IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リサーチ インスティチュート アット ネイションワイド チルドレンズ ホスピタルの特許一覧

<>
  • 特開-筋ジストロフィーの治療方法 図1
  • 特開-筋ジストロフィーの治療方法 図2
  • 特開-筋ジストロフィーの治療方法 図3
  • 特開-筋ジストロフィーの治療方法 図4
  • 特開-筋ジストロフィーの治療方法 図5
  • 特開-筋ジストロフィーの治療方法 図6
  • 特開-筋ジストロフィーの治療方法 図7
  • 特開-筋ジストロフィーの治療方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023099184
(43)【公開日】2023-07-11
(54)【発明の名称】筋ジストロフィーの治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7088 20060101AFI20230704BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230704BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230704BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230704BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 31/122 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 31/355 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 31/385 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230704BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230704BHJP
   A61P 21/02 20060101ALI20230704BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20230704BHJP
   C12N 15/864 20060101ALN20230704BHJP
【FI】
A61K31/7088
A61K45/00 ZNA
A61P21/00
A61P43/00 121
A61P43/00 105
A61P39/06
A61K31/122
A61K31/355
A61K31/385
A61K35/76
A61K48/00
A61P21/02
C12N15/12
C12N15/864 100Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076538
(22)【出願日】2023-05-08
(62)【分割の表示】P 2021086103の分割
【原出願日】2016-11-11
(31)【優先権主張番号】62/254,539
(32)【優先日】2015-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/419,793
(32)【優先日】2016-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】515289842
【氏名又は名称】リサーチ インスティチュート アット ネイションワイド チルドレンズ ホスピタル
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ルイーズ ロディノ-カラパック
(57)【要約】
【課題】筋ジストロフィーの治療方法の提供
【解決手段】本発明は、ANO5遺伝子を発現するAAVベクター、ならびに筋肉再生を誘導する方法及び筋ジストロフィーを治療する方法としての抗酸化剤療法を提供する。筋ジストロフィーを治療する方法であって、1)配列番号1の核酸配列と少なくとも85%同一の核酸配列、2)ストリンジェントな条件下で配列番号1のヌクレオチド配列にハイブリダイズするヌクレオチド、または3)ANO5活性を呈するタンパク質をコードする配列番号1の核酸の断片を含む組換えAAVベクターの治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照により全体が本明細書に組み込まれる、2015年11月12日出願の米国仮特許出願第62/254539号及び2016年11月9日出願の米国仮特許出願第62/419793号に対する優先権を主張するものである。
【0002】
発明の分野
本発明は、ANO5遺伝子を発現するAAVベクター、ならびに筋肉再生を誘導する方法及び筋ジストロフィーを治療する方法としての抗酸化剤療法を提供する。
【背景技術】
【0003】
移動運動及び呼吸等の日常活動ならびに全身代謝のための筋肉量及び筋力の重要性は明白である。筋肉機能の欠損により、筋肉衰弱及び消耗を特徴とする筋ジストロフィー(MD)が引き起こされ、生活の質に深刻な影響を与える。最も良く特徴付けられたMDは、ジストロフィン関連タンパク質複合体(DAPC)のメンバーをコードする遺伝子における変異に起因する。これらのMDは、DAPCによる筋鞘-細胞骨格繋留の損失に関連した膜脆弱性に起因する。対照的に、他のMDのサブセットは、筋鞘修復の欠陥によって引き起こされると考えられる。収縮中に筋鞘が受ける機械的ストレスのため、健常な筋肉でさえも、損傷した膜をパッチするための修復機構を常に必要としている。筋鞘パッチ修復は、損傷部位における膜小胞の融合に依存し、このプロセスの減衰は、ジスフェルリンにおける変異によって引き起こされるMDであるジスフェルリノパチーの主な原因と推定的に考えられる。
【0004】
近年、ジスフェルリノパチーと同様の特徴を有し、かつ筋鞘病変を特徴とする新たなMDが、ANO5(TMEM16E)における劣性変異に関係している。ANO5変異により、肢帯型筋ジストロフィー2L(LGMD2L)及び三好型ミオパチージストロフィー3(MMD3)が引き起こされる。ANO5変異に関連する表現型は可変であるが、典型的には、この疾患は、近位下肢衰弱、高血清中クレアチンキナーゼレベル、非対称筋萎縮及び衰弱を伴って成人(20~50歳)に現れ、典型的には、ジスフェルリノパチーに類似した筋鞘病変を伴う(Bolduc et al.,American journal of human genetics 86,213-221(2010))、Hicks et al.,Brain:a journal of neurology 134,171-182(2011)、Bouquet et al.,Revue neurologique 168,135-141(2012))。現在までに、約72の異なるANO5変異がMD患者において報告されており、他の既知のLGMD遺伝子における変異を欠くLGMD患者におけるANO5変異についてのスクリーニングは、ANO5変異がLGMDのより一般的な原因のうちの1つであり得ることを示す(Bolduc et al.,American journal of human genetics 86,213-221(2010))、Hicks et al.,Brain:a journal of neurology 134,171-182(2011)、Penttila et al.,Neurology 78,897-903(2012))。
【0005】
アノクタミン/TMEM16ファミリーは、2つのカテゴリに機能的に分けられている。創立メンバーであるANO1(TMEM16A)及びANO2(TMEM16B)がカルシウム活性化クロライドチャネルをコードする一方で、他のANOは、クロライド電流を伝導することができず、リン脂質スクランブリング(PLS)におけるそれらの役割について特定されている。しかしながら、ANO5は、骨格筋における新規の機能を提案するこれらの2つの活性のいずれかを呈することが見出されていない。この新規性を考慮して、ANO5機能の欠損がLGMD表現型をどのように誘発するか、具体的には、Ano5変異が臨床的に同様の方法でスフェルリン関連MDになぜ現れるかは不明のままである。
【0006】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、複製欠損パルボウイルスであり、その一本鎖DNAゲノムは、145ヌクレオチド逆方向末端反復(ITR)を含む約4.7kb長である。AAVの複数の血清型が存在する。AAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列が既知である。例えば、AAV血清型2(AAV2)ゲノムのヌクレオチド配列は、Srivastava et al.,J Virol,45:555-564(1983)(Ruffing et al.,J Gen Virol,75:3385-3392(1994)により修正)に提示されている。他の例として、AAV-1完全ゲノムは、GenBank受入番号NC_002077に提供されており、AAV-3完全ゲノムは、GenBank受入番号NC_1829に提供されており、AAV-4完全ゲノムは、GenBank受入番号NC_001829に提供されており、AAV-5ゲノムは、GenBank受入番号AF085716に提供されており、AAV-6完全ゲノムは、GenBank受入番号NC_001862に提供されており、AAV-7ゲノム及びAAV-8ゲノムの少なくとも一部は、それぞれ、GenBank受入番号AX753246及びAX753249に提供されており(AAV-8に関して、米国特許第7,282,199号及び同第7,790,449号も参照のこと)、AAV-9ゲノムは、Gao et al.,J.Virol.,78:6381-6388(2004)に提供されており、AAV-10ゲノムは、Mol.Ther.,13(1):67-76(2006)に提供されており、AAV-11ゲノムは、Virology,330(2):375-383(2004)に提供されている。AAV rh.74ゲノムの配列は、本明細書に提供される。ウイルスDNA複製(rep)、カプシド形成/パッケージング、及び宿主細胞染色体組込みを指示するCis作用配列が、ITR内に含まれる。3つのAAVプロモーター(それらの相対マップ位置に対してp5、p19、及びp40と名付けられる)は、rep及びcap遺伝子をコードする2つのAAV内部オープンリーディングフレームの発現を駆動する。単一AAVイントロンの差異的スプライシング(例えば、AAV2ヌクレオチド2107及び2227において)により連結された2つのrepプロモーター(p5及びp19)は、rep遺伝子からの4つのrepタンパク質(rep78、rep68、rep52、及びrep40)の産生をもたらす。repタンパク質は、最終的にウイルスゲノムの複製に関与する複数の酵素特性を有する。cap遺伝子は、p40プロモーターから発現され、3つのカプシドタンパク質VP1、VP2、及びVP3をコードする。選択的スプライシング及び非コンセンサス翻訳開始部位は、3つの関連カプシドタンパク質の産生に関与する。単一コンセンサスポリアデニル化部位は、AAVゲノムのマップ位置95に位置する。AAVの生活環及び遺伝学は、Muzyczka,Current
Topics in Microbiology and Immunology,158:97-129(1992)に概説されている。
【0007】
AAVは、例えば、遺伝子療法において、外来DNAを細胞に送達するためのベクターとして魅力的にする固有の特徴を有する。培養中の細胞のAAV感染は、非細胞変性であり、ヒト及び他の動物の自然感染は、サイレントかつ無症候性である。さらに、AAVは、多くの哺乳動物細胞を感染させ、インビボで多くの異なる組織を標的とする可能性を可能にする。さらに、AAVは、緩徐に分裂する細胞及び非分裂細胞を形質導入し、転写的に活性な核エピソーム(染色体外要素)として本質的にそれらの細胞の寿命にわたって存続し得る。AAVプロウイルスゲノムは、組換えゲノムの構築を実現可能にするプラスミド内のクローニングされたDNAとして感染性である。さらに、AAV複製、ゲノムカプシド形成、及び組込みを指示するシグナルがAAVゲノムのITR内に含まれるため、内部およそ4.3kbのゲノム(複製タンパク質及び構造カプシドタンパク質をコードするもの、rep-cap)のいくらかは全てが、プロモーター、目的とするDNA、及びポリアデニル化シグナルを含む遺伝子カセット等の外来DNAで置き換えられ得る。rep及びcapタンパク質は、トランスで提供され得る。AAVの別の重要な特徴は、それが極めて安定した頑健なウイルスであることである。これは、アデノウイルスを不活性化するために使用される条件(56℃~65℃で数時間)に容易に耐え、AAVの低温保存の重要性を低くする。AAVは、凍結乾燥され得る。最後に、AAV感染細胞は、重複感染に耐性を示さない。
【0008】
複数の研究は、筋肉内での長期(1.5年超)の組換えAAV媒介タンパク質発現を実証している。Clark et al.,Hum Gene Ther,8:659-669(1997)、Kessler et al.,Proc Nat.Acad Sc.USA,93:14082-14087(1996)、及びXiao et al.,J Virol,70:8098-8108(1996)を参照されたい。Chao et al.,Mol Ther,2:619-623(2000)及びChao et al.,Mol Ther,4:217-222(2001)も参照されたい。さらに、筋肉が高度に血管新生されるため、組換えAAV形質導入により、Herzog et al.,Proc Natl Acad Sci USA,94:5804-5809(1997)及びMurphy et al.,Proc Natl Acad Sci USA,94:13921-13926(1997)に記載されるように、筋肉内注射後に体循環に導入遺伝子産物の出現がもたらされた。さらに、Lewis et al.,J Virol,76:8769-8775(2002)は、骨格筋線維が、正しい抗体グリコシル化、折り畳み、及び分泌に必要な細胞因子を有することを実証し、筋肉が分泌タンパク質治療薬を安定して発現することができることを示す。
本明細書に示されるように、マウスにおけるAno5遺伝子の破壊により、いくつかのジストロフィー筋組織病理学的特徴、運動不耐性、筋鞘修復不全、及び筋芽細胞融合欠陥が引き起こされる。加えて、提供されるデータは、これらの欠陥が、ANO5によって媒介される細胞内膜及び/または膜及び/または筋鞘膜動態の変化に関連することを実証する。本発明は、筋肉修復を誘導する方法及び/またはMDを治療する方法におけるAno5遺伝子を発現するAAVベクターの使用に関する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Bolduc et al.,American journal of human genetics 86,213-221(2010)
【非特許文献2】Hicks et al.,Brain:a journal of neurology 134,171-182(2011)
【非特許文献3】Bouquet et al.,Revue neurologique 168,135-141(2012)
【非特許文献4】Penttila et al.,Neurology 78,897-903(2012)
【非特許文献5】Srivastava et al.,J Virol,45:555-564(1983)
【非特許文献6】Ruffing et al.,J Gen Virol,75:3385-3392(1994)
【非特許文献7】Gao et al.,J.Virol.,78:6381-6388(2004)
【非特許文献8】Mol.Ther.,13(1):67-76(2006)
【非特許文献9】Virology,330(2):375-383(2004)
【非特許文献10】Muzyczka,Current Topics in Microbiology and Immunology,158:97-129(1992)
【非特許文献11】Clark et al.,Hum Gene Ther,8:659-669(1997)
【非特許文献12】Kessler et al.,Proc Nat.Acad Sc.USA,93:14082-14087(1996)
【非特許文献13】Xiao et al.,J Virol,70:8098-8108(1996)
【非特許文献14】Chao et al.,Mol Ther,2:619-623(2000)
【非特許文献15】Chao et al.,Mol Ther,4:217-222(2001)
【非特許文献16】Herzog et al.,Proc Natl Acad Sci USA,94:5804-5809(1997)
【非特許文献17】Murphy et al.,Proc Natl Acad Sci USA,94:13921-13926(1997)
【非特許文献18】Lewis et al.,J Virol,76:8769-8775(2002)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ANO5タンパク質またはその機能的に活性な断片をコードするヌクレオチド配列を含むAAVベクターを対象とする。実施例1~4に記載の実験は、筋肉再生及び修復におけるAno5の重要な役割を実証する。ANO5の損失は、LGMD2L患者を連想させるマウスにおけるジストロフィー表現型を引き起こし、筋肉、運動不耐性、再生障害、及びクレアチンキナーゼレベルの上昇によって変化する軽度の組織病理を伴う。ミトコンドリア異常が、若齢及び高齢Ano5-/-マウスの両方で観察された。電子顕微鏡撮像により表示されるミトコンドリアの構造的欠陥に加えて、クエン酸シンターゼ定量アッセイは、ミトコンドリアが機能欠損を有することも実証した。クエン酸シンターゼの定量的酵素分析は、損傷したミトコンドリアの存在を示唆する。これらの結果は、ミトコンドリア異常が、アノクタミン5タンパク質の損失によって引き起こされる二次的影響であり得ることを示唆する。本明細書に記載の実験は、ヒトANO5のウイルス発現によってレスキューされるAno5-/-線維における筋鞘パッチ修復の減衰を実証し、Ano5の破壊が初代筋芽細胞の融合誘導性質を混乱させることを見出す。
【0011】
一実施形態では、本発明は、ANO5核酸配列を含むポリヌクレオチドを含む組換えAAVベクターを提供する。ANO5核酸配列は、Genbank受入番号NM_213599.2(配列番号13)として示される。AAVベクター中のANO5タンパク質をコードする例示の核酸配列は、配列番号1として示される。本発明の組換えベクターは、配列番号1または配列番号13の核酸と少なくとも少なくとも85%同一のポリヌクレオチド配列を含むか、またはストリンジェントな条件下で配列番号1または配列番号13のヌクレオチド配列にハイブリダイズするヌクレオチドを含むか、またはANO5活性を呈するタンパク質をコードする配列番号1または配列番号13の核酸の断片を含む。一態様では、本発明の組換えAAVは、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、またはAAV rh.74である。
