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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023099425
(43)【公開日】2023-07-13
(54)【発明の名称】オニノヤガラの有機栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20230706BHJP
   A61K 36/8988 20060101ALN20230706BHJP
   C12N 1/00 20060101ALN20230706BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20230706BHJP
   C12P 1/04 20060101ALN20230706BHJP
【FI】
A01G7/00 605Z
A61K36/8988
C12N1/00 P
C12N1/20 E
C12P1/04 Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127274
(22)【出願日】2022-08-09
(31)【優先権主張番号】202111660318.9
(32)【優先日】2021-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】522318531
【氏名又は名称】西南林業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】何 霞紅
(72)【発明者】
【氏名】施 蕊
(72)【発明者】
【氏名】何 舒
(72)【発明者】
【氏名】熊 氷傑
(72)【発明者】
【氏名】黄 佑国
(72)【発明者】
【氏名】厳 星茹
(72)【発明者】
【氏名】張 澳
(72)【発明者】
【氏名】梁 茜茜
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C088
【Fターム(参考)】
4B064CA03
4B064CD22
4B064CE08
4B064DA11
4B065AA15X
4B065AC14
4B065BA22
4B065BB26
4B065BD43
4B065CA60
4C088AB89
4C088AC11
(57)【要約】
【課題】オニノヤガラの有機栽培方法を提供する。
【解決手段】本発明は、オニノヤガラ栽培の技術分野に関し、具体的には、オニノヤガラの有機栽培方法に関するものであり、クヌギの枝を棒材に切断し、棒材に魚鱗口をを切り取って魚鱗口付きの棒材を得、次に沸騰水及び成長促進液で魚鱗口付きの棒材を順に浸漬し、成長促進処理後の棒材を得、次に成長促進処理後の棒材の各魚鱗口にナラタケ菌種及び接種基質を入れて菌材を得るという菌材の調製ステップを含む。成長促進液及び接種基質は新鮮なオニノヤガラの茎からバチルス・プミルス処理及びエタノール熱浸漬抽出処理等のステップを経て調製されるものである。本技術的解決手段で調製された菌材はオニノヤガラの成長及び効果成分の蓄積を促進するとともに、オニノヤガラ栽培の廃棄部分を回収して、栽培されたオニノヤガラの品質をさらに向上させることができ、広い応用の見通しを有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オニノヤガラの有機栽培方法であって、クヌギの枝を棒材に切断し、棒材に魚鱗口を切り取って魚鱗口付きの棒材を得、次に沸騰水及び成長促進液で魚鱗口付きの棒材を順に浸漬し、成長促進処理後の棒材を得、次に成長促進処理後の棒材の各魚鱗口にナラタケ種及び接種基質を入れて菌材を得るという菌材の調製ステップを含み、
前記成長促進液及び前記接種基質は、新鮮なオニノヤガラの茎を細断して処理対象材料を得、バチルス・プミルス菌液を前記処理対象材料にスプレーし、発酵・培養して発酵後の材料を得、エタノールを溶媒として発酵後の材料に対して熱浸漬抽出を行い、次に固液分離して残渣及び抽出液を得、前記残渣を湿熱滅菌、乾燥処理及び粉砕して前記接種基質を得、前記抽出液を濃縮、再溶解及び湿熱滅菌して成長促進液を得ることによって調製されることを特徴とするオニノヤガラの有機栽培方法。
【請求項2】
