(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023099249
(43)【公開日】2023-07-12
(54)【発明の名称】ワイヤ放電加工装置およびワイヤ放電加工方法
(51)【国際特許分類】
B23H 7/02 20060101AFI20230705BHJP
B23H 7/04 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
B23H7/02 R
B23H7/04 E
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213595
(22)【出願日】2021-12-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(72)【発明者】
【氏名】山田 邦治
(72)【発明者】
【氏名】塙 智仁
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 慶輝
【テーマコード(参考)】
3C059
【Fターム(参考)】
3C059AA01
3C059AB05
3C059CB02
3C059CC01
3C059CC02
3C059CD03
3C059CE04
3C059DA06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】予備放電電流から求めた放電位置により集中放電をリアルタイムに検出できるとともに、板厚等の計測に使用するための正確な放電位置を算出することが可能なワイヤ放電加工装置およびワイヤ放電加工方法を提供すること。
【解決手段】本発明のワイヤ放電加工装置は、ワイヤ電極と被加工物とで形成される加工間隙に供給される予備放電電流の波形の立ち上がりから一定の電流値に到達するまでの第1の期間および一定の電流値に到達してから主放電電流が供給されるまでの第2の期間において電流検出器を通して検出されるそれぞれの予備放電電流から放電位置を算出する放電位置演算回路を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ電極と被加工物とで形成される加工間隙に放電の発生を誘起する電圧を印加して予備放電電流を供給する補助電源回路と、前記加工間隙に主放電電流を供給する主電源回路と、前記被加工物を挟んで上下にそれぞれ設けられ前記ワイヤ電極に放電電流を供給する一対の通電体と前記加工間隙との間に流れる前記放電電流を検出する電流検出器と、前記加工間隙に供給される前記予備放電電流の波形の立ち上がりから一定の電流値に到達するまでの第1の期間および一定の電流値に到達してから前記主放電電流が供給されるまでの第2の期間において前記電流検出器を通して検出されるそれぞれの前記予備放電電流から放電位置を算出する放電位置演算回路と、を備えたワイヤ放電加工装置。
【請求項2】
前記電流検出器は、上側通電体を介して前記補助電源回路の電圧の印加により前記加工間隙を流れる前記予備放電電流を検出するセンサと、下側通電体を介して前記補助電源回路の電圧の印加により前記加工間隙を流れる電流を検出するセンサを備え、前記放電位置演算回路は、各々の前記センサから前記予備放電電流を取得し前記予備放電電流の積分値を演算してそれぞれ面積を求め、前記面積の比を求めることで放電位置を算出することを特徴とする請求項1記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項3】
前記ワイヤ放電加工装置は、さらに集中放電検出回路を備え、前記集中放電検出回路は前記第1の期間に算出した放電位置から集中放電を判別することを特徴とする請求項1または2記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項4】
前記ワイヤ放電加工装置は、前記集中放電検出回路が集中放電を判別した場合、前記主電源回路からの前記ワイヤ電極への前記主放電電流の供給を停止することを特徴とする請求項3記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項5】
前記ワイヤ放電加工装置は、前記第2の期間において算出した放電位置から板厚を算出することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項6】
前記ワイヤ放電加工装置は、さらに部分放電検出回路を備え、前記部分放電検出回路は前記第2の期間に算出した放電位置から前記被加工物の加工面の形状を推定し、部分的に放電が偏っていることを判定することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項7】
被加工物とワイヤ電極との間の加工間隙に放電の発生を誘起する電圧を印加して予備放電電流を供給し、その後、前記加工間隙に主放電電流を供給するワイヤ放電加工方法において、前記加工間隙に供給される前記予備放電電流の波形の立ち上がりから一定の電流値に到達するまでの第1の期間および一定の電流値に到達してから前記主放電電流が供給されるまでの第2の期間において前記予備放電電流の電流値により放電位置を検出することを特徴とするワイヤ放電加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ電極と被加工物との間に形成される加工間隙に間欠的に電圧を供給して加工を行うワイヤ放電加工装置およびワイヤ放電加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放電加工は、ワイヤ電極と被加工物を対向配置させ、ワイヤ電極と被加工物の間に形成される加工間隙に繰返し電圧パルスを供給することにより連続的に放電を発生させて放電エネルギーよって加工を行う電気加工方法である。ワイヤ電極と被加工物間に放電が発生すると、被加工物の放電発生部分(放電位置)では、放電の発生にともなう衝撃によって材料が吹き飛ばされ、その後に発熱にともなって温度が急激に上昇し、被加工物材料は、局所的に溶融し蒸発する。被加工物から除去された材料は、冷却されて加工粉となって飛散する。そして、所定時間後に電圧パルスの供給が遮断されることによって一発の放電が終了し、被加工物の表面に放電電流の大きさにおおよそ比例した大きさの放電痕が形成される。
【0003】
