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特開2023-99190中枢神経系のα-L-イデュロニダーゼ活性を増加させるための方法および組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023099190
(43)【公開日】2023-07-11
(54)【発明の名称】中枢神経系のα-L-イデュロニダーゼ活性を増加させるための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20230704BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 38/47 20060101ALI20230704BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230704BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230704BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230704BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20230704BHJP
   C12N 9/14 20060101ALI20230704BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20230704BHJP
【FI】
C07K19/00
A61K39/395 N ZNA
A61K39/395 D
A61K38/47
A61K47/68
A61P25/00
C07K16/28
C07K14/47
C12N9/14
C12N15/09 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077007
(22)【出願日】2023-05-09
(62)【分割の表示】P 2021123150の分割
【原出願日】2008-07-25
(31)【優先権主張番号】60/952,547
(32)【優先日】2007-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】508105751
【氏名又は名称】アーマジェン・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ARMAGEN, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100128897
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 佳希
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム・エム・パードリッジ
(72)【発明者】
【氏名】ルーベン・ジェイ・ボアド
(57)【要約】
【課題】CNS中のα-L-イデュロニダーゼ欠損症に罹患した対象を治療するための方法および組成物を提供する。
【解決手段】Fab断片の重鎖のカルボキシ末端に,α-L-イデュロニダーゼが結合した融合抗体であって,該Fab断片は血液脳関門上に発現されたレセプターの細胞外ドメインに特異性を有し,該α-L-イデュロニダーゼは配列番号9に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の同一性を有するものである融合抗体,及びかかる融合蛋白質を含んでなる,中枢神経系のハーラー(Hurler)症候群又はシャイエ症候群の治療に用いられるものである医薬組成物。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fab断片の重鎖のカルボキシ末端に,α-L-イデュロニダーゼが結合した融合抗体であって,
該Fab断片は血液脳関門上に発現されたレセプターの細胞外ドメインに特異性を有し,
該α-L-イデュロニダーゼは配列番号9に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の同一性を有するものである,融合抗体。
【請求項2】
請求項1の融合抗体及び薬理学的に許容される担体を含む,医薬組成物。
【請求項3】
中枢神経系のハーラー(Hurler)症候群又はシャイエ症候群の治療に用いられるものである,請求項2の医薬組成物。
【請求項4】
中枢神経系のシャイエ症候群の治療に用いられるものである,請求項2の医薬組成物。
【請求項5】
静脈内投与により患者に投与されるものである,請求項3の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
クロスリファレンス
本願は2007年7月27日出願の米国仮出願No.60/952,547の利益を主張する。
本発明は,中枢神経系のα-L-イデュロニダーゼ活性を増加させるための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ハーラー(Hurler)症候群としても知られるI型ムコ多糖症 (MPS)は,ムコ多糖を分解する働きをする酵素α-L-イデュロニダーゼ(IDUA)の欠損に起因する固有の代謝性疾患である。IDUAレベルの不足は,例えば,心臓,肝臓,および中枢神経系におけるヘパラン硫酸およびデルマタン硫酸の病的増加を引き起こす。神経変性および精神遅滞を含む症状が幼児期に発現し,臓器損傷により早死することがある。典型的には,治療には,組み換えIDUAによる静脈内酵素補充療法が含まれる。しかしながら,全身的に投与された組み換えIDUAは血液脳関門(BBB)を横切らないので,中枢神経系(CNS)の疾患の影響に対する効果はほとんどない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
(発明の要約)
本願は,IDUA欠損症に罹患した対象を治療するための方法および組成物について記載する。特に,本方法は,治療的有効量の2機能性ヒトインスリンレセプター抗体-IDUA (HIR Ab-IDUA) 融合抗体を全身投与することによりCNSへのIDUAの送達を可能にする。HIR Ab-IDUA融合抗体は,該インスリンレセプターの細胞外ドメインと結合し,IDUA活性を保持したまま,血液脳関門を横切ってCNS内に輸送される。全身投与のためのHIR Ab-IDUA融合抗体の治療的有効量は,本明細書に記載の末梢血液からの該融合抗体の特異的CNS取り込み特性に一部基づくだろう。
【課題を解決するための手段】
【0004】
したがって,ある局面において,本発明は,治療的有効量のα-L-イデュロニダーゼ活性を有する融合抗体を対象に全身投与することを含む,中枢神経系のα-L-イデュロニダーゼ欠損症の治療を必要とする対象の中枢神経系のα-L-イデュロニダーゼ欠損症の治療方法を提供する。該方法は,以下を特徴とする:(i) 治療的有効量の少なくとも約0.5%が脳に送達され,(ii) 該融合抗体が (a)免疫グロブリン重鎖とα-L-イデュロニダーゼのアミノ酸配列を含む融合タンパク質,および(b)免疫グロブリン軽鎖を含み,(iii)該融合抗体がヒトインスリンレセプターの細胞外ドメインと結合してデルマタン硫酸中の非硫酸化α-L-イデュロノシド結合の加水分解を触媒し,(iv) α-L-イデュロニダーゼのアミノ酸配列が免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列のカルボキシ末端に共有結合する。
【0005】
ある態様において,少なくとも約50,000単位のα-L-イデュロニダーゼ活性が脳に送達される。ある態様において,該融合抗体の治療的有効量は,少なくとも約1 x 106単位のα-L-イデュロニダーゼ活性または少なくとも約140,000単位/Kg体重を含む。ある態様において,該融合抗体のIDUA特異活性は少なくとも200,000単位/mgである。ある態様において,全身投与は,非経口的,静脈内,皮下,筋肉内,経鼻,動脈内,経皮,または経気道的である。ある態様において,治療的有効量の少なくとも0.5%の脳への送達が全身投与後2時間以内に生じる。
【0006】
ある態様において,該融合抗体はキメラ抗体である。
【0007】
ある態様において,該融合抗体の免疫グロブリン重鎖は,4個以下の単一アミノ酸突然
変異を有する配列番号1のアミノ酸配列に対応するCDR1,6個以下の単一アミノ酸突然変異を有する配列番号2のアミノ酸配列に対応するCDR2,または3個以下の単一アミノ酸突然変異を有する配列番号3のアミノ酸配列に対応するCDR3を含み,単一アミノ酸突然変異が置換,欠失,または挿入である。
【0008】
他の態様において,該融合抗体の免疫グロブリン重鎖は,3個以下の単一アミノ酸突然変異を有する配列番号1のアミノ酸配列に対応するCDR1,6個以下の単一アミノ酸突然変異を有する配列番号2のアミノ酸配列に対応するCDR2,および3個以下の単一アミノ酸突然変異を有する配列番号3のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
【0009】
他の態様において,該融合抗体の免疫グロブリン重鎖は,配列番号1のアミノ酸配列に対応するCDR1,配列番号2のアミノ酸配列に対応するCDR2,または配列番号3のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
【0010】
さらなる態様において,該融合抗体の免疫グロブリン重鎖は,配列番号1のアミノ酸配列に対応するCDR1,配列番号2のアミノ酸配列に対応するCDR2,および配列番号3のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
【0011】
ある態様において,該融合抗体の免疫グロブリン軽鎖は,3個以下の単一アミノ酸突然変異を有する配列番号4のアミノ酸配列に対応するCDR1,5個以下の単一アミノ酸突然変異を有する配列番号5のアミノ酸配列に対応するCDR2,または5個以下の単一アミノ酸突然変異を有する配列番号6のアミノ酸配列に対応するCDR3を含み,単一アミノ酸突然変異が置換,欠失,または挿入である。
【0012】
他の態様において,該融合抗体の免疫グロブリン軽鎖は,3個以下の単一アミノ酸突然変異を有する配列番号4のアミノ酸配列に対応するCDR1,5個以下の単一アミノ酸突然変異を有する配列番号5のアミノ酸配列に対応するCDR2,および5個以下の単一アミノ酸突然変異を有する配列番号6のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
【0013】
他の態様において,該融合抗体の免疫グロブリン軽鎖は,配列番号4のアミノ酸配列に対応するCDR1,配列番号5のアミノ酸配列に対応するCDR2,または配列番号6のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
【0014】
さらなる態様において,該融合抗体の免疫グロブリン軽鎖は,配列番号4のアミノ酸配列に対応するCDR1,配列番号5のアミノ酸配列に対応するCDR2,および配列番号6のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
【0015】
ある態様において,該融合抗体の免疫グロブリン重鎖は,配列番号1のアミノ酸配列に対応するCDR1,配列番号2のアミノ酸配列に対応するCDR2,および配列番号3のアミノ酸配列に対応するCDR3を含み,免疫グロブリン軽鎖は,配列番号4のアミノ酸配列に対応するCDR1,配列番号5のアミノ酸配列に対応するCDR2,および配列番号6のアミノ酸配列に対応するCDR3を含む。
【0016】
ある態様において,該融合抗体の免疫グロブリン重鎖は,配列番号7と少なくとも90%同一であり,軽鎖免疫グロブリンのアミノ酸配列が配列番号8と少なくとも90%同一である。
【0017】
ある態様において,該融合抗体の免疫グロブリン重鎖は配列番号7を含み,軽鎖免疫グロブリンのアミノ酸配列は配列番号8を含む。
【0018】
さらなる態様において,α-L-イデュロニダーゼは,配列番号9と少なくとも90% (例え
ば,95%または100%)同一のアミノ酸配列を含む。
【0019】
他の態様において,該融合抗体の免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列は,配列番号7と少なくとも90%同一であり,軽鎖免疫グロブリンのアミノ酸配列が配列番号8と少なくとも90%同一であり,α-L-イデュロニダーゼのアミノ酸配列が配列番号9と少なくとも95%同一であるか,または配列番号9を含む。
【0020】
さらに他の態様において,融合抗体の免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列は配列番号8を含み,免疫グロブリン軽鎖のアミノ酸配列は配列番号8を含み,IDUAのアミノ酸配列は配列番号9を含む。
【0021】
さらなる局面において,本発明は,治療的有効量の,α-L-イデュロニダーゼ活性を有する融合抗体を対象に全身投与することを含む,中枢神経系のα-L-イデュロニダーゼ欠損症の治療を必要とする対象の中枢神経系のα-L-イデュロニダーゼ欠損症の治療方法であって,(i) 全身投与された治療的有効量の少なくとも約0.5%が脳に送達され,(ii) 該融合抗体が (a)配列番号10と少なくとも95%同一な融合タンパク質,および(b)免疫グロブリン軽鎖を含み,および(iii)該融合抗体がヒトインスリンレセプターの細胞外ドメインと結合し,デルマタン硫酸中の非硫酸化α-L-イデュロノシド結合の加水分解を触媒することを特徴とする方法を提供する。
【0022】
さらなる別の局面において,本発明は,治療的有効量のα-L-イデュロニダーゼ活性を有する融合抗体を対象に全身投与することを含む,中枢神経系のα-L-イデュロニダーゼ欠損症の治療を必要とする対象の中枢神経系のα-L-イデュロニダーゼ欠損症の治療方法であって,(i) 治療的有効量の少なくとも約0.5%が脳に送達され,(ii) 該融合抗体が,免疫グロブリン重鎖とα-L-イデュロニダーゼのアミノ酸配列を含む融合タンパク質を含むか,または免疫グロブリン軽鎖およびα-L-イデュロニダーゼのアミノ酸配列を含む融合タンパク質を含み,ヒトインスリンレセプターの細胞外ドメインと結合し,デルマタン硫酸中の非硫酸化α-L-イデュロノシド結合の加水分解を触媒し,(iii) α-L-イデュロニダーゼのアミノ酸配列が免疫グロブリン重鎖または免疫グロブリン軽鎖のアミノ酸配列のカルボキシ末端と共有結合する,ことを特徴とする方法を提供する。
【0023】
本発明の新規な特徴は,添付の特許請求の範囲に詳細に記載している。本発明の特徴と利点は,本発明の原理を利用する例示的態様を記載した以下の詳細な説明,ならびに添付の図面を参照することにより,より良く理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】ヒトインスリンレセプターの細胞外ドメインに対する典型的なヒトインスリンレセプター抗体からの免疫グロブリン重鎖可変領域のアミノ酸配列。下線を付した配列は,それぞれ単一ペプチド,CDR1,CDR2,およびCDR3である。ヒトIgG1から得た重鎖定常領域をイタリック体で示す。
図2】ヒトインスリンレセプターの細胞外ドメインに対する典型的なヒトインスリンレセプター抗体からの免疫グロブリン軽鎖可変領域のアミノ酸配列。下線を付した配列は,それぞれ単一ペプチド,CDR1,CDR2,およびCDR3である。ヒトκ軽鎖由来の定常領域をイタリック体で示す。
図3】ヒトインスリンレセプターの細胞外ドメインに対する典型的なヒトインスリンレセプター抗体の重鎖および軽鎖由来のCDR1,CDR2,およびCDR3 アミノ酸配列を示す表。
図4】最初の26アミノ酸のシグナルペプチド(成熟IDUA)を含まないヒトα-L-イデュロニダーゼ (IDUA)のアミノ酸配列(GenBank NP_000194)。
図5】典型的なヒトインスリンレセプター抗体重鎖の成熟ヒトIDUAとの融合物のアミノ酸配列。下線を付した配列は,順に,IgGシグナルペプチド,CDR1,CDR2,CDR3,および重鎖のカルボキシ末端とIDUAのアミノ末端を結合するペプチドリンカーである。イタリックの配列は,ヒトIgG1から得た重鎖定常領域に対応する。太字の配列はヒトIDUAに対応する。
