(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023099213
(43)【公開日】2023-07-11
(54)【発明の名称】外傷性脳損傷後のバイオブリッジ形成時に発現する組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20230704BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20230704BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230704BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230704BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230704BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230704BHJP
【FI】
A61K35/28
A61K38/02
A61K48/00
A61P25/00
A61P43/00 105
C12N5/10
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023078339
(22)【出願日】2023-05-11
(62)【分割の表示】P 2021038508の分割
【原出願日】2016-09-21
(31)【優先権主張番号】61/647,893
(32)【優先日】2012-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】503235673
【氏名又は名称】サンバイオ,インコーポレイティド
(71)【出願人】
【識別番号】398014333
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オブ サウス フロリダ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】シーザー ブイ. ボーロンガン
(72)【発明者】
【氏名】ケイシー シー. ケース
(57)【要約】
【課題】対象の外傷性脳損傷の後に、細胞を移植することにより脳室下帯と損傷脳部位の間のバイオブリッジをさせる組成物を提供する。
【解決手段】対象の外傷性脳損傷の後に、細胞を移植により脳室下帯と損傷脳部位の間のバイオブリッジを形成するに際して発現する組成物であり、組成物はマトリックスメタロプロテイナーゼ9の治療的有効量を含み、当該細胞が、(a)骨髄付着幹細胞の培養物を提供するステップと、(b)ステップ(a)の細胞培養物を、Notch細胞内ドメインをコードする配列を含むポリヌクレオチドと接触させるステップであって、前記ポリヌクレオチドが完全長Notchタンパク質をコードしないステップと、(c)ステップ(b)の前記ポリヌクレオチドを含む細胞を選択するステップと、(d)ステップ(c)の前記選択された細胞を選択なしでさらに培養するステップと、を含むプロセスによって得られる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外傷性脳損傷の処置のための対象への移植のための細胞であって、
(a)MSCの培養物を提供するステップと、
(b)ステップ(a)の前記細胞培養物を、NICDをコードする配列を含むポリヌクレオチドと接触させるステップであって、前記ポリヌクレオチドが完全長Notchタンパク質をコードしないステップと、
(c)ステップ(b)の前記ポリヌクレオチドを含む細胞を選択するステップと、
(d)ステップ(c)の前記選択された細胞を選択なしでさらに培養するステップと
を含むプロセスによって得られる細胞。
【請求項2】
前記対象がヒトである、請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
前記MSCがヒトから得られる、請求項1または請求項2に記載の細胞。
【請求項4】
対象の外傷性脳損傷を処置するための方法であって、請求項1~3のいずれかに記載の細胞の治療的有効量を前記対象の脳に投与することを含む、方法。
【請求項5】
神経原性ニッチから脳損傷部位への内因性神経原性細胞の移動を誘導するための方法であって、請求項1~3のいずれかに記載の細胞の治療的有効量を対象の脳に投与することを含む、方法。
【請求項6】
前記神経原性ニッチが脳室下帯である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記脳損傷が外傷性脳損傷である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
対象の神経原性細胞の増殖を刺激するための方法であって、請求項1~3のいずれかに記載のSB623細胞の治療的有効量を対象の脳に投与することを含む、方法。
【請求項9】
神経原性細胞が増殖して対象の脳損傷部位に移動するように誘導するための方法であって、請求項1~3のいずれかに記載のSB623細胞の治療的有効量を対象の脳に投与することを含む、方法。
【請求項10】
前記脳損傷が外傷性脳損傷である、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の引用
本願は、2012年5月16日に出願した米国仮特許出願第61/647,893号の優先権の利益を主張する。米国仮特許出願第61/647,893号の明細書および図面は、全ての目的のためにその全体が本明細書に参考として援用される。
【0002】
連邦支援に関する表明
本明細書に記載される研究の一部は、National Institute of Neurological Disorders and Strokeからの補助金により援助された。米国政府は、本明細書に開示される発明に一定の権利を有することができる。
【0003】
分野
本開示は、神経障害のための細胞療法の分野である。
【背景技術】
【0004】
背景 幹細胞は細胞発達の徹底的な検査のために最初に採用され1、神経障害の処置のための細胞ベースの療法を含む再生医療の基礎になっている2、3。幹細胞は成人期にも存在し8、自己再生して複数の系統に分化し9、正常なホメオスタシスに寄与し10、損傷した器官、すなわち脳において内因的に11~14、または移植後に15~21治療的有益性を発揮する能力を保有する。側脳室の脳室下帯(SVZ)および海馬歯状回の顆粒下帯は、成人脳で2つの主要な幹細胞ニッチであるが22、23、静止神経幹細胞(NSC)が他の脳領域で検出されている24。損傷後の内因性幹細胞の誘導は、再生医療で新しい機会を提供する2、3、11~21。
【0005】
多能性幹細胞以外の細胞も、中枢神経系の障害の処置で用いられている。一例として、脳卒中の処置のために、SB623細胞(外因性Notch細胞内ドメインが発現されている骨髄付着幹細胞(marrow adherent stem cell)に由来する細胞である)が、虚血発作部位で、またはその近くでの移植により用いられる。例えば、米国特許第8,092,792号およびYasuharaら(2009年)Stem Cells Devel.18巻:1501~1
513頁を参照。米国特許第7,682,825号は、中枢・末梢神経系のいくつかの障害の処置での、SB623細胞のさらなる使用を記載する。
【0006】
これらの科学的な進歩および一部の初期の臨床研究25~27にもかかわらず、細胞療法の我々の理解における基本的なギャップは、移植された細胞が傷害を受けた神経組織の修復を促進する機構についての知識である。今日まで、移植片生存および移植片持続性の増加は、血液学的および非血液学的障害で治療的有益性をもたらすことにおいて細胞移植療法の成功の要点とみなされている。したがって、移植された細胞の生存および持続性を長くすることに多くの努力が向けられている。したがって、大量の移植された細胞の持続性を必要としない有効な細胞療法の方法が有利であろう。
【0007】
外傷性脳損傷(TBI)は、外部の機械的力から生じる脳への傷害を指す。TBIは、他の原因の中でも、転倒、火器の傷、スポーツ事故、建築事故および車両事故から生じる可能性がある。TBIの被害者は、いくつかの物理的、認知的、社会的、感情的および/または行動的障害を被ることがある。
【0008】
TBIの初期の物理的傷害を元に戻すためにできることは、ほとんどない。したがって
、処置選択肢は、急性相でさらなる傷害を予防するための安定化、およびその後のリハビリテーションから主になる。これらの限定された選択肢のため、TBIの処置のためのさらなる方法および組成物が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第8,092,792号明細書
【特許文献2】米国特許第7,682,825号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Yasuharaら(2009年)Stem Cells Devel.18巻:1501 ~1513頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
