(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023099362
(43)【公開日】2023-07-12
(54)【発明の名称】磁石粒界拡散用粉末スラリーおよび磁石の製造方法、ならびに製造された磁石
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20230705BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20230705BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20230705BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20230705BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 170
B22F3/24 K
B22F3/24 L
B22F3/00 F
C22C33/02 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023009025
(22)【出願日】2023-01-24
(31)【優先権主張番号】202111640680.X
(32)【優先日】2021-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】521341488
【氏名又は名称】寧波科寧達工業有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】523027393
【氏名又は名称】寧波科寧達和豊新材料有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】523027407
【氏名又は名称】寧波科寧達▲しん▼豊精密制造有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】523027418
【氏名又は名称】寧波科寧達日豊磁材有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】515173183
【氏名又は名称】北京中科三環高技術股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】BEIJING ZHONG KE SAN HUAN HI-TECH CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】27/F,Building A,No.66 East Road,Zhong Guan Cun,Haidian District,Beijing 100190,China
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】徐延竜
(72)【発明者】
【氏名】徐腮芳
(72)【発明者】
【氏名】辜程宏
(72)【発明者】
【氏名】姚剛
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K018AA27
4K018FA08
4K018FA11
4K018FA12
4K018KA45
5E040AA04
5E040CA01
5E040HB14
5E040NN01
5E040NN18
5E062CD04
5E062CG02
5E062CG07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】コーティング物質と磁石基材との結合力を高め、粒界拡散に用いられるコーティング物質が硬化した後、後の焼結過程で磁石の炭素残留物を減少させ磁石の保磁力を向上させる磁石の製造方法及び磁石を提供する。
【解決手段】重希土類元素含有粉末、UVモノマー、重合禁止剤、光開始剤、分散剤を含む磁石粒界拡散用粉末スラリーを用いる磁石の製造方法であって、UVモノマーはラジカル硬化UVモノマーであり、重希土類元素を含有する粉末の添加量が粉末スラリーの全質量を基準として質量割合は60~80wt%、UVモノマーの添加量の割合が15~35wt%、重合禁止剤の添加量の割合が0.01~0.1wt%、光開始剤の添加量の割合が0.5~5wt%、分散剤の添加量の割合が0.02~0.2wt%である。粒界拡散用粉末スラリーは、常温で揮発せず、安定したコーティング工程の制御が可能であり、コーティングの均一性が良好である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末スラリーをネオジム鉄ホウ素基材の第1の表面に塗布した後、第1の硬化反応を行って、第1のコーティングでコーティングされた磁石を提供するステップ;前記第1コーティングでコーティングされた磁石に真空熱処理、粒界拡散処理及び時効処理を順次行うステップ、又は
