(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023099205
(43)【公開日】2023-07-11
(54)【発明の名称】第一の物質を第二の物質に変換するための装置、システム、方法
(51)【国際特許分類】
G21G 7/00 20090101AFI20230704BHJP
【FI】
G21G7/00
【審査請求】有
【請求項の数】28
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078047
(22)【出願日】2023-05-10
(62)【分割の表示】P 2018189840の分割
【原出願日】2013-03-19
(31)【優先権主張番号】61/613,760
(32)【優先日】2012-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】509218652
【氏名又は名称】エイチ アール ディー コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】アバス・ハサン
(72)【発明者】
【氏名】アジズ・ハサン
(72)【発明者】
【氏名】レイフォード・ジー・アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】アリシャー・ハサン
(57)【要約】
【課題】一つの元素または同位体を他の元素または同位体に変換する方法を提供する。
【解決手段】第一の物質を第二の物質に変換するためのシステムであって、第一の反応物と第二の反応物と溶媒とを含有する反応混合物が得られるように構成された混合反応器と、この混合反応器と流体が通過できるよう接続された高剪断装置とを設け、この高剪断装置には、回転軸の周りに対称的に配置し約10ミクロンから約250ミクロンの範囲の剪断間隙によって隔てた回転子と相補的な形状の固定子を少なくとも一組と、その回転子を回転軸の周りで回転させるモータとを設けることで、回転子からのエネルギーを反応物に伝達して第一の反応物と第二の反応物の反応を誘起し、生成物を形成するように構成した。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の物質を第二の物質に変換するためのシステムであって、
第一の反応物と第二の反応物と溶媒とを含む反応混合物が得るための混合反応器と、この混合反応器と流体が通過できるよう接続した高剪断装置とが設けられており、
この高剪断装置に、回転子と相補的な形状の固定子を回転軸の周りに対称的に配置し約10ミクロンから約250ミクロンの範囲の剪断間隙によって隔てて構成した回転子・固定子の組を少なくとも一組と、その回転子を回転軸の周りで回転させるよう構成したモータとを設けたことによって、回転子からのエネルギーを反応物に伝達して第一の反応物と第二の反応物の反応を誘起し、生成物を形成するように構成したシステム。
【請求項2】
請求項1のシステムであって、
第一の反応物と第二の反応物とが実質同じであるか、
第一の反応物が主としてカルシウム、ストロンチウム、バリウムからなる群から選択した元素の可溶性のある形態であるか、
第一の反応物が主として水素を含んでいるか、
第一の反応物が主として第一の元素を含み、第二の反応物が主として第二の元素を含み、生成物を主として第三の元素を含んでいるか、
第一の反応物が主として第一の元素を含み、第二の反応物の少なくとも一部が第二の元素の第一の同位体であり、生成物が主として第二の元素の第二の同位体を含んでいるか、のいずれかあるいは複数を満たすシステム。
【請求項3】
請求項2のシステムであって、
第一の反応物が主として第一の元素を含み、第二の反応物の少なくとも一部が第二の元素の第一の同位体であり、生成物が主として第二の元素の第二の同位元素を含んでおり、 第一の元素が主として水素を含み、第二の元素の第一の同位体がヘリウム4であり、第二の元素の第二の同位体がヘリウム3であるもの。
【請求項4】
請求項1のシステムであって、高剪断装置が回転子と固定子を少なくとも三組備えているシステム。
【請求項5】
請求項4のシステムであって、少なくとも三組の回転子・固定子のうち少なくとも二組について剪断間隙が異なっているか、あるいは少なくとも三組の回転子・固定子のうち少なくとも二組について剪断間隙が実質同じであるか、のいずれかまたは両方を満たすシステム。
【請求項6】
ヘリウム4をヘリウム3に変換するためのシステムであって、
水素とヘリウムと溶媒とを含有する反応混合物を得る混合反応器と、この混合反応器と流体が通過できるよう接続した高剪断装置とが設けられており、
この高剪断装置に、回転子と相補形状の固定子とを回転軸の周りに対称的に配置し約10ミクロンから約250ミクロンの範囲の剪断間隙によって隔てて構成した回転子・固定子の組を少なくとも一組と、その回転子を回転軸の周りで回転させるよう構成したモータとを設けたことによって、回転子からエネルギーを水素とヘリウムに伝達して局所的な高温高圧の領域を誘起し、水素とヘリウムの原子核の相互作用を促してヘリウム中のヘリウム4の少なくとも一部がヘリウム3に変換されるように構成し、
さらに高剪断装置が、混合反応器から反応混合物を受け取るための供給用取り入れ口を備え、混合反応器の第一の取り出し口がこの供給用取り入れ口によって高剪断装置と流体が通過できるよう接続されており、
高剪断装置を混合反応器の再循環用取り入れ口と流体が通過できるよう接続した第一の取り出し口を備え、溶媒に溶解している変換後のヘリウム3を含む生成混合物を混合反応器に供給するようにし、
溶媒から変換されたヘリウム3の少なくとも一部を除去するように構成した分離ユニットが設けられているシステム。
【請求項7】
請求項6のシステムであって、
溶媒が水酸化アンモニウム、水、油からなる群から選択される少なくともひとつの成分を含んでいるか、
混合物がさらに脱酸素剤を含んでいるか、
混合物がさらに、銀、アルミニウム、ニッケル、チタンからなる群から選択される少なくともひとつの金属を含んでいるか、
混合物がさらに平均の大きさが約2ミクロンから約8ミクロンの範囲である金属粒子を含んでいるか、のいずれかまたは複数を満たすもの。
【請求項8】
請求項7のシステムであって、混合物を脱酸素剤を含み、脱酸素剤がヒドラジンを含んでいるもの。
【請求項9】
請求項6のシステムであって、
モータによって回転子が少なくとも約7900rpmまでの回転周波数を出すことができるか、
混合反応が約20psiから約30psiの範囲の圧力で動作可能であるか、
混合物が水素とヘリウムを比約1のモル比で含んでいるか、
ヘリウムが主としてヘリウム4を含んでいるか、のいずれかあるいは複数を満たすシステム。
【請求項10】
ヘリウム3を長期保存するための方法であって、
ヘリウム3を得る過程と、
圧力下で水酸化アンモニウム溶液をヘリウム3を混合して、ヘリウム3を水酸化アンモニウム溶液に溶解させる過程と、
水酸化アンモニウムに溶解したヘリウム3に対する圧力を維持する過程とを含む方法。
【請求項11】
ヘリウム4をヘリウム3に変換する方法であって、
回転子と相補的な形状の固定子とを回転軸の周りに対称的に配置され約10ミクロンから約250ミクロンの範囲の剪断間隙によって隔てて構成した高剪断装置内に水素とヘリウムと溶媒とを導入する過程と、
回転軸の周りで回転子を回転させることによって、この回転する回転子から機械的エネルギーを水素とヘリウム4の核に伝達して局所的な高圧高温の領域を誘起し、核反応を促してヘリウムの少なくとも一部をヘリウム3に変換する過程と、
ヘリウム4から変換された溶解したヘリウム3を含む生成物を高剪断装置から抽出する過程とを含む方法。
【請求項12】
請求項11の方法であって、
混合反応器を経由して供給ストリームを形成するために溶媒中で合成水素とヘリウムとを含む混合する過程と、
生成物を反応器に戻して再循環させる過程と、
混入反応器から少なくとも生成物の一部を低温トラップに抽出することで、変換されたヘリウム3の少なくとも一部を溶媒の少なくとも一部から分離する過程と、をさらに含む方法。
【請求項13】
請求項11の方法であって、
供給ストリームがさらに脱酸素剤を含んでいるか、
溶媒が水酸化アンモニウム溶液を含んでいるか、
回転軸を中心に回転子を回転させることにより約100000000s-1を超える剪断速度を発生できるか、のいずれかあるいは複数を満たす方法。
【請求項14】
請求項13の方法であって、供給ストリームがさらに脱酸素剤を含んでおり、脱酸素剤がヒドラジンを含んでいるもの。
【請求項15】
請求項11の方法であって、高剪断装置に固体を導入する過程をさらに含むもの。
【請求項16】
請求項15の方法であって、
固体が金属を含んでいるか、
固体が平均の大きさが約2ミクロンから約8ミクロンの範囲である金属粒子を含んでいるか、のいずれかあるいは両方を満たす方法。
【請求項17】
請求項16の方法であって金属が銀を含んでいるもの。
【請求項18】
第一の元素を異なる元素または第一の元素の同位体に変換する方法であって、
回転子と相補形状の固定子とを回転軸を中心に対称的に剪断間隙を隔てて配置して構成した高剪断装置に水素と第一の元素と溶媒とを導入する過程と、
回転軸の周りに回転子を回転させることによって、その回転する回転子から個々の核に機械的エネルギーを伝達して局所的な高圧高温の領域を誘起し、個々の元素の核と水素原子核間の核反応を促して第一の元素の少なくとも一部を異なる元素または第一の元素の同位体に転換する過程と、
異なる元素または第一の元素の同位体を含む生成物ストリームを高剪断装置から抽出する過程とを含む方法。
【請求項19】
請求項18の方法であって、
混合反応器を経由して溶媒中に水素を組み合わせ、生成物ストリームを混合反応器に再循環させる過程と、混合反応器から生成物ストリームの少なくとも一部を分離ユニットに抽出することによって溶媒の少なくとも一部から異なる元素または第一の元素の同位体の少なくとも一部が分離されるようにする過程とを含むか、あるいは
供給ストリーム中に脱酸素剤を導入する過程を含むか、のいずれかあるいは両方を満たす方法。
