(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009942
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】ハロゲン化マグネシウムを用いたシクロペンタジエニル基含有炭化水素化合物またはシクロペンタジエニル基含有ケイ素置換炭化水素化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 2/86 20060101AFI20230113BHJP
C07C 13/12 20060101ALI20230113BHJP
C07F 7/08 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
C07C2/86
C07C13/12
C07F7/08 W
C07F7/08 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021113628
(22)【出願日】2021-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】591045677
【氏名又は名称】関東化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 順
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 一成
(72)【発明者】
【氏名】篠原 淳
(72)【発明者】
【氏名】西尾 亮太朗
【テーマコード(参考)】
4H006
4H049
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC23
4H006AC24
4H006BA06
4H006BA37
4H006BB25
4H006BE61
4H049VN01
4H049VP01
4H049VP02
4H049VQ05
4H049VR24
4H049VS12
4H049VT05
4H049VT24
4H049VV16
4H049VW01
4H049VW02
(57)【要約】
【課題】
本発明の課題は、未反応原料の残存や過反応物の生成を低減し、収率を向上することができる、シクロペンタジエニル基含有炭化水素化合物、またはシクロペンタジエニル基含有ケイ素置換炭化水素化合物を製造する方法を提供することである。
【解決手段】
特定のシクロペンタジエン誘導体の金属塩またはインデン誘導体の金属塩と、特定のハロゲン化炭化水素化合物またはハロゲン化ケイ素化合物とを、ハロゲン化マグネシウムの存在下に反応させることを含む、シクロペンタジエニル基含有炭化水素化合物、またはシクロペンタジエニル基含有ケイ素置換炭化水素化合物を製造する方法。
【選択図】
なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エーテル溶媒中で、
下記式(1)
【化1】
式中、
Lは、リチウム、ナトリウムまたはカリウムであり、
R
aは、水素原子、トリメチルシリル基、置換基を有していてもよい芳香環基または置換基を有していてもよい炭素数1~20の直鎖状もしくは分枝状アルキル基であり、隣接するR
aは炭化水素環を形成してもよく、該炭化水素環は置換基を有していてもよく、R
aが複数ある場合には同一でも、異なっていてもよく、
mは、1~4の整数である、
で表されるシクロペンタジエン誘導体の金属塩と、
下記式(2)または(3)
【化2】
式中、
R
d、R
eおよびR
fは、それぞれ独立して、水素原子、芳香族炭化水素基または炭素数1~20の直鎖状もしくは分枝状アルキル基であり、式(2)において、R
d、R
eおよびR
fの少なくとも1つは水素ではなく、式(3)において、R
dおよびR
eの少なくとも1つは水素ではなく、
Mは、炭素またはケイ素であり、
Xは、ハロゲン原子であり、式(3)において2つのXは同一でも、異なっていてもよい、
で表されるハロゲン化炭化水素化合物またはハロゲン化ケイ素化合物とを、
ハロゲン化マグネシウムの存在下に反応させて、
下記式(4)または(5)
【化3】
式中、
R
a、R
d、R
e、R
f、Mおよびmは、前記記載のとおりである、
で表される化合物を製造する方法。
【請求項2】
式(1)で表されるシクロペンタジエン誘導体の金属塩が、
下記式(1-A)
【化4】
式中、
Lは、リチウム、ナトリウムまたはカリウムであり、
R
bは、水素原子、トリメチルシリル基、置換基を有していてもよい芳香環基または置換基を有していてもよい炭素数1~20の直鎖状もしくは分枝状アルキル基であり、隣接するR
bは炭化水素環を形成してもよく、該炭化水素環は置換基を有していてもよく、R
bが複数ある場合にはそれぞれ同一でも、異なっていてもよく、
R
cは、水素原子、トリメチルシリル基、置換基を有していてもよい芳香環基または置換基を有していてもよい炭素数1~20の直鎖状もしくは分枝状アルキル基であり、隣接するR
cは炭化水素環を形成してもよく、該炭化水素環は置換基を有していてもよく、R
cが複数ある場合にはそれぞれ同一でも、異なっていてもよく、
qは、1~4の整数であり、
nは、1~2の整数である、
で表される化合物であり、
式(4)または(5)で表される化合物が、
下記式(6)または(7)
【化5】
式中
R
b、R
c、qおよびnは前記記載のとおりであり、R
d、R
e、R
f、およびMは請求項1に記載のとおりである、
で表される化合物である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ハロゲン化マグネシウムが、塩化マグネシウムである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
Lが、リチウムである請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