粉末スラリーをネオジム鉄ホウ素基材の第1の表面に塗布した後、第1の硬化反応を行って、第1のコーティングでコーティングされた磁石を提供するステップ;前記粉末スラリーを前記第1のコーティングでコーティングされた磁石の第2の表面に塗布した後、第2の硬化反応を行って、両面コーティングされた磁石を得るステップ;前記両面コーティングされた磁石に真空熱処理、粒界拡散処理及び時効処理を順次行うステップ、
を含むことを特徴とする、磁石の製造方法であって、
前記第1の表面及び前記第2の表面は、前記ネオジム鉄ホウ素基材の上面及び下面から選択され、
前記粉末スラリーが、重希土類元素の粉末、UVモノマーを含み、前記UVモノマーがラジカル硬化UVモノマーを含み、
前記真空熱処理の条件が、処理温度250~600℃である、磁石の製造方法。
【請求項2】
前記スラリーは、重合禁止剤、光開始剤、及び分散剤をさらに含み、
前記重希土類元素を含有する粉末の添加量が、前記粉末スラリーの全質量を基準として、前記粉末スラリーの質量割合60~80wt%、前記UVモノマーの添加量が、前記粉末スラリーの質量割合15~35wt%、前記重合禁止剤の添加量が、前記粉末スラリーの質量割合0.01~0.1wt%、前記光開始剤の添加量が、前記粉末スラリーの質量割合0.5~5wt%、前記分散剤の添加量が、前記粉末スラリーの質量割合0.02~0.2wt%であることを特徴とする、請求項1に記載の磁石の製造方法。
【請求項3】
前記粉末スラリーの粘度が100~5000mPa.sであることを特徴とする、請求項1に記載の磁石の製造方法。
【請求項4】
前記UVモノマーは、アクリレート構造を含むことを特徴とする、請求項1に記載の磁石の製造方法。
【請求項5】
前記UVモノマーは、メタクリレート構造を含むことを特徴とする、請求項1に記載の磁石の製造方法。
【請求項6】
前記UVモノマーは、メタクリレート構造を含むものであり、ペンタエリスリトールトリアクリレート、イソボルニルメタクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレート、ラウリル酸メタクリレート、およびポリエチレングリコールジメタクリレートから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項5に記載の磁石の製造方法。
【請求項7】
前記重希土類元素を含有する粉末の粉末粒度が1~10μmであり、
前記重希土類元素を含有する粉末が、前記重希土類元素のフッ化物、酸フッ化物、水素化物、酸化物の少なくとも1種から選択され、
前記重希土類元素がDy、Tb、及びHoから選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載の磁石の製造方法。
【請求項8】
前記重希土類元素を含有する粉末が、Dy2O3、Dy1-yMyHx、Tb2O3、及びTb1-yMyHxから選択される少なくとも1種であり、MはFe、Cu、Zn、及びAlから選択される少なくとも1種であり、x=2又は3、0≦y≦0.3であることを特徴とする、請求項1に記載の磁石の製造方法。
【請求項9】
前記重合禁止剤が、tert-ブチルカテコール、tert-ブチルヒドロキノン、ハイドロキノン、及びトリス(N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミン)アルミニウム塩から選択される少なくとも1種であり、
前記光開始剤は、ベンゾインジメチルエーテル、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキシド、2-ヒドロキシ-2-メチル-フェニルプロパノン-1、イソプロピルチオキサントン、および1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンから選択される少なくとも1つであり、
前記分散剤が、モノオレイン酸グリセロール、ポリエチレングリコールオレエートおよびオレオイルモノラウレートから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項2に記載の磁石の製造方法。
【請求項10】
前記両面コーティングされた磁石の重量増加は、前記ネオジム鉄ホウ素基材の0.1~2%であることを特徴とする、請求項1に記載の磁石の製造方法。
【請求項11】
前記第1の硬化反応及び前記第2の硬化反応の条件は、粉末スラリーがコーティングされたネオジム鉄ホウ素磁石の表面を、不活性雰囲気中で紫外線ランプを用いて照射することを含み、前記不活性雰囲気は窒素ガス又はアルゴンガスであり、前記紫外線ランプの照射時間は1~100sであることを特徴とする、請求項1に記載の磁石の製造方法。
