(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023099165
(43)【公開日】2023-07-11
(54)【発明の名称】アラミド繊維の改質方法
(51)【国際特許分類】
D02J 3/00 20060101AFI20230704BHJP
D06M 13/03 20060101ALI20230704BHJP
D06M 15/643 20060101ALI20230704BHJP
D06B 19/00 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
D02J3/00
D06M13/03
D06M15/643
D06B19/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075973
(22)【出願日】2023-05-02
(62)【分割の表示】P 2021049154の分割
【原出願日】2016-08-18
(31)【優先権主張番号】62/206,611
(32)【優先日】2015-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/316,000
(32)【優先日】2016-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518055925
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ マサチューセッツ アマースト
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】カンバルギ ニハル
(72)【発明者】
【氏名】レッサー アラン ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】アガーワル シール ピー
(72)【発明者】
【氏名】ラッカイティス ミンダウガス
(57)【要約】
【課題】アラミド繊維表面を改質し、繊維表面のエラストマー材料への接着性を高める、アラミド繊維表面の改質方法を提供することである。
【解決手段】アラミド繊維表面の改質方法であって、a.前記アラミド繊維に張力を加えることと、b.前記アラミド繊維を、30°より大きな角度で曲げて、前記アラミド繊維の表面を改質することと、c.前記アラミド繊維にかかる前記張力をゆるめることと、を含む方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラミド繊維表面の改質方法であって、
a.前記アラミド繊維に張力を加えることと、
b.前記アラミド繊維を、30°より大きな角度で曲げて、前記アラミド繊維の表面を改質することと、
c.前記アラミド繊維にかかる前記張力をゆるめることと、を含む方法。
【請求項2】
前記アラミド繊維はポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)又はポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(a)のアラミド繊維に加える前記張力は、少なくとも0.5Nであり、及び工程(b)は、前記アラミド繊維を45~150°の範囲の角度で曲げることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程(b)は、前記アラミド繊維を少なくとも30°の角度で2回以上曲げることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記アラミド繊維は、工程(c)の後、10~200回転/メートルの範囲の撚り数で、撚り合わされる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記工程(c)のアラミド繊維を、カップリング剤に接触させることを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記カップリング剤は、2個以上のビニル基を有する環式化合物、又は分岐状アルキル置換基を有する環式化合物である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記カップリング剤は、1000未満の分子量(Mw)を有するビニル置換低分子量シリコーン、又はこれらの組み合わせである、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記カップリング剤は溶媒と混合され、前記溶媒は超臨界二酸化炭素である、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記工程(c)のアラミド繊維をカップリング剤流体中に少なくとも30分間浸漬し、カップリング剤流体中に浸漬後の前記アラミド繊維が、試験#1による、ゴム組成物に対する0.8MPaを上回る接着性を有する、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2015年8月18日出願の米国特許仮出願第62/206,611号及び2016年3月31日出願の米国特許仮出願第62/316,000号の優先権を主張し、それらの内容全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
本開示は、アラミド繊維表面を改質して、粗さ及びエラストマー材料、例えば、ゴム含有組成物に対する接着性を改善する方法に関する。本開示は、更に、加硫された製品、例えばタイヤ及びベルトを製造する際の、表面が改良されたアラミド繊維の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維は、様々なエラストマー材料及び関連製品、例えばゴムタイヤ又はベルトの強度及び耐久性を高めるための強化部材として一般に使用されている。ケブラー繊維等のアラミド繊維は、その高い結晶性及び平滑な外側表面のため、エラストマーへの不十分な接着性を示すことがある。繊維の表面は、また、化学的に不活性であり得、その他の物質への接着性を更に低下させる。エラストマー及び強化マトリックスとの接触面において十分な接着性を欠くことで、材料性能が不十分となることが多く、エラストマー材料の潜在的な用途を制限し得る。
【0003】