ところで、放電エネルギーは被加工物材料のみを除去するために消費されるだけではなく電極側にも影響し電極材料にも損傷を与えてしまうことが知られており、これを電極消耗と呼んでいる。この電極消耗は、放電加工において避け難い現象であり、放電位置の分散が不十分でおよそ同じ位置に集中放電が発生するとワイヤ電極の断線の原因となってしまう。
よって、加工中の放電位置を計測し、集中放電が発生する場合には極間への電圧印加を停止させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5037941号公報
【特許文献2】特許第3085040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1においては、予備放電電流に基づきワイヤ電極における放電位置を判定し、主放電用電圧の印加を停止させることや加工エネルギーの計算・出力調整が行われている。放電位置の検出タイミングは、予備放電電流が微弱電流であり様々な外乱(例えば浮遊容量や浮遊インダクタンス)の影響を受け易いことから、放電初期から150ns~300ns遅らせた時間としている。
【0006】
しかしながら、予備放電電流から求めた放電位置をもとに集中放電を検出し主放電用電圧の印加を停止させる場合、放電が開始された後なるべく早いタイミングで放電位置を検出することが望ましい。
なぜなら主放電の停止をリアルタイムで行うためには、極間に予備放電電流が流れた後、主放電用電圧パルスを極間に印加する前に主放電用電圧パルスの供給を停止するか否かの判断をする必要があり、短時間の処理が求められるからである。
【0007】
また、放電位置を利用して被加工物の板厚等の演算を行うことが行われている(特許文献2)。放電位置により板厚を演算する場合は集中放電を検出する場合とは異なり、放電位置の検出を短時間で行う必要はなく、外乱等の加工環境の影響が比較的少ないタイミングで行うことが望ましい。なぜなら正確な放電位置を使用すれば、板厚計測の精度が上がるからである。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みて、予備放電電流から求めた放電位置により集中放電をリアルタイムに検出できるとともに、板厚等の計測に使用するための正確な放電位置を算出することが可能なワイヤ放電加工装置およびワイヤ放電加工方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のワイヤ放電加工装置は、ワイヤ電極と被加工物とで形成される加工間隙に放電の発生を誘起する電圧を印加して予備放電電流を供給する補助電源回路と、前記加工間隙に主放電電流を供給する主電源回路と、前記被加工物を挟んで上下にそれぞれ設けられ前記ワイヤ電極に放電電流を供給する一対の通電体と前記加工間隙との間に流れる前記放電電流を検出する電流検出器と、前記加工間隙に供給される前記予備放電電流の波形の立ち上がりから一定の電流値に到達するまでの第1の期間および一定の電流値に到達してから前記主放電電流が供給されるまでの第2の期間において前記電流検出器を通して検出されるそれぞれの前記予備放電電流から放電位置を算出する放電位置演算回路と、を備えたことを特徴とする。
また本発明は被加工物とワイヤ電極との間の加工間隙に放電の発生を誘起する電圧を印加して予備放電電流を供給し、その後、前記加工間隙に主放電電流を供給するワイヤ放電加工方法において、前記加工間隙に供給される前記予備放電電流の波形の立ち上がりから一定の電流値に到達するまでの第1の期間および一定の電流値に到達してから前記主放電電流が供給されるまでの第2の期間において前記予備放電電流の電流値により放電位置を検出することを特徴とする。
【0010】
ここで「予備放電電流」とは補助電源回路からの電圧の印加により加工間隙に流れる電流であり、「主放電電流」とは主電源回路からの電圧の印加により加工間隙に流れる電流である。また「放電電流」とは、予備放電電流および主放電電流の総称である。
また「放電位置」とはワイヤ電極上の放電点の位置であり、放電点と同義である。
本発明によれば、予備放電電流の波形の立ち上がりから一定の電流値に到達するまでの第1の期間と、一定の電流値に到達してから主放電電流が供給されるまでの第2の期間において予備放電電流の電流値により放電位置を検出する。予備放電電流の早いタイミングである第1の期間で放電位置を検出すると、主放電電流の供給の停止をより迅速に行うことができる。また外乱等の加工環境の影響が少ない第2の期間で放電位置を検出すると、正確な放電位置を板厚等の演算に使用することができる。このように第1の期間および第2の期間の両方の期間で放電位置を検出することで集中放電をリアルタイムに検出して停止することができるとともに、正確な放電位置をその他の演算に有効活用することが可能となる。
【0011】
本発明の前記電流検出器は、上側通電体を介して前記補助電源回路の電圧の印加により前記加工間隙を流れる前記予備放電電流を検出するセンサと、下側通電体を介して前記補助電源回路の電圧の印加により前記加工間隙を流れる電流を検出するセンサを備え、本発明の前記放電位置演算回路は、各々の前記センサから前記予備放電電流を取得し前記予備放電電流の積分値を演算してそれぞれ面積を求め、前記面積の比を求めることで放電位置を算出することを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、予備放電電流の積分値から面積を算出して面積比により放電位置を算出しているため、加算による積分効果により外乱の影響を減少させることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、加工間隙に供給される予備放電電流の波形の立ち上がりから一定の電流値に到達するまでの第1の期間および一定の電流値に到達してから主放電電流が供給されるまでの第2の期間において放電位置を算出するため、主放電電流の供給の停止を迅速に行うことができるとともに、より正確な板厚の計測を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のワイヤ放電加工装置100を示すブロック図である。
【
図2】本発明のワイヤ放電加工装置100における加工用電源1の回路の一例を示す回路構成図である。
【
図3】本発明のワイヤ放電加工装置100の正常動作を説明するタイミングチャートである。
【
図4】本発明のワイヤ放電加工装置100の集中放電検出時の動作を説明するタイミングチャートである。