【0012】
本発明の組換えAAVベクターは、PLS活性に関与するドメインを含むタンパク質をコードする配列番号1の断片を含み、このタンパク質は、PLS活性を保持する。別の実施形態では、AAVベクターは、ANO5活性を保持するタンパク質をコードする配列番号1または配列番号13の断片を含む。
【0013】
本発明の組換えAAVベクターは、例えば、配列番号1または配列番号13と少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、または89%、より典型的には、少なくとも90%、91%、92%、93%、または94%、さらにより典型的には、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性のポリヌクレオチド配列を含み、このポリヌクレオチドは、ANO5活性を保持するタンパク質をコードする。
【0014】
本発明の組換えAAVベクターは、例えば、配列番号2と少なくとも少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、または89%、より典型的には、少なくとも90%、91%、92%、93%、または94%、さらにより典型的には、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性のANO5をコードするポリヌクレオチド配列を含み、このポリヌクレオチドは、ANO5活性を保持するタンパク質をコードする。
【0015】
本発明の組換えAAVベクターは、ストリンジェントな条件下で配列番号1または配列番号13の核酸配列にハイブリダイズするポリヌクレオチド配列またはその補体を含み、この断片は、約5個を超えるヌクレオチド、好ましくは7個のヌクレオチド、より好ましくは9個を超えるヌクレオチド、最も好ましくは17個を超えるヌクレオチドである。例えば、選択的な(すなわち、本発明のポリヌクレオチドのうちのいずれか1つに特異的にハイブリダイズする)15個、17個、または20個以上のヌクレオチドの断片が企図され、これらの断片は、ANO5活性を保持する。ポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズすることができるプローブは、本発明のNTHiポリヌクレオチド配列を同じ遺伝子ファミリー内の他のポリヌクレオチド配列と区別することができるか、またはNTHi遺伝子を他の細菌遺伝子と区別することができ、好ましくは、固有のヌクレオチド配列に基づく。
【0016】
「ストリンジェントな」という用語は、ストリンジェントとして当該技術分野において一般に理解される条件を指すために使用される。ハイブリダイゼーションストリンジェシーは、主に、温度、イオン強度、及びホルムアミド等の変性剤の濃度によって決定される。ハイブリダイゼーション及び洗浄のためのストリンジェントな条件の例は、0.015Mの塩化ナトリウム、65~68℃の0.0015Mのクエン酸ナトリウムまたは0.015Mの塩化ナトリウム、0.0015Mのクエン酸ナトリウム、及び42℃の50%ホルムアミドである。Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,(Cold Spring Harbor,N.Y.1989)を参照されたい。よりストリンジェントな条件(より高い温度、より低いイオン強度、より高いホルムアミド、または他の変性剤等)も使用され得るが、ハイブリダイゼーションの速度に影響が及ぼされるであろう。デオキシオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションが懸念される例では、追加の例示のストリンジェントなハイブリダイゼーション条件としては、37℃(14塩基オリゴ)、48℃(17塩基オリゴ)、55℃(20塩基オリゴ)、及び60℃(23塩基オリゴ)での6×SSC 0.05%ピロリン酸ナトリウム中での洗浄が挙げられる。
【0017】
非特異的及び/またはバックグラウンドハイブリダイゼーションを低減する目的のために、他の薬剤がハイブリダイゼーション及び洗浄緩衝液中に含まれ得る。例には、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%ポリビニル-ピロリドン、0.1%ピロリン酸ナトリウム、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム、NaDodSO4、(SDS)、フィコール、デンハルト溶液、超音波処理鮭精子DNA(または他の非相補的DNA)、及び硫酸デキストランがあるが、他の好適な薬剤を使用することもできる。これらの添加物の濃度及び種類は、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに実質的に影響を及ぼすことなく変化させることができる。ハイブリダイゼーション実験は、通常、6.8~7.4で行われるが、典型的なイオン強度条件では、ハイブリダイゼーションの速度は、pHとほぼ無関係である。Anderson et al.,Nucleic Acid Hybridisation:A Practical Approach,Ch.4,IRL Press Limited(Oxford,England)を参照されたい。ハイブリダイゼーション条件は、これらの可変物を適応し、かつ異なる配列関連性を有するDNAがハイブリッドを形成するのを可能にするために、当業者によって調整され得る。
【0018】
別の態様では、本発明の組換えAAVベクターは、筋肉特異的制御要素に作動可能に連結され得る。例えば、筋肉特異的制御要素は、ヒト骨格アクチン遺伝子要素、心臓アクチン遺伝子要素、筋細胞特異的エンハンサー結合因子MEF、マウスクレアチンキナーゼエンハンサー要素(MCK)、MCKの三重コピー(tMCK)、骨格速筋トロポニンC遺伝子要素、遅筋心臓トロポニンC遺伝子要素、遅筋トロポニンI遺伝子要素、低酸素誘導性核因子、ステロイド誘導性要素、またはグルココルチコイド応答要素(GRE)である。
【0019】
別の実施形態では、本発明は、本発明の任意の組換えAAVベクターでトランスフェクトされた細胞を培養することと、トランスフェクトされた細胞の上清から組換えAAV粒子を回収することとを含む、組換えAAVベクター粒子を産生する方法を提供する。本発明は、本発明の組換えAAVベクターのうちのいずれかを含むウイルス粒子も提供する。
【0020】
別の実施形態では、本発明は、本発明のいずれの組換えAAVベクターの治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、筋ジストロフィーを治療する方法を提供する。一態様では、必要としている対象は、ANO5遺伝子に劣性変異を有する。本方法は、ジスフェルリン関連筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー2L、三好型ミオパチー3、ベスレムミオパチー、カルパイノパチー、デスミンミオパチー、ジスフェルリノパチー、筋細線維ミオパチー、サルコグリカノパチー、またはZASP関連ミオパチーを治療することができる。加えて、筋ジストロフィーを治療するための前述の方法のうちのいずれかが、抗酸化剤組成物の治療有効量を、それを必要とする対象に投与するステップをさらに含む。例えば、抗酸化剤組成物は、補酵素Q10、リポ酸、ビタミン、カロテノイド、ビタミン補因子、鉱物、ポリフェノール、またはフラボノイドのうちの少なくとも1つを含む。具体的には、抗酸化剤組成物は、補酵素Q10、リポ酸、及びビタミンEを含む。
【0021】
さらなる実施形態では、本発明は、本発明のいずれの組換えAAVベクターの治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、必要としている対象における筋肉を再生する方法を提供する。一態様では、必要としている対象は、ANO5遺伝子に劣性変異を有する。別の態様では、必要としている対象は、ジスフェルリン関連筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー2L、三好型ミオパチー3、ベスレムミオパチー、カルパイノパチー、デスミンミオパチー、ジスフェルリノパチー、筋細線維ミオパチー、サルコグリカノパチー、またはZASP関連ミオパチー等の筋ジストロフィーに罹患している。加えて、筋肉を再生する前述の方法のうちのいずれかは、抗酸化剤組成物の治療有効量を、それを必要とする対象に投与するステップをさらに含む。例えば、抗酸化剤組成物は、補酵素Q10、リポ酸、ビタミン、カロテノイド、ビタミン補因子、鉱物、ポリフェノール、またはフラボノイドのうちの少なくとも1つを含む。具体的には、抗酸化剤組成物は、補酵素Q10、リポ酸、及びビタミンEを含む。
【0022】
別の実施形態では、本発明は、本発明の組換えAAVベクターのうちのいずれかの治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、慢性筋肉消耗を治療する方法を提供する。一態様では、必要としている対象は、ANO5遺伝子に劣性変異を有する。別の態様では、必要としている対象は、ジスフェルリン関連筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー2L、または三好型ミオパチー3、ベスレムミオパチー、カルパイノパチー、デスミンミオパチー、ジスフェルリノパチー、筋細線維ミオパチー、サルコグリカノパチー、またはZASP関連ミオパチー等の筋ジストロフィーに罹患している。加えて、慢性筋肉消耗を治療するための前述の方法のうちのいずれかは、抗酸化剤組成物の治療有効量を、それを必要とする対象に投与するステップをさらに含む。例えば、抗酸化剤組成物は、補酵素Q10、リポ酸、ビタミン、カロテノイド、ビタミン補因子、鉱物、ポリフェノール、またはフラボノイドのうちの少なくとも1つを含む。具体的には、抗酸化剤組成物は、補酵素Q10、リポ酸、及びビタミンEを含む。
【0023】
本発明は、必要としている対象における筋ジストロフィーまたは慢性筋肉消耗症候群の治療のための、本発明のいずれかの組換えAAVを含む組成物も提供する。本発明は、必要としている対象における筋肉の再生のための、本発明のいずれかの組換えAAVを含む組成物も提供する。一態様では、本発明の組成物は、ANO5遺伝子に劣性変異を有する対象に投与される。別の態様では、本発明の組成物は、ジスフェルリン関連筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー2L、三好型ミオパチー3、ベスレムミオパチー、カルパイノパチー、デスミンミオパチー、ジスフェルリノパチー、筋細線維ミオパチー、サルコグリカノパチー、またはZASP関連ミオパチー等の筋ジストロフィーに罹患している対象に投与される。本発明の組成物のうちのいずれかが、筋肉内または静脈内注入用に製剤化される。本発明の組成物のうちのいずれかが、抗酸化剤組成物の治療有効量をさらに含む。例えば、抗酸化剤組成物は、補酵素Q10、リポ酸、ビタミン、カロテノイド、ビタミン補因子、鉱物、ポリフェノール、またはフラボノイドのうちの少なくとも1つを含む。具体的には、抗酸化剤組成物は、補酵素Q10、リポ酸、及びビタミンEを含む。
【0024】
別の実施形態では、本発明は、筋ジストロフィーまたは慢性筋肉消耗症候群の治療を必要とする対象における筋ジストロフィーまたは慢性筋肉消耗症候群の治療用の薬剤の調製のための本発明のいずれかの組換えAAVベクターの使用を提供する。加えて、本発明は、筋肉の再生を必要とする対象における筋肉の再生用の薬剤の調製のための本発明の組換えAAVベクターのうちのいずれかの使用を提供する。一態様では、薬剤は、ANO5遺伝子に劣性変異を有する対象に投与される。別の態様では、本発明の薬剤は、ジスフェルリン関連筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー2L、三好型ミオパチー3、ベスレムミオパチー、カルパイノパチー、デスミンミオパチー、ジスフェルリノパチー、筋細線維ミオパチー、サルコグリカノパチー、またはZASP関連ミオパチー等の筋ジストロフィーに罹患している対象に投与される。本発明の薬剤のうちのいずれかが、筋肉内または静脈内注入用に製剤化される。本発明の薬剤のうちのいずれかが、抗酸化剤組成物の治療有効量をさらに含む。例えば、抗酸化剤組成物は、補酵素Q10、リポ酸、ビタミン、カロテノイド、ビタミン補因子、鉱物、ポリフェノール、またはフラボノイドのうちの少なくとも1つを含む。具体的には、抗酸化剤組成物は、補酵素Q10、リポ酸、及びビタミンEを含む。
【0025】
別の実施形態では、本発明は、抗酸化剤組成物の治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、筋ジストロフィーまたは慢性筋肉消耗を治療する方法を提供する。抗酸化剤組成物は、補酵素Q10、リポ酸、ビタミン、カロテノイド、ビタミン補因子、鉱物、ポリフェノール、またはフラボノイドのうちの少なくとも1つを含む。いくつかの態様では、抗酸化剤組成物は、補酵素Q10、リポ酸、及びビタミンEを含む。一態様では、必要としている対象は、ANO5遺伝子に劣性変異を有する。別の態様では、酸化ストレスは、対象の骨格筋において低減される。別の態様では、対象の骨格筋機能が改善される。別の態様では、対象は、ジスフェルリン関連筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー2L、三好型ミオパチー3、ベスレムミオパチー、カルパイノパチー、デスミンミオパチー、ジスフェルリノパチー、筋細線維ミオパチー、サルコグリカノパチー、またはZASP関連ミオパチーに罹患している。
【0026】
本発明は、抗酸化剤組成物の治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、筋ジストロフィーまたは慢性筋肉消耗の進行を遅延させるための方法も提供する。抗酸化剤組成物は、補酵素Q10、リポ酸、ビタミン、カロテノイド、ビタミン補因子、鉱物、ポリフェノール、またはフラボノイドのうちの少なくとも1つを含む。いくつかの態様では、抗酸化剤組成物は、補酵素Q10、リポ酸、及びビタミンEを含む。一態様では、必要としている対象は、ANO5遺伝子に劣性変異を有する。別の態様では、酸化ストレスは、対象の骨格筋において低減される。別の態様では、対象の骨格筋機能が改善される。別の態様では、対象は、ジスフェルリン関連筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー2L、三好型ミオパチー3、ベスレムミオパチー、カルパイノパチー、デスミンミオパチー、ジスフェルリノパチー、筋細線維ミオパチー、サルコグリカノパチー、またはZASP関連ミオパチーに罹患している。
【0027】
本発明の方法のうちのいずれかでは、抗酸化剤組成物は、経口投与される。本発明の方法のうちのいずれかでは、抗酸化剤は、同じ組成物中で投与されるか、または抗酸化剤は、別個の組成物中で投与される。抗酸化剤が同時ではなく別個に投与される場合。加えて、本発明の方法のうちのいずれかでは、抗酸化剤は、別個の時点で、または連続して投与される。本発明の方法のうちのいずれかでは、抗酸化剤組成物は、1日1回、1週間に1回、1週間に2回、2週間に1回、3週間に1回、1ヶ月に1回、または2ヶ月に1回投与される。
【0028】
本発明は、抗酸化剤組成物の治療有効量を含む組成物も提供する。抗酸化剤組成物は、必要としている対象における筋ジストロフィーまたは慢性筋肉消耗症候群を治療するために、補酵素Q10、リポ酸、ビタミン、カロテノイド、ビタミン補因子、鉱物、ポリフェノール、またはフラボノイドのうちの少なくとも1つを含む。
【0029】
本発明は、治療有効量、抗酸化剤組成物の治療有効量を含む組成物も提供する。抗酸化剤組成物は、必要としている対象における筋ジストロフィーまたは慢性筋肉消耗の進行を遅延させるために、補酵素Q10、リポ酸、ビタミン、カロテノイド、ビタミン補因子、鉱物、ポリフェノール、またはフラボノイドのうちの少なくとも1つを含む。いくつかの態様では、抗酸化剤組成物は、補酵素Q10、リポ酸、及びビタミンEを含む。
【0030】
一態様では、本発明の組成物のいずれかが、ANO5遺伝子に劣性変異を有する対象に投与される。別の態様では、酸化ストレスは、組成物の投与後に対象の骨格筋において低減される。別の態様では、対象の骨格筋機能は、組成物の投与後に改善される。別の態様では、本発明の組成物のうちのいずれかが、ジスフェルリン関連筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー2L、三好型ミオパチー3、ベスレムミオパチー、カルパイノパチー、デスミンミオパチー、ジスフェルリノパチー、筋細線維ミオパチー、サルコグリカノパチー、またはZASP関連ミオパチー等の筋ジストロフィーに罹患している対象に投与される。本発明の組成物のうちのいずれかが、筋肉内または静脈内注入用に製剤化される。
【0031】
別の実施形態では、本発明は、筋ジストロフィーまたは慢性筋肉消耗症候群の治療を必要とする対象における筋ジストロフィーまたは慢性筋肉消耗症候群の治療用の薬剤の調製のための抗酸化剤組成物の使用を提供する。本発明の薬剤のうちのいずれかにおける抗酸化剤組成物は、補酵素Q10、リポ酸、ビタミン、カロテノイド、ビタミン補因子、鉱物、ポリフェノール、またはフラボノイドのうちの少なくとも1つを含む。
【0032】
加えて、本発明は、筋肉の再生を必要とする対象における筋肉の再生用の薬剤の調製のための抗酸化剤組成物の使用を提供する。本発明の薬剤のうちのいずれかにおける抗酸化剤組成物は、補酵素Q10、リポ酸、ビタミン、カロテノイド、ビタミン補因子、鉱物、ポリフェノール、またはフラボノイドのうちの少なくとも1つを含む。いくつかの態様では、抗酸化剤組成物は、補酵素Q10、リポ酸、及びビタミンEを含む。
【0033】
加えて、本発明は、筋ジストロフィーまたは筋肉消耗症候群の進行の遅延を必要とする対象における筋ジストロフィーまたは筋肉消耗症候群の進行の遅延用の薬剤の調製のための抗酸化剤組成物の使用を提供する。本発明の薬剤のうちのいずれかにおける抗酸化剤組成物は、補酵素Q10、リポ酸、ビタミン、カロテノイド、ビタミン補因子、鉱物、ポリフェノール、またはフラボノイドのうちの少なくとも1つを含む。いくつかの態様では、抗酸化剤組成物は、補酵素Q10、リポ酸、及びビタミンEを含む。
【0034】
本発明の薬剤のうちのいずれかが、ANO5遺伝子に劣性変異を有する対象に投与される。別の態様では、酸化ストレスは、対象の骨格筋において低減される。別の態様では、対象の骨格筋機能が改善される。別の態様では、本発明の薬剤のうちのいずれかが、ジスフェルリン関連筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー2L、三好型ミオパチー3、ベスレムミオパチー、カルパイノパチー、デスミンミオパチー、ジスフェルリノパチー、筋細線維ミオパチー、サルコグリカノパチー、またはZASP関連ミオパチー等の筋ジストロフィーに罹患している対象に投与される。加えて、本発明の薬剤のいずれかが、筋肉内または静脈内注入用に製剤化される。