前記発酵培養の温度が40~45℃であり、回転数が100rpmであり、時間が48hであり、発酵培養過程で、2~3hごとに前記処理対象材料にバチルス・プミルス菌液をスプレーし、毎回スプレーする時、処理対象材料とバチルス・プミルス菌液の使用量比は100g:15~20mlであることを特徴とする請求項1に記載のオニノヤガラの有機栽培方法。
【請求項3】
バチルス・プミルス菌液のOD600値が1であることを特徴とする請求項2に記載のオニノヤガラの有機栽培方法。
【請求項4】
前記熱浸漬抽出の温度が80~90℃であり、時間が10~12hであることを特徴とする請求項3に記載のオニノヤガラの有機栽培方法。
【請求項5】
熱浸漬抽出において、前記エタノールの体積百分率が80%であり、発酵後の材料とエタノールの使用量比が1g:25mLであることを特徴とする請求項4に記載のオニノヤガラの有機栽培方法。
【請求項6】
前記抽出液を相対密度1.10のエキスに濃縮し、次にエキス1g当たり25mLの水で再溶解し、さらに湿熱滅菌して前記成長促進液を得ることを特徴とする請求項5に記載のオニノヤガラの有機栽培方法。
【請求項7】
前記残渣を湿熱滅菌した後、50℃の条件下で含水量が5%未満になるまで乾燥させ、さらに粉砕して1番篩にかけて前記接種基質を得ることを特徴とする請求項6に記載のオニノヤガラの有機栽培方法。
【請求項8】
ナラタケ菌種と接種基質の質量比が2~4:1であることを特徴とする請求項7に記載のオニノヤガラの有機栽培方法。
【請求項9】
沸騰水及び成長促進液で魚鱗口付き棒材を順に浸漬する方法は、沸騰水で棒材を5min浸漬し、棒材が冷却した後、成長促進液で棒材を12h浸漬することであることを特徴とする請求項8に記載のオニノヤガラの有機栽培方法。
【請求項10】
前記棒材の直径が8~10cmであり、長さが60~70cmであり、前記魚鱗口は棒材の長さ方向に沿って配列され、隣接する魚鱗口は2~3cm離れていることを特徴とする請求項9に記載のオニノヤガラの有機栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オニノヤガラ栽培の技術分野に関し、具体的には、オニノヤガラの有機栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オニノヤガラ(Gastrodia elata Bl.)はラン科(Orchidaceae)に属する多年生の草本植物で、中国の伝統的な漢方薬の1つであり、最初に赤箭の名で『神農本草経』に始めて載せられ、上品に収められており、塊茎で薬用になることが多く、医学的、健康管理的価値が極めて高い。オニノヤガラにはガストロジン、p-ヒドロキシベンジルアルコール、多糖類、タンパク質、アミノ酸及び微量元素等の複数種の成分が含まれており、そのうち、ガストロジン(gastrodin,GAS)、p-ヒドロキシベンジルアルコール(p-hydroxybenzyl alcohol,HBA)はオニノヤガラの主な薬学的活性成分で、オニノヤガラの品質を評価する重要な指標である。過去にオニノヤガラはほとんど野生であったが、近年では人工栽培が成功している。オニノヤガラは根のない植物で、その塊茎が成長サイクル全体にわたって地下に埋められ、それに成長に必要な栄養を供給するためにナラタケ菌糸に依存しており、菌糸はその塊茎の皮質細胞内に生存することしかできず、オニノヤガラの茎の内部にさらに深く入ることができない。成長しているナラタケ菌糸束がオニノヤガラに触れると、菌糸束の分岐先端の成長点がオニノヤガラの元の球茎又は塊茎に侵入してから、オニノヤガラとナラタケの共生結合が始まる。オニノヤガラの栽培の主な段階は、発菌が迅速で、成長が旺盛で雑菌による汚染のない優れたナラタケ材料を栽培することである。ナラタケ材料は、オニノヤガラの人工栽培の品質に大きな影響を与え、特にオニノヤガラの効果成分の含有量に一定の影響を与え、したがって、適切なナラタケ材料をどのように栽培するかは、オニノヤガラの人工栽培の品質を向上させるための鍵となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、従来技術における、ナラタケ材料のオニノヤガラに対する成長促進効果が限られているという技術的問題を解決するために、オニノヤガラの有機栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本発明は以下の技術的解決手段を用いる。