【
図5】本発明のワイヤ放電加工装置100の集中放電検出回路431の動作を説明するタイミングチャートである。
【
図6】本発明のワイヤ放電加工装置100の集中放電検出回路431の動作を説明する模式図である。
【
図7】本発明のワイヤ放電加工装置100の板厚演算回路432の動作を説明する模式図である。
【
図8】本発明のワイヤ放電加工装置100の部分放電検出回路433の動作を説明する模式図である。
【
図9】本発明のワイヤ放電加工装置100の部分放電検出時の動作を説明するタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<1.ワイヤ放電加工装置100の構成>
図1は、本発明のワイヤ放電加工装置100を示すブロック図であり、
図2は、本発明のワイヤ放電加工装置100における加工用電源1の回路の一例を示す回路構成図である。
ワイヤ放電加工装置100は、上側ワイヤガイドと下側ワイヤガイドを被加工物Wに対してXY平面上に移動させて、ワイヤ電極Eと被加工物Wとに形成される加工間隙10に所定の加工電圧パルスを繰返し印加して断続的に放電を発生させ、放電エネルギーによって被加工物Wから材料を除去し、被加工物Wを所望の加工形状に切断加工するものである。
ワイヤ放電加工装置100は、加工用電源1と、電圧検出器2と、電流検出器3と、判定回路4と、制御装置7と、通電体9と、ワイヤ電極Eとを含んでなる。
【0016】
加工用電源1は、ワイヤ電極Eと被加工物Wに放電を発生させるための電圧を印加するための電源回路であり、主電源回路1Aと補助電源回路1Bから構成される。ワイヤ放電加工装置100においては、パルス発生回路44からの指示により補助電源回路1Bと主電源回路1Aを切り替えて放電を発生させる。
【0017】
主電源回路1Aは、加工間隙10に加工用の主放電電流Iaを供給するための電圧を印加する電源回路である。加工間隙10に放電が発生して予備放電電流Ibが流れ始めたときに主電源回路1Aの電圧の印加により主放電電流Iaが供給される。
主電源回路1Aは、加工間隙10に直列に設けられ直流電圧を出力する直流電源11と、加工間隙10と直流電源11との間に直列に設けられる1以上のスイッチング素子12と、コンデンサ13と、加工間隙10に直列に挿設される逆流阻止ダイオード14とを含んでなる。
【0018】
スイッチング素子12は、立上がりの性能と耐圧性能に優れるタイプの電解効果トランジスタ(MOSFET)である。コンデンサ13は、直流電源11と並列に設けられた電圧変動を防ぐための平滑コンデンサである。逆流阻止ダイオード14は、加工間隙10に発生する逆起電圧に因る逆流電流が直流電源11に還流することを防ぐ。
【0019】
補助電源回路1Bは、加工間隙10に放電を誘起するための電圧を印加する電源回路であり、補助電源回路1Bの電圧の印加により予備放電電流Ibが加工間隙10に供給される。
補助電源回路1Bは、加工間隙10に直列かつ主電源回路1Aの直流電源11に並列に設けられ直流電圧を出力する直流電源21と、加工間隙10と直流電源21との間に直列に設けられる1以上のスイッチング素子22と、加工間隙10と直流電源21との間でスイッチング素子22に直列に設けられる電流制限抵抗23と、直流電源21に直列に設けられる逆流阻止ダイオード24と、直流電源21とスイッチング素子22との間に設けられるスイッチング素子のブリッジ回路でなる極性切換回路25と、コンデンサ26を含んでなる。
【0020】
スイッチング素子22は、スイッチング素子12と基本的に同じ構成である。電流制限抵抗23は、加工間隙10に放電が発生した直後に流れる予備放電電流Ibが途中で途切れることがない範囲で電流値を十分に小さくする相応の抵抗値を有する。逆流阻止ダイオード24は、突発電流が直流電源21を含む補助電源回路1Bに還流することを防ぐ。極性切換回路25は、直流電源21から出力される直流電圧の極性を選択的に切り換える。コンデンサ26は、直流電源21と並列に設けられた電圧変動を防ぐための平滑コンデンサである。
【0021】
電圧検出器2は、ワイヤ電極Eと被加工物Wとの極間の無負荷時および放電時の電圧を検出するセンサであり、主電源用電圧センサ2Aと、補助電源用電圧センサ2Bから構成される。
主電源用電圧センサ2Aは、主電源回路1Aと上側通電体9Aの間に設けられ、主電源回路1Aの電圧の印加による極間の無負荷時および放電時の電圧を検出する。
また補助電源用電圧センサ2Bは、補助電源回路1Bと上側通電体9Aの間に設けられ、補助電源回路1Bの電圧の印加による極間の無負荷時および放電時の電圧を検出する。
電圧検出器2により検出された極間電圧値は判定回路4に与えられる。
【0022】
電流検出器3は、極間に流れる電流を検出する電流センサであり、主電源用上側電流センサ31A、主電源用下側電流センサ31B、補助電源用上側電流センサ32A、補助電源用下側電流センサ32Bから構成される。
主電源用上側電流センサ31Aは、上側通電体9Aを介して主電源回路1Aの電圧の印加によりワイヤ電極Eと被加工物Wの間を流れる電流を検出するセンサである。一方、主電源用下側電流センサ31Bは、下側通電体9Bを介して主電源回路1Aの電圧の印加によりワイヤ電極Eと被加工物Wの間を流れる電流を検出するセンサである。
また補助電源用上側電流センサ32Aは、上側通電体9Aを介して補助電源回路1Bの電圧の印加によりワイヤ電極Eと被加工物Wの間を流れる電流を検出するセンサであり、補助電源用下側電流センサ32Bは、下側通電体9Bを介して補助電源回路1Bの電圧の印加によりワイヤ電極Eと被加工物Wの間を流れる電流を検出するセンサである。
電流検出器3は、上側通電体9Aまたは下側通電体9Bと加工用電源1との接続線間に設けられる。電流検出器3により検出された電流値は、判定回路4にそれぞれ与えられる。
【0023】
判定回路4は、電圧検出器2から与えられる極間電圧値と電流検出器3から与えられる電流値と制御装置7から与えられる加工条件により、加工用電源1のスイッチング素子12,22をオンオフ制御するとともに放電位置の演算を行う回路である。
判定回路4は、具体的には放電検出回路41と、放電位置演算回路42と、集中放電検出回路431と、板厚演算回路432と、部分放電検出回路433と、パルス発生回路44と、記憶部45から構成される。
【0024】