【0035】
いくつかの実施形態では、抗酸化剤組成物は、経口投与される。いくつかの態様では、抗酸化剤は、同じ組成物中にある。他の態様では、抗酸化剤は、別個の組成物中にある。いくつかの態様では、抗酸化剤組成物の抗酸化剤は、同時に投与される。いくつかの態様では、抗酸化剤組成物の抗酸化剤は、別個の時点で、または連続して投与される。いくつかの実施形態では、抗酸化剤組成物は、1日1回、1週間に1回、1週間に2回、2週間に1回、3週間に1回、1ヶ月に1回、または2ヶ月に1回投与される。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
筋ジストロフィーを治療する方法であって、1)配列番号1の核酸配列と少なくとも85%同一の核酸配列、2)ストリンジェントな条件下で配列番号1のヌクレオチド配列にハイブリダイズするヌクレオチド、または3)ANO5活性を呈するタンパク質をコードする配列番号1の核酸の断片を含む組換えAAVベクターの治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、方法。
(項目2)
必要としている対象における筋肉を再生する方法であって、1)配列番号1の核酸配列と少なくとも85%同一の核酸配列、2)ストリンジェントな条件下で配列番号1のヌクレオチド配列にハイブリダイズするヌクレオチド、または3)ANO5活性を呈するタンパク質をコードする配列番号1の核酸の断片を含む組換えAAVベクターを、筋肉を再生するのに有効な量で前記対象に投与することを含む、方法。
(項目3)
慢性筋肉消耗を治療する方法であって、1)配列番号1と少なくとも85%同一の核酸配列、2)ストリンジェントな条件下で配列番号1のヌクレオチド配列にハイブリダイズするヌクレオチド、または3)ANO5活性を呈するタンパク質をコードする配列番号1の核酸の断片を含む組換えAAVベクターの治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、方法。
(項目4)
前記組換えAAVが、配列番号1のポリヌクレオチド配列を含む、項目1~3のいずれか一項に記載の方法。
(項目5)
前記組換えAAVベクターが、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、またはAAV rh.74である、項目1~4のいずれか一項に記載の方法。
(項目6)
前記組換えAAVベクターが、筋肉特異的制御要素に作動可能に連結されたポリヌクレオチドを含む、項目1~5のいずれか一項に記載の方法。
(項目7)
前記筋肉特異的制御要素が、ヒト骨格アクチン遺伝子要素、心臓アクチン遺伝子要素、筋細胞特異的エンハンサー結合因子MEF、マウスクレアチンキナーゼエンハンサー要素、骨格速筋トロポニンC遺伝子要素、遅筋心臓トロポニンC遺伝子要素、遅筋トロポニンI遺伝子要素、低酸素誘導性核因子、ステロイド誘導性要素、またはグルココルチコイド応答要素(GRE)である、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記対象が、筋ジストロフィーに罹患している、項目2~7のいずれか一項に記載の方法。
(項目9)
前記筋ジストロフィーが、ジスフェルリン関連筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー2L、または三好型ミオパチー3、ベスレムミオパチー、カルパイノパチー、デスミンミオパチー、ジスフェルリノパチー、筋細線維ミオパチー、サルコグリカノパチー、またはZASP関連ミオパチーである、項目1~8のいずれか一項に記載の方法。
(項目10)
前記対象が、ANO5遺伝子に劣性変異を有する、項目1~9のいずれか一項に記載の方法。
(項目11)
前記組換えAAVベクターが、筋肉内または静脈内注射により投与される、項目1~10のいずれか一項に記載の方法。
(項目12)
抗酸化剤組成物の治療有効量を、それを必要とする対象に投与するステップをさらに含む、項目1~11のいずれか一項に記載の方法。
(項目13)
前記抗酸化剤組成物が、補酵素Q10、リポ酸、ビタミン、カロテノイド、ビタミン補因子、鉱物、ポリフェノール、またはフラボノイドのうちの少なくとも1つを含む、項目12に記載の方法。
(項目14)
前記抗酸化剤組成物が、補酵素Q10、リポ酸、及びビタミンEを含む、項目12または13に記載の方法。
(項目15)
筋ジストロフィーを治療する方法であって、抗酸化剤組成物の治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、方法。
(項目16)
慢性筋肉消耗を治療する方法であって、抗酸化剤組成物の治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、方法。
(項目17)
筋ジストロフィーの進行を遅延させる方法であって、抗酸化剤組成物の治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、方法。
(項目18)
慢性筋肉消耗の進行を遅延させる方法であって、抗酸化剤組成物の治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、方法。
(項目19)
前記抗酸化剤組成物が、補酵素Q10、リポ酸、ビタミン、カロテノイド、ビタミン補因子、鉱物、ポリフェノール、またはフラボノイドのうちの少なくとも1つを含む、項目15~18のいずれか一項に記載の方法。
(項目20)
前記抗酸化剤組成物が、補酵素Q10、リポ酸、及びビタミンEを含む、項目15~19のいずれか一項に記載の方法。
(項目21)
筋ジストロフィーが、ジスフェルリン関連筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー2L、または三好型ミオパチー3、ベスレムミオパチー、カルパイノパチー、デスミンミオパチー、ジスフェルリノパチー、筋細線維ミオパチー、サルコグリカノパチー、またはZASP関連ミオパチーである、項目15~20のいずれか一項に記載の方法。
(項目22)
酸化ストレスが、前記対象の骨格筋において低減される、項目15~21のいずれか一項に記載の方法。
(項目23)
前記対象の骨格筋機能が改善される、項目15~21のいずれか一項に記載の方法。
(項目24)
前記対象が、ANO5遺伝子に劣性変異を有する、項目15~21のいずれか一項に記載の方法。
(項目25)
前記抗酸化剤組成物が経口投与される、項目12~25のいずれか一項に記載の方法。
(項目26)
前記抗酸化剤が、同じ組成物中にある、項目12~25のいずれか一項に記載の方法。
(項目27)
前記抗酸化剤が、別個の組成物中にある、項目12~25のいずれか一項に記載の方法。
(項目28)
前記抗酸化剤組成物の前記抗酸化剤が同時に投与される、項目12~25のいずれか一項に記載の方法。
(項目29)
前記抗酸化剤組成物の前記抗酸化剤が、別個の時点で、または連続して投与される、項目12~25のいずれか一項に記載の方法。
(項目30)
前記抗酸化剤組成物が、1日1回、1週間に1回、1週間に2回、2週間に1回、3週間に1回、1ヶ月に1回、または2ヶ月に1回投与される、項目12~29のいずれか一項に記載の方法。
(項目31)
必要としている対象における筋ジストロフィーの治療のための、組換えAAVベクターの治療有効量を含む組成物であって、前記組換えAAVベクターが、1)配列番号1の核酸配列と少なくとも85%同一の核酸配列、2)ストリンジェントな条件下で配列番号1のヌクレオチド配列にハイブリダイズするヌクレオチド、または3)ANO5活性を呈するタンパク質をコードする配列番号1の核酸の断片を含む、組成物。
(項目32)
必要としている対象における筋肉の再生のための、組換えAAVベクターを含む組成物であって、前記組換えAAVベクターが、1)配列番号1と少なくとも85%同一の核酸配列、2)ストリンジェントな条件下で配列番号1のヌクレオチド配列にハイブリダイズするヌクレオチド、または3)ANO5活性をそれを必要とする対象に呈するタンパク質をコードする配列番号1の核酸の断片を含む、組成物。
(項目33)
必要としている対象における慢性筋肉消耗の治療のための、組換えAAVベクターの治療有効量を含む組成物であって、前記組換えAAVベクターが、1)配列番号1の核酸配列と少なくとも85%同一の核酸配列、2)ストリンジェントな条件下で配列番号1のヌクレオチド配列にハイブリダイズするヌクレオチド、または3)ANO5活性を呈するタンパク質をコードする配列番号1の核酸の断片を含む、組成物。
(項目34)
前記組換えAAVが、配列番号1のポリヌクレオチド配列を含む、項目31~33のいずれか一項に記載の組成物。
(項目35)
前記組換えAAVベクターが、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、またはAAV rh.74である、項目31~34のいずれか一項に記載の組成物。
(項目36)
前記組換えAAVベクターが、筋肉特異的制御要素に作動可能に連結されたポリヌクレオチドを含む、項目31~35のいずれか一項に記載の組成物。
(項目37)
前記筋肉特異的制御要素が、ヒト骨格アクチン遺伝子要素、心臓アクチン遺伝子要素、筋細胞特異的エンハンサー結合因子MEF、マウスクレアチンキナーゼエンハンサー要素、骨格速筋トロポニンC遺伝子要素、遅筋心臓トロポニンC遺伝子要素、遅筋トロポニンI遺伝子要素、低酸素誘導性核因子、ステロイド誘導性要素、またはグルココルチコイド応答要素(GRE)である、項目36に記載の組成物。
(項目38)
前記対象が、筋ジストロフィーに罹患している、項目31~37のいずれか一項に記載の組成物。
(項目39)
前記筋ジストロフィーが、ジスフェルリン関連筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー2L、または三好型ミオパチー3、ベスレムミオパチー、カルパイノパチー、デスミンミオパチー、ジスフェルリノパチー、筋細線維ミオパチー、サルコグリカノパチー、またはZASP関連ミオパチーである、項目31~39のいずれか一項に記載の組成物。
(項目40)
前記対象が、ANO5遺伝子に劣性変異を有する、項目31~39のいずれか一項に記載の組成物。
(項目41)
筋肉内または静脈内注射用に製剤化される、項目31~40のいずれか一項に記載の組成物。
(項目42)
抗酸化剤組成物の治療有効量をさらに含む、項目31~41のいずれか一項に記載の組成物。
(項目43)
前記抗酸化剤組成物が、補酵素Q10、リポ酸、ビタミン、カロテノイド、ビタミン補因子、鉱物、ポリフェノール、またはフラボノイドのうちの少なくとも1つを含む、項目42に記載の組成物。
(項目44)
前記抗酸化剤組成物が、補酵素Q10、リポ酸、及びビタミンEを含む、項目42または43に記載の組成物。
(項目45)
必要としている対象における筋ジストロフィーの治療のための、抗酸化剤組成物の治療有効量を含む組成物。
(項目46)
必要としている対象における慢性筋肉消耗の治療のための、抗酸化剤組成物の治療有効量を含む組成物。
(項目47)
必要としている対象における筋ジストロフィーの進行の遅延のための、抗酸化剤組成物の治療有効量を含む組成物。
(項目48)
必要としている対象における慢性筋肉消耗の進行の遅延のための、抗酸化剤組成物の治療有効量を含む組成物。
(項目49)
前記抗酸化剤組成物が、補酵素Q10、リポ酸、ビタミン、カロテノイド、ビタミン補因子、鉱物、ポリフェノール、またはフラボノイドのうちの少なくとも1つを含む、項目45~48のいずれか一項に記載の組成物。
(項目50)
前記抗酸化剤組成物が、補酵素Q10、リポ酸、及びビタミンEを含む、項目45~49のいずれか一項に記載の組成物。
(項目51)
筋ジストロフィーが、ジスフェルリン関連筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー2L、または三好型ミオパチー3、ベスレムミオパチー、カルパイノパチー、デスミンミオパチー、ジスフェルリノパチー、筋細線維ミオパチー、サルコグリカノパチー、またはZASP関連ミオパチーである、項目45~50のいずれか一項に記載の組成物。
(項目52)
酸化ストレスが、前記対象の骨格筋において低減される、項目45~51のいずれか一項に記載の組成物。
(項目53)
前記対象の骨格筋機能が改善される、項目45~51のいずれか一項に記載の組成物。
(項目54)
前記対象が、ANO5遺伝子に劣性変異を有する、項目45~51のいずれか一項に
記載の組成物。
(項目55)
経口投与用に製剤化される、項目42~54のいずれか一項に記載の組成物。
(項目56)
前記薬剤が、同じ組成物中にある、項目42~55のいずれか一項に記載の組成物。
(項目57)
前記薬剤が、別個の組成物中にある、項目42~55のいずれか一項に記載の組成物。
(項目58)
前記抗酸化剤組成物の前記抗酸化剤が同時に投与される、項目42~55のいずれか一項に記載の組成物。
(項目59)
前記抗酸化剤組成物の前記抗酸化剤が、別個の時点で、または連続して投与される、項目42~55のいずれか一項に記載の組成物。
(項目60)
前記抗酸化剤組成物が、1日1回、1週間に1回、1週間に2回、2週間に1回、3週間に1回、1ヶ月に1回、または2ヶ月に1回投与される、項目45~59のいずれか一項に記載の組成物。
(項目61)
筋ジストロフィーの治療を必要とする対象における筋ジストロフィーの治療用の薬剤の調製のための組換えAAVベクターの使用であって、前記組換えAAVベクターが、1)配列番号1の核酸配列と少なくとも85%同一の核酸配列、2)ストリンジェントな条件下で配列番号1のヌクレオチド配列にハイブリダイズするヌクレオチド、または3)ANO5活性を呈するタンパク質をコードする配列番号1の核酸の断片を含む、使用。
(項目62)
筋肉の再生を必要とする対象における筋肉の再生用の薬剤の調製のための組換えAAVベクターの使用であって、前記組換えAAVベクターが、1)配列番号1の核酸配列と少なくとも85%同一の核酸配列、2)ストリンジェントな条件下で配列番号1のヌクレオチド配列にハイブリダイズするヌクレオチド、または3)ANO5活性を呈するタンパク質をコードする配列番号1の核酸の断片を含む、使用。
(項目63)
慢性筋肉消耗症候群の治療用の薬剤の調製のための組換えAAVベクターの使用であって、前記組換えAAVベクターが、1)配列番号1の核酸配列と少なくとも85%同一の核酸配列、2)ストリンジェントな条件下で配列番号1のヌクレオチド配列にハイブリダイズするヌクレオチド、または3)ANO5活性を呈するタンパク質をコードする配列番号1の核酸の断片を含む、使用。
(項目64)
前記組換えAAVが、配列番号1のポリヌクレオチド配列を含む、項目61~63のいずれか一項に記載の使用。
(項目65)
前記組換えAAVベクターが、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、またはAAV rh.74である、項目61~63のいずれか一項に記載の使用。
(項目66)
前記組換えAAVベクターが、筋肉特異的制御要素に作動可能に連結されたポリヌクレオチドを含む、項目61~65のいずれか一項に記載の使用。
(項目67)
前記筋肉特異的制御要素が、ヒト骨格アクチン遺伝子要素、心臓アクチン遺伝子要素、筋細胞特異的エンハンサー結合因子MEF、マウスクレアチンキナーゼエンハンサー要素、骨格速筋トロポニンC遺伝子要素、遅筋心臓トロポニンC遺伝子要素、遅筋トロポニンI遺伝子要素、低酸素誘導性核因子、ステロイド誘導性要素、またはグルココルチコイド応答要素(GRE)である、項目66に記載の使用。
(項目68)
前記対象が、筋ジストロフィーに罹患している、項目61~67に記載の使用。
(項目69)
前記対象が、ジスフェルリン関連筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー2L、または三好型ミオパチー3、ベスレムミオパチー、カルパイノパチー、デスミンミオパチー、ジスフェルリノパチー、筋細線維ミオパチー、サルコグリカノパチー、またはZASP関連ミオパチーに罹患している、項目61~68のいずれか一項に記載の使用。
(項目70)
前記対象が、ANO5遺伝子に劣性変異を有する、項目61~69のいずれか一項に記載の使用。
(項目71)
前記薬剤が、筋肉内または静脈内注射用に製剤化される、項目61~70のいずれか一項に記載の使用。
(項目72)
抗酸化剤組成物の治療有効量を必要とする対象に対する、抗酸化剤組成物の治療有効量をさらに含む、項目61~71のいずれか一項に記載の使用。
(項目73)
前記抗酸化剤組成物が、補酵素Q10、リポ酸、ビタミン、カロテノイド、ビタミン補因子、鉱物、ポリフェノール、またはフラボノイドのうちの少なくとも1つを含む、項目72に記載の使用。
(項目74)
前記抗酸化剤組成物が、補酵素Q10、リポ酸、及びビタミンEを含む、項目72または73に記載の使用。
(項目75)
必要としている対象における筋ジストロフィーの治療用の薬剤の調製のための、抗酸化剤組成物の治療有効量の使用。
(項目76)
慢性筋肉消耗症候群の治療用の薬剤の調製のための、抗酸化剤組成物の治療有効量の使用。
(項目77)
必要としている対象における筋ジストロフィーの進行の遅延用の薬剤の調製のための、抗酸化剤組成物の治療有効量の使用。
(項目78)
必要としている対象における慢性筋肉消耗症候群の進行の遅延用の薬剤の調製のための、抗酸化剤組成物の治療有効量の使用。
(項目79)
前記抗酸化剤組成物が、補酵素Q10、リポ酸、ビタミン、カロテノイド、ビタミン補因子、鉱物、ポリフェノール、またはフラボノイドのうちの少なくとも1つを含む、項目75~78のいずれか一項に記載の使用。
(項目80)
前記抗酸化剤組成物が、補酵素Q10、リポ酸、及びビタミンEを含む、項目75~79のいずれか一項に記載の方法。
(項目81)
前記対象が、ジスフェルリン関連筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー2L、または三好型ミオパチー3、ベスレムミオパチー、カルパイノパチー、デスミンミオパチー、ジスフェルリノパチー、筋細線維ミオパチー、サルコグリカノパチー、またはZASP関連ミオパチーに罹患している、項目75~80のいずれか一項に記載の使用。
(項目82)
酸化ストレスが、前記対象の骨格筋において低減される、項目75~81のいずれか一項に記載の使用。
(項目83)
前記対象の骨格筋機能が改善される、項目75~81のいずれか一項に記載の使用。
(項目84)
前記対象が、ANO5遺伝子に劣性変異を有する、項目75~81のいずれか一項に記載の使用。
(項目85)
前記薬剤が、経口投与用に製剤化される、項目55~84のいずれか一項に記載の使用。
(項目86)
1)配列番号1の核酸配列と少なくとも85%同一の核酸配列、2)ストリンジェントな条件下で配列番号1のヌクレオチド配列にハイブリダイズするヌクレオチド、または3)ANO5活性を呈するタンパク質をコードする配列番号1の核酸の断片を含む組換えAAVベクターの治療有効量を、それを必要とする対象に、抗酸化剤組成物の治療有効量と組み合わせて投与することをさらに含む、項目15~30のいずれか一項に記載の方法。
