(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023099240
(43)【公開日】2023-07-12
(54)【発明の名称】レドックスフロー電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/18 20060101AFI20230705BHJP
H01M 8/1018 20160101ALI20230705BHJP
H01M 8/1025 20160101ALI20230705BHJP
H01M 8/1023 20160101ALI20230705BHJP
H01M 8/02 20160101ALI20230705BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M8/1018
H01M8/1025
H01M8/1023
H01M8/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020093577
(22)【出願日】2020-05-28
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】迫 穂奈美
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA10
5H126BB10
5H126GG17
5H126GG18
5H126JJ06
(57)【要約】
【課題】酸化還元種のクロスオーバーが抑制されたレドックスフロー電池を提供する。
【解決手段】本開示のレドックスフロー電池は、負極210と、正極220と、第1非水性溶媒、第1酸化還元種及び金属イオンを含み、負極210に接している第1液体110と、第2非水性溶媒を含み、第2酸化還元種及び金属イオンを含み、正極220に接している第2液体120と、第1液体110と第2液体120との間に配置された金属イオン伝導膜400とを備える。金属イオン伝導膜400は、複数の水酸基を有する有機高分子を含み、前記有機高分子は、前記複数の水酸基の少なくとも一部がスルホン酸金属塩で置換された基を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極と、
正極と、
第1非水性溶媒、第1酸化還元種及び金属イオンを含み、前記負極に接している第1液体と、
第2非水性溶媒、第2酸化還元種及び金属イオンを含み、前記正極に接している第2液体と、
前記第1液体と前記第2液体との間に配置された金属イオン伝導膜と
を備え、
前記金属イオン伝導膜は、複数の水酸基を有する有機高分子を含み、
前記有機高分子は、前記複数の水酸基の少なくとも一部がスルホン酸金属塩で置換された基を有する、レドックスフロー電池。
【請求項2】
前記有機高分子が、セルロース類又はポリビニルアルコール類である、請求項1に記載のレドックスフロー電池。
【請求項3】
前記有機高分子が、セルロース類である、請求項1に記載のレドックスフロー電池。
【請求項4】
前記スルホン酸金属塩が、スルホン酸リチウム塩又はスルホン酸ナトリウム塩である、請求項1から3のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項5】
前記金属イオンは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン及びアルミニウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1から4のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項6】
前記第1液体に少なくとも一部が接している負極活物質をさらに備え、
前記第1酸化還元種が芳香族化合物であり、
前記金属イオンがリチウムイオンであり、
前記第1液体は、リチウムを溶解し、
前記負極活物質は、前記リチウムを吸蔵及び放出する性質を有する物質を有し、
前記第1液体の電位が0.5Vvs.Li+/Li以下であり、
前記第1酸化還元種は、前記負極によって酸化又は還元され、かつ、前記負極活物質によって酸化又は還元される、請求項1から5のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項7】
前記芳香族化合物は、ビフェニル、フェナントレン、trans-スチルベン、cis-スチルベン、トリフェニレン、o-ターフェニル、m-ターフェニル、p-ターフェニル、アントラセン、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ブチロフェノン、バレロフェノン、アセナフテン、アセナフチレン、フルオランテン及びベンジルからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項6に記載のレドックスフロー電池。
【請求項8】
前記第2液体に少なくとも一部が接している正極活物質をさらに備え、
前記第2酸化還元種は、前記正極によって酸化又は還元され、かつ、前記正極活物質によって酸化又は還元される、請求項1から7のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項9】
前記第2酸化還元種は、テトラチアフルバレン、メタロセン化合物、トリフェニルアミン及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1から8のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項10】
前記第1非水性溶媒及び前記第2非水性溶媒のそれぞれは、カーボネート基を有する化合物とエーテル結合を有する化合物との少なくとも1種を含む、請求項1から9のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項11】
前記カーボネート基を有する化合物は、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項10に記載のレドックスフロー電池。
【請求項12】
前記エーテル結合を有する化合物は、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブトキシエタン、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、2,5-ジメチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン及び4-メチル-1,3-ジオキソランからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項10又は11に記載のレドックスフロー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レドックスフロー電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、酸化還元種を含有するエネルギー貯蔵器を備えたレドックスフロー電池システムが開示されている。
【0003】
特許文献2には、酸化還元種を用いたレドックスフロー電池が開示されている。
【0004】
特許文献3には、有機高分子を用いた多孔質隔膜を用いたレドックスフロー電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2014-524124号公報
【特許文献2】国際公開第2016/208123号