【0005】
オニノヤガラの有機栽培方法であって、クヌギの枝を棒材に切断し、棒材に魚鱗口を切り取って魚鱗口付きの棒材を得、次に沸騰水及び成長促進液で魚鱗口付きの棒材を順に浸漬し、成長促進処理後の棒材を得、次に成長促進処理後の棒材の各魚鱗口にナラタケ菌種及び接種基質を入れて菌材を得るという菌材の調製ステップを含み、
前記成長促進液及び前記接種基質は、新鮮なオニノヤガラの茎を細断して処理対象材料を得、バチルス・プミルス菌液を前記処理対象材料にスプレーし、発酵・培養して発酵後の材料を得、溶媒としてエタノールを使用して発酵後の材料に対して熱浸漬抽出を行い、次に固液分離して残渣及び抽出液を得、前記残渣を湿熱滅菌、乾燥処理及び粉砕して前記接種基質を得、前記抽出液を濃縮、再溶解及び湿熱滅菌して成長促進液を得ることによって調製される。
【0006】
本解決手段の原理及び利点は以下のとおりである。
【0007】
バチルス・プミルスを用いたオニノヤガラの茎の発酵により、オニノヤガラの茎の物質を成長促進機能のある複数の成分に変換し、次にエタノールによってこれらの成分を抽出して、成長促進液を形成することができる。成長促進液で棒材を処理し、菌材を調製することで、オニノヤガラの成長及び効果成分の蓄積を促進することができる。また、エタノールで抽出した薬渣で栽培基質を調製することで、ナラタケの成長に栄養を供給することもできる。オニノヤガラの成長過程で、ナラタケ菌糸から成長に必要な栄養を供給し、本技術的解決手段の菌材を用いることにより、オニノヤガラとナラタケの共生過程におけるオニノヤガラへの栄養の供給を促進するとともに、オニノヤガラの二次代謝産物の蓄積を促進することができる。本技術的解決手段で調製された菌材を用いてオニノヤガラを培養して得られたオニノヤガラ完成品の塊茎のガストロジン(C1318)及びp-ヒドロキシベンジルアルコール(C)の総含有量は理想的である。また、バチルス・プミルス、バチルス・サブチリス、バチルス・サーキュランス及びバチルス・マイコイデスはいずれもオニノヤガラ野生の成長環境で一般的な微生物であり、本発明者らはこれらの微生物を利用してオニノヤガラ栽培の品質を向上させようとした。スクリーニングにより、バチルス・プミルスでオニノヤガラの茎を処理することによって得られた微生物変換産物の成長促進効果が最適であることが分かった。
【0008】
栽培されたオニノヤガラは中国のオニノヤガラ薬材商品の主な供給源となり、オニノヤガラの塊茎が大量に収穫されると同時に、オニノヤガラの地上部分(茎を含む)の副産物が毎年大量に生産されており、製紙、メタンガス又は飼料に用いられ、オニノヤガラの茎の付加価値は十分に開発されておらず、本技術的解決手段はバチルス・プミルスを発酵させて、オニノヤガラの茎を成長促進効果のある物質に変換し、オニノヤガラの茎の使用を拡大し、オニノヤガラ資源の総合的利用に条件を作り出す。
【発明の効果】
【0009】
要約すると、本技術的解決手段で調製された菌材はオニノヤガラの成長及び効果成分の蓄積を促進する上で積極的な役割を果たすことができ、また本技術的解決手段はオニノヤガラ栽培の廃棄部分を回収し、廃棄物を宝に変え、さらにオニノヤガラ資源の総合利用率及び栽培されたオニノヤガラの品質を向上させる。
【0010】
さらに、前記発酵培養の温度が40~45℃であり、回転数が100rpmであり、時間が48hであり、発酵培養過程で、2~3hごとに前記処理対象材料にバチルス・プミルス菌液をスプレーし、毎回スプレーする時、処理対象材料とバチルス・プミルス菌液の使用量比は100g:15~20mlである。
【0011】
上記技術的解決手段を用いることにより、上記発酵及び培養条件下で、バチルス・プミルスはオニノヤガラの茎の成分に対して微生物変換を行い、成長促進効果のある物質を生成することができる。発酵培養過程で、処理対象材料にバチルス・プミルス菌液をスプレーして、新鮮な菌種を補充するだけでなく、発酵培養過程で損失した水分も補充する。
【0012】
さらに、バチルス・プミルス菌液のOD600値は1である。
【0013】
上記技術的解決手段を用いることにより、上記濃度のバチルス・プミルス菌液を用いてオニノヤガラの茎を十分に発酵させることができる。OD600値が1である場合、細菌は比較的理想的な活性を有する。一般的に、OD600値が1であることは2×10cfu/mlの細菌数を表す。