概要
本発明者らは、SB623細胞(すなわち、外因性Notch細胞内ドメインが発現されている髄接着幹細胞に由来する細胞)の移植が、外傷性脳損傷(TBI)の処置で用いることができることを発見した。TBI後にSB623細胞の移植を受けた動物は、ビヒクルだけの注射を受けた外傷動物と比較して、皮質コアおよび損傷周囲の皮質エリアへの傷害の有意な低減に加えて、有意に改善された運動および神経の機能を示した。
【0012】
本発明者らは、予想に反して、多数の移植された細胞の生存および持続性がSB623細胞移植の治療的有益性に必要とされないことも見出した。驚くべきことに、治療的有益性は、頑強で安定した機能回復を開始するのに十分である、最小限で急性の移植片生存によって得ることができる。これは、2つの主要な問題:移植できる細胞の十分な供給の必要性および長期移植片生存の必要性を解決する。
【0013】
本発明者らは、TBIの処置でのSB623細胞移植の有益な効果が、脳室下帯(SVZ)中の神経原性ニッチと損傷脳部位の間の生物学的ブリッジ(「バイオブリッジ」)の形成から生じることも発見した。免疫組織化学的に可視化され、レーザー捕捉されたこのバイオブリッジは、初期には高レベルの細胞外マトリックスメタロプロテイナーゼを発現し、移植された細胞の流れで特徴づけられた。移植の後の時間に、移植された細胞は新たに形成された宿主細胞と置き換えられ、バイオブリッジに移植細胞はほとんど残らなかった。したがって、移植されたSB623細胞は、神経原性SVZと損傷した皮質の間に、神経原性ニッチから脳損傷部位への宿主神経原性細胞の後の移動を促進した経路を初期に形成した。
【0014】
この一連の事象は、TBIの処置のための新規の方法、すなわち、宿主神経原性細胞の移動を方向づける一時的経路を形成するSB623細胞の移植を明らかにする。すなわち、移植されたSB623細胞は、神経原性ニッチと損傷部位の間にバイオブリッジを初期に形成するが、このバイオブリッジが形成されると、移植された細胞は、損傷部位に移動する宿主神経原性細胞と置き換えられる。これらの知見により、神経原性ニッチから損傷した脳部位への宿主細胞の長距離移動が、内因性修復機構の開始のためのバイオブリッジとして働く移植されたSB623細胞を通して達成することができることが明らかになる。
【0015】
したがって、本開示は、とりわけ、以下の実施形態を提供する:
1.対象の外傷性脳損傷を処置するための方法であって、前記方法は、SB623細胞の治療的有効量を対象の脳に投与することを含み、SB623細胞が、(a)骨髄付着幹
細胞(MSC)の培養物を提供するステップと、(b)ステップ(a)の細胞培養物をNotch細胞内ドメイン(NICD)をコードする配列を含むポリヌクレオチドと接触させるステップであって、前記ポリヌクレオチドが完全長Notchタンパク質をコードしないステップと、(c)ステップ(b)のポリヌクレオチドを含む細胞を選択するステップと、(d)ステップ(c)の選択された細胞を選択なしでさらに培養するステップとによって得られる方法。
2.対象がヒトである、実施形態1に記載の方法。
3.MSCがヒトから得られる、実施形態1または2のいずれかに記載の方法。
4.外傷性脳損傷の処置のための対象への移植のための細胞であって、(a)MSCの培養物を提供するステップと、(b)ステップ(a)の細胞培養物をNICDをコードする配列を含むポリヌクレオチドと接触させるステップであって、前記ポリヌクレオチドが完全長Notchタンパク質をコードしないステップと、(c)ステップ(b)のポリヌクレオチドを含む細胞を選択するステップと、(d)ステップ(c)の選択された細胞を選択なしでさらに培養するステップとを含むプロセスによって得られる細胞。
5.対象がヒトである、実施形態4に記載の細胞。
6.MSCがヒトから得られる、実施形態4または5のいずれかに記載の細胞。
7.神経原性ニッチから脳損傷部位への内因性神経原性細胞の移動を誘導するための方法であって、前記方法が、SB623細胞の治療的有効量を対象の脳に投与することを含み、SB623細胞が、(a)MSCの培養物を提供するステップと、(b)ステップ(a)の細胞培養物をNotch細胞内ドメイン(NICD)をコードする配列を含むポリヌクレオチドと接触させるステップであって、前記ポリヌクレオチドが完全長Notchタンパク質をコードしないステップと、(c)ステップ(b)のポリヌクレオチドを含む細胞を選択するステップと、(d)ステップ(c)の選択された細胞を選択なしでさらに培養するステップとによって得られる方法。
8.神経原性ニッチが脳室下帯である、実施形態7に記載の方法。
9.脳損傷が外傷性脳損傷である、実施形態7または8のいずれかに記載の方法。
10.対象がヒトである、実施形態7~9のいずれかに記載の方法。
11.MSCがヒトから得られる、実施形態7~10のいずれかに記載の方法。
12.対象の神経原性細胞の増殖を刺激するための方法であって、前記方法が、SB623細胞の治療的有効量を対象の脳に投与することを含み、SB623細胞が、(a)MSCの培養物を提供するステップと、(b)ステップ(a)の細胞培養物をNotch細胞内ドメイン(NICD)をコードする配列を含むポリヌクレオチドと接触させるステップであって、前記ポリヌクレオチドが完全長Notchタンパク質をコードしないステップと、(c)ステップ(b)のポリヌクレオチドを含む細胞を選択するステップと、(d)ステップ(c)の選択された細胞を選択なしでさらに培養するステップとによって得られる方法。
13.脳損傷が外傷性脳損傷である、実施形態12に記載の方法。
14.対象がヒトである、実施形態12または13のいずれかに記載の方法。
15.MSCがヒトから得られる、実施形態12~14のいずれかに記載の方法。
16.神経原性細胞が増殖して対象の脳損傷部位に移動するように誘導するための方法であって、前記方法が、SB623細胞の治療的有効量を対象の脳に投与することを含み、SB623細胞が、(a)MSCの培養物を提供するステップと、(b)ステップ(a)の細胞培養物をNotch細胞内ドメイン(NICD)をコードする配列を含むポリヌクレオチドと接触させるステップであって、前記ポリヌクレオチドが完全長Notchタンパク質をコードしないステップと、(c)ステップ(b)のポリヌクレオチドを含む細胞を選択するステップと、(d)ステップ(c)の選択された細胞を選択なしでさらに培養するステップとによって得られる方法。
17.脳損傷が外傷性脳損傷である、実施形態16に記載の方法。
18.対象がヒトである、実施形態16または17のいずれかに記載の方法。
19.MSCがヒトから得られる、実施形態16~18のいずれかに記載の方法。
特定の実施形態では、例えば以下が提供される:
(項目1)
外傷性脳損傷の処置のための対象への移植のための細胞であって、
(a)MSCの培養物を提供するステップと、
(b)ステップ(a)の前記細胞培養物を、NICDをコードする配列を含むポリヌクレオチドと接触させるステップであって、前記ポリヌクレオチドが完全長Notchタンパク質をコードしないステップと、
(c)ステップ(b)の前記ポリヌクレオチドを含む細胞を選択するステップと、
(d)ステップ(c)の前記選択された細胞を選択なしでさらに培養するステップとを含むプロセスによって得られる細胞。
(項目2)
前記対象がヒトである、項目1に記載の細胞。
(項目3)
前記MSCがヒトから得られる、項目1または項目2に記載の細胞。
(項目4)
対象の外傷性脳損傷を処置するための方法であって、項目1~3のいずれかに記載の細胞の治療的有効量を前記対象の脳に投与することを含む、方法。
(項目5)
神経原性ニッチから脳損傷部位への内因性神経原性細胞の移動を誘導するための方法であって、項目1~3のいずれかに記載の細胞の治療的有効量を対象の脳に投与することを含む、方法。
(項目6)
前記神経原性ニッチが脳室下帯である、項目5に記載の方法。
(項目7)
前記脳損傷が外傷性脳損傷である、項目5に記載の方法。
(項目8)
対象の神経原性細胞の増殖を刺激するための方法であって、項目1~3のいずれかに記載のSB623細胞の治療的有効量を対象の脳に投与することを含む、方法。
(項目9)
神経原性細胞が増殖して対象の脳損傷部位に移動するように誘導するための方法であって、項目1~3のいずれかに記載のSB623細胞の治療的有効量を対象の脳に投与することを含む、方法。
(項目10)
前記脳損傷が外傷性脳損傷である、項目9に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、ラットでのボディスイング試験(EBST)の上昇の結果を示す。 値は、ベースライン(TBIの前)ならびにTBIの7日、1カ月、2カ月および3 カ月後について提供される。ラットは、SB623細胞の移植(「細胞」、各対の右 端のバー)またはビヒクルの注入(「ビヒクル」、各対の左端のバー)のいずれかを 受けた。「*」は、p<0.05での統計的有意性を示す。
【0017】
【
図2】