【請求項20】
請求項19の方法であって、供給ストリームの中にヒドラジンを含む脱酸素剤を導入する過程を含む方法。
【請求項21】
請求項18の方法であって、
溶媒が、水酸化アンモニウム溶液、水、油、これらの組み合わせ、からなる群から選択した少なくともひとつの成分を含んでいるか、
供給ストリームがさらに固体粒子を含んでいるか、
回転軸の周りの回転子を回転させる約100000000s-1より大きい剪断速度を発生するか、
剪断間隙が約250ミクロンよりも大きいか、
第一の元素が希土類元素からなる群から選択したものであって、異なる元素がそれよりも上位の希土類元素であるか、
第一の元素がセシウムとストロンチウムの放射性核種からなる群から選択したものであって、第一の元素の同位体がその第一の元素の安定同位体からなる群から選択したものであるか、
第一の元素が放射性核種であるか、のいずれかあるいは複数を満たす方法。
【請求項22】
請求項21の方法であって、供給ストリームが固体粒子を含んでおり、
この固体粒子が金属、セラミックス、金属酸化物、これらの組み合わせ、からなる群から選択したものであるか、あるいは固体粒子の平均大きさが約2ミクロンから約8ミクロンの範囲であるか、のいずれかあるいは両方を満たす方法。
【請求項23】
請求項21の方法であって、
第一の元素が放射性核種であるか、
第一の元素がストロンチウム89、ストロンチウム90、これらの組み合わせ、からなる群から選択したものであるか、
第一の元素がセシウム129、セシウム131、セシウム132、セシウム134、セシウム135、セシウム136、セシウム137、これらの組み合わせ、からなる群から選択したものであるか、
供給ストリームが第一の元素と固体粒子と水と油を含有する汚染流体を含んでいるか、のいずれかあるいは複数を満たす方法。
【請求項24】
請求項23の方法であって、第一の元素の同位体がストロンチウム84、ストロンチウム86、ストロンチウム87、ストロンチウム88、これらの組み合わせ、からなる群から選択したものである方法。
【請求項25】
請求項24の方法であって、第一の元素の同位体が主としてストロンチウム88を含んでいる方法。
【請求項26】
請求項23の方法であって、第一の元素がセシウム134、セシウム135、セシウム137、これらの組み合わせ、からなる群から選択したものである方法。
【請求項27】
請求項23の方法であって、第一の元素の同位体がセシウム133を含んでいる方法。
【請求項28】
請求項23の方法であって、供給ストリームが第一の元素と、砂を含む固体粒子と、水と、石油を含有する汚染流体を含んでいる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府支援の研究または開発に関する陳述
該当せず。
【0002】
技術分野
本発明は概して亜原子粒子や原子粒子どうしの結合を破壊・生成することに関するものである。具体的には、一部の実施例として、本発明は、原子核に亜原子粒子を付け足したり、原子核から亜原子粒子を取り除いたり、原子核の亜原子粒子を取り替えたりすることに関するものである。具体的には、一部の実施例として、本発明は、核から陽子や中性子を付け足したり取り除いたりすること、あるいは陽子を中性子に変換したり中性子を陽子に変換したりすることに関するものである。さらに具体的には、一部の実施例として、本発明はヘリウム4からヘリウム3を得ることに関するものである。さらに具体的には、一部の実施例として、本発明は一つの元素または同位体を他の元素または同位体に変換することに関するものである。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
ヘリウム3は陽子2個と中性子1個を含むヘリウムの軽い非放射性同位体である。例えば、ヘリウム3は研究と産業の両方で何回も使用されている。低温物理学ではおよそ10分の数ケルビンの温度を実現するためにヘリウム3が使用されており、1000分の数ケルビンの低い温度を実現するためにヘリウム4と組み合わせて希釈冷凍法に使用されている。また、ヘリウム3は中性子検出用の計装の重要な同位体でもある。ヘリウム3の他の用途としては、医療用画像がある。また、ヘリウム3は一部の核融合プロセスにも使用されている。
【0004】
ヘリウム3には多くの用途があるが、地球でのヘリウム3の存在量は非常に稀少である。実際、ヘリウムは宇宙全体では普通に存在するが、地球上では非常に稀である。さらに、地球上でヘリウムが非常にまれなだけでなく、そのうちヘリウム3であるヘリウムの割合も非常に低い。例えば、地表近くの大気のヘリウム3の含有量は7.27±0.20体積兆分率(pptv)であり、大気中のヘリウムについてのヘリウム3/ヘリウム4の比は約1.393×10-6である。地球上の供給源はいずれもヘリウム4が1000000個に対してヘリウム3が5個以下の比である。したがって、天然に存在する供給源から十分な量のヘリウム3を得るのは困難である。
【0005】
また、ヘリウム3は三重水素(中性子2個と陽子1個を含む水素の放射性同位体)の減衰による生成物として得ることもできる。これは、商業的にヘリウム3を得るための現在最も一般的な方法である。三重水素は放射性であるため、吸入したり経口摂取したりすることには潜在的な危険がある。また、三重水素は酸素と結合して三重水素水の分子を形成することがあり、これは皮膚の孔を通って吸収される可能性がある。三重水素は危険であるのみならず稀少である。三重水素は、通常、原子炉でリチウム6を中性子放射化することによって生成する。しかし、この方法は高価であり、反応器の構成部材を放射性にする可能性もある。
【0006】
他の元素も同様に稀少であり、得るのは困難である。具体的にいえば、希土類元素は天然に得るのが困難であり、多くの用途が事業化されるにつれますます有用性が増えているランタノイド元素もこれに含まれる。例えば、希土類元素は、コンピュータのモニタ用やテレビ用の液晶ディスプレイ、光ファイバケーブル、磁石、ガラス研磨、DVD、コンピュータのUSBドライブ、触媒コンバーター、石油のクラッキング触媒、電池、蛍光灯、ミサイル、ジェットエンジン、人工衛星などに使用されている。
【0007】
したがって、本技術分野では安価で豊富に存在する元素からヘリウム3や希土類元素を得るための効率的で経済的なシステム、装置、方法が必要とされている。さらに、現在の手法よりも安全でかつ生じる放射性副生成物の少ない、ヘリウム3を得るためのシステム、装置、方法が必要である。さらに、より安価でより豊富な元素から希土類元素を得るための効率的で経済的なシステムも必要である。また、ある元素の同位体を別の同位体あるいは別の元素に変換するための経済的な方法も必要である。
【発明の概要】
【0008】
本願では、中性子の剥ぎ取りと原子の再構成を促し、原子番号の変化や所与の元素の同位体形成に変化を及ぼすことができる高剪断のシステムと方法を開示する。高剪断装置は、局所的な高圧と高温を誘起して、核子間相互作用を可能にし核の再構成を起こす。具体的には、高剪断装置の回転子と固定子からの機械的エネルギーをある元素の原子核に加える。ひとつの実施例として、この機械的エネルギーは金属(銀など)等の無機物の粒子を介して伝達させる。結果としてエネルギーが移動することにより、クーロン障壁を克服しさまざまな元素の原子核どうしの核子間相互作用を可能にするのに十分な非常に局所的な高圧高温領域を生じさせることができる。
【0009】
ひとつの実施例として、ヘリウム4をヘリウム3に変換するための高剪断システムと方法を開示する。高剪断装置により核子間相互作用が可能となるような高温高圧を局所的に誘起することにより、水素とヘリウム4が相互作用してヘリウム3を生成する。具体的には、高剪断装置の回転子と固定子からの機械的エネルギーは金属(例えば銀)等の無機粒子を介して水素とヘリウムに加わる。結果としてエネルギーが伝達することにより、クーロン障壁を乗り越えてさまざまな元素の原子核間(水素とヘリウムの原子核間など)での核子間相互作用を可能にするのに十分な高温高圧の非常に局所的な領域を生じさせることができる。
【0010】
本発明のひとつの実施例として、ある過程で高剪断機械反応器を用いることにより、ヘリウム4のヘリウム3への転換を促すことができるような高圧高温の反応条件を得る。また、ひとつの実施例として、本願に開示する方法には、ヘリウム3を長期保存するために水酸化アンモニウム溶液中に溶解させる過程が含まれる。
【0011】
本発明のひとつの実施例として、第一の物質を第二の物質に変換するためのシステムが得られる。このシステムには、反応物を得るために混合物を攪拌する混合反応器を設ける。この混合物は第一の反応物と第二の反応物を溶媒とともに用い、必要に応じて固体の粒子を溶媒に懸濁や溶解させる。このシステムはまた、混合反応器と流体が通過できるよう接続された高剪断装置を含み、この高剪断装置は少なくとも1段あるものとする。高剪断装置の少なくとも1つの段(ステージ)には、内部空間を囲うような回転子を回転軸の周りに対称に配置する。また、その高剪断装置の段には外側のケーシングを設け、この外側のケーシングと回転子を環状の空間によって隔て、回転子と外側のケーシングの間の距離を約10ミクロンより大きく約250ミクロン以下とする。また、高剪断装置には回転軸の周りに回転子を回転させるモータを設け、回転子の回転からのエネルギーを回転子から反応物まで、必要であれば固体粒子を介して伝達することによって、第一の反応物と第二の反応物の反応を誘発して生成物を生成する。
【0012】