(項目87)
前記抗酸化剤組成物が、補酵素Q10、リポ酸、ビタミン、カロテノイド、ビタミン補因子、鉱物、ポリフェノール、またはフラボノイドのうちの少なくとも1つを含む、項目86に記載の方法。
(項目88)
前記抗酸化剤組成物が、補酵素Q10、リポ酸、及びビタミンEを含む、項目86または87に記載の方法。
(項目89)
前記組換えAAVベクターが、配列番号1のポリヌクレオチド配列を含む、項目86~88のいずれか一項に記載の方法。
(項目90)
前記組換えAAVベクターが、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、またはAAV rh.74である、項目86~89のいずれか一項に記載の方法。
(項目91)
前記組換えAAVベクターが、筋肉内または静脈内注射により投与される、項目86~89のいずれか一項に記載の方法。
(項目92)
前記抗酸化剤組成物が経口投与される、項目86~91のいずれか一項に記載の方法。
(項目93)
前記組換えAAVベクター及び前記抗酸化剤組成物が、同じ組成物中にある、項目86~91のいずれか一項に記載の方法。
(項目94)
前記組換えAAVベクター及び前記抗酸化剤組成物が、別個の組成物中にある、項目86~92のいずれか一項に記載の方法。
(項目95)
前記組換えAAVベクター及び前記抗酸化剤組成物が同時に投与される、項目86~92のいずれか一項に記載の方法。
(項目96)
前記組換えAAVベクター及び前記抗酸化剤組成物が、別個の時点で、または連続して投与される、項目86~92のいずれか一項に記載の方法。
(項目97)
前記組換えAAVベクター及び前記抗酸化剤組成物が、1日1回、1週間に1回、1週間に2回、2週間に1回、3週間に1回、1ヶ月に1回、または2ヶ月に1回投与される、項目86~96のいずれか一項に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1A~1Dは、Ano5-/-マウスモデルの生成を例証する。パネル(a)は、ポリアデニル化終結シグナルを有する外因性イントロン及びlacZコードエクソンを含むAno5標的ベクターを示す。結果として得られたmRNAは、エクソン8で終結する。パネル(b)は、同腹子の尾部クリッピングから単離されたゲノムDNAを示す。レーン1は、野生型(WT)マウスであり、レーン2は、Ano5+/-マウスであり、レーン3は、Ano5-/-マウスであり、WT対立遺伝子は、300bpの断片であり、Ano5対立遺伝子は、200bpの断片である。パネル(c)は、Ano5を標的とする2つのプライマーセットを使用したAno5-/-筋肉組織におけるAno5転写物の証拠を示さないRT-PCR由来の産物を示す。レーン1:GAPDH対照、レーン2:エクソン10~14に及ぶe10~14プライマー、レーン3:エクソン17~20に及ぶe17~20プライマー。パネル(d)は、RNAレベルでのANO5の99%超の相対発現低減が、Ano5-/-マウス(P<0.001)から抽出した大腿四頭(QD)筋、腓腹(GAS)筋、及び前脛骨(TA)筋におけるqRT-PCRにより確認されたことを示す。
図2図2A~2Fは、Ano5-/-欠損マウスの特徴付けを例証する。パネル(a)は、血清中クレアチンキナーゼが9ヶ月齢のAno5-/-マウス(P<0.05、t検定)において著しく上昇することを示す。パネル(b)は、9ヶ月齢のAno5-/-マウス由来の横隔膜条片の比収縮力が対照(P<0.01、t検定)と比較して著しく低減したことを示す。パネル(c)は、9ヶ月齢のAno5-/-マウス由来のEDL筋及び前脛骨(TA)筋の比収縮力が対照(P>0.05、t検定)とは著しく異ならなかったことを示す。パネル(d)は、WT対照と比較した、Ano5-/-マウスのTA及びGASにおける中心核、線維サイズ変動性、及び壊死面積を含む、軽度のジストロフィー病理を示すヘマトキシリン及びエオシン染色組織切片を示す。尺度バー=50μm。パネル(e)は、特にGAS筋(P<0.0001、t検定)におけるWTと比較して線維径サイズの低減を示す筋線維径測定結果を提供する。パネル(f)は、Ano5-/-マウスがトレッドミル疲労研究を行ったときに頻繁な休止を示したことを示す。
図3図3A~3Eは、Ano5-/-マウスの生理学的特徴付けを提供する。パネル(a):乳酸レベルは、トレッドミル走行後にWT対照と比較してAno5-/-マウスにおいてわずかに低減した(P=0.15)。パネル(b):筋肉の電気生理学的特性。電気生理学的振幅は、Ano5-/-(45.1±2.2mV)とWT(40.8±2.4mV)(p=0.22)との間に有意差はなかった。Ano5-/-動物もWT動物も、線維自発電位を示さなかった。パネル(c~e):50kHzでの筋肉のインピーダンス特性(それぞれ、位相、リアクタンス、抵抗)。Ano5-/-(31.0±2.7、248.1±37.8Ω、411.4±34.6Ω)とWT線維(31.7±3.9、269.0±83.9Ω、424.3±73.9Ω)との間に差はなかった(位相:p=0.59、リアクタンス:p=0.44、抵抗:p=0.59)。100kHzで、Ano5-/-(36.5±2.4、216.2±27.3Ω、290.7±22.0Ω)とWT線維(37.0±4.8、228.4±63.9Ω、295.8±36.1Ω)との間に差は観察されなかった(位相:p=0.77、リアクタンス:p=0.55、抵抗:p=0.68)。
図4図4A~4Gは、Ano5-/-筋肉における細胞内組織病理学を提供する。パネル(a)は、10ヶ月齢のAno5-/-TA筋及びWT TA筋のゴモリトリクローム染色を提供する。Ano5-/-筋肉は、膜凝集体(矢印)を含む。尺度バー=20μm。パネル(b)は、WT(p<0.0001、一元配置分散分析)と比較したAno5-/-のTA筋及びGAS筋中に凝集体を含む線維の数の定量化を提供する。パネル(c、d)は、Ano5-/-筋肉中の膜凝集体の存在を示す電子顕微鏡像を提供する。凝集体は、けば状の内部小管を有する緩く密集した相互接続管形成(白色の矢印)であるか、小胞膜もしくは管膜の密に密集した蓄積(黒色の矢印)であった。尺度バー=500nm。パネル(e)は、ミトコンドリア(矢印)及び変性ミトコンドリア(星印)の筋鞘下蓄積がAno5-/-筋肉において電子顕微鏡法により頻繁に特定されたことを示す。尺度バー=500nm(左)及び2μm(右)。パネル(f)は、WTには存在しなかった筋鞘肥厚及び被膜線維を示した10ヶ月齢のAno5-/-TA筋のコハク酸デヒドロゲナーゼ染色を提供する。尺度バー=10μm。パネル(g)は、コハク酸デヒドロゲナーゼ(SDH)染色した10ヶ月齢のAno5-/-マウスのTA筋の凍結切片を提供する。矢印は、SDH(左)を染色しない凝集体を示す。10ヶ月齢のAno5-/-マウス由来の連続切片は、トリクローム染色で観察された多くの膜凝集体(白色の矢印)がSERCA1(右)に対して陽性であることを示し、それらが筋小胞体に由来することを示唆する。尺度バー=40μm。
図5図5A~5Eは、Ano5-/-マウスにおける膜修復が欠損していることを示す。パネル(a)は、損傷5秒後及び190秒後に示されたレーザーパルスによって損傷を受けたAno5-/-筋線維及びWT筋線維の画像を提供する。赤色の矢印は、FM1-43色素がWTと比較してAno5-/-筋肉中に素早く蓄積する損傷部位を示す。尺度バー=50μm。パネル(b)は、蛍光強度のレーザー誘起損傷後の蛍光強度の測定結果を提供する。Ano5-/-筋肉は、損傷100秒超後常に、WT及びAAV.ANO5線維とは統計的に異なる(二元配置分散分析、P<0.001)。パネル(c)は、5×1010vg AAV.ANO5.FLAGベクターを注入したAno5-/-筋肉におけるANO5-FLAGの発現を示す。抗FLAG抗体を用いた免疫蛍光法は、処置された筋肉(上)における細胞表面で、処置されたAno5-/-筋肉(下)には不在であったANO5-FLAG発現を示した。尺度バー=40μm。パネル(d)は、心臓毒誘導筋肉損傷からの回復を示す。心臓毒注入1、3、7、14、30、及び90日後に、WT及びAno5-/-TA筋の組織切片をヘマトキシリン及びエオシン染色した(3日目、7日目、14日目、及び30日目を示す)。Ano5-/-筋肉は、WTと比較してより損傷を受けており、再生の障害を示した。パネル(e)は、Ano5-/-筋肉の筋線維サイズが、心臓毒注入後30日目(心臓毒D30)及び90日目(心臓毒D90)のWTと比較して統計的により小さいままである(P<0.05、t検定)。
図6図6は、抗酸化剤またはプラセボ食餌で処置したAno5-/-マウスの自発的活動を示す。このグラフは、抗酸化剤食餌またはプラセボ対照を12週間及び16週間受けたAno5-/-マウスの自発的活動(45分間以内にマウスが水平及び/または垂直レーザー光線を遮断した回数)を示す。三重抗酸化剤療法で処置したAno5-/-マウスは、16週時点でプラセボ処置と比較して著しく増加した活動を有する。
図7図7は、三重抗酸化剤療法またはプラセボ食餌のいずれかを与えたAno5-/-マウス及びプラセボ食餌を与えたWT対照マウスの横隔膜への比力の測定結果を示す。三重抗酸化剤療法で処置したAno5-/-マウスは、16週時点でプラセボ処置と比較して著しく増加した横隔膜比力を呈した。
図8図8A~8Bは、三重抗酸化剤処置のミトコンドリア新生及び機能への影響を示す。雄腓腹筋組織を使用して、三重抗酸化剤を与えたマウスにおけるミトコンドリア新生マーカー、ミトコンドリア新生PGC-1a発現、及びクエン酸シンターゼ活性を測定した。パネル(a)は、三重抗酸化剤療法またはプラセボ食餌のいずれかを与えたマウスのPGC-1a発現を示す。パネル(b)は、三重抗酸化剤療法またはプラセボ食餌のいずれかを与えた雄及び雌Ano5-/-マウス及びWTマウスのクエン酸シンターゼ(CS)活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
ANO5は、筋肉修復に極めて重要な役割を果たし、本発明は、MDの治療のためのANO5遺伝子を含むAAVベクターを提供する。ANO5の破壊は、マウスモデルにおけるジスフェルリン発現の損失を密に表現型模写し、ジスフェルリン変異により、ANO5ミオパチーに類似したMD(肢帯型筋ジストロフィー2B(LGMD2B)及び三好型ミオパチージストロフィー1(MMD1)対肢帯型筋ジストロフィー2L(LGMD2L)及び三好型ミオパチージストロフィー3(MMD3))が引き起こされる。
【0038】
Ano5-/-マウスは、ANO5-ミオパチー、筋鞘修復、及び筋原細胞融合の研究用の重要なモデルを表す。以下の実施例に提供される実験的証拠は、Ano5-/-マウスのAAV.ANO5-FLAG処置により膜修復表現型を部分的に救助することによるANO5-ミオパチーの治療戦略としての遺伝子置換療法のための方法を支持する。
AAV
【0039】
本明細書で使用される場合、「AAV」という用語は、アデノ随伴ウイルスの一般的な略語である。アデノ随伴ウイルスは、ある特定の機能が同時感染ヘルパーウイルスによって提供される細胞内でのみ成長する一本鎖DNAパルボウイルスである。現在、以下の表1に示されるように、特徴付けられているAAVの血清型が13存在する。AAVの一般的な情報及び概説は、例えば、Carter,1989,Handbook of Parvoviruses,Vol.1,pp.169-228、及びBerns,1990,Virology,pp.1743-1764,Raven Press,(New York)で見つけることができる。しかしながら、様々な血清型が遺伝子レベルでさえも構造的及び機能的の両方で非常に密接に関連していることがよく知られているため、これらの同じ原理が追加のAAV血清型に適用可能であることが十分に予想される。(例えば、Blacklowe,1988,pp.165-174 of Parvoviruses and Human Disease,J.R.Pattison,ed.、及びRose,Comprehensive Virology 3:1-61(1974)を参照のこと)。例えば、全てのAAV血清型は、相同rep遺伝子によって媒介される非常に類似した複製特性を明らかに呈し、これらは全て、AAV2で発現されたもの等の関連カプシドタンパク質を有する。関連性の程度は、ゲノムの長さに沿った遺伝子型間の広範な交差ハイブリダイゼーション、及び「逆方向末端反復配列」(ITR)に対応する末端における類似の自己アニーリングセグメントの存在を明らかにするヘテロ二本鎖分析によってさらに示唆される。類似の感染性パターンは、各血清型における複製機能が類似の調節制御下にあることも示唆する。
【0040】
本明細書で使用される「AAVベクター」とは、AAV末端反復配列(ITR)に隣接している1つ以上の目的とするポリヌクレオチド(またはトランス遺伝子)を指す。かかるAAVベクターは、rep及びcap遺伝子産物をコード及び発現するベクターでトランスフェクトされた宿主細胞中に存在する場合に、感染ウイルス粒子に複製及びパッケージングされ得る。
【0041】
「AAVビリオン」または「AAVウイルス粒子」または「AAVベクター粒子」とは、少なくとも1つのAAVカプシドタンパク質及びカプシド形成されたポリヌクレオチドAAVベクターから成るウイルス粒子を指す。粒子が異種ポリヌクレオチド(すなわち、哺乳類細胞に送達されるトランス遺伝子等の野生型AAVゲノム以外のポリヌクレオチド)を含む場合、それは、典型的には、「AAVベクター粒子」または単に「AAVベクター」と称される。したがって、かかるベクターがAAVベクター粒子内に含有されるため、AAVベクター粒子の産生には、必然的にAAVベクターの産生が含まれる。
【0042】
AAVベクターは、AAV 5´逆方向末端反復(ITR)配列と、転写調節要素、すなわち、1つ以上のプロモーター及び/またはエンハンサーに作動可能に連結されたタンパク質コード配列に隣接するAAV 3´ITRと、ポリアデニル化配列と、任意に、タンパク質コード配列のエクソン間に挿入された1つ以上のイントロンとを有する一本鎖核酸または二本鎖核酸のいずれかであり得る。一本鎖AAVベクターは、AAVウイルス粒子のゲノム中に存在する核酸を指し、本明細書に開示される核酸配列のセンス鎖またはアンチセンス鎖のいずれかであり得る。かかる一本鎖核酸のサイズは、塩基単位で提供される。二本鎖AAVベクターは、プラスミドのDNA中に存在する核酸、例えば、pUC19、または二本鎖ウイルスのゲノム、例えば、AAVベクター核酸を発現または輸送するために使用されるバキュロウイルスを指す。かかる二本鎖核酸のサイズは、塩基対(bp)単位で提供される。
【0043】
本明細書で使用される「逆方向末端反復(ITR)」という用語は、DNA複製の起源及びウイルスゲノムのパッケージングシグナルとしてシスで機能するAAVゲノムの5´及び3´末端に見られる当該技術分野で認識されている領域を指す。AAV ITRは、AAV repコード領域と一緒になって、宿主細胞ゲノムからの効率的な切除及びレスキュー、ならびに2つの隣接するITR間に置かれたヌクレオチド配列の宿主細胞ゲノムへの組み込みを提供する。ある特定のAAV関連ITRの配列は、参照により全体が本明細書に組み込まれる、Yan et al.,J.Virol.79(1):364-379(2005)に開示されている。
【0044】
「転写制御要素」とは、プロモーターを含む遺伝子転写の調節に関与するゲノムのヌクレオチド配列、ならびに応答要素、RNAポリメラーゼ結合を支援し、かつ発現を促進するための活性化因子及びエンハンサー配列、及びリプレッサータンパク質がRNAポリメラーゼ結合を遮断し、かつ発現を阻止するために結合するオペレーターまたはサイレンサー配列を指す。
【0045】
AAV「rep」及び「cap」遺伝子とは、それぞれ、複製及びカプシド形成タンパク質をコードする遺伝子である。AAV rep及びcap遺伝子は、現在までに試験された全てのAAV血清型に見つけられており、本明細書及び引用される参考文献に記載されている。野生型AAVにおいて、rep及びcap遺伝子は、概して、ウイルスゲノム内で互いに隣接した状態で見られ(すなわち、それらは、隣接しているか、または重複している転写単位として一緒に「カップリング」されており)、それらは、一般に、AAV血清型間で保存される。AAV rep及びcap遺伝子は、個別にかつ集合的に、「AAVパッケージング遺伝子」とも称される。本発明によるAAV cap遺伝子は、rep及びアデノヘルパー機能の存在下でAAVベクターをパッケージングすることができ、かつ標的細胞受容体に結合することができるCapタンパク質をコードする。いくつかの実施形態では、AAV cap遺伝子は、特定のAAV血清型、例えば、表1に示される血清型及びAAV rh.74(米国特許第9,434,928号を参照のこと)に由来するアミノ酸配列を有するカプシドタンパク質をコードする。他のタイプのrAAV変異体、例えば、カプシド変異を有するrAAVも企図される。例えば、Marsic et
al.,Mol Ther,22(11):1900-1909(2014)を参照されたい。
【0046】
【表1】
【0047】
AAVの産生に用いられるAAV配列は、任意のAAV血清型のゲノムに由来し得る。概して、AAV血清型は、アミノ酸及び核酸レベルで有意な相同性のゲノム配列を有し、同様の組の遺伝機能を提供し、本質的に物理的及び機能的に同等であるビリオンを産生し、実質的に同一の機構によって複製及び組み立てられる。AAV血清型のゲノム配列及びゲノム類似性の考察については、例えば、GenBank受入番号U89790、GenBank受入番号J01901、GenBank受入番号AF043303、GenBank受入番号AF085716、Chlorini et al.,J.Vir.71:6823-33(1997)、Srivastava et al.,J.Vir.45:555-64(1983)、Chlorini et al.,J.Vir.73:1309-1319(1999)、Rutledge et al.,J.Vir.72:309-319(1998)、及びWu et al.,J.Vir.74:8635-47(2000)を参照されたい。
【0048】
全ての既知のAAV血清型のゲノム編成は非常に類似している。AAVのゲノムは、約5,000ヌクレオチド(nt)長未満の直鎖一本鎖DNA分子である。逆方向末端反復(ITR)は、非構造複製(Rep)タンパク質及び構造(VP)タンパク質の固有のコードクレオチド配列に隣接している。VPタンパク質は、カプシドを形成する。末端145ntは自己相補的であり、T字形ヘアピンを形成するエネルギー的に安定した分子内二本鎖を形成するように編成されている。これらのヘアピン構造は、細胞DNAポリメラーゼ複合体のプライマーとしての機能を果たすウイルスDNA複製の起源として機能する。Rep遺伝子は、Repタンパク質、Rep78、Rep68、Rep52、及びRep40をコードする。Rep78及びRep68は、p5プロモーターから転写され、Rep 52及びRep40は、p19プロモーターから転写される。cap遺伝子は、VPタンパク質、VP1、VP2、及びVP3をコードする。cap遺伝子は、p40プロモーターから転写される。
【0049】