【0014】
さらに、前記熱浸漬抽出の温度は80~90℃であり、時間は10~12hである。
【0015】
上記技術的解決手段を用いることにより、発酵後の材料の成長促進効果のある成分を十分に抽出することができる。
【0016】
さらに、熱浸漬抽出において、前記エタノールの体積百分率は80%であり、発酵後の材料とエタノールの使用量比は1g:25mLである。
【0017】
上記技術的解決手段を用いることにより、上記エタノールの濃度と使用量は、溶剤による発酵後の材料の効果成分の浸出を保証することができる。
【0018】
さらに、前記抽出液を相対密度1.10のエキスに濃縮し、次にエキス1g当たり25mLの水で再溶解し、さらに湿熱滅菌して前記成長促進液を得る。
【0019】
上記技術的解決手段を用いることにより、濃縮、滅菌処理を経て、材料のエチルアルコールを十分に揮発させ、且つその中の雑菌を除去し、雑菌がオニノヤガラ及びナラタケ等の成長に影響を与えることを避ける。
【0020】
さらに、前記残渣を湿熱滅菌した後、50℃の条件下で含水量が5%未満になるまで乾燥させ、さらに粉砕して1番篩にかけて前記接種基質を得る。
【0021】
上記技術的解決手段を用いることにより、残渣を滅菌して、その中の雑菌を除去し、雑菌がオニノヤガラ及びナラタケ等の成長に影響を与えることを避ける。残渣を乾燥させ、粉砕することで、その後のナラタケ菌種との混合を容易にする。
【0022】
さらに、ナラタケ菌種と接種基質の質量比は2~4:1である。
【0023】
上記技術的解決手段を用いることにより、上記配合比で、接種基質はその成長促進効果を十分に発揮することができる。
【0024】
さらに、沸騰水及び成長促進液で魚鱗口付きの棒材を順に浸漬する方法は、沸騰水で棒材を5min浸漬し、棒材が冷却した後、成長促進液で棒材を12h浸漬することである。
【0025】
上記技術的解決手段を用いることにより、まず沸騰水で浸漬し、棒材の微生物や虫卵などを最初に除去する。上記浸漬時間を用いることで、棒材が成長促進液の成長促進物質を十分に吸収することを保証できる。
【0026】
さらに、前記棒材の直径は8~10cmであり、長さは60~70cmであり、前記魚鱗口は棒材の長さ方向に沿って配列され、隣接する魚鱗口は2~3cm離れている。
【0027】
上記技術的解決手段を用いることにより、直径8~10cmは従来技術における菌材(棒材)の一般的なサイズであり、長さ60~70cmはインキュベータのサイズに適している。隣接する魚鱗口は菌材に十分なナラタケが接種されることを確保するために2~3cm離れている。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、実施例を参照しながら本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。特に指定しない限り、下記実施例及び実験例に用いられる技術的手段は当業者に周知の一般的な手段であり、用いられる材料、試薬等はいずれも商業的に入手可能である。
【0029】
以下、具体的な実施形態によってさらに詳細に説明する。
【0030】
実施例1
【0031】
(1)菌材の調製:クヌギ(Quercus acutissima Carruth.)の枝を選択して菌材を調製し、具体的には、直径8~10cmのクヌギの新鮮な枝を選択し、且つ枝を長さが60~70cm程度の棒材に切断した。棒材に複数の魚鱗口を切り取った。魚鱗口は棒材の長さ方向に沿って配列され、隣接する魚鱗口は2~3cm離れていた。次に棒材を沸騰水に入れて5min浸漬し、取り出して冷却した後、さらに成長促進液で棒材を12h浸漬して、成長促進処理後の棒材を得た。次に成長促進処理後の棒材を、棒材の含水量が70%に低下するまで乾燥させる。次にナイフで魚鱗口をこじ開け、各魚鱗口に小指サイズのナラタケ菌種を入れ、同時に接種基質を入れ、接種基質とナラタケ菌種の質量比は1:2であった(操作しやすくするために、一般的に、接種基質をナラタケ菌種の外側に塗布し、次に魚鱗口に入れる)。接種が完了した後、力を入れて魚鱗口に押し付けて、菌材の調製が完了した。菌材を得た後、オニノヤガラの種球を栽培するか又は完成品オニノヤガラを栽培するステップをできるだけ早く行う必要がある。
