(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023099368
(43)【公開日】2023-07-12
(54)【発明の名称】改修防水構造およびその施工方法
(51)【国際特許分類】
E04D 5/14 20060101AFI20230705BHJP
E04D 5/12 20060101ALI20230705BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
E04D5/14 E
E04D5/12 Z
E04G23/02 G
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023074007
(22)【出願日】2023-04-28
(62)【分割の表示】P 2019061304の分割
【原出願日】2019-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000010010
【氏名又は名称】ロンシール工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 英樹
(72)【発明者】
【氏名】杣 佳憲
(57)【要約】
【課題】本発明においては、既存防水シートの改修を行う際に、音や振動が発生を防止するとともに既存防水シートの目地部が切れたり動くことにより、新規の防水シートが切れたりシワが入る危険性を低減することを目的とする。
【解決手段】下地の上に敷設固定された既存防水シートの目地部
を連続的に覆うように接着剤
が塗布され設けられた接着層と、前記接着層により前記既存防水シートに敷設固定されているシート状の新規防水層とを備え、前記新規防水層が前記接着層と接着される緩衝シートと前記緩衝シートとあらかじめ積層一体化された新規防水シートとを有
し、前記緩衝シートが発泡シートで構成されている改修防水構造。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地の上に敷設固定された既存防水シートの目地部を連続的に覆うように接着剤が塗布され設けられた接着層と、
前記接着層により前記既存防水シートに敷設固定されているシート状の新規防水層とを備え、
前記新規防水層が前記接着層と接着される緩衝シートと前記緩衝シートとあらかじめ積層一体化された新規防水シートとを有し、
前記緩衝シートが発泡シートで構成されている改修防水構造。
【請求項2】
前記目地部を一の前記緩衝シートが覆うように敷設されている請求項1に記載の改修防水構造。
【請求項3】
前記緩衝シートがさらに補強層を有している請求項1または請求項2に記載の改修防水構造。
【請求項4】
前記既存防水シートの目地部と前記新規防水シートの目地部とが重ならないように配置されている請求項1に記載の改修防水構造。
【請求項5】
下地の上に敷設固定された複数の既存防水シートの目地部を連続的に覆うように接着剤を塗布し接着層を形成する工程と、
前記接着層の上に新規防水層を敷設固定する工程とを備え、
前記新規防水層が前記接着層と接着される緩衝シートと前記緩衝シートとあらかじめ積層一体化された新規防水シートとを有し、前記緩衝シートが発泡シートで構成されている改修防水構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋上や屋根、ベランダ等の防水構造のうち、既存防水層の改修を行う改修防水構造およびその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ベランダ、バルコニー、陸屋根等における躯体の防水を行うために防水層として防水シートを用いた防水施工が行われている。これらの防水シートは経年により劣化し防水性が低下することが懸念され、適切な時期に既存防水シートの改修が行われている。
【0003】
このような既存防水シートの改修を防水シートを用いて行う場合、機械的固定工法が多用されている。機械的固定工法を用いた改修工法は、既存防水シートの上から改修用の防水シートを敷設し、下地にビスで固定された固定用ディスクを用いて改修用の防水シートは下地に対し固定されている。