【特許文献3】特開昭62-226580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、酸化還元種のクロスオーバーが抑制されたレドックスフロー電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様におけるレドックスフロー電池は、
負極と、
正極と、
第1非水性溶媒、第1酸化還元種及び金属イオンを含み、前記負極に接している第1液体と、
第2非水性溶媒、第2酸化還元種及び金属イオンを含み、前記正極に接している第2液体と、
前記第1液体と前記第2液体との間に配置された金属イオン伝導膜と
を備え、
前記金属イオン伝導膜は、複数の水酸基を有する有機高分子を含み、
前記有機高分子は、前記複数の水酸基の少なくとも一部がスルホン酸金属塩で置換された基を有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、酸化還元種のクロスオーバーが抑制されたレドックスフロー電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態におけるレドックスフロー電池の概略構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施例1、実施例2及び比較例1に係る電気化学セルの開回路電圧を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例1に係る充放電特性を示すグラフである。
【
図4】
図4は、比較例2に係る電気化学セルの開回路電圧を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
無機固体電解質は薄膜化が困難なため、膜が厚くなることで充放電時に分極が大きくなる。また、有機高分子固体電解質はイオン伝導性が低いことに加えて、電解液への耐性が低く溶媒に溶けて、酸化還元種が対極側へ移行してしまうという課題があった。本発明者はこれらの課題について鋭意検討した結果、本開示のレドックスフロー電池に想到した。
【0011】
(本開示に係る一態様の概要)
本開示の第1態様に係るレドックスフロー電池は、
負極と、
正極と、
第1非水性溶媒、第1酸化還元種及び金属イオンを含み、前記負極に接している第1液体と、
第2非水性溶媒、第2酸化還元種及び金属イオンを含み、前記正極に接している第2液体と、
前記第1液体と前記第2液体との間に配置された金属イオン伝導膜と
を備え、
前記金属イオン伝導膜は、複数の水酸基を有する有機高分子を含み、
前記有機高分子は、前記複数の水酸基の少なくとも一部がスルホン酸金属塩で置換された基を有する。
【0012】
第1態様によれば、金属イオン伝導膜は、非水性溶媒に対する親和性が低いため、第1酸化還元種が金属イオン伝導膜を透過することを抑制することができる。これにより、第1酸化還元種が第1液体から第2液体に移動するクロスオーバーを抑制できる。そのため、長期間にわたって高い容量を維持できるレドックスフロー電池を実現できる。
【0013】
本開示の第2態様において、例えば、第1態様に係るレドックスフロー電池では、前記有機高分子が、セルロース類又はポリビニルアルコール類であってもよい。
【0014】
本開示の第3態様において、例えば、第1態様に係るレドックスフロー電池では、前記有機高分子が、セルロース類であってもよい。
【0015】
第2から第3態様によれば、前記有機高分子が、セルロース類又はポリビニルアルコール類である金属イオン伝導膜は、非水性溶媒に対する親和性が低いため、第1酸化還元種の透過を抑制することができる。これにより、第1酸化還元種が第1液体から第2液体に移動するクロスオーバーを抑制できるため、長期間にわたって高い容量を維持できるレドックスフロー電池を実現できる。
【0016】
本開示の第4態様において、前記スルホン酸金属塩が、スルホン酸リチウム塩又はスルホン酸ナトリウム塩であってもよい。
【0017】
本開示の第5態様において、例えば、第1から第4態様に係るレドックスフロー電池では、前記金属イオンは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン及びアルミニウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1つを含んでもよい。
【0018】
本開示の第6態様において、例えば、第1から第5態様に係るレドックスフロー電池では、前記第1液体に少なくとも一部が接している負極活物質をさらに備えてもよく、前記第1酸化還元種が芳香族化合物であってもよく、前記金属イオンがリチウムイオンであってもよく、前記第1液体は、リチウムを溶解してもよく、前記負極活物質は、前記リチウムを吸蔵及び放出する性質を有する物質を有してもよく、前記第1液体の電位が0.5Vvs.Li+/Li以下であってもよく、前記第1酸化還元種は、前記負極によって酸化又は還元され、かつ、前記負極活物質によって酸化又は還元されてもよい。
【0019】
本開示の第7態様において、例えば、第6態様に係るレドックスフロー電池では、前記芳香族化合物は、ビフェニル、フェナントレン、trans-スチルベン、cis-スチルベン、トリフェニレン、o-ターフェニル、m-ターフェニル、p-ターフェニル、アントラセン、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ブチロフェノン、バレロフェノン、アセナフテン、アセナフチレン、フルオランテン及びベンジルからなる群より選ばれる少なくとも1つを含んでもよい。
【0020】
本開示の第8態様において、例えば、第1から第7態様のいずれか1つに係るレドックスフロー電池では、前記第2液体に少なくとも一部が接している正極活物質をさらに備えてもよく、前記第2酸化還元種は、前記正極によって酸化又は還元され、かつ、前記正極活物質によって酸化又は還元されてもよい。
【0021】
本開示の第9態様において、例えば、第1から第8態様に係るレドックスフロー電池では、前記第1電極メディエータは、テトラチアフルバレン、メタロセン化合物、トリフェニルアミン及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1つを含んでもよい。
【0022】
本開示の第10態様において、例えば、第1から第9態様に係るレドックスフロー電池では、前記第1非水性溶媒及び前記第2非水性溶媒のそれぞれは、カーボネート基を有する化合物とエーテル結合を有する化合物との少なくとも1種を含んでよい。
【0023】
本開示の第11態様において、例えば、第10態様に係るレドックスフロー電池では、前記カーボネート基を有する化合物は、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも1つを含んでもよい。
【0024】
本開示の第12態様において、例えば、第10又は第11態様に係るレドックスフロー電池では、前記エーテル結合を有する化合物は、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブトキシエタン、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、2,5-ジメチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン及び4-メチル-1,3-ジオキソランからなる群より選ばれる少なくとも1つを含んでもよい。
【0025】
第4から第12態様によれば、レドックスフロー電池は、高い放電電圧を示し、それにより高い体積エネルギー密度を有する。
【0026】