放電検出回路41は、加工間隙10の極間電圧が基準電圧Vr以下になったときに加工間隙10に放電が発生したことを示す放電発生信号Stを出力する回路である。具体的には、放電検出回路41は電圧検出器2から取得した極間電圧値と基準電圧Vrを比較し、極間電圧値が基準電圧Vr以下に降下した場合にパルス発生回路44および放電位置演算回路42に放電発生信号Stを出力する。
基準電圧Vrは、放電が発生したときに加工間隙10に補助電源回路1Bから供給される予備放電電流Ibが流れ始めて極間電圧が降下したことが最小の遅延時間で確実に検出できる適切な値に設定される。基準電圧Vrのデータは、制御装置7によって書き換えることができる。
【0025】
放電位置演算回路42は、放電検出回路41から放電発生信号Stを受信した場合に、放電位置を2回にわけて演算する回路である。放電位置演算回路42は、放電発生信号Stが入力されると、補助電源用上側電流センサ32Aおよび補助電源用下側電流センサ32Bから電流値を取得し、予備放電電流Ibの立ち上がり期間Tt(第1の期間)と定常期間Ts(第2の期間)に2回、放電位置の演算を行う。予備放電電流Ibの立ち上がり期間Ttに取得した放電位置を第1の放電位置H1n(n=1,・・・,N Nは総数)として演算を行い、予備放電電流Ibの定常期間Tsに取得した放電位置を第2の放電位置H2m(m=1,・・・,M Mは総数)として演算を行う。第1の放電位置H1nおよび第2の放電位置H2mは、それぞれ記憶部45に時系列順に格納されるとともに、第1の放電位置H1nは集中放電検出回路431に出力され、第2の放電位置H2mは部分放電検出回路433に出力される。
【0026】
集中放電検出回路431は、第1の放電位置H1nの情報から集中放電が発生しているか否かを検出する回路である。集中放電検出回路431は、集中放電が発生していることを検出した場合、短い時間幅の集中放電信号Ssをパルス発生回路44に出力する。
【0027】
板厚演算回路432は、記憶部45に時系列式に記憶された第2の放電位置H2mの情報から、板厚Lを演算する回路である。
【0028】
部分放電検出回路433は、第1の放電位置H1nの情報および記憶部45に時系列式に記憶された第2の放電位置H2mの情報から被加工物Wの加工面の形状を推定し、部分的に放電が偏っていることを判定する回路である。
ワイヤ放電加工において一部の範囲のみに局所的に放電が発生した場合、被加工物Wの加工面の真直度が低下し、加工精度が低下する。例えば、加工面の中央部に放電が集中した場合は、端部よりも凹んでいるタイコ形状となったり、加工面の端部に放電が集中した場合は、中央部が端部よりも突出している逆タイコ形状となったりすることがある。よって、部分放電検出回路433は、被加工物Wの加工面の形状を推定し、部分的に放電が偏っていることを検出した場合には、短い時間幅の部分放電信号Sbをパルス発生回路44に出力する。
【0029】
パルス発生回路44は、放電検出回路41からの放電発生信号St、集中放電検出回路431からの集中放電信号Ss、部分放電検出回路433からの部分放電信号Sb、電圧検出器2から与えられる極間電圧値と電流検出器3から与えられる電流値と制御装置7から与えられる加工条件により、加工用電源1のスイッチング素子をオンオフ制御するゲート回路を有する。
具体的にパルス発生回路44は、ゲート回路を通して第1のゲート信号を主電源回路1Aのスイッチング素子12に供給し、第2のゲート信号を補助電源回路1Bのスイッチング素子22に供給する。
パルス発生回路44が第1のゲート信号を主電源回路1Aへ出力すると、主電源回路1Aのスイッチング素子12がオンされて主放電電流Iaが供給される。また、パルス発生回路44が補助電源回路1Bへ第2のゲート信号を出力すると、補助電源回路1Bのスイッチング素子22がオンされて予備放電電流Ibが供給される。
【0030】
具体的にパルス発生回路44は、制御装置7から取得した加工条件を参照し、第2のゲート信号を出力してスイッチング素子22をオンし、加工間隙10に補助電源回路1Bの直流電源21の電圧を印加して放電を誘起させる。放電が発生して予備放電電流Ibが設定されたピーク電流値まで立ち上がったことを電流検出器3から与えられる電流値により検出し、第2のゲート信号の出力を停止してスイッチング素子22をオフし、補助電源回路1Bを遮断する。
【0031】
またパルス発生回路44は、補助電源回路1Bにより放電が発生し放電検出回路41から放電発生信号Stを受信すると、第1のゲート信号を出力してスイッチング素子12をオンして主放電電流Iaを供給する。そして、1発目の主放電電流Iaが設定されたピーク電流値まで立ち上がるころに第1のゲート信号の出力を停止する。1発目の主放電電流Iaの放電電流パルス以降、パルス発生回路44は、電流検出器3の電流検出信号を入力して、加工間隙10に主放電電流Iaが減衰して流れなくなるまで予め設定された放電周波数に従う1MHz以上のオンオフ繰返し周波数でスイッチング素子12を高速にオンオフさせて高周波の放電電流パルスである主放電電流Iaを供給する。
【0032】
記憶部45は、第1の放電位置H1nおよび第2の放電位置H2m等を格納するメモリである。
【0033】
制御装置7は、ワイヤ放電加工装置100の全体の動作を制御する装置であり、内部に記憶部71を備える。
制御装置7は、板厚演算回路432で算出された板厚Lpのデータから、必要に応じて板厚Lpに適応する加工条件に変更設定する。具体的には板厚Lpに適応する加工条件を記憶部71に記憶されている複数の加工条件の組合せの中から検索して抽出する。そして、制御装置7は、変更される加工条件に相当するパルス指令信号を出力して加工条件を変更設定する。
記憶部71には、動作に必要な加工条件のデータが格納され、具体的には休止時間(オフ時間)Ofと、1MHz以上の高周波の放電の繰返し周波数(放電周波数)Moと、主放電電流Iaの持続時間(パルス幅)Maと、印加電圧(直流電源電圧)Voと、加工電流(ピーク電流値)Ipと、基準電圧Vrと、電流基準値Irと、遅延時間Ta等が格納されている。
【0034】
通電体9は、ワイヤ電極Eに接触して加工用電源1から放電加工のための電流を供給するための部材であり、被加工物Wを挟んで上下に上側通電体9Aと、下側通電体9Bが設けられる。