エラストマー材料への接着性を向上させるため、繊維の表面改質及び処理の試みがなされてきた。例えば、プラズマ処理では、繊維表面での活性化エネルギーを増加させること、又は繊維表面をエッチングしてその粗さを増加させることによって、ゴムの接着性を増加させ得る。接着性を高めるその他の方法としては、コーティング又は接着剤を使用することが挙げられる。コーティング又は接着剤は、通常はアラミドコードへと適用され、繊維を包む材料とより相溶性がある外側表面を形成する。接着剤システムは多数の工程を含み得、新規材料をゴム製品又は繊維に導入する必要があり、これらはいずれも、製品の製造に伴う時間及びコストを増加させる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、従来技術に関する1つ以上の問題を軽減又は克服することである。酸、マイクロ波、機械的曲げ、カップリング剤との接触及びこれらの組み合わせを伴うアラミド繊維の処理は、有益なことに、アラミド繊維表面を改質し、繊維表面のエラストマー材料への接着性を高めることができるということが見出されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の態様は、アラミド繊維表面の改質方法である。方法は、(a)アラミド繊維を所定期間、酸溶液と接触させ、前処理されたアラミド繊維を形成することと、(b)工程(a)のアラミド繊維を、酸溶液から取り出し、前処理されたアラミド繊維を液体に浸漬することと、(c)液体中の前処理されたアラミド繊維を照射し、アラミド繊維表面を改質することと、(d)アラミド繊維を液体から取り出すこと、を含む。
【0006】
態様1の一例では、アラミド繊維はポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)である。
【0007】
態様1の別の例では、アラミド繊維はポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)である。
【0008】
態様1の別の例では、酸は、塩酸、硝酸、硫酸、臭化水素酸、リン酸、ヨウ化水素酸、過塩素酸及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0009】
態様1の別の例では、アラミド繊維を酸溶液に、例えば少なくとも20分間、浸漬する。
【0010】
態様1の別の例では、工程(b)の液体は水、例えば、脱イオン水(DI水)である。
【0011】
態様1の別の例では、照射工程(c)は、容器中で、例えば、繊維をマイクロ波エネルギーに曝すマイクロ波加熱装置(microwave)中において、実施される。
【0012】
態様1の別の例では、工程(c)は、前処理されたアラミド繊維を少なくとも15秒間照射することを含む。
【0013】
態様1の別の例では、工程(c)は前処理されたアラミド繊維を少なくとも60ワットの出力レベルで照射することを含む。
【0014】
態様1の別の例は、エラストマーへの改良された接着性を有する、請求項1に記載の方法により調製されたアラミド繊維である。
【0015】
第1の態様では、上述した第1の態様の例の任意の1つ以上を、単独で又は組み合わせて提供してよい。
【0016】
第2の態様では、態様1のアラミド繊維、例えば工程(d)のアラミド繊維を、カップリング剤と接触させる。
【0017】
態様2では、カップリング剤はビニル置換化合物、例えば、2個以上のビニル基を有する環式化合物又は分岐状アルキル置換基を有する環式化合物である。
【0018】
態様2の別の例では、カップリング剤はビニル置換シリコーン、例えば1000未満の分子量(Mw)を有する低分子量シリコーンである。
【0019】
態様2の別の例では、カップリング剤は、溶媒、例えば、有機溶媒又は超臨界二酸化炭素と混合されている。
【0020】
態様2の別の例では、工程(c)のアラミド繊維を、カップリング剤流体中に少なくとも30分間浸漬する。
【0021】
態様2の別の例では、アラミド繊維は試験#1による、ゴム組成物に対する0.8MPaを上回る接着性を有する。
【0022】
第2の態様では、上述した第1又は第2の態様の例の任意の1つ以上を、単独で又は組み合わせて、提供してよい。
【0023】
第3の態様は、エラストマー材料への改良された接着性を有するアラミド繊維であり、アラミド繊維を液体に浸漬させ、アラミド繊維を照射してその表面を改質することにより調製されている。
【0024】
態様3では、アラミド繊維表面は、表面上にブリスター(blister)が形成されることによって改質され、照射工程より前の、ブリスターがないアラミド繊維表面と比較すると、ブリスターはアラミド繊維の表面から外向きに延びている。
【0025】
態様3の別の例では、アラミド繊維はポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)又はポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)である。
【0026】
態様3の別の例では、アラミド繊維を、マイクロ波加熱炉(microwave vessel)内で、少なくとも30秒間、少なくとも60ワットの出力で照射する。
【0027】
第3の態様では、上述した第3の態様の例の任意の1つ以上を、単独で又は組み合わせて提供してよい。
【0028】
第4の態様は、アラミド繊維表面の改質方法である。方法は、(a)アラミド繊維に張力を加えることと、(b)アラミド繊維を、30°より大きい角度で曲げることと、(c)アラミド繊維にかかる張力をゆるめること、を含む。
【0029】
態様4の例では、アラミド繊維はポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)又はポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)である。
【0030】
態様4の別の例では、工程(a)のアラミド繊維に加えられる張力は、少なくとも0.5Nである。
【0031】
態様4の別の例では、工程(b)は、アラミド繊維を45~150°の範囲の角度で曲げることを含む。
【0032】
第4の態様の別の例は、アラミド繊維を少なくとも30°の角度で、2回以上曲げることを含む。
【0033】
態様4の別の例では、工程(b)は、アラミド繊維を少なくとも90°の角度で、2回以上曲げることを含む。
【0034】
態様4の別の例では、工程(b)は、アラミド繊維を部材上に通して、アラミド繊維を曲げることを適用することによって連続的プロセスで実施される。
【0035】
態様4の別の例では、部材は、曲面を有するローラ又は静的シリンダ(static cylinder)である。
【0036】
態様4の別の例では、アラミド繊維は工程(c)の後、10~200回転/メートルの範囲の撚り数(twist rate)で、撚り合わされる。
【0037】
第4の態様では、上述した第4の態様の例の任意の1つ以上を、単独で又は組み合わせて提供してよい。