いくつかの実施形態では、AAVカプシドタンパク質をコードする核酸配列は、Sf9またはHEK細胞等の特定の細胞型での発現のために発現制御配列に動作可能に連結している。昆虫宿主細胞または哺乳類宿主細胞で外来遺伝子を発現するための当業者に既知の手技を使用して、本発明を実施することができる。昆虫細胞におけるポリペプチドの分子工学及び発現のための方法論は、例えば、Summers and Smith.1986.A Manual of Methods for Baculovirus Vectors and Insect Culture Procedures,Texas Agricultural Experimental Station Bull.No.7555,College Station,Tex.、Luckow.1991.In Prokop et al.,Cloning and Expression of Heterologous Genes in Insect Cells with Baculovirus Vectors´ Recombinant DNA Technology and Applications,97-152、King,L.A.and R.D.Possee,1992,The baculovirus expression system,Chapman and Hall,United Kingdom、O´Reilly,D.R.,L.K.Miller,V.A.Luckow,1992,Baculovirus Expression Vectors:A Laboratory Manual,New York、W.H.Freeman and Richardson,C. D.,1995,Baculovirus Expression Protocols,Methods in Molecular Biology,volume 39、米国特許第4,745,051号、US2003148506、及びWO03/074714に記載されている。AAVカプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列の転写に特に好適なプロモーターは、例えば、多角体プロモーターである。しかしながら、昆虫細胞で活性の他のプロモーター、例えば、p10、p35、またはIE-1プロモーターが当該技術分野で既知であり、上記の参考文献に記載されるさらなるプロモーターも企図される。
【0050】
異種タンパク質の発現のための昆虫細胞の使用は、ベクター、例えば、昆虫細胞適合性ベクター等の核酸をかかる細胞に導入する方法及びかかる細胞を培養中に維持する方法として十分に立証されている。例えば、METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY,ed.Richard,Humana Press,NJ(1995)、O´Reilly et al.,BACULOVIRUS EXPRESSION VECTORS,A LABORATORY MANUAL,Oxford Univ.Press(1994)、Samulski et al.,J.Vir.63:3822-8(1989)、Kajigaya et al.,Proc.Nat´l.Acad.Sci.USA 88: 4646-50(1991)、Ruffing et al.,J.Vir.66:6922-30(1992)、Kirnbauer et al.,Vir.219:37-44(1996)、Zhao et al.,Vir.272:382-93(2000)、及びSamulski et al.,米国特許第6,204,059号を参照されたい。いくつかの実施形態では、昆虫細胞中のAAVをコードする核酸構築物は、昆虫細胞適合性ベクターである。本明細書で使用される「昆虫細胞適合性ベクター」または「ベクター」とは、昆虫または昆虫細胞の増殖性形質転換またはトランスフェクションが可能な核酸分子を指す。例示の生物学的ベクターとしては、プラスミド、直鎖核酸分子、及び組換えウイルスが挙げられる。昆虫細胞適合性である限り、いずれのベクターも使用され得る。ベクターは、昆虫細胞ゲノムに組み込まれ得るが、昆虫細胞中のベクターの存在は、恒久的である必要はなく、一時的なエピソームベクターも含まれる。ベクターは、任意の既知の手段によって、例えば、細胞の化学的処理、電気穿孔法、または感染によって導入され得る。いくつかの実施形態では、ベクターは、バキュロウイルス、ウイルスベクター、またはプラスミドである。より好ましい実施形態では、ベクターは、バキュロウイルスであり、すなわち、構築物は、バキュロウイルスベクターである。バキュロウイルスベクター及びそれらを使用するための方法は、昆虫細胞の分子工学に関する上記で引用された参考文献に記載されている。
【0051】
バキュロウイルスは、節足動物のエンベロープDNAウイルスであり、この2つのメンバーは、細胞培養物中に組換えタンパク質を産生するための周知の発現ベクターである。バキュロウイルスは、大きなゲノム含有量の特定の細胞への送達を可能にするように操作され得る環状二本鎖ゲノム(80~200kbp)を有する。ベクターとして使用されるウイルスは、一般に、Autographa californicaマルチカプシド核多角体病ウイルス(AcMNPV)またはBombyx mori(Bm)NPV)である(Kato et al.,2010)。
【0052】
バキュロウイルスは、組換えタンパク質の発現のために昆虫細胞の感染に一般的に使用される。具体的には、昆虫における異種遺伝子の発現は、例えば、米国特許第4,745,051号、Friesen et al(1986)、EP127,839、EP155,476、Vlak et al(1988)、Miller et al(1988)、Carbonell et al(1988)、Maeda et al(1985)、Lebacq-Verheyden et al(1988)、Smith et al(1985)、Miyajima et al(1987)、及びMartin et al(1988)に記載されるように達成され得る。タンパク質産生に使用され得る多数のバキュロウイルス株及び変異体ならびに対応する許容昆虫宿主細胞は、Luckow et al(1988)、Miller et al(1986)、Maeda et al(1985)、及びMcKenna(1989)に記載されている。
【0053】
一態様では、本発明は、rAAVゲノムを提供する。rAAVゲノムは、ANO5タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列に隣接する1つ以上のAAV ITRを含む。ポリヌクレオチドがANO5タンパク質をコードする場合、ポリヌクレオチドは、転写制御DNA、具体的には、遺伝子カセットを形成するために標的細胞、例えば、筋肉細胞内で機能的なプロモーターDNA及びポリアデニル化シグナル配列DNAに動作可能に連結される。遺伝子カセットは、哺乳類細胞で発現された場合にRNA転写物の処理を促進するためのイントロン配列も含み得る。例えば、AAVゲノムは、ANO5遺伝子のエクソン8及びエクソン9等のANO5遺伝子の1つ以上のエクソンに隣接する1つ以上のAAV ITRを含む。AAVゲノムは、イントロン、レポート遺伝子(Lac-Z β-ガラクトシダーゼまたはネオマイシン耐性遺伝子等)、CRE-Lox組換え部位(Lox
P等)、及び内部リボソーム侵入部位(IRE S)のうちの1つ以上を含む。
組換えAAVを産生するための方法
【0054】
本開示は、昆虫または哺乳類細胞において組換えAAVを産生するための材料及び方法を提供する。いくつかの実施形態では、ウイルス構築物は、目的とする1つ以上のタンパク質をコードするポリヌクレオチドの挿入を可能にするためのプロモーター及びそのプロモーターの下流の制限部位をさらに含み、プロモーター及び制限部位は、5´AAV ITRの下流及び3´AAV ITRの上流に位置する。いくつかの実施形態では、ウイルス構築物は、制限部位の下流及び3´AAV ITRの上流に転写後節要素をさらに含む。いくつかの実施形態では、ウイルス構築物は、制限部位に挿入され、かつプロモーターに作動可能に連結されたポリヌクレオチドをさらに含み、ポリヌクレオチドは、目的とするタンパク質のコード領域を含む。当業者が認識するように、本出願に開示されるAAVベクターのうちのいずれか1つが、ウイルス構築物として組換えAAVを産生するための方法で使用され得る。DNAプラスミドは、rAAVゲノムの感染性ウイルス粒子への組込みのために、AAVのヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス、E1欠失アデノウイルス、またはヘルペスウイルス)の感染に許容される細胞に導入される。AAVゲノムがパッケージングされるrAAV粒子、rep及びcap遺伝子、ならびにヘルパーウイルス機能が細胞に提供されるrAAV粒子を産生する技法は、当該技術分野において標準である。rAAVの産生は、以下の成分、rAAVゲノム、rAAVゲノムから分離した(すなわち、その中に存在しない)AAV rep及びcap遺伝子、ならびにヘルパーウイルス機能が、単一細胞(本明細書でパッケージング細胞と表される)内に存在することを必要とする。
【0055】
いくつかの実施形態では、ヘルパー機能は、アデノウイルスまたはバキュロウイルスヘルパー遺伝子を含む1つ以上のヘルパープラスミドまたはヘルパーウイルスによって提供される。アデノウイルスまたはバキュロウイルスヘルパー遺伝子の非限定的な例としては、ヘルパー機能をAAVパッケージングに提供することができるE1A、E1B、E2A、E4、及びVAが挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
AAVのヘルパーウイルスは、当該技術分野で既知であり、例えば、アデノウイルス科ファミリー及びヘルペスウイルス科ファミリーからのウイルスが含まれる。AAVのヘルパーウイルスの例としては、米国公開第20110201088号(この開示は、参照により本明細書に組み込まれる)に記載のSAdV-13ヘルパーウイルス及びSAdV-13様ヘルパーウイルス、ヘルパーベクターpHELP(Applied Viromics)が挙げられるが、これらに限定されない。当業者であれば、適切なヘルパー機能をAAVに提供することができるAAVの任意のヘルパーウイルスまたはヘルパープラスミドが本明細書で使用され得ることを理解する。
【0057】
いくつかの実施形態では、AAV cap遺伝子は、プラスミド中に存在する。プラスミドは、AAV rep遺伝子をさらに含み得る。任意のAAV血清型由来のcap遺伝子及び/またはrep遺伝子(AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、AAV rh.74、及びそれらの任意の変異形を含むが、これらに限定されない)を本明細書で使用して、組換えAAVを産生することができる。いくつかの実施形態では、AAV
cap遺伝子は、血清型1、血清型2、血清型4、血清型5、血清型6、血清型7、血清型8、血清型9、血清型10、血清型11、血清型12、血清型13、またはそれらの変異形由来のカプシドをコードする。
【0058】
いくつかの実施形態では、昆虫または哺乳類細胞は、ヘルパープラスミドまたはヘルパーウイルスでトランスフェクトされ得、ウイルス構築物及びAAV cap遺伝子をコードするプラスミドは、共トランスフェクション後の様々な時点で収集され得る。例えば、組換えAAVウイルスは、約12時間、約24時間、約36時間、約48時間、約72時間、約96時間、約120時間、またはこれらの2つの時点のうちのいずれかの間の時点で収集され得る。
【0059】
組換えAAVは、感染性組換えAAVの産生に好適な当該技術分野で既知の任意の従来の方法を使用して産生され得る。いくつかの例では、組換えAAVは、AAV粒子産生に必要な成分のうちのいくつかを安定的に発現する昆虫または哺乳類細胞を使用することによって産生され得る。例えば、AAV rep及びcap遺伝子、ならびにネオマイシン耐性遺伝子等の選択可能なマーカーを含むプラスミド(または複数のプラスミド)が、細胞のゲノム内に組み込まれ得る。その後、昆虫または哺乳類細胞は、ヘルパーウイルス(例えば、ヘルパー機能を提供するアデノウイルスまたはバキュロウイルス)、ならびに5´及び3´AAV ITR(ならびに所望の場合、異種タンパク質をコードするヌクレオチド配列)を含むウイルスベクターに同時感染させられ得る。この方法の利点は、細胞が選択可能であり、組換えAAVの大規模産生に好適であることである。別の非限定的な例として、プラスミドではなくアデノウイルスまたはバキュロウイルスを使用して、rep及びcap遺伝子をパッケージング細胞に導入することができる。さらに別の非限定的な例として、5´及び3´AAV LTRを含有するウイルスベクターもrep-cap遺伝子もいずれも、産生細胞のDNAに安定して組み込まれ得、ヘルパー機能は、組換えAAVを産生するために野生型アデノウイルスによって提供され得る。
【0060】
パッケージング細胞を生成する方法は、AAV粒子の産生に必要な成分を全て安定して発現する細胞株を作製することである。例えば、AAV rep及びcap遺伝子を欠くrAAVゲノム、rAAVゲノムから分離したAAV rep及びcap遺伝子、及びネオマイシン耐性遺伝子等の選択可能なマーカーを含むプラスミド(または複数のプラスミド)が、細胞のゲノムに組み込まれる。AAVゲノムは、GCテーリング(Samulski et al.,1982,Proc.Natl.Acad.S6.USA,79:2077-2081)、制限エンドヌクレアーゼ切断部位を含む合成リンカーの付加(Laughlin et al.,1983,Gene,23:65-73)、または直接平滑末端ライゲーション(Senapathy & Carter,1984,J.Biol.Chem.,259:4661-4666)等の手法によって細菌プラスミドに導入されている。その後、パッケージング細胞株は、アデノウイルス等のヘルパーウイルスに感染させられる。この方法の利点は、細胞が選択可能であり、rAAVの大規模産生に好適であることである。好適な方法の他の例は、rAAVゲノムならびに/またはrep及びcap遺伝子をパッケージング細胞に導入するためにプラスミドではなくアデノウイルスまたはバキュロウイルスを用いる。
【0061】
rAAV産生の一般的原理は、例えば、Carter,1992,Current Opinions in Biotechnology,1533-539、及びMuzyczka,1992,Curr.Topics in Microbial.and Immunol.,158:97-129)に概説されている。様々なアプローチが、Ratschin et al.,Mol.Cell.Biol.4:2072(1984)、Hermonat et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6466(1984)、Tratschin et al.,Mo1.Cell.Biol.5:3251(1985)、McLaughlin et al.,J.Virol.,62:1963(1988)、及びLebkowski et al.,1988 Mol.Cell.Biol.,7:349(1988).Samulski et al.(1989,J.Virol.,63:3822-3828)、米国特許第5,173,414号、WO95/13365及び対応する米国特許第5,658.776号、WO95/13392、WO96/17947、PCT/US98/18600、WO97/09441(PCT/US96/14423)、WO97/08298(PCT/US96/13872)、WO97/21825(PCT/US96/20777)、WO97/06243(PCT/FR96/01064)、WO99/11764、Perrin et al.(1995)Vaccine 13:1244-1250、Paul et al.(1993)Human Gene Therapy 4:609-615、Clark et al.(1996)Gene Therapy 3:1124-1132、米国特許第5,786,211号、米国特許第5,871,982号、及び米国特許第6,258,595号に記載されている。前述の文書は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれ、rAAV産生に関する文書の部分を特に強調する。
【0062】
したがって、本発明は、感染性rAAVを産生するパッケージング細胞を提供する。一実施形態では、パッケージング細胞は、HeLa細胞、293細胞、及びPerC.6細胞(同種293株)等の安定して形質転換された癌細胞であり得る。別の実施形態では、パッケージング細胞は、形質転換された癌細胞ではない細胞、例えば、低継代293細胞(アデノウイルスのE1で形質転換されたヒト胎児腎細胞)、MRC-5細胞(ヒト胎児線維芽細胞)、WI-38細胞(ヒト胎児線維芽細胞)、Vero細胞(サル腎細胞)、及びFRhL-2細胞(アカゲザル胎児肺細胞)である。
【0063】
rAAVは、当該技術分野で標準の方法によって、例えば、カラムクロマトグラフィーまたは塩化セシウム勾配によって精製され得る。rAAVベクターをヘルパーウイルスから精製するための方法は、当該技術分野で既知であり、例えば、Clark et al.,Hum.Gene Ther.,10(6):1031-1039(1999)、Schenpp and Clark,Methods Mol.Med.,69 427-443(2002)、米国特許第6,566,118号、及びWO98/09657に開示されている方法が含まれる。
【0064】
AAV産生で使用される細胞型
本発明のAAVベクターを含むウイルス粒子は、AAVまたは生物学的産物の産生を可能にし、かつ培養中に維持され得る任意の無脊椎動物細胞型を使用して導入され得る。例えば、使用される昆虫細胞株は、SF9、SF21、SF900+等のSpodoptera frugiperda、drosophila細胞株、蚊細胞株、例えば、Aedes albopictus由来の細胞株、domestic silkworm細胞株、例えば、Bombyxmori細胞株、Trichoplusia ni細胞株、例えば、High Five細胞、またはLepidoptera細胞株、例えば、Ascalapha odorata細胞株由来であり得る。好ましい昆虫細胞は、High Five、Sf9、Se301、SeIZD2109、SeUCR1、Sf9、Sf900+、Sf21、BTI-TN-5B1-4、MG-1、Tn368、HzAm1、BM-N、Ha2302、Hz2E5、及びAo38を含む、バキュロウイルス感染にかかりやすい昆虫種由来の細胞である。
【0065】
バキュロウイルスは、節足動物のエンベロープDNAウイルスであり、この2つのメンバーは、細胞培養物中に組換えタンパク質を産生するための周知の発現ベクターである。バキュロウイルスは、大きなゲノム含有量の特定の細胞への送達を可能にするように操作され得る環状二本鎖ゲノム(80~200kbp)を有する。ベクターとして使用されるウイルスは、一般に、Autographica calforicineマルチカプシド核多角体病ウイルス(AcMNPV)またはBombyx mori(Bm NPV)である(Kato et al.,2010)。