ワイヤ放電加工装置100は、上側ガイドアッセンブリと下側ガイドアッセンブリとが設けられている。被加工物Wの上側に設けられる上側ガイドアッセンブリには、上側ワイヤガイドと、上側通電体9Aと、加工液噴流ノズルとがハウジングに一体的に組み込まれてなる。また、被加工物Wの下側に設けられる下側ガイドアッセンブリは、下側ワイヤガイドと、下側通電体9Bと、加工液噴流ノズルとがハウジングに一体的に組み込まれてなる。加工用電源1の電源端子が上側通電体9A、下側通電体9Bと接続されており、上側通電体9Aおよび下側通電体9Bを介してワイヤ電極Eに電流を供給する。
【0035】
ワイヤ電極Eは、導電性材料から製作されたワイヤ状の放電加工用工具である。ワイヤ電極Eは、被加工物Wとの間に加工間隙が形成されるように対向配置されており、移動装置によって任意の方向に被加工物Wを基準として相対移動する。ワイヤ電極Eは、上側ワイヤガイドと下側ワイヤガイドに挿通されており、上側ワイヤガイドと下側ワイヤガイド間にテンションが付与された状態で張架される。
また、ワイヤ電極Eは、上側通電体9A、下側通電体9Bを介して加工用電源1の電源端子と接続される。また、被加工物Wも、通電治具を介して加工用電源1の電源端子に接続される。この加工用電源1によりワイヤ電極Eと被加工物Wとの両極間に所定の電圧が印加されると、ワイヤ電極Eと被加工物Wとの間に放電が発生し、放電加工が行われる。
【0036】
<2.放電位置演算回路42の説明>
図5は、本発明のワイヤ放電加工装置100の集中放電検出回路431の動作を説明するタイミングチャートである。
放電位置演算回路42は、放電発生信号Stが入力されると、予備放電電流Ibの立ち上がり期間Ttと定常期間Tsに2回、放電位置の演算を行う。
ワイヤ放電加工装置100では、上側通電体9Aおよび下側通電体9Bの上下2箇所からワイヤ電極E上の放電位置を介して被加工物Wに放電電流Isを供給している。よって、上側通電体9Aから放電位置を介して被加工物Wへ放電電流Isが流れる回路と、下側通電体9Bから放電位置を介して被加工物Wへ放電電流Isが流れる回路の並列回路となっている。ワイヤ電極Eは抵抗体であるから抵抗比の違いに応じて発生する回路の電流差を電流検出器3によって検出することによって放電位置を検出することができる。
本発明においては、補助電源用上側電流センサ32Aおよび補助電源用下側電流センサ32Bから上ガイド放電電流Isuおよび下ガイド放電電流Isdの時系列データを取得し、時系列データを時間で積分することによって面積を求め、上ガイド放電電流Isuと下ガイド放電電流Isdの面積比により放電位置を算出する。
【0037】
具体的な立ち上がり期間Ttで演算する第1の放電位置H1nの算出方法は、以下の通りである。
時刻t2から時刻t21までの間に補助電源用上側電流センサ32Aから上ガイド放電電流Isuの時系列データおよび補助電源用下側電流センサ32Bから下ガイド放電電流Isdの時系列データを順次取得し、検出精度向上のためバンドパスフィルタに通すことで特定の周波数帯域のみ抽出する。
そして、抽出した時系列データから立ち上がり期間Ttを時間幅とする上ガイド放電電流Isuの積分値Qsuを求め、同様に立ち上がり期間Ttを時間幅とする下ガイド放電電流Isdの積分値Qsdを求める。上ガイド放電電流Isuの積分値Qsuと下ガイド放電電流Isdの積分値Qsdの面積比を求めることで第1の放電位置H1nを算出する。
立ち上がり期間Ttの開始時刻である時刻t2は、放電位置演算回路42が放電発生信号Stを受信した時刻である。立ち上がり期間Ttの終了時刻であるt21は、加工間隙10に予備放電電流Ibが流れ始めて徐々に増大した後に一定に収まる時刻とする。この時刻t21は上ガイド放電電流Isuと下ガイド放電電流Isdを加算した予備放電電流Ibの微分変化を検出し、その微分変化の値が規定範囲内となる時刻としてもよいし、時刻t2から予め定められた時間幅を加算することで時刻t21としてもよい。
算出した第1の放電位置H1nは、記憶部45に格納されるとともに集中放電検出回路431に出力される。
【0038】
定常期間Tsで演算する第2の放電位置H2mの算出方法も同様に、時刻t22から時刻t3までの間に補助電源用上側電流センサ32Aから上ガイド放電電流Isuの時系列データおよび補助電源用下側電流センサ32Bから下ガイド放電電流Isdの時系列データを順次取得する。次に、時系列データを検出精度向上のためローパスフィルタに通すことでノイズを除去し特定の周波数帯域のみ抽出する。そして、抽出した時系列データから定常期間Tsを時間幅とする上ガイド放電電流Isuの積分値Qsuを求め、同様に定常期間Tsを時間幅とする下ガイド放電電流Isdの積分値Qsdを求める。上ガイド放電電流Isuの積分値Qsuと下ガイド放電電流Isdの積分値Qsdの面積比を求めることで第2の放電位置H2mを算出する。
定常期間Tsの開始時刻である時刻t22は、立ち上がり期間Ttが終わり、予備放電電流Ibが一定値に落ち着いた時刻であり、この時刻t22は時刻t2から予め定められた時間幅Tbを加算することで時刻t22とすることもできるし、予備放電電流Ibの微分変化を検出し、その微分変化の値が一定の範囲に落ち着いたところを検出して時刻t22としてもよい。
また、定常期間Tsの終了時刻である時刻t3は、時刻t2から遅延時間Taを加算した時刻である。
算出した第2の放電位置H2mは、記憶部45に格納されるとともに部分放電検出回路433に出力される。
【0039】
<4.集中放電検出回路431の説明>
図6は、本発明のワイヤ放電加工装置100の集中放電検出回路431の動作を説明する模式図である。
集中放電検出回路431は、第1の放電位置H1
nの情報から集中放電が発生しているかを検出する回路である。具体的には、記憶部45には加工開始後に演算した第1の放電位置H1
n-1が時刻s1
n-1とともに時系列順に格納されているとする。時刻s
nに第1の放電位置H1
nが算出されると、集中放電検出回路431は第1の放電位置H1
nを中心として一定幅を集中放電検出範囲W1として設定する。ここで、集中放電検出範囲W1は、ワイヤ電極送り方向FをF軸とした場合のワイヤ電極EのF軸上の範囲である。集中放電検出回路431は、時刻s
nから時系列を遡り、時刻s
n以前の第1の放電位置H1
n-1のデータが規定数P1分連続して集中放電検出範囲W1に含まれるかを判定する。
例えば規定数P1=3である場合、時刻s
nから時系列を遡り、時刻s
n-1の第1の放電位置H1
n-1、時刻s
n-2の第1の放電位置H1
n-2および時刻s
n-3の第1の放電位置H1