以下、本開示の実施形態が、図面を参照しながら、説明される。本開示は、以下の実施形態に限定されない。
【0027】
(実施形態)
図1は、本実施形態に係るレドックスフロー電池1000の概略構成を示す模式図である。
図1に示すように、レドックスフロー電池1000は、負極210、正極220、第1液体110、第2液体120及び金属イオン伝導膜400を備えている。レドックスフロー電池1000は、負極活物質310をさらに備えていてもよい。第1液体110は、第1非水性溶媒、第1酸化還元種及び金属イオンを含む。第1液体110は、例えば、負極210及び負極活物質310のそれぞれに接している。負極210及び負極活物質310のそれぞれは、第1液体110に浸漬されていてもよい。負極210の少なくとも一部が第1液体110に接している。第2液体120は、第2非水性溶媒、第2酸化還元種及び金属イオンを含む。レドックスフロー電池1000は、正極活物質320をさらに備えていてもよい。第2液体120は、例えば、正極220及び正極活物質320に接している。正極220及び正極活物質320のそれぞれは、第2液体120に浸漬されていてもよい。正極220の少なくとも一部が第2液体120に接している。金属イオン伝導膜400は、第1液体110及び第2液体120の間に配置され、第1液体110と第2液体120を隔離する。
【0028】
図1に示すように、本実施形態に係るレドックスフロー電池1000が備える金属イオン伝導膜400は、主面として第1面と第2面を有し、第1面は第1液体110に、第2面は第2液体120に接している。
【0029】
金属イオン伝導膜400は、複数の水酸基を有する有機高分子を含み、前記有機高分子は、前記複数の水酸基の少なくとも一部がスルホン酸金属塩で置換された基を有する。水酸基の少なくとも一部がスルホン酸金属塩で置換された部位を有する金属イオン伝導膜400を備えることによって、この金属イオン伝導膜400を介した金属イオンの移動を可能にする。また、金属イオン伝導膜400が複数の水酸基を有する有機高分子を含むことによって、長期間にわたってクロスオーバーを抑制できる。本明細書において、「クロスオーバー」とは、第1酸化還元種が第1液体110から第2液体120へ移動すること、又は、第2酸化還元種が第2液体120から第1液体110へ移動することを意味する。さらに、金属イオン伝導膜400は、第1液体110と第2液体120とを互いに隔離する。
【0030】
金属イオン伝導膜400の形状は、例えば、板状である。例えば、金属イオン伝導膜400は、第1液体110と接している金属イオン伝導膜400の第1表面と、第2液体120と接している金属イオン伝導膜400の第2表面とに開口が設けられていてもよい。
【0031】
非水系レドックスフロー電池の金属イオン伝導膜として、金属イオン伝導性を有するガラス電解質を使用し、低電位の負極電解質と併用した場合、ガラス電解質の一部を構成するチタンなどの元素が還元されて変質することがある。そのため、この非水系レドックスフロー電池では、長寿命化が難しいことがある。これに対して、金属イオン伝導膜400が複数の水酸基を有する有機高分子を含むとき、低電位の負極電解質による金属イオン伝導膜400の変質が抑制される。そのため、この金属イオン伝導膜400によれば、長寿命であるレドックスフロー電池1000を実現できる可能性がある。
【0032】
非水系レドックスフロー電池の金属イオン伝導膜として、金属イオン伝導性を有するセラミック電解質を使用した場合、結晶粒界近傍に局所的に大電流が発生し、結晶粒界に沿ってデンドライトが発生することがある。さらに、セラミック電解質自体のイオン伝導性が低い。そのため、この非水系レドックスフロー電池では、高電流密度での充放電が難しいことがある。これに対して、金属イオン伝導膜400が有機高分子を主成分として含むとき、前記有機高分子は、アモルファスであり、粒界を有さない。このため、局所的な大電流が発生することがなく、金属イオン伝導膜400におけるデンドライトの発生が抑制される。そのため、この金属イオン伝導膜400によれば、高電流密度での充放電が可能であるレドックスフロー電池1000を実現できる可能性がある。「主成分」とは、有機高分子として質量比で最も多く含まれた成分を意味し、例えば50質量%以上である。
【0033】
後述するように、第1酸化還元種として芳香族化合物を使用し、かつ第1液体110にリチウムを溶解させた場合、第1液体110は、0.5Vvs.Li+/Li以下の非常に低い電位を示すことがある。この場合、金属イオン伝導膜400に含まれる有機高分子は、強い還元性を有する第1液体110と反応しないものであってもよい。このような有機高分子としては、例えば、セルロース類、ポリビニルアルコール類などを主成分とする有機高分子が挙げられる。
【0034】
金属イオン伝導膜400は、複数の水酸基の少なくとも一部がスルホン酸金属塩で置換された基を有する有機高分子を備える。いいかえると、複数の水酸基を有する有機高分子は、少なくとも1個のスルホン酸金属塩の基を有する。このとき、金属イオン伝導膜400が第1液体110及び第2液体120に接触した場合、第1液体110及び第2液体120が含有する金属イオンがスルホン酸金属塩部分の金属イオンと置換されながら移動する。さらに、セルロース類などの主骨格は、非水性溶媒を各々含む第1液体110及び第2液体120に対して副反応が生じにくい。そのため、本実施形態に係るレドックスフロー電池1000は、金属イオン伝導膜400において金属イオンを透過させつつ、第1酸化還元種のクロスオーバーを抑制することができる。これにより、使用できる第1液体110及び第1液体110に溶解している第1酸化還元種の選択肢が広がる。したがって、レドックスフロー電池1000の充電電位及び放電電位の制御範囲が広がり、充電容量を増大させることができる。
【0035】
金属イオン伝導膜400は複数の水酸基を有する有機高分子を含む。水酸基の数は、2以上であれば、特に限定されない。複数の水酸基を有する有機高分子は、水酸基を有するため、第1非水性溶媒を含む第1液体110と、第2非水性溶媒を含む第2液体120との分離性能に優れる。複数の水酸基を有する有機高分子は、複数の水酸基を有する親水性有機高分子であってもよい。複数の水酸基を有する有機高分子は、例えば、セルロース類又はポリビニルアルコール類であってもよい。セルロース類は、天然セルロースであってもよく、合成セルロースであってもよい。天然セルロースは、β-グルコース分子がグリコシド結合により直鎖状に重合した天然高分子であればよく、天然高分子の再生セルロースであってもよい。セルロース類としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等であってもよい。これによって、金属イオン伝導膜400は、電解液の強い還元性に対しても高い耐久性を示す。
【0036】
また、複数の水酸基を有する水溶性有機高分子は、主鎖が脂肪族炭化水素であり、側鎖に水酸基を有する水溶性有機高分子であってもよい。これによって、金属イオン伝導膜400は、電解液の強い還元性に対しても高い耐久性を示す。そのため、レドックスフロー電池1000の充放電容量を長期間にわたって維持することができる。本開示において、電解液に対する耐久性を「耐電解液性」ともいう。また、複数の水酸基を有する有機高分子は、耐電解液性を示す場合、ポリオレフィン等の高分子を水酸基で修飾したものであってもよい。ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン等であってもよい。複数の水酸基を有する有機高分子は、例えば、エチレン-ビニルアルコール重合体であってもよい。水酸基をスルホン酸金属塩で置換する反応は激しく、水酸基が置換されすぎると膜自体が破れ、自立膜が得られないことも有り得る。そのため、複数の水酸基の一部のみがスルホン酸金属塩で置換されていてもよい。再生セルロースの分画分子量は、例えば、100Da以上であってもよく、1000Da以上であってもよい。また、再生セルロースの分画分子量は、例えば、100,000Da以下であってもよく、50,000Da以下であってもよい。