エーテル溶媒が、テトロヒドロフランまたはtert-ブチルメチルエーテルである請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
Xが、塩素または臭素である請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
式(1)で表される化合物と、ハロゲン化マグネシウムとを混合して混合物を得る工程、および前記混合物と式(2)または(3)で表されるハロゲン化炭化水素化合物またはハロゲン化ケイ素化合物とを混合する工程を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロペンタジエニル基含有炭化水素化合物、またはシクロペンタジエニル基含有ケイ素置換炭化水素化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロペンタジエンおよびインデンなどは5員環部からの脱水素イオンにより芳香族性を有する6π系アニオンとなり、各種遷移金属と安定な錯体を形成する配位子として多用されている。各種遷移金属錯体は多様な化学反応の触媒として有用で、その制御にはシクロペンタジエニル基やインデニル基などへの各種置換基の導入が有効である。シクロペンタジエンおよびインデンなどの5員環部への置換基の導入には、それらのリチウム塩に代表されるアルカリ金属塩によるハロゲン化アルキルまたはハロゲン化シランなどへの求核置換反応が用いられる。
【0003】
これまでにハロゲン化シランへの求核置換反応における収率向上を目的として、CuCNやCuSCNを用いる技術が開発されているが、毒性が強い化合物の使用が問題となっていた(特許文献1)。それに対して1-メチルイミダゾールを添加して、ハロゲン化シラン化合物の反応性を向上させる技術(特許文献2)も開発されている。
一方、特許文献3には、シクロペンタジエニルLiとα位水素の酸性度が高いケトンとの求核付加反応を塩化マグネシウムの存在下で行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-120688号公報
【特許文献2】特開平10-265490号公報
【特許文献3】特開2014-218445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のCuCNまたはCuSCNを用いる技術および1-メチルイミダゾールを用いる技術は、ハロゲン化シランを用いたケイ素置換基の導入に限定された技術でアルキル置換基などの炭化水素置換基の導入には効果はなかった。
【0006】
本発明者らは、シクロペンタジエンまたはインデンなどのアルカリ金属塩によるハロゲン化シランまたはハロゲン化炭化水素への求核置換反応では、反応で再生成するシクロペンタジエン環の水素と未反応のアルカリ金属塩との間でアルカリ金属-水素交換が生じ、未反応原料の残存や過反応物の副生によって収率が低下しやすいことに着目した。したがって、本発明は、未反応原料の残存や過反応物の生成を低減し、ひいては収率を向上することができる、シクロペンタジエニル基含有炭化水素化合物またはシクロペンタジエニル基含有ケイ素置換炭化水素化合物を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、シクロペンタジエン誘導体のアルカリ金属塩と、ハロゲン化シランまたはハロゲン化炭化水素との求核置換反応の反応系にハロゲン化マグネシウムを添加して、マグネシウムと、シクロペンタジエン誘導体と、アルカリ金属とのMgアート錯体化を図ることで、アルカリ金属イオンの塩基性を低下させ、副反応である上記アルカリ金属-水素交換を抑制可能なことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1] エーテル溶媒中で、
下記式(1)
【化1】
式中、
Lは、リチウム、ナトリウムまたはカリウムであり、
R
aは、水素原子、トリメチルシリル基、置換基を有していてもよい芳香環基または置換基を有していてもよい炭素数1~20の直鎖状もしくは分枝状アルキル基であり、隣接するR
aは炭化水素環を形成してもよく、該炭化水素環は置換基を有していてもよく、R
aが複数ある場合には同一でも、異なっていてもよく、
mは、1~4の整数である、
で表されるシクロペンタジエン誘導体の金属塩と、
下記式(2)または(3)
【化2】
式中、
R
d、R
eおよびR
fは、それぞれ独立して、水素原子、芳香族炭化水素基または炭素数1~20の直鎖状もしくは分枝状アルキル基であり、式(2)において、R
d、R
eおよびR
fの少なくとも1つは水素ではなく、式(3)において、R
dおよびR
eの少なくとも1つは水素ではなく、
Mは、炭素またはケイ素であり、
Xは、ハロゲン原子であり、式(3)において2つのXは同一でも、異なっていてもよい、
で表されるハロゲン化炭化水素化合物またはハロゲン化ケイ素化合物とを、
ハロゲン化マグネシウムの存在下に反応させて、
下記式(4)または(5)
【化3】
式中、
R
a、R
d、R
e、R
f、Mおよびmは、前記記載のとおりである、
で表される化合物を製造する方法。
【0009】
[2] 式(1)で表される化合物が、
下記式(1-A)
【化4】
式中、
Lは、リチウム、ナトリウムまたはカリウムであり、
R
bは、水素原子、トリメチルシリル基、置換基を有していてもよい芳香環基または置換基を有していてもよい炭素数1~20の直鎖状もしくは分枝状アルキル基であり、隣接するR
bは炭化水素環を形成してもよく、該炭化水素環は置換基を有していてもよく、R
bが複数ある場合にはそれぞれ同一でも、異なっていてもよく、
R
cは、水素原子、トリメチルシリル基、置換基を有していてもよい芳香環基または置換基を有していてもよい炭素数1~20の直鎖状もしくは分枝状アルキル基であり、隣接するR
cは炭化水素環を形成してもよく、該炭化水素環は置換基を有していてもよく、R
cが複数ある場合にはそれぞれ同一でも、異なっていてもよく、
qは、1~4の整数であり、
nは、1~2の整数である、
で表される化合物であり、