【0038】
第5の態様では、態様4のアラミド繊維、例えば工程(c)のアラミド繊維を、カップリング剤と接触させる。
【0039】
態様5では、カップリング剤はビニル置換化合物、例えば、2個以上のビニル基を有する環式化合物又は分岐状アルキル置換基を有する環式化合物である。
【0040】
態様5の別の例では、カップリング剤はビニル置換シリコーン化合物、例えば1000未満の分子量(Mw)を有する低分子量シリコーンである。
【0041】
態様5の別の例では、カップリング剤は、溶媒、例えば、有機溶媒又は超臨界二酸化炭素と混合されている。
【0042】
態様5の別の例では、工程(c)のアラミド繊維を、カップリング剤流体に少なくとも30分間浸漬する。
【0043】
態様5の別の例では、アラミド繊維は試験#1による、ゴム組成物に対する0.8MPaを上回る接着性を有する。
【0044】
第5の態様では、上述した第4又は5の態様の例の任意の1つ以上を、単独で又は組み合わせて提供してよい。
【0045】
第6の態様は、エラストマー材料への改良された接着性を有するアラミド繊維であり、アラミド繊維は、一定の張力がアラミド繊維に加えられた状態で、30°より大きい角度でアラミド繊維を曲げることで調製されている。
【0046】
第6の態様の例では、アラミド繊維はポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)又はポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)である。
【0047】
第7の態様は、アラミド繊維のエラストマー材料への接着性を改善する方法である。方法は、(a)アラミド繊維をカップリング剤流体に接触させることと、(b)アラミド繊維を該流体から取り出すことと、(c)アラミド繊維を乾燥させること、を含む。
【0048】
第7の態様の例では、アラミド繊維はポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)又はポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)である。
【0049】
第7の態様の別の例では、カップリング剤はビニル置換化合物、例えば、2個以上のビニル基を有する環式化合物又は分岐状アルキル置換基を有する環式化合物である。
【0050】
第7の態様の別の例では、カップリング剤はビニル置換シリコーン、例えば1000未満の分子量(Mw)を有する低分子量シリコーンである。
【0051】
第7の態様の別の例では、工程(a)のカップリング剤流体は、溶媒、例えば、有機溶媒又は超臨界二酸化炭素と混合されているカップリング剤である。
【0052】
第7の態様の別の例では、アラミド繊維は試験#1による、ゴム組成物に対する0.8MPaを上回る接着性を有する。
【0053】
第7の態様の別の例では、アラミド繊維を工程(a)の前に、酸溶液と接触させる。
【0054】
第7の態様の別の例では、アラミド繊維を工程(a)の前に、液体内で照射する。
【0055】
第7の態様の別の例では、工程(a)の前に、一定の張力をアラミド繊維に加えた状態でアラミド繊維を30°より大きな角度で曲げる。
【0056】
第7の態様では、上述した第7の態様の例の任意の1つ以上を、単独で又は組み合わせて提供してよい。
【0057】
第8の態様は、エラストマー材料への改良された接着性を有するアラミド繊維であり、該アラミド繊維は、アラミド繊維をカップリング剤流体に少なくとも30分間接触させることで調製されている。
【0058】
第8の態様の例では、アラミド繊維はポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)又はポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)である。
【0059】
第8の態様の別の例では、カップリング剤はビニル置換化合物(例えば2個以上のビニル基を有する環式化合物)又は分岐状アルキル置換基を有する環式化合物又はビニル置換シリコーン(例えば、1000未満の分子量(Mw)を有する低分子量シリコーン)又はこれらの組み合わせである。
【0060】
添付の図面は、本発明の原理の更なる理解を得るために含められたものであり、本明細書の一部に組み込まれると共に本明細書の一部を構成するものである。図面は1つ以上の実施形態(複数可)を示し、本発明の実施例、原理及び作用として、明細書と共に説明をなすものである。本明細書及び本図面において開示されている様々な特徴は、あらゆる組み合わせで使用することができると理解すべきである。非限定的な例として、様々な特徴は、態様として明細書中に記述されているように、互いに組み合わされ得る。
【図面の簡単な説明】
【0061】
添付図面を参照して以下の発明を実施するための形態を読むことで、上記した説明並びにその他の特徴、態様及び利点は、より適切に理解される。
【0062】
【
図1】未処理のポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)繊維の、走査型電子顕微鏡画像である。
【
図2】硫酸溶液に浸漬した、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)繊維の走査型電子顕微鏡画像である。
【
図3】硫酸溶液に浸漬し、続いてマイクロ波エネルギーで照射したポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)繊維の走査型電子顕微鏡画像である。
【
図4】硫酸溶液に浸漬し、続いてマイクロ波エネルギーで照射したポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)繊維の走査型電子顕微鏡画像である。
【
図5】一様かつ均一な圧縮及び曲げひずみを、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)繊維に加えるために使用される機械的処理デバイスである。
【
図6】
図6に示したデバイスを通過した、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)繊維の光学顕微鏡画像である。
【
図7】エラストマー材料への繊維の接着性を測定する接着性試験のための、サンプル調製方法の概略である。
【
図8】エラストマー材料への繊維の接着性を測定する接着性試験のための、剪断遅れモデルの概略である。
【
図9】試験#1による、アラミド繊維のゴム組成物への測定された接着性を示すグラフである。
【