【0037】
スルホン酸金属塩で置換された基は-OSO3M(式中、Mは金属原子を表す)で表される構造を有する。Mの金属原子は、ナトリウム、又はリチウムであってもよい。スルホン酸金属塩は、高い金属イオン伝導性を示す点から、スルホン酸リチウム塩又はスルホン酸ナトリウム塩であってもよい。
【0038】
金属イオン伝導膜400がレドックスフロー電池1000の動作に対して十分な金属イオンの透過性を有し、かつ金属イオン伝導膜400の機械強度を確保できる限り、金属イオン伝導膜400の厚さは、特に限定されない。金属イオン伝導膜400の厚さは、10μm以上1mm以下であってもよく、10μm以上500μm以下であってもよく、50μm以上200μm以下であってもよい。
【0039】
金属イオン伝導膜400において、有機高分子の有する水酸基がスルホン酸金属塩に置換され、また第1液体及び第2液体に接触した際に溶解あるいは分解等の反応を生じない限り、金属イオン伝導膜400の製造方法は、特に限定されない。製造方法としては、例えば、複数の水酸基を有する有機高分子を三酸化硫黄とピリジンとを含む有機溶媒溶液に接触させる方法が挙げられる。
【0040】
以上の構成によれば、大きい充電容量を有し、かつ充放電容量が長期間にわたって維持されるレドックスフロー電池1000を実現できる。
【0041】
本実施形態におけるレドックスフロー電池1000において、金属イオンは、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン及びアルミニウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0042】
第1酸化還元種は、例えば、リチウムをカチオンとして溶解する有機化合物を含む。この有機化合物は、芳香族化合物であってもよく、縮合芳香族化合物であってもよい。第1酸化還元種は、例えば、ビフェニル、フェナントレン、trans-スチルベン、cis-スチルベン、トリフェニレン、o-ターフェニル、m-ターフェニル、p-ターフェニル、アントラセン、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ブチロフェノン、バレロフェノン、アセナフテン、アセナフチレン、フルオランテン及びベンジルからなる群より選ばれる少なくとも1つを含んでいてもよい。第1酸化還元種は、フェロセンなどのメタロセン化合物であってもよい。第1酸化還元種の分子量は、特に限定されず、100以上500以下であってもよく、100以上300以下であってもよい。
【0043】
第1液体110の電位は、0.5Vvs.Li+/Li以下であってもよい。この場合、金属イオン伝導膜400は0.5Vvs.Li+/Li以下でも反応しないものであってもよい。
【0044】
本実施形態におけるレドックスフロー電池1000において、第1非水性溶媒及び第2非水性溶媒のそれぞれは、カーボネート基を有する化合物を含んでいてもよく、エーテル結合を有する化合物を含んでいてもよい。
【0045】
カーボネート基を有する化合物としては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)及びジエチルカーボネート(DEC)からなる群より選ばれる少なくとも1つが使用できる。
【0046】
エーテル結合を有する化合物としては、例えば、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブトキシエタン、ジグライム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)、トリグライム(トリエチレングリコールジメチルエーテル)、テトラグライム(テトラエチレングリコールジメチルエーテル)、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、2,5-ジメチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン及び4-メチル-1,3-ジオキソランからなる群より選ばれる少なくとも1つが使用できる。
【0047】
本実施形態におけるレドックスフロー電池1000において、第1液体110は、上述の第1非水性溶媒と電解質とを含む電解液であってもよい。電解質は、LiBF4、LiPF6、LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)、LiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)、LiCF3SO3、LiClO4、NaBF4、NaPF6、NaTFSI、NaFSI、NaCF3SO3、NaClO4、Mg(BF4)2、Mg(PF6)2、Mg(TFSI)2、Mg(FSI)2、Mg(CF3SO3)2、Mg(ClO4)2、AlCl3、AlBr3及びAl(TFSI)3からなる群より選ばれる少なくとも1種の塩であってもよい。第1非水性溶媒が高い誘電率を有し、かつ第1非水性溶媒と金属イオンとの反応性が低く、さらに、第1非水性溶媒の電位窓が4V程度以下であってもよい。
【0048】
本実施形態におけるレドックスフロー電池1000において、負極210は、接触している第1液体110に対して不溶であってもよい。また、負極210の材料は、電気化学反応に対しても安定である材料であってもよい。例えば、負極210として用いられる材料は、ステンレス鋼、鉄、銅、ニッケル、カーボンなどが挙げられる。
【0049】
負極210は、その表面積を増大させた構造を有していてもよい。表面積を増大させた構造としては、メッシュ、不織布、表面粗化処理板、焼結多孔体などが挙げられる。負極210がこれらの構造を有する場合、負極210は、大きい比表面積を有する。そのため、負極210における第1酸化還元種の酸化反応又は還元反応が容易に進行する。
【0050】
本実施形態におけるレドックスフロー電池1000において、負極活物質310の少なくとも一部は、第1液体110に接している。負極活物質310は、例えば、第1液体110に不溶である。負極活物質310は、金属イオンを可逆的に吸蔵又は放出することができる。負極活物質310の材料としては、金属、金属酸化物、炭素、ケイ素などが挙げられる。金属としては、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、スズなどが挙げられる。金属酸化物としては、酸化チタンなどが挙げられる。第1酸化還元種が芳香族化合物であり、かつ第1液体110中にリチウムが溶解している場合、負極活物質310は、炭素、ケイ素、アルミニウム及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0051】
負極活物質310の形状は、特に限定されず、粒子状であってもよく、粉末状であってもよく、ペレット状であってもよい。負極活物質310は、バインダによって固められていてもよい。バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミドなどの樹脂が挙げられる。
【0052】