本発明のひとつの実施例として、ヘリウム4をヘリウム3に変換するためのシステムが得られる。このシステムには、混合物を攪拌して反応物を得ることができるよう構成した混合反応器を設け、混合物は水素とヘリウムと溶媒と必要に応じて無機固体の粒子とを含むものとし、粒子は溶媒中に懸濁していてもよい。またこのシステムでは、混合反応器と流体が通過できるよう高剪断装置が接続される。この高剪断装置には、回転軸の周りに対称的に設置された内部空間を囲う回転子と、この回転子と環状の空間をあけて配置した外部ケーシングとが設けられ、この回転子と外側のケーシングの間の距離が約250ミクロン以上になっており、さらに回転軸を中心に回転子を回転させるモータが設けられ、回転子を回転させることによるエネルギーを必要に応じて無機固体粒子の助けを借りつつ回転子から水素とヘリウムに伝達することにより、局所的な高温高圧の領域を誘起して水素とヘリウム原子核との相互作用を促し、ヘリウム中のヘリウム4の一部をヘリウム3に変換させることができるようになっており、さらに混合反応器からの反応物を受け取ることができるように構成した取り入れ口が設けられ、この取り入れ口が回転軸上に配置され、混合反応器の内部空間と第一の取り出し口とに流体が通過できるよう接続されており、さらに混合反応器の内部空間と再循環取り入れ口とに流体が通過できるよう接続した第一の取り出し口が設けられ、溶媒に変換後のヘリウム3が溶解した生成混合物を混合反応器に供給できるようになっている。またこのシステムには、溶媒から少なくともヘリウム3の一部を分離する分離ユニットが設けられ、この分離ユニットには、混合反応器の第二の取り出し口と流体が通過できるよう接続された取り入れ口と、ヘリウム3を得るためのサンプル抽出用の取り出し口とが設けられる。
【0013】
本発明のひとつの実施例として、ヘリウム3を長期保存するための方法が得られる。この方法には、ヘリウム3を得る過程と、圧力をかけてヘリウム3を水酸化アンモニウム溶液に混合することでヘリウム3が水酸化アンモニウム溶液に溶解するようにする過程と、ヘリウム3水酸化アンモニウムに溶解に対する圧力を維持する過程とが含まれる。
【0014】
本発明のひとつの実施例として、ヘリウム3にヘリウム4を変換する方法が得られる。この方法には、水素とヘリウムと溶媒とを合わせ、必要に応じてこの溶媒に金属粒子を懸濁ないし溶解させることにより供給ストリームを形成する過程と、回転軸の周りに対称的に配置され約10ミクロンから約250ミクロンの範囲の隙間で隔てられた少なくともひとつの回転子と少なくともひとつの相補的な形状の固定子とを内部空間に備えた高剪断装置を用い、この高剪断装置の内部空間に供給ストリームを導入する過程とが含まれる。さらにこの方法には、回転軸を中心に少なくともひとつの回転子を回転させてこの回転する回転子から機械的なエネルギーが水素とヘリウムの核に伝わるようにすることにより、局所的な高圧高温の領域を誘起して核反応を促し、ヘリウム4の少なくとも一部がヘリウム3に変換されるようにする過程が含まれる。さらにこの方法には、ヘリウム4から変換されたヘリウム3を含む生成物ストリームを内部空間から抽出する過程が含まれ、生成物ストリーム中にはさらに、未反応の水素、未反応のヘリウム、固体粒子のいずれかひとつあるいは複数が含まれていてもよい。
【0015】
本発明のひとつの実施例として、第一の元素を異なる元素に、あるいは第一の元素の同位体に変換するための方法が得られる。この方法には、水素と第一の元素と溶媒とを含む供給ストリームないしエマルジョンを用意する過程を含めることができる。さらにこの方法には、内部空間に少なくともひとつの回転子と少なくともひとつの相補的な形状の固定子とを備え、回転軸の周りに対称的に配置され回転子と固定子との間に隙間によって隔てられた高剪断装置を用い、この高剪断装置の内部空間に供給ストリームを導入する過程と、回転軸を中心に少なくともひとつの回転子を回転させることによりこの回転する回転子からそれぞれの核に機械的なエネルギーを伝えることによって局所的な高圧高温の領域を誘起して個々の元素の核と水素の原子核間の核反応を促し、第一の元素の少なくとも一部が異なる元素か第一の元素の同位体に変換されるようにする過程とを含めることもできる。さらにこの方法には、高剪断装置から異なる元素あるいは第一の元素の同位体を含む生成物ストリームを抽出する過程を含めることもできる。さらに、供給ストリームを用意する上記の過程において混合反応器を用いて溶媒に水素を溶解させることもでき、この場合の方法にはさらに、生成物ストリームを混合反応器へと再循環させる過程と、混合反応器から生成物ストリームの少なくとも一部を分離ユニットに抽出することによって溶媒の少なくとも一部から異なる元素あるいは第一の元素の同位体の少なくとも一部が分離されるようにする過程とを含めることもできる。溶媒は、水酸化アンモニウム溶液、水、油、これらの組み合わせ、からなる群から選択することができる。ひとつの実施例として、供給ストリームはさらに固体を含むものとする。ひとつの実施例として、固体粒子は、金属、セラミックス、金属酸化物、これらの組み合わせ、からなる群から選択する。ひとつの実施例として、固体は金属粒子を含むものとする。固体は平均の大きさが約2ミクロンから約8ミクロンまでの範囲の粒子を含むものとしてもよい。回転軸を中心に回転子を回転させると約100000000s-1を超える剪断速度を生み出すことができるものとしてもよい。ひとつの実施例として、剪断間隙は約250ミクロンよりも大きくする。ひとつの実施例として、剪断間隙は約250ミクロン未満とする。
【0016】
この方法の実施例によっては、第一の元素は希土類元素からなる群から選択し、別の元素はそれより高次の希土類元素とする。ひとつの実施例として、第一の元素は放射性核種とする。ひとつの実施例として、第一の元素はセシウムとストロンチウムの放射性核種とし、第一の元素の同位体はその第一の元素の安定同位体からなる群から選択する。ひとつの実施例として、第一の元素は、ストロンチウム89、ストロンチウム90、これらの組み合わせ、からなる群から選択する。第一の元素の同位体は、ストロンチウム84、ストロンチウム86、ストロンチウム87、ストロンチウム88、これらの組み合わせ、からなる群から選択することができる。第一の元素の同位体は、主にストロンチウム88を含むものとすることもできる。ひとつの実施例として、第一の元素は、セシウム129、セシウム131、セシウム132、セシウム134、セシウム135、セシウム136、セシウム137、これらの組み合わせ、からなる群から選択する。ひとつの実施例として、第一の元素は、セシウム134、セシウム135、セシウム137、これらの組み合わせ、からなる群から選択する。第一の元素の同位体は、セシウム133を含むものとすることもできる。
【0017】
供給ストリームは、第一の元素と固体粒子と水と油とを含む汚染流体としてもよい。この固体粒子は砂を含むものとしてもよい。さらにこの方法には、供給ストリームに脱酸素剤を導入する過程を含めてもよい。ひとつの実施例として、この脱酸素剤はヒドラジンを含むものとする。
【0018】
以上を含む各種実施例と潜在的な利点は以下の詳細な説明と図面で明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本発明の好適な実施例をさらに詳細に説明するため、ここで添付の図面を参照しておく。
【
図1A】
図1は本発明のひとつの実施例としての、ヘリウム4をヘリウム3に変換するためのシステムの概略図である。
【
図1B】
図1は本発明のひとつの実施例としての、ヘリウム4をヘリウム3に変換するためのシステムの概略図である。
【
図1C】
図1は本発明のひとつの実施例としての、ヘリウム4をヘリウム3に変換するためのシステムの概略図である。
【
図2A】
図2は本発明のひとつの実施例としての、ある同位体または元素を異なる同位体または元素に変換するためのシステムの概略図である。
【
図2B】
図2は本発明のひとつの実施例としての、ある同位体または元素を異なる同位体または元素に変換するためのシステムの概略図である。
【
図2C】
図2は本発明のひとつの実施例としての、ある同位体または元素を異なる同位体または元素に変換するためのシステムの概略図である。
【
図3】
図3は本発明のひとつの実施例としての高剪断装置の概略図である。
【
図4】
図4はヘリウム4をヘリウム3に変換する試験結果の例を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
表記と名称
本願で使用する「水素」という用語は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、水素のあらゆる同位体と形態を指す。本願で使用する「水素1」「軽水素」「軽水素」「H-1」「1H」という用語は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、いずれも陽子1個の水素の同位体を指す。本願で使用する「重水素」「水素2」「2H」「H-2」「D」という用語は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、いずれも中性子1個の水素の同位体を指す。本願で使用する「三重水素」「水素3」「3H」「H-3」「T」という用語は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、いずれも中性子2個の水素の同位体を指す。本願で使用する「ヘリウム」という用語は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、ヘリウムのあらゆる同位体と形態を指す。本願で使用する「ヘリウム3」「3He」「He-3」という用語は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、いずれも中性子1個の同位体を指す。本願で使用する「ヘリウム4」「4He」「He-4」という用語は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、中性子2個のヘリウムの同位体を指す。
【0021】