【0066】
バキュロウイルスは、組換えタンパク質の発現のために昆虫細胞の感染に一般的に使用される。具体的には、昆虫における異種遺伝子の発現は、例えば、米国特許第4,745,051号、Friesen et al(1986)、EP127,839、EP155,476、Vlak et al(1988)、Miller et al(1988)、Carbonell et al(1988)、Maeda et al(1985)、Lebacq-Verheyden et al(1988)、Smith et al(1985)、Miyajima et al(1987)、及びMartin et al(1988)に記載されるように達成され得る。タンパク質産生に使用され得る多数のバキュロウイルス株及び変異体ならびに対応する許容昆虫宿主細胞は、Luckow et al(1988)、Miller et al(1986)、Maeda et al(1985)、及びMcKenna(1989)に記載されている。
【0067】
本発明の別の態様では、本発明の方法は、AAVの複製または生物学的産物の産生を可能にし、かつ培養中に維持され得る任意の哺乳類細胞型を用いても実行される。使用される好ましい哺乳類細胞は、HEK293、HeLa、CHO、NS0、SP2/0、PER.C6、Vero、RD、BHK、HT 1080、A549、Cos-7、ARPE-19、及びMRC-5細胞であり得る。
【0068】
組成物
別の実施形態では、本発明は、本発明のrAAV及び/または抗酸化剤を含む組成物を企図する。これらの組成物を使用して、筋肉を再生、強化、もしくは修復し、かつ/または筋肉機能を改善することができる。
【0069】
本発明の組成物は、薬学的に許容される担体中にrAAVを含む。本組成物は、希釈剤及びアジュバント等の他の成分も含み得る。許容される担体、希釈剤、及びアジュバントは、レシピエントに非毒性であり、好ましくは、用いられる投薬量及び濃度で不活性であり、リン酸、クエン酸、もしくは他の有機酸等の緩衝剤;抗酸化剤;低分子量ポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、もしくはリシン等のアミノ酸;グルコース、マンノース、もしくはデキストリンを含む、単糖、二糖、及び他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;マンニトールもしくはソルビトール等の糖アルコール;ナトリウム等の塩形成対イオン;ならびに/またはTween、プルロニクス、もしくはポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤が含まれる。
【0070】
インビボまたはインビトロでのrAAVで標的細胞を形質導入する方法が、本発明によって企図される。インビボ方法は、本発明のrAAVを含む組成物の有効用量または有効複数回用量を、それを必要とする動物(ヒト患者を含む)に投与するステップを含む。対象への本開示のrAAVを含む組成物の組み合わせの有効用量または有効複数回用量は、治療される疾患に関連する筋肉病理を予防するか、その進行を遅延させるか、または改善する用量である。筋肉病理への影響は、例えば、絶対筋比力、伸張性筋肉収縮中の力減衰、血清CKレベル、血清心臓トロポニンレベル、血清MMP9レベル、握力、四肢トルク、四肢可動性または柔軟性、歩行、6分間歩行試験、膝屈筋または伸筋力、最大自発的等尺性筋肉収縮、North Star歩行評価、筋肉量、脂肪減少、または四肢T2加重MRI測定による浮腫、筋拘縮、肢関節角度、心機能(心拍数、心拍出量、短縮率パーセント、1回拍出量)、呼吸(呼吸速度、血液酸素化、酸素補給の必要性を含む)、筋壊死、筋肉再生、筋肉消耗、筋肉炎症、筋肉石灰化、筋肉中心核化、筋肉サイズまたは筋原線維サイズ、寿命、及びジストロフィンまたはラミニンアルファ2代理タンパク質発現(ユートロフィン、プレクチン1、ラミニンアルファ5、アグリン)等の当該技術分野で標準の1つ以上の評価基準の改善によって実証され得る。例えば、Forbes et al.,Radiology,269(1):198-207(2013)、Govoni et al.,Cell Mol.Life Sci.,70(23):4585-4602(2013)、及びChandrasekharan and Martin,Methods Enzymol.,479:291-322(2010)を参照されたい。用量が疾患の発症前に投与される場合、投与は、予防的である。用量が疾患の発症後に投与される場合、投与は、治療的である。したがって、治療される疾患を予防し、その進行を遅延もしくは予防し、その程度を弱め、その(部分的もしくは全体的な)寛解をもたらし、かつ/またはその生存期間を延長するための本明細書に記載の方法による対象の治療が企図される。
【0071】
併用療法も本発明によって企図される。本明細書で使用される併用療法は、同時治療または連続治療を含む。新規の療法との併用等の本発明の方法と標準の医療処置(例えば、筋ジストロフィーのためのコルチコステロイド)との併用が特に企図される。この点において、筋肉損傷を軽減または抑制するか、筋肉を強化するか、または筋肉修復を誘導するためにANO5の発現を誘導することができ、その後、二次治療を提供することができる。筋ジストロフィーのかかる二次治療は、抗酸化剤(例えば、リポ酸、補酵素Q10、及びα-トコフェロール)、IGF-1、干渉RNAアプローチ、エクソンスキッピング、カルパイン阻害、ジストロフィン上方調節、及びジストログリカン発現の使用を含み得る。さらに、筋肉増強効果を強化するために、ANO5の発現が追加され得る。例えば、IGF-1もしくは他の栄養因子の添加または筋肉前駆体注入が行われ得る。
【0072】
本発明に開示される方法で投与されるrAAVの用量は、例えば、特定のrAAV、投与様式、治療目標、治療される個体及び細胞型(複数可)に応じて異なり、当該技術分野で標準の方法によって決定され得る。投与される各rAAVの力価は、DNase耐性粒子(DRP)1mL当たり約1×10、約1×10、約1×10、約1×10、約1×1010、約1×1011、約1×1012、約1×1013、約1×1014、または約1×1015以上の範囲であり得る。投薬量は、ウイルスゲノムの単位(vg)でも表され得る(すなわち、それぞれ、1×10vg、1×10vg、1×10vg、1×1010vg、1×1011vg、1×1012vg、1×1013vg、1×1014vg、1×1015)。AAVを滴定するための方法は、Clark et al.,Hum.Gene Ther.,10:1031-1039(1999)に記載されている。
【0073】
本組成物の有効用量の投与は、筋肉内、非経口、静脈内、経口、口腔、鼻腔、肺、頭蓋内、骨内、眼内、直腸、または膣内を含むが、これらに限定されない当該技術分野で標準の経路により得る。本発明のrAAVのAAV成分(具体的には、AAV ITR及びカプシドタンパク質)の投与経路及び血清型(複数可)は、治療される病状ANO5タンパク質を発現する標的細胞/組織(複数可)を考慮して、当業者によって選択及び/または適合され得る。いくつかの実施形態では、経路は、患者の大腿四頭筋への1回以上の筋肉内注射である。いくつかの実施形態では、経路は、患者の大腿四頭筋の3つの主要筋肉群の各々への1回以上の筋肉内注射である。
【0074】
具体的には、本発明のrAAVの実際の投与は、rAAV組換えベクターを動物の標的組織に輸送する任意の物理的方法を使用することによって達成され得る。本発明による投与としては、筋肉内への注入、血流への注入、及び/または肝臓への直接注入が挙げられるが、これらに限定されない。リン酸緩衝生理食塩水中にrAAVを単に再懸濁させることが、筋肉組織発現に有用なビヒクルを提供するのに十分であることが実証されており、rAAVと同時投与され得る担体または他の成分に対する既知の制限はない(が、DNAを分解する組成物がrAAVとの通常の方法で避けられるべきである)。rAAVのカプシドタンパク質は、rAAVが筋肉等の目的とする特定の標的組織を標的とするように修飾され得る。例えば、開示が参照により本明細書に組み込まれる、WO02/053703を参照されたい。薬学的組成物は、注射可能な製剤として、または経皮輸送によって筋肉に送達される局所製剤として調製され得る。筋肉内注射及び経皮輸送の両方のための多数の製剤が以前に開発されており、本発明を実施する際に使用され得る。rAAVは、投与及び取扱い易くするために、任意の薬学的に許容される担体とともに使用され得る。
【0075】
筋肉内注射の目的のために、例えば、ゴマ油もしくはピーナッツ油等のアジュバント中の溶液、または水性プロピレングリコール中の溶液、ならびに滅菌水溶液が用いられ得る。かかる水溶液は、所望の場合、緩衝され、液体希釈剤は、最初に生理食塩水またはグルコースで等張性にする。遊離酸としてのrAAV溶液(DNAが酸性リン酸基を含有する)または薬理学的に許容される塩は、ヒドロキシプロピルセルロース等の界面活性剤と好適に混合された水中で調製され得る。rAAV分散剤は、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、及びそれらの混合物中、ならびに油中でも調製され得る。通常の保管及び使用条件下で、これらの調製物は、微生物の増殖を阻止するために防腐剤を含有する。これに関連して、用いられる滅菌水性媒体は全て、当業者に周知の標準の技法によって容易に得ることが可能である。
【0076】
注射可能な使用に好適な薬学的形態としては、滅菌水溶液または分散剤、及び注射可能な滅菌溶液または分散剤の即時調製のための滅菌粉末が挙げられる。あらゆる場合において、この形態は、滅菌でなければならず、容易なシリンジ注射可能性(syringability)が存在する程度に流動性でなければならない。これは、製造及び保管条件下で安定していなければならず、細菌及び真菌等の微生物の混入作用に対して保護されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール等)、それらの好適な混合物、及び植物油を含有する溶媒または分散媒体であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチン等のコーティングの使用によって、分散の場合には必要な粒径の維持によって、かつ界面活性剤の使用によって維持され得る。微生物の作用の保護は、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等の様々な抗細菌剤及び抗真菌剤によってもたらされ得る。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射可能な組成物の長期吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンの使用によってもたらされ得る。
【0077】
注射可能な滅菌溶液は、必要に応じて、必要量のrAAVを、上に列挙される様々な他の成分を有する適切な溶媒に組み込み、その後、濾過滅菌することによって調製される。一般に、分散剤は、滅菌活性成分を、塩基性分散媒体及び上に列挙されるものからの必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクルに組み込むことによって調製される。注射可能な滅菌溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、活性成分に加えて、その以前に滅菌濾過された溶液からの任意の追加の所望の成分の粉末を産生する、真空乾燥及びフリーズドライ技法である。
【0078】
rAAVでの形質導入もインビトロで行われ得る。一実施形態では、所望の標的筋肉細胞は、対象から除去され、rAAVで形質導入され、対象に再導入される。あるいは、同系または異種筋肉細胞が対象において不適切な免疫応答を生成しない場合、同系または異種筋肉細胞が使用され得る。
【0079】
対象への形質導入細胞の形質導入及び再導入のための好適な方法は、当該技術分野で既知である。一実施形態では、細胞は、例えば適切な培地中でrAAVを筋肉細胞と組み合わせ、サザンブロット及び/またはPCR等の従来の技法を使用して目的とするDNAを持つ細胞についてスクリーニングすることによって、または選択可能なマーカーを使用することによってインビトロで形質導入され得る。その後、形質導入された細胞は、薬学的組成物に製剤化され得、この組成物は、筋肉内、静脈内、皮下、及び腹腔内注射等の様々な技法によって、または例えばカテーテルを使用して、平滑心筋に注射することによって対象に導入される。
【0080】
本発明のrAAVでの細胞の形質導入は、ANO5タンパク質の持続発現をもたらす。したがって、本発明は、ANO5を動物、好ましくはヒトに発現するrAAVを投与/送達する方法を提供する。これらの方法は、本発明の1つ以上のrAAVでの形質導入組織(筋肉等の組織、肝臓及び脳等の臓器、ならびに唾液腺等の腺を含むが、これらに限定されない)を含む。形質導入は、組織特異的制御要素を含む遺伝子カセットで行われ得る。例えば、本発明の一実施形態は、アクチン及びミオシン遺伝子ファミリーに由来する制御要素、例えば、myoD遺伝子ファミリーに由来する制御要素[Weintraub et al.,Science,251:761-766(1991)を参照のこと]、筋細胞特異的エンハンサー結合因子MEF-2[Cserjesi and Olson,Mol Cell Biol 11:4854-4862(1991)]、ヒト骨格アクチン遺伝子に由来する制御要素[Muscat et al.,Mol Cell Biol,7:4089-4099(1987)]、心臓アクチン遺伝子、筋肉クレアチンキナーゼ配列要素[Johnson et al.,Mol Cell Biol,9:3393-3399(1989)を参照のこと]及びマウスクレアチンキナーゼエンハンサー(mCK)要素、例えば、マウスmCKの三重コピーであるMCK7またはtMCK、骨格速筋トロポニンC遺伝子、遅筋心臓トロポニンC遺伝子、及び遅筋トロポニンI遺伝子に由来する制御要素、低酸素誘導核因子(Semenza et al.,Proc Natl Acad Sci USA,88:5680-5684(1991))、グルココルチコイド応答要素(GRE)を含むステロイド誘導要素及びプロモーター[Mader and White,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5603-5607(1993)]、ならびに他の制御要素を含むが、これらに限定されない筋肉特異的制御要素によって誘導される筋肉細胞及び筋肉組織を形質導入する方法を提供する
【0081】
筋肉組織は、重要な臓器ではなく、アクセスが容易であるため、インビボ遺伝子送達及び遺伝子療法のための魅力的な標的である。本発明は、形質導入筋原線維由来の生物学的に活性なANO5タンパク質の持続発現を企図する。
【0082】
「筋肉細胞」または「筋肉組織」とは、任意の種類の筋肉(例えば、消化管、膀胱、血管、または心臓組織由来の、例えば、骨格筋及び平滑筋)に由来する細胞または細胞群を意味する。かかる筋肉細胞は、筋芽細胞、筋細胞、筋管、心筋細胞、及び心筋芽細胞等の分化または未分化のものであり得る。筋肉組織が循環系に容易にアクセス可能であるため、インビボで筋肉細胞及び組織によって産生及び分泌されたタンパク質は、全身送達のために論理的に血流に入り、それにより、筋肉からの治療レベルのタンパク質分泌の持続を提供する。
【0083】
「形質導入」という用語は、レシピエント細胞による機能的ANO5タンパク質の発現をもたらす、本発明の複製欠損rAAVを介するインビボまたはインビトロのいずれかでのANO5 DNAのレシピエント細胞への投与/送達を指すために使用される。
【0084】
抗酸化剤組成物
骨格筋収縮中の反応性酸素種の産生が十分に確立されている。長期間の運動中、これらの酸化体の量の増加は、タンパク質及び脂質に損傷を与え、複数のストレス応答シグナル伝達経路の活性化につながる(Powers et al.,Free Radic Biol Med 51: 942-50(2011))。結果として、いくつかの研究は、骨格筋における酸化ストレスを緩和する手段としての長期抗酸化剤補給の使用を調査している。最近の一研究は、雌マウスの食餌に補給された3つの抗酸化剤(ビタミンE、α-リポ酸、及び補酵素Q10)の製剤が、走行性能、ならびにミトコンドリア機能のマーカーを改善したことを報告した(Abadi et al.,PLoS One.8:e60722(2013))。しかしながら、他の研究は、同様に修正された食餌(ビタミンE+α-リポ酸)が、ラットにおけるミトコンドリア新生を低減したことを報告した(Strobel et al.,Med Sci Sports Exerc.43:1017-24(2011))。現在、長期抗酸化剤補給の骨格筋健康への影響における共通認識が当該技術分野に存在せず、疾患によって衰弱した筋肉にはほとんど注意が払われていない。しかしながら、本発明は、抗酸化剤食餌がAno5-/-マウスの骨格筋に有益な影響を与えるという証拠を提供する。
【0085】
抗酸化剤
本発明は、筋ジストロフィーに罹患している対象における筋肉生理学及び機能を改善するための抗酸化剤組成物の投与を提供する。本明細書に開示される抗酸化剤組成物は、少なくとも1つの抗酸化剤を利用する。加えて、本発明は、少なくとも2つまたは少なくとも3つの抗酸化剤を含む抗酸化剤組成物を提供し、これらの組成物において、抗酸化剤は、異なる細胞機能を有する。好ましい抗酸化剤は、経年劣化の産物としてミトコンドリア損傷を特異的に逆転させることが示されているものである。例えば、本発明は、補酵素Q10、α-リポ酸、カロテノイド(α-カロチン、β-カロチン、リコピン、ルテイン、アスタキサンチン、カンタキサンチン、及びゼアキサンチン)、ビタミンA(レチノール、3,4-ジデヒドロレチノール、及び3-ヒドロキシレチノール)、ビタミンC(アスコルビン酸)、及びビタミンE(α-トコフェロール)等のビタミン、ビタミン補因子、ポリフェノール及びフラボノイド(レスベラトロル、ジンジェロール、クルクミン)、または鉱物(鉄、マグネシウム、セレン、銅、亜鉛、マンガン、ヨウ化物)のうちの少なくとも1つを含む抗酸化剤組成物を提供する。好ましい実施形態では、これらの抗酸化剤は、補酵素Q10、ビタミンE、α-リポ酸である。
【0086】
補酵素Q10(別名、Q10、ビタミンQ10、ユビキノン、ユビデカレノン、または補酵素Q)は、脂溶性物質である。補酵素Q10は、電子伝達鎖(ETC)に不可欠な電子シャトル化合物である。ETCは、細胞へのエネルギーの重要な源であるATP合成を駆動する。ビタミンE(別名、α-トコフェロール)は、膜(ミトコンドリア膜を含む)の重要な成分であり、脂質フリーラジカルを除去する機能を果たす。
【0087】
α-リポ酸(別名、チオクト酸)は、最終的にATP産生をもたらすKrebsサイクルの適切な機能のためのピルビン酸デヒドロゲナーゼ等のミトコンドリアデヒドロゲナーゼの必須補因子であるオクタン酸に由来する有機硫黄化合物である。α-リポ酸はまた、PGC1αを介してミトコンドリア新生を調節する細胞中のエネルギーセンサーであるAMPKを活性化することによって骨格筋に直接影響する。