レドックスフロー電池1000が負極活物質310を備える場合、レドックスフロー電池1000の充放電容量は、第1酸化還元種の溶解性に依存せず、負極活物質310の容量に依存する。そのため、エネルギー密度の高いレドックスフロー電池1000を容易に実現できる。
【0053】
本実施形態におけるレドックスフロー電池1000において、正極220は、接触している第2液体120に対して不溶であってもよい。また、正極220の材料は、電気化学反応に対しても安定である材料であってもよい。例えば、正極220として用いられる材料は、負極210について例示した材料などが挙げられる。また、負極210と正極220は、同じ材料であってもよく、異なる材料であってもよい。
【0054】
レドックスフロー電池1000が正極活物質320を備える場合、第2酸化還元種は、正極メディエータとして機能する。第2酸化還元種は、例えば、第2液体120に溶解している。第2酸化還元種は、正極220によって酸化又は還元され、かつ正極活物質320によって酸化又は還元される。レドックスフロー電池1000が正極活物質320を備えていない場合、第2酸化還元種は、正極220のみによって酸化又は還元される活物質として機能する。
【0055】
本実施形態に係るレドックスフロー電池1000において、第2酸化還元種は、テトラチアフルバレン及びその誘導体、カルバゾール及びその誘導体、トリフェニルアミン及びその誘導体、ビピリジル誘導体、チオフェン誘導体、チアントレン誘導体、フェナントロリンなどの複素環化合物であってもよく、テトラチアフルバレン、トリフェニルアミン及びそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1つであってもよい。第2酸化還元種は、例えば、フェロセン、チタノセンなどのメタロセン化合物であってもよい。第2酸化還元種は、必要に応じて、これらのうち2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0056】
第2非水性溶媒によって溶媒和された第2酸化還元種のサイズは、例えば、第1酸化還元種と同様に、密度汎関数法B3LYP/6-31Gを用いた第一原理計算によって算出することができる。本明細書において、第2非水性溶媒によって溶媒和された第2酸化還元種のサイズは、例えば、第2非水性溶媒によって溶媒和された第2酸化還元種を囲むことができる最小の球の直径を意味する。第2酸化還元種に対する第2非水性溶媒の配位状態及び配位数は、例えば、第2液体120のNMRの測定結果から推定することができる。
【0057】
本実施形態のレドックスフロー電池1000では、第1液体110、第1酸化還元種、第2液体120及び第2酸化還元種の選択肢が広い。そのため、レドックスフロー電池1000の充電電位及び放電電位の制御範囲が広く、レドックスフロー電池1000の充電容量を容易に増加させることができる。さらに、金属イオン伝導膜400によって、第1液体110と第2液体120とがほとんど混合されないため、レドックスフロー電池1000の充放電特性を長期間にわたって維持することができる。
【0058】
正極220は、その表面積を増大させた構造を有していてもよい。表面積を増大させた構造としては、メッシュ、不織布、表面粗化処理板、焼結多孔体などが挙げられる。正極220がこれらの構造を有する場合、正極220は、大きい比表面積を有する。そのため、正極220における第2酸化還元種の酸化反応又は還元反応が容易に進行する。
【0059】
上述のとおり、レドックスフロー電池1000は、正極活物質320をさらに備えていてもよい。正極活物質320の少なくとも一部は、第2液体120に接している。正極活物質320は、例えば、第2液体120に対して不溶である。正極活物質320は、金属イオンを可逆的に吸蔵又は放出することができる。正極活物質320としては、例えば、リン酸鉄リチウム、LCO(LiCoO2)、LMO(LiMn2O4)、NCA(リチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム複合酸化物)などの金属酸化物が挙げられる。
【0060】
正極活物質320の形状は、特に限定されず、粒子状であってもよく、粉末状であってもよく、ペレット状であってもよい。正極活物質320は、バインダによって固められていてもよい。バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミドなどの樹脂が挙げられる。
【0061】
レドックスフロー電池1000が負極活物質310及び正極活物質320を備える場合、レドックスフロー電池1000の充放電容量は、第1酸化還元種及び第2酸化還元種の溶解性に依存せず、負極活物質310及び正極活物質320の容量に依存する。そのため、エネルギー密度の高いレドックスフロー電池1000を容易に実現できる。
【0062】
レドックスフロー電池1000は、電気化学反応部600、負極端子211及び正極端子221をさらに備えていてもよい。電気化学反応部600は、負極室610及び正極室620を有する。電気化学反応部600の内部には、金属イオン伝導膜400が配置されている。電気化学反応部600の内部において、金属イオン伝導膜400は、負極室610と正極室620とを隔てている。
【0063】
負極室610は、負極210及び第1液体110を収容している。負極室610の内部において、負極210が第1液体110に接している。正極室620は、正極220及び第2液体120を収容している。正極室620の内部において、正極220が第2液体120に接している。
【0064】
負極端子211は、負極210と電気的に接続されている。正極端子221は、正極220と電気的に接続されている。負極端子211及び正極端子221は、例えば、充放電装置に電気的に接続されている。充放電装置は、負極端子211及び正極端子221を通じてレドックスフロー電池1000に電圧を印加することができる。充放電装置は、負極端子211及び正極端子221を通じてレドックスフロー電池1000から電力を取り出すこともできる。
【0065】
レドックスフロー電池1000は、第1循環機構510及び第2循環機構520をさらに備えていてもよい。第1循環機構510は、第1収容部511、第1フィルタ512、配管513、配管514及びポンプ515を有する。第1収容部511は、負極活物質310及び第1液体110を収容している。第1収容部511の内部において、負極活物質310が第1液体110に接している。例えば、負極活物質310の隙間に第1液体110が存在する。第1収容部511は、例えば、タンクである。
【0066】
第1フィルタ512は、第1収容部511の出口に配置されている。第1フィルタ512は、第1収容部511の入口に配置されていてもよく、負極室610の入口又は出口に配置されていてもよい。第1フィルタ512は、後述する配管513に配置されていてもよい。第1フィルタ512は、第1液体110を透過させ、負極活物質310の透過を抑制する。負極活物質310が粒子状であるとき、第1フィルタ512は、例えば、負極活物質310の粒径よりも小さい孔を有する。第1フィルタ512の材料は、負極活物質310及び第1液体110とほとんど反応しない限り、特に限定されない。第1フィルタ512としては、ガラス繊維濾紙、ポリプロピレン不織布、ポリエチレン不織布、ポリエチレンセパレータ、ポリプロピレンセパレータ、ポリイミドセパレータ、ポリエチレン/ポリプロピレンの二層構造セパレータ、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの三層構造セパレータ、金属リチウムと反応しない金属メッシュなどが挙げられる。第1フィルタ512によれば、第1収容部511からの負極活物質310の流出を抑制できる。これにより、負極活物質310は、第1収容部511の内部に留まる。レドックスフロー電池1000において、負極活物質310自体は、循環しない。そのため、配管513の内部などが負極活物質310によって目詰まりしにくい。第1フィルタ512によれば、負極活物質310が負極室610に流出することによる抵抗損失の発生も抑制できる。