本願で使用する「イットリウム」と「Y」という用語は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、イットリウムのあらゆる同位体と形態を指す。本願で使用する「スカンジウム」と「Sc」という用語は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、スカンジウムのあらゆる同位体と形態を指す。本願で使用する「セリウム」と「Ce」という用語は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、セリウムのあらゆる同位体と形態を指す。本願で使用する「ランタン」と「La」という用語は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、ランタンのあらゆる同位体と形態を指す。本願で使用する「プラセオジム」と「Pr」という用語は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、プラセオジムのあらゆる同位体と形態を指す。本願で使用する「ネオジム」と「Nd」という用語は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、ネオジムのあらゆる同位体と形態を指す。本願で使用する「プロメチウム」と「Pm」という用語は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、プロメチウムのあらゆる同位体と形態を指す。本願で使用する「サマリウム」と「Sm」という用語は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、サマリウムのあらゆる同位体と形態を指す。本願で使用する「ユウロピウム」と「Eu」という用語は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、ユーロピウムのあらゆる同位体と形態を指す。本願で使用する「ガドリニウム」と「Gd」という用語は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、ガドリニウムのあらゆる同位体と形態を指す。本願で使用する「テルビウム」と「Tb」という用語は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、テルビウムのあらゆる同位体と形態を指す。本願で使用する「ジスプロシウム」と「Dy」という用語は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、ジスプロシウムのあらゆる同位体と形態を指す。本願で使用する「ホルミウム」と「Ho」という用語は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、ホルミウムのあらゆる同位体と形態を指す。本願で使用する「エルビウム」と「Er」という用語は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、エルビウムのあらゆる同位体と形態を指す。本願で使用する「ツリウム」と「Tm」という用語を使用は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、ツリウムのあらゆる同位体と形態を指す。本願で使用する「イッテルビウム」と「Yb」という用語は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、イッテルビウムのあらゆる同位体と形態を指す。本願で使用する「ルテチウム」と「Lu」という用語は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、ルテチウムのあらゆる同位体と形態を指す。本願で使用する「カルシウム」と「Ca」という用語は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、カルシウムのあらゆる同位体と形態を指す。本願で使用する「ストロンチウム」と「Sr」という用語は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、ストロンチウムのあらゆる同位体と形態を指す。本願で使用する「セシウム」や「Cs」という用語は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、セシウムのあらゆる同位体と形態を指す。本願で使用する「バリウム」と「Ba」という用語は、他の意味であることが明示的にあるいは文脈的に示されていない限り、バリウムのあらゆる同位体と形態を指す。
【0022】
本願で使用する「剪断モジュール」「剪断ポンプ」「高剪断装置」という用語は互換的に使用する。本願で使用する「psi」という語は「ポンド毎平方インチ」を意味し、「Hz」という用語は周波数の一般的な単位である「ヘルツ」を意味し、用語「rpm」は「毎分・・・回転」を意味する。用語「反応器」「攪拌反応器」「混合反応器」は本願全体にわたって区別せずに使用する。
【0023】
詳細な説明
I.概要
ここでは、原子粒子や亜原子粒子どうしの結合を破壊したり、原子粒子や亜原子粒子の間に新たな結合を形成したりするためのシステムと方法を開示する。具体的には、ひとつの実施例としてここでは原子核から亜原子粒子を除去するためのシステムと方法を開示する。さらに具体的には、ひとつの実施例としてここではヘリウム4をヘリウム3に変換するシステムと方法を開示する。
【0024】
ここではひとつの実施例としてヘリウム4からヘリウム3を生成することを参考にしながらプロセスを説明するが、ある同位体または元素を異なる同位体または元素に(例えばリチウム7からリチウム6、ヘリウム4から三重水素に)変換する目的で、本願で開示するシステムと方法を他の核種にも適用できることは当業者であれば認識できるであろう。
【0025】
本願のシステムと方法は、原子粒子や亜原子粒子の間の結合を破壊・形成するのに十分なエネルギーを生成するため、剪断ポンプを使用して高温高圧を発生させることを利用する。ひとつの実施例として、このエネルギーはヘリウム4の核から中性子を取り除いてヘリウム3を生成するのに十分なものを用いる。実施例によっては、水酸化アンモニウム中でヘリウムと水素を(例えば溶解させるなどして)併用して溶液を得る。実施例によっては、このヘリウムと水素と水酸化アンモニウムの溶液にヒドラジン、銀の粉末、あるいはこの両方を懸濁させたり溶解させたりしてもよい。理論的に限定するわけではないが、ヒドラジンは剪断ポンプの圧力によって放出された遊離酸素が水素と相互作用するのを防ぐかなるべく抑えることのできる脱酸素剤として働く可能性がある。銀の粉末は、平均粒径が約2から約8ミクロンの範囲の銀の粒子を含むものとすることができる。銀の粉末があると、剪断モジュールの回転子からのエネルギーを核(例えば水素とヘリウムの原子核)に伝達できるようになり、その結果、核子間相互作用を促すのに十分な非常に高圧高温の非常に局所的な領域を得ることができる。水素1の核(つまり陽子)がさまざまな異なる反応を経ながら効果的にヘリウム4の原子核から中性子を取り除くことによって、ヘリウム3と副生成物が生じる。
【0026】
ここで説明しているプロセスでは、元素としてヘリウムを、剪断モジュールから原子核に機械的エネルギーを伝達する媒体として銀の粉末を、溶媒として水酸化アンモニウムを用いているが、実施例に応じて他の元素を転換したり、他の材料(限定しないが金属、金属酸化物、セラミックスなどの純粋な無機材料など)や他の溶媒(限定しないが合成油、エンジンオイル、パラフィン油、大豆油など)を使用したりすることもできることは当業者であれば認識できるであろう。実施例によっては、変換を行うのに金属粒子などの固体が全く必要ないこともある。核反応を起こすのに十分な剪断が行える限り、固体粒子はなくてもよい。固体粒子の組み込めば、ひとつの実施例として、相互作用の程度または速度を向上させることができる。実施例によっては、例えば、無機材料は、ニッケル、アルミニウム、チタン、これらの組み合わせ、からなる群から選択するものとする。溶媒はさまざまなものを利用できる。実施例によっては、変換される元素や、水素や、機械力の伝達物質は、溶媒に溶解させてもよい。実施例によっては、溶媒は、水、油、水酸化アンモニウム、から選択した一つ以上の成分を含むものとする。実施例によっては、溶媒は、大豆油、エンジンオイル、パラフィン油、合成油、脂質、これらの組み合わせ、などの油から選択するものとするが、これらに限定しない。粘性の大きい油を導入するほど剪断力を強めることができる。溶媒の成分として粘性の大きい油を利用すれば、固体粒状材料の量は減らすか実質なくすことができる場合もある。
【0027】
反応によってはヘリウム4の原子核から中性子ではなくむしろ陽子が取り除かれて三重水素と自由陽子ができ、これらが別のヘリウム4の原子核と反応する可能性がある。三重水素は放射性があるものの、摂取や吸入をしない限り人間に対しては比較的無害である。さらに、三重水素がヘリウム3に崩壊すれば、本願のシステムとプロセスにより生成するヘリウム3の最終的な収率を増加させることができる。
【0028】
本願で開示するヘリウム4をヘリウム3に変換するシステムとプロセスは、エネルギーの過剰に高い自由中性子が生成することがないとみられる。したがって、自由中性子の衝突によって使用する装置が放射性をもつことがないため、本願の方法はヘリウム3を製造するにしては比較的安全なものとなる。
【0029】
II.ヘリウム4をヘリウム3に変換するためのシステム
本発明のヘリウム3生成システムは、攪拌反応器を少なくとも1つと、剪断ポンプ(高剪断装置または剪断モジュールとも呼ばれる)と、送液ポンプと、ガス圧縮機と、アキュムレータである脈動減衰器(パルセーションダンパ)と、低温トラップとを含む。このシステムには、さらに、以下に記載するもの以外に1つ以上のポンプを設けることができる。ヘリウム3生成システムは、さらに1つ以上の流量制御弁を含むことができる。システムは、各種構成装置に対して流入・流出する流れを監視・制御するための制御システムと電子的に通信できるように接続することもできる。
【0030】
本発明によるヘリウム3生成のためのシステムを
図1Aから
図1Cを参照しながら説明する。
図1Aから1Cは、本発明のひとつの実施例に係るヘリウム3生成システム100の概略図である。
図1Aは起動モード時のシステム100の概略図である。
図1Bは実行モード時のシステムの概略図である。