図2は、SB623細胞の移植(「細胞」)またはビヒクルの注入(「ビヒ クル」)をその後受けたTBIを施したラットでの、改変Bederson神経学的 検査での平均スコアを示す。値は、ベースライン(TBIの前)ならびにTBIの7 日、1カ月、2カ月および3カ月後について提供される。各対の左端のバーは、ビヒ クルを注入したラットのスコアを表す。各対の右端のバーは、SB623細胞の移植 を受けたラットのスコアを表す。「*」は、p<0.05での統計的有意性を示す。
【0018】
【
図3】
図3は、ラットがRotorod機器の上に留まることができた秒数の平均 値を示す。ラットは実験的TBIを施し、その後SB623細胞の移植(「細胞」) またはビヒクルの注入(「ビヒクル」)のいずれかを受けた。値は、ベースライン( TBIの前)ならびにTBIの7日、1カ月、2カ月および3カ月後について提供さ れる。各対の左端のバーは、ビヒクルを注入したラットのスコアを表す。各対の右端 のバーは、SB623細胞の移植を受けたラットのスコアを表す。「*」は、p<0 .05での統計的有意性を示す。
【0019】
【
図4】
図4Aおよび4Bは、TBIを施したラットでの皮質コア(「コア」)およ び衝撃部位の内外の皮質領域(「損傷周辺」)への傷害についてのアッセイの結果を 示す。
図4Aは、ビヒクルの注入(パネルa1~d1)を受けたラットと比較した、 SB623細胞の移植(パネルa~d)を受けたラットからの脳のH&E切片を示す 。
図4Bでは、結果はビヒクルの注入を受けたTBIを施した動物に対する病変エリ アパーセント(実施例8を参照)で表される。各対の左端のバーは、コア領域の値を 示す。各対の右端のバーは、損傷周辺領域の値を示す。
【0020】
【
図5】
図5は、TBIの1カ月後および3カ月後にビヒクルの注入を受けたTBI を施した動物と比較した、SB623細胞の移植を受けたTBIを施した動物の脳室 下帯(「SVZ」)および皮質(「CTX」)でのKi67標識細胞のレベルを示す 。「*」は、高倍率の1視野につき観察された標識細胞の数の統計的に有意な増加を 示す(p<0.05)。
【0021】
【
図6】
図6は、TBIの1カ月後および3カ月後にビヒクルの注入を受けたTBI を施した動物と比較した、SB623細胞の移植を受けたTBIを施した動物の脳室 下帯(「SVZ」)および皮質(「CTX」)でのネスチン標識細胞のレベルを示す 。「*」は、高倍率の1視野につき観察された標識細胞の数の統計的に有意な増加を 示す(p<0.05)。
【0022】
【
図7】
図7は、TBIの1カ月後および3カ月後にビヒクルの注入を受けたTBI を施した動物と比較した、SB623細胞の移植を受けたTBIを施した動物の脳梁 (「CC」)および皮質(「CTX」)でのダブルコルチン標識細胞のレベルを示す 。「*」は、高倍率の1視野につき観察された標識細胞の数の統計的に有意な増加を 示す(p<0.05)。
【0023】
【
図8】
図8は、TBIの1カ月後および3カ月後に実験的TBIを施したラットの 脳からのレーザー捕捉バイオブリッジのホモジネートでの溶解活性を示す。活性は、 スキャニングザイモグラフゲルによって得られる、0.5ngの組換えMMP-9に 対する光学密度単位で表される。2セットの3本のバーの各々において、左端のバー はTBI後にビヒクルを注入したラットからのバイオブリッジでの相対活性を表し、 中央のバーはTBI後にSB623細胞を移植したラットからのバイオブリッジでの 相対活性を表し、右端のバーは対照の偽手術をしたラットからのバイオブリッジでの 相対活性を表す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
詳細な説明
外傷性脳損傷(TBI)の処置のための方法および組成物が、本明細書で開示される。脳での幹細胞(例えば、神経幹細胞、ニューロン幹細胞)の移動のモジュレーションのための方法および組成物も、本明細書で開示される。
【0025】
本発明者らは、TBI後の細胞移植からもたらされる行動および組織学的改善が、大規模な移植片生存または長期の移植片持続性を必要としないという意外な発見をした。実際
、これらの治療的有益性をもたらすのに、適度の急性の移植片生存だけが必要である。したがって、本発明者らは、脳で持続する必要がなく、衝撃を受けた皮質エリアへ新しい細胞を生成して推進するようにSVZを誘導することが可能である移植された細胞の閾値用量を伴う、神経修復のための新規方法を発見した。したがって、大量の脳損傷を抑止するために複雑な内因性復元機構を開始するのに、最小有効用量の移植および移植された細胞の急性の生存で十分である。
【0026】
本開示の実施では、特に明記しない限り、細胞生物学、毒物学、分子生物学、生化学、細胞培養、免疫学、神経学、外科、組換えDNAの分野および当業技術の範囲内である関連分野で標準の方法および従来の技術を採用する。そのような技術は文献に記載されており、したがって当業者ならば入手できる。例えば、Alberts, B.ら、「Molecular Biology of the Cell」、第5版、Garland Science、New York、NY、2008年;Voet,D.ら「Fundamentals of Biochemistry: Life at the Molecular Level」、第3版
、John Wiley & Sons、Hoboken、NJ、2008年;Sambrook, J.ら、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、2001年;Ausubel, F.ら、「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley & Sons、New York、1987年および定期最新版;Freshney, R.I.、「Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique」、第4版、John Wiley & Sons、Somerset、NJ、2000年;ならびにシリーズ物「Methods in Enzymology」、Academic Press、San Diego、CAを参照。
【0027】
髄接着幹細胞(MSC)
本開示は、対象の脳損傷部位にSB623細胞を移植することによってTBIを処置し、幹細胞移動をモジュレートする方法を提供する。SB623細胞は、髄接着間質細胞および間葉性幹細胞としても公知である、髄接着幹細胞(MSC)でNotchタンパク質の細胞内ドメインを発現させることによって、MSCから得られる。MSCは、骨髄から接着細胞(すなわち、組織培養プラスチックに接着する細胞)を選択することによって得られる。
【0028】
MSCの例示的な開示は、米国特許出願公開第2003/0003090号;Prockop
(1997年)Science276巻:71~74頁およびJiang(2002年)Nature418巻:41~49頁に提供される。MSCの単離および精製のための方法は、例えば、米国特許第5,486,359号;Pittengerら(1999年)Science284巻:143~147頁およびDezawaら(2001年)Eur. J. Neurosci.14巻:1771~1776
頁に見出すことができる。ヒトMSCは市販されている(例えば、BioWhittaker、Walkersville、MD)か、または例えば、骨髄吸引および続く接着骨髄細胞の選択によってドナーから得ることができる。例えば、WO2005/100552を参照。
【0029】
MSCは、さい帯血から単離することもできる。例えば、Campagnoliら(2001年
Blood98巻:2396~2402頁;Ericesら(2000年)Br. J. Haematol.10
9巻:235~242頁およびHouら(2003年)Int. J. Hematol.78巻:256
~261頁を参照。MSCのさらなる供給源には、例えば、月経血および胎盤が含まれる。
【0030】
Notch細胞内ドメイン
Notchタンパク質は、細胞内シグナル伝達を通して細胞分化に影響する、全ての後生動物で見出される膜貫通受容体である。Notch細胞外ドメインとNotchリガンド(例えば、Delta、Serrate、Jagged)との接触は、Notchタンパク質の2つのタンパク分解性開裂をもたらし、第2のものはγ-セクレターゼによって
触媒され、Notch細胞内ドメイン(NICD)を細胞質に放出する。マウスNotchタンパク質では、この開裂はアミノ酸gly1743とval1744の間で起こる。NICDは核に転位し、そこでそれは転写因子として作用し、さらなる転写調節タンパク質(例えば、MAM、ヒストンアセチラーゼ)を動員して、様々な標的遺伝子(例えば、Hes1)の転写抑制を軽減する。
【0031】
Notchシグナル伝達に関するさらなる詳細および情報は、例えばArtavanis-Tsakonasら(1995年)Science268巻:225~232頁;MummおよびKopan(2000年)Develop. Biol.228巻:151~165頁ならびにEhebauerら(2006年)Sci.