【0067】
配管513は、例えば、第1フィルタ512を介して第1収容部511の出口に接続されている。配管513は、第1収容部511の出口に接続された一端と負極室610の入口に接続された他端とを有する。第1液体110は、配管513を通じて第1収容部511から負極室610に送られる。
【0068】
配管514は、負極室610の出口に接続された一端と第1収容部511の入口に接続された他端とを有する。第1液体110は、配管514を通じて負極室610から第1収容部511に送られる。
【0069】
ポンプ515は、配管514に配置されている。ポンプ515は、配管513に配置されていてもよい。ポンプ515は、例えば、第1液体110を昇圧する。ポンプ515を制御することによって第1液体110の流量を調節することができる。ポンプ515によって、第1液体110の循環を開始すること、又は、第1液体110の循環を停止することもできる。ただし、第1液体110の流量は、ポンプ以外の他の部材によって調節することもできる。他の部材としては、例えば、バルブが挙げられる。
【0070】
以上のとおり、第1循環機構510は、負極室610と第1収容部511との間で第1液体110を循環させることができる。第1循環機構510によれば、負極活物質310に接触する第1液体110の量を容易に増加できる。第1液体110と負極活物質310との接触時間も増加できる。そのため、負極活物質310による第1酸化還元種の酸化反応及び還元反応を効率的に行うことができる。
【0071】
第2循環機構520は、第2収容部521、第2フィルタ522、配管523、配管524及びポンプ525を有する。第2収容部521は、正極活物質320及び第2液体120を収容している。第2収容部521の内部において、正極活物質320が第2液体120に接している。例えば、正極活物質320の隙間に第2液体120が存在する。第2収容部521は、例えば、タンクである。
【0072】
第2フィルタ522は、第2収容部521の出口に配置されている。第2フィルタ522は、第2収容部521の入口に配置されていてもよく、正極室620の入口又は出口に配置されていてもよい。第2フィルタ522は、後述する配管523に配置されていてもよい。第2フィルタ522は、第2液体120を透過させ、正極活物質320の透過を抑制する。正極活物質320が粒子状であるとき、第2フィルタ522は、例えば、正極活物質320の粒径よりも小さい孔を有する。第2フィルタ522の材料は、正極活物質320及び第2液体120とほとんど反応しない限り、特に限定されない。第2フィルタ522としては、ガラス繊維濾紙、ポリプロピレン不織布、ポリエチレン不織布、金属リチウムと反応しない金属メッシュなどが挙げられる。第2フィルタ522によれば、第2収容部521からの正極活物質320の流出を抑制できる。これにより、正極活物質320は、第2収容部521の内部に留まる。レドックスフロー電池1000において、正極活物質320自体は、循環しない。そのため、配管523の内部などが正極活物質320によって目詰まりしにくい。第2フィルタ522によれば、正極活物質320が正極室620に流出することによる抵抗損失の発生も抑制できる。
【0073】
配管523は、例えば、第2フィルタ522を介して第2収容部521の出口に接続されている。配管523は、第2収容部521の出口に接続された一端と正極室620の入口に接続された他端とを有する。第2液体120は、配管523を通じて第2収容部521から正極室620に送られる。
【0074】
配管524は、正極室620の出口に接続された一端と第2収容部521の入口に接続された他端とを有する。第2液体120は、配管524を通じて正極室620から第2収容部521に送られる。
【0075】
ポンプ525は、配管524に配置されている。ポンプ525は、配管523に配置されていてもよい。ポンプ525は、例えば、第2液体120を昇圧する。ポンプ525を制御することによって第2液体120の流量を調節することができる。ポンプ525によって、第2液体120の循環を開始すること、又は、第2液体120の循環を停止することもできる。ただし、第2液体120の流量は、ポンプ以外の他の部材によって調節することもできる。他の部材としては、例えば、バルブが挙げられる。
【0076】
以上のとおり、第2循環機構520は、正極室620と第2収容部521との間で第2液体120を循環させることができる。第2循環機構520によれば、正極活物質320に接触する第2液体120の量を容易に増加できる。第2液体120と正極活物質320との接触時間も増加できる。そのため、正極活物質320による第2酸化還元種の酸化反応及び還元反応を効率的に行うことができる。
【0077】
次に、レドックスフロー電池1000の動作の一例を説明する。以下の説明では、第1酸化還元種を「Md」と呼ぶことがある。負極活物質310を「NA」と呼ぶことがある。以下の説明では、第2酸化還元種として、テトラチアフルバレン(以下、「TTF」と呼ぶことがある)を用いる。正極活物質320として、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)を用いる。以下の説明では、金属イオンは、リチウムイオンである。
【0078】
[レドックスフロー電池の充電プロセス]
まず、レドックスフロー電池1000の負極210及び正極220に電圧を印加することによって、レドックスフロー電池1000を充電する。以下では、充電プロセスにおける負極210側の反応及び正極220側の反応を説明する。
【0079】
(負極側の反応)
電圧の印加によって、レドックスフロー電池1000の外部から負極210に電子が供給される。これにより、負極210の表面において、第1液体110に含まれている第1酸化還元種が還元される。第1酸化還元種の還元反応は、例えば、以下の反応式で表される。なお、リチウムイオン(Li+)は、例えば、金属イオン伝導膜400を通じて第2液体120から供給される。
Md + Li+ + e- → Md・Li
【0080】
上記の反応式において、Md・Liは、リチウムカチオンと還元された第1酸化還元種との複合体である。還元された第1酸化還元種は、第1液体110の溶媒によって溶媒和された電子を有する。第1酸化還元種の還元反応が進行するにつれて、第1液体110におけるMd・Liの濃度が増加する。第1液体110におけるMd・Liの濃度が増加することによって、第1液体110の電位が低下する。第1液体110の電位は、負極活物質310がリチウムイオンを吸蔵できる上限電位よりも低い値まで低下する。
【0081】
次に、第1循環機構510によって、Md・Liが負極活物質310まで送られる。第1液体110の電位は、負極活物質310がリチウムイオンを吸蔵できる上限電位よりも低い。そのため、負極活物質310は、Md・Liからリチウムイオン及び電子を受け取る。これにより、第1酸化還元種が酸化され、負極活物質310が還元される。この反応は、例えば、以下の反応式で表される。ただし、以下の反応式において、s及びtは、1以上の整数である。
sNA + tMd・Li → NAsLit + tMd
【0082】