【0004】
特許文献1には、下地に敷設した既設防水シートを改修する目的で上から敷設するのに用いられる改修用防水シートであって、ゴムからなる防水シート本体の少なくとも下面に熱可塑性樹脂フィルムを積層一体化したものであり、予め既設防水シート上に固定プレートをアンカー固定し、該固定プレートに改修用防水シートを熱融着することによって敷設固定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、機械的固定工法により改修を行うと、固定用ディスクを固定するためにビスを下地に打ち込む必要があり、音や振動が発生することが問題となる。そこで、改修のための新規の防水シートを接着剤を用いて固定する接着工法を用いることができる。
改修を接着工法で行う場合下地が動くことにより、隣り合う既存防水シート間の劣化した目地部が切れたり動き、目地部の上に敷設固定された新規の防水シートが切れたりシワが入ることが懸念される。
【0007】
すなわち、本発明においては、既存防水シートの改修を行う際に、音や振動の発生を防止するとともに既存防水シートの目地部が切れたり動くことにより、新規の防水シートが切れたりシワが入る危険性を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題を解決するために用いた手段は、既存防水シートの上から接着剤により新規防水層を敷設固定し、既存防水シートの目地部にわたって接着剤を塗布することを要旨とする。
具体的には、下地の上に敷設固定された既存防水シートの目地部を連続的に覆うように接着剤が塗布され設けられた接着層と、接着層により既存防水層に敷設固定されているシート状の新規防水層とを備え、新規防水層が接着層と接着される緩衝シートと緩衝シートとあらかじめ積層一体化された新規防水シートとを有し、前記緩衝シートが発泡シートで構成されている改修防水構造とする。また、目地部を一の緩衝シートが覆うように敷設されていても良いし、前記緩衝シートがさらに補強層を有していてもよい。また、前記既存防水シートの目地部と前記新規防水シートの目地部とが重ならないように配置されていてもよい。
さらに施工方法として、下地の上に敷設固定された複数の既存防水シートの目地部を連続的に覆うように接着剤を塗布し接着層を形成する工程と、接着層の上に新規防水層を敷設固定する工程とを備え、新規防水層が接着層と接着される緩衝シートと緩衝シートとあらかじめ積層一体化された新規防水シートとを有し、前記緩衝シートが発泡シートで構成されている改修防水構造の施工方法を用いることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新規防水層を接着剤で固定することで、改修時の音や振動の発生を防止できる。また既存防水シートの目地部にわたって接着剤を塗布し新規防水層を敷設固定することで、劣化した目地部を補修しつつ新規防水層が形成される。これにより既存防水層の目地部が切れたり動く危険性を低減することができ、さらに新規防水層が切れたりシワが入るのを低減できる改修防水構造およびその施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態における改修防水構造の部分断面図である。
【
図2】本発明に係る既存防水シートと接着層の配置の例を示す部分平面図である。
【
図3】本発明に係る既存防水シートと新規防水層の配置の例を示す部分平面図である。
【
図4】本発明に係る既存防水シートと新規防水層の配置の例を示す部分平面図である。
【
図5】本発明に係る接着層における接着剤の塗布状態を示す部分平面図である。
【
図7】本発明に新規防水層の配置の例を示す部分平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
【0012】
本発明について、