STKE2006年(364号)、cm7.[DOI: 10.1126/stke.3642006cm7]で見出される
。
【0032】
細胞培養およびトランスフェクション
細胞培養の標準の方法は、当技術分野で公知である。例えば、R. I. Freshney「Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique」、第5版、Wiley、New York、2005年を参照。
【0033】
細胞への外因性DNAの導入(すなわち、トランスフェクション)のための方法、および外因性DNAを含む細胞の選択のための方法も、当技術分野で周知である。例えば、Sambrookら「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、2001年;Ausubelら、「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley & Sons、New York、1987年および定期最新版を参
照。
【0034】
SB623細胞
SB623細胞の調製のための一実施形態では、MSCの培養物を、Notch細胞内ドメイン(NICD)をコードする配列を含むポリヌクレオチドと、例えばトランスフェクションによって接触させ、続いて、薬物選択およびさらなる培養によってトランスフェクション細胞を濃縮する。例えば、米国特許第7,682,825号(2010年3月23日);米国特許出願公開第2010/0266554号(2010年10月21日)およびWO2009/023251(2009年2月19日)を参照;その開示の全ては、髄接着幹細胞の単離およびSB623細胞(それらの文書では「神経前駆体細胞」および「神経再生細胞」と表される)への髄接着幹細胞の変換を記載するために、参照により完全に組み込まれる。
【0035】
これらの方法では、Notch細胞内ドメインをコードする任意のポリヌクレオチド(例えば、ベクター)を用いることができ、トランスフェクション細胞の選択および濃縮のための任意の方法を用いることができる。例えば、特定の実施形態では、MSCは、Notch細胞内ドメインをコードする配列を含有し、薬剤耐性マーカー(例えばG418への耐性)をコードする配列も含有するベクターでトランスフェクトされる。さらなる実施形態では、1つはNotch細胞内ドメインをコードする配列を含有し、もう1つは薬剤耐性マーカーをコードする配列を含有する2つのベクターがMSCのトランスフェクションのために用いられる。これらの実施形態では、ベクターによる細胞培養物のトランスフェクションの後、ベクターを含まない細胞を死滅させるがベクターを含む細胞を温存するのに十分である量の選択剤(例えば、G418)を細胞培養物に加えることによって、選択は達成される。選択なしとは、前記選択剤の除去、またはベクターを含まない細胞を死滅させないレベルまでのその濃度の低減を伴う。選択の後(例えば、7日間)、選択剤を除去し、細胞をさらに培養する(例えば、2継代)。
【0036】
したがって、SB623細胞の調製は、MSCでの外因性Notch細胞内ドメインの
一時的発現を含む。この目的のために、Notch細胞内ドメインをコードする、完全長Notchタンパク質をコードしない配列を含むベクターでMSCをトランスフェクトすることができる。全てのそのような配列は当業者に周知であり、直ちに利用できる。例えば、Del Amoら(1993年)Genomics15巻:259~264頁は、マウスNotchタンパク質の完全なアミノ酸配列を提示し、MummおよびKopan(2000年)Devel. Biol.228巻:151~165頁は、細胞内ドメインを放出するいわゆるS3開裂部位を囲んでいる、マウスNotchタンパク質からのアミノ酸配列を提供する。まとめると、これらの参考文献は、完全長Notchタンパク質でないNotch細胞内ドメインを含有するいかなるペプチドも当業者に提供し、それによって、完全長Notchタンパク質をコードしないNotch細胞内ドメインをコードする配列を含むあらゆるポリヌクレオチドも当業者に提供する。前述の文書(Del AmoおよびMumm)は、完全長Notchタンパク質のアミノ酸配列およびNotch細胞内ドメインのアミノ酸配列をそれぞれ開示するために、参照により完全に組み込まれる。
【0037】
ラット、アフリカツメガエル、ショウジョウバエおよびヒトを含むさらなる種からのNotchタンパク質および核酸について、類似した情報が入手できる。例えば、Weinmasterら(1991年)Development113巻:199~205頁;Schroeterら(1998年)Nature393巻:382~386頁;NCBI参照配列番号NM_017167(およびその中の引用文献);SwissProt P46531(およびその中の引用文献);SwissProt Q01705(およびその中の引用文献);およびGenBank CAB40733(およびその中の引用文献)を参照。前述の参考文献は、いくつかの異なる種の完全長Notchタンパク質のアミノ酸配列およびNotch細胞内ドメインのアミノ酸配列を開示するために、参照により完全に組み込まれる。
【0038】
さらなる実施形態では、SB623細胞は、MSCが外因性Notch細胞外のドメインを発現しないように、Notch細胞内ドメインをコードする配列を含む核酸をMSCに導入することによって調製される。そのことは、例えば、Notch細胞内ドメインをコードする、完全長Notchタンパク質をコードしない配列を含むベクターでMSCをトランスフェクトすることによって達成することができる。
【0039】
SB623細胞の調製および本明細書に開示される方法で用いることができるSB623細胞のそれらに類似した特性を有する細胞の作製方法に関するさらなる詳細は、米国特許第7,682,825号;米国特許第8,133,725号ならびに米国特許出願公開第2010/0266554号および第2011/0229442号で見出され、その開示は、SB623細胞に関するさらなる詳細およびその調製のための代替方法を提供するために、ならびにSB623細胞のそれらに類似した特性を有する細胞の作製方法を提供するために、参照により本明細書に組み込まれる。Dezawaら(2004年)J. Clin. Invest.113巻:1701~1710頁も参照。
【0040】
SB623細胞の移植によるTBIの症状の逆転
TBIのための処置として、SB623細胞移植の効能をラットモデル系で試験した。全ての動物がベースライン時に(すなわち、脳発作の前に)正常な行動を示すことを確認するために、試験の前に、成体雄Sprague-Dawleyラット(8週齢)を運動系および神経系の試験で評価した(全て、研究全体を通して処置条件に盲検化した二人の研究者によって実施された)。次に、動物に実験的外傷性脳損傷(TBI)を施し、7日後、TBIによって誘導された典型的な運動系および神経系の機能障害を確認するために、同じ行動試験を受けさせた。これらの試験に続いて(TBIの7日後)、Notch誘導骨髄由来幹細胞(SB623細胞)の定位移植26、29または皮質へのビヒクル注入のいずれかを受けるように、動物を2つの群の1つにランダムに割り当てた(実施例3を参照)。
【0041】
本発明者らは、TBIの1カ月後および3カ月後の両方に、SB623細胞の移植を受けた外傷動物は、ビヒクルだけを受けた外傷動物と比較して、皮質コアおよび損傷周囲の皮質エリアへの傷害の有意な低減に加えて、有意に改善された運動系および神経系の機能を示すことを見出した(実施例を参照)。これらの行動および身体の改善は、TBIの1カ月および3カ月後にそれぞれ0.60%および0.16%の適度の移植片生存で達成された。TBIの影響を受ける脳の他の部位には、線条体および海馬が含まれる。したがって、これらのエリアに影響を及ぼすTBIの処置のために、線条体および海馬へのSB623細胞の移植を用いることもできる。要約すると、脳損傷動物へのSB623細胞の移植は、移植片持続性がないにもかかわらず、頑強な機能回復を提供した。