図6】典型的なHIR Ab-IDUA融合抗体は,成熟IDUAのアミノ末端のHIR Abの重鎖のCH3領域のカルボキシル末端との融合により形成される。該融合タンパク質は二機能性分子であり:該融合タンパク質は血液脳関門でHIRと結合し,脳内への輸送を仲介し,MPS I型(ハーラー症候群)で欠損しているIDUA酵素活性を発現させる。
図7】融合抗体が分子トロイ木馬(TH)として働くヒトインスリンレセプターの細胞外ドメインに対する抗体,およびIDUA,リソソーム酵素(E)を含む,「分子トロイ木馬」戦略の模式図。IDUAは通常それ自身は血液脳関門(BBB)を横切らない。しかしながら,IDUAのTHへの融合後に,該酵素は,脳の両方の膜に発現するIRに輸送されて,血液脳関門および脳細胞膜を横切ることができる。
図8】ヒト肝臓cDNA,およびIDUA-特異的ODNプライマー(表I)からPCRにより作製されたヒトIDUA cDNA (レーン1)のアガロースゲルのエチジウムブロマイド染色。レーン2および3:PhiX174 HaeIII消化DNA標準,およびLambda HindIII消化DNA標準。
図9】抗ヒト(h)IgG一次抗体 (右パネル)またはウサギ抗ヒトIDUA一次抗血清 (左パネル)のウエスタンブロット。HIR Ab-IDUA融合抗体の免疫応答性をHIR Ab単独と比較する。HIR Ab-IDUA融合抗体とHIR Abはいずれも抗hIgGウエスタンにおいて同じ軽鎖を有する。HIR Ab-IDUA融合重鎖は抗hIgG抗体および抗ヒトIDUA抗体の両方と反応するが,HIR Ab重鎖は抗hIgG抗体のみと反応する。HIR Ab-IDUA融合重鎖のサイズ130 kDaは,50 kDa HIR Ab重鎖に80 kDa IDUAが融合しているため,HIR Abの重鎖のサイズより約80 kDa大きい。
図10】キメラHIR AbまたはHIR Ab-IDUA融合タンパク質のHIR 細胞外ドメイン (ECD)との結合は飽和できる。HIR Ab-IDUAのHIR ECDとの結合のED50は,キメラHIR Abの結合のED50と同程度である。
図11】(A) 細胞内IDUA酵素活性は,ハーラー繊維芽細胞において培地HIR Ab-IDUA融合タンパク質の濃度に比例して増加する。データは平均±SEで示す(n=3ディッシュ/点)。水平バーは,健康ヒト繊維芽細胞中のIDUA酵素活性(284±5単位/mgタンパク質)である。(B) 培地中0.3μg/mLのHIR Ab-IDUA融合タンパク質で単回処理したハーラー繊維芽細胞におけるグリコサミノグリカン(GAG)蓄積の逆転。健康ヒト繊維芽細胞の35S取り込みに比べてGAG蓄積の70%の低下がみられる(p<0.0005)。データは平均±SEである(n=5ディッシュ/点)。
図12】(A,B,C,D) ハーラー繊維芽細胞をHIR Ab-IDUA融合タンパク質と24時間インキュベーションし,次いで固定し,共焦点顕微鏡検査のために免疫染色した。固定細胞をヒトIDUAに対するウサギポリクローナル抗体で染色した(パネルA:赤色チャンネルシグナル,ここでは黒と白で示す。),およびヒトリソソーム結合膜タンパク質(LAMP)-1に対するマウスモノクローナル抗体(パネルB:緑色チャンネルシグナル,ここでは黒と白で示す。)。パネルCのオーバーラップ画像は,リソソーム内へのHIR Ab-IDUA融合タンパク質の捕捉を示す。パネルDは,陰性コントロール一次抗体:ウサギ血清およびマウスIgGのオーバーラップ画像である。(E)[125I]-HIR Ab-IDUA融合タンパク質を静脈内投与後2時間で除去したアカゲザル脳のフィルムオートラジオグラフィー。前脳(上パネル),中脳(中パネル),および後脳/小脳 (下パネル)の冠状断面を示す。
図13】成アカゲザルにおける融合タンパク質の薬物動態および脳への取り込み。(A) 麻酔成アカゲザルに該タンパク質を単回静脈内注射後の時間に対してプロットした[125I]-HIR Ab-IDUA融合タンパク質の注射用量(ID)/mLのパーセントで表した血清濃度;該血清濃度を125I放射能(黒記号)またはIDUA酵素活性(白記号)で表す。(B) [125I]-HIR Ab-IDUA融合タンパク質を注射後120分における分布容量(VD)を全脳乳剤および血管後(post-vascular)上清について示す。両コンパートメントにおけるVDの同等性は,in vivoで血液脳関門を通過する該融合タンパク質の輸送に関して明らかである(方法)。[3H]-マウスIgG2aのデータはPardridge et al (1995)のものである。
図14】重鎖 (HC)融合遺伝子,軽鎖 (LC)遺伝子,DHFR遺伝子,およびneo遺伝子をコードする4個の別個のタンデム発現カセットをコードするタンデムベクター(TV-HIRMAb-IDUA)の遺伝子操作。
図15】CHO由来HIRMAb-IDUA融合タンパク質の3カラム精製法は,プロテインAアフィニティークロマトグラフィー(A),SPセファロース陽イオン交換(CATEX)クロマトグラフィー(B),およびQセファロース陰イオン交換(ANEX)クロマトグラフィー(C)を用いる。各カラムの融合タンパク質の溶出ピークは,図中に角括弧で示す。
図16】CHO細胞由来のHIRMAb-IDUA融合タンパク質を,レーン3に示すように還元SDS-PAGEを用いて均一に精製する。レーン2は,融合IDUAを含まないキメラHIRM Abである。HIRMAb-IDUA融合タンパク質のHCのMWは,IDUA酵素の融合によりHIRM AbのHCより約85 kDa大きい。レーン1および4はMW標準である。
図17】ヒトIgG重鎖 (レーン1)またはヒトIDUA (レーン2)に対する一次抗体を用いるCHO細胞由来のHIRMAb-IDUA融合タンパク質のウエスタンブロット。両抗体は,130 kDa HIRMAb-IDUA融合タンパク質重鎖と等しく反応する。
図18】キメラHIRMAbまたはCHO細胞由来HIRMAb-IDUA融合タンパク質のHIR 細胞外ドメイン (ECD)に対する結合は飽和できる。HIR ECDに結合するHIRMAb-IDUAのED50は,キメラHIRMAbの結合のED50と同程度であり,HIRに対する親和性はIDUAのHIRMAb重鎖との融合により損なわれないことを示唆する。
図19】CHO由来HIRMAb-IDUA融合タンパク質のIDUA酵素活性は,4-メチルウンベリフェリル-L-α-イデュロニド (MUBI)を基質に,4-メチルウンベリフェロン (4-MU)をアッセイ標準に用いる蛍光分析酵素アッセイにおいて291±9単位/μgタンパク質(1単位=1nmol/hr)であった。IDUA酵素活性は,HIRMAb-IDUA融合タンパク質の質量と時間について直線状である。HIRMAb-IDUA融合タンパク質のIDUA酵素特異的活性は組み換えIDUAと同程度である。
図20】2本のTosoHaas G3000SWXLカラムを連続して用いるサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)HPLC。CHO由来HIRMAb-IDUA融合タンパク質は凝集物を含まない一種類で溶出される。
【0025】
(発明の詳細な説明)
血液脳関門は,全身投与したIDUA (例えば,組み換えIDUA) の中枢神経系への送達に対する厳格な障害である。本明細書に記載の方法および組成物は,治療的に有意なレベルのIDUA活性を血液脳関門を横切ってCNSに送達するのに重要な以下の3つの要因に対処する:1)血液脳関門を横切るのを可能にするIDUAの修飾,2)全身投与した修飾IDUAのCNS内への取り込み量と速度,および3)血液脳関門を横切ったIDUA活性の保持。本明細書に記載の方法および組成物の種々の局面は,(1)ヒトインスリンレセプターの細胞外ドメインに対する免疫グロブリン (重鎖または軽鎖)と介在配列有りまたは無しで融合したIDUA (すなわち,IDUA活性を有するタンパク質)を含むヒトインスリンレセプター (HIR)抗体 (Ab)-IDUA融合抗体を提供し,(2)該融合抗体のCNSへの取り込みとその特異活性の特徴付けに基づいて該融合抗体の治療的有効全身用量を確立する,ことによりこれらの要因に対処する。
【0026】
したがって,本発明は,中枢神経系のα-L-イデュロニダーゼ欠損症の治療を必要とする対象に,治療的有効量の,α-L-イデュロニダーゼ活性を有し,ヒトインスリンレセプターの細胞外ドメインに選択的に結合する2機能性HIRAb-IDUA融合抗体を全身投与することにより,中枢神経系のα-L-イデュロニダーゼ欠損症を治療するための組成物および方法を提供する。
定 義
【0027】
本明細書で用いている「治療(処置)」または「治療(処置)する」には,治療的利益および/または予防的利益を得ることが含まれる。治療的利益とは,治療する基礎疾患や病状の根絶や改善を意味する。例えば,ハーラー症候群の個体において,治療的利益には,該障害の進行の部分的または完全な停止,または該障害の部分的または完全な改善が含まれる。また,治療的利益は,患者がまだ該病状に罹患しているかもしれないという事実にも関わらず,患者に改善がみられるような基礎疾患と関連した1またはそれ以上の生理学的症状や心理学的症状を根絶または改善することである。治療の予防的利益には,病状の予防,病状の進行の遅延(例えばリソソーム貯蔵障害の進行の鈍化),または病状が発生する確率の減少が含まれる。本明細書で用いている「治療する」または「治療」は予防を含む。
【0028】
本明細書で用いている用語「有効量」は,全身投与した時に,CNSにおける有益または目的とする効果,例えば有益または目的とする臨床効果,すなわち認識,記憶,気分,もしくは他の目的とするCNS効果を得るのに十分な量でありうる。また,有効量は,予防効果を生じる量,例えば病的もしくは望ましくない状態の出現を遅らせ,減らし,または除去する量である。そのような病状には,限定されるものではないが,精神遅滞,難聴,および神経変性が含まれる。有効量は1回またはそれ以上の投与で投与することができる。治療に関して,本発明の組成物の「有効量」は,障害,例えば神経学的障害の進行を緩和し,軽減し,安定化し,改善し,または減速するのに十分な量である。「有効量」は,本発明のあらゆる組成物単独,または該組成物を疾患または障害を治療するのに用いる1またはそれ以上の薬剤と組み合わせたものでありうる。本発明の意味内で治療剤の「有効量」は,患者の担当医師または獣医師により決定される。そのような量は,当業者により容易に確認されるか,本発明に従って投与するとき治療効果がある。どれが治療的有効量になるかに影響を及ぼす因子には,投与するHIR Ab-IDUA融合抗体のIDUA特異活性,その吸収プロフィール(例えば,その脳内への取り込み),障害が始まってからの経過時間,および治療する個体の年齢,身体状態,他の病状の存在,および栄養状態が含まれる。さらに,患者が受けるかも知れない他の薬物療法は,投与する治療薬の治療的有効量に影響するだろう。
【0029】
本明細書で用いている「対象」または「個体」は,動物,例えば哺乳動物である。ある態様において,「対象」または「個体」はヒトである。ある態様において,対象は,ムコ多糖症 I型H (「ハーラー症候群」),ムコ多糖症 I型S (「シャイエ症候群」),またはムコ多糖症 I型H-S (「ハーラー-シャイエ症候群)に罹患している。
【0030】
ある態様において,HIR-IDUA融合抗体を含む医薬組成物は,「末梢に投与される」または「末梢的に投与される」。本明細書で用いているこれら用語は,薬剤,例えば治療剤の,CNSに直接投与されない,すなわち,薬剤を血液脳関門の非脳側と接触させる,あらゆる形の個体への投与を表す。本明細書で用いている「末梢投与」には,静脈内,動脈内,皮下,筋肉内,腹腔内,経皮,吸入,経口腔,鼻内,直腸内,経口,非経口的,舌下,または経鼻が含まれる。
【0031】
本明細書において「医薬的に許容される担体」または「医薬的に許容される賦形剤」とは,該組成物を投与された個体に有害な抗体の産生を誘導しないあらゆる担体をいう。そのような担体は当業者によく知られている。医薬的に許容される担体/賦形剤に関する詳細な考察は,Remington’s Pharmaceutical Sciences,Gennaro,AR,編,第20版,2000:Williams and Wilkins PA,USA.に記載されている。典型的な医薬的に許容される担体には,塩,例えば鉱酸塩,例えば,塩酸塩,臭化水素酸塩,リン酸塩,硫酸塩など,および有機酸塩,例えば酢酸塩,プロピオン酸塩,マロン酸塩,安息香酸塩などが含まれうる。例えば,本発明の組成物は,液体型で提供され,0.01~1%のポリソルベート80のような界面活性剤,または炭水化物添加物,例えばマンニトール,ソルビトール,またはトレハロースを含むか含まない,様々なpH(5~8)の生理食塩水ベースの水性溶液中で処方される。普通に用いられる緩衝液には,ヒスチジン,酢酸塩,リン酸塩,またはクエン酸塩が含まれる。
【0032】
「組み換え宿主細胞」または「宿主細胞」は,挿入に用いた方法,例えば直接取り込み,形質導入,f-メイティング,または組み換え宿主細胞を作製するための当該分野で知られた他の方法に関わらず,外因性ポリヌクレオチドを含む細胞を表す。外因性ポリヌクレオチドは,非統合ベクター,例えばプラスミドとして維持するか,または宿主ゲノムに統合することができよう。
【0033】
用語「ポリペプチド」,「ペプチド」,および「タンパク質」は,本明細書ではアミノ酸残基のポリマーを表すのに互換性に用いる。すなわち,ポリペプチドに関する記載は,ペプチドの記載およびタンパク質の記載と(逆もある)同じに適用する。該用語は,天然のアミノ酸ポリマー,ならびに1またはそれ以上のアミノ酸残基が非天然のアミノ酸,例えばアミノ酸類似体であるアミノ酸ポリマーに適用する。本明細書で用いている,該用語には,アミノ酸残基が共有ペプチド結合により結合している完全長タンパク質(すなわち抗原)を含む,あらゆる長さのアミノ酸鎖を含む。
【0034】
用語「アミノ酸」は,天然および非天然のアミノ酸,および天然のアミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣薬を表す。天然にコードされたアミノ酸には20個の一般的アミノ酸(アラニン,アルギニン,アスパラギン,アスパラギン酸,システイン,グルタミン,グルタミン酸,グリシン,ヒスチジン,イソロイシン,ロイシン,リジン,メチオニン,フェニルアラニン,プロリン,セリン,トレオニン,トリプトファン,チロシン,およびバリン),およびピロリジン,およびセレノシステインがある。アミノ酸類似体とは,天然アミノ酸と同じ基本化学構造を有する化合物,すなわち,水素,カルボキシル基,アミノ基,およびR基と結合したα炭素,例えばホモセリン,ノルロイシン,メチオニンスルホキシド,メチオニンメチルスルホニウムをいう。そのような類似体は,修飾R基(例えば,ノルロイシン)または修飾ペプチド骨格を有するが,天然アミノ酸と同じ基本化学構造を保持する。
【0035】
アミノ酸は,本明細書において一般に知られる3文字記号,またはIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionが推奨する1文字記号で表されよう。同様に,ヌクレオチドは,一般に受け入れられている1文字コードで表されよう。
【0036】
用語「核酸」は,デオキシリボヌクレオチド,デオキシリボヌクレオシド,リボヌクレオシド,またはリボヌクレオチド,およびそれらの一本鎖または二本鎖型のポリマーを表す。特に限定しない限り,該用語は,基準核酸と同様の結合特性を有し,天然ヌクレオチドと同じように代謝される,天然ヌクレオチドの既知の類似体を含む核酸を含む。別に特に限定しない限り,該用語は,オリゴヌクレオチド類似体(PNA(ペプチド核酸)を含む),アンチセンス技術に用いるDNA類似体も含まれる(ホスホロチオエート,ホスホロアミダートなど)。別に示さない限り,特定の核酸配列は,暗にその保存的修飾変異体(限定されるものではないが,縮重コドン置換を含む),および相補配列,および暗に示した配列も含む。具体的には,縮重コドン置換は,1またはそれ以上の選択した(またはすべての)コドンの第3位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換されている配列を製造することにより得ることができよう (Batzer et al.,Nucleic Acid Res. 19:5081 (1991);Ohtsuka et al.,J. Biol. Chem. 260:2605-2608 (1985);およびCassol et al. (1992);Rossolini et al.,Mol. Cell. Probes 8:91-98 (1994))。
【0037】