【請求項12】
前記真空熱処理の条件は、処理時間が1~10hであることを特徴とする、請求項1に記載の磁石の製造方法。
【請求項13】
前記粒界拡散処理の条件は、処理温度800~1000℃、処理時間2~50hであり、
前記時効処理の条件は、処理温度450~600℃、処理時間1~8hであることを特徴とする、請求項1に記載の磁石の製造方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれかに記載の磁石の製造方法により作製されることを特徴とする磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は希土類永久磁石材料の分野に関し、特に磁石の粒界拡散用粉末スラリーおよび磁石の製造方法、ならびに製造された磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
ネオジム鉄ホウ素磁石は、高残留磁気、高保磁力、高磁気エネルギー積等の優れた磁気特性を有してハイブリッド自動車、風力発電、サーボモータ、省エネルギー家電等の分野で広く利用されている。機器のインテリジェント化、小型化、軽量化が進むにつれて、ネオジム鉄ホウ素に対する性能要求はますます高くなり、特に高温耐性能が高まっている。磁石の保磁力や使用温度を高め、製造コストを下げるために、粒界拡散技術が確立され、広く用いられている。粒界拡散法は、磁石表面に重希土類粉末をスパッタリング、蒸着、電着、コーティングなどの方法で堆積し、熱処理を経て磁石表面の重希土類元素を磁石内部に拡散させ、主相粒界層に磁気硬化シェルを形成させて保磁力を向上させるものであり、磁石表面に均一な厚さで結合力の高い重希土類コーティング層を得ることが肝要である。
【0003】
中国特許文献CN105144321Aには、重希土類粉末をシリコーングリースと混合した塗布物を磁石表面に塗布した後に拡散時効処理を行うR-Fe-B系磁石の製造方法および粒界拡散処理用塗布物が、発明として記載されている。この方法で得られた塗布物は、炉に入れて拡散させるまで、ペースト状のままでは硬化できず、塗布物と基材との結合力が低いため、作業中に塗布物が容易に剥がれてしまい、また設備の工事が煩雑で磁石表面に塗布物が均一に塗布できないため、塗布後の製品を一緒に拡散させることができず、拡散炉の装填量が多くなりコスト高となる。
【0004】
中国特許文献CN105755441Bには、マグネトロンスパッタリング法により重希土類を浸透させて焼結ネオジム鉄ホウ素の保磁力を向上させる方法が発明として記載されており、製品を脱脂洗浄、イオン活性化、スパッタコーティング、拡散エージングを行うことにより高保磁力磁石鋼を製造する。この方法により製造されるコーティングは結合力が高いが、全体の工程設備投資が大きく、製品エネルギー消費が高く、ターゲット加工費用が高額で最終生産コストが高すぎるため、大量生産に不利である。
【0005】
中国特許文献CN106328367Bには、超微細テルビウム粉末、有機溶媒および酸化防止剤をスラリーに調製してネオジム鉄ホウ素磁石表面に被着し、その後、真空炉内で拡散およびエージングすることによってR-Fe-B系焼結磁石を製造する方法が発明として記載されており、この方法によって調製されたスラリーは、有機溶媒が室温で容易に揮発し、揮発した後の粉末コーティング層と基材との結合力が低く、作業中に粉末が脱落しやすく、工程管理性が悪く、製品の再現性が良くない。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、コーティング物質と磁石基材との結合力を高め、粒界拡散に用いられるコーティング物質が硬化した後、後の焼結過程で磁石の炭素残留物を減少させ、磁石の保磁力をさらに向上させることを目的とする。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様は、重希土類元素を含む粉末、UVモノマー、重合禁止剤、光開始剤、分散剤を含む磁石粒界拡散用粉末スラリーであって;UVモノマーが、ラジカル硬化UVモノマーであり;
粉末スラリーの全質量を基準として、重希土類元素を含有する粉末の添加量が、粉末スラリーの質量割合60~80wt%、UVモノマーの添加量が、粉末スラリーの質量割合15~35wt%、重合禁止剤の添加量が、粉末スラリーの質量割合0.01~0.1wt%、光開始剤の添加量が、粉末スラリーの質量割合0.5~5wt%、分散剤の添加量が、粉末スラリーの質量割合0.02~0.2wt%である。
【0008】
任意選択で、粉末スラリーの粘度は、100~5000mPa.sである。
【0009】