【0042】
SB623細胞の移植によるバイオブリッジの形成
TBIの1カ月後にSB623細胞の移植を受けた脳損傷動物の宿主組織の検査は、損傷周囲の皮質エリアおよび脳室下帯(SVZ)での内因性細胞増殖(Ki67の発現によって検出された)および神経原性細胞の分化(ネスチンの発現によって検出された)の急増を明らかにした。これらの動物の脳梁(CC)に沿って移動する細胞(ダブルコルチンを発現する)の流れも検出された。対照的に、ビヒクルだけを受けた、実験的TBIを施した動物は、損傷周囲の皮質エリアにおいて、限定的な細胞増殖、わずかな神経分化、および散乱移動だけを示した。さらに、新たに形成された細胞は、これらの対照動物の脳室下帯で極めて少数しか見られなかった(実施例を参照)。
【0043】
TBIの3カ月後には、SB623細胞移植を受けた動物からの脳は、SVZから衝撃を受けた皮質までCCに沿ってだけでなくそれを越えて移動する神経細胞(ネスチンおよびダブルコルチンの両方を発現する)の充実流に加えて、損傷周囲の皮質エリアを取り囲むずっと高いレベルの細胞増殖および神経分化を示した。ビヒクルだけを受けた損傷動物からの脳は、TBIの1カ月後よりもTBIの3カ月後に非常により高いレベルの細胞増殖を示したが、新たに形成された細胞はSVZおよび脳梁の範囲内に「捕獲されて」いるように見え、少数の細胞だけが衝撃を受けた皮質に到達することができた。SVZ、CCおよび損傷を受けた皮質エリアでのKi67、ネスチンおよびダブルコルチンの免疫反応性の定量分析は、SB623細胞移植を受けた動物とビヒクルだけを受けた動物の間で、これらのマーカーの発現の差が統計的に有意なことを示した。
【0044】
別個の実験で、SVZから損傷部位に移動する内因性細胞によって形成されるバイオブリッジは、レーザー捕捉顕微解剖によって単離し(Espinaら(2006年)Nature Protoc.1巻:586~603頁)、その酵素原性を分析した。この実験では、3群の動物を
分析した:(1)TBIを施し、続いてTBIの7日後にSB623細胞を移植した動物、(2)TBIを施し、続いてTBIの7日後にビヒクルを注入した動物、(3)偽手術をし、年齢をマッチさせた対照の成体Sprague-Dawleyラット(1群につきn=3)。TBIを施した動物からのレーザー捕捉バイオブリッジのザイモグラフアッセイは、移植の1カ月後および3カ月後、ビヒクルを注入した動物または偽手術をした動物と比較して、SB623細胞移植を受けた動物で、マトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)の発現/活性のそれぞれ2倍および9倍の上方制御を明らかにした(実施例11)。
【0045】
MMPは慢性脳損傷の回復と結びつけられ29、MMP活性の阻害は、SVZから受傷組織への神経原性細胞の移動を抑止し、神経血管リモデリングを遅らせることが示された30。したがって、MMPは、SB623細胞がTBIからの機能回復を提供する過程の一部として、損傷脳エリアへの宿主細胞の移動を促進する役割をすることができる。
【0046】
要約すると、本発明者らは、SB623細胞の移植が、SVZと損傷周囲の皮質の間で
バイオブリッジを形成することによって、外傷を受けた脳をリモデリングすることを発見した。今や、細胞療法のこの方法は、さもなければ細胞運動性の障壁となるかもしれない組織を越えて細胞の損傷特異的移動を促進するために、神経原性部位と非神経原性部位の間で類似したバイオブリッジを形成するために用いることができる。
【0047】
製剤、キットおよび投与経路
本明細書に開示されるSB623細胞を含む治療組成物も提供される。そのような組成物は、SB623細胞および薬学的に許容される担体を一般的に含む。補助活性化合物を、SB623細胞組成物に組み込むこともできる。
【0048】
本明細書に開示される治療組成物は、TBIを処置し、脳での幹細胞移動をモジュレートするためにとりわけ有益である。したがって、SB623細胞を含む組成物の「治療的有効量」は、TBIの症状を低減するか、脳で幹細胞の移動を刺激する任意の量である。例えば、投与量は、細胞数が約100、500、1,000、2,500、5,000、10,000、20,000、50,000、100,000、300,000、500,000、1,000,000、5,000,000から10,000,000、またはそれ以上(または、それらの間の任意の整数)で異なってよく、投与頻度は、例えば体重、投与経路、疾患の重症度などによって、例えば、1日につき1回、1週につき2回、1週につき1回、1カ月につき2回、1カ月につき1回であってよい。したがって、治療的有効量は、SB623細胞の同じ量または異なる量の複数回の投与を含むことができる。特定の実施形態では、SB623細胞の1回の投与が治療的有効量である。
【0049】
様々な医薬組成物ならびにそれらの調製および使用のための技術は、本開示を考慮して当業者に公知である。適する薬理学的組成物およびそれらの投与技術の詳細なリストについては、Remington's Pharmaceutical Sciences、第17版、1985年;Bruntonら、「Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics」、McGraw-Hill、2005年;University of the Sciences in Philadelphia(編)、「Remington: The Science and Practice of Pharmacy」、Lippincott Williams & Wilkins、2005年;およびUniversity of the Sciences in Philadelphia(編)
、「Remington: The Principles of Pharmacy Practice」、Lippincott Williams
& Wilkins、2008年、などのテキストを参照することができる。
【0050】
本明細書に記載される細胞は、移植のための生理的に適合する担体に懸濁されてもよい。本明細書で用いるように、用語「生理的に適合する担体」は、SB623細胞に、および製剤の任意の他の成分に適合し、そのレシピエントに有害でない担体を指す。当業者は、生理的に適合する担体に詳しい。適する担体の例には、細胞培地(例えば、イーグルの最少必須培地)、リン酸緩衝食塩水、ハンクの平衡塩溶液+/-グルコース(HBSS)および複数の電解質溶液、例えばPlasma-Lyte(商標)A(Baxter)が含まれる。
【0051】
対象に投与されるSB623細胞懸濁液の容量は、移植部位、処置目標および溶液中の細胞数によって異なる。一般的に、投与される細胞の量は、治療的有効量である。本明細書で用いるように、「治療的有効量」または「有効量」は、特定の障害の処置を成し遂げるために、すなわち、その障害と関連する症状の量および/または重症度の低減をもたらすために必要とされる移植細胞の数を指す。例えば、TBIの場合、SB623細胞の治療的有効量の移植は、TBIの症状の低減および/または逆転、例えば、運動活性および神経系の性能の修復、ならびに宿主神経原性細胞の移動の刺激をもたらす。治療的有効量は、脳傷害のタイプおよび程度によって異なり、対象の全体の状態によって異なることもある。
【0052】