式(4)または(5)で表される化合物が、
下記式(6)または(7)
【化5】
式中
R
b、R
c、qおよびnは前記記載のとおりであり、R
d、R
e、R
f、およびMは請求項1に記載のとおりである、
で表される化合物である、前記[1]に記載の方法。
【0010】
[3]ハロゲン化マグネシウムが、塩化マグネシウムである前記[1]または[2]に記載の方法。
[4] Lが、リチウムである前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] エーテル溶媒が、テトロヒドロフランまたはtert-ブチルメチルエーテルである前記[1]~[4]のいずれかに載の方法。
[6] Xが、塩素または臭素である前記[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 式(1)で表される化合物と、ハロゲン化マグネシウムとを混合して混合物を得る工程、および前記混合物と式(2)または(3)で表されるハロゲン化炭化水素化合物またはハロゲン化ケイ素化合物とを混合する工程を含む、前記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シクロペンタジエン誘導体のアルカリ金属塩と、ハロゲン化シランまたはハロゲン化炭化水素との反応において、アルカリ金属-水素交換による副反応を抑制し、未反応原料の残存や過反応物の副生を抑え、高反応率でシクロペンタジエニル基含有炭化水素化合物、またはシクロペンタジエニル基含有ケイ素置換炭化水素化合物を合成することができる。また、高純度で生成物を得ることができるため、触媒配位子として使用する際の生成物の精製を容易にし、または精製自体を省略することを可能にするという利点を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、本発明の好適な実施態様に基づき、詳細に説明する。
【0013】
本発明のシクロペンタジエニル基含有炭化水素化合物、あるいはシクロペンタジエニル基含有ケイ素置換炭化水素化合物を製造する方法において使用するシクロペンタジエン誘導体の金属塩は下記式(1)
下記式(1)
【化6】
式中、
Lは、リチウム、ナトリウムまたはカリウムであり、
R
aは、水素原子、トリメチルシリル基、置換基を有していてもよい芳香環基または置換基を有していてもよい炭素数1~20の直鎖状もしくは分枝状アルキル基であり、隣接するR
aは炭化水素環を形成してもよく、該炭化水素環は置換基を有していてもよく、R
aが複数ある場合には同一でも、異なっていてもよく、
mは、1~4の整数である、
で表される。
【0014】
式(1)中のLは、リチウム、ナトリウムまたはカリウムであり、実用性の観点から、特にリチウムおよびナトリウムが好ましい。
【0015】
式(1)中のRaの芳香環基は芳香族性を有する環構造を含む基を示し、芳香族炭化水素基および芳香族複素環基などが挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、炭素数6~30、好ましくは炭素数6~20の単環または多環の炭化水素基が挙げられる。多環は縮合環であってもよい。あるいは、同一または異なる単環および/または同一または異なる縮合環が単結合で結合して多環を形成した構造であってもよい。例えばフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、ベンジル基、フェナントリル基などが挙げられる。実用性の観点から、フェニル基およびベンジル基が好ましい。
【0016】
式(1)中のRaの芳香族複素環基としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選択される1または2以上の原子を有する炭素数5~30、好ましくは炭素数5~20の単環または多環の複素環基が挙げられ、例えばピリジル基、フリル基、ピリル基、チエニル基、インドリル基、カルバゾリル基およびベンゾオキサゾリル基などが挙げられる。実用性の観点からは、特にフリル基およびピリル基が好ましい。
【0017】
上記、芳香環基は無置換でも置換基を有していてもよい。置換基が複数存在する場合には、それら置換基は同一でも、異なっていてもよい。当該置換基としては、これらに限定されるものではないが、以下に示す置換基Aが挙げられる。
【0018】
置換基Aは、飽和もしくは不飽和炭化水素基、特にC1~20の飽和もしくは不飽和炭化水素基、炭素原子がヘテロ原子で置き換えられていてもよいアリール基、特に炭素原子がヘテロ原子で置き換えられていてもよい環員数6~20のアリール基、ヘテロシクリル基、特に環員数3~20のヘテロシクリル基、フルオロアルキル基、シリル基またはハロゲン基を包含する。
【0019】
置換基Aの飽和もしくは不飽和炭化水素基、好ましくはC1~20の飽和もしくは不飽和炭化水素基は、飽和もしくは不飽和の鎖状もしくは環状の炭化水素基を含む。例えば、飽和もしくは不飽和の鎖状炭化水素基としては、飽和もしくは不飽和の直鎖もしくは分枝鎖アルキル基が、飽和もしくは不飽和の環状炭化水素としては、飽和もしくは不飽和のシクロアルキル基およびアリール基が、それぞれ挙げられる。「飽和もしくは不飽和アルキル基」は、飽和の直鎖もしくは分枝鎖アルキル基ならびにアルキニル基およびアルケニル基などの不飽和の直鎖もしくは分枝鎖アルキル基を含む。アルキル基としてはC1~20アルキル基が好ましく、C1~10のアルキル基がより好ましく、C1~5のアルキル基がさらに好ましい。
本明細書において、「飽和もしくは不飽和のシクロアルキル基」は、飽和のシクロアルキル基ならびに不飽和のシクロアルケニル基を含む。シクロアルキル基としてはC3~20のシクロアルキル基が好ましく、C5~10のシクロアルキル基がより好ましい。
【0020】
「ヘテロシクリル基」は、飽和もしくは不飽和のシクロアルキル基の1または2以上の炭素原子が、窒素原子、酸素原子および硫黄原子などのヘテロ原子で置き換えられている基を含む。