図1を用いて説明する。下地Sの上には既存防水シートPが敷設固定されており、既存防水シートPの上に接着剤により接着層Aが設けられている。ここで接着層Aは既存防水シートの目地部Mにわたって連続的に塗布されて形成されている。そして、接着層Aの上に新規防水層3が敷設され固定されている。新規防水層3は、緩衝シート1と新規防水シート2を有し、緩衝シート1と新規防水シート2とは施工前にあらかじめ積層一体化されている。緩衝シート1が接着層Aと固定され、新規防水シート2が表面側に配置される。
ここで、目地部Mはおよそ既存防水シートP1と既存防水シートP2との重なり部分である。
【0013】
ここで、既存防水シートPや新規防水層3はシートである。そこで、シートの短い方を幅とし、幅に対し直交し幅よりも長く形成さる側を長手とする。また、幅の側を幅方向、長手の側を長手方向と記載する場合がある。
【0014】
既存防水シートPの目地部Mは
図2に示すように既存防水シートPの長手方向と平行な目地部M2と幅方向に設けられた目地部M1があり、これらの目地部M1、M2をそれぞれの目地部Mを連続的に覆うように接着剤が塗布され接着層Aが設けられている。どちらか一方の目地部にわたって接着層を設けても良いが、両方の目地部M1、M2にわたって覆われた接着層Aが形成されることが好ましく、これにより長手方向、幅方向の両方向において、新規防水層3の切れやシワの発生を低減することができるため好ましい。
【0015】
接着層Aを形成する接着剤を塗布する際に、既存防水シートPに合わせて接着剤を塗布すると既存防水シートPの目地部ごとに区分けされ、目地部にわたって塗布されず好ましくない。また、櫛目ゴテを用いて接着剤を塗布する場合、
図6のように接着剤の櫛目Jを目地部Mと並行して設けるようにすると、接着剤が目地部Mを覆うように連続的に塗布されず好ましくない。
【0016】
一方、
図5のように櫛目ゴテを用いて接着剤を塗布する際に接着剤の櫛目を円弧状に形成すると、目地部Mにわたって覆うように櫛目状の接着剤が塗布されるため好ましい。また、ローラーを用いて接着剤を設ける場合も、目地部Mにわたって接着剤が塗布されるように、目地部をまたぐようにローラーを配置し塗布することが好ましい。
このように、目地部Mを覆うように連続的に接着層Aが形成されるとは、目地部Mを完全に覆うように接着剤が塗布されることを要せず、接着剤の櫛目のようにすじ状の接着剤が目地部Mを横断するように目地部Mを覆っていればよい。
【0017】
新規防水層3は、緩衝シート1と新規防水シート2が積層一体化されている。緩衝シート1は既存防水シートPが下地の動きに伴って動く場合に、その動きを新規防水シート2に直接伝えないようにし、新規防水シート2が切れたり、シワが入ることを防止するものである。緩衝シート1と新規防水シート2が積層一体化されていることで緩衝シート1と新規防水シート2を接合する工程を削減することができる。
また、緩衝シートは接着層Aを介して既存防水シートPの目地部Mにも固定され、接着剤と緩衝シートで目地部M、特に劣化した目地部Mが補修される。
【0018】
隣り合う新規防水層3は防水性を増すために隣り合う新規防水シート2を重ねあわせることが求められる。そのため、
図1に示すように新規防水層3には接合片4を有することが好ましい。緩衝シート1が新規防水シート2よりも幅が短く設定され、新規防水層3に緩衝シート1が積層されておらず、新規防水シート2で形成された部分が接合片4となる。すなわち、接合片4は新規防水シート2で形成されている。
【0019】
次に接合片4を用いた接合について
図1を用いて説明する。なお、第1新規防水層、第2新規防水層、第3新規防水層は新規防水層であり、第1新規防水シートや第2新規防水シートは新規防水シートである。
第2新規防水層32の接合片42は第1新規防水シート21の上に重ねて配置され、接合片42と第1新規防水シート21とは接合されている。したがって、第1新規防水層31と第2新規防水層32との目地部Nは第2新規防水層の第2新規防水シートの一部である接合片42が重ねられている。
【0020】
ここで、既存防水シートPの目地部Mが切れたり動いた場合に、その目地部Mの上側に新規防水層3の目地部Nがあると、上側の目地部Nも切れたりすることが懸念される。したがって、