開示される治療組成物は、薬学的に許容される材料、組成物またはビヒクル、例えば液体もしくは固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒またはカプセル化材、すなわち担体を含むこともできる。これらの担体は、例えば、SB623細胞を安定させることおよび/または体内でのSB623細胞の生存を促進することができる。各担体は、製剤の他の成分に適合し、対象に損傷を与えないという意味において「許容される」ものであるべきである。薬学的に許容される担体の役割をすることができる材料の一部の例には、以下のものが含まれる:糖、例えば乳糖、グルコースおよびスクロース;デンプン、例えばコーンスターチおよびジャガイモデンプン;セルロースおよびその誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロース;粉末トラガカント;モルト;ゼラチン;タルク;賦形剤、例えばカカオ脂および坐薬ワックス;油、例えば落花生油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油およびダイズ油;グリコール、例えばプロピレングリコール;ポリオール、例えばグリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコール;エステル、例えばオレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル;寒天;緩衝剤、例えば水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム;アルギン酸;無発熱物質水;等張性食塩水;リンガー液;エチルアルコール;リン酸緩衝液;ならびに医薬製剤で採用される他の無毒の適合物質。湿潤剤、乳化剤および滑沢剤、例えばラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウム、ならびに着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味料、香料および芳香剤、保存料および抗酸化物が組成物に存在してもよい。
【0053】
例示的な製剤には、それらに限定されないが、非経口投与、例えば、肺内、静脈内、動脈内、眼内、頭蓋内、髄膜下、または皮下投与に適するもの、例えばミセル、リポソームまたは薬物放出カプセルに封入される製剤(活性薬剤は緩効性のために設計された生体適合性のコーティングの中に組み込まれる);摂取可能な製剤;局所使用のための製剤、例えば点眼剤、クリーム剤、軟膏およびゲル剤;ならびに吸入剤、エアゾール剤およびスプレー剤などの他の製剤が含まれる。開示の組成物の投薬量は、処置の必要性の程度および重大度、投与される組成物の活性、対象の全身的健康状態ならびに当業者に周知である他の考慮事項によって異なる。
【0054】
さらなる実施形態では、本明細書に記載される組成物は、外傷性脳損傷の部位かその近くの頭蓋内に送達される。そのような限局性送達は、組成物の非全身的な送達を可能にし、それによって全身送達と比較して組成物の体への負荷を低減する。局部送達は、例えば、頭蓋内注射によって、もしくは限定されずにステントおよびカテーテルを含む様々な医療用植込み型器具の使用を通して達成することができ、または、吸入、静脈切開もしくは外科手術によって達成することができる。所望の薬剤をステントおよびカテーテルなどの医療器具にコーティング、植え込む、包埋する、さもなければ付着させる方法は当技術分野で確立されており、本明細書で企図される。
【0055】
本開示の別の態様は、任意選択で別の治療薬剤と一緒に、対象へのSB623細胞の投与を実行するためのキットに関する。一実施形態では、キットは、移植のために適する、薬用担体で製剤化されたSB623細胞の組成物を含む。
【実施例0056】
本明細書に開示される研究では、ラットに実験的な外傷性脳損傷(TBI)を施し、7日後に、十分な運動および神経系の欠損を有するラットは損傷エリアにSB623細胞の移植またはビヒクルを受けた。運動および神経系の性能の値は、TBIの前(ベースライン値)、TBIの7日後(移植前)に再び、その後はTBI後の3カ月間毎月評価した。
【0057】
TBIの1カ月後および3カ月後の行動試験の完了後、4%パラホルムアルデヒドによる心臓横断灌流によってランダムに選択した動物を安楽死させた(1群につきn=10)
。移植された細胞の持続性、損傷エリアの内外の脳組織の組織学的外観、損傷エリアの内外の様々な神経マーカーの発現、および損傷エリアの内外の酵素原活性の評価のために、それらの脳を取り出し、切断した。
【0058】
以下の基準を用いて移植転帰を評価した:1)上昇ボディスイング試験(EBST)およびRotorodによる運動行動;2)Bederson改変神経学的検査による神経系の性能;3)組織学(H&E染色切片)による病変容量;4)ヒト細胞を特異的に検出する抗体(HuNu)を用いる免疫組織化学による移植片生存;ならびに5)移植されたヒト細胞および宿主細胞に対する抗体を用いた神経保護および/または再生の機構ベースの免疫組織化学的分析。
【0059】
(実施例1)
MSCおよびSB623細胞の調製
成人ヒトドナーからの骨髄穿刺液を、Lonza Walkersville,Inc.(Walkersville、MD)から得、10%ウシ胎児血清(Hyclone、Logan、UT)、2mMのL-グルタミン(Invitrogen、Carlsbad、CA)およびペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen)を補充したα-MEM(Mediatech、Herndon、VA)に平板培養した。細胞を37℃および5%CO2で3日間培養して、接着細胞の単層を得た。非接着細胞の除去の後、同じ条件の下で培養を2週間継続した。この間に、0.25%トリプシン/EDTAを用いて、細胞を2回継代させた。第2継代からの細胞の一部を、MSCとして冷凍した。
【0060】
サイトメガロウイルスプロモーターに作動可能に連結したNotch細胞内ドメインをコードする配列を含有するプラスミド(pCMV-hNICD1-SV40-Neo(登録商標))と一緒にFugene6(Roche Diagnostics、Indianapolis、IN)を用いて、第2継代からの残りの細胞を平板培養し、トランスフェクトした。このプラスミドは、SV40プロモーターの転写制御下の、ネオマイシンおよびG418への耐性をコードする配列も含有した。トランスフェクション細胞は、100μg/mlのG418(Invitrogen、Carlsbad、CA)を補充した前の段落に記載の成長培地において、37℃および5%CO2で培養した。7日後に、G418耐性コロニーを増殖させ、培養を2回継代させた。第2継代の後、細胞を収集し、SB623細胞として冷凍した。
【0061】
さらなる研究のために、本明細書に記載されるように調製したMSCおよびSB623細胞を必要に応じて解凍して用いた。
【0062】
(実施例2)
ラットモデルでのTBIの誘導
ベースライン時(TBI外科手術の前)に正常な行動(EBSTで50~60%バイアススイング活性;Rotorodで60秒の滞在期間;および最大0~0.5の平均Bedersonスコア)を示すと特定された合計40匹の動物が、下記の通りのTBI外科手術を受けた。
【0063】
全ての外科的手技は、無菌状態下で実行された。成人雄Sprague-Dawleyラットを1.5%イソフルラン(isofluorane)で麻酔をかけ、疼痛反射をチェックした
。深い麻酔下、動物は以下の通り中等度TBIモデルを受けた。各動物を定位フレームに置き、ガスマスクを通して投与された1~2%イソフルランで麻酔を維持した。頭蓋を曝露させた後に、4mm骨切除開頭を左前頭頭頂の皮質に施し、その中心は前頂に対し-2.0mm APおよび+2.0mm MLであった。直径3mmの圧縮空気作動金属インパクターを用いて、6.0m/sの速度で脳に衝撃を与え、硬膜層の1.0mm下の深さ