本明細書において、例えば「炭素原子がヘテロ原子で置き換えられていてもよい環員数6~20のアリール基」といった場合、芳香族炭化水素基の1または2以上の炭素原子が、窒素原子、酸素原子および硫黄原子などから選択される1または2以上ヘテロ原子で置き換えられている環員数6~20の芳香族複素環基を含む。
【0021】
式(1)中の芳香環基が有していてもよい好ましい置換基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基などであり、特に好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基である。
【0022】
式(1)中のRaの炭素数1~20の直鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられ、実用性の観点から、好ましくは炭素数1~6の直鎖状アルキル基である。
【0023】
式(1)中のRaの炭素数1~20の分枝鎖状のアルキル基としては、例えば、1-メチルエチル基、1-メチルプロピル基、1-エチルプロピル基、1-n-プロピルプロピル基、1-メチルブチル基、1-エチルブチル基、1-プロピルブチル基、1-n-ブチルブチル基、1-メチルペンチル基、1-エチルペンチル基、1-n-プロピルペンチル基、1-n-ペンチルペンチル基、1-メチルヘキシル基、1-エチルヘキシル基、1-n-プロピルヘキシル基、1-n-ブチルヘキシル基、1-n-ペンチルヘキシル基、1-n-ヘキシルヘキシル基、1-メチルヘプチル基、1-エチルヘプチル基、1-n-プロピルヘプチル基、1-n-ブチルヘプチル基、1-n-ペンチルヘプチル基等が挙げられる。実用性の観点から、好ましくは炭素数1~6の分枝鎖状のアルキル基である。
【0024】
上記、式(1)中のRaの炭素数1~20の直鎖状もしくは分枝状アルキル基は無置換でも置換基を有していてもよい。置換基が複数存在する場合には、それら置換基は同一でも、異なっていてもよい。当該置換基としては、これに限定されるものではないが、上記置換基Aが挙げられる。
【0025】
炭素数1~20の直鎖状もしくは分枝状アルキル基が有していてもよい好ましい置換基は、例えばフェニル基およびフリル基などである。
本発明の一態様において、炭素数1~20の直鎖状もしくは分枝状アルキル基が有していてもよい置換基はアルキル基ではない。
【0026】
隣接するR
aは炭化水素環を形成してもよい。特に、隣接するR
aがベンゼン環を形成して、シクロペンタジエニル基と併せてインデンの環構造が形成されることが好ましい。
また、隣接するR
aは、これらに限定されるものではないが、シクロペンタジエニル基と併せて以下の式
環構造A:
【化7】
で表される環構造を形成することもできる。該環構造としては、例えば以下の式:
【化8】
の構造が挙げられる。
さらにまた、隣接するR
aは、これらに限定されるものではないが、シクロペンタジエニル基と併せて以下の式
環構造B:
【化9】
で表される環構造を形成することもできる。
【0027】
上記式(1)中の隣接するRaが形成する炭化水素環は無置換でも置換基を有していてもよい。置換基が複数存在する場合には、それら置換基は同一でも、異なっていてもよい。当該置換基としては、これらに限定されるものではないが、以下に示す置換基Bが挙げられる。置換基Bは、水素、トリメチルシリル基、置換基を有していてもよい芳香環基または置換基を有していてもよい炭素数1~20の直鎖状もしくは分枝状アルキル基であり、隣接する置換基Bは炭化水素環を形成してもよく、該炭化水素環は置換基を有していてもよく、置換基Bが複数ある場合にはそれぞれ同一でも、異なっていてもよい。芳香環基および炭素数1~20の直鎖状もしくは分枝状アルキル基については、上記Raについて説明したものと同様である。芳香環基および炭素数1~20の直鎖状もしくは分枝状アルキル基が有していてもよい置換基としては、これらに限定されるものではないが、上記置換基Aが挙げられる。
【0028】
炭化水素環が有していてもよい好ましい置換基は、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基またはフェニル基である。
【0029】
隣接する置換基Bは炭化水素環を形成してもよい。置換基Bが形成する環としては、例えば、これらに限定されるものではないが、シクロペンタジエニル基と、R
aが形成した炭化水素環と併せて以下の式
環構造C:
【化10】
または環構造D:
【化11】
で表される環構造を形成することができる。
また、隣接する置換基Bと環形成に関与しない隣接するR
aがそれぞれ同時に別の環を形成してもよく、このような環構造としては、これらに限定されるものではないが、例えば置換基Bが形成する上記環構造CまたはDに含まれる環と、環形成に関与しないR
aが形成する上記環構造Bに含まれる環とを組み合わせた構造が挙げられる。
【0030】
上記式(1)中のRaは、Raが複数ある場合にはそれぞれ同一でも、異なっていてもよい。Raは、本発明で製造されるシクロペンタジエニル基含有炭化水素化合物またはケイ素置換炭化水素化合物を最終的に配位子として用いられるときに所望される置換基に応じて適宜選択することもできる。
実用性の観点から、Raはメチル基、エチル基、プロピルおよびブチル基などが好ましい。
また、隣接するRaがベンゼン環を形成して、シクロペンタジエニル基と併せてインデンの環構造が形成されることが好ましい。
【0031】
上記式(1)で表されるシクロペンタジエン誘導体の金属塩は、これらに限定されるものではないが、例えばシクロペンタジエンまたはインデンのリチウム塩、カリウム塩あるいはナトリウム塩などが挙げられる。
【0032】
本発明の好ましい一態様において、上記式(1)で表されるシクロペンタジエン誘導体の金属塩は、下記式(1-A)で表される化合物(以下、インデン誘導体の金属塩とも称す)である。
式(1-A)
【化12】
式中、
Lは、リチウム、ナトリウムまたはカリウムであり、
R