n-3の全てが集中放電検出範囲W1に含まれているか否かを判定する。集中放電検出回路431は、判定の結果、全て集中放電検出範囲W1に含まれていると判断した場合、集中放電が発生していると判断し、短い時間幅の集中放電信号Ssをパルス発生回路44に出力する。
ここで集中放電検出範囲W1は、後述する部分放電検出回路433で使用される小範囲幅W2よりも広く設定されている。それは、第1の放電位置H1
nは立ち上がり期間Ttで取得されていることから外乱の影響を受けやすいためであり、集中放電発生の判定に幅を持たせる構成としている。
【0040】
<5.板厚演算回路432の説明>
図7は、本発明のワイヤ放電加工装置100の板厚演算回路432の動作を説明する模式図である。
板厚演算回路432は、記憶部45に時系列式に記憶された第2の放電位置H2
mの情報から、被加工物Wの板厚L
p(p=1,・・・,P Pは板厚の総数)を演算する回路である。
具体的に板厚演算回路432は、時系列式に記憶された第2の放電位置H2
mのデータから第2の放電位置H2
mのF軸方向の分布を算出し、第2の放電位置H2
mのF軸方向の上限位置と下限位置から板厚L
pを演算する。板厚演算回路432は、放電位置演算回路42により第2の放電位置H2
mが演算されるたびに板厚L
pを演算し、板厚L
pを制御装置7に出力する。
【0041】
<6.部分放電検出回路433の説明>
図8は、本発明のワイヤ放電加工装置100の部分放電検出回路433の動作を説明する模式図である。
部分放電検出回路433は、記憶部45に時系列順に格納された第2の放電位置H2
mの情報から被加工物Wの加工面の形状を推定する。具体的には、記憶部45には加工開始後に演算した第2の放電位置H2
mが時系列順に格納されている。部分放電検出回路433は、F軸上のワイヤ電極Eの上側通電体9Aと接する位置から下側通電体9Bと接する位置までを小範囲幅W2に分割する。ここで、小範囲幅W2に分割した小範囲を上側通電体9Aと接する位置から順にW2
1,W2
2,・・・,W2
q,・・・,W2
Q(q=1,2,・・・,Q Qは分割数)とする。部分放電検出回路433は、加工開始後から第2の放電位置H2
mが演算されるたびに小範囲W2
q内に含まれる第2の放電位置H2
mのデータの数(カウント数)をカウントし、さらに小範囲W2
q内に含まれる第2の放電位置H2
mのカウント数が予め決められた閾値TH以上であるかを演算する。そして、記憶部45に小範囲W2
q、カウント数およびカウント数が閾値TH以上であることの情報をセットとして格納する。
【0042】
時刻s2m+1に第2の放電位置H2m+1が算出され放電位置演算回路42から出力されると、部分放電検出回路433は第2の放電位置H2m+1が含まれる小範囲W2qを検出して、データの数(カウント数)をカウントする。そして、第2の放電位置H2m+1が含まれる小範囲W2qのカウント数が閾値TH以上である場合は、部分的に放電が偏っていると判断し、短い時間幅の部分放電信号Sbをパルス発生回路44に出力する。
ここで、部分放電検出回路433に対して放電位置演算回路42から第1の放電位置H1n+1が出力されるようにして、第1の放電位置H1n+1の情報により部分放電信号Sbを出力してもよい。具体的には、部分放電検出回路433は第1の放電位置H1n+1を受け取ると、第1の放電位置H1n+1が含まれる小範囲W2qを検出し、第1の放電位置H1n+1が含まれる小範囲W2qのカウント数が閾値TH以上である場合は、部分的に放電が偏っていると判断し、短い時間幅の部分放電信号Sbをパルス発生回路44に出力してもよい。そうすればより迅速に放電電流Isの供給を停止することが可能となる。
【0043】
ここで、部分放電検出回路433で使用される小範囲幅W2は、集中放電検出回路431で使用される集中放電検出範囲W1よりも狭く設定されている。それは、第2の放電位置H2mは定常期間Tsで取得されていることから外乱の影響が抑えられており、第1の放電位置H1nよりも正確な放電位置が算出されているからである。
【0044】
<7.ワイヤ放電加工装置100の正常動作および集中放電検出時の動作の説明>
図3は、本発明のワイヤ放電加工装置100の正常動作を説明するタイミングチャートである。
図4は、本発明のワイヤ放電加工装置100の集中放電検出時の動作を説明するタイミングチャートである。図におけるAgateは第2のゲート信号の波形、Vgは加工間隙10の極間電圧の波形、Stは放電発生信号の波形、Mgateは第1のゲート信号の波形、Isは加工間隙10の放電電流の波形である。
【0045】
操作者は、予め任意の加工条件のデータを制御装置7に入力し設定する。加工条件のデータは、制御装置7の記憶部71に記憶される。記憶部71に記憶された加工条件のデータまたは加工条件に基づく切換信号は、加工をするときにパルス発生回路44に出力される。
実施の形態の加工電源装置の動作に必要な加工条件のデータは、例えば、休止時間(オフ時間)Ofと、1MHz以上の高周波の放電の繰返し周波数(放電周波数)Moと、主放電電流Iaの持続時間(パルス幅)Maと、印加電圧(直流電源電圧)Voと、加工電流(ピーク電流値)Ipと、基準電圧Vrと、放電電流が流れているかどうかを判断する電流基準値Irと、遅延時間Taである。
【0046】
制御装置7は、オフ時間Ofと、放電周波数Moと、パルス幅Maとの各加工条件のデータをパルス発生回路44に出力し、パルス発生回路44は、各加工条件のデータを設定回路にセットする。また、制御装置7は、印加電圧Voに基づく切換信号を可変の直流電源11に出力して直流電源電圧を印加電圧Voにするとともに、放電の発生を検出するための基準電圧Vrのデータを電圧検出器2に出力する。
また制御装置7は、板厚演算回路432から新しい板厚Lpのデータが入力された場合は、入力された板厚Lpに適応する加工条件の変更設定を行い、パルス発生回路44に新しく変更設定された加工条件のデータを出力する。
【0047】
パルス発生回路44は、加工中、設定回路に設定された加工条件のオフ時間Ofを計測する。設定されたオフ時間Of経過した時刻t1で、パルス発生回路44は、第2のゲート信号Agateを出力する。パルス発生回路44から出力された第2のゲート信号Agateは、補助電源回路1Bのスイッチング素子22のゲートに供給される。その結果、スイッチング素子22がオンして補助電源回路1Bの直流電源21から放電を誘起するための直流電圧が加工間隙10に印加される。