用語「単離された」および「精製された」は,実質的か本質的に,天然環境から取り出されるかまたは濃縮された物質を表す。例えば,単離された核酸は,試料中の,正常では隣り合った核酸,または他の核酸もしくは成分(例えば,脂質など)から分離されたものでありうる。別の例において,ポリペプチドは,天然環境から実質的に取り出されるか濃縮されていれば,精製されている。核酸およびタンパク質の精製および単離方法は当該分野でよく知られている。
血液脳関門
【0038】
ある局面において,本発明は,血液脳関門(BBB)を横切ることができるHIR Abと融合したIDUAを利用する組成物および方法を提供する。該組成物および方法は,該組成物および方法は,末梢血から血液脳関門を横切ってCNS内にIDUAを輸送するのに有用である。本明細書で用いている,「血液脳関門」は,末梢循環と脳および脊髄の間の障壁をいい,脳毛細管内皮細胞膜内の密着結合(タイトジャンクション)により形成される,分子量60Daの,尿素のような小さな分子でさえも,分子の脳内への輸送を制限するきわめて厳重な障壁を形成する。脳内の血液脳関門,脊髄内の血液-脊髄関門,および網膜内の血液網膜関門は,中枢神経系 (CNS)内の隣接毛細管関門であり,まとめて血液脳関門またはBBBという。
【0039】
血液脳関門は,脳およびCNS用の新規神経治療薬,診断薬,および研究手段の開発を制限する。本質的に,組み換えタンパク質,アンチセンス医薬,遺伝子薬,精製抗体,またはRNA干渉(RNAi)に基づく薬剤のような大分子治療薬は100%,薬理学的に有意な量では血液脳関門を横切らない。一般的に,小分子薬剤は血液脳関門を横切ることができると推測されるが,実際には血液脳関門を横切って輸送されないため,すべての小分子薬剤の<2%が脳で活性である。分子は,薬理学的に有意な量で血液脳関門を横切るために脂溶性で分子量が400ダルトン(Da)以下でなければならず,小分子の大多数はこれら二重の分子特性を持たない。したがって,ほとんどの潜在的な治療薬,診断薬,または研究用分子は,薬理学的に活性な量で血液脳関門を横切らない。血液脳関門を回避するために,脳室内 (ICV)注入,脳内(IC)投与,および対流増強拡散(convection enhanced diffusion)(CED)のような侵襲的経頭蓋薬剤送達戦略を用いる。脳への経頭蓋薬剤送達は,高価,侵襲性で,大部分無効である。ICV経路は,脳実質内ではなく脳の上衣表面のみにIDUAを送達し,これはICV経路で投与した薬剤に典型的である。IDUAのような酵素のIC投与のみが,脳内への非常に低効率なタンパク質の拡散により局所送達をもたらす。CEDは,脳の白質路を介して優先的な液体の流れを生じ,これが脱髄とアストログリオーシスをもたらす。
【0040】
本明細書に記載の方法は,これら高侵襲性で一般的に血液脳関門を回避するには不十分な方法の代替法を提供することにより,本明細書に記載のHIR-IDUA融合抗体組成物の全身投与後に末梢血からCNS内へとIDUAが血液脳関門を横切るのを可能にする。本明細書に記載の方法は,血液脳関門上のインスリンレセプター(例えば,ヒトインスリンレセプター)の発現を利用して,目的とする2機能性HIR-IDUA融合抗体を末梢血からCNSに往復させる。
インスリンレセプター
【0041】
血液脳関門は,インスリンレセプターを含む特異的レセプターを有し,種々の高分子を血液から脳に輸送することができることが解っている。特に,インスリンレセプターは本明細書に記載のHIR Ab-IDUA融合抗体の輸送体として適している。本明細書に記載のHIR-IDUA融合抗体は,ヒトインスリンレセプターの細胞外ドメイン (ECD)に結合する。
【0042】
インスリンレセプターとその細胞外インスリン結合ドメイン(ECD)は,当該分野で構造的および機能的に広く特徴づけられている。例えば,Yip et al (2003),「J Biol. Chem,278(30):27329-27332;およびWhittaker et al. (2005),J Biol Chem,280(22):20932-20936参照。ヒトインスリンレセプターのアミノ酸およびヌクレオチド配列はGenBank受託No.NM_000208にみることができる。
インスリンレセプター介在輸送系に結合する抗体
【0043】
IDUAをCNSに送達するためのある非侵襲性アプローチは,IDUAを,インスリンレセプターのECDに選択的に結合する抗体と融合させることである。それにより,血液脳関門上に発現したインスリンレセプターは,IDUAを血液脳関門を横切って輸送するためのベクターとして働くことができる。ある種のECD-特異的抗体は,内因性リガンドによく似ており,特異的レセプター系を用いる輸送により細胞膜関門を横切ることができる。そのようなインスリンレセプター抗体は図7に図解したように分子「トロイ木馬」として働く。すなわち,抗体および他の高分子は通常脳から排除されるにも関わらず,それらは,血液脳関門に発現するレセプター,例えばインスリンレセプターの細胞外ドメインに対する特異性を有していれば,分子を脳実質内に送達するための有効なビークルになりうる。ある態様において,HIR Ab-IDUA融合抗体はヒト血液脳関門 HIRの外表面エピトープに結合し,この結合は,ヒト血液脳関門インスリンレセプターにより仲介される輸送反応を介して該融合抗体が血液脳関門を横切るのを可能にする。
【0044】
用語「抗体」は,天然の,または部分的もしくは完全に合成的に製造された免疫グロブリンを表す。該用語は,抗原結合ドメインであるか,それとホモローガスな結合ドメインを有するあらゆるポリペプチドまたはタンパク質に及ぶ。CDR移植抗体もこの用語によって予期される。
【0045】
「天然抗体」および「天然免疫グロブリン」は,通常,2つの同じ軽(L)鎖と2つの同じ重鎖(H)鎖からなる約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は,各軽鎖は,典型的には1個のジスルフィド共有結合により重鎖と結合するが,ジスルフィド結合の数は種々の免疫グロブリンアイソタイプの重鎖の間で異なる。各重鎖および軽鎖は,通常,鎖内ジスルフィド架橋が間にある。各重鎖は一末端に可変ドメイン (「VH」)を,次いで多くの定常ドメイン(「CH」)を有する。各軽鎖は,一末端に可変ドメイン (「VL」)を,他の末端に定常ドメイン(「CL」)を有し,軽鎖の定常ドメインは,重鎖の第1定常ドメインと一列に並び,軽鎖可変ドメインは重鎖の可変ドメインと一列に並ぶ。特定のアミノ酸残基は,軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインの接合部分を形成すると考えられる。
【0046】
用語「可変ドメイン」は,ファミリーメンバー間(すなわち,異なるアイソフォーム間または異なる種内)で配列が広範に変化するタンパク質ドメインを表す。抗体に関して,用語「可変ドメイン」は,特定抗原に対する各特定抗体の結合および特異性に使われる抗体の可変ドメインを表す。しかしながら,可変性は抗体の可変ドメイン全体に均等に分布しているわけではない。可変性は,軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインの両方の超可変領域と呼ばれる3つの部分に集中している。可変ドメインのより高度に保存された部分は,「フレームワーク領域」または「FR」と呼ばれる。非修飾重鎖および軽鎖の可変ドメインは,主として,それぞれ4つのFR (各FR1,FR2,FR3,およびFR4)を含み,βシート構造と結合し,ある場合には該構造の部分を形成するループを形成する3つの超可変領域により結合したβシート構造をとる。各鎖の超可変領域は,FRにより密接に結びつき,他の鎖の超可変領域とともに抗体の抗原結合部位の形成に寄与する (Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版 Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md. (1991),647-669頁参照)。定常ドメインは,抗原と抗体の結合には直接関与しないが,抗体の抗体依存性細胞毒性への関与といった種々のエフェクター機能を有する。
【0047】
本明細書で用いる用語「超可変領域」は,抗原結合を担う抗体のアミノ酸残基を表す。超可変領域は,抗体に相補的に直接結合する,それぞれCDR1,CDR2,およびCDR3として知られる3つの「相補性決定領域」または「CDR」由来のアミノ酸残基を含む。
【0048】
軽鎖可変ドメインでは,CDRは,典型的には,およそ残基24-34 (CDRL1),50-56 (CDRL2),および89-97 (CDRL3)に対応し,重鎖可変ドメインでは,CDRは,典型的にはおよそ残基31-35 (CDRH1),50-65 (CDRH2),および95-102 (CDRH3) (Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版 Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md. (1991)),および/または「超可変ループ由来の残基(すなわち,軽鎖可変ドメインの残基26-32 (L1),50-52 (L2),および91-96 (L3),および重鎖可変ドメインの残基26-32 (H1),53-55 (H2),および96-101 (H3)(Chothia and Lesk J. Mol. Biol. 196:901 917 (1987)) に対応する。
【0049】
本明細書で用いている「可変フレームワーク領域」または「VFR」は,抗原結合ポケットまたは溝の部分を形成し,および/または抗原と接触しうるフレームワーク残基を表す。ある態様において,該フレームワーク残基は,抗原結合ポケットまたは溝の部分であるループを形成する。該ループのアミノ酸残基は,抗原と接触してもしなくてもよい。ある態様において,VFRのループアミノ酸は,抗体,抗体重鎖,または抗体軽鎖の三次元構造を調べることにより決定される。該三次元構造は,溶媒接触可能アミノ酸位置を分析することができるが,そのような位置はループを形成し,および/または抗体可変ドメインにおける抗原接触をもたらすようである。溶媒接触可能位置のあるものは,アミノ酸配列の多様性を許容し,他(例えば構造的位置)は多様性が低いことがある。抗体可変ドメインの三次元構造は,結晶構造またはタンパク質モデリングから導くことができる。ある態様において,VFRは,Kabat et al.,1991に従って定義された位置である重鎖可変ドメインのアミノ酸位71~78に対応するアミノ酸位置を含むか,実質的に該位置からなるか,または該位置からなる。ある態様において,VFRは,CDRH2とCDRH3の間に位置するフレームワーク領域3の部分を形成する。VFRは,標的抗原と接触する良い位置にあるループを形成するか,または抗原結合ポケットの部分を形成することができる。
【0050】
重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて,免疫グロブリンは種々のクラスに割り当てることができる。免疫グロブリンには主な5クラス,IgA,IgD,IgE,IgG,およびIgMがあり,これらのいくつかはさらにサブクラス(アイソタイプ),例えば,IgG1,IgG2,IgG3,IgG4,IgA,およびIgA2に分けることができる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメイン(Fc)は,それぞれα,δ,ε,γ,およびμと呼ばれる。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造と三次元構造がよく知られている。
【0051】
あらゆる脊椎動物種由来の抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖」は,その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいてカッパすなわち「κ」およびラムダすなわち「λ」と呼ばれる明確に異なる2つのタイプの1つに割り当てられる。
【0052】
本明細書に記載の抗体または融合抗体に関して,用語「選択的に結合する」,「選択的に結合すること」,「特異的に結合する」,または「特異的に結合すること」は,解離定数(Kd)約10-6Mまたはそれ以下,すなわち,10-7,10-8,10-9,10-10,10-11,または10-12Mで抗体または融合抗体が標的抗原と結合することをいう。
【0053】
また,本明細書で用いている用語抗体は,抗原と特異的に結合する能力を保持する抗体の1またはそれ以上の断片を意味すると理解される(一般的には,Holliger et al.,Nature Biotech. 23 (9) 1126-1129 (2005)参照)。そのような抗体の非限定的例には,(i)VL,VH,CL,およびCH1ドメインからなる一価断片であるFab断片;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋により結合している2個のFab断片を含む二価断片であるF(ab')2断片;(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の単腕のVLおよびVHドメインからなるFv断片;(v)VHドメインからなるdAb断片(Ward et al.,(1989) Nature 341:544 546);および(vi)単離された相補性決定領域 (CDR)が含まれる。さらに,Fv断片の2つのドメインであるVLおよびVHは,別個の遺伝子によりコードされるが,組み換え法を用い,合成リンカーにより結合させ,VLおよびVH領域が対になって一価分子を形成する一本のタンパク質鎖とすることができる(一本鎖Fv(scFv)として知られる。例えば,Bird et al. (1988) Science 242:423-426;およびHuston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879 5883;およびOsbourn et al. (1998) Nat. Biotechnol. 16:778も参照のこと)。そのような一本鎖抗体も用語抗体内に含まれるものとする。特異的scFvのあらゆるVHおよびVL配列をヒト免疫グロブリン定常領域のcDNAまたはゲノム配列と結合させ,完全なIgG分子または他のアイソタイプを含む発現ベクターを生成することができる。VHおよびVLは,タンパク質化学や組み換えDNA技術を用いてFab,Fv,または免疫グロブリンの他の断面の製造に用いることもできる。二特異性抗体(ディアボディ)のような一本鎖抗体の他の形も含まれる。
【0054】
「F(ab')2」および「Fab'」部分は,プロテアーゼ,例えばペプシンおよびパパインで免疫グロブリン(モノクローナル抗体)を処理することにより生成することができ,これには免疫グロブリンを2つのH鎖それぞれのヒンジ領域間に存在するジスルフィド結合付近で消化することにより生成される抗体断片が含まれる。例えば,パパインは,2つのH鎖それぞれのヒンジ領域間に存在するジスルフィド結合の上流でIgGを開裂し,VL(L鎖可変領域)およびCL(L鎖定常領域)からなるL鎖とVH(H鎖可変領域)およびCHγ1(H鎖の定常領域中のγ1領域)からなるH鎖断片がジスルフィド結合を介してそれらのC末端領域と結合している2つのホモローガスな抗体断片を生成する。これら2つのホモローガスな抗体断片をそれぞれFab'と呼ぶ。ペプシンも,2つのH鎖それぞれのヒンジ領域間に存在するジスルフィド結合の下流でIgGを開裂し,2つの上記Fab'がヒンジ領域で結合している断片よりわずかに大きい抗体断片を生じる。この抗体断片をF(ab')2と呼ぶ。
【0055】
また,Fab断片は,軽鎖の定常ドメインと重鎖の第1定常ドメイン(CH1)を含む。Fab'断片は,抗体ヒンジ領域由来の1またはそれ以上のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシル末端への数個の残基の付加によりFab断片とは異なる。本明細書において,Fab'-SHは,定常ドメインのシステイン残基が遊離チオール基を有するFab'を表す。F(ab')2抗体断片は,最初に,その間にヒンジシステインを有するFab'断片のペアとして製造された。抗体断片の他の化学的カップリングも知られている。
【0056】