bは、水素原子、トリメチルシリル基、置換基を有していてもよい芳香環基または置換基を有していてもよい炭素数1~20の直鎖状もしくは分枝状アルキル基であり、隣接するR
bは炭化水素環を形成してもよく、該炭化水素環は置換基を有していてもよく、R
bが複数ある場合にはそれぞれ同一でも、異なっていてもよく、
R
cは、水素原子、トリメチルシリル基、置換基を有していてもよい芳香環基または置換基を有していてもよい炭素数1~20の直鎖状もしくは分枝状アルキル基であり、隣接するR
cは炭化水素環を形成してもよく、該炭化水素環は置換基を有していてもよく、R
cが複数ある場合にはそれぞれ同一でも、異なっていてもよく、
qは、1~4の整数であり、
nは、1~2の整数である。
【0033】
式(1-A)中のLは、リチウム、ナトリウムまたはカリウムであり、実用性の観点から、特にリチウムおよびナトリウムが好ましい。
式(1-A)中のRbおよびRcはそれぞれ独立して選択される。
式(1-A)中のRbおよびRcの芳香環基としては、式(1)中のRaと同一のものが挙げられる。
【0034】
上記、芳香環基は無置換でも置換基を有していてもよい。置換基が複数存在する場合には、それら置換基は同一でも、異なっていてもよい。当該置換基としては、これらに限定されるものではないが、上記置換基Aが挙げられる。
【0035】
上記式(1-A)中の芳香環基が有していてもよい好ましい置換基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基またはフェニル基、特にメチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基である。
【0036】
上記式(1-A)中のRbおよびRcの炭素数1~20の直鎖状もしくは分枝状アルキル基としては、式(1)中のRaと同一のものが挙げられる。
【0037】
上記式(1-A)中のRbおよびRcの炭素数1~20の直鎖状もしくは分枝状アルキル基は無置換でも置換基を有していてもよい。置換基が複数存在する場合には、それら置換基は同一でも、異なっていてもよい。当該置換基としては、これらに限定されるものではないが、上記置換基Aが挙げられる。
【0038】
炭素数1~20の直鎖状もしくは分枝状アルキル基が有していてもよい好ましい置換基は、例えばフェニル基またはフリル基である。
本発明の一態様において、炭素数1~20の直鎖状もしくは分枝状アルキル基が有していてもよい置換基はアルキル基ではない。
【0039】
隣接するRbは炭化水素環を形成してもよく、これらに限定されるものではないが、上記置換基Bが形成する環と同一の環構造Cまたは環構造Dで表される環構造を形成することができる。実用性の観点から、Rbが形成する炭化水素環は、好ましくは炭素数6~7の炭化水素環である。
【0040】
隣接するRcは炭化水素環を形成してもよく、これらに限定されるものではないが、上記環構造Bで表される環構造を形成することができる。実用性の観点から、Rcが形成する炭化水素環は、好ましくは炭素数6~7の炭化水素環である。
また、隣接するRb同士および隣接するRc同士がそれぞれ同時に別の環を形成してもよく、これらに限定されるものではないが、例えばRbが形成する上記環構造CまたはDに含まれる環と、Rcが形成する上記環構造Bに含まれる環とを組み合わせた構造が挙げられる。
【0041】
上記式(1-A)中の隣接するRbが形成する炭化水素環および隣接するRcが形成する炭化水素環は無置換でも置換基を有していてもよい。置換基が複数存在する場合には、それら置換基は同一でも、異なっていてもよい。当該置換基としては、これらに限定されるものではないが、上記置換基Aが挙げられる。
【0042】
隣接するRbが形成する炭化水素環が有していてもよい好ましい置換基は、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基などである。
隣接するRcが形成する炭化水素環が有していてもよい好ましい置換基は、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基などである。
【0043】
上記式(1-A)中のRbは、Rbが複数ある場合にはそれぞれ同一でも、異なっていてもよい。
上記式(1-A)中のRcは、Rcが複数ある場合にはそれぞれ同一でも、異なっていてもよい。
上記式(1-A)中のRbおよびRcは、本発明で製造されるシクロペンタジエニル基含有炭化水素化合物またはシクロペンタジエニル基含有ケイ素置換炭化水素化合物を最終的に配位子として用いられるときに所望される置換基に応じて適宜選択することもできる。
【0044】
Rbは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基またはフェニル基が好ましい。
Rcは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基が好ましい。
【0045】
上記式(1)で表されるインデン誘導体の金属塩は、これらに限定されるものではないが、例えばインデンのリチウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩などが挙げられる。
【0046】
本発明のシクロペンタジエニル基含有炭化水素化合物、あるいはシクロペンタジエニル基含有ケイ素置換炭化水素化合物を製造する方法において使用するハロゲン化炭化水素化合物またはハロゲン化ケイ素化合物は、
下記式(2)または(3)
【化13】
R
d、R
eおよびR
fは、それぞれ独立して、水素原子、芳香族炭化水素基または炭素数1~20の直鎖状もしくは分枝状アルキル基であり、式(2)において、R
d、R
eおよびR
fの少なくとも1つは水素ではなく、式(3)において、R
dおよびR
eの少なくとも1つは水素ではなく、
Mは、炭素またはケイ素であり、
Xは、ハロゲン原子であり、式(3)において2つのXは同一でも、異なっていてもよい、
のいずれかで表される。
【0047】