図10】試験#1による、アラミド繊維のゴム組成物への測定された接着性を示すグラフである。
【
図11】試験#1による、アラミド繊維のゴム組成物への測定された接着性を示すグラフである。
【
図12】試験#1による、アラミド繊維のゴム組成物への測定された接着性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0063】
本明細書に記載する用語は、実施形態を説明するためだけのものであり、全体として本発明を限定すると解釈すべきではない。
【0064】
本明細書では、5~25(5-25(or 5 to 25))等の範囲が与えられた場合、これは、好ましくは少なくとも5以上であり、更に別個にかつ独立して、好ましくは25以下又は25未満であることを意味する。ある例では、かかる範囲は、独立して少なくとも5、更に別個にかつ独立して、25以下を定める。
【0065】
本発明で使用する場合、用語「phr」は、ゴムの重量部を意味する。ゴム組成物が2種以上のゴムを含む場合、「phr」は、全てのゴムを合わせた100部に対する重量部を意味する。
【0066】
本開示は、エラストマー組成物、例えば、タイヤ又はベルトを製造するのに通常使用される、ゴム組成物又は加硫性組成物へのアラミド繊維の接着性に関する。アラミド繊維は、強化部材、例えば、糸、フィラメント、繊維、コード、布地又はこれらの組み合わせの形態であり得る。アラミド繊維の一例は、ケブラー(登録商標)であり、これは分子鎖間の水素結合により優れた引張特性を有する、高結晶性材料である。これらの繊維の調製方法では、高い異方性構造がもたらされる。その異方性構造では、ラメラスプレッドが中央から外向きに放射状に広がっている。その高い結晶性により、繊維表面は非常に平滑である。アラミド繊維の内部部分を開口し、非晶質部分を露出させることが可能であることと、エラストマー材料と結合する試剤を、繊維に挿入又は浸透させて、より良好な接着性を生じさせ、更にその内部に1個以上のアラミド繊維が維持されているエラストマー製品の、全体的な機械特性を改善させることが可能であることが見出されている。
【0067】
アラミド繊維の表面下の部分を露出させるために、アラミド繊維を処理することができる。アラミド繊維は、大量摂取が可能な微小空隙を有し得る。これらの空隙は、接着促進剤、例えばカップリング剤を導入する対象となり得る。本開示では、アラミド繊維表面に粗さを付与する処理、及び/又は空隙を開放し、それらをより接触しやくする処理が記載されている。繊維表面を処理し、繊維のエラストマー材料への接着性を改良した後に、繊維の開口した内側部分へのカップリング剤又は架橋性モノマーの導入を実施することができる。
【0068】
本明細書に記載されるように、アラミド繊維は、アミド架橋によって結合した、又は任意で、追加的にその他の架橋構造によって結合した芳香環から、部分的に、優先的に、又は排他的になるポリマー繊維である。かかるアラミドの構造は以下の繰り返し単位の一般式によって明らかにされる。
(-NH-A1-NH-CO-A2-CO-)n
【0069】
式中、A1及びA2は、同一の又は異なる芳香族及び/又は多環芳香族及び/又は芳香族複素環であり、これらは置換されていてもよい。例えば、アミド(-CO-NH-)結合は2個の芳香環に直接結合している。一実施形態では、少なくとも85%のアミド(-CONH-)結合は、2個の芳香環に直接結合している。A1及びA2は、各々独立して、1個以上の置換基によって置換されていてもいなくてもよい、1,4-フェニレン、1,3-フェニレン、1,2-フェニレン、4,4’-ビフェニレン、2,6-ナフチレン、1,5-ナフチレン、1,4-ナフチレン、フェノキシフェニル-4,4’-ジイレン、フェノキシフェニル-3,4’-ジイレン、2,5-ピリジレン及び2,6-キノリレンから選択され得る。置換基としては、ハロゲン、C1~C4アルキル、フェニル、カルボアルコキシ、C1~C4アルコキシ、アシルオキシ、ニトロ、ジアルキルアミノ、チオアルキル、カルボキシル及びスルホニルを挙げることができる。(-CO-NH-)基はまた、カルボニル-ヒドラジド(-CONHNH-)基、アゾ又はアゾキシ基によって置換されてもよい。
【0070】
アラミドと共に、添加剤を使用することができ、例えば、最大10重量%程度までのその他のポリマー材料をアラミドとブレンドすることができる。あるいはアラミドのジアミンを置換した10%ほどのその他のジアミン又はアラミドの二塩基酸クロライドを置換した10%ほどのその他の二塩基酸クロライドを有するコポリマーを使用してもよい。
【0071】
好適なアラミド繊維は、Man-Made Fibers--Science and Technology(Volume 2,Section titled Fiber-Forming Aromatic Polyamides,page 297,W.Black et al.,Interscience Publishers,1968)に記載されている。M-アラミドは、アミド結合が互いにメタ位にあるアラミドであり、p-アラミドは、アミド結合が互いにパラ位にあるアラミドである。本開示の実施に際して、ほとんどの場合に使用されるアラミドは、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)(例えば、ケブラー(登録商標))及びポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)(例えばノーメックス(登録商標))である。
【0072】
アラミド繊維表面の改質方法は、酸処理として、アラミド繊維を酸、例えば酸溶液と接触させることを含むことができる。酸は任意の好適な酸であり得る。例えば、無機又は強酸を使用して、アラミド繊維を処理できる。酸としては、例えば、塩酸(HCl)、硝酸(HNO3)、硫酸(H2SO4)、臭化水素酸(HBr)、ヨウ化水素酸(HI)、過塩素酸(HClO4、HClO3)又はこれらの任意の組み合わせを挙げることができる。その他の酸としては、リン酸、クロム酸、炭酸、アスコルビン酸、酢酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、コハク酸、グリコール酸、又はこれらの任意の組み合わせを挙げることができる。
【0073】
酸は溶液、例えば、水溶液であり得る。酸溶液は、任意の好適な濃度の酸を有してよく、例えば、酸は溶液中に1~99重量%、5~90、10~80、15~60若しくは20~50の範囲の濃度で、又は25、30、35、40若しくは45重量%で存在し得る。
【0074】