に到達させ、脳内に150ミリ秒の間残存した。衝撃部位での脳表面の接線面に直角になるように、インパクターロッドは垂直から15°の角度にした。一貫性を検証するために、インパクターに接続した線状可変型変位変換器(Macrosensors、Pennsauken、NJ)を用いて速度および持続時間を測定した。
【0064】
制御された皮質衝撃損傷に続いて、出血が終わった後、切開を縫合した。フィードバック制御を有する一体化された加熱パッドおよび直腸検温器ユニットは、正常限度での体温度の維持を可能にした。麻酔から回復するまで、全ての動物を監視した。さらに、TBIの誘導の後、3日連続で毎日動物を計量、観察し、その後週に2回計量し、健康状態および問題点または合併症を示す任意の徴候について全研究期間中の毎日監視した。
【0065】
(実施例3)
SB623細胞の移植
TBIを施した動物のうち、TBI後の7日目に以下の度合いの行動機能障害を有する動物だけを移植研究のために選択した:EBSTで少なくとも75%バイアススイング活性;Rotorodで30秒以下の滞在期間;および少なくとも2.5の平均Bedersonスコア。選択した動物は、SB623移植を受けた群(n=20)またはビヒクル注入を受けた群(n=20)のいずれかにランダムに割り当てた。移植の標的エリアは内側皮質であり、そこは、類似した定位植込剤のために前に確立された標的部位に基づく損傷周囲の皮質エリアに対応した。
【0066】
全ての外科的手技は、無菌状態下で実行した。動物を1.5%イソフルランで麻酔をかけ、疼痛反射をチェックした。深い麻酔が達成されると(疼痛反射の喪失で判断される)、手術切開のエリア(頭蓋エリア)の周囲の毛を剃り、手術部位の汚染を防止するのに十分な境界を残した。この後に、部位の外科殺菌スクラブを2回行い、滅菌ドレープを掛けた。
【0067】
次に動物を定位固定装置(Kopf Instruments、Tujunga、CA)に固定し、バーで頭蓋に小開口部を設けた。開口部の座標は、前頂の0.5mm前および1.0mm横、ならびに硬膜表面の2.0mm下であった。これらは、PaxinosおよびWatson(1998年)の地図に基づいて、コア損傷部位に隣接する皮質エリアに対応する
ように選択された。試験材料を含有する26ゲージのハミルトンシリンジを、次に開口部まで下げた。1回の針の通過で、各々3μlの3つのデポジットが形成された。各デポジットは、3分間にわたって注入された3μlのPlasmalyte A中の、100,000個の生存細胞からなった。さらなる2分の吸収時間の後、針を引き込ませ、ステンレス鋼創傷クリップで傷口を閉じた。加熱パッドおよび直腸検温器は、外科手術の間中および麻酔からの回復後も、体温度を約37℃に維持することを可能にした。対照注射は、Plasmalyte Aだけを含有した。
【0068】
処置動物および対照動物は、ベースライン時(TBI前)、TBIの7日後(移植直前)およびその後TBIの3カ月後まで月1回、上昇ボディスイング試験(EBST、実施例4)、神経学的検査(実施例5)およびRotorod試験(実施例6)を受けさせた。
【0069】
さらに、傷害の度合い(実施例8および9);宿主細胞の増殖、移動および神経分化の程度(実施例10);ならびに酵素原活性の存在(実施例11)を判定するために、TBIの1カ月後および3カ月後に、処置動物および対照動物の脳を組織学的に特徴づけた。
【0070】
(実施例4)
上昇ボディスイング試験(EBST)
動物を試験した全ての研究者は、処置条件に盲検化された。EBSTは、動物をその尾によって扱い、動物がその頭部を振った方向を記録することによって実行した。試験機器は、透明なプレキシグラスボックス(40×40×35.5cm)からなった。動物を尾の基部で優しくつまみあげ、動物の鼻が表面から2インチ(5cm)の高さになるまで尾をもって上昇させた。動物の頭部が体の正中位置からおよそ10度側方に動いたとき、スイングの方向(左または右)を記録した。1回のスイングの後、動物をプレキシグラスボックスに戻し、再試験の前に30秒間自由に行動させた。これらのステップは、各動物について合計20回のアッセイで繰り返した。損傷を受けていないラットは、50%のスイングバイアス、すなわち左および右に同じ数のスイングを示す。75%のスイングバイアスは、20回の試みの間、1つの方向に15回のスイングおよびもう1つの方向に5回のスイングを示した。EBSTを利用した以前の結果は、片側に障害を起こした動物が、黒質線条体病変または片側性半球体損傷の1カ月後に75%を超える偏ったスイング活性を示すこと、およびそのような非対称は最高6カ月間安定していることを示した3、26。
【0071】
EBSTの結果を
図1に示す。TBIの後、事実上全ての動物は偏ったスイング活性を示した。SB623細胞を移植された動物では、偏ったスイング活性は、TBIおよび移植に続く3カ月の期間に着実にわたって低下した。対照的に、ビヒクルを移植された動物では、TBIの後に偏ったスイング活性を示す動物の百分率は、事実上不変であった。
【0072】
(実施例5)
改変Bederson神経学的検査
EBSTの終結の約1時間後に、軽微な改変を加えた前述の手順3、26に従って、改変Bederson神経学的検査を実行した。各ラットの神経学的スコアは、(1)2~3cm横に変位した後、前肢を元に戻す動物の能力を測定する前肢引込み、0(即時の返還)から3(数秒後の返還または返還なし)まで等級付け;(2)ビーム歩行能力、幅2.4cm、長さ80cmのビームを容易に横断したラットの0から、ビーム上に10秒間留まることができないラットの3まで等級付け;および(3)直径2mmの鋼鉄製ロッドにしがみつく能力を測定した両側前足把握、正常な前足把握行動を有するラットの0から、前足で把握することができないラットの3まで等級付けを含む3つの試験を用いて得られた。各調査日に約15分間にわたって実行された全ての3つの試験からのスコアを加算して、平均の神経学的欠損スコアを与えた(可能な最大スコア、9ポイントを3つの試験で割る=3)。
【0073】
これらの神経学的検査の結果を、
図2に示す。TBIの後、平均の神経学的スコアは、全ての動物で2.5(3のうち)であった。SB623細胞を移植した動物では、このスコアは、TBIおよび移植に続く3カ月の期間にわたって着実に低下した(改善した神経機能を示す)。SB623細胞を移植した動物での神経機能の改善は、ビヒクルを注入した動物と比較して、統計的に有意であった(p<0.05)。
【0074】
(実施例6)
Rotorod(登録商標)試験
神経学的検査の完了の1時間後、動物をRotorod(登録商標)試験にかけた。この試験は、60秒間にわたって4rpmから40rpmまで加速する回転トレッドミルの上に動物を置くことを含んだ(Rotorod(登録商標)、Accuscan,Inc.、Columbus、OH)。動物がトレッドミルの上に残ることができた合計秒数を記録し、共調運動の指数として用いた。TBIモデル系を用いた以前の結果は、偽手術をしたか正常な対照と比較して、損傷動物が有意により短い時間Rotorodの上に残ることができたことを示した。
【0075】
このアッセイの結果を、
図3に示す。損傷を受けていない動物は、平均60秒の間トレ
ッドミルの上に残ることができた。トレッドミルの上での平均時間は、TBIの7日後に20秒未満に低下した。TBIの後にSB623細胞を移植した動物では、トレッドミルの上での平均時間はおよそ40秒に倍加した。ビヒクルを注入したTBIを施した動物と比較して、これらの改善は統計的に有意であった。
【0076】
(実施例7)
灌流および切片作製
TBIの1カ月後および3カ月後、実施例4~6に記載の行動試験の完了後、4%パラホルムアルデヒドによる心臓横断灌流によってランダムに選択したラットを安楽死させた(1群につきn=10)。脳を解剖し、4%パラホルムアルデヒドで一晩の間後固定し、次に30%スクロースに浸漬した。前頂から前方に-5.2mmから始まり、前頂から-8.8mmになるまで後方に移動して、各前脳を40μmの冠状切片に切断した。切片は、実施例8および9に記載される通り、病変周囲エリアでの脳傷害の判定および細胞生存の分析のために処理した。