「Fv」は,完全な抗原認識および抗原結合部位を含む最小抗体断片である。この領域は,堅く非共有結合した1重鎖および1軽鎖可変ドメインのダイマーからなる。この構造において,各可変ドメインの3つの超可変領域は相互作用し,VH-VLダイマー表面の抗原結合部位を特徴づける。6個の超可変領域は,共同して抗体に抗原結合特異性を与える。しかしながら,1個の可変ドメイン(すなわち,ある抗原に特異的な3個の超可変領域のみを含むFvの半分)でも,完全な結合部位より親和性は低いが,抗原を認識し,それと結合する能力を有する。
【0057】
「一本鎖Fv」または「sFv」抗体断片は,一本鎖ポリペプチド鎖中に存在する,VHドメイン,VLドメイン,またはVHおよびVLの両ドメインを含む。ある態様において,Fvポリペプチドは,さらにsFvに抗原結合に望ましい構造を形成させることができるVHおよびVLドメイン間のポリペプチドリンカーを含む。sFvに関する総説は,例えば,Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antiboies,Vol. 113,Rosenburg and Moore編,Springer-Verlag,New York,pp.269-315 (1994)参照。
【0058】
「キメラ」抗体は,異なる哺乳動物の組み合わせ由来の抗体を含む。哺乳動物には,例えば,ウサギ,マウス,ラット,ヤギ,またはヒトでありうる。異なる哺乳動物の組み合わせには,ヒトおよびマウス供給源由来の断片の組み合わせが含まれる。
【0059】
ある態様において,本発明の抗体は,モノクローナル抗体(MAb),典型的にはマウスモノクローナル抗体をヒト化したキメラヒト-マウス抗体である。そのような抗体は,例えば,抗原攻撃に応じて特異的ヒト抗体を産生するよう「操作」されたトランスジェニックマウスから得られる。この技術において,ヒト重および軽鎖遺伝子座のエレメントは,標的とする内在性重鎖および軽鎖遺伝子座の崩壊を含む胚性幹細胞系由来のマウスの系統に導入される。トランスジェニックマウスはヒト抗原に特異的なヒト抗体を合成することができ,該マウスを用いてヒト抗体を分泌するハイブリドーマを産生することができる。
【0060】
ヒトで用いるには,ヒトに投与したときにあまり免疫原性でないように十分なヒト配列含むことが好ましい(例えば,約80%ヒトおよび約20%マウス,または約85%ヒトおよび約15%マウス,または約90%ヒトおよび約10%マウス,または約95%ヒトおよび5%マウス,または約95%以上がヒトおよび約5%以下がマウス)。本発明に用いる十分なヒト配列を有するヒト血液脳関門インスリンレセプターに対するキメラ抗体は,例えば,Boado et al. (2007), Biotechnol Bioeng,96(2):381-391に記載されている。HIR MAbのさらに高ヒト化型も操作することができ,該ヒト化HIR Abは,ネズミHIR Abと同程度の活性を有し,本発明の態様に用いることができる。例えば,米国特許出願公開No. 20040101904(2002年11月27日出願),および20050142141(2005年2月17日出願)参照。
【0061】
典型的な態様において,それら由来のHIR抗体またはHIR-IDUA融合抗体は,図3に記載のHC CDRの少なくとも1の配列(配列番号1~3)に対応するCDRまたはその変異体を含む。例えば,1,2,3,4,5,または6までの単一アミノ酸突然変異を有する配列番号1のアミノ酸配列に対応するHC CDR1,1,2,3,4,5,6,7,8,9,または10までの単一アミノ酸突然変異を有する配列番号2のアミノ酸配列に対応するHC CDR2,または1または2までの単一アミノ酸突然変異を有する配列番号3のアミノ酸配列に対応するHC CDR3。ここで,単一アミノ酸突然変異は,置換,欠失,または挿入である。
【0062】
他の態様において,HIR AbまたはHIR Ab-IDUA融合Abは,アミノ酸配列が配列番号7(図1に示す)と少なくとも50%同一な(すなわち,少なくとも,55,60,65,70,75,80,85,90,95,または100%までのあらゆる他のパーセント同一な)免疫グロブリン HCを含む。
【0063】
ある態様において,HIR AbまたはHIR AB-IDUA融合Abは,図3に記載のLC CDRの少なくとも1の配列(配列番号4~6)に対応するCDR,またはその変異体を含む免疫グロブリン軽鎖を含む。例えば,1,2,3,4,または5までの単一アミノ酸突然変異を有する配列番号4のアミノ酸配列に対応するLC CDR1,1,2,3,または4までの単一アミノ酸突然変異を有する配列番号5のアミノ酸配列に対応するLC CDR2,または1,2,3,4,または5までの単一アミノ酸突然変異を有する配列番号6のアミノ酸配列に対応するLC CDR3。
【0064】
他の態様において,HIR AbまたはHIR AB-IDUA融合Abは,アミノ酸配列が配列番号8(図2に示す)と少なくとも50%同一な(すなわち,少なくとも,55,60,65,70,75,80,85,90,95,または100%までのあらゆる他のパーセント同一な)免疫グロブリン LCを含む。
【0065】
さらに他の態様において,HIR AbまたはHIR Ab-IDUA融合Abは,上記HIR重鎖およびHIR軽鎖のいずれかに対応する重鎖および軽鎖の両方を含む。
【0066】
本発明に用いるHIR抗体はグリコシル化されているか,またはグリコシル化されていなくてもよい。該抗体がグリコシル化されている場合は,該抗体の機能に実質的に影響を及ぼさないあらゆるグリコシル化パターンを用いてよい。グリコシル化は,該抗体が作られる細胞の典型的パターンで生じうるし,細胞種ごとに変化しうる。例えば,マウスミエローマ細胞が産生したモノクローナル抗体のグリコシル化パターンは,形質転換チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞が産生したモノクローナル抗体のグリコシル化パターンと異なりうる。ある態様において,該抗体は,形質転換チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞が産生したパターンでグリコシル化される。
【0067】
当業者のある者は,最新の技術は,候補HIR Abまたは既知HIR Abの膨大な数の配列変異体を容易に製造(例えばin vitroで)し,標的抗原,例えば,ヒトインスリンレセプターのECDまたはその単離エピトープと結合するかについてスクリーニングするのを可能にすると理解するだろう。例えば,抗体配列変異体の超高スループットスクリーニングの例は,Fukuda et al. (2006) 「In vitro evolution of single-chain antibody using mRNA display」,Nuc. Acid Res.,34(19) (インターネットで公開)を参照のこと。Chen et al. (1999),「In vitro scanning saturation mutagenesis of all the specificity determining residues in an antibody binding site」,Prot Eng,12(4):349-356も参照のこと。インスリンレセプターECDを,例えば,Coloma et al. (2000) Pharm Res,17:266-274に記載のごとく精製し,HIR Abおよび既知HIR AbのHIR Ab配列変異体についてスクリーニングするのに用いることができる。
【0068】
したがって,ある態様において,望むレベルのヒト配列で遺伝子操作したHIR AbをIDUAと融合し,二機能性分子である組み換え融合抗体を産生する。HIR Ab-IDUA融合抗体は,末梢投与後,(i)ヒトインスリンレセプターの細胞外ドメインと結合し,(ii) デルマタン硫酸中の非硫酸化α-L-イデュロノシド結合の加水分解を触媒し,(iii)血液脳関門 HIRにおける輸送を介して血液脳関門を横切ることができ,脳の内側に入ってIDUA活性を保持することができる。
α-L-イデュロニダーゼ (IDUA)
【0069】
組み換えIDUA (例えば,Aldurazyme(登録商標))の全身投与 (例えば静脈内注射による)は,ハーラー症候群に罹患した患者のCNSにおけるIDUAの欠損症を救うことができない。IDUAは血液脳関門を横切らず,該酵素の血液脳関門を横切る輸送の欠如は,IDUAが末梢投与後にCNSにおける顕著な治療効果を示すのを妨げる。しかしながら,IDUAをHIR Ab (例えばリンカーにより)と融合すると,この酵素は,非観血的末梢投与経路後,例えば静脈内,動脈内,筋肉内,皮下,腹腔内,または経口投与後でも,血液からCNSに入ることができる。HIR Ab-IDUA融合抗体の投与は,末梢血から脳内へのIDUA活性の送達を可能にする。本明細書では,CNSのIDUA欠損症を治療するのに治療的に有効なHIR Ab-IDUA融合抗体の全身用量の決定について記載している。本明細書に記載のごとく,HIR Ab-IDUA融合抗体の適切な全身用量は,HIR Ab-IDUA融合抗体のCNS取り込み特性および酵素活性の定量的決定に基づいて確立する。
【0070】
本明細書で用いているIDUAは,GenBank Accession No. NP_000194で示されるヒトIDUA配列のようなデルマタン硫酸中の非硫酸化α-L-イデュロノシド結合の加水分解を触媒することができるあらゆる天然または合成酵素を表す。
【0071】
ある態様において,IDUAは,ヒトIDUAのアミノ酸配列,GenBank受託No. NP_000194で示される653アミノ酸のタンパク質,または配列番号9(図4)に対応する,26アミノ酸のシグナルペプチドが欠如した,その627アミノ酸配列と少なくとも50%同一な(すなわち,少なくとも,55,60,65,70,75,80,85,90,95,または100%までのあらゆる他のパーセント同一な)アミノ酸を有する。ヒトIDUAの構造-機能関係は,例えば,Rempel et al. (2005),「A homology model for human α-L-Iduronidase:Insights into human disease」,Mol. Genetics and Met.,85:28-37に記載のごとく,よく確立されている。特に,IDUAの機能に重要な残基には,例えば,Gly 51,Ala 75,Ala 160,Glu 182,Gly 208,Leu 218,Asp 315,Ala 327,Asp 349,Thr 366,Thr 388,Arg 489,Arg 628,Ala 79,His 82,Glu 178,Ser 260,Leu 346,Asn 350,Thr 364,Leu 490,Pro 496,Pro 533,Arg 619,Arg 89,Cys 205,His 240,Ala 319,Gln 380,Arg 383,およびArg 492が含まれる。
【0072】
ある態様において,IDUAは,配列番号9 (図4に示す)と少なくとも50%同一な(すなわち,少なくとも,55,60,65,70,75,80,85,90,95,または100%までのあらゆる他のパーセント同一の)アミノ酸配列を有する。標準的なIDUA配列,例えば配列番号9の配列変異体は,例えば全配列,または特定ドメインに対応する特定の部分配列のランダム突然変異により製造することができる。あるいはまた,部位指向性突然変異生成は,上記のようなIDUA機能に重要であることが知られている残基に対する突然変異を避けながら,反復的に行うことができる。さらに,IDUA配列の複数の変異体の製造において,突然変異許容(tolerance)予測プログラムを用いて,完全にランダムな突然変異生成により生じるであろう非機能配列変異体の数を大きく減らすことができる。タンパク質機能に対するタンパク質配列中のアミノ酸置換の影響を予測するための種々のプログラム (例えば,SIFT,PolyPhen,PANTHER PSEC,PMUT,およびTopoSNP)は,例えば,Henikoff et al. (2006),「Predicting the Effects of Amino Acid Substitutions on Protein Function,」 Annu. Rev. Genomics Hum. Genet.,7:61-80に記載されている。IDUA配列変異体を,例えば,当該分野で知られている4-メチルウンベリフェリル α-L-イデュロニド(MUBI)フルオロメトリックIDUAアッセイによりIDUA活性/IDUA活性保持についてスクリーニングすることができる。例えば,Kakkis et al. (1994),Prot Expr Purif 5:225-232参照。IDUA活性の1単位は,基質1nmole/時間の加水分解と定義する。したがって,当業者のある者は,非常に多数の操作可能なIDUA配列変異体を,上記のような当該分野の常套的方法によりIDUA配列変異体の非常に多様な「ライブラリー」を作製し,スクリーニングすることにより得ることができることを認識するだろう。
【0073】
配列同一パーセントは常套的方法により決定される。例えば,Altschul et al.,Bull. Math. Bio. 48:603 (1986),およびHenikoff and Henikoff,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915 (1992)参照。簡単には,2本のアミノ酸配列を一列に並べ,10のギャップ開始ペナルティー,1のギャップ伸長ペナルティー,およびHenikoffおよびHenikoff(前出)の「BLOSUM62」スコアリングマトリックスを用いてアラインメントスコアを最適化する。次に,同一パーセントを([同一一致総数]/[より長い配列の長さ+2つの配列を一列に並べるためにより長い配列に導入されるギャップの数])(100)として計算する。
【0074】
当業者は,2つのアミノ酸配列を一列に並べるのに利用可能な多くの確立されたアルゴリズムがあることを認識する。PearsonおよびLipmanの「FASTA」類似性検索アルゴリズムは,本明細書に記載のアミノ酸配列および別のペプチドのアミノ酸配列が共有する同一性のレベルを試験するための適切なタンパク質アラインメント法である。FASTAアルゴリズムは,Pearson and Lipman,Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 85:2444 (1988),およびPearson,Meth. Enzymol. 183:63 (1990)に記載されている。簡単には,FASTAは,最初に,クエリー配列 (例えば,配列番号24または配列番号39)と最も高い同一性密度(ktup変数が1である場合)または同一のペア((ktup=2の場合)のいずれかを有する被験配列が共有する領域を,保存的アミノ酸置換,挿入,または欠失を考慮せずに同定することにより配列類似性を特徴づける。次に,最も高い同一性密度を有する10領域を,アミノ酸置換マトリックスを用いるすべてのペアにしたアミノ酸の類似性を比較することにより再スコア付けし,該領域の末端を,最も高スコアをもたらす残基のみを含むように「切り取る」。「カットオフ」値(配列長およびktup値に基づいて予め決定された式により計算した)より大きいスコアを有する領域があれば,切り取った最初の領域を試験し,該領域を結合してギャップを含む近似アラインメントを形成することができるか否かを決定する。最後に,2つのアミノ酸配列の最高スコア領域を,アミノ酸の挿入および欠失を考慮するNeedleman-Wunsch-Sellersアルゴリズムの改良法(Needleman and Wunsch,J. Mol. Biol. 48:444 (1970);Sellers,SIAM J. Appl. Math. 26:787 (1974))を用いて一列に配列する。FASTA分析のパラメータの例には,ktup=1,ギャップ開始ペナルティー=10,ギャップ伸長ペナルティー=1,および置換マトリックス=BLOSUM62がある。これらのパラメータは,Pearson,Meth. Enzymol. 183:63 (1990)の付表2に記載のごとくスコアリングマトリックスファイル(「SMATRIX」)を修飾することによりFASTAプログラムに導入することができる。
【0075】