図1に示すように既存防水シートPの目地部Mと新規防水層3の目地部Nが重ならないようにすることで、目地部Nが切れるリスクをさらに低減することができるため好ましい。すなわち、既存防水シートPの目地部Mを覆って新規防水層3を敷設固定することが好ましい。ここで、緩衝シート1が目地部Mを覆っていれば、新規防水層3が目地部Mを覆っていることとなる。
図3、
図4は、既存防水シートPと新規防水層3との配置を模式的示した部分平面図である。点線で囲まれた部分が1つの既存防水シートPを示し、点線が目地部Mを示している。同様に実線で囲まれた部分が1つの新規防水層3を示し、実線が目地部Nを示している。
さらに
図3に示すように既存防水シートPの長手方向の目地部M2、横方向の目地部M1の両方の目地部をそれぞれ新規防水層3で覆うように敷設することが防水性をより高めるとの点からは好ましい。また、既存防水シートPの配置と新規防水層3の配置の制限から、一方の目地部のみを覆うように新規防水層3を敷設固定しても良い。
【0021】
また、
図3のように既存防水シートPの長手方向と新規防水層3の長手方向を略平行になるように新規防水層3を敷設しても良いし、
図4のように既存防水シートPの長手方向と略直交するように新規防水層3を配置しても良い。
【0022】
ここで、既存防水シートPの幅と新規防水層3の幅が略同一の場合、
図3のように既存防水シートPと新規防水層3を平行に配置すると既存防水シートPの目地部Mと新規防水層の目地部Nが上下で重なりやすくなる。このような場合に、
図4のように既存防水シートPと新規防水層3とを略直交するように配置することで既存防水シートPの目地部Mと新規防水層3の目地部Nが重ならず、少なくとも既存防水シートPの幅方向の目地部M1を覆うように新規防水層3を配置できるため好ましい。
【0023】
また、
図7は新規防水層3の配置を模式的に示した部分平面図であって、
図7では6つの新規防水層3が配置されている。
既存防水シートPの上に新規防水層3を複数敷設すると、新規防水層3の目地部は
図7のように幅方向の目地部N1と長手方向のN2が形成される。ここで、新規防水層3は接合片4を有しており、その接合片4が新規防水層3の長手方向に設けられていると、隣り合う第1新規防水層31と第2新規防水層32との目地部N2は、第2新規防水層32の接合片42が第1新規防水層31の第1新規防水シート21の上に重なり接合固定されている。
【0024】
一方、第1新規防水層31と第3新規防水層33が幅方向の端縁部で接している場合、すなわち隣り合う新規防水層3が接合片4のない部分で隣接している場合、幅方向の目地部N2も隣り合う新規防水層3と重ねあわせて接着剤等により接合することができる。
また、隣り合う第1新規防水層31と第3新規防水層33とを幅方向の端縁部を突き付けて配置し、突き付けて形成された目地部N1に新規防水シート2と同種の目地部シートTを目地部N1を覆うように接合することが好ましい。このように、新規防水層3の目地部N1を新規防水シート2と同種の目地部シートTで接合することで、目地部N1の接合強度と安定性が増しより防水性が高くなるため好ましい。
また、
図7に示すように複数の幅方向の目地部N1を一の目地部シートTで覆い接合することで施工性が簡略化され、また防水性が向上するためより好ましい。
【0025】
さらに、本発明の実施形態において、改修は既存防水シートPの全面おいて改修構造とすることが好ましい。部分的な改修ではなく、全面的な改修を行うことで防水性の向上が図られるだけでなく、本発明の実施形態は全面的な改修を行う場合に適している。また、全面的な改修であっても、パラペットやその他の構築物等によってはその部分の周囲は別の施工構造とする場合があってもよく、屋根等の下地においておよそ平面である部分を本発明の実施形態で改修することが好ましい。
【0026】
このように、既存防水シートPのほぼ全面を新規防水層3で改修施工すると既存防水シートPと新規防水層3とで二重の防水層とすることができるため好ましい。この場合、既存防水シートPを検査し防水性を確保する補修を行うことが好ましい。
【0027】
下地Sは、鉄筋コンクリート、ALC造、木造、鋼製、金属折版屋根等の従来の防水構造に使用されているものであれば、どのような材質、構造であってもよい。
【0028】