アラミド繊維を、任意の常法により酸と接触させることができる。例えば、繊維を所定期間(per-determined period of time)、酸溶液に浸漬(immersed or soaked)することができる。繊維を、酸と20分~2日、30分~24時間、45分~12時間の範囲の期間、又は1時間、2時間、4時間若しくは6時間接触させてよい。繊維を、酸と任意の好適な温度、例えば、20~140℃、25~100℃の範囲の温度で、又は30、40、50、60、70、80若しくは90℃で接触させてよい。
【0075】
アラミド繊維の酸処理は、繊維をエラストマー材料へと接着させる前に、個々の処理方法として実施することができる。あるいは酸処理は、例えば、エラストマーへと接着させる前に、繊維に適用される更なる処理と組み合わせることができる。
【0076】
アラミド繊維表面を改質する別の方法では、繊維を、例えば繊維をマイクロ波又はマイクロ波エネルギーへと曝すことで、照射してよい。繊維のマイクロ波照射は、マイクロ波領域の任意の周波数、例えば、300MHz~300GHzで実施することができる。一実施形態では、マイクロ波加熱炉(例えばオーブン)を使用して、アラミド繊維を照射することができる。マイクロ波オーブンは、1~4GHz、2~3GHzの範囲の周波数又は2.4、2.45若しくは2.5GHzで、繊維を照射することができる。マイクロ波オーブンを、任意の好適な出力、例えば、少なくとも60ワットで動作してよい。マイクロ波加熱炉の出力レベルは、60ワット~2.5キロワット、75ワット~1キロワット、100~500ワット又は150~250ワットの範囲内であってよい。
【0077】
このプロセスは、コンベアを有する市販のマイクロ波システムを使用して、連続的に行うことができる。プロセスは、また、バッチ型処理システムの、閉じたマイクロ波システムを使用して実施することができる。繊維は、任意の好適な時間、照射することができる。例えば、アラミド繊維は、15秒~10分、30秒~5分、45秒~3分の範囲の期間、又は1分若しくは2分照射することができる。
【0078】
アラミド繊維へ照射することによって、繊維表面下の液体の蒸発が引き起こされ得る。繊維中の液体は、繊維を製造した後、繊維内に液体が存在してもよく(例えば、残留溶媒)、又は、繊維を透過液、例えば、酸溶液若しくは溶媒に単体で接触させるか、又は1種以上の物質を担持することによって導入してもよい。照射する間に繊維内で発生した気体又は蒸気は、繊維表面に向かって移動し、漏れ出る傾向を有がある。繊維をマイクロ波エネルギー等の照射エネルギーに暴露することで、ブリスターが繊維表面上に生じ得る。マイクロ波エネルギーに暴露されたアラミド繊維の表面上のブリスターは、
図4で確認することができる。ブリスターは繊維表面から、外に向かって放射状に延び、繊維表面に粗さを付与し、その他の材料の接着性(adhesion of other materials)を改良する。図示されているように、照射前の平滑でブリスターがないアラミド繊維表面(例えば
図1に示す)と比較して、ブリスターは繊維の表面上で盛り上がっている。アラミド繊維表面上のブリスターは、エラストマー材料が接着するためのテクスチャー表面を付与することができ、ブリスターは、材料を繊維表面で捉え、接着性を改良する表面を更に形成することができる。一例では、アラミド繊維がエラストマー材料と接触する際、ブリスターは破裂し、開口する場合があり、そのため、該材料は、繊維の表面上と表面下の両方にある開口したブリスターによって生成され露出した空隙を充填することができる。その結果、材料を、繊維内の空隙及びブリスターによって形成されたテクスチャー表面に沿う空隙に、埋め込むことができる。
【0079】
好ましくは、アラミド繊維を照射前に液体に浸漬する。任意の好適な液体、例えば水(例えば脱イオン水)を使用することができる。長期間加熱した場合、アラミド繊維は、分解又は損傷し得る。照射する間、繊維を液体に浸漬することで、繊維が焦げること又は炭化することを防止できる。液体は、ヒートシンクとして機能することができ、照射中の温度上昇を最小限に抑える。アラミド繊維を照射するための容器、例えばマイクロ波加熱炉は、温度センサを備えることができる。1個以上の温度センサは、処理の間、繊維が曝される放射エネルギー量を制御し、該繊維が損傷し得る高温に、該繊維を曝すことを防止することができる。
【0080】
一実施形態では、アラミド繊維は酸溶液と接触し、前処理された繊維を形成することができる。繊維を酸溶液から取り出し、マイクロ波エネルギーで照射してアラミド繊維を更に処理する前に、別の液体、例えば水に浸漬することができる。酸溶液から取り出した後、繊維を任意に乾燥させてよい。
【0081】
アラミド繊維表面を改質する別の方法では、繊維を機械的に処理することができる。アラミド繊維に、一定の張力又は荷重をかけることができる。例えば、一定の引張荷重を加えるため、繊維を引張試験機内に配置することができる。繊維に加えられる張力は、0.25ニュートン(N)~10N、0.5~5N、0.75~3Nの範囲内、又は1若しくは2Nであることができる。一定の張力下で、圧縮及び曲げひずみを繊維に加えることができる。圧縮力及び曲げひずみは、繊維を曲げ角度、例えば、30~150°、45~140°、60~130°の範囲内、又は70、80、90、100、110若しくは120°の曲げ角度に配する部材上に、張力を加えながら繊維を通過させることによって、連続的プロセスにて加えることができる。
【0082】
アラミド繊維は、機械的処理において1箇所以上を曲げることができ、例えば、繊維は2~20回曲げることができる。繊維の各曲げは、同一の又は異なる角度であってよい。一実施形態では、繊維を、少なくとも90、100、110又は120°の曲げ角度で、2回以上曲げることができる。曲げ装置の構成の例を
図5に示す。図示のようにアラミド繊維は、連続的に6箇所の湾曲部を備え、6箇所の湾曲部のうち4箇所は120°である。
【0083】
所望の曲げ角度に繊維の経路を変化させる部材上に繊維を通過することで、圧縮及び曲げひずみをアラミド繊維に加えることができる。例えば、部材は、曲面を有するローラ又は静的シリンダのように、湾曲面(curvature)を有し得る。一連の部材を配置することができ、繊維を曲げ部材の配列に通過させるか、又は繊維を曲げ部材配列に沿って通過させて、任意の所望の角度で1箇所以上の曲げを加えることができる。
【0084】
上記処理、酸、照射及び機械的な操作により、アラミド繊維表面を改質する。繊維表面は、外側表面下にある繊維の内部材料を露出させるよう変化し得る。上記処理の前又は後に、カップリング剤を繊維に導入し、エラストマー材料への接着を促進することができる。
【0085】