図1Cは真空モード時のシステムの概略図である。このヘリウム3生成システム100は、攪拌反応器110、送液ポンプ120、剪断ポンプ130、ガス圧縮機140、アキュムレータである脈動減衰器150、分離ユニット160、真空ポンプ165を備えている。システム100は、水素源170とヘリウム源172も備えている。この実施例では、分離ユニット160が低温トラップとなっている。しかし、別の実施例として、他の分離ユニットを用いて溶媒からヘリウムを分離することもできる。例えば、ひとつの実施例として、分離ユニット160は蒸留塔と極低温分留塔からなる群から選択される。
【0031】
実行モードでは、
図1Bに示すように、水素源170からの水素とヘリウム源172からのヘリウムとを、攪拌反応器110中の溶媒(例えば水酸化アンモニウム溶液など)の中で併用する(溶解させてもよい)。ヘリウム源172からのヘリウムは主としてヘリウム4を含むものとするが、天然のヘリウム3の存在比で微量のヘリウム3を含んでいてもよい。遊離酸素があると、水素と結合して水を生成するなどして、核におけるヘリウム4がヘリウム3に変換されるプロセスに利用できる水素の量が減少することにより、ヘリウム3の生成量が低下する。このため、一部の実施例では、水酸化アンモニウム溶液に脱酸素剤を混合させる。脱酸素剤は本技術分野で公知の任意の適切なものを利用することができる。実施例によっては、脱酸素剤はヒドラジンを含むものとする。脱酸素剤は、混合物が剪断モジュール130で処理される間に放出されることのある遊離酸素を除去または低減することによって、酸素が反応物である水素と相互作用するのを防ぐか抑える働きをする。また、混合物中には純金属などの無機材料からなる小さな粒子を導入し懸濁させる。実施例によっては、使用する機械的伝達材料は溶媒に溶解するものとする。実施例によっては、水素は溶媒に溶解させるのではなく、剪断モジュール130の中で剪断してもよい。望ましくは、水素や機械的エネルギー伝達材料は溶媒(例えば水や油などの流体)に溶解させるか溶解するものを用いるかその両方とする。実施例によっては、金属粒子は約2ミクロンから約8ミクロンの範囲とする。実施例によっては、金属は純金属とする。実施例によっては、金属は、銀の粉末を含むもの、本質的に銀の粉末からなるもの、銀の粉末で構成されたものとする。金属粒子は、ニッケル、アルミニウム、チタンからなる群から選択した一種類以上の金属を含んでいてもよい。実施例によっては、銀の粉末は、一種類以上の他の金属や金属酸化物やセラミックに置き換えても良い。実施例によっては、攪拌反応器110は混合物の各種成分を混合するために600rpmの反応器攪拌で動作させる。しかし、気体と液体の供給ストリームの完全な混合状態を生じさせるのは主として剪断モジュール130である。混合物は攪拌反応器110の取り出し口から剪断モジュール130の取り入れ口まで供給ポンプ120で圧送される。剪断モジュールは、剪断間隙で隔てられた回転子と固定子を備える。実施例によっては、剪断間隙は約10ミクロンよりも大きい。実施例によっては、剪断間隙は約250ミクロン以下である。実施例によっては、剪断間隙は約10ミクロンから約250ミクロンの範囲である。実施例によっては、剪断間隙は約250ミクロン程度である。実施例によっては、剪断モジュール130は約7500rpmで作動させる。回転子が高速でありかつそれぞれの回転子と相補的な形状の固定子との間の距離が短い(すなわち剪断間隙が小さい)ことに加え、金属粒子が存在することによって、剪断モジュールから処理中の元素(例えば水素とヘリウム)にエネルギーの移動が生じる。理論的に限定するわけではないが、核(例えば水素とヘリウムの核)のグループの付近の非常に局所的な領域で圧力と温度が短時間で非常に高くなるため、核どうしの間(水素とヘリウム4の原子核間など)で核の相互作用が起きるようになり、最終的には変換される(例えば、反応物であるヘリウム4の少なくとも一部がヘリウム3に変換される)に至ると考えられる。混合物は、攪拌反応器110の再循環取り入れ口に連結された取り出し口を通って剪断モジュール130から出る。
【0032】
空気供給190から来る空気は、脈動減衰器150の取り入れ口に圧縮ガスを供給するガス圧縮機140用の駆動源である。脈動減衰器150により混合物の連続的な流れが剪断モジュール130に供給される。
【0033】
ヘッドスペースガスがたまる攪拌反応器110の一番上またはその付近にある取り出し口は、低温トラップ160の取り入れ口と流体が通過できるよう接続される。低温トラップ160は凝縮を行って液体がガス圧縮機140に入るのを防止する働きをする。低温トラップ160はシステム100からガスを除去するサンプル抽出用の取り出し口を備えている。除去されたガスにはヘリウム4の変換によって生成したヘリウム3が含まれる。低温トラップ160は、その取り出し口をガス圧縮機140の取り入れ口と流体が通過できるよう接続することにより、材料が剪断モジュール130を通って再循環できるようにする。
【0034】
実行モードの前にシステムから不純物を除去するため、
図1Aに示すように、システム100を起動モードで運転させることもできる。起動モードでは、水酸化アンモニウム溶液などの溶媒を反応器110に加え、反応器110を、水素源170からの水素で一回または複数回(例えば2回)、そしてヘリウム源172からのヘリウムで一回または複数回(例えば2回)パージする。真空ポンプ165で反応器110から真空(例えば60mmの真空)を引き、続いて第一の反応物(例えば水素)源170と第二の反応物(例えばヘリウム)源172を用いて、反応物の混合物(例えば水素50%、ヘリウム50%)を反応器110に加える。
【0035】
システム100を反応物(例えば水素とヘリウム)でパージした後は、
図1Bに示すとともに以下でさらに説明するように、システム100を実行モードに設定する。実行モードでは、
図1Aにあった真空ポンプ165を切り離して使用しないようにすることもできる。実行モードが完了したら、システムを
図1Cに示すように真空モードに設定する。攪拌反応槽110のヘッドスペースから出るガスは低温トラップ160に吸引されて液体に凝縮し、溶解していたガスは液体から放出される。ガスは低温トラップ160のサンプル抽出ポイントから抽出することができる。攪拌反応器110から液体を吸引することによって放出したガスには、ヘリウム4の変換で得られたヘリウム3が含まれる。
【0036】
このようにして、水酸化アンモニウムに溶解しているヘリウム3は損失なく無期限に保存することができる。実施例によっては、容器を閉じてそこからガスを抽出し、氷ジャケット付きの容器内でアンモニアを凝縮させる。残ったガスを分析したり、凝縮液を反応器に再循環させたりすることができる。
【0037】
上述のように、本願では一部の実施例としてヘリウム4からヘリウム3を得ることを例に説明したが、本願に記載する方法とシステムは他の核に適用して、異なる同位体または元素を得てもよいことは当業者であれば認識できるであろう。したがって、本願の開示内容をヘリウム4からヘリウム3を得ることに限定するものではない。
【0038】
III.ある同位体や元素を別の同位体や元素に変換するシステム
本発明による元素を別の元素に変換するシステムには、少なくとも1つの攪拌反応器(高剪断装置または剪断モジュールとも呼ばれる)と、剪断ポンプと、送液ポンプと、ガス圧縮機と、アキュムレータである脈動減衰器と、低温トラップとを設ける。このシステムには、さらに、以下に記載するもの以外に1つ以上のポンプを設けることもできる。さらにこのシステムには、1つ以上の流量制御弁を設けてもよい。各種構成装置に対して流入・流出する流れを監視・制御するため、このシステムを制御システムと電子的に通信できるようにしてもよい。
【0039】
以下でさらに議論するが、本願のシステムと方法を用いればある希土類元素を別の希土類元素に変換することができる。こうした実施例では、ある希土類元素を陽子または中性子の受容体として機能させ、別の元素を陽子または中性子の供与体として機能させことができる。したがって、例えば、陽子Y個の元素E3を作り出すには、陽子Y-1個の第一元素E1を陽子Y+n個の第二元素E2とともに用い、元素E2から陽子を元素E1に移すことで元素E1を所望の元素E3に変換することができる。実施例によっては、陽子/中性子の供与体と受容体が同じ元素となる。
【0040】
例えば、ひとつの実施例として、水素原子から出た陽子をカルシウム原子の原子核と相互作用させれば、カルシウム原子の原子核の中性子1が陽子に変換されることによって、スカンジウムを生成させることができる。同様に、水素原子から出た陽子をストロンチウム原子の原子核と相互作用させれば、ストロンチウム原子の原子核中の中性子が陽子に変換されることによって、イットリウムを生成することができる。別の実施例として、水素原子の陽子をバリウム原子の原子核と相互作用させればランタンを生成することができる。実施例によって、反応物と生成物をシステム内で再循環させる場合には、生成物の核(例えばランタンの原子核)を水素原子から陽子と相互作用させてさらに高次の希土類元素を生成させること(ランタンからセリウムを生成するなど)もできる。バリウムからランタンを得るだけでなく、プロセスを十分な時間継続させれば、最初のバリウムの供給源からランタン以外の希土類元素を得ることもできる。したがって、このプロセスによれば、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムの生産ができる。
【0041】
本発明による元素を変換するためのシステムを
図2Aから2Cを参照しながら説明する。
図2Aから2Cは、本発明のひとつの実施例としての元素を変換するためのシステム300の概略図である。
図2Aは、起動モード時のシステム300の概略図である。
図2Bは、実行モード時のシステムの概略図である。