本発明は,本明細書に開示したアミノ酸配列に比べて保存的アミノ酸置換を有するタンパク質も含む。一般的アミノ酸間の,例えば「保存的アミノ酸置換」は以下の各グループ内のアミノ酸の間の置換により示される:(1) グリシン,アラニン,バリン,ロイシン,およびイソロイシン,(2) フェニルアラニン,チロシン,およびトリプトファン,(3) セリンおよびトレオニン,(4)アスパラギン酸およびグルタミン酸,(5) グルタミンおよびアスパラギン,および(6) リジン,アルギニン,およびヒスチジン。BLOSUM62の表は,関連タンパク質の500以上のグループの高度に保存された領域を示す,タンパク質配列断片の約2,000の局所的な複数のアラインメント由来のアミノ酸置換マトリックスである (Henikoff and Henikoff,Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 89:10915 (1992))。したがって,BLOSUM62置換頻度を用いて,本発明のアミノ酸配列内に導入することができる保存的アミノ酸置換を定義することができる。化学的特性(上記のような)のみに基づいてアミノ酸置換を設計することができるが,用語「保存的アミノ酸置換」は,好ましくは,BLOSUM62値が-1以上で表される置換を表す。例えば,アミノ酸置換は,置換がBLOSUM62値0,1,2,または3で特徴づけられる場合は保存的である。このシステムによれば,好ましい保存的アミノ酸置換はBLOSUM62値少なくとも1 (例えば,1,2,または3)で特徴づけられるが,より好ましい保存的アミノ酸置換はBLOSUM62値少なくとも2 (例えば,2または3)で特徴づけられる。
【0076】
アミノ酸配列は,さらなる残基,例えばさらなるN-またはC-末端アミノ酸を含んでいてよく,該配列が本発明の組成物および方法において機能的であるのに十分な生物タンパク質活性を保持する限り,依然として本明細書に開示した配列の1つに実質的に記載されていることも理解されよう。
組成物
【0077】
本明細書に記載の二機能性HIR Ab-IDUA融合抗体は,それらの別々の成分タンパク質の活性,すなわち,HIR AbのIR ECDへの結合および血液脳関門を横切る輸送,およびIDUAの酵素活性,を高率に保持することがわかった。本明細書に記載のあらゆるタンパク質をコードするcDNAおよび発現ベクターの構築,ならびにその発現および精製は,十分に当業者の行なう範囲内であり,本明細書,例えば実施例1~3,ならびにBoado et al (2007),Biotechnol Bioeng 96:381-391,米国特許出願No. 11/061,956,および米国特許出願No. 11/245,710に詳述されている。
【0078】
本明細書では,IDUAと融合して血液脳関門を横切ることができる本明細書に記載のHIR Abを含む二機能性HIR Ab-IDUA融合抗体であって,HIR Abが血液脳関門を横切ることができ,IDUAがそれぞれ,その分離した部分としての活性に比べて平均で少なくとも約10,20,30,40,50,60,70,80,90,95,99,または100%を保持する抗体について記載する。ある態様において,本発明は,HIR AbおよびIDUAがそれぞれ,分離した部分としての活性に比べてその活性の少なくとも平均約50%を保持するHIR Ab-IDUA融合抗体を提供する。ある態様において,本発明は,HIR AbおよびIDUAがそれぞれ,分離した部分としての活性に比べてその活性の少なくとも平均約60%を保持するHIR Ab-IDUA融合抗体を提供する。ある態様において,本発明は,HIR AbおよびIDUAがそれぞれ,分離した部分としての活性に比べてその活性の少なくとも平均約70%を保持するHIR Ab-IDUA融合抗体を提供する。ある態様において,本発明は,HIR AbおよびIDUAがそれぞれ,分離した部分としての活性に比べてその活性の少なくとも平均約80%を保持するHIR Ab-IDUA融合抗体を提供する。ある態様において,本発明は,HIR AbおよびIDUAがそれぞれ,分離した部分としての活性に比べてその活性の少なくとも平均約90%を保持するHIR Ab-IDUA融合抗体を提供する。
ある態様において,HIR Abは,分離した部分としての活性に比べてその活性の少なくとも約10,20,30,40,50,60,70,80,90,95,99,または100%,IDUAは,分離した部分としての活性に比べてその活性の少なくとも約10,20,30,40,50,60,70,80,90,95,99,または100%を保持する。したがって,本明細書には,血液脳関門を横切ることができ,HIR AbおよびIDUAが融合抗体の部分として,分離した部分としての活性,すなわちHIR結合活性およびIDUA活性に比べてその活性の少なくとも平均約10,20,30,40,50,60,70,80,90,95,99,または100%を保持する,2機能性HIR Ab-IDUA融合抗体を含む組成物を記載している。HIR Ab IDUA融合抗体は,本明細書に記載のいずれかのHIR抗体およびIDUAを含む融合タンパク質を表す。
【0079】
本明細書に記載のHIR Ab-IDUA融合抗体において,該抗体とIDUAの間の共有結合は,該結合が,HIR Ab-IDUA融合抗体がIRのECDに結合し,血液脳関門を横切るのを可能にし,IDUAがその活性の治療的に有用な部分を保持するのを可能にする限り,HIR抗体のカルボキシまたはアミノ末端,およびIDUAのアミノまたはカルボキシ末端にあってよい。ある態様において,共有結合は,該抗体のHCとIDUA,または該抗体のLCとIDUAの間にある。例えば,軽鎖のカルボキシ末端のIDUAのアミノ末端に対する,重鎖のカルボキシ末端のIDUAのアミノ末端に対する,軽鎖のアミノ末端のIDUAのアミノ末端に対する,重鎖のアミノ末端のIDUAのアミノ末端に対する,軽鎖のカルボキシ末端のIDUAのカルボキシ末端に対する,重鎖のカルボキシ末端のIDUAのカルボキシ末端に対する,軽鎖のアミノ末端のIDUAのカルボキシ末端に対する,または重鎖のアミノ末端のIDUAのカルボキシ末端に対する,あらゆる適切な結合を用いることができる。ある態様において,該結合は,HCのカルボキシ末端とIDUAのアミノ末端の結合である。
【0080】
末端アミノ酸間の結合は融合アミノ酸配列の部分を形成する介在ペプチドリンカー配列により達成することができると理解されよう。該ペプチド配列リンカーは,長さが1,2,3,4,5,6,7,8,9,10アミノ酸,または10アミノ酸以上でありうる。ある態様において,2アミノ酸リンカーを用いる。ある態様において,該リンカーは,配列ser-serを有する。該ペプチドリンカー配列はプロテアーゼ開裂部位を含みうるが,これはIDUAの活性には必要ではなく,特に本発明のこれらの態様の利点は,該二機能性HIR Ab-IDUA融合抗体は開裂せずに,輸送および血液脳関門を横切った時の活性の両方に対して部分的または完全に活性である。図5は,HCがカルボキシ末端で2アミノ酸「ser-ser」リンカーを介してIDUAのアミノ末端と融合しているHIR Ab-IDUA融合抗体のアミノ酸配列の典型的な態様(配列番号10)を示す。ある態様において,融合IDUA配列は,図4に示すように26アミノ酸のシグナルペプチドを欠く。
【0081】
ある態様において,HIR Ab-IDUA融合抗体は,HCとLCの両方を含む。ある態様において,HIR Ab-IDUA融合抗体は一価抗体である。他の態様において,HIR Ab-IDUA融合抗体は,本明細書の実施例に記載するように二価抗体である。
【0082】
HIR Ab-IDUA融合抗体の部分として用いるHIR Abはグリコシル化されているか,グリコシル化されていない。ある態様において,該抗体は,CHO細胞中で合成により生成されたグリコシル化パターンでグリコシル化される。
【0083】
本明細書で用いている,「活性」には,生理活性(例えば,血液脳関門を横切る能力および/または治療的活性),HIR AbのIR ECDに対する結合親和性,またはIDUAの酵素活性が含まれる。
【0084】
血液脳関門を横切るHIR Ab-IDUA融合抗体の輸送は,標準的方法によりHIR Ab単独の血液脳関門を横切る輸送と比較することができる。例えば,モデル動物,例えば霊長類のような哺乳動物によるHIR Ab-IDUA融合抗体の薬物動態および脳への取り込みを用いることができる。そのような技術は実施例5に示されており,成アカゲザルによる本発明の融合タンパク質の薬物動態および脳への取り込みが示されている。同様に,IDUA活性を決定するための標準モデルを用いて,IDUA単独およびHIR Ab-IDUA融合抗体の部分としての機能を比較することもできる。例えば,IDUA対HIR Ab-IDUA融合抗体の酵素活性を示す実施例3を参照のこと。IR ECDの結合親和性をHIR Ab-IDUA融合抗体対HIR Ab単独について比較することができる。例えば,本明細書の実施例4参照。
【0085】
本明細書に記載の1またはそれ以上のHIR Ab-IDUA融合抗体および医薬的に許容される賦形剤を含む医薬組成物も本発明に含まれる。医薬的に許容される担体/賦形剤の完全な考察については,Remington's Pharmaceutical Sciences,Gennaro,AR編,第20版,2000:Williams and Wilkins PA,USAに記載されている。本発明の医薬組成物には,静脈内,皮下,筋肉内,腹腔内注射;経口,直腸,経頬,肺,経皮,鼻内,または末梢投与に適したあらゆる他の経路を含むあらゆる末梢経路を介する投与に適した組成物が含まれる。
【0086】
本発明の組成物は,例えば,静脈内,皮下,筋肉内,または腹腔内投与用の医薬組成物として注射するのに特に適している。本発明の水性組成物は,医薬的に許容される担体または水性媒質に溶解もしくは分散している,有効量の本発明の組成物を含む。用語「医薬的または薬理学的に許容される」は,必要に応じて,動物,例えばヒトに投与した時に副作用,アレルギー反応,または他の有害反応を生じない分子的存在および組成物を表す。本明細書で用いている「医薬的に許容される担体」には,あらゆるすべての溶媒,分散媒質,コーティング剤,抗菌剤および抗真菌剤,等張化剤および吸収遅延剤などが含まれる。医薬活性物質へのそのような媒質および薬剤の使用は当該分野でよく知られている。あらゆる常套的媒質または薬剤が活性成分と不適合性である場合を除き,その治療用組成物における使用が予期される。補助活性成分も該組成物に組み込むことができる。
【0087】
注射可能な組成物用の典型的な医薬的に許容される担体には,塩,例えば鉱酸塩,例えば塩酸塩,臭化水素酸塩,リン酸塩,硫酸塩など;および有機酸塩,例えば酢酸塩,プロピオン酸塩,マロン酸塩,安息香酸塩などが含まれうる。例えば,本発明の組成物は,液体型で提供することができ,界面活性剤,例えば0.01-1%のポリソルベート-80,または炭水化物添加物,例えばマンニトール,ソルビトール,またはトレハロースを含むか含まない,異なるpH(5~8)の生理食塩水ベースの水性溶液を用いて製剤化することができる。一般的に用いられる緩衝剤には,ヒスチジン,酢酸塩,リン酸塩,またはクエン酸塩が含まれる。普通の保存および使用条件下で,これらの調製物は,微生物の増殖を防ぐための保存料を含むことができる。微生物の作用の防止は,種々の抗菌剤および抗真菌剤,例えば,パラベン,クロロブタノール,フェノール,ソルビン酸,チメロサールなどによりもたらすことができる。多くの場合,等張化剤,例えば糖または塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射可能組成物の持続吸収は,該組成物に吸収遅延剤,例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを使用することによりもたらすことができる。
【0088】
ヒトに投与するための製剤は,FDAが要求する無菌性,発熱性,一般的安全性,および純度の基準,および他の監督庁の基準に適合する。活性化合物は,一般的に,非経口的投与用に製剤化,例えば静脈内,筋肉内,皮下,病変内,または腹腔な経路での注射用に製剤化される。活性要素または成分を含む水性組成物の製造は,本明細書の開示に照らして当業者が理解するだろう。典型的には,そのような組成物は,注射可能物,液体溶液またはサスペンジョンとして製造することができ,注射前に液体を加えて溶液またはサスペンジョンを調製するのに用いるのに適した固体型も製造することができ,該製剤を乳化させることもできる。
【0089】
無菌注射可能溶液は,必要量の,上記の種々の他の成分を含む適切な溶媒中に活性化合物を組み込み,次いで濾過して無菌とすることにより製造される。一般的には,分散剤は,基礎分散媒質および必要に応じて上記の他の成分を含む無菌ビークル中に種々の無菌活性成分を組み込むことにより製造される。無菌注射可能溶液を調製するための無菌粉末の場合の製造方法には,活性成分,および予め無菌濾過した溶液から得たさらなる所望の成分の粉末を得るための真空乾燥および凍結乾燥技術が含まれる。
【0090】
製剤化した溶液剤は,投与製剤に適合した方法,および本明細書に記載の基準に基づく治療的に有効な量で全身投与される。該製剤は,種々の剤形,例えば上記注射可能溶液の形で容易に投与されるが,薬剤放出カプセルなどを用いることもできる。
【0091】
投与する医薬組成物の適切な量,投与回数,および単位用量は,本明細書に記載のHIR Ab-IDUA融合抗体のCNS取り込み特性,および投与する対象,対象の状態,および求める効果に応じて変化するだろう。投与するヒトは,いずれにせよ個々の対象に適した用量を決定する。
【0092】
化合物を非経口投与,例えば静脈内もしくは筋肉内注射用に製剤化するのに加え,限定されるものではないが,以下のものを含む本発明の他の代替投与方法も用いることができよう:皮内投与 (米国特許No.5,997,501,5,848,991,および5,527,288参照),肺投与(米国特許No.6,361,760,6,060,069,および6,041,775),バッカル投与 (米国特許No.6,375,975,および6,284,262),経皮投与(米国特許No.6,348,210,および6,322,808),および経粘膜投与 (米国特許No.5,656,284)。そのような投与方法は当該分野でよく知られている。例えば鼻溶液もしくはスプレー,エアロゾル,または吸入剤を本発明の鼻内投与に用いることもできよう。鼻溶液は,通常,滴またはスプレーで鼻を通過させるために投与するように設計された水性溶液である。鼻溶液は,鼻分泌物と多くの点で同様であるように製造される。すなわち,水性鼻溶液は,通常,等張でわずかに緩衝され,pH5.5~6.5に維持される。さらに,抗微生物保存料を,必要であれば眼科用製剤および適切な薬物安定化剤に用いるものと同様に製剤中に含ませることができる。種々の市販鼻製剤が知られており,これには,例えば抗生物質および抗ヒスタミン剤が含まれ,ぜんそくの予防に用いられる。
【0093】
他の投与方法に適したさらなる製剤には坐剤とペッサリーが含まれる。直腸ペッサリーまたは坐剤を用いることもできる。坐剤は,直腸または尿道内に挿入するための,通常薬用の種々の重さと形の固体剤形である。挿入後,坐剤は腔の液中で軟化し,融解し,または溶解する。坐剤用の伝統的結合剤および担体には,一般的には,例えば,ポリエチレングリコールまたはトリグリセリドが含まれ,そのような坐剤は,あらゆる適切な範囲,例えば0.5%~10%,好ましくは1%~2%の範囲の活性成分を含む混合物から形成することができる。
【0094】
経口製剤には,例えば医薬グレードのマンニトール,ラクトース,デンプン,ステアリン酸マグネシウム,サッカリンナトリウム,セルロース,炭酸マグネシウムなどのような通常使用される賦形剤が含まれる。これら組成物は,溶液剤,サスペンジョン剤,錠剤,丸剤,カプセル剤,持続放出製剤,または粉末剤の形をとる。ある態様において,経口用医薬組成物は,不活性希釈剤または吸収可能な食用担体を含むか,硬もしくは軟シェルゼラチンカプセル中に封入されるか,または錠剤に圧縮されるか,または直接ダイエット食品と組み合わせることができる。経口治療投与用には,活性化合物を賦形剤と組み合わせ,摂取可能な錠剤,バッカル錠,トローチ,カプセル,エリキシル,サスペンジョン,シロップ,ウエハースなどの形で用いることができる。そのような組成物および製剤は,少なくとも0.1%の活性成分を含みうる。該組成物および製剤のパーセンテージは,もちろん変化することがあり,好都合には,単位重量の約2~約75%または約25~60%でありうる。そのような治療的に有用な組成物中の活性化合物の量は,適切な用量が得られるものである。
【0095】