【0032】
成長促進液及び接種基質の調製はオニノヤガラの栽培に廃棄されたオニノヤガラの茎を利用し、方法は具体的には以下のとおりである。
【0033】
新鮮なオニノヤガラの茎を細断し、処理対象材料を得た。処理対象材料を3~4cmの厚さで培養プレート上に平らに広げ、次に処理対象材料の表面にバチルス・プミルス菌液をスプレーし、処理対象材料とバチルス・プミルス菌液の使用量比は100g:20mlであった。次に40℃の恒温振とう器に置き、100rpmで48h培養し(ガーゼで処理対象材料の上を覆う必要がある)、3hごとに等量のバチルス・プミルス菌液を追加してスプレーした。発酵処理を行った後、発酵後の材料を得た。バチルス・プミルス菌液の取得方法は以下のとおりである。バチルス・プミルス(Bacillus pumilus Meyer medium,ATCC 7061)を5%の接種量で通常のLB培地に接種し、37℃、100rpmで恒温培養して、OD600値が1程度になるまで培養を停止し、バチルス・プミルス菌液を得た。
【0034】
発酵後の材料を体積分率80%のエタノールに入れ、発酵後の材料1g当たり25mLのエタノールを加え、90℃で10h浸漬し、濾過して固液分離して、残渣及び抽出液を得た。抽出液を通常の減圧蒸留によってそれを相対密度が1.10程度のエキスに濃縮し、次に純水でエキスを十分に溶解し(エキスと純水の使用量比は1g:25mLである)、さらに121℃、0.1MPaの条件下で30min湿熱滅菌して、成長促進液を得た。残渣を121℃、0.1MPaの条件下で30min湿熱滅菌し、次に50℃のオーブンで恒量になるまで乾燥させ、さらに粉砕して1番篩にかけて接種基質を得た。
【0035】
(2)オニノヤガラの種球の栽培:10月下旬に栽培し、まず栽培箱に1層の厚さ4~6cmの土壌(第1土壌層)を敷き、菌材を栽培箱の底部に敷き(第1菌材層を形成する)、隣接する菌材の間に1~2cmの間隔をあけ、さらに浸漬したオニノヤガラの種子及びシロコナカブリ菌種(オニノヤガラの発芽菌)を均一に撒いた。オニノヤガラの種子の播種量は0.5kg/m程度(重量は浸漬していない種子で計算する)であり、シロコナカブリ菌種を小さなブロックに切った後に播種し、播種量は0.3kg/m程度であった。次に厚さ1~2cmの土壌で覆い(第2土壌層)、第2土壌層に菌材を平らに敷き(第2菌材層を形成する)、隣接する菌材の間に3~4cmの間隔をあけ、最後に第2菌材層に厚さ5~7cmの土壌を覆った(第3土壌層)。栽培箱内の含水量を60%程度に制御するように栽培箱をタイムリーに適量の水をスプレーし、栽培箱の温度を25℃程度に制御して、6ヶ月の培養を経て、オニノヤガラの種球(即ち、球茎、又はイチビと呼ばれる)を得た。ここで、オニノヤガラノの種子を浸漬する方法は、清水でオニノヤガラノの種子を8h浸漬することである。
【0036】
(3)完成品オニノヤガラの栽培:翌年4月下旬に栽培し、まず栽培箱に1層の厚さ4~6cmの土壌を敷き(第1土壌層)、菌材を栽培箱の底部に平らに敷き(第1菌材層を形成する)、隣接する菌材の間に1~2cmの間隔をあけ、次に第1菌材層にオニノヤガラの種球(隣接するオニノヤガラの種球の間隔は7cmである)を均一に置き、次に厚さ5~7cmの土壌を覆った(第2土壌層)。栽培箱内の含水量を60%程度に制御するように栽培箱をタイムリーに適量の水をスプレーし、栽培箱の温度を25℃程度に制御して、7ヶ月の培養を経て、完成品オニノヤガラの種球を得ることができ、その塊茎を採取して実験研究を行った。
【0037】
(4)完成品の検出:本実施例で得られたオニノヤガラ塊茎の効果成分を検出し、合計10個のサンプル(10個のオニノヤガラの塊茎)を選択して検出した。検出方法は『中国薬典』におけるオニノヤガラの含有量の測定部分を参照した。
【0038】
高速液体クロマトグラフィーの条件は具体的には以下のとおりである。オクタデシルシラン結合シリカゲルを充填剤とし、アセトニトリル-0.05%リン酸溶液(3:97)を移動相とし、検出波長は220nmであった。
【0039】
対照品溶液の調製方法は以下のとおりである。ガストロジン対照品、p-ヒドロキシベンジルアルコール対照品を適量取り、精密に秤量し、アセトニトリル-水(3:97)の混合溶液を加えて1mlあたりガストロジン50μg、p-ヒドロキシベンジルアルコール25μgを含む混合溶液に調製すると得られた。