【0088】
ポリフェノールとしては、フェノール酸及びフラボノイドが挙げられる。例えば、フェノール酸としては、プロトカテク酸、没食子酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシ桂皮酸、例えば、コーヒー酸、クロロゲン酸、クマル酸、フェルラ酸、シナピン酸、アントシアニン、例えば、シアニジン、ペラルゴニジン、ペオニジン、デルフィニジン、及びマルビジンが挙げられる。例示のフラボノイドとしては、フラボノール、例えば、ケルセチン、ケンペロール、ミリセチン、フラボン、例えば、アピゲニン及びルテオリン、グラバオノン(glavaonone)、例えば、ヘスペレチン、ナリンゲニン、及びエリオジクチオール、イソフラボン、例えば、ダイゼイン、ゲニステイン、及びグリシテイン、ならびに単量体フラボノール、例えば、カテキン及びエピカテキンが挙げられる。
【0089】
投与及び投薬
本開示は、少なくとも1つの抗酸化剤を使用して筋ジストロフィー及び慢性筋肉消耗を治療するための材料及び方法を提供する。少なくとも1つの抗酸化剤を投与すること、または少なくとも2つの抗酸化剤を投与すること、または少なくとも3つの抗酸化剤を投与することを含む、筋ジストロフィーを治療する例示の組成物及び方法。例えば、本発明は、α-リポ酸、補酵素Q10、及びα-トコフェロール(別名、ビタミンE)を含む抗酸化剤組成物を提供する。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される抗酸化剤組成物は、単独で、またはANO5タンパク質もしくはその機能的に活性な断片をコードするヌクレオチド配列を含むAAVベクターと組み合わせて投与され得る。
【0090】
本開示の方法は、注射、経口摂取、鼻腔内、局所、経皮、非経口、吸入噴霧、膣内、または直腸投与を含むが、これらに限定されない、薬剤を哺乳類対象に直接または間接的に投与するための任意の医学的に許容されている手段を使用して行われる。本明細書で使用される非経口という用語は、皮下、静脈内、筋肉内、及び嚢内注射、ならびにカテーテルまたは注入技法を含む。皮内、腹腔内、髄腔内、球後、肺内注射による投与、及びまたは特定の部位における外科的移植も企図される。
【0091】
一実施形態では、投与は、部位への直接注射による治療または持続送達もしくは持続放出機構を介する治療を必要とする罹患組織(例えば、筋肉)で行われ、製剤を内部に送達することができる。例えば、組成物の持続送達が可能な生分解性微小球もしくはカプセルまたは他の生分解性ポリマー構成(例えば、溶性ポリペプチド、抗体、または小分子)が、罹患組織の近くに、または罹患組織に埋め込まれる本開示の製剤に含まれ得る。
【0092】
いくつかの実施形態では、抗酸化剤及びANO5を含むAAVベクターの同時投与は、薬剤が治療効果を発揮している期間に重複が存在する限り、薬剤が同時にまたは同じ経路により投与されることを必要としない。異なる日または週の投与としての同時または連続投与が企図される。
【0093】
いくつかの実施形態では、抗酸化剤及び/またはAAVベクター組成物は、患者の複数の部位にも送達され得る。複数回投与は、同時に行われるか、またはある期間にわたって投与され得る。ある特定の場合、治療用組成物の連続流動を提供することが有益である。付加療法は、ある期間に基づいて、例えば、1時間に1回、1日1回、2日に1回、週2回、週3回、週1回、2週間に1回、3週間に1回、月1回、またはより長い間隔で投与され得る。
【0094】
本開示の薬剤が同じ製剤で同時に与えられ得ることが企図される。薬剤が別個の製剤で投与され、かつ同時に投与されることがさらに企図され、同時とは、互いに30分以内に与えられることを指す。
【0095】
したがって、本発明は、例えば、ANO5をコードするrAAV及び/または抗酸化剤の有効用量(または本質的に同時に投与される用量もしくはある間隔で与えられる用量)を、それを必要とする患者に投与する方法を提供する。
【0096】
所与の投薬量中の抗酸化剤組成物の量は、療法が投与される個体のサイズ、ならびに治療される障害の特徴に従って異なり得る。例示の治療では、約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%のリポ酸、約0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%の補酵素Q10、及び約10、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、2000、3000、4000、5000IUのα-トコフェロールまたはビタミンEを含む抗酸化剤食餌の投与が必要であり得る。これらの濃度は、単一剤形として、または複数回用量として投与され得る。最初に動物モデル、その後に臨床試験における標準の用量応答研究により、特定の病状及び患者集団の最適な投薬量が明らかになる。
【0097】
従来の治療薬が本開示の治療薬と組み合わせて投与される場合、投薬が修正されてもよいことも明らかであろう。
【実施例0098】
実施例1
Ano5-/-マウスモデルの単離及び生成
Ano5ノックアウトマウスを、エクソン8からエクソン9までAno5を標的とするベクターを使用して生成して、図1Aに示される切断転写物を産生した。標的構築物を、ヌル対立遺伝子がTesla et al.(Genesis 38,151-158(2004)に記載されるようにlacZ捕捉要素へのスプライシングにより生成されるように、「ノックアウトファースト」条件付き準備(conditional ready)構築物として設計した。このlacZタグ付き変異対立遺伝子Ano5:tm1a(KOMP)Wtsi標的ベクターを、UC Davis KOMP Repository(PG00097_Z_1_G0、Karnes.Nature 474,337-342(2011)から入手した。標的カセットを、隣接FRT及びloxP部位が存在するエクソン8の後に挿入して、胚致死が顕著であった場合に、条件付き対立遺伝子を生成した。
【0099】
胚幹細胞標的及び移植後、遺伝子型をゲノムPCRによって検証した(図1b)。クローンを、エクソン1~6(e1~6)またはエクソン17~20(e17~20)に及ぶ以下のプライマーセットを使用してRT-PCRによってスクリーニングし、それらは、図1cに示されるように、内因性Ano5遺伝子座から300bpのアンプリコン及びAno5カセット挿入遺伝子座から200bpのアンプリコンを産生した:
遺伝子型決定F 5´-AGTCCTTTTCAGCACAGTCTTTG-3´(配列番号3)
遺伝子型決定R 5´-TGAGGCAGTGTGGAGTGAGTA-3´(配列番号4)
DF38700 5´-GCCAATCATATGGTCTCAGT-3´(配列番号5)
LR-loxp R 5´-ACTGATGGCGAGCTCAGACC-3´(配列番号6)
【0100】
その後、うまく標的とされたES細胞を、C57BL/6マウスの胚盤胞に注入し、胚を移植して、生殖細胞系列伝達のためにキメラを生成した。トランスジェニックヘテロ接合体を遺伝子型決定によって検証し、C57BL/6野生型に4回戻し交配した後に繁殖させてホモ接合性にした。Ano5-/-マウス及びC57BL/6マウスの種族を繁殖させ、RINCHの動物飼育施設内でホモ接合性動物として標準条件下で維持した。それらを、12時間:12時間の暗所:明所サイクルで、Teklad Global Rodent Diet(3.8%食物繊維、18.8%タンパク質、5%脂肪飼料)で維持した。
【0101】
定量PCRを行い、Fast Real-Time PCR System(Thermo Fisher Scientific)上で分析した。反応物を、試料毎に三連で、Ano5(Mm00624629_m1、Mm01335981_m1)、Ano6(Mm00614693_m1)、及びGapdh(Mm99999915_g1)のApplied Biosystemsプライマー-FAMプローブカクテルを用いて泳動させた。△△Ct法を使用して、野生型と比較したAno5-/-筋肉中のAno5及びAno6 mRNAの正規化された倍数変化減少を計算した。全RNAを、製造業者のプロトコルに従って、Trizol(Life Technologies,Carslbad,CA)を使用して新鮮凍結筋肉シェービングから単離した。その後、RNAを、RNAEasy法(Qiagen,Valencia,CA)を使用してカラム精製し、NanoDropLite(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)を使用して分光測光によって定量した。cDNAを、1反応当たり等量(200~500ng)の試料RNAを使用して、High Capactiy cDNA
Reverse Transcription Kit(Thermo Fisher
Scientific)で生成した。半定量PCRの場合、等体積のcDNAを30回のPCRサイクルに供し、続いて、アガロースゲル電気泳動を行った。使用したプライマーは、以下の通りであった。
mβACt-rt-5´ CCTGGCCGTCAGGCAGAT(配列番号7)
mβAct-rt-3´ GACATGGAGAAGATCTGGCACC(配列番号8)
mAno5-rt-F1 CCAACAGAATGAGAACCT(配列番号9)
mAno5-rt-R1 GACAGGGGTGGGTACTTTGG(配列番号10)
mAno5-rt-F3 CGTTGGCAGCAAGATCAT(配列番号11)
mAno5-rt-R3 GGGTACCTATAATCTCTGTACCTGC(配列番号12)
【0102】
定量RT-PCRは、試験した全ての筋肉において、カセット前転写物の約80%の低減及びカセット後ANO5転写物の99%超の低減を示した(図1d)。胚致死も繁殖困難も顕著ではなかった。Ano5がAno6に著しい配列相同性を共有し、かつAno6がいくつかの条件下で骨格筋において発現されることが既知であるため、RT-PCRを行って、Ano5-/-マウス筋肉のANO6 cDNAの相対発現を測定した。定量RT-PCRは、Ano5欠損筋肉におけるAno6転写物の適度であるが、統計的に有意ではない上昇を示す。
【0103】
実施例2
Ano5-/-マウスの臨床及び組織病理学的評価
Ano5-/-マウスは、増加したクレアチンキナーゼレベル、筋肉間での可変衰弱、筋線維径の変化、及び運動不耐性を含む、ヒトANO5ミオパチーの特性を示す多くの特徴を呈した。血清クレアチンキナーゼは、Ano5-/-マウスにおいておよそ2倍上昇する(図2a)。
【0104】
強縮力測定結果を、10ヶ月齢のマウス(1系統当たりn=6匹のマウス)の指伸長筋(EDL)、4ヶ月齢のマウス(1系統当たりn=5匹のマウス)の前脛骨筋(TA)、及び10ヶ月齢のAno5-/-マウス及びWTマウス(1系統当たりn=4匹のマウス)の横隔膜筋から得た。EDLを腱で切除し、生理学プロトコルに供して、Rodino-Klapac et al.(J.Transl.Med.5:45,2007)及びLiu et al.(Mol.Ther.11:245-256,2005)によって以前に説明されたように、修正を加えて機能を評価した。伸張性収縮プロトコル中、5%伸長再長期化手順を500~700ミリ秒間実行した(100ミリ秒にわたって5%伸長し、続いて、100ミリ秒後に最適な長さに戻す)。強縮及び伸張性収縮プロトコル後、マウスを安楽死させ、筋肉を切除し、湿潤秤量し、トラガカントガムを使用してチャック上に取り付け、その後、液体窒素中で冷却したメチル-ブタン中で凍結した。TAにおける力測定を、Hakim et al.(J.Appl.Physiol.110:1656-1663,2011)及びWein et al.(Nat.Med.20:992-1000,2014)によって説明されるように行った。
【0105】
横隔膜力測定の場合、マウスを安楽死させ、横隔膜を、肋骨が付いた状態で、かつ腱中心を無傷の状態で切除し、Beastrom et al.(Am.J.Pathol.179:2464-2474,2011)、Rafeal-Fortney et al.Circ.124:582-588,2011)、及びGrose et al.(Ann.Clin.Trans.Neurol.1:34-44,2014)によって以前に説明されたように、クレブス-ヘンゼライト(K-H)緩衝液中に置いた。2~4mm幅の横隔膜切片を単離した。横隔膜条片を腱中心で編組外科用絹糸(6/0、Surgical Specialties,Reading,PA)を用いてしっかり結び、条片の遠位端に取り付けられた肋骨の一部分を通して縫合した。各筋肉を、37℃で維持した酸素化K-H溶液を充填した水浴に移した。筋肉を水平に整列させ、固定ピンとデュアルモード力変換器サーボモーター(305C、Aurora Scientific,Aurora,Ontario,Canada)との間で直接結んだ。2つの白金プレート電極を、筋肉の長さに隣接するように臓器浴内に位置付けた。筋肉を1gの最適な張力に伸長させ、10分間静置させた後に、強縮プロトコルを開始した。筋肉が安定した時点で、筋肉を、30秒毎に3回の1Hz攣縮、続いて、1分毎に3回の150Hz攣縮からなるウォームアップに供した。3分間の休止期間後、横隔膜を、各刺激間に2分間の休止期間を設けて、20、50、80、120、150、180Hzで各々250ミリ秒間刺激して、最大強縮力を決定した。筋肉の長さ及び重量を測定した。強縮力を、筋肉の重量及び長さに対して正規化した(CSA:筋肉量(mg)/{Lf(mm)×筋肉密度(1.06mg/mm)})。統計的有意性を、比力についての対応のないスチューデントt検定及び伸張性収縮プロトコルに対する耐性の繰り返し測定を伴う二元配置分散分析を使用して評価した。
【0106】
筋肉収縮の比力は、横隔膜で約15%著しく減少した(図2b)が、Ano5-/-マウスの指伸長(EDL)筋及び前脛骨(TA)筋には本質的に影響を及ぼさなかった(図2c)。筋肉間のこのばらつきは、ANO5ミオパチーの特徴であり、異なる筋肉の組織学的分析においても観察された。野生型(WT)と比較して、平均筋線維径は、Ano5-/-マウス由来の腓腹(GAS)筋において著しく小さく(Ano5-/-:35.8±8.3μm、WT:41.8±11.0μm、P<0.001)、TA筋においてより小さい程度に小さかった(Ano5-/-:38.1±11.8μm、WT:44.3±12.2μm、P<0.001)(図2d、e)。Ano5-/-筋肉は、中心核及び偶発的な壊死線維を含む軽度の組織病理学を呈した(図2d、e)。
【0107】
運動耐性を評価するために、7.5ヶ月齢一致のAno5-/-マウス及びWTマウスを、毎週1時間の運動レジメンに2ヶ月間供した。各マウスを、15m/分の速度で-10°下降で週に1回走らせ、疲労に達するまで毎分1m増加させた(1系統当たりn=3匹のマウス)。マウスが電気刺激を20Vに設定した衝撃板(Columbus Instruments)上に運動を試みることなく10秒超にわたって留まったときに、各個々の試験を止めた。中断を、マウスが走行を止め、トレッドミルベルトが衝撃板に戻っている間に休憩した時間と定義する。WT対照マウスが中断なしに一貫した速度で走行した一方で、Ano5-/-マウスは、トレッドミルベルトが衝撃板に戻るまで走行を止めたトレッドミル上での頻繁な中断の傾向があった(図2f)。
【0108】
電気生理学を、Arnold et al.(Ann.Clin.Trans.Neurol.1:34-44,2014)に記載の方法と同様の方法を使用して、6~8ヶ月齢のAno5-/-筋肉及び対照筋肉上で行った。マウスを、吸入イソフルランを使用して麻酔し、後肢をマウスの身体から離して45で伸長させた状態で腹臥位に置いた。複合筋活動電位(CMAP)振幅を、変異マウス(n=6匹の動物、12の後肢)及び対照マウス(n=7匹の動物、14の後肢)における最大上坐骨神経刺激後に両側下腿三頭筋から測定した。針筋電図法を右側GAS筋肉で行い、線維自発電位の存在または不在について評価した。局所インピーダンス測定または電気インピーダンス筋運動記録法(EIM)を、筋萎縮性側索硬化症及び筋ジストロフィーのマウスモデルにおいて以前に報告された方法と同様の方法(Li et al.PLoS One 8:e65976,2013、Li et al.Muscle & Nerve 49:829-835,2014)を用いて、Skulpt Inc EIM1103システム(San Francisco,CA)を使用して1000Hz~10MHzの周波数で両側GAS筋に行った。1mm離間した4つの26ゲージ絶縁筋電図針電極(Natus,Middleton,WI)を有する固定電極アレイを表面電極の代わりに使用した。電極アレイを、筋線維方向に関して長手方向構成で両側腓腹筋の腹部に挿入し、各筋肉におけるインピーダンス測定の2回の試行結果を得て、各肢における単一値について平均した(各群n=6匹の動物、12の後肢)。以前に公開されたEIM研究慣習を使用して、かつ単純化のために、リアクタンス、抵抗、及び位相を、2つの電流周波数50kHz及び100kHzで分析した。CMAP振幅及びインピーダンス特性を、両側t検定を使用して比較した。針筋電図法、誘発複合筋活動電位記録、及び電気インピーダンス筋運動記録法を、Ano5-/-マウス及びWTマウスの後肢に行ったが、ヒト疾患と同様に、有意な変化を示さなかった(図3)。
【0109】
ヒトANO5ミオパチーの別の特性的特徴は、筋肉内堆積物を有する過剰な数の筋線維の存在である。断面筋線維径を、6ヶ月齢のAno5-/-マウス及びWT系統対照マウス(1系統当たりn=3匹のマウス)由来のTA筋及び腓腹(GAS)筋から決定した。筋肉を切片化し、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色した。1動物当たり4つのランダム20倍画像をZeiss AxioCam MRC5カメラで撮影した。線維径を、Zeiss Axiovision LE4ソフトウェアを使用して筋線維にわたって最も短い距離を測定することによって決定した。線維径ヒストグラムを、1TA当たり500~600個の線維及び1GAS当たり600~700個の線維の平均から生成した。対応のないt検定を使用して、Ano5-/-線維サイズとWT線維サイズとの間の有意差を試験した(****p<0.0001)。
【0110】
筋肉内の凝集体を定量化した。10ヶ月齢のAno5-/-マウス及びWTマウス(1組織及び1系統当たりn=3匹のマウス)のTA筋及びGAS筋からの筋肉切片を、Gomori Trichromeで染色した。4つの20倍画像を撮影し、1つ以上の凝集体を有する線維の数を、Image Jソフトウェアを使用して計数し、総線維数のパーセンテージとして表した。GraphPad Prismを使用して、一元配置分散分析を、Ano5-/-線維とWT線維との間の有意性を試験するために使用した(****p<0.0001)。
【0111】