アラミド繊維を、1種以上のカップリング剤と接触させてよい。例えば、カップリング剤は、繊維をある期間カップリング剤中に浸漬できるよう、室温において液体であってよい、又は融点まで加熱してよい。繊維を、カップリング剤と20分~2日、30分~24時間、45分~12時間の範囲の期間、又は1時間、2時間、4時間若しくは6時間接触させてよい。繊維を、カップリング剤と任意の好適な温度で、例えば、20~140、25~100の範囲の温度、又は30、40、50、60、70、80若しくは90℃で接触させてよい。
【0086】
カップリング剤は、繊維と接触させる前に、その他の流体例えば溶媒と組み合わせることができる。カップリング剤は、溶媒又は溶媒系中に、任意の好適な濃度、例えば10~90重量%で存在し得る。
【0087】
溶媒は有機溶媒であってよい。以下で論じるように、様々な有機溶媒を有機溶媒系において使用してよい。好適な、一般的な溶媒の分類としては、C1~C6アルコール、ハロゲン化炭化水素、飽和炭化水素、芳香族炭化水素、ケトン、エーテル、アルコールエーテル、窒素含有複素環、酸素含有複素環、エステル、アミド、スルホキシド、カーボネート、アルデヒド、カルボン酸、ナイトライト、ニトロ化炭化水素及びアセトアミドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0088】
有機溶媒が溶媒系に含まれ得、溶媒系は単一溶媒又は溶媒混合物であり得る。概して、溶媒混合物は少なくとも2種の溶媒を含み、更に5~10種の溶媒を含んでもよい。溶媒としては、パークロロエチレン、イソオクタン(トリメチルペンタンとも称する)、ヘキサン、アセトン、塩化メチレン、トルエン、メタノール、クロロホルム、エタノール、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、メチルエチルケトン、ペンタン、N-メチルピロリドン、シクロヘキサン、ジメチルホルムアミド、キシレン、エチルアセテート、クロロベンゼン、メトキシエタノール、モルホリン、ピリジン、ピペリジン、ジメチルスルホキシド、エトキシエタノール、イソプロパノール、プロピレンカーボネート、石油エーテル、ジエチルエーテル、ジオキサン及びこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0089】
一実施形態では、溶媒は超臨界二酸化炭素であり得る。二酸化炭素はその入手しやすさ、不燃性及び環境安全性(無害であること)ゆえに、望ましい。二酸化炭素の臨界温度は31℃であり、臨界温度を上回り、臨界圧力に近い(又は超える)高密度(又は圧縮された)気相は、「超臨界流体」と称されることが多い。この状態では、二酸化炭素は流体として高密度であるが、また、容器を気体のように満たす。超臨界二酸化炭素は、小分子にとって有効な溶媒であり、いくつかのフルオロポリマー及びシリコーンの例外はあるもののポリマーにとっては貧溶媒である。従って、超臨界二酸化炭素の密度及び溶媒特性は、カップリング剤として機能して結合し、マトリックス(例えば、エラストマー材料又はゴム)を架橋するのを助け得るアラミド繊維の表面に近接した微小空隙へと小分子を移送するのに使用される。
【0090】
一実施形態では、繊維とエラストマー材料との接着性を改善するのに有用であるカップリング剤は、2個、3個、4個又はそれより多くのビニル置換基又は基を有するビニル置換化合物を含むことができる。ビニル置換化合物としては、例えば、2個以上のビニル基を有する直鎖状又は環式化合物を挙げることができる。環式化合物としては、C3~C8環状構造又は大環状環(C8以上)を挙げることができる。環式化合物は、単環式又は縮合多環式化合物であり得る。その他の環式化合物は、2個以上のビニル置換基を有する複素環式化合物(例えば、少なくとも酸素又は窒素原子を有する環)であり得る。ビニル置換環式化合物の一例は、ジビニルベンゼンである。ジビニルベンゼンは、シグマ・アルドリッチから提供され得る。
【0091】
他の実施形態では、カップリング剤として、ビニル置換低分子量シリコーン又は本明細書にて開示したその他のカップリング剤と、これらとの組み合わせを挙げることができる。低分子量シリコーンとしては、1000、750、600、500、450、400又は350g/mol未満の分子量(Mw)を有するようなものを挙げることができる。低分子量シリコーンは、2個以上のビニル基、例えば、3、4又はそれを上回るビニル基で置換されていてよい。一例では、ビニル基はシリコーン化合物のSi原子上に置換され得る。
【0092】
他の実施形態では、カップリング剤は2個以上のアルキル基で置換された環式化合物であり得る。アルキル基は1個~20個の炭素原子を有するアルキルを含むことができる。アルキル基は直鎖状又は分岐状の、例えば、ジ-及びトリ-アルキル基であってよい。環式化合物としては、C3~C8環状構造又は大環状環(C8以上)を挙げることができる。環式化合物は、単環式又は縮合多環式化合物であり得る。その他の環式化合物は、2個以上のビニル置換基を有する複素環式化合物(例えば、少なくとも酸素又は窒素原子を有する環)であり得る。アルキル基で置換された環式化合物の例としては、1,3-ジイソプロピルベンゼン及び1,4-ジイソプロピルベンゼンが挙げられる。
【0093】
本明細書に記載の処理済アラミド繊維の接着性試験を実施し、繊維とマトリックスとの間での接着性の定量的測定を実現してよい。好ましい接着性試験の一例を、下記実施例4に示し、接着性試験の概略を
図7及び8に示す。接着性試験では、繊維をエラストマー材料に埋め込む前に、任意にアラミド繊維に、例えば、150回転/メートルの撚りをかけることを伴う。繊維を2つの材料の間に挟み、加熱して材料を硬化させ、繊維に接着させる。例えば、未硬化の材料及び繊維を熱プレス機(melt press)内に設置し、ある期間、例えば5分~1時間、10~50分間又は20、30若しくは40分間、加熱してよい。硬化又は結合温度まで加熱することは、材料温度を50~250℃、75~200℃の範囲の温度又は100、125、150、160、170、180若しくは190℃まで上げることを含み得る。
【0094】
エラストマー材料に埋め込まれたアラミド繊維を切断し、エラストマー材料のブロックから外向きに延びる1本以上のアラミド繊維を有する試験用サンプルとする。続いて、1本以上のアラミド繊維又は束を破断するまで引っ張る、すなわち繊維を完全にエラストマー材料から引き出す。
【0095】
基本的な剪断遅れモデルを使用して、繊維とエラストマー材料との接着性を計算する。モデルでは、繊維長さに沿った引張応力の増加は、完全に、繊維とエラストマー材料との間の、円筒形状の境界面に作用する剪断力によってもたらされると仮定している。