錠剤,トローチ,丸剤,カプセルなどは以下のものも含みうる:結合剤,例えばガムトラガカント,アカシア,コーンスターチ,またはゼラチン;賦形剤,例えば第2リン酸カルシウム;崩壊剤,例えばコーンスターチ,ジャガイモデンプン,アルギン酸など;潤滑剤,例えばステアリン酸マグネシウム;甘味料,ショ糖,乳糖,またはサッカリン,または香味剤,例えばペパーミント,冬緑油,またはチェリー香味料。単位剤形がカプセルである場合は,上記の種類の物質に加えて液体担体を含みうる。種々の他の物質はコーティングとして,または用量単位の物理的形を修飾するために存在しうる。例えば,錠剤,丸剤,またはカプセルをセラック,糖,またはその両方でコーティングすることができる。エリキシルのシロップは,活性化合物,甘味剤としてショ糖,保存料としてメチレンおよびプロピルパラベン,色素および香味料,例えばチェリーまたはオレンジ風味を含みうる。ある態様において,経口医薬組成物は,活性成分を胃の環境から保護するために腸溶コーティングしてよく,腸溶コーティング方法および製剤は当該分野でよく知られている。
方 法
【0096】
本発明は,本明細書に記載の治療的有効量のHIR Ab-IDUA融合抗体を全身投与することにより血液脳関門を横切ってCNSに有効量のIDUAを送達する方法を開示する。HIR Ab-IDUA融合抗体を送達するのに適した全身用量は,本明細書に記載のそのCNS取り込み特性とIDUAの特異活性に基づく。IDUA欠損症に罹患した対象に対するHIR Ab-IDUA融合抗体の全身投与は,CNS取り込み特性にIDUAを非侵襲性に送達するのに有効な方法である。
【0097】
HIR-IDUA融合抗体の量,すなわちHIR Ab-IDUA融合抗体の治療的有効全身用量は,一部,本明細書に記載の投与するHIR-IDUA融合抗体のCNS取り込み特性,例えばCNSに取り込まれる全身投与用量のパーセンテージに依存する。
【0098】
ある態様において,全身投与したHIR Ab-IDUA融合抗体の,0.3% (すなわち,約0.32%,0.4%,0.48%,0.6%,0.74%,0.8%,0.9%,1.05,1.1,1.2,1.3%,1.5%,2%,2.5%,5%,または約0.3%~約12%のあらゆる%)が,血液脳関門を横切って末梢血から取り込まれることによって脳に送達される。ある態様において,HIR Ab-IDUA融合抗体の全身投与用量の少なくとも0.5%,(すなわち,約0.32%,0.4%,0.48%,0.6%,0.74%,0.8%,0.9%,1.05,1.1,1.2,1.3%,1.5%,2%,2.5%,5%,または約0.3%~約12%のあらゆる%)は,2時間またはそれ以内に,すなわち,全身投与後1.8,1.7,1.5,1.4,1.3,1.2,1.1,0.9,0.8,0.6,0.5時間,または約0.5~約2時間のあらゆる期間で脳に送達される。
【0099】
したがって,ある態様において,血液脳関門を横切るHIR Ab-IDUA融合抗体の量が,対象の脳中,少なくとも0.2単位のIDUA活性/mgタンパク質,すなわち,対象の脳中,0.21,0.22,0.25,0.4,0.5,0.6,0.7,0.9,1,1.1,1.2,1.3,1.4,1.5,1.6,1.7,2,2.2,2.4,2.5,2.7,2.8,3,4,または0.2~4IDUA活性単位/mgタンパク質のあらゆる他の値をもたらすように,治療的有効量のHIR Ab-IDUA融合抗体を全身投与する方法を提供する。
【0100】
ある態様において,対象の脳に送達されるIDUA活性の総単位数は,少なくとも,25,000単位,すなわち,少なくとも25,000,30,000,35,000,40,000,45,000,50,000,60,000,70,000,80,000,90,000,110,000,120,000,130,000,140,000,200,000,210,000,220,000,230,000,240,000,250,000,260,000,270,000,280,000,300,000単位,または約25,000~300,000IDUA活性単位のあらゆる他の総IDUA単位数である。
【0101】
ある態様において,治療的有効全身用量は,少なくとも5 x 105,1 x 106,2 x 106,3 x 106,4,106,5 x 106,6 x 106,7 x 106,8 x 106,9 x 106,1 x 107,1.1 x 107,1.2 x 107,1.5 x 107,1.6 x 107,1.7 x 107,1.8 x 107,1.9 x 107,2 x 107,2.1 x 107,3 x 107,または約5 x 105~3 x 107単位のIDUA活性のあらゆる他の全身用量である。
【0102】
他の態様において,治療的有効全身用量は,少なくとも約100,000 IDUA活性単位/kg体重,すなわち,少なくとも約110,000,120,000,130,000,140,000,200,000,210,000,220,000,230,000,240,000,250,000,260,000,270,000,280,000,300,000単位,または約110,000~300,000単位のIDUA活性/Kg体重のあらゆる他のIDUA単位数である。
【0103】
当業者は,HIR Ab-IDUA融合抗体の治療的有効全身用量の全量は,一部IDUA特異活性に依存することを理解するだろう。ある態様において,HIR Ab-IDUA融合抗体のIDUA特異活性は,少なくとも100,000 U/mgタンパク質,すなわち,少なくとも約110,000,120,000,130,000,140,000,200,000,210,000,220,000,230,000,240,000,250,000,260,000,270,000,280,000,300,000,320,000,340,000,350,000,360,000,370,000,373,000,400,000,500,000単位/mg,または約100,000単位/mg~約500,000単位/mgのあらゆる他の特異活性値である。
【0104】
HIR Ab-IDUA融合抗体の特異活性および治療する対象の体重を十分考慮して,HIR Ab-IDUA融合抗体の全身用量は,HIR Ab-IDUA融合抗体少なくとも2 mg,すなわち,5,10,15,20,25,30,35,40,45,50,55,60,65,70,75,100mg,または約2 mg~約100 mgのあらゆる他の値でありうる。
【0105】
本明細書で用いている用語「全身投与」または「末梢投与」には,CNS内に直接投与しない,すなわち,血液脳関門の物理的浸透または崩壊を伴わない投与方法を含む。「全身投与」には,限定されるものではないが,静脈内,動脈内,筋肉内,皮下,腹腔内,鼻内,経頬(transbuccal),経皮,直腸,経肺胞(吸入),または経口投与が含まれる。本明細書に記載のあらゆる適切なHIR Ab-IDUA融合抗体を用いることができる。
【0106】
本明細書に記載のIDUA欠損症には,ハーラー症候群,ハーラー病,ムコ多糖症I型,シャイエ症候群 (MPS I S),およびハーラー・シャイエ(MPS I H-S)として知られる1またはそれ以上の病状が含まれる。IDUA欠損症は,ヘパラン硫酸およびデルマタン硫酸の増加が体内(心臓,肝臓,脳など)に生じることを特徴とする。
【0107】
本発明の組成物,すなわち,HIR Ab-IDUA融合抗体は,併用療法の部分として投与することができよう。併用療法は,本発明組成物の投与と,IDUA欠損症に罹患した患者に典型的にみられる症状を治療または軽減するための別の治療法の組み合わせを含む。本発明の組成物を別のCNS障害用の方法または組成物と組み合わせて用いる場合は,本発明の組成物とさらなる方法または組成物の組み合わせを用いることができる。すなわち,例えば,本発明の組成物の使用を別のCNS障害治療剤と組み合わせる場合は,その二つを同時に,連続的に,継続期間を重複させて,同様,同じまたは異なる頻度などで投与することができる。ある場合には,本発明の組成物を1またはそれ以上の他のCNS障害治療剤と組み合わせて含む組成物を用いる。
【0108】
ある態様において,該組成物,例えばHIR Ab-IDUA融合抗体は,同じ製剤内のまたは別個の組成物として別の薬物と患者者に同時に投与される。例えば,HIR Ab-IDUA融合抗体は,IDUA以外の組み換えタンパク質をヒト血液脳関門を横切って送達するように設計された別の融合タンパク質と製剤化することもありうる。さらに,融合HIR Ab-IDUA融合抗体を他の高分子または低分子と組み合わせて製剤化することもできよう。
【発明を実施するための形態】
【0109】
以下の具体例は,単に例示であって,あらゆるその他の開示を決して限定するものではない。さらに詳述することなく,当業者は本明細書の記載に基づいて本発明を最大限に利用することができるものと確信する。本明細書に記載のすべての刊行物は本明細書の一部を構成する。URLや他のそのような識別子またはアドレスを参照する場合は,そのような識別子は変えることができ,インターネット上の特定の情報と行き来することができるが,同等の情報をインターネットを検索することによりみいだすことができる。それらの参照は,そのような情報の利用可能性および公衆への流布を証明する。
【実施例0110】
ヒトHIR Ab重鎖-IDUA融合タンパク質発現ベクターの構築
26アミノ酸のシグナルペプチド(NP_00194)を含む成熟ヒトIDUAタンパク質のアミノ酸 Met1-Pro6532に対応するヒトIDUA cDNAを,「IDUAフォワードプライマー」および「IDUAリバースプライマー」およびヒト肝臓ポリA+RNA(Clontech)と称する表1に記載のオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)を用いる逆転写(RT)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によりクローンした。ヒト肝臓cDNAは,スーパースクリプトファーストストランド合成キット (Invitrogen,San Diego,CA)とオリゴデオキシチミジンプライミングを使用説明書に従って用いて製造した。IDUA cDNAを,50μl Pfu緩衝液(Stratagene)中の,2μl 肝臓 cDNA逆転写反応,0.2μM IDUAフォワードおよびリバースODNプライマー(表1),0.2mM dNTP,および2.5U PfuUltraDNAポリメラーゼ(Stratagene,San Diego,CA)を用いるPCRによりクローンした。増幅は,マスターサイクラー温度サイクラー(Eppendorf,Hamburg,Germany)を用い,初期変性工程95℃2分間,次いで変性95℃30秒間を30サイクル,55℃30秒間アニーリング,および72℃1分間増幅にて行った。PCR生成物を1% アガロースゲル電気泳動中で分割し,ヒトIDUA cDNAに対応する~1.9kbの予測した主な一本鎖を単離した(図8)。クローンしたヒトIDUAを,pcDNA真核発現プラスミドのEcoRV部位に挿入し,このIDUA発現プラスミドをpCD-IDUAと呼んだ。該プラスミドの完全発現カセットが両鎖のシーケンシングにより確認した。
【表1】
【0111】
ヒトIDUA(GenBank受託No.NP_000194)の既知配列と100%の同一性を有する26アミノ酸のシグナルペプチドを含む653アミノ酸ヒトIDUAタンパク質が予測された,715 nt CMVプロモーター,1,962 nt IDUAオープンリーディングフレーム,および401 nt BGH配列を含む3,085ヌクレオチド(nt)を含むpCD-IDUAの発現カセットのDNAシーケンシング。
【0112】
pHIR Ab-HCプラスミドは,ヒト-マウスキメラHIR Abの重鎖をコードし,pHIR Ab-LCは該キメラHIR AbのLCをコードする。HCおよびLC発現ベクターは,イントロンを含まないcDNAオープンリーディングフレーム (orf)からなり,これらcDNAは,Boado et al (2007),Biotechnol Bioeng 96:381-391に詳述された染色体由来HIR Ab HCおよびLCイントロン保持ベクターでトランスフェクトしたNS0/1ミエローマ細胞系のRT-PCRにより得られた。米国特許出願No.11/061,956も参照のこと。HIR Ab HC (配列番号7)およびHIR Ab LC (配列番号8)の配列をそれぞれ図1および2に示す。HIR Ab HC (配列番号1~3)およびHIR Ab LC (配列番号4~6)のCDRの配列を図3に示す。
【0113】
HIR Ab HCおよびLC無イントロンcDNA発現ベクターは,サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター由来であり,ウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化(pA)配列を含む。ユニバーサルpHIR Ab-HCベクターの操作は,Boado et al.(上記)に先に記載のごとく部位指向性突然変異生成(SDM)によりHIR Ab HC CH3オープンリーディングフレーム (ORF)の末端に単HpaI部位を挿入することにより行った。すべての構築物は,双方向性DNAシーケンシングにより確認した。
【0114】
HIR Abの重鎖(HC)とIDUAの融合タンパク質をコードする発現プラスミド(pCD-HC-IDUAと呼ぶ)を操作するため,26アミノ酸のシグナルペプチドを欠くヒトIDUAを,表1の「IDUA-シグナルペプチドフォワードプライマー」および「IDUAリバースプライマー」と名付けたODNを用いるPCRにより再度クローンした。PCRに用いるODNは,PCR産物をpHIR Ab-HC発現プラスミドのHpaI部位に直接挿入するために5'-リン酸化する。IDUA-シグナルペプチドフォワードPCRプライマー(表1)は,「CA」ヌクレオチドを導入し,オープンリーディングフレームを維持し,HIR Ab HCのCH3領域のカルボキシル末端と該酵素の26アミノ酸のシグナルペプチドを欠くIDUAのアミノ末端の間のSer-Serリンカーを導入する。IDUAリバースPCRプライマーは終止コドン「TGA」を成熟ヒトIDUAタンパク質の末端Pro直後に導入する。融合IDUA アミノ酸配列(配列番号9)およびHIR Ab HC-IDUA融合タンパク質 (配列番号10)の配列を,それぞれ図4および5に示す。二価 HIR Ab-IDUA融合抗体の模式図を図6に示す。
【0115】
pCD-HC-IDUAの発現カセットのDNAシーケンシングは,714 nt CMVプロモーター,9nt完全Kozak部位(GCCGCCACC),3,276nt HIR Ab HC-IDUA融合タンパク質オープンリーディングフレーム,および370nt BGH配列を含む,4,369ntを含んだ。該プラスミドは,19アミノ酸 IgGシグナルペプチド,443アミノ酸HIR Ab HC,2アミノ酸リンカー(Ser-Ser),および酵素シグナルペプチドを欠く627アミノ酸ヒトIDUAからなる1,091アミノ酸タンパク質をコードする。グリコシル化を欠く重鎖融合タンパク質の予測分子量は118,836Daであり,予測等電点(pI)は8.89である。
【実施例0116】
COS細胞中のIDUAおよびHIR Ab-IDUA融合タンパク質の発現分析
COS細胞を6ウェルクラスター皿に播き,リポフェクタミン2000を比1:2.5(μg DNA:uLリポフェクタミン)で用いてpCD-IDUAでトランスフェクトするか,またはpHIR Ab-LCおよびpCD-HC-IDUAで二重トランスフェクトし,次いで順化無血清培地を3日および7日を回収した。培地および細胞内コンパートメント両方のIDUA酵素活性を測定した。洗浄した単層を,0.4Mギ酸ナトリウム,pH=3.5,0.2% Triton X-100中で溶解し,溶解物を氷上で7秒間3回超音波処理し,遠心し,次いで上清をIDUA酵素アッセイにかけた(He et al,(1999),Mol Genet Metab,67:106-112)。COS細胞をpCD-IDUAでトランスフェクションし,表2に示すようにトランスフェクション後3日および7日の細胞内コンパートメントおよび培地中に高レベルのIDUA酵素活性を生じた。
【表2】
【0117】
COS細胞のpCD-HC-IDUAおよびpHIR Ab-LCによる二重トランスフェクションは,それぞれトランスフェクション後3日および7日に中等度のIDUA酵素活性240±25および1,194±83nmol/hr/mLを生じた(表2)。3日および7日のCOS細胞内IDUA酵素活性は,それぞれ530±34および1,460±136 nmol/hr/mgタンパク質であった(表2)。大量の融合タンパク質を製造するために,COS細胞を10 x T500フラスコ中でトランスフェクトした。3日および7日の培地をプールし,2Lの無血清順化培地を接線流(tangential flow)濾過(Millipore),次いでプロテインAアフィニティークロマトグラフィーで精製した。