上記式(2)および(3)中のRd、ReおよびRfの芳香族炭化水素基としては、炭素数5~25、好ましくは炭素数5~9の単環または多環の炭化水素基が挙げられる。多環は縮合環であってもよい。あるいは、同一または異なる単環および/または同一または異なる縮合環が単結合で結合して多環を形成した構造であってもよい。例えばフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、ベンジル基、フェナントリル基、シクロペンタジエニル基およびインデニル基などが挙げられる。実用性の観点から、フェニル基、シクロペンタジエニル基またはインデニル基が好ましい。
【0048】
上記式(2)および(3)中のRd、ReおよびRfの炭素数1~20の直鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。実用性の観点から、好ましくは炭素数1~6の直鎖状アルキル基である。
【0049】
上記式(2)および(3)中のRd、ReおよびRfの炭素数1~20の分枝鎖状のアルキル基としては、例えば、1-メチルエチル基、1-メチルプロピル基、1-エチルプロピル基、1-n-プロピルプロピル基、1-メチルブチル基、1-エチルブチル基、1-プロピルブチル基、1-n-ブチルブチル基、1-メチルペンチル基、1-エチルペンチル基、1-n-プロピルペンチル基、1-n-ペンチルペンチル基、1-メチルヘキシル基、1-エチルヘキシル基、1-n-プロピルヘキシル基、1-n-ブチルヘキシル基、1-n-ペンチルヘキシル基、1-n-ヘキシルヘキシル基、1-メチルヘプチル基、1-エチルヘプチル基、1-n-プロピルヘプチル基、1-n-ブチルヘプチル基、1-n-ペンチルヘプチル基等が挙げられる。実用性の観点から、好ましくは炭素数1~6の分枝鎖状のアルキル基である。
【0050】
上記式(2)および(3)中のXはハロゲン原子であり、好ましくはフッ素、塩素、臭素またはヨウ素であり、特に好ましくは塩素または臭素である。
【0051】
上記式(2)で表されるハロゲン化炭化水素化合物としては、これらに限定されるものではないが、例えば、以下に記載のものが挙げられる。ヨウ化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、臭化イソプロピル、臭化ブチル、臭化ペンチル、臭化ヘキシル、臭化フェニルおよび臭化ベンジルなど。
上記式(2)で表されるハロゲン化ケイ素化合物としては、これらに限定されるものではないが、例えば、トリメチルシリルクロリド、トリエチルシリルクロリド、トリイソプロピルシリルクロリド、t-ブチルジメチルシリルクロリド、t-ブチルジフェニルシリルクロリドおよびトリフェニルシリルクロリドなどが挙げられる。
【0052】
上記式(3)で表されるハロゲン化炭化水素化合物としては、これらに限定されるものではないが、例えば、ジヨードメタン、ジブロモメタン、ジクロロメタン、1,1-ジヨードエタンおよび1,1-ジブロモエタンなどが挙げられる。
上記式(3)で表されるハロゲン化ケイ素化合物としては、これらに限定されるものではないが、例えば、ジクロロジメチルシラン、ジクロロジフェニルシランおよび1,1-ジクロロシラシクロブタンなどが挙げられる。
【0053】
本発明のシクロペンタジエニル基含有炭化水素化合物、あるいはシクロペンタジエニル基含有ケイ素置換炭化水素化合物を製造する方法において使用するハロゲン化マグネシウムとしては、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム等が挙げられる。特に塩化マグネシウムが好ましい。
【0054】
本発明の製造方法において製造されるシクロペンタジエニル基含有炭化水素化合物またはケイ素置換炭化水素化合物は、下記式(4)または(5)
【化14】
式中、
R
a、R
d、R
e、R
f、Mおよびmは、前記記載のとおりである、
のいずれかで表される。
【0055】
上記式(4)または(5)で表されるシクロペンタジエニル基含有炭化水素化合物またはケイ素置換炭化水素化合物は、これらに限定されるものではないが、例えばメチルシクロペンタジエン、t-ブチルシクロペンタジエン、トリメチルシリルシクロペンタジエン、ビス(メチルシクロペンチル)メタン、1-トリメチルシリルインデン、ビスインデニルジメチルシランおよびビス(2-メチルインデニル)ジメチルシランなどである。
【0056】
本発明の一態様において、式(1)で表される化合物が、式(1-A)で表されるインデン誘導体の金属塩である場合には、本発明の製造方法において製造されるインデニル基含有炭化水素化合物またはケイ素置換炭化水素化合物は、下記式(6)または(7)
【化15】
式中
R
b、R
c、qおよびnは前記式(1-A)に記載のとおりであり、R
d、R
e、R
f、およびMは前記式(4)および(5)に記載のとおりである、
のいずれかで表される。
【0057】
本発明のシクロペンタジエニル基含有炭化水素化合物、あるいはシクロペンタジエニル基含有ケイ素置換炭化水素化合物を製造する方法において使用するエーテル溶媒は、特に限定されないが、ジエチルエーテル、テトロヒドロフラン、tert-ブチルメチルエーテル、ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル等が挙げられ、実用性の観点から、テトロヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテルおよびtert-ブチルメチルエーテルが特に好ましい。
【0058】
本発明のシクロペンタジエニル基含有炭化水素化合物、あるいはシクロペンタジエニル基含有ケイ素置換炭化水素化合物を製造する方法は、エーテル溶媒中で、上記式(1)で表されるシクロペンタジエン誘導体の金属塩または上記式(1-A)で表されるインデン誘導体の金属塩と、上記式(2)または(3)で表されるハロゲン化炭化水素化合物またはハロゲン化ケイ素化合物とを、ハロゲン化マグネシウムの存在下に反応させる工程を含む。
【0059】