任意選択で、UVモノマーは、分子鎖中に芳香環を有さず;好ましくは、UVモノマーは、アクリレート構造を含み;さらに好ましくは、UVモノマーはメタクリレート構造を含み;あるいは、UVモノマーは、ペンタエリスリトールトリアクリレート、イソボルニルメタクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレートからなる群から選択される少なくとも1つである。
【0010】
任意選択で、重希土類元素含有粉末は、1~10μmの粉末サイズを有し;任意選択で、重希土類元素含有粉末中の重希土類元素がDy、Tb、及びHoから選択される少なくとも1種であり;重希土類元素含有粉末が、重希土類元素のフッ化物、酸フッ化物、水素化物、酸化物の少なくとも1種から選択され;さらに好ましくは、重希土類元素含有粉末が、Dy2O3、Dy1-yMyHx、Tb2O3、及びTb1-yMyHxの少なくとも1種から選択し、MはFe、Cu、Zn、及びAlの少なくとも1種から選択され、x=2又は3、0≦y≦0.3である。
【0011】
任意選択で、重合禁止剤は、tert-ブチルカテコール、tert-ブチルヒドロキノン、ヒドロキノン及びトリス(N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシアミン)アルミニウム塩の少なくとも1種から選択する。
【0012】
任意選択で、光開始剤は、ベンゾインジメチルエーテル、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキシド、2-ヒドロキシ-2-メチル-フェニルプロパノン-1、イソプロピルチオキサントン、および1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンから選択される少なくとも1つである。
【0013】
任意選択で、分散剤は、モノオレイン酸グリセロール、ポリエチレングリコールオレエートおよびオレオイルモノラウレートのうちの少なくとも1つから選択される。
【0014】
本発明の第2の態様は、
粉末スラリーをネオジム鉄ホウ素基材の第1の表面に塗布した後、第1の硬化反応を行って、第1のコーティングでコーティングされた磁石を提供するステップ;第1のコーティングでコーティングされた磁石に真空熱処理、粒界拡散処理及び時効処理を順次行うステップ;又は
粉末スラリーをネオジム鉄ホウ素基材の第1の表面に塗布した後、第1の硬化反応を行って、第1のコーティングでコーティングされた磁石を提供するステップ;粉末スラリーを第1のコーティングでコーティングされた磁石の第2の表面に塗布した後、第2の硬化反応を行って、両面コーティングされた磁石を得るステップ;両面コーティングされた磁石について真空熱処理、粒界拡散処理及び時効処理を順次行うステップ;
を含む、磁石の製造方法であり、
ここで、
第1の表面および第2の表面は、ネオジム鉄ホウ素基材の上面および下面から選択され;粉末スラリーは、上記の磁石粒界拡散用の粉末スラリーである。
【0015】
任意選択で、両面コーティングされた磁石の重量増加は、ネオジム鉄ホウ素ベース基材の重量による比率が0.1~2%である。
【0016】
任意選択で、ステップS1において、第1の硬化反応及び第2の硬化反応の条件は、粉末スラリーがコーティングされたネオジム鉄ホウ素磁石の表面を、窒素又はアルゴンである不活性雰囲気中で、紫外線ランプを用いて照射することを含み、紫外線ランプ照射時間は1~100秒であり、ステップS2において、真空熱処理の条件は、処理温度250~600℃で、処理時間1~10時間(h)であり、粒界拡散処理の条件は、処理温度800~1000℃で、処理時間2~50時間であり、時効処理の条件は、処理温度450~600℃で、処理時間1~8時間である。
【0017】
本開示の第3の態様は、上記方法により製造された磁石を提供する。
【0018】
本発明によれば、以下のような有利な効果が奏される:
1.本発明が提供する磁石粒界拡散用粉末スラリーは、室温で揮発せず、コーティング工程について安定的な制御を保証でき、得られたコーティングの均一性がより良好である。
2.本発明が提供する磁石粒界拡散用の粉末スラリーはUVコロイド系を用いて調製され、硬化時間が短く、加熱を必要とせず、従来の熱硬化に比べて生産効率を大幅に向上させ、製造コストを低減し、特に大量生産に適している;硬化後のコーティングは磁石基材との結合力が高く、転写積層工程における製品の脱落を防止することができる。
3.本発明のUV接着剤は、真空条件下での分解が可能であり、ネオジム鉄ホウ素基材への重希土類の拡散に影響を与えないため、残留磁化を著しく低下させることなく、ネオジム鉄ホウ素磁石の保磁力を大幅に向上させることができる。
4.本発明の磁石製造方法は、重希土類粉末の利用率が高く、回収が便利であり、プロセスフローが簡単で、コストが低く、工業的な大量生産に適している。
【0019】