図2Cは、真空モード時のシステムの概略図である。元素変換システム300は、攪拌反応器310、送液ポンプ320、剪断ポンプ330、ガス圧縮機340、アキュムレータとなる脈動減衰器350、分離ユニット360、真空ポンプ365を備える。システム300は、水素供給源370と反応元素供給源372とを含む。反応元素供給源372内の反応元素は溶液状態にある。実施例によっては、反応元素は、カルシウム、ストロンチウム、バリウムのうちの一つである。実施例によっては、バリウムは、水に溶解した水酸化バリウムの形態とする。実施例によっては、ストロンチウムは、水に溶解した炭酸ストロンチウムの形態とする。この実施例では、分離ユニット360は低温トラップとする。しかし、ひとつの実施例として、溶媒から反応生成物を分離する方法には他にも蒸留や極低温分留がある。
【0042】
実行モードでは、
図2Bに示すように、反応元素源372から来た元素を攪拌反応器310内で水あるいは水酸化アンモニウム溶液などの溶媒とともに用いる(例えば溶媒に溶解させる)。反応物源372から来た反応元素は剪断モジュール330に導入する前に可溶性のある形態としておく必要がある。混合物には純金属などの無機材料の小さな粒子も導入し、混合物中に懸濁させる。実施例によっては、金属粒子は約2ミクロンから約8ミクロンの範囲とする。実施例によっては、金属は純金属とする。実施例によっては、金属は銀の粉末を含むものとする。実施例によっては、金属は、ニッケル、アルミニウム、チタン、これらの組み合わせ、からなる群から選択される1種類以上の金属を含むものとする。実施例によっては、銀の粉末は、別の金属類、金属酸化物類、セラミック類のいずれかあるいは複数に置き換える。実施例によっては、混合物のさまざまな成分を混合するため、攪拌反応器310は600rpmの攪拌で動作させる。しかし、ガスと液体を含む供給ストリームを完全な混合状態とするのは主として剪断モジュール330である。混合物は反応器310の攪拌の取り出し口から剪断モジュール330の取り入れ口に供給ポンプ320で送る。剪断モジュールには、上述のとおり、少なくともひとつの回転子と、相補的な形状の固定子とを設ける。実施例によっては、剪断モジュール130は約7500rpmで作動させる。回転子の高速でありかつ各組の相補的な回転子・固定子の間の距離(剪断間隙)が小さいことに加え、金属粒子が存在していることによって、剪断モジュールから元素へのエネルギーの伝達が起きる。回転子から個々の水素の原子核と反応元素にエネルギーが移ることで、個々の水素の原子核と反応物の元素との相互作用が可能となり、反応元素の一部を異なる元素にまたは反応元素の異なる同位体に変換される。混合物は、攪拌反応器310の再循環用の取り入れ口に連結された取り出し口を通って剪断モジュール330を出る。
【0043】
空気供給源390からの空気は、脈動減衰器350の取り入れ口に圧縮ガスを供給するガス圧縮機340にとっての動力源である。脈動減衰器350は混合物が剪断モジュール330まで連続的に流れるのを維持できるよう構成する。
【0044】
ヘッドスペースガスの存在する攪拌反応器310の上部あるいは上部付近にある取り出し口は、低温トラップ360の取り入れ口と流体が通過できるよう連結されている。低温トラップ360は凝縮し、液体がガス圧縮機340流入するのを防いだり流入する量をなるべく抑えたりする働きをする。低温トラップ360は、システム300からガスを除去するためのサンプル抽出用の取り出し口を備える。さらに、低温トラップ360は取り出し口をガス圧縮機340の取り入れ口と流体が通過できるよう連結することにより、材料が剪断モジュール330を通って再循環できるようにする。
【0045】
実行モードの前には、システムから不純物を除去するため、
図2Aに示すように起動モードでシステム300を運転することもできる。起動モードでは水酸化アンモニウム溶液などの溶媒は反応器310に加え、反応器310をガス源370からの適切なガスで1回または複数回(たとえば2回)パージする。真空ポンプ365を動作させて反応器310から真空(例えば60mmの真空)を引き、続けて第一のガス源370や第二のガス供給源372からのガスを反応器310に加えることもできる。
【0046】
システム300をガスでパージした後は、
図2Bに示すとともに上でも述べたとおり、システム300を実行モードに設定する。実行モードでは、
図2Aにあった真空ポンプ365は切り離して使用しないようにすることもできる。実行モードが完了したら、
図2Cに示すようにシステムを真空モードに設定する。攪拌反応器310のヘッドスペースから出るガスは低温トラップ360に吸引され液体に凝縮し、溶解していたガスが液体から放出される。このガスは、低温トラップ360のサンプル抽出ポイントから抽出することができる。攪拌反応器110から液体を吸い出したことによって放出されたガスには、変換後の元素(すなわちこのプロセスで形成された異なる元素または同位体)が含まれる。
【0047】
上記のとおり、本願のシステムと方法の実施例を利用すれば、ある希土類元素を別の希土類金属に変換することができる。実施例によっては、液体状の希土類金属(例えば適切なキャリア流体または溶媒中に希土類金属塩を混合・溶解させて形成したもの。溶媒は限定しないがアンモニアや硫酸など、金属塩が溶解するような液体キャリア)を、望ましくは無機固体(例えば、銀の粉末が存在する状態で、本願で開示する高剪断システムに流す。
【0048】
実施例によってはカルシウム、ストロンチウム、バリウムから希土類元素を得ることについて説明したが、他の反応元素を用いてもよいし、選択された特定の反応元素とプロセスの持続時間とに応じて異なる生成元素を得ることもできるということは当業者であれば認識できるであろう。また、水素を用いてプロセスとシステムを説明したが、この水素は他の元素に置き換えることができるということも当業者であれば認識できるであろう。水素を選んだのは、電磁力によって核どうしが退け合い、核間相互作用を受けるほど核が接近するのを妨げる傾向のある効果を最小限に抑えるためである。
【0049】
また、本願のシステムと方法は、放射性陽子で汚染された飲料水をきれいにする目的に適合させて利用することもできるということに留意されたい。このような実施例では、水素が存在する状態で汚染水を高剪断装置に通す。システムを一回または複数回通過させることで、反応性のある陽子と水素をヘリウム3やヘリウム4に変換することができる。水には、消費される前に塩素を加えてもよい。このような実施例では、水素を加える前に、食用または非食用の油を少量、高剪断装置あるいは水の中に導入することもできる。この油は、水素のキャリアとして、1秒に満たない間(例えば数ナノ秒間)水素の破壊を補助し、反応を起こさせるよう機能することがある。この水素キャリアを利用しながら高剪断装置を複数回通してもよい。水素は、油/水が水素ガスで飽和するまでほとんど連続的に加えてもよい。ガスを回収・販売する予定であって酸素が存在する可能性がある場合(水の場合など)には、脱酸素剤(ヒドラジンなど)を利用することもできる。酸素を含まない炭化水素を用いた場合は、酸素捕捉剤が必要でないこともある。
【0050】
ヘリウム3の生産を考える場合、気体分子どうしの衝突を補助するための伝達媒体として、酸化物ではない純粋な金属(例えば限定しないが実質純粋な銀など)を利用することができる。ヘリウム3が所望の最終的な生成物ではないような実施例ないし用途では、他の伝達媒体を利用してもよい。他の伝達媒体の例としては、限定しないが、乳化した油を含む汚染海水などがある。このように、本発明を実施すれば、水素を用いた変換によって中に含まれる汚染物質が害の小さい物質あるいは無害な物質に変換されるため、汚染水や危険な汚水の存在を軽減または除去するのにも役立つ。
【0051】
IV.ある元素や同位体を別の元素や同位体に変換するための高剪断装置
【0052】
図1Aから1Cの剪断モジュール130として使用してヘリウム4をヘリウム3に変換したり、
図2Aから
図2Cの剪断モジュール330として使用してある同位体または元素を別の同位体または元素に変換したりするのに適した高剪断装置(HSD)の説明を以下に述べる。
【0053】
HSDによって流体に入力されるエネルギー(kW/L/分)は、モータのエネルギー(kW)と流体の出力(L/分)を測定することによって近似できる。実施例によっては高剪断装置のエネルギー消費を1000W/m3よりも大きくする。実施例によっては高剪断装置のエネルギー消費を約1000W/m3から約7500kW/m3の範囲内とする。実施例によっては、エネルギー消費を最大でも約7500W/m3までの範囲とする。さらに別の実施例として、高剪断装置のエネルギー消費を7500W/m3よりも大きくする。高剪断装置内で生じる剪断速度は大きく変化しうるものであり、回転子の直径や、回転子の回転速度や、回転子と固定子の隙間の大きさに依存する。実施例によっては、高剪断装置によって生じる剪断速度を約100000000s-1よりも大きくする。例えば、ひとつの実施例として直径12インチの回転子が1ミクロンの隙間で15000rpmで作動すると、剪断速度は約119700000s-1となる。
【0054】
先端速度とは、反応物にエネルギーを伝達する1つ以上の回転部材の末端に対応する速度(m/秒)である。回転部材について言う先端速度とは単位時間当たりの回転子の先端が移動する周方向の距離であり、Vを先端速度、Dをメートルで表した回転子の直径、nを一秒当たりの回転数で表した回転子の回転速度として、およそV(m/秒)=π・D・nの式で定義される。このように、先端速度は回転子の直径と回転速度の関数になる。また、先端速度は、回転子の先端が掃く周方向の距離、すなわちRを回転子の半径としたときの2πR(メートルなど)に、回転の周波数(例えば一分当たりの回転数、rpm)を掛け合わせることによって計算することもできる。
【0055】