本発明の一態様において、上記式(1)で表されるシクロペンタジエン誘導体の金属塩と、ハロゲン化マグネシウムとを事前に混合し、その後に上記式(2)または(3)で表されるハロゲン化炭化水素化合物またはハロゲン化ケイ素化合物を添加することができる。この方法によれば、反応容器中に事前にMgアート錯体を形成させ、アルカリ金属の塩基性を低下させた上で、ハロゲン化炭化水素化合物またはハロゲン化ケイ素化合物との反応を行うことができると考えられる。
【0060】
したがって、本発明は一態様において、上記式(1)で表されるシクロペンタジエン誘導体の金属塩と、ハロゲン化マグネシウムとを混合して混合物を得る工程、および前記混合物と上記式(2)または(3)で表されるハロゲン化炭化水素化合物またはハロゲン化ケイ素化合物とを混合する工程を含む。
【0061】
上記式(1)で表されるシクロペンタジエン誘導体の金属塩と、ハロゲン化マグネシウムとを事前に混合する際の温度は、用いる溶媒などにより適宜選択することができ、例えば20℃~60℃である。
混合する時間は用いる溶媒、アルカリ金属種に応じて選択することができ、例えば0.5~2時間であり、加熱還流、オイルバスなどの加温手段または氷浴、低温反応装置などの冷却手段を用いることができる。
【0062】
上記式(2)または(3)で表されるハロゲン化炭化水素化合物またはハロゲン化ケイ素化合物の添加の際の温度も、用いる溶媒などにより適宜選択することができ、例えば-10℃~20℃である。
混合する時間は反応率に応じて選択することができ、これらに限定されるものではないが例えば1時間~24時間であり、加熱還流、オイルバスなどの加温手段または氷浴、低温反応装置などの冷却手段を用いることができる。
【0063】
本発明の方法における上記式(1)で表されるシクロペンタジエン誘導体の金属塩とハロゲン化マグネシウムのモル比は1:1が好ましい。また、上記式(1)で表されるシクロペンタジエン誘導体の金属塩と上記式(2)または(3)で表されるハロゲン化炭化水素化合物のモル比は1:1~1:5が好ましい。
【0064】
反応終了後は、抽出、酸またはアルカリによる洗浄、水または飽和食塩水による洗浄、濃縮、減圧濃縮、濾過、クロマトグラフィー、蒸留、昇華、再結晶化などの精製手段を用いて目的とする化合物を得ることができる。また、これらの精製手段を採用せずに、別の反応、例えば各種遷移金属錯体の製造に供することもできる。
【0065】
本発明による方法で製造した目的とする化合物、過反応物、未反応原料の化合物の同定には核磁気共鳴装置(NMR)を用い、テトラメチルシラン(TMS)を内部標準物質とし、そのシグナルをδ=0(δは化学シフト)とした。反応率は、ガスクロマトグラフ(GC)または液体クロマトグラフ(LC)を用いて、目的とする化合物、過反応物、未反応原料のピークから算出し、評価した。
【実施例0066】
以下に、本発明の実施例を参照してより詳細に説明するが、これは本発明の特定の具体例を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下の比較例および実施例において、NMRはJEOL社製JNM-ECX400P、GCは島津製作所社製GC-2010およびLCは島津製作所社製LC-20AT、SPD-20A、CBM-20Aを用いた。
【0067】
(1)n-プロピル化
[比較例1]
1000mlシュレンク管にアルゴン下でシクロペンタジエン:20.0g(1.0eq)、テトラヒドロフラン:240mlを加えて氷水浴で冷やしながら1.56M n-BuLiヘキサン溶液:194.0ml(1.0eq)を滴下して加え、室温で1時間撹拌した。次いでDMI:66.2ml(2.0eq.)を加えて溶解させた後、氷水浴で冷やしながらnPrBr:27.4ml(1.0eq.)を加えて室温で終夜撹拌した。GCで反応確認(nPrCp/88.4%、過反応物/8.2%)し、氷水浴で冷やしながら、水:300mlを加えてクエンチした。さらにヘキサン300mlを加えて抽出し、水:300ml×3回、食塩水:300mlで有機層を分液洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムをろ別し、有機層を減圧濃縮後、蒸留精製によりnPrCp:25.2g、収率:77%、GC:95.2%で得た。
【0068】
[比較例2]
1000mlシュレンク管にアルゴン下でシクロペンタジエン:20.0g(1.0eq)、テトラヒドロフラン:240ml、N-メチルイミダゾール1.21ml(0.05eq.)を加えて氷水浴で冷やしながら1.56M n-BuLiヘキサン溶液:194.0ml(1.0eq)を滴下して加え、室温で1時間撹拌した。次いで氷水浴で冷やしながらnPrBr:27.4ml(1.0eq.)を加えて室温で終夜撹拌した。GCで反応確認(nPrCp/77.7%、過反応物/14.1%)し、氷水浴で冷やしながら、水:300mlを加えてクエンチした。さらにヘキサン300mlを加えて抽出し、水:300ml×3回、食塩水:300mlで有機層を分液洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムをろ別し、有機層を減圧濃縮後、蒸留精製によりnPrCp:24.6g、収率:75%、GC:94.8%で得た。
【0069】
[実施例1]
1000mlシュレンク管にアルゴン下でシクロペンタジエン:20.0g(1.0eq)、テトラヒドロフラン:240mlを加えて氷水浴で冷やしながら1.56M n-BuLiヘキサン溶液:194.0ml(1.0eq)を滴下して加え、室温で1時間撹拌し、氷水浴で冷やしながら無水塩化マグネシウム:28.8g(1.0eq.)を加えて45℃で1時間撹拌した。次いで氷水浴で冷やしながらnPrBr:27.4ml(1.0eq.)を加えて室温で終夜撹拌した。ガスクロマトグラフ(GC)で反応確認(nPrCp/97.6%、過反応物/1.2%)し、氷水浴で冷やしながら、水:300mlを加えてクエンチした。さらにヘキサン300mlを加えて抽出し、水:300ml×3回、食塩水:300mlで有機層を分液洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムをろ別し、有機層を減圧濃縮後、蒸留精製によりnPrCp:27.8g、収率:85%、GC:99.0%で得た。