新規防水層3は緩衝シート1と新規防水シート2とが積層一体化されている。新規防水シート2としては、ポリ塩化ビニル樹脂系、加硫ゴム系、非加硫ゴム系、熱可塑性エラストマー系、オレフィン系、エチレン酢酸ビニル樹脂系等、一般的な新規防水シートが使用できる。
新規防水シート2は熱可塑性樹脂層の単層でも良いが、寸法安定性、引張強度に優れるという点からガラスクロス、ガラス不織布、ポリエステルクロス、ポリエステル不織布等の基材層を積層した複層品が好ましい。基材層は最下層に設けても良いが熱可塑性樹脂層の中間に設けても良い。また熱可塑性樹脂層は一層であっても、複数の層であってもよく、それぞれの層の組成を異なるものとしてもよい。
また、既存防水シートPも新規防水シート2と同様のもので構成されていればよい。
【0029】
ここで、新規防水シート2はポリ塩化ビニル樹脂系が柔軟性や接合性に優れるため好ましい。既存新規防水シートPとしてポリ塩化ビニル樹脂系防水シートまたはオレフィン系防水シートが用いられている場合、新規防水層3の新規防水シート2をポリ塩化ビニル樹脂系防水シートとすることが好ましい。
【0030】
新規防水層3に用いられる緩衝シート1は、下地の動きを新規防水層3に伝わるのを低減し新規防水層3が切れたり、シワが入ることを防ぐようなものであればよい。したがって、一定の柔軟性を有したシート状のものがよく、発泡シート等が好適に用いられる。発泡シートしては、ポリエチレン等のポリオレフィン系、スチレン系、ポリウレタン系を用いることが出来る。また、緩衝シート1は既存防水シートPと接着剤により接着され、さらに新規防水シート2とも積層されている。したがって、緩衝シート1の新規防水シート2と積層された他の面は接着剤を介して既存防水シートPと接着される。この既存防水シートPとの接着部は強固に接着され、緩衝シート1を構成する発泡シートが容易に材破しないように、不織布や織布、紙などの補強層が設けられていることが好ましい。
【0031】
緩衝シート1が補強層を有している場合の不織布と織布などに用いられる繊維は、天然繊維として、綿、羊毛、麻、パルプ、絹、鉱物繊維、化学繊維としてレーヨン(再生繊維)、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、アクリル繊維、ビニロン、アラミド繊維が使用できる。
【0032】
ここで、新規防水層3は緩衝シート1を介して接着層Aと接合固定されているので、新規防水層3が風圧により剥離しにくくするためには、緩衝シート1における発泡シートと不織布等の補強層との剥離強度が補強層と既存防水シートPとの剥離強度よりも大きいことが好ましい。また、緩衝シート1の発泡シートと新規防水シート2との剥離強度が不織布等の補強層と既存防水シートPとの剥離強度よりも大きいことが好ましい。したがって、新規防水層3を既存防水シートPの上に接着剤による接着層Aを介して固定した際に、接着剤の凝集破壊となることが好ましく、または緩衝シート1の発泡シートが材料破壊することが好ましい。
【0033】
接着層Aを構成する接着剤としては、既存防水シートPと新規防水層3の緩衝シート1とを充分に接合できるようなものを用いることができ、エポキシ系、NBR(ニトリルゴム)系、SBR(スチレン-ブタジエンゴム)系、ウレタン系、アクリル系等が挙げられる。
【0034】
既存防水シートと新規防水層とに応じて接着剤を選択することが好ましい。既存防水シートPにポリ塩化ビニル樹脂系防水シートが用いられる場合、接着剤はNBR系接着剤を用いることで接合強度が充分に得られ好ましい。また、既存防水シートPにオレフィン系防水シートを用いられる場合、接着剤はSBR系接着剤を用いることで接合強度が充分に得られ好ましい。
【0035】
この様な場合、NBR系接着やSBR系接着剤は既存防水シートPに塗布することができ、さらに新規防水層3にも接着剤を塗布しても良い。特に、既存防水シートPにポリ塩化ビニル樹脂系防水シートを用いる場合、NBR系接着剤は既存防水シートPと新規防水層3の両面に塗布することでより強固に接合することができる。
【0036】