本願の高剪断装置の実施例の場合、通常の回転速度は15000rpm程度あるいはそれ以上とする。先端速度はモータの大きさによって異なる。実施例によっては、通常の先端速度は23m/秒(4500ft/分)より大きくするか、40m/秒(7900ft/分)より大きくすることもできる。本明細書でいう「高剪断」という用語は、回転子・固定子を備えたミルや混合器などの機械的な装置であって、5m/秒(1000ft/分)を超える先端速度を出すことができ、反応させる生成物ストリームにエネルギーを送り込むため機械的に駆動される外部の動力装置を必要とするものを指す。高剪断装置は、高い先端速度と非常に小さい剪断間隙とを併用することで、処理材料に大きな剪断力を与えることができる。このため、動作中には非常に高い圧力と高い温度が作り出される。さらなる実施例としては、圧力は、溶液の粘度、回転子の先端速度、剪断間隙に依存する。また、局所的な領域の圧力は短い時間に1050MPaを大幅に超える可能性もある。さらに、これらの局所的な領域はこの短い時間で温度の極端な上昇も受ける。
【0056】
ヘリウム4からヘリウム3など、ある元素または同位体を別のものに変換することに関する特定の理論に限定するわけではないが、この局所的に生じる極端な圧力と温度は、機械的に誘起される高圧か、あるいは流体力学的なキャビテーションの結果である可能性があると考えられる。この短い時間で局所的な温度が100000Kを超えることもあると考えられる。気泡の壁が崩壊する慣性でエネルギーが閉じ込められることによって、極端な温度が非常に局所的な領域に閉じ込められる。したがって、非常に局所的な領域における短期間、圧力と温度は、例えば、水素とヘリウム4の原子核どうしの核相互作用を生じさせるのに十分である。これらの相互作用の一部によれば、ヘリウム4がヘリウム3に変換される結果となる。別の実施例として、水素原子の陽子をカルシウム原子の原子核と相互作用させることで、カルシウム原子核中の一つの中性子を陽子に変換し、スカンジウムを生成させることもできる。同様に、水素原子から陽子はストロンチウム原子の原子核と相互作用させることで、ストロンチウム原子の原子核中の中性子を陽子に変換し、イットリウムを生成させることもできる。別の実施例として、水素原子の陽子をバリウム原子の原子核と相互作用させることでランタンを生成することもできる。実施例によって、反応物と生成物をシステム内で再循環させる場合には、例えばランタンの原子核など、生成物の核を水素原子からの陽子と相互作用させることで、ランタンからセリウムなど、さらに高次の希土類元素を生成させることもできる。この過程を十分な時間継続させれば、バリウムからランタンを得るのみならず、最初のバリウム供給源からランタン以外の希土類元素を得ることもできる。したがって、この過程によれば、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムの生産に備えることもできる。
【0057】
次に、
図3には高剪断装置200の概略図が示されている。高剪断装置200は回転子・固定子を少なくとも一組備える。この回転子・固定子を組み合わせたものは、限定しないが、生成器220、230、240、あるいは段(ステージ)としても知られている。高剪断装置200には生成器を少なくとも2個設けるが、最も好ましくは剪断装置は生成器を少なくとも3個設ける。
【0058】
第一の生成器220は回転子222と固定子227とを備えている。第二の生成器230は回転子223と固定子228とを備える。第三の生成器は回転子224と固定子229を備えている。各生成器220、230、240について、回転子は回転入力250で駆動される。生成器220、230、240は軸260を中心に回転方向265に回転する。固定子227が高剪断装置の壁255に固定状態に取り付けられる。
【0059】
生成器は回転子と固定子の間に隙間がある。第一の生成器220は第一の隙間225、第二の生成器230は第二の隙間235、第三の生成器240は第三の隙間245とする。これらの隙間225、235、245の幅は1から250ミクロンとする。ある特定の例としては、第一の生成器220の隙間225は第二の生成器230のおよその隙間235より大きくし、この第二の生成器230の隙間235は第三の生成器240のおよその隙間245より大きくする。
【0060】
また、隙間225、235、245の幅は、粗い、中間、細かい、超微細の特性をもたせることもできる。回転子222、223、224と固定子227、228、229は歯を付けた設計とすることができる。各生成器には、当技術分野で知られているように、回転子・固定子を成す歯を二列以上設けてもよい。回転子222、223、224にはそれぞれ周囲に複数の回転子歯を隙間を空けて周方向に並べることができる。固定子227、228、229にはそれぞれ周囲に複数の固定子歯を隙間を空けて周方向に並べることができる。実施例によっては回転子の内径は約11.8cmとする。実施例によっては固定子の外径は約15.4cmとする。さらなる実施例として、回転子と固定子の外径は、回転子を約60mm、固定子を約64mmとしてもよい。あるいは、先端速度と剪断圧力を変更するために回転子と固定子の直径をこれとは別の値としてもよい。実施例によっては、3段のそれぞれに隙間が約250ミクロン以下の非常に細かい生成器を設けて使用する。別の実施例として、3つの生成器220、230、240(生成器は段と呼ぶこともある)のうちのひとつあるいは複数は、隙間が約1から250ミクロンの間の非常に細かい生成器を設けて使用する。実施例によっては、高剪断装置200は生成器を3段以上、例えば生成器を4段設ける。別の実施例として、高剪断装置200が備える生成器の数は、図示した3つの生成器220、230、240より少なくしてもよい。
【0061】
高剪断装置200には供給ストリーム205を含む反応混合物が供給される。ひとつの実施例として、この供給ストリーム205は、水素とヘリウムと溶媒に、脱酸素剤とミクロンサイズの金属粒子とを混合したものとし、金属粒子は混合物中に懸濁した状態であってもよい。本発明のひとつの実施例として、溶媒は水酸化アンモニウム溶液とし、脱酸素剤はヒドラジンとする。しかし、脱酸素剤はあらゆる実施例で必要になるとは限らない。供給ストリーム205は生成器220、230、240内を通して送り出すことによって生成物ストリーム210が形成されるようにする。生成物210には、元のヘリウム4の一部がヘリウム3に変換されていることを除けば、供給ストリーム205と同じ化学物質の混合物が含まれている。それぞれの生成器では、回転子222、223、224が固定状態の固定子227、228に対して高速で回転している。回転子229が回転することによって、局所的な高剪断条件を生成しながら回転子222の外側面と固定子227の内側面の間を通して供給ストリーム205などの流体を吸い込んでいく。隙間225、235、245は供給ストリーム205を処理する高剪断力を発生させる。回転子と固定子の間の高剪断力は、供給ストリーム205を処理して生成物ストリーム210を生成する機能を果たす。特に、銀の粉末は、回転子222、223、224と固定子227、228、229の機械的なエネルギーを水素やヘリウムの原子核などの元素に与える。回転子は、上述のとおり、回転子の直径と所望の先端速度に見合う速度で回転するように設定される。
【0062】
どのような高剪断装置200を選択するかは、処理量の要件や、取り出し口での分散物210中の粒子または気泡の目標とする大きさに依存する。特定の例としては、高剪断装置200は、ノースカロライナ州ウィルミントンのIKA(登録商標)ワークス社とマサチューセッツ州ウィルミントンのAPVノースアメリカ社のDISPAXREACTOR(登録商標)を用いる。例えば、DR2000/4型は、ベルト駆動、4M生成器、PTFEシーリングリング、取り入れ口フランジ1”サニタリークランプ、取り出し口フランジ3/4”サニタリークランプ、出力2馬力、出力速度7900rpm、流量容量(水)約300~700L/時(生成器に依存)、先端速度9.4~41m/秒(約1850ft/分~約8070ft/分)である。これに代えて、取り入れ口/取り出し口の接続、馬力、公称先端速度、出力rpm、公称流量の異なるモデルも利用可能である。
【0063】
特定の理論に限定するわけではないが、高剪断混合のレベルや程度で十分に局所的な高圧高温状態を作り出すことができ、そのような状態によってそうでもなければ起こりそうもない核反応が起きているものと考えられる。高剪断装置内では局所的な条件が発生しており、その結果として温度と圧力が上昇するものと考えられる。高剪断装置内の圧力と温度の上昇は瞬間的かつ局所的であり、高剪断装置を出た後はすぐにシステムがバルク状態、すなわち平均的な状態に戻る。場合によっては、局所的な圧力と温度は、異なる原子の原子核間にあるクーロン障壁を克服して核子間相互作用を可能にするのに十分な程度になると考えられる。そのさまざまな反応のメカニズムは分かっていない。しかし、ヘリウム4をヘリウム3に変換する実施例では、ヘリウム4の原子核に陽子が高エネルギーで衝突してヘリウム4の原子核から中性子が除去され、ヘリウム3の原子核が形成される過程が少なくとも反応の一部として伴うものと考えられる。また、ヘリウム3以外の生成物も本願のシステムと方法を介して製造することができる。例として、三重水素を製造することもできる。三重水素は最終的にヘリウム3に崩壊するため、この元素が生産されることは有益であると考えられる。ヘリウム4はヘリウム3よりも結合エネルギーの高い、極めて安定した核であるため、このプロセスはエネルギーを放出せずむしろ消費する。また、ヘリウム4は極めて安定であるため、ヘリウム4の多くはヘリウム3に変換されないまま高剪断装置200から出る。しかし、本発明のひとつの実施例を実施した実験では、ヘリウム3の収率の増加を達成しており、ヘリウム3の量は処理前よりも3%、5%、7%、10%、12%、14%、あるいはこれよりも大きく増加するようになった。したがって、本システムと方法の特定の実施例における高剪断混合装置を、一部のヘリウム4の原子核から中性子を取り去るのに有効であると考えられる条件で実行すれば、一部のヘリウム4の原子核をヘリウム3の原子核に変換することができる。
【0064】