【0077】
(実施例8)
脳傷害の測定
脳傷害の程度および宿主細胞生存を特定するために、脳切片の調製および検査を行った。脳につき少なくとも4つの冠状組織切片を、ヘマトキシリンおよびエオジン(H&E)またはニッスル染色のために処理した。対側半球の面積から同側半球の無傷の面積を引き算することによって計算された間接病変面積を判定することによって、脳傷害を定量化した。病変容量は、連続切片からの病変面積を合計することによって、対側半球と比較した病変の容量百分率として提示した。
【0078】
図4Bに定量的に示す結果は、SB623細胞の移植を受けた、TBIを施した動物が、ビヒクルの注入を受けた、TBIを施した動物と比較して、皮質コアおよび損傷周囲の皮質エリアへの傷害が有意により少ないことを示す。
【0079】
(実施例9)
TBI周囲病変エリアでの細胞生存の分析
損傷周囲の皮質エリアに対応する、ランダムに選択された高倍率視野を検査して、この領域に生存する宿主細胞を計数した。結果を、
図4Aに示す。
【0080】
(実施例10)
免疫組織化学
浮動切片を、免疫蛍光顕微鏡検査のために処理した。簡潔には、40μmのクリオスタット切片組織を4倍の倍率で検査し、PCベースの画像ツールコンピュータプログラムを用いてデジタル化した。齧歯動物のタンパク質と交差反応しなかったモノクローナルヒト特異抗体HuNuを用いて、移植されたSB623細胞の生着を調査した。細胞増殖(Ki67)、移動(ダブルコルチンまたはDCX)および神経分化(ネスチン)に重点を置いて、脳組織試料の機構ベースの免疫組織化学的分析のために、さらなる脳切片を処理した。脳切片をブラインドコード化し、Abercrombieの式を用いて免疫陽性細胞の総数を計算した3、26。
【0081】
これらの分析の結果は、SB623細胞の移植が、SVZと、高度に増殖性の、神経的に献身的な移動性の細胞からなる衝撃を受けた皮質の間でバイオブリッジの形成を誘導することを示した。TBIの1カ月後、免疫蛍光および共焦鏡検は、損傷周囲の皮質エリアおよび脳室下帯(SVZ)での、SB623細胞の移植を受けた動物の脳梁(CC)に沿った移動性細胞(ダブルコルチンを発現する細胞)の流れを伴う、内因性細胞増殖(Ki67を発現する細胞によって証明される)および未熟な神経分化(ネスチンを発現する細
胞)の急増を明らかにした。ビヒクルだけを受けた動物からの脳は、損傷周囲の皮質エリアにおいて、限定的な細胞増殖および神経分化、ならびに散乱移動を示し、新たに形成された細胞はSVZにほとんど存在しなかった。TBIの3カ月後には、SB623移植を受けた動物からの脳は、SVZから衝撃を受けた皮質までCCに沿うだけでなくそれを越えて移動する神経標識細胞(ネスチンおよびダブルコルチンの両方を発現する)の充実流を伴って、損傷周囲の皮質エリアを取り囲むずっと大量の細胞増殖および神経分化を示した。対照的に、ビヒクルを注入した動物からの脳では、細胞増殖は強化されたが、新たに形成された細胞はSVZおよびCCの中に「捕獲され」、ほんの少しの細胞だけが衝撃を受けた皮質に到達することができた。SVZ、CCおよびCTXでのKi67、ネスチンおよびDCX免疫標識細胞の定量分析は、移植された動物とビヒクルを注入された動物の間で統計的に有意な差を明らかにした(
図5~7)。
【0082】
(実施例11)
ザイモグラフィ
損傷脳へのSB623細胞の移植後のタンパク質分解酵素の存在および/または活性について試験するために、その分析が実施例4~10に記載されたものとは別個の動物のコホートを用いた。ラットにTBIを施し、次にSB623細胞またはビヒクルを移植した。年齢をマッチさせ、偽手術をした成体Sprague-Dawleyラットの対照群に、同じ実験手順を受けさせた(1群につきn=3ラット)。TBIの1カ月後および3カ月後に、SVZから衝撃を受けた皮質まで移動する細胞によって形成されるバイオブリッジに対応する組織を、レーザー解剖によって得た。抽出後、組織をクライオチューブに入れ、液体窒素で瞬間冷凍した。ホモジナイゼーションまで、チューブを-80℃のフリーザーに保管した。
【0083】
50mMのトリス-HCl(pH7.5)、75mMのNaClおよび1mMのPMSFを含有する450μLの低温加工緩衝液で、試料をホモジナイズした。組織を10分間ホモジナイザーで処理し、4℃で20分間、13000rpmで遠心分離した。上清を分離、冷凍し、使用時まで-80℃に保った。上清中の総タンパク濃度は、Bradford法によって調査した。
【0084】
ザイモグラフィを実行した日に、50μgの総タンパクと同等の容量を、新たに提供したゼラチンザイモグラフィゲルに投入した。全てのゲルは、酵素量(ng)およびゼラチン溶解活性(相対的光学密度単位で表される、下記を参照)の両方の標準として用いられた、0.5ngの組換えMMP-9を投入した対照レーンを有していた。100Vの非還元条件下のゲルで、タンパク質を電気泳動的に分離した。電気泳動の後、ゲルを125mlの2.5%Tritonで20分間、2回洗浄した。次に、37℃で20時間、活性化緩衝液(Zymogram Development Buffer、Bio-Rad、Hercules、CA)でゲルをインキュベートした。翌日、ゲルをクーマシーブルーR-250染色液(Bio-Rad)で3時間染色し、脱色液(Bio-Rad)で25分間脱色した。試料のゼラチン溶解活性は、バンドの濃度測定分析(Gel-Pro v3.1、Media Cybernetics、Carlsbad、CA)によって調査した。溶解活性を示すゲル領域中のタンパク質の分子量は、同じゲルの上を流した前染色標準タンパク質マーカー(Bio-Rad)との比較により判定した。活性は、標準としてゲルに流した0.5ngの組換えMMP-9のそれに対する光学密度で表した。
【0085】
結果を、
図8に示す。TBI後にSB623細胞を移植した動物からのレーザー捕捉バイオブリッジ(SVZと衝撃を受けた皮質の間の脳組織に対応する)は、TBIの1カ月後および3カ月後に高レベルのMMP-9ゼラチン溶解活性を表した。SB623処置動物でのレベルは、ビヒクルを注入した偽手術をした動物からのバイオブリッジでのそれらより、両時点で有意に高かった(p<0.05)。ビヒクルを注入した動物からのバイオ
ブリッジは、TBIの1カ月後の偽手術をした動物と比較してMMP-9活性の有意な増加を示したが、これらのレベルはTBIの3カ月後に対照レベルに戻った(すなわち、偽手術をした動物のそれらと有意に異ならない)。
【0086】
ブロットの上の検出のために、膜をブロットグレードの脱脂粉乳(Bio-Rad)でブロックした。0.1%トゥイーン20-トリス緩衝食塩水(TTBS)による洗浄の後、膜を4℃で一晩、1μg/mlの抗MMP-9モノクローナルマウス抗体とインキュベートした。膜をTTBSで再び洗浄し、二次抗体(西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲートヤギ抗マウスIgGの1:1,000希釈溶液、Calbiochem)と1時間インキュベートし、最後に西洋ワサビペルオキシダーゼ現像溶液(ECLアドバンス検出キット、Amersham)で現像した。膜は、オートラジオグラフィフィルム(Hyblot CL、Denville Scientific Inc.)に曝露させた。ザイモグラムのための試料バンドの密度は、標準バンド(0.5ngの組換えMMP-9)に対する最大光学密度として表した。
【0087】
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