【0048】
時刻t1の時点では、予備放電電流Ib(Is)が加工間隙10に流れていない。そして、時刻t1から不特定の放電待機時間Tw後の時刻t2で加工間隙10に放電が発生すると、加工間隙10に予備放電電流Ib(Is)が流れ始めて極間電圧Vgが急激に降下する。このとき、予備放電電流Ib(Is)は徐々に増大する。
極間電圧Vgが降下すると極間電圧Vgが基準電圧Vr以下になる。その結果、電圧検出器2から短い時間幅の放電発生信号Stがパルス発生回路44および放電位置演算回路42に出力される。
【0049】
放電位置演算回路42は、放電発生信号Stが入力されると、補助電源用上側電流センサ32Aおよび補助電源用下側電流センサ32Bから電流値を取得し、予備放電電流Ibの立ち上がり期間Ttと定常期間Tsに2回、放電位置の演算を行う。
放電位置演算回路42が算出した立ち上がり期間Ttの放電位置である第1の放電位置H1nおよび定常期間Tsの第2の放電位置H2mは記憶部45に格納されるとともに、第1の放電位置H1nは集中放電検出回路431に出力され、第2の放電位置H2mは部分放電検出回路433に出力される。
【0050】
板厚演算回路432は、記憶部45に時系列式に記憶された第2の放電位置H2mの情報から被加工物Wの板厚Lpを演算し、板厚Lpのデータを制御装置7に出力する。
【0051】
部分放電検出回路433は、第2の放電位置H2mの情報から部分的に放電が偏っているか否かの判定を行い、部分的に放電が偏っている場合は短い時間幅の部分放電信号Sbをパルス発生回路44に出力する。部分放電検出時の動作は後述する。
【0052】
集中放電検出回路431は、第1の放電位置H1nの情報から集中放電を判別し、集中放電が発生していることを検出した場合、短い時間幅の集中放電信号Ssをパルス発生回路44に出力する。
【0053】
パルス発生回路44は、電圧検出器2から放電発生信号Stが入力されると、時刻t2から遅延時間Ta後の時刻t3で第1のゲート信号Mgateを出力する。そして、主電源回路1Aのスイッチング素子12がオンして主電源回路1Aから大きい主放電電流Iaが加工間隙10に供給される。このとき、第2のゲート信号Agateが出力されたままであるので、主電源回路1Aの直流電源11の電圧が重畳され、予備放電電流Ibと主放電電流Iaを合算した放電電流Isが設定されたピーク電流値Ipまで急激に立ち上がる。
一方、パルス発生回路44は、時刻t2から時刻t3の間に集中放電検出回路431から集中放電信号Ssを受け取った場合は、第1のゲート信号Mgateを出力せず、第2のゲート信号Agateの出力を停止する(
図4)。その結果、主電源回路1Aのスイッチング素子12と補助電源回路1Bのスイッチング素子22が共に非導通となり、極間電圧Vgが急速に降下し、放電電流Is(予備放電電流Ib)が急激に立ち下がって消弧する。この場合、放電電流Isが流れなくなった時刻t9で、パルス発生回路44は設定された加工条件のオフ時間Ofの計測を開始する。そして、オフ時間Of経過後の時刻t10で再び第2のゲート信号Agateを出力して補助電源回路1Bのスイッチング素子22をオンすることで次の放電を開始する(
図4)。
【0054】
パルス発生回路44は、時刻t2から時刻t3の間に集中放電検出回路431から集中放電信号Ssを受信しなかった場合(
図3)、第1のゲート信号Mgateを出力した後、予め設定されたパルス幅Maに従う所定時間後の時刻t4で第1のゲート信号Mgateと第2のゲート信号Agateの出力を停止する。そのため、時刻t4で主電源回路1Aのスイッチング素子12と補助電源回路1Bのスイッチング素子22が共に非導通になる。その結果、極間電圧Vgが急速に降下し、放電電流Isが設定されたピーク電流値Ipから急激に立ち下がって時刻t5で消弧する。
【0055】
パルス発生回路44は、放電が発生してから1発目の放電電流Isを供給した以降は、設定された放電周波数Moとパルス幅Maに従ってスイッチング素子12が1MHz以上の高周波でオンオフを繰り返すように、第1のゲート信号Mgateを出力する(
図3)。したがって、パルス発生回路44は、第1のゲート信号Mgateの出力を停止してから放電周波数Moとパルス幅Maで決まる休止幅τoff後の時刻t6に再び第1のゲート信号Mgateを出力する。
主電源回路1Aに放電電流Is(主放電電流Ia)が流れ続けている間は、設定された放電周波数Moに従って高周波の所定の周波数で第1のゲート信号Mgateが出力され、主電源回路1Aのスイッチング素子12が繰返し高速でオンオフされて、放電電流Isが供給される。
【0056】
放電電流Isが時間の経過とともに減衰していき、電流基準値Irを下回って流れなくなった時刻t7で、パルス発生回路44は、第1のゲート信号Mgateの出力を停止してスイッチング素子12をオフするとともに、設定された加工条件のオフ時間Ofの計測を開始する。そして、オフ時間Of経過後の時刻t8で再び第2のゲート信号Agateを出力して補助電源回路1Bのスイッチング素子22をオンすることで次の放電を開始する。
【0057】
<8.ワイヤ放電加工装置100の部分放電検出時の動作の説明>
図9は、本発明のワイヤ放電加工装置100の部分放電検出時の動作を説明するタイミングチャートである。
パルス発生回路44が時刻t1で第2のゲート信号Agateを出力し、補助電源回路1Bの直流電源21から放電を誘起するための直流電圧が加工間隙10に印加されると、時刻t2で加工間隙10に放電が発生する。そして、加工間隙10に予備放電電流Ibが徐々に増加して、極間電圧Vgが急激に降下する。極間電圧Vgの降下により、電圧検出器2から放電発生信号Stがパルス発生回路44および放電位置演算回路42に出力される。
【0058】
パルス発生回路44は、電圧検出器2から放電発生信号Stが入力されると、時刻t3で第1のゲート信号Mgateを出力し、主電源回路1Aから主放電電流Iaが加工間隙10に供給される。予備放電電流Ibと主放電電流Iaを合算した放電電流Isが設定されたピーク電流値Ipまで急激に立ち上がる。
【0059】
放電位置演算回路42は、放電発生信号Stが入力されると、補助電源用上側電流センサ32Aおよび補助電源用下側電流センサ32Bから電流値を取得し、予備放電電流Ibの立ち上がり期間Ttと定常期間Tsに2回、放電位置の演算を行う。