【0118】
COS細胞により産生されたプロテインA精製融合タンパク質の純度は,5%β-メルカプトエタノール含有12%ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDSPAGE)で評価した。免疫応答性は,E. Neufeld教授(UCLA)により提供されたヒトIDUAに対する一次ウサギ抗体,またはヒトIgG重鎖および軽鎖に対する一次ヤギ抗血清(Vector Labs,Burlingame,CA)を用いて試験した。
【0119】
精製HIR Ab-IDUA融合タンパク質のウエスタンブロッティングにおいて,該抗ヒトIgG抗体は,該融合タンパク質の130kDa HC,およびキメラHIR Abの50kDa HCと反応し,サイズの差80kDaは,IDUAの融合による(図9,右パネル)。該抗ヒトIgG抗体は,両タンパク質は同じ軽鎖からなるので,HIR Ab-IDUA融合タンパク質またはHIR Abの軽鎖と等しく反応する。該抗IDUA抗体は,該融合タンパク質の130kDa HC,および該キメラHIR AbのHCと反応する(図9,左パネル)。
【実施例0120】
HIR結合およびIDUA活性の分析
HIR 細胞外ドメイン(ECD)の融合タンパク質の親和性は,ELISAで測定した。HIR ECDで永久的にトランスフェクトしたCHO細胞を無血清培地(SFM)中で増殖させ,次いで,HIR ECDを,Coloma et al. (2000) Pharm Res,17:266-274に記載のごとく小麦胚芽アグルチニンアフィニティーカラムを用いて精製した。HIR ECDをNunc-Maxisorb 96ウェル皿にプレートし,HIR AbまたはHIR Ab-IDUA融合タンパク質とHIR ECDとの結合を,ビオチン化ヤギ抗ヒトIgG (H+L)二次抗体,次いでアビジンおよびビオチン化パーオキシダーゼ(Vector Labs,Burlingame,CA)で検出した。50%最大結合をもたらすHIR AbまたはHIR Ab-IDUA融合タンパク質の濃度を,非線形回帰分析で測定した。
【0121】
図10に示すように,HIR ECDに対してキメラHIR AbまたはHIR Ab-IDUA融合タンパク質は,それぞれED50が0.61±0.15nMおよび0.93±0.07nMと同様の結合がみられた。
【0122】
IDUA酵素活性は,Glycosynth,Ltd. (Cheshire,England)から購入した4-メチルウンベリフェリルα-L-イデュロニド (MUBI)を用いる蛍光分析で測定した。この基質はIDUAにより4-メチルウンベリフェロン (4-MU)に加水分解され,次いで,4-MUを,放射波長450nmおよび励起波長365nmでFarrandフィルター蛍光光度計により蛍光定量的に検出する。標準曲線を既知量の4-MU (Sigma-Aldrich,St. Louis,MO)で作製した。アッセイを37℃,pH=3.5で行い,1mLの0.5Mグリシン(pH=10.3)を加えて終了させた。1単位=基質1nmole/hr(Kakkis et al.(1994),Prot Expr Purif,5:225-232参照)。精製HIR Ab-IDUA融合タンパク質のIDUA酵素活性は363±37nmol/hr/ugタンパク質であり,アッセイを時間と融合タンパク質の量に対して線形化した。この結果に基づき,本発明らは,HIR Ab-HC-IDUA融合/HIR Ab-LC抗体が,IR ECDと選択的に結合し,高レベルのIDUA活性を保持する二機能性抗体であると結論した。
【実施例0123】
MPS I型繊維芽細胞におけるHIR Ab-IDUA融合タンパク質の取り込みと生物活性
I型MPSハーラー繊維芽細胞および健康ヒト繊維芽細胞を6ウェルクラスター皿中で増殖させてコンフルエントとした。培地を吸引し,ウェルをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し,ある範囲の濃度のHIR Ab-IDUA融合タンパク質を加えた1mLの血清不含ダルベッコ改良イーグル培地(DMEM)と37℃で60分間インキュベーションした。培地を吸引し,ウェルをPBSで十分に洗浄し(1mL/ウェル,5回洗浄),次いで単層を0.4 mL/ウェルの溶解用緩衝液(0.4Mギ酸ナトリウム,0.2% Triton X-100,pH=3.5)中にとり,氷上で7秒間3回超音波処理し,次いで4℃で10分間微量遠心した。上清を,IDUA酵素活性およびビシンコニン酸 (BCA)タンパク質アッセイ用に除去した。該融合タンパク質の取り込みをnmol/hrIDUA酵素活性/mgタンパク質で表した。
【0124】
HIR Ab-IDUA融合タンパク質はMPS I型繊維芽細胞に取り込まれた(図11A)。無処理のこれら細胞中の基礎IDUA活性は非常に低い(5nmol/hr/mgタンパク質以下)。細胞内IDUA酵素活性は,HIR Ab-IDUAの培地中濃度に比例して増加した。該細胞によるHIR Ab-IDUAの取り込みは,10μg/mlネズミHIR Abの添加により55%阻害された(p<0.001)が,4mMマンノース-6-ホスフェートの添加により阻害されなかった(p>0.05)。ハーラー繊維芽細胞中のIDUA酵素活性は,培地のHIR Ab-IDUA濃度2000ng/mLで250nmol/hr/mgpに近似する(図11A)。図11A中の水平線は,健康ヒト繊維芽細胞のIDUA活性レベルを示す。
【0125】
細胞のグリコサミノグリカン(glycosoaminoglycan)(GAG)の蓄積に対するHIR Ab-IDUA融合タンパク質の影響を35S取り込みアッセイ(Unger et al,1994)で評価した。I型MPSまたは健康ヒト繊維芽細胞を6ウェルクラスター皿に250,000細胞/ウェルで播き,10%ウシ胎児血清(FBS)含有DMEM中で4日間増殖させた。培地を捨て,ウェルをPBSで洗浄し,5mM CaCl2,HIR Ab-IDUA融合タンパク質(0.3μg/mL),および10μCi/mLの35S-硫酸ナトリウム(Amersham,Chicago,IL)を含む10%透析済みFBS含有低硫酸F12培地を1mL/ウェル加えた。37℃で48時間インキュベーションした後,培地を吸引し,ウェルを冷PBS(1mL,5回洗浄)で洗浄し,次いで該細胞を0.4 mL/ウェルの1N NaOHで溶解させた。溶解物を60℃で60分間加熱してタンパク質を可溶化し,BCAタンパク質アッセイ用に部分標本を除去し,試料の放射能を,Perkin Elmer Tri-Carb 2100液体シンチレーションカウンターでカウントした。データを35S CPM/μgタンパク質で表した。
【0126】
HIR Ab-IDUA融合タンパク質で処理または無処理のハーラー繊維芽細胞,および健康ヒト繊維芽細胞を,細胞内GAG内に取り込ませる35S-硫酸ナトリウムの存在下で48時間インキュベーションした。HIR Ab-IDUA融合タンパク質で処理するとハーラー繊維芽細胞におけるGAGの蓄積は,健康繊維芽細胞に比べて70%減少した(p<0.0005)(図11B)。
【0127】
ハーラー繊維芽細胞におけるGAGの蓄積の抑制(図11B)は,HIR Ab-IDUA融合抗体がGAGが蓄積する細胞のリソソームコンパートメントに向けられることを示した。
【0128】
HIR Ab-IDUA融合抗体のリソソームに対する標的化を確認するため共焦点顕微鏡検査を行った。I型MPS ハーラー繊維芽細胞を,10%FBS含有DMEM中で一夜増殖させて50%コンフルエントとした。培地を吸引し,ウェルをPBSで洗浄し,次いで細胞を20μg/mLのHIR Ab-IDUA融合タンパク質を含有する血清不含新鮮DMEMで処理した。37℃で24時間インキュベーションした後,培地を吸引し,ウェルを冷PBSで十分洗浄し,次いで細胞を100%冷アセトンで-20℃,20分間,または4%パラホルムアルデヒドで4℃,20分間固定した。PBSで洗浄した後,プレートを10%ロバ血清でブロックし,次いで1:2000希釈のウサギ抗IDUA抗血清,および10μg/mlのヒトリソソーム結合膜タンパク質に対するマウスMAb(LAMP)-1 (BD Pharmingen)で同時標識した。陰性コントロール抗体は,同じ希釈のウサギ血清またはマウスIgGであった。第2抗体(Molecular Probes/Invitrogen)は,それぞれ5μg/mLの488結合ロバ抗マウスIgG(緑色チャンネル)および594結合ロバ抗ウサギIgG (赤色チャンネル)であった。スライドを,先に記載のごとく(Zhang et al,(2004),Hum Gene Ther,15:339-350),Zeiss LSMソフトウェアを備えた二重アルゴンおよびヘリウム/ネオンレーザー装着Zeiss LSM 5 PASCAL共焦点顕微鏡を用いて画像化した。
【0129】
細胞のIDUAおよびLAMP-1免疫応答性をそれぞれ図12Aおよび12Bに示す。図12Cのオーバーラップ画像は,抗IDUA抗血清およびリソソームマーカーのLAMP-1と免疫反応したことを示す。コントロール抗体では免疫染色は検出されなかった(図12D)。これらの結果に基づき,本発明者らは,HIR Ab-IDUA融合抗体がIDUAについて予期されたようにリソソームを標的とすると結論づけた。
【実施例0130】
アカゲザルにおけるHIR Ab-IDUA融合タンパク質の脳送達および薬物動態の分析
HIR Ab-IDUA融合タンパク質を[125I]ヨウ素でヨウ素化し,特異活性24μCi/μgおよびトリクロル酢酸(TCA)沈殿性99%とした。融合タンパク質を霊長類に注射する同じ日にヨウ素化した。体重7.2kgの7歳の雌アカゲザルをCovance,Inc.(Alice,TX)から購入し,筋肉内ケタミン,およびイソフルラン吸入により麻酔した。麻酔した霊長類に,用量957μCiの[125I]-HIR Ab-IDUA融合タンパク質と400μg (0.06mg/kg)の無標識HIR Ab-IDUA融合タンパク質を混合し終量3mLとしたものを単回静脈内注射により投与した。血清を,120分間にわたり複数時点で回収し,(a)血清125I放射能,および(b)血清IDUA酵素活性について分析した。麻酔し,一夜絶食した霊長類の血清グルコースは120分間の試験期間を通して平均88±1mg%と一定であり,このことはHIR Ab 融合タンパク質の投与は内因性インスリンレセプターの干渉を生じず,血糖コントロールに効果がないことを示す。アカゲザルにおける[125I]標識ネズミHIR Abの脳への送達に関する先の研究と同様に(Pardridge et al,(1995),Pharm Res,12:807-816),薬剤注射後120分に動物を安楽死させ,脳と臓器の放射能をガンマーカウンターで分析し,脳は先に記載のごとくキャピラリーデプレッション(capillary depletion)法でも分析した(Triguero et al.,(1990),J Neurochem,54:1882-1888)。キャピラリーデプレッション技術は,in vivoで血液脳関門を介して脳内への融合タンパク質のトランスサイトーシスを示す。
【0131】
静脈内注射後120分における脳および他の臓器による該融合タンパク質の送達は,注射した用量(ID)の%/g臓器として表し,これらデータを表3に示す。該融合タンパク質は,[125I]-HIR Ab-IDUA融合タンパク質の静脈内注射後2時間における霊長類脳のフィルムオートラジオグラムにより示されるように脳のすべての部分に送達される(図12E)。
【表3】
【0132】
注射用量(ID)%/mLで表した血清125I放射能濃度プロフィール(図13A)は,先に記載のごとく(Pardridge et al,(1995),Pharm Res,12:807-816),双指数(bi-exponential)式にあてはめ,表4の薬物動態(PK)パラメーターを得た。[125I]-融合タンパク質に対するパラメーターを先に報告された[111In]-HIR Abに関するPKパラメーター(Coloma et al,(2000),Pharma Res,17:266-274)と比較する(表4)。
【0133】
注射後の時間に伴う血清放射能の低下は,血清IDUA酵素活性の低下と平行する(図13A)。該融合タンパク質を注射する前の霊長類の血清IDUA酵素活性は1.5±0.4単位/mLであり,注射後1,2.5,5,15,30,60,および120分ではそれぞれ2120±59,496±5,194±20,67±4,19±1,12±2,および14±1単位/mLであった。
【0134】
霊長類における注射後2時間での該融合タンパク質の脳送達を,DPM/g脳をDPM/uL血清で割った比である分布容積(VD)として表現する(図13B)。該融合タンパク質の脳VDは,脳乳剤中140μl/gを超え,レセプター結合がなく,血液脳関門を横切らない[3H]-マウスIgG2aのVD(Pardridge et al,上記)よりはるかに大きい。[3H]-マウスIgG2aの脳VD,18μl/gは,脳の動脈血容量に等しく(Ito et al,2005),血液脳関門レセプター特異性を持たない抗体は血液脳関門を横切って輸送されないことを示唆する。[125I]-融合タンパク質の脳VDも,キャピラリーデプレッション法で測定すると,血管後(post-vascular)上清で~140μl/gである(図13B)。
【表4】
【0135】
表4において,A1,A2,k1,およびk2は,時間に伴う血漿濃度の減衰を示す双指数関数のインターセプト(intercept)と傾斜である。HIR Ab-IDUA融合タンパク質のパラメーターを,この試験のアカゲザルについて測定し,HIR Abのパラメーターを成アカゲザルについて先のごとく測定した(Coloma et al,2000)。すべてのデータを体重差について正規化する。t1/2 1およびt1/2 2は,それぞれk1およびk2からコンピュータで計算し,各指数についての減衰曲線の半減期である。クリアランス(CL)および定常状態分布容積(Vss)を先に記載の薬物動態式を用いてA1,A2,k1,およびk2からコンピュータで計算した(Pardridge et al,1995)。
【0136】
[125I]-融合タンパク質の血管後上清の脳VDは脳乳剤のVDに等しく(図13B),該融合タンパク質が血液脳関門を通して脳実質内にトランスサイトーシスされたことを示唆した。血管ペレット(vascular pellet)に対する脳VDは低く,1.1±0.1μl/gであった。
【0137】
これらデータに基づき,本発明者らは,HIR Ab-IDUA融合抗体が表3に示すように霊長類タンパク質内に高率に取り込まれたと結論づけた。この脳内への高率の送達は,血液脳関門上のインスリンレセプターの標的化によるものであった。該融合タンパク質は,キャプラリデレーション(capillary deletion)技術で示されるようにin vivoで霊長類血液脳関門上を横切ってトランスサイトーシスされる(図13B)。
【0138】
重要なことは,HIR Ab-IDUA融合抗体の脳への送達は,注射した用量の1.05±0.05%/100g脳であった(表3)。アカゲザル脳の大きさは約100gであるから,注射した用量の約1%が霊長類の脳に分配される。該融合抗体の脳内へのこの高率の送達により,ハーラー症候群の患者の脳内に正常レベルのIDUA酵素活性が生じ得る。ID%/gで表した脳による該融合タンパク質の送達は,ヒトでは霊長類に比べて体重に比例して減少するだろう。したがって,ヒト脳中の該融合タンパク質の期待脳送達は,注射した用量の約0.1%/10g脳,またはIDの約1%/1000gヒト脳である。ヒト脳のIDUA酵素活性の正常レベルは0.5~1.5単位/mgタンパク質の範囲であり(Crow et al,(1983),J Clin Pathol,36:415-430),平均サイズのヒト脳で合計約100,000mgタンパク質ある。すなわち,50,000単位~約150,000単位のIDUA活性の脳への送達は,例えば,ハーラー症候群で観察されるような脳IDUA活性の欠如を救うのに十分であろう。組み換えIDUAそれ自身は血液脳関門を横切らず,適当でない。対照的に,HIR Ab-IDUA融合抗体の脳内への送達が観察されたこととその高いIDUA特異活性から,本発明者らは,IDUA欠損症 (例えば,ハーラー症候群)に罹患した患者の脳内の正常レベルのIDUA活性の送達の達成は,HIR Ab-IDUA融合抗体の全身投与により達成されると結論する。さらに,試験したすべての臓器中の該融合抗体の広範な分布により(表3),HIR Ab IDUA融合抗体の全身投与は,ハーラー患者のCNSの外側のIDUA酵素活性も正常化することができよう。