図8に示す微分要素を考慮し、力をつり合わせると、式(1)を得る。
【数1】
【0096】
エラストマー材料に埋め込まれた繊維の長さ全体にわたり、応力が一定であると仮定すれば、剪断応力(Pa又はN/m
2)(すなわち、接着性の指標)を式(2)によって計算できる。
【数2】
【0097】
式中、(F)は単位がニュートン(N)の張力であり、Dは繊維又は繊維の束の直径(メートル)であり、Lはエラストマー材料を通過した変位量(メートル)である。
【0098】
本明細書の実施例に示すように、1つ以上の処理方法をアラミド繊維に適用し、繊維のエラストマー材料への接着性を改善させることができる。処理済アラミド繊維は、かかる改善された接着性が有益である、様々な用途にて使用可能である。例えば、アラミド繊維をタイヤ(例えば、ベルトプライ、ボディプライ、ビード、強化部材)、ベルト(例えば、コンベア)及び強化エアスプリング等のゴム製品にて使用可能である。処理済アラミド繊維は、加硫性組成物と組み合わせることができる。例えば、繊維を、強化部材として組成物に埋め込むことができる。
【0099】
加硫性ゴム組成物は、ゴム成分及び充填剤を含む初期マスターバッチを形成することにより調製することができる。この初期マスターバッチの混合を、開始温度約25℃~約125℃、吐出温度約135℃~約180℃で行ってもよい。早期加硫(別名スコーチ)を防止するために、初期マスターバッチから任意の加硫剤を除外してもよい。一度初期マスターバッチを処理すれば、最終的な混合段階において、加硫剤を初期マスターバッチに、低温で導入及び混合することができる。この段階では、加硫プロセスは開始し得ない。任意に、しばしば再ミルと呼ばれる付加的な混合段階を、マスターバッチ混合段階と最終的な混合段階との間で用いることができる。処理済アラミド繊維を、未硬化組成物と組み合わせることができる。例えば、繊維を組成物と共に押し出すことができる。又は未硬化材料の層間に挟むことができる。ゴム配合技術及びそこで用いられる添加剤は、一般に、The Compounding and Vulcanization of Rubber,in Rubber Technology(2nd Ed.1973)に開示されているように、既知である。シリカ充填されたタイヤ配合物に適用可能な混合条件及び手順は、米国特許第5,227,425号、同第5,719,207号、同第5,717,022号及び欧州特許第890,606号に記載されているよう既知であり、これらは全て、参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例0100】
以下の実施例は、特定の及び代表的な実施形態、並びに/又は本開示の実施形態の特徴を例示するものである。実施例は、単に説明の目的で提供されており、本開示を限定するものとして解釈すべきでない。本開示の実施形態の趣旨及び範囲を逸脱することなく、これらの特定の実施例に対する多くの変更が可能である。より具体的には、実施例で使用された特定のゴム、充填材及びその他成分(例えば、抗酸化剤、硬化剤等)は、発明を実施するための形態中の開示に一致するようなその他成分が代わりに利用できるため、限定するものと解釈されてはならない。すなわち、組成物中の特定の成分並びにそれらの各々の量及び相対量は、発明を実施するための形態の一般的な内容に適用されると理解すべきである。
【0101】
実施例1
ケブラー繊維の酸処置
【0102】
ケブラー繊維を、デュポン社から入手した。入手した繊維を走査型電子顕微鏡を使用して観察した。繊維の画像を
図1に示した。
【0103】
ケブラー繊維の一部を、HClの12M溶液に浸漬し、ケブラー繊維の別の部分を硫酸(H
2SO
4)の12M溶液に浸漬した。浸漬期間は24時間であった。浸漬した繊維を、走査型電子顕微鏡を使用して観察した。HCl及びH
2SO
4に浸漬した繊維の画像を、各々
図2及び
図3に示す。図示のように、繊維表面は改質され、粗く、穴あきがあることを示した。これらが、繊維に表面粗さを付与した。
【0104】
実施例2
ケブラー繊維のマイクロ波/酸処理
【0105】
デュポン社から入手したケブラー繊維を、50重量%硫酸水溶液に1時間浸漬した。繊維を硫酸溶液から取り出し、脱イオン水に浸漬した。続いて、浸漬した繊維にマイクロ波を出力100ワットで2分間照射した。繊維を水から取り出し、乾燥させた。乾燥させた繊維を走査型電子顕微鏡を使用して観察した。繊維の画像を、
図3及び
図4に示す。図示のように、繊維表面は改質され、ブリスターの形態を示した。これは、繊維の空隙又は多孔質表面内に残留した酸が、マイクロ波エネルギーにさらされ、繊維表面から漏れ出そうとした結果であり得る。
【0106】
実施例3
ケブラー繊維の機械的処理
【0107】
デュポン社から入手したケブラー繊維に、インストロン引張試験機を使用して、500mm/分の速度、荷重1Nで、直径2mmの湾曲面を通過させた。一様かつ均一な圧縮及び曲げひずみを繊維に加えるために使用したデバイスを、
図5に示す。湾曲面周りにおいて、繊維を、120°の角度で曲げた。機械的に処理した繊維を、透明なポリスチレンマトリックスに埋め込み、光学顕微鏡で観察した。機械的に処理した繊維の画像を
図6に示す。
【0108】
繊維は、繊維表面での座屈を示唆する「V」字型の切り欠き又はキンクバンドを示した。繊維に対して行った試験は、繊維が、小さい曲げひずみで、フック変形によらない変形をすることを示す。この変形は本質的に可塑性であることを示唆する。繊維の改質された表面は、曲げひずみを付与する繊維の機械的処理が、粗さを繊維表面に導入する効率的かつ効果的な方法であることを示す。
【0109】
実施例4
未処理及び処理済繊維の接着性試験
【0110】
デュポン社から入手したケブラー繊維を、ゴム組成物への接着性試験のため、バッチ(batches)を分割した。使用したゴム組成物を、以下の表1に示す。
【0111】
【0112】
繊維の第1の部分をゴム組成物へと接着する前に該繊維を処理することなく試験した(すなわち、「未処理」)。繊維の第2の部分をジビニルベンゼンに浸漬し、繊維の第3の部分を、約345g/molの分子量(Mw)を有する低分子量シリコーンに浸漬した。繊維の第2及び第3の部分を、25℃で1時間浸漬した。繊維の第4の及び第5の部分を、超臨界二酸化炭素の存在下で各々ジビニルベンゼン及び約345g/molの分子量(Mw)を有するビニル置換低分子量シリコーンに、5,000psiの圧力及び50℃の温度の高圧容器内で1時間浸漬した。
【0113】