【0070】
塩化マグネシウムを使用しない方法(比較例1)および上記特許文献2の方法(比較例2)では、反応で生成するn-PrCpの水素と未反応のLi塩との間でLi-水素交換が生じ、過反応物が8~14%程度生じているが、本発明では実施例3のように過反応物を1.2%に抑制可能であった。また、本発明の方法は、上記特許文献2の方法(比較例2)と比較して高収率であった。
【0071】
【0072】
(2)トリメチルシリル化(TMS化)
[比較例3]
200mlシュレンク管にアルゴン下でTMSCp:11.8g(1.0eq)、テトラヒドロフラン:70mlを加えて氷水浴で冷やしながら1.64M n-BuLiヘキサン溶液:52.0ml(1.0eq)を滴下して加え、室温で1時間撹拌した。次いで氷水浴で冷やしながらクロロトリメチルシラン:10.8ml(1.0eq.)を加えて室温で1時間撹拌した。GCで反応確認(TMSCp/12.5%、(TMS)2Cp/82.9%)し、氷水浴で冷やしながら、水:50mlを加えてクエンチした。水:50ml×3回、食塩水:100mlで有機層を分液洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムをろ別し、有機層を減圧濃縮して、(TMS)2Cp :16.7g、粗収率:93%、GC:83.0%(TMSCp/12.6%)で得た。さらに蒸留精製により(TMS)2Cp:12.6g、収率:70%、GC:93.2%(TMSCp/2.6%)で得た。
【0073】
[実施例2]
200mlシュレンク管にアルゴン下でTMSCp:11.8g(1.0eq)、テトラヒドロフラン:70mlを加えて氷水浴で冷やしながら1.64M n-BuLiヘキサン溶液:52.0ml(1.0eq)を滴下して加え、室温で1時間撹拌し、氷水浴で冷やしながら無水塩化マグネシウム:8.13g(1.0eq.)を加えて45℃で1時間撹拌した。次いで氷水浴で冷やしながらクロロトリメチルシラン:10.8ml(1.0eq.)を加えて室温で1時間撹拌した。GCで反応確認(TMSCp/1.6%、(TMS)2Cp/93.8%)し、氷水浴で冷やしながら、水:50mlを加えてクエンチした。水:50ml×3回、食塩水:100mlで有機層を分液洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムをろ別し、有機層を減圧濃縮して、(TMS)2Cp:16.9g、収率:94%、GC:94.4%(TMSCp/1.5%)で得た。
【0074】
比較例3および実施例2の結果を下記表2に示す。表2に示すとおり、塩化マグネシウムを使用しない比較例3では未反応原料のTMSCpが12.5%残存するが、本発明の実施例2では未反応TMSCpの残存は1.6%まで抑制できた。それにより蒸留精製を省略可能であった。
【0075】
表2 トリメチルシリル化(TMS化)の実験結果
【表2】
【0076】
(3)インデンとジクロロジメチルシランとの反応
[比較例4]
1000mlシュレンク管にアルゴン下でインデン:41.4ml(1eq.)、t-ブチルメチルエーテル:414ml、N-メチルイミダゾール1.42ml(0.05eq.)を加えて氷水浴で10℃以下に冷却し、1.64M n-BuLiヘキサン溶液:218.0ml(1.0eq.)を滴下し、室温で2時間撹拌した。氷-メタノール浴で0℃まで冷却し、ジクロロジメチルシラン21.3ml(0.5eq)を滴下し、室温で終夜撹拌した。LCで反応確認(2/66.1%、インデン/10.0%、過反応物/22.1%)し、氷水浴で冷却後、水:300mlを加えてクエンチした。塩化アンモニウム水溶液:300ml、水:300ml×2回で有機層を分液洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムをろ別し、有機層を減圧濃縮して、目的物2:51.0g、粗収率:97%、LC:66.0%で得た。
【0077】
[実施例3]
500mlシュレンク管にアルゴン下でインデン:18.1ml(1eq.)、t-ブチルメチルエーテル:145mlを加えて氷水浴で10℃以下に冷却し、1.56M n-BuLiヘキサン溶液:100.2ml(1.0eq.)を滴下し、室温で2時間撹拌した。再度氷水浴で冷却し、無水塩化マグネシウム:14.8g(1.0eq.)を加えて、45℃に加温して1時間反応させた。氷-メタノール浴で0℃まで冷却し、ジクロロジメチルシラン9.28ml(0.5eq)を滴下し、室温で終夜撹拌した。LCで反応確認(2/89.1%、インデン/2.3%、過反応物/3.3%)し、氷水浴で冷却後、水:120mlを加えてクエンチした。塩化アンモニウム水溶液:100ml、水:100ml×2回で有機層を分液洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムをろ別し、有機層を減圧濃縮して、目的物2:22.4g、粗収率:99%、LC:89.0%で得た。粗生成物に対してメタノール:150mlを加えて-20℃に冷却し、析出物をろ集して目的物2:13.6g、収率:60%、LC:99.0%で得た。
【0078】
比較例4および実施例3の結果を下記表3に示す。比較例4では特許文献2の条件を用いたが目的物2は66.1%、未反応原料が10.0%、過反応物が22.1%であった。それに対し本発明の実施例3では、目的物2は89.1%、原料が2.3%、過反応物が3.3%と大幅に純度が向上した。この高純度の生成物は、触媒配位子として使用する際に容易に再結晶精製が可能であり、次工程での触媒合成に使用された。一方、比較例4の低純度の生成物では、再結晶精製が不可能であり、次工程での触媒合成も困難であった。
【0079】
表3 インデンとジクロロジメチルシランとの反応の実験結果
【表3】