本発明の他の特徴および利点は、詳細な説明の部分において後で詳述される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本明細書に記載の特定の実施形態は、本発明を例示および説明するためのものにすぎず、本発明を限定するものではないことを理解されたい。
【0021】
本発明の第1の態様は、重希土類元素を含む粉末、UVモノマー、重合禁止剤、光開始剤、及び分散剤を含む、磁石粒界拡散用粉末スラリーを提供するものであり、
UVモノマーが、ラジカル硬化UVモノマーであり、
粉末スラリーの全質量を基準として、重希土類元素を含有する粉末の添加量が、粉末スラリーの質量割合60~80wt%、UVモノマーの添加量が、粉末スラリーの質量割合15~35wt%、重合禁止剤の添加量が、粉末スラリーの質量割合0.01~0.1wt%、光開始剤の添加量が、粉末スラリーの質量割合0.5~5wt%、分散剤の添加量が、粉末スラリーの質量割合0.02~0.2wt%である。
【0022】
本発明の発明者らは、鋭意実験を重ねた結果、上記のような配合比で調製した粉末スラリーを用いることにより、UVモノマー、重合禁止剤、光開始剤、分散剤を重合硬化後に完全に除去し、炭素残留物を無くすことができ、これにより、磁石基材への重希土類粉末の拡散を極めて促進でき、また、炭素残留による重希土類粉末の拡散阻害のため、粒界拡散後の磁石性能の向上が顕著でなく、保磁力の大幅な向上が実現できない現象が発生することを回避できる。さらに、本発明の粉末スラリーは、重合硬化によってUVモノマー、重合禁止剤、光開始剤、および分散剤を除去する際に、重希土類粉末を基材に対して高い接着力を維持したままにすることができる。特に、本発明の発明者らは、250~600℃の温度であれば、UVモノマー、重合禁止剤、光開始剤、分散剤を完全に除去することができ、重希土類元素含有粉末が脱落しにくく、重希土類元素含有粉末を基材表面に付着させることができ、本発明の粉末スラリーは重希土類利用効率が高いことを鋭意実験により確認した。
【0023】
本発明は初めて磁石の粒界拡散領域にUV硬化方式を導入したところ、本発明者らが粉末スラリーの粘度が100~5000 mPa.sの範囲内であれば、磁石表面に塗布する際の塗布厚さを最適化することができ、拡散後の保磁力向上が顕著であることを実験により見出した。
【0024】
本発明において、ラジカル性UVモノマーは、粉末スラリー中の他の成分、例えば重希土類元素含有粉末などにより適合しており、より優れたシステムの機能を発揮し、有機物系の貯蔵中の性能をより安定化させることができる。好ましくは、UVモノマーは、分子鎖中に芳香環を有さず;より好ましくは、UVモノマーは、アクリレート構造を含む;発明者らは、多くの実験を通じて、アクリレート構造を含むUVモノマーの紫外線硬化で形成された高分子ポリマーは、高温を経ると、容易に切断分解されて小分子となり、炭化による炭素含有量が高すぎることなく、拡散チャネルへの影響が発生せず、粒界拡散性能の向上により有利であることを見出した;さらに好ましくは、UVモノマーはメタクリレート構造を含む。
【0025】
本発明によれば、UVモノマーは、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレート、ラウリルメタクリレート、及びポリエチレングリコールジメタクリレートのうちのいずれか1つ以上から選択されてもよく、好ましくは、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレートのうちのいずれか1つ以上から選択されてもよい。
【0026】
本発明によれば、重希土類元素含有粉末は、好ましくは1~10μmの粉末粒径を有し;任意選択で、重希土類元素含有粉末における重希土類元素は、Dy、Tb、Hoから選択された少なくとも1種;好ましくは、重希土類元素含有粉末は、重希土類元素のフッ化物、酸フッ化物、水素化物、酸化物のうち少なくとも1種;さらに好ましくは、重希土類元素含有粉末が、Dy2O3、Dy1-yMyHx、Tb2O3、及びTb1-yMyHxの少なくとも1種から選択し、MはFe、Cu、Zn、及びAlの少なくとも1種から選択され、x=2又は3、0≦y≦0.3である。
【0027】
本発明によれば、重合禁止剤は、tert-ブチルカテコール、tert-ブチルヒドロキノン、ヒドロキノン及びトリス(N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシアミン)アルミニウム塩から選択される1種以上であってもよい。
【0028】
本発明において、光開始剤は、ベンゾインジメチルエーテル、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキシド、2-ヒドロキシ-2-メチル-フェニルプロパノン-1、イソプロピルチオキサントン、および1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンから選択された1種以上であってもよい。