放電位置演算回路42が算出した定常期間Tsの放電位置である第2の放電位置H2mは、記憶部45に格納されるとともに部分放電検出回路433に出力される。
【0060】
部分放電検出回路433は、記憶部45に格納された第2の放電位置H2
m-1の情報から加工開始後から小範囲W2
q内に含まれる第2の放電位置H2
mのデータの数を小範囲W2
qごとにカウントする。さらに放電位置演算回路42から出力された第2の放電位置H2
mが含まれる小範囲W2
qを演算し、その小範囲W2
qのカウント数が閾値TH以上である場合は、部分放電信号Sbをパルス発生回路44に出力する(
図9)。
【0061】
パルス発生回路44は、正常動作を行う場合は放電が発生してから1発目の放電電流Isを供給した後、設定された放電周波数Moとパルス幅Maに従ってスイッチング素子12が1MHz以上の高周波でオンオフを繰り返すように第1のゲート信号Mgateを出力するが、部分放電検出回路433から時刻t12に部分放電信号Sbを受信した場合、受信した時点以降の第1のゲート信号Mgateの出力を停止する(
図9)。その結果、主電源回路1Aのスイッチング素子12と補助電源回路1Bのスイッチング素子22が共に非導通となり、極間電圧Vgが急速に降下し、放電電流Is(予備放電電流Ib)が急激に立ち下がって消弧する。この場合、放電電流Isが流れなくなった時刻t13で、パルス発生回路44は設定された加工条件のオフ時間Ofの計測を開始する。そして、オフ時間Of経過後の時刻t14で再び第2のゲート信号Agateを出力して補助電源回路1Bのスイッチング素子22をオンして、次の放電を開始する。
【0062】
以上に説明される実施の形態の加工電源装置は、すでにいくつかの具体的な例が示されているが、本発明の技術思想に反しない限りにおいて、実施の形態と同じ構成に限定されることなく、種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、金属加工に利用することができる。特に、本発明の加工電源装置は、ワイヤカットに有益である。
【符号の説明】
【0064】
1 加工用電源
1A 主電源回路
1B 補助電源回路
2 電圧検出器
2A 主電源用電圧センサ
2B 補助電源用電圧センサ
3 電流検出器
31A 主電源用上側電流センサ
31B 主電源用下側電流センサ
32A 補助電源用上側電流センサ
32B 補助電源用下側電流センサ
4 判定回路
41 放電検出回路
42 放電位置演算回路
431 集中放電検出回路
432 板厚演算回路
433 部分放電検出回路
44 パルス発生回路
45 記憶部
7 制御装置
71 記憶部
9 通電体
9A 上側通電体
9B 下側通電体
10 加工間隙
E ワイヤ電極
W 被加工物
【手続補正書】
【提出日】2023-06-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ電極と被加工物とで形成される加工間隙に放電の発生を誘起する電圧を印加して予備放電電流を供給する補助電源回路と、前記加工間隙に主放電電流を供給する主電源回路と、前記被加工物を挟んで上下にそれぞれ設けられ前記ワイヤ電極に放電電流を供給する上側通電体および下側通電体と、前記加工間隙との間に流れる前記放電電流を検出する電流検出器と、前記加工間隙に供給される前記予備放電電流の波形の立ち上がりから一定の電流値に到達するまでの第1の期間および一定の電流値に到達してから前記主放電電流が供給されるまでの第2の期間において前記電流検出器を通して検出されるそれぞれの前記予備放電電流を検出し、前記上側通電体から放電位置を介して前記被加工物へ電流が流れる回路と前記下側通電体から前記放電位置を介して前記被加工物へ放電電流が流れる回路を並列回路とみなした場合の抵抗比の違いに応じて発生する前記予備放電電流の電流差から前記放電位置を算出する放電位置演算回路と、を備えたワイヤ放電加工装置。
【請求項2】
前記電流検出器は、前記上側通電体を介して前記補助電源回路の電圧の印加により前記加工間隙を流れる前記予備放電電流を検出するセンサと、前記下側通電体を介して前記補助電源回路の電圧の印加により前記加工間隙を流れる電流を検出するセンサを備え、前記放電位置演算回路は、各々の前記センサから前記予備放電電流を取得し前記予備放電電流の積分値を演算してそれぞれ面積を求めることで放電位置を算出することを特徴とする請求項1記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項3】
前記ワイヤ放電加工装置は、さらに集中放電検出回路を備え、前記集中放電検出回路は前記第1の期間に算出した放電位置から集中放電を判別することを特徴とする請求項1または2記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項4】
前記ワイヤ放電加工装置は、前記集中放電検出回路が集中放電を判別した場合、前記主電源回路からの前記ワイヤ電極への前記主放電電流の供給を停止することを特徴とする請求項3記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項5】
前記ワイヤ放電加工装置は、前記第2の期間において算出した放電位置から板厚を算出することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項6】
前記ワイヤ放電加工装置は、さらに部分放電検出回路を備え、前記部分放電検出回路は前記第2の期間に算出した放電位置から前記被加工物の加工面の形状を推定し、部分的に放電が偏っていることを判定することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項7】
被加工物とワイヤ電極との間の加工間隙に放電の発生を誘起する電圧を印加して予備放電電流を供給し、その後、前記加工間隙に主放電電流を供給するワイヤ放電加工方法において、前記加工間隙に供給される前記予備放電電流の波形の立ち上がりから一定の電流値に到達するまでの第1の期間および一定の電流値に到達してから前記主放電電流が供給されるまでの第2の期間において前記予備放電電流の電流値を検出し、上側通電体から放電位置を介して被加工物へ電流が流れる回路と下側通電体から前記放電位置を介して前記被加工物へ放電電流が流れる回路を並列回路とみなした場合の抵抗比の違いに応じて発生する前記予備放電電流の電流差から放電位置を算出することを特徴とするワイヤ放電加工方法。