上記の反応式において、NAsLitは、負極活物質310がリチウムイオンを吸蔵することによって形成されたリチウム化合物である。負極活物質310が黒鉛を含むとき、上記の反応式において、例えば、sが6であり、tが1である。このとき、NAsLitは、C6Liである。負極活物質310がアルミニウム、スズ又はシリコンを含むとき、上記の反応式において、例えば、sが1であり、tが1である。このとき、NAsLitは、LiAl、LiSn又はLiSiである。
【0083】
次に、負極活物質310によって酸化された第1酸化還元種は、第1循環機構510によって負極210まで送られる。負極210に送られた第1酸化還元種は、負極210の表面において再び還元される。これにより、Md・Liが生成する。このように、第1酸化還元種が循環することによって、負極活物質310が充電される。すなわち、第1酸化還元種が充電メディエータとして機能する。
【0084】
(正極側の反応)
電圧の印加によって、正極220の表面において、第2酸化還元種が酸化される。これにより、正極220からレドックスフロー電池1000の外部に電子が取り出される。第2酸化還元種の酸化反応は、例えば、以下の反応式で表される。
TTF → TTF+ + e-
TTF+ → TTF2+ + e-
【0085】
次に、正極220にて酸化された第2酸化還元種は、第2循環機構520によって正極活物質320まで送られる。正極活物質320に送られた第2酸化還元種は、正極活物質320によって還元される。一方、正極活物質320は、第2酸化還元種によって酸化される。第2酸化還元種によって酸化された正極活物質320は、リチウムを放出する。この反応は、例えば、以下の反応式で表される。
LiFePO4 + TTF2+ → FePO4 + Li+ + TTF+
【0086】
次に、正極活物質320によって還元された第2酸化還元種は、第2循環機構520によって正極220まで送られる。正極220に送られた第2酸化還元種は、正極220の表面において再び酸化される。この反応は、例えば、以下の反応式で表される。
TTF+ → TTF2+ + e-
【0087】
このように、第2酸化還元種が循環することによって、正極活物質320が充電される。すなわち、第2酸化還元種が充電メディエータとして機能する。レドックスフロー電池1000の充電によって生じたリチウムイオン(Li+)は、例えば、金属イオン伝導膜400を通じて第1液体110に移動する。
【0088】
[レドックスフロー電池の放電プロセス]
充電されたレドックスフロー電池1000では、負極210及び正極220から電力を取り出すことができる。以下では、放電プロセスにおける負極210側の反応及び正極220側の反応を説明する。
【0089】
(負極側の反応)
レドックスフロー電池1000の放電によって、負極210の表面において、第1酸化還元種が酸化される。これにより、負極210からレドックスフロー電池1000の外部に電子が取り出される。第1酸化還元種の酸化反応は、例えば、以下の反応式で表される。
Md・Li → Md + Li+ + e-
【0090】
第1酸化還元種の酸化反応が進行するにつれて、第1液体110におけるMd・Liの濃度が減少する。第1液体110におけるMd・Liの濃度が減少することによって、第1液体110の電位が上昇する。これにより、第1液体110の電位は、NAsLitの平衡電位を上回る。
【0091】
次に、負極210にて酸化された第1酸化還元種は、第1循環機構510によって負極活物質310まで送られる。第1液体110の電位がNAsLitの平衡電位を上回っている場合、第1酸化還元種は、NAsLitからリチウムイオン及び電子を受け取る。これにより、第1酸化還元種が還元され、負極活物質310が酸化される。この反応は、例えば、以下の反応式で表される。ただし、以下の反応式において、s及びtは、1以上の整数である。
NAsLit + tMd → sNA + tMd・Li
【0092】
次に、第1循環機構510によって、Md・Liが負極210まで送られる。負極210に送られたMd・Liは、負極210の表面において再び酸化される。このように、第1酸化還元種が循環することによって、負極活物質310が放電する。すなわち、第1酸化還元種が放電メディエータとして機能する。レドックスフロー電池1000の放電によって生じたリチウムイオン(Li+)は、例えば、金属イオン伝導膜400を通じて第2液体120に移動する。
【0093】
(正極側の反応)
レドックスフロー電池1000の放電によって、レドックスフロー電池1000の外部から正極220に電子が供給される。これにより、正極220の表面において、第2酸化還元種が還元される。第2酸化還元種の還元反応は、例えば、以下の反応式で表される。
TTF2+ + e- → TTF+
TTF+ + e- → TTF
【0094】
次に、正極220にて還元された第2酸化還元種は、第2循環機構520によって正極活物質320まで送られる。正極活物質320に送られた第2酸化還元種は、正極活物質320によって酸化される。一方、正極活物質320は、第2酸化還元種によって還元される。第2酸化還元種によって還元された正極活物質320は、リチウムを吸蔵する。この反応は、例えば、以下の反応式で表される。なお、リチウムイオン(Li+)は、例えば、金属イオン伝導膜400を通じて第1液体110から供給される。
FePO4 + Li+ + TTF → LiFePO4 + TTF+
【0095】
次に、正極活物質320によって酸化された第2酸化還元種は、第2循環機構520によって正極220まで送られる。正極220に送られた第2酸化還元種は、正極220の表面において再び還元される。この反応は、例えば、以下の反応式で表される。
TTF+ + e- → TTF
【0096】
このように、第2酸化還元種が循環することによって、正極活物質320が放電する。すなわち、第2酸化還元種が放電メディエータとして機能する。
【実施例0097】
次に、実施例を挙げて本開示をさらに具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、本開示の技術的思想内で多くの変形が当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0098】
<第1液体の調製>
第1酸化還元種として用いられうる芳香族化合物であるビフェニルと、金属リチウムとを溶解させたリチウムビフェニル溶液を第1液体として使用した。この第1液体は、以下の手順により調製した。
【0099】
まず、第1非水性溶媒であるトリグライムに、ビフェニルと、電解質塩であるLiPF6とをそれぞれ溶解させた。得られた溶液におけるビフェニルの濃度は、0.1mol/Lであった。溶液におけるLiPF6の濃度は、1mol/Lであった。この溶液に、過剰量の金属リチウムを添加した。金属リチウムを飽和量まで溶解させることにより、リチウムが飽和した濃青色のビフェニル溶液を得た。溶液におけるビフェニルの濃度は、0.1mol/Lであった。余剰の金属リチウムは、沈殿として残存していた。そのため、このビフェニル溶液の上澄みを第1液体として使用した。
【0100】
<第2液体の調製>
第2非水性溶媒であるトリグライムに、第2酸化還元種であるテトラチアフルバレンと、電解質塩であるLiPF6とをそれぞれ溶解させた。得られた溶液を第2液体として使用した。第2液体におけるテトラチアフルバレンの濃度は、5mmol/Lであった。第2液体におけるLiPF6の濃度は、1mol/Lであった。
【0101】
<評価系の構成>