既存防水シートPがポリ塩化ビニル樹脂系防水シートまたはオレフィン系防水シートが用いられている場合、既存防水シートPの下地への接合方法は、固定用ビスと固定用ディスクを用いる機械固定方法であって良いし、接着剤を用いる接着工法であっても良い。
既存新規防水シートPとしてポリ塩化ビニル樹脂系防水シートを用い、機械的固定工法とする場合は、ポリ塩化ビニル樹脂系防水シートを下地Sの上に敷設しその上から固定用ディスクを配置し固定用ビスを打ち込みポリ塩化ビニル樹脂系防水シートを固定用ディスクで固定しても良いし、下地の上に固定用ディスクを配置し固定用ビスで下地に固定し、固定用ディスクの上からポリ塩化ビニル樹脂系防水シートを敷設し固定用ディスクの上面に設けられた接合剤によってポリ塩化ビニル樹脂系防水シートと固定用ディスクとを固定しても良い。
また、既存新規防水シートPとしてポリ塩化ビニル樹脂系防水シートを用い、接着工法とする場合は、下地とポリ塩化ビニル樹脂系防水シートの両面にNBR系接着剤を塗布し、下地にポリ塩化ビニル樹脂系防水シートを敷設固定することができる。
既存防水シートPとしてポリオレフィン系防水シートを用いて、接着工法とする場合は、下地にSBR系接着剤を塗布し、下地にポリオレフィン系防水シートを敷設固定することができる。
図1において既存防水シートPは接着剤(図示なし)により下地Sに固定されている。
【0037】
目地部シートTは新規防水シート2と同種のものを用いることが出来る。新規防水層3の新規防水シート2をポリ塩化ビニル樹脂系防水シートとする場合は、接合用シートもポリ塩化ビニル樹脂系防水シートを用いることが好ましい。
【0038】
ここで、隣り合う新規防水層3の新規防水シート2間の接合は、溶剤による溶着や熱による融着が好ましく、このような溶融着による接合は接着剤を介しての接着よりも接合強度の経時での安定性に優れるため好ましい。新規防水シート2をポリ塩化ビニル樹脂系防水シートとすると、新規防水層3の接合片4もポリ塩化ビニル樹脂系防水シートで構成される。そのため、接合片4と接合片4と重なり合う新規防水シート2とはポリ塩化ビニル樹脂系防水シートで構成されるため、接合片4と新規防水シート2とは溶融着により接合できる。また、目地部シートTを新規防水シート2と同じポリ塩化ビニル樹脂系防水シートとすることで、新規防水シート2と目地部シートTを溶融着により接合することができる。
溶剤による溶着で用いる溶剤は、新規防水シート2を構成する樹脂の良溶媒が好ましい。例えば新規防水シート2がポリ塩化ビニル樹脂系防水シートである場合、主成分としてTHFを用いることが好ましい。
【0039】
ここで、既存防水シートPの下地Sへの強度が充分でない場合、既存防水シートPの補修を行うことができる。既存防水シートPが接着工法で接合されている場合は、その接合強度が充分でない部分を切開し、下地に接着剤を塗布し、切開した既存防水シートPを再度接合するか、切開した部分に新たな補修用の新規防水シートを敷設固定しても良い。
また、機械的固定により既存防水シートPが固定されている場合、充分に固定されていない部分に、固定用ディスク、固定用ディスクを用いて補修を行っても良い。
【0040】
次に改修防水構造の施工方法を
図1、
図2を用いて説明する。既存防水シートPが施工された上に、接着層である接着剤を塗布し接着層Aを形成し、接着層Aの上から新規防水層3を敷設し固定する。ここで、既存防水シートPの目地部Mにわたって接着剤を塗布している。
【0041】
より具体的には、下地Sの上に既存防水シートPが敷設されており、既存防水シートPの上に接着剤を塗布し接着層Aが形成される。緩衝シート1と新規防水シート2とが積層一体化された新規防水層3を接着層Aの上に敷設する。既存防水シートPの目地部Mにわたって接着剤を塗布している。このとき、新規防水層3は接合片4を有しており、第1新規防水層31の長手方向と平行に第2新規防水層を敷設固定し、第2新規防水層の接合片42を第1新規防水層の第1新規防水シートの上に重ね、溶剤による溶着で接合した。また、接合片4の接合は熱による融着で行ってもよい。そして、第1新規防水層の幅方向の端縁部に隣接するように第3新規防水層を敷設固定する。第1新規防水層と第3新規防水層の目地部N1を覆うように帯状の目地部シートTを溶融着する。ここで目地部テープTは新規防水シート2と同種の防水シートで構成されている。