【実施例0139】
宿主細胞の永久的トランスフェクション用の発現ベクター
TV-HIRMAb-IDUAの遺伝子操作は以下からなるいくつかの線状工程を用いて達成された:
(1) pCD-HC-IDUA-LCと名付けた「二重遺伝子」発現プラスミド(図14)を,2個の前駆体プラスミドpCD-HC-IDUAおよびpCD-LCから操作し,AfeIによりpCD-HC-IDUAを線状化後,NruIおよびAfeIでLC発現カセットを放出させ,T4リガーゼで新たなプラスミドを閉環した(図14に示す)。
(2) TV-HIRMAb-IDUAと名付けた「三重遺伝子」タンデムベクター(TV)発現プラスミド(図14)を2個の前駆体プラスミド,pCD-HC-IDUA-LC,および野生型(wt)ネズミジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)をコードするpwtDHFRから操作した。DHFR発現カセットをSmaIおよびSalIを用いてpwtDHFRから放出させた。SalIの末端をT4 DNAポリメラーゼおよびデオキシヌクレオチド三リン酸で充填した。平行して,pCD-HC-IDUA-LCをAfeIで開いた。新しいTVをT4リガーゼで閉環した。
【0140】
TVの操作が正しいことを,(a) アガロースゲル電気泳動,(b)COS細胞でのIDUAの発現,および(c)2方向DNAシーケンシングにより確認した。TV-HIRMAb-IDUAの全7,822ヌクレオチド(nt)をカスタムオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)を用いる2方向DNAシーケンシングにかけ,該nt配列を配列番号14中に得る。DNA配列は以下のドメインを含む7,822ntからなる:
714ntサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター
9 nt Kozak配列 (GCCGCCACC)
HIRMAb HCおよびIDUAの融合遺伝子をコードする3,276 ntオープンリーディングフレーム (orf)
297 ntウシ成長ホルモン(BGH)ポリA (pA)配列
23 ntリンカー
731 nt CMVプロモーター
9 nt Kozak配列
HIRM Ab LCをコードする705 orf
291 nt BGH pA
254 SV40プロモーター
9 nt Kozak配列
564ネズミDHFR orf
940 B型肝炎ウイルス(HBV) pA
【0141】
TV-HIRMAb-IDUAは,G418で選択することができるように,ネオマイシン耐性遺伝子neoをコードする発現カセットも含んでいた(図14)。トランスフェクトした宿主細胞の3つすべての遺伝子の等しい高発現を可能にする一片のDNAまたはタンデムベクター上にHC融合遺伝子,LC遺伝子,およびDHFR遺伝子を含む必要がある(図14)。
【0142】
nt 724-3,999のTV-HIRMAb-IDUA配列(配列番号14)は,19AA IgGシグナルペプチド,442AA HIRMAb HC,3AAリンカー,および627AAヒトIDUA酵素からなる,配列番号15で示される1,091アミノ酸(AA)のHC融合タンパク質をコードした。非グリコシル化HCの予測分子量(MW)は118,795ダルトン(Da)であり,該融合HCタンパク質の予測等電点(pI)は8.85であった。nt5,060-5,764のTV-HIRMAb-IDUA配列(配列番号14)は,20AA IgGシグナルペプチド,および214AA HIRMAb LCからなる234AA LCタンパク質(配列番号16)をコードした。LCの予測MWは23,398Daであり,LCタンパク質の予測pIは5.45であった。6,319-6,882のTV-HIRMAb-IDUA配列(配列番号14)は,187AAからなるDHFRタンパク質(配列番号17)をコードした。
【実施例0143】
チャイニーズハムスター卵巣細胞のTV-HIRMAb-IDUAによる永久的トランスフェクション
DG44チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を,1 x HT添加物(ヒポキサンチンおよびチミジン)を含む血清不含HyQ SFM4CHOユーティリティ(多用途)培地(HyClone)で増殖させた。DG44 CHO細胞(5 x 106生細胞)を,5μg PvuI線状化TV-HIRMAb-IDUAプラスミドDNAでエレクトロポーレーションした。次に,細胞-DNAサスペンジョンを氷上で10分間インキュベーションした。細胞を,CHO細胞のためのBioRadプリセットプロトコール,すなわち160ボルトおよびパルス15msecの方形波でエレクトロポーレーションする。エレクトロポーレーション後,細胞を氷上で10分間インキュベーションする。細胞サスペンジョンを50mL培養液に移し,4 x 96ウェルプレートに125μl/ウェル(10,000細胞/ウェル)で播く。合計10エレクトロポーレーションおよび4,000ウェルを1試験について実施する。
【0144】
エレクトロポーレーション(EP)後,CHO細胞を37℃,8%CO2のインキュベーター中に入れる。TV中のneo遺伝子の存在により,トランスフェクトした細胞系を最初にG418で選択する。TV-HIRMAb-IDUAはDHFRの遺伝子(図14)も含むので,トランスフェクトした細胞は20
nMメトトレキセート(MTX)およびHT欠損培地を用いても選択される。EP後約21日で目に見えるコロニーが検出されたら,順化培地をELISAでのヒトIgG用に採取する。ELISAで高ヒトIgG信号を示したウェルを96ウェルプレートから1mLのHyQ SFM4CHO-ユーティリティ培地を入れた24ウェルプレートに移す。24ウェルプレートを37℃,8%CO2のインキュベーターに戻す。翌週にIgG ELISAを24ウェルプレート中のクローンについて行う。これを繰り返して,6ウェルプレート,T75フラスコ,最終的にオービタルシェーカー上の60mLおよび125mL四角プラスチックボトルに移す。この段階で,最終MTX濃度は80nMであり,培地中のHIRMAb-IDUA融合タンパク質の測定値である培地IgG濃度は細胞密度106/mLで>10mg/Lである。
【0145】
希釈クローニング(DC)用に選択したクローンをインキュベーター中のオービタルシェーカーから取り出し,無菌フードに移した。細胞を,5%透析ウシ胎児血清(d-FBS)およびペニシリン/ストレプトマイシン含有F-12K培地で500mLに希釈し,最終希釈を8細胞/mLとし,40 x 96ウェルプレート中の4,000ウェルに1細胞/ウェル(CPW)の細胞密度で播くことができるようにした。細胞サスペンジョンを調製したら,無菌フード内で,125uL部分標本を,96ウェルプレートの各ウェルに8チャンネルピペッターまたは精密ピペッターシステムを用いて分注する。プレートを37℃,8%CO2のインキュベーターに戻す。1細胞/ウェルに希釈した細胞は,血清なしでは生存できない。第6日または第7日に,DCプレートインキュベーターから取り出し,無菌フードに移し,5%透析ウシ胎児血清 (d-FBS)含有F-12K培地125μlを各ウェルに加える。この選択培地は,今や5%d-FBS,30nM MTX,および0.25mg/mLゲネチシンを含む。最初の1CPWを接種後第21日に,ヒトIgG ELISA用に部分標本を4,000ウェルのそれぞれからロボット装置を用いて取り出す。DCプレートをインキュベーターから取り出して無菌フードに移し,100μlの培地を96ウェルプレートの各ウェルから取り出し,新しい無菌サンプル96ウェルプレートに8チャンネルピペッターまたは精密ピペッターシステムを用いて移す。
【0146】
最初の1CPWを接種後第20日に,40 x 96ウェルイムノアッセイプレートに0.1M NaHCO3中の一次抗体マウス抗ヒトIgGの1μg/mL希釈液100uLを分注した。プレートを4℃の冷蔵庫中で一夜インキュベーションする。翌日,ELISAプレートを1xTBSTで5回洗浄し,二次抗体の1ug/mL溶液100uLおよびブロッキング緩衝液を加える。プレートを1xTBSTで5回洗浄する。0.1Mグリシン緩衝液中の1mg/mLの4-ニトロフェニルホスフェート・ジ(2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール)塩100uLを96ウェルイムノアッセイプレートに加える。プレートをマイクロプレートリーダーで計測する。アッセイでは4,000ウェル/実験のIgGアウトプットデータを得る。最高値の24~48ウェルをさらなる増殖用に選ぶ。
【0147】
1CPW DCからの最高値の24ウェルプレートを無菌フードに移し,これを徐々に6ウェル皿,T75フラスコ,およびオービタルシェーカー上の125mL四角プラスチックボトルへとサブクローンする。この工程中に血清を減らして細胞の遠心の最終段階でゼロにし,SFMに再浮遊させる。
【0148】
上記手順を2回目の希釈クローニングで0.5細胞/ウェル(CPW)で繰り返す。この段階で,ウェルの約40%が何らかの細胞増殖を示し,増殖を示すすべてのウェルはヒトIgGも分泌する。これらの結果は,これらの方法では平均で1細胞/ウェルのみが播かれ,該CHO細胞系は1個の細胞から生じることを確認する。
【実施例0149】
CHO由来HIRMAb-IDUA融合タンパク質の製造
第二回の希釈クローニング後,最高値のHIRMAb-IDUA融合タンパク質を分泌する細胞系を,無血清培地でオービタルシェーカー上のいくつかの1L四角プラスチックボトル中総容量2,000mLに増殖させた。HIRMAb-IDUA融合タンパク質を以下の下流処理を行ってCHO細胞順化培地から精製した:
・ 0.05m2 0.2μm Sartopore-2限外濾過と直列にした0.2m2 0.65μm GFフィルターで深層濾過。
・ 接線流濾過(TFF)システムを用いて容量を400mLに減少。
・ 0.2mm限外濾過装置で限外濾過し,Protein A Sepharose4 Fast Flowカラムに適用。カラムに適用後,カラムを1M NaClで溶出し,カラムに非特異的に吸着したDNAを溶出し,生成物を0.1M酢酸ナトリウム/pH=3.7で単一ピークとして溶出する(図15A)。酸溶出物を1Mトリス塩基で中和し,Centriprep-30で5mLに濃縮する。
・ 結合溶出モード(bind-elute mode)の陽イオン交換(CATEX)クロマトグラフィーは,0.02M MESおよび0.05M NaClで平衡化したSP Sepharose FFカラムを用いて行った。
・ 試料の伝導度は,該カラムに適用する前に<5mS/cmに低下した。該カラムを,0.25M NaCl,0.35M NaCl,0.5M NaCl,および1M NaClを含む0.02M MES/pH=5.5の段階勾配で連続して溶出した。図15Bに示すように,HIRMAb-IDUA融合タンパク質は0.5M NaClで溶出された。
・ フロースルーモードの陰イオン交換(ANEX)クロマトグラフィーを,0.025M MES/pH=5.5および0.05M NaClで平衡化したQ Sepharose FFカラムを用いて行った。試料の伝導度は<7mS/cmに低下した。図15Cに示すようにHIRMAb-IDUA融合タンパク質はフロースルーに溶出された。
【0150】
CHO由来HIRMAb-IDUA融合タンパク質の純度および有効性を以下の手順で評価した:
(a)SDS-PAGE。CHO由来HIRMAb-IDUA融合タンパク質は,図16(レーン3)に示すように,還元ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動 (SDS-PAGE)に基づいて精製し,均一とした。キメラHIRMAbは図16のレーン2に適用し,HIRMAb-IDUA融合タンパク質は図16のレーン3に適用している。両タンパク質の軽鎖(LC)の大きさは両タンパク質が同じLCからなるので同じである。HIRMAb-IDUA融合タンパク質の重鎖(HC)の大きさは130kDa(レーン3。図16)であるが,キメラHIRMAbのHCの大きさは50kDa (レーン2,図16)であり,大きさの違いは該キメラHIRMAbのHCに80kDaのIDUAが融合していることによる。
【0151】
(b) IDUAおよびヒトIgGウエスタンブロット。CHO由来HIRMAb-IDUA融合タンパク質を7.5% SDS-PAGEゲルで電気泳動し,ニトロセルロースに吸い取らせ,ヒトIgG (レーン1,図17)またはヒトIDUA (レーン2,図17)に対する一次抗体でウエスタンブロットした。抗ヒトIgG抗体および抗ヒトIDUA抗体はHIRMAb-IDUA融合タンパク質の重鎖と特異的に反応し,この還元ゲルでは分子量130kDaに移動した(図17)。
【0152】
(c)ヒトインスリンレセプター(HIR)結合アッセイ。HIRの細胞外ドメイン(ECD)を,HIR ECDで永久的にトランスフェクトしたCHO細胞で順化した無血清培地からレクチンアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。HIR ECDをELISAウェルに分注し,IDUAが融合していないキメラHIRMAbおよびCHO由来HIRMAb-IDUA融合タンパク質と結合させた。図18に示すように,HIRと結合するキメラHIRMAbまたはHIRMAb-IDUA融合タンパク質のED50には有意差が無く,0.75nMである。これらのデータは,HIRに対するHIRMAbの親和性は,IgGのカルボニル末端に対するIDUAの融合によって影響されないことを示唆する。図18に示す結合定数は,結合等温線の非線形回帰分析により決定した。
【0153】
(d)HIRMAb-IDUA融合タンパク質のIDUA酵素活性。CHO由来HIRMAb-IDUA融合タンパク質のIDUA酵素活性は,アッセイ基質に4-メチルウンベリフェリルα-L-イデュロニド(MUBI)を用いる蛍光分析により測定した。この基質はIDUAによって4-メチルウンベリフェロン (4-MU)に加水分解され,次いで,4-MUを放射波長450nm,励起波長365nmを用いるフィルター蛍光光度計により蛍光分析的に検出する。標準曲線を既知量の4-MUを用いて構築する。アッセイは,37℃,pH=3.5で行い,1mLの0.1Mグリシン (pH=10.3)を加えて測定した。1単位=1nmol/hr。HIRMAb-IDUA融合タンパク質のIDUA酵素活性は,時間と濃度について線形であった(図19)。CHO由来HIRMAb-IDUA融合タンパク質のIDUA酵素特異的活性は,291±9単位/μgタンパク質であった(図19)。組み換えIDUAのIDUA酵素特異的活性は240単位/μgタンパク質であり,HIRMAb-IDUA融合タンパク質のIDUA酵素活性は組み換えIDUAのそれと同等である。
【0154】
(e)サイズ排除高速液体クロマトグラフィー。精製HIRMAb-IDUA融合タンパク質に凝集物がないことを,2つの直列にしたG3000SWXLカラム(0.78x30cm),および0.5 mL/minのHPLCポンプを用いるサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で280nmで検出して証明した。図20に示すように,CHO由来HIRMAb-IDUA融合タンパク質はボイドボリューム(空隙容量)から切り離された単一ピークとして溶出され,検出可能な凝集物はみられなかった。
【0155】
本発明の好ましい態様を本明細書に記載し示してきたが,そのような態様は単に例示でしかないことは当業者には明らかであろう。多くの変更,変化,および置換を本発明から逸脱することなく当業者が行うだろう。本明細書に記載の本発明の態様の種々の代替物を本発明を実施するのに用いてよいことを理解すべきである。以下の特許請求の範囲は,本発明の範囲を定義し,この特許請求の範囲の範囲内の方法および構造ならびにその等価物がそれによって保護されることを意図する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
図18
図19
図20
【配列表】
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