上述のとおり、実施例によっては、本願のシステムは、第一の元素をその元素の同位体に変換するために利用される。本願で詳細に説明している特定の例に限定するわけではないが、本願のシステムと方法は、元素の放射性同位体(すなわち元素の「放射性核種」)をその元素の非放射性同位体に変換、すなわち「核変換」することに特に有用となるであろうと想定される。例えば、本願のシステムと方法は、汚染された流体(限定しないが、例えば、一種類あるいは複数の放射性核種で汚染された水や汚泥など)を処理することで、放射性核種の少なくとも一部が高剪断による水素との接触を経て非放射性あるいは放射性の低い形態の元素に変換される(例えば元素の天然に存在する非放射性同位体に変換される)ようにすることに有用であろう。前述のとおり、高剪断により、元素と反応する可能性のある原子状態の水素が得られる。処理対象とする汚染流体は、油を含んだものとするのが望ましい。そうでない場合は、高剪断装置に導入する前に汚染流体に油を加えることができる。この油は、リサイクルした植物油、エンジンオイル、溶融ワックスなどとすることができる。高剪断装置に導入する前に、汚染流体に脱酸素剤(限定しないがヒドラジンなど)を加えることができる。
【0065】
実施例によっては、セシウムやストロンチウムの放射性核種を一種類以上含んだ汚染流体を本願で開示したとおり処理することでその元素の安定な(または「より安定な」)同位体を含む処理済み流体を得る。この「より安定な」同位体は、放射性核種よりも半減期が短いものとするのもよい。汚染流体は、水や油の中に第一の元素と固体粒子(限定しないが例えば砂)を含んだものとしてもよい。
【0066】
実施例によっては、汚染流体は、ストロンチウムの放射性同位元素のうちの少なくとも一種類(すなわちストロンチウム89とストロンチウム90のいずれかあるいは両方)を含むものとし、その放射性同位体の少なくとも一部がストロンチウムの非放射性同位体のうちの一種類以上(すなわちストロンチウム84、ストロンチウム86、ストロンチウム87、ストロンチウム88のひとつまたは複数)に変換される。実施例によっては、ストロンチウムの放射性同位体は主としてストロンチウム88に変換される。
【0067】
実施例によっては、汚染流体は、セシウムの放射性同位体の少なくとも一種類(すなわち、セシウム129、セシウム131、セシウム132、セシウム134、セシウム135、セシウム136、セシウム137のいずれかあるいは複数)を含むものとし、その放射性同位体の少なくとも一部がセシウム133に変換される。実施例によっては、汚染流体は、セシウム134、セシウム135、セシウム137、から選択したセシウムの放射性同位体を少なくともひとつ含み、放射性同位体の少なくとも一部がセシウム133をに変換される。
【0068】
この開示内容を読めば、本願のシステムと方法が他の元素・同位体の転換に適用できることは当業者であれば理解できるであろう。
【0069】
ヘリウム4をヘリウム3に変換するプロセスの例。ヘリウム4からヘリウム3へのプロセスのひとつの具体的な実施例として、反応内容は、銀、ボトル2本、金属ベースで99.9%、5~8ミクロン、各50gと、ヒドラジン、ボトル2本、98%、各100gと、銀、ボトル2本、金属ベースで99.9%、2~3.5ミクロン、各50gと、水酸化アンモニウム溶液、ボトル3本、各2.5リットルとを含む。反応内容物を加えるための起動手順として、反応器110にボトル3本の水酸化アンモニウムを加えた。反応器110で60mmの真空を引きながら、システム100を水素とヘリウムでそれぞれ2回ずつパージした。反応器110をヘリウムと水素でパージした後、酸素を除去するためヒドラジンを反応器110に加えた。ヒドラジンを加えた後、銀の粉末を反応器110に加えた。
【0070】
起動手順の完了後、供給源170、172からの水素とヘリウムを、水素50体積%(あるいはモル%)、ヘリウム50体積%(あるいはモル%)の割合で反応器110に加え、反応器で20~30psiになるようにした。反応器110での攪拌は600rpmで行い、反応器110内の液体・固体成分と気体との均一な混合を維持した。反応器110から混合物を圧送ポンプ120で剪断モジュール130に汲み入れた。剪断モジュールは7900rpmで運転させた。流体は剪断モジュール130を出てから攪拌反応器110に戻し、このプロセスを7時間かけて何度も繰り返した。実行時間を経て、反応器110の液体を減圧蒸留し低温トラップ160に取り出した後、低温トラップ160からサンプルを抽出した。サンプルは下で概説する手順に従って分析した。その分析結果を
図4に示す表に示す。反応器110を真空にさらす前に採取したサンプルはサンプル13Aと呼び、反応器110の液体を減圧蒸留して低温トラップ160に取り出した後に採取したサンプルはサンプル13Bと呼ぶ。したがって、サンプル13Aは処理前のヘリウム、すなわち剪断装置を用いて水素と相互作用させる前のヘリウムであり、サンプル13Bは処理後のヘリウム、すなわち剪断装置で水素との相互作用を受けた後のヘリウムである。
図4からわかるように、ヘリウム4から変換されたヘリウム3を含むサンプル13B(処理後のヘリウムサンプル)は、サンプル13A(処理前のヘリウムサンプル)よりも有意にヘリウム3を多く含んでいる。
【0071】
三重水素とヘリウムのための分析方法
【0072】
ヘリウムの拡散をできる限り抑えるため、ステンレス鋼とCorning1724ガラスで構成された高真空ラインで大気サンプル(空気0.5cc)を処理する。H20蒸気とCO2をそれぞれ-90°Cと-95°Cで除去した後、体積を較正済みのガスとキャパシタンスマノメータを用いて非凝縮ガス(例えばHe、Ne、Ar、O2、N2、CH4)の量を測定した。可変リークバルブを備えたDycor四重極型質量分析計でガス比(N2、N2、Ar、CH4)を分析した。その結果をキャパシタンスマノメータの測定値と組み合わせてガス濃度を得る(±2%)。ヘリウム同位体を分析する前に、Zr-Al合金(SAES-ST707)と反応させることでN2と02を除去し、ArとNeをそれぞれ77Kで40Kで活性炭に吸着させる。SAES-ST-101ゲッター(取り入れ口ラインに1つ、質量分析装置に2つ)によればHD+イオンのバックグラウンドが約1000個/秒まで減少する。
【0073】
ヘリウムの同位体比と濃度は、ファラデーカップ(解像度200)とジョンストン電子増倍管(解像度600)を備えたVG5400希ガス質量分析計を用い、4He(ファラデーカップ)と3He(倍増管)のビームについて順次分析した。軸上の検出器(解像度600)では3He+がHD+から完全に分離し、ベースライン分離はHD+ピークで2%未満である。HD+イオンの3Heピークへの寄与は、HD+イオンが1000個/秒のときで0.1個/秒未満である。空気比(感度2×10-4アンペア/トル)のHe2.0μccに対しては、3Heイオンの信号は平均2500個/秒であり、質量分析計のソース内の低い電位で散乱される4Heイオンあるいは形成される4Heイオンに起因するバックグラウンド信号は~15cpsであった。3He/4He比はすべて、空気中のヘリウムを絶対的な基準として用い、大気比(RA)を基準としたものが報告されている。3He/4He比の誤差はサンプル測定の精度(0.2%)と空気中の比の測定による偏差(0.2%)に起因するものであり、報告されているヘリウム同位体の値に対して2σで合計0.3%の誤差が出る。ヘリウム濃度は合計の標準サンプルを既知の大きさと比較することで導出される。その値は、ピーク高さの比較によって測定する場合、1%(2σ)まで正確である。
【0074】
三重水素の値は3He「内部成長」技術を使用して分析する。高真空ラインで水150gからHeをすべて脱気し、60から90日間、3”O.D.1724ガラスアンプル内に密封する。このガラスアンプルはヘリウムを含まない窒素ガス中で250°Cで焼成することでガラスへのヘリウムの溶解度をできる限り抑えたものである。密封後、アンプルは-20°Cで保存し、サンプル保管中にヘリウムが電球に拡散するのを制限する。この間、三重水素の崩壊によって生成した3Heがフラスコに蓄積する。通常のブランクサンプルは4Heが~10-9ccに対し3Heが10-15ccである。4Heの含有量を用い、ブランクが空気における3He/4He比をもつと仮定して、3Heに対しブランク補正を行った。保管アンプルの3Heの含有量を上記の手順によってVG5400で測定し、空気標準の3He含有量と比較した。10T.U.を含み90日間貯蔵した通常の3Heサンプルの信号は、~8×105個の原子(±2%)と3±1×104個の3Heブランク。報告されている三重水素の値の誤差は、三重水素の量に依存し、10T.U.で2%(2σ)である。さらに精度を高めるには、サンプルを大きくし貯蔵時間を長くすることで達成することができる。
【0075】
本発明の好ましい実施例を図示し説明してきたが、当業者は本発明の要旨および教示から逸脱することなくその変形を行うことができる。本願で説明した実施例は単なる例示であり、限定することを意図したものではない。本願で開示する発明はその発明の範囲内でさまざまな変形や変更が可能である。数値範囲または数値限定が明示的に記載されている箇所では、そのような明示的な範囲ないし限定にはこの明示的に記載された範囲ないし限定内に収まる均等な大きさの範囲ないし限定が反復して含まれる(たとえば約1から約10には2、3、4が含まれ、0.10より大きいものには0.11、0.12、0.13が含まれる)ものと理解すべきである。請求項の任意の要素について使用される「場合により」という用語は、対象要素が必要であっても必要でなくてもよいという意味であることを意図したものである。その選択肢の両方が特許請求の範囲内にあるものとする。「備える」「含む」「有する」などの広い意味の用語が使用されている場合、「からなる」「本質的に・・・からなる」「実質的に・・・からなる」などの狭い意味の用語の根拠となると理解されるべきである。
【0076】
したがって、保護の範囲は上で述べた説明によって限定されることなく特許請求の範囲によってのみ限定されるものであり、その範囲には特許請求の対象の全ての均等物が含まれる。すべての請求項は本発明のひとつの実施例として本明細書に援用する。したがって、請求項はさらなる説明であり、本発明の好適な実施例に加わるものである。本願で引用した全ての特許、特許出願、刊行物の開示内容は、本願に記載したものを補足する例示的な手順または他の詳細を得る範囲で参照援用する。