【実施例0042】
以下に、本発明の実施例について主に
図1、
図7により説明する。
「実施例1」
図1において、既存防水シートPであるポリ塩化ビニル樹脂系防水シートの上に、NBR系接着剤を塗布され。目地部Mに接着剤の櫛目が円弧状に形成され目地部Mを覆うように連続的に接着剤が塗布されている。これにより、目地部Mを接着剤の櫛目が横断し目地部Mは接着剤がすじ状に覆われた接着層Aが形成されている。そして、新規防水層3(31,32)は新規防水シート2(21,22)に緩衝シート1が積層一体化されている。新規防水シート2(21,22)はポリ塩化ビニル樹脂系防水シートが用いられ、緩衝シート1はポリエチレン系発泡シートにポリエステル系不織布が積層されている。そして、既存防水シートPの上に、新規防水層3(31,32)の裏面、すなわち緩衝シート1のポリエステル系不織布面を接して、新規防水層3(31,32)が敷設固定される。この時、緩衝シート1の補強層としてポリエステル系不織布面にもNBR系接着剤が塗布されている。
【0043】
また、
図7において、第1新規防水層31とその長手方向の端縁部を隣接して第2新規防水層32が敷設固定されている。第2新規防水層32は長手方向に沿って接合片42が設けられている。ここで、新規防水シート2(21,22)はポリ塩化ビニル樹脂系防水シートで構成されているので、この接合片4(42)もポリ塩化ビニル樹脂系防水シートで構成されている。そして、接合片42は第1新規防水層31の第1新規防水シート21の上に重ねた状態で、接合片42と第1新規防水シート21とが溶剤による溶着で接合されている。接合片42と第1新規防水シート21とは熱による融着により接合されていても良い。さらに、接合片42と第1新規防水シート21との端縁部にはシーラー(図示なし)が塗布されている。
【0044】
さらに、
図7において、第1新規防水層31の幅方向の端縁部で隣接している第3新規防水層33もNBR系接着剤を用いて敷設固定されている。また、第3新規防水層33の固定は、
図1に示した新規防水層3(31,32)と同様であり、目地部M1に接着剤の櫛目が円弧状に形成され目地部M1を覆うように連続的に接着剤が塗布されている。第1新規防水層31と第3新規防水層33との目地部N1は、突き付けて形成されている。また、新規防水層3の幅方向の端縁部には接合片は設けられていない。目地部N1を覆うように新規防水層の新規防水シート2よりも幅の狭い目地部シートTを敷設し、新規防水シート31、33と目地部シートTとの接合は溶剤による液溶着で行われている。新規防水シート31、33と目地部シートTとの接合は熱による融着により接合されていても良い。さらに、新規防水シート31、33と目地部シートTとの端縁部にはシーラー(図示なし)が塗布されている。目地部シートTは新規防水シート2と同一の構成、組成である。
ここで、さらに複数の新規防水層を敷設する場合は実施例1で示した例を必要な回数繰り返せばよく、既存防水シートPの平面的な部分の全面において同様の改修構造とすることができる。
【0045】
「実施例2」
既存防水シートPがオレフィン系防水シートで構成されている。実施例1において、接着剤をNBR系からSBR系に代え、接着剤の塗布を既存防水シートの上面だけの片面塗布に変更することで同様に改修防水構造とすることができる。
【0046】
「実施例3」
実施例1の施工方法について示す。
図1において、既存防水シートPであるポリ塩化ビニル樹脂系防水シートの上に、NBR系接着剤を櫛目ゴテを用いて塗布する。このとき、目地部Mに接着剤の櫛目が円弧状に形成されるようにして、目地部Mにわたって連続的に接着剤を塗布する。これにより、目地部Mを接着剤の櫛目が横断し目地部Mは接着剤がすじ状に覆われた接着層Aが形成されている。ここで、新規防水層3は新規防水シート2に緩衝シート1が積層一体化されている。新規防水シート2はポリ塩化ビニル樹脂系防水シートが用いられ、緩衝シート1はポリエチレン系発泡シートにポリエステル系不織布が積層されている。