【0040】
供試品溶液の調製方法は以下のとおりである。オニノヤガラの塊茎粉末(3番篩にかけ)約2gを取り、精密に秤量し、共栓付き三角フラスコに入れ、希エタノール50mlを精密に加え、重量を秤量し、30min超音波処理し(電力120W、周波数40kHz)、冷やし、次に重量を秤量し、希エタノールで損失した重量を補い、濾過し、次の濾液10mlを精密に量り取り、ほぼ乾燥してアルコール臭がなくなるまで濃縮し、残渣にアセトニトリル-水(3:97)の混合溶液を加えて溶解し、25mlのメスフラスコに移し、アセトニトリル-水(3:97)の混合溶液で目盛りまで希釈し、均一に振盪し、濾過し、次の濾液を取ると得られた。オニノヤガラの塊茎粉末はオニノヤガラの塊茎を50℃の恒温で恒量になるまで乾燥させた後、粉砕して得られた。
【0041】
測定法は以下のとおりである。それぞれ対照品溶液と供試品溶液を5μlずつ精密に吸引し、液体クロマトグラフに注入し、測定すると得られた。検出結果を表1に示した。
【0042】
実施例2
【0043】
本実施例は基本的に実施例1と同じであり、相違点は、成長促進液及び接種基質の調製方法にあり、具体的には以下のとおりである。
【0044】
新鮮なオニノヤガラの茎を細断して処理対象材料を得た。処理対象材料を3~4cmの厚さで培養プレート上に平らに広げ、次に処理対象材料の表面にバチルス・プミルス菌液をスプレーし、処理対象材料とバチルス・プミルス菌液の使用量比は100g:15mlであった。次に45℃の恒温振とう器に置き、100rpmで48h培養し、2hごとに等量のバチルス・プミルス菌液を追加してスプレーした。発酵処理を行った後、発酵後の材料を得た。バチルス・プミルス菌液の取得方法は以下のとおりである。バチルス・プミルス(Bacillus pumilus Meyer medium,ATCC 7061)を5%の接種量で通常のLB培地に接種して、OD600値が1になるまで培養を停止し、バチルス・プミルス菌液を得た。
【0045】
発酵後の材料を体積分率80%のエタノールに入れ、発酵後の材料1g当たり25mLのエタノールを加え、80℃で12h浸漬し、濾過して固液分離して、残渣及び抽出液を得た。抽出液を相対密度が1.10程度のエキスに濃縮し、次に純水でエキスを十分に溶解し(エキスと純水の使用量比は1g:25mLである)、さらに121℃、0.1MPaの条件下で30min湿熱滅菌して成長促進液を得た。残渣を121℃、0.1MPaの条件下で30min湿熱滅菌し、次に50℃のオーブンで恒量になるまで乾燥させ、さらに粉砕して1番篩にかけて接種基質を得た。
【0046】
実施例3
【0047】
本実施例は基本的に実施例1と同じであり、相違点は、成長促進液及びナラタケ菌種の質量比が1:4であることにある。
【0048】
比較例1
【0049】
本比較例は基本的に実施例1と同じであり、相違点は、棒材が成長促進浸漬処理を行わないことにあり、菌材の調製過程は、具体的には、以下のとおりである。
【0050】
クヌギの枝を選択して菌材を調製し、具体的には、直径8~10cmのクヌギの新鮮な枝を選択し、且つ枝を長さが70cm程度の棒材に切断した。棒材に複数の魚鱗口を切り取り、次に棒材を沸騰水に入れて5min浸漬し、取り出して冷却した後、棒材の含水量が70%に低下するまで棒材を乾燥させた。次にナイフで魚鱗口をこじ開け、各魚鱗口に小指サイズのナラタケ菌種を入れた。接種が完了した後、力を入れて魚鱗口に押し付けて、菌材の調製が完了した。菌材を得た後、オニノヤガラの種球を栽培するか又は完成品オニノヤガラを栽培するステップをできるだけ早く行う必要がある。
【0051】
比較例2
【0052】
本比較例は基本的に実施例1と同じであり、相違点は、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis(Ehrenberg)Cohn,ATCC 6051)を用いてバチルス・プミルスを等量置換することにある。
【0053】
比較例3
【0054】
本比較例は基本的に実施例1と同じであり、相違点は、バチルス・サーキュランス(Bacillus circulansJordan,ATCC 4513)を用いてバチルス・プミルスを等量置換することにある。