図1のように電気化学セルを構成した。この電気化学セルの金属イオン伝導膜として、後述する実施例1、実施例2、又は比較例1に係る金属イオン伝導膜を用いた。金属イオン伝導膜を隔てて第1液体及び第2液体のそれぞれを1mLずつ電気化学セルに注入した。負極210を第1液体110に浸漬させ、正極220を第2液体120に浸漬させた。負極210及び正極220としては発泡SUSを用いた。電気化学アナライザを使用し、開回路電圧を40時間測定した。
【0102】
[実施例1]
0.19mol/Lの三酸化硫黄(東京化成工業株式会社)とピリジンのDMSO溶液(富士フイルム和光純薬株式会社)に再生セルロース膜スペクトラ/ポア4(REPLIGEN社(旧Spectrum Laboratories lnc.)製、天然セルロースと同じ化学構造、分画分子量:12,000Daから14,000Da)0.3gを浸漬させた。浸漬させた再生セルロース膜を、ホットプレートにて45℃で5時間加熱した。加熱した再生セルロース膜をエタノールで洗浄した。洗浄した再生セルロース膜を、1.0mol/L水酸化リチウム(東京化成工業株式会社)水溶液とエタノールを50wt%で混合した液に一晩浸漬させた。さらにこの浸漬させた再生セルロース膜をエタノールで洗浄したものを50℃で一晩真空乾燥させ、実施例1の金属イオン伝導膜を得た。金属イオン伝導膜のスルホン化についてはFT-IR測定にてS-O、S=O伸縮運動由来のスペクトル強度の増幅を確認した。また、FT-IR測定にて、3100cm-1以上3600cm-1以下の範囲において、-OH基由来のスペクトル強度の増幅を確認した。
【0103】
[実施例2]
0.16mol/Lの三酸化硫黄(東京化成工業株式会社)を用いたこと以外は、実施例1と同じ条件にして、実施例2の金属イオン伝導膜を得た。金属イオン伝導膜のスルホン化についてはFT-IR測定にてS-O、S=O伸縮運動由来のピークを確認した。スペクトル強度の増幅を確認した。また、FT-IR測定にて、3100cm-1以上3600cm-1以下の範囲において、-OH基由来のスペクトル強度の増幅を確認した。
【0104】
[比較例1]
再生セルロース膜スペクトラ/ポア3(REPLIGEN社(旧Spectrum Laboratories lnc.)製、天然セルロースと同構造、分画分子量:3,500Da)を純水で洗浄した。洗浄した再生セルロース膜を、50℃で一晩真空乾燥させ、比較例1の金属イオン伝導膜を得た。
【0105】
図2は、実施例1、実施例2及び比較例1に係る電気化学セルの開回路電圧を示すグラフである。
図2において、横軸は開回路電圧の測定開始からの経過時間(開回路電圧の測定時間)、縦軸は開回路電圧である。実施例1及び実施例2に関しては充放電10サイクル経過後の開回路電圧の時間経過を示している。比較例1は、充放電10サイクルを経過していない開回路電圧の時間経過を示している。比較例1に係る電気化学セルは、イオン伝導性に非常に乏しく、充放電をすることが困難であった。
【0106】
表1は、
図2で示す実施例1、実施例2、及び比較例1に係る電気化学セルにおける開回路電圧の低下量ΔVを示している。開回路電圧の低下量ΔVは、以下の式で表される。
ΔV=V1-V2
式中、V1は40時間の全計測データにおける電圧の最大値を表す。V2は開回路電圧の測定開始から40時間経過時点の電圧を表す。
【0107】
【0108】
実施例1及び実施例2に係る電気化学セルは、充放電10サイクル経過後も開回路電圧は40時間にわたって安定していた。このことから、実施例1及び実施例2に係る電気化学セルは、酸化還元種のクロスオーバーが抑制されていることがわかる。一方、比較例1に係る電気化学セルは、セル組み立て直後に開回路電圧が変動し、その後も電圧が小刻みに変動していることがわかる。このことは、比較例1に係る電気化学セルにおいて、クロスオーバーの抑制能が低く、Liイオンの伝導性が良好でないことを示している。
【0109】
図3は、実施例1に係る金属イオン伝導膜を用いた電気化学セルの10サイクル目の充放電特性を示すグラフである。
図3において、横軸は電気化学セルの容量、縦軸は電気化学セルの電圧である。充放電電流値は50μAで、カット電圧は2.0Vから4.2Vに設定した。
【0110】
図3のグラフより、実施例1に係るサンプルを用いて電池動作が可能である。また、実施例1に係る金属イオン伝導膜を用いたセルは、10サイクル後の充放電効率が96.1%を示した。この結果から、実施例1に係る金属イオン伝導膜を用いたセルは、クロスオーバーの抑制能が高いことを示唆している。
【0111】
[比較例2]
電気化学セルとしてH型セル(ビー・エー・エス(株))を用いて金属イオン伝導膜のクロスオーバー抑制能を調べた。セル構成の詳細を以下に示す。
【0112】
<第1液体の調製>
第1酸化還元種として用いられうる芳香族化合物であるビフェニルと、金属リチウムとを溶解させたリチウムビフェニル溶液を第1液体として使用した。この第1液体は、以下の手順により調製した。
【0113】
まず、第1非水性溶媒である2-メチルテトラヒドロフランに、ビフェニルと、電解質塩であるLiPF6とをそれぞれ溶解させた。得られた溶液におけるビフェニルの濃度は、0.1mol/Lであった。溶液におけるLiPF6の濃度は、1mol/Lであった。この溶液に、過剰量の金属リチウムを添加した。金属リチウムを飽和量まで溶解させることにより、リチウムが飽和した濃青色のビフェニル溶液を得た。溶液におけるビフェニルの濃度は、0.1mol/Lであった。余剰の金属リチウムは、沈殿として残存していた。そのため、このビフェニル溶液の上澄みを第1液体として使用した。
【0114】
<第2液体の調製>
第2非水性溶媒である2ーメチルテトラヒドロフランに、電解質塩であるLiPF6を溶解させた溶液を第2液体として使用した。第2液体におけるLiPF6の濃度は、1mol/Lであった。
【0115】
<金属イオン伝導膜の作製>
金属イオン伝導膜として、Nafion212(Fuel Cell Store)の水素イオンをリチウムイオンに置換したものを使用した。すなわち、下記式で示される構造を有する化合物を使用した。作製手順は次の通りである。Nafion212を1.0M水酸化リチウム(東京化成工業株式会社)の濃度に調製した水溶液に一晩浸漬させ、80℃で10時間加熱した。その後、純水で3回洗浄し、さらに80℃の純水で1時間加熱した。次に、80℃で一晩乾燥させ、比較例2の金属イオン伝導膜を得た。
【化1】
【0116】
<評価系の構成>
図1に示す電気化学セルにおいて、金属イオン伝導膜として前述の比較例2の金属イオン伝導膜を用いた。金属イオン伝導膜を隔てて第1液体及び第2液体のそれぞれを1mLずつ電気化学セルに注入した。負極を第1液体に浸漬させ、正極を第2液体に浸漬させた。負極としては金属リチウム箔、第2電極としては粗面化銅箔を用いた。電気化学アナライザを使用し、開回路電圧を40時間測定した。
図4は、比較例2に係る電気化学セルの開回路電圧を示すグラフである。
図4において、横軸は開回路電圧の測定開始からの経過時間(開回路電圧の測定時間)、縦軸は開回路電圧である。
【0117】
図4のグラフより、比較例2に係る電気化学セルにおいて、測定中に開回路電圧が1.5V近く変動している。これは、負極付近におけるビフェニルとリチウムの錯体濃度が一時的に低下し、その後、回復していることを示している。つまり第1液体及び第2液体中のビフェニルの濃度差から、セル組み立て直後に負極側から正極側にビフェニルが移行して電圧が低下し、その後負極付近のビフェニルがリチウム金属を溶解し再び錯体を形成することで電圧が回復したと考えられる。すなわち比較例2に係る電気化学セルでは、酸化還元種のクロスオーバーが抑制されていないことがわかる。