そして、新規防水層3の裏面、すなわち緩衝シート1のポリエステル不織布面にもN
BR系接着剤を塗布し、既存防水シートP上の接着層Aの上からポリエステル不織布面を接するようにして新規防水層3を敷設しNBR系接着剤により固定する。
【0047】
また、
図7において、第2新規防水層(32)には長手方向に沿って接合片4が設けられている。ここで、新規防水シート2(21、22)はポリ塩化ビニル樹脂系防水シートで構成されているので、この接合片4もポリ塩化ビニル樹脂系防水シートで構成されている。第1新規防水層31とその長手方向の端縁部に隣接して第2新規防水層32が敷設固定されている。そして、第2新規防水層32の接合片42を第1新規防水層31の第1新規防水シート21の上に重ね、接合片42と第1新規防水シート21とは溶剤による溶着で接合する。接合片42と第1新規防水シート21とは熱による融着により接合しても良い。さらに、接合片42と第1新規防水シート21との端縁部にはシーラー(図示なし)を塗布する。
【0048】
さらに、
図7において、第1新規防水層31の幅方向の端縁部に隣接して第3新規防水層33をNBR系接着剤を用いて敷設固定する。また、第3新規防水層33の固定は、
図1に示した新規防水層3(31,32)と同様であり、目地部M2と同様に、目地部M1に接着剤の櫛目が円弧状に形成され目地部M1を覆うように連続的に接着剤を塗布する。ここで、新規防水層3の幅方向の端縁部には接合片は設けられていないので、第1新規防水層31と第3新規防水層33とは突き付けて敷設する。そして、第1新規防水層31と第3新規防水層33とで形成された目地部N1を覆うように新規防水層3の新規防水シート2よりも幅の狭い目地部シートTを敷設する。新規防水シート31、33と目地部シートTとの接合は溶剤による液溶着で行う。新規防水シート31、33と目地部シートTとの接合は熱による融着により接合しても良い。さらに、新規防水シート31、33と目地部シートTとの端縁部にはシーラー(図示なし)を塗布する。目地部シートTは新規防水シート2と同一の構成、組成である。
ここで、さらに複数の新規防水層を敷設する場合は実施例3で示した例を必要な回数繰り返せばよく、既存防水シートPの平面的な部分の全面において同様の改修構造の施工方法とすることができる。
【0049】
「実施例4」
既存防水シートPがオレフィン系防水シートで構成されている場合は、実施例3において、接着剤をNBR系からSBR系に代え、接着剤の塗布を既存防水シートの上面だけの片面塗布に変更することで同様に改修防水構造の施工方法とすることができる。
本発明によれば、経年劣化した既存の防水シートを新規防水シートで改修する際に改修時の音や振動の発生を防止した接着工法とすることができる。また、既存防水シートの目地部が切れたり動く危険性を低下させることで、新規の防水シートが切れたりシワが入るのを低減できる改修防水構造およびその施工方法に利用できる。
課題を解決するために用いた手段は、既存防水シートの上から接着剤により新規防水層を敷設固定し、既存防水シートの目地部にわたって接着剤を塗布することを要旨とする。
具体的には、下地の上に敷設固定された既存防水シートの目地部を連続的に覆うように接着剤が塗布され設けられた接着層と、接着層により既存防水層に敷設固定されているシート状の新規防水層とを備え、新規防水層が接着層と接着される緩衝シートと緩衝シートとあらかじめ積層一体化された新規防水シートとを有し、前記緩衝シートが発泡シートで構成されている改修防水構造とする。また、目地部を一の緩衝シートが覆うように敷設されていても良いし、前記緩衝シートがさらに補強層を有していてもよい。また、前記既存防水シートの目地部と前記新規防水層の目地部とが重ならないように配置されていてもよい。
さらに施工方法として、下地の上に敷設固定された複数の既存防水シートの目地部を連続的に覆うように接着剤を塗布し接着層を形成する工程と、接着層の上に新規防水層を敷設固定する工程とを備え、新規防水層が接着層と接着される緩衝シートと緩衝シートとあらかじめ積層一体化された新規防水シートとを有し、前記緩衝シートが発泡シートで構成されている改修防水構造の施工方法を用いることができる。