接着用試験片を、5セットの繊維について、調製し試験した。後述のように、本明細書では接着性試験を試験#1と称する。本試験は下記実施例において接着データを、測定し、生成するために使用された。接着性試験を、インストロン引張試験機を使用して実施した。処理の後、固定量の150回転/メートルの撚りを繊維にかけた。その後繊維を上表1に示したゴム組成物の2つのストリップの間に配置した。研究により、繊維を撚ることは、均一かつ一定の表面積をマトリックスへ突出させる効果を有し、接着データが分散することを低減し得ることが示されている。接着性試験の試験片調製の概略を
図7に示す。そして、繊維のゴムマトリックスへの接着性を測定する接着性試験での剪断遅れモデルを
図8に示す。
【0114】
未処理及び処理済繊維(5セット)を測定した接着結果を、
図9に示す。ジビニルベンゼン及び低分子量シリコーンに浸漬した繊維は、未処理の繊維と比較して、ゴム組成物へのより高い接着性を示した。ジビニルベンゼンに周囲条件にて浸漬した繊維は、1MPa及び約1.1MPaよりも高い接着性を示した。低分子量シリコーンに周囲条件にて浸漬した繊維は、1MPa及び約1.03MPaよりも高い接着性を示した。超臨界二酸化炭素の存在下でジビニルベンゼンに浸漬した繊維は、0.9MPa及び約0.97MPaよりも高い接着性を示した。超臨界二酸化炭素の存在下で低分子量シリコーンに浸漬した繊維は、0.8MPa及び約0.87MPaよりも高い接着性を示した。図示のように、全ての処理済繊維は、0.8MP及び0.85MPaよりも高い接着性を示した。これは、約0.57MPaの接着性を示す未処理の繊維の接着結果と比較して相当の改善である。
【0115】
実施例5
未処理及び処理済繊維の接着性試験
【0116】
デュポン社から入手したケブラー繊維を、上記実施例4にて示したように、ゴム組成物への接着性試験のため、バッチを分割した。
【0117】
繊維の第1の部分をゴム組成物へと接着する前に該繊維を処理することなく試験した(すなわち、「未処理」)。繊維の第2の部分を50重量%の硫酸水溶液に1時間浸漬し、酸溶液から取り出し、更に超臨界二酸化炭素の存在下で、5,000psiの圧力及び50℃の温度の高圧容器内で、ジビニルベンゼンに1時間浸漬した。繊維の第3の部分を、酸処理せず、超臨界二酸化炭素の存在下で、5,000psiの圧力及び50℃の温度の高圧容器内で、ジビニルベンゼンに1時間浸漬した。
【0118】
未処理及び処理済繊維(3セット)を測定した接着結果を、
図10に示す。硫酸に浸漬し、その後超臨界二酸化炭素の存在下でジビニルベンゼンに浸漬した繊維は、0.9MPa及び約0.99MPaよりも高い接着性を示した。酸処理を行わず、超臨界二酸化炭素の存在下でジビニルベンゼンに浸漬した繊維は、0.9MPa及び約0.97MPaよりも高い接着性を示した。図示のように、全ての処理済繊維は、0.9MP及び0.95MPaよりも高い接着性を示した。これは、約0.57MPaの接着性を示す未処理の繊維の接着結果と比較して相当の改善である。
【0119】
実施例6
未処理及び処理済繊維の接着性試験
【0120】
デュポン社から入手したケブラー繊維を、上記実施例4にて示したように、ゴム組成物への接着性試験のため、バッチを分割した。
【0121】
繊維の第1の部分をゴム組成物へと接着する前に該繊維を処理することなく試験した(すなわち、「未処理」)。繊維の第2の部分を50重量%の硫酸水溶液に1時間浸漬し、酸溶液から取り出し、乾燥させた。続いて、浸漬した繊維にマイクロ波を出力100ワットで2分間照射した。繊維を水から取り出し、ジビニルベンゼンに25℃で1時間漬した。約345g/molの分子量(Mw)を有する低分子量シリコーンをジビニルベンゼンの代わりに使用したことを除いて、第2の部分と同様に繊維の第3の部分を処理した。カップリング剤を適用するため、超臨界二酸化炭素の存在下、5,000psiの圧力及び50℃の温度の高圧容器内で1時間、ジビニルベンゼンを使用したことを除いて、第2の部分と同様に繊維の第4の部分を処理した。約345g/molの分子量(Mw)を有する低分子量シリコーンをジビニルベンゼンの代わりに使用したことを除いて、第4の部分と同様に繊維の第5の部分を処理した。
【0122】
未処理及び処理済繊維(5セット)を測定した接着結果を、
図11に示す。繊維の第2の部分は、0.5MPa及び約0.53MPaよりも高い接着性を示し、第3の部分は、0.8及び約0.81MPaよりも高い接着性を示し、第4の部分は、1.05及び約1.1MPaよりも高い接着性を示し、更に第5の部分は、0.8及び約0.89MPaよりも高い接着性を示した。図示のように、超臨界二酸化炭素の存在により、周囲条件にてカップリング剤に浸漬した繊維と比較して接着結果が改善された。繊維表面のブリスター形態は、残留する酸が繊維表面下の空隙から漏れ出そうとすることによってもたらされ得ると考えられている。この表面形態により、超臨界二酸化炭素が表面下により出入りしやすくなった可能性がある。
【0123】
実施例7
未処理及び処理済繊維の接着性試験
【0124】
デュポン社から入手したケブラー繊維を、上記実施例4にて示したように、ゴム組成物への接着性試験のため、バッチを分割した。
【0125】
繊維の第1の部分をゴム組成物へと接着する前に該繊維を処理することなく試験した(すなわち、「未処理」)。実施例3に記載したように、繊維の第2の部分を機械的処理し、その後、超臨界二酸化炭素の存在下で、5,000psiの圧力及び50℃の温度の高圧容器内で、ジビニルベンゼンに1時間浸漬した。実施例3に記載したように、繊維の第3の部分を機械的処理し、その後、繊維を超臨界二酸化炭素の存在下で約345g/molの分子量(Mw)を有する低分子量シリコーンに、5,000psiの圧力及び50℃の温度の高圧容器内で1時間浸漬した。
【0126】
未処理及び処理済繊維(3セット)を測定した接着結果を、
図12に示す。機械的に処理し、ジビニルベンゼンに浸漬した繊維の第2の部分は、1.15及び約1.17MPaよりも高い接着性を示した。機械的に処理し、低分子量シリコーンに浸漬した繊維の第3の部分は、1.1及び約1.15MPaよりも高い接着性を示した。図示のように、全ての処理済繊維は、1MP及び1.1MPaよりも高い接着性を示した。これは、約0.57MPaの接着性を示す未処理の繊維の接着結果と比較して相当の改善である。
【0127】
特許、特許出願、及び非特許文献を含むがこれらに限定されない全ての参考文献は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0128】
組成物及び方法の様々な態様及び実施形態が本明細書に開示されているが、別の態様及び実施形態が、当業者には明らかであろう。本明細書に開示される様々な態様及び実施形態は、例示目的であり、特許請求の範囲に示されている真の範囲及び趣旨を限定することを意図していない。