ウサギの85.7%には存在していた(21、22)。様々な研究では、これらの所見がCLIの他のモデルにおいて繰り返されている(23~25)。残念ながら、このことが診療では首尾よく再現されなかった。VEGFタンパク質を使用する試験(26)、またはDNAプラスミドを使用する試験では、下肢切断を二重盲検状況において減少させることでの有意な利点が示されなかった(25、27)。本発明の1つの実施形態において、線維芽細胞に由来するエキソソームが、患者の細胞からのVEGF産生を刺激するために利用される。
【0046】
別の取り組みでは、サイトカインの線維芽細胞増殖因子-1(FGF-1)の使用が伴った。FGF-1がVEGFの「上流側」であると仮定すれば、FGF-1は、より成熟した血管の創出をもたらすように数多くの血管形成プロセスを刺激すると考えられた(28)。FGFはVEGFと同様に、動物モデル(29)および臨床試験(30)の両方において明らかにされるように、低酸素に対する自然の組織応答の一部である。内因性血管形成におけるFGFの非常に重要な役割が、創傷後の治癒能または血管新生の形成能が阻害されたことを呈したFGF条件的ノックアウトマウスにおいて決定的に明らかにされた
(31)。FGF-1遺伝子治療が、ABIおよび灌流におけるいくらかの改善を伴ってCLI患者において臨床的に使用されているにもかかわらず、結果は普通であった(32)。インビボでの血管形成カスケードをサイトカインの組み合わせによって再現する試みでは、より有望な結果がもたらされた。Cao他は、ラットおよびウサギでの大腿動脈結紮モデルにおける血管形成および機能を増大させることに関して、PDGF-BBの投与と、FGF-2の投与との間での相乗作用を明らかにした(33)。同様に、ガンの血管形成では、いくつかの腫瘍由来の血管形成因子が血管新生の促進のために協同することが知られている(34)。研究者らは、いくつかの血管形成シグナルの上流側メディエーターを、転写因子(例えば、HIF-1アルファなど)をコードする遺伝子のトランスフェクションにより活性化しようと試みた(35)。実際に、この取り組みでは、新しい毛細血管発芽の点でVEGF遺伝子投与よりも優れていることが明らかにされている。第I相用量漸増試験において、CLI患者へのHIF-1アルファのトランスフェクションは、忍容性が、有効性を少しは示すとともに明らかにされた(36)。結論として、CLI患者への血管形成因子の投与は初期の試験ではいくらかの利益を本当に誘発するが、今日までの無作為化試験から得られるデータは広範囲の使用を裏づけていない。上流側の転写因子(例えば、HIF-1アルファなど)のトランスフェクションは、複数の増殖因子がトランスフェクション後に誘導されるという点で自然の血管形成を模倣するため(35、37)、有望な取り組みである。本発明の別の実施形態において、サイトカインおよび他の血管形成療法を増強するための線維芽細胞由来エキソソームの使用が開示される。
【0047】
エキソソームを4日目の包皮線維芽細胞培養物の細胞培養上清から分画遠心分離によって調製した。簡単に記載すると、回収された培養上清を、細胞および破片を除去するために、300g(5分)、1,200g(20分)および10,000g(30分)での3回の連続遠心分離、続いて、100,000gでの1時間にわたる遠心分離に供した。過剰な血清タンパク質を除くために、エキソソームのペレットを大量のPBSにより洗浄し、100,000gで1時間にわたって遠心分離し、最後に、さらなる研究のために120ulのPBSに再懸濁した。エキソソームを微量Bradfordタンパク質アッセイ(Bio-Rad)によって定量した。各バッチをタンパク質含有量によって標準化した。
【0048】
末梢血単核細胞(PBMC)を5mlの血液からFicoll密度勾配(Sigma-Aldrich)によって単離した。細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、丸底96ウェルプレート(Nunc)に置床した。各ウェルにおいて、10,000個、20,000個または100,000個のPBMCを、10%のウシ胎児血清(Life Technologies)を含有するRPMI培地における200uLの総体積に加えた。エキソソームを、0.1ug/ml、0.2ug/mlおよび0.4ug/mlの濃度で加えた。細胞を48時間培養し、VEGFの濃度をELISA(R&D Systems)によって分析した。濃度を
図1においてpg/mlとして表した。
【0049】
(実施例2)
線維芽細胞のエキソソームはHUVEC増殖を刺激する
線維芽細胞由来エキソソームを実施例1に記載されるように得て、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の培養物に加えた。細胞を48時間インキュベートし、増殖をチミジン取り込みアッセイによって評価した。
図2において、増殖がカウント数/分(CPM)として表される。
【0050】
(実施例3)
重症虚血肢のマウスモデルにおける四肢喪失の防止
BALB/cマウスを、以前に発表されたモデル(Meng他、2007、J.Trans.Med.5:57)において大腿動脈結紮および局所的神経傷害によって処置した。
【0051】
エキソソームを4日目の包皮線維芽細胞培養物の細胞培養上清から分画遠心分離によって調製した。簡単に記載すると、回収された培養上清を、細胞および破片を除去するために、300g(5分)、1,200g(20分)および10,000g(30分)での3回の連続遠心分離、続いて、100,000gでの1時間にわたる遠心分離に供した。過剰な血清タンパク質を除くために、エキソソームのペレットを大量のPBSにより洗浄し、100,000gで1時間にわたって遠心分離し、最後に、さらなる研究のために120ulのPBSに再懸濁した。エキソソームを微量Bradfordタンパク質アッセイ(Bio-Rad)によって定量した。各バッチをタンパク質含有量によって標準化した。
【0052】
マウスに、5マイクログラムの線維芽細胞エキソソームを100マイクロリットルの体積において、大腿動脈結紮の3日後に投与した(処置)。対照には、5マイクログラムのウシ胎児血清由来エキソソームを投与した(非処置)。四肢喪失が非処置マウスのすべて(7/7)に存在し、これに対して、四肢喪失が1/7の処置マウスのみにおいて認められた。間葉系幹細胞のエキソソームの投与は患肢温存を35日目までにもたらさなかった。
【0053】
【0054】
本発明およびその利点が詳しく説明されているが、様々な変化、置換および変更が、添付された請求項によって規定されるような本発明の精神および範囲から逸脱することなく本明細書中において行われ得ることを理解しなければならない。そのうえ、本出願の範囲は、本明細書に記載されるプロセス、装置、製造、組成物、手段、方法および工程の特定の実施形態に限定されることは意図されない。当業者は本発明の開示から容易に理解するであろうように、本明細書中に記載される対応する実施形態と実質的に同じ機能を果たす、または本明細書中に記載される対応する実施形態と実質的に同じ結果を達成するプロセス、装置、製造、組成物、手段、方法および工程は、現在存在するものであろうと、または後に開発されることになるものであろうと、本発明に従って利用される場合がある。したがって、添付された請求項は、そのようなプロセス、装置、製造、組成物、手段、方法または工程をその範囲内に含むことが意図される。
(参考文献)
本明細書中に引用されるすべての特許および刊行物は本明細書によって、その全体が参照によって本明細書中に組み込まれる。
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