【0029】
本発明によれば、分散剤は、モノオレイン酸グリセロール、ポリエチレングリコールオレエートおよびオレオイルモノラウレートから選択される1種以上であってもよい。
【0030】
本発明における重希土類元素含有粉末、UVモノマー、重合禁止剤、光開始剤、及び分散剤の混合方法は、当業者に公知であり、例えば、3本ロール混合やボールミル混合を選択的に採用することができる。
【0031】
本発明の第2の態様は、
粉末スラリーをネオジム鉄ホウ素基材の第1の表面に塗布した後、第1の硬化反応を行って、第1のコーティングでコーティングされた磁石を提供するステップ;第1のコーティングでコーティングされた磁石に真空熱処理、粒界拡散処理及び時効処理を順次行うステップ;又は
粉末スラリーをネオジム鉄ホウ素基材の第1の表面に塗布した後、第1の硬化反応を行って、第1のコーティングでコーティングされた磁石を提供するステップ;粉末スラリーを第1のコーティングでコーティングされた磁石の第2の表面に塗布した後、第2の硬化反応を行って、両面コーティングされた磁石を得るステップ;両面コーティングされた磁石について真空熱処理、粒界拡散処理及び時効処理を順次行うステップ;
を含む、磁石の製造方法を提供し、ここで
第1の表面および第2の表面は、ネオジム鉄ホウ素基材の上面および下面から選択され;粉末スラリーは、上記の磁石粒界拡散用の粉末スラリーである。
【0032】
本発明で「上下」のような方向単語は、特に説明されていない限り、ネオジム鉄ホウ素磁石が正常に置かれた状態の上下;例えば、本発明でいう「上面」及び「下面」は、ネオジム鉄ホウ素磁石が正常に置かれた状態でのネオジム鉄ホウ素磁石の上面及び下面を意味する。本発明における「第1」、「第2」等は、ある要素と別の要素とを区別するためのものであり、順序や重要性の度合いを持たない。
【0033】
本発明において、ネオジム鉄ホウ素基材又は磁石基材は、ネオジム鉄ホウ素永久磁石材料の原料群を、溶解、製粉、成形、焼結等の工程を経て製造したものである。このうち、ネオジム鉄ホウ素永久磁石材料の原料は当業者に周知である。
【0034】
本発明において、粉末スラリーの塗布方法は、当業者に周知のものであってよく、スプレー、スラリーディップ、スクリーン印刷、ロール塗布、スピンコーティングなどの方法が挙げられるが、これらに限られない。
【0035】
本発明の好ましい実施形態の1つとして、両面コーティングされた磁石の重量増加は、ネオジム鉄ホウ素磁石の0.1~2%である。
【0036】
本発明によれば、ステップS1において、第1の硬化反応及び第2の硬化反応の条件は、粉末スラリーがコーティングされたネオジム鉄ホウ素磁石の表面を不活性雰囲気中で紫外線ランプを用いて照射することを含み、不活性雰囲気は窒素又はアルゴンであり、紫外線ランプ照射時間は1~100秒であり、ステップS2において、真空熱処理の条件は、処理温度が250~600℃であり、処理時間が1~10hであり、粒界拡散処理の条件は、処理温度が800~1000℃であり、処理時間が2~50hであり、時効処理の条件は、処理温度が450~600℃であり、処理時間が1~8hであり得る。
【0037】
本発明の第3の態様によると、上記方法により製造された、より高い保磁力を有する磁石が提供される。
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。実施例で使用した原材料は、いずれも市販のものを入手することができる。
【0039】
実施例1
TbH3粉末をジェットミルにて2.5μmまで粉砕して本実施例の重希土類元素含有粉末を得た後、重希土類元素含有粉末、UVモノマー、重合禁止剤、光開始剤、分散剤を表1に示す割合で調製し、三本ロールにて十分に均一に混合して、粘度が700mPa.sの本実施例の粉末スラリーを得た。
【0040】
表面を清浄化処理したネオジウム鉄ボロン磁石(30mm×30mm×3mm)の上面にスクリーン印刷装置を用いて上記粉末スラリーをスクリーン印刷した後、この製品をアルゴンガス雰囲気中にて紫外線ランプを20秒間照射し、完全に硬化させた。硬化後、この製品を反転させてネオジム鉄ホウ素磁石の下面に同様のスクリーン印刷と硬化処理を行い、未塗布の磁石に比べて重量増加率が0.65%である両面塗布の磁石を得た。両面に塗布した磁石を真空炉に入れ、400℃で3h保持する真空熱処理、900℃で8h保持する拡散、500℃で4h保持する時効処理を施して拡散処理品を得た。この拡散後の製品を試験した結果を表2に示す。表2より、拡散後の残留磁束密度は約100G sしか低下しないが、保磁力は約10KOe上昇していることがわかる。