【0055】
比較例4
【0056】
本比較例は基本的に実施例1と同じであり、相違点は、バチルス・マイコイデス(Bacillus mycoidesFlugge,ATCC 19647)を用いてバチルス・プミルスを等量置換することにある。
【0057】
比較例5
【0058】
本比較例は基本的に実施例1と同じであり、相違点は以下の技術的段階にある。
【0059】
発酵後の材料を純水に入れ、発酵後の材料1gあたり25mLの純水を加え、90℃で10h浸漬し、濾過して固液分離して、残渣及び抽出液を得た。抽出液を相対密度が1.10程度のエキスに濃縮し、次に純水でエキスを十分に溶解し(エキスと純水の使用量比は1g:25mLである)、次に121℃、0.1MPaの条件下で30min湿熱滅菌して成長促進液を得た。残渣を121℃、0.1MPaの条件下で30min湿熱滅菌し、次に50℃のオーブンで含水量が5%(質量百分率)未満になるまで乾燥させ、さらに粉砕して1番篩にかけて接種基質を得た。
【0060】
実施例1~3、比較例1~5で得られたオニノヤガラの塊茎を検出し(実験の平行性を保証するために、実施例1~3及び比較例1~5で使用したオニノヤガラの種子はいずれも同一バッチである)、結果を表1に示し、ガストロジン(C1318)とp-ヒドロキシベンジルアルコール(C)の総量は、乾燥品の2種類の物質の質量分率で計算し、表中の「総含有量」とは、ガストロジン及びp-ヒドロキシベンジルアルコールの総量を指す。
【0061】
表1:実施例1~3、比較例1~5のオニノヤガラの塊茎の検出結果(平均総含有量(%)の表示形式は平均値±標準偏差である)
【表1A】
【表1B】
【0062】
表1の実験結果から分かるように、実施例1~3を用いて、本技術的解決手段のオニノヤガラの有機栽培方法を使用して得られたオニノヤガラ完成品の塊茎のガストロジン(C1318)及びp-ヒドロキシベンジルアルコール(C)の総含有量は理想的である。これは、バチルス・プミルスを用いたオニノヤガラの茎の発酵により、オニノヤガラの茎の物質を成長促進機能のある複数の成分に変換し、次にエタノールによってこれらの成分を抽出して、成長促進液を形成できることを示している。成長促進液で棒材を処理し、菌材を調製することで、オニノヤガラの成長及び効果成分の蓄積を促進できる。また、エタノールで抽出した薬渣で栽培基質を調製することで、ナラタケの成長に栄養を供給することもできる。オニノヤガラの成長過程で、ナラタケ菌糸から成長に必要な栄養を供給し、本技術的解決手段の菌材を用いることにより、オニノヤガラとナラタケの共生過程におけるオニノヤガラへの栄養供給を促進するとともに、オニノヤガラの二次代謝物の蓄積を促進することができる。比較例1では、本解決手段の成長促進液及び接種基質を使用せずに得られたオニノヤガラのガストロジン及びp-ヒドロキシベンジルアルコールの総含有量は低かった。比較例2~4では、それぞれバチルス・サブチリス、バチルス・サーキュランス及びバチルス・マイコイデスを使用してオニノヤガラの茎を発酵処理したが、その効果はバチルス・プミルスに及ばなかった。バチルス・プミルス、バチルス・サブチリス、バチルス・サーキュランス及びバチルス・マイコイデスはいずれもオニノヤガラの野生の成長環境で一般的な微生物で、本発明者らはこれらの微生物を利用してオニノヤガラ栽培品質を向上させようとした。実験により、これらのバチルスの発酵効果に差異があり、バチルス・プミルスの効果は他のものより有意に優れていることが分かった(t検定、p<0.01)。比較例5では、純水を使用して発酵後の材料を抽出し、その効果はあまり理想的ではなく、これは成長促進効果のある成分の多くがアルコール可溶性であり、エタノールで抽出することがより適していることを示した。
【0063】
以上述べたのは本発明の実施例に過ぎず、解決手段における周知の具体的な技術的解決手段及び/又は特性等の一般的な知識はここでは詳細に説明していない。なお、当業者であれば、本発明の技術的解決手段から逸脱することなく、複数の変形及び改良を行うことができ、これらは、本発明の実施効果及び特許の実用性に影響を与えないため、本発明の保護範囲と見なすべきである。本出願の保護範囲はその請求項の内容に準じて、明細書における具体的な実施形態等の説明は請求項の内容を解釈するために用いることができる。