加えて、コハク酸デヒドロゲナーゼ染色(SDH)を、凝集体及び筋肉で行った。前脛骨(TA)筋及び大腿四頭筋を18μmで切片化し、0.1Mコハク酸及び0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)中に溶解した0.2%ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)からなるSDH溶液で染色し、37℃で3時間インキュベートした。インキュベート後、スライドを水ですすぎ、連続アルコール中で脱水し、その後、キシレンで透徹した。スライドをZeiss AxioCam MRC5カメラ上で撮像した。
【0112】
4ヶ月齢及び10ヶ月齢のAno5-/-マウス及び対照マウス由来のTA筋区分を除去し、木製舌圧子にわたってそれらの生体長に伸長させ、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)中3%グルタルアルデヒド中に4時間浸漬した。筋肉を長さ2mmの組織ブロックに切除し、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)中に一晩保管し、続いて、1%四酸化オスミウム中に2時間にわたって後固定し、段階的エタノール溶液中で脱水した後、プラスチック包埋した。厚さ1μmの断面をトルイジンブルーで染色し、光学顕微鏡法によって試験し、選択されたブロック由来の組織切片を、Advanced Microscopy Techniquesカメラ及びソフトウェアを利用してHitachi H-7650 TEM電子顕微鏡下で試験した。
【0113】
Ano5-/-マウス筋肉において、これらの構造は、Pavlocicova et
al.(Gen.Physiol.Biophysics 22:425-440,2003)に記載されるように、修正トリクローム染色で赤色に染まる、厳密に規定され、不規則に輪郭形成された領域として現れる。細胞質凝集体は、9ヶ月齢の初めに明らかであり、経時的に増加した(図4a)。同様の外観の凝集体が正常な老化マウスにおいて顕著であったため、凝集体出現を定量化した。Ano5-/-線維のおよそ25%がトリクローム染色時に不規則に輪郭形成された赤色領域を示した一方で、対照線維の0.02%未満しかこれらの凝集体を有しなかった(図4b)。電子顕微鏡法(EM)は、これらの凝集体が膜質材料から成ることを明らかにした。多くのAno5-/-筋線維は、小胞膜もしくは管膜の密に密集した凝集体、または光学顕微鏡法で見られる凝集体に対応するけば状の内部小管を有する偶然に配向されて緩く密集した相互接続管形成を呈した(図4c、d)。ANO5-/-マウスは、診断されたANO5患者の病理学的所見と一致する同様の病理学的所見を示した。ANO5遺伝子のコード領域における2つの変異に複合ヘテロ接合性の患者筋肉の電子顕微鏡法[c.155A>G(p.Asn52Ser)]+[c.191dupA(p.Asn64Lysfs×15)]は、多数の凝集体及び変性ミトコンドリア領域を示す多数の部位を明らかにした。Ano5-/-筋肉中の凝集体は、SERCA1に対して陽性に染色したが、コハク酸デヒドロゲナーゼ(SDH)活性に対しては陽性に染色せず、それらがミトコンドリアではなく筋小胞体に由来することを示唆した(図4g)。しかしながら、Ano5-/-マウスは、膜凝集体に加えて変性ミトコンドリア及び筋鞘下ミトコンドリア蓄積を呈した(図4e)。ミトコンドリアの筋鞘下蓄積を、SDHに対して凍結切片を染色することによって確認し、それは、筋線維の表面近くの密集パッチに局在した(図4f)。観察されたミトコンドリア変性が機能的意義を有したかを特定するために、クエン酸シンターゼ活性を無傷のミトコンドリアの尺度として定量化し、WT対照と比較してAno5-/-筋肉抽出物の著しい減少があったことを示した。
【0114】
実施例3
Ano5が膜修復を促進する
健常個体において、通常の運動は、(i)小さい裂け目が新たな原形質膜の組立によって再封止される、(ii)より重度の破壊を有する部位が、筋芽細胞様細胞に分化し、融合して、多核筋線維を再生する衛星細胞によって修復されるという2つのプロセスによって治癒される小さい病変を原形質膜にもたらす。ANO5発現の損失の膜修復への影響を試験するために、単離された短趾屈(FDB)筋線維に送達される高強度レーザーパルスによってもたらされた膜損傷の影響を試験した。12μmの凍結切片をFisher Superfrost顕微鏡スライド上に置き、PBS中10%ヤギ血清及び0.1%Tween-20で、室温で1時間ブロックした。スライドを一次抗体中で、室温で1時間インキュベートした(Anti-FLAG F7425 Sigma-Aldrich、1:175)、Serca1 CaF2-5D2(Developmental Studies Hybridoma Bank、1:50)。その後、スライドを室温で1時間にわたってPBSで3回すすぎ、続いて、30分間ブロックした。Alexa Fluor 594にコンジュゲートしたヤギ抗マウス二次抗体(A21125、Life Technologies)またはAlexa Fluor 568にコンジュゲートしたヤヤギ抗ウサギ二次抗体(A11011、Life Technologies)を1:250でブロッキング溶液中に希釈し、45分間インキュベートし、続いて、1時間にわたってPBSで3回すすいだ。切片をVectashield(Vector Labs,Burlingame,CA)マウンティング培地にマウントし、Cy5フィルター(励起578nm~590nm、発光603nm~671nm)(Zeiss,Thornwood,NY)を使用してZeiss Axioskop 2顕微鏡で分析した。画像露光時間を、各抗体の陽性対照を使用して毎日標準化した。画像を、Axiovision
4.5ソフトウェアを使用して撮影した。
【0115】
膜損傷を、水溶液中では蛍光性ではないが、脂質環境下では明るく蛍光を発し、かつ膜修復の研究に広く使用されている膜非透過性スチリルカチオン染料であるFM1-43の蓄積によって評価した。小さい蛍光領域が、レーザー損傷直後にWT線維及びAno5-/-線維における損傷部位で検出された(図5a)。蛍光の増加は、WT線維よりもAno5-/-筋線維で大きく、約2倍速い初速度で生じた。WTの蛍光が190秒時点で水平になるように見えた一方で、Ano5-/-線維の蛍光は、本実験の期間中、増加し続けた(図5b)。
【0116】
膜修復の欠陥がANO5発現に直接関連するかを試験するために、ヒトANO5 cDNAを、アデノ随伴ウイルス(AAV)を使用してAno5-/-筋肉で発現させた(図4b、c)。ヒトANO5 cDNA(配列番号1)を、MHCK7プロモーターとポリアデニル化シグナルとの間のNot1制限部位を使用してAAV2 ITRプラスミドにクローニングした。rAAVベクターを改変クロスパッケージングアプローチによって産生し、これにより、Rabinowitz et al.(J.Virol.76:791-801,200)に記載されるように、AAV2型ITRを複数のAAVカプシド血清型にパッケージングすることができる。産生を、HEK293細胞を使用した標準の3プラスミドDNA CaPO沈降法を使用して達成した。HEK293細胞を、10%コスミック仔ウシ血清(CCS,Hyclone)を補充したDMEM中で維持した。産生プラスミドは、(i)pAAV.MHCK7.ANO5、(ii)cap血清型8様単離rh.74をコードするrep2-cap8改変AAVヘルパープラスミド、及び(iii)アデノウイルスE2A、E4 ORF6、及びVA I/II RNA遺伝子を発現するアデノウイルス5型ヘルパープラスミド(pAdhelper)であった。ベクターを、(Human Gene Ther.10:1031-10398,1999)に以前に記載されているように、線形NaCl塩勾配を使用して、連続イオジキサノール勾配精製及びアニオン交換カラムクロマトグラフィーによって浄化HEK293細胞溶解物から精製した。定量PCRベースの滴定法を、Prism 7500 Taqman検出器システム(PE Applied Biosystems,Carlsbad,CA)を利用してカプシド形成ベクターゲノム(vg)力価を決定するために使用した。
【0117】
マウス筋肉への筋肉内注射によるAAVベクターの送達。45週齢のAno5-/-マウスを、TA(n=4)筋またはFDB(n=4)筋への1×1011vgのrAAVrh.74.MHCK7.huANO5.FLAGの筋肉内注射により処置した。TA筋を注射4週間後に採取し、組織学的試験及び免疫蛍光試験のために処理した。
【0118】
短趾屈(FDB)筋線維を10週間後に採取し、レーザー誘起損傷に供した。膜修復アッセイを、Sondergaard et al.(Ann.Clin.Trans.Neurol.2:256-270,2015)によって説明されるように、Ano5-/-マウス(n=4)及び週齢一致C57BL6(n=4)マウスの左側及び右側FDB筋に行った。簡潔に言えば、FDB線維を、DMEM中に懸濁した2w/v%のコラゲナーゼI型を含有する溶液を使用して単離した。筋肉を解離した後、線維を、1.5mMのCa2+中に懸濁したダルベッコPBS(Ca/Mgなし)中の2.5μMのFM1-43色素を保持するガラス底皿に置いた。線維を、FluoView(登録商標)FV1000二光子共焦点レーザー走査顕微鏡(Olympus)を使用してレーザー損傷に供した。線維を20%電力で4.479mmの850nmレーザー誘導スポットで損傷し、190秒間にわたって5秒毎に撮像して、FM1-43色素取り込みを可視化した。1匹のマウスの1つの筋肉当たり平均7~10個の線維を撮像した(合計31個のWT線維、39個のAno5-/-線維、及び30個のAAV-ANO5レスキューAno5-/-線維)。膜上の損傷部位を取り囲む色素浸潤の蛍光強度を、Image Jソフトウェアを用いて、規定された領域内の画素強度の積分密度を測定することによって分析した。これを行うために、ImageJの2倍ズーム設定下で、0.75画素×1.00画素の大きさの矩形の箱を描き、これを使用して、その領域内の色素の強度を測定した。本分析において、個々の時点で測定された蛍光強度を、t=-5秒(損傷前)で測定した初期強度に正規化した。蛍光強度を分析したときに、各系統由来の全ての線維からの値を一緒に平均化した。二元配置分散分析を行って、各時点での処置した線維と処置していない線維との間の統計的有意性を決定した(p<0.001)。蛍光の変化を定量化するために、データ点を、Origin Pro 9.1を使用してHill等式に当てはめた。全ての曲線が調整されたR2>0.998と適合した。Ano5-/-線維、WT線維、及びAAV.ANO5処置Ano5-/-線維は、損傷後100秒時点で著しく異なった。AAV.ANO5は、Ano5-/-筋肉における膜再封止を部分的に修復した(図5a、b、c)。
【0119】
実施例4
Ano5 KOマウスにおける再生障害
筋肉再生もAno5-/-マウスにおいて欠損していたかの調査を、心臓毒注射によってもたらされた損傷から回復する筋肉の能力を試験することによって行った(図5d)。マウスを吸入イソフルレンで麻酔し、心臓毒を2週間に1回、合計3ラウンドにわたって注射した(滅菌生理食塩水で10μMに希釈)。30μL及び50μLの心臓毒を、それぞれ、8週齢のAno5-/-マウス及び週齢一致対照の左側TA筋及び左側GAS筋に注射した。滅菌生理食塩水を、偽対象として対側筋肉に注射した。マウス群を安楽死させ、マウスの筋肉を、心臓毒の最終注射後1、3、7及び14、30、及び90日時点で採取した(1時点当たり1系統当たりn=3匹のマウス)。1TA当たり4つの20倍画像を撮像し、線維径を、Axio Vision 4.8を使用して、心臓毒の最終注入の1ヶ月及び3ヶ月後にH&E染色凍結切片上で測定した。平均500~600個の筋線維を測定し、対応のないt検定を行って(GraphPad Prism)、損傷Ano5-/-マウス及び損傷対照マウスとの間の筋線維サイズの統計的有意性を決定した(****p<0.0001)。
【0120】
壊死及び再生の経時的変化を追跡するために、8週齢のマウスのTA筋及びGAS筋に、心臓毒を2週間間隔で3回注射した。組織を最終注射の1、3、7、14、30、及び90日後に採取した(図5d)。対側を生理食塩水のみ対照として使用した。WT筋肉が心臓毒処置後に再生したため、1ヶ月までに、WT筋肉が新たに再生された線維における中心核を除いて大部分は正常であるように見えた。しかしながら、Ano5-/-マウスにおいて、再生の大幅な遅延及び長期にわたる壊死が存在した。3ヶ月後、Ano5-/-筋肉の平均繊維径は、WTと比較して著しく減少したままであり、多くの線維が中心核を呈した(図5d、e)。
【0121】
実施例5
抗酸化剤療法の影響の評価
アノクタミン5欠損(Ano5-/-)マウスの骨格筋に対する三重抗酸化剤食餌の潜在的利益を試験するために、2ヶ月齢の野生型(WT)BL6マウス及びAno5-/-マウスのコホートに、通常のマウス飼料、または1000IUのビタミンE、0.1%α-リポ酸、及び0.25%補酵素Q10(還元ユビキノール形態)を含む三重抗酸化剤組成物を補充した食餌のいずれかを与えた。マウスを、16週間の期間にわたって4週間毎に3日間連続疲労するまで走行させ、屠殺して、筋肉健康(活動及び横隔膜力)ならびに酸化ストレス(クエン酸シンターゼ活性及びpgc1α発現)に関連する機能的結果評価基準を試験した。
【0122】
オープンフィールドケージ活動のレーザー監視
オープンフィールド活動チャンバを使用して、いくつかの修正を加えて以前に説明されたプロトコル(Kobayashi et al.,Nature 456:511-5(2008)、Beastrom et al.,Am J Pathol 179:2464-74(2011))に従って、実験マウスの全体活動を決定した。全てのマウスを、マウスが最も活動的である早朝からその夜の終わり間近のサイクルで、毎日同じ時間に試験した。全てのマウスを、毎回薄暗い光下で、かつ同じ飼育係により、隔離室で試験した。また、不安を軽減し、マウスの通常の行動、ひいてはアッセイの結果に影響を与える可能性があり得る可変的行動を最小限に抑えるために以前の報告で行われたように、我々は、個別に収容されていないマウスを試験した(Voikar et al.,Genes Brain Behav 4:240-52(2005))。マウスの行動を、Photobeam Activity System(San Diego Instruments,San Diego,CA)を使用して監視した。このシステムは、動物チャンバの前後かつ左右を横断する不可視赤外光線のグリッドを使用して、X-Y-Z平面内のマウスの位置及び動きを監視する。活動を、5分間間隔の1時間サイクルで記録した。マウスを、データ取得開始の数日前に1時間セッションで活動試験室に順応させた。マウスを、4匹1組で、個別のチャンバ内で試験した。試験機器を使用毎に掃除して、我々の結果を変化させ得るマウスの反動的な可変的行動を低減した。収集したデータをMicrosoft Excelワークシートに変換し、全ての計算をExcelプログラム内で行った。各マウスのX平面及びY平面における動きの個々の光線中断を加算して、合計歩行を表し、Z平面における光線中断を加算して、1時間間隔内での垂直活動を得た。
【0123】
12週及び16週の終わりに、各群から2匹のマウスを活動ケージ内に置いて、自発的活動を監視した。全マウス活動を、マウスがトレッドミル疲労後45分間以内に水平及び/または垂直レーザー光線を中断した回数として測定した(図6)。抗酸化剤食餌を与えたAno5-/-マウスが16週時点で標準の(プラセボ)食餌を与えたマウスよりも活動的であったことが見出され、抗酸化剤が疲労後の自発的活動にプラスの影響を与えることを示唆する。
【0124】
機能的評価のための横隔膜強縮性収縮
行動アッセイがいくらかの処置効果を示唆したが、これらの結果評価基準は、食餌とは無関係のいくつかの可変物の影響を受けやすい。抗酸化剤補給の骨格筋機能への影響を試験するために、力測定をAno5-/-マウス及びWTマウスの横隔膜で行った(図7)。Ano5-/-マウスが横隔膜力を欠損しているが、肢筋では欠損していないことが以前に実証された(Griffin et al.,Hum Mol Genet 25:1900-1911(2016))ため、横隔膜を選択した。
【0125】
マウスを安楽死させ、横隔膜を、肋骨が付いた状態で、かつ腱中心を無傷の状態で切除し、以前に説明されたように、K-H緩衝液中に置いた(Beastrom et al.,Am J Pathol 179:2464-74(2011)、Rafael-Fortney et al.,Circulation 124:582-8(2011)、Moorwood et al.,Journal of Visualized Experiments 71:e50036(2013))。2~4mm幅の横隔膜切片を単離した。横隔膜条片を腱中心で編組外科用絹糸(6/0、Surgical Specialties,Reading,PA)を用いてしっかり結び、条片の遠位端に取り付けられた肋骨の一部分を通して縫合した。各筋肉を、37℃で維持した酸素化K-H溶液を充填した水浴に移した。筋肉を水平に整列させ、固定ピンとデュアルモード力変換器サーボモーター(305C、Aurora Scientific,Aurora,Ontario,Canada)との間で直接結んだ。2つの白金プレート電極を、筋肉の長さに隣接するように臓器浴内に位置付けた。筋肉を攣縮収縮の測定のために最適な長さに伸長させ、その後、10分間静置させた後に、強縮プロトコルを開始した。筋肉が安定した時点で、筋肉を1gの最適な長さに設定し、30秒毎に3回の1Hz攣縮、続いて、1分毎に3回の150Hz攣縮からなるウォームアップに供した。3分間の休止期間後、横隔膜を、各刺激間に2分間の休止期間を設けて、20、50、80、120、150、180Hzで各々250ミリ秒間刺激して、最大強縮力を決定した。筋肉の長さ及び重量を測定した。力を、筋肉の重量及び長さに対して正規化した。プラセボ処置ano5-/-マウスと比較して、三重抗酸化剤処置ano5-/-マウスにおいて横隔膜比力の著しい改善が観察された(図7)。
【0126】
ミトコンドリア新生
三重抗酸化剤療法と酸化線維含有量との関係を確立して、ミトコンドリア新生及び機能を分析した。以前の研究は、経路を刺激する運動がミトコンドリア新生をもたらす一方で、抗酸化剤療法がこのシグナル伝達を減少させることを示している。雄腓腹筋組織の結果により、抗酸化剤処置がミトコンドリア新生の主要調節因子であるPGC-1aの発現を減少させたことが確認された(図8a)。興味深いことに、クエン酸シンターゼ活性が、全ての遺伝子型-性組み合わせのうちで、抗酸化剤を与えたマウスにおいてより高いことが見出された(図8b)。これに対する1つの単純な説明は、ミトコンドリア含有量の高い酸化線維の割合の増加が、1線維当たりのミトコンドリア新生のいずれの減少も隠すことである。
【0127】
要約すれば、三重抗酸化剤療法が、自発的活動、横隔膜強度、線維サイズ、線維型組成、及びミトコンドリア酵素活性を含む筋肉生理学及び機能のいくつかの評価基準に著しい影響を与えることが見出された。これらの結果は、ある特定の場合、性特異的であることが見出された。LGMD2Lは、より大きな影響を受けた雄で性特異的である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
2023099184000001.app