【0041】
実施例2
まず、(Dy0.8Fe0.2)H3粉末をジェットミルで5μmに粉砕し、次に重希土類粉末、UVモノマー、重合禁止剤、光開始剤、分散剤を下記表3に示す割合で調製し、ボールミルで十分に均一に混合して、粘度が1100 mPa.sの本実施例の粉末スラリーを得た。
【0042】
表面清浄化したネオジウム鉄ボロン磁石(30mm×30mm×3mm)の上面にスクリーン印刷機で上記粉末スラリーをスクリーン印刷した後、この製品をN
2雰囲気に入れ、紫外線ランプを照射して50秒間硬化させた。硬化後、この製品を反転して反対側にも同様に粉体スラリーをスクリーン印刷して硬化させ、両面粉体スラリー塗布の磁石の重量増加率は0.75%であった。さらに、この製品を真空炉に入れ450℃で2h保持する真空熱処理、920℃で15h保持する拡散処理を行った後、520℃で4h保持する時効処理を行った。この拡散後の製品を試験した結果を表4に示す。表4から、拡散後の残留磁束密度は90G s程度しか低下しないが、保磁力は6KOe程度向上していることがわかる。
【0043】
実施例3
まずDy2O3粉末とTb2O3粉末の混合物を高エネルギーボールミルで1.2μmに粉砕し、次に重希土類粉末、UVモノマー、重合禁止剤、光開始剤、分散剤を下記の5に示す割合で調製し、粉末スラリーを三本ロールで十分に均一に混合して本実施例の粉末スラリーを得、粉末スラリーの粘度は3000mPa.sであった。
【0044】
表面を清浄化処理したネオジウム鉄ボロン磁石(30mm×30mm×3mm)の上面にスクリーン印刷装置を用いて上記粉末スラリーをスクリーン印刷した後、この製品をアルゴンガス雰囲気中にて紫外線ランプを80秒間照射して完全に硬化させた。硬化後、この製品を反転して反対側にも同様に粉体スラリーをスクリーン印刷し、硬化させ、両面粉体スラリー塗布の磁石の重量増加率は0.9%であった。さらに、製品を真空炉内に入れて350℃で8h保持して真空熱処理を行い、860℃で18h保持して拡散を行い、485℃で7h保持して時効処理を行った。この拡散後のものについて試験を行い、その結果を表6に示した。表6から、拡散後の残留磁束密度は180Gs程度しか低下しないが、保磁力は7KOe程度向上していることがわかる。
【0045】
実施例4
本実施例の拡散後のネオジム鉄ホウ素磁石の製造方法は、本実施例の粉末スラリーの粘度を80 mPa.sとした以外は実施例1と同様とした。本実施例の粉末スラリーの具体的な配合を表7に、分散後の試験結果を表8に示す。実施例4と実施例1との対比から、粉末スラリー粘度が80 mPa.sと低くなると拡散後の製品の均一性が向上すること、保磁力が2KOe程度しか向上しない磁石が存在すること、保磁力が10 KOe程度向上する磁石が存在すること、粉末スラリー粘度が低すぎること、コーティング工程の安定的な制御が確保できないこと、得られるコーティング均一性が悪いこと、磁気特性の向上が不安定であることが分かる。
【0046】
比較例1
比較例の拡散後のネオジム鉄ホウ素磁石の製造方法は実施例1と同様であるが、本比較例ではラジカル硬化UVモノマーをカチオン硬化型UVモノマーに置き換え、具体的にはラウリン酸メタクリレートとテトラペンタエリスリトールトリアクリレートの混合物を、エポキシ化トリグリセリドとビニルケトジエタノールの混合物に置き換えた。本比較例の粉末スラリーの具体的な配合を表9に、分散後の試験結果を表10に示す。表10から、拡散後の残留磁化は約100Gs、保磁力は約2KOeしか向上しないことがわかる。
【0047】
比較例1と実施例1とを比較すると、UVモノマーの違いが拡散性向上に大きく影響し、本発明のラジカル硬化型UVモノマーを完全に除去することにより、重希土類元素含有粉末の拡散パスが向上し、磁石の保磁力向上幅が顕著になることが分かる。一方、他のUVモノマー、例えば、カチオン硬化型UVモノマーは、磁石の拡散効率に影響を及ぼし、磁石の保磁力向上に優れた効果を有しない。
【0048】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳説したが、本発明は、上述した実施形態に制限されることはなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々の変形が可能であり、これらは本発明の権利範囲に属する。
【0049】
また、上述の詳細な説明において説明された各特徴は、矛盾しない限り、任意の適切な方法で組み合わせることができ、本発明は、不必要な重複を避けるために、様々な可能な組み合わせについては別途説明しない。
【0050】
また、本発明の様々な実施形態は、本発明の思想を逸脱しない限り、任意に組み合わせることができ、同様に本発明の発明内容とみなされるべきである。
【外国語明細書】